(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116887
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/892 20060101AFI20240821BHJP
【FI】
G01N21/892 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022736
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】籾井 山太
【テーマコード(参考)】
2G051
【Fターム(参考)】
2G051AA32
2G051AA37
2G051AB07
2G051BA01
2G051BB01
2G051BC01
2G051CA03
2G051CB01
2G051CD01
2G051EA17
(57)【要約】
【課題】領域によって表面の反射率が異なるような検査対象において、より確実に、特定の領域の寸法を測定することや、表面の反射率が比較的低い領域において異物や欠陥を検出することを可能とする検査装置を提供する。
【解決手段】電池用の電極材の品質を光学的手法により検査する検査装置は、電極材の表面に検査光を照射する複数の照明と、反射光の各々を受光し、電極材の表面を撮像する撮像部と、を備え、複数の照明は、照射される検査光の電極材の表面による正反射光が撮像部に入射するように入射角が設定された第1照明を含み、撮像部において、複数の照明のうち、第1照明から照射される検査光の反射光に基づいて取得される信号強度が、選択的に低減されるように所定の条件が調整または設定される調整部をさらに備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池用の電極材の品質を光学的手法により検査する検査装置であって、
前記電極材の表面に検査光を照射する複数の照明と、
前記複数の照明から照射される前記検査光の、前記電極材の表面による反射光の各々を受光し、前記電極材の表面を撮像する撮像部と、
を備え、
前記複数の照明は、照射される前記検査光の前記電極材の表面による正反射光が前記撮像部に入射するように入射角が設定された第1照明を含み、
前記撮像部において、前記複数の照明のうち、前記第1照明から照射される検査光の、前記電極材の表面による反射光に基づいて取得される信号強度が、選択的に低減されるように所定の条件が調整または設定される調整部をさらに備えることを特徴とする、検査装置。
【請求項2】
前記複数の照明は、前記第1照明と波長及び入射角の異なる検査光が照射される第2照明を含み、
前記撮像部が、前記第1照明から照射された検査光の、前記電極材の表面による反射光と、前記第2照明から照射された検査光の、前記電極材の表面による反射光の各々を受光し、
色の違いによって、前記電極材の表面の凹凸形状を判別することを可能とする撮像画像を取得することを特徴とする、請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記所定の条件は、前記第1照明から照射される検査光の強度、または前記第1照明から照射される前記検査光の前記電極材の表面による反射光に対する前記撮像部の感度であることを特徴とする、請求項1に記載の検査装置。
【請求項4】
前記調整部により、前記第1照明から照射される検査光の、前記電極材の表面による反射光に基づいて取得される前記信号強度が100分の1以下に低減されることを特徴とする、請求項1に記載の検査装置。
【請求項5】
前記複数の照明は、前記検査光として赤外光を照射する赤外光照明を含み、
前記赤外光照明は、前記複数の照明のうち、最も高い照射強度で検査光を照射することを特徴とする、請求項1に記載の検査装置。
【請求項6】
前記複数の照明からの前記検査光の入射角は各々異なり、
前記第1照明からの検査光の入射角の絶対値は、前記複数の照明からの前記検査光の入射角のうち、最も小さいことを特徴とする、請求項1に記載の検査装置。
【請求項7】
前記電池用の前記電極材は、金属製シートの上に、活物質の塗工物を塗布することで形成されたことを特徴とする、請求項1に記載の検査装置。
【請求項8】
前記第1照明から照射される検査光の反射光により、前記塗工物と、前記金属製シートとの境界を検知可能であり、
前記塗工物と前記金属製シートとの境界を検知することで、前記塗工物の寸法を測定可能であることを特徴とする、請求項7に記載の検査装置。
【請求項9】
前記複数の照明は、赤色光を照射する照明、青色光を照射する照明、及び緑色光を照射する照明をさらに含むことを特徴とする、請求項5に記載の検査装置。
【請求項10】
電池用の電極材の品質を光学的手法により検査する検査装置であって、
前記電極材の表面に検査光を照射する複数の照明と、
前記複数の照明から照射される前記検査光の、前記電極材の表面による反射光の各々を受光し、前記電極材の表面を撮像する撮像部と、
を備え、
前記複数の照明は、照射される前記検査光の前記電極材の表面による正反射光が前記撮像部に入射するように入射角が設定された第1照明を含み、
前記第1照明から照射される前記検査光の反射光により、塗工物と、金属製シートとの境界を検知することで、前記塗工物の寸法を測定可能であり、
前記複数の照明のうち、前記第1照明以外の照明から照射される前記検査光の前記電極材の表面による反射光により、前記塗工物または前記金属製シートの欠陥または異物を検知可能であることを特徴とする、検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用の電極材の品質を光学的手法により検査する検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、所定の方向に搬送される対象物や、回転軸を基準としてその周りに所定の方向に回転させられる対象物の表面における、特定の点や領域の寸法を計測する、あるいは異物や欠陥等の不良を検知するための検査装置やモニタ装置が公知である。これらによって、対象物の品質を容易に、且つ、高精度に検査し、不良品が誤って流出することを未然に防止することや、歩留まりの改善に繋げることが可能である(例えば、特許文献1乃至3参照)。
【0003】
しかしながら、対象物の種類によっては、特許文献1乃至3に記載の検査装置やモニタ装置を用いたとしても、対象物の品質を検査することが困難である場合がある。そのような対象物の一例として、電池(例えばリチウムイオン二次電池)用の電極材等が挙げられる。電極材の表面は、領域によって反射率が異なり、例えば特許文献1乃至3に記載の検査装置やモニタ装置を用いた場合、電極材の表面の撮像画像において、そのような領域同士の境界を検知することが困難であるために特定の領域の寸法を計測する精度が低下する虞がある。また、反射率の低い領域における異物や欠陥を検出する精度も低下する虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-020873号公報
【特許文献2】特開2014-178249号公報
【特許文献3】特開2012-251929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本件開示の技術は、上記の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、領域によって表面の反射率が異なるような検査対象において、検査対象の表面の検査を精度良く行うことを可能とする検査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するための本開示は、
電池用の電極材の品質を光学的手法により検査する検査装置であって、
前記電極材に検査光を照射する複数の照明と、
前記複数の照明から照射される前記検査光の、前記電極材の表面による反射光の各々を受光し、前記電極材の表面を撮像する撮像部と、
を備え、
前記複数の照明は、照射される前記検査光の前記電極材の表面による正反射光が前記撮像部に入射するように入射角が設定された第1照明を含み、
前記撮像部において、前記複数の照明のうち、前記第1照明から照射される検査光の、前記電極材の表面による反射光に基づいて取得される信号強度が、選択的に低減されるように所定の条件が調整または設定される調整部をさらに備えることを特徴とする、検査装置を含む。
【0007】
本開示による検査装置の検査対象である電極材の表面は、反射率が大きく異なる領域を
含むことが多い。そのため、従来の検査装置が備える、例えばモノクロカメラのような撮像部によって電極材の表面を撮像した場合、得られた撮像画像に、過度に明るい領域と暗い領域が含まれるといった状態に起因して、電極材の表面を高精度に検査できない虞があった。本開示による検査装置を用いることによって、係る問題は解消される、すなわち、撮像部から得られた撮像画像において反射率が大きく異なる領域間の境界が検知可能となる。ここで、上記の「信号強度が、選択的に低減される」とは、第1照明による信号強度の低減度合いが、他の照明に対して相対的に大きいことを示している。なお、このことは、あくまで変化の度合いを示しており、変化後の信号強度自体の大小は問わない。また、上記の「調整または設定される」とは、検査時または検査前に条件を調整する場合と、設計時または製造時に条件が設定される場合との両方を含む趣旨である。
【0008】
また、本開示においては、前記複数の照明は、前記第1照明と波長及び入射角の異なる検査光が照射される第2照明を含み、前記撮像部が、前記第1照明から照射された検査光の、前記電極材の表面による反射光と、前記第2照明から照射された検査光の、前記電極材の表面による反射光の各々を受光し、色の違いによって、前記電極材の表面の凹凸形状を判別することを可能とする撮像画像を取得することとしてもよい。これによって、電極材の品質評価をより容易に行うことが可能である。
【0009】
また、本開示においては、前記所定の条件は、前記第1照明から照射される前記検査光の強度、または前記第1照明から照射される前記検査光の前記電極材の表面による反射光に対する前記撮像部の感度であることとしてもよい。これによって、電極材の表面による反射光に基づいて取得される信号強度を容易に調整または設定することが可能である。また、所定の条件は、第1照明から照射される検査光の強度や、第1照明から照射される検査光の電極材の表面による反射光に対する撮像部の感度の他、第1照明の設置角度や、第1照明と電極材との間の距離等を含んでいてもよい。また、第1照明に減光フィルタや絞
りを装着することを含んでいても良い。
【0010】
また、本開示においては、前記調整部により、前記第1照明から照射される検査光の、前記電極材の表面による反射光に基づいて取得される信号強度が100分の1以下に低減されることとしてもよい。一般的に、正反射光に基づいて取得される信号強度は、拡散反射光に基づいて取得される信号強度と比較して高い。そのため、第1照明から照射される検査光の、電極材の表面による反射光に基づいて取得される信号強度を調整しない場合、電極材の表面による正反射光が撮像部に入射するように入射角が設定された第1照明によって、撮像部が取得する信号強度が許容値を超えたり、他の照明からの検査光の強度との関係で、適切な撮像が不可能となる虞がある。このため、信号強度を100分の1以下に低減するという制限を設けることによって、係る問題は解消される。
【0011】
また、本開示においては、前記複数の照明は、前記検査光として赤外光を照射する赤外光照明を含み、前記赤外光照明は、前記複数の照明のうち、最も高い照射強度で検査光を照射することとしてもよい。これによって、赤外光の反射光を受光した撮像部から取得した撮像画像において、可視光に対する反射率が低いために暗い領域における、さらに暗い色の異物を容易に検知することが可能である。
【0012】
また、本開示においては、前記複数の照明からの前記検査光の入射角は各々異なり、前記第1照明からの検査光の入射角の絶対値は、前記複数の照明からの前記検査光の入射角のうち、最も小さいこととしてもよい。これによって、第1照明及び撮像部の角度調整がより容易となり、第1照明の正反射光をより確実または容易に撮像部に入射させることが可能である。また、拡散反射光を撮像部に入射する、第1照明以外の照明の検査光の入射角と、第1照明の入射角との差を大きくすることが可能になるため、より確実に第1照明以外の照明からの拡散反射光を当該照明の正反射光と分離して撮像部に入射させることが
可能である。
【0013】
また、本開示においては、前記電池用の前記電極材は、金属製シートの上に、活物質の塗工物を塗布することで形成されたこととしてもよい。塗工物は、電極材の品質に大きく影響する部分であり、電極材の生産においてはその品質評価は必要不可欠である。撮像画像において、比較的反射率の大きい金属製シートと比較的反射率の小さい塗工物との境界を検知可能とすることによって、塗工物の幅といった寸法を容易に測定可能であり、その結果、電極材の品質の改善に繋げることも可能である。
【0014】
また、本開示においては、前記第1照明から照射される検査光の反射光により、前記塗工物と、前記金属製シートとの境界を検知可能であり、前記塗工物と前記金属製シートとの境界を検知することで、前記塗工物の寸法を測定可能であることとしてもよい。第1照明から照射される検査光の正反射光を用いることによって、撮像画像において、塗工物と金属製シートとの境界がより明確に表示される。すなわち、上記の寸法測定がより効率的に実施可能となる。
【0015】
また、本開示においては、前記複数の照明は、赤色光を照射する照明、青色光を照射する照明、及び緑色光を照射する照明をさらに含むこととしてもよい。これによって、撮像画像において、異物や凹凸等の不良があった場合に、その形状に応じて、撮像部に入射する反射光の波長が異なるようにすることが可能であり、電極材の表面における不良をその種類に応じて、異なる波長の光の組み合わせによって明確に表示することが可能である。
【0016】
また、本開示は、
電池用の電極材の品質を光学的手法により検査する検査装置であって、
前記電極材の表面に検査光を照射する複数の照明と、
前記複数の照明から照射される前記検査光の、前記電極材の表面による反射光の各々を受光し、前記電極材の表面を撮像する撮像部と、
を備え、
前記複数の照明は、照射される前記検査光の前記電極材の表面による正反射光が前記撮像部に入射するように入射角が設定された第1照明を含み、
前記第1照明から照射される前記検査光の反射光により、塗工物と、金属製シートとの境界を検知することで、前記塗工物の寸法を測定可能であり、
前記複数の照明のうち、前記第1照明以外の照明から照射される前記検査光の前記電極材の表面による反射光により、前記塗工物または前記金属製シートの欠陥または異物を検知可能であることを特徴とする、検査装置を含む。
【0017】
すなわち、本開示における検査装置によれば、塗工物の寸法を測定可能であることに加えて、塗工物の欠陥または異物を検知することも可能である。すなわち、電極材の品質評価をより入念に行うことが可能であり、電極材の品質の改善に繋がる結果もさらに見込みやすくなる。
【0018】
なお、上記の課題を解決するための手段は、可能な限り互いに組み合わせて用いることができる。
【発明の効果】
【0019】
本件開示の技術によれば、領域によって表面の反射率が異なるような検査対象において、検査対象の表面の検査を精度良く行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、実施例に係る検査装置の構成の概略を示す説明図である。
【
図2】
図2Aは、実施例に係る電極材の平面視を示すRGB画像である。
図2Bは、
図2Aにおける破線Xで囲んだ部分に相当する画像の拡大図である。
図2Cは、
図2Aにおける破線Yで囲んだ部分の拡大図である。
【
図3】
図3Aは、実施例に係る電極材の平面視を示す赤外線画像である。
図3Bは、
図3Aにおける破線Zで囲んだ部分の拡大図である。
【
図4】
図4Aは、ラインカメラに対する赤色光照明の相対的な位置の概略図である。
図4Bは、ラインカメラに対する赤外光照明の相対的な位置の概略図である。
【
図5】
図5Aは、ラインカメラに対する緑色光照明の相対的な位置の概略図である。
図5Bは、ラインカメラに対する青色光照明の相対的な位置の概略図である。
【
図6】
図6は、実施例に係る検査装置が備える表示部における表示内容の一例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔適用例〕
以下に本発明の適用例の概要について一部の図面を用いて説明する。
図1は、本適用例における技術が適用される検査装置1の構成の概略を示す説明図である。本適用例における検査装置1は、各々波長の異なる検査光を異なる角度から電池用の電極材2に照射する複数の照明として、赤色光照明11、赤外光照明12、緑色光照明13、及び青色光照明14を備えて構成される。他に、検査光の、電極材2の表面による反射光の各々を独立して受光し、電極材2の表面を撮像するラインカメラ15、及び複数の照明の各々の強度を調整する光量調整部161と、ラインカメラ15における反射光の強度に対する信号強度を調整する信号強度調整部162等を備えて構成される。ここで、ラインカメラ15は、本開示における撮像部に相当する。また、光量調整部161、及び信号強度調整部162は、本開示における調整部に相当する。
【0022】
赤色光照明11、赤外光照明12、緑色光照明13、及び青色光照明14は各々、検出光として赤色光111、赤外光121、緑色光131、及び青色光141を電極材2に照射する。赤色光111、緑色光131、及び青色光141は可視光の一種であり、人間の網膜に含まれる錐体は通常、これら三種類の可視光を所定の比率で組み合わせることによってあらゆる色を認識することが可能である。そのため、ラインカメラ15による撮像画像において、電極材2の表面に不良があった場合に、その形状に応じて、ラインカメラ15に入射する反射光の波長が異なるようにすることが可能であり、不良をその種類に応じて、異なる波長の光の組み合わせによって明確に表示することが可能である。
【0023】
図1に示す、ラインカメラ15に対する赤色光照明11の相対的な位置について、赤色光照明11及びラインカメラ15は、赤色光111の入射角とラインカメラ15の光軸の鉛直線に対する角度が等しくなるように設置されている。これによって、ラインカメラ15は、赤色光111の電極材2の表面による正反射光を受光しやすく、この正反射光に基づいて取得される信号強度は高くなりやすいため、光量調整部161や信号強度調整部162によって、この信号強度の低減度合いが、他の照明(赤外光照明12、緑色光照明13、及び青色光照明14)に対して相対的に大きくなるように所定の条件が調整または設定される。
【0024】
所定の条件は一例として、赤色光111の強度や、赤色光111の電極材2の表面による反射光に対するラインカメラ15の感度や、赤色光照明11の設置角度や、赤色光照明11と電極材2との間の距離等を含んでいてもよい。また、赤色光照明11に減光フィルタや絞りを装着することを含んでいてもよい。また、本適用例において、調整とは、検査時または検査前に条件を定めることを示し、設定とは、設計時または製造時に条件を定めることを示す。なお、ラインカメラ15に対する赤色光照明11の相対的な位置について、詳細は以下の実施例において
図4Aを用いて説明する。また、赤色光照明11は、本開
示における第1照明に相当する。
【0025】
〔実施例〕
以下、本開示の実施例に係る検査装置1について、図面(上記の適用例で一旦説明した
図1も含む)を用いてより詳細に説明する。なお、本開示の実施例に係る検査装置1は、以下の構成に限定する趣旨のものではない。
【0026】
<装置構成>
ここで、
図1の説明に戻る。なお、以下の実施例において、上記の適用例において説明した内容については、詳細な説明は省略する。また、本明細書では同一の構成要素については同一の符号を用いて説明を行う。
【0027】
図1について、上記の通り、本実施例に係る検査装置1は、四種類の照明を備える。各々の照明から照射される検出光の反射光に基づいて取得される信号強度を、電極材2の処理に係る目的に応じて調整するが、照明の数は複数であればこの限りでなく、また、照射される検査光の波長が等しい照明を複数備えていてもよい。また、以下では
図4A乃至
図5Bを用いて、照明に対するラインカメラ15の相対的な位置について説明するが、照明やラインカメラ15の設置位置は適宜変更可能であってもよい。例えば、
図1に示す赤色光照明11の位置と赤外光照明12の位置が互いに入れ替わっていてもよく、緑色光照明13の位置と青色光照明14の位置が互いに入れ替わっていてもよい。
【0028】
また、本実施例における検査対象である電極材2は、多層構造の電極の中の一層であり、シート状の部材である。電極材2は、具体的には、アルミ箔21のような集電剤の上に、外部に電気エネルギーを出力することを可能とする活物質の塗工物22を塗布することで形成される。アルミ箔21の反射率は、塗工物22の反射率と比較して高く、すなわち、電極材2の表面の反射率は領域によって大きく異なる。ここで、アルミ箔21は、本開示における金属製シートに相当する。なお、
図1において、電極材2は、検査装置1の片側に配置されたロールから、検査装置1の反対側に配置された巻取りロールに巻き取られる際に、
図1に示す四種類の照明とラインカメラ15の下側を通過する。その際に各照明から電極材2の表面に向けて検査光が照射され、反射光がラインカメラ15に入射することで、電極材2の表面の状態が検査される。
【0029】
また、ラインカメラ15は、電極材2のようなシート状の部材の表面を、当該部材の搬送中においても精度良く撮像することが可能である点で有用であり、電極材2の表面に凹凸が生じている場合であっても、撮像画像において凹凸を明確に確認することが可能であるが、電極材2の表面の撮像のためのカメラは、必ずしもラインカメラ15に制限されず、例えばエリアカメラやContact Image Sensor(CIS)を用いてもよい。また、電極材2が搬送される方向は、
図1に示す矢印の方向であってもその逆であってもよいことは当然である。また、電極材2が照明やラインカメラ15の下方を一定の速度で移動するのであれば、移動の態様は搬送に限らない。例えば、電極材2がロールへの巻取りが困難な短冊状のシート等である場合には、検査装置1が治具(図示略)を備え、電極材2を治具に固定した状態で、治具が
図1に示す矢印の方向に一定の範囲において一定の速度で照明やラインカメラ15の下方を移動した後、
図1に示す矢印の方向と逆方向に同じ範囲において同じ速度で移動することを等間隔に繰り返す態様であってもよい。また、光量調整部161及び信号強度調整部162の少なくとも一方の調整は、手動で行ってもよいし、自動で行われるようにしてもよい。また、各照明の設置角度について、赤外光照明12が最も小さく、緑色光照明13または青色光照明14が最も大きい。
【0030】
図2Aは、実施例に係る電極材2の平面視を示すRGB画像である。ここで、本実施例において、RGB画像とは、ラインカメラ15による撮像画像のうち、可視光(すなわち
、赤色光111、緑色光131、及び青色光141)の波長成分を取り出したものである。上記の通り、アルミ箔21と塗工物22の反射率は異なり、RGB画像において、比較的反射率の高いアルミ箔21は明るめに、比較的反射率の低い塗工物22は暗めに表示される。
【0031】
図2Bは、
図2Aにおける破線Xで囲んだ部分に相当する画像の拡大図である。本実施例では、赤色光111の正反射光がラインカメラ15に入射する設定となっているので、
図2A及び
図2Bにおいて、アルミ箔21は、ほぼ赤色に表示される。また、
図2Bにおいては、赤色光111の正反射光による信号のみを取り出した画像を用いることによって、アルミ箔21がさらに明るく表示され、アルミ箔21と塗工物22の境界が、容易に認識可能である。そのため、例えば塗工物22の幅(
図2Bにおける縦方向と横方向の両方向の幅)といった寸法を容易に測定することが可能である。塗工物22は、電極材2の品質に大きく影響する部分であるため、塗工物22の寸法を測定することは電極材2の品質評価において非常に有意義であり、結果的に、電極材2の品質の改善に繋げることも可能である。また、アルミ箔21と塗工物22の境界以外にも、例えば塗工物22における濡れ領域と乾燥領域の境界についても、それらの領域の反射率の差異によって、検出可能である。
【0032】
図2Cは、
図2Aにおける破線Yで囲んだ部分の拡大図である。
図2Cに示す白線で囲まれた領域は、アルミ箔21の欠陥3を表している。この欠陥3は凹凸形状を有するものとし、凹凸形状においては、緑色光131が照射される領域と、青色光141が照射される領域がある。緑色光131が照射される領域については、その反射光をラインカメラ15が受光し、
図2Cに示すRGB画像において緑色で表示される。同様に、青色光141が照射される領域については、
図2Cに示すRGB画像において青色で表示される。すなわち、アルミ箔21に凹凸形状の欠陥3がある場合、その形状に応じて、ラインカメラ15に入射する反射光の波長が異なるようにすることが可能であり、RGB画像において、異なる波長の検査光の組み合わせによって欠陥3の形状を明確に表示することが可能である。これによって、このような欠陥3をより確実に発見することが可能である。また、アルミ箔21の不良として、異物(図示略)についても同様にRGB画像を用いることによってその形状も含めて検知することが可能である。ここで、緑色光照明13、及び青色光照明14は、本開示における第2照明に相当する。
【0033】
図3Aは、実施例に係る電極材2の平面視を示す赤外線画像である。ここで、本実施例において、赤外線画像とは、ラインカメラ15による撮像画像のうち、赤外光121の波長成分を取り出したものである。
図2Aに示すRGB画像と比較して、赤外線画像においては、塗工物22が明るく表示される。また、
図3Bは、
図3Aにおける破線Zで囲んだ部分の拡大図である。赤外線画像において、塗工物22が明るく表示されるため、塗工物22の欠陥3(より詳細には暗欠陥)を検知することが容易である。この欠陥3は、塗工物22に生じた凸状の不良であり、赤外線画像を取得することによって、このような不良をより確実に発見することが可能である。すなわち、赤外線画像において、可視光に対する反射率が低いために暗い領域における、さらに暗い色の欠陥3を容易に検知することが可能である。また、塗工物22の不良として、異物(図示略)についても同様に赤外線画像を用いることによって検知することが可能である。
【0034】
上記の通り、アルミ箔21と塗工物22の境界を明確に表示して塗工物22の寸法を測定する際には、RGB画像(またはR画像)を取得する。また、アルミ箔21の欠陥3や異物をそれらの形状も含めて検知する際には、RGB画像を取得する。また、塗工物22の欠陥3や異物を検出する際には、赤外線画像を取得する。このように、実施例に係る検査装置1は、電極材2の表面の検査の内容に応じて、ラインカメラ15による撮像画像から、四種類の検査光の波長成分のうち、一または複数の波長成分のいずれかを取り出すこ
とが可能である。
【0035】
次に
図4A乃至
図5Bを用いて、
図1に示す検査装置1における、ラインカメラ15に対する照明の相対的な位置について詳細に説明する。
図4Aは、ラインカメラ15に対する赤色光照明11の相対的な位置の概略を示す。
図4Aにおいては、赤色光照明11は、電極材2の表面から垂直方向に伸ばした仮想線と赤色光照明11の中心との角度θ1(赤色光111の入射角θ1)、及び仮想線とラインカメラ15のレンズの中心との角度θ2(赤色光111の反射角θ2)が等しくなるように設置されており、赤色光111の反射光は、正反射光に相当する。また、赤色光111の入射角θ1は、以下の
図4Bに示す赤外光121の入射角θ3、
図5Aに示す緑色光131の入射角θ4、及び
図5Bに示す青色光141の入射角θ5の各々より小さい。
【0036】
これによって、
図4Aに示す、ラインカメラ15に対する赤色光照明11の相対的な位置の関係で、赤色光照明11及びラインカメラ15の設置角度の調整がより容易となり、赤外光121の正反射光をより確実または容易にラインカメラ15に入射させることが可能である。また、θ1と、
図5Aに示すθ4、及び
図5Bに示すθ5の各々との差を大きくすることが可能になるため、より確実に赤色光照明11以外の照明からの拡散反射光を赤色光照明11の正反射光と分離してラインカメラ15に入射させることが可能である。なお、本実施例においては、θ1とθ2はいずれも7度に近い値を取ることとしてもよい。
【0037】
また、信号強度調整部162により、赤色光111の正反射光に基づいて取得される信号強度が100分の1以下に低減されるようにラインカメラ15を調整してもよい。一般的に、正反射光に基づいて取得される信号強度は、拡散反射光に基づいて取得される信号強度と比較して高い。そのため、上記のようにラインカメラ15を調整しない場合、赤色光111の正反射光がラインカメラ15に入射するように入射角がθ1に設定された赤色光照明11によって、ラインカメラ15が取得する信号強度が許容値を超えたり、赤色光照明11以外の他の照明からの検査光の強度との関係で、適切な撮像が不可能となる虞がある。このため、信号強度を100分の1以下に低減するという制限を設けることによって、係る問題は解消される。
【0038】
図4Bは、ラインカメラ15に対する赤外光照明12の相対的な位置の概略を示す。
図4Bにおいては、赤外光121は、電極材2の表面によって様々な方向に拡散反射光として反射し、ラインカメラ15は拡散反射光の一部を受光する。これによって、上記で
図3A及び
図3Bを用いて説明した通り、塗工物22の欠陥3や異物を赤外線画像において容易に検知することが可能であり、さらに、赤外光121の照射強度を全ての検査光の照射強度の中で最も高くすることによって、係る効果がより確実に得られる。なお、本実施例においては、θ3は17に近い値を取ることとしてもよい。また、
図4Bに示すθ3は、ラインカメラ15に入射した拡散反射光の反射角より大きいが、これらの大小関係は逆であってもよい。
【0039】
図5Aは、ラインカメラ15に対する緑色光照明13の相対的な位置の概略を示す。なお、
図5Aにおいては、電極材2(より正確にはアルミ箔21)の表面に凸状の欠陥3が生じ、緑色光131がこの欠陥3に照射されるものとする。ラインカメラ15は、この欠陥3に照射された緑色光131の正反射光の一部を受光する場合がある。ここで、
図4Aに示す位置における赤色光照明11から、同様にこの欠陥3に赤色光111が照射された場合、その正反射光はラインカメラ15に入射しない。また、
図5Bは、ラインカメラ15に対する青色光照明14の相対的な位置の概略を示すが、
図5Aと同様であるため説明を省略する。以上より、RGB画像において、
図5Aに示す向きにおける欠陥3の左側に相当する部分は緑色に表示される場合があり、
図5B(
図5Aでもよい)に示す向きにお
ける欠陥3の右側に相当する部分は青色に表示される場合がある。これに対し、電極材2の表面における、欠陥3の生じていない滑らかな領域に相当する部分は赤色に表示されやすい。よって、欠陥3をより容易に確認することが可能である。なお、本実施例においては、θ4とθ5はいずれも70度に近い値を取ることとしてもよい。また、
図5Aに示すθ4、及び
図5Bに示すθ5は各々、ラインカメラ15に入射した拡散反射光の反射角より大きいが、これらの大小関係は逆であってもよい。
【0040】
以上より、本実施例に係る検査装置1について、赤外光111の入射角が全ての検査光の入射角の中で最も小さくなるように赤外光照明11を設置し、また、赤外光111の反射光を正反射光として、他の拡散反射光から分離し、R画像において、アルミ箔21と塗工物22の境界を容易に検知することが可能であるとともに、RGB画像において、アルミ箔21における欠陥3や異物が生じていない滑らかな領域に相当する部分をそれ以外の部分と区別可能に赤色で表示することが可能である。また、赤外光121の拡散反射光がラインカメラ15に入射するように赤外光照明12を設置し、赤外光121の照射強度を全ての検出光の中で最も高くすることによって、より確実に、塗工物22における欠陥3や異物を検出することが可能である。また、緑色光131、及び青色光141の拡散反射光がラインカメラ15に入射するように緑色光照明13、及び青色光照明14を設置することによって、アルミ箔21における欠陥3や異物をそれらの形状と共に容易に検出することが可能である。
【0041】
また、本実施例に係る検査装置1は、モニタのような表示部17を備えていてもよく、
図6には、表示部17における表示内容の一例を概略的に示す。
図6に示す、破線xで囲んだ部分には、電極材2の表面における欠陥3や異物の分布を点で示すマッピングが表示され、これによって、ユーザは、例えば電極材2の表面のどの部分に欠陥3や異物が発生しやすいかという傾向を即時に把握することが可能である。また、破線yで囲んだ部分には、上記のマッピングに対応して欠陥3や異物の拡大画像が表示され、これによって、ユーザは、欠陥3や異物の形状等を容易に把握することが可能である。これに加えて、本実施例においては、破線zで囲んだ部分に、実際の検査時のサムネイル画像を表示することが可能であり、その中で、欠陥3や異物の位置に加えて、塗工物22の寸法、及び塗工物22の位置ずれに関する情報も表示することが可能である。
【0042】
<付記1>
電池用の電極材(2)の品質を光学的手法により検査する検査装置(1)であって、
前記電極材の表面に検査光(111、121、131、141)を照射する複数の照明(11、12、13、14)と、
前記複数の照明から照射される前記検査光の、前記電極材の表面による反射光の各々を受光し、前記電極材の表面を撮像する撮像部(15)と、
を備え、
前記複数の照明は、照射される前記検査光の前記電極材の表面による正反射光が前記撮像部に入射するように入射角が設定された第1照明(11)を含み、
前記撮像部において、前記複数の照明のうち、前記第1照明から照射される検査光(111)の、前記電極材の表面による反射光に基づいて取得される信号強度が、選択的に低減されるように所定の条件が調整または設定される調整部(161、162)をさらに備えることを特徴とする、検査装置(1)。
【0043】
<付記2>
電池用の電極材(2)の品質を光学的手法により検査する検査装置(1)であって、
前記電極材の表面に検査光(111、121、131、141)を照射する複数の照明(11、12、13、14)と、
前記複数の照明から照射される前記検査光の、前記電極材の表面による反射光の各々を
受光し、前記電極材の表面を撮像する撮像部(15)と、
を備え、
前記複数の照明は、照射される前記検査光の前記電極材の表面による正反射光が前記撮像部に入射するように入射角が設定された第1照明(11)を含み、
前記第1照明から照射される前記検査光(111)の反射光により、塗工物(22)と、金属製シート(21)との境界を検知することで、前記塗工物の寸法を測定可能であり、
前記複数の照明のうち、前記第1照明以外の照明(12、13、14)から照射される前記検査光(121、131、141)の前記電極材の表面による反射光により、前記塗工物または前記金属製シートの欠陥(3)または異物を検知可能であることを特徴とする、検査装置(1)。
【符号の説明】
【0044】
1・・・・・検査装置
11・・・・赤色光照明
111・・・赤色光
12・・・・赤外光照明
121・・・赤外光
13・・・・緑色光照明
131・・・緑色光
14・・・・青色光照明
141・・・青色光
15・・・・ラインカメラ
161・・・光量調整部
162・・・信号強度調整部
17・・・・表示部
2・・・・・電極材
21・・・・アルミ箔
22・・・・塗工物
3・・・・・欠陥