(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116907
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】自動車のサイドシル構造及び車体下部構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20240821BHJP
B60K 1/04 20190101ALI20240821BHJP
【FI】
B62D25/20 F
B60K1/04 Z
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022775
(22)【出願日】2023-02-16
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-07-02
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083253
【弁理士】
【氏名又は名称】苫米地 正敏
(72)【発明者】
【氏名】樋貝 和彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 稜之
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 毅
(72)【発明者】
【氏名】石川 俊治
(72)【発明者】
【氏名】中垣内 達也
(72)【発明者】
【氏名】川崎 由康
(72)【発明者】
【氏名】田路 勇樹
【テーマコード(参考)】
3D203
3D235
【Fターム(参考)】
3D203AA02
3D203BB12
3D203BB22
3D203CA25
3D203CA55
3D203CA57
3D203DB05
3D235AA01
3D235BB05
3D235CC15
3D235DD35
3D235EE63
3D235EE64
3D235FF09
3D235HH26
3D235HH62
(57)【要約】
【課題】構造部材による重量増加を抑えつつ、少ない衝突変形量で高い衝突エネルギー吸収特性が得られる自動車のサイドシル構造を提供する。
【解決手段】サイドシル1内の閉断面空間3内に、この空間内を縦通する縦仕切部材2を利用して衝撃吸収構造部4を設ける。衝撃吸収構造部4は、縦仕切部材2で仕切られた車体インナ側とアウタ側の閉断面空間3a,3bを車両幅方向に横断する横仕切部材5と、この横仕切部材5で仕切られた上部側空間30a,30b内に車両幅方向に沿って設けられるバルクヘッド6で構成される。車体インナ側とアウタ側の横仕切部材5とバルクヘッド6は、縦仕切部材2を挟んでそれぞれ対向配置され、横仕切部材5には、車両幅方向に沿ってビードが形成される。このサイドシル構造は、バルクヘッド6の設置数を少なくしても所望の衝突特性が得られるので、構造部材による重量増加を抑えつつ、少ない衝突変形量で高い衝突エネルギー吸収特性が得られる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両インナ側のサイドシルインナ(1a)と車両アウタ側のサイドシルアウタ(1b)で構成され、内部に閉断面空間(3)が形成されるサイドシル(1)と、該サイドシル(1)のサイドシルインナ(1a)とサイドシルアウタ(1b)間に介在する縦仕切部材(2)を備え、該縦仕切部材(2)により閉断面空間(3)が車両インナ側の閉断面空間(3a)と車両アウタ側の閉断面空間(3b)に仕切られたサイドシル構造であって、
閉断面空間(3)内に衝撃吸収構造部(4)を備え、
該衝撃吸収構造部(4)は、各閉断面空間(3a),(3b)を車両幅方向に横断して当該閉断面空間を上下に仕切る横仕切部材(5)と、該横仕切部材(5)で上下に仕切られた空間のうちの上部側空間(30a),(30b)内に車両幅方向に沿って設けられるバルクヘッド(6)で構成され、
バルクヘッド(6)は、上部側空間(30a),(30b)を車両長手方向で複数に仕切るようにして、上部側空間(30a),(30b)内に車両長手方向で間隔をおいて複数設けられ、
横仕切部材(5)には、バルクヘッド(6)間の位置に車両幅方向に沿ってビード(7)が形成され、該ビード(7)は車両長手方向で間隔をおいて複数設けられ、
車両インナ側の閉断面空間(3a)内の横仕切部材(5)及びバルクヘッド(6)と、車両アウタ側の閉断面空間(3b)内の横仕切部材(5)及びバルクヘッド(6)は、縦仕切部材(2)を挟んで車両幅方向でそれぞれ対向して設けられることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
【請求項2】
車両インナ側の閉断面空間(3a)内の横仕切部材(5)は、サイドシルインナ(1a)と縦仕切部材(2)に接合され、
車両アウタ側の閉断面空間(3b)内の横仕切部材(5)は、サイドシルアウタ(1b)と縦仕切部材(2)に接合されることを特徴とする請求項1に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項3】
車両インナ側の閉断面空間(3a)内の横仕切部材(5)は、車両幅方向の一端側にフランジ部(50x)を有するとともに、他端側に上向きに連成され且つ縦仕切部材(2)に沿ってサイドシル(1)の上端部まで延在したフランジ部(50y)を有し、車両幅方向の一端側のフランジ部(50x)がサイドシルインナ(1a)の内面に接合され、他端側のフランジ部(50y)の上端部が、サイドシルインナ(1a)の上端部と縦仕切部材(2)の上端部に挟まれた状態でこれらに接合され、
車両アウタ側の閉断面空間(3b)内の横仕切部材(5)は、車両幅方向の一端側にフランジ部(51x)を有するとともに、他端側に上向きに連成され且つ縦仕切部材(2)に沿ってサイドシル(1)の上端部まで延在したフランジ部(51y)を有し、車両幅方向の一端側のフランジ部(51x)がサイドシルアウタ(1b)の内面に接合され、他端側のフランジ部(51y)の上端部が、サイドシルアウタ(1b)の上端部と縦仕切部材(2)の上端部に挟まれた状態でこれらに接合されることを特徴とする請求項2に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項4】
車両インナ側の閉断面空間(3a)内の横仕切部材(5)は、車両幅方向の一端側にフランジ部(52x)を有するとともに、他端側に下向きに連成され且つ縦仕切部材(2)に沿ってサイドシル(1)の下端部まで延在したフランジ部(52y)を有し、車両幅方向の一端側のフランジ部(52x)がサイドシルインナ(1a)の内面に接合され、他端側のフランジ部(52y)の下端部が、サイドシルインナ(1a)の下端部と縦仕切部材(2)の下端部に挟まれた状態でこれらに接合され、
車両アウタ側の閉断面空間(3b)内の横仕切部材(5)は、車両幅方向の一端側にフランジ部(53x)を有するとともに、他端側に下向きに連成され且つ縦仕切部材(2)に沿ってサイドシル(1)の下端部まで延在したフランジ部(53y)を有し、車両幅方向の一端側のフランジ部(53x)がサイドシルアウタ(1b)の内面に接合され、他端側のフランジ部(53y)の下端部が、サイドシルアウタ(1b)の下端部と縦仕切部材(2)の下端部に挟まれた状態でこれらに接合されることを特徴とする請求項2に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項5】
車両インナ側の閉断面空間(3a)内の横仕切部材(5)は、車両幅方向の一端側および他端側にそれぞれフランジ部(54)を有し、車両幅方向の一端側のフランジ部(54)がサイドシルインナ(1a)の内面に接合され、他端側のフランジ部(54)が縦仕切部材(2)の車両インナ側の面に接合され、
車両アウタ側の閉断面空間(3b)内の横仕切部材(5)は、車両幅方向の一端側および他端側にそれぞれフランジ部(55)を有し、車両幅方向の一端側のフランジ部(55)がサイドシルアウタ(1b)の内面に接合され、他端側のフランジ部(55)が縦仕切部材(2)の車両アウタ側の面に接合されることを特徴とする請求項2に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項6】
車体インナ側の上部側空間(30a)内のバルクヘッド(6)は、少なくとも、サイドシルインナ(1a)の上側の横方向面部(101A)と、横仕切部材(5)にそれぞれ接合され、
車体アウタ側の上部側空間(30b)内のバルクヘッド(6)は、少なくとも、サイドシルアウタ(1b)の縦方向面部(100)及び上側の横方向面部(101A)と、横仕切部材(5)にそれぞれ接合されることを特徴とする請求項1に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項7】
バルクヘッド(6)は、車両前後方向におけるフロアクロスメンバの幅内となる領域に設けられるバルクヘッド(6x)と、フロアクロスメンバの幅外となる領域に設けられるバルクヘッド(6y)とからなり、
車両前後方向において、
フロアクロスメンバの幅内となる領域の2箇所以上にバルクヘッド(6x)が設けられるとともに、フロアクロスメンバの幅外となる領域の1箇所以上にバルクヘッド(6y)が設けられ、
隣り合う2つのバルクヘッド(6x)の間隔をw1、バルクヘッド(6x)とこれと隣り合うバルクヘッド(6y)との間隔をw2とした場合、w1<w2とすることを特徴とする請求項1に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項8】
少なくとも一部のバルクヘッド(6y)が、隣接して設けられる2つ以上のバルクヘッドで構成されるバルクヘッドセットからなることを特徴とする請求項7に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項9】
バルクヘッド(6)はフランジ(60)を介して横仕切部材(5)に接合され、
車両長手方向で隣り合う2つのビード(7)間の距離(但し、2つのビード(7)の縁部間の距離)をWH、バルクヘッド(6)のフランジ(60)の幅をWBFとしたときに、WBF≦WH≦127mmを満足することを特徴とする請求項1に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項10】
衝撃吸収構造部(4)を構成する金属板は、降伏強度がフロアクロスメンバを構成する金属板の降伏強度以下であることを特徴とする請求項1に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項11】
衝撃吸収構造部(4)を構成する金属板は、引張強度が780MPa級以上、又は金属板の板厚1/4位置のビッカース硬さ(HV)が250以上であることを特徴とする請求項1に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項12】
衝撃吸収構造部(4)を構成する金属板は、
質量%で、
C:0.030%以上0.250%以下、
Si:0.01%以上2.50%以下、
Mn:1.00%以上3.50%未満、
P:0.001%以上0.100%以下、
S:0.0200%以下、
Al:0.010%以上2.000%以下
を含有する鋼板であることを特徴とする請求項1に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項13】
衝撃吸収構造部(4)を構成する金属板は、金属板の板厚1/4位置において、フェライトを面積率で0%以上65%以下、マルテンサイトと焼戻しマルテンサイトを面積率の合計で30%以上100%以下、残留オーステナイトを面積率で0%以上15%以下含む鋼組織を有することを特徴とする請求項1に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項14】
衝撃吸収構造部(4)を構成する金属板は、引張試験における極限変形能が0.55以上であることを特徴とする請求項1に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項15】
衝撃吸収構造部(4)を構成する金属板は、90°V曲げ試験を行った際に亀裂が発生しない限界曲げ半径R(mm)と金属板の板厚t(mm)がR/t≦7.0を満足することを特徴とする請求項1に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項16】
車体下部両側に車両長手方向に沿って配置されるサイドシル(1)と、フロアパネル(11)上に車両幅方向に沿って配置され、両サイドシル(1)を連結するフロアクロスメンバ(10)と、該フロアクロスメンバ(10)の下側の両サイドシル(1)間に配置されるバッテリーケース(12)を備えた車体下部構造であって、
請求項1~15のいずれかに記載のサイドシル構造を備え、
バッテリーケース(12)のバッテリーケースサイドメンバ(120)とサイドシル(1)は、車両幅方向で隣接し、車両側方視で少なくとも一部が重なる位置に配置され、
横仕切部材(5)は、その水平延長上にバッテリーケースサイドメンバ(120)が位置するように設けられることを特徴とする自動車の車体下部構造。
【請求項17】
衝撃吸収構造部(4)を構成する部材の耐力が、フロアクロスメンバ(10)およびバッテリーケースサイドメンバ(120)の耐力以下であることを特徴とする請求項16に記載の自動車の車体下部構造。
【請求項18】
車体下部両側に車両長手方向に沿って配置されるサイドシル(1)と、フロアパネル(11)上に車両幅方向に沿って配置され、両サイドシル(1)を連結するフロアクロスメンバ(10)を備えた車体下部構造であって、
請求項1~15のいずれかに記載のサイドシル構造を備え、
横仕切部材(5)は、その水平延長上にフロアクロスメンバ(10)が位置するように設けられることを特徴とする自動車の車体下部構造。
【請求項19】
衝撃吸収構造部(4)を構成する部材の耐力が、フロアクロスメンバ(10)の耐力以下であることを特徴とする請求項18に記載の自動車の車体下部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車体側部のサイドシル構造及びそのサイドシルを含む車体下部構造であって、特に両サイドシル間のフロアパネルの下方にバッテリーモジュールを備えた自動車に好適な構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に電気自動車はフロアパネル下方にバッテリーモジュールが搭載されており、このバッテリーモジュールは、内部のバッテリーセルとバッテリーセルを格納するためのバッテリーケースで構成されている。一般的にバッテリーケースは、バッテリーセルを衝撃荷重から保護する役割を持っており、高剛性・高耐力の部材が使用されている。バッテリーケースの周囲には、部材自身が変形することでエネルギーを吸収する役割をもつ部材が配置される。特に側面衝突の場合には、車体側方からの衝撃荷重をサイドシルがエネルギー吸収し、残りの荷重をフロアクロスメンバ又はバッテリーケースサイドメンバで支える。この時、サイドシルのエネルギー吸収に必要な変形量が少なければエネルギー吸収部を縮小でき、代わりにバッテリーモジュールの体積を拡大できるため、航続距離の増加につながる。以上のことから、エネルギー吸収性能に優れ、軽量なサイドシル構造が求められている。
【0003】
従来、サイドシル構造やこれを含む車体下部構造に関して、例えば、以下のような技術が開示されている。
特許文献1には、車体前後方向に延びる筒体と、この筒体の内部に配置された衝撃吸収部材とを備えた車体の側面部材構造であって、以下のような構造及び機能を有するものが開示されている。衝撃吸収部材が、車体前後方向に延び、車幅方向に扁平なウェブと、このウェブの車外側端部に接合され、車体前後方向に延びる車外側フランジと、ウェブの車内側端部に接合され、車体前後方向に延びる車内側フランジとを有する。そして、前記車外側フランジと車内側フランジがウェブを上下から挟むように配置され、車体前後方向に延びるリブを有することにより、衝撃吸収能力を維持しつつ局部的な変形を抑制するようにした。
【0004】
特許文献2には、車両前後方向に延びるサイドシルと、このサイドシルの延在方向に沿って延びるスチフナとを備えた車体下構造であって、以下のような構造及び機能を有するものが開示されている。前記スチフナは、車体の幅方向外側に向けて膨出するハット形断面の外側スチフナと、車体の幅方向内側に向けて膨出するハット形断面の内側スチフナからなる。前記内側スチフナ側に形成されるスチフナの第1側面は、前記外側スチフナ側に形成されるスチフナの第2側面よりも相対的に上方にシフトしている。前記外側スチフナの上下面のうちの少なくとも一方の面には、車体幅方向に沿って延びるビードを形成する。以上の構造により、サイドシルに入力される衝突荷重を効率よく車体の幅方向内側に伝達させるようにした。
【0005】
特許文献3には、車体下部構造であって、以下のような構造及び機能を有するものが開示されている。車体前後方向に沿って延出したサイドシルと、サイドシル内部のバッテリーパックとの固定点を挟む車体前後方向位置に配置され、サイドシルの断面を内側から補強するバルクヘッドを備える。この構造により、車体側方からの衝撃荷重の入力時に、衝撃荷重のエネルギーをバッテリクロスメンバによって充分に吸収でき、かつ、バッテリクロスメンバによってバッテリーパック内のバッテリーセルを安定して保護できるようにした。
【0006】
特許文献4には、サイドシルと、第1エネルギー吸収部材と、第2エネルギー吸収部材とを備えた車体下部構造であって、以下のような構造を有するものが開示されている。前記第1エネルギー吸収部材は、サイドシルの中空断面においてインナパネル側に設けられ、前記第2エネルギー吸収部材は、第1エネルギー吸収部材に対峙するように、サイドシルの中空断面においてアウタパネル側に設けられる。第1エネルギー吸収部材の強度を第2エネルギー吸収部材より大きく設定する。これらにより、通常の鋼板を用いて安価に大量生産可能な車体下部構造とした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2021/157651号
【特許文献2】特開2018-131133号公報
【特許文献3】特開2019-202743号公報
【特許文献4】国際公開第2020/070935号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の技術は、サイドシル内の補強部材は車両前後方向に一定な断面を持つため、衝突位置によらず衝突エネルギーを吸収可能であるが、補強する必要のない部位にも補強部材が存在するため重量が過剰になる可能性がある。
また、特許文献2の技術のように、仕切部材を有するサイドシルにおいて、単に仕切部材の両側(仕切部材の内側及び外側)にハット断面形状のスチフナを配置しただけでは、十分な衝突エネルギー吸収特性が得られない。また、スチフナの上下面のうちの少なくとも一方の面に、車体幅方向に沿って延びるビードを形成した場合でも、得られる衝突エネルギー吸収特性は十分なものではない。
【0009】
また、特許文献3の技術のように、仕切部材を有するサイドシルにおいて、サイドシルと仕切部材との閉断面空間にバルクヘッドを配置した場合も、衝突時の仕切部材を介したバルクヘッドが線接触になることから、荷重伝達の効率が十分でなく、得られる衝突エネルギー吸収特性は十分なものではない。
さらに、特許文献4の技術のように、サイドシルのインナパネル側に、第1エネルギー吸収部材としてハット形状部材を配置し、アウタパネル側に、第2エネルギー吸収部材として、第1エネルギー吸収部材に対峙するようにバルクヘッドを配置した場合も、衝突時に各エネルギー吸収部材の座屈が発生し始めると、サイドシルの車両高さ方向への断面崩れが発生し、十分な衝突エネルギー吸収特性が得られない。
【0010】
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、構造部材による重量増加を抑えつつ、少ない衝突変形量で高い衝突エネルギー吸収特性が得られる自動車のサイドシル構造を提供することにある。また、本発明の他の目的は、そのような優れた衝突特性を有するサイドシル構造を含む車体下部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、上記課題の解決には、サイドシル内の閉断面空間を縦通する縦仕切部材を利用して、閉断面空間内に特定の構造部材からなる衝撃吸収構造部を設けることが有効であることが判った。具体的には、縦仕切部材で仕切られた車体インナ側とアウタ側の閉断面空間を車両幅方向にそれぞれ横断するように設けられるビード付きの横仕切部材と、この各横仕切部材の上側の閉断面空間内に車両幅方向に沿って設けられるバルクヘッドとで構成され、車体インナ側とアウタ側の横仕切部材及びバルクヘッドが縦仕切部材を挟んで対向配置された衝撃吸収構造部を設けることにより、上記課題を解決できることが判った。さらに、衝撃吸収構造部を構成する横仕切部材及びバルクヘッドの構成や配置、他の部材との接合形態を最適化することにより、より高い衝突エネルギー吸収特性が得られることが判った。
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
【0012】
[1]車両インナ側のサイドシルインナ(1a)と車両アウタ側のサイドシルアウタ(1b)で構成され、内部に閉断面空間(3)が形成されるサイドシル(1)と、該サイドシル(1)のサイドシルインナ(1a)とサイドシルアウタ(1b)間に介在する縦仕切部材(2)を備え、該縦仕切部材(2)により閉断面空間(3)が車両インナ側の閉断面空間(3a)と車両アウタ側の閉断面空間(3b)に仕切られたサイドシル構造であって、
閉断面空間(3)内に衝撃吸収構造部(4)を備え、
該衝撃吸収構造部(4)は、各閉断面空間(3a),(3b)を車両幅方向に横断して当該閉断面空間を上下に仕切る横仕切部材(5)と、該横仕切部材(5)で上下に仕切られた空間のうちの上部側空間(30a),(30b)内に車両幅方向に沿って設けられるバルクヘッド(6)で構成され、
バルクヘッド(6)は、上部側空間(30a),(30b)を車両長手方向で複数に仕切るようにして、上部側空間(30a),(30b)内に車両長手方向で間隔をおいて複数設けられ、
横仕切部材(5)には、バルクヘッド(6)間の位置に車両幅方向に沿ってビード(7)が形成され、該ビード(7)は車両長手方向で間隔をおいて複数設けられ、
車両インナ側の閉断面空間(3a)内の横仕切部材(5)及びバルクヘッド(6)と、車両アウタ側の閉断面空間(3b)内の横仕切部材(5)及びバルクヘッド(6)は、縦仕切部材(2)を挟んで車両幅方向でそれぞれ対向して設けられることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
【0013】
[2]上記[1]のサイドシル構造において、車両インナ側の閉断面空間(3a)内の横仕切部材(5)は、サイドシルインナ(1a)と縦仕切部材(2)に接合され、
車両アウタ側の閉断面空間(3b)内の横仕切部材(5)は、サイドシルアウタ(1b)と縦仕切部材(2)に接合されることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
[3]上記[2]のサイドシル構造において、車両インナ側の閉断面空間(3a)内の横仕切部材(5)は、車両幅方向の一端側にフランジ部(50x)を有するとともに、他端側に上向きに連成され且つ縦仕切部材(2)に沿ってサイドシル(1)の上端部まで延在したフランジ部(50y)を有し、車両幅方向の一端側のフランジ部(50x)がサイドシルインナ(1a)の内面に接合され、他端側のフランジ部(50y)の上端部が、サイドシルインナ(1a)の上端部と縦仕切部材(2)の上端部に挟まれた状態でこれらに接合され、
車両アウタ側の閉断面空間(3b)内の横仕切部材(5)は、車両幅方向の一端側にフランジ部(51x)を有するとともに、他端側に上向きに連成され且つ縦仕切部材(2)に沿ってサイドシル(1)の上端部まで延在したフランジ部(51y)を有し、車両幅方向の一端側のフランジ部(51x)がサイドシルアウタ(1b)の内面に接合され、他端側のフランジ部(51y)の上端部が、サイドシルアウタ(1b)の上端部と縦仕切部材(2)の上端部に挟まれた状態でこれらに接合されることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
【0014】
[4]上記[2]のサイドシル構造において、車両インナ側の閉断面空間(3a)内の横仕切部材(5)は、車両幅方向の一端側にフランジ部(52x)を有するとともに、他端側に下向きに連成され且つ縦仕切部材(2)に沿ってサイドシル(1)の下端部まで延在したフランジ部(52y)を有し、車両幅方向の一端側のフランジ部(52x)がサイドシルインナ(1a)の内面に接合され、他端側のフランジ部(52y)の下端部が、サイドシルインナ(1a)の下端部と縦仕切部材(2)の下端部に挟まれた状態でこれらに接合され、
車両アウタ側の閉断面空間(3b)内の横仕切部材(5)は、車両幅方向の一端側にフランジ部(53x)を有するとともに、他端側に下向きに連成され且つ縦仕切部材(2)に沿ってサイドシル(1)の下端部まで延在したフランジ部(53y)を有し、車両幅方向の一端側のフランジ部(53x)がサイドシルアウタ(1b)の内面に接合され、他端側のフランジ部(53y)の下端部が、サイドシルアウタ(1b)の下端部と縦仕切部材(2)の下端部に挟まれた状態でこれらに接合されることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
【0015】
[5]上記[2]のサイドシル構造において、車両インナ側の閉断面空間(3a)内の横仕切部材(5)は、車両幅方向の一端側および他端側にそれぞれフランジ部(54)を有し、車両幅方向の一端側のフランジ部(54)がサイドシルインナ(1a)の内面に接合され、他端側のフランジ部(54)が縦仕切部材(2)の車両インナ側の面に接合され、
車両アウタ側の閉断面空間(3b)内の横仕切部材(5)は、車両幅方向の一端側および他端側にそれぞれフランジ部(55)を有し、車両幅方向の一端側のフランジ部(55)がサイドシルアウタ(1b)の内面に接合され、他端側のフランジ部(55)が縦仕切部材(2)の車両アウタ側の面に接合されることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
[6]上記[1]~[5]のいずれかのサイドシル構造において、車体インナ側の上部側空間(30a)内のバルクヘッド(6)は、少なくとも、サイドシルインナ(1a)の上側の横方向面部(101A)と、横仕切部材(5)にそれぞれ接合され、
車体アウタ側の上部側空間(30b)内のバルクヘッド(6)は、少なくとも、サイドシルアウタ(1b)の縦方向面部(100)及び上側の横方向面部(101A)と、横仕切部材(5)にそれぞれ接合されることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
【0016】
[7]上記[1]~[6]のいずれかのサイドシル構造において、バルクヘッド(6)は、車両前後方向におけるフロアクロスメンバの幅内となる領域に設けられるバルクヘッド(6x)と、フロアクロスメンバの幅外となる領域に設けられるバルクヘッド(6y)とからなり、
車両前後方向において、
フロアクロスメンバの幅内となる領域の2箇所以上にバルクヘッド(6x)が設けられるとともに、フロアクロスメンバの幅外となる領域の1箇所以上にバルクヘッド(6y)が設けられ、
隣り合う2つのバルクヘッド(6x)の間隔をw1、バルクヘッド(6x)とこれと隣り合うバルクヘッド(6y)との間隔をw2とした場合、w1<w2とすることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
[8]上記[7]のサイドシル構造において、少なくとも一部のバルクヘッド(6y)が、隣接して設けられる2つ以上のバルクヘッドで構成されるバルクヘッドセットからなることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
[9]上記[1]~[8]のいずれかのサイドシル構造において、バルクヘッド(6)はフランジ(60)を介して横仕切部材(5)に接合され、
車両長手方向で隣り合う2つのビード(7)間の距離(但し、2つのビード(7)の縁部間の距離)をWH、バルクヘッド(6)のフランジ(60)の幅をWBFとしたときに、WBF≦WH≦127mmを満足することを特徴とする自動車のサイドシル構造。
【0017】
[10]上記[1]~[9]のいずれかのサイドシル構造において、衝撃吸収構造部(4)を構成する金属板は、降伏強度がフロアクロスメンバを構成する金属板の降伏強度以下であることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
[11]上記[1]~[10]のいずれかのサイドシル構造において、衝撃吸収構造部(4)を構成する金属板は、引張強度が780MPa級以上、又は金属板の板厚1/4位置のビッカース硬さ(HV)が250以上であることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
[12]上記[1]~[11]のいずれかのサイドシル構造において、衝撃吸収構造部(4)を構成する金属板は、
質量%で、
C:0.030%以上0.250%以下、
Si:0.01%以上2.50%以下、
Mn:1.00%以上3.50%未満、
P:0.001%以上0.100%以下、
S:0.0200%以下、
Al:0.010%以上2.000%以下
を含有する鋼板であることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
【0018】
[13]上記[1]~[12]のいずれかのサイドシル構造において、衝撃吸収構造部(4)を構成する金属板は、金属板の板厚1/4位置において、フェライトを面積率で0%以上65%以下、マルテンサイトと焼戻しマルテンサイトを面積率の合計で30%以上100%以下、残留オーステナイトを面積率で0%以上15%以下含む鋼組織を有することを特徴とする自動車のサイドシル構造。
[14]上記[1]~[13]のいずれかのサイドシル構造において、衝撃吸収構造部(4)を構成する金属板は、引張試験における極限変形能が0.55以上であることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
[15]上記[1]~[14]のいずれかのサイドシル構造において、衝撃吸収構造部(4)を構成する金属板は、90°V曲げ試験を行った際に亀裂が発生しない限界曲げ半径R(mm)と金属板の板厚t(mm)がR/t≦7.0を満足することを特徴とする自動車のサイドシル構造。
【0019】
[16]車体下部両側に車両長手方向に沿って配置されるサイドシル(1)と、フロアパネル(11)上に車両幅方向に沿って配置され、両サイドシル(1)を連結するフロアクロスメンバ(10)と、該フロアクロスメンバ(10)の下側の両サイドシル(1)間に配置されるバッテリーケース(12)を備えた車体下部構造であって、
上記[1]~[15]のいずれかのサイドシル構造を備え、
バッテリーケース(12)のバッテリーケースサイドメンバ(120)とサイドシル(1)は、車両幅方向で隣接し、車両側方視で少なくとも一部が重なる位置に配置され、
横仕切部材(5)は、その水平延長上にバッテリーケースサイドメンバ(120)が位置するように設けられることを特徴とする自動車の車体下部構造。
【0020】
[17]上記[16]の車体下部構造において、衝撃吸収構造部(4)を構成する部材の耐力が、フロアクロスメンバ(10)およびバッテリーケースサイドメンバ(120)の耐力以下であることを特徴とする自動車の車体下部構造。
[18]車体下部両側に車両長手方向に沿って配置されるサイドシル(1)と、フロアパネル(11)上に車両幅方向に沿って配置され、両サイドシル(1)を連結するフロアクロスメンバ(10)を備えた車体下部構造であって、
上記[1]~[15]のいずれかのサイドシル構造を備え、
横仕切部材(5)は、その水平延長上にフロアクロスメンバ(10)が位置するように設けられることを特徴とする自動車の車体下部構造。
[19]上記[18]の車体下部構造において、衝撃吸収構造部(4)を構成する部材の耐力が、フロアクロスメンバ(10)の耐力以下であることを特徴とする自動車の車体下部構造。
【発明の効果】
【0021】
本発明のサイドシル構造、及びそのサイドシル構造を含む車体下部構造は、サイドシル1内の閉断面空間3を縦通する縦仕切部材2を利用し、その閉断面空間3内に特定の構造部材からなる衝撃吸収構造部4を設けたため、少ない衝突変形量で高い衝突エネルギー吸収特性が得られる。このため、電気自動車のように両サイドシル間にバッテリーモジュールを備えた自動車に適用した場合、エネルギー吸収に必要なスペースを小さくでき、バッテリーモジュールの体積を拡大できる利点がある。また、衝撃吸収構造部4は、必要最小限の構成部材で高い曲げ剛性が得られるため、構成部材による車体の重量増加も抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明のサイドシル構造及びこれを含む車体下部構造の一実施形態を模式的に示すもので、サイドシルを含む車体下部構造(車体下部両側の構造部のうちの一方の構造部)の車両幅方向での縦断面図
【
図3】
図2中のIII-III線に沿う横仕切部材の断面図
【
図4】
図1の実施形態におけるサイドシル構造の部品展開図
【
図5】本発明の車体下部構造におけるフロアクロスメンバの幅W
Fを説明するための図面
【
図6】本発明のサイドシル構造におけるバルクヘッドの他の配置形態例を示す説明図
【
図7】本発明のサイドシル構造におけるバルクヘッドの他の配置形態例を示す説明図
【
図8】本発明のサイドシル構造及びこれを含む車体下部構造の他の実施形態を模式的に示すもので、サイドシルを含む車体下部構造(車体下部両側の構造部のうちの一方の構造部)の車両幅方向での縦断面図
【
図9】本発明のサイドシル構造及びこれを含む車体下部構造の他の実施形態を模式的に示すもので、サイドシルを含む車体下部構造(車体下部両側の構造部のうちの一方の構造部)の車両幅方向での縦断面図
【
図10】本発明のサイドシル構造及びこれを含む車体下部構造の他の実施形態を模式的に示すもので、サイドシルを含む車体下部構造(車体下部両側の構造部のうちの一方の構造部)の車両幅方向での縦断面図
【
図11】実施例における衝突試験の試験条件を説明するための図面
【
図12-1】実施例の衝突試験における発明例1の試験体(サイドシル構造)と試験条件を示す説明図
【
図12-2】実施例の衝突試験における発明例2の試験体(サイドシル構造)と試験条件を示す説明図
【
図12-3】実施例の衝突試験における比較例1の試験体(サイドシル構造)と試験条件を示す説明図
【
図12-4】実施例の衝突試験における比較例2の試験体(サイドシル構造)と試験条件を示す説明図
【
図12-5】実施例の衝突試験における比較例3の試験体(サイドシル構造)と試験条件を示す説明図
【
図12-6】実施例の衝突試験における比較例4の試験体(サイドシル構造)と試験条件を示す説明図
【
図13-1】実施例(発明例1,2、比較例1)の衝突試験における衝突体(ポール)侵入量と吸収エネルギーとの関係を示すグラフ
【
図13-2】実施例(比較例2~4)の衝突試験における衝突体(ポール)侵入量と吸収エネルギーとの関係を示すグラフ
【
図14】実施例(発明例および比較例)の衝突試験における衝突体(ポール)の最大侵入時の吸収エネルギーを示すグラフ
【
図15】実施例(発明例および比較例)の衝突試験における衝突体(ポール)の最大侵入量を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1~
図4は、本発明のサイドシル構造及びこれを含む車体下部構造の一実施形態を模式的に示すものである。このうち、
図1は、サイドシルを含む車体下部構造(車体下部両側の構造部のうちの一方の構造部)の車両幅方向での縦断面図である。また、
図2は
図1中のII-II線に沿う断面図、
図3は
図2中のIII-III線に沿う横仕切部材の断面図、
図4はサイドシル構造の部品展開図である。
サイドシルは、車体下部両側に車両長手方向に沿って配置される骨格構造部材である。本発明のサイドシル構造は、基本構造部材として、車両インナ側のサイドシルインナ1aと車両アウタ側のサイドシルアウタ1bで構成されるサイドシル1と、このサイドシル1のサイドシルインナ1aとサイドシルアウタ1b間に介在する縦仕切部材2を備える。サイドシル1の内部には閉断面空間3が形成され、この閉断面空間3は、同空間を縦通する縦仕切部材2により車両インナ側の閉断面空間3aと車両アウタ側の閉断面空間3bに仕切られる。詳細は後述するが、サイドシル1を構成するサイドシルインナ1aとサイドシルアウタ1bは、それぞれ断面溝形形状をしており、このサイドシルインナ1aとサイドシルアウタ1bを縦仕切部材2を挟んだ状態で合わせて接合することで、上述したサイドシル構造が構成される。
【0024】
サイドシル1を構成するサイドシルインナ1aとサイドシルアウタ1bは、金属板を成形して構成されたものである。サイドシルインナ1aとサイドシルアウタ1bは、それぞれ、縦方向面部100とその上下端に連成された横方向面部101A,101Bからなる断面溝形形状の本体部を有する。この本体部の上下端(横方向面部101A,101Bの端部)にはフランジ部102が連成されている。なお、縦方向面部100は垂直状でなくてもよく、適当な傾斜や曲面を有していてもよい。また、横方向面部101A,101Bは水平状でなくてもよく、
図1に示すように適当な傾斜や曲面を有していてもよい。
縦仕切部材2も金属板で構成されるが、完全な平板ではなく、平板を曲げ成形したものを用いてもよい。
【0025】
サイドシルインナ1aとサイドシルアウタ1bは、それらのフランジ部102どうしを重ね合わせて接合(通常、スポット溶接による接合)されることにより、内部が閉断面空間3となるサイドシル1が構成される。その際、サイドシルインナ1aとサイドシルアウタ1b間に縦仕切部材2を介在させる(挟み込む)ので、サイドシルインナ1aとサイドシルアウタ1bのフランジ部102は、それらの間に挟み込んだ縦仕切部材2の上下端部を介して接合される。これにより、縦仕切部材2はサイドシル1内の閉断面空間3を縦通し、この縦仕切部材2により閉断面空間3が車両幅方向で2つの閉断面空間3a,3bに仕切られた構造となる。なお、本実施形態では、後述するように、車両インナ側の横仕切部材5のフランジ部50yの上端部分が、縦仕切部材2の上端部分とサイドシルインナ1aの上側のフランジ部102間に挟み込まれた状態で、それらの部材に接合されている。同じく車両アウタ側の横仕切部材5のフランジ部51yの上端部分が、縦仕切部材2の上端部分とサイドシルアウタ1bのフランジ部102間に挟み込まれた状態で、それらの部材に接合されている。したがって、サイドシルインナ1aとサイドシルアウタ1bの上部側のフランジ部102は、それらの間に挟み込んだ縦仕切部材2の上端部分と横仕切部材5のフランジ部50y,51yの各上端部分を介して接合されていることになる。
ここで、縦仕切部材2は、サイドシルインナ1aとサイドシルアウタ1b間に挟み込まれ、その上下端部がサイドシル本体の上下端に接合されている(本実施形態では、サイドシルインナ1aとサイドシルアウタ1bのフランジ部102に挟み込まれた状態で接合されている)ため、側面衝突時にサイドシル1の断面が車両高さ方向で開いて崩壊するのを抑制(断面崩壊の抑制)する高い耐力が得られ、衝突特性を高めるのに寄与する。
【0026】
本発明のサイドシル構造は、サイドシル1の閉断面空間3内に特定の構造部材からなる衝撃吸収構造部4を備える。この衝撃吸収構造部4は、各閉断面空間3a,3bを車両幅方向に横断して当該閉断面空間を上下に仕切る横仕切部材5と、この横仕切部材5で上下に仕切られた空間のうちの上部側空間30a,30b内に車両幅方向に沿って設けられるバルクヘッド6で構成される。バルクヘッド6は、各上部側空間30a,30bを車両長手方向で複数に仕切るようにして、上部側空間30a,30b内に車両長手方向で間隔をおいて複数設けられる。横仕切部材5には、バルクヘッド6間の位置に車両幅方向に沿ってビード7が形成され、このビード7は車両長手方向で間隔をおいて複数設けられる。車両インナ側の閉断面空間3a内の横仕切部材5及びバルクヘッド6と、車両アウタ側の閉断面空間3b内の横仕切部材5及びバルクヘッド6は、縦仕切部材2を挟んで車両幅方向でそれぞれ対向して設けられる。
この衝撃吸収構造部4は、車両長手方向においてサイドシル1の少なくともバッテリーケース(バッテリーケースサイドメンバ)に沿った部分に設けられる。
このような衝撃吸収構造部4を備えるサイドシル構造では、後述する(i)~(vii)の作用効果が得られ、これらの作用効果が複合化することで高い衝突エネルギー吸収特性が得られる。特にこの構造では、バルクヘッド6の設置数を少なくしても所望の衝突特性が得られるため、構造部材による重量増加を抑えつつ、少ない衝突変形量で高い衝突エネルギー吸収特性が得られる利点がある。
【0027】
以下、この実施形態の衝撃吸収構造部4の詳細を説明する。
横仕切部材5は、各閉断面空間3a,3b内を水平に横断するようにして車体長手方向に沿って設けられ、各閉断面空間3a,3bを上部側空間30a,30bと下部側空間31a,31bに仕切っている。
横仕切部材5は、金属板を成形して構成されたものである。車両インナ側の閉断面空間3a内の横仕切部材5は、サイドシルインナ1aと縦仕切部材2に接合され、車両アウタ側の閉断面空間3b内の横仕切部材5は、サイドシルアウタ1bと縦仕切部材2に接合されている。横仕切部材5の機能の1つは、サイドシル1内を横断し、衝突初期からフロアクロスメンバ又はバッテリーケースへの荷重伝達経路が確保されるようにすることにあるので、サイドシル1と縦仕切部材2に対して上記のように接合されることが好ましい。
【0028】
この横仕切部材5のサイドシル1や縦仕切部材2に対する取付・接合構造は特に制限はない。本実施形態では、各横仕切部材5は、車両幅方向の一端側及び他端側に取付用(接合用)のフランジ部を有しており、このフランジ部を介してサイドシル1や縦仕切部材2に取付・接合されている。
本実施形態では、車両インナ側の閉断面空間3a内の横仕切部材5は、車両幅方向の一端側に下向きに(下方向に向けて)連成されたフランジ部50xを有するとともに、他端側に上向きに(上方向に向けて)連成されたフランジ部50yを有する。このフランジ部50yは、縦仕切部材2に沿ってサイドシル1の上端部まで延在している。そして、一端側のフランジ部50xがサイドシルインナ1aの内面に接合され、他端側のフランジ部50yの上端部分が、サイドシルインナ1aの上端部分(フランジ部102)と縦仕切部材2の上端部分に挟まれた状態でこれらに接合されている。
【0029】
また、車両アウタ側の閉断面空間3b内の横仕切部材5は、車両幅方向の一端側に下向きに(下方向に向けて)連成されたフランジ部51xを有するとともに、他端側に上向きに(上方向に向けて)連成されたフランジ部51yを有する。このフランジ部51yは、縦仕切部材2に沿ってサイドシル1の上端部まで延在している。そして、一端側のフランジ部51xがサイドシルアウタ1bの内面に接合され、他端側のフランジ部51yの上端部分が、サイドシルアウタ1bの上端部分(フランジ部102)と縦仕切部材2の上端部分に挟まれた状態でこれらに接合されている。
なお、フランジ部50x,50y,51x,51y(特に、サイズが大きいフランジ部50y,51y)には、軽量化のために透孔を設けてもよい。また、同様の理由から、フランジ部50x,50y,51x,51yは、横仕切部材5の長手方向の一部にのみ形成(例えば、所定の間隔で間欠的に形成)してもよい。以上の構成は、後述する他の実施形態の横仕切部材5のフランジ部についても同様である。
【0030】
横仕切部材5を、このようなフランジ部50x,50y,51x,51yを介した取付・接合構造とすることにより、サイドシル構造の組み立てを以下のように容易に行うことができる。車両インナ側の横仕切部材5を、フランジ部50xをサイドシルインナ1aの縦方向面部100に接合し、フランジ部50yの上端部分をサイドシルインナ1aの上部側のフランジ部102に接合することで、サイドシルインナ1aに接合固定する。また、車両アウタ側の横仕切部材5を、フランジ部51xをサイドシルアウタ1bの縦方向面部100に接合し、フランジ部51yの上端部分をサイドシルアウタ1bの上部側のフランジ部102に接合することで、サイドシルアウタ1bに接合固定する。そして、このように横仕切部材5をそれぞれ接合固定したサイドシルインナ1aとサイドシルアウタ1bで縦仕切部材2を挟んだ状態で、これら3つの部材を接合する。この場合の接合形態としては、例えば、サイドシル1の上端側については、サイドシルインナ1aの上部側のフランジ部102に接合された車両インナ側の横仕切部材5のフランジ部50y(フランジ部50yの上端部分)と、サイドシルアウタ1bの上部側のフランジ部102に接合された車両アウタ側の横仕切部材5のフランジ部51y(フランジ部51yの上端部分)と、縦仕切部材2の上端部分とを接合(スポット溶接)すればよい。また、サイドシル1の下端側については、サイドシルインナ1aの下部側のフランジ部102と、サイドシルアウタ1bの下部側のフランジ部102と、縦仕切部材2の下端部分とを接合(スポット溶接)すればよい。
【0031】
各横仕切部材5には、車両幅方向に沿うようにビード7が形成され、このビード7は車両長手方向で間隔をおいて複数設けられている。このビード7は、横仕切部材5の剛性を高め、側面衝突時の変形初期に発生する衝突最大荷重(耐力)の増加により衝突エネルギー吸収特性を高める。また、ビード7を車両長手方向で間隔をおいて複数設けることにより、側面衝突位置以外において横仕切部材5のひずみ伝播を抑制し、横仕切部材5の座屈を抑制する効果も得られる。
ビード7は、車両長手方向においてバルクヘッド6が設けられていない位置、すなわちバルクヘッド6間の位置に形成されている。本実施形態のビード7は、横仕切部材5を構成する板材の一部を下側に溝状に凹ませることで形成されているが、逆に、横仕切部材5を構成する板材の一部を上側に溝状に凹ませることで形成されてもよい。
【0032】
ビード7の形成間隔やビード7のサイズなどは特に制限はなく、加工性やバルクヘッド6の配置などを考慮しつつ、横仕切部材5の剛性確保の観点から適宜決めればよいが、一般には、次のような条件で設けるのが好ましい。
ビード7は、車体長手方向で必ずしも等間隔で設ける必要はないが、通常は等間隔で設けられる。ビード7の形成間隔(
図2参照)、すなわち車体長手方向で隣り合う2つのビード7間の距離W
H(但し、2つのビード7の縁部間の距離)は、127mm以下とすることが好ましい。側面衝突試験(Euro NCAPで規定する側面ポール衝突試験)の衝突体であるポールの半径が127mmであるので、ビード間距離W
H≦127mmであれば、必ずポール半径範囲(127mm)内にビード7が1つ以上存在することになり、ビード7による剛性向上効果が常に適切に得られることになる。また、ビード間距離W
Hが127mmのほぼ半分の63mm以下であれば、必ずポール半径範囲(127mm)内にビード7が2つ以上存在することになり、ビード7による剛性向上効果がより高まることになる。一方、横仕切部材5の剛性確保の観点からはビード間距離W
Hの下限は特にないが、後述するように、バルクヘッド6のフランジ60の幅をW
BFとしたときに、ビード間距離W
HはW
BF≦W
Hとするのが好ましい。このため、一般には、ビード間距離W
Hは30mm以上とするのが好ましい。また、ビード7の深さd(
図3参照)は3~7mm程度、ビード断面の曲率半径R(
図3参照)は6~10mm程度が好ましい。これにより、ビード形成時の加工性を確保しつつ、ビードによる剛性向上を図ることができる。
【0033】
バルクヘッド6は、金属板を成形して構成されたものである。このバルクヘッド6は、車体インナ側およびアウタ側の上部側空間30a,30bを車両長手方向で複数に仕切るようにして、上部側空間30a,30b内に車両長手方向で間隔をおいて複数設けられている。各バルクヘッド6は、板面が横仕切部材5に対して垂直となるように、車両幅方向に沿って配置される。このバルクヘッド6は、好ましくは、上部側空間30a,30bの車両幅方向の断面全体を仕切るようにして設けられる。
各バルクヘッド6は、その外周部の複数箇所で上部側空間30a,30bを囲む各部材にそれぞれ接合されるのが好ましいが、最低限の衝突エネルギー吸収特性が得られるようにするためには、少なくとも、周囲の部材に対して以下のように接合されることが好ましい。すなわち、車体インナ側のバルクヘッド6は、側面衝突時に荷重伝達経路が形成され、かつ、バルクヘッドの位置ずれを生じないようにするため、少なくとも、上部と下部をサイドシルインナ1aの上側の横方向面部101Aと横仕切部材5にそれぞれ接合することが好ましい。ただし、特に好ましい形態は、さらにバルクヘッド6の両側部もサイドシルインナ1aの縦方向面部100と横仕切部材5のフランジ部50yに接合すること、つまりバルクヘッド6の上部、下部及び両側部を周囲の各部材にそれぞれ接合することである。また、車体アウタ側のバルクヘッド6は、側面衝突時に位置ずれを生じないようにするため、少なくとも、上部と下部をサイドシルアウタ1bの上側の横方向面部101Aと横仕切部材5にそれぞれ接合することが好ましい。さらに、車体アウタ側のバルクヘッド6は、サイドシルアウタ1bの縦方向面部100に接する部分が側面衝突時に大きく変形するので、その側部をサイドシルアウタ1bの縦方向面部100に接合することが好ましい。また、特に好ましい形態は、さらにバルクヘッド6のもう一方の側部も横仕切部材5のフランジ部51yに接合すること、つまり、バルクヘッド6の上部、下部および両側部を周囲の各部材に接合することである。
通常、バルクヘッド6と周囲の各部材との接合は、スポット溶接でなされる。
【0034】
本実施形態のバルクヘッド6は、その本体部(隔壁部)の外周縁にフランジ部60を有し、このフランジ部60を介して、上記のように周囲の部材に接合(通常、スポット溶接による接合)されている。なお、フランジ部60は、本体部(隔壁部)の外周縁の一部にのみ形成(例えば、所定の間隔で間欠的に形成)してもよい。
バルクヘッド6は、サイドシル1の上部側空間30a,30b内に車両長手方向で等間隔に設けてもよいし、例えば、広い間隔と狭い間隔が交互になるよう設けてもよい。さらに、後述するように、車両前後方向の領域ごとに異なる間隔で設けるようにしてもよい。
上述したように、バルクヘッド6はフランジ60を介して横仕切部材5などの他の部材に接合されるが、フランジ幅W
BFとビード間距離W
Hは、W
BF≦W
Hを満足することが好ましい。
図2に示すように、バルクヘッド6はビード7が形成されていない横仕切部材面に配置する必要があるからである。
【0035】
バルクヘッド6を車両長手方向で間隔をおいて設ける際に、衝撃吸収構造部4の衝突特性を高めるために、
図2に示すようにフロアクロスメンバ10の幅W
F内となる領域では、2箇所以上にバルクヘッド6を設けることができる。このようにフロアクロスメンバ10の幅W
F内となる領域において、2箇所以上にバルクヘッド6を設けてバルクヘッド6どうしの間隔を小さくすることにより、衝突特性を高めることができる。ここで、フロアクロスメンバ10の幅W
Fとは、フロアクロスメンバ幅方向における両側壁間の部分の幅とすればよい。
図5は、一般的なフロアクロスメンバ10の幅方向断面を模式的に示したものである。この
図5のように両縁部にフランジ部を有するフロアクロスメンバ10の場合、フロアクロスメンバ10の幅W
Fとは、フロアクロスメンバ幅方向において、両縁部のフランジ部分を除く部分の幅(骨格部材として機能する主要部の幅)、すなわちフランジ部分のRが始まる箇所間の幅とすればよい。
【0036】
フロアクロスメンバ10の幅W
F内の複数箇所にバルクヘッド6を配置する場合、隣り合う2つのバルクヘッド6どうしの間隔W
B(
図2に示すバルクヘッド6の本体部間の距離)が過度に小さいと、フロアクロスメンバ10の幅W
F内での衝突特性を高める効果が低下したり、バルクヘッド6の設置数がいたずらに増加したりすることにつながるので好ましくない。このためフロアクロスメンバ10の幅W
F内となる領域の2箇所以上に配置されるバルクヘッド6は、バルクヘッド6どうしの間隔W
Bとフロアクロスメンバ10の幅W
Fとの比W
B/W
Fが0.5以上1.0以下となるように配置することが好ましい。なお、フロアクロスメンバ10の幅W
F内にバルクヘッド6が配置されるとは、バルクヘッド6の本体部(隔壁部)が車両長手方向でフロアクロスメンバ10の幅W
F内に位置することを指す。
【0037】
この衝撃吸収構造部4では、横仕切部材5が車両長手方向に延在する部材であり、かつビード7が横仕切部材面に車両長手方向で間隔をおいて複数設けられているため、側面衝突位置に関係なく衝撃吸収部材として機能する。このため、バルクヘッド6の設置数を少なくしても、衝撃吸収構造部4により十分な衝突エネルギー吸収特性を得ることができる。例えば、
図2に示すようにフロアクロスメンバ10の幅W
F内となる領域の2箇所以上にバルクヘッド6を設ける場合において、フロアクロスメンバ10の幅外となる領域(ビード7が形成されていない横仕切部材面の位置)の1箇所以上にバルクヘッド6を設ける場合、そのバルクヘッド6とフロアクロスメンバ10の幅W
F内のバルクヘッド6との間隔を、フロアクロスメンバ10の幅W
F内のバルクヘッド6どうしの間隔よりも広くなるように配置することができる(例えば、後述する
図6の実施形態を参照)。これにより、フロアクロスメンバ10の幅外となる領域の衝突特性を高めつつ、バルクヘッド6の設置数を抑え、重量軽減を図ることができる。
【0038】
車両インナ側の閉断面空間3a内の横仕切部材5及びバルクヘッド6と、車両アウタ側の閉断面空間3b内の横仕切部材5及びバルクヘッド6は、縦仕切部材2を挟んで車両幅方向でそれぞれ対向して(すなわち車両長手方向で同じ位置に)設けられる。これにより、車両インナ側とアウタ側の横仕切部材5及びバルクヘッド6が縦仕切部材2を挟んで一体に機能し、後述するように高い衝突エネルギー吸収特性が得られる。一方、縦仕切部材2が衝撃吸収構造部4を車体インナ側とアウタ側で分断したような構造となるため、衝撃吸収構造部4(横仕切部材5、バルクヘッド6)の車両幅方向の座屈波長が短くなって座屈耐力が向上し、このことも衝突エネルギー吸収特性が高められる要因となる。
【0039】
以下、衝撃吸収構造部4(横仕切部材5、バルクヘッド6)を構成する金属板(通常「鋼板」である)の好ましい材質について説明する。
衝撃吸収構造部4(横仕切部材5、バルクヘッド6)を構成する金属板は、引張強度が780MPa級以上であることが好ましい。衝撃吸収構造部4の衝突特性としては、側面衝突時における衝撃吸収構造部4の変形開始直後の弾性変形を経て塑性変形に転じる際の荷重(以下「耐力」という。)が高いほど、衝突時の変形が生じにくく、衝突特性は良好となる。耐力は、衝撃吸収構造部4に用いる金属板の降伏強度が高いほど高くなるで、普通鋼よりも降伏強度が高い引張強度780MPa級以上の金属板とするのが好ましい。また、同様の観点から、引張強度1180MPa級以上の金属板とするのがより好ましく、引張強度1470MPa級以上の金属板とするのが特に好ましい。
また、引張強度の約1/3がビッカース硬さHVに相当することが知られている(例えば、JISハンドブック(1)鉄鋼I、日本規格協会編、SAE-J-417硬さ換算表)。したがって、衝撃吸収構造部4を構成する金属板は、金属板の板厚1/4位置のビッカース硬さHVが250以上であることが好ましく、310以上であることがより好ましく、440以上であることが特に好ましい。
【0040】
衝撃吸収構造部4を構成する金属板は、質量%で、C:0.030%以上0.250%以下、Si:0.01%以上2.50%以下、Mn:1.00%以上3.50%未満、P:0.001%以上0.100%以下、S:0.0200%以下、Al:0.010%以上2.000%以下を含有する鋼板であることが好ましい。
C量が0.030%未満では、一般に金属板の引張強度を高くする(例えば780MPa級以上)ことが難しくなる。金属板の引張強度が低いと、側面衝突時における衝撃吸収構造部4の耐力の確保が難しくなり、衝突特性が低下する。一方、C量が0.250%を超えると、後述する硬質相であるマルテンサイトが脆化し、延性が低下するので曲げ特性が低下しやすく、衝撃吸収構造部4の圧壊時に金属板の破断が生じやすくなる。このためC量は0.030%以上0.250%以下が好ましい。また、上述した観点から、より好ましいC量は0.100%以上0.250%以下であり、さらに好ましいC量は0.150%以上0.250%以下である。
【0041】
Siは、鋼を固溶強化して引張強度と伸び(延性)のバランスを向上させ、後述する残留オーステナイトを生成させるのに有効な元素である。こうした効果を得るには、Si量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Si量が2.50%を超えると、脆化による延性の低下により曲げ特性が低下しやすくなり、衝撃吸収構造部4の圧壊時に金属板の破断が生じやすくなる。このためSi量は0.01%以上2.50%以下が好ましい。
Mnは、鋼の強化に有効であり、硬質相であるマルテンサイトの生成を促進する元素である。こうした効果を得るには、Mn量を1.00%以上とすることが好ましい。Mn量が1.00%未満では、マルテンサイトの生成が促進されず、一般に金属板の引張強度を高くする(例えば780MPa級以上)ことが難しくなる。一方、Mn量が3.50%を超えると、延性の低下により曲げ特性が低下しやすくなり、衝撃吸収構造部4の局所的な変形の際に金属板の破断が生じやすくなる。このためMn量は1.00%以上3.50%以下が好ましい。
【0042】
Pは、鋼の強化に有効な元素である。こうした効果を得るには、Pを0.001%以上とすることが好ましい。一方、P量が0.100%を超えると、粒界偏析により鋼が脆化し、耐衝撃特性が低下しやすい。このためP量は0.001%以上0.100%以下が好ましい。
Sは、MnSなどの介在物として存在して耐衝撃特性や溶接性を劣化させるため、その量は極力低減することが好ましいが、製造コストを考慮し、S量は0.0200%以下とするのが好ましい。
Alは、フェライトを生成させ、TS-Elバランスを向上させるのに有効な元素である。こうした効果を得るには、Al量を0.010%以上とすることが好ましい。一方、Al量が2.000%を超えると、連続鋳造時のスラブ割れの危険性が生じる。このためAl量は0.010%以上2.000%以下が好ましい。
【0043】
この鋼板は、さらに、質量%で、N:0.0100%以下、Nb:0.200%以下、Ti:0.200%以下、V:0.200%以下、B:0.0100%以下、Cr:1.000%以下、Ni:1.000%以下、Mo:1.000%以下、Sb:0.200%以下、Sn:0.200%以下、Cu:1.000%以下、Ta:0.100%以下、W:0.500%以下、Mg:0.0200%以下、Zn:0.0200%以下、Co:0.0200%以下、Zr:0.1000%以下、Ca:0.0200%以下、Se:0.0200%以下、Te:0.0200%以下、Ge:0.0200%以下、As:0.0500%以下、Sr:0.0200%以下、Cs:0.0200%以下、Hf:0.0200%以下、Pb:0.0200%以下、Bi:0.0200%以下、REM:0.0200%以下のなかから選ばれる少なくとも1種の元素を含有してもよい。鋼成分の残部はFe及び不可避的不純物である。
【0044】
衝撃吸収構造部4を構成する金属板は、金属板の板厚1/4位置において、フェライトを面積率で0%以上65%以下、マルテンサイトと焼戻しマルテンサイトを面積率の合計で30%以上100%以下、残留オーステナイトを面積率で0%以上15%以下を含む鋼組織であることが好ましい。
軟質相であるフェライトは、金属板(鋼板)の延性を高めるため適宜含有できるが、その面積率が65%を超えると、一般に金属板の引張強度を高くする(例えば780MPa級以上)ことが難しくなる。このためフェライトの面積率は0%以上65%以下とするのが好ましい。
マルテンサイトと焼戻しマルテンサイトは、金属板(鋼板)の強化に寄与し、高い引張強度(例えば780MPa級以上)を獲得する観点からは、必要な組織である。このような効果を得るためには、マルテンサイトと焼戻しマルテンサイトの面積率は、合計で30%以上100%以下とするのが好ましい。
残留オーステナイトは、延性向上を目的に含有してもよいが、面積率で15%を超えると、プレス成形後に硬質なマルテンサイトに変態して延性(曲げ特性)の低下を招き、衝撃吸収構造部4の局所的な変形の際の耐曲げ破断特性(衝突特性)が低下しやすい。このため残留オーステナイトの面積率は0%以上15%以下とするのが好ましい。
【0045】
このような鋼組織を得るには、例えば、上記成分を有するスラブに熱間圧延、冷間圧延を施して冷延鋼板とし、この冷延鋼板に適切な焼鈍条件で焼鈍を施すことが有効である。焼鈍条件としては、冷延鋼板をAc3変態点以上の温度域に加熱し、必要に応じて保持してオーステナイト変態させた後、オーステナイトからマルテンサイトへの変態が開始する温度(Ms点)以下の温度域まで冷却し、マルテンサイト、未変態オーステナイトおよびフェライトの組織とする。その後、Ms点以上Ac1変態点未満の温度域に再加熱して必要に応じて保持する。これにより、マルテンサイトが焼き戻しマルテンサイトとなり、未変態オーステナイトがマルテンサイトまたは残留オーステナイトとなる。
【0046】
また、本発明のサイドシル構造の側面から衝突荷重が入力し、衝撃吸収構造部4が座屈耐力を越えて圧壊する過程において、衝撃吸収構造部4(横仕切部材5、バルクヘッド6)は、折れ曲がりながら蛇腹状に座屈変形を繰り返し発生させることで衝突エネルギーを吸収する。この過程において、衝撃吸収構造部4が割れずに座屈変形すれば、衝突エネルギーは最も吸収されやすい。
このような効果を得るために、衝撃吸収構造部4の金属板は、引張試験における破断時のひずみである極限変形能εlが0.55以上であることが好ましい。これにより、圧壊による局所的に厳しい変形に対しても破断が生じにくく、サイドドシル構造全体の強度が十分に確保され、高い衝突エネルギー吸収性能を得ることができる。材質のばらつきを考慮すると、金属板の極限変形能εlは0.75以上がより好ましく、0.88以上が特に好ましい。
【0047】
ここで、極限変形能εlは、JIS Z2241に準拠して室温引張試験を行い、この引張試験後の引張試験片の破断面における板幅Wと板厚Tを計測し、引張試験前の引張試験片の板幅W0と板厚T0とともに、下記(1)式により算出する。
εl=-{ln(W/W0)+ln(T/T0)} …(1)
但し W:引張試験後の引張試験片の破断面における板幅(mm)
W0:引張試験前の引張試験片の板幅(mm)
T:引張試験後の引張試験片の破断面における板厚(mm)
T0:引張試験前の引張試験片の板厚(mm)
金属板の極限変形能εlを高めるには、例えば、金属板の極限変形能を高めながら高強度化を図る上で有効な第二相である焼き戻しマルテンサイトとマルテンサイトの面積率のバランスを適切にするために、焼鈍時の冷却条件(冷却停止温度、冷却速度)、再加熱条件(再加熱温度、保持時間)等を調整することが有効である。
【0048】
また、衝撃吸収構造部4が蛇腹状に座屈変形した蛇腹形状の曲がり部分は、曲がりの外面に応力が集中して割れが発生しやすい。そこで、衝撃吸収構造部4の金属板には、曲げ加工性に優れたものを用いるのが好ましい。具体的には、JIS Z2248のVブロック法に基づく90°V曲げ試験において、亀裂(割れ)が発生しない限界曲げ半径R(すなわち亀裂(割れ)が発生しない最小のV型パンチの先端R)(mm)と板厚t(mm)の比R/tが7.0以下である、曲げ加工性に優れた金属板を用いることが好ましい。また、材質のばらつきを考慮すると、R/tが3.5以下の金属板がより好ましく、2.0以下の金属板が特に好ましい。
金属板の曲げ加工性を高め、上記のようなR/tを得るには、例えば、残留オーステナイトの面積率を適切にするために、焼鈍時の冷却条件(冷却停止温度、冷却速度)、再加熱条件(再加熱温度、保持時間)等を調整することが有効である。
また、衝撃吸収構造部4(横仕切部材5、バルクヘッド6)を構成する金属板の降伏強度(耐力)は、フロアクロスメンバを構成する金属板の降伏強度以下であることが好ましい。側面衝突時に、確実に衝撃吸収構造部4がフロアクロスメンバよりも先に変形して衝突エネルギーを吸収し、フロアクロスメンバの変形が抑えられるようにするためである。
【0049】
以上述べた衝撃吸収構造部4を備えるサイドシル構造では、下記(i)~(vii)のような作用効果が複合的に得られることで高い衝突エネルギー吸収特性が得られる。特にこの構造では、バルクヘッド6の設置数を少なくしても所望の衝突特性が得られるため、構造部材による重量増加を抑えつつ、少ない衝突変形量で高い衝突エネルギー吸収特性が得られる利点がある。
(i) 衝撃吸収構造部4は、閉断面空間3a,3bを車体幅方向に横断する横仕切り部材5と、この横仕切り部材5で仕切られた上部側空間30a内に配置される複数のバルクヘッド6で構成され、しかも、車両インナ側とアウタ側の横仕切り部材5とバルクヘッド6が縦仕切部材2を挟んで車両幅方向で対向配置されるため、高い曲げ剛性(側面衝突荷重に対する曲げ変形抵抗)を有する。このため側面衝突荷重の入力箇所周辺での局所的な変形が抑制され、側面衝突時に衝撃吸収構造部4全体を変形させることにより、衝突エネルギー吸収(EA)を高めることができる。そして、衝撃吸収構造部4は、側面衝突時に横仕切部材5とバルクヘッド6が協働してサイドシル1の断面崩壊を抑えるとともに、バルクヘッド6自体が座屈して曲げ圧壊して、衝突エネルギーを吸収し、少ない衝突変形量で衝突エネルギーを効果的に吸収できる。
(ii) 閉断面空間3a,3bを車体幅方向に横断し、縦仕切部材2を挟んで対向配置される車体インナ側とアウタ側の横仕切部材5により、衝突初期からフロアクロスメンバ及びバッテリーケース(バッテリーケースサイドメンバ)への荷重伝達経路が確保される。その結果、フロアクロスメンバとバッテリーケースからの反力によりサイドシル及び衝撃吸収構造部4が圧壊するので、衝突エネルギーを効果的に吸収できる。
【0050】
(iii)さらに、横仕切部材5は、閉断面空間3a,3b内を車体幅方向に水平に横断するとともに、車両長手方向に延在する部材であり、かつビード7が横仕切部材面に車両長手方向で間隔をおいて複数設けられているため、衝突体(ポール)の周方向の衝突荷重を車両長手方向のどの位置でも受け止めることができ、衝突エネルギーを効果的に吸収できる。
(iv) 衝撃吸収構造部4とそれを囲む部材(縦仕切部材2及びサイドシル1)が、側面衝突時に一体的な構造体として機能するので、車両長手方向の広い範囲に渡ってフロアクロスメンバやバッテリーケースに衝突荷重を分散して伝達できる。このためバッテリーパックに伝達される衝突荷重を軽減できる。
(v) 衝撃吸収構造部4を構成する車体インナ側とアウタ側の横仕切部材5及びバルクヘッド6が、閉断面空間3内を縦通する縦仕切部材2を挟んで対向配置され、いわば縦仕切部材2が横仕切部材5とバルクヘッド6を車両幅方向で分断するような構造となっている。このため衝撃吸収構造部4(横仕切部材5、バルクヘッド6)の車両幅方向の座屈波長を短くすることができ、衝撃吸収構造部4の座屈耐力が向上して衝突エネルギー吸収特性が高められる。
【0051】
(vi) 横仕切部材5に形成されるビード7により、横仕切部材5の剛性が高められ、側面衝突時の変形初期に発生する衝突最大荷重(耐力)の増加により衝突エネルギー吸収特性が高められる。また、横仕切部材面にビード7を車両長手方向で間隔をおいて複数設けることにより、側面衝突位置以外において横仕切部材5のひずみ伝播を抑制し、横仕切部材5の座屈を抑制することができる。このため、衝撃吸収構造部4の局所的な変形を軽減し、衝突エネルギー吸収特性を高めることができる。
(vii) 衝撃吸収構造部4を構成する横仕切部材5は、車両長手方向に延在する部材であって、ビード7が車両長手方向で間隔をおいて複数設けられるため、車両長手方向での側面衝突位置に関係なく衝撃吸収部材として機能する。しかも、上述したように衝撃吸収構造部4とそれを囲む部材(縦仕切部材2及びサイドシル1)は、側面衝突時に一体的な構造体として機能する。このため、バルクヘッド6の設置数が少なくても、高い衝突エネルギー吸収特性が得られ、その分、構造部材による重量増加を抑えることができる。
【0052】
図6は、車両前後方向におけるバルクヘッド6の他の配置形態例を示したものであり、バルクヘッド6を車両前後方向の領域ごとに異なる間隔で設けたものである。
これらの配置形態では、車両前後方向で間隔をおいた複数箇所に設けられるバルクヘッド6が、車両前後方向におけるフロアクロスメンバ10の幅wa(=
図2の幅W
F)内となる領域に設けられるバルクヘッド6
xとそれ以外の領域(フロアクロスメンバ10の幅外となる領域)に設けられるバルクヘッド6
yからなる。そして、車両前後方向において、フロアクロスメンバ10の幅wa内となる領域の2箇所以上(
図6の実施形態では2箇所)にバルクヘッド6
xが設けられるとともに、フロアクロスメンバ10の幅外となる領域の1箇所以上にバルクヘッド6
yが設けられている。さらに、隣り合う2つのバルクヘッド6
xどうしの間隔をw1、バルクヘッド6
xとこれと隣り合うバルクヘッド6
yとの間隔をw2とした場合、w1<w2としている。以上のようなバルクヘッド6の配置形態とするのは、フロアクロスメンバ10の幅wa内となる領域では、2箇所以上にバルクヘッド6
xを設けてバルクヘッド6
xどうしの間隔を小さくすることにより衝突特性を高めるとともに、それ以外の領域のバルクヘッド6
yとバルクヘッド6
xとの間隔を大きくすることにより、バルクヘッド6の設置数を抑え、重量軽減を図るためである。なお、フロアクロスメンバ10の幅外となる領域の2箇所以上にバルクヘッド6
yを設ける場合、隣り合う2つのバルクヘッド6
yどうしの間隔w3についてもw1<w3とすることが好ましい。
【0053】
一方、隣り合うバルクヘッド6xとバルクヘッド6yとの間隔w2やバルクヘッド6yどうしの間隔w3は、衝撃吸収構造部4の軽量化の観点からは広いほどよいが、側面衝突時の衝撃吸収構造部4の曲げ剛性を確保するために、254mm以下とすることが好ましい。この254mmは、側面衝突試験(Euro NCAPで規定する側面ポール衝突試験)で使用する衝突体(ポール)の直径である。間隔w2,w3をこの試験の衝突体(ポール)の直径以下とすることにより、側面衝突時の衝撃吸収構造部4の曲げ剛性をより適切に確保することができる。また、同様の観点から、隣り合うバルクヘッド6xとバルクヘッド6yとの間隔w2やバルクヘッド6yどうしの間隔w3は、フロアクロスメンバ10の設置間隔(隣り合うフロアクロスメンバ10どうしの間隔wb)の1/4~1/2程度とするのが好ましい。例えば、フロアクロスメンバ10の設置間隔wbが260mmの場合、間隔w2や間隔w3は65mm~130mm程度とするのが好ましい。また、衝撃吸収構造部4の軽量化の観点から、間隔w2や間隔w3は50mm以上とするのが好ましい。
【0054】
図6(ア)の配置形態は、隣り合うフロアクロスメンバ10間であってフロアクロスメンバ10の幅外となる領域の1箇所にバルクヘッド6
yを設けた例であり、バルクヘッド6
x,6
yがw1<w2を満足する条件で設けられている。
また、
図6(イ),(ウ)の配置形態は、隣り合うフロアクロスメンバ10間であってフロアクロスメンバ10の幅外となる領域の2~3箇所にバルクヘッド6
yを設けた例であり、バルクヘッド6
x,6
yがw1<w2、w1<w3を満足する条件で設けられている。
【0055】
図7は、車両前後方向におけるバルクヘッド6の他の配置形態例を示したものであり、
図6の実施形態と同様に、バルクヘッド6を車両前後方向の領域ごとに異なる間隔で設けたものである。この実施形態では、フロアクロスメンバ10間での衝撃吸収構造部4の曲げ剛性をより高めるために、フロアクロスメンバ10の幅外となる領域に設けるバルクヘッド6
yを、隣接して設けられる2つ以上のバルクヘッド(
図7の実施形態では2つのバルクヘッド)からなるバルクヘッドセットで構成したものである。したがって、
図7の実施形態の各バルクヘッド6
yは、2枚のバルクヘッドを1セットとするバルクヘッドセットで構成される。このバルクヘッドセットを構成するバルクヘッドどうしの間隔w4の大きさは任意であるが、基本的に間隔w1とほぼ同様の観点から決められることになるので、上述した間隔w1と同じ条件とすればよい。なお、このようにバルクヘッド6
yを2つ以上のバルクヘッドからなるバルクヘッドセットで構成するのは、全部のバルクヘッド6
yを対象としてもよいし、一部のバルクヘッド6
yのみを対象としてもよい。
【0056】
図7(ア)の配置形態は、隣り合うフロアクロスメンバ10であってフロアクロスメンバ10の幅外となる領域の1箇所にバルクヘッド6
y(2枚のバルクヘッドを1セットとするバルクヘッドセット)を設けた例である。この配置形態では、バルクヘッド6
x,6
yがw1<w2を満足する条件で設けられている。
また、
図7(イ),(ウ)の配置形態は、隣り合うフロアクロスメンバ10間であってフロアクロスメンバ10の幅外となる領域の2~3箇所にバルクヘッド6
y(2枚のバルクヘッドを1セットとするバルクヘッドセット)を設けた例である。この配置形態では、バルクヘッド6
x,6
yがw1<w2、w1<w3を満足する条件で設けられている。
【0057】
通常、横仕切部材5は取付用のフランジ部を有し、
図1に示すように、このフランジ部を介して他の部材に取付・接合されるが、その場合のフランジ部の構成(たとえば、フランジ部の設け方や設ける方向)に特別な制限はない。
図8及び
図9は、それぞれ、横仕切部材5の取付・接合構造が異なる他の実施形態を示している。
図8は、本発明のサイドシル構造及びこれを含む車体下部構造の他の実施形態を模式的に示すもので、サイドシルを含む車体下部構造(車体下部両側の構造部のうちの一方の構造部)の車両幅方向での縦断面図である。
この実施形態では、車両インナ側の閉断面空間3a内の横仕切部材5は、車両幅方向の一端側に下向きに(下方向に向けて)連成されたフランジ部52xを有するとともに、他端側に下向きに(下方向に向けて)連成されたフランジ部52yを有する。このフランジ部52yは、縦仕切部材2に沿ってサイドシル1の下端部まで延在している。そして、一端側のフランジ部52xがサイドシルインナ1aの内面に接合され、他端側のフランジ部52yの下端部分が、サイドシルインナ1aの下端部分(フランジ部102)と縦仕切部材2の下端部分に挟まれた状態でこれらに接合されている。
【0058】
また、車両アウタ側の閉断面空間3b内の横仕切部材5は、車両幅方向の一端側に下向きに(下方向に向けて)連成されたフランジ部53xを有するとともに、他端側に下向きに(下方向に向けて)連成されたフランジ部53yを有する。このフランジ部53yは、縦仕切部材2に沿ってサイドシル1の下端部まで延在している。そして、一端側のフランジ部53xがサイドシルアウタ1bの内面に接合され、他端側のフランジ部53yの下端部分が、サイドシルアウタ1bの下端部分(フランジ部102)と縦仕切部材2の下端部分に挟まれた状態でこれらに接合されている。
なお、本実施形態の他の構成は
図1の実施形態と同様であるので、同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0059】
横仕切部材5を、このようなフランジ部52x,52y,53x,53yを介した取付接合・構造とすることにより、サイドシル構造の組み立てを以下のように容易に行うことができる。車両インナ側の横仕切部材5を、フランジ部52xをサイドシルインナ1aの縦方向面部100に接合し、フランジ部52yの下端部分をサイドシルインナ1aの下部側のフランジ部102に接合することで、サイドシルインナ1aに接合固定する。また、車両アウタ側の横仕切部材5を、フランジ部53xをサイドシルアウタ1bの縦方向面部100に接合し、フランジ部53yの下端部分をサイドシルアウタ1bの下部側のフランジ部102に接合することで、サイドシルアウタ1bに接合固定する。そして、このように横仕切部材5をそれぞれ接合固定したサイドシルインナ1aとサイドシルアウタ1bで縦仕切部材2を挟んだ状態で、これら3つの部材を接合する。この場合の接合形態としては、例えば、サイドシル1の下端側については、サイドシルインナ1aの下部側のフランジ部102に接合された車両インナ側の横仕切部材5のフランジ部52y(フランジ部52yの下端部分)と、サイドシルアウタ1bの下部側のフランジ部102に接合された車両アウタ側の横仕切部材5のフランジ部53y(フランジ部53yの下端部分)と、縦仕切部材2の下端部分とを接合(スポット溶接)すればよい。また、サイドシル1の上端側については、サイドシルインナ1aの上部側のフランジ部102と、サイドシルアウタ1bの上部側のフランジ部102と、縦仕切部材2の上端部分とを接合(スポット溶接)すればよい。
【0060】
図9は、本発明のサイドシル構造及びこれを含む車体下部構造の他の実施形態を模式的に示すもので、サイドシルを含む車体下部構造(車体下部両側の構造部のうちの一方の構造部)の車両幅方向での縦断面図である。
この実施形態では、車両インナ側の閉断面空間3a内の横仕切部材5は、車両幅方向の一端側及び他端側にそれぞれ下向きに(下方向に向けて)連成されたフランジ部54を有する。そして、一端側のフランジ部54がサイドシルインナ1aの内面に接合され、他端側のフランジ部54が縦仕切部材2の車両インナ側の面に接合されている。
また、車両アウタ側の閉断面空間3b内の横仕切部材5は、車両幅方向の一端側及び他端側にそれぞれ下向きに(下方向に向けて)連成されたフランジ部55を有する。そして、一端側のフランジ部55がサイドシルアウタ1bの内面に接合され、他端側のフランジ部55が縦仕切部材2の車両アウタ側の面に接合されている。
なお、本実施形態の他の構成は
図1の実施形態と同様であるので、同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0061】
この
図9の実施形態のサイドシル構造の組み立ては、さきの2例(
図1、
図8の実施形態)に較べると若干手間はかかるが、例えば、以下のようにして行うことができる。車両インナ側の横仕切部材5を、一方のフランジ部54をサイドシルインナ1aの縦方向面部100に接合することにより、サイドシルインナ1aに接合固定する。次いで、縦仕切部材2を、サイドシルインナ1aに部品組みをする状態で配置し、さらに、車両アウタ側の横仕切部材5の一方のフランジ部55を、縦仕切部材2を挟んだ状態で車両インナ側の横仕切部材5の他方のフランジ部54と対向した状態で配置し、これら3つの部材を接合する。次いで、サイドシルアウタ1bを、サイドシルインナ1a及び縦仕切部材2に部品組みをする状態で配置し、車両アウタ側の横仕切部材5の他方のフランジ部55とサイドシルアウタ1bの縦方向面部100を接合する。そして、このように横仕切部材5をそれぞれ接合固定したサイドシルインナ1aとサイドシルアウタ1bで縦仕切部材2を挟んだ状態で、これら3つの部材を接合する。この場合、サイドシル1の上端側については、サイドシルインナ1aの上部側のフランジ部102と、サイドシルアウタ1bの上部側のフランジ部102と、縦仕切部材2の上端部分とを接合(スポット溶接)すればよい。また、サイドシル1の下端側については、サイドシルインナ1aの下部側のフランジ部102と、サイドシルアウタ1bの下部側のフランジ部102と、縦仕切部材2の下端部分とを接合(スポット溶接)すればよい。
【0062】
次に、本発明のサイドシル構造が適用された車体下部構造について説明する。
本発明のサイドシル構造が適用される車体下部構造は、車体下部両側に車両長手方向に沿って配置されるサイドシル1(サイドシル構造)と、フロアパネル11上に車両幅方向に沿って配置され、両サイドシル1を連結(直接またはフロアパネルの一部などを介して連結)するフロアクロスメンバ10と、このフロアクロスメンバ10の下側の両サイドシル1間に配置されるバッテリーケース12などを備える。
車体下部両側に車両長手方向に沿って配置される両サイドシル1間にはフロアパネル11が配置される。このフロアパネル11は、その両フランジ部110を介して両サイドシル1(
図1ではサイドシルインナ1aの縦方向面部100の上部)に接合される。さらに、フロアパネル11の上に車両幅方向に沿った骨格構造部材であるフロアクロスメンバ10が配置される。このフロアクロスメンバ10は、その両端がフロアパネル11のフランジ部110を介して両サイドシル1(
図1ではサイドシルインナ1aの縦方向面部100の上部)に接合(固定)されることで、両サイドシル1を連結している。フロアクロスメンバ10は、車両長手方向で所定の間隔(例えば300mm程度)をおいた複数箇所に設けられる。なお、上述したフロアパネル11やフロアクロスメンバ10とサイドサイドシル1との接合(固定)は、通常、スポット溶接で行われる。
【0063】
フロアパネル11及びフロアクロスメンバ10の下方には、バッテリーパック13を収納したバッテリーケース12が配置されている。このバッテリーケース12の側部(バッテリーケースサイドメンバ120)が、所定の間隔をおいてサイドシル1の下部(サイドシルインナ1aの縦方向面部100の下部)と相対している。バッテリーケース12の底部(バッテリーケース底板部121)には、サイドシル側に突出するように取付用フランジ122が連設されている。この取付用フランジ122とサイドシル1の下端(サイドシルインナ1aの下側の横方向面部101B)を固定用ボルト14で締結することにより、バッテリーケース12がサイドシル1に保持されている。
【0064】
フロアクロスメンバ10やバッテリーケースサイドメンバ120の役割は荷重伝達であり、これらの部材が座屈変形するとその効果が著しく低下するため、部材の座屈耐力以下となるように伝達荷重を調整する必要がある。これらの部材への荷重伝達量は衝撃吸収部材の重なり量によって変化し、横仕切部材5の高さ位置によって調整可能である。例えば、バッテリーケース12の座屈耐力が低く衝突荷重を伝達させたくない場合には、横仕切部材5の高さ位置を高くし、後述する
図10の実施形態のように、横仕切部材5を、その水平延長上にフロアクロスメンバ10が位置するように設ければよい。これにより、バッテリーケース12への伝達荷重を小さくすることができる。
図1の実施形態では、車両幅方向で隣接するバッテリーケースサイドメンバ120とサイドシル1は、車両側方視で少なくとも一部が重なる位置に配置され、横仕切部材5は、その水平延長上にバッテリーケースサイドメンバ120が位置するように設けられている。
【0065】
このような車体下部構造では、側面衝突時にサイドシル1に入力された衝突荷重は、フロアクロスメンバ10とバッテリーケース12(バッテリーケースサイドメンバ120)の両方に入力される。これによって、広い範囲で荷重を受け持つことが可能となるとともに、衝突荷重は、バッテリーケース12よりも先に、サイドシル1と接合(固定)されたフロアクロスメンバ10に入力され、バッテリーケース12に入力する荷重が低減されることになる。
この場合、衝撃吸収構造部4を構成する部材の耐力は、フロアクロスメンバ10及びバッテリーケースサイドメンバ120の耐力以下であることが好ましい。側面衝突時に、確実に衝撃吸収構造部4がフロアクロスメンバ10及びバッテリーケースサイドメンバ120よりも先に変形して衝突エネルギーを吸収できるようにするためである。これにより、フロアクロスメンバ10およびバッテリーケースサイドメンバ120の変形が抑えられる。
【0066】
図10は、本発明のサイドシル構造及びこれを含む車体下部構造の他の実施形態を模式的に示すもので、サイドシルを含む車体下部構造(車体下部両側の構造部のうちの一方の構造部)の車両幅方向での縦断面図である。この
図10は、車体下部構造について、
図1とは異なる実施形態を示している。
この実施形態に示すように、横仕切部材5は、その水平延長上にフロアクロスメンバ10が位置するように設けることができる。上述したように、バッテリーケース12の座屈耐力が低く衝突荷重を伝達させたくない場合に、横仕切部材5の高さ位置を高くすれば、バッテリーケース12への伝達荷重を小さくすることができる。
この場合、衝撃吸収構造部4を構成する部材の耐力は、フロアクロスメンバ10の耐力以下であることが好ましい。側面衝突時に、確実に衝撃吸収構造部4がフロアクロスメンバ10よりも先に変形して衝突エネルギーを吸収し、フロアクロスメンバ10の変形が抑えられるようにするためである。
なお、本実施形態の他の構成は
図1の実施形態と同様であるので、同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【実施例0067】
本発明のサイドシル構造の効果を確認するため、以下のようなFEM解析による衝突試験を行った。この衝突試験では、発明例及び比較例のサイドシル構造を試験体とし、衝突による変形形態と衝突エネルギーの吸収特性の評価を行った。また、試験体固定用の剛体治具を、サイドシルに隣接するフロアクロスメンバやバッテリーケースサイドメンバに相当する部材とし、この剛体治具への伝達荷重を接触反力により評価した。
図11は、発明例に対する衝突試験の試験条件を模式的に示しており、
図11(a)は平面図、
図11(b)は
図11(a)中のb-b線に沿う断面図である。
【0068】
図11に示すように、衝突試験においては、試験体16の長手方向に対して垂直に半径127mmの衝突体17(ポール)を、初速度を30.9km/h、最大侵入量100mmで衝突させた。この時の衝突エネルギーは32kJであった。衝突体17の反対側のサイドシルの固定用治具18は、
図11に示すフロアクロスメンバ模擬部180(
図1のフロアクロスメンバ10に相当)、バッテリーケースサイドメンバ模擬部181(
図1のバッテリーケースサイドメンバ120に相当)、取付用フランジ模擬部182(
図1の取付用フランジ122に相当)によって構成されており、バッテリーケース底板模擬部182とサイドシルインナがボルト(
図1の固定用ボルト14に相当)により固定されている。なお、フロアクロスメンバ模擬部180の車両前後方向の幅W
Fは80mmとした。衝突体17は、側面視した時の衝突位置がフロアクロスメンバ部となるように衝突させた。比較例についても、
図11に準じた試験条件で衝突試験を行った。
【0069】
表1に、発明例及び比較例の試験体の各部材に使用する鋼板の強度レベルと板厚を示す。
【表1】
【0070】
図12(a)~(f)に、発明例及び比較例の試験体と試験条件を示す。
図12(a)~(f)の各図において、左側の模式図はサイドシルの車両幅方向での断面図であり、右側の模式図はサイドシルの水平断面図であって、サイドシルに対する衝突体(ポール)の衝突位置とフロアクロスメンバの位置を示している。
図12(a)に示す発明例1は、衝撃吸収構造部4において、フロアクロスメンバ模擬部180の幅内となる領域の2か所にバルクヘッド6を設け、それらバルクヘッド6どうしの間隔W
B(=
図6の間隔w1)を40mmとした。また、間隔W
Bとフロアクロスメンバ模擬部180の幅W
F(=
図6の幅wa)との比W
B/W
Fを0.50とした。また、その前後のフロアクロスメンバ模擬部180の幅外となる領域の各2箇所にバルクヘッド6を設けた。このバルクヘッド6とフロアクロスメンバ模擬部180の幅W
F内のバルクヘッド6との間隔(=
図6の間隔w2)は、間隔w1よりも大きくし、254mm以下であって、想定したフロアクロスメンバの設置間隔(隣り合うフロアクロスメンバどうしの間隔)280mmの1/2程度である139mmとした。さらに、フロアクロスメンバ模擬部180の幅外のバルクヘッド6どうしの間隔(=
図6の間隔w3)は、間隔w1と同じ40mmとした。また、車両インナ側及びアウタ側の各横仕切部材5に形成したビード7の寸法は、
図3に示す深さdを7mm、ビード断面の曲率半径Rを10mmとした。また、バルクヘッド6のフランジ幅W
BF:20mmのところ、ビード間距離W
Hを衝突体(ポール)の半径127mmの1/2以下である41mmとした。
【0071】
図12(b)に示す発明例2は、発明例1のフロアクロスメンバ模擬部180の幅外となる領域のバルクヘッド6を取り除いたものである。
図12(c)に示す比較例1は、発明例2の横仕切部材5のビード7を取り除いたものである。
図12(d)に示す比較例2は、発明例2の衝撃吸収構造部4からバルクヘッド6を取り除いたものである。
図12(e)に示す比較例3は、サイドシルの内部に縦仕切部材及びバルクヘッドを配置したものであり、フロアクロスメンバ模擬部の幅内となる領域の2箇所にバルクヘッドを配置したものである。
図12(f)に示す比較例4は、サイドシルの内部に仕切部材や衝撃吸収部材を配置せず、サイドシルのみの試験体としたものである。
【0072】
図13(a)~(e)に、発明例及び比較例について、衝突試験時のサイドシルへの衝突体(ポール)侵入量と吸収エネルギーとの関係(衝突体侵入量に対する吸収エネルギーの推移)を示す。なお、吸収エネルギーは、衝突体の速度より算出した運動エネルギーを衝突エネルギー(32kJ)から差し引いて算出した。
衝突体のストロークは最大100mmであるところ、
図13(a)に示す発明例1は、衝突体の最大侵入量100mmに到達する前(77mm)に衝突体が停止し、吸収エネルギーは32.0kJであった。また、
図13(a)に示す発明例2は、衝突体の最大侵入量100mmに到達する前(95mm)に衝突体が停止し、吸収エネルギーは32.0kJであった。
これに対して
図13(b)~(e)に示す比較例1~比較例4は、いずれも吸収エネルギー32.0kJ(発明例の吸収エネルギー)に到達する前に、衝突体の最大ストローク100mmに到達した。
図14に、発明例および比較例について、衝突体の最大侵入時の吸収エネルギーを比較して示した。また、
図15に、発明例および比較例について、衝突体の最大侵入量を比較して示した。
車両インナ側のサイドシルインナ(1a)と車両アウタ側のサイドシルアウタ(1b)で構成され、内部に閉断面空間(3)が形成されるサイドシル(1)と、該サイドシル(1)のサイドシルインナ(1a)とサイドシルアウタ(1b)間に介在する縦仕切部材(2)を備え、該縦仕切部材(2)により閉断面空間(3)が車両インナ側の閉断面空間(3a)と車両アウタ側の閉断面空間(3b)に仕切られた自動車のサイドシル構造であって、
閉断面空間(3)内に衝撃吸収構造部(4)を備え、
該衝撃吸収構造部(4)は、各閉断面空間(3a),(3b)を車両幅方向に横断して当該閉断面空間を上下に仕切る横仕切部材(5)と、該横仕切部材(5)で上下に仕切られた空間のうちの上部側空間(30a),(30b)内に車両幅方向に沿って設けられるバルクヘッド(6)で構成され、
バルクヘッド(6)は、上部側空間(30a),(30b)を車両長手方向で複数に仕切るようにして、上部側空間(30a),(30b)内に車両長手方向で間隔をおいて複数設けられ、
横仕切部材(5)には、バルクヘッド(6)間の位置に車両幅方向に沿ってビード(7)が形成され、該ビード(7)は車両長手方向で間隔をおいて複数設けられ、
車両インナ側の閉断面空間(3a)内の横仕切部材(5)及びバルクヘッド(6)と、車両アウタ側の閉断面空間(3b)内の横仕切部材(5)及びバルクヘッド(6)は、縦仕切部材(2)を挟んで車両幅方向でそれぞれ対向して設けられることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
車両インナ側の閉断面空間(3a)内の横仕切部材(5)は、車両幅方向の一端側にフランジ部(50x)を有するとともに、他端側に上向きに連成され且つ縦仕切部材(2)に沿ってサイドシル(1)の上端部まで延在したフランジ部(50y)を有し、車両幅方向の一端側のフランジ部(50x)がサイドシルインナ(1a)の内面に接合され、他端側のフランジ部(50y)の上端部が、サイドシルインナ(1a)の上端部と縦仕切部材(2)の上端部に挟まれた状態でこれらに接合され、
車両アウタ側の閉断面空間(3b)内の横仕切部材(5)は、車両幅方向の一端側にフランジ部(51x)を有するとともに、他端側に上向きに連成され且つ縦仕切部材(2)に沿ってサイドシル(1)の上端部まで延在したフランジ部(51y)を有し、車両幅方向の一端側のフランジ部(51x)がサイドシルアウタ(1b)の内面に接合され、他端側のフランジ部(51y)の上端部が、サイドシルアウタ(1b)の上端部と縦仕切部材(2)の上端部に挟まれた状態でこれらに接合されることを特徴とする請求項2に記載の自動車のサイドシル構造。
車両インナ側の閉断面空間(3a)内の横仕切部材(5)は、車両幅方向の一端側にフランジ部(52x)を有するとともに、他端側に下向きに連成され且つ縦仕切部材(2)に沿ってサイドシル(1)の下端部まで延在したフランジ部(52y)を有し、車両幅方向の一端側のフランジ部(52x)がサイドシルインナ(1a)の内面に接合され、他端側のフランジ部(52y)の下端部が、サイドシルインナ(1a)の下端部と縦仕切部材(2)の下端部に挟まれた状態でこれらに接合され、
車両アウタ側の閉断面空間(3b)内の横仕切部材(5)は、車両幅方向の一端側にフランジ部(53x)を有するとともに、他端側に下向きに連成され且つ縦仕切部材(2)に沿ってサイドシル(1)の下端部まで延在したフランジ部(53y)を有し、車両幅方向の一端側のフランジ部(53x)がサイドシルアウタ(1b)の内面に接合され、他端側のフランジ部(53y)の下端部が、サイドシルアウタ(1b)の下端部と縦仕切部材(2)の下端部に挟まれた状態でこれらに接合されることを特徴とする請求項2に記載の自動車のサイドシル構造。
車両インナ側の閉断面空間(3a)内の横仕切部材(5)は、車両幅方向の一端側および他端側にそれぞれフランジ部(54)を有し、車両幅方向の一端側のフランジ部(54)がサイドシルインナ(1a)の内面に接合され、他端側のフランジ部(54)が縦仕切部材(2)の車両インナ側の面に接合され、
車両アウタ側の閉断面空間(3b)内の横仕切部材(5)は、車両幅方向の一端側および他端側にそれぞれフランジ部(55)を有し、車両幅方向の一端側のフランジ部(55)がサイドシルアウタ(1b)の内面に接合され、他端側のフランジ部(55)が縦仕切部材(2)の車両アウタ側の面に接合されることを特徴とする請求項2に記載の自動車のサイドシル構造。
車体インナ側の上部側空間(30a)内のバルクヘッド(6)は、少なくとも、サイドシルインナ(1a)の上側の横方向面部(101A)と、横仕切部材(5)にそれぞれ接合され、
車体アウタ側の上部側空間(30b)内のバルクヘッド(6)は、少なくとも、サイドシルアウタ(1b)の縦方向面部(100)及び上側の横方向面部(101A)と、横仕切部材(5)にそれぞれ接合されることを特徴とする請求項1に記載の自動車のサイドシル構造。
衝撃吸収構造部(4)を構成する金属板は、降伏強度がフロアクロスメンバを構成する金属板の降伏強度以下であることを特徴とする請求項1に記載の自動車のサイドシル構造。
衝撃吸収構造部(4)を構成する金属板は、引張強度が780MPa級以上、又は金属板の板厚1/4位置のビッカース硬さ(HV)が250以上であることを特徴とする請求項1に記載の自動車のサイドシル構造。
衝撃吸収構造部(4)を構成する金属板は、金属板の板厚1/4位置において、フェライトを面積率で0%以上65%以下、マルテンサイトと焼戻しマルテンサイトを面積率の合計で30%以上100%以下、残留オーステナイトを面積率で0%以上15%以下含む鋼組織を有することを特徴とする請求項1に記載の自動車のサイドシル構造。
衝撃吸収構造部(4)を構成する金属板は、90°V曲げ試験を行った際に亀裂が発生しない限界曲げ半径R(mm)と金属板の板厚t(mm)がR/t≦7.0を満足することを特徴とする請求項1に記載の自動車のサイドシル構造。
車体下部両側に車両長手方向に沿って配置されるサイドシル(1)と、フロアパネル(11)上に車両幅方向に沿って配置され、両サイドシル(1)を連結するフロアクロスメンバ(10)と、該フロアクロスメンバ(10)の下側の両サイドシル(1)間に配置されるバッテリーケース(12)を備えた自動車の車体下部構造であって、
請求項1~15のいずれかに記載の自動車のサイドシル構造を備え、
バッテリーケース(12)のバッテリーケースサイドメンバ(120)とサイドシル(1)は、車両幅方向で隣接し、車両側方視で少なくとも一部が重なる位置に配置され、
横仕切部材(5)は、その水平延長上にバッテリーケースサイドメンバ(120)が位置するように設けられることを特徴とする自動車の車体下部構造。
衝撃吸収構造部(4)を構成する部材の耐力が、フロアクロスメンバ(10)およびバッテリーケースサイドメンバ(120)の耐力以下であることを特徴とする請求項16に記載の自動車の車体下部構造。
車体下部両側に車両長手方向に沿って配置されるサイドシル(1)と、フロアパネル(11)上に車両幅方向に沿って配置され、両サイドシル(1)を連結するフロアクロスメンバ(10)を備えた自動車の車体下部構造であって、
請求項1~15のいずれかに記載の自動車のサイドシル構造を備え、
横仕切部材(5)は、その水平延長上にフロアクロスメンバ(10)が位置するように設けられることを特徴とする自動車の車体下部構造。
車両インナ側のサイドシルインナ(1a)と車両アウタ側のサイドシルアウタ(1b)で構成され、内部に閉断面空間(3)が形成されるサイドシル(1)と、該サイドシル(1)のサイドシルインナ(1a)とサイドシルアウタ(1b)間に介在する縦仕切部材(2)を備え、該縦仕切部材(2)により閉断面空間(3)が車両インナ側の閉断面空間(3a)と車両アウタ側の閉断面空間(3b)に仕切られた自動車のサイドシル構造であって、
閉断面空間(3)内に衝撃吸収構造部(4)を備え、
該衝撃吸収構造部(4)は、各閉断面空間(3a),(3b)を車両幅方向に横断して当該閉断面空間を上下に仕切る横仕切部材(5)と、該横仕切部材(5)で上下に仕切られた空間のうちの上部側空間(30a),(30b)内に車両幅方向に沿って設けられるバルクヘッド(6)で構成され、
バルクヘッド(6)は、上部側空間(30a),(30b)を車両長手方向で複数に仕切るようにして、上部側空間(30a),(30b)内に車両長手方向で間隔をおいて複数設けられ、
横仕切部材(5)には、バルクヘッド(6)間の位置に車両幅方向に沿ってビード(7)が形成され、該ビード(7)は車両長手方向で間隔をおいて複数設けられ、
車両インナ側の閉断面空間(3a)内の横仕切部材(5)及びバルクヘッド(6)と、車両アウタ側の閉断面空間(3b)内の横仕切部材(5)及びバルクヘッド(6)は、縦仕切部材(2)を挟んで車両幅方向でそれぞれ対向して設けられ、
車両インナ側の閉断面空間(3a)内の横仕切部材(5)は、サイドシルインナ(1a)と縦仕切部材(2)に接合され、
車両アウタ側の閉断面空間(3b)内の横仕切部材(5)は、サイドシルアウタ(1b)と縦仕切部材(2)に接合されることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
車両インナ側のサイドシルインナ(1a)と車両アウタ側のサイドシルアウタ(1b)で構成され、内部に閉断面空間(3)が形成されるサイドシル(1)と、該サイドシル(1)のサイドシルインナ(1a)とサイドシルアウタ(1b)間に介在する縦仕切部材(2)を備え、該縦仕切部材(2)により閉断面空間(3)が車両インナ側の閉断面空間(3a)と車両アウタ側の閉断面空間(3b)に仕切られた自動車のサイドシル構造であって、
閉断面空間(3)内に衝撃吸収構造部(4)を備え、
該衝撃吸収構造部(4)は、各閉断面空間(3a),(3b)を車両幅方向に横断して当該閉断面空間を上下に仕切る横仕切部材(5)と、該横仕切部材(5)で上下に仕切られた空間のうちの上部側空間(30a),(30b)内に車両幅方向に沿って設けられるバルクヘッド(6)で構成され、
バルクヘッド(6)は、上部側空間(30a),(30b)を車両長手方向で複数に仕切るようにして、上部側空間(30a),(30b)内に車両長手方向で間隔をおいて複数設けられ、
横仕切部材(5)には、バルクヘッド(6)間の位置に車両幅方向に沿ってビード(7)が形成され、該ビード(7)は車両長手方向で間隔をおいて複数設けられ、
車両インナ側の閉断面空間(3a)内の横仕切部材(5)及びバルクヘッド(6)と、車両アウタ側の閉断面空間(3b)内の横仕切部材(5)及びバルクヘッド(6)は、縦仕切部材(2)を挟んで車両幅方向でそれぞれ対向して設けられ、
車体インナ側の上部側空間(30a)内のバルクヘッド(6)は、少なくとも、サイドシルインナ(1a)の上側の横方向面部(101A)と、横仕切部材(5)にそれぞれ接合され、
車体アウタ側の上部側空間(30b)内のバルクヘッド(6)は、少なくとも、サイドシルアウタ(1b)の縦方向面部(100)及び上側の横方向面部(101A)と、横仕切部材(5)にそれぞれ接合されることを特徴とする自動車のサイドシル構造。
車両インナ側の閉断面空間(3a)内の横仕切部材(5)は、車両幅方向の一端側にフランジ部(50x)を有するとともに、他端側に上向きに連成され且つ縦仕切部材(2)に沿ってサイドシル(1)の上端部まで延在したフランジ部(50y)を有し、車両幅方向の一端側のフランジ部(50x)がサイドシルインナ(1a)の内面に接合され、他端側のフランジ部(50y)の上端部が、サイドシルインナ(1a)の上端部と縦仕切部材(2)の上端部に挟まれた状態でこれらに接合され、
車両アウタ側の閉断面空間(3b)内の横仕切部材(5)は、車両幅方向の一端側にフランジ部(51x)を有するとともに、他端側に上向きに連成され且つ縦仕切部材(2)に沿ってサイドシル(1)の上端部まで延在したフランジ部(51y)を有し、車両幅方向の一端側のフランジ部(51x)がサイドシルアウタ(1b)の内面に接合され、他端側のフランジ部(51y)の上端部が、サイドシルアウタ(1b)の上端部と縦仕切部材(2)の上端部に挟まれた状態でこれらに接合されることを特徴とする請求項1に記載の自動車のサイドシル構造。
車両インナ側の閉断面空間(3a)内の横仕切部材(5)は、車両幅方向の一端側にフランジ部(52x)を有するとともに、他端側に下向きに連成され且つ縦仕切部材(2)に沿ってサイドシル(1)の下端部まで延在したフランジ部(52y)を有し、車両幅方向の一端側のフランジ部(52x)がサイドシルインナ(1a)の内面に接合され、他端側のフランジ部(52y)の下端部が、サイドシルインナ(1a)の下端部と縦仕切部材(2)の下端部に挟まれた状態でこれらに接合され、
車両アウタ側の閉断面空間(3b)内の横仕切部材(5)は、車両幅方向の一端側にフランジ部(53x)を有するとともに、他端側に下向きに連成され且つ縦仕切部材(2)に沿ってサイドシル(1)の下端部まで延在したフランジ部(53y)を有し、車両幅方向の一端側のフランジ部(53x)がサイドシルアウタ(1b)の内面に接合され、他端側のフランジ部(53y)の下端部が、サイドシルアウタ(1b)の下端部と縦仕切部材(2)の下端部に挟まれた状態でこれらに接合されることを特徴とする請求項1に記載の自動車のサイドシル構造。
車両インナ側の閉断面空間(3a)内の横仕切部材(5)は、車両幅方向の一端側および他端側にそれぞれフランジ部(54)を有し、車両幅方向の一端側のフランジ部(54)がサイドシルインナ(1a)の内面に接合され、他端側のフランジ部(54)が縦仕切部材(2)の車両インナ側の面に接合され、
車両アウタ側の閉断面空間(3b)内の横仕切部材(5)は、車両幅方向の一端側および他端側にそれぞれフランジ部(55)を有し、車両幅方向の一端側のフランジ部(55)がサイドシルアウタ(1b)の内面に接合され、他端側のフランジ部(55)が縦仕切部材(2)の車両アウタ側の面に接合されることを特徴とする請求項1に記載の自動車のサイドシル構造。
衝撃吸収構造部(4)を構成する金属板は、引張強度が780MPa級以上、又は金属板の板厚1/4位置のビッカース硬さ(HV)が250以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の自動車のサイドシル構造。
衝撃吸収構造部(4)を構成する金属板は、金属板の板厚1/4位置において、フェライトを面積率で0%以上65%以下、マルテンサイトと焼戻しマルテンサイトを面積率の合計で30%以上100%以下、残留オーステナイトを面積率で0%以上15%以下含む鋼組織を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の自動車のサイドシル構造。
衝撃吸収構造部(4)を構成する金属板は、90°V曲げ試験を行った際に亀裂が発生しない限界曲げ半径R(mm)と金属板の板厚t(mm)がR/t≦7.0を満足することを特徴とする請求項1又は2に記載の自動車のサイドシル構造。
車体下部両側に車両長手方向に沿って配置されるサイドシル(1)と、フロアパネル(11)上に車両幅方向に沿って配置され、両サイドシル(1)を連結するフロアクロスメンバ(10)と、該フロアクロスメンバ(10)の下側の両サイドシル(1)間に配置されるバッテリーケース(12)を備えた自動車の車体下部構造であって、
請求項1~5のいずれかに記載の自動車のサイドシル構造を備え、
バッテリーケース(12)のバッテリーケースサイドメンバ(120)とサイドシル(1)は、車両幅方向で隣接し、車両側方視で少なくとも一部が重なる位置に配置され、
横仕切部材(5)は、その水平延長上にバッテリーケースサイドメンバ(120)が位置するように設けられることを特徴とする自動車の車体下部構造。
車体下部両側に車両長手方向に沿って配置されるサイドシル(1)と、フロアパネル(11)上に車両幅方向に沿って配置され、両サイドシル(1)を連結するフロアクロスメンバ(10)を備えた自動車の車体下部構造であって、
請求項1~5のいずれかに記載の自動車のサイドシル構造を備え、
横仕切部材(5)は、その水平延長上にフロアクロスメンバ(10)が位置するように設けられることを特徴とする自動車の車体下部構造。