IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社豊田自動織機の特許一覧

特開2024-11691電極シートの製造方法および電極シートの製造装置
<>
  • 特開-電極シートの製造方法および電極シートの製造装置 図1
  • 特開-電極シートの製造方法および電極シートの製造装置 図2
  • 特開-電極シートの製造方法および電極シートの製造装置 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011691
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】電極シートの製造方法および電極シートの製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20240118BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240118BHJP
【FI】
H01M4/04 Z
H01M4/139
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113909
(22)【出願日】2022-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 健吾
(72)【発明者】
【氏名】志村 陽祐
(72)【発明者】
【氏名】召田 智也
(72)【発明者】
【氏名】近藤 悠史
(72)【発明者】
【氏名】近藤 剛司
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA14
5H050AA19
5H050BA17
5H050GA02
5H050GA22
5H050GA28
5H050GA29
5H050HA03
5H050HA12
(57)【要約】      (修正有)
【課題】電極層と集電シートとの間の剥離強度の低下を抑制可能な電極シートの製造方法を提供する。
【解決手段】集電シート1上に、塗工部2a、2bと未塗工部3aとが交互に配置された塗工シートを準備する工程と、塗工シートを搬送しながら、塗工シートに複数のレーザヘッドL1、L2からレーザ光を照射して塗工部を乾燥させる工程とを有し、乾燥工程において、塗工シートの塗工部または未塗工部の位置を検知しながら、各レーザヘッドから照射されるレーザ光を、下記(i)のときにONからOFFに、下記(ii)のときにOFFからONに切り替えることにより制御する電極シートの製造方法。
(i)レーザ光照射領域の幅に対する、レーザ光照射領域に入った未塗工部の幅の割合が、20%以上、80%以下を満たすとき
(ii)レーザ光照射予定領域の幅に対する、レーザ光照射予定領域に入った塗工部の幅の割合が、20%以上、80%以下を満たすとき
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に長手方向を有する集電シートの第1面上に、電極材料が塗工された塗工部と、前記電極材料が塗工されていない未塗工部と、が前記第1方向に沿って交互に配置された塗工シートを準備する準備工程と、
前記塗工シートを前記第1方向に搬送しながら、前記塗工シートに複数のレーザヘッドからレーザ光を照射することにより、前記塗工部を乾燥させる乾燥工程と、を有し、
前記乾燥工程において、前記塗工シートの前記塗工部または前記未塗工部の位置を検知しながら、前記各レーザヘッドから照射されるレーザ光を、下記(i)のときにONからOFFに切り替え、かつ、下記(ii)のときにOFFからONに切り替えることにより制御する、電極シートの製造方法。
(i)前記第1方向におけるレーザ光照射領域の幅に対する、前記レーザ光照射領域に入った前記未塗工部の幅の割合が、20%以上、80%以下を満たすとき
(ii)前記第1方向におけるレーザ光照射予定領域の幅に対する、前記レーザ光照射予定領域に入った前記塗工部の幅の割合が、20%以上、80%以下を満たすとき
【請求項2】
前記乾燥工程において、レーザ変位計または画像検査装置により、前記塗工シートの前記塗工部または前記未塗工部の位置を検知する、請求項1に記載の電極シートの製造方法。
【請求項3】
前記レーザ光照射領域の幅および前記レーザ光照射予定領域の幅が、10cm以上、40cm以下となるように前記レーザ光を照射する、請求項1または請求項2に記載の電極シートの製造方法。
【請求項4】
第1方向に長手方向を有する集電シートの第1面上に、電極材料が塗工された塗工部と、前記電極材料が塗工されていない未塗工部と、が前記第1方向に沿って交互に配置された塗工シートを乾燥させて電極シートを製造する電極シートの製造装置であって、
前記塗工シートを前記第1方向に搬送するための搬送機と、
前記塗工シートにレーザ光を照射する複数のレーザヘッドを備えるレーザ光照射機と、
前記塗工シートの前記塗工部または前記未塗工部の位置を検知する位置検知器と、
前記位置検知器により取得する位置情報に基づき、前記各レーザヘッドから照射されるレーザ光を、下記(i)のときにONからOFFに切り替え、かつ、下記(ii)のときにOFFからONに切り替えるように前記レーザ光照射機を制御する制御装置と、を備える電極シートの製造装置。
(i)前記第1方向におけるレーザ光照射領域の幅に対する、前記レーザ光照射領域に入った前記未塗工部の幅の割合が、20%以上、80%以下を満たすとき
(ii)前記第1方向におけるレーザ光照射予定領域の幅に対する、前記レーザ光照射予定領域に入った前記塗工部の幅の割合が、20%以上、80%以下を満たすとき
【請求項5】
前記位置検知器は、レーザ変位計または画像検査装置である、請求項4に記載の電極シートの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極シートの製造方法および電極シートの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の電池の製造に用いられる電極シートの製造方法に関する技術として、搬送される集電体シートに対し、電極材料を塗布して塗工部を形成し、塗工部を乾燥して電極層を得る方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、搬送される長尺金属箔に対して活物質合剤を塗布し、活物質合剤の塗工部を形成する塗布工程と、塗布工程よりも前に実行され、長尺金属箔の短手方向に沿った合剤塗布場所の両端部よりも長尺金属箔の搬送方向上流側に位置する長尺金属箔の照射位置に対してレーザを照射する第1照射工程と、第1照射工程の後に実行され、塗布工程によって形成された塗工部において短手方向の両縁部にレーザを照射する第2照射工程と、第2照射工程よりも後に実行され、塗工部を乾燥する乾燥工程と、を備えていることを特徴とする電極の製造方法が開示されている。また、特許文献1には、塗工部を間欠塗工で長尺金属箔に形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-029256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
搬送される集電シート上に、電極材料の塗工部を間欠塗工で形成する場合には、電極材料が塗工された塗工部と、電極材料が塗工されていない未塗工部とが、搬送方向に沿って交互に形成された塗工シートが得られる。電極材料の塗工部の端部は、塗工部の中心部と比べて、塗膜の状態が異なる場合がある。例えば、塗工部の端部の厚さは、塗工部の中心部の厚さと比べて薄くなる傾向にある。電極材料の塗工部を間欠塗工で形成する場合には、このような塗工部の端部と塗工部の中心部との厚さの違いによる影響が顕著になる。
【0006】
電極材料の乾燥方法として、ランプを熱源として利用する方法がある。ランプは拡散熱源のため、塗工シートの表面を均一に照射する。そのため、ランプによる照射では、塗工部の端部が過度に乾燥されやすく、塗工部の端部近傍の集電シートが高温となり、電極層と集電シートとの間の剥離強度が低下しやすい。また、ランプの起動時間が数秒~数十秒かかるため、間欠的に配置された塗工部の位置によって、ランプのON/OFFを制御することは困難である。
【0007】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、電極層と集電シートとの間の剥離強度の低下を抑制することが可能な電極シートの製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]
第1方向に長手方向を有する集電シートの第1面上に、電極材料が塗工された塗工部と、上記電極材料が塗工されていない未塗工部と、が上記第1方向に沿って交互に配置された塗工シートを準備する準備工程と、
上記塗工シートを上記第1方向に搬送しながら、上記塗工シートに複数のレーザヘッドからレーザ光を照射することにより、上記塗工部を乾燥させる乾燥工程と、を有し、
上記乾燥工程において、上記塗工シートの上記塗工部または上記未塗工部の位置を検知しながら、上記各レーザヘッドから照射されるレーザ光を、下記(i)のときにONからOFFに切り替え、かつ、下記(ii)のときにOFFからONに切り替えることにより制御する、電極シートの製造方法。
(i)上記第1方向におけるレーザ光照射領域の幅に対する、上記レーザ光照射領域に入った上記未塗工部の幅の割合が、20%以上、80%以下を満たすとき
(ii)上記第1方向におけるレーザ光照射予定領域の幅に対する、上記レーザ光照射予定領域に入った上記塗工部の幅の割合が、20%以上、80%以下を満たすとき
【0009】
[2]
上記乾燥工程において、レーザ変位計または画像検査装置により、上記塗工シートの上記塗工部または上記未塗工部の位置を検知する、[1]に記載の電極シートの製造方法。
【0010】
[3]
上記レーザ光照射領域の幅および上記レーザ光照射予定領域の幅が、10cm以上、40cm以下となるように上記レーザ光を照射する、[1]または[2]に記載の電極シートの製造方法。
【0011】
[4]
第1方向に長手方向を有する集電シートの第1面上に、電極材料が塗工された塗工部と、上記電極材料が塗工されていない未塗工部と、が上記第1方向に沿って交互に配置された塗工シートを乾燥させて電極シートを製造する電極シートの製造装置であって、
上記塗工シートを上記第1方向に搬送するための搬送機と、
上記塗工シートにレーザ光を照射する複数のレーザヘッドを備えるレーザ光照射機と、
上記塗工シートの上記塗工部または上記未塗工部の位置を検知する位置検知器と、
上記位置検知器により取得する位置情報に基づき、上記各レーザヘッドから照射されるレーザ光を、下記(i)のときにONからOFFに切り替え、かつ、下記(ii)のときにOFFからONに切り替えるように上記レーザ光照射機を制御する制御装置と、を備える電極シートの製造装置。
(i)上記第1方向におけるレーザ光照射領域の幅に対する、上記レーザ光照射領域に入った上記未塗工部の幅の割合が、20%以上、80%以下を満たすとき
(ii)上記第1方向におけるレーザ光照射予定領域の幅に対する、上記レーザ光照射予定領域に入った上記塗工部の幅の割合が、20%以上、80%以下を満たすとき
【0012】
[5]
上記位置検知器は、レーザ変位計または画像検査装置である、[4]に記載の電極シートの製造装置。
【発明の効果】
【0013】
本開示における電極シートの製造方法によれば、電極層と集電シートとの間の剥離強度の低下が抑制された電極シートを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本開示における塗工シートを例示する概略平面図および概略断面図である。
図2】本開示における乾燥工程を説明する概略断面図である。
図3】本開示における電極シートを例示する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示における、電極シートの製造方法および電極シートの製造装置について、図面を用いて詳細に説明する。以下に示す各図は、模式的に示したものであり、各部の大きさ、形状は、理解を容易にするために、適宜誇張している。また、本明細書において、ある部材に対して他の部材を配置する態様を表現するにあたり、単に「上に」または「下に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある部材に接するように、直上または直下に他の部材を配置する場合と、ある部材の上方または下方に、別の部材を介して他の部材を配置する場合との両方を含む。
【0016】
A.電極シートの製造方法
図1(a)は、本開示における準備工程で準備する塗工シートを例示する概略平面図であり、図1(b)は図1(a)のA-A断面図である。図1(a)、(b)に示すように、塗工シート10は、第1方向D1に長手方向を有する集電シート1の第1面S1上に、電極材料が塗工された塗工部2と、電極材料が塗工されていない未塗工部3とが第1方向D1に方向に沿って交互に配置されている。
【0017】
図2は、本開示における乾燥工程を例示する概略断面図である。図2に示すように、乾燥工程では、塗工シート10を第1方向D1に搬送しながら、塗工シート10に複数のレーザヘッドL1,L2から熱源としてのレーザ光を照射する。これにより、塗工部2を乾燥し、電極層を得る。乾燥工程においては、塗工シート10の塗工部2または未塗工部3の位置を位置検知器Zにより検知しながら、各レーザヘッドから照射されるレーザ光を、(i)第1方向D1におけるレーザ光照射領域の幅Wに対する、レーザ光照射領域に入った未塗工部3の幅Wαの割合が、20%以上、80%以下を満たすときに、ONからOFFに切り替える(図2(a)および図2(b))。さらに、各レーザヘッドから照射されるレーザ光を、(ii)第1方向D1におけるレーザ光照射予定領域の幅Wに対する、レーザ光照射予定領域に入った塗工部2の幅Wβの割合が、20%以上、80%以下を満たすときに、レーザ光をOFFからONに切り替える(図2(c)および図2(d))。
【0018】
本開示によれば、塗工シートの乾燥工程において、塗工部または未塗工部の位置を検知しながら、各レーザヘッドから照射されるレーザ光を、所定の範囲を満たすタイミングでONからOFFに切り替え、かつ、所定の範囲を満たすタイミングでOFFからONに切り替えることにより、塗工部の乾燥不足を抑制しつつ、塗工部の端部の過乾燥を抑制することができる。従って、塗工部の端部近傍の集電シートが高温となることを抑制でき、電極層と集電シートとの間の剥離強度の低下が抑制された電極シートを製造することができる。また、集電シートが高温となることによって生じる酸化を抑制することができる。
【0019】
1.準備工程
本開示における準備工程は、図1に示すように、第1方向D1に長手方向を有する集電シートの第1面S1上に、電極材料が塗工された塗工部2と、電極材料が塗工されていない未塗工部3と、が第1方向D1に沿って交互に配置された塗工シートを準備する工程である。
【0020】
集電シートは、第1方向に長手方向を有する。集電シートは、厚み方向における一方の面である第1面S1と、第1面S1の裏面である第2面S2とを有している。集電シートは、負極集電体、正極集電体、バイポーラ集電体等の集電体として用いられることが好ましい。集電シートとしては、例えば、アルミニウム、銅、SUS、ニッケル等の金属箔が用いられる。集電シートの厚さとしては、例えば、0.1μm以上であり、1μm以上であってもよい。一方、集電シートの厚さは、例えば、1mm以下であり、100μm以下であってもよい。
【0021】
電極材料は、負極材料(負極活物質層の材料)であってもよい。負極材料は、例えば、負極活物質、導電材、バインダ、及び溶媒を含む。また、電極材料は、正極材料(正極活物質層の材料)であってもよい。正極材料は、例えば、正極活物質、導電材、バインダ、及び溶媒を含む。これらの材料としては、特に限定されず、公知の材料が用いられる。
【0022】
塗工シートの準備方法は特に限定されないが、例えば、搬送機により第1方向に集電シートを搬送しつつ、塗工機により集電シートの第1面に電極材料を間欠塗工することによって作製することができる。また、塗工機は搬送方向(第1方向)における後述する位置検知器およびレーザ光照射機よりも上流側に配置され、本工程と後述する乾燥工程とを連続して行うことが好ましい。
【0023】
2.乾燥工程
本開示における乾燥工程は、塗工シートを第1方向に搬送しながら、塗工シートに複数のレーザヘッドからレーザ光を照射することにより、上記塗工部を乾燥させる工程である。
【0024】
乾燥工程において、塗工シートは第1方向、すなわち、塗工シートの長手方向に搬送される。例えば、図2(a)~(d)においては、図面左側から図面右側に向けて搬送される。塗工シートの搬送速度は、例えば、一定である。塗工シート10を搬送し、複数のレーザヘッドL1、L2の下方を通過させることで、各々のレーザヘッドL1、L2から熱源としてのレーザ光が塗工シート10に照射される。
【0025】
複数のレーザヘッドは、搬送される塗工シートの上方に、第1方向に沿って間隔を空けて並んで配置されていることが好ましい。上記間隔(隣接するレーザヘッド間の距離)は、同じであっても、異なっていてもよい。レーザヘッドは、通常、所定の曲率を有する光学レンズ(図示せず)を内蔵している。また、レーザヘッドは、レーザ発振器(図示せず)から発振されて、光学レンズを介すことで、レーザ光を塗工シートに向けて照射する。
【0026】
本工程においては、位置検知器により塗工シートの塗工部および未塗工部の位置を検知しながら、レーザ光のON/OFFの切り替えを所定のタイミングで行う。塗工シートの塗工部または未塗工部の位置を検知する位置検知器としては、レーザ変位計および画像検査装置が挙げられる。
【0027】
本工程におけるレーザ光のON/OFFのタイミングについて、図2中のレーザヘッドL1の下方を塗工部2a、2bおよび未塗工部3aが通過する場合を例にして説明する。図2(a)および図2(b)に示すように、レーザヘッドL1のレーザ光照射領域の幅Wに対する、レーザ光照射領域に入った未塗工部3aの幅Wαの割合が、20%以上、80%以下を満たすときに、レーザヘッドL1から照射されるレーザ光をONからOFFに切り替える。なお、レーザ光照射領域とは、レーザ光の集電シート上での照射領域(レーザスポット)である。また、上記「レーザ光照射領域に入った未塗工部3aの幅Wα」は、例えば、塗工シートの搬送速度と、位置検知器Zにより未塗工部3aの端部を検知してからの経過時間と、を考慮することにより、求めることができる。
【0028】
このように、上記割合(Wα/W)が所定の値以上となるタイミングでレーザ光をOFFに切り替えることにより、塗工部2bを十分に乾燥させることができる。一方、上記割合(Wα/W)が所定の値以下となるタイミングでレーザ光をOFFに切り替えることにより、例えば、レーザ光照射領域から塗工部2bの終端部Eが出ていくタイミングよりも早くレーザ光をOFFに切り替えることができ、塗工部2bの終端部Eに対するレーザ光照射を短時間とすることができる。これにより、塗工部2bの終端部Eにおいて、過度なレーザ照射による過乾燥を抑制できる。また、塗工部2bの終端部Eは、余熱により十分な乾燥を行うことができる。なお、塗工部の終端部とは、塗工部の搬送方向(第1方向)の上流側の端部である。
【0029】
また、本工程においては、図2(c)および図2(d)に示すように、第1方向D1における、レーザヘッドL1のレーザ光照射予定領域の幅Wに対する、レーザ光照射予定領域に入った塗工部2aの幅Wβの割合が、20%以上、80%以下を満たすときに、レーザ光をOFFからONに切り替える。なお、レーザ光照射予定領域とは、レーザ光の集電シート上での照射予定領域(レーザスポット)であり、通常、レーザ光照射領域と同様の幅を有する。また、上記「レーザ光照射予定領域に入った塗工部の幅Wβ」は、すなわち、仮にレーザ光がON状態であれば、レーザ光が照射されている塗工部の幅である。これは、例えば、塗工シートの搬送速度と、位置検知器Zにより塗工部の端部を検知してからの経過時間と、を考慮することにより、求めることができる。
【0030】
このように、上記割合(Wβ/W)が所定の値以上となるタイミングでレーザ光をONに切り替えることにより、例えば、レーザ光照射予定領域に塗工部2aの始端部Eが入るタイミングよりも遅くレーザ光をONに切り替えるため、塗工部2aの始端部Eに対するレーザ光照射を短時間とすることができる。これにより、塗工部2aの始端部Eにおいて、過度なレーザ照射による過乾燥を抑制できる。一方、上記割合(Wβ/W)が所定の値以下となるタイミングでレーザ光をONに切り替えることにより、塗工部を十分に乾燥させることができる。
【0031】
図1(a)に示すように、第1方向Dにおいて、塗工部2の幅をWとし、未塗工部3の幅をWとする。第1方向における塗工部2の幅Wに対する、レーザ光照射領域の幅Wの割合(W/W)(%)は、例えば1%以上であり、20%以上であってもよい。一方、上記割合(W/W)(%)は、例えば100%以下であり、80%以下であってもよい。
【0032】
また、第1方向における未塗工部3の幅Wに対する、レーザ光照射領域の幅Wの割合(W/W)(%)は、例えば0.1%以上であり、10%以上であってもよい。一方、上記割合(W/W)(%)は、例えば60%以下あり、50%以下であってもよい。
【0033】
第1方向におけるレーザ光照射領域の幅Wおよびレーザ光照射予定領域の幅Wは、例えば5cm以上であり、10cm以上であってもよく、20cm以上であってもよい。一方、Wは、例えば50cm以下であり、40cm以下であってもよい。
【0034】
レーザヘッドから塗工シートに照射されるレーザ光のエネルギー密度は、例えば、0.1W/cm以上であり、0.2W/cm以上であってもよい。一方、上記エネルギー密度は、例えば、1.0W/cm以下であり、0.5W/cm以下であってもよい。
【0035】
3.その他工程
本開示における電極シートの製造方法は、集電シートの第2面上に、電極材料が塗工された塗工部と、電極材料が塗工されていない未塗工部とを、第1方向に沿って交互に形成する塗工工程を有していてもよい。この場合、平面視上、第1面上の塗工部と重複する位置に第2面上の塗工部を形成することが好ましい。さらに、塗工工程後に、第2面上の塗工部を乾燥するための乾燥工程を有していてもよい。この場合、集電シートの第2面側についても、第1面側と同様に、レーザ光を照射することが好ましい。
【0036】
本開示における電極シートの製造方法は、電極シートを厚み方向に加圧する加圧工程を有していてもよい。加圧工程により、電極層が集電シートに圧接する。
【0037】
4.電極シート
図3は本開示において製造される電極シートの一例を示す概略断面図である。図3(a)に示すように、電極シート20は、集電シート1と、集電シート1の第1面S1上に間欠的に形成された電極層4と、を有するものである。また、電極シート20は、集電シート1の第2面S2上に間欠的に形成された電極層5を有していてもよい。すなわち、図3(b)に示すように、電極シートは、集電シートの第1面および第2面の両面上に電極層4、5を有するものであってもよい。
【0038】
このような電極シートは、電池の製造に用いられ、正極側の電極シートであってもよく、負極側の電極シートであってもよい。本開示における電極シートが正極側の電極シートの場合、負極側の電極シートおよびセパレータと組み合わされて、電極体を形成する。同様に、本開示における電極シートが負極側の電極シートの場合、正極側の電極シートおよびセパレータと組み合わされて、電極体を形成する。また、図3(a)に示す電極層4は、正極活物質層であってもよく、負極活物質層であってもよい。図3(b)に示す電極層4および電極層5は、ともに正極活物質層であってもよく、ともに負極活物質層であってもよく、一方が正極活物質層であり他方が負極活物質層であってもよい。
【0039】
電極体が用いられる電池の種類は特に限定されないが、例えば、リチウムイオン二次電池が挙げられる。電池の用途としては、例えば、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(BEV)、ガソリン自動車、ディーゼル自動車等の車両の電源が挙げられる。特に、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)または電気自動車(BEV)の駆動用電源に用いられることが好ましい。また、電池は、車両以外の移動体(例えば、鉄道、船舶、航空機)の電源として用いられてもよく、情報処理装置等の電気製品の電源として用いられてもよい。
【0040】
B.電極シートの製造装置
本開示における電極シートの製造装置は、第1方向に長手方向を有する集電シートの第1面上に、電極材料が塗工された塗工部と、上記電極材料が塗工されていない未塗工部と、が上記第1方向に沿って交互に配置された塗工シートを乾燥させて電極シートを製造する電極シートの製造装置であって、上記塗工シートを上記第1方向に搬送するための搬送機と、上記塗工シートにレーザ光を照射する複数のレーザヘッドを備えるレーザ光照射機と、上記塗工シートの上記塗工部または上記未塗工部の位置を検知する位置検知器と、上記位置検知器により取得する位置情報に基づき、上記各レーザヘッドから照射されるレーザ光を、下記(i)のときにONからOFFに切り替え、かつ、下記(ii)のときにOFFからONに切り替えるように上記レーザ光照射機を制御する制御装置と、を備える。
(i)上記第1方向におけるレーザ光照射領域の幅に対する、上記レーザ光照射領域に入った上記未塗工部の幅の割合が、20%以上、80%以下を満たすとき
(ii)上記第1方向におけるレーザ光照射予定領域の幅に対する、上記レーザ光照射予定領域に入った上記塗工部の幅の割合が、20%以上、80%以下を満たすとき
【0041】
本開示における電極シートの製造装置によれば、電極層と集電シートとの間の剥離強度の低下が抑制された電極シートを製造することができる。
【0042】
本開示における搬送機は、塗工シートを搬送することが可能であれば特に限定されず、例えば、搬送ローラが挙げられる。レーザ光照射機は、上述したレーザヘッドを複数備える。レーザ光照射機に含まれるレーザヘッドの数は、例えば、2個以上であってもよいし、5個以上であってもよいし、10個以上であってもよい。更に、レーザ光照射機はレーザ発振器を備えていてもよい。位置検知器としては、例えば、レーザ変位計および画像検査装置が挙げられる。位置検知器は搬送方向(第1方向)においてレーザ光照射機よりも上流側に配置されることが好ましい。
【0043】
制御装置は、位置検知器により取得する塗工部または未塗工部の位置情報に基づき、各レーザヘッドから照射されるレーザ光を、上記(i)のときにONからOFFに切り替え、かつ、上記(ii)のときにOFFからONに切り替えるようにレーザ光照射機を制御する。切り替えのタイミングについては、上記で詳述したため、ここでの説明は省略する。
【実施例0044】
以下、実施例および比較例を示し、本開示をさらに説明する。
【0045】
(実施例1)
(塗工シート準備工程)
第1方向に長手方向を有する銅箔シートの第1面上に、負極活物質(黒鉛)、バインダ(スチレンブタジエンゴム)、導電材(カーボンナノチューブ)および増粘剤(カルボキシメチルセルロース)を含む負極材料を第1方向に沿って間欠的に塗工した。これにより、銅箔シートの第1面上に、負極材料が塗工された塗工部と、負極材料が塗工されていない未塗工部とが第1方向に沿って交互に配置された塗工シートを準備した。
【0046】
(乾燥工程)
次いで、塗工シートを搬送し、複数のレーザヘッドの下方を通過させることによりレーザ光を照射した。この際、レーザ変位計で塗工シートの塗工部端部を検知して得られる位置情報を基に、各レーザヘッドからのレーザ光のON⇒OFFの切り替えおよびOFF⇒ONの切り替えのタイミングを、表1に示すWα/WおよびWβ/Wとなるように制御した。また、レーザ光のエネルギー密度および照射幅は表1に示す値となるように設定した。具体的には、各レーザヘッドにおいて、第1方向におけるレーザ光照射領域の幅Wに対する、レーザ光照射領域に入った未塗工部の幅Wαの割合Wα/Wが20%となるタイミングで、レーザ光をONからOFFに切り替え、第1方向におけるレーザ光照射予定領域の幅Wに対する、レーザ光照射予定領域に入った塗工部の幅Wβの割合Wβ/Wが、20%のタイミングでレーザ光をOFFからONに切り替えた。
【0047】
(実施例2~8、比較例1~7)
乾燥工程において、レーザ光のエネルギー密度、照射幅、ONからOFFに切り替えるタイミング(上記割合Wα/W)、OFFからONに切り替えるタイミング(上記割合Wβ/W)を、表1に示す値とした以外は、実施例1と同様の方法で電極シートを製造した。
【0048】
[評価]
(剥離強度の測定)
上記で得られた電極シートを用い、「JIS K 6854-1(接着剤-はく離接着強さ試験方法-第1部:90度はく離)」に準拠した方法により、電極層が銅箔シートから剥離された際の剥離強度を測定した。0.12N/cm以上の場合をOK、0.12N/cm未満の場合をNGとして評価した。
【0049】
(集電シートの温度測定)
上記で得られた電極シートの集電シートの温度を測定し、150℃以上の場合にNG、150℃未満の場合をOKとして評価した。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示すように、レーザ光照射領域の幅Wに対する、レーザ光照射領域に入った未塗工部の幅Wαの割合Wα/Wが20%以上、80%以下の間にレーザ光をONからOFFに切り替え、かつ、レーザ光照射予定領域の幅Wに対する、レーザ光照射予定領域に入った塗工部の幅の割合Wβ/Wが、20%以上、80%以下の間にレーザ光をOFFからONに切り替えることにより、集電シートの塗工部の端部近傍の温度上昇を抑制することができ、剥離強度の低減を抑制できることが確認された(実施例1~8)。
【0052】
一方、比較例1では、塗工部の始端部において照射時間が長く過乾燥となり、剥離強度が低下した。また、比較例2は塗工部の始端部において、比較例3は塗工部の終端部において、レーザ光照射時間が短いため、乾燥不足となり、剥離強度が低下した。比較例4では、塗工部の終端部において照射時間が長く過乾燥となり、剥離強度が低下した。比較例5では、塗工部の始端部において照射時間が長く過乾燥となり、剥離強度が低下した。比較例6は塗工部の始端部において、レーザ光照射時間が短いため、乾燥不足となり、剥離強度が低下した。比較例7は、塗工部の始端部において照射時間が長く過乾燥となり、剥離強度が低下した。
【0053】
本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0054】
1 …集電シート
2 …塗工部
3 …未塗工部
10…塗工シート
20…電極シート
図1
図2
図3