(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116916
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】障害物検知装置及び障害物検知方法
(51)【国際特許分類】
B61L 23/00 20060101AFI20240821BHJP
【FI】
B61L23/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022791
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001292
【氏名又は名称】株式会社京三製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】関口 正宏
(72)【発明者】
【氏名】早田 有利
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】福原 健司
(72)【発明者】
【氏名】梅津 篤
【テーマコード(参考)】
5H161
【Fターム(参考)】
5H161AA01
5H161MM05
5H161MM14
5H161NN01
(57)【要約】
【課題】過剰通知を防止しつつ、適切に踏切障害物を検知することができる技術の実現。
【解決手段】障害物検知装置1は、踏切道10に存在する物体の位置を検知可能なセンサ16による検知対象領域20を道路通行方向に沿って異なる数(「1」の場合は分割しないことを示す)の検知エリアに分割する際の複数のエリア設定を記憶し、踏切保安設備12による警報の鳴動開始から鳴動停止までの間にエリア設定を切り替え、切り替えられたエリア設定に基づく検知エリア毎に、当該検知エリアに物体が存在する状態が所与の閾値時間継続したか否かをセンサ16の検知結果に基づいて判定し、その判定結果に基づいて、特殊信号発光機18への発報信号の出力といった所定の外部通知を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
踏切保安設備が設備された踏切道に物体が存在する場合に少なくとも道路通行方向に沿った当該物体の位置を検知可能な所定の検知手段の検知結果に基づいて踏切障害物を検知する障害物検知装置であって、
前記検知手段による検知対象領域を、前記道路通行方向に沿って異なる数(「1」の場合は分割しないことを示す)の検知エリアに分割する際の複数のエリア設定を記憶する記憶手段と、
前記踏切保安設備による警報の鳴動開始から鳴動停止までの間に、前記記憶手段に記憶されたエリア設定を切り替えるエリア設定切替制御手段と、
前記エリア設定切替制御手段により切り替えられたエリア設定に基づく前記検知エリア毎に、当該検知エリアに物体が存在する状態が所与の閾値時間継続したか否かを、前記検知手段の検知結果に基づいて判定する判定手段と、
前記判定手段の判定結果に基づいて所定の外部通知を行う外部通知制御手段と、
を備える障害物検知装置。
【請求項2】
前記記憶手段は、前記検知エリアの数が異なる少なくとも3つのエリア設定を記憶し、
前記エリア設定切替制御手段は、警報の鳴動開始から鳴動停止までを少なくとも3つの期間に分け、各期間に応じてエリア設定を切り替える、
請求項1に記載の障害物検知装置。
【請求項3】
前記エリア設定切替制御手段は、警報の鳴動開始直後の期間のエリア設定を、他の期間よりも前記検知エリアの数が多いエリア設定に切り替える、
請求項1に記載の障害物検知装置。
【請求項4】
前記複数のエリア設定には、N種類(N≧2)の検知エリアを混在させて前記道路通行方向に沿ってM個以上(M>N)配置することで前記検知対象領域を分割した多種混在エリア設定が含まれており、
前記エリア設定切替制御手段は、警報の鳴動開始直後の期間のエリア設定を前記多種混在エリア設定とする、
請求項1~3の何れか一項に記載の障害物検知装置。
【請求項5】
前記複数のエリア設定には、前記検知対象領域を単一の検知エリアとする単一エリア設定が含まれており、
前記エリア設定切替制御手段は、踏切遮断機による遮断完了から鳴動停止までの間の少なくとも一部の期間のエリア設定を前記単一エリア設定とする、
請求項4に記載の障害物検知装置。
【請求項6】
前記記憶手段は、前記エリア設定毎に当該エリア設定に係る検知エリアの前記閾値時間の設定を記憶しており、前記多種混在エリア設定については検知エリアの前記種類毎に前記閾値時間の設定を記憶する、
請求項4に記載の障害物検知装置。
【請求項7】
踏切保安設備が設備された踏切道に物体が存在する場合に少なくとも道路通行方向に沿った当該物体の位置を検知可能な所定の検知手段の検知結果に基づいて踏切障害物を検知するための障害物検知方法であって、
前記検知手段による検知対象領域を、前記道路通行方向に沿って異なる数(「1」の場合は分割しないことを示す)の検知エリアに分割する際の複数のエリア設定を記憶することと、
前記踏切保安設備による警報の鳴動開始から鳴動停止までの間に、前記記憶されたエリア設定を切り替えることと、
前記切り替えによる現在のエリア設定に基づく前記検知エリア毎に、当該検知エリアに物体が存在する状態が所与の閾値時間継続したか否かを、前記検知手段の検知結果に基づいて判定することと、
前記判定の結果に基づいて所定の外部通知を行う制御をすることと、
を含む障害物検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、踏切障害物を検知する障害物検知装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
踏切道における人や車両などの踏切障害物を検知する障害物検知装置として、投光器・受光器間で光を投受光する光電式や、ループコイルを埋設するループコイル式、撮影画像を画像解析する画像式、放射したレーザ光の反射光を受光するレーザレーダ式(例えば、特許文献1参照)といった各種の検知方式のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
障害物検知装置は、鳴動開始から鳴動停止するまでの間に踏切障害物を検知すると、踏切道に接近する列車や当該列車の乗務員に報知するために、特殊信号発光機を作動させる信号を外部へ通知したり(特殊信号発光機の作動と合わせて特発発報などと呼ばれる場合がある)、停止信号を現示するための信号を外部へ通知する等の制御を行う。しかし、踏切道に存在する何らかの物体を検知して直ちに通知することとすると、近年の検知精度の向上とも相まって、不必要な通知をしてしまう過剰通知という不都合が生じる場合があった。例えば、鳴動開始の直後に踏切道に存在していた人や車両が、遮断完了前までに踏切道を渡りきるケースでは過剰通知が行われる場合があった。これに対処するための仕組みとして、何らかの物体を一定時間以上継続して検知した場合に踏切障害物を検知したとして外部へ通知する仕組みが知られている。
【0005】
しかしながら、踏切障害物を検知したと判定するための物体の継続的な検知時間の閾値を一律に決定しようとすると問題が生じる場合があった。具体的には、踏切道の道路通行方向の距離などを考慮して継続的な検知時間の閾値を定める方法が考えられるが、踏切道の道路通行方向の距離が長いからといって過大な閾値を設定した場合には、踏切障害物を検知するまでの時間が長くなる。この場合、例えば車両が立ち往生して通知が必要なケースでの通知タイミングが遅くなって安全性が低下する問題がある。他方、踏切道の道路通行方向の距離が短いからといって過小な閾値を設定した場合には、上述の過剰通知が頻発するおそれがある。すなわち、閾値を適切に定めることが困難なケースが往々にしてある。なお、特許文献1に記載があるように、検知した物体それぞれを識別して追跡する手法も考えられるが、処理が複雑となり、高速なCPU(Central Processing Unit)等の高性能な演算回路が必要となる。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、過剰通知を防止しつつ、適切に踏切障害物を検知することができる技術を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第1の発明は、
踏切保安設備が設備された踏切道に物体が存在する場合に少なくとも道路通行方向に沿った当該物体の位置を検知可能な所定の検知手段(例えば、
図1のセンサ16)の検知結果に基づいて踏切障害物を検知する障害物検知装置であって、
前記検知手段による検知対象領域を、前記道路通行方向に沿って異なる数(「1」の場合は分割しないことを示す)の検知エリアに分割する際の複数のエリア設定を記憶する記憶手段(例えば、
図3のエリア設定データ310)と、
前記踏切保安設備による警報の鳴動開始から鳴動停止までの間に、前記記憶手段に記憶されたエリア設定を切り替えるエリア設定切替制御手段(例えば、
図3のエリア設定切替制御部202)と、
前記エリア設定切替制御手段により切り替えられたエリア設定に基づく前記検知エリア毎に、当該検知エリアに物体が存在する状態が所与の閾値時間継続したか否かを、前記検知手段の検知結果に基づいて判定する判定手段(例えば、
図3の判定部204)と、
前記判定手段の判定結果に基づいて所定の外部通知を行う外部通知制御手段(例えば、
図3の外部通知制御部206)と、
を備える障害物検知装置である。
【0008】
他の発明として、
踏切保安設備が設備された踏切道に物体が存在する場合に少なくとも道路通行方向に沿った当該物体の位置を検知可能な所定の検知手段の検知結果に基づいて踏切障害物を検知するための障害物検知方法であって、
前記検知手段による検知対象領域を、前記道路通行方向に沿って異なる数(「1」の場合は分割しないことを示す)の検知エリアに分割する際の複数のエリア設定を記憶することと、
前記踏切保安設備による警報の鳴動開始から鳴動停止までの間に、前記記憶されたエリア設定を切り替えることと、
前記切り替えによる現在のエリア設定に基づく前記検知エリア毎に、当該検知エリアに物体が存在する状態が所与の閾値時間継続したか否かを、前記検知手段の検知結果に基づいて判定することと、
前記判定の結果に基づいて所定の外部通知を行う制御をすることと、
を含む障害物検知方法を構成してもよい。
【0009】
第1の発明等によれば、過剰通知を防止し、適切に踏切障害物を検知することができる技術を実現できる。つまり、検知対象領域を道路通行方向に沿って分割した検知エリア毎に、物体が存在する状態が所与の閾値時間継続したか否かを判定する。人や車両といった物体が1つの検知エリアの通過に要する通過時間は、分割した検知エリアの大きさに応じて異なる(より具体的には、検知対象領域を分割した検知エリアの数が多いほど通過時間が短くなる)。これにより、検知対象領域を分割した検知エリア毎に、物体が存在する状態が所与の閾値時間継続したか否かを判定すれば済むため、閾値時間を短くすることが可能となり、移動速度が遅く踏切道に取り残されるおそれのある物体を適切に踏切障害物として検知することができるとともに、過剰通知を防止することができる。
【0010】
また、検知対象領域を分割するエリアの数に応じて1つの検知エリアを通過する物体の通過時間が異なるので、鳴動開始から鳴動停止までの間に、複数のエリア設定を切り替えて検知対象領域を分割する検知エリアの数を切り替えることで、閾値時間を異ならせることができる。これにより、例えば、鳴動開始直後は、列車進入まである程度の時間的な余裕があるので閾値時間を比較的長い時間としてもよいが、踏切遮断機の遮断完了後は、物体を直ちに踏切障害物として検知して外部通知を行うといったように、安全性を確保しつつ、列車の接近に応じた踏切障害物の適切な検知が可能となる。
【0011】
第2の発明は、上述した発明において、
前記記憶手段は、前記検知エリアの数が異なる少なくとも3つのエリア設定を記憶し、
前記エリア設定切替制御手段は、警報の鳴動開始から鳴動停止までを少なくとも3つの期間に分け、各期間に応じてエリア設定を切り替える、
障害物検知装置である。
【0012】
第2の発明によれば、警報の鳴動開始から鳴動停止までを少なくとも3つの期間に分け、各期間に応じたエリア設定とすることができる。
【0013】
第3の発明は、上述した発明において、
前記エリア設定切替制御手段は、警報の鳴動開始直後の期間のエリア設定を、他の期間よりも前記検知エリアの数が多いエリア設定に切り替える、
障害物検知装置である。
【0014】
第3の発明によれば、鳴動開始直後の期間を、他の期間よりも検知エリアの数が多いエリア設定とすることができる。
【0015】
第4の発明は、上述した発明において、
前記複数のエリア設定には、N種類(N≧2)の検知エリアを混在させて前記道路通行方向に沿ってM個以上(M>N)配置することで前記検知対象領域を分割した多種混在エリア設定が含まれており、
前記エリア設定切替制御手段は、警報の鳴動開始直後の期間のエリア設定を前記多種混在エリア設定とする、
障害物検知装置である。
【0016】
第4の発明によれば、鳴動開始直後の期間のエリア設定を、N種類の検知エリアを混在させて道路通行方向に沿ってM個以上配置することで検知対象領域を分割した多種混在エリア設定とすることができる。
【0017】
第5の発明は、上述した発明において、
前記複数のエリア設定には、前記検知対象領域を単一の検知エリアとする単一エリア設定が含まれており、
前記エリア設定切替制御手段は、踏切遮断機による遮断完了から鳴動停止までの間の少なくとも一部の期間のエリア設定を前記単一エリア設定とする、
障害物検知装置である。
【0018】
踏切遮断完了後は、鳴動開始時に比べて踏切道に列車が接近しているために、安全性の観点から、何らかの物体が検知された場合には踏切障害物として直ちに検知して外部通知を行う必要がある。このため、第5の発明のように、遮断完了から鳴動停止までの間の少なくとも一部の期間のエリア設定を、検知対象領域を単一の検知エリアとする単一エリア設定とし、閾値時間を短くする(例えば、ゼロ或いはゼロに近い短時間とする)ことで、物体を検知した場合には直ちに踏切障害物と判定して外部通知を行うといったことが可能となる。検知エリアが複数の場合、どの検知エリアに物体が存在するのかといった判定処理を要するが、検知対象領域を単一の検知エリアとする単一エリア設定ならば、物体が存在する検知エリアを判定する処理は不要となるため、物体を検知した場合のより速やかな外部通知が可能となる。
【0019】
第6の発明は、上述した発明において、
前記記憶手段は、前記エリア設定毎に当該エリア設定に係る検知エリアの前記閾値時間の設定を記憶しており、前記多種混在エリア設定については検知エリアの前記種類毎に前記閾値時間の設定を記憶する、
障害物検知装置である。
【0020】
第6の発明によれば、N種類の検知エリアを混在させる多種混在エリア設定については、検知エリアの種類毎に閾値時間が異なる設定とすることができる。これにより、人や車両などの物体それぞれの異なる移動速度に応じた閾値時間を設定することができ、踏切障害物を適切に検知可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図4】障害物検知装置が行う処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものではない。また、図面の記載において、同一要素には同一符号を付す。
【0023】
[全体構成]
図1は、本実施形態における障害物検知装置の適用例である。障害物検知装置1は、踏切道10に存在して列車の通行障害となる踏切障害物を、センサ16の検知信号に基づいて検知する装置である。踏切道10には、踏切警報機や踏切遮断機を含む踏切保安設備12と、当該踏切保安設備12の動作を制御する踏切制御装置14とが設置されている。
【0024】
センサ16は、踏切道10を含む検知対象領域20に存在する物体を検知可能な検知手段であり、随時、検知対象領域20に存在する物体の位置を検知して検知した物体の位置を検知信号として出力する。センサ16は、物体の位置として、少なくとも道路通行方向に沿った方向の位置を検知することができる装置である。つまり、物体の位置を、検知対象領域20を二次元平面として道路通行方向に沿った方向の一次元の位置又は二次元の位置として検知する。なお、検知対象領域20を三次元空間とした三次元の位置として検知してもよい。センサ16は、投光器・受光器間で光を投受光する光電式や、超音波を照射してその反射波を受信する超音波式、放射したレーザ光の反射光を受光してレーザレーダ式、撮影画像を画像解析する画像式などの何れの検知方式によるものでもよい。例えば、光電式とする場合、道路通行方向に直交する方向に投光器・受光器の組を配置し、道路通行方向に沿って複数の組を配置することで、道路通行方向に沿った方向の位置を検知することができる。
【0025】
障害物検知装置1は、センサ16の検知信号に基づき、警報(踏切遮断機)の鳴動開始から鳴動停止までの間において、検知対象領域20に存在する物体を踏切障害物として検知し、踏切障害物を検知すると、所定の外部通知として、特殊信号発光機18へ発報信号を出力して発光を開始させる。外部通知は、停止信号を現示するための信号として利用することもできる。
【0026】
本実施形態の特徴の1つとして、障害物検知装置1は、検知対象領域20を、踏切道10の道路通行方向に沿って1又は複数(「1」の場合は分割しないことを示す)の検知エリアに分割し、ある1つの検知エリアに物体が存在する状態が当該検知エリアに定められた閾値時間継続した場合に当該物体を踏切障害物として検知する。具体的には、予め、複数のエリア設定を記憶しておき、警報(踏切警報機)の鳴動開始から鳴動停止までの間を3つの期間に分け、各期間に応じてエリア設定を切り替える。エリア設定には、検知対象領域20を道路通行方向に沿って分割する検知エリアの数・種類・位置・閾値時間の設定が含まれ、当該エリア設定を適用する期間(適用タイミング、切替タイミング、適用条件とも言える)と対応づけて設定されている。
【0027】
図2は、エリア設定の切り替えを説明する図である。
図2では、縦方向を時間とし、警報(踏切遮断機)の鳴動開始から鳴動停止までの間を分けた各期間に応じたエリア設定を示している。
図2に示すように、本実施形態では、鳴動開始から鳴動停止までの間を、鳴動開始から踏切遮断機の遮断完了までの第1期間と、遮断完了から踏切道への列車進入までの第2期間と、列車進入から鳴動停止までの第3期間との3つの期間に分けている。なお、分ける期間の数は3つに限らず、4つ以上であってもよい。例えば、鳴動開始から遮断完了までを複数の期間に分けるとしてもよい。
【0028】
第1期間のエリア設定は、多種混在エリア設定である。この多種混在エリア設定は、N種類(N≧2)の検知エリアを混在させて踏切道10の道路通行方向に沿ってM個以上(M>N)配置することで、検知対象領域20を分割したエリア設定である。検知エリアの種類の違いは、当該検知エリアの閾値時間の違いである。
図2の例では、2種類(N=2)の検知エリアを混在させて踏切道10の道路通行方向に沿って6個(M=6)配置した多種混在エリア設定としている。すなわち、“閾値時間T1”である“種類α”の3個の検知エリア(第1,第3,第5検知エリア)と、“閾値時間T2”である“種類β”の3個の検知エリア(第2,第4,第6検知エリア)との合計6個の検知エリア(第1~第6検知エリア)を、道路通行方向に沿って交互に配置している。つまり、本実施形態では、第1期間は鳴動開始から踏切遮断機の遮断完了までの期間であるから、警報の鳴動開始直後の期間の一例である。当該期間のエリア設定を多種混在エリア設定としている。
【0029】
なお、
図2の例では、多種混在エリア設定では合計6個の検知エリア(第1~第6検知エリア)を混在させるとしたが、その数はこれに限らず、5個以下でもよいし7個以上でもよい。また、検知エリアの種類を2種類(種類α,β)としたが、その種類はこれに限らず、3種類以上でもよい。例えば、3種類以上とした場合、種類の異なる検知エリアを種類の順に周期的且つ繰り返し配置する設定とすることとしてもよい。また、踏切道の両端(道路通行方向の入口/出口:
図2の例では第1エリアと第6エリア)の検知エリアを特殊種類の検知エリアとし、それ以外の踏切道の中間の検知エリアを1種類或いは2種類以上の検知エリアとして配置することとしてもよい。
【0030】
第2期間のエリア設定は、検知対象領域20を単一の検知エリアとする単一エリア設定である。
図2の例では、検知対象領域20全体を、“閾値時間T3”である“種類γ”の1個の検知エリア(第7検知エリア)としている。つまり、本実施形態では、第2期間は、遮断完了から踏切道への列車進入までの期間であるから、踏切遮断機による遮断完了から鳴動停止までの間の少なくとも一部の期間の一例である。当該少なくとも一部の期間のエリア設定を単一エリア設定としている。
【0031】
第3期間のエリア設定は、検知対象領域20を列車の進入方向別の検知エリアに分割し、進入する列車の方向に対応する検知エリアをマスクする進入時エリア設定に切り替える。
図2の例では、検知対象領域20を、“閾値時間T4”である“種類δ”の下り方向に対応する検知エリア(第8検知エリア)と、“閾値時間T5”の“種類ε”の上り方向に対応する検知エリア(第9検知エリア)とに分割している。そして、下り列車が進入したとして、下り方向に対応する第8検知エリアをマスクした例を示している。ここで、検知エリアをマスクするとは、センサ16によって当該検知エリアに存在する物体が検知されているとしても、踏切障害物として検知しないようにすることを意味する。
【0032】
なお、
図2の例では、検知対象領域20を複数の検知エリアに分割した際(第1期間の多種混在エリア設定や第3期間の進入時エリア設定)の各検知エリアの道路通行方向に沿った長さを同じとしているが、検知エリアの種類毎に異なる長さとしてもよいし、同じ種類であっても検知エリアの位置によって異なる長さにしてもよい。
【0033】
[機能構成]
図3は、障害物検知装置1の機能構成の一例を示す図である。
図3によれば、障害物検知装置1は、操作部102と、表示部104と、通信部106と、処理部200と、記憶部300とを備え、一種のコンピュータシステムとして構成される。
【0034】
操作部102は、例えばボタンスイッチやタッチパネル、キーボード等の入力装置で実現され、なされた操作に応じた操作信号を処理部200に出力する。表示部104は、例えばLCD(Liquid Crystal Display)やタッチパネル等の表示装置で実現され、処理部200からの表示信号に応じた各種表示を行う。通信部106は、有線又は無線の通信装置で実現され、所与の外部装置との通信を行う。
【0035】
処理部200は、例えばCPU(Central Processing Unit)等の演算回路や当該演算回路を含む制御ボード等で実現され、記憶部300に記憶されたプログラムやデータ等に基づいて、障害物検知装置1を構成する各部への指示やデータ転送を行い、障害物検知装置1の全体制御を行う。また、処理部200は、本実施形態に係る機能部として、エリア設定切替制御部202と、判定部204と、外部通知制御部206とを有する。但し、これらの機能部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等によってそれぞれ独立した演算回路として構成することも可能である。
【0036】
エリア設定切替制御部202は、踏切保安設備12による警報の鳴動開始から鳴動停止までの間に、記憶部300に記憶されたエリア設定データ310に基づいてエリア設定を切り替える。また、警報の鳴動開始から鳴動停止までを少なくとも3つの期間に分け、各期間に応じてエリア設定を切り替える。そして、警報の鳴動開始直後の期間のエリア設定を、他の期間よりも検知エリアの数が多いエリア設定に切り替える。また、警報の鳴動開始直後の期間のエリア設定を、N種類(N≧2)の検知エリアを混在させて道路通行方向に沿ってM個以上(M>N)配置することで検知対象領域を分割した多種混在エリア設定とする。また、踏切遮断機による遮断完了から鳴動停止までの間の少なくとも一部の期間のエリア設定を、検知対象領域を単一の検知エリアとする単一エリア設定とする。
【0037】
具体的には、エリア設定切替制御部202は、踏切制御装置14からの踏切制御情報や、列車進入検知装置22からの列車進入検知情報などをもとに、現時点が警報(踏切警報機)の鳴動開始から鳴動停止までの間を分けた何れの期間であるかを判断し、エリア設定データ310を参照して、判断した期間に応じたエリア設定に切り替える。踏切制御情報は、踏切警報機が鳴動しているか否か、踏切遮断機の遮断かんが上昇又は降下しているかといった、踏切保安設備12の動作状態(踏切制御装置14による制御状態)を示す情報である。列車進入検知装置22は、例えば、列車の進入方向別に踏切道10の進入側に設置される踏切制御子であり、踏切道10への列車の進入(到達)を検知する。列車進入検知情報は、列車進入検知装置22が列車の進入(到達)を検知したことを示す情報である。
【0038】
エリア設定データ310は、検知手段であるセンサ16による検知対象領域20を、踏切道10の道路通行方向に沿って異なる数(「1」の場合は分割しないことを示す)の検知エリアに分割する際の複数のエリア設定を定めたデータである。エリア設定データ310には、検知エリアの数が異なる少なくとも3つのエリア設定が定められている。また、エリア設定毎に当該エリア設定に係る検知エリアの閾値時間の設定が定められており、多種混在エリア設定については検知エリアの種類毎に閾値時間の設定が定められている。
【0039】
具体的には、エリア設定データ310は、鳴動開始から鳴動停止までの間を分けた3つの期間(第1~第3期間)それぞれについて、エリア設定を対応付けて定めている(
図2参照)。各エリア設定については、各検知エリアの位置・範囲と、当該検知エリアの閾値時間とが対応付けて定められている。検知エリアの位置・範囲は、例えば、その4角の位置を、検知対象領域に定めたローカル座標系における座標値として表現することで定めることができる。
【0040】
従って、エリア設定切替制御部202は、鳴動開始を判断したならば、第1期間に対応する多種混在エリア設定に切り替え、遮断完了を判断したならば、第2期間に対応する単一エリア設定に切り替え、列車進入を判断したならば、第3期間に対応するエリア設定に切り替える。
【0041】
判定部204は、エリア設定切替制御部202により切り替えられたエリア設定に基づく検知エリア毎に、当該検知エリアに物体が存在する状態が所与の閾値時間継続したか否かを、検知手段であるセンサ16の検知結果に基づいて判定する。具体的には、センサ16により検知された物体の位置から当該物体が何れの検知エリアに存在するかを判定し、当該検知エリアに当該物体が存在する状態が当該検知エリアに定められた閾値時間に達したか否かを判定する。
【0042】
外部通知制御部206は、判定部204の判定結果に基づいて所定の外部通知を行う。具体的には、判定部204によりある検知エリアに物体が存在する状態が当該検知エリアに定められた閾値時間に達したと判定された場合に、踏切障害物を検知したと判断してその旨を外部通知する。外部通知としては、例えば、踏切道10に接近する列車に向けて設置された特殊信号発光機18へ発報信号を出力して発光を開始させるとしてもよいし、当該踏切道10に接近する列車の車上装置へ無線で通知するようにしてもよい。
【0043】
記憶部300は、ハードディスクやROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の記憶装置で実現され、処理部200が障害物検知装置1を統合的に制御するためのプログラムやデータ等を記憶している。また、記憶部300は処理部200の作業領域として用いられ、処理部200が各種プログラムに従って実行した演算結果や、操作部102や通信部106を介した入力データ等が一時的に格納される。本実施形態では、記憶部300には、障害物検知プログラム302と、エリア設定データ310とが記憶される。
【0044】
[処理の流れ]
図4は、障害物検知装置1が行う処理の流れを説明するフローチャートである。
図4において、左側に、エリア設定切替制御部202が行うエリア設定切替処理を示し、右側に、判定部204及び外部通知制御部206が行う踏切障害物検知処理を示している。これらの処理は、処理部200が障害物検知プログラム302を実行することで実現される。
【0045】
図4に示すように、エリア設定切替処理では、エリア設定切替制御部202は、警報(踏切警報機)の鳴動が開始されたならば(ステップS1)、エリア設定を、第1期間に対応する多種混在エリア設定に切り替える(ステップS3)。次いで、踏切遮断機の遮断が完了したならば(ステップS5)、エリア設定を、第2期間に対応する単一エリア設定に切り替える(ステップS7)。続いて、踏切道10へ列車が進入したならば(ステップS9)、エリア設定を、第3期間に対応する進入時エリア設定に切り替える(ステップS11)。そして、進入してくる列車の進入方向に対応する検知エリアをマスクする(ステップS13)。その後、警報(踏切警報機)の鳴動が停止したならば(ステップS15)、本処理は終了となる。
【0046】
また、踏切障害物検知処理では、警報(踏切警報機)の鳴動が開始されたならば(ステップS21)、判定部204が、センサ16からの検知信号に基づき、検知対象領域に何らかの物体が存在するかを判断する。そして、何らかの物体が存在するならば(ステップS23:YES)、物体の位置から当該物体が存在する検知エリアを判定する(ステップS25)。次いで、当該検知エリアに当該物体が存在する状態の継続時間が、当該検知エリアの閾値時間に達したかを判断し、継続時間が閾値時間に達していないならば(ステップS27:NO)、ステップS23に戻る。継続時間が閾値時間に達しているならば(ステップS27:YES)、更に、鳴動開始から所定の猶予時間が経過しているかを判断し、猶予時間が経過していないならば(ステップS29:NO)、ステップS23に戻る。
【0047】
ステップS23で物体の存在が判断されて、ステップS25でその物体が存在する検知エリアが判定されているが、本実施形態では、物体の位置を追跡するような処理は行っていない。ある検知エリアに物体が存在すると判定された状態が継続して当該検知エリアの閾値時間に達したか否かを判断しているのである(ステップS25)。既に踏切警報機の鳴動が開始しているため、次から次に異なる物体が同じ検知エリアを通過するようなことは稀であり、各物体の位置を追跡する処理までは行っていない。追跡の処理を行わなくとも、ある検知エリアに物体が存在すると判定された状態が継続して当該検知エリアの閾値時間に達した場合に外部通知する本実施形態の処理は、安全側の処理となる。
【0048】
鳴動開始から所定の猶予時間が経過しているならば(ステップS29:YES)、外部通知制御部206が、踏切障害物を検知したと判断して、特殊信号発光機18へ発報信号を出力するといった所定の外部通知を行う(ステップS31)。その後、警報(踏切警報機)の鳴動が停止されていないならば(ステップS33:NO)、ステップS23に戻り、鳴動が停止されたならば(ステップS33:YES)、本処理は終了となる。
【0049】
[作用効果]
このように、本実施形態によれば、過剰通知を防止し、適切に踏切障害物を検知することができる障害物検知装置1を実現することができる。つまり、検知対象領域20を道路通行方向に沿って分割した検知エリア毎に、物体が存在する状態が所与の閾値時間継続したか否かを判定する。人や車両といった物体が1つの検知エリアの通過に要する通過時間は、分割した検知エリアの大きさに応じて異なる(より具体的には、検知対象領域20を分割した検知エリアの数が多いほど通過時間が短くなる)。これにより、検知対象領域20を分割した検知エリア毎に、物体が存在する状態が所与の閾値時間継続したか否かを判定すれば済むため、閾値時間を短くすることが可能となり、移動速度が遅く踏切道10に取り残されるおそれのある物体を適切に踏切障害物として検知することができるとともに、過剰通知を防止することができる。
【0050】
また、検知対象領域20を分割するエリアの数に応じて1つの検知エリアを通過する物体の通過時間が異なるので、鳴動開始から鳴動停止までの間に、複数のエリア設定を切り替えて検知対象領域を分割する検知エリアの数を切り替えることで、閾値時間を異ならせることができる。これにより、例えば、鳴動開始直後は、列車到達まである程度の時間的な余裕があるので閾値時間を比較的長い時間としてもよいが、踏切遮断機の遮断完了後は、物体を直ちに踏切障害物として検知して外部通知を行うといったように、安全性を確保しつつ、列車の接近に応じた踏切障害物の適切な検知が可能となる。
【0051】
[変形例]
なお、本発明の適用可能な実施形態は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0052】
(A)閾値時間の判定
上述の実施形態では、ある検知エリアに物体が存在する状態の継続時間が当該検知エリアに定められた閾値時間に達したかの判定をソフトウェア的に行うとしたが、時素リレーを用いて実現するようにしてもよい。つまり、判定部204は、ある検知エリアに物体が存在すると判定している間、検知信号を、当該検知エリアの閾値時間に応じた時素を設定した時素リレーに出力する。時素リレーでは、検知信号が入力されている継続時間が当該検知エリアの閾値時間に達したことをもって外部信号を出力する。検知信号の入力が途切れた場合には、時素リレーの動作はリセットされる。時素リレーからの外部信号が特殊信号発光機18へ発報信号となる。
【0053】
(B)第1期間
上述の実施形態では、鳴動開始から踏切遮断機の遮断完了までの期間を第1期間としたが、遮断完了を基準とする所定時点までの期間を第1期間としてもよい。例えば、遮断完了より一定時間(例えば数秒程度)前までの期間を第1期間としてもよいし、遮断完了より一定時間(例えば数秒程度)後までの期間を第1期間としてもよい。何れの場合も、警報の鳴動開始直後の期間が第1期間となる。
【0054】
図5を参照してより具体的に説明する。
図5は、エリア設定の切り替えの変形例を説明する図であり、鳴動開始から遮断完了より一定時間(数秒程度)後までの期間を第1期間とした例を示す図である。
図5の例では、第1期間をさらに2つの期間に分けて異なる多種混在エリアとしている。具体的には、遮断完了を境界として、鳴動開始から遮断完了までを主期間として多種混在エリア設定Aのエリア設定を行う。また、遮断完了から一定時間(数秒程度)経過するまでを移行期間として多種混在エリア設定Bのエリア設定を行う。移行期間の後は、列車進入までの期間を、上述の実施形態と同様の第2期間として、エリア設定を単一エリア設定とする。本変形例における第2期間も、上述の実施形態の第2期間と同様、踏切遮断機による遮断完了から鳴動停止までの間の少なくとも一部の期間である。
【0055】
多種混在エリア設定Bは、多種混在エリア設定Aに対して、道路通行方向に沿った中央部に相当する複数の検知エリアを1つの検知エリア(
図5における第10エリア)としたエリア設定である。多種混在エリア設定Aは、上述の実施形態における第1期間のエリア設定と同じである(
図2参照)。多種混在エリア設定Aよりも多種混在エリア設定Bの方が、検知エリアの数が少ない。これは、遮断完了直後は、踏切道内に人が取り残された場合であっても踏切遮断機の近傍(道路通行方向に沿った入口/出口の近傍)ならば速やかに踏切道を脱出すると考えられるためである。このため、移行期間或いは多種混在エリア設定Bは、踏切道10の入口/出口の近傍について、中央部と比較して、踏切障害物として検知する閾値時間に猶予を持たせて、踏切道10から人が出る時間的な猶予を持たせた期間或いはエリア設定と言うことでき、多種混在エリア設定から単一エリア設定への切り替えの移行を段階的に行っていると言える。
【0056】
なお、
図5の例では、第1期間を2つの期間に分けて異なる多種混在エリア設定とした例を示したが、3つ以上の期間に分けて同様に異なる多種混在エリア設定としてもよい。
【0057】
また、第1期間を、鳴動開始から遮断完了より一定時間前までの1つの期間とするとしてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1…障害物検知装置
200…処理部
202…エリア設定切替制御部
204…判定部
206…外部通知制御部
300…記憶部
302…障害物検知プログラム
310…エリア設定データ
10…踏切道
12…踏切保安設備
14…踏切制御装置
16…センサ
18…特殊信号発光機
20…検知対象領域
22…列車進入検知装置