(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116941
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】ニッケルスラリーの製造方法およびニッケルスラリーの評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 15/06 20240101AFI20240821BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240821BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20240821BHJP
B22F 9/00 20060101ALI20240821BHJP
G01N 1/04 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
G01N15/06 Z
B22F1/00 M
B22F1/102
B22F9/00 B
G01N1/04 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022817
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】スリヤマス アデイ バグス
【テーマコード(参考)】
2G052
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
2G052AB01
2G052AD09
2G052AD52
2G052BA22
2G052EA03
2G052GA35
4K017AA03
4K017AA06
4K017AA08
4K017BB06
4K017CA07
4K017CA08
4K018BA04
4K018BB04
4K018BB05
4K018BC29
(57)【要約】
【課題】ニッケルスラリー中の粗大粒子の濃度が所定値以下であることを信頼性高く保証することができる技術を提供すること。
【解決手段】ここで開示されるニッケルスラリーの製造方法は、ニッケル粉末と、該ニッケル粉末を分散させる分散媒と、を含むニッケルスラリーの製造方法であって、以下の工程:上記ニッケル粉末と、上記分散媒と、を含むニッケルスラリーを用意する用意工程(S1),ここで、上記ニッケル粉末は、アミン化合物によって被覆されている;上記ニッケルスラリー中の、粒子径が300nmよりも大きい粗大粒子の濃度を評価する、評価工程(S2);および、上記評価工程において、上記粗大粒子の濃度が所定値以下であったときは選択し、該粗大粒子の濃度が所定値よりも大きいときは選択しない、選択工程(S3);を包含する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル粉末と、該ニッケル粉末を分散させる分散媒と、を含むニッケルスラリーの製造方法であって、以下の工程:
前記ニッケル粉末と、前記分散媒と、を含むニッケルスラリーを用意する用意工程,ここで、前記ニッケル粉末は、アミン化合物によって被覆されている;
前記ニッケルスラリー中の、粒子径が300nmよりも大きい粗大粒子の濃度を評価する、評価工程;および
前記評価工程において、前記粗大粒子の濃度が所定値以下であったときは選択し、該粗大粒子の濃度が所定値よりも大きいときは選択しない、選択工程;
を包含し、
ここで、前記評価工程は、
既知量の前記ニッケルスラリーと、炭素数が12以上であるアミン系溶剤と、を混合し、第1ニッケル分散液を得ること;
既知量の前記第1ニッケル分散液と、炭素数が8以上であるアルコール系溶剤と、を混合し、第2ニッケル分散液を得ること;
前記第2ニッケル分散液を、最大孔径が300nm以下のメンブレンフィルターに通過させること;および
前記通過させた後の前記メンブレンフィルター上に存在する前記粗大粒子を観察し、前記ニッケルスラリー中の前記粗大粒子の濃度を算出すること;
を包含する、ニッケルスラリーの製造方法。
【請求項2】
前記アミン系溶剤は、n-ドデシルアミン、n-テトラデシルアミン、およびオレイルアミンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のニッケルスラリーの製造方法。
【請求項3】
前記アルコール系溶剤は、n-オクタノール、n-デカノール、およびn-ドデカノールからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載のニッケルスラリーの製造方法。
【請求項4】
前記メンブレンフィルター上に存在する前記粗大粒子の観察は、電界放射型走査電子顕微鏡を用いて行う、請求項1または2に記載のニッケルスラリーの製造方法。
【請求項5】
アミン化合物で被覆されたニッケル粉末と、該ニッケル粉末を分散させる分散媒と、を含むニッケルスラリーにおいて、粒子径が300nmよりも大きい粗大粒子の濃度を評価する、ニッケルスラリーの評価方法であって、以下の工程;
既知量の前記ニッケルスラリーと、炭素数が12以上であるアミン系溶剤と、を混合し、第1ニッケル分散液を得る、第1ニッケル分散液調製工程;
既知量の前記第1ニッケル分散液と、炭素数が8以上であるアルコール系溶剤と、を混合し、第2ニッケル分散液を得る、第2ニッケル分散液調製工程;
前記第2ニッケル分散液を、最大孔径が300nm以下のメンブレンフィルターに通過させる、通過工程;および
前記通過させた後の前記メンブレンフィルター上に存在する前記粗大粒子を観察し、前記第2ニッケル分散液中の前記粗大粒子の濃度を算出する、粗大粒子濃度の算出工程;
を包含する、ニッケルスラリーの評価方法。
【請求項6】
前記アミン系溶剤は、n-ドデシルアミン、n-テトラデシルアミン、およびオレイルアミンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項5に記載のニッケルスラリーの評価方法。
【請求項7】
前記アルコール系溶剤は、n-オクタノール、n-デカノール、およびn-ドデカノールからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項5または6に記載のニッケルスラリーの評価方法。
【請求項8】
前記メンブレンフィルター上に存在する前記粗大粒子の観察は、電界放射型走査電子顕微鏡を用いて行う、請求項5または6に記載のニッケルスラリーの評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ニッケルスラリーの製造方法およびニッケルスラリーの評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1および2には、ニッケルスラリー中の粗大粒子濃度の評価方法が開示されている。かかるニッケルスラリーの評価方法では、ニッケルスラリーをメンブレンフィルターに通過し、該メンブレンフィルター上に存在するニッケル粒子を観察することによって、該ニッケルスラリー中の粗大粒子濃度を評価する旨、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-191011号公報
【特許文献2】特開2018-204951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、本発明者の検討によると、ニッケルスラリー中の粗大粒子の評価方法に関して、信頼性の観点からまだまだ改善の余地があることがわかった。また、粗大粒子の濃度が所定値以下であることを信頼性高く保証することができるニッケルスラリーの製造方法のさらなる開発が求められている。
【0005】
本開示は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、ニッケルスラリー中の粗大粒子の濃度が所定値以下であることを信頼性高く保証することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここで開示されるニッケルスラリーの評価方法は、アミン化合物で被覆されたニッケル粉末と、該ニッケル粉末を分散させる分散媒と、を含むニッケルスラリーにおいて、粒子径が300nmよりも大きい粗大粒子の濃度を評価する、ニッケルスラリーの評価方法であって、以下の工程;既知量の上記ニッケルスラリーと、炭素数が12以上であるアミン系溶剤と、を混合し、第1ニッケル分散液を得る、第1ニッケル分散液調製工程;既知量の上記第1ニッケル分散液と、炭素数が8以上であるアルコール系溶剤と、を混合し、第2ニッケル分散液を得る、第2ニッケル分散液調製工程;上記第2ニッケル分散液を、最大孔径が300nm以下のメンブレンフィルターに通過させる、通過工程;および、上記通過させた後の上記メンブレンフィルター上に存在する上記粗大粒子を観察し、上記第2ニッケル分散液中の上記粗大粒子の濃度を算出する、粗大粒子濃度の算出工程;を包含する。詳細については後述するが、かかる構成のニッケルスラリーの評価方法によると、ニッケルスラリー中の粗大粒子の濃度を信頼性高く評価することができる。
【0007】
ここで開示されるニッケルスラリーの評価方法の好ましい一態様では、上記アミン系溶剤は、n-ドデシルアミン、n-テトラデシルアミン、およびオレイルアミンのうち少なくとも1種から構成される。かかる構成において、第1ニッケル分散液中のニッケル粒子どうしの凝集をより好適に抑制することができるため、粗大粒子の濃度をより正確に評価するという観点から好ましい。
【0008】
ここで開示されるニッケルスラリーの評価方法の好ましい一態様では、上記アルコール系溶剤は、n-オクタノール、n-デカノール、およびn-ドデカノールのうち少なくとも1種から構成される。かかる構成において、第2ニッケル分散液中のニッケル粒子どうしの凝集をより好適に抑制することができるため、粗大粒子の濃度をより正確に評価するという観点から好ましい。
【0009】
ここで開示されるニッケルスラリーの評価方法の好ましい一態様では、上記メンブレンフィルター上に存在する上記粗大粒子の観察は、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて行う。FE-SEMによると、粗大粒子を精度高く観察することができるため、好ましい。
【0010】
また、他の側面から、本開示はニッケルスラリーの製造方法を提供する。かかるニッケルスラリーの製造方法は、ニッケル粉末と、該ニッケル粉末を分散させる分散媒と、を含むニッケルスラリーの製造方法であって、以下の工程:上記ニッケル粉末と、上記分散媒と、を含むニッケルスラリーを用意する用意工程,ここで、上記ニッケル粉末は、アミン化合物によって被覆されている;上記ニッケルスラリー中の、粒子径が300nmよりも大きい粗大粒子の濃度を評価する、評価工程;および、上記評価工程において、上記粗大粒子の濃度が所定値以下であったときは選択し、該粗大粒子の濃度が所定値よりも大きいときは選択しない、選択工程;を包含し、ここで、上記評価工程は、既知量の上記ニッケルスラリーと、炭素数が12以上であるアミン系溶剤と、を混合し、第1ニッケル分散液を得ること;既知量の上記第1ニッケル分散液と、炭素数が8以上であるアルコール系溶剤と、を混合し、第2ニッケル分散液を得ること;上記第2ニッケル分散液を、最大孔径が300nm以下のメンブレンフィルターに通過させること;および、上記通過させた後の上記メンブレンフィルター上に存在する上記粗大粒子を観察し、上記ニッケルスラリー中の上記粗大粒子の濃度を算出すること;を包含する。かかるニッケルスラリーの製造方法は、上述したニッケルスラリーの評価方法を包含する。これによって、ニッケルスラリー中の粗大粒子の濃度を信頼性高く評価することができる(換言すると、粗大粒子の濃度が所定値以下であることを信頼性高く保証することができる)ため、高品質なニッケルスラリーを提供することができる。
【0011】
ここで開示されるニッケルスラリーの製造方法の好ましい一態様では、上記アミン系溶剤は、n-ドデシルアミン、n-テトラデシルアミン、およびオレイルアミンのうち少なくとも1種から構成される。かかる構成において、第1ニッケル分散液中のニッケル粒子どうしの凝集をより好適に抑制することができるため、粗大粒子の濃度をより正確に評価することができる。即ち、粗大粒子の濃度が所定値以下であることを信頼性高く保証することができるため、より高品質なニッケルスラリーを提供することができる。
【0012】
ここで開示されるニッケルスラリーの製造方法の好ましい一態様では、上記アルコール系溶剤は、n-オクタノール、n-デカノール、およびn-ドデカノールのうち少なくとも1種から構成される。かかる構成において、第2ニッケル分散液中のニッケル粒子どうしの凝集をより好適に抑制することができるため、粗大粒子の濃度をより正確に評価することができる。即ち、粗大粒子の濃度が所定値以下であることを信頼性高く保証することができるため、より高品質なニッケルスラリーを提供することができる。
【0013】
ここで開示されるニッケルスラリーの製造方法の好ましい一態様では、上記メンブレンフィルター上に存在する上記粗大粒子の観察は、電界放射型走査電子顕微鏡を用いて行う。FE-SEMによると、粗大粒子を精度高く観察することができる。即ち、粗大粒子の濃度が所定値以下であることを信頼性高く保証することができるため、より高品質なニッケルスラリーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態に係るニッケルスラリーの製造方法について説明するためのフローチャートである。
【
図2】一実施形態に係るニッケルスラリーの評価方法について説明するためのフローチャートである。
【
図3】粗大粒子濃度の算出方法について説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の好適な実施形態について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本開示の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本開示は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。以下の実施形態は、ここで開示される技術をかかる実施形態に限定することを意図したものではない。また、以下の図面において、寸法関係(長さ、幅、厚み等)は実際の寸法関係を反映するものではなく、特に言及されない限りにおいて本開示を限定するものではない。なお、本明細書および特許請求の範囲において、所定の数値範囲をA~B(A、Bは任意の数値)と記すときは、A以上B以下の意味である。したがって、Aを上回り且つBを下回る場合を包含する。また、「スラリー」とは、ペースト状組成物、インク状組成物を包含する概念であり得る。以下では、ニッケルスラリーの製造方法について説明しつつ、該ニッケルスラリーの製造方法に包含されるニッケルスラリーの評価方法についても併せて説明する。
【0016】
<ニッケルスラリーの製造方法>
図1は、本実施形態に係るニッケルスラリーの製造方法について説明するためのフローチャートである。かかるニッケルスラリーの製造方法は、ニッケル粉末と、該ニッケル粉末を分散させる分散媒と、を含むニッケルスラリーの製造方法である。また、
図1に示すように、本実施形態に係るニッケルスラリーの製造方法は、上記ニッケル粉末と、上記分散媒と、を含むニッケルスラリーを用意する用意工程(ステップS1),ここで、前記ニッケル粉末は、アミン化合物によって被覆されている;上記ニッケルスラリー中の、粒子径が300nmよりも大きい粗大粒子の濃度を評価する、評価工程(ステップS2);および、上記評価工程において、上記粗大粒子の濃度が所定値以下であったときは選択し、該粗大粒子の濃度が所定値よりも大きいときは選択しない、選択工程(ステップS3);を包含する。なお、ここで開示されるニッケルスラリーの製造方法は、任意の段階でさらに他の工程を含んでもよいし、その工程が必須なものとして説明されていなければ適宜削除することも可能である。また、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて、工程の順序を入れ替えることもできる。
【0017】
上述したようなニッケルスラリーの製造方法では、評価工程(ステップS2)において、用意工程(ステップS1)で用意したニッケルスラリー中の粗大粒子濃度を算出する。そして、選択工程(ステップS3)において、上記粗大粒子濃度が所定値以下であるもののみを選択する。これによって、上記粗大粒子濃度が所定値以下であることが信頼性高く保証された、高品質なニッケルスラリーのみを提供することができる。
【0018】
(S1:用意工程)
上述したように、本工程では、ニッケル粉末と、分散媒と、を含むニッケルスラリーを用意する。ここで、かかるニッケル粉末としては、ニッケル(Ni)を主構成元素とする粉末(粒子の集合物)であれば、その組成は特に制限されない。ニッケル粉末を構成するニッケル粒子としては、例えば、ニッケルおよびニッケル合金ならびにそれらの混合物または複合体等から構成された粒子が一例として挙げられる。ニッケル合金としては、例えば、ニッケル-パラジウム(Ni-Pd)合金、ニッケル-白金(Ni-Pt)合金、ニッケル-銅(Ni-Cu)合金等が好ましい例として挙げられる。例えば、コアがニッケル以外の銅やニッケル合金等の金属から構成され、コアを覆うシェルがニッケルからなるコアシェル粒子等を用いることもできる。ニッケル粉末が、例えば、銅を主構成元素とするCuコア粒子と、該Cuコア粒子の表面の少なくとも一部を被覆するニッケルを主構成元素とするNiシェルと、からなるCuNiコアシェル粒子を含む態様において、粗大粒子がより好適に低減されたニッケルスラリーを得ることができる。なお、「主構成元素とする」とは、ニッケル粉末(Cuコア粒子の場合はCuコア粒子に対応。Niシェルの場合はNiシェルに対応。)を構成する金属成分全体を100モル%としたとき、ニッケル成分(Cuコアシェルの場合は銅成分に対応。Niシェルの場合はニッケル成分に対応。)が例えば50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上であることを意味し得る。ニッケル粉末がコアシェル粒子を含む場合、ニッケル粉末の全重量を100重量%としたとき、コアシェル粒子の配合割合は、例えば30重量%以上であり、50重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、90重量%以上、95重量%以上であってもよい(100重量%であってもよい)。なお、ニッケル粉末を構成するニッケル粒子の形状は、特に限定されず、略球形、平板状、針状、不定形状等の種々の形状であってよい。また、上記コアシェル粒子において、コア粒子の形状は、特に限定されず、略球形、平板状、針状、不定形状等の種々の形状であってよい。そして、Niシェルの形状は、特に限定されず、微細粒子が集合することによって形成されていてもよいし、薄膜の状態で形成されていてもよい。
【0019】
特に限定されるものではないが、上記コアシェル粒子において、上記Niシェルの被覆率は、例えば20%以上であり、30%以上、40%以上、50%以上であってもよい。また、上記ニッケルシェルの被覆率の上限は、100%以下であってもよく、95%以下、90%以下、80%以下、70%以下、60%以下であってもよい。なお、「Niシェルの被覆率」は、例えば以下の手順に基づいて測定することができる。例えば、上記コアシェル粒子がCuNiコアシェル粒子の場合、先ず、TEM-EDX法に基づいて、測定対象の粒子の断面におけるNi元素とCu元素の各々の元素マップを取得する。次に、画像解析ソフト(例えば、Image-J)を使用して各々の元素マップを所定のbit画像(例えば、8-bit画像)に変換する。そして、bit変換後のCu元素の元素マップを所定のピクセル値(例えば、40~80)で二値化し、Skeletonize処理する。そして、かかる画像処理を行ったCu元素の元素マップの所定のピクセル値(例えば、255)のドット数を「Cuコア粒子の面積LCu」として計測する。次に、bit変換後のNi元素マップを所定のピクセル値(例えば、40~255)で二値化し、Skeletonize処理する。そして、かかる画像処理を行ったNi元素の元素マップの所定のピクセル値(例えば、255)のドット数を「Niシェルの内部面積LNi」として計測する。次に、計測したLCuとLNiを下記の式(I)に代入することによって、一個のコアシェル粒子におけるNiシェルの被覆率を算出する。そして、複数の粒子の中から平均粒子径に近い任意の10個のコアシェル粒子のNiシェルの被覆率の平均値を、「Niシェルの被覆率」とすることができる。なお、コア粒子がCu以外の元素を主構成元素とする場合は、上述したような方法によって該元素コアシェル粒子の面積を求め、下記式のLCuの替わりに導入することによって、Niシェルの被覆率を算出することができる。
Niシェルの被覆率=(LNi/LCu)×100・・・(I)
【0020】
特に限定されるものではないが、上記コアシェル粒子において、コア粒子の平均粒子径は概ね5nm~20nm(例えば、10nm~15nm)であり、Niシェルの厚みは、30nm~50nm(例えば、35nm~45nm)であってもよい。なお、上記Niシェルの厚みは、例えば、コアシェル粒子の断面を、透過型電子顕微鏡を用いたエネルギー分散型X線分光分析(TEM-EDX)によって3点程度観察し、その平均値を求めることで、算出することができる。
【0021】
続いて、ニッケルスラリーの製造方法の一例について説明する。先ず、窒素雰囲気下、塩基性化合物(例えば水酸化カリウム)と、還元剤(例えばヒドラジン一水和物)と、を混合し、第1溶液を作製する。次に、ニッケル塩と、溶剤と、を混合し、第2溶液を作製する。続いて、上記第1溶液を室温(例えば25℃程度)で撹拌しながら上記第2溶液を注ぎ、所定時間(例えば1~2時間程度)反応させる。そして、得られた粉末を適当な溶剤(例えばアセトン)によって洗浄した後、所定温度(例えば40~50℃程度)で所定時間(例えば1~2時間程度)乾燥させることで、ニッケル粉末を得ることができる。ここで、かかるニッケル粉末の平均粒子径は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、例えば200nm以下であり、粗大粒子の生成を好適に抑制するという観点から、好ましくは150nm以下、120nm以下(例えば115nm以下)、100nm以下、60nm以下である。また、ニッケル粉末の下限は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に限定されないが、例えば30nm以上であり、40nm以上であてもよいし、50nm以上であってもよい。なお、「平均粒子径」とは、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)に基づく個数基準の粒度分布において、粒径の小さい側から積算値50%に相当する粒径(以下、「D50」ともいう)を意味する。かかる測定は、例えば、市販の装置を用いて実施することができる。
【0022】
次に、得られたニッケル粉末と、アミン化合物と、を混合し、窒素雰囲気下、所定温度(例えば100~200℃程度)で所定温度(例えば10~30分間程度)加熱し、所定温度(例えば40~50℃程度)まで冷却する。これによって、表面に少なくとも一部がアミン化合物によって被覆されたニッケル粉末を含むニッケルスラリーを得ることができる。
【0023】
上記ニッケル塩の一例としては、カルボン酸ニッケル、塩化ニッケル、炭酸ニッケル、硝酸ニッケル、水酸化ニッケル等が挙げられる。かかるカルボン酸ニッケルの一例としては、ギ酸ニッケルや酢酸ニッケルが挙げられる。ニッケル塩は、無水物であってもよいし、水和物であってもよい。かかる水和物としては、ギ酸ニッケル・二水和物や酢酸ニッケル・四水和物、塩化ニッケル六水和物が挙げられる。ニッケル塩としては、例えば市販のものを特に制限なく用いることができる。
【0024】
上記溶剤としては、この種の合成に用いられ得るものを特に制限なく用いることができる。かかる溶剤としては、適当な水系溶媒あるいは有機系溶媒からなる媒体が挙げられる。有機系溶剤の一例としては、ミネラルスピリット等の石油系炭化水素(特に脂肪族炭化水素)、エチレングリコールやジエチレングリコール誘導体、エタノール、トルエン、キシレン、ブチルカルビトール(BC)、イソボルニルアセテート、ターピネオール等の高沸点有機溶媒を1種類または2種以上を組み合わせたものを用いることができる。なお、溶剤としては、例えば市販のものを特に制限なく用いることができる。
【0025】
上記アミン化合物の一例としては、n-プロピルアミン、n-ブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-へプチルアミン、n-オクチルアミン、n-ドデシルアミン、n-トリデシルアミン、n-テトラデシルアミン、n-ペンタデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、n-へプタデシルアミン、ステアリルアミン、n-ノナデシルアミン等の直鎖構造のアミン化合物;2-エチルヘキシルアミン等の分岐構造のアミン化合物;シクロプロピルアミン、シクロブチルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン、シクロへプチルアミン、シクロオクチルアミン、シクロドデシルアミン等の環状構造のアミン化合物;オレイルアミン等の不飽和構造を含むアミン化合物;等が挙げられる。なお、アミン化合物としては、例えば市販のものを特に制限なく用いることができる。
【0026】
(S2:評価工程)
上述したように、本工程では、上記ニッケルスラリー中の、粒子径が300nmよりも大きい粗大粒子の濃度を評価する。ここで、
図2は、本実施形態に係るニッケルスラリーの評価方法(評価工程)について説明するためのフローチャートである。
図2に示すように、評価工程は、既知量の上記ニッケルスラリーと、炭素数が12以上であるアミン系溶剤と、を混合し、第1ニッケル分散液を得ること(ステップs1:第1ニッケル分散液調製工程に相当);既知量の上記第1ニッケル分散液と、炭素数が8以上であるアルコール系溶剤と、を混合し、第2ニッケル分散液を得ること(ステップs2:第2ニッケル分散液調製工程に相当);上記第2ニッケル分散液を、最大孔径が300nm以下のメンブレンフィルターに通過させること(ステップs3:通過工程に相当);および、上記通過させた後の上記メンブレンフィルター上に存在する上記粗大粒子を観察し、上記ニッケルスラリー中の上記粗大粒子の濃度を算出すること(ステップs4:粗大粒子濃度の算出工程に相当);を包含する。以下、各ステップについて説明する。
【0027】
先ず、ステップs1では、既知量の上記ニッケルスラリーと、炭素数が12以上であるアミン系溶剤と、を混合し、第1ニッケル分散液を得る。炭素数が12以上であるアミン系溶剤を添加することで、第1ニッケル分散液中のニッケル粒子どうしの凝集を好適に抑制することができるため、粗大粒子の濃度を正確に評価することができる。また、上記ニッケルスラリーと、上記アミン系溶剤との混合は、例えばプロペラ型撹拌翼を用いて実施することができる。そして、ニッケル粒子どうしの凝集を好適に抑制するという観点から、かかる混合後に超音波機械等によって第1ニッケル溶液中のニッケル粒子を分散させることが好ましい。かかる混合や分散処理は、室温(例えば25℃程度)で所定時間(例えば10~30分間程度)実施されることが好ましい。
【0028】
上記アミン系溶剤の一例としては、n-ドデシルアミン、n-トリデシルアミン、n-テトラデシルアミン、n-ペンタデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、n-へプタデシルアミン、ステアリルアミン、n-ノナデシルアミン等の直鎖構造のアミン化合物;分岐構造のアミン化合物;シクロドデシルアミン等の環状構造のアミン化合物;オレイルアミン等の不飽和構造を含むアミン化合物;等が挙げられる。このなかでも、第1ニッケル分散液中のニッケル粒子どうしの凝集をより好適に抑制するという観点から、上記アミン系溶剤が、n-ドデシルアミン、n-テトラデシルアミン、およびオレイルアミンのうち少なくとも1種から構成されることが好ましい。なお、アミン系溶剤としては、例えば市販のものを特に制限なく用いることができる。特に限定されるものではないが、上記アミン系溶剤の炭素数の上限は、取り扱い易さの観点から、例えば20以下とすることができる。また、上記ニッケル粉末を被覆するアミン化合物の種類と、上記アミン系溶剤の種類とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。上記ニッケル粉末を被覆するアミン化合物の種類と、上記アミン系溶剤の種類とが同じである場合、相互に馴染み易くなるため、好ましい。
【0029】
ここで、上記ニッケルスラリーと上記アミン系溶剤との配合量は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に限定されない。上記アミン系溶剤の全体を100重量部としたとき、上記ニッケルスラリーは、例えば0.01~1重量部であり、0.01~0.1重量部であってもよいし、0.01~0.05重量部であってもよい。
【0030】
次に、ステップs2では、既知量の上記第1ニッケル分散液と、炭素数が8以上であるアルコール系溶剤と、を混合し、第2ニッケル分散液を得る。炭素数が8以上であるアルコール系溶剤を添加することで、第2ニッケル分散液中のニッケル粒子どうしの凝集を好適に抑制することができるため、粗大粒子の濃度を正確に評価することができる。また、上記ニッケルスラリーと、上記アルコール系溶剤との混合は、例えばプロペラ型撹拌翼を用いて実施することができる。そして、ニッケル粒子どうしの凝集を好適に抑制するという観点から、かかる混合後に超音波機械等によって第1ニッケル溶液中のニッケル粒子を分散させることが好ましい。かかる混合や分散処理は、室温(例えば25℃程度)で所定時間(例えば10~30分間程度)実施されることが好ましい。
【0031】
上記アルコール系溶剤の一例としては、n-オクタノール、n-ノナノール、n-デカノール、n-ウンデカノール、n-ドデカノール、n-テトラデカノール等の直鎖構造のアルコール;2-エチルヘキサノール、イソオクタノール等の分岐構造のアルコール;シクロオクタノール、シクロノナノール、シクロデカノール、シクロドデカノール等の環状構造のアルコール;オレイルアルコール等の不飽和構造を含むアミン化合物;等が挙げられる。このなかでも、第2ニッケル分散液中のニッケル粒子どうしの凝集をより好適に抑制するという観点から、上記アルコール系溶剤が、n-オクタノール、n-デカノール、およびn-ドデカノールのうち少なくとも1種から構成される。なお、アミン系溶剤としては、例えば市販のものを特に制限なく用いることができる。特に限定されるものではないが、上記アミン系溶剤の炭素数の上限は、取り扱い易さの観点から、例えば20以下であり、15以下とすることもできる。
【0032】
ここで、上記第1ニッケル分散液と上記アルコール系溶剤との配合量は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に限定されない。上記アミン系溶剤の全体を100重量部としたとき、上記ニッケルスラリーは、例えば0.01~1重量部であり、0.01~0.5重量部であってもよいし、0.01~0.1重量部であってもよい。
【0033】
続いて、ステップs3では、上記第2ニッケル分散液を、最大孔径が300nm以下のメンブレンフィルターに通過させる。かかるメンブレンフィルターとしては、例えば市販のものを特に制限なく用いることができる。また、かかるメンブレンフィルターとしては、例えば、トラックエッジドメンブレンフィルター等を用いることができる。
【0034】
そして、ステップs4では、上記通過させた後の上記メンブレンフィルター上に存在する上記粗大粒子を観察し、上記ニッケルスラリー中の上記粗大粒子の濃度を算出する。ここで、「粗大粒子」とは、粒子の粒子径(典型的には、一次粒子の粒子径)が300nmよりも大きいニッケル粒子のことを意味する。上記粗大粒子の濃度の算出方法は特に限定されず、例えば、上記ニッケルスラリー中のニッケル粒子と、上記メンブレンフィルター上のニッケル粒子(即ち、粗大粒子)の質量をICP法(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法)等によって定量分析し、上記ニッケルスラリー中の上記粗大粒子の含有量(ppm)を算出する方法が挙げられる。また、後述の[試験例]で説明するように、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて、上記粗大粒子の濃度を算出することもできる。例えば、FE-SEMによると、上記粗大粒子を精度高く観察することができるため、好ましい。
【0035】
例えば、従来の粗大粒子の評価方法では、評価に用いるニッケル溶液中でニッケル粒子どうしが凝集した凝集粒子が生じやすく、これによって、ニッケルスラリー中の粗大粒子の濃度を正確に算出できないというような課題があった。これに対して、本発明者が鋭意検討した結果、上記構成の評価工程(ニッケルスラリーの評価方法に相当)によると、上述したような課題が解消し得ることを見出した。具体的には、第1ニッケル分散液調製工程において、ニッケルスラリーと炭素数12以上のアミン系溶剤とを混合して第1ニッケル分散液を調製し、さらに、第2ニッケル分散液調製工程において、上記第1ニッケル分散液と炭素数8以上のアルコール系溶剤とを混合して第2ニッケル分散液を調製することによって、ニッケル粒子の凝集が好適に抑制されるように工夫している。即ち、ここで開示されるニッケルスラリーの評価方法によると、ニッケルスラリー中の粗大粒子の濃度を信頼性高く評価することができる。
【0036】
(S3:選択工程)
上述したように、本工程では、上記評価工程において、上記粗大粒子の濃度が所定値以下であったときは選択し、該粗大粒子の濃度が所定値よりも大きいときは選択しない。ここで、かかる所定値は、上記ニッケルスラリーを適用する対象等によって適宜決定することが好ましい。かかる所定値は、例えば1000ppmであってもよいし、800ppmであってもよいし、600ppmであってもよい。このように、選択工程で選択されたニッケルスラリーは、粗大粒子の濃度が所定値以下であることが信頼性高く保証されたニッケルスラリーであるため、例えば電子部品の内部電極の形成等に好適に使用することができる。
【0037】
<ニッケルスラリー>
上述したようなニッケルスラリーの製造方法によると、ニッケルスラリー中の粗大粒子の濃度が所定値以下であることが信頼性高く保証された高品質なニッケルスラリーを得ることができる。例えば、粗大粒子が所定値以上存在するニッケルスラリーを、電子部品(具体的には、積層セラミックコンデンサ:MLCC等)における内部電極層の形成に用いた場合、該内部電極層において短絡欠陥が生じ得るおそれがあるため、好ましくない。したがって、かかるニッケルスラリーによると、例えば内部電極層における短絡欠陥が好適に抑制された高品質な電子部品を得ることができる。
【0038】
ニッケルスラリーにおけるニッケル粉末のCV値は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、例えば0.2以下であり、ニッケル粉末を構成するニッケル粒子どうしの凝集を好適に抑制するという観点から、好ましくは0.15以下であり、より好ましくは0.1以下である。ここで、かかるCV値(変動係数)は、ニッケル粉末の平均粒子径に対する標準偏差σの比(標準偏差σ/平均粒子径)を意味し、CV値が小さい程、ニッケル粉末を構成するニッケル粒子が均一であるということができる。また、CV値が小さい(換言すると、粒子が均一である)ニッケル粉末によると、ニッケル粒子どうしの凝集を好適に抑制することができるため、好ましいとされている。
【0039】
ニッケルスラリー中のニッケル粒子の含有量は特に制限されないが、ニッケルスラリーの全体を100重量部としたとき、概ね30~90重量部程度(例えば、40~80重量部程度)であることが好ましい。また、ニッケルスラリー中の媒体の含有量は特に制限されないが、ニッケルスラリーの全体を100重量部としたとき、概ね10~70重量部程度(例えば、20~60重量部程度)であることが好ましい。かかるニッケルスラリーの粘度は特に制限されないが、概ね10~100mPa・s程度(例えば、20~50mPa・s程度)であることが好ましい。かかる粘度は、例えば市販の粘度計によって測定することができる。
【0040】
また、ここで開示されるニッケルスラリーは、さらに必要に応じてバインダ(例えば、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、アミン系樹脂、アルキド系樹脂、エチルセルロース等のセルロース系樹脂)、導電材、他の粉体材料(例えば、チタン酸バリウム)分散剤(例えば、カルボン酸系分散剤)、粘度調整剤等の成分等を添加することができる。
【0041】
以下、ここで開示されるに関する試験例について説明するが、本開示をかかる試験例に限定することを意図したものではない。
【0042】
[試験例]
以下の試験例では、例1~9の9種類のニッケルスラリーを合成し、各々のニッケルスラリーの評価を行った。
【0043】
<ニッケルスラリーの合成>
(例1,2,6~8に係るニッケルスラリーの合成)
水酸化カリウム(富士フィルム和光純薬社製)31.14gと、ヒドラジン一水和物(富士フィルム和光純薬社製)55.56gとを混合し、第1溶液を作製した。次に、塩化ニッケル六水和物(富士フィルム和光純薬社製)26.38gと、エタノール(富士フィルム和光純薬社製)789gとを混合し、第2溶液を作製した。続いて、上記第1溶液を室温(25℃程度)で激しく撹拌しながら上記第2溶液に注ぎ、2時間程度反応させた。そして、得られた粉末をアセトン(富士フィルム和光純薬社製)で洗浄した後、50℃で1時間乾燥させることで、ニッケル粉末5.5gを得た。なお、得られたニッケル粉末の平均粒子径は、53nmであった。次に、上記ニッケル粉末5gをn-ドデシルアミン(東京化成工業社製,以下同様)161.2gと混合し、窒素雰囲気下で10分間、100℃で加熱した。その後、かかる混合溶液を50℃まで自然冷却した。このようにして、粉末の表面の少なくとも一部がn-ドデシルアミンによって被覆されたニッケル粉末を含む、例1,2,6~8に係るニッケル粉末/n-ドデシルアミンスラリー(ニッケルスラリー)を得た。ここで、かかるニッケルスラリーは、該ニッケルスラリー中のニッケル粉末の濃度が80重量%となるように調整した。
【0044】
(例3および4に係るニッケルスラリーの合成)
n-ドデシルアミンの替わりに、n-テトラデシルアミン(東京化成工業社製)を用いたこと以外は例1に係るニッケルスラリーの合成方法と同様にして、粉末の表面の少なくとも一部がn-テトラデシルアミンによって被覆されたニッケル粉末を含む、例3および例4に係るニッケルスラリーを合成した。なお、得られたニッケル粉末の平均粒子径は、53nmであった。
【0045】
(例5に係るニッケルスラリーの合成)
酢酸ニッケル・四水和物(関西触媒化学社製品,以下同様)15kgと、オレイルアミン(花王社製品,以下同様)56kgとを反応容器内で混合し、前駆体溶液を合成した。ここで、反応容器内は窒素ガスを流すことで不活性雰囲気とした。かかる前駆体溶液を200℃で4時間加熱した後、温度を210℃に昇温して1時間加熱した。そして、反応容器を50℃まで冷却することによって、粉末の表面の少なくとも一部がオレイルアミンによって被覆されたニッケル粉末を含む、例5に係るニッケル粉末/オレイルアミンスラリー(ニッケルスラリー)を3.6kg得た。ここで、かかるニッケルスラリーは、該ニッケルスラリー中のニッケル粉末の濃度が80重量%となるように調整した。また、得られたニッケル粉末の平均粒子径は、113nmであった。
【0046】
(例9に係るニッケルスラリーの合成)
ニッケル粉末と、n-ドデシルアミンとを反応させなかった(換言すると、ニッケル粉末をアミン化合物によって被覆しなかった)こと以外は例1に係るニッケルスラリーの合成方法と同様にして、例9に係るニッケル粉末を合成した。なお、得られたニッケル粉末の平均粒子径は、53nmであった。
【0047】
なお、ニッケル粉末の平均粒子径は、以下のようにして求めた。先ず、FE-SEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製のSU-8200)を使用し、5万倍の視野のうちから5枚の画像を抽出し、ニッケル粒子を無作為的に1000個抽出して、その投影面積を求めた。これと同じ面積を有する円の直径(Heywood径)を計測した。そして、個数基準の粒度分布における積算50%粒子径(D50)を、平均粒子径(nm)として算出した。
【0048】
<評価用ニッケルスラリーの調製>
(例1に係る評価用ニッケルスラリーの調製)
上記のとおり合成した例1に係るニッケルスラリー0.06gと、n-ドデシルアミン(第1分散体に相当)61gとを室温で混合し、超音波機械にて10分間分散させることによって、第1ニッケル分散液を得た。次に、かかる第1ニッケル分散液0.32gと、n-デカノール(第2分散体に相当)28.5gとを室温で混合し、超音波機械にて10分間分散させることによって、第2ニッケル分散液を得た。このようにして、例1に係る評価用ニッケルスラリーを得た。
【0049】
(例2~5に係る評価用ニッケルスラリーの調製)
第1ニッケル分散液の調製時に用いるアミン化合物の種類および第2ニッケル分散液の調製時に用いるアルコールの種類を表1に示すとおりとしたこと以外は例1に係る評価用ニッケルスラリーの調製方法と同様にして、例2~5に係る評価用ニッケルスラリーを調製した。
【0050】
(例6に係る評価用ニッケルスラリーの調製)
上記のとおり合成した例6に係るニッケルスラリーをそのまま例6に係る評価用ニッケルスラリーとした。
【0051】
(例7に係る評価用ニッケルスラリーの調製)
ニッケルスラリーと、n-ドデシルアミン(アミン系溶剤)との混合を行わなかったこと以外は例1に係る評価用ニッケルスラリーの調製方法と同様にして、例7に係る評価用ニッケルスラリーを調製した。
【0052】
(例8に係る評価用ニッケルスラリーの調製)
第2ニッケルスラリーと、n-デカノール(アルコール系溶剤)との混合を行わなかったこと以外は例1に係る評価用ニッケルスラリーの調製方法と同様にして、例8に係る評価用ニッケルスラリーを調製した。
【0053】
(例9に係る評価用ニッケルスラリーの調製)
上記のとおり合成した例9に係るニッケル粉末0.48gと、n-テトラデシルアミン(第1分散体に相当)61gとを室温で混合し、超音波機械にて10分間分散させることによって、第1ニッケル分散液を得た。次に、かかる第1ニッケル分散液0.32gと、n-デカノール(第2分散体に相当)28.5gとを室温で混合し、超音波機械にて10分間分散させることによって、第2ニッケル分散液を得た。このようにして、例9に係る評価用ニッケルスラリーを得た。
【0054】
<ニッケルスラリーの評価>
上記のとおり調製した各例に係る評価用ニッケルスラリー全量と、市販の最大孔径が300nm以下である複数の孔を有するトラックエッジドメンブレンフィルターに通した。かかるメンブレンフィルターとしては、サイティバ社製品のニュークリポアメンブレン0.2μmを使用した。そして、メンブレンフィルターの上部における横×縦:24μm×18.5μmの領域を30箇所選択し、該30箇所の領域(
図5の四角枠部分に対応。領域の面積は、30×24μm×18.5μm=0.01332mm
2)をFE-SEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製のS-8200)を用いて倍率:5千倍で観察することによって、粗大粒子濃度を測定した。
【0055】
ここで、例1を例にして、粗大粒子濃度の算出方法の詳細について説明する。先ず、第1ニッケル分散液について考える。ニッケルスラリー中のニッケル粒子濃度が80重量%であることを考慮すると、ニッケルスラリー0.06g中のニッケル粒子は0.048g(=0.8×0.06g)であり、n-ドデシルアミンは0.012g(=0.2×0.06g)である。そして、第1ニッケル分散液中のニッケル粒子濃度は、0.079%(={0.048/(0.048+61)}×100%)となる。また、第1ニッケル分散液中のニッケル粒子の重量は、0.00025g(=(0.079/100)×0.32g)であり、n-ドデシルアミンの重量は、0.31975g(=0.32-0.00025g)となる。次に、第2ニッケル分散液については、第2ニッケル分散液中のニッケル粒子の重量は、0.00025g、n-ドデシルアミンの重量は、0.31975g、n-デカノールの重量は28.5gとなる。続いて、例1に係るニッケル粉末の平均粒子径は53nmであることを考慮すると、ニッケル粒子1個当たりの平均体積は、7.79×10―17cm3(=(4/3)×3.14×{(0.053/2)×(1/10000)}3cm3)となる。そして、ニッケル粒子の密度は8.9g/cm3であるため、ニッケル粒子1個当たりの平均質量は、6.93×10―16g(=8.9×7.79×10―17g)となる。つまり、第2ニッケル分散液中のニッケル粒子の個数は、3.6×1011個(=0.00025/(6.93×10―16)個)となる。
【0056】
図3は、粗大粒子濃度の算出方法について説明するための説明図である。
図3中の1は、メンブレンフィルターを示しており、10は、第2ニッケル分散液を通過させたスポットを示している。本試験例では、Pは47mmであり、Qは35mmとしている。メンブレンフィルター1の面積は、961.625mm
2(=3.14×(35/2)×(35/2)mm
2)となる。次に、メンブレンフィルター1の四角枠部分を切り取り、FE-SEMで倍率:5千倍で30視野観察した。かかる切り出した四角枠部分における1視野あたりの面積は、444μm
2(=18.5μm×24μm)であるため、該四角枠部分の面積は、0.01332mm
2(=30×444×10
―6mm
2)である。そして、かかる四角枠部分を通過したニッケル粒子の個数は、4986559個(=(0.01332/961.625)×3.6×10
11個)となる。そして、30個に切り分けた各メンブレンフィルターについて、FE-SEMによって残存粒子(即ち、粗大粒子)の個数を数えたところ、合計で609個の粗大粒子が確認された。つまり、例1に係る粗大粒子濃度は、122ppm(=(609/4986559)×1000000ppm)となる。例2~5に係るニッケルスラリー中の粗大粒子濃度に関しても、例1を参照して算出することができる。結果を表1の該当欄に示した。
【0057】
なお、例1~5では、メンブレンフィルターの上部をFE-SEMを用いて倍率:5千倍で観察した際に、ニッケル粒子どうしが凝集した凝集粒子が含まれていないことが確認され、粗大粒子の濃度を正確に算出することができた。これに対して、例6~8では、評価用スラリーをメンブレンフィルターに通過させた際にニッケル粒子どうしの凝集によって目詰まりが生じ、粗大粒子の濃度を算出することができなかった。そして、例9では、メンブレンフィルター上のニッケル粒子どうしが凝集しており、粗大粒子の濃度を算出することができなかった。表1の「評価性」の欄には、粗大粒子濃度を算出することができた例に対して評価性「可」、粗大粒子濃度を算出することができなかった例に対して評価性「不可」と記載している。
【0058】
【0059】
表1に示すように、ニッケルスラリーの評価において、既知量のニッケルスラリーと、炭素数が12以上であるアミン系溶剤と、を混合し、第1ニッケル分散液を得る、第1ニッケル分散液調製工程;既知量の上記第1ニッケル分散液と、炭素数が8以上であるアルコール系溶剤と、を混合し、第2ニッケル分散液を得る、第2ニッケル分散液調製工程;上記第2ニッケル分散液を、最大孔径が300nm以下のメンブレンフィルターに通過させる、通過工程;および、上記通過させた後の上記メンブレンフィルター上に存在する上記粗大粒子を観察し、上記第2ニッケル分散液中の上記粗大粒子の濃度を算出する、粗大粒子濃度の算出工程;を包含する例1~5に係るニッケルスラリーの評価方法によると、第1ニッケル分散液調製工程および/または第2ニッケル分散液調製工程を含まない例6~8に係るニッケルスラリーの評価方法や、アミン化合物が被覆されていないニッケル粉末を用いる例9に係るニッケルスラリーの評価方法と比較して、粗大粒子濃度を好適に算出できることが確認された。即ち、ここで開示されるニッケルスラリーの評価方法によると、ニッケルスラリー中の粗大粒子濃度を信頼性高く評価することができる。また、ここで開示されるニッケルスラリーの評価方法を包含するニッケルスラリーの製造方法によると、ニッケルスラリー中の粗大粒子の濃度が所定値以下(例えば、1000ppm以下)であることをより信頼性高く保証することができる。これによって、ニッケルスラリー中の粗大粒子の濃度が所定値以下であることが信頼性高く保証された、高品質なニッケルスラリーを提供することができる。
【0060】
以上、本開示の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0061】
以上のとおり、ここで開示される技術の具体的な態様として、以下の各項(item)に記載のものが挙げられる。
項1:ニッケル粉末と、該ニッケル粉末を分散させる分散媒と、を含むニッケルスラリーの製造方法であって、以下の工程:上記ニッケル粉末と、上記分散媒と、を含むニッケルスラリーを用意する用意工程,ここで、上記ニッケル粉末は、アミン化合物によって被覆されている;上記ニッケルスラリー中の、粒子径が300nmよりも大きい粗大粒子の濃度を評価する、評価工程;および、上記評価工程において、上記粗大粒子の濃度が所定値以下であったときは選択し、該粗大粒子の濃度が所定値よりも大きいときは選択しない、選択工程;を包含し、ここで、上記評価工程は、既知量の上記ニッケルスラリーと、炭素数が12以上であるアミン系溶剤と、を混合し、第1ニッケル分散液を得ること;既知量の上記第1ニッケル分散液と、炭素数が8以上であるアルコール系溶剤と、を混合し、第2ニッケル分散液を得ること;上記第2ニッケル分散液を、最大孔径が300nm以下のメンブレンフィルターに通過させること;および、上記通過させた後の上記メンブレンフィルター上に存在する上記粗大粒子を観察し、上記ニッケルスラリー中の上記粗大粒子の濃度を算出すること;を包含する、ニッケルスラリーの製造方法。
項2:上記アミン系溶剤は、n-ドデシルアミン、n-テトラデシルアミン、およびオレイルアミンからなる群から選択される少なくとも1種である、項1に記載のニッケルスラリーの製造方法。
項3:上記アルコール系溶剤は、n-オクタノール、n-デカノール、およびn-ドデカノールからなる群から選択される少なくとも1種である、項1または項2に記載のニッケルスラリーの製造方法。
項4:上記メンブレンフィルター上に存在する上記粗大粒子の観察は、電界放射型走査電子顕微鏡を用いて行う、項1~項3のいずれか一つに記載のニッケルスラリーの製造方法。
項5:アミン化合物で被覆されたニッケル粉末と、該ニッケル粉末を分散させる分散媒と、を含むニッケルスラリーにおいて、粒子径が300nmよりも大きい粗大粒子の濃度を評価する、ニッケルスラリーの評価方法であって、以下の工程;既知量の上記ニッケルスラリーと、炭素数が12以上であるアミン系溶剤と、を混合し、第1ニッケル分散液を得る、第1ニッケル分散液調製工程;既知量の上記第1ニッケル分散液と、炭素数が8以上であるアルコール系溶剤と、を混合し、第2ニッケル分散液を得る、第2ニッケル分散液調製工程;上記第2ニッケル分散液を、最大孔径が300nm以下のメンブレンフィルターに通過させる、通過工程;および、上記通過させた後の上記メンブレンフィルター上に存在する上記粗大粒子を観察し、上記第2ニッケル分散液中の上記粗大粒子の濃度を算出する、粗大粒子濃度の算出工程;を包含する、ニッケルスラリーの評価方法。
項6:上記アミン系溶剤は、n-ドデシルアミン、n-テトラデシルアミン、およびオレイルアミンからなる群から選択される少なくとも1種である、項5に記載のニッケルスラリーの評価方法。
項7:上記アルコール系溶剤は、n-オクタノール、n-デカノール、およびn-ドデカノールからなる群から選択される少なくとも1種である、項5または項6に記載のニッケルスラリーの評価方法。
項8:上記メンブレンフィルター上に存在する上記粗大粒子の観察は、電界放射型走査電子顕微鏡を用いて行う、項5~項7のいずれか一つに記載のニッケルスラリーの評価方法。
【符号の説明】
【0062】
1 メンブレンフィルター
10 スポット