(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116964
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/06 20060101AFI20240821BHJP
B60K 6/46 20071001ALI20240821BHJP
B60W 20/19 20160101ALI20240821BHJP
B60W 20/20 20160101ALI20240821BHJP
F02D 29/06 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
B60W10/06 900
B60K6/46 ZHV
B60W20/19
B60W20/20
F02D29/06 D
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022850
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鳥田 博幸
(72)【発明者】
【氏名】中本 和男
(72)【発明者】
【氏名】山本 笙太
【テーマコード(参考)】
3D202
3G093
【Fターム(参考)】
3D202AA07
3D202BB12
3D202CC02
3D202CC35
3D202CC37
3D202CC42
3D202DD05
3D202DD17
3G093AA07
3G093BA15
3G093BA21
3G093BA22
3G093CA02
3G093DA01
3G093DA06
3G093DB05
3G093DB15
3G093DB19
3G093DB20
3G093EA05
(57)【要約】
【課題】シリーズ方式のハイブリッド車両において、エンジンF/C運転状態から加速する場合に、スムーズな加速を実現する。
【解決手段】ハイブリッド車両の制御装置は、内燃機関と、内燃機関の動作時に内燃機関の動力を電力に変換可能である発電用電動機と、電力を用いて駆動輪に走行のための駆動力を供給する駆動用電動機と、発電用電動機および駆動用電動機に電力を出力可能な電池と、を備える。そして、内燃機関への燃料供給を停止させつつ発電用電動機を力行させて内燃機関を回転させるモータリング状態からハイブリッド車両の加速要求があって内燃機関へ燃料を供給して始動させる始動制御において、必要な駆動力から内燃機関の目標回転数を算出し、内燃機関の実回転数が目標回転数よりも少ない場合、内燃機関への燃料供給開始後の所定時間内であれば、内燃機関の回転数を保持する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料によって動作する内燃機関と、前記内燃機関の動作時に前記内燃機関の動力を電力に変換可能であるとともに前記内燃機関の非動作時に電池からの電力を用いて前記内燃機関を始動可能な発電用電動機と、電力を用いて駆動輪に走行のための駆動力を供給する駆動用電動機と、前記発電用電動機および前記駆動用電動機に電力を出力可能な前記電池と、を備えるハイブリッド車両の制御装置であって、
前記内燃機関への燃料供給を停止させつつ前記発電用電動機を力行させて前記内燃機関を回転させるモータリング状態から前記ハイブリッド車両の加速要求があって前記内燃機関へ燃料を供給して始動させる始動制御において、必要な駆動力から前記内燃機関の目標回転数を算出し、前記内燃機関の実回転数が前記目標回転数よりも少ない場合、前記内燃機関への燃料供給開始後の所定時間内であれば、前記内燃機関の回転数を保持する、ハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
運転者によるアクセルペダルの操作量に応じたアクセル開度に対応する駆動力から前記内燃機関の到達回転数を算出し、前記内燃機関の前記実回転数が前記目標回転数よりも多い場合であって、前記到達回転数が前記実回転数よりも多いときは、前記所定時間内であれば、前記内燃機関の回転数を保持する、請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記内燃機関の前記到達回転数が前記実回転数よりも少ない場合であって、前記到達回転数が前記目標回転数よりも多いときは、前記所定時間内であれば、前記内燃機関の回転数を保持する、請求項2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の動力源を備えるハイブリッド車両に搭載されるシステムとして、例えば、いわゆるシリーズ方式のハイブリッドシステムがある。シリーズ方式のハイブリッドシステムは、例えば、エンジンと、エンジンの動力で発電する発電モータと、走行のための駆動力を発生する駆動モータと、駆動モータなどに供給される電力を蓄える電池(バッテリ)と、を含む。以下、このようなシリーズ方式のハイブリッドシステムが搭載されたハイブリッド車両を、単に「ハイブリッド車両」と称する。また、電力出力を単に「電力」や「出力」とも称する。
【0003】
ハイブリッド車両は、EV(Electric Vehicle)走行と、HV(Hybrid Vehicle)走行と、のいずれかによって走行する。EV走行では、発電モータによる発電を行わずに、電池から供給される電力のみによって走行する。また、HV走行では、エンジンの動力によって発電モータにより発電された電力と、電池から供給される電力と、の両方によって走行する。
【0004】
そして、EV走行時に、電池出力が、必要な電力よりも小さくなった場合、エンジンを始動してHV走行に切り替える。必要な電力とは、例えば、走行に必要な電力、エンジンの始動時に必要な電力、マージン、損失(各種エネルギー損失)、電機負荷などの合計である。
【0005】
また、ハイブリッド車両の走行パターンは、大別して以下の(1)~(3)である。
(1)「必要な電力<電池出力」:EV走行(エンジン停止)
(2)「必要な電力>電池出力」かつ「エンジン始動完了前」:HV走行
(「電池出力」から「エンジンの始動時に必要な電力」などを引いた電力で走行)
(3)「必要な電力>電池出力」かつ「エンジン始動完了後」:HV走行
(「電池出力」と「エンジンの運転により発電した電力」を足した電力で走行)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
また、ハイブリッド車両では、エンジンがF/C(フューエルカット:燃料供給停止)で運転している状態(エンジンF/C運転状態)から加速しようとする場合がある。なお、エンジンF/C運転状態になる場合とは、例えば、電池の充電が満タンで電力を消費するために発電モータを動かす場合などである。
【0008】
ハイブリッド車両でエンジンF/C運転状態から加速しようとする場合、例えば、エンジンの実回転数と目標回転数(必要な駆動力から算出)の大小関係や、エンジンと発電モータの応答性(応答速度)の違いなどによって、ハイブリッド車両に不要な加減速(加速や減速)が発生する場合がある(詳細は後述)。つまり、スムーズな加速が実現できない場合がある。
【0009】
そこで、本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであって、シリーズ方式のハイブリッド車両において、エンジンF/C運転状態から加速する場合に、スムーズな加速を実現することができるハイブリッド車両の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するために、本発明のハイブリッド車両の制御装置は、燃料によって動作する内燃機関と、前記内燃機関の動作時に前記内燃機関の動力を電力に変換可能であるとともに前記内燃機関の非動作時に電池からの電力を用いて前記内燃機関を始動可能な発電用電動機と、電力を用いて駆動輪に走行のための駆動力を供給する駆動用電動機と、前記発電用電動機および前記駆動用電動機に電力を出力可能な前記電池と、を備える。そして、前記内燃機関への燃料供給を停止させつつ前記発電用電動機を力行させて前記内燃機関を回転させるモータリング状態から前記ハイブリッド車両の加速要求があって前記内燃機関へ燃料を供給して始動させる始動制御において、必要な駆動力から前記内燃機関の目標回転数を算出し、前記内燃機関の実回転数が前記目標回転数よりも少ない場合、前記内燃機関への燃料供給開始後の所定時間内であれば、前記内燃機関の回転数を保持する。
【0011】
上記構成によれば、内燃機関がF/Cで運転している状態から加速する場合に、少なくとも、上記条件が満たされたときには、前記所定時間内であれば内燃機関の回転数を保持することで、ハイブリッド車両に不要な加減速が発生するのを回避して、スムーズな加速を実現することができる。
【0012】
また、前記ハイブリッド車両の制御装置において、運転者によるアクセルペダルの操作量に応じたアクセル開度に対応する駆動力から前記内燃機関の到達回転数を算出し、前記内燃機関の前記実回転数が前記目標回転数よりも多い場合であって、前記到達回転数が前記実回転数よりも多いときは、前記所定時間内であれば、前記内燃機関の回転数を保持する。
【0013】
上記構成によれば、運転者によるアクセルペダルの操作量を踏まえて、上記条件が満たされた場合には、前記所定時間内であれば内燃機関の回転数を保持することで、ハイブリッド車両に不要な加減速が発生するのを回避して、スムーズな加速を実現することができる。
【0014】
また、前記ハイブリッド車両の制御装置において、前記内燃機関の前記到達回転数が前記実回転数よりも少ない場合であって、前記到達回転数が前記目標回転数よりも多いときは、前記所定時間内であれば、前記内燃機関の回転数を保持する。
【0015】
上記構成によれば、さらに上記条件が満たされた場合には、前記所定時間内であれば内燃機関の回転数を保持することで、ハイブリッド車両に不要な加減速が発生するのを回避して、スムーズな加速を実現することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、内燃機関がF/Cで運転している状態から加速する場合に、所定の条件が満たされたときに、前記所定時間内であれば、内燃機関の回転数を保持することで、ハイブリッド車両に不要な加減速が発生するのを回避して、スムーズな加速を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施形態のハイブリッド車両の要部構成の例を示す図である。
【
図2】
図2は、第1の制御概要例において、変更前(従来技術)と変更後(実施形態)の各パラメータの経時的推移の様子を示すグラフである。
【
図3】
図3は、第2の制御概要例において、変更前(従来技術)と変更後(実施形態)の各パラメータの経時的推移の様子を示すグラフである。
【
図4】
図4は、変更前(従来技術)と変更後(実施形態)の処理を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、実施形態における第1の制御例の説明図である。
【
図6】
図6は、実施形態における第2の制御例の説明図である。
【
図7】
図7は、実施形態における第3の制御例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、図面を参照しながら、本発明のハイブリッド車両の制御装置の実施形態について説明する。なお、以下の実施形態によって本発明が限定されるものではない。また、
図2、
図3、
図5~
図7のグラフにおいて、複数の線が密接している部分の上下関係は、作図の都合などにより、必ずしも実際の数値の大小関係と一致しているわけではない。
【0019】
図1は、実施形態のハイブリッド車両1の要部構成の例を示す図である。
図1を参照しながら、本実施形態にハイブリッド車両1の要部構成について説明する。
【0020】
ハイブリッド車両1は、シリーズ方式のハイブリッドシステム2を搭載している車両である。ハイブリッド車両1は、駆動輪17と、ECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)31と、アクセルセンサ32と、ブレーキスイッチ33と、車速センサ34と、を備える。
【0021】
また、ハイブリッドシステム2は、エンジン11と、発電モータ12(MG1:発電用電動機)と、駆動モータ13(MG2:駆動用電動機)と、電池14と、PCU(Power Control Unit:パワーコントロールユニット)15と、を含む。
【0022】
エンジン11は、例えば、ガソリンエンジン等の内燃機関である。
【0023】
発電モータ12は、エンジン11の動作時にエンジン11の動力を電力に変換可能であるとともに、エンジン11の非動作時に電池14からの電力を用いてエンジン11を始動可能である。
【0024】
駆動モータ13は、電池14からの電力を用いて駆動輪17に走行のための駆動力を供給する。
【0025】
電池14は、発電モータ12および駆動モータ13に電力を出力可能な構成である。
【0026】
PCU15は、発電モータ12および駆動モータ13の駆動を制御するためのユニットである。PCU15は、第1インバータ21と、第2インバータ22と、コンバータ23と、を備える。
【0027】
第1インバータ21は、コンバータ23からの直流電力を交流電力に変換し、発電モータ12により発電された交流電力を直流電力に変換するインバータ装置である。
【0028】
第2インバータ22は、コンバータ23からの直流電力を交流電力に変換し、駆動モータ13による回生運転により発生した交流電力を直流電力に変換するインバータ装置である。
【0029】
コンバータ23は、電池14から出力される直流電力を昇圧し、または、第1インバータ21や第2インバータ22から出力される直流電力を降圧するコンバータ装置である。
【0030】
ハイブリッド車両1の走行時には、駆動モータ13が力行運転されて、駆動モータ13が動力を発生する。
【0031】
ハイブリッド車両1の走行時において、駆動モータ13に要求される出力が電池14の出力より小さいときには、ハイブリッド車両1は、EV(Electric Vehicle)走行を行う。すなわち、EV走行では、エンジン11が停止し、発電モータ12による発電を行わず、電池14からコンバータ23および第2インバータ22を介して供給される電力のみによって駆動モータ13が駆動される。
【0032】
一方、ハイブリッド車両1の走行時において、駆動モータ13に要求される出力が電池14の出力を上回るときには、ハイブリッド車両1は、HV(Hybrid Vehicle)走行を行う。すなわち、HV走行では、発電モータ12により発電された電力、および、電池14から供給される電力の両方によって駆動モータ13が駆動される。
【0033】
ECU31は、ハイブリッドシステム2を制御する制御装置である。ハイブリッド車両1は、ECU31を含む複数のECUを搭載している。各ECUは、マイコン(マイクロコントローラユニット)を備える。マイコンには、例えば、CPU(Central Processing Unit)、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリ、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の揮発性メモリなどが内蔵されている。複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に相互接続されている。各ECUには、制御に必要な各種センサが接続されており、その接続されたセンサの検出信号が入力される。また、各ECUには、各種センサから入力される検出信号以外に制御に必要な情報が他のECUから入力される。
【0034】
このようなハイブリッド車両1では、エンジン11がF/Cで運転している状態から加速しようとする場合がある。そのような場合、例えば、エンジンの実回転数と目標回転数の大小関係や、エンジンと発電モータの応答性の違いなどによって、ハイブリッド車両1に不要な加減速が発生する場合がある。つまり、スムーズな加速が実現できない場合がある。
【0035】
そこで、以下では、エンジン11がF/Cで運転している状態から加速する場合に、スムーズな加速を実現することができる技術について説明する。
【0036】
まず、
図2、
図3を参照して、従来技術と本実施形態の制御概要について説明する。
図2は、第1の制御概要例において、変更前(従来技術)と変更後(実施形態)の各パラメータの経時的推移の様子を示すグラフである。以下において、「共通」とは、「従来技術と実施形態で共通」を意味する。
【0037】
符号G11~G14は、エンジン11の回転数である。
符号G11は、共通の目標回転数(瞬間ごとの回転数の目標値)であり、必要な駆動力から算出される。
【0038】
符号G12は、従来技術の実回転数である。
符号G13は、実施形態の到達回転数である。到達回転数とは、運転者によるアクセルペダルの操作量に基づいて算出される、最終的に実現したい回転数である。
符号G14は、実施形態の実回転数である。
【0039】
符号G15は、発電モータ12の従来技術の実トルクである。
符号G16は、発電モータ12の実施形態の実トルクである。
【0040】
符号G17は、エンジン11の共通の実トルクである。
【0041】
符号G18~G21は、駆動モータ13のトルクである。
符号G18は、従来技術の目標トルクである。
符号G19は、従来技術の実トルクである。
【0042】
符号G20は、実施形態の目標トルクである。
符号G21は、実施形態の実トルクである。
【0043】
この例では、エンジン11がF/Cで運転している状態からハイブリッド車両1を加速しようとする場合、従来技術では、当初、エンジン11の実回転数(符号G12)が目標回転数(符号G11)より大きいので、必要な駆動力から算出する目標回転数(符号G11)が時間帯T1で一旦下がった後に時間帯T2で上がる。そのため、発電モータ12の実トルク(符号G15)が時間帯T1で一旦下がった後に時間帯T2で上がる。
【0044】
その結果、駆動モータ13の実トルク(符号G19)は、時間帯T1で一旦加速側に増加した後に時間帯T2で減速側に低下する。そのため、スムーズな加速が実現できず、例えば、ショック(ハイブリッド車両1の急な加減速)が発生する。
【0045】
一方、実施形態では、所定の条件下(詳細は後述)で、エンジン11の実回転数(符号G14)を時間帯T1、T2で保持(維持)する。これにより、発電モータ12の実トルク(符号G16)は、時間帯T1、T2で一定になる。その結果、駆動モータ13の実トルク(符号G21)は、時間帯T1、T2で一定になり、スムーズな加速が実現し、ショックは発生しない。
【0046】
次に、
図3は、第2の制御概要例において、変更前(従来技術)と変更後(実施形態)の各パラメータの経時的推移の様子を示すグラフである。符号G31~G41は、
図2の符号G11~G21と同様である。
【0047】
この例では、エンジン11がF/Cで運転している状態からハイブリッド車両1を加速しようとする場合、従来技術では、当初、エンジン11の目標回転数(符号G31)と実回転数(符号G32)が時間帯T31で上がる。しかし、一般に、エンジン11の応答性より発電モータ12の応答性のほうが早いので、発電モータ12の実トルク(符号G35)が時間帯T3で上がる。
【0048】
その結果、駆動モータ13の実トルク(符号G39)は、時間帯T3で減速側に低下する。そのため、スムーズな加速が実現できず、例えば、ショックが発生する。
【0049】
一方、実施形態では、所定の条件下(詳細は後述)で、エンジン11の実回転数(符号G34)を時間帯T3で保持(維持)する。これにより、発電モータ12の実トルク(符号G36)は、を時間帯T3で一定になる。その結果、駆動モータ13の実トルク(符号G41)は、時間帯T3で一定になり、スムーズな加速が実現し、ショックは発生しない。
【0050】
以下、
図4~
図7を参照して、詳細に説明する。
図4は、(a)変更前(従来技術)と(b)変更後(実施形態)のそれぞれの処理を示すフローチャートである。
【0051】
図4(a)に示すように、変更前(従来技術)の処理では、まず、ステップS101において、エンジン11がF/Cで運転している(モータリング状態)。
次に、ステップS102において、ECU31は、運転者によるハイブリッド車両1の加速のためのアクセルペダルの踏み込み操作を検出する。
【0052】
次に、ステップS103において、ECU31は、必要駆動力からエンジン11の目標回転数を算出する。
【0053】
次に、ステップS104において、ECU31は、エンジン11について、目標回転数に向かってFF(フィードフォワード)制御を実行する。
【0054】
しかし、このような処理では、
図2、
図3で説明したように、スムーズな加速を実現できない場合がある。そこで、本実施形態では、
図4(b)に示す処理を行う。
【0055】
図4(b)のステップS1、S2は、
図4(a)のステップS101、S102と同様である。
【0056】
次に、ステップS3において、ECU31は、必要駆動力からエンジン11の目標回転数を算出するとともに、運転者によるアクセルペダルの操作量に応じたアクセル開度に対応する駆動力からエンジン11の到達回転数を算出する。
【0057】
次に、ステップS4において、ECU31は、エンジン11について、実回転数が目標回転数よりも大きいか否かを判定し、Yesの場合はステップS5に進み、Noの場合はステップS10に進む。
【0058】
ステップS5において、ECU31は、エンジン11について、到達回転数が実回転数よりも大きいか否かを判定し、Yesの場合はステップS6に進み、Noの場合はステップS7に進む。
【0059】
ステップS6において、ECU31は、エンジン11の実回転数を保持(維持)する。
【0060】
ステップS7において、ECU31は、エンジン11について、到達回転数が目標回転数よりも大きいか否かを判定し、Yesの場合はステップS8に進み、Noの場合はステップS9に進む。
【0061】
ステップS8において、ECU31は、エンジン11の実回転数を保持(維持)する。
【0062】
ステップS9において、ECU31は、エンジン11について、目標回転数に向かってFF制御を実行する。
【0063】
ステップS10において、ECU31は、F/Cからの復帰後の経過時間が所定時間内であるか否かを判定し、Yesの場合はステップS11に進み、Noの場合はステップS12に進む。なお、所定時間は、エンジンF/C運転状態からハイブリッド車両1を加速させる場合に、発電モータ12によるエンジン11の回転上昇の開始タイミングをエンジン11の実トルクの立ち上がりに合わせるように、発電モータ12とエンジン11の応答性の違いなどに応じて設定される。
【0064】
ステップS11において、ECU31は、エンジン11の実回転数を保持(維持)する。
【0065】
ステップS12において、ECU31は、エンジン11について、目標回転数に向かってFF制御を実行する。
【0066】
次に、
図5~
図7を参照して、第1の制御例~第3の制御例について説明する。
図5は、実施形態における第1の制御例の説明図である。
図5では、アクセルペダル操作直後において、エンジン11について、実回転数<目標回転数<到達回転数、という大小関係があることを前提とする。
図5(a)は、
図4(b)と同様である。
【0067】
図5(b)は、変更前(従来技術)の制御例である。
符号G51~G53は、エンジン11の回転数である。
符号G51は、目標回転数である。
符号G52は、実回転数である。
符号G53は、到達回転数である。
【0068】
符号G54は、発電モータ12の実トルクである。
符号G55は、エンジン11の実トルクである。
【0069】
時刻t51において、運転者によるハイブリッド車両1の加速のためのアクセルペダルの踏み込み操作を検出する。その後、エンジン11の到達回転数(符号G53)は急峻に上昇し、エンジン11の目標回転数(符号G51)は上昇し、エンジン11の実回転数(符号G52)は目標回転数(符号G51)に追従して上昇する。
【0070】
また、発電モータ12の実トルク(符号G54)は、時刻t51の後に、一旦上がる(
図3参照)。そして、発電モータ12よりも応答性が低い(応答速度が遅い)エンジン11の実トルク(符号G55)は、時刻t52から上昇する。
【0071】
上述のうち、発電モータ12の実トルク(符号G54)が時刻t51の後に一旦上がることが、ハイブリッド車両1のスムーズな加速を実現できない原因の1つである。
【0072】
一方、
図5(c)は、変更後(実施形態)の制御例である。符号G61~G65は、符号G51~G55と同様である。
図5(b)と同様の事項については、説明を適宜省略する。
【0073】
時刻t61において、運転者によるハイブリッド車両1の加速のためのアクセルペダルの踏み込み操作を検出する。その後、エンジン11の到達回転数(符号G63)は急峻に上昇し、エンジン11の目標回転数(符号G61)は上昇するが、エンジン11の実回転数(符号G62)は時刻t62まで変化しない。そのため、時刻t61~t62では、符号D(ステップS11)の処理が実行される。
図5(a)のフローチャートで説明すると、ステップS4でNoとなり、ステップS10でYesとなり、ステップS11でエンジン11の実回転数を保持する。
【0074】
また、エンジン11の実回転数(符号G62)は時刻t62から上昇する(符号E)。
図5(a)のフローチャートで説明すると、ステップS10でNoとなり、ステップS12でエンジン11について目標回転数に向かってFF制御を実行する。
【0075】
そして、発電モータ12の実トルク(符号G64)は、時刻t61の後に、時刻t62まで変化せず、時刻t62から下降する。
【0076】
また、エンジン11の実トルク(符号G65)は、時刻t61から所定時間(符号T4)が経過後の時刻t62から上昇する。
【0077】
このようにして、ハイブリッド車両1のスムーズな加速を実現できる。このために、ECU31は、エンジン11への燃料供給を停止させつつ発電モータ12を力行させてエンジン11を回転させるモータリング状態からハイブリッド車両の加速要求があってエンジン11へ燃料を供給して始動させる始動制御において、必要な駆動力からエンジン11の目標回転数を算出し、エンジン11の実回転数が目標回転数よりも少ない場合、エンジン11への燃料供給開始後の所定時間内であれば、エンジン11の回転数を保持する。
【0078】
次に、
図6は、実施形態における第2の制御例の説明図である。
図6では、アクセルペダル操作直後において、エンジン11について、目標回転数<実回転数<到達回転数、という大小関係があることを前提とする。
図5と同様の事項については、説明を適宜省略する。
【0079】
図6(b)は、変更前(従来技術)の制御例である。符号G71~G75は、
図5(b)の符号G51~G55と同様である。
【0080】
時刻t71において、運転者によるハイブリッド車両1の加速のためのアクセルペダルの踏み込み操作を検出する。その後、エンジン11の到達回転数(符号G73)は急峻に上昇し、エンジン11の目標回転数(符号G71)は一旦下降してから上昇し、エンジン11の実回転数(符号G72)は目標回転数(符号G71)に追従して一旦下降してから上昇する。
【0081】
また、発電モータ12の実トルク(符号G74)は、時刻t71の後に、一旦下降してから一旦上昇する。また、エンジン11の実トルクは、時刻t72から上昇する。
【0082】
上述のうち、発電モータ12の実トルク(符号G74)が時刻t71の後に一旦下降してから一旦上昇することが、ハイブリッド車両1のスムーズな加速を実現できない原因の1つである。
【0083】
一方、
図6(c)は、変更後(実施形態)の制御例である。符号G81~G85は、符号G71~G75と同様である。
図6(b)と同様の事項については、説明を適宜省略する。
【0084】
時刻t81において、運転者によるハイブリッド車両1の加速のためのアクセルペダルの踏み込み操作を検出する。その後、エンジン11の到達回転数(符号G83)は急峻に上昇し、エンジン11の目標回転数(符号G81)は一旦下降してから一旦上昇するが、エンジン11の実回転数(符号G82)は時刻t82まで変化しない。そのため、時刻t81~t82では、(符号A(ステップS6)、符号D(ステップS11))の各処理が実行される。
【0085】
図6(a)のフローチャートで説明する。符号A(ステップS6)に至る処理では、ステップS4でYesとなり、ステップS5でYesとなり、ステップS6でエンジン11の実回転数を保持する。また、符号D(ステップS11)に至る処理では、ステップS4でNoとなり、ステップS10でYesとなり、ステップS11でエンジン11の実回転数を保持する。
【0086】
また、エンジン11の実回転数(符号G82)は時刻t82から上昇する(符号E)(
図5と同様)。
【0087】
そして、発電モータ12の実トルク(符号G84)は、時刻t81の後に、時刻t82まで変化せず、時刻t82から下降する。
【0088】
また、エンジン11の実トルク(符号G85)は、時刻t81から所定時間(符号T4)が経過後の時刻t82から上昇する。
【0089】
このようにして、ハイブリッド車両1のスムーズな加速を実現できる。このために、ECU31は、運転者によるアクセルペダルの操作量に応じたアクセル開度に対応する駆動力からエンジン11の到達回転数を算出し、エンジン11の実回転数が目標回転数よりも多い場合(ステップS4でYesの場合)であって、到達回転数が実回転数よりも多いとき(ステップS5でYesのとき)は、所定時間内であれば、エンジン11の回転数を保持する(符号A(ステップS6))。
【0090】
次に、
図7は、実施形態における第3の制御例の説明図である。
図7では、アクセルペダル操作直後において、エンジン11について、目標回転数<実回転数<到達回転数、という大小関係があることを前提とする。
図5、
図6の少なくともいずれかと同様の事項については、説明を適宜省略する。
【0091】
図7(b)は、変更前(従来技術)の制御例である。符号G91~G95は、
図5(b)の符号G51~G55と同様である。
【0092】
時刻t91において、運転者によるハイブリッド車両1の加速のためのアクセルペダルの踏み込み操作を検出する。その後、エンジン11の到達回転数(符号G93)は下降し、エンジン11の目標回転数(符号G91)は一旦下降してから上昇し、エンジン11の実回転数(符号G92)は目標回転数(符号G91)に追従して一旦下降してから上昇する。
【0093】
また、発電モータ12の実トルク(符号G94)は、時刻t91の後に、一旦下降してから一旦上昇する。また、エンジン11の実トルクは、時刻t92から上昇する。
【0094】
上述のうち、発電モータ12の実トルク(符号G94)が時刻t91の後に一旦下降してから一旦上昇することが、ハイブリッド車両1のスムーズな加速を実現できない原因の1つである。
【0095】
一方、
図7(c)は、変更後(実施形態)の制御例である。符号G101~G105は、符号G91~G95と同様である。
図7(b)と同様の事項については、説明を適宜省略する。
【0096】
時刻t101において、運転者によるハイブリッド車両1の加速のためのアクセルペダルの踏み込み操作を検出する。その後、エンジン11の到達回転数(符号G103)は下降し、エンジン11の目標回転数(符号G101)は下降してから上昇する。しかし、エンジン11の実回転数(符号G102)は、到達回転数(符号G103)に追従させるために変化する以外は時刻t102まで変化しない。そのため、時刻t101~t102では、符号A(ステップS6)、符号B(ステップS8)、符号D(ステップS11)の各処理が実行される。
【0097】
図7(a)のフローチャートで説明する。符号A(ステップS6)に至る処理では、ステップS4でYesとなり、ステップS5でYesとなり、ステップS6でエンジン11の実回転数を保持する。符号B(ステップS8)に至る処理では、ステップS4でYesとなり、ステップS5でNoとなり、ステップS7でYesとなり、ステップS8でエンジン11の実回転数を保持する。また、符号D(ステップS11)に至る処理では、ステップS4でNoとなり、ステップS10でYesとなり、ステップS11でエンジン11の実回転数を保持する。
【0098】
また、発電モータ12の実トルク(符号G104)は、時刻t101の後に、時刻t102まで、エンジン11の実回転数(符号G102)の到達回転数(符号G103)に追従させるための変化にともって変化する以外は変化せず、時刻t102から下降する。
【0099】
また、エンジン11の実トルク(符号G105)は、時刻t101から所定時間(符号T4)が経過後の時刻t102から上昇する。
【0100】
このようにして、ハイブリッド車両1のスムーズな加速を実現できる。このために、ECU31は、エンジン11の到達回転数が実回転数よりも少ない場合であって、到達回転数が目標回転数よりも多いときは、前記所定時間内であれば、エンジン11の回転数を保持する。
【0101】
このように、本実施形態のハイブリッド車両1の制御装置によれば、エンジン11がF/Cで運転している状態から加速する場合に、所定の条件が満たされたときには、前記所定時間内であればエンジン11の回転数を保持することで、ハイブリッド車両1に不要な加減速が発生するのを回避して、スムーズな加速を実現することができる。したがって、ハイブリッド車両1における振動や騒音を抑制すするとともに、乗員の乗り心地を良くすることができる。
【0102】
また、運転者によるアクセルペダルの操作量を踏まえて、所定の条件が満たされた場合には、前記所定時間内であればエンジン11の回転数を保持することで、ハイブリッド車両に不要な加減速が発生するのを回避して、スムーズな加速を実現することができる。
【0103】
また、前記所定時間内に発電モータ12の実トルクを不要に上昇させることを回避することで電力を節約し、その分の電力をハイブリッド車両1の加速に使用することができる。
【0104】
また、本実施形態のECU31で実行されるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD(Compact Disc)-ROM(Read Only Memory)、フレキシブルディスク(FD)、CD-R(Recordable)、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータ装置で読み取り可能な記録媒体に記録して提供することができる。また、当該プログラムを、インターネット等のネットワーク経由で提供または配布するようにしてもよい。
【0105】
本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0106】
1…ハイブリッド車両、11…エンジン、12…発電モータ、13…駆動モータ、14…電池、15…PCU、16…駆動系、17…駆動輪、21…第1インバータ、22…第2インバータ、23…コンバータ、31…ECU、32…アクセルセンサ、33…ブレーキスイッチ、34…車速センサ