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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116966
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】ヘテロ積層デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20240821BHJP
   C23C 16/26 20060101ALI20240821BHJP
   C23C 16/30 20060101ALI20240821BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
H01L21/205
C23C16/26
C23C16/30
H01L21/31 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022853
(22)【出願日】2023-02-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、防衛装備庁、安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 賢二郎
【テーマコード(参考)】
4K030
5F045
【Fターム(参考)】
4K030AA01
4K030BA01
4K030BA09
4K030BA11
4K030BA12
4K030BA13
4K030BA15
4K030BA17
4K030BA18
4K030BA22
4K030BA27
4K030BA32
4K030BA33
4K030BB13
4K030CA04
4K030FA10
4K030LA12
5F045AA03
5F045AA06
5F045AB07
5F045AB15
5F045AB31
5F045AC00
5F045AC16
5F045AD09
5F045AD10
5F045AD11
5F045AD12
5F045AD13
5F045AF03
5F045AF07
5F045AF08
5F045AF09
5F045HA11
(57)【要約】
【課題】所望のサイズの原子膜を有するヘテロ積層デバイスの効率的な製造を可能とする。
【解決手段】開示の技術に係るヘテロ積層デバイスの製造方法は、第1の基板上に層状物質からなる第1の原子膜を形成する工程と、第1の原子膜をパターニングする工程と、第1の原子膜上に、第1の原子膜及び第1の基板を部分的に露出させるマスクを形成する工程と、第2の基板上に、第1の原子膜とは異なる層状物質からなる第2の原子膜を形成する工程と、第1の原子膜及び第1の基板の露出部分と第2の原子膜とを密着させる工程と、第2の原子膜の一部をマスクとともに除去する工程と、を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板上に層状物質からなる第1の原子膜を形成する工程と、
前記第1の原子膜をパターニングする工程と、
前記第1の原子膜上に、前記第1の原子膜及び前記第1の基板を部分的に露出させるマスクを形成する工程と、
第2の基板上に、前記第1の原子膜とは異なる層状物質からなる第2の原子膜を形成する工程と、
前記第1の原子膜及び前記第1の基板の露出部分と前記第2の原子膜とを密着させる工程と、
前記第2の原子膜の一部を前記マスクとともに除去する工程と、
を含むヘテロ積層デバイスの製造方法。
【請求項2】
前記第1の原子膜及び前記第2の原子膜は、それぞれ化学気相堆積法を用いた合成によって得られた原子膜である
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第1の原子膜に接続された第1の電極を形成する工程と、
前記第2の原子膜に接続された第2の電極を形成する工程と、
を更に含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第1の原子膜及び前記第2の原子膜は、グラフェン又は層状カルコゲナイドである
請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記マスクは、熱硬化性を有するレジストであり、
前記第1の原子膜及び前記第1の基板の露出部分と前記第2の原子膜とを密着させる工程において、前記レジストの硬化温度よりも低い温度で、前記第1の基板、前記第1の原子膜及び前記第2の原子膜を含む積層体を加熱する
請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記第1の原子膜の構成元素を前記第1の基板上に堆積させることによって、前記第1の原子膜を前記第1の基板上に形成する
請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記第1の基板とは異なる第3の基板上に形成された前記第1の原子膜を、前記第1の基板上に転写することによって前記第1の原子膜を前記第1の基板上に形成する
請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の技術はヘテロ積層デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子材料のパターニングに関する技術として以下の技術が知られている。例えば、特許文献1には、基板上に電子材料の膜を形成する工程を含み、パターニングプロセス中に電子材料の領域を保護するためにフルオロポリマーを使用する方法が記載されている。
【0003】
特許文献2には、横方向エッジで単層グラフェン膜と接触するように単層遷移金属ダイカルコゲナイドを基板上に形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2012/0280216号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2019/0165107号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
原子1個又は数個分の厚みをもつ層状物質であるグラフェン及び遷移金属カルコゲナイド(TMDC)は優れた光学特性、多様な電気特性及び柔軟性を有することから、透明導電膜及びフレキシブルデバイスへの応用が試みられている。最近では、2種類以上の層状物質を組み合わせたヘテロ積層デバイスの作製が盛んに行われている。ヘテロ積層デバイスにおいては、ヘテロ界面における固有の電子状態に由来した現象が観測されている。
【0006】
化学気相堆積法(CVD)等の合成手法によって得られる連続膜を用いたヘテロ積層デバイスの製造方法は未だ確立されていない。このため、現状においては、ヘテロ積層デバイスは、図1A(平面図)及び図1B(断面図)に示すように、バルク結晶から剥離されるフレーク状の原子膜200A及び200Bを積層することで製造される。原子膜の剥片は、粘着テープを用いてバルク結晶から物理的に原子膜を引き剥がすことにより得られる。しかしながら、この手法によって得られる原子膜の厚み(層数)及び形状はランダムであり、得られる原子膜の剥片のサイズは数十ミクロン程度と小さい。また、この手法によればヘテロ積層デバイスを効率的に製造することは困難である。
【0007】
開示の技術は、上記の点に鑑みてなされたものであり、所望のサイズの原子膜を有するヘテロ積層デバイスの効率的な製造を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
開示の技術に係るヘテロ積層デバイスの製造方法は、第1の基板上に層状物質からなる第1の原子膜を形成する工程と、前記第1の原子膜をパターニングする工程と、前記第1の原子膜上に、前記第1の原子膜及び前記第1の基板を部分的に露出させるマスクを形成する工程と、第2の基板上に、前記第1の原子膜とは異なる層状物質からなる第2の原子膜を形成する工程と、前記第1の原子膜及び前記第1の基板の露出部分と前記第2の原子膜とを密着させる工程と、前記第2の原子膜の一部を前記マスクとともに除去する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0009】
開示の技術によれば、所望のサイズの原子膜を有するヘテロ積層デバイスの効率的な製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】ヘテロ積層デバイスの構成の一例を示す平面図である。
図1B図1Aにおける1B-1B線に沿った断面図である。
図2】開示の技術の実施形態に係るヘテロ積層デバイスの構成の一例を示す断面図である。
図3A】開示の技術の実施形態に係るヘテロ積層デバイスの製造方法の一例を示す断面図である。
図3B】開示の技術の実施形態に係るヘテロ積層デバイスの製造方法の一例を示す断面図である。
図3C】開示の技術の実施形態に係るヘテロ積層デバイスの製造方法の一例を示す断面図である。
図3D】開示の技術の実施形態に係るヘテロ積層デバイスの製造方法の一例を示す断面図である。
図3E】開示の技術の実施形態に係るヘテロ積層デバイスの製造方法の一例を示す断面図である。
図3F】開示の技術の実施形態に係るヘテロ積層デバイスの製造方法の一例を示す断面図である。
図3G】開示の技術の実施形態に係るヘテロ積層デバイスの製造方法の一例を示す断面図である。
図3H】開示の技術の実施形態に係るヘテロ積層デバイスの製造方法の一例を示す断面図である。
図4】大気圧CVD法により第1の原子膜を第1の基板上に形成する方法の一例を示す図である。
図5A】転写によって第1の原子膜を第1の基板11に形成する方法の一例を示す図である。
図5B】転写によって第1の原子膜を第1の基板11に形成する方法の一例を示す図である。
図5C】転写によって第1の原子膜を第1の基板11に形成する方法の一例を示す図である。
図5D】転写によって第1の原子膜を第1の基板11に形成する方法の一例を示す図である。
図5E】転写によって第1の原子膜を第1の基板11に形成する方法の一例を示す図である。
図6】基板上に形成されたグラフェンのパターンを示す顕微鏡像である。
図7A】比較例に係るヘテロ積層デバイスの製造方法の一例を示す断面図である。
図7B】比較例に係るヘテロ積層デバイスの製造方法の一例を示す断面図である。
図7C】比較例に係るヘテロ積層デバイスの製造方法の一例を示す断面図である。
図7D】比較例に係るヘテロ積層デバイスの製造方法の一例を示す断面図である。
図7E】比較例に係るヘテロ積層デバイスの製造方法の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、開示の技術の実施形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面において同一または等価な構成要素及び部分には同一の参照符号を付与し、重複する説明は省略する。
【0012】
図2は、開示の技術の実施形態に係るヘテロ積層デバイス1の構成の一例を示す断面図である。ヘテロ積層デバイス1は、第1の基板11と第1の基板11上に設けられた第1の原子膜21と、第1の原子膜21の一部に重なる部分を有して第1の基板11上に形成された第2の原子膜22を含む。第1の原子膜21及び第2の原子膜22は、それぞれ、他方の原子膜と重なっていない部分を有する。
【0013】
第1の基板11は、特に限定されないが、例えば表面にSiO等の熱酸化膜が設けられた熱酸化膜付きシリコン基板であってもよい。また、第1の基板11は、サファイア基板又は酸化マグネシウム基板であってもよい。
【0014】
第1の原子膜21及び第2の原子膜22は、原子1個又は数個分の厚みをもつ層状物質である。第1の原子膜21及び第2の原子膜22の材料は、互いに異なるものである。第1の原子膜21及び第2の原子膜22の材料は、特に限定されないが、例えば、グラフェン、層状カルコゲナイド、hBN(六方晶窒化ホウ素)、ホスフォレン、シリセン、ゲルマネン及びスタネン等の層状物質からなる原子膜である。層状カルコゲナイドの例として、カルコゲン(S、Se、Te)元素及び遷移金属(Mo、Nb、W、Ta、Ti、Zr、Hf、V等)を含む遷移金属ダイカルコゲナイド、カルコゲン元素及び13族元素(Ga、In、Tl)を含む13族カルコゲナイド、カルコゲン元素及び14族元素(Ge、Sn、Pb)を含む14族カルコゲナイド、カルコゲン元素及びビスマスから成るビスマスカルコゲナイド等が挙げられる。
【0015】
ヘテロ積層デバイス1は、第1の原子膜21に接続された第1の電極31と、第2の原子膜22に接続された第2の電極32を有する。第1の電極31は、第1の原子膜21及び第2の原子膜22のうち、第1の原子膜21にのみ接続され、第2の電極32は、第1の原子膜21及び第2の原子膜22のうち、第2の原子膜22にのみ接続されている。第1の電極31及び第2の電極32の材料は、特に限定されないが、例えば、Au、Ag、Cu及びAl等の金属を用いることが可能である。
【0016】
以下において、ヘテロ積層デバイス1の製造方法について説明する。図3A図3Hは、ヘテロ積層デバイス1の製造方法の一例を示す断面図である。
【0017】
初めに、第1の基板11上に第1の原子膜21を形成する(図3A)。第1の原子膜21は、化学気相堆積法(CVD)等の合成手法によって第1の基板11上に直接形成してもよいし、第1の基板11とは別の基板上に形成された第1の原子膜21を、第1の基板11上に転写してもよい。
【0018】
化学気相堆積法(CVD)によって第1の原子膜21を第1の基板11上に直接形成する方法の一例を以下に説明する。この方法では、第1の原子膜21の原料となる前駆体を真空中、不活性ガス雰囲気、あるいは水素を含む不活性ガス雰囲気中で反応させ、第1の基板11上に第1の原子膜21の構成元素を堆積させる。
【0019】
例えば、第1の原子膜21として金属カルコゲナイド膜を合成する場合、前駆体は、目的とする金属カルコゲナイド膜を構成する元素の単体、もしくは、それを含む化合物(酸化物、塩化物、フッ化物、水素化物、有機化合物等)であってもよい。前駆体は、目的とする金属カルコゲナイド膜の種類に応じて選定することが望ましい。金属カルコゲナイド膜は、それを構成する元素をすべて含む1種類の前駆体から合成してもよく、複数の種類の前駆体から合成してもよい。前駆体には、固体(結晶、アモルファス)、液体、気体のいずれを用いてもよい。前駆体として固体又は液体を用いる場合には加熱等により気化させて用いることが望ましい。前駆体の蒸発量は、温度、圧力、前駆体の量(重量、体積)及び前駆体固有の蒸気圧に依存するため、必要とする金属カルコゲナイド膜の厚み及び面積に応じて各パラメータを適宜調整し合成することが望ましい。また、金属カルコゲナイド膜を合成する際の基板の加熱温度は、目的とする金属カルコゲナイド膜の種類、厚み、面積、質に応じて調整することが望ましい。合成時の圧力は大気圧、または減圧のいずれかでよい。
【0020】
第1の原子膜21の合成時における第1の基板11及び前駆体の配置はCVD装置の構成及び形状、合成条件に応じて適宜調整することが望ましい。図4は、石英管状炉50を用いた大気圧CVD法により第1の原子膜21の一例であるMoS膜21Aを第1の基板11上に形成する方法の一例を示す図である。前駆体として三酸化モリブデン(MoO)51及び硫黄(S)52が用いられる。
【0021】
Ar雰囲気に満たした状態の炉内に上流からキャリアガスとしてArガスを100~1000sccm程度導入し続けた状態で、基板温度を500~1000℃、第1の基板11の上流に配置した三酸化モリブデン(MoO)51(1~100mg)の温度を300~600℃に保持し、さらに上流に配置した硫黄(S)52(10~1000mg)の温度を100~200℃に保持する。この例のように、2種類の前駆体を用いる場合には、各前駆体の蒸気圧を考慮した最適な加熱温度を設定することで各前駆体の蒸発量を独立に制御することが望ましい。これにより、第1の原子膜21である金属カルコゲナイド膜の化学量論比(元素組成比)を調整することも可能である。また、気相中で各前駆体同士が反応・析出することを考慮し、第1の基板11と各前駆体との距離や配置を適宜設定することが望ましい。
【0022】
次に、転写によって第1の原子膜21を第1の基板11上に形成する方法の一例を図5A図5Eを参照しつつ説明する。例えばCVDにより、第1の基板11とは異なる基板13上に第1の原子膜21を形成する(図5A)。CVDにより第1の原子膜21を形成する方法は上記したとおりである。なお、基板13は、開示の技術における「第3の基板」の一例である。
【0023】
次に、第1の原子膜21の表面に支持基板14を形成する(図5B)。支持基板14の材料として、ポリマー又は市販のレジストを用いることが可能である。レジストは、スピンコート法により0.1~100μm程度の厚さになるように塗布される。その後、25℃~200℃程度の加熱処理によりレジストを乾燥させる。
【0024】
次に、第1の原子膜21を支持基板14とともに剥離する(図5C)。基板13をエッチャント中に浸漬させることにより基板13と第1の原子膜21との間にエッチャントが浸入し、基板13と第1の原子膜21との界面付近において基板13が溶解され、第1の原子膜21が基板13から剥離される。基板13がサファイアである場合、エッチャントとして水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを用いることができる。基板13が熱酸化膜付きシリコン基板である場合、エッチャントとしてフッ化水素酸を用いることが可能である。その後、支持基板14及び第1の原子膜21を含む積層体を水洗する。
【0025】
次に、支持基板14及び第1の原子膜21を含む積層体の第1の原子膜21側の面を、ヘテロ積層デバイス1を構成する第1の基板11の表面に密着させる(図5D)。第1の原子膜21と第1の基板11とを密着させるには、加熱により界面に含まれる水分を除去することが有効である。加熱温度は例えば25~300℃程度である。
【0026】
次に、支持基板14を溶剤によって溶解させる(図5E)。支持基板14の材料がレジストである場合、溶剤としてアセトンを用いることができる。以上の各工程を経ることにより、第1の原子膜21の第1の基板11への転写が完了する。
【0027】
第1の基板11上に第1の原子膜21を形成した後、第1の原子膜21をパターニングするための第1のマスク41を第1の原子膜21の表面に形成する(図3B)。第1のマスク41の材料は、市販のレジストであってもよい。レジストは、スピンコート法によって塗布され、リソグラフィー技術を用いて所望の形状にパターニングされる。第1のマスク41の材料は、レジストに限らず、パターニング及び除去が容易である他の材料(例えば、ポリマー、金属、半導体等)であってもよい。
【0028】
次に、第1の原子膜21の第1のマスク41から露出した部分を除去する(図3C)。第1の原子膜21の部分的な除去は、例えば酸素プラズマを用いたドライエッチングによって行うことができる。第1の原子膜21の部分的な除去が完了した後、第1のマスク41を除去する。これにより、第1の原子膜21のパターニングが完了する。第1のマスク41の材料がレジストである場合、アセトン等の溶剤を用いて第1のマスク41を除去することができる。
【0029】
次に、第2の原子膜22をリフトオフによりパターニングするための第2のマスク42を第1の基板11上に形成する(図3D)。第2のマスク42は、第1の原子膜21の一部及び第1の基板11の表面の一部を露出させる開口部42Aを有する。第2のマスク42の材料は、市販のレジストであってもよい。レジストは、スピンコート法によって塗布され、リソグラフィー技術を用いて所望の形状にパターニングされる。第2のマスク42の材料は、レジストに限らず、パターニング及び除去が容易である他の材料(例えば、ポリマー、金属、半導体等)であってもよい。
【0030】
次に、第2の基板12上に第2の原子膜22を形成する(図3E)。第2の原子膜22は、第1の原子膜21と同様、CVD等の合成手法によって第2の基板12上に直接形成してもよいし、第2の基板12とは別の基板上に形成された第2の原子膜22を、第2の基板12上に転写してもよい。これらの方法については、第1の原子膜21を形成する場合と同様であるので説明は省略する。
【0031】
次に、第2の基板12及び第2の原子膜22を含む積層体の第2の原子膜22側の面を、第1の基板11及び第1の原子膜21を含む積層体の表面に密着させる。すなわち、第1の原子膜21及び第1の基板11の、第2のマスク42から露出した部分と、第2の原子膜22とが密着させる(図3F)。その後、第1の基板11、第1の原子膜21、第2の原子膜22及び第2の基板12を含む積層体を加熱する。加熱温度は、例えば80~200℃である。第2のマスク42及び第2の基板12の材料が熱硬化性を有するレジストである場合、加熱温度はレジストの硬化温度よりも低い温度であることが好ましい。加熱により、第2の原子膜22と、第1の原子膜21及び第1の基板11との密着が強固なものとなる。
【0032】
次に、第2のマスク42を溶解させることで、第2の原子膜22の、第1の原子膜21及び第1の基板11と密着している部分以外の部分を第2のマスク42とともに除去する。すなわち、第2の原子膜22はリフトオフによりパターニングされる(図3G)。第2のマスク42の材料がレジストである場合、溶剤としてアセトンを用いることができる。第2の基板12の材料が第2のマスク42の材料と同じである場合、第2の基板12を第2のマスク42とともに除去することができる。
【0033】
次に、第1の電極31及び第2の電極32を形成する(図3H)。第1の電極31及び第2の電極32は、レジストのパターニング、金属膜の堆積及びリフトオフを順次行うことで形成される。第1の電極31は、第1の原子膜21の端部において第1の原子膜21に接続され、第2の電極32は、第2の原子膜22の端部において第2の原子膜22に接続される。以上の各工程を経ることにより、ヘテロ積層デバイス1が完成する。
【0034】
図3D図3Gに示す工程(すなわち原子膜の転写及びリフトオフによるパターニング)を実証するために予備実験を行った。熱酸化膜付きシリコン基板の表面にレジスト(東京応化工業製TSMR(登録商標))を形成した。レジストに露光・現像処理を施し、レジストのパターニングを行った。PMMA(ポリメチルメタクリレート)を材料とする支持基板上に単層のグラフェンを形成した。単層のグラフェンはCVDにより合成した。グラフェンを、パターニングされたレジストが形成された基板に密着させ、80℃で加熱した。その後、レジストをアセトンにより溶解することで、グラフェンの一部をレジストとともに除去した。これにより、基板上にグラフェンのパターンを形成した。図6は、上記の方法によって基板上に形成されたグラフェンのパターンを示す顕微鏡像である。図6に示すように、レジストのパターンに応じたパターンを有するグラフェン200を基板100上に形成することができた。
【0035】
以上のように、開示の技術の実施形態に係るヘテロ積層デバイス1の製造方法は、第1の基板11上に層状物質からなる第1の原子膜21を形成する工程と、第1の原子膜21をパターニングする工程と、第1の原子膜21上に、第1の原子膜21及び第1の基板を部分的に露出させるマスクを形成する工程と、第2の基板12上に層状物質からなる第2の原子膜22を形成する工程と、第1の原子膜21及び第1の基板11の露出部分と第2の原子膜22とを密着させる工程と、第2の原子膜22の一部をマスクとともに除去する工程と、を含む。
【0036】
本実施形態に係る製造方法によれば、第1の原子膜21及び第2の原子膜22はCVD等の合成手法によって形成されるので、バルク結晶から剥離されるフレーク状の原子膜を用いることなくヘテロ積層デバイスを製造することができる。したがって、本実施形態に係る製造方法によれば、所望のサイズのヘテロ積層デバイスの効率的な製造が可能となる。
【0037】
ここで、図7A図7Eは、比較例に係るヘテロ積層デバイスの製造方法の一例を示す断面図である。第1の基板11上に、第1の原子膜21を形成する。その後、第1の原子膜21をパターニングする(図6A)。これら工程は、上記した開示の技術の実施形態に係る製造方法と同様である。次に、第1の原子膜21の全体を覆うように第2の原子膜22を第1の基板11上に形成する(図7B)。第2の原子膜22はCVD又は転写により形成される。次に、第1の原子膜21及び第2の原子膜22をパターニングするためのマスク43を第2の原子膜22上に形成する(図7C)。次に、マスク43を介して第1の原子膜21及び第2の原子膜22を部分的エッチングすることにより、これらの原子膜をパターニングする(図7D)。次に、マスク43を除去する(図7E)。
【0038】
比較例に係る製造方法によれば、第1の原子膜21及び第2の原子膜22が共通のマスク43を用いてパターニングされるので、これらの原子膜の端部の位置が揃う構造となる。この構造によれば、第1の原子膜21にのみ接続される電極を形成することが困難となる。
【0039】
一方、開示の技術の実施形態に係る製造方法によれば、第2の原子膜22のパターニングは、第1の原子膜21とは独立に行われるので、第1の原子膜21及び第2の原子膜22に対して個別に電極を接続させた構造を形成することが可能となる。
【0040】
以上の実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1)
第1の基板上に層状物質からなる第1の原子膜を形成する工程と、
前記第1の原子膜をパターニングする工程と、
前記第1の原子膜上に、前記第1の原子膜及び前記第1の基板を部分的に露出させるマスクを形成する工程と、
第2の基板上に、前記第1の原子膜とは異なる層状物質からなる第2の原子膜を形成する工程と、
前記第1の原子膜及び前記第1の基板の露出部分と前記第2の原子膜とを密着させる工程と、
前記第2の原子膜の一部を前記マスクとともに除去する工程と、
を含むヘテロ積層デバイスの製造方法。
【0041】
(付記2)
前記第1の原子膜及び前記第2の原子膜は、それぞれ化学気相堆積法を用いた合成によって得られた原子膜である
付記1に記載の製造方法。
【0042】
(付記3)
前記第1の原子膜に接続された第1の電極を形成する工程と、
前記第2の原子膜に接続された第2の電極を形成する工程と、
を更に含む付記1又は付記2に記載の製造方法。
【0043】
(付記4)
前記第1の原子膜及び前記第2の原子膜は、グラフェン又は層状カルコゲナイドである
付記1から付記3のいずれか1つに記載の製造方法。
【0044】
(付記5)
前記マスクは、熱硬化性を有するレジストであり、
前記第1の原子膜及び前記第1の基板の露出部分と前記第2の原子膜とを密着させる工程において、前記レジストの硬化温度よりも低い温度で、前記第1の基板、前記第1の原子膜及び前記第2の原子膜を含む積層体を加熱する
付記1から付記4のいずれか1つに記載の製造方法。
【0045】
(付記6)
前記第1の原子膜の構成元素を前記第1の基板上に堆積させることによって、前記第1の原子膜を前記第1の基板上に形成する
付記1から付記5のいずれか1つに記載の製造方法。
【0046】
(付記7)
前記第1の基板とは異なる第3の基板上に形成された前記第1の原子膜を、前記第1の基板上に転写することによって前記第1の原子膜を前記第1の基板上に形成する
付記1から付記5のいずれか1つに記載の製造方法。
【0047】
(付記8)
前記第1の原子膜及び前記第2の原子膜は、遷移金属ダイカルコゲナイド、13族カルコゲナイド、14族カルコゲナイド又はビスマスカルコゲナイドである
付記1から付記7のいずれか1つに記載の製造方法。
【符号の説明】
【0048】
11 第1の基板
12 第2の基板
21 第1の原子膜
22 第2の原子膜
31 第1の電極
32 第2の電極
41、42、43 マスク
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図3H
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E