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特開2024-116975真空加圧含浸処理の評価支援方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116975
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】真空加圧含浸処理の評価支援方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/00 20060101AFI20240821BHJP
   H01F 41/12 20060101ALI20240821BHJP
   H02K 15/085 20060101ALI20240821BHJP
   H02K 15/04 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
H01F41/00 D
H01F41/12 A
H02K15/085
H02K15/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022875
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000203977
【氏名又は名称】日鉄テックスエンジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】相馬 祐介
(72)【発明者】
【氏名】能登 宏
(72)【発明者】
【氏名】岡林 清志
(72)【発明者】
【氏名】工藤 也寸志
(72)【発明者】
【氏名】増田 匡一
【テーマコード(参考)】
5E044
5H615
【Fターム(参考)】
5E044AA00
5E044AB01
5H615AA01
5H615AA05
5H615QQ03
5H615RR07
5H615SS44
5H615SS57
(57)【要約】
【課題】真空加圧含浸処理を新製や巻替及び補修でもより的確に評価できるようにする。
【解決手段】対象機器(1)を真空加圧含浸装置(100)の含浸タンク(101)に入れて、真空引き及び樹脂注入を行い、加圧処理を施した後、前記含浸タンク(101)から取り出して、乾燥処理を施す真空加圧含浸処理を評価できるようにする評価支援方法であって、前記対象機器(1)を前記含浸タンク(101)に入れる前に測定した静電容量である含浸前の静電容量と、前記対象機器(1)を前記含浸タンク(101)から取り出した後に測定した静電容量である含浸後の静電容量との関係を表わす第1の評価指標を求める手順と、前記含浸前の静電容量と、前記対象機器(1)に前記乾燥処理を施した後に測定した静電容量である乾燥後の静電容量との関係を表わす第2の評価指標を求める手順とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象機器を真空加圧含浸装置の含浸タンクに入れて、真空引き及び樹脂注入を行い、加圧処理を施した後、前記含浸タンクから取り出して、乾燥処理を施す真空加圧含浸処理を評価できるようにする評価支援方法であって、
前記対象機器を前記含浸タンクに入れる前に測定した静電容量である含浸前の静電容量と、前記対象機器を前記含浸タンクから取り出した後に測定した静電容量である含浸後の静電容量との関係を表わす第1の評価指標を求める手順と、
前記含浸前の静電容量と、前記対象機器に前記乾燥処理を施した後に測定した静電容量である乾燥後の静電容量との関係を表わす第2の評価指標を求める手順とを有することを特徴とする真空加圧含浸処理の評価支援方法。
【請求項2】
前記対象機器を前記含浸タンクから取り出した後から、前記対象機器に前記乾燥処理を施した後までの樹脂の漏出の度合いである第3の評価指標を求める手順を有することを特徴とする請求項1に記載の真空加圧含浸処理の評価支援方法。
【請求項3】
前記第3の評価指標は、前記対象機器を前記含浸タンクから取り出した後に測定した静電容量である乾燥前の静電容量と、前記乾燥後の静電容量とを用いて、
(前記乾燥前の静電容量-前記乾燥後の静電容量)/前記乾燥前の静電容量
で表わされることを特徴とする請求項2に記載の真空加圧含浸処理の評価支援方法。
【請求項4】
前記対象機器は、電動機の固定子又はコイルであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の真空加圧含浸処理の評価支援方法。
【請求項5】
対象機器を真空加圧含浸装置の含浸タンクに入れて、真空引き及び樹脂注入を行い、加圧処理を施した後、前記含浸タンクから取り出して、乾燥処理を施す真空加圧含浸処理を評価できるようにする評価支援装置であって、
前記対象機器を前記含浸タンクに入れる前に測定した静電容量である含浸前の静電容量と、前記対象機器を前記含浸タンクから取り出した後に測定した静電容量である含浸後の静電容量との関係を表わす第1の評価指標を求める手段と、
前記含浸前の静電容量と、前記対象機器に前記乾燥処理を施した後に測定した静電容量である乾燥後の静電容量との関係を表わす第2の評価指標を求める手段とを備えたことを特徴とする真空加圧含浸処理の評価支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空加圧含浸処理を評価できるようにする真空加圧含浸処理の評価支援方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機の絶縁対策として、絶縁層に存在する空隙等に樹脂を含浸させる真空加圧含浸処理を実施することがある。
特許文献1には、回転機コイルの絶縁層内に熱硬化性レジンを充填する真空加圧含浸度を、絶縁層内の時間当たりの静電容量の変化分として検出することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62-149263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
真空加圧含浸処理では、対象機器を真空加圧含浸装置の含浸タンクに入れて、真空引き及び樹脂注入を行い、加圧処理を施した後、含浸タンクから取り出して、乾燥処理を施す。
特許文献1にあるように、対象機器を含浸タンクに入れた状態で、静電容量の変化の度合いに基づいて、真空加圧含浸度を評価することが知られている。しかしながら、対象機器を含浸タンクから取り出して、乾燥処理を施した後のことまで考慮して、樹脂浸透及び保持の度合いを評価する手法は確立されていない。また、補修機に真空加圧含浸処理を実施する際の樹脂浸透及び保持の度合いを評価する技術も確立されていない。
【0005】
本発明は上記のような点に鑑みてなされたものであり、真空加圧含浸処理を新製や巻替及び補修でもより的確に評価できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の真空加圧含浸処理の評価支援方法は、対象機器を真空加圧含浸装置の含浸タンクに入れて、真空引き及び樹脂注入を行い、加圧処理を施した後、前記含浸タンクから取り出して、乾燥処理を施す真空加圧含浸処理を評価できるようにする評価支援方法であって、前記対象機器を前記含浸タンクに入れる前に測定した静電容量である含浸前の静電容量と、前記対象機器を前記含浸タンクから取り出した後に測定した静電容量である含浸後の静電容量との関係を表わす第1の評価指標を求める手順と、前記含浸前の静電容量と、前記対象機器に前記乾燥処理を施した後に測定した静電容量である乾燥後の静電容量との関係を表わす第2の評価指標を求める手順とを有することを特徴とする。
本発明の真空加圧含浸処理の評価支援装置は、対象機器を真空加圧含浸装置の含浸タンクに入れて、真空引き及び樹脂注入を行い、加圧処理を施した後、前記含浸タンクから取り出して、乾燥処理を施す真空加圧含浸処理を評価できるようにする評価支援装置であって、前記対象機器を前記含浸タンクに入れる前に測定した静電容量である含浸前の静電容量と、前記対象機器を前記含浸タンクから取り出した後に測定した静電容量である含浸後の静電容量との関係を表わす第1の評価指標を求める手段と、前記含浸前の静電容量と、前記対象機器に前記乾燥処理を施した後に測定した静電容量である乾燥後の静電容量との関係を表わす第2の評価指標を求める手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、真空加圧含浸処理を新製や巻替及び補修でもより的確に評価することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】真空加圧含浸処理の流れを示すフローチャートである。
図2】真空加圧含浸装置の構成例を示す図である。
図3】固定子の絶縁層を説明するための図である。
図4】真空加圧含浸処理により変化する静電容量の例を示す特性図である。
図5】樹脂浸透度を実機適用したデータを示す図である。
図6】含浸率を実機適用したデータを示す図である。
図7】評価支援装置の機能構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
図1及び図2を参照して、真空加圧含浸処理(VPI:Vacuum Pressure Impregnated)の概要を説明する。
図2は、真空加圧含浸装置100の構成例を示す図である。
真空加圧含浸装置100は、対象機器を入れる圧力容器である含浸タンク(真空加圧含浸炉)101を備える。本実施形態では、対象機器を、電動機の固定子1(固定子鉄心2にコイル3を組み付けたもの)とし、固定子鉄心2とコイル3とを絶縁材となる樹脂で一体化する。なお、例えば大型化の電動機であれば、コイル3の単体を対象機器としてもよい。
含浸タンク101には、真空引きのための真空ポンプ102と、加圧処理を施すためのコンプレッサ103とが接続する。また、含浸タンク101には、樹脂注入のための樹脂供給源(不図示)が接続する。
【0010】
図1は、真空加圧含浸処理の流れを示すフローチャートである。
ステップS1で、固定子1を含浸タンク101に入れる。
ステップS2で、真空ポンプ102を用いて含浸タンク101内を真空状態にして、樹脂供給源から含浸タンク101内に樹脂注入を行う。例えば、真空保持に3時間程度、樹脂注入に2時間程度の時間がかかる。
ステップS3で、含浸タンク101内の真空状態を保持しながら、脱泡のために放置する。例えば、脱泡に15時間程度の時間がかかる。
ステップS4で、コンプレッサ103を用いて含浸タンク101内を乾燥エアで加圧し、最後に放圧する加圧処理を施す。例えば、加圧処理には4~6時間程度の時間がかかる。
ステップS5で、固定子1を含浸タンク101から取り出す。
ステップS6で、固定子1を乾燥炉(不図示)に入れて、加熱により昇温させて乾燥させて、その後、外気温と同等になるまで冷却する乾燥処理を施す。乾燥処理による樹脂の完全硬化で、絶縁、強度、冷却効率の向上が実現される。例えば、乾燥炉に入れる前の手入れに2~3時間程度、乾燥炉に入れて乾燥させ、冷却を終えるまでに12時間以上の時間がかかる。
【0011】
図3は、固定子1の絶縁層を説明するための図であり、(a)は固定子1の一部(固定子鉄心2の内周面に設けられた一つの溝4)の横断面模式図、(b)は(a)の一部Aの拡大模式図である。
図3(a)に示すように、固定子鉄心2の内周面に設けられた各溝(スロット)4に、絶縁テープ5が巻回されたコイル3が嵌め込まれる。そして、コイル3の脱落を防止するために、溝4にコイル固定用のくさび(不図示)が打ち込まれる。このようにしてコイル3と固定子鉄心2との間には、絶縁テープ5の巻回部分を主絶縁層とする絶縁層が構成される。
図3(b)の左図に示すように、コイル3に絶縁テープ5が巻回されただけの状態では、絶縁層において、絶縁テープ5の内側に空隙が存在し、また、絶縁テープ5が巻回されたコイル3と固定子鉄心2との間に隙間ができることもあり、空気絶縁に近い状態である。その状態から、真空加圧含浸処理を実施することにより、図3(b)の右図に示すように、絶縁層の空隙や隙間に樹脂が浸透していき、樹脂絶縁の状態に変化する。このように絶縁層に浸透、保持される樹脂変動量に応じて、絶縁層の比誘電率が変化し、静電容量が変化する。
【0012】
ところで、電動機の絶縁対策として、新製やコイルの巻替の際に真空加圧含浸処理を実施するだけでなく、長期間稼働により絶縁回復が必要となった固定子の補修のために真空加圧含浸処理を実施することがある。この際の評価技術が確立されていなかった。
新製や巻替では、図3(b)の左図に示すように、絶縁層が空気絶縁に近い状態である。それに対して、補修のために既存の固定子1を対象機器とする場合は、絶縁層に、製作時に実施したワニス処理(真空加圧含浸処理とは絶縁階級が違う)によるワニスが残っていたり、製作時に実施した真空加圧含浸処理による樹脂が存在したりしており、空気とワニスや樹脂とが混ざった状態である。
【0013】
図4は、真空加圧含浸処理により変化する静電容量の例を示す特性図である。横軸は時間(真空加圧含浸処理の工程)を示し、縦軸は静電容量を示す。図4では、巻替、補修1(製作時にワニス処理した固定子の絶縁回復)、補修2(製作時に真空加圧含浸処理を実施した固定子の絶縁回復(再含浸))における静電容量の特性の例を示す。
巻替では、絶縁層が空気絶縁に近い状態にあり(図3(b)を参照)、真空加圧含浸処理の開始時において静電容量が小さい値になっている。それに対して、補修1、補修2では、絶縁層に、製作時に実施したワニス処理によるワニスが残っていたり、製作時に実施した真空加圧含浸処理による樹脂が存在したりしており、巻替と比べると、真空加圧含浸処理の開始時において静電容量が大きい値になっている。
比誘電率は、空気絶縁をεs1とするとεs1=1、樹脂絶縁をεs2とするとεs2>2である。新製や巻替では、εs1→εs2への変化になるが、例えば補修2では、比誘電率εs1、εs2が混在した状態(εs1、εs2)→εs2への変化になり、静電容量の変化幅、すなわち樹脂変動量は、補修2の方が巻替より小さくなる。
【0014】
また、新製や巻替と補修とでは、真空加圧含浸処理による樹脂の浸透部位や浸透代が異なると考えられる。新製や巻替での主な浸透部位は、絶縁テープ5の内側の空隙、絶縁テープ5が巻回されたコイル3と固定子鉄心2やくさびとの間の隙間になる。このように、新製や巻替では、絶縁層に多量の樹脂を「充填」するものといえる。それに対して、補修1での主な浸透部位は、絶縁テープ5の内側のワニスが入り込んでいない空隙、絶縁テープ5が巻回されたコイル3と固定子鉄心2やくさびとの間で熱や電磁力振動の累積劣化で生じた微小隙間になる。また、補修2での主な浸透部位では、絶縁テープ5が巻回されたコイル3と固定子鉄心2やくさびとの間で熱や電磁力振動の累積劣化で生じた微小隙間になる。このように、補修1、2では、絶縁層に樹脂を「補充」するものといえる。そして、新製や巻替と補修とでは、浸透代、換言すれば樹脂の浸透し易さも異なり、新製や巻替>補修1>補修2となると考えられる。
【0015】
ここで、本実施形態では、真空加圧含浸処理の各段階で、静電容量(例えば対地静電容量)を測定し、以下の3つの評価指標を求める。上述したように、静電容量は、絶縁層に浸透、保持される樹脂変動量に応じて変化することから、真空加圧含浸処理の各段階での樹脂浸透及び保持の度合いを評価することが可能になる。
【0016】
評価指標の一つとして、式(1)で表わされる樹脂浸透度を算出する。含浸前の静電容量は、固定子1を含浸タンク101に入れる前に測定した静電容量である。また、含浸後の静電容量は、固定子1を含浸タンク101から取り出した後に測定した静電容量である。
樹脂浸透度=含浸後の静電容量/含浸前の静電容量 ・・・(1)
【0017】
また、評価指標の一つとして、式(2)で表わされる熱漏出率を算出する。乾燥前の静電容量は、固定子1を含浸タンク101から取り出した後に測定した静電容量である。なお、樹脂の含浸後~乾燥処理までの静電容量は検証により含浸後≒乾燥前となる時間管理値を設定して運用する場合は、乾燥前の静電容量は、含浸後の静電容量と同じであってもよい。或いは、乾燥処理の熱影響による漏出を特に評価したい場合等は、乾燥前の静電容量は、固定子1を乾燥炉に入れる直前に測定した静電容量とし、含浸後の静電容量は、固定子1を含浸タンク101から取り出した直後に測定した静電容量とするように分けてもよい。また、乾燥後の静電容量は、固定子1に乾燥処理を施した後に測定した静電容量である。
熱漏出率=(乾燥前の静電容量-乾燥後の静電容量)/乾燥前の静電容量 ・・・(2)
【0018】
また、評価指標の一つとして、式(3)で表わされる含浸率を算出する。
含浸率=乾燥後の静電容量/含浸前の静電容量 ・・・(3)
【0019】
式(1)で求められる樹脂浸透度は、図1において矢印で示すように、含浸タンク101内での樹脂の含浸前後の静電容量比であり、樹脂の含浸前後の樹脂量の変動の度合いを表わす。これは、特許文献1にあるように、対象機器を含浸タンクに入れた状態で、静電容量の変化の度合いに基づいて、真空加圧含浸度を評価するものと同等の評価指標といえる。乾燥処理前に求められる樹脂浸透度を用いることにより、例えば樹脂粘度や加圧時間、絶縁層構成(絶縁テープ5の巻回の仕方等)の異常の早期発見が可能になる。樹脂浸透度が、本願発明でいう、含浸前の静電容量と含浸後の静電容量との関係を表わす第1の評価指標に相当する。
【0020】
式(2)で求められる熱漏出率は、図1において矢印で示すように、固定子1を含浸タンク101から取り出した後から、固定子1に乾燥処理を施した後までの樹脂の漏出の度合いを表わす。固定子1を含浸タンク101から取り出した後、手入れや乾燥待ちでの樹脂の滴下、及び乾燥処理の熱影響で、樹脂粘度がゲル化に至る前に、サラサラ状になって流動性が高まり、漏出する現象が確認されている。したがって、固定子1を含浸タンク101から取り出して乾燥処理により硬化させるまでの間でも、固定子1を含浸タンク101に入れているときと同様、樹脂量の変動を評価する必要がある。熱漏出率を用いることにより、樹脂の含浸後~乾燥処理までの時間や、乾燥温度・時間の評価が可能になる。熱漏出率が、本願発明でいう第3の評価指標に相当する。
【0021】
式(3)で求められる含浸率は、図1において矢印で示すように、真空加圧含浸処理の前後の静電容量比であり、真空加圧含浸処理の前後の樹脂量の変動の度合いを表わす。含浸率を用いることにより、樹脂の含浸前から乾燥処理による硬化までの総合評価が可能になる。含浸率が、本願発明でいう、含浸前の静電容量と乾燥後の静電容量との関係を表わす第2の評価指標に相当する。
なお、本実施形態では、比較的変化幅の大きい樹脂浸透度は単純な割合で表わし、比較的変化幅の小さい熱漏出率や含浸率は有効数字を多くするために百分率で表したが、これに限定されるものではない。
【0022】
このように、含浸前後の樹脂量の変動を評価するための樹脂浸透度(式(1))と、乾燥前後の樹脂の漏出を評価するための熱漏出率(式(2))とを定義し、真空加圧含浸処理の2段階で、樹脂変動量を精密に評価する。そして、樹脂の含浸前から乾燥処理による硬化までを総合評価するための含浸率(式(3))を導き出している。これらの評価指標を用いることにより、真空加圧含浸処理の段階ごとの評価、及び真空加圧含浸処理全体での総合評価を行うことができ、樹脂を充分に浸透させて、かつ、乾燥させるまでの漏出を最小限とする良質な真空加圧含浸処理を実施することが可能になる。
また、真空加圧含浸処理の質に影響を与える樹脂粘度については、3つの評価指標を用いた総合判断で樹脂劣化度の想定も可能であり、定期的な粘度測定の個人差解消にもつながる。
また、3つの評価指標を用いた評価は、新製や巻替時だけでなく、新製や巻替とは樹脂の浸透部位や浸透代が異なる補修(絶縁回復)時に真空加圧含浸処理を適用する場合にも有効である。補修時における樹脂の浸透メカニズムを解明し、製作時の絶縁処理(ワニス処理、真空加圧含浸処理)に関係なく、真空加圧含浸処理における樹脂浸透の評価が可能となる。
【0023】
図5は、式(1)で求められる樹脂浸透度を実機適用したデータを示す。巻替、補修1、補修2それぞれについて樹脂浸透度を算出している。
巻替では、樹脂浸透度が4を超える大きい値になっており、絶縁層に多量の樹脂が「充填」されていることがわかる。
一方、補修1及び補修2でも共に樹脂浸透度が1を超える値になっており、絶縁層に樹脂が「補充」されていることがわかる。補修1と補修2との差は、絶縁の仕様や処置の違いによるものであり、製作時にワニス処理を実施したもの(補修1)よりも、製作時に真空加圧含浸処理を実施したもの(補修2)の方が、絶縁テープ間の密着度や構造の一体化で冷却や機械的強度が優れており、劣化しづらい要因として考えられる。
このように、樹脂の浸透し易さが、新製や巻替>補修1>補修2となることが裏付けられた。
【0024】
図6は、式(3)で求められる含浸率を実機適用したデータを示す。図5と同様、巻替、補修1、補修2それぞれについて含浸率を算出することに加えて、製作時に真空加圧含浸処理を実施した固定子の未使用品についても含浸率を算出している。
巻替では、図5に示したように樹脂浸透度が4を超えていても、含浸率は乾燥処理の熱影響を受けて150%近くまで低下する。
一方、補修1では、含浸率が105~115%程度、補修2では、含浸率が100~103%程度と、巻替と比べて小さい値になっている。このように、補修では樹脂の漏出が抑えられ、巻替と比べて、補充した樹脂の残存比が高い結果が得られた。このことから、補修では、樹脂の補充の間口(空隙や隙間等)が極めて狭く薄い状態で存在していることが想定される。それに対して、未使用品では、含浸率が100~101%しかなく、式の定義から主絶縁層(絶縁テープ5の巻回部分)への樹脂の補充は厳しいレベルと判断でき、補修2では、主絶縁層以外の部位に樹脂の補充があったと考えられる。つまり、補修1では主絶縁層を含めた枯れや緩み、補修2ではコイルの馴染みで生じた固定子鉄心間との微小隙間への樹脂の補充の度合いを表現しており、操業時に受けたストレスの程度を示す指標とも考えられる。
このように、巻替、補修1、補修2では、真空加圧含浸処理による樹脂の浸透部位が異なることが裏付けられた。補修2のように、真空加圧含浸処理済の場合でも、対象機器の劣化状況によっては樹脂の浸透が確認され、コロナ放電防止やコイル固定力強化が図れることを示している。
【0025】
以上述べたように、真空加圧含浸処理において、固定子1を含浸タンク101から取り出して、乾燥処理を施した後のことまで考慮して、樹脂浸透及び保持の度合いを評価することが可能になる。これにより、真空加圧含浸処理を新製や巻替及び補修でもより的確に評価することが可能になる。
【0026】
図7には、上述した実施形態の真空加圧含浸処理の評価支援方法に利用される評価支援装置700の機能構成例を示す。
真空加圧含浸処理の評価支援装置700は、入力部701と、樹脂浸透度算出部702と、熱漏出率算出部703と、含浸率算出部704と、出力部705とを備える。
入力部701は、真空加圧含浸処理の各段階、(固定子1を含浸タンク101に入れる前、固定子1を含浸タンク101から取り出した後、固定子1に乾燥処理を施した後)で測定した、静電容量を入力する。
樹脂浸透度算出部702は、入力部701で入力した静電容量を用いて、式(1)で表わされる樹脂浸透度を算出する。
熱漏出率算出部703は、入力部701で入力した静電容量を用いて、式(2)で表わされる熱漏出率を算出する。
含浸率算出部704は、入力部701で入力した静電容量を用いて、式(3)で表わされる含浸率を算出する。
出力部705は、樹脂浸透度算出部702で算出した樹脂浸透度、熱漏出率算出部703で算出した熱漏出率、含浸率算出部704で算出した含浸率を、例えば不図示のディスプレイに表示したり、他の装置に伝送したりする。
このようにした真空加圧含浸処理の評価支援装置700は、例えばCPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータ装置により構成され、CPUが例えばROMに記憶された所定のプログラムを実行することにより、各部701~705の機能が実現される。
【0027】
以上、本発明を実施形態と共に説明したが、上記実施形態は本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0028】
1:固定子、2:固定子鉄心、3:コイル、4:溝、5:絶縁テープ、100:真空加圧含浸装置、101:含浸タンク、102:真空ポンプ、103:コンプレッサ、700:真空加圧含浸処理の評価支援装置、701:入力部、702:樹脂浸透度算出部、703:熱漏出率算出部、704:含浸率算出部、705:出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7