IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日東電工株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-スパイラル型膜エレメント 図1
  • 特開-スパイラル型膜エレメント 図2
  • 特開-スパイラル型膜エレメント 図3
  • 特開-スパイラル型膜エレメント 図4A
  • 特開-スパイラル型膜エレメント 図4B
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011701
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】スパイラル型膜エレメント
(51)【国際特許分類】
   B01D 63/10 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
B01D63/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113927
(22)【出願日】2022-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】一氏 翔伍
(72)【発明者】
【氏名】川人 直樹
(72)【発明者】
【氏名】地藏 眞一
(72)【発明者】
【氏名】別府 雅志
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA02
4D006HA62
4D006JA05A
4D006JA05C
4D006JA06A
4D006JA06C
4D006JA10B
4D006JA10C
4D006JA19A
4D006JA19C
4D006MA03
4D006MA09
4D006MA10
4D006MC11
4D006MC29
4D006MC45
4D006MC54
4D006MC56
4D006MC58
4D006MC62
4D006MC63
4D006MC65
4D006PA01
(57)【要約】
【課題】外装材表面の外観と手触り感が良好で、ハンドリング性も良好なスパイラル型膜エレメントを提供する。
【解決手段】有孔の中心管5と、その中心管5に巻回され分離膜1を含む巻回体Rと、その巻回体Rの周囲に設けた外装材30とを備えるスパイラル型膜エレメントであって、前記外装材30が、前記巻回体Rの周囲に巻かれた補強繊維と、その補強繊維に含浸・固化した樹脂とを含み、前記外装材30の表面は、軸心方向に沿って測定された算術平均表面粗さRaが、2~10μmである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有孔の中心管と、その中心管に巻回され分離膜を含む巻回体と、その巻回体の周囲に設けた外装材とを備えるスパイラル型膜エレメントであって、
前記外装材は、前記巻回体の周囲に巻かれた補強繊維と、その補強繊維に含浸・固化した樹脂とを含み、
前記外装材の表面は、軸心方向に沿って測定された算術平均表面粗さRaが、2~10μmである、スパイラル型膜エレメント。
【請求項2】
前記外装材の厚み方向全体の平均値として、前記補強繊維に対する前記樹脂の質量比が0.4以上1.0未満である、請求項1に記載のスパイラル型膜エレメント。
【請求項3】
前記補強繊維に対する前記樹脂の質量比が、前記外装材の厚み方向の内部と比較して高い部分が、前記外装材の表面に存在する、請求項2に記載のスパイラル型膜エレメント。
【請求項4】
前記補強繊維は、ガラス製のマルチフィラメントからなるロービング繊維であり、個々のフィラメント径が5~30μmである、請求項1~3いずれか1項に記載のスパイラル型膜エレメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜を含む巻回体の周囲に外装材を備えるスパイラル型膜エレメント(以下、「膜エレメント」と略称する場合がある)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のスパイラル型膜エレメントは、例えば、図1に示すように、対向する分離膜1の間に透過側流路材3が介在する複数の膜リーフLと、膜リーフLの間に介在する供給側流路材2と、膜リーフL及び供給側流路材2を巻回した有孔の中心管5と、供給側流路と透過側流路との混合を防止する封止部12と、巻回体Rの周囲に設けた外装材30とを備えるものが一般的である。そして、外装材30としては、加圧運転時の耐圧性および所望の機械強度を付与する目的で、繊維補強樹脂(FRP)を用いる場合が多い。
【0003】
外装材の形成方法としては、中心管に膜リーフを巻回した後に、巻回体の外周面に、樹脂を含浸させたガラスロービング(ガラスフィラメントの集束体)を巻き付け、これを硬化させて繊維補強樹脂層を形成する方法が知られている(例えば、特許文献1~2)。その際、ロービング繊維を巻き付けて、そのまま樹脂を硬化させると、樹脂の残存量が多く外径が不均一になり易いため、硬化前に樹脂の除去操作を行なっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-17840号公報
【特許文献2】特開2008-229453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、樹脂を除去する際に、フィラメントが傷ついて、硬化後に補強繊維が一部解繊して露出(ササクレ)し、外装材表面の手触り感が悪化したり、これに加えて、表面の凹凸によっても、外観が悪くなるという問題があった。
【0006】
また、FRP外装材の表面を研削加工して平滑化する方法や、FRP外装材の表面をチューブで被覆する方法も存在するが、いずれも製造工程が増えてコスト増に繋がり易い。更に、膜エレメントは、外表面に水分が付着した状態で取り扱われることが多いため、チューブの材質等によっては、滑り易くなりハンドリング性が低下するという懸念もあった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、外装材表面の外観と手触り感が良好で、ハンドリング性も良好なスパイラル型膜エレメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、以下の如き本発明によって達成できる。
【0009】
即ち、本発明のスパイラル型膜エレメントは、有孔の中心管と、その中心管に巻回され分離膜を含む巻回体と、その巻回体の周囲に設けた外装材とを備えるスパイラル型膜エレメントであって、前記外装材は、前記巻回体の周囲に巻かれた補強繊維と、その補強繊維に含浸・固化した樹脂とを含み、前記外装材の表面は、軸心方向に沿って測定された算術平均表面粗さRaが、2~10μmである、ことを特徴とする。
【0010】
本発明のスパイラル型膜エレメントによると、補強繊維を横切る方向の表面凹凸の指標となるRaが10μm以下であるため、樹脂による平滑化が十分行なわれた状態となり、補強繊維が一部解繊して露出(ササクレ)するのを抑制することで、手触り感が向上すると共に、平滑な表面によって外観も向上させることができる。また、スパイラル型膜エレメントは、外表面に水分が付着した状態で取り扱われることが多いため、Raが2μm以上であると、滑り易さを抑制して、ハンドリング性を向上させることができる。その結果、外装材表面の外観と手触り感が良好で、ハンドリング性も良好なスパイラル型膜エレメントを提供することができる。
【0011】
上記において、前記外装材の厚み方向全体の平均値として、前記補強繊維に対する前記樹脂の質量比が0.4以上1.0未満であることが好ましい。厚み方向全体の平均値として、前記補強繊維に対する前記樹脂の質量比が0.4以上であると、表面にも十分な樹脂を存在させることができ、外装材の表面の平滑性をより高め易くなる。また、樹脂の質量比が1.0未満であると、樹脂の残存量が多くなり過ぎることによる弊害、例えば外径の不均一化等を抑制することができる。
【0012】
また、前記補強繊維に対する前記樹脂の質量比が、前記外装材の厚み方向の内部と比較して高い部分が、前記外装材の表面に存在することが好ましい。このように、樹脂の質量比が局所的に高い部分が外装材の表面に存在することで、外装材の表面の平滑性をより高め易くなる。
【0013】
更に、上記いずれの場合においても、前記補強繊維は、ガラス製のマルチフィラメントからなるロービング繊維であり、個々のフィラメント径が5~30μmであることが好ましい。ガラス製のロービング繊維は弾性率を高める効果が大きいもののササクレ等による問題が生じ易いところ、適度なフィラメント径であることとあいまって、本発明により、平滑化の効果がより効果的に発揮される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、外装材表面の外観と手触り感が良好で、ハンドリング性も良好なスパイラル型膜エレメントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】スパイラル型膜エレメントの一例を示す、一部を切り欠いた斜視図である。
図2】巻回体の周囲に外装材を設ける工程の一例を模式的に示す縦断面図である。
図3】巻回体の周囲に外装材を設けた構造の一例を模式的に示す縦断面図である。
図4A】比較例1において、表面付近の樹脂の偏在を確認した際の断面の写真である。
図4B】実施例3において、表面付近の樹脂の偏在を確認した際の断面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(スパイラル型膜エレメント)
本発明のスパイラル型膜エレメントは、例えば図1に示すように、有孔の中心管5と、その中心管5に巻回され分離膜1を含む巻回体Rと、その巻回体Rの周囲に設けた外装材30とを備える膜エレメントであればよく、外装材30に特徴を有するため、外装材30以外の点については、従来のスパイラル型膜エレメントの構成が、何れも採用できる。
【0017】
つまり、本発明のスパイラル型膜エレメントは、前記外装材30が、前記巻回体Rの周囲に巻かれた補強繊維と、その補強繊維に含浸・固化した樹脂とを含み、前記外装材30の表面は、軸心方向に沿って測定された算術平均表面粗さRaが、2~10μmである、ことを特徴とするものである。
【0018】
本実施形態では、例えば図1に示すように、対向する分離膜1の間に透過側流路材3が介在する複数の膜リーフLと、膜リーフLの間に介在する供給側流路材2と、膜リーフL及び供給側流路材2を巻回した有孔の中心管5と、供給側流路と透過側流路との混合を防止する封止部12と、巻回体Rの周囲に設けた外装材30とを備える例を示す。
【0019】
図1には、膜リーフLにおいて対向する分離膜1の間に透過側流路材3が介在する例が示されているが、分離膜1の透過側の表面に凹凸又は溝などを設けて、透過側流路を分離膜1自体に形成することも可能であり、その場合、透過側流路材3を省略することが可能である。この点は、供給側流路材2についても同様である。
【0020】
必要に応じて、膜エレメントの巻回体Rの上流側には、シールキャリア等の上流側端部材10が設けられ、下流側にはアンチテレスコープ材等の下流側端部材20が設けられる。これらの上流側端部材10と下流側端部材20とは、外装材30を巻回体Rの周囲に設ける際に、外装材30と一体化することも可能である。
【0021】
一般的な8インチ径のスパイラル型膜エレメントにおいては、膜リーフLは15~30組程度巻回される。
【0022】
膜エレメントを使用する際は、圧力容器(ベッセル)内に収容され、図1に示すように、供給液7は膜エレメントの一方の端面側から供給される。供給された供給液7は、供給側流路材2に沿って中心管5の軸心方向A1に平行な方向に流れ、膜エレメントの他方の端面側から濃縮液9として排出される。また、供給液7が供給側流路材2に沿って流れる過程で分離膜1を透過した透過液8は、透過側流路材3に沿って流動した後に、開孔5aから中心管5の内部に流れ込み、この中心管5の端部から排出される。
【0023】
(供給側流路材)
供給側流路材2は一般に、膜面に流体を満遍なく供給するための間隙を確保する役割を有する。このような供給側流路材2は、例えばネット、編み物、凹凸加工シートなどを用いることができ、適当な厚さを有するものを適宜用いることができる。また、流路材は分離膜1の両面に設置するのが好ましいが、供給液側に設ける供給側流路材2と、透過液側に設ける透過側流路材3として、異なる流路材を用いることが一般的である。供給側流路材2では目が粗く厚いネット状の流路材を用いる一方で、透過側流路材3では目の細かい織物や編物の流路材を用いることが好ましい。
【0024】
例えば、RO膜やNF膜を用いる海水淡水化や排水処理等の用途の場合、供給側流路材2としては、線状物を格子状に配列した網目構造のものを好ましく利用することができる。
【0025】
構成する材料としては特に限定されるものではないが、ポリエチレンやポリプロピレンなどが用いられる。これらの樹脂は殺菌剤や抗菌剤を含有していてもよい。この供給側流路材2の厚さは、一般に0.3~3.0mmであり、0.5~1.0mmが好ましい。厚さが厚すぎると膜エレメントに収容できる膜の有効膜面積とともに透過量が減ってしまい、逆に薄すぎると汚染物質が付着しやすくなるため、透過性能の劣化が生じやすくなる。
【0026】
(中心管)
中心管5は、管の周囲に開孔5aを有するものであれば良く、従来のものが何れも使用できる。一般に海水淡水化や排水処理等で用いる場合には、分離膜1を経た透過水が壁面の孔から中心管5中に侵入し、透過側流路を形成する。中心管5の長さは巻回体Rの軸方向長さより長いものが一般的だが、複数に分割するなど連結構造の中心管5を用いてもよい。中心管5を構成する材料としては特に限定されるものではないが、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂が用いられる。
【0027】
(透過側流路材)
透過側流路材3としては、従来のものが何れも使用できる。透過側流路材3は、海水淡水化や排水処理等の用途において、RO膜やNF膜を用いる場合に、例えば図1に示すように、膜リーフLにおいて対向する分離膜1の間に介在するように設けられる。この透過側流路材3には膜にかかる圧力を膜背面から支えるとともに、透過液の流路を確保することが求められる。
【0028】
このような機能を確保するために、トリコット編物により透過側流路材3が形成されていることが好ましく、編物形成後に樹脂補強又は融着処理されたトリコット編物であることがより好ましい。
【0029】
透過側流路材3の構成糸としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンなどが挙げられる。なかでも、加工性と生産性の観点からポリエチレンテレフタレートが特に好ましく用いられる。
【0030】
編物形成後に樹脂補強を行なう場合、繊維中に樹脂を含浸して硬化させたり、繊維表面に樹脂を被覆して硬化させる方法などが挙げられる。補強に使用する樹脂としては、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、などが挙げられる。
【0031】
透過側流路材3の構成糸は、モノフィラメントでもマルチフィラメントでもよいが、一定の太さの構成糸によって、トリコット編物が形成される。トリコット編物のなかでも、直線状に連続する溝の構造が明確なハーフ編みやダブルデンビー編みが好ましい。
【0032】
透過側流路材3の厚みは、0.10~0.40mmが好ましく、0.15~0.35mmがより好ましく、0.20~0.30mmが更に好ましい。厚みが0.10mm以上であると、十分な流路が確保され、透過液の圧力損失を低減できる。また、厚みが0.40mm以下であると、膜エレメントにおける分離膜の有効膜面積が大きくなり、透過液の流量を増加させ易くなる。
【0033】
(分離膜)
分離膜1としては、従来のものが何れも使用できる。例えば各種の多孔質膜等を使用することもできるが、多孔性支持体の表面に分離機能層を有する複合半透膜が好ましい。多孔性支持体としては、不織布層の片面にポリマー多孔質層を有するものが好ましい。分離膜、特に複合半透膜の厚さは70~160μm程度が好ましく、85~130μmがより好ましい。
【0034】
このような複合半透膜はその濾過性能や処理方法に応じてRO(逆浸透)膜、NF(ナノ濾過)膜、FO(正浸透)膜と呼ばれ、超純水製造や、海水淡水化、かん水の脱塩処理、排水の再利用処理などに用いることができる。
【0035】
分離機能層としては、ポリアミド系、セルロース系、ポリエーテル系、シリコン系、などの分離機能層が挙げられるが、ポリアミド系の分離機能層を有するものが好ましい。ポリアミド系の分離機能層としては、一般に、視認できる孔のない均質膜であって、所望のイオン分離能を有する。この分離機能層としてはポリマー多孔質層から剥離しにくいポリアミド系薄膜であれば特に限定されるものではないが、例えば、多官能アミン成分と多官能酸ハライド成分とを多孔性支持膜上で界面重合させてなるポリアミド系分離機能層がよく知られている。
【0036】
前記ポリアミド系分離機能層をポリマー多孔質層の表面に形成する方法は特に制限されずにあらゆる公知の方法を用いることができる。例えば、界面重合法、相分離法、薄膜塗布法などの方法が挙げられるが、本発明では特に界面重合法が好ましく用いられる。界面重合法は例えば、ポリマー多孔質層上を多官能アミン成分含有アミン水溶液で被覆した後、このアミン水溶液被覆面に多官能酸ハライド成分を含有する有機溶液を接触させることで界面重合が生じ、スキン層を形成する方法である。
【0037】
前記分離機能層の露出表面には、各種ポリマー成分からなるコーティング層を設けてもよい。前記ポリマー成分は、分離機能層及び多孔性支持膜を溶解せず、また水処理操作時に溶出しないポリマーであれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリエチレングリコール、及びケン化ポリエチレン-酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。
【0038】
不織布層としては、前記複合半透膜の分離性能および透過性能を保持しつつ、適度な機械強度を付与するものであれば特に限定されるものではなく、市販の不織布を用いることができる。この材料としては例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、セルロースなどからなるものが用いられ、複数の素材を混合したものも使用することができる。特に成形性の点ではポリエステルを用いることが好ましい。また適宜、長繊維不織布や短繊維不織布を用いることができるが、ピンホール欠陥の原因となる微細な毛羽立ちや膜面の均一性の点から、長繊維不織布を好ましく用いることができる。
【0039】
前記ポリマー多孔質層としては、前記ポリアミド系分離機能層を形成しうるものであれば特に限定されないが、通常、0.01~0.4μm程度の孔径を有する微多孔層である。前記微多孔層の形成材料は、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンに例示されるポリアリールエーテルスルホン、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデンなど種々のものをあげることができる。特に化学的、機械的、熱的に安定である点からポリスルホン、ポリアリールエーテルスルホンを用いたポリマー多孔質層を形成することが好ましい。
【0040】
(外装材)
本発明のスパイラル型膜エレメントは、巻回体Rの周囲に設けた外装材30が、巻回体Rの周囲に巻かれた補強繊維と、その補強繊維に含浸・固化した樹脂とを含むと共に、外装材30の表面が、軸心方向に沿って測定された算術平均表面粗さRaが、2~10μmであることを特徴とする。
【0041】
算術平均表面粗さRaは、外装材30の表面の外観と手触り感を向上させつつ、ハンドリング性も良好にする観点から、3~8μmが好ましく、5~7μmがより好ましい。算術平均表面粗さRaは、膜エレメントの中央と両端における各々周方向に90°毎の位置の表面(4方向位置×長さ方向の3ヵ所で合計12ヵ所)について、表面粗さ測定機(ミツトヨ社製、サーフテストSJ-210)を用いて算術平均表面粗さRaを測定し、その平均値を求めた値である。
【0042】
図2は、巻回体Rの周囲に外装材30を設ける工程の一例を模式的に示す縦断面図であり、図3は、巻回体Rの周囲に外装材30を設けた構造の一例を模式的に示す縦断面図である。図示した例では、巻回体Rの周囲に外装材30が直接形成されているが、外装材30の形成前に表示ラベル等を貼付してから外装材30を形成してもよい。また、外装材30を形成する際に、巻回体Rの外形を保持するために、巻回体Rの周囲を粘着テープ等で固定することも可能である。
【0043】
外装材30としては、図2図3に示すように、ロービング繊維等の繊維集束体35が巻回された繊維巻回物を補強相とする繊維補強樹脂層36として形成することが好ましい。繊維集束体35は、図2に示すように、一定の幅W1にて巻回体Rの周囲に巻回され、好ましくは、隣接する繊維集束体35同士が幅W2で重なり合った状態で、巻回体Rの周囲に巻回される。その後、図3に示すように、繊維集束体35の表面を平滑化して、所定の算術平均表面粗さRaを有する繊維補強樹脂層36を形成することが好ましい。
【0044】
この繊維集束体35は、例えば図2に示すように、巻回体Rの軸心方向A1に徐々に巻き付け位置を移動させながら巻回することができる。その際、巻回体Rを一定の速度で回転させながら、繊維集束体35を巻回することが好ましい。このため、繊維集束体35は、軸心方向A1に対して、一定の角度の巻回方向となるが、その角度としては、繊維集束体35の巻き付け位置を一方向のみに移動させて巻回する観点から、軸心方向A1と垂直の周方向に対して2~10°が好ましく、3~5°がより好ましい。なお、特許文献2に記載されているように、繊維集束体35の巻回方向を、より傾斜した巻回方向(例えば10°以上)とすることも可能である。その場合、繊維集束体35の巻き付け位置を往復移動させて巻回することができる。
【0045】
繊維巻回物を形成する繊維集束体35としては、複数のフィランメトから構成されるマルチフィランメト繊維に、必要に応じて撚りをかけたものなどを用いることがきるが、繊維補強樹脂用の各種ロービング繊維(比較的撚りの少ないまたは撚りがないマルチフィラメントの集束体)が好ましく使用できる。また、繊維の種類としては、例えばPET、PP、PE、PSF、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、アラミド等の樹脂繊維の他、ガラス、炭素繊維などの無機系繊維、スチールワイヤなどの金属繊維等を使用することも可能である。
【0046】
特に、高弾性率、低溶出性、施工(加工、成形)性などの観点から、ガラス製のマルチフィラメントからなるロービング繊維が好ましい。なお、表示ラベル等を繊維補強樹脂層36の内側に設ける場合、その視認性を高める観点から、ガラス繊維や透明樹脂からなる繊維を用いるのが好ましい。
【0047】
ロービング繊維を用いる場合、軸心方向に沿って測定された算術平均表面粗さRaを適切な範囲に制御し易いなどの観点から、マルチフィラメントを構成する個々のフィラメント径が5~30μmであることが好ましく、15~21μmであることがより好ましい。
【0048】
また、巻回に使用するロービング繊維を構成するマルチフィラメント中のフィラメントの総数は、ロービング繊維の一束の繊度(Tex=g/km)と束数により調整することができる。一束の繊度としては、取扱性、強度、耐久性の観点から、1200~2400Texが好ましく、1900~2100Texがより好ましい。また、ロービング繊維の束数としては、製造工程の効率化と表面高さの均一化の観点から、5~15束が好ましく、7~13束がより好ましい。このため、巻回に使用するロービング繊維の総繊度としては、12000~24000Texが好ましく、19000~21000Texがより好ましい。
【0049】
繊維補強樹脂層36を構成する樹脂としては、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、反応硬化性樹脂などの硬化性樹脂や、熱可塑性樹脂などを使用できるが硬化性タイプの熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。また、巻回体Rの形成時に使用するポリウレタン樹脂またはエポキシ樹脂をそのまま使用できるが、巻回体Rに使用した樹脂に対して、樹脂の種類を変更することも可能である。ガラス繊維との組合せが良好な樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂が挙げられる。なお、硬化の際の条件は、使用する樹脂や接着剤の種類等に応じて適宜設定される。
【0050】
外装材30に含まれる樹脂の量としては、外装材30の厚み方向全体の平均値として、前記補強繊維に対する前記樹脂の質量比が0.4以上1.0未満であることが好ましく、0.5~0.8であることがより好ましい。補強繊維に対する樹脂の質量比が一定以上であると、表面にも十分な樹脂を存在させることができ、外装材の表面の平滑性をより高め易くなる。また、樹脂の質量比が一定未満であると、樹脂の残存量が多くなり過ぎることによる弊害、例えば外径の不均一化等を抑制することができるため好ましい。
【0051】
本発明では、図3に示すように、特に、外装材の厚み方向の内部36bと比較して、補強繊維に対する樹脂の質量比が高い部分36aが、外装材30の表面に存在することが好ましい。このような樹脂が偏在する構造は、例えば、巻回体Rに巻回され樹脂が含浸した繊維集束体35を平滑化する際に、繊維集束体35を押さえながら、一定量の樹脂を残しつつ余分な樹脂を除去することで、形成することができる。樹脂を除去する際には、巻回体Rを一定の速度で回転させながら、樹脂の除去を行なうのが好ましい。
【0052】
また、繊維集束体35を構成するフィラメントの損傷を抑制する上で、弾性体や硬度の低い材料を用いることが好ましい。例えば、ゴム、硬度の低い樹脂などを使用することが好ましい。
【0053】
特に、このような材料を用いて、繊維集束体35を押さえながら余分な樹脂を除去する方法、樹脂を除去する際の残存量を多くする方法などが、表面を平滑化する上で好ましい。繊維集束体35を押さえる方法の場合、先端の断面形状を曲面にしたヘラ、先端の厚みを大きくしたヘラなどを用いることが好ましい。
【0054】
繊維巻回物を構成する繊維集束体35の幅W1は、繊維補強樹脂層36の形成効率の観点から、10~70mmであることが好ましく、30~50mmがより好ましい。繊維集束体35の幅W1は、繊維集束体35を構成する繊維の本数や各繊維の太さ、巻回する際の張力、繊維集束体35の送り出し機構などにより調整することができる。なお、図2に示す例では、1束の繊維集束体を用いて巻回を行う例を示したが、複数束の繊維集束体を用いて巻回を行うものであってもよい。
【0055】
また、繊維集束体35は、繊維集束体35同士の段差による凹凸を低減する観点から、から、隣り合う繊維集束体35との重なり度合いが、30~70%であることが好ましい。重なり度合いは、重なり部分の幅W2/幅W1×100によって算出される値である。
【0056】
上記巻回の後、繊維補強樹脂層36に含まれる樹脂を硬化させるが、当該樹脂は、巻回する繊維集束体35に予め含浸させたものでも、巻回した繊維集束体35に対して塗布等して含浸させたものでもよい。但し、巻回する繊維集束体35に予め含浸させておく方が、適度な含浸状態を確保する上で好ましい。
【0057】
このようにして形成された繊維補強樹脂層36の厚みは、例えば0.5~4mmであるが、残存する樹脂の量を確保する上では、1~2mmが好ましく、1.5~2mmがより好ましい。なお、巻回体Rの直径は、膜エレメントの直径に応じて決定されるが、例えば50~400mmである。
【実施例0058】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性等の評価方法は以下の通りである。
【0059】
(1)算術平均表面粗さRa
膜エレメントの中央と両端における各々周方向に90°毎の位置の表面(4方向位置×長さ方向の3ヵ所で合計12ヵ所)について、表面粗さ測定機(ミツトヨ社製、サーフテストSJ-210)を用いて算術平均表面粗さRaを測定し、その平均値を求めた。
【0060】
(2)補強繊維に対する樹脂の質量比(樹脂/補強繊維)
含浸させるためにロービング繊維に供給した樹脂の質量から、巻回後に除去した樹脂の質量を差し引いて、残存する樹脂の質量を求めた。一方、巻回した補強繊維の長さと、単位長さ当たりの質量とから、巻回した補強繊維の質量を求め、下記の式により、補強繊維に対する樹脂の質量比(樹脂/補強繊維)を求めた。
質量比(-)=樹脂の質量(g)/補強繊維の質量(g)
【0061】
(3)表面付近の樹脂の偏在の確認
上記(1)における断面観察の際に、断面に存在する繊維断面の密度を目視で確認することで、補強繊維に対する樹脂の質量比が外装材の厚み方向の内部と比較して高い部分が、外装材の表面に存在するか否かについて判定した。
【0062】
(4)外観及び手触りの評価
蛍光灯の下で膜エレメントの表面を目視で観察し、外観としての凹凸の程度を評価した。また、膜エレメントの表面を素手で触って、補強繊維が一部解繊して露出(ササクレ)する現象が、手触りとして確認できるか判定した。
【0063】
比較例1(従来品)
外径8インチのスパイラル型逆浸透膜エレメント(日東電工社製、CPA2)をそのまま使用して、前記の評価を行なった。その結果、算術平均表面粗さRaが、10.8μmであり、外観上も凹凸が生じており、ササクレが手触りで確認できた。また、表面付近の樹脂の偏在を確認した際の断面の写真を図4Aに示すが、表面まで補強繊維が露出しており、表面付近に樹脂の偏在は確認できなかった。
【0064】
実施例1
比較例1の膜エレメントを構成する材料と同じ材料を用いて、中心管に巻回された巻回体を形成した後、ガラス製のマルチフィラメントからなるロービング繊維(フィラメント径20μm、2000Tex×10束)にビスフェノールA型エポキシ樹脂を含浸した状態で、巻回体の周囲に巻き付けた後(巻き付け方向は比較例1と同じ)、ポリエチレン製の柔軟な容器(ポリカップ)を用いて、容器の上縁を表面に押し当てながら樹脂を除去した。その後、60℃でにて樹脂を硬化させ、厚み1.6mmの繊維補強樹脂層(補強繊維に対する樹脂の質量比は0.8)を形成した。
【0065】
これを用いて、前記の評価を行なった結果、算術平均表面粗さRaが4.3μmであり、表面付近の樹脂の偏在が確認できた。また、外観上も凹凸が殆どなく、ササクレが手触りで確認できなかった。
【0066】
実施例2
実施例1において、ポリエチレン製の柔軟な容器を用いる代わりに、シリコーンゴム製のヘラを用いて、表面に押し当てながら樹脂を除去したこと以外は、実施例1と同じ条件で膜エレメントを作成し、同様に評価した。その結果、補強繊維に対する樹脂の質量比は0.5であり、算術平均表面粗さRaが6.3μmであり、表面付近に樹脂の偏在が確認できた。また、外観上も凹凸が殆どなく、ササクレが手触りで確認できなかった。
【0067】
実施例3
実施例1において、ポリエチレン製の柔軟な容器を用いる代わりに、先端を厚くし、直径10mmの形状にしたポリ塩化ビニル製のヘラを用いて、表面に押し当てながら樹脂を除去したこと以外は、実施例1と同じ条件で膜エレメントを作成し、同様に評価した。その結果、補強繊維に対する樹脂の質量比は0.5であり、算術平均表面粗さRaが6.7μmであり、外観上も凹凸が殆どなく、ササクレが手触りで確認できなかった。また、表面付近の樹脂の偏在を確認した際の断面の写真を図4Bに示すが、表面に補強繊維が露出しておらず、表面付近に樹脂の偏在が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によると、外装材表面の外観と手触り感が良好で、ハンドリング性も良好なスパイラル型膜エレメントを提供することができる。本発明のスパイラル型膜エレメントは、超純水製造や、海水淡水化、かん水の脱塩処理、排水の再利用処理などの各種用途に、好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 :分離膜
2 :供給側流路材
3 :透過側流路材
5 :中心管
25 :繊維集束体
26 :繊維補強樹脂層
30 :外装材
A1 :軸心方向
R :巻回体
図1
図2
図3
図4A
図4B