(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117016
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】異常検知システム
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20240821BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
G01M99/00 A
G01H17/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022930
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003115
【氏名又は名称】東洋電機製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100163511
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 啓太
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】山口 敏弘
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
【Fターム(参考)】
2G024AB01
2G024BA27
2G024CA13
2G024FA04
2G064AA11
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB22
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC02
2G064CC41
2G064CC42
2G064CC43
(57)【要約】
【課題】コストの増大を抑制しつつ、歯車装置の回転数を検出し、歯車装置の異常を検知する。
【解決手段】異常検知システム20は、軸受104または軸受106の近傍に設けられ、振動を検出する振動センサ21と、振動センサの出力信号からスペクトログラムを生成するスペクトログラム生成手段23と、生成されたスペクトログラムから、小歯車101と大歯車102との噛み合い周波数fmを推定する推定手段25と、生成されたスペクトログラムと、推定された回転数から算出される小歯車軸103の回転数とに基づき、歯車装置10における異常の有無を判定する判定手段26と、を備え、推定手段25は、事前に収集された、スペクトログラムと、スペクトログラムに対応する噛み合い周波数fmとを学習データとした教師あり学習により生成されたモデル25aに、生成されたスペクトログラムを入力して、噛み合い周波数fmを推定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機の電動機軸と連結され、第1の軸受により回転可能に支持された小歯車軸に取り付けられた小歯車と、第2の軸受により回転可能に支持された大歯車軸に取り付けられ、前記小歯車と噛み合う大歯車と、を備える歯車装置における異常を検知する異常検知システムであって、
前記第1の軸受または前記第2の軸受の近傍に設けられ、振動を検出する振動センサと、
前記振動センサの出力信号からスペクトログラムを生成するスペクトログラム生成手段と、
前記スペクトログラム生成手段により生成されたスペクトログラムから、前記歯車装置の回転数に対応する、前記小歯車と前記大歯車との噛み合い周波数を推定する推定手段と、
前記スペクトログラム生成手段により生成されたスペクトログラムと、前記推定された回転数から算出される前記小歯車軸または前記大歯車軸の回転数とに基づき、前記歯車装置における異常の有無を判定する判定手段と、を備え、
前記推定手段は、事前に収集された、前記スペクトログラムと、前記スペクトログラムに対応する噛み合い周波数とを学習データとした教師あり学習により生成されたモデルに、前記スペクトログラム生成手段により生成されたスペクトログラムを入力して、前記噛み合い周波数を推定する、異常検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車装置の異常を検知する異常検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
歯車装置は、回転力(トルク)を増幅する減速機あるいは回転数を増大する増速機として、幅広い産業分野で利用されている。そして、歯車装置の異常(例えば、異常振動)を検知する異常検知システムが開発されている。このような異常検知システムによれば、歯車装置の適切なメンテナンス時期を推定し、歯車装置を備える設備のダウンタイムの短縮を図ることができる。
【0003】
図5は、歯車装置10に適用される、従来の異常検知システム20Aの構成例を示す図である。
図5においては、歯車装置10が減速機である場合を例として説明する。まず、歯車装置10の構成について説明する。
【0004】
図5に示すように、歯車装置10は、歯車箱11と、電動機12と、継手13と、負荷機14とを備える。
【0005】
歯車箱11には、小歯車101と、大歯車102と、が収容される。
【0006】
小歯車101は、小歯車軸103の軸周りに連結される。小歯車軸103は、継手13を介して、電動機12の電動機軸121と接続される。また、小歯車軸103は、軸受104(第1の軸受)により回転可能に支持される。つまり、小歯車101は、電動機12の電動機軸121と連結され、軸受104により回転可能に支持された小歯車軸103に取り付けられている。小歯車軸103は、電動機軸121の回転に伴って、小歯車軸103の軸周りに回転し、小歯車軸103の回転に伴って、小歯車101は、小歯車軸103の軸周りに回転する。
【0007】
大歯車102は、小歯車101と噛み合って配置されるとともに、大歯車軸105の軸周りに連結される。大歯車軸105は、負荷機14と接続される。また、大歯車軸105は、軸受106により回転可能に支持される。つまり、大歯車102は、軸受106により回転可能に支持された大歯車軸105に取り付けられている。大歯車軸102は、小歯車102の回転に伴って、大歯車軸105の軸周りに回転する。したがって、小歯車101の回転に伴って大歯車102が回転することで、電動機12のトルクが、負荷機14に伝達される。
【0008】
次に、従来の異常検知システム20の構成について説明する。
図5に示すように、従来の異常検知システム20Aは、振動センサ21と、信号前処理手段22と、スペクトログラム生成手段23と、回転数センサ24と、判定手段26Aと、を備える。
【0009】
振動センサ21は、歯車箱11に取り付けられる。より具体的には、振動センサ21は、小歯車軸103を支持する軸受104の近傍に取り付けられる。振動センサ21は、小歯車101と大歯車102とが噛み合い回転することにより発生する噛み合い振動、小歯車101が回転する際に軸受104に発生する振動などを検出し、検出した振動を示す振動信号を信号前処理手段22に出力する。
【0010】
信号前処理手段22は、振動センサ21から出力された振動信号を増幅するとともに、予め設定されたバンドパスフィルタにより低周波ノイズおよび高周波ノイズを除去して、スペクトログラム生成手段23に出力する。
【0011】
スペクトログラム生成手段23は、信号前処理手段22から出力された振動信号を一定の時間間隔でサンプリングした値に、短時間フーリエ変換による演算処理を施し、一定周期のスペクトログラムを連続的に生成して判定手段26Aに出力する。
【0012】
回転数センサ24は、電動機12の電動機軸121と小歯車軸103とを連結する継手13の近傍に設けられ、小回転軸103の回転数を検出し、検出結果を判定手段26Aに出力する。
【0013】
判定手段26Aは、スペクトログラム生成手段23から出力されたスペクトログラムと、回転数センサ24により検出された小回転軸103の回転数と、に基づき、予め定められたアルゴリズムに従い、歯車装置10の異常の有無を判定する。
【0014】
以下では、スペクトログラム生成手段23によるスペクトログラムの生成方法として、短時間フーリエ変換に基づく方法について説明する。なお、短時間フーリエ変換の具体的な計算手順については、非特許文献1に詳述されているため、説明を省略する。
【0015】
上述したように、振動センサ21から出力された振動信号は、信号前処理手段22により、増幅されるとともに、予め設定されたバンドパスフィルタにより、所定の周波数帯の信号に変換される。以下では、信号前処理手段22による処理後の振動信号をx(t)とする。ここで、tは離散時間である。
【0016】
スペクトログラム生成手段23は、
図6に示すように、離散化された振動信号x(t)を窓関数w
a(t)ごとに切り出し、時間フレームと呼ばれる信号系列x
m(n)(n=0,1,・・・N-1)を生成する。信号系列x
m(n)は、以下の式(1)で定義される。
x
m(t-mS)=w
a(t-mS)x(t) 式(1)
【0017】
式(1)において、Sはフレームシフト量であり、Nはフレーム長である。時間フレーム長mに対応する短時間フーリエ変換は以下の式(2)で与えられる。
【数1】
【0018】
式(2)で示される短時間フーリエ変換そのものは複素数であり、スペクトログラムはその絶対値となる振幅スペクトルで定義される。振幅スペクトルをA(m,k)とすると、以下の式(3)で表される。
A(m,k)=|X(m,k)| 式(3)
【0019】
ここで、mは時間軸上のパラメータであり、フレームインデックスと呼ばれ、m=1,2,・・・Sの範囲の値を取る。また、kは周波数インデックスと呼ばれ、周波数を離散化した上で、k=1,2,・・・Nで定義される。したがって、振幅スペクトルA(m,k)は、上記インデックス上で定義される離散データである。
【0020】
図7は、実際の歯車装置の運転状態で検出された振動信号から生成されたスペクトログラムの一例を示す図である。
図7において、横軸をフレームインデックスとし、縦軸を周波数インデックスとし、振幅スペクトルを色の濃淡で表現した二次元パターンで示している。
【0021】
小歯車101の回転周波数をfrとすると、回転周波数frに小歯車101の歯数Zを乗じることで、噛み合い周波数fmを求めることができる。
【0022】
非特許文献2には、歯車装置の歯車の不良による異常振動に基づく診断手法が記載されている。具体的には、非特許文献2には、歯車の偏心、ミスアライメント、ピッチ誤差、噛み合い異常、局部異常などに起因して発生する異常振動が、検出されるスペクトルのパターンとして認識されることが記載されている。
【0023】
歯車装置の異常を示すスペクトル成分は、回転周波数frおよびその高調波nfrと、噛み合い周波数fm(=Zfr)およびその高調波nfm(=nZfr)と、側帯波nfm±frと、である。ここで、nは高調波の次数を示す整数である。歯車装置の異常の有無の診断においては。周波数スペクトルのうち、fr,nfrと,Zfr(=fm),nZfr(=nfm),nfm±frの成分に着目し、これらの値がそれぞれの基準値を超えた場合に、異常であると判定することができる。
【0024】
図5を参照して説明したように、歯車装置10には、小歯車軸103を支持する軸受104および大歯車軸105を支持する軸受106が設けられており、軸受104,106の欠陥により発生する異常振動も振動センサ21により検出することができる。
【0025】
非特許文献2には、ころがり軸受に発生する異常振動に基づく診断技術が記載されている。非特許文献2に記載の技術によれば、内輪、外輪、転動体および保持器から構成される軸受の欠陥に対し、各構成要素において発生しうる異常状態に応じた振動の周波数を検出することができる。内輪に欠陥があるときのパス周波数fin、外輪に欠陥があるときのパス周波数fout、転動体に欠陥があるときのパス周波数fbおよび保持器に欠陥があるときのパス周波数fcはそれぞれ、以下の式(4)~式(7)に示される。
fin=(R・fr/2)(1+(d/D)・cosα) 式(4)
fout=(R・fr/2)(1-(d/D)・cosα) 式(5)
fb=(fr・D/d)(1-(d2/D2)・cos2α) 式(6)
fc=(fr/2)(1-(d/D)・cosα) 式(7)
【0026】
なお、式(4)~式(7)において、Rは転動体の数であり、αは内輪と外輪との接触角(ラジアン)であり、Dは軸受のピッチ円の直径(mm)であり、frは小歯車の回転周波数(Hz)である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0027】
【非特許文献1】小野順貴:短時間フーリエ変換の基礎と応用、日本音響学会誌、72巻、12号、2016年、pp.764-769
【非特許文献2】豊田利夫、「回転機械診断の進め方」、社団法人日本プラントメンテナンス協会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
上述したように、歯車装置の異常を検知するための監視対象は、噛み合い周波数fmを中心とする振幅スペクトルのパターンであり、歯車装置の各構成要素について、振幅スペクトル上で注目すべき周波数近傍での振幅と、その基準値とを比較することによって、異常の有無を判定することができる。このように、噛み合い周波数fmが振幅スペクトルの注目点を決めることになるため、噛み合い周波数fmの元となる小歯車軸103の回転数は、歯車装置における異常状態の検知のために必須である。
【0029】
従来の異常検知システム20Aにおいては、継手13の近傍に設けられた回転数センサ24により小歯車軸103の回転数を検知している。しかしながら、歯車装置10の構造によっては、回転数センサ24を設けることが物理的に困難な場合がある。また、回転数センサ24を設ける場合には、回転数センサ24本体およびセンサケーブルの設置作業が必要となり、コストの増大を招いてしまう。
【0030】
上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、コストの増大を抑制しつつ、歯車装置の回転数を検出し、歯車装置の異常を検知することができる異常検知システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0031】
(1)本開示に係る異常検知システムは、電動機の電動機軸と連結され、第1の軸受により回転可能に支持された小歯車軸に取り付けられた小歯車と、第2の軸受により回転可能に支持された大歯車軸に取り付けられ、前記小歯車と噛み合う大歯車と、を備える歯車装置における異常を検知する異常検知システムであって、前記第1の軸受または前記第2の軸受の近傍に設けられ、振動を検出する振動センサと、前記振動センサの出力信号からスペクトログラムを生成するスペクトログラム生成手段と、前記スペクトログラム生成手段により生成されたスペクトログラムから、前記歯車装置の回転数に対応する、前記小歯車と前記大歯車との噛み合い周波数を推定する推定手段と、前記スペクトログラム生成手段により生成されたスペクトログラムと、前記推定された回転数から算出される前記小歯車軸または前記大歯車軸の回転数とに基づき、前記歯車装置における異常の有無を判定する判定手段と、を備え、前記推定手段は、事前に収集された、前記スペクトログラムと、前記スペクトログラムに対応する噛み合い周波数とを学習データとした教師あり学習により生成されたモデルに、前記スペクトログラム生成手段により生成されたスペクトログラムを入力して、前記噛み合い周波数を推定する。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る異常検知システムによれば、コストの増大を抑制しつつ、歯車装置の回転数を検出し、歯車装置の異常を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の一実施形態に係る異常検知システムの構成例を示す図である。
【
図3】
図1に示す推定手段による学習に用いられる学習データの一例を示す図である。
【
図4】鉄道用歯車装置に適用した場合の、本発明の一実施形態に係る異常検知システムの構成例を示す図である。
【
図5】従来の異常検知システムの構成例を示す図である。
【
図6】
図5に示すスペクトログラム生成手段によるスペクトログラムの生成について説明するための図である。
【
図7】
図5に示すスペクトログラム生成手段が生成するスペクトログラムの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
【0035】
図1は、本発明の一実施形態に係る異常検知システム20の構成例を示す図である。本実施形態に係る異常検知システム20は、電動機12の電動機軸121と連結され、軸受104(第1の軸受)により回転可能に支持された小歯車軸103に取り付けられた小歯車101と、軸受106(第2の軸受)により回転可能に支持された大歯車軸105に取り付けられ、小歯車101と噛み合う大歯車102とを備える歯車装置10における異常(例えば、異常振動)を検知するものである。
図1において、
図5と同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0036】
図1に示すように、本実施形態に係る異常検知システム20は、振動センサ21と、信号前処理手段22と、スペクトログラム生成手段23と、推定手段25と、判定手段26と、を備える。本実施形態に係る異常検知システム20は、従来の異常検知システム20Aと比較して、回転数センサ24を削除した点と、推定手段25を追加した点と、判定手段26Aを判定手段26に変更した点と、が異なる。
【0037】
推定手段25は、スペクトログラム生成手段23により生成されたスペクトログラムから、歯車装置10の回転数に対応する、小歯車101と大歯車102との噛み合い周波数fmを推定し、推定した噛み合い周波数fmを判定手段26に出力する。推定手段25は、推定した噛み合い周波数fmから小歯車軸103の回転数を算出し、算出した小歯車軸103の回転数を判定手段26に出力してもよい。
【0038】
図7を参照して説明したように、スペクトログラム生成手段23により生成されたスペクトログラムは、二次元の濃淡画像である。このような二次元画像において、噛み合い周波数fmに対応する位置では、濃淡パターンに特徴が表れる。推定手段25は、畳み込みネットワーク(Convolutional Neural Network(以下、「CNN」と称する。))に基づく画像認識アルゴリズムを利用して、当該特徴的な濃淡パターンを検出する。
【0039】
推定手段25は、
図2に示すように、CNNを用いて学習されたモデル25aに、スペクトログラム生成手段23により生成されたスペクトログラムを入力する。モデル25aは、複数の畳み込み層と、複数のプーリング層と、を含む。
【0040】
畳み込み層は、前段からの入力画像から局所的に特徴量を抽出する畳み込み処理を行う。プーリング層は、局所ごとに特徴量をまとめるプーリング処理を行う。畳み込み処理と、プーリング処理とが繰り返されることで、スペクトログラム生成手段23により生成されたスペクトログラムから、噛み合い周波数fmの位置に対応するフレームインデックスmおよび周波数インデックスkが特定される。
【0041】
モデル25aは、
図3に示すような、事前に収集された、R個のスペクトログラムAr(m,k)と、噛み合い周波数fmに対応するフレームインデックスおよび周波数インデックスの組(mr、kr)(r=1,2,・・・R)と、を学習データとした教師あり学習により、畳み込み層およびプーリング層のパラメータが学習されて生成される。R個の学習データは、例えば、
図5に示すように、回転数センサ24を取り付けた状態で、スペクトログラムを生成するとともに、回転数センサ24の検出結果から噛み合い周波数fmに対応するフレームインデックスmおよび周波数インデックスkとの組を求めることで、用意することができる。
【0042】
このように、推定手段25は、事前に収集された、スペクトログラムと、当該スペクトログラムに対応する噛み合い周波数fm(噛み合い周波数に対応するフレームインデックスmおよび周波数インデックスk)とを学習データとした教師あり学習により生成されたモデル25aに、スペクトログラム生成手段23により生成されたスペクトログラムを入力して、噛み合い周波数fmを推定する。
【0043】
図1を再び参照すると、判定手段26は、スペクトログラム生成手段23により生成されたスペクトログラムと、推定手段25により推定された噛み合い周波数fmから算出される小歯車軸103の回転数とに基づき、歯車装置10における異常の有無を判定する。小歯車軸103の回転数は、判定手段26が噛み合い周波数fmから算出してもよいし、上述したように、推定手段25が算出してもよい。
【0044】
判定手段26は、例えば、小歯車軸103の回転数から小歯車101の回転周波数frを算出し、算出した回転周波数frに基づき、上述した式(4)~(7)に従って、内輪に欠陥があるときのパス周波数fin、外輪に欠陥があるときのパス周波数fout、転動体に欠陥があるときのパス周波数fbおよび保持器に欠陥があるときのパス周波数fcを算出する。そして、判定手段26は、スペクトログラムにおける、各パス周波数に対応する値と所定の基準値との比較により、歯車装置10における異常の有無を判定する。
【0045】
なお、
図1においては、小歯車軸103を支持する軸受104の近傍に振動センサ21を設け、振動センサ21の振動信号から生成されたスペクトログラムを用いて、噛み合い周波数fmを推定する例を用いて説明したが、これに限られるものではない。例えば、大歯車軸105を支持する軸受106近傍の振動のスペクトログラムから噛み合い周波数fmを推定することができる場合、振動センサ21は、軸受106の近傍に設けられてもよい。この場合、推定手段25は、スペクトログラム生成手段23により生成されたスペクトログラムから、歯車装置10の回転数に対応する噛み合い周波数fmを推定し、噛み合い周波数fmから大歯車軸105の回転数を推定してよい。
【0046】
また、判定手段26による歯車装置10の異常の有無の判定方法は、上述した方法に限られるものではなく、小歯車101の回転周波数frあるいは大歯車102の回転周波数を用いた任意の方法を用いることができる。
【0047】
このように本実施形態に係る異常検知システム20は、振動センサ21と、スペクトログラム生成手段23と、推定手段25と、判定手段26と、を備える。振動センサ21は、軸受104(第1の軸受)または軸受106(第2の軸受)の近傍に設けられ、振動を検出する。スペクトログラム生成手段23は、振動センサ21の出力信号からスペクトログラムを生成する。推定手段25は、生成されたスペクトログラムから、歯車装置10の回転数に対応する、小歯車101と大歯車102との噛み合い周波数fmを推定する。判定手段26は、生成されたスペクトログラムと、推定された回転数から算出される小歯車軸103または大歯車軸105の回転数とに基づき、歯車装置10における異常の有無を判定する。ここで、推定手段25は、事前に収集された、スペクトログラムと、スペクトログラムに対応する噛み合い周波数fmとを学習データとした教師あり学習により生成されたモデル25aに、生成されたスペクトログラムを入力して、噛み合い周波数fmを推定する。
【0048】
振動センサ21の出力信号から生成されたスペクトログラムから小歯車軸103または大歯車軸105の回転数を推定するため、従来の異常検知システム20のように回転数センサ24を設ける必要がない。そのため、回転数センサ24本体およびセンサケーブルの設置の設置作業が不要となるので、コストの増大を抑制しつつ、歯車装置10の回転数を検出し、歯車装置10の異常を検知することができる。
【0049】
図4は、鉄道用の歯車装置30に適用した場合、本実施形態に係る異常検知システム20の構成例を示す図である。
【0050】
主電動機36の回転軸と平行に車軸31が配置される。主電動機36の回転軸には、軸継手35を介して、小歯車342が連結される。小歯車342は、転がり軸受343により回転自在に支持される。大歯車341は、車軸31に圧入され、小歯車342と噛み合う。大歯車341および小歯車342は、歯車箱34に収容される。車軸31は一端が軸箱321に収容され、他端が軸箱322に収容される。すなわち、軸箱321,322は、車軸31の端部を収容する。車軸31は、歯車箱34の転がり軸受344と、軸箱321の転がり軸受321aと、軸箱322の転がり軸受322aと、により、回転自在に支持される。したがって、小歯車342の回転に伴って大歯車341が回転することで、主電動機36のトルクが、車軸31を介して、車軸31に連結された車輪331および車輪332に伝達される。
【0051】
歯車装置30は、上述したような、主電動機36のトルクを車輪331,332に伝達するための各部位から構成される。なお、軸継手35は、主電動機36と歯車装置30との相対変位による回転軸のずれを吸収し、主電動機36で発生した回転力を、ブレあるいは歪みなく車輪331,332に伝達する。
【0052】
歯車装置30には、歯車装置30の状態を検出するため種々のセンサが取り付けられる。
【0053】
歯車装置10の状態を検出するため種々のセンサとしては、例えば、振動センサ371、372,373がある。振動センサ371、372,373は、直交する三軸方向の振動を検出可能なセンサである。振動センサ371は、歯車箱34の転がり軸受343の近傍に設けられ、転がり軸受343近傍の振動を検出する。振動センサ371は、振動センサ21に相当する。振動センサ372は、歯車箱34の転がり軸受344の近傍に設けられ、転がり軸受344近傍の振動を検出する。振動センサ373は、軸箱321の転がり軸受321aの近傍に設けられ、転がり軸受321a近傍の振動を検出する。振動センサ373は、軸箱322の転がり軸受322aの近傍にも設けられてもよい。
【0054】
信号前処理手段221は、ケーブル371cを介して、振動センサ371から出力された振動信号を取得する。振動前処理手段221は、信号前処理手段22に相当する。信号前処理手段221は、振動センサ371から取得した振動信号を増幅するとともに、予め設定されたバンドパスフィルタにより低周波ノイズおよび高周波ノイズを除去して、スペクトログラム生成手段231に出力する。信号前処理手段222は、ケーブル373cを介して、振動センサ373から出力された振動信号を取得する。信号前処理手段222は、振動センサ373から取得した振動信号を増幅するとともに、予め設定されたバンドパスフィルタにより低周波ノイズおよび高周波ノイズを除去して、スペクトログラム生成手段232に出力する。信号前処理手段223は、ケーブル372cを介して、振動センサ372から出力された振動信号を取得する。信号前処理手段223は、振動センサ372から取得した振動信号を増幅するとともに、予め設定されたバンドパスフィルタにより低周波ノイズおよび高周波ノイズを除去して、スペクトログラム生成手段233に出力する。
【0055】
スペクトログラム生成手段231は、信号前処理手段221から出力された振動信号からスペクトログラムを生成し、推定手段251および判定手段261に出力する。スペクトログラム生成手段231は、スペクトログラム生成手段23に相当する。スペクトログラム生成手段232は、信号前処理手段222から出力された振動信号からスペクトログラムを生成し、判定手段261に出力する。スペクトログラム生成手段233は、信号前処理手段223から出力された振動信号からスペクトログラムを生成し、判定手段261に出力する。
【0056】
推定手段251は、スペクトログラム生成手段231により生成されたスペクトログラムから、歯車装置30の回転数に対応する、小歯車342と大歯車341との噛み合い周波数fmを推定する。そして、推定手段251は、推定した噛み合い周波数fmから小歯車軸の回転数を推定し、推定した小歯車軸の回転数を判定手段261に出力する。推定手段251は、推定手段25に相当する。
【0057】
判定手段261は、スペクトログラム生成手段231,232,233により生成されたスペクトログラムと、推定手段251により推定された小歯車軸の回転数とに基づき、歯車装置30における異常の有無を判定する。判定手段261は、鉄道車両に搭載された各種機器の状態を監視する列車モニタ装置39に判定結果を出力する。判定手段261は、判定手段26に相当する。
【0058】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨および範囲内で、多くの変更および置換が可能であることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0059】
10 歯車装置
11,34 歯車箱
12 電動機
13 継手
14 負荷機
21、371,372,373 振動センサ
22,221,222,223 信号前処理手段
23,231,232,233 スペクトログラム生成手段
24 回転数センサ
25,251 推定手段
26,26A,261 判定手段
39 監視モニタ装置
31 車軸
35 軸継手
36 主電動機
321,322 軸箱
101,342 小歯車
102,341 大歯車
103 小歯車軸
104 軸受(第1の軸受)
105 大歯車軸
106 軸受(第2の軸受)
121 電動機軸
321a,322a,343,344 転がり軸受
331,332 車輪
371c,372c,373c ケーブル