(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117021
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】フィルム加熱延伸装置、フィルムの加熱延伸方法、および延伸フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 55/06 20060101AFI20240821BHJP
【FI】
B29C55/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022945
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100155712
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 尚
(72)【発明者】
【氏名】吉田 涼
【テーマコード(参考)】
4F210
【Fターム(参考)】
4F210AJ08
4F210AK04
4F210AR07
4F210AR12
4F210QA03
4F210QC02
4F210QD36
4F210QG01
4F210QG18
4F210QM01
4F210QM03
4F210QM13
4F210QM20
(57)【要約】
【課題】延伸フィルムの外観不良を抑制し得る、フィルムの加熱延伸装置および加熱延伸方法ならびに延伸フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】フィルム(F)をガイドする第1搬送ローラ(R1)、第2搬送ローラ(R2)、および第3搬送ローラ(R3)、フィルム(F)を加熱する加熱部(10)、ならびにフィルム(F)を延伸する延伸部(20)を備え、第3搬送ローラ(R3)に対するフィルムの抱き角度が特定値であるフィルム加熱延伸装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送方向に搬送されるフィルムをガイドする第1搬送ローラ、
前記第1搬送ローラよりも前記搬送方向の下流側において前記フィルムをガイドする第2搬送ローラ、
前記フィルムの、前記第1搬送ローラと前記第2搬送ローラとの間に位置する加熱領域を加熱するように配置された少なくとも1つの赤外線ヒータを含む加熱部、
前記加熱領域において加熱された前記フィルムに対して、前記搬送方向に延伸させる張力を付与する延伸部、および
前記延伸部により延伸されているフィルムをガイドする第3搬送ローラ、を備え、
前記第3搬送ローラは、前記第2搬送ローラよりも前記搬送方向の下流側に配置され、
前記第3搬送ローラに対する前記フィルムの抱き角度は70°~180°である、フィルム加熱延伸装置。
【請求項2】
前記延伸部により延伸されているフィルムをガイドする第4搬送ローラを備え、
前記第4搬送ローラは、前記第3搬送ローラよりも前記搬送方向の下流側に配置され、
前記第4搬送ローラに対する前記フィルムの抱き角度は70°~180°である、請求項1に記載のフィルム加熱延伸装置。
【請求項3】
前記延伸部により延伸されているフィルムをガイドする第5搬送ローラを備え、
前記第5搬送ローラは、前記第4搬送ローラよりも前記搬送方向の下流側に配置され、
前記第5搬送ローラに対する前記フィルムの抱き角度は30°~120°である、請求項2に記載のフィルム加熱延伸装置。
【請求項4】
前記第2搬送ローラと前記第3搬送ローラとの距離、前記第3搬送ローラと前記第4搬送ローラとの距離、前記第4搬送ローラと前記第5搬送ローラとの距離は、いずれも300mm以下である、請求項3に記載のフィルム加熱延伸装置。
【請求項5】
前記延伸部は、2つのニップローラを備える、請求項1~4のいずれか1項に記載のフィルム加熱延伸装置。
【請求項6】
搬送方向に搬送されるフィルムを第1搬送ローラでガイドする工程(I)、
前記工程(I)において搬送された前記フィルムを、前記第1搬送ローラよりも下流側に配置された第2搬送ローラでガイドする工程(II)、
前記フィルムを、前記第1搬送ローラと前記第2搬送ローラとの間に位置する加熱領域に配置された少なくとも1つの赤外線ヒータを含む加熱部にて加熱する工程(III)、
前記工程(III)において加熱された前記フィルムに対して、前記搬送方向に延伸させる張力を付与する延伸工程(IV)、および、
前記延伸工程(IV)により延伸されている前記フィルムを、前記第2搬送ローラよりも下流側に、前記フィルムの抱き角度が70°~180°となるように配置された第3搬送ローラにより、グリップしながら搬送する工程(V)を含む、フィルムの加熱延伸方法。
【請求項7】
搬送方向に搬送されるフィルムを第1搬送ローラでガイドする工程(I)、
前記工程(I)において搬送された前記フィルムを、前記第1搬送ローラよりも下流側に配置された第2搬送ローラでガイドする工程(II)、
前記フィルムを、前記第1搬送ローラと前記第2搬送ローラとの間に位置する加熱領域に配置された少なくとも1つの赤外線ヒータを含む加熱部にて加熱する工程(III)、
前記工程(III)において加熱された前記フィルムに対して、前記搬送方向に延伸させる張力を付与する延伸工程(IV)、および、
前記延伸工程(IV)により延伸されている前記フィルムを、前記第2搬送ローラよりも下流側に、前記フィルムの抱き角度が70°~180°となるように配置された第3搬送ローラにより、グリップしながら搬送する工程(V)を含む、延伸フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム加熱延伸装置、フィルムの加熱延伸方法、および延伸フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フィルムを加熱延伸する技術が知られている。このようなフィルムの加熱延伸においては、フィルムの昇温に要する加熱時間が長時間となる場合があった。それ故、フィルムの生産効率を向上させるために、フィルムの加熱時間の短縮が求められていた。
【0003】
そこで、近年では、例えば特許文献1に示されているように、短時間でフィルムを加熱(昇温)させることができる手段として、赤外線ヒータを用いてフィルムを加熱延伸する技術が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来技術では、フィルムの加熱延伸後に得られる延伸フィルムの外観(シワの発生等)において改善の余地があった。
【0006】
本発明の一実施形態は、前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、フィルムの加熱延伸後に得られる延伸フィルムの外観不良を抑制し得る、フィルムの加熱延伸装置、フィルムの加熱延伸方法、および延伸フィルムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明の一実施形態は、以下の構成を含むものである。
〔1〕搬送方向に搬送されるフィルムをガイドする第1搬送ローラ、前記第1搬送ローラよりも前記搬送方向の下流側において前記フィルムをガイドする第2搬送ローラ、前記フィルムの、前記第1搬送ローラと前記第2搬送ローラとの間に位置する加熱領域を加熱するように配置された少なくとも1つの赤外線ヒータを含む加熱部、前記加熱領域において加熱された前記フィルムに対して、前記搬送方向に延伸させる張力を付与する延伸部、および前記延伸部により延伸されているフィルムをガイドする第3搬送ローラ、を備え、前記第3搬送ローラは、前記第2搬送ローラよりも前記搬送方向の下流側に配置され、前記第3搬送ローラに対する前記フィルムの抱き角度は70°~180°である、フィルム加熱延伸装置。
〔2〕前記延伸部により延伸されているフィルムをガイドする第4搬送ローラを備え、
前記第4搬送ローラは、前記第3搬送ローラよりも前記搬送方向の下流側に配置され、
前記第4搬送ローラに対する前記フィルムの抱き角度は70°~180°である、〔1〕に記載のフィルム加熱延伸装置。
〔3〕前記延伸部により延伸されているフィルムをガイドする第5搬送ローラを備え、前記第5搬送ローラは、前記第4搬送ローラよりも前記搬送方向の下流側に配置され、前記第5搬送ローラに対する前記フィルムの抱き角度は30°~120°である、〔2〕に記載のフィルム加熱延伸装置。
〔4〕前記第2搬送ローラと前記第3搬送ローラとの距離、前記第3搬送ローラと前記第4搬送ローラとの距離、前記第4搬送ローラと前記第5搬送ローラとの距離は、いずれも300mm以下である、〔3〕に記載のフィルム加熱延伸装置。
〔5〕前記延伸部は、2つのニップローラを備える、〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載のフィルム加熱延伸装置。
〔6〕搬送方向に搬送されるフィルムを第1搬送ローラでガイドする工程(I)、前記工程(I)において搬送された前記フィルムを、前記第1搬送ローラよりも下流側に配置された第2搬送ローラでガイドする工程(II)、前記フィルムを、前記第1搬送ローラと前記第2搬送ローラとの間に位置する加熱領域に配置された少なくとも1つの赤外線ヒータを含む加熱部にて加熱する工程(III)、前記工程(III)において加熱された前記フィルムに対して、前記搬送方向に延伸させる張力を付与する延伸工程(IV)、および、前記延伸工程(IV)により延伸されている前記フィルムを、前記第2搬送ローラよりも下流側に、前記フィルムの抱き角度が70°~180°となるように配置された第3搬送ローラにより、グリップしながら搬送する工程(V)を含む、フィルムの加熱延伸方法。
〔7〕搬送方向に搬送されるフィルムを第1搬送ローラでガイドする工程(I)、前記工程(I)において搬送された前記フィルムを、前記第1搬送ローラよりも下流側に配置された第2搬送ローラでガイドする工程(II)、前記フィルムを、前記第1搬送ローラと前記第2搬送ローラとの間に位置する加熱領域に配置された少なくとも1つの赤外線ヒータを含む加熱部にて加熱する工程(III)、前記工程(III)において加熱された前記フィルムに対して、前記搬送方向に延伸させる張力を付与する延伸工程(IV)、および、前記延伸工程(IV)により延伸されている前記フィルムを、前記第2搬送ローラよりも下流側に、前記フィルムの抱き角度が70°~180°となるように配置された第3搬送ローラにより、グリップしながら搬送する工程(V)を含む、延伸フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、フィルムの加熱延伸後に得られる延伸フィルムの外観不良を抑制し得る、フィルムの加熱延伸装置、フィルムの加熱延伸方法、および延伸フィルムの製造方法を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態1に係るフィルム加熱延伸装置の概略構成の一例を示す模式図である。
【
図2】本発明の実施形態2に係るフィルム加熱延伸装置の概略構成の一例を示す模式図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るフィルムの加熱延伸方法および延伸フィルムの製造方法の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態および実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態および実施例についても、本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0012】
本明細書において、フィルムを加熱延伸させた後に得られるフィルムを「延伸フィルム」と称する場合がある。
【0013】
〔本発明の技術的思想〕
フィルムを延伸する技術として、フィルムを搬送しつつ、搬送方向の上流側のローラと搬送方向の下流側のローラとの間の延伸区間内において、上流側のローラの周速度よりも下流側のローラの周速度を高めることにより、フィルムを搬送方向に延伸するローラ間延伸が知られている。このローラ間延伸において、延伸区間内に加熱装置を配置し、加熱装置で延伸区間内にあるフィルムを樹脂のガラス転移温度(Tg)よりも高い温度に加熱してフィルムを延伸する技術が存在する。
【0014】
一方、加熱装置を用いたフィルムのローラ間延伸(加熱延伸)では、フィルムを昇温するために必要な工程である、フィルムの予熱から本加熱までの時間が長時間となる場合があることから、フィルムの生産効率の観点から改善の余地があった。
【0015】
フィルムの生産効率を上げるためには、生産速度を上げる必要があり、かつ、生産設備として、非常に長く大きなオーブンが必要となる。それ故、生産設備にかかる固定費の削減、およびフィルムの加熱時間の長時間化に伴う製品特性の低下の改善の観点から、課題が残されていた。
【0016】
このため、近年では、特許文献1に示すように、短時間でフィルムの温度を昇温させることができる赤外線ヒータを用いた加熱延伸する技術が開発されている。
【0017】
しかし、上述のような従来技術では、フィルムの加熱延伸後に得られる延伸フィルムの、幅方向の収縮に伴うシワの発生等、外観不良が生じる場合があった。
【0018】
本発明者は、鋭意検討の結果、フィルムをガイドする搬送ローラの数を増やし、また、フィルムに対して特定の抱き角度を有する搬送ローラを備える、フィルム加熱延伸装置を用いることにより、当該課題が解決されることを新規に見出し、本発明を完成させるに至った。
【0019】
〔実施形態1〕
(フィルム加熱延伸装置)
以下、本発明の実施形態1に係るフィルム加熱延伸装置について、
図1を参照して、説明する。
図1は、本発明の実施形態1に係るフィルム加熱延伸装置の概略構成の一例を示す図である。
図1は、フィルムFの長さ方向に平行な方向から見た図であり、フィルムFの搬送の上流側を左側に、下流側を右側に示す。
図1において、搬送方向はフィルムFの長さ方向である。
【0020】
図1に示すように、本発明の実施形態1に係るフィルム加熱延伸装置100は、フィルムFを搬送方向に搬送するものであって、少なくとも、第1搬送ローラR1、第2搬送ローラR2、第3搬送ローラR3、加熱部10、および、延伸部20を備える。第1搬送ローラR1は、フィルムFを加熱部10へガイドする。第2搬送ローラR2は、第1搬送ローラR1よりも搬送方向の下流側においてフィルムFをガイドする。加熱部10は、少なくとも1つの赤外線ヒータを含み、フィルムFの、第1搬送ローラR1と第2搬送ローラR2との間に位置する加熱領域H1を加熱するように配置されている。延伸部20は、加熱領域H1において赤外線Iにより加熱されたフィルムFに対して、搬送方向に延伸させる張力を付与する。第3搬送ローラR3は、前記延伸部により延伸されているフィルムをガイドする。第3搬送ローラR3は、第2搬送ローラR2よりも搬送方向の下流側に備えられ、第3搬送ローラR3に対するフィルムFの抱き角度θ
3は70°~180°である。
【0021】
フィルムFは、第1搬送ローラR1と第2搬送ローラR2との間に位置する加熱領域H1にて加熱延伸後に、加熱延伸時と同じテンションがかかっていると、幅収縮が起こる。一方で、前記構成によれば、フィルムFに対する第3搬送ローラR3のグリップ力により、フィルムの加熱延伸後に得られる延伸フィルムの幅収縮を抑えることができ、延伸フィルムの外観不良や機械特性の低下を抑制することができる。
【0022】
フィルム加熱延伸装置100により加熱延伸が可能なフィルムFとしては、例えば、熱可塑性樹脂フィルムが挙げられる。かかる熱可塑性樹脂フィルムの具体例としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアクリル系樹脂およびポリエステル系樹脂等が挙げられる。
【0023】
第1搬送ローラR1に対するフィルムFの抱き角度θ1は、特に限定されないが、30°~120°であることが好ましい。また、第2搬送ローラR2に対するフィルムFの抱き角度θ2は、特に限定されないが、30°~120°であることが好ましい。なぜならば、30°未満のとき、フィルムFと第1搬送ローラR1または第2搬送ローラR2との間の摩擦が小さく、フィルムFを保持する力が小さいからである。特に、第1搬送ローラR1および第2搬送ローラR2の間のフィルムFに延伸するための張力が掛かっている場合を考慮すると、フィルムFを十全に保持するために、30°以上が好ましい。なぜならば、120°超のとき、フィルム加熱延伸装置100(および、場合に応じて、周辺設備)に亘るフィルムFの連続する搬送経路を構築しにくいからである。
【0024】
第1搬送ローラR1の幅方向における中央部の直径は、特に限定されないが、150mm以上600mm以下であることが好ましい。第2搬送ローラR2の幅方向における中央部の直径は、特に限定されないが、150mm以上600mm以下であることが好ましい。なぜならば、直径が150mm未満のとき、張力を付与されているフィルムFからの圧力によって、第1搬送ローラR1または第2搬送ローラR2それ自体が撓むことがあるからである。フィルムFを搬送方向に延伸するために、フィルムFに付与される張力が大きく、フィルムFからの圧力は、大きい。なぜならば、直径が600mm超のとき、第1搬送ローラR1または第2搬送ローラR2それ自体が大きく重くなり、機械的損失が大きくなり、追従性が低下するからである。追従性の低下は、例えば、第1搬送ローラR1または第2搬送ローラR2の周速度の制御値(または目標値)と、実際の周速度との差が大きいという問題を引き起こす。また例えば、第1搬送ローラR1または第2搬送ローラR2の周速度とその上のフィルムFの搬送速度との不一致という問題を引き起こす。
【0025】
なお、本明細書において、中央部とは、ローラの回転軸に沿った方向において、ローラの両端面から略等距離である部分を意図する。
【0026】
フィルム加熱延伸装置100において、第1搬送ローラR1は、加熱部10の搬送方向の上流側に位置し、第2搬送ローラR2は、加熱部10の搬送方向の下流側に位置する。第1搬送ローラR1と第2搬送ローラR2との間の搬送経路には、別の搬送ローラが設けられておらず、フィルムFの加熱領域H1は宙に浮いている。すなわち、フィルムFは、第1搬送ローラR1に接した後、宙に浮いた状態で加熱され、次に、第2搬送ローラR2に接する。本明細書において、第1搬送ローラR1とフィルムFとの接面から、第2搬送ローラR2とフィルムFとの接面までのフィルムFの領域を、加熱領域H1と称する。
【0027】
フィルム加熱延伸装置100において、加熱部10は、少なくとも1つの赤外線ヒータを含む。加熱部10は1つの赤外線ヒータのみを含んでもよく、2つ以上の赤外線ヒータを含んでいてもよい。加熱部10が2つ以上の赤外線ヒータを含む場合、それぞれの赤外線ヒータの温度は同じであってもよく、異なる温度であってもよい。フィルムFの過度に急速な加熱を抑制できることから、加熱部10が2つ以上の赤外線ヒータを含む場合、搬送方向の上流側の赤外線ヒータの温度が、フィルムFのガラス転移温度よりも低い温度であり、搬送方向の下流側の赤外線ヒータの温度が、フィルムFのガラス転移温度よりも高い温度であることが好ましい。
【0028】
加熱部10が含む赤外線ヒータは、近赤外線ヒータであってもよく、遠赤外線ヒータであってもよいが、遠赤外線ヒータが好ましい。遠赤外線ヒータは、近赤外線ヒータと比較して、フィルムFの昇温に要する加熱時間をより短縮することができる。これは特に、フィルムFが、例えばポリイミド等のガラス転移温度(Tg)が比較的高い熱可塑性樹脂を含む場合に有益である。ポリイミド(PI)のガラス転移温度は、摂氏200度以上である。
【0029】
フィルム加熱延伸装置100は、その間にフィルムFを挟むように、加熱部10と対向する反射板11を備えてもよい。
【0030】
フィルム加熱延伸装置100は、延伸部20において、第2搬送ローラR2よりも搬送方向の下流側に第3搬送ローラR3を備える。フィルムFにおいて、第3搬送ローラR3との接面は、第2搬送ローラR2との接面と反対側である。換言すれば、第2搬送ローラR2と第3搬送ローラR3とは、フィルムFを挟んで互いに反対側に配置される。
【0031】
第3搬送ローラR3に対するフィルムFの抱き角度θ3は70°~180°であり、70°~120°であることが好ましく、85°~95°であることがより好ましい。当該構成によれば、フィルムFをグリップしながら搬送できる。それ故、フィルムFの幅収縮を防ぐことができ、フィルムのシワの発生が少なくなることから、フィルムの加熱延伸後に得られる延伸フィルムの外観不良を抑制することができる。また、フィルムFの抱き角度θ3が120°以下であることにより、フィルム加熱延伸装置100(および、場合に応じて、周辺設備)に亘るフィルムFの連続する搬送経路を構築しやすい。
【0032】
第3搬送ローラR3の幅方向における中央部の直径は、特に限定されないが、150mm~600mmであることが好ましい。なぜならば、中央部の直径が150mm未満のとき、張力を付与されているフィルムFからの圧力によって、第3搬送ローラR3それ自体が撓むことがあるからである。フィルムFを搬送方向に延伸するために、フィルムFに付与される張力が大きく、フィルムFからの圧力は、大きい。なぜならば、中央部の直径が600mm超のとき、第3搬送ローラR3それ自体が大きく重くなり、機械的損失が大きくなり、追従性が低下するからである。
【0033】
第2搬送ローラと第3搬送ローラとの距離は、300mm以下であることが好ましい。当該構成によれば、フィルムFをグリップしながら搬送できる。それ故、フィルムFに対して同じ張力がかかり続けることによって生じる、フィルムの機械特性の緩和および幅収縮を防ぐことができる。したがって、フィルムの加熱延伸後に得られる延伸フィルムの外観不良を抑制することができる。
【0034】
なお、本明細書において、「第A搬送ローラと第B搬送ローラとの距離」とは、第A搬送ローラの表面上の任意の点と第B搬送ローラの表面上の任意の点とを結ぶ直線のうち、最短の直線の長さを意図する。
【0035】
第3搬送ローラは、加熱されない。具体的には、第3搬送ローラの温度は、特に限定されないが、摂氏10℃~摂氏40℃であることが好ましく、摂氏20℃~摂氏30℃であることがより好ましい。なぜならば、上述の温度範囲内であれば、延伸後の分子配向が安定するからである。
【0036】
各搬送ローラ(R1~R3)としては、クラウンローラ、コンケイブローラ、または、ストレートローラ等の公知のローラを採用することができる。フィルムFをより均一に延伸し得ることから、第1搬送ローラR1はクラウンローラであり、第2搬送ローラR2はコンケイブローラであることが好ましい。また、フィルムFをより均一に延伸し得ることから、第3搬送ローラR3は、ストレートローラであることが好ましい。
【0037】
本明細書において、「クラウンローラ」は、幅方向の中央部が最も大きく、中央部から端部に向かって直径が徐々に小さくなるローラを意味する。また、「コンケイブローラ」は、幅方向の中央部が最も小さく、中央部から端部に向かって直径が徐々に大きくなるローラを意味する。また、「ストレートローラ」は、中央部から端部まで直径が一定であるローラを意味する。
【0038】
各搬送ローラ(R1~R3)は、表面に金属材料が露出している金属ローラであっても、芯の外周をゴム材料で被覆したゴムローラであってもよい。ゴムローラである場合、張力を印加されているフィルムFからの圧力によってゴムローラが変形することがないように、硬いゴム材料を用いる。例えば、JIS6253のショアAで65°以上の硬度を有するゴム材料を用いる。
【0039】
延伸部20は少なくとも、第1駆動ローラ21と第2駆動ローラ22とを備える。第1駆動ローラ21および第2駆動ローラ22は各々、フィルムFの搬送を駆動する。第1駆動ローラ21は、第1搬送ローラR1よりも搬送方向の上流側に配置される。第2駆動ローラ22は、第3搬送ローラR3よりも搬送方向の下流側に配置される。
【0040】
延伸部20は、2つのニップローラを備えることが好ましい。具体的には、延伸部20は、ニップローラ23および24を備えることが好ましい。ニップローラ23、24は各々、第1駆動ローラ21および第2駆動ローラ22へフィルムFを押し付けるように配置される。本実施形態では、ニップローラ23は第1搬送ローラR1の搬送方向の上流に配置され、ニップローラ24は第3搬送ローラR3よりも搬送方向の下流側に配置される。
【0041】
(フィルムの加熱延伸方法および延伸フィルムの製造方法)
以下、本発明の一実施形態に係るフィルムの加熱延伸方法および延伸フィルムの製造方法について、
図3を参照して、説明する。
【0042】
本発明の一実施形態に係るフィルムの加熱延伸方法および延伸フィルムの製造方法は、搬送方向に搬送されるフィルムを第1搬送ローラでガイドする工程(I)、前記工程(I)において搬送された前記フィルムを、前記第1搬送ローラよりも下流側に配置された第2搬送ローラでガイドする工程(II)、前記フィルムを、前記第1搬送ローラと前記第2搬送ローラとの間に位置する加熱領域に配置された少なくとも1つの赤外線ヒータを含む加熱部にて加熱する工程(III)、前記工程(III)において加熱された前記フィルムに対して、前記搬送方向に延伸させる張力を付与する延伸工程(IV)、および、前記延伸工程(IV)により延伸されている前記フィルムを、前記第2搬送ローラよりも下流側に、前記フィルムの抱き角度が70°~180°となるように配置された第3搬送ローラにより、グリップしながら搬送する工程(V)を含む。
【0043】
図3は、本実施形態に係る延伸フィルムの製造方法の一例を示すフロー図である。
図3に示すように、本実施形態に係る延伸フィルムの製造方法は、フィルムFを第1搬送ローラR1でガイドする工程(ステップS1。前記工程(I)に対応。)と、フィルムFの加熱領域H1を加熱する工程と(ステップS2。前記工程(II)に対応。)と、フィルムFを第2搬送ローラR2でガイドする工程(ステップS3。前記工程(III)に対応。)と、フィルムFを第3搬送ローラによりグリップしながら搬送する工程(ステップS4。前記工程(V)に対応。)を含む。本開示に係るフィルムFの製造方法は同時に、フィルムFを搬送方向に搬送すると共に、加熱領域H1を延伸させる張力をフィルムFに付与する(ステップS5。前記工程(V)に対応。)。これらが連続的に行われて、長尺の延伸フィルムが、外観不良を発生させることなく、連続的に生産される。
【0044】
本発明の一実施形態に係るフィルムFの加熱延伸方法および延伸フィルムの製造方法は、上述したフィルム加熱延伸装置100を用いて好適に実施し得る。
【0045】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0046】
図2は、本発明の実施形態2に係るフィルム加熱延伸装置の概略構成の一例を示す模式図である。
図2に示すように、本発明の実施形態2に係るフィルム加熱延伸装置100Aは、第3搬送ローラR3より搬送方向の下流側に、フィルムFに対する特定の抱き角度で、第4搬送ローラR4および第5搬送ローラR5を備える点を除いて、前述の実施形態1に係るフィルム加熱延伸装置100と同じ構成を有する。
【0047】
本発明の実施形態2におけるフィルム加熱延伸装置100Aは、延伸部20により延伸されているフィルムFをガイドする、第4搬送ローラR4を備える。第4搬送ローラR4は、第3搬送ローラR3よりも搬送方向の下流側に配置される。本発明の実施形態2におけるフィルム加熱延伸装置100Aは、延伸部20により延伸されているフィルムFをガイドする、第5搬送ローラR5を備える。第5搬送ローラR5は、第4搬送ローラR4よりも搬送方向の下流側に配置される。
【0048】
フィルムFにおいて、第4搬送ローラR4との接面は、第3搬送ローラR3との接面と反対側である。また、フィルムFにおいて、第5搬送ローラR5との接面は、第4搬送ローラR4との接面と反対側である。換言すれば、第3搬送ローラR3と第4搬送ローラR4とは、フィルムFを挟んで互いに反対側に配置され、第4搬送ローラR4と第5搬送ローラR5とは、フィルムFを挟んで互いに反対側に配置される。
【0049】
第4搬送ローラR4に対するフィルムFの抱き角度θ4は70°~180°であることが好ましく、70°~120°であることがより好ましく、85°~95°であることがさらに好ましい。当該構成によれば、フィルムFをグリップしながら搬送できる。それ故、フィルムFの幅収縮を防ぐことができ、フィルムの加熱延伸後に得られる延伸フィルムの外観不良を抑制することができる。
【0050】
第5搬送ローラR5に対するフィルムFの抱き角度θ5は30°~120°であることが好ましく、70°~120°であることがより好ましく、85°~95°であることがさらに好ましい。当該構成によれば、フィルムFをグリップしながら搬送できる。それ故、フィルムFの幅収縮を防ぐことができ、フィルムの加熱延伸後に得られる延伸フィルムの外観不良を抑制することができる。
【0051】
搬送ローラ(R4、R5)の幅方向における中央部の直径は、特に限定されないが、150mm以上600mm以下であることが好ましい。なぜならば、中央部の直径が150mm未満のとき、張力を付与されているフィルムFからの圧力によって、第4搬送ローラR4または第5搬送ローラR5それ自体が撓むことがあるからである。フィルムFを搬送方向に延伸するために、フィルムFに付与される張力が大きく、フィルムFからの圧力は、大きい。なぜならば、中央部の直径が600mm超のとき、第4搬送ローラR4または第5搬送ローラR5それ自体が大きく重くなり、機械的損失が大きくなり、追従性が低下するからである。
【0052】
第3搬送ローラと第4搬送ローラとの距離は300mm以下であることが好ましく、第4搬送ローラと第5搬送ローラとの距離は、300mm以下であることが好ましい。当該構成によれば、フィルムFをグリップしながら搬送できる。それ故、フィルムに対して同じ張力がかかり続けることによって生じる、フィルムの機械特性の緩和および幅収縮を防ぐことができる。したがって、フィルムの加熱延伸後に得られる延伸フィルムの外観不良を抑制することができる。
【0053】
第4搬送ローラおよび第5搬送ローラは、いずれも加熱されない。具体的に、第4搬送ローラおよび第5搬送ローラの温度は、特に限定されないが、摂氏10℃~摂氏40℃であることが好ましく、摂氏20℃~摂氏30℃であることがより好ましい。なぜならば、上述の温度範囲内であれば、延伸後の分子配向が安定するからである。
【0054】
第4搬送ローラおよび第5搬送ローラは、上述した搬送ローラ(R1~R3)と同様、クラウンローラ、コンケイブローラ、または、ストレートローラ等の公知のローラを採用することができる。フィルムFをより均一に延伸し得ることから、第4搬送ローラR4は、ストレートローラであることが好ましく、第5搬送ローラR5は、ストレートローラであることが好ましい。
【0055】
第4搬送ローラおよび第5搬送ローラは、上述した搬送ローラ(R1~R3)と同様、表面に金属材料が露出している金属ローラであっても、芯の外周をゴム材料で被覆したゴムローラであってもよい。ゴムローラである場合、張力を印加されているフィルムFからの圧力によってゴムローラが変形することがないように、硬いゴム材料を用いる。例えば、JIS6253のショアAで65°以上の硬度を有するゴム材料を用いる。
【0056】
延伸部20は少なくとも、第1駆動ローラ21と第2駆動ローラ22とを備える。第1駆動ローラ21および第2駆動ローラ22は各々、フィルムFの搬送を駆動する。第1駆動ローラ21は、第1搬送ローラR1よりも搬送方向の上流側に配置される。第2駆動ローラ22は、第5搬送ローラR5よりも搬送方向の下流側に配置される。
【0057】
延伸部20は、2つのニップローラを備えることが好ましい。具体的には、延伸部20は、ニップローラ23および24を備えることが好ましい。ニップローラ23、24は各々、第1駆動ローラ21および第2駆動ローラ22へフィルムFを押し付けるように配置される。本実施形態では、ニップローラ23第1搬送ローラR1よりも搬送方向の上流側に配置され、ニップローラ24は第5搬送ローラR5よりも搬送方向の下流側に配置される。
【符号の説明】
【0058】
10 加熱部
11 反射板
20 延伸部
21 第1駆動ローラ
22 第2駆動ローラ
100、100A フィルム加熱延伸装置
F フィルム
H1 加熱領域
I 赤外線
R1 第1搬送ローラ
R2 第2搬送ローラ
R3 第3搬送ローラ
R4 第4搬送ローラ
R5 第5搬送ローラ
θ1、θ2、θ3、θ4、θ5 抱き角度