(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117030
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】液体噴射ヘッド及び液体噴射装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20240821BHJP
【FI】
B41J2/14 305
B41J2/14 613
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022961
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】御子柴 匡矩
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼部 本規
(72)【発明者】
【氏名】古池 晴信
(72)【発明者】
【氏名】王 敬齢
(72)【発明者】
【氏名】板山 泰裕
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF65
2C057AF93
2C057AG44
2C057AN01
2C057BA04
2C057BA14
(57)【要約】 (修正有)
【課題】繰り返し駆動しても液体噴射特性が劣化を抑制した液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】液体を噴射するノズルに連通する圧力室12が複数形成される基板10と、基板の一方面側に設けられる振動板50と、振動板側から第1方向に積層された第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を有する圧電アクチュエーター300と、を具備し、圧電アクチュエーターのうち、第1方向にみて圧力室と重なり、且つ、第1電極、圧電体層及び第2電極が重なる部分を活性部310とし、圧電アクチュエーターのうち、第1方向にみて圧力室と重なり、且つ、第1電極、圧電体層及び第2電極が重ならない部分を非活性部330としたとき、圧電体層は活性部と非活性部との間において連続して設けられ、圧電体層を形成する圧電体の結晶粒径は、非活性部において、活性部よりも大きい。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズルに連通する圧力室が複数形成される基板と、
前記基板の一方面側に設けられる振動板と、
前記振動板側から第1方向に積層された第1電極、圧電体層及び第2電極を有する圧電アクチュエーターと、
を具備し、
前記圧電アクチュエーターの前記圧電体層のうち、前記第1方向にみて、前記圧力室と、前記第1電極と、前記第2電極と、に重なる部分を活性部とし、
前記圧電アクチュエーターの前記圧電体層うち、前記第1方向にみて、前記第1電極と、前記第2電極と、の少なくとも一方に重ならない部分を非活性部としたとき、
前記圧電体層は前記活性部と前記非活性部との間において連続して設けられ、
前記圧電体層を形成する圧電体の結晶粒径は、前記非活性部において、前記活性部よりも大きい
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記圧電体層を形成する圧電体の結晶粒径は、前記活性部において、前記非活性部の1/2以下である
ことを特徴とする請求項1の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記圧電体層を形成する圧電体の結晶粒径のばらつきは、前記非活性部において、前記活性部よりも大きい
ことを特徴とする請求項1の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記活性部に設けられ前記非活性部には設けられていない配向制御層を含み、
前記活性部において前記配向制御層は前記第1電極と前記圧電体層との間に位置する
ことを特徴とする請求項1の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記第1方向において、前記圧電体層は前記配向制御層よりも厚い
ことを特徴とする請求項4の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記活性部において、前記配向制御層を形成する圧電体の結晶粒径は、前記活性部において前記圧電体層を形成する圧電体の結晶粒径よりも小さい
ことを特徴とする請求項4の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記第1電極と前記配向制御層との間に位置する第1シード層と前記配向制御層と前記圧電体層との間に位置する第2シード層とを含み、
前記活性部においては、前記第1シード層と前記第2シード層とが設けられ、
前記非活性部においては、前記第2シード層が設けられ、前記第1シード層は設けられていない
ことを特徴とする請求項6の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
前記活性部は、第1活性部と、前記第1活性部よりも前記非活性部に近い第2活性部とを含み、
前記第2活性部において前記圧電体層を形成する圧電体の結晶粒径は、前記第1活性部において前記圧電体層を形成する圧電体の結晶粒径よりも大きく、且つ、前記非活性部において前記圧電体層を形成する圧電体の結晶粒径よりも小さい
ことを特徴とする請求項1の液体噴射ヘッド。
【請求項9】
前記第2活性部における前記第1電極の厚さは、前記非活性部側から前記第1活性部側に向かって厚くなる
ことを特徴とする請求項8の液体噴射ヘッド。
【請求項10】
前記圧力室は配列方向に沿って複数設けられ、前記第1電極は複数の前記圧力室に対して個別に設けられ、前記第2電極は複数の前記圧力室に対して共通に設けられる
ことを特徴とする請求項1の液体噴射ヘッド。
【請求項11】
前記圧力室は配列方向に沿って複数設けられ、前記第1電極は複数の前記圧力室に対して共通に設けられ、前記第2電極は複数の前記圧力室に対して個別に設けられる
ことを特徴とする請求項1の液体噴射ヘッド。
【請求項12】
前記圧力室は配列方向に沿って複数設けられ、前記圧電体層は1つの前記圧力室上において、前記配列方向に連続して設けられる
ことを特徴とする請求項1の液体噴射ヘッド。
【請求項13】
前記圧力室は配列方向に沿って複数設けられ、前記圧力室の前記配列方向及び前記第1方向の双方に直交する方向に前記活性部及び前記非活性部が並ぶ
ことを特徴とする請求項1の液体噴射ヘッド。
【請求項14】
前記圧力室は配列方向に沿って複数設けられ、前記圧力室の配列方向に前記活性部及び前記非活性部が並ぶ
ことを特徴とする請求項1の液体噴射ヘッド。
【請求項15】
請求項1~請求項14の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動板と、第1電極、圧電体層及び第2電極を有する圧電アクチュエーターとを具備する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電デバイスの一つである液体噴射ヘッドの代表例としては、インク滴を吐出するインクジェット式記録ヘッドが挙げられる。インクジェット式記録ヘッドとしては、例えばノズルに連通する圧力室が形成された流路形成基板と、この流路形成基板の一方面側に振動板を介して下電極、圧電体層、および、上電極が順に積層された圧電アクチュエーターを具備し、圧電アクチュエーターによって圧力室内のインクに圧力変化を生じさせることで、ノズルからインク滴を噴射するものが知られている。
【0003】
このような液体噴射ヘッドでは、圧電アクチュエーターが設けられた活性部は複数の圧力室に対応して複数のセグメントとして存在するが、圧電体層は、非活性部を介して複数のセグメントに亘って設けられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、かかる圧電アクチュエーターは、電圧印加を繰り返すことで、圧電体部にひずみがたまり、電圧を印加しない状態でも過剰変形してしまい、吐出特性が大きく劣化するリスクを含んだものとなっている。
【0005】
また、特許文献1には、活性部と非活性部との境界に延設部93を設け、上電極上におもりとなる金属層を設けることで、圧電アクチュエーターの動きを規制して過剰の変形を抑制することにより、活性部と非活性部の境界領域に発生する応力を弱め、境界における応力集中における圧電体層70の破壊を抑制する構造が提案されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1の「延設部93」によると、変形量が抑えられ、活性部と非活性部との間の境界領域に加わる応力は低減されるものの、当該境界領域に応力が加わること自体は変わりなく、圧電体層にクラックが入り易いという従来から知られている課題は完全には解決されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、活性部と非活性部の境界領域において、できるだけ応力の発生を低減して、電圧印加を長期に亘って繰り返しても、吐出特性が大きく劣化するリスクを解消した液体噴射ヘッドが求められている。
【0009】
なお、このような問題は、インクを吐出するインクジェット式記録ヘッドに限定されず、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにおいても同様に存在する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の態様は、液体を噴射するノズルに連通する圧力室が複数形成される基板と、前記基板の一方面側に設けられる振動板と、前記振動板側から第1方向に積層された第1電極、圧電体層及び第2電極を有する圧電アクチュエーターと、を具備し、前記圧電アクチュエーターの前記圧電体層のうち、前記第1方向にみて、前記圧力室と、前記第1電極と、前記第2電極と、に重なる部分を活性部とし、前記圧電アクチュエーターの前記圧電体層うち、前記第1方向にみて、前記第1電極と、前記第2電極と、の少なくとも一方に重ならない部分を非活性部としたとき、前記圧電体層は前記活性部と前記非活性部との間において連続して設けられ、前記圧電体層を形成する圧電体の(平均)結晶粒径は、前記非活性部において、前記活性部よりも大きいことを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0011】
また、本発明の他の態様は、前記液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【
図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図である。
【
図3】実施形態1に係る記録ヘッドの断面図である。
【
図4】実施形態1に係る記録ヘッドの要部断面図である。
【
図5】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【
図6】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【
図7】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【
図8】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【
図9】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【
図10】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【
図11】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【
図12】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【
図13】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【
図14】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【
図15】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【
図16】実施形態1に係る記録ヘッドの部分断面図である。
【
図19】試験例1の結晶粒のサイズ比の分布を示す図である。
【
図20】他の実施形態に係る記録ヘッドの断面図である。
【
図21】他の実施形態に係る記録ヘッドの断面図である。
【
図22】他の実施形態に係る記録ヘッドの断面図である。
【
図23】一実施形態に係る記録装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本発明の一態様を示すものであって、本発明の範囲内で任意に変更可能である。各図において同じ符号を付したものは、同一の部材を示しており、適宜説明が省略されている。また、各図においてX、Y、Zは、互いに直交する3つの空間軸を表している。本明細書では、これらの軸に沿った方向をX方向、Y方向、及びZ方向とする。各図の矢印が向かう方向を正(+)方向、矢印の反対方向を負(-)方向として説明する。さらに、正方向及び負方向を限定しない3つのX、Y、Zの空間軸の方向については、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向として説明する。また、Z方向は、鉛直方向を示し、+Z方向は鉛直下向き、-Z方向は鉛直上向きを示す。
【0014】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッド1の分解斜視図である。
図2は、記録ヘッド1の平面図である。
図3は、
図2のA-A′線断面図である。
図4は、
図2のB-B′線断面図である。
【0015】
図示するように、本実施形態の液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッド1(以下、単に記録ヘッド1とも言う)は、「基板」の一例として流路形成基板10を具備する。流路形成基板10は、シリコン基板、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板からなる。なお、流路形成基板10は、詳しくは後述するが、(100)面優先配向した基板であっても、(110)面優先配向した基板であってもよい。
【0016】
流路形成基板10には、複数の圧力室12が+X方向に沿って並んで配置されている。つまり、本実施形態では、X軸方向が、「配列方向」に相当する。複数の圧力室12は、+Y方向の位置が同じ位置となるように、+X方向に沿った直線上に配置されている。+X方向で互いに隣り合う圧力室12は、隔壁11によって区画されている。また、本実施形態では、圧力室12が+X方向に並設された列が、+Y方向に2列並設されている。もちろん、圧力室12の配置は特にこれに限定されず、例えば、+X方向に並んで配置された圧力室12において、1つ置きに+Y方向にずれた位置に配置した、所謂、千鳥配置としてもよい。
【0017】
また、本実施形態の圧力室12は、+Z方向に見た形状は、矩形状、平行四辺形状、長方形状を基本として長手方向の両端部を半円形状とした、いわゆる、角丸長方形状や楕円形状や卵形状などのオーバル形状や、円形状、多角形状等であってもよい。
【0018】
流路形成基板10の+Z方向を向く面には、連通板15とノズルプレート20とが順次積層されている。ここで、Z軸方向は、「第1方向」に相当する。
【0019】
連通板15には、圧力室12とノズル21とを連通するノズル連通路16が設けられている。
【0020】
また、連通板15には、複数の圧力室12が共通して連通する共通液室となるマニホールド100の一部を構成する第1マニホールド部17と第2マニホールド部18とが設けられている。第1マニホールド部17は、連通板15を+Z方向に貫通して設けられている。また、第2マニホールド部18は、連通板15を+Z方向に貫通することなく、+Z方向側の面に開口して設けられている。
【0021】
さらに、連通板15には、圧力室12のY軸方向の端部に連通する供給連通路19が圧力室12の各々に独立して設けられている。供給連通路19は、第2マニホールド部18と圧力室12とを連通して、マニホールド100内のインクを圧力室12に供給する。
【0022】
このような連通板15としては、シリコン基板、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板、ステンレス基板等の金属基板などを用いることができる。なお、連通板15は、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料を用いることが好ましい。このように流路形成基板10と連通板15とを熱膨張率が略同一の材料を用いることで、熱膨張率の違いによって熱により反りが発生するのを低減することができる。
【0023】
ノズルプレート20は、連通板15の流路形成基板10とは反対側、すなわち、+Z方向を向く面に設けられている。
【0024】
ノズルプレート20には、各圧力室12にノズル連通路16を介して連通するノズル21が形成されている。本実施形態では、複数のノズル21は、+X方向に沿って一列となるように並んで配置されたノズル列が+Y方向に離れて2列設けられている。すなわち、各列の複数のノズル21は、+Y方向の位置が同じ位置となるように配置されている。もちろん、ノズル21の配置は特にこれに限定されず、例えば、+X方向に並んで配置されたノズル21において、1つ置きに+Y方向にずれた位置に配置した、所謂、千鳥配置としてもよい。このようなノズルプレート20としては、シリコン基板、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板、ステンレス基板等の金属基板、ポリイミド樹脂のような有機物などを用いることができる。なお、ノズルプレート20は、連通板15の熱膨張率と略同一の材料を用いることが好ましい。このようにノズルプレート20と連通板15とを熱膨張率が略同一の材料を用いることで、熱膨張率の違いによって熱により反りが発生するのを低減することができる。
【0025】
また、連通板15の-Z方向を向く面には、ケース部材40が固定されている。ケース部材40は、第1マニホールド部17に連通する第3マニホールド部42が設けられている。そして、連通板15に設けられた第1マニホールド部17及び第2マニホールド部18と、ケース部材40に設けられた第3マニホールド部42と、によって本実施形態のマニホールド100が構成されている。マニホールド100は、+X方向に並設された圧力室12の列毎に、複数の圧力室12に対して+X方向に亘って連続して設けられおり、各圧力室12とマニホールド100とを連通する供給連通路19は、+X方向に並んで配置されている。また、ケース部材40には、マニホールド100に連通して各マニホールド100にインクを供給するための導入口44が設けられている。また、ケース部材40には、詳しくは後述する保護基板30の貫通孔32に連通して配線基板120が挿通される接続口43が設けられている。
【0026】
また、連通板15の第1マニホールド部17及び第2マニホールド部18が開口する+Z方向を向く面には、コンプライアンス基板45が設けられている。このコンプライアンス基板45が、第1マニホールド部17と第2マニホールド部18の+Z方向側の開口を封止している。このようなコンプライアンス基板45は、本実施形態では、可撓性を有する薄膜からなる封止膜46と、金属等の硬質の材料からなる固定基板47と、を具備する。固定基板47のマニホールド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部48となっているため、マニホールド100の一方面は可撓性を有する封止膜46のみで封止された可撓部であるコンプライアンス部49となっている。このコンプライアンス部49が撓み変形することによってマニホールド100内のインクの圧力変動を吸収する。
【0027】
流路形成基板10の-Z方向を向く面には、振動板50と、振動板50側から-Z方向に積層された第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を有する圧電アクチュエーター300と、が順次積層されている。
【0028】
振動板50は、流路形成基板10側に設けられた弾性膜51と、圧電アクチュエーター300側に設けられた絶縁体膜52と、を具備する。
【0029】
弾性膜51は、酸化ケイ素(SiOx)、一例として二酸化ケイ素(SiO2)を含む材料で構成されている。ここで酸化ケイ素を含む弾性膜51とは、酸化ケイ素を主成分として含むものであれば、その他の材料を含むものであってもよい。なお、弾性膜51の主成分が酸化ケイ素であるとは、弾性膜51に含まれる酸化ケイ素が50質量%以上であることを言う。このような酸化ケイ素を含む弾性膜51は、通常アモルファス(非晶質)である。なお、圧力室12等の流路は、流路形成基板10を+Z方向を向く面から異方性エッチングすることにより形成されており、圧力室12の-Z方向側の面は、弾性膜51によって画成されている。すなわち、振動板50として、流路形成基板10側に酸化ケイ素を含む弾性膜51を設けることで、流路形成基板10を振動板50とは反対面側からKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチングする際に、弾性膜51をエッチングストップ層として用いることができる。したがって、流路形成基板10に異方性エッチングによって圧力室12を高密度に且つ高精度に形成することができると共に振動板50の厚さにバラツキが生じるのを抑制することができる。もちろん、圧力室12の形成方法は、異方性エッチングに限定されず、ドライエッチング等であってもよい。また、弾性膜51は、酸化ケイ素を含む材料に限定されるものではない。弾性膜51としては、例えば、流路形成基板10の一部を用いるようにしてもよい。つまり、弾性膜51として、シリコン基板、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板を用いるようにしてもよい。また、例えば、弾性膜51としては、二酸化ジルコニウム(ZrO2)等の酸化ジルコニウム(ZrOx)、窒化シリコン(Si3N4)、酸化チタン(TiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化マグネシウム(MgO)、アルミン酸ランタン(LaAlO3)を用いるようにしてもよい。また、弾性膜51としては、ポリイミド、パリレンなどの有機膜を用いるようにしてもよい。なお、弾性膜51は、非晶質(アモルファス)のものに限定されず、単結晶Siなど優先配向した結晶構造を有するものであってもよい。
【0030】
絶縁体膜52は、酸化ジルコニウム(ZrOx)、一例として二酸化ジルコニウム(ZrO2)を含むことが好ましい。ここで、酸化ジルコニウムを含む絶縁体膜52とは、酸化ジルコニウムを主成分として含むものであれば、その他の材料を含むものであってもよい。なお、絶縁体膜52の主成分が酸化ジルコニウムであるとは、絶縁体膜52に含まれる酸化ジルコニウムが50質量%以上であることを言う。このように酸化ジルコニウムを含む絶縁体膜52を設けることで、詳しくは後述する圧電体層70に含まれる成分、例えば、鉛(Pb)やビスマス(Bi)などが、絶縁体膜52よりも下、つまり、弾性膜51や流路形成基板10に拡散するのを抑制することができる。したがって、酸化ジルコニウムを含む絶縁体膜52を設けることで、弾性膜51や流路形成基板10に圧電体層70に含まれる成分が拡散することによる剛性の低下などの不具合を抑制することができる。
【0031】
また、絶縁体膜52として、絶縁性を有する材料を用いることで、詳しくは後述する活性部310毎に設けられた第1電極60同士が絶縁体膜52によって短絡するのを抑制することができる。ちなみに、第1電極60が複数の活性部310の共通電極として構成された場合であっても、絶縁体膜52が導電性を有すると、第1電極60以外の部分で絶縁体膜52が圧電体層70に電界を印加してしまうため、絶縁体膜52は、絶縁性を有する材料である必要がある。なお、本実施形態では、振動板50は、弾性膜51と絶縁体膜52とで構成したが、特にこれに限定されず、振動板50は、弾性膜51のみで構成されていてもよく、絶縁体膜52のみで構成されていてもよく、弾性膜51と絶縁体膜52とに加えて他の膜を有する構成であってもよい。
【0032】
このような絶縁体膜52の-Z方向側の面には、振動板50を撓み変形させて圧力室12内のインクに圧力変化を生じさせる圧電アクチュエーター300が設けられている。圧電アクチュエーター300は、振動板50側から-Z方向に向かって順次積層された第1電極60と圧電体層70と第2電極80とを具備する。圧電アクチュエーター300が、圧力室12内のインクに圧力変化を生じさせる圧力発生手段となっている。このような圧電アクチュエーター300は、圧電素子とも言い、第1電極60と圧電体層70と第2電極80とを含む部分を言う。また、圧電アクチュエーター300の圧電体層70のうち、-Z方向に見て圧力室12と重なり、且つ第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加した際に、圧電体層70に圧電歪みが生じる部分を活性部310と称する。つまり、活性部310は、圧電アクチュエーター300の圧電体層70のうち、-Z方向に見て、圧力室12、第1電極60および第2電極80が重なる部分を言う。これに対して、圧電アクチュエーター300の圧電体層70のうち、圧電体層70に圧電歪みが生じない部分を非活性部330と称する。つまり、非活性部330は、圧電アクチュエーター300の圧電体層70のうち、第1電極60と、第2電極80との少なくとも一方に重ならない部分を言う。すなわち、本実施形態では、圧力室12毎に活性部310が形成されている。つまり、圧電アクチュエーター300には複数の活性部310が形成されていることになる。そして、一般的には、活性部310の何れか一方の電極を活性部310毎に独立する個別電極とし、他方の電極を複数の活性部310に共通する共通電極として構成する。本実施形態では、第1電極60が個別電極を構成し、第2電極80が共通電極を構成している。もちろん、第1電極60が共通電極を構成し、第2電極80が個別電極を構成してもよい。この圧電アクチュエーター300のうち、圧力室12にZ軸方向で対向する部分が可撓部となり、圧力室12の外側部分が非可撓部となる。
【0033】
具体的には、第1電極60は、
図2及び
図3に示すように、圧力室12毎に切り分けられて活性部310毎に独立する個別電極を構成する。第1電極60は、+X方向において、圧力室12の幅よりも狭い幅で形成されている。すなわち、+X方向において、第1電極60の端部は、圧力室12に対向する領域の内側に位置している。また、
図3に示すように、第1電極60のY軸方向において、ノズル21側の端部は、圧力室12よりも外側に配置されている。この第1電極60のY軸方向において圧力室12よりも外側に配置された端部に、引き出し配線である個別リード電極91が接続されている。
【0034】
このような第1電極60としては、例えば、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、金(Au)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、ニッケルクロム(NiCr)、タングステン(W)、チタン(Ti)、酸化チタン(TiOX)、チタンタングステン(TiW)等が挙げられる。
【0035】
圧電体層70は、
図2~
図4に示すように、+Y方向の幅が所定の幅で、+X方向に亘って連続して設けられている。圧電体層70の+Y方向の幅は、圧力室12の長手方向である+Y方向の長さよりも長い。このため、圧力室12の+Y方向及び-Y方向の両側では、圧電体層70は、圧力室12に対向する領域の外側まで延設されている。このような圧電体層70のY軸方向においてノズル21とは反対側の端部は、第1電極60の端部よりも外側に位置している。すなわち、第1電極60のノズル21とは反対側の端部は圧電体層70によって覆われている。また、圧電体層70のノズル21側の端部は、第1電極60の端部よりも内側に位置しており、第1電極60のノズル21側の端部は、圧電体層70に覆われていない。なお、第1電極60の圧電体層70の外側まで延設された端部には、上述したように金(Au)等からなる個別リード電極91が接続されている。
【0036】
また、圧電体層70には、各隔壁11に対応する凹部71が形成されている。この凹部71の+X方向の幅は、隔壁11の幅と同一、もしくは、それより広くなっている。本実施形態では、凹部71の+X方向の幅は、隔壁11の幅よりも広くなっている。これにより、振動板50の圧力室12の+X方向及び-X方向の両端部に対向する部分、所謂、振動板50の腕部の剛性が抑えられるため、圧電アクチュエーター300を良好に変位させることができる。なお、凹部71は、圧電体層70を厚さ方向である+Z方向に貫通して設けられていてもよく、また、圧電体層70を+Z方向に貫通することなく、圧電体層70の厚さ方向の途中まで設けられていてもよい。すなわち、凹部71の+Z方向の底面には、圧電体層70が完全に除去されていてもよく、圧電体層70の一部が残留していてもよい。
【0037】
このような圧電体層70は、一般式ABO3で示されるペロブスカイト構造の複合酸化物からなる圧電材料を用いて構成されている。本実施形態では、圧電材料としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT;Pb(Zr,Ti)O3)を用いている。PZTを圧電材料に用いることで、圧電定数d31が比較的大きな圧電体層70が得られる。
【0038】
一般式ABO3で示されるペロブスカイト構造の複合酸化物では、Aサイトには酸素が12配位しており、Bサイトには酸素が6配位して8面体(オクタヘドロン)をつくっている。本実施形態では、Aサイトに鉛(Pb)が位置し、Bサイトにジルコニウム(Zr)及びチタン(Ti)が位置している。
【0039】
圧電材料は、上記のPZTに限定されない。AサイトやBサイトに他の元素が含まれていてもよい。例えば、圧電材料は、チタン酸ジルコン酸バリウム(Ba(Zr,Ti)O3)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O3)、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O3)、シリコンを含むニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti,Nb)O3)等のペロブスカイト材料であってもよい。
【0040】
その他、圧電材料は、Pbの含有量を抑えた材料、いわゆる低鉛系材料、又はPbを使用しない材料、いわゆる非鉛系材料であってもよい。圧電材料として低鉛系材料を使用すればPbの使用量を低減することができる。また、圧電材料として非鉛系材料を使用すれば、Pbを使用せずに済む。よって、圧電材料として低鉛系材料や非鉛系材料の使用により、環境負荷を低減することができる。
【0041】
非鉛系圧電材料として、例えば、鉄酸ビスマス(BFO;BiFeO3)を含むBFO系材料が挙げられる。BFOでは、AサイトにBiが位置し、Bサイトに鉄(Fe)が位置している。BFOに、他の元素が添加されていてもよい。例えば、BFOに、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、ランタン(La)、バリウム(Ba)、チタン(Ti)、コバルト(Co)、セリウム(Ce)、サマリウム(Sm)、クロム(Cr)、カリウム(K)、リチウム(Li)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、ユウロピウム(Eu)から選択される少なくとも1種の元素が添加されていてもよい。
【0042】
また、非鉛系圧電材料の他の例として、ニオブ酸カリウムナトリウム(KNN;KNaNbO3)を含むKNN系材料が挙げられる。KNNに、他の元素が添加されていてもよい。たとえば、KNNに、マンガン(Mn)、リチウム(Li)、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、ビスマス(Bi)、タンタル(Ta)、アンチモン(Sb)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銀(Ag)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、及びユウロピウム(Eu)から選択される少なくとも1種の元素が添加されていてもよい。
【0043】
圧電材料には、元素の一部欠損した組成を有する材料、元素の一部が過剰である組成を有する材料、及び元素の一部が他の元素に置換された組成を有する材料も含まれる。圧電体層70の基本的な特性が変わらない限り、欠損・過剰により化学量論の組成からずれた材料や、元素の一部が他の元素に置換された材料も、本実施形態に係る圧電材料に含まれる。もちろん、本実施形態で使用可能な圧電材料は、上述したようなPb、Bi、Na、K等を含む材料に限定されない。
【0044】
このような圧電体層70は、(100)面優先配向をしている。圧電体層70の厚さとしては、製造工程でクラックが発生しない程度に厚さを抑え、且つ十分な変位特性を呈する程度(0.5~5μm)に厚く形成する。
【0045】
第2電極80は、
図2~
図4に示すように、圧電体層70の第1電極60とは反対側である-Z方向側に連続して設けられており、複数の活性部310に共通する共通電極を構成する。第2電極80は、+Y方向が所定の幅となるように、+X方向に亘って連続して設けられている。また、第2電極80は、凹部71の内面、すなわち、圧電体層70の凹部71の側面上及び凹部71の底面である絶縁体膜52上にも設けられている。もちろん、第2電極80は、凹部71の内面の一部のみに設けるようにしてもよく、凹部71の内面の全面に亘って設けないようにしてもよい。
【0046】
また、第1電極60からは、引き出し配線である個別リード電極91が引き出されている。また、第2電極80からは引き出し配線である共通リード電極92が引き出されている。これら個別リード電極91及び共通リード電極92の圧電アクチュエーター300に接続された端部とは反対側の端部には、可撓性を有する配線基板120が接続されている。配線基板120は、圧電アクチュエーター300を駆動するためのスイッチング素子を有する駆動回路121が実装されている。
【0047】
このような圧電アクチュエーター300が形成された流路形成基板10の-Z方向を向く面には、
図1及び
図3に示すように、流路形成基板10と略同じ大きさを有する保護基板30が接合されている。保護基板30は、圧電アクチュエーター300を保護する空間である保持部31を有する。保持部31は、+X方向に並んで配置された圧電アクチュエーター300の列毎に独立して設けられたものであり、+Y方向に2つ並んで形成されている。また、保護基板30には、+Y方向に並んで配置された2つの保持部31の間に+Z方向に貫通する貫通孔32が設けられている。圧電アクチュエーター300の電極から引き出された個別リード電極91及び共通リード電極92の端部は、この貫通孔32内に露出するように延設され、個別リード電極91及び共通リード電極92と配線基板120とは、貫通孔32内で電気的に接続されている。
【0048】
ケース部材40は、+Z方向に見て連通板15と略同一形状を有し、保護基板30に接合されると共に、上述した連通板15にも接合されている。
【0049】
このようなケース部材40は、+Z方向を向く面に開口して、流路形成基板10及び保護基板30が収容される深さの凹部41を有する。そして、凹部41に流路形成基板10等が収容された状態で凹部41の+Z方向を向く面が連通板15によって封止されている。ケース部材40には、凹部41の+Y方向側及び-Y方向側のそれぞれに第3マニホールド部42が設けられている。第3マニホールド部42は、+Z方向を向く面に開口して設けられている。そして、流路形成基板10に設けられた第1マニホールド部17および第2マニホールド部18と、ケース部材40に設けられた第3マニホールド部42と、によってマニホールド100が構成されている。マニホールド100は、圧力室12の列毎に1個ずつ、合計2個設けられている。各マニホールド100は、複数の圧力室12に対して+X方向に亘って連続して設けられており、各圧力室12とマニホールド100とを連通する供給連通路19は、+X方向に並んで配置されている。
【0050】
また、連通板15の第1マニホールド部17及び第2マニホールド部18が開口する+Z方向を向く面には、コンプライアンス基板45が設けられている。このコンプライアンス基板45が、第1マニホールド部17と第2マニホールド部18の液体噴射面20a側の開口を封止している。このようなコンプライアンス基板45は、本実施形態では、可撓性を有する薄膜からなる封止膜46と、金属等の硬質の材料からなる固定基板47と、を具備する。固定基板47のマニホールド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部48となっているため、マニホールド100の一方面は可撓性を有する封止膜46のみで封止された可撓部であるコンプライアンス部49となっている。
【0051】
ここで、このような本実施形態の記録ヘッド1の製造方法について説明する。なお、
図5~
図15は、本実施形態の記録ヘッド1の製造方法を示す断面図である。
【0052】
まず、
図5に示すように、流路形成基板10となる流路形成基板用ウェハー110の表面に弾性膜51を形成する。本実施形態では、流路形成基板用ウェハー110を熱酸化することによって二酸化ケイ素(SiO
2)からなる弾性膜51を形成した。もちろん、弾性膜51の材料は、特にこれに限定されず、上述したその他の材料であってもよい。また、弾性膜51の形成方法は熱酸化に限定されず、スパッタリング法、CVD法、スピンコート法等によって形成してもよい。
【0053】
次に、
図5に示すように、弾性膜51上に酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜52を形成する。これにより、弾性膜51と絶縁体膜52とを有する振動板50を形成する。もちろん、絶縁体膜52は、酸化ジルコニウムに限定されず、窒化シリコン(Si
3N
4)、酸化チタン(TiO
2)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化ハフニウム(HfO
2)、酸化マグネシウム(MgO)、アルミン酸ランタン(LaAlO
3)等を用いるようにしてもよい。絶縁体膜52を形成する方法としては、スパッタリング法、CVD法、蒸着法等が挙げられる。
【0054】
次に、
図5に示すように、絶縁体膜52上の全面に亘って第1電極60を形成する。この第1電極60の材料は特に限定されないが、圧電体層70としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いる場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ない材料であることが望ましい。このため、第1電極60の材料としては白金、イリジウム等が好適に用いられる。また、第1電極60は、例えば、スパッタリング法やPVD法(物理蒸着法)などにより形成することができる。
【0055】
次いで、
図5に示すように、第1電極60上にチタン(Ti)からなる第1シード層61を形成する。なお、第1シード層61は非晶質であることが好ましい。具体的には、第1シード層61のX線回折強度、特に、(002)面のX線回折強度(XRD強度)が実質的に零となっていることが好ましい。このように第1シード層61が非晶質であると、第1シード層61の膜密度が高まり表層に形成される酸化層の厚みが薄く抑えられ、その結果、圧電体層70の結晶をさらに良好に成長させることができるからである。
【0056】
このように第1電極60の上に第1シード層61を設けることにより、後の工程で第1電極60上に第1シード層61を介して圧電体層70を形成する際に、圧電体層70の優先配向方位を(100)または(111)に制御することができ、電気機械変換素子として好適な圧電体層70を得ることができる。この第1シード層61は、圧電体層70が結晶化する際に、結晶化を促進させるシードとして機能し、圧電体層70の焼成後には少なくとも一部が圧電体層70内に拡散するものである。よって、
図4には、S-Tiとして示す。
【0057】
なお、このような第1電極60及び第1シード層61は、例えば、DCマグネトロンスパッタリング法によって形成することができる。
【0058】
圧電体層70の具体的な形成手順としては、まず、
図6に示すように、第1電極60(第1シード層61)上にPZT前駆体膜である圧電体前駆体膜73を成膜する。すなわち、第1電極60が形成された流路形成基板10上にチタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)及び鉛(Pb)を含むゾル(溶液)を塗布する(塗布工程)。次いで、この圧電体前駆体膜73を所定温度に加熱して一定時間乾燥させる(乾燥工程)。例えば、本実施形態では、圧電体前駆体膜73を150~170℃で5~10分間保持することで乾燥することができる。
【0059】
次に、乾燥した圧電体前駆体膜73を所定温度に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(脱脂工程)。例えば、本実施形態では、圧電体前駆体膜73を300~400℃程度の温度に加熱して約5~10分間保持することで脱脂した。なお、ここで言う脱脂とは、圧電体前駆体膜73に含まれる有機成分を、例えば、NO2、CO2、H2O等として離脱させることである。また、脱脂工程では、昇温レートを15℃/sec以上とするのが好ましい。
【0060】
次に、
図7に示すように、圧電体前駆体膜73を所定温度に加熱して一定時間保持することによって結晶化させ、圧電体膜74を形成する(焼成工程)。本実施形態では、1層目の圧電体膜74が、第1圧電体層75となる。この焼成工程では、圧電体前駆体膜73を680~900℃に加熱するのが好ましく、本実施形態では、700℃で5分間加熱を行って圧電体前駆体膜73を焼成して圧電体膜74を形成した。また、焼成工程では、昇温レートを90~110℃/secとするのが好ましい。これにより優れた特性の圧電体膜74を得ることができる。
【0061】
このような第1圧電体層75を形成する際に用いるゾルは、ジルコニウムに対するチタンの割合が、後の工程で第2圧電体層76を形成する際に用いるゾルに比べて高いものを用いている。そして、第1シード層61の少なくとも一部のチタンは第1圧電体層75(1層目の圧電体膜74)を焼成する際に、第1圧電体層75内に拡散する。
【0062】
なお、このような乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程で用いられる加熱装置としては、例えば、ホットプレートや、赤外線ランプの照射により加熱するRTP(Rapid Thermal Processing)装置などを用いることができる。
【0063】
次に、
図8に示すように、第1電極60上に第1圧電体層75を形成した段階で、第1電極60及び第1圧電体層75をそれらの側面が傾斜するテーパー面となるように同時にパターニングする。なお、第1電極60及び第1圧電体層75のパターニングは、例えば、イオンミリング等のドライエッチングにより行うことができる。
【0064】
なお、例えば、第1電極60の上に第1シード層61を形成した後にパターニングしてから1層目の圧電体膜74を形成する場合、フォト工程・イオンミリング・アッシングして第1電極60をパターニングするために第1シード層61が変質してしまい、変質した第1シード層61上に圧電体膜74を形成しても当該圧電体膜74の結晶性が良好なものではなくなり、1層目の圧電体膜74の上に形成される2層目以降の圧電体膜74も、1層目の圧電体膜74の結晶状態に影響して結晶成長するため、良好な結晶性を有する圧電体層70を形成することができない。また、第1電極60をパターニングしてから1層目の圧電体膜74を焼成する際に、下地として第1電極60が存在する領域と存在しない領域とが混在し、下地の違いから1層目の圧電体膜74の加熱を面内で均一化することができず、結晶性にばらつきが生じてしまう。
【0065】
それに比べて、第1電極60上に1層目の圧電体膜74を形成してから、同時にパターニングすれば、良好な結晶性を有する圧電体層70を形成することができる。
【0066】
次に、
図9に示すように、第1圧電体層75上を含む流路形成基板用ウェハー110の全面に、再び第2シード層62を形成後、上述した塗布工程、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程からなる圧電体膜形成工程を複数回繰り返すことにより、
図10に示すように複数層の圧電体膜74を形成する。この第1圧電体層75上に形成された複数の圧電体膜74が第2圧電体層76となる。
【0067】
第1圧電体層75を形成する際に用いるゾルと、第2圧電体層76を形成する際のゾルとで、ジルコニウムに対するチタンの割合を異ならせてもよい。これにより、第1圧電体層75と、第2圧電体層76と、の間における結晶配向性や結晶粒径に差が生じる場合がある。
【0068】
なお、第2シード層62としては、第1シード層61と同様にチタン(Ti)を用いてもよく、また、酸化チタン(TiO
2)等の導電性酸化金属を用いるようにしてもよい。例えば、第2シード層62として、チタンを用いた場合には、第2シード層62の少なくとも一部は第2圧電体層76を焼成した際に内部に拡散する。よって、第2シード層62は、
図4では、M-Tiと表記した。
【0069】
このように形成された第2圧電体層76は、第1圧電体層75の結晶性を引き継ぎながらも第2シード層62を挟んで成長しているため、第1圧電体層75とは結晶が分断された段構造となる。
【0070】
これにより、第1圧電体層75は第2圧電体層76と第1電極60との間に設けられ、第2圧電体層76の配向を制御する配向制御層として機能し、第2圧電体層76は圧電体層70を構成する。また、第1圧電体層75は、第1電極60と共にパターニングされるため、活性部310に設けられているが、非活性部330には設けられていない。
【0071】
また、本実施形態では、第1圧電体層75として、1層の圧電体膜74を形成し、第2圧電体層76として、9層の圧電体膜74を形成するようにした。ここで、例えば、ゾルの1回あたりの膜厚が0.1μmの場合には、圧電体層70の全体での膜厚は、約1.1μm程度となる。
【0072】
次に、
図11に示すように、圧電体層70を各圧力室12に対向する領域にパターニングする。本実施形態では、圧電体層70上に所定形状に形成した図示しないマスクを設け、このマスクを介して圧電体層70をエッチングする、いわゆるフォトリソグラフィーによってパターニングした。なお、圧電体層70のパターニングとしては、例えば、反応性イオンエッチングやイオンミリング等のドライエッチングが挙げられる。この圧電体層70のパターニングによって凹部71が形成される。
【0073】
次に、
図12に示すように、圧電体層70上及び絶縁体膜52上に亘って、第2電極80を形成し、所定形状にパターニングして圧電アクチュエーター300を形成する。そして、特に図示しないが、流路形成基板用ウェハー110上に個別リード電極91及び共通リード電極92を形成する。
【0074】
次に、
図13に示すように、流路形成基板用ウェハー110の圧電アクチュエーター300側に、シリコンウェハーであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハー130を接合した後、流路形成基板用ウェハー110を所定の厚みに薄くする。保護基板用ウェハー130には、予め保持部31(
図3参照)が形成されたものである。
【0075】
次に、
図14に示すように、流路形成基板用ウェハー110にマスク膜53を新たに形成し、所定形状にパターニングする。そして、
図15に示すように、流路形成基板用ウェハー110を、マスク膜53を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、隔壁11によって区画された圧力室12を形成する。
【0076】
その後は、流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハー110と保護基板用ウェハー130との接合体を
図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割する。その後は、保護基板30と流路形成基板10との接合体に連通板15、ノズルプレート20、ケース部材40、コンプライアンス基板45等を接合することで、本実施形態の記録ヘッド1とする。
【0077】
以上説明した記録ヘッド1では、第1電極60が、圧力室12毎に切り分けられて活性部310毎に独立する個別電極を構成し、第2電極80が+X方向、すなわち、圧力室12の幅方向に並設された複数の圧力室12に亘って連続して設けられた共通電極を構成している。
【0078】
ここで、第1方向である-Z方向に見たときに、圧力室12と重なり、圧電体層70が第1電極60と第2電極80と重なっている活性部310と、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80の3者が重なっていない非活性部330との境界領域が、本実施形態では個別電極である第1電極60の幅方向であるX軸方向の両端部や、長手方向であるY軸方向の何れか一方の端部に存在する。
【0079】
この境界領域の部分構造を模式的に表したのが
図16である。
図16に示すように、個別電極である第1電極60の端部の側面は傾斜したテーパー面になっているので、圧電体層70の結晶はテーパー面に沿って傾斜して成長する。よって、
図16に示すように、圧電体層70のうち、第1電極60のテーパー面以外の部分と第2電極80と重なる部分を活性部310、圧電体層70のうち、第1電極60と、第2電極80との少なくとも一方に重ならない部分を非活性部330とし、第1電極60のテーパー面上に圧電体層70が成長して第2電極80との挟まれた領域をテーパー部320とする。
【0080】
本実施形態の圧電アクチュエーター300の圧電体層70は、活性部310から、テーパー部320、さらには非活性部330まで連続して設けられているが、圧電体層70を形成する圧電体の結晶粒径は、非活性部330において、活性部310よりも大きくなるように、圧電体層70を形成している。
【0081】
これにより、圧電アクチュエーター300の腕部の圧電体層70を形成する圧電体において、結晶粒間の空隙が増加し、結晶密度が下がる。このため、腕部の圧電体層70の剛性が低下するため、連続的に駆動しても、これにより生じる残留ひずみが小さくなる。よって、振動板の疲労変形(たわみ)が大きくなることや圧電体自身のクラックを防ぐことができ、電圧印加を長期に亘って繰り返しても、吐出特性やクラック信頼性が大きく劣化するリスクを解消することができる。
【0082】
さらに、本実施形態では、腕部の非活性部330と、中心部の活性部310との間において、テーパー部320を設け、この領域の圧電体の結晶粒径が非活性部330と活性部310の中間となるようにすることで、さらに好適にクラックの抑制が可能となっている。
【0083】
このように本実施形態では、活性部310と非活性部330との間には、第2活性部として機能するテーパー部320を含み、テーパー部320の圧電体層70を形成する圧電体の結晶粒径は、活性部310よりも大きく、かつ、非活性部330よりも小さい。また、テーパー部320の第1電極60の厚さは、活性部310側から非活性部330に向かって徐々に薄くなっている。
【0084】
これにより、活性部310から非活性部330への急激な粒径変化が防止でき、これに起因する大きな空隙やそれを起点としたクラックの発生を抑制することができる。
【0085】
本実施形態では、非活性部330の圧電体層70を形成する圧電体の結晶粒径を、活性部310の圧電体より大きくするために、非活性部330における第2シード層62の膜厚を活性部310より少なくすることにより、非活性部330における圧電体の結晶の成長を相対的に自由にすることで、結晶粒径を相対的に大きくすることができる。
【0086】
第1電極60のテーパー面上の第2シード層62の膜厚は、第1電極60上と同じでも、第1電極60の外側に向かって徐々に少なくなるようにしてもよい。また、非活性部330の第2シード層62の膜厚を活性部310より薄くするのではなく、第2シード層62を設けないようにしてもよい。
【0087】
また、本実施形態では、活性部310において、配向制御層となる第1圧電体層75が第1電極60と圧電体層70との間に存在するが、非活性部330では、第1圧電体層75が存在しないので、これも非活性部330の圧電体層70の結晶粒径が活性部310より大きくなる要因となる。
【0088】
ここで、活性部310の圧電体層70は、第1圧電体層75より厚いことが好ましい。これにより、活性部310の圧電体層70の圧電体の結晶粒径と非活性部330の結晶粒径との差を生じさせることができる。また、圧電体層70を複数の圧電体膜74の積層体によって形成する場合においては、1つの圧電体膜74の厚さが、第1圧電体層75より厚いことが好ましい。
【0089】
また、本実施形態では、活性部310の圧電体層70と、非活性部330の圧電体層70の圧電体層70と、を同時に形成する例を示したが、活性部310の圧電体層70の成膜プロセスと、非活性部330の圧電体層70の成膜プロセスとを個別に実施することで、活性部310と非活性部330とにおける結晶粒径を変化させることも可能である。この場合は、活性部310と非活性部330とにおいて、塗布するゾルの組成を変化させたり、乾燥工程や脱脂工程、焼成工程の昇温レートや加熱温度を異ならせたりする。これによっても、結果的に活性部310の圧電体層70の圧電体の結晶粒径と非活性部330の結晶粒径との差を生じさせることができる。また、その他の例として、成膜プロセスの途中において、活性部310と非活性部330とのいずれか一方に対してイオン注入等を行うことで、その後の結晶成長の進展を異ならせ、結果的に活性部310の圧電体層70の圧電体の結晶粒径と非活性部330の結晶粒径との差を生じさせることができる。
【0090】
結晶粒径を相対的に相違させるためには、上述したように結晶成長の環境を変化させることが比較的容易であるが、これに限定されず、結果的に活性部310に隣接する非活性部330において、圧電体の結晶粒径を大きくなっていればよい。
【0091】
例えば、圧電体層70を形成する圧電体の材料の組成、例えば、TiとZrの比率を変化させることにより、結晶粒径を異ならせるようにしてもよい。
【0092】
また、このように、非活性部330における結晶粒径を活性部310より大きくする場合、非活性部330の圧電体の結晶粒径の分布(ばらつき)が、活性部310より大きいのが好ましい。
【0093】
腕部となる非活性部330で、結晶粒径が活性部310より大きくなると、結晶粒間の空隙が相対的に増加し、結晶密度が下がることになるが、非活性部330においては、結晶粒径の分布を活性部310よりも広げることで、非活性部330においては、相対的に結晶粒径の小さい結晶粒も多くなるので、結晶密度の低下を防止することができ、好ましい。これにより、非活性部330において、結晶粒径を大きくしたことによる結晶密度の過度の低下が防止され、クラックの発生を防止することができ、また、相対的に小さい粒径の結晶が存在すると、大きい粒径の結晶間での滑りが生じた場合にクラックの進展を妨げることができるという効果を奏する。
【0094】
本件において、結晶粒径は、圧電体を構成する結晶粒径の平均である。結晶粒径は、例えば、数万倍の透過型電子顕微鏡(TEM)によって撮影した写真で、X軸もしくはY軸に沿って見た場合の1μm四方の視野で観察される全ての結晶粒の直径を測定することにより行い、その平均値を結晶粒径とする。なお、テーパー部320の幅が1μmよりも小さい場合においては、当該テーパー部320において観察される結晶粒だけの直径を測定の対象とし、その平均値を結晶粒径とすることができる。
【0095】
(試験例1)
上述した実施形態において、
図16に対応する厚さ方向の断面をTEMで4万倍に拡大して観察した画像を
図17に示す。
【0096】
そして、活性部310、テーパー部320及び非活性部330の所定の領域の結晶粒の粒径を測定した結果を
図18及び
図19に示す。
【0097】
図18は、活性部310、テーパー部320及び非活性部330の結晶粒サイズの分布を示す。これによれば、活性部310の平均結晶粒径は54nm、テーパー部320の平均結晶粒径は124nm、非活性部330の平均結晶粒径は156nmであり、非活性部330の結晶粒径は、活性部310の結晶粒径より大きく、テーパー部320の結晶粒径は活性部310と非活性部330の中間の大きさであることがわかった。また、非活性部330の結晶粒の分布(ばらつき)は、活性部310及びテーパー部320の分布より大きく、2倍程度であることも確認できた。
【0098】
図19は、活性部310の平均結晶粒径である54nmを1としたときの結晶粒サイズ比としたグラフである。活性部310の平均結晶粒サイズ比を1としたとき、テーパー部320の平均結晶粒サイズ比は2.30、非活性部330の平均結晶粒サイズ比は2.87であった。
【0099】
以上説明したように、本実施形態の圧電デバイスの一例であるインクジェット式記録ヘッド1では、振動板50と、振動板50上に形成された第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を有する圧電アクチュエーター300と、を具備し、圧電アクチュエーター300の圧電体層70は、活性部310から、テーパー部320、さらには非活性部330まで連続して設けられているが、圧電体層70を形成する圧電体の結晶粒径は、非活性部330において、活性部310よりも大きくなるように、圧電体層70を形成している。
【0100】
これにより、圧電アクチュエーター300の腕部の圧電体層70を形成する圧電体において、結晶粒間の空隙が増加し、結晶密度が下がる。このため、腕部の圧電体層70の剛性が低下するため、連続的に駆動しても、これにより生じる残留ひずみが小さくなる。よって、振動板の疲労変形(たわみ)が大きくなることや圧電体自身のクラックを防ぐことができ、電圧印加を長期に亘って繰り返しても、吐出特性が大きく劣化するリスクを解消することができる。
【0101】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の基本的な構成は上述したものに限定されるものではない。
【0102】
例えば、上述した実施形態1では、
図11に示すように、圧電体層70を各圧力室12に対向する領域にパターニングしたが、これに限定されるものではない。圧電体層70を複数設けられた圧力室12に対し、圧力室12の配列方向に連続して設けられるようにした例を
図20に示す。
【0103】
この実施形態においても、第1電極60の幅方向であるX方向の両側において、内側から活性部310、テーパー部320及び非活性部330が連続して存在することになり、本実施形態においても、上述した実施形態と同様に、圧電体層70を形成する圧電体の結晶粒径を、非活性部330において、活性部310よりも大きくなるようにすることができ、同様な効果を奏することができる。
【0104】
また、本来、腕部の圧力室12と隔壁11との間で振動板の破壊が生じ易いが、圧電体層70が連続して設けられているので、本実施形態では、さらに、クラック抑制の効果が顕著となる。
【0105】
また、例えば、上述した実施形態1では、第1電極60を活性部310毎に独立した個別電極とし、第2電極80を複数の活性部310に共通する共通電極としたが、これに限定されない。ここで、第1電極60を共通電極とし、第2電極80を個別電極とした構成を
図21及び
図22に示す。なお、
図21は、圧電アクチュエーターの変形例を示す記録ヘッドのA-A′線に準じた断面図の要部を拡大した図である。
図22は、圧電アクチュエーターの変形例を示す記録ヘッドのB-B′線に準じた断面図の要部を拡大した図である。
【0106】
図21及び
図22に示すように、第1電極60は、+Y方向の幅が圧力室12よりも狭い幅で、+X方向に亘って連続して設けられている。この第1電極60が複数の活性部310の共通電極を構成する。
【0107】
また、圧電体層70は、+Y方向の幅が圧力室12よりも広い幅で、第1電極60と同様に、+X方向に亘って連続して設けられている。なお、圧電体層70には、上述した実施形態1と同様に、+Z方向に見て隔壁11に対応する領域に凹部71を設けるようにしてもよい。
【0108】
また、第2電極80は、圧力室12毎に切り分けられて構成されている。この第2電極80が活性部310の個別電極を構成する。活性部310毎に切り分けられて構成されている。このような構成であっても、上述した実施形態1と同様に、第1方向であるZ方向に見たときに、圧電体層70が第1電極60と第2電極80と重なっている活性部310と、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80の3者が重なっていない非活性部330との境界領域が、本実施形態では個別電極である第2電極80の幅方向であるX方向の両端部や、第2電極80の長手方向であるY方向の両端部に存在する。
【0109】
この実施形態においても、上述した実施形態と同様に、圧電体層70を形成する圧電体の結晶粒径を、非活性部330において、活性部310よりも大きくなるようにすることができ、同様な効果を奏することができる。なお、圧電体層70は、第2電極80をパターニングするのと同時に活性部310毎に切り分けるようにしてもよい。
【0110】
また、これら各実施形態の記録ヘッド1は、液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置に搭載される。
図23は、一実施形態に係る液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置Iの一例を示す概略図である。
【0111】
図23に示すインクジェット式記録装置Iにおいて、記録ヘッド1は、インク供給手段を構成するカートリッジ2が着脱可能に設けられ、キャリッジ3に搭載されている。この記録ヘッド1を搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5の軸方向に移動自在に設けられている。
【0112】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッド1を搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4には搬送手段としての搬送ローラー8が設けられており、紙等の記録媒体である記録シートSが搬送ローラー8により搬送されるようになっている。なお、記録シートSを搬送する搬送手段は、搬送ローラーに限られずベルトやドラム等であってもよい。
【0113】
このようなインクジェット式記録装置Iでは、記録ヘッド1に対して記録シートSをX軸方向に搬送し、キャリッジ3を記録シートSに対してY軸方向に往復移動させながら、記録ヘッド1からインク滴を吐出させることで記録シートSの略全面に亘ってインク滴の着弾、所謂、印刷が実行される。
【0114】
また、上述したインクジェット式記録装置Iでは、記録ヘッド1がキャリッジ3に搭載されて主走査方向であるY軸方向に往復移動するものを例示したが、特にこれに限定されず、例えば、記録ヘッド1が固定されて、紙等の記録シートSを副走査方向であるX軸方向に移動させるだけで印刷を行う、所謂ライン式記録装置にも本発明を適用することができる。
【0115】
なお、上記実施形態においては、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを、また液体噴射装置の一例としてインクジェット式記録装置を挙げて説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド及び液体噴射装置全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドや液体噴射装置にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられ、かかる液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置にも適用できる。
【0116】
(付記)
以上に例示した形態から、例えば以下の構成が把握される。
好適な態様である態様1に係る液体噴射ヘッドは、液体を噴射するノズルに連通する圧力室が複数形成される基板と、前記基板の一方面側に設けられる振動板と、前記振動板側から第1方向に積層された第1電極、圧電体層及び第2電極を有する圧電アクチュエーターと、を具備し、前記圧電アクチュエーターの前記圧電体層うち、前記第1方向にみて、前記圧力室と、前記第1電極と、前記第2電極と、に重なる部分を活性部とし、前記圧電アクチュエーターの前記圧電体層うち、前記第1方向にみて、前記第1電極と、前記第2電極と、の少なくとも一方に重ならない部分を非活性部としたとき、前記圧電体層は前記活性部と前記非活性部との間において連続して設けられ、前記圧電体層を形成する圧電体の結晶粒径は、前記非活性部において、前記活性部よりも大きい。これによれば、圧電アクチュエーターの腕部の圧電体層を形成する圧電体において、結晶粒間の空隙が増加し、結晶密度が下がる。このため、腕部の圧電体層の剛性が低下するため、連続的に駆動しても、これにより生じる残留ひずみが小さくなる。よって、振動板の疲労変形(たわみ)が大きくなることや圧電体自身のクラックを抑制することができ、電圧印加を長期に亘って繰り返しても、吐出特性が大きく劣化するリスクを解消することができる。
【0117】
態様1の具体例である態様2において、前記圧電体層を形成する圧電体の結晶粒径は、前記活性部において、前記非活性部の1/2以下である。これによれば、圧電体の疲労変形が大きくなることや圧電体自身のクラックを確実に抑制することができる。
【0118】
態様1の具体例である態様3において、前記圧電体層を形成する圧電体の結晶粒径のばらつきは、前記非活性部において、前記活性部よりも大きい。これによれば、結晶粒径が大きくなったことによる結晶密度の過度の低下が防止され、クラックの発生を防止することができ、また、相対的に小さい粒径の結晶が存在すると、大きい粒径の結晶間での滑りが生じた場合にクラックの進展を妨げることができる。
【0119】
態様1の具体例である態様4において、前記活性部に設けられ前記非活性部には設けられていない配向制御層を含み、前記活性部において前記配向制御層は前記第1電極と前記圧電体層との間に位置する。これによれば、活性部の圧電体層の圧電体の結晶粒径と非活性部の結晶粒径との差をさらに生じさせることができ、クラックの発生や進展をさらに抑制することができる。
【0120】
態様4の具体例である態様5において、前記第1方向において、前記圧電体層は前記配向制御層よりも厚い。これによれば、活性部の圧電体層の圧電体の結晶粒径と非活性部の結晶粒径との差をさらに生じさせることができ、クラックの発生や進展をさらに抑制することができる。
【0121】
態様4の具体例である態様6において、前記活性部において、前記配向制御層を形成する圧電体の結晶粒径は、前記活性部において前記圧電体層を形成する圧電体の結晶粒径よりも小さい。これによれば、活性部の圧電体層の圧電体の結晶粒径と非活性部の結晶粒径との差をさらに生じさせることができ、クラックの発生や進展をさらに抑制することができる。
【0122】
態様6の具体例である態様7において、前記第1電極と前記配向制御層との間に位置する第1シード層と前記配向制御層と前記圧電体層との間に位置する第2シード層とを含み、前記活性部においては、前記第1シード層と前記第2シード層とが設けられ、前記非活性部においては、前記第2シード層が設けられ、前記第1シード層は設けられていない。これによれば、活性部と非活性部との結晶粒径の差をさらに生じさせることができ、クラックの発生や進展をさらに抑制することができる。
【0123】
態様1の具体例である態様8において、前記活性部は、第1活性部と、前記第1活性部よりも前記非活性部に近い第2活性部とを含み、前記第2活性部において前記圧電体層を形成する圧電体の結晶粒径は、前記第1活性部において前記圧電体層を形成する圧電体の結晶粒径よりも大きく、且つ、前記非活性部において前記圧電体層を形成する圧電体の結晶粒径よりも小さい。これによれば、圧電体層を形成する圧電体の急激な粒径変化に起因する大きな空隙の発生やそれを起点としたクラックの発生をさらに抑制することができる。
【0124】
態様8の具体例である態様9において、前記第2活性部における前記第1電極の厚さは、前記非活性部側から前記第1活性部側に向かって厚くなる。これによれば、圧電体層を形成する圧電体の急激な粒径変化に起因する大きな空隙の発生やそれを起点としたクラックの発生をさらに抑制することができる。
【0125】
態様1の具体例である態様10において、前記圧力室は配列方向に沿って複数設けられ、前記第1電極は複数の前記圧力室に対して個別に設けられ、前記第2電極は複数の前記圧力室に対して共通に設けられる。これによれば、第1電極が個別電極になるため、圧力室の配列方向の両側の活性部と非活性部と境界が第1電極の有無によって決まるので、活性部と非活性部との結晶粒径の差をさらに形成し易いので、クラックの発生や進展をさらに抑制することができる。
【0126】
態様1の具体例である態様11において、前記圧力室は配列方向に沿って複数設けられ、前記第1電極は複数の前記圧力室に対して共通に設けられ、前記第2電極は複数の前記圧力室に対して個別に設けられる。これによれば、第1電極が共通電極になるため、圧力室の配列方向とは直交する方向の端部の活性部と非活性部と境界が第1電極の有無によって決まるので、ここでの活性部と非活性部との結晶粒径の差をさらに形成し易く、クラックの発生や進展をさらに抑制することができる。
【0127】
態様1の具体例である態様12において、前記圧力室は配列方向に沿って複数設けられ、前記圧電体層は1つの前記圧力室上において、前記配列方向に連続して設けられる。これによれば、圧力室の配列方向の両端のクラックが生じやすい腕部に活性部と非活性部との境界が存在するが、かかる境界においてクラックの発生や進展をさらに抑制することができる。
【0128】
態様1の具体例である態様13において、前記圧力室は配列方向に沿って複数設けられ、前記圧力室の前記配列方向及び前記第1方向の双方に直交する方向に前記活性部及び前記非活性部が並ぶ。これによれば、圧力室の長手方向の端部の活性部と非活性部との境界が存在するが、かかる境界においてクラックの発生や進展をさらに抑制することができる。
【0129】
態様1の具体例である態様14において、前記圧力室は配列方向に沿って複数設けられ、前記圧力室の配列方向に前記活性部及び前記非活性部が並ぶ。これによれば、圧力室の幅方向の両端のクラックが生じやすい腕部に活性部と非活性部との境界が存在するが、かかる境界においてクラックの発生や進展をさらに抑制することができる。
【0130】
好適な態様である態様15に係る液体噴射装置は、態様1~14の液体噴射ヘッドを具備する。これによれば、液体噴射ヘッドの圧電アクチュエーターの腕部の圧電体層を形成する圧電体において、結晶粒間の空隙が増加し、結晶密度が下がる。このため、腕部の圧電体層の剛性が低下するため、連続的に駆動しても、これにより生じる残留ひずみが小さくなる。よって、振動板の疲労変形(たわみ)が大きくなることや圧電体自身のクラックを抑制することができ、電圧印加を長期に亘って繰り返しても、吐出特性が大きく劣化するリスクを解消した液体噴射ヘッドを具備する液体噴射装置となる。
【符号の説明】
【0131】
I…インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、1…インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、2…カートリッジ、3…キャリッジ、4…装置本体、5…キャリッジ軸、6…駆動モーター、7…タイミングベルト、8…搬送ローラー、10…流路形成基板、11…隔壁、12…圧力室、15…連通板、16…ノズル連通路、17…第1マニホールド部、18…第2マニホールド部、19…供給連通路、20…ノズルプレート、20a…液体噴射面、21…ノズル、30…保護基板、31…保持部、32…貫通孔、40…ケース部材、41…凹部、42…第3マニホールド部、43…接続口、44…導入口、45…コンプライアンス基板、46…封止膜、47…固定基板、48…開口部、49…コンプライアンス部、50…振動板、51…弾性膜、52…絶縁体膜、53…マスク膜、60…第1電極、70…圧電体層、71…凹部、73…圧電体前駆体膜、74…圧電体膜、75…第1圧電体層、76…第2圧電体層、80…第2電極、91…個別リード電極、92…共通リード電極、100…マニホールド、110…流路形成基板用ウェハー、120…配線基板、121…駆動回路、130…保護基板用ウェハー、300…圧電アクチュエーター、310…活性部、320…テーパー部、330…非活性部、S…記録シート