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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117040
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】風味改善剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/10 20160101AFI20240821BHJP
   A23L 17/60 20160101ALI20240821BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20240821BHJP
   A23L 11/65 20210101ALI20240821BHJP
   A23G 3/34 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
A23L27/10 C
A23L17/60 102
A23L27/00 101Z
A23L11/65
A23G3/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023035073
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 大貴
(72)【発明者】
【氏名】岡田 圭司
【テーマコード(参考)】
4B014
4B019
4B020
4B047
【Fターム(参考)】
4B014GB07
4B014GG15
4B014GG18
4B014GK01
4B014GL01
4B014GP14
4B014GP27
4B019LC02
4B019LK01
4B019LK16
4B019LP05
4B019LP13
4B019LP17
4B020LC02
4B020LG05
4B020LK01
4B020LK03
4B020LK11
4B020LK19
4B020LP03
4B020LP13
4B020LP30
4B047LF07
4B047LF09
4B047LG07
4B047LG42
4B047LG57
4B047LP01
4B047LP05
4B047LP18
(57)【要約】
【課題】 本発明は、植物性原料の風味を改善することができる風味改善剤、該風味改善剤を含有させる風味改善方法、及び風味が改善された植物性原料含有飲食品を提供するものである。
【解決手段】 リパーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理した昆布エキスが植物性原料の風味改善効果を有することを見出し、本発明を完成した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リパーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理した昆布エキスを有効成分とする、植物性原料用風味改善剤。
【請求項2】
植物性タンパク質臭マスキング用又は植物性乳の乳感付与増強用である、請求項1記載の風味改善剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載の風味改善剤を、植物性タンパク質又は植物性乳含有飲食品に含有させることを特徴とする、植物性原料含有飲食品の風味改善方法。
【請求項4】
風味改善が植物性タンパク質臭のマスキング又は植物性乳の乳感付与増強である、請求項3記載の風味改善方法。
【請求項5】
リパーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理した昆布エキスを含有する植物性原料含有飲食品であって、植物性タンパク質臭がマスキングされた又は植物性乳の乳感が付与増強された植物性原料含有飲食品。
【請求項6】
リパーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理した昆布エキスを植物性原料含有飲食品に含有させる、植物性原料含有飲食品の製造方法であって、植物性タンパク質臭がマスキングされた又は植物性乳の乳感が付与増強された植物性原料含有飲食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風味改善剤、風味改善方法及び風味が改善された植物性原料含有飲食品等に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに各種素材による風味改善剤が開発されており、例えば、バガスの分解抽出物を含有する風味向上剤(特許文献1)や、クロロゲン酸を含む味覚改変剤(特許文献2)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-5608号公報
【特許文献2】特許第5085632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、植物性原料の風味を改善することができる風味改善剤、該風味改善剤を含有させる風味改善方法、及び風味が改善された植物性原料含有飲食品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者らは、リパーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理した昆布エキスが植物性原料の風味改善効果を有することを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[6]の態様に関する。
[1]リパーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理した昆布エキスを有効成分とする、植物性原料用風味改善剤。
[2]植物性タンパク質臭マスキング用又は植物性乳の乳感付与増強用である、[1]記載の風味改善剤。
[3][1]又は[2]記載の風味改善剤を、植物性タンパク質又は植物性乳含有飲食品に含有させることを特徴とする、植物性原料含有飲食品の風味改善方法。
[4]風味改善が植物性タンパク質臭のマスキング又は植物性乳の乳感付与増強である、[3]記載の風味改善方法。
[5]リパーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理した昆布エキスを含有する植物性原料含有飲食品であって、植物性タンパク質臭がマスキングされた又は植物性乳の乳感が付与増強された植物性原料含有飲食品。
[6]リパーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理した昆布エキスを植物性原料含有飲食品に含有させる、植物性原料含有飲食品の製造方法であって、植物性タンパク質臭がマスキングされた又は植物性乳の乳感が付与増強された植物性原料含有飲食品の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって、植物性原料の風味を改善することができる風味改善剤を提供することができるようになり、該風味改善剤を含有させることで、植物性原料の風味を改善できるようになった。また、風味が改善された植物性原料含有飲食品の提供が可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の風味改善剤は、リパーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理した昆布エキスを有効成分として含有し、植物性原料用風味改善剤として使用でき、特に、植物性タンパク質臭を抑制する植物性タンパク質臭マスキング用又は植物性乳に乳感を付与増強する植物性乳の乳感付与増強用として有用である。
【0009】
本発明において、リパーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理した昆布エキスは、市販の酵素処理昆布エキスを用いてもよく、昆布から調製した酵素処理昆布エキスを用いてもよい。昆布から酵素処理昆布エキスを調製する場合に原料として用いる昆布は、一般に入手可能な食品用又は食品加工用の昆布であれば限定されない。例えば、利尻昆布、日高昆布(三石昆布)、真昆布、羅臼昆布、細目昆布、長昆布(浜中昆布)等が挙げられる。これら原料として用いる昆布は、1種を単独で用いてもよく、また複数種を併用してもよい。また、該昆布は、生鮮品でも、乾燥品でもよく、そのままの形状で用いてもよく、細切処理又は粉砕処理して用いてもよい。昆布を細切処理又は粉砕処理する方法は、特に限定されず、食材の加工に一般に用いられる方法を単独又は組み合わせて処理することができる。細切処理又は粉砕処理に用いる機器としては、例えば、切断、粉砕、摩擦、空気圧、水圧等を利用して加工する各種の裁断機、粉砕機等が挙げられる。
【0010】
リパーゼ活性を有する酵素を用いた酵素処理は、昆布を抽出処理中又は抽出処理後の抽出処理液を、リパーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理を行えばよく、例えば、昆布を抽出処理中の抽出処理液を、リパーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理を行うか、又は、昆布を抽出処理後の抽出処理液を、リパーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理を行うことができ、該抽出処理液を固液分離して得られた液部を酵素処理してもよく、エタノールの存在下で酵素処理するのが好ましい。エタノール濃度は、好ましくは0.01~60重量%、より好ましくは0.1~55重量%、さらにより好ましくは0.3~45重量%、特に好ましくは0.5~40重量%である。
【0011】
昆布の抽出処理に用いる抽出溶媒は、食品加工に用いることのできる溶媒であればいずれでもよく、好ましくは、水及び/又はアルコールであり、より好ましくは、水、エタノール又はエタノール水溶液であり、特に好ましくは、エタノール水溶液である。抽出温度は、通常、0℃~120℃、好ましくは、10℃~100℃、より好ましくは、15℃~80℃である。また、該抽出処理における処理時間は、抽出溶媒の種類や抽出処理の温度にもよるが、通常10分間~24時間、好ましくは20分間~20時間、より好ましくは30分間~10時間である。
【0012】
酵素処理に用いるリパーゼ活性を有する酵素は、食品加工に用いることができるリパーゼ活性を有する酵素であればいずれでもよく、また、該酵素を含むものであってもよく、酵素製剤を用いることができる。リパーゼ活性を有する酵素としては、例えば、リパーゼ製剤であるリパーゼOF(名糖産業株式会社製)、リパーゼA「アマノ」6(天野エンザイム株式会社製)、リリパーゼ(登録商標)A-10D(ナガセケムテックス株式会社製)等が挙げられる。該酵素の添加量は、処理温度及び処理時間により適宜変更することができるが、例えば、製剤として、通常0.0001~1.0重量%、好ましくは0.0005~0.5重量%、より好ましくは0.001~0.2重量%である。
【0013】
酵素処理における処理温度は、通常10~70℃、好ましくは15~60℃、より好ましくは20~50℃である。また、該酵素処理における処理時間は、通常10分間~12時間、好ましくは20分間~8時間、より好ましくは30分間~6時間である。
【0014】
本発明の風味改善剤は、リパーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理した昆布エキスを有効成分として含んでいればよく、減圧濃縮、膜濃縮、ドラムドライ、エアードライ、噴霧乾燥、真空乾燥若しくは凍結乾燥、又はそれらの組み合わせ等により、濃縮品や乾燥品としてもよい。
【0015】
本発明の風味改善剤は、植物性原料を含む各種飲食品に添加することで、植物性原料の風味を改善することができ、特に植物性タンパク質の不快な味を低減することができ、また、植物性乳に乳感を付与増強して動物性乳の様な濃厚さを付与することができ、植物性タンパク質臭のマスキング用又は植物性乳の乳感付与増強用として用いるのが好ましい。飲食品は特に制限されないが、例えば植物性タンパク質や植物性乳を使用した、プロテインサプリメント、プロテインバー、プロテインゼリー等のタンパク質補給用食品、豆乳等の飲料、動物性原料の代わりに植物性原料を使用したスープ類、肉様食品、冷菓、菓子、キャラメル、クリーム等の植物性原料含有飲食品が例示できる。
【0016】
本発明の植物性原料含有飲食品は、リパーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理した昆布エキスを含有し、植物性原料含有飲食品100重量%に対して該酵素処理昆布エキスを0.01~2.0重量%含むのが好ましく、0.015~1.5重量%含むのがより好ましく、0.02~1.0重量%含むのがさらに好ましく、植物性原料含有飲食品100重量%に対して該酵素処理昆布エキス固形分として0.002~0.60重量%含むのが好ましく、0.0025~0.55重量%含むのがより好ましく、0.003~0.50含むのがさらに好ましく、風味が改善された植物性原料含有飲食品であって、植物性タンパク質臭がマスキングされた植物性原料含有飲食品又は植物性乳に乳風味が付与増強された植物性原料含有飲食品であるのが好ましい。本発明の植物性原料含有飲食品は、リパーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理した昆布エキスを植物性原料含有飲食品に添加して前記割合で含有させることで製造できる。植物性原料含有飲食品とは、植物性タンパク質又は植物性乳を含む飲食品を意味し、飲食品中の動物性原料の一部又は全部を植物性原料に置き換えた代替飲食品が例示でき、例えば、プラントベースフードが例示できる。植物性タンパク質としては、大豆タンパク質、エンドウタンパク質、ソラマメ蛋白質、ヒヨコマメタンパク質、インゲンマメタンパク質等の豆類タンパク質、小麦タンパク質、米タンパク質等の穀類タンパク質、アーモンドタンパク質、ゴマタンパク質等の種実類タンパク質等が例示でき、酵素処理、熱処理、アルカリ処理等により加水分解された植物性タンパク質でもよく、植物性乳としては、豆乳、アーモンドミルク、ライスミルク、ココナッツミルク等が例示できる。
【実施例0017】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。尚、本発明において、%は別記がない限り全て重量%である。
【0018】
[調製1]
熱水抽出した昆布エキス、エタノール抽出した昆布エキス及び水を混合した昆布エキス(6.5%エタノール含有)98.23部、食塩1.67部、並びにリパーゼ製剤(リパーゼOF原末、名糖産業株式会社製)0.1部を混合し、40℃、2時間の酵素処理を行った後、80℃、10分間処理して酵素を失活させることで、リパーゼ活性を有する酵素を用いて処理した酵素処理昆布エキスを調製した。
【0019】
[評価試験1]
調製1の酵素処理昆布エキス(Brix27.5)(実施例1)を、動物性の乳製品の代わりに植物性の乳製品を使用したプラントベースキャラメルに添加し、添加による乳感増強効果について官能評価を行った結果、0.0125%添加(固形分として0.0344%)以上で添加効果がみられ、0.00625%(固形分として0.00172%)以下の添加では添加効果がみられなかった。また、2.5%添加(固形分として0.688%)すると、昆布エキス由来の塩味や昆布臭といった異味を感じた。
【0020】
[評価試験2]
調製1の酵素処理昆布エキス(Brix27.5)(実施例2)又は調製1でリパーゼ添加前の食塩入り昆布エキス(Brix27.2)(未酵素処理昆布エキス)(比較例2)を無調整豆乳に各1.1%添加(固形分として0.3%)し、官能評価を行った。官能評価は、訓練された22名のパネラ-により、二点比較法により添加効果を評価し、結果を表1に示した。
官能項目:甘味、乳感、コク・厚み、大豆臭、昆布臭
評価方法:酵素処理前後の昆布エキスを添加した無調整豆乳2品を比較し、官能項目についてより強い方を選択
【0021】
【表1】
【0022】
評価試験2より、リパーゼ活性を有する酵素で処理した酵素処理昆布エキスを添加した実施例2で、大豆臭に関して、有意水準1%で、比較例2より、大豆臭を弱く感じる結果となった。また、乳感について、酵素処理昆布エキスを添加した実施例2で、未酵素処理昆布エキスを添加した比較例2より、乳感を強く感じる結果となった。よって、昆布エキスをリパーゼ活性を有する酵素で処理することで、該酵素処理昆布エキスが、植物性タンパク質臭を抑え、植物性乳の乳感を付与増強する効果を有することが分かり、リパーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理した昆布エキスを植物性タンパク質臭のマスキング用又は植物性乳の乳感付与増強用の風味改善剤として利用できることが分かった。