(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117049
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 48/36 20120101AFI20240821BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
F16H48/36
B60L15/20 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101968
(22)【出願日】2023-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2023022520
(32)【優先日】2023-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】磯野 宏
【テーマコード(参考)】
3J027
5H125
【Fターム(参考)】
3J027FA07
3J027FA19
3J027FA36
3J027FB02
3J027HB02
3J027HG03
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA00
5H125BE05
5H125FF01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】回転電機のロータの回転を第1減速機と第2減速機とに分配する構成において、小型化及び簡素化を図り易い車両用駆動装置を提供する。
【解決手段】ロータ12と第1減速機3Aと第2減速機3Bとが同軸上に配置され、第1減速機3Aは、第1入力要素31Aと、第1出力要素32Aと、第1ギヤG1と一体的に回転する第1反力要素33Aと、を備えた遊星歯車機構であり、第2減速機3Bは、第2入力要素31Bと、第2出力要素32Bと、第2ギヤG2と一体的に回転する第2反力要素33Bと、を備えた遊星歯車機構であり、反力伝達機構4は、第1ギヤG1に噛み合う第3ギヤG3と、第2ギヤG2に噛み合う第4ギヤG4と、それらのギヤG3,G4の間の動力伝達経路であるギヤ間伝達経路Pに設けられてギヤG3,G4を互いに反対向きに回転させる反転機構5と、ギヤ間伝達経路Pに設けられた係合装置6と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータを備えた回転電機と、
第1車輪に駆動連結される第1出力部材と、
第2車輪に駆動連結される第2出力部材と、
前記ロータの回転を減速して前記第1出力部材に伝達する第1減速機と、
前記ロータの回転を減速して前記第2出力部材に伝達する第2減速機と、
反力伝達機構と、を備えた車両用駆動装置であって、
前記ロータと前記第1減速機と前記第2減速機とが同軸上に配置され、
前記第1減速機は、前記ロータに駆動連結された第1入力要素と、前記第1出力部材と一体的に回転するように連結された第1出力要素と、第1ギヤと一体的に回転するように連結された第1反力要素と、を備えた遊星歯車機構であり、
前記第2減速機は、前記ロータに駆動連結された第2入力要素と、前記第2出力部材と一体的に回転するように連結された第2出力要素と、第2ギヤと一体的に回転するように連結された第2反力要素と、を備えた遊星歯車機構であり、
前記反力伝達機構は、前記第1ギヤに噛み合う第3ギヤと、前記第2ギヤに噛み合う第4ギヤと、前記第3ギヤと前記第4ギヤとの間の動力伝達経路であるギヤ間伝達経路に設けられて前記第3ギヤと前記第4ギヤとを互いに反対向きに回転させる反転機構と、前記ギヤ間伝達経路に設けられた係合装置と、を備える、車両用駆動装置。
【請求項2】
前記係合装置は、前記ギヤ間伝達経路を断接するクラッチを含む、請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記反力伝達機構を第1反力伝達機構とし、前記ギヤ間伝達経路を第1ギヤ間伝達経路とし、前記反転機構を第1反転機構とし、前記係合装置を第1係合装置として、
前記第1減速機は、第5ギヤと一体的に回転するように連結された第3反力要素を更に備えると共に、前記第1反力要素が停止した状態と、前記第3反力要素が停止した状態とで、前記第1入力要素と前記第1出力要素との間の動力伝達経路の変速比が異なるように構成され、
前記第2減速機は、第6ギヤと一体的に回転するように連結された第4反力要素を更に備えると共に、前記第2反力要素が停止した状態と、前記第4反力要素が停止した状態とで、前記第2入力要素と前記第2出力要素との間の動力伝達経路の変速比が異なるように構成され、
前記第5ギヤに噛み合う第7ギヤと、前記第6ギヤに噛み合う第8ギヤと、前記第7ギヤと前記第8ギヤとの間の動力伝達経路である第2ギヤ間伝達経路に設けられて前記第7ギヤと前記第8ギヤとを互いに反対向きに回転させる第2反転機構と、前記第2ギヤ間伝達経路に設けられた第2係合装置と、を備えた第2反力伝達機構を更に備え、
前記第2係合装置は、前記第2ギヤ間伝達経路を断接するクラッチを含む、請求項2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記係合装置は、前記ギヤ間伝達経路に設けられた回転部材を非回転部材に選択的に固定する摩擦係合式のブレーキを含む、請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記係合装置は、
前記ギヤ間伝達経路を断接するクラッチと、
前記クラッチと前記第4ギヤとの間の動力伝達経路に設けられた回転部材を非回転部材に選択的に固定する摩擦係合式の第1ブレーキと、
前記クラッチと前記第3ギヤとの間の動力伝達経路に設けられた回転部材を非回転部材に選択的に固定する摩擦係合式の第2ブレーキと、を含む、請求項1に記載の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機と、第1車輪に駆動連結される第1出力部材と、第2車輪に駆動連結される第2出力部材と、回転電機のロータの回転を減速して第1出力部材に伝達する第1減速機と、回転電機のロータの回転を減速して第2出力部材に伝達する第2減速機と、を備えた車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このような車両用駆動装置の一例が、下記の特許文献1に開示されている。以下、背景技術の説明では、特許文献1における符号を括弧内に引用する。
【0003】
特許文献1の車両用駆動装置において、第1減速機(PR)は、回転電機(MG2)のロータ(R2)に駆動連結された第1サンギヤ(16R)と、第1出力部材(13R)と一体的に回転するように連結された第1キャリヤ(14R)と、第1ギヤ(22R)と一体的に回転するように連結された第1リングギヤ(15R)と、を備えた遊星歯車機構である。
【0004】
また、第2減速機(PL)は、回転電機(MG2)のロータ(R2)に駆動連結された第2サンギヤ(16L)と、第2出力部材(13L)と一体的に回転するように連結された第2キャリヤ(14L)と、第2ギヤ(22L)と一体的に回転するように連結された第2リングギヤ(15L)と、を備えた遊星歯車機構である。
【0005】
特許文献1の車両用駆動装置は、第1減速機(PR)の第1リングギヤ(15R)と第2減速機(PL)の第2リングギヤ(15L)とが互いに反対向きに回転することを許容しつつ、ロータ(R2)から第1サンギヤ(16R)に伝達される駆動力を増幅して第1キャリヤ(14R)に伝達するための反力を第1リングギヤ(15R)に伝達すると共に、ロータ(R2)から第2サンギヤ(16L)に伝達される駆動力を増幅して第2キャリヤ(14L)に伝達するための反力を第2リングギヤ(15L)に伝達する反力伝達機構を備えている。そのため、反力伝達機構が、ロータ(R2)の回転を第1減速機(PR)と第2減速機(PL)とに分配する差動歯車機構として機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の車両用駆動装置では、反力伝達機構は、第1リングギヤ(15R)と一体的に回転する第1ギヤ(22R)に噛み合う第3ギヤ(21a)と、第2リングギヤ(15L)と一体的に回転する第2ギヤ(22L)に噛み合い、第3ギヤ(21a)とは反対向きに回転するように第3ギヤ(21a)と連動して回転する第4ギヤ(21b)と、駆動源(MG1)と、当該駆動源(MG1)の回転を減速して第3ギヤ(21a)及び第4ギヤ(21b)に伝達する減速機(31)と、を備えている。
【0008】
このような構成では、第1リングギヤ(15R)と第2リングギヤ(15L)とのそれぞれに大きい反力を伝達しようとした場合、駆動源(MG1)の大型化や減速機(31)の複雑化を招き易い。
【0009】
そこで、回転電機のロータの回転を第1減速機と第2減速機とに分配する構成において、小型化及び簡素化を図り易い車両用駆動装置の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記に鑑みた、車両用駆動装置の特徴構成は、
ロータを備えた回転電機と、
第1車輪に駆動連結される第1出力部材と、
第2車輪に駆動連結される第2出力部材と、
前記ロータの回転を減速して前記第1出力部材に伝達する第1減速機と、
前記ロータの回転を減速して前記第2出力部材に伝達する第2減速機と、
反力伝達機構と、を備えた車両用駆動装置であって、
前記ロータと前記第1減速機と前記第2減速機とが同軸上に配置され、
前記第1減速機は、前記ロータに駆動連結された第1入力要素と、前記第1出力部材と一体的に回転するように連結された第1出力要素と、第1ギヤと一体的に回転するように連結された第1反力要素と、を備えた遊星歯車機構であり、
前記第2減速機は、前記ロータに駆動連結された第2入力要素と、前記第2出力部材と一体的に回転するように連結された第2出力要素と、第2ギヤと一体的に回転するように連結された第2反力要素と、を備えた遊星歯車機構であり、
前記反力伝達機構は、前記第1ギヤに噛み合う第3ギヤと、前記第2ギヤに噛み合う第4ギヤと、前記第3ギヤと前記第4ギヤとの間の動力伝達経路であるギヤ間伝達経路に設けられて前記第3ギヤと前記第4ギヤとを互いに反対向きに回転させる反転機構と、前記ギヤ間伝達経路に設けられた係合装置と、を備える点にある。
【0011】
この特徴構成によれば、反力伝達機構により、第1減速機の第1反力要素と第2減速機の第2反力要素とが互いに反対向きに回転することを許容しつつ、ロータから第1入力要素に伝達される駆動力を増幅して第1出力要素に伝達するための反力を第1反力要素に伝達すると共に、ロータから第2入力要素に伝達される駆動力を増幅して第2出力要素に伝達するための反力を第2反力要素に伝達することができる。これにより、反力伝達機構を、ロータの回転を第1減速機と第2減速機とに分配する差動歯車機構として機能させることができる。
また、本特徴構成によれば、係合装置の係合力を、第1反力要素と第2反力要素とのそれぞれに伝達する反力とすることができる。一般的に、係合装置と回転電機とで同等のトルクを発生させる場合、係合装置は、回転電機に比べて小さく構成し易く、構造も簡素なものとなり易い。したがって、回転電機のロータの回転を第1減速機と第2減速機とに分配する構成において、車両用駆動装置の小型化及び簡素化を図り易い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1の実施形態に係る車両用駆動装置の断面図
【
図2】第1の実施形態に係る車両用駆動装置のスケルトン図
【
図3】第1の実施形態に係る第1減速機及び第2減速機の速度線図
【
図4】第2の実施形態に係る車両用駆動装置の断面図
【
図5】第2の実施形態に係る車両用駆動装置のスケルトン図
【
図6】第2の実施形態に係る第1減速機及び第2減速機の速度線図
【
図7】第3の実施形態に係る車両用駆動装置の断面図
【
図8】第3の実施形態に係る車両用駆動装置のスケルトン図
【
図9】第3の実施形態に係る第1減速機及び第2減速機の速度線図
【
図10】第4の実施形態に係る車両用駆動装置の断面図
【
図11】第4の実施形態に係る車両用駆動装置のスケルトン図
【
図12】第5の実施形態に係る車両用駆動装置の断面図
【
図13】第5の実施形態に係る車両用駆動装置のスケルトン図
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.第1の実施形態
以下では、第1の実施形態に係る車両用駆動装置100について、
図1から
図3を参照して説明する。
図1及び
図2に示すように、車両用駆動装置100は、ステータ11及びロータ12を備えた回転電機1と、第1車輪W1(
図2参照)に駆動連結される第1出力部材2Aと、第2車輪W2(
図2参照)に駆動連結される第2出力部材2Bと、ロータ12の回転を減速して第1出力部材2Aに伝達する第1減速機3Aと、ロータ12の回転を減速して第2出力部材2Bに伝達する第2減速機3Bと、反力伝達機構4と、を備えている。本実施形態では、車両用駆動装置100は、回転電機1、第1出力部材2A、第2出力部材2B、第1減速機3A、第2減速機3B、及び反力伝達機構4を収容するケース9を更に備えている。
【0014】
ここで、本願において「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が1つ又は2つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。なお、伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置、例えば、摩擦係合装置、噛み合い式係合装置等が含まれていても良い。ただし、遊星歯車機構の各回転要素について「駆動連結」という場合には、互いに他の回転要素を介することなく連結されている状態を指すものとする。
【0015】
以下の説明では、回転電機1のロータ12の回転軸心である第1軸心X1に沿う方向を「軸方向L」とする。そして、軸方向Lの一方側を「軸方向第1側L1」とし、軸方向Lの他方側を「軸方向第2側L2」とする。また、第1軸心X1を含む複数の回転軸心のそれぞれに直交する方向を、各回転軸心を基準とした「径方向R」とする。なお、どの回転軸心を基準とするかを区別する必要がない場合やどの回転軸心を基準とするかが明らかである場合には、単に「径方向R」と記す場合がある。
【0016】
回転電機1は、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能とを有している。具体的には、回転電機1は、バッテリやキャパシタ等の蓄電装置(図示を省略)と電気的に接続されている。そして、回転電機1は、蓄電装置に蓄えられた電力により力行して駆動力を発生する。また、回転電機1は、第1車輪W1及び第2車輪W2の側から伝達される駆動力により発電を行って蓄電装置を充電する。
【0017】
ステータ11は、非回転部材NR(ここでは、ケース9)に固定されている。ロータ12は、ステータ11に対して回転可能に支持されている。本実施形態では、ロータ12は、ステータ11に対して径方向Rの内側に配置されている。
【0018】
本実施形態では、ロータ12は、ロータ軸13と一体的に回転するように連結されている。ロータ軸13は、軸方向Lに沿って延在するように形成されている。ロータ軸13は、第1軸心X1上に配置されている。本実施形態では、ロータ軸13は、ロータ12から軸方向第1側L1及び軸方向第2側L2のそれぞれに突出するように配置されている。
【0019】
第1減速機3A及び第2減速機3Bは、第1軸心X1上に配置されている。つまり、ロータ12と第1減速機3Aと第2減速機3Bとは、同軸上に配置されている。
【0020】
第1減速機3Aは、第1入力要素31Aと、第1出力要素32Aと、第1反力要素33Aと、を備えた遊星歯車機構である。
【0021】
第1入力要素31Aは、ロータ12に駆動連結されている。本実施形態では、第1入力要素31Aは、第1サンギヤSG1である。本実施形態では、第1サンギヤSG1は、ロータ12と一体的に回転するように連結されている。
図1に示す例では、第1サンギヤSG1は、ロータ軸13の軸方向第1側L1の端部の外周面に形成されている。
【0022】
第1出力要素32Aは、第1出力部材2Aと一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、第1出力要素32Aは、第1キャリヤCR1である。本実施形態では、第1キャリヤCR1は、互いに一体的に回転する第1大径ピニオンギヤP11及び第1小径ピニオンギヤP12を回転自在に支持している。第1大径ピニオンギヤP11及び第1小径ピニオンギヤP12のそれぞれは、自己の軸心回りに回転(自転)すると共に、第1キャリヤCR1と共に第1軸心X1を中心として回転(公転)する。第1大径ピニオンギヤP11及び第1小径ピニオンギヤP12のそれぞれは、自己の公転軌跡に沿って、互いに間隔を空けて複数設けられている。本実施形態では、第1大径ピニオンギヤP11が、第1小径ピニオンギヤP12に対して軸方向第2側L2に配置されている。
【0023】
第1反力要素33Aは、第1ギヤG1と一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、第1反力要素33Aは、第1リングギヤRG1である。本実施形態では、第1ギヤG1は、第1リングギヤRG1に対して径方向Rの外側に配置されている。そして、第1ギヤG1は、径方向Rに沿う径方向視で、第1リングギヤRG1と重複するように配置されている。ここで、2つの要素の配置に関して、「特定方向視で重複する」とは、その視線方向に平行な仮想直線を当該仮想直線と直交する各方向に移動させた場合に、当該仮想直線が2つの要素の双方に交わる領域が少なくとも一部に存在することを指す。
【0024】
本実施形態では、第1サンギヤSG1が第1大径ピニオンギヤP11に噛み合っている。そして、第1リングギヤRG1が第1小径ピニオンギヤP12に噛み合っている。
【0025】
第2減速機3Bは、第2入力要素31Bと、第2出力要素32Bと、第2反力要素33Bと、を備えた遊星歯車機構である。
【0026】
第2入力要素31Bは、ロータ12に駆動連結されている。本実施形態では、第2入力要素31Bは、第2サンギヤSG2である。本実施形態では、第2サンギヤSG2は、ロータ12と一体的に回転するように連結されている。
図1に示す例では、第2サンギヤSG2は、ロータ軸13の軸方向第2側L2の端部の外周面に形成されている。
【0027】
第2出力要素32Bは、第2出力部材2Bと一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、第2出力要素32Bは、第2キャリヤCR2である。本実施形態では、第2キャリヤCR2は、互いに一体的に回転する第2大径ピニオンギヤP21及び第2小径ピニオンギヤP22を回転自在に支持している。第2大径ピニオンギヤP21及び第2小径ピニオンギヤP22のそれぞれは、自己の軸心回りに回転(自転)すると共に、第2キャリヤCR2と共に第1軸心X1を中心として回転(公転)する。第2大径ピニオンギヤP21及び第2小径ピニオンギヤP22のそれぞれは、自己の公転軌跡に沿って、互いに間隔を空けて複数設けられている。本実施形態では、第2大径ピニオンギヤP21が、第2小径ピニオンギヤP22に対して軸方向第1側L1に配置されている。
【0028】
第2反力要素33Bは、第2ギヤG2と一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、第2反力要素33Bは、第2リングギヤRG2である。本実施形態では、第2ギヤG2は、第2リングギヤRG2に対して径方向Rの外側に配置されている。そして、第2ギヤG2は、径方向Rに沿う径方向視で、第2リングギヤRG2と重複するように配置されている。
【0029】
本実施形態では、第2サンギヤSG2が第2大径ピニオンギヤP21に噛み合っている。そして、第2リングギヤRG2が第2小径ピニオンギヤP22に噛み合っている。
【0030】
本実施形態では、第1出力部材2Aは、ドライブシャフトを介して、第1車輪W1と一体的に回転するように連結されている。また、第2出力部材2Bは、ドライブシャフトを介して、第2車輪W2と一体的に回転するように連結されている。なお、第1車輪W1及び第2車輪W2は、左右一対の車輪(例えば、左右一対の前輪、又は左右一対の後輪)である。
【0031】
反力伝達機構4は、第3ギヤG3と、第4ギヤG4と、反転機構5と、係合装置6と、を備えている。
【0032】
第3ギヤG3は、第1ギヤG1に噛み合うギヤである。第4ギヤG4は、第2ギヤG2に噛み合うギヤである。
【0033】
反転機構5は、第3ギヤG3と第4ギヤG4とを互いに反対向きに回転させるように構成されている。反転機構5は、第3ギヤG3と第4ギヤG4との間の動力伝達経路であるギヤ間伝達経路Pに設けられている。
【0034】
本実施形態では、反転機構5は、連動ギヤ51を備えている。連動ギヤ51は、第3ギヤG3に噛み合うギヤである。本実施形態では、第3ギヤG3は、連動ギヤ51と第1ギヤG1との双方に噛み合うアイドラギヤである。
【0035】
本実施形態では、連動ギヤ51と第4ギヤG4とは、第1軸心X1とは異なる第2軸心X2上に配置されている。そして、連動ギヤ51と第4ギヤG4とは、互いに一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、連動ギヤ51及び第4ギヤG4は、第2軸心X2上に配置された連結軸52と一体的に回転するように連結されている。
【0036】
係合装置6は、ギヤ間伝達経路Pに設けられている。本実施形態では、係合装置6は、第1ブレーキB1を含む。第1ブレーキB1は、摩擦係合式の係合装置である。摩擦係合式の係合装置は、一対の摩擦係合要素の係合圧に応じて、係合の状態(係合状態/解放状態)が制御されるように構成されている。摩擦係合式の係合装置において、係合状態は、「直結係合状態」と「スリップ係合状態」とを含む。直結係合状態は、一対の摩擦係合要素が差回転なく係合している状態である。また、スリップ係合状態は、一対の摩擦係合要素が差回転を有して係合している状態である。
【0037】
第1ブレーキB1は、ギヤ間伝達経路Pに設けられた回転部材である第1回転部材RM1を非回転部材NRに選択的に固定する「ブレーキ」である。そのため、第1ブレーキB1では、一対の摩擦係合要素の一方が第1回転部材RM1と一体的に回転するように連結され、一対の摩擦係合要素の他方が非回転部材NRに対して固定されている。本実施形態では、非回転部材NRは、ケース9である。また、第1回転部材RM1は、連結軸52である。
【0038】
本実施形態では、第1ブレーキB1は、第2軸心X2上に配置されている。そして、第1ブレーキB1は、軸方向Lに沿う軸方向視で、回転電機1と重複するように配置されている。また、本実施形態では、第1ブレーキB1は、第4ギヤG4に対して軸方向第2側L2に配置されている。そして、第1ブレーキB1における一対の摩擦係合要素の一方が、連結軸52と一体的に回転するように連結されている。
【0039】
また、本実施形態では、第1ブレーキB1は、一対の摩擦係合要素を押圧する第1押圧部材61と、当該第1押圧部材61を駆動させる第1駆動機構62と、を備えている。本実施形態では、第1駆動機構62は、電動モータ等の駆動源(図示を省略)の回転駆動力を、軸方向Lの駆動力に変換して第1押圧部材61に伝達するボールねじ機構を備えている。
【0040】
以上のように、車両用駆動装置100は、
ロータ12を備えた回転電機1と、
第1車輪W1に駆動連結される第1出力部材2Aと、
第2車輪W2に駆動連結される第2出力部材2Bと、
ロータ12の回転を減速して第1出力部材2Aに伝達する第1減速機3Aと、
ロータ12の回転を減速して第2出力部材2Bに伝達する第2減速機3Bと、
反力伝達機構4と、を備えた車両用駆動装置100であって、
ロータ12と第1減速機3Aと第2減速機3Bとが同軸上に配置され、
第1減速機3Aは、ロータ12に駆動連結された第1入力要素31Aと、第1出力部材2Aと一体的に回転するように連結された第1出力要素32Aと、第1ギヤG1と一体的に回転するように連結された第1反力要素33Aと、を備えた遊星歯車機構であり、
第2減速機3Bは、ロータ12に駆動連結された第2入力要素31Bと、第2出力部材2Bと一体的に回転するように連結された第2出力要素32Bと、第2ギヤG2と一体的に回転するように連結された第2反力要素33Bと、を備えた遊星歯車機構であり、
反力伝達機構4は、第1ギヤG1に噛み合う第3ギヤG3と、第2ギヤG2に噛み合う第4ギヤG4と、第3ギヤG3と第4ギヤG4との間の動力伝達経路であるギヤ間伝達経路Pに設けられて第3ギヤG3と第4ギヤG4とを互いに反対向きに回転させる反転機構5と、ギヤ間伝達経路Pに設けられた係合装置6と、を備える。
【0041】
この構成によれば、反力伝達機構4により、第1減速機3Aの第1反力要素33Aと第2減速機3Bの第2反力要素33Bとが互いに反対向きに回転することを許容しつつ、ロータ12から第1入力要素31Aに伝達される駆動力を増幅して第1出力要素32Aに伝達するための反力を第1反力要素33Aに伝達すると共に、ロータ12から第2入力要素31Bに伝達される駆動力を増幅して第2出力要素32Bに伝達するための反力を第2反力要素33Bに伝達することができる。これにより、反力伝達機構4を、ロータ12の回転を第1減速機3Aと第2減速機3Bとに分配する差動歯車機構として機能させることができる。
また、本構成によれば、係合装置6の係合力を、第1反力要素33Aと第2反力要素33Bとのそれぞれに伝達する反力とすることができる。一般的に、係合装置6と回転電機1とで同等のトルクを発生させる場合、係合装置6は、回転電機1に比べて小さく構成し易く、構造も簡素なものとなり易い。したがって、回転電機1のロータ12の回転を第1減速機3Aと第2減速機3Bとに分配する構成において、車両用駆動装置100の小型化及び簡素化を図り易い。
【0042】
図3に、本実施形態に係る第1減速機3A及び第2減速機3Bの速度線図を示す。
図3の速度線図において、並列配置された複数本の縦線のそれぞれは、第1減速機3A及び第2減速機3Bの各回転要素に対応している。そして、各縦線上の位置は、第1減速機3A及び第2減速機3Bの各回転要素の回転速度に対応している。また、
図3の速度線図において、複数本の縦線の上方に示された符号は、対応する回転要素の符号である。そして、複数本の縦線の下方に示された符号は、上方に示された符号に対応する回転要素に連結された要素の符号である。このような速度線図の記載方法は、
図6等においても同様である。
【0043】
また、
図3の速度線図において、第1ブレーキB1に連結された回転要素(ここでは、第1リングギヤRG1及び第2リングギヤRG2)に対応する縦線上に示された記号は、第1ブレーキB1の係合の状態を表している。それらの記号として、白塗りの四角は第1ブレーキB1が解放状態であることを表し、バツ印は第1ブレーキB1が直結係合状態(第1ブレーキB1に連結された回転要素が非回転部材NRに対して固定されている状態)であることを表している。
【0044】
図3に示すように、第1ブレーキB1が解放状態である場合において、回転電機1の正転方向(
図3における上向き)のトルクTmg(
図3における網掛け矢印参照)が第1サンギヤSG1及び第2サンギヤSG2に伝達され、それらのギヤが正転している状態では、反転機構5により第3ギヤG3と第4ギヤG4とが互いに反対向きに回転するのに伴い、第3ギヤG3に噛み合う第1ギヤG1と一体的に回転する第1リングギヤRG1と、第4ギヤG4に噛み合う第2ギヤG2と一体的に回転する第2リングギヤRG2とが、互いに反対向きに回転する。その結果、第1リングギヤRG1の反力により、第1サンギヤSG1に伝達された駆動力が増幅されて第1キャリヤCR1に伝達されると共に、第2リングギヤRG2の反力により、第2サンギヤSG2に伝達された駆動力が増幅されて第2キャリヤCR2に伝達される。このように、第1ブレーキB1が解放状態である場合、反力伝達機構4が、ロータ12の回転を第1減速機3Aと第2減速機3Bとに分配する差動歯車機構として機能する。
【0045】
上述したように、本実施形態では、第3ギヤG3に噛み合う連動ギヤ51と、第4ギヤG4とが、一体的に回転するように連結されている。また、本実施形態では、第3ギヤG3を介した連動ギヤ51と第1ギヤG1との間の動力伝達経路の変速比と、第4ギヤG4と第2ギヤG2との間の動力伝達経路の変速比とが同じである。そのため、本実施形態では、第1リングギヤRG1の回転速度の絶対値N1と、第2リングギヤRG2の回転速度の絶対値N2とが同じ値となる。
【0046】
このように、本実施形態では、反転機構5は、第4ギヤG4と一体的に回転すると共に第3ギヤG3に噛み合う連動ギヤ51を備え、
第3ギヤG3を介した連動ギヤ51と第1ギヤG1との間の動力伝達経路の変速比と、第4ギヤG4と第2ギヤG2との間の動力伝達経路の変速比とが同じである。
【0047】
この構成によれば、第4ギヤG4と一体的に回転すると共に第3ギヤG3に噛み合う連動ギヤ51により、第3ギヤG3と第4ギヤG4とを互いに反転させる反転機構5を構成することができる。したがって、反転機構5の小型化及び簡素化を図り易い。
【0048】
上記の状態(第1ブレーキB1が解放状態で、第1サンギヤSG1及び第2サンギヤSG2が正転している状態)から、第1ブレーキB1がスリップ係合状態となると、第1ブレーキB1の係合力に応じて、第1リングギヤRG1及び第2リングギヤRG2のそれぞれに、回転方向とは反対向きのトルクTbが作用する。その結果、第1キャリヤCR1及び第2キャリヤCR2と一体的に回転する第1出力部材2Aと第2出力部材2Bとの回転速度の差が少なくなる。このように、第1ブレーキB1がスリップ係合状態である場合、反力伝達機構4がリミテッドスリップディファレンシャル(LSD)機構として機能する。
【0049】
第1ブレーキB1が直結係合状態となると、第1リングギヤRG1及び第2リングギヤRG2が非回転部材NRに対して固定され、回転不能な状態となる。その結果、第1キャリヤCR1及び第2キャリヤCR2と一体的に回転する第1出力部材2Aと第2出力部材2Bとの回転速度が同一となる。このように、第1ブレーキB1が直結係合状態である場合、反力伝達機構4がデフロックとして機能する。
【0050】
上述したように、本実施形態では、係合装置6は、ギヤ間伝達経路Pに設けられた第1回転部材RM1を非回転部材NRに選択的に固定する摩擦係合式の第1ブレーキB1を含む。
【0051】
この構成によれば、第1ブレーキB1をスリップ係合状態として、そのスリップ量を少なくすることで、第1出力部材2Aと第2出力部材2Bとの回転速度の差を少なくすることができる。したがって、反力伝達機構4にリミテッドスリップディファレンシャル(LSD)機構としての機能を持たせることができる。また、第1ブレーキB1を直結係合状態とすることで、第1出力部材2Aと第2出力部材2Bとの回転速度を同じにすることができるため、反力伝達機構4にデフロック機能を持たせることもできる。
【0052】
2.第2の実施形態
以下では、第2の実施形態に係る車両用駆動装置100について、
図4から
図6を参照して説明する。本実施形態では、係合装置6の構成が上記第1の実施形態のものと異なっている。以下では、上記第1の実施形態との相違点を中心として説明する。なお、特に説明しない点については、上記第1の実施形態と同様とする。
【0053】
図4及び
図5に示すように、本実施形態では、係合装置6は、第1ブレーキB1を含んでおらず、第1クラッチC1を含む。第1クラッチC1は、第3ギヤG3と第4ギヤG4との間の動力伝達経路であるギヤ間伝達経路Pを断接する「クラッチ」である。本実施形態では、第1クラッチC1は、摩擦係合式の係合装置である。
【0054】
本実施形態では、連動ギヤ51と第4ギヤG4とは、互いに相対回転自在に支持されている。そして、第1クラッチC1における一対の摩擦係合要素の一方が連動ギヤ51と一体的に回転するように連結され、第1クラッチC1における一対の摩擦係合要素の他方が第4ギヤG4と一体的に回転するように連結されている。
【0055】
本実施形態では、第1クラッチC1は、第2軸心X2上に配置されている。そして、第1クラッチC1は、軸方向Lに沿う軸方向視で、回転電機1と重複するように配置されている。また、本実施形態では、第1クラッチC1は、連動ギヤ51に対して軸方向第1側L1に配置されている。また、連結軸52は、第4ギヤG4に連結されているが、連動ギヤ51に連結されていない。そして、第1クラッチC1における一対の摩擦係合要素の他方が、連結軸52と一体的に回転するように連結されている。図示の例では、連結軸52が、連動ギヤ51に対して径方向Rの内側を軸方向Lに貫通するように配置されている。
【0056】
また、本実施形態では、第1クラッチC1は、一対の摩擦係合要素を押圧する第2押圧部材63と、当該第2押圧部材63を駆動させる第2駆動機構64と、を備えている。本実施形態では、第2駆動機構64は、電動モータ等の駆動源(図示を省略)の回転駆動力を、軸方向Lの駆動力に変換して第2押圧部材63に伝達するボールねじ機構を備えている。
【0057】
このように、本実施形態では、係合装置6は、ギヤ間伝達経路Pを断接する第1クラッチC1を含む。
【0058】
この構成によれば、第1クラッチC1を解放することにより、反力伝達機構4の第3ギヤG3と第4ギヤG4との間の動力伝達が遮断される。その結果、第1減速機3Aの第1反力要素33Aと第2減速機3Bの第2反力要素33Bとの双方に反力が伝達されず、第1出力部材2Aと第2出力部材2Bとが自由に回転できる状態となる。これにより、ギヤ間伝達経路Pに設けられた係合装置6を用いて、第1減速機3A及び第2減速機3Bが動力伝達を行わないニュートラル状態と、第1減速機3A及び第2減速機3Bが動力伝達を行う伝達状態との切り替えを行う切替機能を反力伝達機構4に持たせることができる。
【0059】
図6に、本実施形態に係る第1減速機3A及び第2減速機3Bの速度線図を示す。
図6の速度線図において、第1クラッチC1に連結された回転要素(ここでは、第1リングギヤRG1及び第2リングギヤRG2)に対応する縦線上に示された記号は、第1クラッチC1の係合の状態を表している。それらの記号として、白塗りの四角は第1クラッチC1が解放状態であることを表し、黒塗りの四角は第1クラッチC1が直結係合状態であることを表している。
【0060】
第1クラッチC1が直結係合状態である場合、連動ギヤ51と第4ギヤG4とが一体的に連結される。そのため、第1クラッチC1が直結係合状態である場合、第1減速機3A及び第2減速機3Bは、上記第1の実施形態における第1ブレーキB1が解放状態である場合と同様に動作する。このとき、第1リングギヤRG1の回転速度の絶対値N11と、第2リングギヤRG2の回転速度の絶対値N12とが同じ値となる。
【0061】
具体的には、
図6に示すように、第1クラッチC1が直結係合状態である場合において、回転電機1の正転方向(
図6における上向き)のトルクTmg(
図6における網掛け矢印参照)が第1サンギヤSG1及び第2サンギヤSG2に伝達され、それらのギヤが正転している状態では、反転機構5により第3ギヤG3と第4ギヤG4とが互いに反対向きに回転するのに伴い、第3ギヤG3に噛み合う第1ギヤG1と一体的に回転する第1リングギヤRG1と、第4ギヤG4に噛み合う第2ギヤG2と一体的に回転する第2リングギヤRG2とが、互いに反対向きに回転する。その結果、第1リングギヤRG1の反力により、第1サンギヤSG1に伝達された駆動力が増幅されて第1キャリヤCR1に伝達されると共に、第2リングギヤRG2の反力により、第2サンギヤSG2に伝達された駆動力が増幅されて第2キャリヤCR2に伝達される。このように、第1クラッチC1が直結係合状態である場合、反力伝達機構4が、ロータ12の回転を第1減速機3Aと第2減速機3Bとに分配する差動歯車機構として機能する。
【0062】
一方、第1クラッチC1が解放状態である場合、連動ギヤ51と第4ギヤG4とは、互いに相対回転自在となる。その結果、第3ギヤG3を介して連動ギヤ51に連結された第1ギヤG1と一体的に回転する第1リングギヤRG1と、第4ギヤG4に噛み合う第2ギヤG2と一体的に回転する第2リングギヤRG2との双方に反力が伝達されず、第1出力部材2Aと第2出力部材2Bとが自由に回転できる状態となる。つまり、第1減速機3A及び第2減速機3Bが動力伝達を行わないニュートラル状態となる。このとき、第1リングギヤRG1の回転速度の絶対値N21と、第2リングギヤRG2の回転速度の絶対値N22とは互いに独立した値となる。なお、ニュートラル状態では、回転電機1は停止状態とされる。
【0063】
3.第3の実施形態
以下では、第3の実施形態に係る車両用駆動装置100について、
図7から
図9を参照して説明する。本実施形態では、第1減速機3A及び第2減速機3Bの構成が上記第2の実施形態のものと異なっている。更に、本実施形態は、反力伝達機構4に加えて、別の反力伝達機構を備える点で、上記第2の実施形態と異なっている。以下では、上記第2の実施形態との相違点を中心として説明する。なお、特に説明しない点については、上記第2の実施形態と同様とする。
【0064】
図7及び
図8に示すように、本実施形態では、第1減速機3Aは、第3反力要素34Aを更に備えている。第3反力要素34Aは、第5ギヤG5と一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、第3反力要素34Aは、第1大径ピニオンギヤP11に噛み合う第3リングギヤRG3である。本実施形態では、第5ギヤG5は、第3リングギヤRG3に対して径方向Rの外側に配置されている。そして、第5ギヤG5は、径方向Rに沿う径方向視で、第3リングギヤRG3と重複するように配置されている。
【0065】
本実施形態では、第2減速機3Bは、第4反力要素34Bを更に備えている。第4反力要素34Bは、第6ギヤG6と一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、第4反力要素34Bは、第2大径ピニオンギヤP21に噛み合う第4リングギヤRG4である。本実施形態では、第6ギヤG6は、第4リングギヤRG4に対して径方向Rの外側に配置されている。そして、第6ギヤG6は、径方向Rに沿う径方向視で、第4リングギヤRG4と重複するように配置されている。
【0066】
以下の説明では、反力伝達機構4を「第1反力伝達機構4A」とし、ギヤ間伝達経路Pを「第1ギヤ間伝達経路P1」とする。そして、反転機構5を第1反転機構5Aとし、連動ギヤ51を「第1連動ギヤ51A」とし、連結軸52を「第1連結軸52A」とする。また、係合装置6を「第1係合装置6A」とする。
【0067】
本実施形態では、車両用駆動装置100は、第2反力伝達機構4Bを更に備えている。第2反力伝達機構4Bは、第7ギヤG7と、第8ギヤG8と、第2反転機構5Bと、第2係合装置6Bと、を備えている。
【0068】
第7ギヤG7は、第5ギヤG5に噛み合うギヤである。第8ギヤG8は、第6ギヤG6に噛み合うギヤである。
【0069】
第2反転機構5Bは、第7ギヤG7と第8ギヤG8とを互いに反対向きに回転させるように構成されている。第2反転機構5Bは、第7ギヤG7と第8ギヤG8との間の動力伝達経路である第2ギヤ間伝達経路P2に設けられている。
【0070】
本実施形態では、第2反転機構5Bは、第2連動ギヤ51Bを備えている。第2連動ギヤ51Bは、第7ギヤG7に噛み合うギヤである。本実施形態では、第7ギヤG7は、第2連動ギヤ51Bと第5ギヤG5との双方に噛み合うアイドラギヤである。
【0071】
本実施形態では、第2連動ギヤ51Bと第8ギヤG8とは、第1軸心X1及び第2軸心X2とは異なる第3軸心X3上に配置されている。そして、第2連動ギヤ51Bと第8ギヤG8とは、互いに相対回転自在に支持されている。
【0072】
第2係合装置6Bは、第2ギヤ間伝達経路P2に設けられている。本実施形態では、第2係合装置6Bは、軸方向Lに沿う軸方向視で、回転電機1と重複するように配置されている。
【0073】
本実施形態では、第2係合装置6Bは、第2クラッチC2を含む。第2クラッチC2は、第7ギヤG7と第8ギヤG8との間の動力伝達経路である第2ギヤ間伝達経路P2を断接する「クラッチ」である。本実施形態では、第2クラッチC2は、摩擦係合式の係合装置である。
【0074】
本実施形態では、第2クラッチC2における一対の摩擦係合要素の一方が第2連動ギヤ51Bと一体的に回転するように連結され、第2クラッチC2における一対の摩擦係合要素の他方が第8ギヤG8と一体的に回転するように連結されている。
【0075】
本実施形態では、第2クラッチC2は、第3軸心X3上に配置されている。そして、第2クラッチC2は、軸方向Lに沿う軸方向視で、回転電機1と重複するように配置されている。また、本実施形態では、第2クラッチC2は、第2連動ギヤ51Bに対して軸方向第1側L1に配置されている。また、第3軸心X3上に配置された第2連結軸52Bが、第8ギヤG8と一体的に回転するように連結されている。そして、第2クラッチC2における一対の摩擦係合要素の他方が、第2連結軸52Bと一体的に回転するように連結されている。図示の例では、第2連結軸52Bが、第2連動ギヤ51Bに対して径方向Rの内側を軸方向Lに貫通するように配置されている。
【0076】
また、本実施形態では、第2クラッチC2は、一対の摩擦係合要素を押圧する第3押圧部材65と、当該第3押圧部材65を駆動させる第3駆動機構66と、を備えている。本実施形態では、第3駆動機構66は、電動モータ等の駆動源(図示を省略)の回転駆動力を、軸方向Lの駆動力に変換して第3押圧部材65に伝達するボールねじ機構を備えている。
【0077】
本実施形態では、第1減速機3Aは、第1反力要素33A(ここでは、第1リングギヤRG1)が停止した状態と、第3反力要素34A(ここでは、第3リングギヤRG3)が停止した状態とで、第1入力要素31A(ここでは、第1サンギヤSG1)と第1出力要素32A(ここでは、第1キャリヤCR1)との間の動力伝達経路の変速比が異なるように構成されている。
【0078】
また、本実施形態では、第2減速機3Bは、第2反力要素33B(ここでは、第2リングギヤRG2)が停止した状態と、第4反力要素34B(ここでは、第4リングギヤRG4)が停止した状態とで、第2入力要素31B(ここでは、第2サンギヤSG2)と第2出力要素32B(ここでは、第2キャリヤCR2)との間の動力伝達経路の変速比が異なるように構成されている。
【0079】
そのため、本実施形態では、第1クラッチC1が係合状態、かつ、第2クラッチC2が解放状態である場合と、第1クラッチC1が解放状態、かつ、第2クラッチC2が係合状態である場合とで、第1減速機3A及び第2減速機3Bの変速比が異なる。
【0080】
図9に、本実施形態に係る第1減速機3A及び第2減速機3Bの速度線図を示す。
図9の速度線図において、第1クラッチC1に連結された回転要素(ここでは、第1リングギヤRG1及び第2リングギヤRG2)、及び第2クラッチC2に連結された回転要素(ここでは、第3リングギヤRG3及び第4リングギヤRG4)に対応する縦線上に示された記号は、対応するクラッチの係合の状態を表している。それらの記号として、白塗りの四角は対応するクラッチが解放状態であることを表し、黒塗りの四角は対応するクラッチが直結係合状態であることを表している。
【0081】
第1クラッチC1が直結係合状態、かつ、第2クラッチC2が解放状態である場合、第1連動ギヤ51Aと第4ギヤG4とが一体的に連結されると共に、第2連動ギヤ51Bと第8ギヤG8とが互いに相対回転自在となる。そのため、第1クラッチC1が直結係合状態、かつ、第2クラッチC2が解放状態である場合、第1減速機3A及び第2減速機3Bは、上記第2の実施形態における第1クラッチC1が直結係合状態である場合と同様に動作する。このとき、第1リングギヤRG1の回転速度の絶対値N11と、第2リングギヤRG2の回転速度の絶対値N12とが同じ値となる。
【0082】
具体的には、
図9において実線で示すように、第1クラッチC1が直結係合状態、かつ、第2クラッチC2が解放状態である場合において、回転電機1の正転方向(
図9における上向き)のトルクTmg(
図9における網掛け矢印参照)が第1サンギヤSG1及び第2サンギヤSG2に伝達され、それらのギヤが正転している状態では、第1反転機構5Aにより第3ギヤG3と第4ギヤG4とが互いに反対向きに回転するのに伴い、第3ギヤG3に噛み合う第1ギヤG1と一体的に回転する第1リングギヤRG1と、第4ギヤG4に噛み合う第2ギヤG2と一体的に回転する第2リングギヤRG2とが、互いに反対向きに回転する。その結果、第1リングギヤRG1の反力により、第1サンギヤSG1に伝達された駆動力が増幅されて第1キャリヤCR1に伝達されると共に、第2リングギヤRG2の反力により、第2サンギヤSG2に伝達された駆動力が増幅されて第2キャリヤCR2に伝達される。このように、第1クラッチC1が直結係合状態、かつ、第2クラッチC2が解放状態である場合、第1反力伝達機構4Aが、ロータ12の回転を第1減速機3Aと第2減速機3Bとに分配する差動歯車機構として機能する。
【0083】
また、第1クラッチC1が解放状態、かつ、第2クラッチC2が直結係合状態である場合、第1連動ギヤ51Aと第4ギヤG4とが互いに相対回転自在となると共に、第2連動ギヤ51Bと第8ギヤG8とが一体的に連結される。
【0084】
この場合において、
図9において1点鎖線で示すように、回転電機1の正転方向(
図9における上向き)のトルクTmg(
図9における網掛け矢印参照)が第1サンギヤSG1及び第2サンギヤSG2に伝達され、それらのギヤが正転している状態では、第2反転機構5Bにより第7ギヤG7と第8ギヤG8とが互いに反対向きに回転するのに伴い、第7ギヤG7に噛み合う第5ギヤG5と一体的に回転する第3リングギヤRG3と、第8ギヤG8に噛み合う第6ギヤG6と一体的に回転する第4リングギヤRG4とが、互いに反対向きに回転する。その結果、第3リングギヤRG3の反力により、第1サンギヤSG1に伝達された駆動力が増幅されて第1キャリヤCR1に伝達されると共に、第4リングギヤRG4の反力により、第2サンギヤSG2に伝達された駆動力が増幅されて第2キャリヤCR2に伝達される。このように、第1クラッチC1が解放状態、かつ、第2クラッチC2が直結係合状態である場合、第2反力伝達機構4Bが、ロータ12の回転を第1減速機3Aと第2減速機3Bとに分配する差動歯車機構として機能する。このとき、第3リングギヤRG3の回転速度の絶対値N31と、第4リングギヤRG4の回転速度の絶対値N32とが同じ値となる。
【0085】
上述したように、本実施形態では、第1クラッチC1が係合状態、かつ、第2クラッチC2が解放状態である場合と、第1クラッチC1が解放状態、かつ、第2クラッチC2が係合状態である場合とで、第1減速機3A及び第2減速機3Bの変速比が異なる。そのため、第1クラッチC1が直結係合状態、かつ、第2クラッチC2が解放状態である場合(
図9の速度線図おける実線参照)に、第1変速段(ここでは、比較的変速比の大きい低速段)が形成され、第1クラッチC1が解放状態、かつ、第2クラッチC2が直結係合状態である場合(
図9の速度線図おける1点鎖線参照)に、第2変速段(ここでは、比較的変速比の小さい高速段)が形成される。
【0086】
また、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の双方が解放状態である場合、第1連動ギヤ51Aと第4ギヤG4とが互いに相対回転自在となると共に、第2連動ギヤ51Bと第8ギヤG8とが互いに相対回転自在となる。そのため、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の双方が解放状態である場合、第1減速機3A及び第2減速機3Bは、上記第2の実施形態における第1クラッチC1が解放状態である場合と同様に動作する。
【0087】
具体的には、
図9において破線で示すように、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の双方が解放状態である場合、第3ギヤG3を介して第1連動ギヤ51Aに連結された第1ギヤG1と一体的に回転する第1リングギヤRG1と、第4ギヤG4に噛み合う第2ギヤG2と一体的に回転する第2リングギヤRG2との双方、及び、第7ギヤG7を介して第2連動ギヤ51Bに連結された第5ギヤG5と一体的に回転する第3リングギヤRG3と、第8ギヤG8に噛み合う第6ギヤG6と一体的に回転する第4リングギヤRG4との双方に反力が伝達されず、第1出力部材2Aと第2出力部材2Bとが自由に回転できる状態となる。つまり、第1減速機3A及び第2減速機3Bが動力伝達を行わないニュートラル状態となる。
【0088】
また、
図9には図示していないが、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の双方が直結係合状態である場合、第1連動ギヤ51Aと第4ギヤG4とが一体的に連結されると共に、第2連動ギヤ51Bと第8ギヤG8とが一体的に連結される。その結果、第1出力部材2A及び第2出力部材2Bの回転が規制される。このように、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の双方が直結係合状態である場合、第1係合装置6A及び第2係合装置6Bがパーキングブレーキとして機能する。
【0089】
このように、本実施形態では、係合装置6がギヤ間伝達経路Pを断接する第1クラッチC1を含む構成において、
反力伝達機構4を第1反力伝達機構4Aとし、ギヤ間伝達経路Pを第1ギヤ間伝達経路P1とし、反転機構5を第1反転機構5Aとし、係合装置6を第1係合装置6Aとして、
第1減速機3Aは、第5ギヤG5と一体的に回転するように連結された第3反力要素34Aを更に備えると共に、第1反力要素33Aが停止した状態と、第3反力要素34Aが停止した状態とで、第1入力要素31Aと第1出力要素32Aとの間の動力伝達経路の変速比が異なるように構成され、
第2減速機3Bは、第6ギヤG6と一体的に回転するように連結された第4反力要素34Bを更に備えると共に、第2反力要素33Bが停止した状態と、第4反力要素34Bが停止した状態とで、第2入力要素31Bと第2出力要素32Bとの間の動力伝達経路の変速比が異なるように構成され、
第5ギヤG5に噛み合う第7ギヤG7と、第6ギヤG6に噛み合う第8ギヤG8と、第7ギヤG7と第8ギヤG8との間の動力伝達経路である第2ギヤ間伝達経路P2に設けられて第7ギヤG7と第8ギヤG8とを互いに反対向きに回転させる第2反転機構5Bと、第2ギヤ間伝達経路P2に設けられた第2係合装置6Bと、を備えた第2反力伝達機構4Bを更に備え、
第2係合装置6Bは、第2ギヤ間伝達経路P2を断接する第2クラッチC2を含む。
【0090】
この構成によれば、第1クラッチC1が係合状態、かつ、第2クラッチC2が解放状態である場合と、第1クラッチC1が解放状態、かつ、第2クラッチC2が係合状態である場合とで、第1減速機3A及び第2減速機3Bの変速比を異ならせることができる。したがって、第1減速機3A及び第2減速機3Bに複数の変速段を形成させることができる。
また、本構成によれば、第1クラッチC1と第2クラッチC2との双方を解放状態とすることで、第1減速機3A及び第2減速機3Bが動力伝達を行わないニュートラル状態とすることができる。また、第1クラッチC1と第2クラッチC2との双方を係合状態とすることで、第1出力部材2A及び第2出力部材2Bの回転を規制することができるため、第1係合装置6A及び第2係合装置6Bをパーキングブレーキとして機能させることができる。
【0091】
4.第4の実施形態
以下では、第4の実施形態に係る車両用駆動装置100について、
図10及び
図11を参照して説明する。本実施形態では、第1係合装置6A及び第2係合装置6Bの構成が上記第3の実施形態のものと異なっている。以下では、上記第3の実施形態との相違点を中心として説明する。なお、特に説明しない点については、上記第3の実施形態と同様とする。
【0092】
図10及び
図11に示すように、本実施形態では、第1係合装置6Aは、第1クラッチC1に加えて、上記第1の実施形態における第1ブレーキB1も含む。
【0093】
また、本実施形態では、第2係合装置6Bは、第2クラッチC2に加えて、第2ブレーキB2も含む。第2ブレーキB2は、第2ギヤ間伝達経路P2に設けられた第2回転部材RM2を非回転部材NRに選択的に固定するブレーキである。本実施形態では、第2ブレーキB2は、摩擦係合式の係合装置である。
【0094】
本実施形態では、第2ブレーキB2における一対の摩擦係合要素の一方が第2回転部材RM2と一体的に回転するように連結され、第2ブレーキB2における一対の摩擦係合要素の他方が非回転部材NRに対して固定されている。本実施形態では、非回転部材NRは、ケース9である。また、第2回転部材RM2は、第2連結軸52Bである。
【0095】
本実施形態では、第2ブレーキB2は、第3軸心X3上に配置されている。そして、第2ブレーキB2は、軸方向Lに沿う軸方向視で、回転電機1と重複するように配置されている。また、本実施形態では、第2ブレーキB2は、第8ギヤG8に対して軸方向第2側L2に配置されている。そして、第2ブレーキB2における一対の摩擦係合要素の一方が、第2連結軸52Bと一体的に回転するように連結されている。
【0096】
また、本実施形態では、第2ブレーキB2は、一対の摩擦係合要素を押圧する第4押圧部材67と、当該第4押圧部材67を駆動させる第4駆動機構68と、を備えている。本実施形態では、第4駆動機構68は、電動モータ等の駆動源(図示を省略)の回転駆動力を、軸方向Lの駆動力に変換して第4押圧部材67に伝達するボールねじ機構を備えている。
【0097】
上記第3の実施形態と同様に、本実施形態においても、第1クラッチC1が直結係合状態、かつ、第2クラッチC2が解放状態である場合に、第1変速段(ここでは、比較的変速比の大きい低速段)が形成され、第1クラッチC1が解放状態、かつ、第2クラッチC2が直結係合状態である場合に、第2変速段(ここでは、比較的変速比の小さい高速段)が形成される。
【0098】
第1サンギヤSG1及び第2サンギヤSG2が正転するように回転電機1がトルクを出力している場合において、第1変速段が形成された状態で、第2ブレーキB2が解放状態であって、第1ブレーキB1がスリップ係合状態である場合、第1ブレーキB1の係合力に応じて、第1リングギヤRG1及び第2リングギヤRG2のそれぞれに、回転方向とは反対向きのトルクが作用する。その結果、第1キャリヤCR1及び第2キャリヤCR2と一体的に回転する第1出力部材2Aと第2出力部材2Bとの回転速度の差が少なくなる。このように、第1変速段が形成された状態で、第2ブレーキB2が解放状態、かつ、第1ブレーキB1がスリップ係合状態である場合、第1反力伝達機構4Aがリミテッドスリップディファレンシャル(LSD)機構として機能する。
【0099】
そして、上記の状態から、第1ブレーキB1が直結係合状態となると、第1リングギヤRG1及び第2リングギヤRG2が非回転部材NRに対して固定され、回転不能な状態となる。その結果、第1キャリヤCR1及び第2キャリヤCR2と一体的に回転する第1出力部材2Aと第2出力部材2Bとの回転速度が同一となる。このように、第1変速段が形成された状態で、第2ブレーキB2が解放状態、かつ、第1ブレーキB1が直結係合状態である場合、第1反力伝達機構4Aがデフロックとして機能する。
【0100】
また、第1サンギヤSG1及び第2サンギヤSG2が正転するように回転電機1がトルクを出力している場合において、第2変速段が形成された状態で、第1ブレーキB1が解放状態であって、第2ブレーキB2がスリップ係合状態である場合、第2ブレーキB2の係合力に応じて、第3リングギヤRG3及び第4リングギヤRG4のそれぞれに、回転方向とは反対向きのトルクが作用する。その結果、第1キャリヤCR1及び第2キャリヤCR2と一体的に回転する第1出力部材2Aと第2出力部材2Bとの回転速度の差が少なくなる。このように、第2変速段が形成された状態で、第1ブレーキB1が解放状態、かつ、第2ブレーキB2がスリップ係合状態である場合、第2反力伝達機構4Bがリミテッドスリップディファレンシャル(LSD)機構として機能する。
【0101】
そして、上記の状態から、第2ブレーキB2が直結係合状態となると、第3リングギヤRG3及び第4リングギヤRG4が非回転部材NRに対して固定され、回転不能な状態となる。その結果、第1キャリヤCR1及び第2キャリヤCR2と一体的に回転する第1出力部材2Aと第2出力部材2Bとの回転速度が同一となる。このように、第2変速段が形成された状態で、第1ブレーキB1が解放状態、かつ、第2ブレーキB2が直結係合状態である場合、第2反力伝達機構4Bがデフロックとして機能する。
【0102】
第1クラッチC1及び第2クラッチC2の双方と、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2の双方とが解放状態である場合、第3ギヤG3を介して第1連動ギヤ51Aに連結された第1ギヤG1と一体的に回転する第1リングギヤRG1と、第4ギヤG4に噛み合う第2ギヤG2と一体的に回転する第2リングギヤRG2との双方、及び、第7ギヤG7を介して第2連動ギヤ51Bに連結された第5ギヤG5と一体的に回転する第3リングギヤRG3と、第8ギヤG8に噛み合う第6ギヤG6と一体的に回転する第4リングギヤRG4との双方に反力が伝達されず、第1出力部材2Aと第2出力部材2Bとが自由に回転できる状態となる。つまり、第1減速機3A及び第2減速機3Bが動力伝達を行わないニュートラル状態となる。
【0103】
第1クラッチC1及び第2クラッチC2の双方が直結係合状態である場合、第1連動ギヤ51Aと第4ギヤG4とが一体的に連結されると共に、第2連動ギヤ51Bと第8ギヤG8とが一体的に連結される。その結果、第1出力部材2A及び第2出力部材2Bの回転が規制される。また、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2の双方が直結係合状態である場合、第4ギヤG4に噛み合う第2ギヤG2と一体的に回転する第2リングギヤRG2が非回転部材NRに対して固定されると共に、第8ギヤG8に噛み合う第6ギヤG6と一体的に回転する第4リングギヤRG4が非回転部材NRに対して固定される。その結果、第1出力部材2A及び第2出力部材2Bの回転が規制される。このように、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の双方が直結係合状態である場合、又は、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2の双方が直結係合状態である場合、第1係合装置6A及び第2係合装置6Bがパーキングブレーキとして機能する。
【0104】
5.第5の実施形態
以下では、第5の実施形態に係る車両用駆動装置100について、
図12及び
図13を参照して説明する。本実施形態では、係合装置6の構成が上記第1及び第2の実施形態のものと異なっている。以下では、上記第1及び第2の実施形態との相違点を中心として説明する。なお、特に説明しない点については、上記第1及び第2の実施形態と同様とする。
【0105】
図12及び
図13に示すように、本実施形態では、係合装置6は、上記第1の実施形態における第1ブレーキB1と、上記第2の実施形態における第1クラッチC1に加えて、摩擦係合式の第2ブレーキB2を含む。
【0106】
本実施形態では、第1ブレーキB1は、第1クラッチC1と第4ギヤG4との間の動力伝達経路に設けられた回転部材である第1回転部材RM1を非回転部材NRに選択的に固定するように構成されている。そのため、第1ブレーキB1における一対の摩擦係合要素の一方が第1回転部材RM1と一体的に回転するように連結され、第1ブレーキB1における一対の摩擦係合要素の他方が非回転部材NRに対して固定されている。なお、本実施形態では、第1回転部材RM1は、連結軸52である。
【0107】
本実施形態では、第2ブレーキB2は、第1クラッチC1と第3ギヤG3との間の動力伝達経路に設けられた回転部材である第3回転部材RM3を非回転部材に選択的に固定するように構成されている。そのため、本実施形態では、第2ブレーキB2における一対の摩擦係合要素の一方が第3回転部材RM3と一体的に回転するように連結され、第2ブレーキB2における一対の摩擦係合要素の他方が非回転部材NRに対して固定されている。なお、本実施形態では、第3回転部材RM3は、連動ギヤ51である。
【0108】
本実施形態では、第1回転部材RM1と第3回転部材RM3とが、互いに相対回転自在に支持されている。そして、第1クラッチC1における一対の摩擦係合要素の一方が第1回転部材RM1と一体的に回転するように連結され、第1クラッチC1における一対の摩擦係合要素の他方が第3回転部材RM3と一体的に回転するように連結されている。
【0109】
図12に示すように、本実施形態では、第1クラッチC1の第2押圧部材63が、第2ブレーキB2の第4押圧部材67に対して軸方向第2側L2から対向するように配置されている。第2押圧部材63は、第4押圧部材67に対して、スラスト軸受BRを介して相対回転自在に支持されている。そのため、本実施形態では、第2押圧部材63と第4押圧部材67とが、互いに相対回転可能な状態で、軸方向Lに連動して移動するように構成されている。
【0110】
また、本実施形態では、第1クラッチC1の第2押圧部材63は、第1クラッチC1の一対の摩擦係合要素を軸方向第1側L1から押圧するように配置されている。そして、第2ブレーキB2の第4押圧部材67は、第2ブレーキB2の一対の摩擦係合要素を軸方向第2側L2から押圧するように配置されている。
【0111】
また、本実施形態では、第1クラッチC1は、第2押圧部材63を駆動させる第2駆動機構64を備えておらず、第2ブレーキB2の第4駆動機構68が第4押圧部材67を介して第2押圧部材63を駆動させる。そのため、本実施形態では、第4駆動機構68により第4押圧部材67が軸方向第1側L1に移動されると、第2ブレーキB2が係合状態となると共に、第4押圧部材67に連動して第2押圧部材63が軸方向第1側L1に移動して、第1クラッチC1が解放状態となる。一方、第4駆動機構68により第4押圧部材67が軸方向第2側L2に移動されると、第2ブレーキB2が解放状態となると共に、第4押圧部材67に連動して第2押圧部材63が軸方向第2側L2に移動して、第1クラッチC1が係合状態となる。このように、本実施形態では、第1クラッチC1及び第2ブレーキB2の一方が係合状態となると、他方が解放状態となるように構成されている。
【0112】
また、本実施形態では、第1クラッチC1、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2は、第2軸心X2上に配置されている。そして、第1クラッチC1、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2は、軸方向Lに沿う軸方向視で、回転電機1と重複するように配置されている。なお、第1クラッチC1、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2の少なくとも1つが、第2軸心X2とは異なる軸心上に配置されていても良い。
【0113】
本実施形態では、第1クラッチC1が直結係合状態である場合、連動ギヤ51と第4ギヤG4とが一体的に連結される。そのため、第1クラッチC1が直結係合状態である場合、第1減速機3A及び第2減速機3Bは、上記第1の実施形態のもの(
図3参照)と同様に動作する。
【0114】
具体的には、第1クラッチC1が直結係合状態、かつ、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2の双方が解放状態である場合において、回転電機1の正転方向のトルクTmg(
図3参照)が第1サンギヤSG1及び第2サンギヤSG2に伝達され、それらのギヤが正転している状態では、反転機構5により第3ギヤG3と第4ギヤG4とが互いに反対向きに回転するのに伴い、第3ギヤG3に噛み合う第1ギヤG1と一体的に回転する第1リングギヤRG1と、第4ギヤG4に噛み合う第2ギヤG2と一体的に回転する第2リングギヤRG2とが、互いに反対向きに回転する。その結果、第1リングギヤRG1の反力により、第1サンギヤSG1に伝達された駆動力が増幅されて第1キャリヤCR1に伝達されると共に、第2リングギヤRG2の反力により、第2サンギヤSG2に伝達された駆動力が増幅されて第2キャリヤCR2に伝達される。このように、第1クラッチC1が直結係合状態、かつ、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2の双方が解放状態である場合、反力伝達機構4が、ロータ12の回転を第1減速機3Aと第2減速機3Bとに分配する差動歯車機構として機能する。
【0115】
上記の状態(第1クラッチC1が直結係合状態、かつ、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2の双方が解放状態で、第1サンギヤSG1及び第2サンギヤSG2が正転している状態)から、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2の少なくとも一方がスリップ係合状態となると、その係合力に応じて、第1リングギヤRG1及び第2リングギヤRG2のそれぞれに、回転方向とは反対向きのトルクTb(
図3参照)が作用する。その結果、第1キャリヤCR1及び第2キャリヤCR2と一体的に回転する第1出力部材2Aと第2出力部材2Bとの回転速度の差が少なくなる。このように、第1クラッチC1が直結係合状態、かつ、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2の少なくとも一方がスリップ係合状態である場合、反力伝達機構4がリミテッドスリップディファレンシャル(LSD)機構として機能する。
【0116】
そして、上記の状態(第1クラッチC1が直結係合状態、かつ、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2の少なくとも一方がスリップ係合状態で、第1サンギヤSG1及び第2サンギヤSG2が正転している状態)から、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2の少なくとも一方が直結係合状態となると、第1リングギヤRG1及び第2リングギヤRG2が非回転部材NRに対して固定され、回転不能な状態となる。その結果、第1キャリヤCR1及び第2キャリヤCR2と一体的に回転する第1出力部材2Aと第2出力部材2Bとの回転速度が同一となる。このように、第1クラッチC1が直結係合状態、かつ、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2の少なくとも一方が直結係合状態である場合、反力伝達機構4がデフロックとして機能する。
【0117】
また、本実施形態では、第1クラッチC1が解放状態である場合、連動ギヤ51と第4ギヤG4とは、互いに相対回転自在となる。そのため、第1クラッチC1が解放状態である場合、第1減速機3Aと第2減速機3Bとが、互いに独立して動作する。この状態で、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2のそれぞれの係合力を制御することで、第1出力部材2Aと第2出力部材2Bとに異なる大きさのトルクを伝達可能となる。このように、第1クラッチC1が解放状態、かつ、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2のそれぞれがスリップ係合状態である場合、反力伝達機構4がトルクベクタリング機構として機能する。
【0118】
また、本実施形態では、第1クラッチC1、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2の全てが解放状態である場合、第1減速機3A及び第2減速機3Bは、上記第2の実施形態における第1クラッチC1が解放状態である場合(
図6における破線参照)と同様に動作する。
【0119】
具体的には、第1クラッチC1、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2の全てが解放状態である場合、第3ギヤG3を介して連動ギヤ51に連結された第1ギヤG1と一体的に回転する第1リングギヤRG1と、第4ギヤG4に噛み合う第2ギヤG2と一体的に回転する第2リングギヤRG2との双方に反力が伝達されず、第1出力部材2Aと第2出力部材2Bとが自由に回転できる状態となる。つまり、第1減速機3A及び第2減速機3Bが動力伝達を行わないニュートラル状態となる。
【0120】
このように、本実施形態では、係合装置6は、
ギヤ間伝達経路Pを断接する第1クラッチC1と、
第1クラッチC1と第4ギヤG4との間の動力伝達経路に設けられた第1回転部材RM1を非回転部材NRに選択的に固定する摩擦係合式の第1ブレーキB1と、
第1クラッチC1と第3ギヤG3との間の動力伝達経路に設けられた第3回転部材RM3を非回転部材NRに選択的に固定する摩擦係合式の第2ブレーキB2と、を含む。
【0121】
この構成によれば、第1クラッチC1を係合状態として、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2の少なくとも一方の係合力を制御することで、第1出力部材2Aと第2出力部材2Bとの回転速度の差を制御することができる。したがって、反力伝達機構4にリミテッドスリップディファレンシャル(LSD)機構としての機能を持たせることができる。また、第1クラッチC1を係合状態とすると共に、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2の少なくとも一方を直結係合状態とすることで、第1出力部材2Aと第2出力部材2Bとの回転速度を同じにすることができる。したがって、反力伝達機構4にデフロック機能を持たせることもできる。
また、本構成によれば、第1クラッチC1を解放状態として、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2のそれぞれの係合力を制御することで、第1出力部材2Aの回転速度と第2出力部材2Bの回転速度とを独立して制御することができる。したがって、反力伝達機構4にトルクベクタリング機構としての機能を持たせることができる。
また、本構成によれば、第1クラッチC1、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2の全てを解放状態とすることにより、反力伝達機構4の第3ギヤG3と第4ギヤG4との間の動力伝達が遮断される。その結果、第1減速機3Aの第1反力要素33Aと第2減速機3Bの第2反力要素33Bとの双方に反力が伝達されず、第1出力部材2Aと第2出力部材2Bとが自由に回転できる状態となる。これにより、第1減速機3A及び第2減速機3Bが動力伝達を行わないニュートラル状態とすることができる。
【0122】
6.その他の実施形態
(1)上記の実施形態では、ロータ12が第1サンギヤSG1及び第2サンギヤSG2のそれぞれと一体的に回転するように連結された構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、ロータ12が、減速機等を介して、第1サンギヤSG1及び第2サンギヤSG2のそれぞれに連結された構成としても良い。
【0123】
(2)上記の実施形態では、第1減速機3Aは、第1入力要素31Aが第1サンギヤSG1であり、第1出力要素32Aが第1キャリヤCR1であり、第1反力要素33Aが第1リングギヤRG1である遊星歯車機構である構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、第1反力要素33Aが第1サンギヤSG1であっても良いし、第1キャリヤCR1であっても良い。また、上記第1及び第2の実施形態において、第1減速機3Aが、例えば、シングルピニオン型の遊星歯車機構であっても良いし、ダブルピニオン型の遊星歯車機構であっても良い。なお、第2減速機3Bについても、第1減速機3Aと同様に適宜構成を変更可能である。
【0124】
(3)上記の実施形態では、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2のそれぞれが摩擦係合式の係合装置である構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2の少なくとも1つが噛み合い式の係合装置であっても良い。
【0125】
(4)なお、上述した各実施形態で開示された構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示された構成と組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎない。したがって、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本開示に係る技術は、回転電機と、第1車輪に駆動連結される第1出力部材と、第2車輪に駆動連結される第2出力部材と、回転電機のロータの回転を減速して第1出力部材に伝達する第1減速機と、回転電機のロータの回転を減速して第2出力部材に伝達する第2減速機と、を備えた車両用駆動装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0127】
100:車両用駆動装置、1:回転電機、12:ロータ、2A:第1出力部材、2B:第2出力部材、3A:第1減速機、31A:第1入力要素、32A:第1出力要素、33A:第1反力要素、34A:第3反力要素、3B:第2減速機、31B:第2入力要素、32B:第2出力要素、33B:第2反力要素、34B:第4反力要素、4:反力伝達機構、4A:第1反力伝達機構、G3:第3ギヤ、G4:第4ギヤ、5:反転機構、5A:第1反転機構、51:連動ギヤ、51A:第1連動ギヤ、52:連結軸、52A:第1連結軸、6:係合装置、6A:第1係合装置、4B:第2反力伝達機構、G7:第7ギヤ、G8:第8ギヤ、5B:第2反転機構、6B:第2係合装置、B1:第1ブレーキ(ブレーキ)、C1:第1クラッチ(クラッチ)、C2:第2クラッチ(クラッチ)、NR:非回転部材、RM1:第1回転部材(回転部材)、P:ギヤ間伝達経路、P1:第1ギヤ間伝達経路、P2:第2ギヤ間伝達経路、W1:第1車輪、W2:第2車輪