(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117056
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】チェーン
(51)【国際特許分類】
F16G 13/06 20060101AFI20240821BHJP
【FI】
F16G13/06 B
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023184155
(22)【出願日】2023-10-26
(62)【分割の表示】P 2023022420の分割
【原出願日】2023-02-16
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-04-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】亀井 貴之
(72)【発明者】
【氏名】後藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】谷口 智治
(72)【発明者】
【氏名】村口 卓
(57)【要約】
【課題】超小型のチェーンを提供する。
【解決手段】チェーン11は、対向して配置される一対の内リンクプレート14と、一対の内リンクプレート14の間に位置して一対の内リンクプレート14同士を繋ぐ筒状のブシュ16と、ブシュ16に回転可能に挿入されるピン18と、一対の内リンクプレート14を外側から挟むように配置されて、ピン18の両端部に配置される一対の外リンクプレート15と、を備え、一対の外リンクプレート15の間に一対のピン18が位置する。隣接するピン18同士の軸心間の距離P1が、0.8mm以上3mm以下であり、内リンクプレート14、及び外リンクプレート15の少なくともいずれか一方は、冷間圧延加工されたものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向して配置される一対の内リンクプレートと、
一対の前記内リンクプレートの間に位置して一対の前記内リンクプレート同士を繋ぐ筒状のブシュと、
前記ブシュに回転可能に挿入されるピンと、
一対の前記内リンクプレートを外側から挟むように配置されて、前記ピンの両端部に配置される一対の外リンクプレートと、を備え、一対の前記外リンクプレートの間に一対の前記ピンが位置するチェーンであって、
隣接する前記ピン同士の軸心間の距離が、0.8mm以上3mm以下であり、
前記内リンクプレート、及び前記外リンクプレートの少なくともいずれか一方は、冷間圧延加工されたものであることを特徴とするチェーン。
【請求項2】
前記内リンクプレート、及び前記外リンクプレートの少なくともいずれか一方の厚さが、0.1mm以上0.4mm以下である請求項1に記載のチェーン。
【請求項3】
前記ピンの直径が、0.2mm以上1mm以下である請求項1に記載のチェーン。
【請求項4】
前記ブシュの厚さが、0.05mm以上0.2mm以下である請求項1に記載のチェーン。
【請求項5】
隣接する前記ピン同士の軸心間の距離に対する前記ブシュの厚さの比が、0.05以上0.2以下である請求項1に記載のチェーン。
【請求項6】
一対の前記外リンクプレートの離間距離が、0.9mm以上3mm以下である請求項1に記載のチェーン。
【請求項7】
さらに、前記ブシュに遊嵌されたローラを備える請求項1に記載のチェーン。
【請求項8】
前記ローラの厚さが、0.08mm以上0.3mm以下である請求項7に記載のチェーン。
【請求項9】
前記ブシュは、一対の前記内リンクプレートと別体で構成されている請求項1に記載のチェーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チェーンに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ピッチが12.7mmのローラチェーンについて記載している。外リンクプレートは、長さLa=22(-1.5~+0.5)、幅寸法Ma=9(-1.5~+0.5)、クビレ寸法Na=5(-1~+1)であることを記載している。また、内リンクプレートは、長さLb=23(-1.5~+0.5)、幅寸法Mb=10.5(-1.5~+0.5)、クビレ寸法Nb=6.5(-1.5~+0.5)であることを記載している。また、内リンクプレート、及び外リンクプレートは、厚さT=1.2(-0.1~+0.25)であることを記載している。ローラチェーンが上記の寸法を有することによって、軽くて伸びにくく、製造コストが安くなることを記載している。
【0003】
特許文献2は、ハンドル部と、ハンドル部に着脱可能に結合されたプローブ部を有する内視鏡につい記載している。プローブ部は、カメラ等を設置可能なプローブを備えている。ハンドル部を操作すると、ハンドル部に接続されたチェーンによって、プローブを上下移動や左右移動できることを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3232838号公報
【特許文献2】国際公開第2019/203593号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、チェーンをより小型の機器に用いることが試みられている。より小型の機器にも好適に用いることができる超小型のチェーンが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
態様1のチェーンは、対向して配置される一対の内リンクプレートと、一対の前記内リンクプレートの間に位置して一対の前記内リンクプレート同士を繋ぐ筒状のブシュと、前記ブシュに回転可能に挿入されるピンと、一対の前記内リンクプレートを外側から挟むように配置されて、前記ピンの両端部に配置される一対の外リンクプレートと、を備え、一対の前記外リンクプレートの間に一対の前記ピンが位置するチェーンであって、隣接する前記ピン同士の軸心間の距離が、0.8mm以上3mm以下であり、前記内リンクプレート、及び前記外リンクプレートの少なくともいずれか一方は、冷間圧延加工されたものであることを要旨とする。
【0007】
態様2は、態様1のチェーンにおいて、前記内リンクプレート、及び前記外リンクプレートの少なくともいずれか一方の厚さが、0.1mm以上0.4mm以下である。
態様3は、態様1又は2のチェーンにおいて、前記ピンの直径が、0.2mm以上1mm以下である。
【0008】
態様4は、態様1~3のいずれか一態様に記載のチェーンにおいて、前記ブシュの厚さが、0.05mm以上0.2mm以下である。
態様5は、態様1~4のいずれか一態様に記載のチェーンにおいて、隣接する前記ピン同士の軸心間の距離に対する前記ブシュの厚さの比が、0.05以上0.2以下である。
【0009】
態様6は、態様1~5のいずれか一態様に記載のチェーンにおいて、一対の前記外リンクプレートの離間距離が、0.9mm以上3mm以下である。
態様7は、態様1~6のいずれか一態様に記載のチェーンにおいて、さらに、前記ブシュに遊嵌されたローラを備える。
【0010】
態様8は、態様7に記載のチェーンにおいて、前記ローラの厚さが、0.08mm以上0.3mm以下である。
態様9は、態様1~8のいずれか一態様に記載のチェーンにおいて、前記ブシュは、一対の前記内リンクプレートと別体で構成されている。
【0011】
態様10は、態様1~9のいずれか一態様に記載のチェーンにおいて、前記ピンは、冷間引き抜き加工体である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、超小型のチェーンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態のチェーンの一部を概略的に示す分解斜視図である。
【
図2】本実施形態のチェーンの一部を概略的に示す断面図である。
【
図3】変更例のチェーンの一部を概略的に示す分解斜視図である。
【
図4】変更例のチェーンの一部を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のチェーンを具体化した実施形態について説明する。
図1、2に示すように、本実施形態のチェーン11は、チェーン11の長さ方向Xに配置される複数の内リンク12と複数の外リンク13を備える。複数の内リンク12と複数の外リンク13は、長さ方向Xに交互に位置するように配置されている。
【0015】
内リンク12は、チェーン11の長さ方向Xと直交する幅方向Yに間隔D1をおいて対向して配置される一対の内リンクプレート14を備える。また、内リンク12は、一対の内リンクプレート14の間に位置して一対の内リンクプレート14同士を繋ぐ筒状のブシュ16と、ブシュ16に回転可能に外挿される筒状のローラ17とを備える。
【0016】
外リンク13は、チェーン11の長さ方向Xと直交する幅方向Yに間隔D2をおいて対向して配置される一対の外リンクプレート15を備える。また、外リンク13は、ブシュ16に回転可能に挿入される棒状のピン18を備える。一対の外リンクプレート15は、一対の内リンクプレート14を外側から挟むように配置されて、ピン18の両端部に配置される。一対の外リンクプレート15の間に一対のピン18が位置しており、隣接するピン18同士の軸心間の距離P1は0.8mm以上3mm以下である。長さ方向Xに隣り合う外リンクプレート15において隣接するピン18同士の軸心間の距離P2も0.8mm以上3mm以下である。以下では、隣接するピン18同士の軸心間の距離P1、P2を、チェーン11のピッチともいう。一対の外リンクプレート15の間に位置する一対のピン18において隣接するピン18同士の軸心間の距離P1と、長さ方向Xに隣り合う外リンクプレート15において隣接するピン18同士の軸心間の距離P2は同じであることが好ましい。
【0017】
以下、チェーン11の詳細について説明する。
<内リンクプレート>
図1、2に示すように、内リンクプレート14は、板材で構成されている。内リンクプレート14の長手方向の両端部は、長手方向の両外側が凸となる半円形状となっている。内リンクプレート14の長手方向の中央部は、短手方向の両外側から中央部側に曲線的にくびれた形状となっている。
【0018】
内リンクプレート14は、長手方向の中央部を挟んだ長手方向の両外側に、貫通孔14aを1つずつ有している。言い換えれば、内リンクプレート14は、内リンクプレート14の長手方向に沿って並列した2つの貫通孔14aを有している。
【0019】
内リンクプレート14の厚さT1は、特に制限されないが、0.1mm以上0.4mm以下であることが好ましい。内リンクプレート14の厚さT1が上記数値範囲であることによって内リンクプレート14の機械的強度を保持しつつ、軽量化することができる。
【0020】
内リンクプレート14の板幅は、特に制限されないが、0.9mm以上2.8mm以下であることが好ましい。なお、内リンクプレート14の板幅は、内リンクプレート14の短手方向の長さであって、くびれた部分を除いて短手方向の長さが最も大きな箇所の寸法を意味するものとする。内リンクプレート14の板幅が上記数値範囲であることによって、チェーン11の長さ方向Xと幅方向Yの両方に直交する方向において、チェーン11の寸法を相対的に小さくすることができる。
【0021】
内リンクプレート14の貫通孔14aの内径は、後述するブシュ16の周壁の外径よりも若干小さく構成されている。
後述のように、ブシュ16の両端部が内リンクプレート14の貫通孔14aに圧入されることによって、一対の内リンクプレート14は、間隔D1をおいて互いに対向して配置された状態になる。
【0022】
一対の内リンクプレート14同士の間隔D1としては、特に制限されないが、1mm以上3mm以下であることが好ましい。
<外リンクプレート>
図1、2に示すように、外リンクプレート15は、板材で構成されている。外リンクプレート15の長手方向の両端部は、長手方向の両外側が凸となる半円形状となっている。外リンクプレート15の長手方向の中央部は、短手方向の両外側から中央部側に曲線的にくびれた形状となっている。
【0023】
外リンクプレート15は、長手方向の中央部を挟んだ長手方向の両外側に、ピン挿入孔15aを1つずつ有している。言い換えれば、外リンクプレート15は、外リンクプレート15の長手方向に沿って並列した2つのピン挿入孔15aを有している。
【0024】
2つのピン挿入孔15a同士の中心間の距離は、特に制限されないが、上記ピッチと同じであることが好ましい。
外リンクプレート15の厚さT2は、特に制限されないが、上記内リンクプレート14の厚さT1と同じであることが好ましい。
【0025】
外リンクプレート15の板幅は、特に制限されないが、上記内リンクプレート14の板幅と同じであることが好ましい。
ピン挿入孔15aの内径は、後述するピン18の直径T5よりも若干小さく構成されている。
【0026】
後述のように、ピン18の両端部が外リンクプレート15のピン挿入孔15aに圧入されることによって、一対の外リンクプレート15は、チェーン11の長さ方向Xと直交する幅方向Yに間隔D2をおいて互いに対向して配置された状態になる。なお、上記間隔D2は、一対の外リンクプレート15の離間距離ともいう。
【0027】
一対の外リンクプレート15同士の間隔D2としては、特に制限されないが、一対の内リンクプレート14の外側同士の離間距離D3よりも若干大きい。
一対の外リンクプレート15同士の間隔D2としては、例えば0.9mm以上3mm以下であることが好ましく、1.8mm以上3mm以下であることがより好ましい。
【0028】
上記一対の外リンクプレート15同士の間隔D2が、0.9mm以上であることによって、例えばスプロケット同士のアライメントのズレがあったとしても、そのズレを吸収しやすくなる。これにより、スプロケット同士のアライメントのズレに起因するチェーン11の摩耗を抑制することができる。また、一対の外リンクプレート15同士の間隔D2が、3mm以下であることによって、チェーン11の幅方向Yの寸法がより小さくなる。
【0029】
<ブシュ>
図1、2に示すように、ブシュ16は筒状に構成されている。具体的には、ブシュ16は、径方向に沿う断面において、円筒状の周壁を有している。
【0030】
ブシュ16は、一対の内リンクプレート14とは別体で構成されており、軸方向の両端部が、それぞれ内リンクプレート14の貫通孔14aに圧入されている。
ブシュ16の厚さ、すなわち、ブシュ16の周壁の厚さT3は、特に制限されないが、0.05mm以上0.2mm以下であることが好ましい。ブシュ16の周壁の厚さT3が上記数値範囲であることによって、ブシュ16の機械的強度を保持しつつ、軽量化することができる。
【0031】
また、チェーン11のピッチに対するブシュ16の周壁の厚さT3の比は、特に制限されないが、0.05以上0.2以下であることが好ましい。チェーン11のピッチに対するブシュ16の周壁の厚さT3の比が0.05以上であることによって、ブシュ16の寸法精度を向上させることが容易になる。また、チェーン11のピッチに対するブシュ16の周壁の厚さの比が0.2以下であることによって、チェーン11を軽量化することができる。
【0032】
ブシュ16の外径、すなわち、ブシュ16の周壁の外径は、特に制限されないが、0.4mm以上1.3mm以下であることが好ましい。
ブシュ16の内径、すなわち、ブシュ16の周壁の内径は、特に制限されないが、0.3mm以上1.0mm以下であることが好ましい。
【0033】
<ローラ>
図1、2に示すように、ローラ17は筒状に構成されている。具体的には、ローラ17は、径方向に沿う断面において、円筒状の周壁を有している。
【0034】
ローラ17は、ブシュ16に回転可能に外挿される。すなわち、ローラ17の周壁の内径は、ブシュ16の周壁の外径よりも大きく構成されており、ブシュ16に対してローラ17は遊嵌されている。
【0035】
ローラ17の厚さ、すなわち、ローラ17の周壁の厚さT4は、特に制限されないが、0.08mm以上0.3mm以下であることが好ましい。
ローラ17の周壁の厚さT4が上記数値範囲であることによって、ローラ17の機械的強度を保持しつつ、軽量化することができる。
【0036】
ローラ17の外径、すなわち、ローラ17の周壁の外径は、特に制限されないが、0.5mm以上1.8mm以下であることが好ましい。
ローラ17の内径、すなわち、ローラ17の周壁の内径は、特に制限されないが、0.4mm以上1.4mm以下であることが好ましい。
【0037】
ローラ17の長さ、すなわち、ローラ17の周壁における軸方向の長さは、上記一対の内リンクプレート14同士の間隔D1よりも若干小さい。
<ピン>
図1、2に示すように、ピン18は棒状に構成されている。具体的には、ピン18は、径方向に沿う断面において、外形が円形状の円柱状になっている。なお、
図2、4では、ピン18を側面視で示している。
【0038】
ピン18は、軸方向の両端部が、それぞれ外リンクプレート15のピン挿入孔15aに挿入されて、ピン挿入孔15aに圧入された状態になっている。また、ピン18は、軸方向の両端部における先端部分が、一対の外リンクプレート15のピン挿入孔15aを貫通して、チェーン11の幅方向Yの外側に突出している。
【0039】
ピン18は、ブシュ16に回転可能に挿入される。すなわち、ピン18の直径T5は、内リンクプレート14の貫通孔14aの内径、及びブシュ16の周壁の内径よりも小さく構成されている。ピン18は、ブシュ16の内部において回転可能に構成されている。
【0040】
ピン18の直径T5は、特に制限されないが、0.2mm以上1mm以下であることが好ましい。ピン18の直径が上記数値範囲であることによって、ピン18の機械的強度を保持しつつ、軽量化することができる。
【0041】
隣接するピン18同士の軸心間の距離P1、P2の上限、すなわち、ピッチの上限は、2.9mmであることが好ましく、2.6mmであることがより好ましく、2.3mmであることがさらに好ましく、2.0mmであることが最も好ましい。ピッチの上限が上記数値範囲であることによって、より小型のチェーン11を提供することができる。なお、ピッチが3mm以下のチェーン11を、超小型のチェーン11というものとする。
【0042】
ピッチの下限は、特に制限されないが、例えば0.8mmであることが好ましく、0.9mmであることがより好ましい。ピッチの下限が上記数値範囲であることによって、チェーン11を製造しやすくなるため、生産効率を向上させることができる。
【0043】
ピン18は、金属製の線材を冷間引き抜き加工することによって形成された冷間引き抜き加工体であることが好ましい。ピン18が冷間引き抜き加工体であることによって、ピン18の寸法精度を向上させることが容易になる。
【0044】
以下、チェーン11を構成する各構成部材の材質について説明する。
<チェーンの各構成部材の材質>
チェーン11の構成部材である内リンクプレート14、外リンクプレート15、ブシュ16、ローラ17、及びピン18の材質は、特に制限されず、チェーン11の材質として公知の材質を適宜採用することができる。
【0045】
公知の材質としては、例えば金属、樹脂等が挙げられる。これらの中でも、金属製であると機械的強度を向上させることができるため好ましい。
金属製としては、焼き入れ等の熱処理によって硬度を向上させたものではなく、冷間加工によって硬度を向上させた加工硬化材であることが好ましい。冷間加工によって硬度を向上させた加工硬化材を用いることによって、焼き入れ等の熱処理による寸法変化を抑制することができる。そのため、焼き入れ等の熱処理を行う態様に比べて、チェーン11の各構成部材の寸法精度を向上させることができる。
【0046】
なお、加工硬化材は、冷間加工により応力を加えて塑性変形させた際に硬くなる性質を有する金属材料を意味するものとする。また、冷間加工は、常温、もしくは金属材料の再結晶温度未満の温度において、金属材料に塑性変形を加える加工を意味するものとする。
【0047】
冷間加工の具体例としては、例えば冷間圧延加工、冷間引き抜き加工、冷間押し出し加工、冷間プレス加工、冷間鍛造加工等が挙げられる。
加工硬化材における加工硬化の程度は、加工硬化指数と呼ばれる0以上1以下の数値で示される。加工硬化指数が1に近い方が、加工硬化の程度が大きい、すなわち、冷間加工を行った際に硬くなりやすいことを意味する。本実施形態のチェーン11では、加工硬化指数が0.3以上である加工硬化材を用いることが好ましい。
【0048】
加工硬化材の具体例としては特に制限されず、例えばステンレス鋼を挙げることができる。ステンレス鋼は、バネ用ステンレス鋼であることが好ましい。加工硬化材がステンレス鋼であると、耐食性を向上させることができる。また、ステンレス鋼は、冷間加工で硬度を向上させることによって、芯部硬さをビッカース硬さで310Hv以上にすることができる。ステンレス鋼のビッカース硬さは、370Hv以上にすることが好ましい。
【0049】
また、ステンレス鋼の種類としては特に制限されず、例えば加工硬化指数が0.15以上であるマルテンサイト系ステンレス鋼や、加工硬化指数が0.35以上であるオーステナイト系ステンレス鋼を用いることができる。オーステナイト系ステンレス鋼の方が、より高い硬度を確保することができるため好ましい。
【0050】
オーステナイト系ステンレス鋼の具体例としては、例えばSUS301、SUS302、SUS304等が挙げられる。
オーステナイト系ステンレス鋼を用いて板状や筒状の部材、例えば内リンクプレート14、外リンクプレート15、ブシュ16、又はローラ17を作製する際は、バネ用ステンレス鋼帯を用いることが好ましい。バネ用ステンレス鋼帯の具体例としては、例えばSUS301-CSP、SUS304-CSP等が挙げられる。
【0051】
オーステナイト系ステンレス鋼を用いて棒状の部材、例えばピン18を作製する際は、バネ用ステンレス鋼線を用いることが好ましい。バネ用ステンレス鋼線の具体例としては、例えばSUS302-WPB、SUS304-WPB、SUS301N1-WPB等が挙げられる。
【0052】
チェーン11の各構成部材は、上記の加工硬化材のうち、一種類の加工硬化材のみを用いて作製されていてもよい。すなわち、各構成部材が、同じ種類の加工硬化材で作製されていてもよい。また、チェーン11の各構成部材は、各構成部材のうち、少なくとも一つの構成部材が、他の構成部材とは異なる種類の加工硬化材を用いて作製されていてもよい。
【0053】
以下、チェーン11の製造方法について説明する。
<チェーンの製造方法>
チェーン11の製造方法は、加工硬化材を硬化する硬化工程と、硬化工程で得られた加工硬化材を用いて各構成部材を成形する成形工程と、成形工程で得られた各構成部材を組み付ける組付工程とを有する。以下、各工程について説明する。
【0054】
(硬化工程)
硬化工程では、加工硬化材に冷間加工を行って、加工硬化材を硬化させる。板状や筒状の部材、例えば内リンクプレート14、外リンクプレート15、ブシュ16、又はローラ17を作製する際は、SUS301-CSP等のバネ用ステンレス鋼帯に冷間圧延加工を行って、芯部のビッカース硬さを310Hv以上にする。
【0055】
棒状の部材、例えばピン18を作製する際は、SUS302-WPB等のバネ用ステンレス鋼線に冷間引き抜き加工を行って、芯部のビッカース硬さを310Hv以上にする。なお、ピン18を作製する際に行う冷間引き抜き加工は、後述のピン18の成形工程の一部を兼ねていてもよい。ピン18の冷間引き抜き加工が、ピン18の成形工程の一部を兼ねている場合、ピン18の製造工程を簡略化することができる。冷間引き抜き加工等の冷間加工は、機械加工と比較して寸法精度を向上させやすい。
【0056】
(成形工程)
成形工程では、硬化工程で得られた加工硬化材を用いて各構成部材を成形する。
内リンクプレート14や外リンクプレート15を成形する際は、例えば上記硬化工程において冷間圧延加工された加工硬化材を所定の形状に打ち抜き成形する。内リンクプレート14の貫通孔14aや、外リンクプレート15のピン挿入孔15aも、打ち抜き成形によって設けることができる。
【0057】
また、ブシュ16やローラ17を成形する際は、例えば上記硬化工程において冷間圧延加工された加工硬化材を所定の形状に打ち抜き成形した後、筒状となるように湾曲させる。言い換えれば、筒状となるようにカールさせる。さらに、カールさせた後、加工硬化材の端部同士を接合する。ここで、加工硬化材の端部同士を接合するとは、加工硬化材の端部同士を当接した状態にすることを意味するものとする。
【0058】
ピン18を成形する際は、上記硬化工程において冷間引き抜き加工された加工硬化材を所定の長さに切断する。
(組付工程)
組付工程では、成形工程で得られた各構成部材を組み付けてチェーン11を作製する。
【0059】
図1、2に示すように、まず、複数の内リンクプレート14を用意して、各内リンクプレート14が有する2つの貫通孔14aにブシュ16を圧入する。ブシュ16は、軸方向の一端側の端部が貫通孔14aに圧入された状態で内リンクプレート14に取り付けられる。
【0060】
次に、各内リンクプレート14に取り付けられたブシュ16に対して、ブシュ16の他端側からローラ17を外挿する。さらに、ローラ17を外挿したブシュ16に対して、ブシュ16の他端側から、別の内リンクプレート14を取り付ける。具体的には、別の内リンクプレート14が有する2つの貫通孔14aに、ローラ17を外挿したブシュ16の他端側の端部を圧入する。
【0061】
以上の手順によって内リンク12を作製することができる。ブシュ16の一端側の端部と他端側の端部が、一対の内リンクプレート14の貫通孔14aに圧入された状態になるため、一対の内リンクプレート14に形成された貫通孔14a同士がブシュ16で繋がった状態になる。同様の手順を繰り返すことによって、複数の内リンク12を作製する。
【0062】
次に、複数の外リンクプレート15を用意して、各外リンクプレート15が有する2つのピン挿入孔15aに、ピン18を圧入する。ピン18は、軸方向の一端側の端部における先端部分がピン挿入孔15aから突出した状態で外リンクプレート15に取り付けられる。
【0063】
次に、上記で作製した2つの内リンク12を用意する。2つの内リンク12のうち一方の内リンク12に対して、この内リンク12が有するブシュ16に、外リンクプレート15に取り付けられた2つのピン18のうち一方のピン18を挿入する。
【0064】
また、2つの内リンク12のうち他方の内リンク12に対して、この内リンク12が有するブシュ16に、上記の外リンクプレート15に取り付けられた2つのピン18のうち他方のピン18を挿入する。さらに、2つの内リンク12のブシュ16に挿入した2つのピン18に、別の外リンクプレート15を取り付ける。具体的には、別の外リンクプレート15が有する2つのピン挿入孔15aに、2つの内リンク12のブシュ16に挿入された2つのピン18の他端側の端部を圧入する。
【0065】
以上の手順によって、一対の外リンクプレート15がそれぞれ有する2つのピン挿入孔15aにピン18が接合された状態になる。これによって、外リンク13を作製することができる。また、2つの内リンク12が、1つの外リンク13で接続された状態になる。
【0066】
上記の手順を繰り返し行い、複数の内リンク12と複数の外リンク13が、長さ方向Xに交互に位置するように内リンク12と外リンク13を接続する。さらに、長さ方向Xに交互に位置する内リンク12と外リンク13の両端同士を接続して、全体を環状にする。
【0067】
以上の手順によってチェーン11を作製することができる。チェーン11の各構成部材を組み付ける順番は、適宜順番を入れ替えて行うことができる。
<チェーンの用途>
チェーン11の用途としては、特に制限されないが、より小型の機器に用いることができる。より小型の機器としては、例えば医療用機器、産業用ロボット等が挙げられる。医療用機器の具体例としては、例えば医療用内視鏡が挙げられる。医療用内視鏡におけるプローブ部に配置されて、ビデオスコープやカメラを設置したプローブの動きを操作するために使用することができる。産業用ロボットの具体例としては、例えば原子力発電所の格納容器内の点検用ロボットが挙げられる。
【0068】
<作用及び効果>
本実施形態のチェーン11の作用及び効果について説明する。
(1)チェーン11は、対向して配置される一対の内リンクプレート14と、一対の内リンクプレート14の間に位置して一対の内リンクプレート14同士を繋ぐ筒状のブシュ16を備える。また、チェーン11は、ブシュ16に回転可能に挿入されるピン18を備える。また、チェーン11は、一対の内リンクプレート14を外側から挟むように配置されて、ピン18の両端部に配置される一対の外リンクプレート15を備える。チェーン11のピッチが、0.8mm以上3mm以下であり、内リンクプレート14、及び外リンクプレート15の少なくともいずれか一方は、冷間圧延加工されたものである。
【0069】
ピッチの上限が3mm以下であることによって、超小型のチェーン11を提供することができる。このチェーン11は、より小型の機器に好適に用いることができる。また、ピッチの下限が0.8mm以上であることによって、チェーン11を製造しやすくなるため、チェーン11の生産効率を向上させることができる。また、内リンクプレート14、及び外リンクプレート15の少なくともいずれか一方が、冷間圧延加工されたものであることによって、寸法精度を向上させやすくなる。
【0070】
(2)内リンクプレート14、及び外リンクプレート15の少なくともいずれか一方の厚さT1、T2が、0.1mm以上0.4mm以下である。したがって、内リンクプレート14や外リンクプレート15の機械的強度を保持しつつ、軽量化することができる。
【0071】
(3)ピン18の直径T5が、0.2mm以上1mm以下である。したがって、ピン18の機械的強度を保持しつつ、軽量化することができる。
(4)ブシュ16の周壁の厚さT3が、0.05mm以上0.2mm以下である。したがって、ブシュ16の機械的強度を保持しつつ、軽量化することができる。
【0072】
(5)チェーン11のピッチに対するブシュ16の周壁の厚さT3の比が、0.05以上0.2以下である。チェーン11のピッチに対するブシュ16の周壁の厚さT3の比が0.05以上であることによって、ブシュ16の寸法精度を向上させることが容易になる。また、チェーン11のピッチに対するブシュ16の周壁の厚さT3の比が0.2以下であることによって、チェーン11を軽量化することができる。
【0073】
(6)一対の外リンクプレート15の離間距離、すなわち一対の外リンクプレート15同士の間隔D2が、0.9mm以上3mm以下である。一対の外リンクプレート15同士の間隔D2が、0.9mm以上であることによって、スプロケット同士のアライメントのズレに起因するチェーン11の摩耗を抑制することができる。また、一対の外リンクプレート15同士の間隔D2が、3mm以下であることによって、チェーン11の幅方向Yの寸法がより小さくなる。
【0074】
(7)ローラ17の周壁の厚さT4が、0.08mm以上0.3mm以下である。したがって、ローラ17の機械的強度を保持しつつ、軽量化することができる。
(8)ブシュ16は、一対の内リンクプレート14と別体で構成されている。ブシュ16と内リンクプレート14とを別々に作製することができるため、ブシュ16と内リンクプレート14の個々の寸法精度を向上させることが容易になる。
【0075】
(9)ピン18は、冷間引き抜き加工体である。したがって、ピン18の寸法精度を向上させることが容易になる。
<変更例>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0076】
・本実施形態において、チェーン11はローラ17を有していたが、ローラ17は省略されていてもよい。
図3、4に示すように、例えばチェーン11はローラ17が省略されており、チェーン11の内リンク12が、一対の内リンクプレート14と、一対の内リンクプレート14の間に位置するブシュ16とによって構成されていてもよい。
【0077】
・本実施形態において、一対の内リンクプレート14とブシュ16は別体で構成されていたが、この態様に限定されない。一対の内リンクプレート14の少なくとも一方とブシュ16とが、一体に構成されていてもよい。すなわち、一対の内リンクプレート14の少なくとも一方とブシュ16とが、一体成形されていてもよい。一対の内リンクプレート14の少なくとも一方とブシュ16とが一体成形された状態で、ブシュ16が一対の内リンクプレート14の間に位置して一対の内リンクプレート14同士を繋いでいてもよい。
【0078】
・本実施形態において、チェーン11の製造方法は、硬化工程、成形工程、及び組付工程を有していたが、この態様に限定されない。例えば、チェーン11を、過度に硬さが要求されない用途に用いる場合、硬化工程は省略されていてもよい。また、例えば、あらかじめ硬化された市販の部材を用意して、この部材に対して、成形工程と組付工程を行なってもよい。すなわち、硬化工程をすでに行った部材に対して、別途、成形工程と組付工程を行なってもよい。
【0079】
・本実施形態において、ブシュ16は、内リンクプレート14の貫通孔14aに圧入された状態で取り付けられていたが、この態様に限定されない。ブシュ16は、内リンクプレート14の貫通孔14aに溶接されて取り付けられていてもよいし、接着材を用いて取り付けられていてもよい。ピン18も同様の方法で外リンクプレート15のピン挿入孔15aに取り付けられていてもよい。
【0080】
・一対の外リンクプレート15の間に位置する一対のピン18において隣接するピン18同士の軸心間の距離P1と、長さ方向Xに隣り合う外リンクプレート15において隣接するピン18同士の軸心間の距離P2は同じである態様に限定されない。軸心間の距離P1と軸心間の距離P2は、異なっていてもよい。
【符号の説明】
【0081】
11…チェーン
12…内リンク
13…外リンク
14…内リンクプレート
14a…貫通孔
15…外リンクプレート
15a…ピン挿入孔
16…ブシュ
17…ローラ
18…ピン
D1,D2…間隔
D3…離間距離
P1,P2…軸心間の距離
T1,T2,T3,T4…厚さ
T5…直径