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特開2024-117085流体分離用挿入物を備えた電解槽スタックエンドプレートアセンブリ
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  • 特開-流体分離用挿入物を備えた電解槽スタックエンドプレートアセンブリ 図1
  • 特開-流体分離用挿入物を備えた電解槽スタックエンドプレートアセンブリ 図2
  • 特開-流体分離用挿入物を備えた電解槽スタックエンドプレートアセンブリ 図3A
  • 特開-流体分離用挿入物を備えた電解槽スタックエンドプレートアセンブリ 図3B
  • 特開-流体分離用挿入物を備えた電解槽スタックエンドプレートアセンブリ 図3C
  • 特開-流体分離用挿入物を備えた電解槽スタックエンドプレートアセンブリ 図4
  • 特開-流体分離用挿入物を備えた電解槽スタックエンドプレートアセンブリ 図5
  • 特開-流体分離用挿入物を備えた電解槽スタックエンドプレートアセンブリ 図6A
  • 特開-流体分離用挿入物を備えた電解槽スタックエンドプレートアセンブリ 図6B
  • 特開-流体分離用挿入物を備えた電解槽スタックエンドプレートアセンブリ 図6C
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117085
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】流体分離用挿入物を備えた電解槽スタックエンドプレートアセンブリ
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/60 20210101AFI20240821BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240821BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240821BHJP
   C25B 9/015 20210101ALI20240821BHJP
【FI】
C25B9/60
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/015
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024021813
(22)【出願日】2024-02-16
(31)【優先権主張番号】18/170,006
(32)【優先日】2023-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】500461125
【氏名又は名称】プラグ パワー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194973
【弁理士】
【氏名又は名称】尾崎 祐朗
(72)【発明者】
【氏名】マシュー スイートランド
(72)【発明者】
【氏名】コートニー ミッテルステット
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021BC01
4K021BC04
4K021CA09
4K021CA11
4K021DB06
4K021DB49
4K021DC03
4K021EA05
4K021EA06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】電解槽システム及びエンドプレートアセンブリを提供する。
【解決手段】電解槽システムは、電解槽セル101のスタック、集電体、エンドプレートアセンブリ110、及びエンドプレートアセンブリと集電体との間に配置された分離プレートを備えている。エンドプレートアセンブリは、少なくとも1つの流体チャネル122、132を備え、該流体チャネルは、集電体及び分離プレートを通る少なくとも1つの流体チャネルと連通している。エンドプレートアセンブリは、エンドプレート120と、そのポケット内に収まっている流体分離用挿入物130とを備える。流体分離用挿入物は、エンドプレートアセンブリの流体チャネルを少なくとも部分的に画成する少なくとも1つの電気的に絶縁性の流体チャネルを備え、エンドプレートアセンブリにおいて流体分離用挿入物は、集電体とエンドプレートとの間の流体導通路の実効長を長くする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1個の電解槽セルのスタック
を具備する電解槽システムであって、該スタックはさらに:
少なくとも1個の電解槽セルの集電体と;
エンドプレートアセンブリと;
集電体をエンドプレートアセンブリから電気的に分離するためにエンドプレートアセンブリと集電体との間に配置されている分離プレートと;
を備え、かつ
エンドプレートアセンブリは、流体がエンドプレートアセンブリを通過するのを可能にする少なくとも1つの流体チャネルを備え、該少なくとも1つの流体チャネルは、集電体及び分離プレートを通る少なくとも1つの流体チャネルと流体連通しており、かつエンドプレートアセンブリは:
エンドプレートと;
エンドプレートのポケット内に少なくとも部分的に収まっている流体分離用挿入物であって、エンドプレートアセンブリの少なくとも1つの流体チャネルを少なくとも部分的に画成する少なくとも1つの電気的に絶縁性の流体チャネルを備えており、エンドプレートアセンブリの少なくとも1つの流体チャネルを通る集電体とエンドプレートとの間の流体導通路の実効長を長くしている、流体分離用挿入物と
を具備する、電解槽システム。
【請求項2】
エンドプレートのポケットは、分離プレートに最も近いエンドプレート表面からエンドプレートの中へ伸びる、請求項1に記載の電解槽システム。
【請求項3】
スタック内の分離プレート及び流体分離用挿入物の境界面において分離プレート又は流体分離用挿入物のうち一方の溝の内部に部分的に配置されたシールをさらに具備する、請求項2に記載の電解槽システム。
【請求項4】
ポケット内で流体分離用挿入物とエンドプレートとの間に隙間が存在し、流体が流体分離用挿入物とエンドプレートとの間の隙間を満たすことによりシールの両側の圧力等化が容易になる、請求項3に記載の電解槽システム。
【請求項5】
エンドプレートアセンブリの流体分離用挿入物とエンドプレートとの間に配置された圧力封入シールをさらに具備する、請求項3に記載の電解槽システム。
【請求項6】
ポケット内部で流体分離用挿入物とエンドプレートとの間に配置された導電性挿入物をさらに具備し、該導電性挿入物はエンドプレートアセンブリの少なくとも1つの流体チャネルを部分的に画成する、請求項3に記載の電解槽システム。
【請求項7】
導電性挿入物は、エンドプレートアセンブリの少なくとも1つの流体チャネル内の導電性挿入物の場所で局所的な電気分解反応を引き起こす白金材料を具備する、請求項6に記載の電解槽システム。
【請求項8】
ポケット内で流体分離用挿入物とエンドプレートとの間に隙間が存在し、流体が流体分離用挿入物とエンドプレートとの間の隙間を満たすことによりシールの両側の圧力等化が容易になる、請求項6に記載の電解槽システム。
【請求項9】
エンドプレートアセンブリの流体分離用挿入物とエンドプレートとの間に配置された圧力封入シールをさらに具備する、請求項6に記載の電解槽システム。
【請求項10】
エンドプレートアセンブリは、複数の流体チャネル及びマニホールドを備えて流体がエンドプレートアセンブリのマニホールドを介してエンドプレートアセンブリを通過することを可能としており、エンドプレートアセンブリの複数の流体チャネルは集電体及び分離プレートを通る複数の流体チャネルと流体連通しており、かつ、流体分離用挿入物は、エンドプレートアセンブリの複数の流体チャネルを少なくとも部分的に画成する複数の電気的に絶縁性の流体チャネルを備え、流体分離用挿入物はエンドプレートアセンブリの複数の流体チャネルを通る集電体とエンドプレートとの間の流体導通路の実効長を長くしている、請求項2に記載の電解槽システム。
【請求項11】
エンドプレートは電解槽スタックへの締め付け力の提供を容易にし、かつ流体分離用挿入物は電解槽スタック内の圧力封入の制限を満たす、請求項2に記載の電解槽システム。
【請求項12】
電解槽スタックためのエンドプレートアセンブリであって、
電解槽スタックへの締め付け力の提供を容易にするエンドプレートと;
エンドプレートのポケット内に少なくとも部分的に収まっている流体分離用挿入物であって、エンドプレートアセンブリの少なくとも1つの流体チャネルを少なくとも部分的に画成する少なくとも1つの電気的に絶縁性の流体チャネルを備えており、エンドプレートアセンブリ内の流体導通路の実効長を長くしている、流体分離用挿入物と
を具備するエンドプレートアセンブリ。
【請求項13】
エンドプレートのポケットは、電解槽スタックの分離プレートと接合するエンドプレート表面からエンドプレートの中へ伸び、かつエンドプレートアセンブリは、エンドプレートアセンブリと電解槽スタックの分離プレートとの間に配置されたシールをさらに具備する、請求項12に記載のエンドプレートアセンブリ。
【請求項14】
ポケット内で流体分離用挿入物とエンドプレートとの間に隙間が存在し、流体が流体分離用挿入物とエンドプレートとの間の隙間を満たすことによりシールの両側の圧力等化が容易になる、請求項13に記載のエンドプレートアセンブリ。
【請求項15】
エンドプレートアセンブリの流体分離用挿入物とエンドプレートとの間に配置された圧力封入シールをさらに具備する、請求項13に記載のエンドプレートアセンブリ。
【請求項16】
ポケット内部で流体分離用挿入物とエンドプレートとの間に配置された導電性挿入物をさらに具備し、該導電性挿入物はエンドプレートアセンブリの少なくとも1つの流体チャネルを部分的に画成する、請求項13に記載のエンドプレートアセンブリ。
【請求項17】
電解槽スタックためのエンドプレートアセンブリであって:
電解槽スタックへの締め付け力の提供を容易にするエンドプレートと;
エンドプレートのポケット内に少なくとも部分的に収まっているアノード流体分離用挿入物であって、エンドプレートアセンブリの少なくとも1つのアノード流体チャネルを少なくとも部分的に画成する少なくとも1つの電気的に絶縁性のアノード流体チャネルを備えており、エンドプレートアセンブリ内のアノード流体導通路の実効長を長くしている、アノード流体分離用挿入物と;
エンドプレートの別のポケット内に少なくとも部分的に収まっているカソード流体分離用挿入物であって、エンドプレートアセンブリの少なくとも1つのカソード流体チャネルを少なくとも部分的に画成する少なくとも1つの電気的に絶縁性のカソード流体チャネルを備えており、エンドプレートアセンブリ内のカソード流体導通路の実効長を長くしている、カソード流体分離用挿入物と
を具備するエンドプレートアセンブリ。
【請求項18】
エンドプレートのポケット及び別のポケットは、電解槽スタックの分離プレートと接合するエンドプレート表面からエンドプレートの中へ伸び、かつ、エンドプレートアセンブリは、アノード流体分離用挿入物と関連付けられてエンドプレートアセンブリと電解槽スタックの分離プレートとの境界面に配置されたアノードシール、及びカソード流体分離用挿入物と関連付けられてエンドプレートアセンブリと電解槽スタックの分離プレートとの境界面に配置されたカソードシールをさらに具備する、請求項17に記載のエンドプレートアセンブリ。
【請求項19】
アノード流体分離用挿入物とエンドプレートとの間のポケットに隙間が存在し、アノード流体がアノード流体分離用挿入物とエンドプレートとの間の隙間を満たすことによりアノードシールの両側の圧力等化が容易になる;及び
カソード流体分離用挿入物とエンドプレートとの間の別のポケットに隙間が存在し、カソード流体がカソード流体分離用挿入物とエンドプレートとの間の隙間を満たすことによりカソードシールの両側の圧力等化が容易になる;
のうち少なくとも1つである、請求項18に記載のエンドプレートアセンブリ。
【請求項20】
エンドプレートアセンブリのアノード流体分離用挿入物とエンドプレートとの間に配置されたアノード圧力封入シール;及び
エンドプレートアセンブリのカソード流体分離用挿入物とエンドプレートとの間に配置されたカソード圧力封入シール
のうち少なくとも1つをさらに具備する、請求項18に記載のエンドプレートアセンブリ。
【請求項21】
ポケットの内部のアノード流体分離用挿入物とエンドプレートとの間に配置されたアノード導電性挿入物であって、エンドプレートアセンブリの少なくとも1つのアノード流体チャネルを部分的に画成するアノード導電性挿入物;及び
別のポケットの内部のカソード流体分離用挿入物とエンドプレートとの間に配置されたカソード導電性挿入物であって、エンドプレートアセンブリの少なくとも1つのカソード流体チャネルを部分的に画成するカソード導電性挿入物
のうち少なくとも1つをさらに具備する、請求項18に記載のエンドプレートアセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[背景]
本発明は、概して電解槽システムに関し、より具体的には電解槽システムの1又は複数の電解槽スタックのための新規なエンドプレートアセンブリに関する。
再生可能エネルギーソリューションの推進により、水電解又は電解槽の技術に対して多大な投資が行われてきた。電解槽市場は今後数十年間に300GWまで増大することもあり得ると推定され、パワーツーガスは、現地電解槽システムにとって数十億ドル規模の市場となる態勢にある。電解槽は、水を水素及び酸素へと分解するために直流電気を使用する。1例として、プロトン電子膜(PEM)の電解セルは、水を電気化学的に分解するために直流電気を使用する、水素及び酸素ガスを生産するデバイスである。PEMセルは、触媒の存在により反応が起きることが可能となる活性部位を含有する。電解セルでは、水がアノードに入り、プロトン、電子、及び酸素ガスへと分解される。プロトンは膜を通して運ばれる一方、電子は電気回路を通る。カソードでは、プロトンと電子とが再結合して水素ガスを形成する。
【0002】
多くの場合、生産必要高を満たすために多数の電解セルが組み立てられる。1つの一般的な種類のアセンブリは、バイポーラの構成などで、直列に電気接続された複数の積み重ね電解セルを備えたスタックである。
【0003】
[概要]
例えば水から水素を生成するための、少なくとも1つの電解槽セルのスタックを備えた電解槽システムの提供により、先行技術のある一定の欠点は克服され、かつさらなる利点が本明細書中に提供される。該スタックは、少なくとも1つの電解槽セルの集電体、エンドプレートアセンブリ、及び分離プレートを備えている。分離プレートは、エンドプレートアセンブリから集電体を電気的に分離するために、エンドプレートアセンブリと集電体との間に配置される。エンドプレートアセンブリは、流体がエンドプレートアセンブリを通過することを可能にする少なくとも1つの流体チャネルを備え、エンドプレートアセンブリにおいて少なくとも1つの流体チャネルは、集電体及び分離プレートを通る少なくとも1つの流体チャネルと流体連通している。エンドプレートアセンブリは、エンドプレートと、該エンドプレートのポケット内に少なくとも部分的に収まっている流体分離用挿入物とを備えている。流体分離用挿入物は、エンドプレートアセンブリの少なくとも1つの流体チャネルを少なくとも部分的に画成する少なくとも1つの電気的に絶縁性の流体チャネルを備え、エンドプレートアセンブリにおいて流体分離用挿入物は、エンドプレートアセンブリの少なくとも1つの流体チャネルを通る集電体とエンドプレートとの間の流体導通路の実効長を長くする。
【0004】
1つの実施形態では、エンドプレートのポケットは、分離プレートに最も近いエンドプレート表面からエンドプレートの中へと伸びる。さらに、1以上の実装において、スタック内の分離プレートと流体分離用挿入物との境界面において、分離プレート又は流体分離用挿入物のうち一方の溝の内部に、部分的に、シールが配置される。
【0005】
1以上の実施形態では、ポケット内で流体分離用挿入物とエンドプレートとの間に隙間が存在し、かつ流体が流体分離用挿入物とエンドプレートとの間のこの隙間を埋めることにより、シールの両側の圧力等化が容易になる。
1以上の他の実施形態では、エンドプレートアセンブリの流体分離用挿入物とエンドプレートとの間に圧力封入シールが配置される。
【0006】
1以上のさらなる実施形態では、ポケット内の流体分離用挿入物とエンドプレートとの間に導電性挿入物が配置され、そこで導電性挿入物は、エンドプレートアセンブリの少なくとも1つの流体チャネルを部分的に画成する。1つの実装では、導電性挿入物は、エンドプレートアセンブリの少なくとも1つのチャネル内の導電性挿入物の場所に局所的電気分解反応を引き起こす白金材料を備えている。
【0007】
さらなる実施形態では、エンドプレートアセンブリは複数の流体チャネル及びマニホールドを備えて、流体がエンドプレートアセンブリのマニホールドを介してエンドプレートアセンブリを通り抜けることが可能となっている。エンドプレートアセンブリの複数の流体チャネルは、集電体及び分離プレートを通る複数の流体チャネルと流体連通している。流体分離用挿入物は、エンドプレートアセンブリの複数の流体チャネルを少なくとも部分的に画成する複数の電気的に絶縁性の流体チャネルを備えている。流体分離用挿入物は、エンドプレートアセンブリの複数の流体チャネルを通る、集電体とエンドプレートとの間の流体導通路の実効長を長くする。
【0008】
1つの実施形態では、エンドプレートは電解槽スタックへの締め付け力の提供を容易にし、かつ流体分離用挿入物は電解槽スタック内の圧力封入の制限を満たす。
【0009】
別の実施形態では、電解槽スタックのためのエンドプレートアセンブリが提供される。該エンドプレートアセンブリは、電解槽スタックへの締め付け力の提供を容易にするエンドプレートと、該エンドプレートのポケット内に少なくとも部分的に収まっている流体分離用挿入物とを備えている。流体分離用挿入物は、エンドプレートアセンブリの少なくとも1つの流体チャネルを少なくとも部分的に画成する少なくとも1つの電気的に絶縁性の流体チャネルを備え、かつ流体分離用挿入物は、エンドプレートアセンブリ内の流体導通路の実効長を長くする。
【0010】
さらなる実施形態では、電解槽スタックへの締め付け力の提供を容易にするエンドプレートと、アノード流体分離用挿入物と、カソード流体分離用挿入物とを備えた、電解槽スタックのためのエンドプレートアセンブリが提供される。アノード流体分離用挿入物は、エンドプレートのポケット内に少なくとも部分的に収まり、かつエンドプレートアセンブリの少なくとも1つのアノード流体チャネルを少なくとも部分的に画成する少なくとも1つの電気的に絶縁性のアノード流体チャネルを備え、該エンドプレートアセンブリにおいてアノード流体分離用挿入物は、エンドプレートアセンブリ内のアノード流体導通路の実効長を長くしている。カソード流体分離用挿入物は、エンドプレートの別のポケット内に少なくとも部分的に収まり、かつエンドプレートアセンブリの少なくとも1つのカソード流体チャネルを少なくとも部分的に画成する少なくとも1つの電気的に絶縁性のカソード流体チャネルを備え、該エンドプレートアセンブリにおいてカソード流体分離用挿入物は、エンドプレートアセンブリ内のカソード流体導通路の実効長を長くしている。
【0011】
さらなる特徴及び利点は、本明細書中に記載された技法によって実現される。他の実施形態及び態様は本明細書中に詳細に記載されており、かつ特許請求の範囲に記載された態様の一部とみなされる。
【0012】
1以上の態様について具体的に指し示し、かつ本明細書の最後に特許請求の範囲において実施例として明確に主張する。先述の内容並びに1以上の態様の目的、特徴、及び利点は、以降の詳細な説明を添付図面と併せれば明白である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の1以上の態様による電解槽システムの電解槽スタックの1つの実施形態を示す部分断面図。
図2】本発明の1以上の態様による、図1のエンドプレートアセンブリのアノード流体分離用挿入物の1つの実施形態を示す図。
図3】本発明の1以上の態様による、エンドプレートのポケット内にアノード流体分離用挿入物を有する電解槽スタックエンドプレートアセンブリの別例の実施形態を示す図。
図4】本発明の1以上の態様による、エンドプレートアセンブリのカソード流体分離用挿入物の一実施形態を例証する図1の電解槽スタックのさらなる部分断面図。
図5図4の電解槽スタックエンドプレートアセンブリのカソード流体分離用挿入物の一実施形態を示す図。
図6】本発明の1以上の態様による、エンドプレートのポケット内にカソード流体分離用流体挿入物を有する電解槽スタックエンドプレートアセンブリの別例の実施形態を示す図。
【0014】
[詳細な説明]
本明細書中に組み込まれて本明細書の一部を形成する添付図面は、本発明をさらに例証し、かつ本発明のこの詳細な説明と共に本発明の態様を説明する役割を果たす。この点で、周知のシステム、デバイス、加工技法などについての記載は、本発明を細部にわたり不必要に分かり難くすることのないように省略されていることに留意されたい。しかしながら、詳細な説明及びこの具体的実施例が、本発明の態様を示してはいるが単に例証として提供されていること、かつ限定を目的としていないことは、理解されるべきである。根底にある発明概念の趣旨又は範囲の中にある様々な代替形態、改変形態、追加物、及び/又は改編形態は、当業者には本開示から明白となろう。発明の多数の態様又は特徴が本明細書中に開示されること、及び矛盾のないかぎりは、開示された各々の態様又は特徴は、開示された概念の具体的な適用にとって望ましいように任意の他の開示された態様又は特徴と組み合わせ可能であることに、さらに留意されたい。
【0015】
既述のように、再生可能エネルギーの供給源及びシステムを強く求める動きにより、水電解、すなわち電解槽の技術への多大な投資が活発になされてきた。電解槽は、水を分解して水素及び酸素とするために直流電気を使用する。例として、プロトン電子膜(PEM)電解セルは、水を電気化学的に分解するために直流電気を使用する、水素及び酸素を生産するデバイスである。PEMセルは、触媒の存在により反応が生じることが可能となる活性部位を含有する。電解セルでは、水がアノードに入り、分解されてプロトン、電子、及び酸素ガスとなる。プロトンは膜を通して運ばれる一方、電子は電気回路を通る。カソードでは、プロトンと電子とが再結合して水素ガスを形成する。
【0016】
実装に応じて、水素又は酸素の生産必要高を満たすために多数の電解セルを組み立てることができる。1つの一般的な種類のアセンブリは、例えばバイポーラの構成など、直列に電気接続された複数の積み重ね電解セルを備えたスタックである。電解スタックのセルは、典型的には、ばねが装着された上下の剛性エンドプレートの間で圧縮される。スタック内の各々の電解セルによる水から水素及び酸素への最適な変換を確実にするために、各々のセルの電極の活性部位全域で均一に電流が分布することが望まれる。この均一な電流分布には、電極の活性部位全体への均一な接触圧が必要であり、これはスタックの上下のエンドプレートの間にばねによる圧縮を提供することにより容易になる。
【0017】
様々な大きさの電解槽スタックを生産することができる。例えば、1つの実施形態では、電解槽スタックはバイポーラの構成で直列に配置構成された最大100個又はそれ以上の電解セルを含むことができる。さらに、1以上の実装では、電解槽スタックを通した電圧は、1例では運転中に200~300ボルトの間で変動することがあり得る。電解槽システムは、複数の電解槽スタックを直列に接続し、かつ該スタックに共通の流体供給マニホールド及び戻りマニホールド一式を設けることにより、提供することができる。例えば、直列に接続された5個の電解槽スタックを有する電解槽システムを用いると、個々のスタックを通した電圧は、始動時の0ボルトから運転中すなわち既述の300ボルトのスタックの例では1500ボルトまで、変動することがあり得る。さらに、実装によっては、電解槽システムは、所望量の水素及び/又は酸素を生成するために1組以上の直列に接続された電解槽スタックを備えることができる。そのような高圧電解槽システムを用いると、システム内の電解槽スタックのアノードポート及びカソードポートを通る地面へ分路する(shunt-to-ground)流体の流れが、可能性として、性能上の問題を引き起こすだけでなく時間と共にスタック構成部品の局所的な腐食を生じさせることがある。
【0018】
例えば、アノードポート及び/又はカソードポートを通る分路流は、電解槽システムの性能上及び安全上の問題を引き起こすだけでなく、電解槽スタック構成部品の局所的な腐食を生じさせることがある。分路流は、例えば水質、ポートの大きさ、絶縁体プレートの厚さ、及び/又は二次的な流体混入物に左右されうる。エンドプレートは、典型的には、電解槽スタックに圧縮圧力を加えているときに良好に機能する、ステンレス鋼プレートのような剛性の金属プレート構造物として形成される。電解槽スタックのアノードポート及び/又はカソードポートを通る分路流を低減するための1つの手法は、上下のエンドプレートに隣接して配置される一番目の分離プレート又は分離層の厚さを厚くすることである。しかしながら、スタックの全高が高くなることに加え、この手法には、費用、材料の入手可能性、及び圧力封入の制限に起因する本来的な限界がある。
【0019】
本明細書中に開示されるのは、1又は複数の実施形態では、集電体とエンドプレート材料(例えば導電性材料)との間の流体支持型の電気導通路の実効長を長くし、かつそれにより電解槽スタック内部の分路流を減少させるために、例えば電解槽スタックの集電体プレートとエンドプレートとの間の実効離隔距離を大幅に長くするアセンブリである。上記アセンブリは、既述の1500ボルトDCの実施例の場合のような、直列で配置されて高電圧で運転される電解槽スタックについては特に意義が大きい。
【0020】
1以上の実施形態において、本明細書中に開示されるのは、例えば水から水素を生成するための電解槽システムの電解槽スタックのためのエンドプレートアセンブリである。該エンドプレートアセンブリは、電解槽スタックへの締め付け力の提供を容易にするように構成されたエンドプレートと、該エンドプレートに形成されたポケット内に少なくとも部分的に収まっている流体分離用挿入物とを備えている。流体分離用挿入物は、エンドプレートアセンブリの少なくとも1つの流体チャネルを少なくとも部分的に画成する、少なくとも1つの電気的に絶縁性の流体チャネルを備えている。流体分離用挿入物は、例えば電解槽スタックの集電体とエンドプレートとの間の流体導通路(すなわち流体支持型の電気導通路)の実効長を長くするように構成される。有利には、本明細書中に開示されたようなエンドプレートアセンブリを形成するために1以上の流体分離用挿入物をエンドプレートと併せて使用することにより、該エンドプレートアセンブリ内の流体導通路の実効離隔長さを、高い材料費又は圧力健全性の喪失を伴うことなく、例えば4~8倍又はそれ以上に長くすることができる。
【0021】
例として、図1は、既述のように直列に電気接続された複数の電解槽スタックを備えることができる電解槽システムの電解槽スタック100の1つの実施形態を示している。図1は、電解槽スタックを通る主要なアノード流体(例えば水)のための流路の一部を例証しており、該電解槽スタックにはアノード流体出口111と流体連通しているアノード流体マニホールド125を備えたエンドプレートアセンブリ110が設けられている。アノード流体マニホールド125に加えて、エンドプレートアセンブリ120は、複数の電解槽セル101からのアノード流体の戻りを容易にするために1以上の流体チャネル122を備えている。類似のマニホールド及び流体流のサブシステムを、電解槽スタックのアノード流体入口112と流体連通させてエンドプレートアセンブリ110の内部に提供して複数の電解槽セルからのアノード流体の供給を容易にすることができることに留意されたい。
【0022】
図示された実施形態では、エンドプレートアセンブリ110はエンドプレート120及びアノード流体分離用挿入物130(又は、より一般的には流体分離用挿入物)を備えている。エンドプレート120は金属(又は合金若しくは他の導電性材料)で形成され、かつ、例証されるように所望の電解槽スタック出力に応じた電解槽セル数の複数の電解槽セル101を備えることができる電解槽スタックに対して、所望の締め付け力を適用及び保持するのを容易にするための十分な大きさ及び剛性を備えて構成される。
【0023】
本発明の1以上の態様によれば、アノード流体分離用挿入物130には、エンドプレートアセンブリ110の1以上の流体チャネル122を少なくとも部分的に画成する、1以上の電気的に絶縁性のアノード流体チャネル132(すなわちアノード流体チャネル)が提供される。図示されるように、1つの実施形態では、アノード流体分離用挿入物130が(1以上の実施形態において)完全にエンドプレートの境界内に収まって電解槽スタック100の全高を高くしないように、エンドプレート120の中に、複数の電解槽セル101に最も近いエンドプレート表面からポケット又は凹部が設けられる。1つの実施形態では、エンドプレート120の内部のポケットは、エンドプレートを通る1以上の流体チャネルの上にエンドプレート内へ伸びるように形成される。図1の実施形態では、エンドプレート120の内部のポケットは、電解槽スタックの分離プレートと接合するエンドプレート表面からエンドプレート内へ伸びている。
【0024】
図1及び2を参照すると、アノード流体分離用挿入物130は、電気的に非導電性の材料(例えばポリマー材料、ゴムなど)を機械加工、モールド成形、又は印刷して複数の流体分離用チャネル132を備えた単一のモノリシックな流体分離用挿入物を形成することにより形成することが可能であり、流体分離用チャネル132は流体分離用挿入物が非導電性の材料で形成されているので電気的に絶縁性である。具体的実施例として、非導電性の材料は、ポリエーテルイミド(PEI‐ULTEM(登録商標))、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI‐Torlon(登録商標))、PTFE、PENなどであってもよいし、又はこれらを含んでいてもよい。既述のように、1以上の実施形態では、アノード流体分離用挿入物130は、エンドプレート120(図1を参照)の中に該エンドプレートの1以上の流体チャネルの上に形成されたポケット又は凹部に合致する大きさ及び構成となされている。さらに、該挿入物内の電気的に絶縁性の流体チャネル132の数及び配置は、例えば、エンドプレートアセンブリ110の内部のアノード流体マニホールド125と流体連通する状態に結合される予定の、集電体及び分離プレートを通る流体チャネルの数及び配置によって決まることに留意されたい。同様に、本明細書中に開示されたような流体分離用挿入物の実装は、電解槽スタックを通る流体路に応じて離隔長さを長くするように様々に構成することができることにも留意されたい。さらに、本明細書中では複数の流体分離用チャネルを備えた単一の流体分離用挿入物として示したものの、各々の流体分離用挿入物が1以上の流体分離用チャネルを備えて構成されている複数の流体分離用挿入物が、エンドプレートの特定のポケットに対して提供されることがあり得ることにも留意されたい。例えば、1つの実施形態では、各々のチャネルを別々に分離する方法として1個の挿入物が1つだけ流体分離用チャネルを有することも考えられる。
【0025】
アノード流体分離用挿入物130をエンドプレート120に対して封着する様々な手法が可能であり、図3A~3Cは3つの手法を例証している。既述のように、流体分離用挿入物の使用における目的は、スタック全体の大きさを増大させることなく、流体によって実効導通長さを長くすることである。エンドプレートに1以上のポケットを形成(例えば、機械加工、切削、モールド成形)して該ポケットを非導電性の流体分離用挿入物と合わせることにより、エンドプレートアセンブリの様々な流体路(例えばアノード流体路及びカソード流体路)を通る実効導通長さを、例えば、電解槽スタック内部の標準的な分離プレート又は分離層の厚さの最大8倍又はそれ以上まで長くすることができる。この結果として、流体分離用挿入物内部の電気的に絶縁性の流体チャネルの長さに応じて、地面へ分路する流れを8倍又はそれ以上低減することができる。
【0026】
図3Aは、圧力を等化する挿入物の手法の部分拡大図を示し、この手法においてエンドプレートアセンブリ110は、アノード流体分離用挿入物130とエンドプレート120との間に、該アセンブリを通る1以上の流体チャネルと流体連通している隙間310を備えている。図中の実施形態では、電解槽スタックは、複数の電解槽セル101に加えて、電解槽セルのうち1つ以上の集電体300、及び集電体300とエンドプレートアセンブリ110との間に電気的分離を提供する分離プレート又は分離層301を備えている。さらに、1つの実施形態では、エンドプレートアセンブリ110の流体チャネル122、132は、集電体300及び分離プレート301を通るそれぞれの流体チャネル305と流体連通している。この圧力を等化する挿入物の手法では、シール320、例えばイオン分離を提供する流体シールが、一実施例において、スタック内部の分離プレート301とアノード流体分離用挿入物130との境界面において、分離プレート301及び/又はアノード流体分離用挿入物130にある溝の内部に配置される。有利には、図3Aの実施形態では、流体が流体分離用挿入物130とエンドプレート120との間の隙間310を満たし、かつそうしている時は、シール320の両側にかかる流体圧力は平衡を保ちやすい。特に、集電体とエンドプレートとの間の短い通路にシールを配置することにより、流体は、ポケット内のアノード液体分離用挿入物の上端を越え、かつアノード流体分離用挿入物の、隙間310に面している側面を下行する。これにより分離用シール320の両側にほぼ同じ流体圧力が加わると同時に、集電体300とエンドプレート120との間の流体によって十分なイオン分離及びより長い実効導通路が維持される。さらに、既述のような挿入物の圧力等化によって、流体分離用挿入物についての製造公差が緩和され、かつ壁がより薄い挿入物を使用することができて、射出成形又は圧縮成形のようなより低コストかつ一層簡便な生産技法の使用が可能となる。
【0027】
1つの実施形態では、追加の圧力シール321を分離プレート301とエンドプレート120との間に提供することができる。しかしながらこれは、累積公差の観点からは、例えばアノード流体分離用挿入物、分離プレート、及びエンドプレートの間の三方向通路のシールではなく、二方向通路のシールである。さらにこれは、アノード流体分離用挿入物についての製造公差を緩和し、かつ射出成形又は圧縮成形のようなより低コストの生産技術の使用を可能にする。よって、この実施形態には2つの異なる種類のシールが存在する。一方のシール320は、このシールを挟んだ比較的小さな圧力差を伴ってイオンの分離を提供し、かつ他方のシールは、エンドプレートと分離プレートとの間に十分な定格圧力差を提供する。イオン分離についての累積公差は、圧力分離のための累積公差よりも寛容である。図示された実施形態では、アノード流体分離用挿入物130はさらに、形成されたポケットの内部でエンドプレート120の内側表面と対向関係にある挿入物の外部側表面に、溝又は切欠き部325を備えている。この溝325は、組み立ての際にエンドプレート120の内部でアノード流体分離用挿入物130の摩擦嵌合が確立され、その結果として積み重ねの際の電解槽スタック内の他の構成部品の上でのアセンブリの移動及び配置が容易になるように設計された、さらなるシール又はガスケットを収容するように構成された周溝部であってよい。本明細書中に記載されたシールは、O‐リングシール、平形ガスケット、現場成形ガスケット(RTV)、軟質プラスチック成形シールなどであってよいことに留意されたい。例えば、圧力を等化する挿入物の手法の1つの実施形態では、シールを挿入物の一部として直接成形することも考えられる。
【0028】
図3Bは、アノード流体分離用挿入物130が電解槽スタック内の流体の全圧に耐えるように構成されている、エンドプレートアセンブリ110の別例の実施形態を示している。この場合、アノード流体分離用挿入物の下部及び上部のシール320、322が、電解槽スタックの流体チャネル122、132、305を通り抜ける流体の(集電体と挿入物周辺のエンドプレートとの間の)圧力封止及びイオン通路の封止を提供する。この実装は、シールの定格全圧(例えば15バールのアノードポート圧)を可能にするために、エンドプレート120の機械加工又はポケット形成と、シール320、322の正確な設置とを必要とすることがある。例えば、1つの実施形態では、圧力及びイオンのシール320、322を収容するために、分離プレート301、アノード流体分離用挿入物130、及び/又はエンドプレート120に1以上の溝を提供することができる。図示された実施形態では、アノード流体分離用挿入物130はさらに、流体チャネルの周りに、最大アノードポート圧の負荷を支えるのに十分な壁厚を有している。加えて、この実施形態は、望ましい場合には、分離プレート301とエンドプレート120との間に追加の圧力シール321を備えることができる。
【0029】
図3Cは、本発明の1以上の態様による、電解槽スタックのためのエンドプレートアセンブリ110のさらなる変形形態を示している。この実施形態は、エンドプレート120のポケットが、該ポケット内のアノード流体分離用挿入物130の上端に、固形、板状、又は多孔性の媒体のような二次的な材料の導電性挿入物330を収容するようにさらに構成されており、導電性挿入物330の材料はその場所でアセンブリ内の流体チャネル壁に沿って生じる反応の種類の制御を容易にするように選択されている、エンドプレートアセンブリの変形形態を例証している。流体分離用挿入物のチャネル132の長さに関係なく、分路流は流体路を通り抜けることができる。この流れは、ポケット内のアノード流体分離用挿入物130の末端(例えば上端)においてエンドプレート120の材料の腐食、孔食、溶解などをもたらすことがある。腐食はその結果として、チャネル122の中の流体流にイオンを導入することがあり得るがこれは水の導電性にとって不都合であり、かつ、局所的な孔食点及び腐食点を生じさせることがあり得るがこれは封止能力の喪失又は応力対処能力の低下をもたらすことがある。導電性挿入物の材料は、その場所のチャネル内部で生じる反応の種類を制御する助けとなるように選択される。特に、導電性挿入物330の材料は、エンドプレートから流体流の中への金属イオンの溶解をもたらす電気化学反応ではなくエンドプレート材料には影響しない、局所的な電気分解反応をチャネル内部において引き起こすために、分路流を生じさせるように選択することができる。使用することができる導電性材料の一例は白金である。1つの実施形態では、導電性挿入物330は、流体流の内部で局所的な電気分解反応を生じさせるために白金でコーティングされてもよい。図3Aの圧力が等化された流体分離用挿入物の手法に関連付けて例証したが、図3Cの導電性挿入物330は、図3Bの全圧を封止する手法と併せて使用することもできることに留意するべきである。導電性挿入物は様々な方法で適所に機械的に取り付けることができるということにも留意されたい。例えば、導電性挿入物はエンドプレートの中にプレスばめされてもよいし、又はエンドプレートと良好に電気接触した状態でエンドプレートに(例えば1又は複数のボルトで)機械的に締着されてもよい。
【0030】
既述のように、図1~3Cは、電解槽スタックのエンドプレートのアノードサブシステム内のアノード流体導通路の実効長の延長を容易にするために、例えばエンドプレートの1又は2個のポケットの内部に収まることができる、アノード流体分離用挿入物の様々な実施形態を例証している。主要なアノード流体の供給及び戻りについては、初期の低く始まる流体抵抗率、及び長時間のシャットダウンの後の始動時の一過性効果の両方により、水質が例えば1MΩ・cm又はそれより劣る値に近づくことがあることは周知である。これにより、始動時にアノード流体の供給ポート及び戻りポートを通る地面へ分路する大きな流れが生じることがある。加えて、初始動の際に、カソードの空洞に由来するカーボン粒子がカソード出口ポートに沿った局所的な高導電路をもたらすこともある。
【0031】
本発明の1以上の態様によるカソード流体分離用挿入物400の実施例が図4~6Cに示されている。カソード流体分離用挿入物400は、1以上の実施形態において、図1~3Cに示されたアノード流体分離用挿入物と類似した非導電性材料で形成することができる。該挿入物は、エンドプレートアセンブリ内の1以上のカソード流体チャネルを通る、例えば集電体とエンドプレートとの間のカソード流体導通路の実効長を長くするために、1以上の電気的に絶縁性の流体チャネルを備えて構成される。別段の定めがない限り、流体という用語は本明細書において、処理の段階に応じて電解槽スタックを通る液体流、気体流、又は二相流を指すために使用されることに留意されたい。
【0032】
例として、図4は、カソード流体ポートと流体連通しているカソード流体マニホールド126と、集電体300及び分離プレート301を通るそれぞれの流体チャネルの上に位置合わせされて該チャネルと流体連通している、エンドプレートアセンブリの複数のカソード流体チャネルとが中を通っている、例えば電解槽スタックの個々の電解セルのカソードから水素気体を取り出すための、さらなるエンドプレートアセンブリ110の断面図である。図4に示されるように、カソード流体分離用挿入物400は、例えば、エンドプレート120の表面のうち電解槽スタック100の分離プレート301に隣接するか又は接触している表面から形成された、エンドプレート120のそれぞれのポケット又は凹部の内に収まっている。電解槽スタック内のアノード流体サブシステム(例えば15バール)とカソード流体サブシステム(例えば45バール)との圧力差により、カソード流体分離用挿入物400は、1以上の実施形態において、図1~3Cのアノード流体分離用挿入物とは異なるように構成することができる。
【0033】
図4及び5を参照すると、1以上の実施形態において、ポケット又は凹部は、電解槽スタック内の複数の電解槽セル101に最も近接して存在するようにエンドプレート120の表面から該エンドプレートの中に設けられており、該ポケットは、カソード流体分離用挿入物400がエンドプレートの境界内に収まり、かつ電解槽スタック100の全高を高くしないような大きさ及び構成となされている。1つの実施形態では、カソード流体分離用挿入物400はさらに、流体チャネルの周りに最大カソードポート圧の負荷を支えるのに十分な壁厚を有する。これは、カソード流体分離用挿入物400を、該挿入物の電気的に絶縁性のカソード流体チャネル401がエンドプレート内のそれぞれの開口部(例えばそれぞれの筒状開口部)の中へ伸びて、該エンドプレート構造が結果として生じるエンドプレートアセンブリのための追加の圧力支持を提供するように形成することにより、容易に行うことができる。
【0034】
既述のように、1以上の実施形態において、カソード流体分離用挿入物400は、エンドプレートアセンブリ110の1以上の流体チャネルを少なくとも部分的に画成する、1以上の電気的に絶縁性のカソード流体チャネル401(すなわちカソード流体チャネル)を備えている。カソード流体分離用挿入物400は、1つの実施形態ではエンドプレート120の外側表面から該エンドプレート内のカソードマニホールド126へと伸びる、(例えば)複数の電気的に絶縁性のカソード流体チャネル401を備えて、1つの実施形態では単一のモノリシックな流体分離用挿入物又はアイソレータを形成するように、非導電性の材料を機械加工、モールド成形、又は印刷することによって形成することができる。電気的に絶縁性のカソード流体チャネル401の数及び配置は、カソード流体チャネルが流体連通するように設計されている集電体300及び分離プレート301を通るそれぞれの流体チャネルの数及び配置によって決まりうることに留意されたい。
【0035】
図3A~3Cの実施形態と同様に、カソード流体分離用挿入物400をエンドプレート120に対して封止するための様々な手法が実行可能であり、例としては図6A~6Cに3つの手法が例証されている。既述のように、カソード流体分離用挿入物の使用における目的は、スタック全体の大きさを増大させることなく、カソード流体によって実効導通長さを長くすることである。エンドプレートに複数のポケットを形成(例えば、機械加工、モールド成形、切削など)し、かつ該ポケットを非導電性の流体分離用挿入物と合わせることにより、エンドプレートアセンブリの様々な流体路(例えばアノード流体路及び/又はカソード流体路)を通る実効導通長さを、例えば、電解槽スタック内部の隣接する分離プレート又は分離層の厚さ及びエンドプレートの厚さに応じて最大8倍又はそれ以上まで長くすることができる。この結果、流体分離用挿入物により提供される電気的に絶縁性の流体チャネルの長さに応じて、分路流を8倍又はそれ以上低減することができる。
【0036】
図6Aは、圧力を等化する挿入物の手法の部分拡大図を示し、この手法においてエンドプレートアセンブリ110は、カソード流体分離用挿入物400とエンドプレート120との間に、該アセンブリを通る流体チャネル401と流体連通している隙間610を備えている。図示された実施形態では、電解槽スタックは、(複数の電解槽セル101、集電体300、及び分離プレート301に加えて)カソードサブシステムの一部であって電気的に絶縁性のカソード流体チャネル401と流体連通している、集電体300及び分離プレート301を通る流体チャネル605を備えている。この圧力を等化する挿入物の手法では、シール620(イオン分離を提供する流体シールなど)が、電解槽スタック内部の分離プレート301とカソード流体分離用挿入物400との境界面において、例えば分離プレート301又は挿入物のうち少なくとも一方の溝の中に、配置される。有利には、図6Aの実施形態では、カソード流体がカソード流体分離用挿入物400とエンドプレート120との間の隙間610を満たし、かつそうしている時は、シール620の両側で圧力は平衡を保つ。集電体とエンドプレートとの間の短い通路にシールを配置することにより、流体は、ポケット内のカソード流体分離用挿入物の上端を越え、かつ流体分離用挿入物の、隙間610に面している側面を下行する。これにより分離用シール620の両側にほぼ同じ流体圧力が加わると同時に、集電体300とエンドプレート120との間の流体によって十分なイオン分離及びより長い実効導通路が維持される。
【0037】
1つの実施形態では、追加の圧力シール621を分離プレート301とエンドプレート120との間に提供することができる。しかしながら、累積公差の観点から、これは図3A~3Cの実施形態の圧力シール321に類似した二方向通路のシールである。よって、図6Aの実施形態には2種類のシールが存在し、一方のシール620はシールを隔てた圧力差が比較的小さい状態でイオン分離を提供し、他方のシールは、エンドプレートと分離プレートとの間に十分な定格圧力差を提供する。
【0038】
図6Bは、カソード流体分離用挿入物400が電解槽スタックの流体チャネル401、605の内部の流体の全圧に耐えるように構成されている、エンドプレートアセンブリ110の別例の実施形態を示す。この場合、カソード流体分離用挿入物の下部及び上部のシール620、622は、集電体と挿入物周辺のエンドプレートとの間の圧力封止及びイオン通路の封止を提供する。この実装は、シールの定格全圧を可能にするために、エンドプレート機械加工又はポケット形成と、シール620、622の正確な設置とを必要とすることがある。例えば、1つの実施形態では、圧力及びイオンのシール620、622を収容するために、分離プレート401、カソード流体分離用挿入物400、及び/又はエンドプレート120に、1又は複数の溝を提供することができる。
【0039】
図6Cは、本発明の1以上の態様による、電解槽スタックのエンドプレートアセンブリ110のためのカソード流体分離用挿入物400のさらなる変形形態を示す。この実施形態は、エンドプレート120のポケット、及び/又はカソード流体分離用挿入物400が、アセンブリ内の流体チャネル401の壁に沿って生じる反応の種類の制御を容易にするために、ポケット内のカソード流体分離用挿入物400の上端に例えば固形、板状、又は多孔性の媒体のような二次的な材料の導電性挿入物630を備えることを容易にするような大きさ及び構成となされている、エンドプレートアセンブリの変形形態を例証している。図3Cの実施形態と同様に、地面へ分路する流れがカソード流体路を通過することがあり、これによりポケット内のカソード流体分離用挿入物の上端において材料の腐食、孔食、溶解などが生じることがある。腐食はその結果として、流体流にイオンを導入することがあり得るがこれは該流体の導電性にとって不都合な場合があり、かつ、局所的な孔食点及び腐食点を生じさせることがあり得るがこれは封止能力の喪失又は応力対処能力の低下をもたらすことがある。導電性挿入物の材料は、チャネルの末端において生じる反応の種類を制御する助けとなるように選択することができる。特に、導電性挿入物630の材料は、流体流の中への金属イオンの溶解をもたらす電気化学反応ではなくエンドプレート材料には全く影響しない、チャネル内部の局所的な電気分解反応を引き起こすために、分路流を生じさせるように選択することができる。導電性材料の一例は、(1つの実施形態では)流体流の中で局所的な電気分解反応を生じさせるように導電性挿入物630が白金でコーティングされた状態の、白金である。上述のように、導電性挿入物は様々な方法で適所に機械的に取り付けることができる。例えば、導電性挿入物はエンドプレートの中にプレスばめされてもよいし、又はエンドプレートと良好に電気接触した状態でエンドプレートに(例えば1以上のボルトで)機械的に締着されてもよい。
【0040】
図6Aの圧力が等化されたカソード流体分離用挿入物の手法に関連付けて例証したが、図6Cの導電性挿入物630は、図6Bの全圧を封止する手法と併せて使用することもできることに留意されたい。
【0041】
本明細書中で使用される専門用語は、単に特定の実施形態について説明するためのものであり、本発明を限定するようには意図されていない。本明細書中で使用されるように、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈がそうでないことを明白に示していないかぎり、複数形も含むように意図されている。用語「具備する(comprise)」(及び該用語の任意の形、例えば「具備する(comprises)」及び「具備している(comprising)」)、「有する(have)」(及び該用語の任意の形、例えば「有する(has)」及び「有している(having)」)、「備える(include)」(及び該用語の任意の形、例えば「備える(includes)」及び「備えている(including)」)、「含有する(contain)」(及び該用語の任意の形、例えば「含有する(contains)」及び「含有している(containing)」)は非限定型(open-ended)の連結動詞であるということは、さらに理解されよう。その結果、1以上のステップ又は要素を「具備する」、「有する」、「備える」又は「含有する」方法又はデバイスは、その1以上のステップ又は要素を所有するが、その1以上のステップ又は要素のみを所有するようには限定されない。同様に、1以上の特徴を「具備する」、「有する」、「備える」又は「含有する」、方法のステップ又はデバイスの要素は、その1以上の特徴を所有するが、その1以上の特徴のみを所有するようには限定されない。更に、ある一定の方法で構成されたデバイス又は構造物は、少なくともその方法で構成されるが、記載されていない方法で構成されることも可能である。
【0042】
下記の特許請求の範囲における全てのミーンズ・プラス・ファンクション又はステップ・プラス・ファンクションの構成要素の対応する構造物、材料、行為、及び等価物は、存在する場合、特許請求の範囲に具体的に記載されている他の構成要素と組み合わせて機能を実施するための任意の構造物、材料、又は行為を含むように意図されている。1又は複数の実施形態についての説明は、例証及び説明を目的として提示されており、網羅的であるようにも、又は開示された形態に制限されるようにも意図されていない。当業者には数多くの改変形態及び変形形態が明白であろう。実施形態は、様々な態様及び実際的応用について最も良く説明するために、かつ他の当業者が企図された特定の用途に適するような様々な改変を備えた様々な実施形態を理解するのを可能にするように、選択及び記載されている。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6A
図6B
図6C
【外国語明細書】