(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117088
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】磁気ディスク基板用研磨液組成物
(51)【国際特許分類】
G11B 5/84 20060101AFI20240821BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20240821BHJP
G11B 5/82 20060101ALI20240821BHJP
G11B 5/73 20060101ALI20240821BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20240821BHJP
C08L 101/02 20060101ALI20240821BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20240821BHJP
C08F 8/32 20060101ALI20240821BHJP
C08F 12/28 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
G11B5/84 Z
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
G11B5/84 A
G11B5/82
G11B5/73
B24B37/00 H
C08L101/02
C08K3/36
C08F8/32
C08F12/28
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024021982
(22)【出願日】2024-02-16
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2023022822
(32)【優先日】2023-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】多久島 大樹
【テーマコード(参考)】
3C158
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5D112
【Fターム(参考)】
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5D112GA14
(57)【要約】
【課題】 一態様において、研磨速度向上と研磨後の基板表面のスクラッチ低減とを両立でき、保存安定性に優れる研磨液組成物を提供する。
【解決手段】 本開示は、一態様において、シリカ粒子(成分A)、酸(成分B)、高分子(成分C)、及び水を含む研磨液組成物であって、該研磨液組成物のpHが1以上5以下であり、成分Cは、フェノール性水酸基を有する単量体と、フェノール性水酸基と該フェノール性水酸基のo(オルト)位又はm(メタ)位に窒素原子含有官能基を有する単量体との共重合体である、磁気ディスク基板用研磨液組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粒子(成分A)、酸(成分B)、高分子(成分C)、及び水を含む、研磨液組成物であって、
該研磨液組成物のpHが1以上5以下であり、
成分Cは、フェノール性水酸基を有する単量体と、フェノール性水酸基と該フェノール性水酸基のo(オルト)位又はm(メタ)位に窒素原子含有官能基を有する単量体との共重合体である、磁気ディスク基板用研磨液組成物。
【請求項2】
前記研磨液組成物中のシリカ粒子(成分A)の平均粒径dと、前記研磨液組成物から成分Cが除かれた組成である組成物中のシリカ粒子(成分A)の平均粒径d0との比d/d0が、1.4以下である、請求項1に記載の研磨液組成物。
【請求項3】
前記成分Cは、下記式(I)で表される構造を有する化合物である、請求項1に記載の研磨剤組成物。
【化1】
式(I)中、R
1及びR
2はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~3の炭化水素基、又は、炭素数1~3のヒドロキシアルキル基である。ただし、R
1とR
2とが環構造を形成してもよい。xは1又は2であり、yは1又は2である。m及びnはモル比を示し、m+n=100、20≦m≦80、20≦n≦80を満たす。
【請求項4】
成分Cは、下記ゼータ電位測定サンプルで測定したゼータ電位が+1mV以上+40mV以下となる高分子である、請求項1に記載の研磨液組成物。
ゼータ電位測定サンプル:水、成分C、酸(成分B)からなるpHが1.5の組成物であって、該組成物中の成分Cの含有量が0.5質量%である
【請求項5】
前記研磨液組成物中の成分Cの含有量が10質量ppm以上100質量ppm以下である請求項1に記載の研磨液組成物。
【請求項6】
前記研磨液組成物中の成分Aの含有量と同成分Cの含有量との質量比A/Cが、300以上5000以下である、請求項1に記載の研磨液組成物。
【請求項7】
成分Cの重量平均分子量が、1000以上5万以下である、請求項1に記載の研磨液組成物。
【請求項8】
酸化剤(成分D)をさらに含む、請求項1に記載の研磨液組成物。
【請求項9】
分子内にスルホン酸基又はカルボン酸基を有する芳香族化合物、及びアゾール化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(成分E)を更に含む、請求項1に記載の研磨液組成物。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨することを含み、前記被研磨基板は、磁気ディスク基板の製造に用いられる基板である、基板の研磨方法。
【請求項11】
請求項1から9のいずれかに記載の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨する研磨工程を含む、磁気ディスク基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁気ディスク基板用研磨液組成物、並びにこれを用いた磁気ディスク基板の製造方法及び研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ディスクドライブは小型化・大容量化が進み、高記録密度化が求められている。高記録密度化するために、単位記録面積を縮小し、弱くなった磁気信号の検出感度を向上するため、磁気ヘッドの浮上高さをより低くするための技術開発が進められている。磁気ディスク基板には、磁気ヘッドの低浮上化と記録面積の確保に対応するため、表面粗さ、うねり、端面ダレ(ロールオフ)の低減に代表される平滑性・平坦性の向上とスクラッチ、突起、ピット等の低減に代表される欠陥低減に対する要求が厳しくなっている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ガラス素材用研磨液組成物として、少なくとも加工用助剤と水とを含む加工用助剤組成物において、上記加工用助剤が水溶性又は水分散性の有機高分子からなり、該有機高分子は、1個以上の水酸基を持つ芳香族基を分子量500単位当たりに1個以上有し、且つその主鎖中に重合性のビニル系単量体から誘導される2価の基、又は-Ar-CH2-(Arは官能基で置換されていてもよいフェニレン基を表す)で表される基を含む、加工用助剤組成物が提案されている。
特許文献2には、磁気ディスク用研磨液組成物として、研磨材、水溶性高分子、酸及び水系媒体を含有し、前記水溶性高分子が、主鎖又は側鎖にフェニルエーテル骨格を有する陽イオン性高分子である、研磨液組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-102041号公報
【特許文献2】特開2020-84186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁気ディスクドライブの大容量化に伴い、基板の表面品質に対する要求特性はさらに厳しくなっており、基板表面のスクラッチをいっそう低減できる研磨液組成物の開発が求められている。また、一般的に、研磨速度とスクラッチとはトレードオフの関係にあり、一方が改善すれば一方が悪化するという問題がある。さらに、生産性向上及び廃棄処分低減の観点から、研磨液組成物には保存安定性に優れることも要求される。
【0006】
そこで、本開示は、一態様において、研磨速度の向上と研磨後の基板表面のスクラッチ低減とを両立でき、保存安定性に優れる研磨液組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、一態様において、シリカ粒子(成分A)、酸(成分B)、高分子(成分C)、及び水を含む、研磨液組成物であって、pHが1以上5以下であり、成分Cは、フェノール性水酸基を有する単量体と、フェノール性水酸基と該フェノール性水酸基のo(オルト)位又はm(メタ)位に窒素原子含有官能基を有する単量体との共重合体である、磁気ディスク基板用研磨液組成物に関する。
【0008】
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨することを含み、前記被研磨基板は、磁気ディスク基板の製造に用いられる基板である、基板の研磨方法に関する。
【0009】
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨する工程を含む、磁気ディスク基板の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本開示は、一態様において、研磨速度向上と研磨後の基板表面のスクラッチ低減とを両立でき、保存安定性に優れる研磨液組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示は、シリカ粒子、酸、特定の高分子及び水を含有する研磨液組成物を磁気ディスク基板の研磨に用いると、研磨速度を向上でき、かつ、研磨後の基板表面のスクラッチを低減でき、さらに保存安定性に優れるという知見に基づく。
【0012】
すなわち、本開示は、一態様において、シリカ粒子(成分A)、酸(成分B)、高分子(成分C)、及び水を含む、研磨液組成物であって、該研磨液組成物のpHが1以上5以下であり、成分Cは、フェノール性水酸基を有する単量体と、フェノール性水酸基と該フェノール性水酸基のo(オルト)位又はm(メタ)位に窒素原子含有官能基を有する単量体との共重合体である、磁気ディスク基板用研磨液組成物(以下、「本開示の研磨液組成物」ともいう)に関する。
【0013】
本開示の効果発現のメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のように推察される。
本開示の研磨剤組成物中の成分Cは、窒素原子部位が酸性研磨液中で正帯電化することで、被研磨基板への静電吸着が可能となり、被研磨基板に対して保護膜として働くことで、スクラッチを低減できると考えられる。また、成分Cが被研磨基板に吸着することで、基板が正帯電化するため、酸性研磨液中でわずかに負帯電化しているシリカ粒子(成分A)を基板に引き付け、被研磨基板上にシリカ砥粒を高濃度に濃縮できると考えられる。その結果、研磨速度を向上する効果も協奏的に有すると考えられる。スクラッチ低減効果及び研磨速度向上効果は、成分Cの添加量等で寄与率が変化すると考えられる。また成分Cにおける窒素原子は、フェノール性水酸基からエーテル結合したものではなく、o(オルト)位又はm(メタ)位に配向することから、酸性研磨液中での加水分解が抑制されるため、保存安定性に優れるという効果も有すると考えられる。
さらに、成分Cは、フェノール性水酸基のo(オルト)位又はm(メタ)位に窒素原子含有官能基を有するホモポリマーではなく、フェノール性水酸基を有する単量体との共重合体である。そのため、前記ホモポリマーよりも相対的に窒素原子含有割合が少なく、酸性研磨液中でシリカ粒子(成分A)と混合しても、シリカ粒子を凝集させないという効果も有すると考えられる。その結果、前記ホモポリマーに比べ、効率よく研磨が進行し、且つ凝集したシリカ粒子を含まないことから、前記ホモポリマーよりも高い水準で研磨速度向上とスクラッチ低減を両立できると考えられる。
但し、本開示はこれらのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0014】
本開示において、基板表面のスクラッチは、例えば、光学式欠陥検査装置により検出可能であり、スクラッチ数として定量評価できる。スクラッチ数は、具体的には実施例に記載した方法で評価できる。
【0015】
[シリカ粒子(成分A)]
本開示の研磨液組成物に含まれるシリカ粒子(以下、「成分A」ともいう)としては、研磨速度向上及びスクラッチ低減の観点から、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、粉砕シリカ、それらを表面修飾したシリカ等が挙げられ、これらのなかでもコロイダルシリカが好ましい。本開示において研磨液組成物に含まれる成分Aは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0016】
成分Aの平均二次粒子径は、研磨速度向上の観点から、1nm以上が好ましく、5nm以上がより好ましく、10nm以上が更に好ましく、そして、スクラッチ低減の観点から、500nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましく、100nm以下が更に好ましく、70nm以下がより更に好ましく、40nm以下がより更に好ましい。同様の観点から、成分Aの平均二次粒子径は、1nm以上500nm以下が好ましく、1nm以上300nm以下がより好ましく、1nm以上100nm以下が更に好ましく、5nm以上70nm以下がより更に好ましく、10nm以上40nm以下がより更に好ましい。本開示において、「シリカ粒子の平均二次粒子径」とは、動的光散乱法によって測定される値であり、例えば、動的光散乱法において検出角173°で測定し、得られた粒子径分布の累積体積割合が50%になる値(D50)を平均二次粒子径とすることができる。シリカ粒子(成分A)の平均二次粒子径は、具体的には実施例に記載の方法により求めることができる。
【0017】
[平均粒径比d/d0]
本開示の研磨液組成物中のシリカ粒子(成分A)の平均粒径dと、本開示の研磨液組成物から成分Cが除かれた組成である組成物中のシリカ粒子(成分A)の平均粒径d0との比d/d0(以下、「平均粒径比d/d0」ともいう)は、研磨速度向上及び/又は研磨速度向上の観点から、1.4以下であることが好ましく、1.3以下がより好ましく、1.2以下が更に好ましく、そして、研磨速度低下抑制の観点から、0.9以上が好ましく、0.95以上がより好ましく、0.99以上が更に好ましく、1以上がより更に好ましい。より具体的には、平均粒径比d/d0は、0.9以上1.4以下が好ましく、0.95以上1.3以下がより好ましく、0.99以上1.2以下が更に好ましく、1以上1.2以下がより更に好ましい。本開示において、平均粒径d及びd0はそれぞれ、動的光散乱法により測定されるZ-平均値であり、具体的には、実施例に記載の方法により測定できる。
【0018】
本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量は、研磨速度向上の観点から、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、3質量%以上が更に好ましく、そして、スクラッチ低減の観点から、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量は、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上15質量%以下がより好ましく、3質量%以上10質量%以下が更に好ましい。成分Aが2種以上のシリカ粒子からなる場合、成分Aの含有量は、それらの合計含有量をいう。
【0019】
[酸(成分B)]
本開示の研磨液組成物は、酸(成分B)を含有する。本開示において、酸の使用は、酸又はその塩の使用を含む。本開示において研磨液組成物に含まれる成分Bは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0020】
成分Bとしては、例えば、硝酸、硫酸、亜硫酸、過硫酸、塩酸、過塩素酸、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、アミド硫酸等の無機酸;有機リン酸、有機ホスホン酸、カルボン酸等の有機酸;等が挙げられる。中でも、研磨速度の向上及びスクラッチ低減の観点から、無機酸及び有機ホスホン酸を含むことがより好ましく、無機酸を含むことが更に好ましい。
無機酸としては、同様の観点から、硝酸、硫酸、塩酸、過塩素酸及びリン酸から選ばれる少なくとも1種が好ましく、硫酸及びリン酸から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、リン酸が更に好ましい。
有機ホスホン酸としては、同様の観点から、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)、アミノトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸から選ばれる少なくとも1種が好ましく、HEDPがより好ましい。これらの酸の塩としては、例えば、上記の酸と、金属、アンモニア及びアルキルアミンから選ばれる少なくとも1種との塩が挙げられる。上記金属としては、例えば、周期表の1~11族に属する金属が挙げられる。これらの中でも、研磨速度の向上及びスクラッチ低減の観点から、上記の酸と、1A族に属する金属又はアンモニアとの塩が好ましい。
【0021】
本開示の研磨液組成物中の成分Bの含有量は、研磨速度向上及びスクラッチ低減の観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましく、そして、スクラッチ低減と保存安定性とを両立する観点から、3質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましい。同様の観点から、本開示の研磨液組成物中の成分Bの含有量は、0.01質量%以上3質量%以下が好ましく、0.1質量%以上2質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上2質量%以下が更に好ましい。成分Bが2種以上の組合せである場合、成分Bの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0022】
[高分子(成分C)]
本開示の研磨液組成物に含まれる高分子(以下、「成分C」ともいう)は、研磨速度向上及び/又はスクラッチ低減の観点から、フェノール性水酸基を有する単量体と、フェノール性水酸基と該フェノール性水酸基のo(オルト)位又はm(メタ)位に窒素原子含有官能基を有する単量体との共重合体である。フェノール性水酸基を有する単量体としては、フェノール性水酸基及びビニル基を有する単量体が好ましく、ビニルフェノールがより好ましく挙げられ、p(パラ)-ビニルフェノールが更に好ましく挙げられる。フェノール性水酸基と該フェノール性水酸基のo(オルト)位又はm(メタ)位に窒素原子含有官能基を有する単量体としては、フェノール性水酸基と該フェノール性水酸基のo位又はm位に窒素原子含有官能基を有し、更にp(パラ)位にビニル基を有する単量体が好ましい。
窒素原子含有官能基の数としては、1~4が挙げられ、好ましくは1~3、より好ましくは1又は2である。窒素原子含有官能基の数が1の場合、フェノール性水酸基のo(オルト)位に窒素原子含有官能基を有していることが好ましく、窒素原子含有官能基の数が2の場合、フェノール水酸基の2つのo(オルト)位に窒素原子含有官能基を有していてもよいし、フェノール水酸基の2つのm(メタ)位に窒素原子含有官能基を有していてもよいし、フェノール水酸基のo(オルト)位とm(メタ)位に窒素原子官能基を有していてもよい。窒素原子含有官能基の数が2の場合、これらの中でもフェノール水酸基の2つのo(オルト)位に窒素原子含有官能基を有していることが好ましい。
フェノール性水酸基と該フェノール性水酸基のo(オルト)位又はm(メタ)位に窒素原子含有官能基を有する単量体としては、2-((ジメチルアミノ)メチル)―4-ビニルフェノール、2、6-ビス((ジメチルアミノ)メチル)―4-ビニルフェノールが好ましく挙げられる。本開示において研磨液組成物に含まれる成分Cは1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0023】
成分Cとしては、例えば、下記式(I)で表される構造を有する化合物が好ましい。
【化1】
式(I)中、R
1及びR
2はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~3の炭化水素基、又は、炭素数1~3のヒドロキシアルキル基である。ただし、R
1とR
2とが環構造を形成してもよい。xは1又は2であり、yは1又は2である。m及びnはモル比を示し、m+n=100、20≦m≦80、20≦n≦80を満たす。
式(I)において、R
1とR
2とが環構造を形成する場合、R
1とR
2とが直接結合して環構造を形成してもよいし、R
1とR
2とが炭素原子、酸素原子、又は窒素原子を介して結合して2以上のヘテロ原子を含む環構造を形成してもよい。R
1とR
2とが形成する複素環構造としては、一又は複数の実施形態において、モルホリン環構造が挙げられる。
式(I)において、y=1の場合、窒素原子含有官能基は、フェノール性水酸基に対して2つのo位及び2つのm位のいずれかに結合していればよく、これらの中でもフェノール性水酸基のo位に結合している構造であることが好ましい。
式(I)において、y=2の場合、窒素原子含有官能基は、フェノール性水酸基の2つのo(オルト)位及び2つのm(メタ)位から選ばれるいずれか2つに結合していればよく、これらの中でもフェノール性水酸基の2つのo(オルト)位に結合している構造であることが好ましい。
式(I)において、モル比m/nは、研磨速度の確保及びスクラッチ低減の観点から、20/80~80/20が好ましく、25/75~70/30がより好ましく、35/65~70/30が更に好ましく、40/60~60/40がより更に好ましく、45/55~50/50がより更に好ましい。
【0024】
成分Cが式(I)で表される構成を有する化合物である場合、成分Cを構成する全構成単位中に占める式(I)で表される構成の含有量、即ち、成分Cを構成する構成単位の全モル数に対する、式(I)における4-ビニルフェノールのモル数mとフェノール性水酸基と該フェノール性水酸基のo(オルト)位又はm(メタ)位に窒素原子含有官能基を有する単量体のモル数nの合計は、一又は複数の実施形態において、研磨速度の向上及びスクラッチ低減の観点から、50モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、90モル%以上が更に好ましく、100モル%がより更に好ましい。
本開示において、成分Cを構成する全構成単位中に占めるある構成単位の含有量(モル%)として、合成条件によっては、成分Cの合成の全工程で反応槽に仕込まれた全構成単位を導入するための化合物中に占める前記反応槽に仕込まれた該構成単位を導入するための化合物量(モル%)を使用してもよい。また、本開示において、成分Cが2種以上の構成単位を含む場合、2つの構成単位の構成比(モル比)として、合成条件によっては、前記成分Cの合成の全工程で反応槽に仕込まれた該2つの構成単位を導入するための化合物量比(モル比)を使用してもよい。
成分Cは、式(I)に含まれないその他の構成単位を有していてもよい。成分Cを構成する全構成単位中に占めるその他の構成単位の含有率は、研磨速度の確保及びスクラッチ低減の観点から、成分Cを構成する構成単位の全モル数に対して10モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましく、3モル%以下が更に好ましく、1モル%以下がより更に好ましく、実質的に0モル%がより更に好ましい。
【0025】
成分Cを構成する各構成単位の配列は、ランダム、ブロック、又はグラフトのいずれでもよい。
【0026】
成分Cは、一又は複数の実施形態において、ポリビニルフェノールを部分的にジメチルアミノ変性若しくはジエタノールアミノ変性した共重合体である。
成分Cが式(I)で表される構成を有する化合物である場合、成分Cの好適な例としては、4-ビニルフェノールとビニルジメチルアミノ変性ポリビニルフェノールの共重合体、4-ビニルフェノールとビス(ジメチルアミノ変性)ポリビニルフェノールの共重合体、4-ビニルフェノールとビス(ジエタノールアミノ変性)ポリビニルフェノールの共重合体が挙げられる。
【0027】
成分Cは、研磨速度向上及び/又はスクラッチ低減の観点から、成分Cと水と25℃におけるpHが1.5となるように必要に応じて添加される酸(例えば、リン酸)とからなり、成分Cの濃度が0.5質量%であり、25℃におけるpHが1.5である組成物中のゼータ電位が+1mV以上+40mV以下となる高分子であることが好ましい。このような高分子(成分C)は、下記ゼータ電位測定サンプルで測定したゼータ電位が+1mV以上+40mV以下となる高分子であると言い換えることもできる。
ゼータ電位測定サンプル:水、成分C、酸(成分B)からなるpHが1.5の組成物であって、該組成物中の成分Cの含有量が0.5質量%である。
本開示において、前記ゼータ電位測定サンプル(以下、「本開示のゼータ電位測定サンプル」ともいう)で測定したゼータ電位(以下、「本開示のゼータ電位」ともいう)とは、成分Cが該組成物中で形成しているコロイド粒子のゼータ電位を意味する。
本開示のゼータ電位は、研磨速度向上及び/又はスクラッチを低減する観点から、+1mV以上が好ましく、+2mV以上がより好ましく、+6mV以上が更に好ましく、+10mV以上がより更に好ましく、+20mV以上がより更に好ましく、+21mV以上がより更に好ましく、そして同様の観点から+40mV以下が好ましく、+36mV以下がより好ましく、+30mV以下が更に好ましく、+27mV以下がより更に好ましい。
さらに詳しくは、本開示のゼータ電位は、一又は複数の実施形態において、研磨速度向上及びスクラッチ低減の観点から、+1mV以上+40mV以下が好ましく、+2mV以上+36mV以下がより好ましく、+6mV以上+36mV以下が更に好ましく、+10mV以上+36mV以下がより更に好ましく、+20mV以上+36mV以下がより更に好ましく、+20mV以上+30mV以下がより更に好ましく、+20mV以上27mV以下がより更に好ましく、+21mV以上+27mV以下がより更に好ましい。
本開示のゼータ電位測定サンプルは、水、成分C、酸(成分B)からなるpHが1.5の組成物であるが、本開示のゼータ測定サンプルのpHが1.5であるとは、pHが1.4~1.6の範囲に存するとの意であり、本開示のゼータ電位測定サンプルが含有する酸(成分B)は、本開示の研磨液組成物が含有する酸(成分B)と同一種である。また、本開示のゼータ電位測定サンプルのpHは25℃において測定され、電極浸漬後2分経過時の測定値である。本開示のゼータ電位測定サンプルのゼータ電位は、具体的には実施例に記載の方法により求めることができる。
【0028】
成分Cの重量平均分子量は、研磨速度向上及び/又はスクラッチ低減の観点から、1000以上が好ましく、3000以上がより好ましく、4000以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、5万以下が好ましく、2万以下がより好ましく、1万以下が更に好ましい。より具体的には、成分Cの重量平均分子量は、1000以上5万以下が好ましく、3000以上2万以下がより好ましく、4000以上1万以下が更に好ましい。本開示において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて実施例に記載の条件で測定される値とする。
【0029】
本開示の研磨液組成物中の成分Cの含有量は、研磨速度向上及び/又はスクラッチ低減の観点から、10質量ppm以上が好ましく、10質量ppm超がより好ましく、15質量ppm以上が更に好ましく、20質量ppm以上がより更に好ましく、そして、同様の観点から、100質量ppm以下が好ましく、100質量ppm未満がより好ましく、60質量ppm以下が更に好ましく、50質量ppm以下がより更に好ましい。同様の観点から、本開示の研磨液組成物中の成分Cの含有量は、10質量ppm以上100質量ppm以下が好ましく、10質量ppm超100質量ppm以下がより好ましく、15質量ppm以上60質量ppm以下が更に好ましく、20質量ppm以上50質量ppm以下がより更に好ましい。本開示において研磨液組成物に含まれる成分Cが2種以上の組合せである場合、成分Cの含有量はそれらの合計含有量をいう。なお、本開示において、1質量%は10,000質量ppmである(以下同じ)。
【0030】
本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量と同成分Cの含有量との質量比A/Cは、研磨速度向上及び/又はスクラッチ低減の観点から、300以上が好ましく、800以上がより好ましく、1600以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、5000以下が好ましく、4500以下がより好ましく、4000以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示の研磨液組成物中の質量比A/Cは、300以上5000以下が好ましく、800以上4500以下がより好ましく、1600以上4000以下が更に好ましい。
【0031】
[水]
本開示の研磨液組成物は、媒体として水を含有する。水としては、蒸留水、イオン交換水、純水、超純水等が挙げられる。本開示の研磨液組成物中の水の含有量は、成分A、成分B、成分C及び後述する任意成分を除いた残余とすることができる。
【0032】
[酸化剤(成分D)]
本開示の研磨液組成物は、研磨速度の向上及びスクラッチ低減の観点から、酸化剤(以下、「成分D」ともいう)をさらに含むことができる。成分Dは、一又は複数の実施形態において、ハロゲン原子を含まない酸化剤である。成分Dは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0033】
成分Dとしては、研磨速度の向上及びスクラッチ低減の観点から、例えば、過酸化物、過マンガン酸又はその塩、クロム酸又はその塩、ペルオキソ酸又はその塩、酸素酸又はその塩、金属塩類、硝酸類、硫酸類等が挙げられる。これらの中でも、過酸化水素、硝酸鉄(III)、過酢酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、硫酸鉄(III)及び硫酸アンモニウム鉄(III)から選ばれる少なくとも1種が好ましく、研磨速度向上の観点、被研磨基板の表面に金属イオンが付着しない観点及び入手容易性の観点から、過酸化水素がより好ましい。
【0034】
本開示の研磨液組成物が成分Dを含む場合、本開示の研磨液組成物中の成分Dの含有量は、研磨速度向上の観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましく、そして、スクラッチ低減の観点から、4質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましく、0.5質量%以下がより更に好ましい。同様の観点から、本開示の研磨液組成物中の成分Dの含有量は、0.01質量%以上4質量%以下が好ましく、0.05質量%以上2質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上1質量%以下が更に好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下がより更に好ましい。本開示において研磨液組成物に含まれる成分Dが2種以上の組合せである場合、成分Dの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0035】
[化合物(成分E)]
本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、スクラッチを一層低減する観点から、分子内にスルホン酸基又はカルボン酸基を有する芳香族化合物、及びアゾール化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(以下、「成分E」ともいう)を更に含有することができる。本開示において研磨液組成物に含まれる成分Eは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0036】
分子内にスルホン酸基を有する芳香族化合物としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸やアルキルベンゼンジスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ジヒドロキシベンゼンジスルホン酸、パラトルエンスルホン酸が挙げられる。
分子内にカルボン酸基(カルボキシ基)を有する芳香族化合物としては、例えば、下記式(II)で表される化合物が挙げられる。
【化2】
式(II)中、R
3及びR
4はそれぞれ独立に、水素原子又は芳香族基であり、k及びlは0~20であり、k+l=1~20の関係を満たす。但し、R
3及びR
4は同時に水素原子とはならない。なお、k及びlはそれぞれ平均付加モル数を示す。
式(II)において、前記芳香族基は、研磨速度向上及びスクラッチ低減の観点から、好ましくはベンジル基又は炭素数1~3のアルキルベンジル基であり、更に好ましくは炭素数1~3のアルキルベンジル基である。炭素数1~3のアルキルベンジル基としては、例えば、メチルベンジル基(キシレン基)等が挙げられる。
式(II)において、kは、研磨液組成物中における研磨速度向上、及び、スクラッチ低減の観点から、20以下が好ましく、15以下がより好ましく、10以下が更に好ましい。kは、同様の観点から、1以上が好ましく、2以上がより好ましい。kは、同様の観点から、1以上20以下が好ましく、2以上15以下がより好ましく、2以上10以下が更に好ましい。
式(II)において、lは、研磨液組成物中における研磨特性確保の観点から、10以下が好ましく、5以下がより好ましく、3以下が更に好ましい。
式(II)において、モル比k/lは、研磨速度向上及びスクラッチ低減の観点から、好ましくは50/50~80/20、より好ましくは80/20~90/10、更に好ましくは93/7~100/0である。
式(II)で表される化合物を構成する各構成単位の配列は、ランダム、ブロック、又はグラフトのいずれでもよい。
式(II)で表される化合物の製造方法としては、例えば、マレイン酸又は無水マレイン酸をキシレン等の溶媒に溶解させ、重合開始剤を添加し、反応を開始し、所定の時間反応させることで製造できる。
アゾール化合物としては、アゾール構造を有するものであれば任意の化合物を用いることができる。これらの中でも、1H-1,2,3-ベンゾトリアゾールが好ましく挙げられる。
【0037】
成分Eとしては、研磨速度向上及びスクラッチ低減の観点から、分子内にスルホン酸基又はカルボン酸基を有する芳香族化合物、及びアゾール化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物が好ましく、パラトルエンスルホン酸、少なくとも一方の末端にメチルベンジル基(キシレン基)を有するポリマレイン酸、及び1H-1,2,3-ベンゾトリアゾールから選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0038】
成分Eの分子量又は重量平均分子量は、研磨速度向上及び/又はスクラッチ低減の観点から、70以上が好ましく、100以上がより好ましく、110以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、1000以下が好ましく、900以下がより好ましく、800以下が更に好ましい。より具体的には、成分Cの分子量又は重量平均分子量は、70以上1000以下が好ましく、100以上900以下がより好ましく、110以上800以下が更に好ましい。
【0039】
本開示の研磨液組成物が成分Eを含む場合、本開示の研磨液組成物中の成分Eの含有量は、研磨速度向上及びスクラッチ低減の観点から、0.0001質量%以上が好ましく、0.001質量%以上がより好ましく、0.002質量%以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示の研磨液組成物中の成分Eの含有量は、0.0001質量%以上5質量%以下が好ましく、0.001質量%以上1質量%以下がより好ましく、0.002質量%以上0.1質量%以下が更に好ましい。成分Eが2種以上の組合せである場合、成分Eの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0040】
[その他の成分]
本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、本開示の効果を損なわない範囲で、必要に応じてその他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、複素環芳香族化合物、脂肪族アミン化合物、脂環式アミン化合物、増粘剤、分散剤、防錆剤、塩基性物質、研磨速度向上剤、界面活性剤、成分C以外のポリマー等が挙げられる。
【0041】
[研磨液組成物のpH]
本開示の研磨液組成物のpHは、研磨速度向上及び/又はスクラッチ低減の観点から、1以上であって、1.2以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、そして、同様の観点から、5以下であって、3以下が好ましく、2以下がより好ましい。より具体的には、本開示の研磨液組成物のpHは、1以上5以下であって、1.2以上3以下が好ましく、1.5以上2以下がより好ましい。pHは、上述した酸(成分B)を用いて調整することができる。また、公知のpH調整剤を併用してもよい。本開示において、上記pHは、25℃において測定したものであり、pHメータを用いて測定でき、pHメータの電極を研磨液組成物へ浸漬して2分後の数値とすることができる。
【0042】
[研磨液組成物の製造方法]
本開示の研磨液組成物は、例えば、成分A、成分B、成分C及び水と、さらに所望により、任意成分(成分D、成分E及びその他の成分)とを公知の方法で配合することにより製造できる。例えば、本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、少なくとも成分A、成分B、成分C及び水を配合してなるものとすることができる。したがって、本開示は、一態様において、少なくとも成分A、成分B、成分C及び水を配合する工程を含む、研磨液組成物の製造方法に関する。本開示において「配合する」とは、成分A、成分B、成分C及び水、並びに必要に応じて任意成分(成分D、成分E及びその他の成分)を同時に又は任意の順に混合することを含む。シリカ粒子(成分A)は、濃縮されたスラリーの状態で混合されてもよいし、水等で希釈してから混合されてもよい。成分Aが複数種類のシリカ粒子からなる場合、複数種類のシリカ粒子は、同時に又はそれぞれ別々に配合できる。成分Bが複数種類の酸からなる場合、複数種類の酸は同時に又はそれぞれ別々に配合できる。成分Cが複数種類の高分子からなる場合、複数種類の高分子は、同時に又はそれぞれ別々に配合できる。前記配合は、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、超音波分散機及び湿式ボールミル等の混合器を用いて行うことができる。研磨液組成物の製造方法における各成分の好ましい配合量は、上述した本開示の研磨液組成物中の各成分の好ましい含有量と同じとすることができる。
【0043】
本開示の研磨液組成物の実施形態は、全ての成分が予め混合された状態で市場に供給される、いわゆる1液型であってもよいし、使用時に混合される、いわゆる2液型であってもよい。
【0044】
本開示において「研磨液組成物中の各成分の含有量」とは、使用時、すなわち、研磨液組成物の研磨への使用を開始する時点における前記各成分の含有量をいう。
本開示の研磨液組成物中の各成分の含有量は、一又は複数の実施形態において、各成分の配合量とみなすことができる。
【0045】
[研磨液組成物の濃縮物]
本開示の研磨液組成物は、その保存安定性が損なわれない範囲で濃縮された状態で保存及び供給されてもよい。この場合、製造及び輸送コストを更に低くできる点で好ましい。本開示の研磨液組成物の濃縮物は、使用時に、必要に応じて前述の水で適宜希釈して使用すればよい。希釈倍率は、希釈した後に上述した各成分の含有量(使用時)を確保できれば特に限定されるものではなく、例えば、10~100倍とすることができる。
【0046】
[研磨液キット]
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を調製するためのキットであって、成分Aを含有する第1液と、成分B及び成分Cを含有する第2液とを、相互に混合されない状態で含む、キット(以下、「本開示の研磨液キット」ともいう)に関する。
前記第1液と前記第2液とは、使用時に混合され、必要に応じて水を用いて希釈されてもよい。前記第1液に含まれる水は、研磨液組成物の調製に使用する水の全量でもよいし、一部でもよい。前記第2液には、研磨液組成物の調製に使用する水の一部が含まれていてもよい。前記第1液及び前記第2液にはそれぞれ必要に応じて、上述した任意成分(成分D、成分E、その他の成分)が含まれていてもよい。前記第1液と第2液との混合時に、上述した任意成分(成分D、成分E、その他の成分)をさらに混合してもよい。
本開示によれば、研磨速度の向上と研磨後の基板表面のスクラッチ低減とを両立でき、保存安定性に優れる研磨液組成物を得ることができる。
【0047】
[被研磨基板]
被研磨基板は、一又は複数の実施形態において、磁気ディスク基板の製造に用いられる基板である。一又は複数の実施形態において、被研磨基板の表面を本開示の研磨液組成物を用いて研磨する工程の後、スパッタ等でその基板表面に磁性層を形成する工程を行うことにより磁気ディスク基板を製造できる。
【0048】
本開示において好適に使用される被研磨基板の材質としては、例えばシリコン、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅、タンタル、チタン等の金属若しくは半金属、又はこれらの合金や、ガラス、ガラス状カーボン、アモルファスカーボン等のガラス状物質や、アルミナ、二酸化珪素、窒化珪素、窒化タンタル、炭化チタン等のセラミック材料や、ポリイミド樹脂等の樹脂等が挙げられる。中でも、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅等の金属及びこれらの金属を主成分とする合金を含有する被研磨基板に好適である。被研磨基板としては、例えば、Ni-Pメッキされたアルミニウム合金基板や、結晶化ガラス、強化ガラス、アルミノシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラス等のガラス基板がより適しており、Ni-Pメッキされたアルミニウム合金基板が更に適している。本開示において「Ni-Pメッキされたアルミニウム合金基板」とは、アルミニウム合金基材の表面を研削後、無電解Ni-Pメッキ処理したものをいう。
【0049】
被研磨基板の形状としては、例えば、ディスク状、プレート状、スラブ状、プリズム状等の平面部を有する形状や、レンズ等の曲面部を有する形状が挙げられる。中でも、ディスク状の被研磨基板が適している。ディスク状の被研磨基板の場合、その外径は例えば2~100mm程度であり、その厚みは例えば0.4~2mm程度である。
【0050】
[基板の研磨方法]
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨することを含み、前記被研磨基板は、磁気ディスク基板の製造に用いられる基板である、基板の研磨方法(以下、「本開示の研磨方法」ともいう)に関する。本開示の研磨方法によれば、研磨速度の向上と研磨後の基板表面のスクラッチ低減とを両立でき、保存安定性に優れる本開示の研磨液組成物を用いることで、高品質の磁気ディスク基板を高収率で、生産性よく製造できる。本開示の研磨方法における前記被研磨基板としては、上述のとおり、磁気ディスク基板の製造に使用されるものが挙げられ、なかでも、垂直磁気記録方式用磁気ディスク基板の製造に用いる基板が好ましい。
【0051】
本開示の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨することは、一又は複数の実施形態において、本開示の研磨液組成物を被研磨基板の研磨対象面に供給し、前記研磨対象面に研磨パッドを接触させ、前記研磨パッド及び前記被研磨基板の少なくとも一方を動かして研磨することであり、或いは、不織布状の有機高分子系研磨布等の研磨パッドを貼り付けた定盤で被研磨基板を挟み込み、本開示の研磨液組成物を研磨機に供給しながら、定盤や被研磨基板を動かして被研磨基板を研磨することである。
【0052】
本開示で使用される研磨パッドとしては、特に制限はなく、例えば、スエードタイプ、不織布タイプ、ポリウレタン独立発泡タイプ、又はこれらを積層した二層タイプ等の研磨パッドを使用することができ、研磨速度向上の観点から、スエードタイプの研磨パッドが好ましい。
【0053】
本開示の研磨液組成物を用いた研磨における研磨荷重は、研磨速度向上の観点から、好ましくは5.9kPa以上、より好ましくは6.9kPa以上、更に好ましくは7.5kPa以上であり、そして、スクラッチ低減の観点から、20kPa以下が好ましく、より好ましくは18kPa以下、更に好ましくは16kPa以下である。本開示の製造方法において研磨荷重とは、研磨時に被研磨基板の研磨面に加えられる定盤の圧力をいう。また、研磨荷重の調整は、定盤及び被研磨基板のうち少なくとも一方に空気圧や重りを負荷することにより行うことができる。
【0054】
本開示の研磨液組成物を用いた研磨における本開示の研磨液組成物の供給速度は、研磨速度向上及び/又はスクラッチ低減の観点から、被研磨基板1cm2当たり、好ましくは0.05mL/分以上15mL/分以下であり、より好ましくは0.06mL/分以上10mL/分以下、更に好ましくは0.07mL/分以上1mL/分以下、更に好ましくは0.07mL/分以上0.5mL/分以下である。
【0055】
本開示の研磨液組成物を研磨機へ供給する方法としては、例えばポンプ等を用いて連続的に供給を行う方法が挙げられる。研磨液組成物を研磨機へ供給する際は、全ての成分を含んだ1液で供給する方法の他、研磨液組成物の安定性等を考慮して、複数の配合用成分液に分け、2液以上で供給することもできる。後者の場合、例えば供給配管中又は被研磨基板上で、上記複数の配合用成分液が混合され、本開示の研磨液組成物となる。
【0056】
[磁気ディスク基板の製造方法]
一般に、磁気ディスクは、研削工程を経た被研磨基板が、粗研磨工程、仕上げ研磨工程を経て研磨され、記録部形成工程にて磁気ディスク化されて製造される。本開示の研磨液組成物は、磁気ディスク基板の製造方法における、被研磨基板を研磨する研磨工程、好ましくは仕上げ研磨工程に使用されうる。
すなわち、本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨する工程(以下、「本開示の研磨液組成物を用いた研磨工程」ともいう)を含む、磁気ディスク基板の製造方法(以下、「本開示の基板製造方法」ともいう)に関する。本開示の基板製造方法は、とりわけ、垂直磁気記録方式用磁気ディスク基板の製造方法に適している。本開示の研磨液組成物を用いた研磨工程における研磨の方法及び条件としては、上述した本開示の研磨方法における研磨と同様の方法及び条件が挙げられる。
【0057】
本開示の研磨液組成物を用いた研磨工程は、一又は複数の実施形態において、本開示の研磨液組成物を被研磨基板の研磨対象面に供給し、前記研磨対象面に研磨パッドを接触させ、前記研磨パッド及び前記被研磨基板の少なくとも一方を動かして研磨する工程である。また、本開示の研磨液組成物を用いた研磨工程は、その他の一又は複数の実施形態において、不織布状の有機高分子系研磨布等の研磨パッドを貼り付けた定盤で被研磨基板を挟み込み、本開示の研磨液組成物を研磨機に供給しながら、定盤や被研磨基板を動かして被研磨基板を研磨する工程である。
【0058】
被研磨基板の研磨工程が多段階で行われる場合は、本開示の研磨液組成物を用いた研磨工程は2段階目以降に行われるのが好ましく、最終研磨工程又は仕上げ研磨工程で行われるのがより好ましい。その際、前工程の砥粒や研磨液組成物の混入を避けるために、それぞれ別の研磨機を使用してもよく、またそれぞれ別の研磨機を使用した場合では、研磨工程毎に被研磨基板を洗浄することが好ましい。さらに、使用した研磨液を再利用する循環研磨においても、本開示の研磨液組成物は使用できる。研磨機としては、特に限定されず、基板研磨用の公知の研磨機が使用できる。
【0059】
本開示の基板製造方法によれば、研磨速度の向上と研磨後の基板表面のスクラッチ低減とを両立でき、研磨液組成物の保存安定性に優れる本開示の研磨液組成物を用いることで、高品質の磁気ディスク基板を高収率で、生産性よく製造できる。
【実施例0060】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本開示はこれら実施例に制限されるものではない。
【0061】
1.高分子C1~C5(成分C又は非成分C)
表1に示す高分子C1~C5には、以下のものを用いた。
C1:ジメチルアミノ変性ポリビニルフェノール[合成品](成分C)
C2:ビス(ジメチルアミノ変性)ポリビニルフェノール[合成品](成分C)
C3:ビス(ジエタノールアミノ変性)ポリビニルフェノール[合成品](成分C)
C4:ポリ(ビス(ジメチルアミノ)メチル)ビニルフェノール[合成品](非成分C)
C5:ポリ(ビニルフェノール/N,N-ジメチルー1-(4-ビニルフェノキシ)メタンアミン)共重合体[丸善石油化学製、マルカリンカ―MAM3ME](非成分C)
高分子C1~C5の合成例を以下に示す。
[高分子C1の合成法]
ポリ(p-ビニルフェノール)(日本曹達製、商品名:VP-2500、重量平均分子量4,400)を4口フラスコに50g添加し、フラスコ上部に冷却管、三方コック及びN2を充填したバルーンを設置した。反応系内を窒素置換した後、イソプロピルアルコール(富士フィルム和光純薬製)100mLを、シリンジを使って注入し、フラスコ全体を包み込むようにドライアイスの入った窯に移し、系全体を冷却、撹拌を開始した。更にトリメチルクロライド(富士フィルム和光純薬製)1.3gを同様にシリンジで注入した。3時間撹拌し、ビニルフェノールの全水酸基をトリメチルシリル基で保護した。次にジメチルアミン(東京化成工業製)0.125gを添加し、撹拌した。更に系全体を冷却・撹拌しながら、ホルムアルデヒドを滴下(滴下速度:5g/時)して、アミノ基の導入を行った。ホルムアルデヒド滴下完了後、テトラブチルアンモニウムフルオリド・テトラヒドロフラン溶液(富士フィルム和光純薬製)を3.3g冷却しながら滴下する(滴下速度:5g/時)ことで、ビニルフェノールの水酸基を脱保護した。最後にエバポレーターでイソプロピルアルコール及びテトラヒドロフランを留去して、高分子C1を得た。重量平均分子量は出発物質であるポリ(p-ビニルフェノール)様、4,400である。表1におけるモル比m/n比は、仕込んだモノマーの仕込み比率及び1H-NMRから算出して確認した。
[高分子C2の合成法]
置換基であるジメチルアミンの添加量を0.25gに変更する以外は、高分子C1の合成法に準拠して、高分子C2を得た。高分子C2の物性値等も、高分子C1と同様の手法で求めた。
[高分子C3の合成法]
置換基をジメチルアミンからジエタノールアミンへ変更し、所望のモル比となるように添加量を調整した以外は高分子C1の合成法に準拠し、高分子C3を得た。高分子C3の物性値も、高分子C1と同様の手法で求めた。
[高分子C4の合成法]
置換基であるジメチルアミンの添加量を0.5gに変更する以外は、高分子C1の合成法に準拠して、高分子C4を得た。高分子C4の物性値等も、高分子C1と同様の手法で求めた。
[高分子C5の合成法]
高分子C5は、一実施形態において、例えば、上述したジアルキルアミンとホルムアルデヒドを用いるマンニッヒ反応により製造できる。重量平均分子量5,000のポリビニルフェノールに対し、ジエチルアミンを任意の量となるように添加し、冷却しながらホルムアルデヒドを滴下し、反応が進行し、高分子C5が得られる。
【0062】
【0063】
2.研磨液組成物の調製(実施例1~11、参考例1及び比較例1~4)
シリカ粒子(成分A)、リン酸(成分B)、表1に示す高分子(成分C又は非成分C)、酸化剤(成分D)、表2に示す化合物(成分E)及びイオン交換水を配合して撹拌することにより、表3に示す実施例1~11、参考例1及び比較例1~4の研磨液組成物を調製した。各研磨液組成物中の各成分の含有量(質量%、有効量)は、表3に示すとおりである。イオン交換水の含有量は、成分Aと、成分Bと、成分C又は非成分Cと、成分Dと、成分Eとを除いた残余である。
【0064】
各研磨液組成物の調製には、成分A、成分B、成分D及び成分Eには以下のものを使用した。
(成分A)
コロイダルシリカ[平均二次粒子径:18nm]
(成分B)
リン酸[濃度85%、富士フィルム和光純薬工業社製]
(成分D)
過酸化水素水[濃度35質量%、ADEKA社製]
(成分E)
表2に示す化合物(成分E1~E3)には、以下のものを用いた。
成分E1:パラトルエンスルホン酸1水和物 [試薬、東京化成工業株式会社製]
尚、表3における本成分の含有量は、パラトルエンスルホン酸(無水物)としての含有量である。
成分E2:末端にメチルベンジル基(キシレン基)を有するポリマレイン酸[花王調製品]
成分E3:1H-1,2,3-ベンゾトリアゾール[試薬 東京化成工業株式会社製]
【0065】
成分E2の調製手順を以下に示す。
<成分E2の調製手順>
攪拌羽根、温度計、ジムロート冷却器、50mLの容量の滴下ろうと、窒素ガスの吹込み管、バブラー管、を接続した300mLの容量の3つ口ガラスフラスコに無水マレイン酸(試薬、東京化成工業株式会社製、30g)、キシレン(富士フィルム和光純薬株式会社製、試薬一級、100g)を加え、オイルバスを用いて100℃に昇温し溶解させる。次に過酸化ベンゾイル(東京化成工業株式会社製、5g)をキシレン(20g)に溶解させ、上記の滴下漏斗に加える。窒素ガスを流し、ジムロート冷却器に水道水を流し、攪拌羽根で回転させながら、上記の滴下漏斗から過酸化ベンゾイル/キシレンを60分かけて均一な速度で滴下する。滴下後、100℃で3時間攪拌したのち、25℃に冷却する。沈殿物として得られるポリマーを取り出し、イオン交換水100gを加え溶解させる、エバポレーターを用いてキシレンを減圧除去することで、成分E2を得る。
成分E2におけるk、lのモル比率は、20mgの成分E2をメタノール10mLに溶解させ、以下の分析条件での液体クロマトグラフィー質量分析法により、平均付加モル数がkである繰り返し単位の含有比率は98.5モル%、平均付加モル数がlである繰り返し単位の含有比率は1.5モル%と算出される。
<分析条件>
装置: Thermo 社製Q-Exactive
カラム: L-column2 ODS(2.1 × 150 mm)
A: 10 mM 酢酸アンモニウム水溶液
B: 10 mM 酢酸アンモニウムメタノール溶液
オーブン温度: 40℃
注入量: 5 μL
流量:0.2 mL/min
B%(min): 5(0)-5(3)-100(15)-100(20)-5(20.1)-5(30)
検出器:MS(ESI) positive, negative
スキャン範囲: m/z 500-1000
【0066】
【0067】
3.各パラメータの測定
[シリカ粒子の平均二次粒子径]
研磨液組成物の調製に用いた成分A(コロイダルシリカ)を0.25質量%濃度となるようにイオン交換水に添加した後、得られた水分散液をDisposable Sizing Cuvette(ポリスチレン製 セル)に下底からの高さ10mmまで入れ、動的光散乱法(装置名:「ゼータサイザーNano ZS」、Malvern Panalytical社製)を用いて測定した。積算回数は20回、検出角は173°において得られる粒子径分布の累積体積割合が50%となる粒径(D50)を求め、コロイダルシリカの平均二次粒子径とした。結果を表3に示す。
【0068】
[シリカ粒子(成分A)の平均粒径比d/d0]
平均粒径d
成分Aの平均粒径dは、表3に示す研磨液組成物をDisposable Sizing Cuvette(ポリスチレン製セル)に下底からの高さ10mmまで入れた後に、動的光散乱法(装置名:「ゼータサイザーNano ZS」、Malvern Panalytical社製)を用いて測定した。積算回数は20回、検出角は173°において得られる粒子径分布のZ-平均値(Z-Averageサイズ)を求め、シリカ粒子の平均粒径dとした。
平均粒径d0
成分Aの平均粒径d0は、表3の研磨液組成物から成分Cが除かれた水分散液、即ち、表3に示すシリカ粒子(成分A)、リン酸(成分B)、過酸化水素(成分D)及びイオン交換水を撹拌混合して得られた水分散液をDisposable Sizing Cuvette(ポリスチレン製 セル)に下底からの高さ10mmまで入れた後に、動的光散乱法(装置名:「ゼータサイザーNano ZS」、Malvern Panalytical社製)を用いて測定した。積算回数は20回、検出角は173°において得られる粒子径分布のZ-平均値(Z-Averageサイズ)を求め、シリカ粒子の平均粒径d0とした。
平均粒径比d/d0
得られた平均粒径d及び平均粒径d0を用いて、平均粒径比d/d0を算出した。結果を表3に示した。
【0069】
[高分子(成分C又は非成分C)及び成分E2の重量平均分子量]
高分子(成分C又は非成分C)及び成分E2の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により下記条件で測定した。結果を表1及び表2に示す。
<測定条件>
カラム:TSKgel GMPWXL+TSKgel GMPWXL(東ソー社製)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/CH3CN=7/3(体積比)
温度:40℃
流速:1.0mL/分
試料サイズ:2mg/mL
検出器:RI
標準物質:ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(重量平均分子量:1,100、3,610、14,900、152,000、POLMER STANDARDS SERVICE社製)
【0070】
[高分子(成分C又は非成分C)のゼータ電位(本開示のゼータ電位)]
高分子(成分C又は非成分C)のゼータ電位は、水溶性高分子(成分C又は非成分C、0.5質量%濃度)と水とを含み、25℃におけるpHが1.5となるように必要に応じて添加されるリン酸(成分B)とから成る組成物(シリカ粒子は含まない)(下記のようにして調製したゼータ電位測定サンプル)を、下記条件に従い、2回測定した平均値である。
<ゼータ電位測定サンプルの調製>
高分子(成分C又は非成分C)、リン酸(成分B)、水を用いて25℃におけるpHが1.5(電極浸漬後2分経過時の測定値)、成分Cの濃度が0.5質量%となるようにゼータ電位測定サンプル(本開示のゼータ電位測定サンプル)を調製した。
<測定条件>
測定装置:ゼータサイザーNano ZS、Malvern Panalytical社製
測定セル:DTS1070,Malvern Panalytical社製
測定温度:25℃
試料の屈折率(RI):1.50
試料の吸収率:0.00
溶媒:水(25℃における粘度:0.8872cP、RI=1.33、誘電率:78.5)
平衡時間:120秒
換算式:ヒュッケル法(κα値=1.00に設定)*κ:デバイーヒュッケルパラメータ、α:粒子半径(ここではポリマー粒子の半径)
積算回数:200回
減衰器の強度及び測定位置はオートで設定した。
【0071】
[pHの測定]
研磨液組成物のpHは、pHメータ(東亜ディーケーケー社製)を用いて25℃にて測定し、電極を研磨液組成物へ浸漬して2分後の数値を採用した。結果を表3に示す。
【0072】
4.研磨方法
調製した実施例1~11、参考例1及び比較例1~4の研磨液組成物を用いて、以下に示す研磨条件にて下記被研磨基板を研磨した。次いで、研磨速度及びスクラッチ数を測定した。その結果を表3に示す。
【0073】
[被研磨基板]
被研磨基板として、Ni-Pメッキされたアルミニウム合金基板を予めアルミナ砥粒を含有する研磨液組成物で粗研磨した基板を用いた。この被研磨基板は、厚さが0.6mm、外径が97mm、内径が25mmであり、AFM(Digital Instrument NanoScope IIIa Multi Mode AFM)により測定した中心線平均粗さRaが1nmであった。
【0074】
[研磨条件]
研磨試験機:スピードファム社製「両面9B研磨機」
研磨パッド:フジボウ社製スエードタイプ(発泡層:ポリウレタンエラストマー、厚さ0.7mm、平均開孔径10μm)
研磨液組成物供給量:100mL/分(被研磨基板1cm2あたりの供給速度:0.145mL/分)
下定盤回転数:24rpm
研磨荷重:10.0kPa
研磨時間:6分間
基板の枚数:10枚
【0075】
5.評価
[研磨速度の評価]
研磨前後の各基板1枚当たりの重さを計り(Sartorius社製、「BP-210S」)を用いて測定し、各基板の質量変化から質量減少量を求めた。全10枚の平均の質量減少量を研磨時間で割った値を研磨速度とし、下記式により算出した。研磨速度の測定結果を、比較例1を100とした相対値として表3に示す。
質量減少量(mg)={研磨前の質量(mg)- 研磨後の質量(mg)}
研磨速度(mg/分)=質量減少量(mg)/ 研磨時間(分)
【0076】
[スクラッチの評価]
測定機器:KLA ・テンコール社製、「Candela OSA6110」
評価:研磨試験機に投入した基板のうち、無作為に4枚を選択し、各々の基板を10,000rpmにてレーザーを照射してスクラッチ数を測定した。その4枚の基板の各々両面にあるスクラッチ数(本)の合計を8で除して、基板面当たりのスクラッチ数を算出した。スクラッチ数の評価結果を、比較例1を100とした相対値として表3に示す。
【0077】
[保存安定性の評価]
(実施例1)
表3の実施例1の研磨液組成物中の成分A及び成分Dを除き、且つ20倍に濃縮した溶液を用意した。つまり、リン酸を20質量%、成分C1を100ppm質量%の溶液を60℃の恒温槽に7日間保管した。保管した溶液を室温に戻し、下記条件に従い、透過率を測定し、800nmにおける透過率値を表3に記載した。尚、沈殿物が保管容器の底で固まり、サンプリング及び測定できない場合もある為、恒温槽に保管する前後において、沈殿物等の発生が目視で確認できなかったものを「A」とした。沈殿物が発生したものを「B」とした。(透過率値が99%以上かつ、目視にて沈殿物が確認できないものが優れた保存安定性を有すると判断した)
[透過率測定条件]
装置:島津製作所製、UV-2700
測定波長:800nm
バックグラウンド測定時の溶液:純水
(実施例2~11、参考例1及び比較例1~4)
実施例2~11、参考例1及び比較例1~4の保存安定性の評価も上記実施例1と同様の手法で実施した。
【0078】
【0079】
上記表3に示すとおり、実施例1~11の研磨液組成物は、成分Cを含まない比較例1~4及び参考例1に比べて、研磨速度の向上と研磨後の基板表面のスクラッチ低減とを両立できていた。さらに、実施例1~11の研磨液組成物は、保存安定性に優れていることが分かった。