(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117100
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】乾式メタン発酵システム及び乾式メタン発酵方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/65 20220101AFI20240822BHJP
C02F 11/04 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
B09B3/65
C02F11/04 A ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022983
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】599109009
【氏名又は名称】全 信 九
(71)【出願人】
【識別番号】522160376
【氏名又は名称】三芦商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】全 信九
【テーマコード(参考)】
4D004
4D059
【Fターム(参考)】
4D004AA02
4D004AA03
4D004AC05
4D004CA18
4D004CA22
4D004CA39
4D004CB50
4D004CC01
4D004CC03
4D004CC07
4D004DA02
4D004DA03
4D004DA06
4D004DA09
4D059AA01
4D059AA03
4D059AA07
4D059BA13
4D059BA28
4D059BA29
4D059BA56
4D059BD00
4D059BK08
4D059CC01
4D059EB01
4D059EB06
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、メタンの生成効率を向上させた乾式メタン発酵システム及び乾式メタン発酵方法を提供することである。
【解決手段】本発明の乾式メタン発酵システムは、有機物を分解して揮発性脂肪酸を生成する第1発酵槽と、前記揮発性脂肪酸を分解して酢酸を生成する第2発酵槽を有することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物を分解して揮発性脂肪酸を生成する第1発酵槽と、前記揮発性脂肪酸を分解して酢酸を生成する第2発酵槽と、を有する
ことを特徴とする乾式メタン発酵システム。
【請求項2】
前記有機物の水分量を75%以下に調整する第1調整手段を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の乾式メタン発酵システム。
【請求項3】
前記第1調整手段が、過熱水蒸気装置、亜臨界装置又は真空装置である
ことを特徴とする請求項2に記載の乾式メタン発酵システム。
【請求項4】
前記第1調整手段が、赤外線炉により発生する水蒸気を用いる
ことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の乾式メタン発酵システム。
【請求項5】
水分量を75%以下に調整した前記有機物を膨張させる膨張手段を有する
ことを特徴とする請求項2に記載の乾式メタン発酵システム。
【請求項6】
前記第1発酵槽内の温度を調整する第2調整手段を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の乾式メタン発酵システム。
【請求項7】
前記第2発酵槽で生成された酢酸と水素資化性メタン生成菌を用いてメタンを生成する水素資化性メタン生成槽を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の乾式メタン発酵システム。
【請求項8】
メタン及び二酸化炭素を含有するバイオガスと前記水素資化性メタン生成菌を前記水素資化性メタン生成槽内で混合する混合手段を有する
ことを特徴とする請求項7に記載の乾式メタン発酵システム。
【請求項9】
ギ酸を前記水素資化性メタン生成槽へ供給する第1供給手段を有する
ことを特徴とする請求項7に記載の乾式メタン発酵システム。
【請求項10】
水素を前記水素資化性メタン生成槽へ供給する第2供給手段を有する
ことを特徴とする請求項7に記載の乾式メタン発酵システム。
【請求項11】
前記第2供給手段は、水素発生装置である
ことを特徴とする請求項10に記載の乾式メタン発酵システム。
【請求項12】
前記第2供給手段は、プロトン粉末を添加する
ことを特徴とする請求項10に記載の乾式メタン発酵システム。
【請求項13】
前記水素資化性メタン生成菌を培養する水素資化性メタン生成菌培養槽を有する
ことを特徴とする請求項8に記載の乾式メタン発酵システム。
【請求項14】
前記水素資化性メタン生成菌培養槽内の水素分圧を調整する第3調整手段、及び前記水素資化性メタン生成菌培養槽内の温度を調整する第4調整手段を有する
ことを特徴とする請求項7に記載の乾式メタン発酵システム。
【請求項15】
発酵残渣のペレットを、前記赤外線炉の燃料とする
ことを特徴とする請求項4に記載の乾式メタン発酵システム。
【請求項16】
有機物を分解して揮発性脂肪酸を生成する工程と、前記揮発性脂肪酸を分解して酢酸を生成する工程を、それぞれ別の発酵槽で行う
ことを特徴とする乾式メタン発酵方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾式メタン発酵システム及び乾式メタン発酵方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ガスは、エネルギー源として利用されている化石燃料の中で、燃焼時のCO2排出量が最も少なく、環境にやさしいとされている。天然ガスの主な成分は、メタンである。メタンの生成の作用機構は、地下の堆積層中に生息していたプランクトンや有機物が、長い年月を経て地熱により分解され生成する熱分解作用が考えられる。また、地下に常在している微生物により分解され生成する生分解作用が考えられる。
【0003】
この作用機構に基づき、家畜排せつ物や生ごみなどの廃棄物をメタン発酵させ、発酵熱やバイオガスなどを回収し、エネルギーとして利用する技術の開発が進められている。
【0004】
EU Renewable Energy Directive 2009の報告では、化石燃料を使用する場合と比較して、肥料から得られるメタンを使用することにより、CO2排出量を削減できる。その削減量は、湿式肥料では84%、乾式肥料では86%である。
【0005】
また、メタン発酵は、嫌気性条件を維持するため、密閉された槽(タンク)内で処理を行う。これにより、悪臭の拡散を回避できる。
【0006】
メタン発酵で得られるバイオガスは、おおよそ、55~60%の範囲内のメタン、35~40%の範囲内の二酸化炭素、2%の硫化水素、2%以下の窒素、2%以下の酸素、及び1%以下の水素で構成されている。そのため、近年では、バイオガスにおけるメタンの占める割合を高め、CO2排出量をより削減する方法が検討されている。
【0007】
特許文献1では、嫌気性処理における高級脂肪酸の分解効率を高める技術が開示されている。しかし、当該技術は、高級脂肪酸特有の、嫌気性処理条件下でβ酸化により低分子化されにくいという問題に対するものであり、有機物全般において分解効率を高める技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、メタンの生成効率を向上させた乾式メタン発酵システム及び乾式メタン発酵方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討した結果、有機物を分解して揮発性脂肪酸を生成する槽と、揮発性脂肪酸を分解して酢酸を生成する槽を分けることにより、メタンの生成効率を向上できることを見出し本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0011】
1.有機物を分解して揮発性脂肪酸を生成する第1発酵槽と、前記揮発性脂肪酸を分解して酢酸を生成する第2発酵槽と、を有する
ことを特徴とする乾式メタン発酵システム。
【0012】
2.前記有機物の水分量を75%以下に調整する第1調整手段を有する
ことを特徴とする第1項に記載の乾式メタン発酵システム。
【0013】
3.前記第1調整手段が、過熱水蒸気装置、亜臨界装置又は真空装置である
ことを特徴とする第2項に記載の乾式メタン発酵システム。
【0014】
4.前記第1調整手段が、赤外線炉により発生する水蒸気を用いる
ことを特徴とする第2項又は第3項に記載の乾式メタン発酵システム。
【0015】
5.水分量を75%以下に調整した前記有機物を膨張させる膨張手段を有する
ことを特徴とする第2項に記載の乾式メタン発酵システム。
【0016】
6.前記第1発酵槽内の温度を調整する第2調整手段を有する
ことを特徴とする第1項に記載の乾式メタン発酵システム。
【0017】
7.前記第2発酵槽で生成された酢酸と水素資化性メタン生成菌を用いてメタンを生成する水素資化性メタン生成槽を有する
ことを特徴とする第1項に記載の乾式メタン発酵システム。
【0018】
8.メタン及び二酸化炭素を含有するバイオガスと前記水素資化性メタン生成菌を前記水素資化性メタン生成槽内で混合する混合手段を有する
ことを特徴とする第7項に記載の乾式メタン発酵システム。
【0019】
9.ギ酸を前記水素資化性メタン生成槽へ供給する第1供給手段を有する
ことを特徴とする第7項に記載の乾式メタン発酵システム。
【0020】
10.水素を前記水素資化性メタン生成槽へ供給する第2供給手段を有する
ことを特徴とする第7項に記載の乾式メタン発酵システム。
【0021】
11.前記第2供給手段は、水素発生装置である
ことを特徴とする第10項に記載の乾式メタン発酵システム。
【0022】
12.前記第2供給手段は、プロトン粉末を添加する
ことを特徴とする第10項に記載の乾式メタン発酵システム。
【0023】
13.前記水素資化性メタン生成菌を培養する水素資化性メタン生成菌培養槽を有する
ことを特徴とする第8項に記載の乾式メタン発酵システム。
【0024】
14.前記水素資化性メタン生成菌培養槽内の水素分圧を調整する第3調整手段、及び前記水素資化性メタン生成菌培養槽内の温度を調整する第4調整手段を有する
ことを特徴とする第7項に記載の乾式メタン発酵システム。
【0025】
15.発酵残渣のペレットを、前記赤外線炉の燃料とする
ことを特徴とする第4項に記載の乾式メタン発酵システム。
【0026】
16.有機物を分解して揮発性脂肪酸を生成する工程と、前記揮発性脂肪酸を分解して酢酸を生成する工程を、それぞれ別の発酵槽で行う
ことを特徴とする乾式メタン発酵方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明の上記手段により、メタンの生成効率を向上させた乾式メタン発酵システム及び乾式メタン発酵方法を提供することができる。
【0028】
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。なお、詳細については後述する。
【0029】
有機物を分解して揮発性脂肪酸を生成する反応では、揮発性脂肪酸の他にH2(水素)が発生する。また、揮発性脂肪酸を分解して酢酸を生成する反応では、酢酸の他にH2が発生する。そのため、これらの反応を、同一の発酵槽で行おうとすると、揮発性脂肪酸を生成する反応により発生したH2の蓄積により、酢酸を生成する反応が進行しづらくなる。
【0030】
そこで、本発明では、有機物を分解して揮発性脂肪酸を生成する反応と、揮発性脂肪酸を分解して酢酸を生成する反応を、それぞれ別の槽で行う。これにより、酢酸の生成効率が向上し、更に、その後のメタン生成において、メタンの生成効率が向上すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の実施形態の乾式メタン発酵システムのシステム構成とフローを説明するための図
【
図2】有機物を微生物により分解するメタン発酵の各反応工程を示す図
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の実施形態の乾式メタン発酵システム100は、乾燥装置1、第1発酵槽7、第2発酵槽8、酢酸資化性メタン生成槽9、水素資化性メタン生成槽10、水素資化性メタン生成菌培養槽11、ギ酸槽12、水素発生装置13、プロトン粉末槽14、堆肥発酵槽15、脱硫装置16、バイオガス貯蔵槽17、及びペレット装置18を備える。
【0033】
乾燥装置1は、亜臨界装置2、真空装置3及び過熱水蒸気装置5のうちいずれか一つを備え、さらに、赤外線炉4及び排熱回収発電装置6を備える。
乾燥装置1は、有機物の水分量を75%以下に調整する第1調整手段として機能する。また、乾燥装置1は、赤外線炉4により発生する水蒸気を用いる。さらに、乾燥装置1は、水分量を75%以下に調整した有機物を温度調整等により膨張させる膨張手段としての機能も有する。
【0034】
第1発酵槽7は、有機物を分解して揮発性脂肪酸を生成する。第1発酵槽7は、温度を調整する第1温度調整装置(第2調整手段)7aを有し、槽内の温度調整が可能である。
第2発酵槽8は、第1発酵槽7で生成された揮発性脂肪酸を分解して酢酸を生成する。
酢酸資化メタン生成槽9は、酢酸資化性メタン生成菌により、酢酸からメタンを生成する。
【0035】
水素資化性メタン生成槽10は、メタン及び二酸化炭素を含有するバイオガスと水素資化性メタン生成菌を混合する混合装置(混合手段)を有し、水素と、二酸化炭素から、水素資化性メタン生成菌によりメタンを生成する。
ギ酸槽12は、水素資化性メタン生成槽10へギ酸を供給する第1供給手段として機能する。
【0036】
水素発生装置13は、水素を生成し、当該水素を水素資化性メタン生成槽10へ供給する第2供給手段として機能する。
プロトン粉末槽14は、水素資化性メタン生成槽10にプロトン粉末を添加する第2供給手段として機能する。
【0037】
水素資化性メタン生成菌培養槽11は、槽内の水素分圧を調整する水素分圧調整装置(第3調整手段)11a、及び槽内の温度を調整する第2温度調整装置(第4調整手段)11bを有する。
【0038】
また、本発明の実施形態の乾式メタン発酵方法では、有機物を分解して揮発性脂肪酸を生成する工程と、前記揮発性脂肪酸を分解して酢酸を生成する工程を、それぞれ別の発酵槽で行う。
【0039】
以下、本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0040】
以下、本実施形態の乾式メタン発酵システムと、当該システムを用いて乾式メタン発酵を行う方法について説明する。
【0041】
1.乾式メタン発酵システム及び乾式メタン発酵方法の概要
本実施形態の乾式メタン発酵システムは、有機物を分解して揮発性脂肪酸を生成する第1発酵槽と、前記揮発性脂肪酸を分解して酢酸を生成する第2発酵槽を有する。
本実施形態の乾式メタン発酵方法は、有機物を分解して揮発性脂肪酸を生成する工程と、前記揮発性脂肪酸を分解して酢酸を生成する工程を、それぞれ別の発酵槽で行う。
【0042】
有機物は、大別して、蛋白質、脂質及び炭水化物に分類できる。これらの高分子成分は、加水分解微生物群によって、それぞれ、構成単位のアミノ酸、グリセリンと脂肪酸、及びグルコースに低分子化される。その後、微生物反応が進行し、各種脂肪酸を経由して酢酸と水素に分解される。
【0043】
そして、酢酸は、下記(式1)で表される反応で、酢酸資化性メタン発酵菌により、メタン(CH4)と二酸化炭素(CO2)に分解される。
また、水素は、下記(式2)で表される反応で、水素資化性メタン発酵菌により、二酸化炭素(CO2)と反応する。そして、メタン(CH4)と水(H2O)が生成される。
なお、有機物の分解によって生成したCH4及びCO2を含むガスを、「バイオガス」と称する。
【0044】
(式1) CH3COOH→CH4+CO2
(式2) 4H2+CO2→CH4+2H2O
【0045】
メタン発酵には、約55℃で分解速度が速まる高温メタン発酵と、約35℃で分解速度が速まる中温メタン発酵との二種類がある。高温メタン発酵は、中温メタン発酵に比べて有機物の分解速度が速いため、中温メタン発酵の約2~4倍のバイオガスを回収できる。また、高温による病原性細菌の死滅効果も期待できる。ただし、高温メタン発酵は、装置の維持に多大な熱エネルギーを要する。
【0046】
また、メタン発酵後に排出される発酵残渣は、無機態及び有機態の窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)などの肥料成分を含む。そのため、発酵残渣を、作物栽培の肥料として利用できる。
【0047】
メタン発酵には湿式型と乾式型がある。湿式型は、出発物質である高分子有機化合物における水分量が、乾式型と比較して多く、発酵残渣として消化液が排出される。消化液の処理は大変難しく、化学的処理及び生物学的処理を行う必要がある。これらの処理には、コスト、汚泥処理及び悪臭の問題がある。
一方、乾式型では、発酵残渣として固形物が排出されるため、処理が容易である。
【0048】
図2に、有機物を微生物により分解するメタン発酵の各反応工程を示す。
(反応1)
蛋白質、脂質及び炭水化物で構成される高分子有機物が、加水分解細菌により、それぞれ、アミノ酸、脂肪酸、糖類などの低分子有機物に、加水分解される。
(反応2)
低分子有機物が、酸生成細菌の酸化作用により、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸などの揮発性脂肪酸(Volatile Fatty Acid:「VFA」)に分解される。
(反応3)
揮発性脂肪酸が、共生酢酸生成細菌(Syntrophic acetogenic bacteria)により、水素、二酸化炭素、酢酸に分解される。
(反応4)
メタン生成古細菌が、水素、二酸化炭素及び酢酸をエネルギー源として利用し、メタンを生成する。
【0049】
なお、メタン発酵槽中の微生物群集は、有機物を分解する細菌群集と、メタンを生成するメタン生成古細菌群からなる。
【0050】
出発物質である高分子有機化合物は、特に制限されないが、家庭用生ゴミ、下水汚泥、家畜糞尿などの廃棄物であることが好ましい。これらは、主成分が異なる有機物の集合体であり、成分組成や発酵環境条件が、その時々によって大きく変わる。そして、発酵速度、バイオガス生成量、ガス組成などの発酵特性に大きく影響する。
【0051】
また、微生物の組成に偏りがあると、反応工程で生成するアンモニアや揮発性脂肪酸の組成比の均衡が崩れ、メタン生成古細菌の生育を阻害することが知られている。そのため、メタン発酵の装置又は施設を建設する際には、一般的に、発酵特性と環境条件を決定するためのバッチ式実験を行う。バッチ式実験では、出発物質である発酵対象物の最適負荷量、環境条件などを検証し、発酵速度、バイオガス生成量、ガス組成、阻害要因を把握する必要がある。
【0052】
ここで、揮発性脂肪酸が、水素、二酸化炭素、酢酸に分解される反応3について、詳しく説明する。なお、揮発性脂肪酸として、プロピオン酸を例に挙げる。
プロピオン酸が、共生酢酸生成細菌により酢酸に分解される反応3は、下記の(式3)で表される。
(式3) CH3CH2COO-+3H2O→CH3COO-+HCO3
-+H++3H2
【0053】
上記(式3)で表される反応における標準自由エネルギーΔG0は、+76.1kJ/molである。標準自由エネルギーΔG0が正の値であるため、熱等の外部からのエネルギーを供給することにより、当該反応は進行する。ただし、生成物であるH2が蓄積すると反応が進行しなくなるため、H2を除去する必要がある。
【0054】
一方、上記反応1及び2では、低分子有機物や揮発性脂肪酸の他に、H2が生成する。そのため、反応1及び2と、反応3を、同一の発酵槽内で行おうとすると、反応1及び2で生成したH2の蓄積により、反応3が進行しづらくなってしまう。
そこで、本実施形態では、反応1及び2を行う発酵槽と、反応3を行う発酵槽を分けることにより、反応3の進行を促進できる。
【0055】
また、反応3で生成した水素及び二酸化炭素をエネルギー源として、メタン生成古細菌がメタンを生成する反応4は、下記の(式4)で表される。ここで用いられるメタン生成古細菌は、水素資化性メタン生成菌である。
(式4) 4H2+HCO3
-+H+→CH4+3H2O
【0056】
上記(式4)で表される反応における標準自由エネルギーΔG0は、-135.6kJ/molである。標準自由エネルギーΔG0が負の値であるため、外部からのエネルギーを供給しなくとも、当該反応は自然に進行する。
【0057】
そして、上記(式3)と(式4)が共役すると、その共役反応は、下記の(式5)で表される。
(式5) 4CH3CH2COO-+3H2O→4CH3COO-+HCO3
-+H++3CH4
【0058】
上記(式5)で表される反応における標準自由エネルギーΔG0は、-102.4kJ/molである。標準自由エネルギーΔG0が負の値であるため、外部からのエネルギーを供給しなくとも、当該反応は自然に進行する。そのため、反応4については、水素資化性メタン生成菌を用いることにより、反応3で生成するH2を除去でき、反応3の進行を促進できる。
【0059】
2.乾式メタン発酵システム及び乾式メタン発酵方法の構成
本実施形態の乾式メタン発酵方法は、有機物を分解して揮発性脂肪酸を生成する工程と、前記揮発性脂肪酸を分解して酢酸を生成する工程を有し、かつそれぞれの工程を、別の発酵槽で行う。つまり、下記一連の工程のうち、工程D及びFを必須で有し、その他の工程については、必要に応じて有することが好ましい。
【0060】
本実施形態の乾式メタン発酵システムは、有機物を分解して揮発性脂肪酸を生成する第1発酵槽7と、前記揮発性脂肪酸を分解して酢酸を生成する第2発酵槽8を有する。つまり、下記一連の工程を実施する手段のうち、工程D及びFを実施するための第1発酵槽7及び第2発酵槽8を必須で有する。その他の工程を実施する手段については、必要に応じて有することが好ましい。
【0061】
A)発酵槽を準備する工程
B)メタン菌を培養する工程
C)対象物を乾燥及び膨張させる工程
D)対象物を混合し、1次発酵させる工程
E)水素資化性メタン生成菌を培養する工程
F)対象物を2次発酵させる工程
G)対象物を3次発酵させる工程
H)水素を混入し、対象物を4次発酵させる工程
I)発酵残渣を更に発酵し、脱臭する工程
J)発酵残渣をペレット化する工程
K)バイオガスから硫化水素を除去する工程
【0062】
図1は、本実施形態の乾式メタン発酵システムのシステム構成とフローを説明するための図である。実線の矢印は、出発物質である高分子有機物由来の成分の流れを表す。点線の矢印は、当該システムに供給される熱(水蒸気)、ギ酸及び水素の流れを表す。
本実施形態では、
図1における第1発酵槽7と第2発酵槽8を必須で有する。酢酸資化性メタン生成槽9及び水素資化性メタン生成槽10は、それぞれ設けてもよいし、引き続き、第2発酵槽を、酢酸資化性メタン生成槽9及び水素資化性メタン生成槽10として用いてもよい。
【0063】
上記反応1は、工程C及びDにて生じると考えられる。上記反応2は、工程Dにて生じると考えられる。上記反応3は、工程Fにて生じると考えられる。上記反応4は、工程G及びHで生じると考えられる。
【0064】
以下、上記工程の詳細及びそれを実施する手段の一例について説明する。なお、本発明は、これに制限されない。
【0065】
A)発酵槽を準備する工程
本実施形態では、上記反応1及び2を行う第1発酵槽7と、上記反応3を行う第2発酵槽8を分けることにより、上記反応3の進行を促進できる。そのため、少なくとも二つ以上の発酵槽を用いる。
【0066】
第1発酵槽7、第2発酵槽8、酢酸資化性メタン生成槽9及び水素資化性メタン生成槽10は、乾式型で用いられる密閉型のものであれば、特に制限されない。
第1発酵槽7、第2発酵槽8、酢酸資化性メタン生成槽9及び水素資化性メタン生成槽10の一例を示す。ただし、発酵槽はこれに制限されない。
【0067】
発酵槽には、有機物を入れるホッパー、及び発生する水蒸気とメタンを分離する装置を取り付ける。また、発酵槽には、汚泥を排出するバルブ、メタンを排出するバルブ、及び測定範囲が0~0.3MPaの範囲内である圧力計を取り付ける。発酵槽の上部には、pH計及び温度計を取り付ける。
【0068】
発酵槽の更に上部には、水素発生器をつなげ、測定範囲が0~0.3MPaの範囲内である圧力計で、水素分圧を調整する。具体的には、発生する酸水素ガス(HHO)を水の中に通し、純粋な水素のみを発酵槽に入れる。
【0069】
B)メタン菌を培養する工程
本実施形態では、自然界にあるメタン菌を、例えば2週間培養することが好ましい。
メタン菌の培養の一例を示す。ただし、メタン菌の培養はこれに制限されない。培養されたメタン菌は、第1発酵槽7に添加される。
【0070】
微生物の代謝産物であるポリフェノールの一種、Mineral elements、その他いくつかの種類の有機物を混合し、嫌気発酵させ、メタン菌を培養する。これにより、好熱性菌であり、Thermotogales目に属する酢酸酸化菌と共生酢酸生成細菌(Syntrophic acetogenic bacteria)が活性化する。蛋白質や繊維分解菌を更に分解するClostridials目に属する分解菌が活性化する。古細菌は、水素資化性メタン生成菌であるMethanoculleus thermopyilus、Methanobacteriaceae、Methanothermaceaeと、酢酸資化性メタン生成菌であるMetyanosarcinaが活性化する。
【0071】
共生酢酸酸化細菌と水素資化性メタン生成菌によるメタン生成が約80%、酢酸資化性メタン生成菌によるメタン生成が約20%であることが、研究によりわかっている。メタン発酵では、共生酢酸酸化細菌と水素資化性メタン生成菌の共役による高効率な酢酸分解によって、メタンの生成効率を向上できる。
【0072】
C)対象物を乾燥及び膨張させる工程
本実施形態では、乾式メタン発酵方式によりメタン発酵を行う。なお、本明細書では、「乾式メタン発酵方式」のことを、単に、「乾式」又は「乾式型」ともいう。
発酵の対象物である高分子有機物としては、食品廃棄物、動物の糞尿等の廃棄物、紙ごみ、剪定枝等が挙げられる。
【0073】
乾式型では、高分子有機物における水分量が、70~75%の範囲内であることが好ましい。そのため、高分子有機物における水分量が75%超である場合には、乾燥装置1で乾燥させ、水分量を調整することが好ましい。また、高分子有機物を乾燥させ、さらに、温度を下げて膨張させることにより、高分子有機物が低分子化される。
【0074】
本実施形態では、高分子有機物における水分量が90%超である場合、過熱水蒸気を用いて水分量を調整することが好ましい。また、高分子有機物における水分量が75%超、90%以下の範囲内である場合、亜臨界水又は真空装置を用いて水分量を調整することが好ましい。亜臨界水又は真空装置を用いる場合、過熱水蒸気を用いる場合に比べて、乾燥に時間を要する。そのため、除去する水分量が比較的少ない場合は、亜臨界水又は真空装置を用いて乾燥することにより、所望の水分量に調整しやすい。
【0075】
水分量を調整した高分子有機物は、1時間以内に、その温度を約70℃に下げることが好ましい。高分子有機物の温度を素早く落とすことにより、高分子有機物が膨張し、より分解されやすくなる。特に、植物には、難分解性であるセルロースが豊富に含まれており、早い段階でセルロースをデンプンに分解することにより、酢酸の生成効率を上げることができる。
【0076】
(1)過熱水蒸気による水分量調整
過熱水蒸気は伝熱性が高いため、熱風(加熱した空気)を用いる場合と比べて、高分子有機物を効率よく乾燥できる。また、本実施形態で最終的に得られるペレットを、過熱水蒸気を発生させる際のエネルギー源として使用できる。
【0077】
過熱水蒸気は、無色透明のH2Oガスである。150~300℃の範囲内の過熱水蒸気の乾燥能力(熱容量)は、熱風乾燥と比べて6.5~13倍であり、乾燥能力が非常に高い。
【0078】
水の蒸発速度は、熱風乾燥と比べて過熱水蒸気の方が速い。また、過熱水蒸気は、酸素を含まないため、無酸素状態で熱処理できる。乾燥能力は、気体1m3当たりの熱容量により比較できる。例えば、気体の温度を150℃として比較した場合、過熱水蒸気は、熱風と比べて、乾燥能力が13倍高い。つまり、過熱水蒸気を用いることにより、高分子有機物を非常に短時間で乾燥できる。
【0079】
過熱水蒸気の温度は、特に制限されないが、120~1000℃の範囲内であることが好ましく、150~800℃の範囲内であることがより好ましく、150~200℃の範囲内であることが更に好ましい。上記範囲内であることにより、高分子有機物の水分量を効率よく調整でき、かつ塩化水素等の発生量を低減できる。
【0080】
過熱水蒸気の温度は、高分子有機物の水分量等に応じて、上記範囲内で適宜設定できる。すなわち、高分子有機物の水分量が多い場合、過熱水蒸気の温度は、比較的高温に設定する。高分子有機物の水分量が少ない場合、過熱水蒸気の温度は、比較的低温に設定する。
【0081】
高分子有機物を過熱水蒸気に接触させる時間は、特に制限されないが、10分以内であることが好ましい。
【0082】
(2)亜臨界水による水分量調整
水の温度及び圧力を、374℃、22MPa以上まで上げると、液体でも気体でもない状態となる。この点を、「臨界点」という。また、臨界点より低い近傍の領域の状態の水のことを、「亜臨界水」という。
【0083】
亜臨界水は、有機物の溶解作用及び加水分解作用を有する。そのため、亜臨界水を用いて乾燥することにより、高分子有機物の水分量を調整でき、かつ高分子有機物を低分子化できる。
【0084】
亜臨界水の温度は、水の臨界温度以下の比較的高温であればよく、160~190℃の範囲内であることが好ましい。また、亜臨界水の圧力は、飽和水蒸気圧以上とする。亜臨界装置内において、亜臨界水を高分子有機物に接触させ、高分子有機物を乾燥させ、かつ低分子化させる。亜臨界水の処理時間は、特に制限されないが、10~20分の範囲内であることが好ましい。
【0085】
(3)真空装置による水分量調整
装置内の気圧を下げ、真空に近い状態にすることで、空気内の水蒸気分圧が下がり、水分の沸点が低下する。これにより、蒸発速度が加速し、乾燥を速めることができる。
【0086】
真空装置3は、大排気量のポンプを組み込むことで排気速度を速めた真空装置を用いることが好ましい。
【0087】
真空装置3を用いて乾燥する一例を示す。
真空装置3内に、5~10分の範囲内の時間をかけて、飽和水蒸気を入れる。そして、3~4MPaの範囲内の真空状態で20~40分の範囲内で維持し、1次真空とする。その後、真空装置3内の水蒸気を除去し、2次真空とする。一連の工程により、効率よく乾燥できる。また、2次真空を行うことにより、高分子有機物からより多くの水分を除去できるため、その後の加水分解反応を促進させることができる。
【0088】
D)対象物を混合し、1次発酵させる工程
本実施形態では、発酵の対象物である一部低分子化した高分子有機物を混合し、1次発酵させることにより低分子有機物、さらに、揮発性脂肪酸に分解することが好ましい。
【0089】
水分量を70~75%の範囲内、温度を約70℃に調整した対象物を、特殊な混練機で30~60分間の範囲内で混合する。そして、この混合物を、第1発酵槽7で、水理学的滞留時間(hydraulic retention time:「HRT」)2~3日で嫌気発酵させる。
【0090】
嫌気発酵時、対象物の温度を、約70℃から50℃にまで下げることで、加水分解細菌により、高分子有機物が低分子有機物に分解される。そして、酸生成細菌の酸化作用により、低分子有機物が、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸などの揮発性脂肪酸(volatile fatty acid:「VFA」)に分解される。温度は、第1温度調整装置7aを用いて調整する。
【0091】
E)水素資化性メタン生成菌を培養する工程
本実施形態では、水素資化性メタン生成菌を第1発酵槽7から取り出し、第2発酵槽8とは別の槽に移して培養することが好ましい。そして、培養した水素資化性メタン生成菌を、4次発酵時に発酵槽へ供給する。これにより、4次発酵におけるメタンの生成効率を向上できる。なお、4次発酵については、詳しくは後述する。
【0092】
水素分圧調整装置11aを利用して、第1発酵槽7から、固形分全体の約5~10%を、気体と共に水素資化性メタン生成菌培養槽11へ移送する。そして、温度50℃以上、pH値6.0~7.0の範囲内、HRT3日で、水素資化性メタン生成菌を培養する。温度は、第2温度調整装置11bを用いて調整する。
【0093】
F)対象物を2次発酵させる工程
本実施形態では、上記反応1及び2を行う第1発酵槽7と、上記反応3を行う第2発酵槽8を分ける。つまり、第1発酵槽7で生成した固形物を、水素分圧を調整して第2発酵槽8に移送する。
【0094】
前述のとおり、上記反応1及び2では、低分子有機物や揮発性脂肪酸の他に、H2が生成する。そのため、上記反応1及び2と、上記反応3を、同一の発酵槽内で行おうとすると、上記反応1及び2で生成したH2の蓄積により、上記反応3が進行しなくなってしまう。そこで、第1発酵槽7で生成した固形物を、水素分圧が低くなるよう調整して第2発酵槽8に移送することにより、上記反応3を進行させやすくする。
【0095】
第2発酵槽8に移送された対象物を、温度50℃、pH値6.5~8.0の範囲内、HRT3日で嫌気発酵させる。揮発性脂肪酸は、酸生成細菌(共生酢酸生成細菌:syntrophic acetogenic bacteria)により、水素、二酸化炭素及び酢酸に分解される。
【0096】
G)対象物を3次発酵させる工程
本実施形態では、前述のとおり、水素資化性メタン生成菌を用いて上記反応4を行うことにより、揮発性脂肪酸を、メタンに分解することが好ましい。
【0097】
メタン発酵は、酸素、硫酸、硝酸、鉄イオンといった電子受容体がほとんど存在しない環境下で行われる。そのため、メタン発酵の環境下、微生物は、有機物の還元性を利用して生育する。ただし、前述のとおり、メタン発酵では、揮発性脂肪酸が生成すると、それに応じて水素が蓄積するため、揮発性脂肪酸の分解反応が進行しづらくなる。特に、揮発性脂肪酸がプロピオン酸である場合、その影響が顕著であり、プロピオン酸が蓄積してしまう。
【0098】
ただし、特定の環境下では、プロピオン酸酸化細菌と水素資化性メタン生成菌が共生する場合がある。この場合、蓄積した水素を、水素資化性メタン生成菌により、メタンにできるため、水素の蓄積が軽減し、プロピオン酸を酢酸に分解する反応が進行する。そして、酢酸資化性メタン生成菌により、酢酸からメタンを生成する反応が進行する。
(式1) CH3COOH→CH4+CO2
(式2) 4H2+CO2→CH4+2H2O
【0099】
具体的には、発酵槽内の対象物を、温度55~60℃の範囲内、HRT12~18日の範囲内で嫌気発酵させる。なお、発酵槽は、引き続き、第2発酵槽8を用いてもよいし、新たに、酢酸資化性メタン生成槽9を設けてもよい。
HRTを12~18日の範囲内とすることにより、発生するバイオガスの最大量が得られる。有機物濃度(VS)当たりのバイオガス発生量は、通常の発生量の約1.5倍増加することが確認されている。
従来方式:0.90Nm3/kg-VS
本実施形態 :1.35Nm3/kg-VS
【0100】
また、湿式型でのメタン発酵と比較して、HRTを短くできる。つまり、本実施形態を、連続的に高分子有機物を投入する連続式に適用する場合、高分子有機物を乾燥し水分量を調整した日の3週間後から、メタンが得られる。
【0101】
H)水素を混入し、対象物を4次発酵させる工程
本実施形態では、水素と、3次発酵で生成した二酸化炭素から、水素資化性メタン生成菌によりメタンを生成することが好ましい。
【0102】
引き続き、第2発酵槽8又は酢酸資化性メタン生成槽9で4次発酵を行ってもよい。ただし、メタン生成効率の観点から、3次発酵で得られたバイオガスと、培養していた水素資化性メタン生成菌を、水素資化性メタン生成槽10に移して4次発酵させることが好ましい。この場合、酢酸資化性メタン生成槽9に残留した発酵残渣は、4次発酵終了後の発酵残渣と同様に、更に発酵させて脱臭し、その後ペレット化することが好ましい。
【0103】
高分子有機物を発酵し、分解することにより、全有機炭素(total organic carbon:「TOC」)は低下する。これは、最終的に二酸化炭素が生成し、その二酸化炭素が有機物に該当しないためである。ただし、水素と二酸化炭素から、水素資化性メタン生成菌によりメタンを生成すると、TOCは増加する。さらに、発酵槽内にギ酸資化性メタン生成菌が存在する場合には、ギ酸を添加すると、メタンを生成する反応が更に進行する。
【0104】
水素と二酸化炭素から、水素資化性メタン生成菌によりメタンを生成する反応は、下記(式6)及び(式7)で表される。ただし、(式6)はイオン反応式である。
(式6)CO2+8H++8e-→CH4+2H2O
(式7)4H2+CO2→CH4+2H2O
ギ酸と水素から、ギ酸資化性メタン生成菌によりメタンを生成する反応は、下記(式8)で表される。
(式8)4HCOO-+4H+→CH4+3CO2+2H2O
生成される二酸化炭素から、さらに、水素資化性メタン生成菌によりメタンを生成することができる。
【0105】
つまり、二酸化炭素と水素の比率が1:4となるよう、水素発生器を稼働させてメタン生成槽に水素を注入することにより、メタンを生成する反応が進行する。また、水素分子を水素イオンと電子に分解した状態にすることにより、メタンを生成する反応が更に進行する。
【0106】
水素分子は、例えば、電気分解により、水素イオンと電子に分解した状態にすることができる。ここで、「電気分解」とは、化合物に電圧又は電位をかけることにより、陰極で還元反応、陽極で酸化反応を生じさせ、化合物を化学分解する方法のことをいう。
【0107】
水素発生器を稼働させて純粋な水素を注入する、又はプロトンの粉末を供給することが好ましく、酢酸資化性メタン生成槽9内のpH値より判断することが好ましい。温度50℃以上、pH値7.0~9.0の範囲内、圧力0~20Paの範囲内で、メタンを生成する反応が進行する。ここでの「プロトンの粉末」とは、発酵槽に添加することにより、発酵槽内の成分と反応して水素を発生させる微粒子状のものであればよい。添加量は、発酵槽内に含まれる成分の総質量に対して、1~3質量%の範囲内であることが好ましい。
【0108】
4次発酵終了時におけるCO2の濃度及び全体のメタン発酵効率(VS当たりの分解率)は、以下のとおりである。
[CO2濃度]
従来方式:40~50%
本実施形態 :12%以下
[全体のメタン発酵効率(VS当たりの分解率)]
従来方式:50~60%
本実施形態 :80~90%
【0109】
I)発酵残渣を更に発酵し、脱臭する工程
本実施形態では、4次発酵終了時の発酵残渣を、更に発酵させ、脱臭することが好ましい。
発酵残渣を、堆肥発酵槽15に移す。温度30~40℃、pH値7.0~8.0の範囲内、HRT3日で、最終的に得られる発酵残渣のC/N比が20になるまで、撹拌して発酵させる。
【0110】
投入した高分子有機物に対する、液体又は固体の発酵残渣(水分、有機物及び無機物)は、以下のとおりである。
従来方式:50%
本実施形態:20~10%
【0111】
J)発酵残渣をペレット化する工程
本実施形態では、堆肥発酵槽15で発酵した後に得られる発酵残渣をペレット化することが好ましい。ペレット化することにより、過熱水蒸気を発生させる際のエネルギー源として使用できる。一般的に、湿式型では、消化液の処理と悪臭の問題があるが、乾式型では、この問題を解消できる。
【0112】
堆肥発酵槽15で発酵した後に得られる発酵残渣は、水分が40%前後であるため、ペレット装置18で乾燥させて、ペレット化する。得られるペレットを燃料とするバイオマスの赤外線炉4を用いて、高分子有機物を乾燥させることにより、エネルギーを再生可能としている。
【0113】
「赤外線炉4」は、放射率の高い材料を加熱する。発生する赤外線を水(H2O)及び二酸化炭素(CO2)に吸収させる。それらの原子の固有振動と赤外線が共鳴することにより、高温の水蒸気及び二酸化炭素を発生させる。
【0114】
K)バイオガスから硫化水素を除去する工程
本発明では、得られるバイオガスから硫化水素(H2S)を除去することが好ましい。脱硫装置16としては、従来公知の物を使用できる。
硫化水素を除去したバイオガスは、バイオガス貯蔵槽17に貯蔵される。
【0115】
以上より、本実施形態の乾式メタン発酵システム100は、有機物を分解して揮発性脂肪酸を生成する第1発酵槽7と、前記揮発性脂肪酸を分解して酢酸を生成する第2発酵槽8を有することにより、メタンの生成効率を向上できることがわかる。
また、本実施形態の乾式メタン発酵方法は、有機物を分解して揮発性脂肪酸を生成する工程と、前記揮発性脂肪酸を分解して酢酸を生成する工程を、それぞれ別の発酵槽で行うことにより、メタンの生成効率を向上できることがわかる。
【符号の説明】
【0116】
1 乾燥装置
2 亜臨界装置
3 真空装置
4 赤外線炉
5 過熱水蒸気装置
6 排熱回収発電装置
7 第1発酵槽
7a 第1温度調整装置
8 第2発酵槽
9 酢酸資化性メタン生成槽
10 水素資化性メタン生成槽
11 水素資化性メタン生成菌培養槽
11a 水素分圧調整装置
11b 第2温度調整装置
12 ギ酸槽
13 水素発生装置
14 プロトン粉末槽
15 堆肥発酵槽
16 脱硫装置
17 バイオガス貯蔵槽
18 ペレット装置
100 乾式メタン発酵システム