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  • 特開-多孔質フィルム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117150
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】多孔質フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/36 20060101AFI20240822BHJP
   B32B 5/24 20060101ALI20240822BHJP
   B29C 59/02 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
C08J9/36 CES
B32B5/24 101
B29C59/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023075
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】蓑毛 克弘
(72)【発明者】
【氏名】新崎 盛昭
(72)【発明者】
【氏名】城野 駿介
【テーマコード(参考)】
4F074
4F100
4F209
【Fターム(参考)】
4F074AA17
4F074AB01
4F074CC08Z
4F074CD20
4F074DA02
4F074DA03
4F074DA08
4F074DA10
4F074DA23
4F074DA33
4F074DA35
4F074DA38
4F074DA59
4F100AK04A
4F100BA02
4F100BA32
4F100DD01A
4F100DG01B
4F100DG06B
4F100DJ00A
4F100EJ20
4F100EJ42
4F100GB66
4F100GB72
4F100JA07A
4F100JD04
4F100YY00A
4F209AA04
4F209AA06
4F209AC03
4F209AF01
4F209AG01
4F209AG05
4F209AG20
4F209PA02
4F209PB01
4F209PC05
4F209PC14
4F209PG01
4F209PN03
4F209PN06
4F209PW43
(57)【要約】
【課題】本発明は、係る従来技術の欠点を改良し、多孔質フィルムとして用いるために必要な透湿性と耐水性を備え、かつ、柔軟性に優れる多孔質フィルムを提供することを課題とする。
【解決手段】ポリエチレン系樹脂を主成分とする多孔質フィルムであって、前記多孔質フィルムが凹凸を有し、表面の展開面積比が1.20以上1.50以下であり、かつ凹部の空孔率が1.6%以上20.0%以下であることを特徴とする多孔質フィルム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレン系樹脂を主成分とする多孔質フィルムであって、前記多孔質フィルムが凹凸を有し、表面の展開面積比が1.20以上1.50以下であり、かつ凹部の空孔率が1.6%以上20.0%以下であることを特徴とする多孔質フィルム。
【請求項2】
前記多孔質フィルムの凸部の厚み(T1)が2μm以上30μm以下である、請求項1の多孔質フィルム。
【請求項3】
前記ポリエチレン系樹脂の重量平均分子量が1×10以上30×10以下である請求項1に記載の多孔質フィルム。
【請求項4】
JIS K 3832-1990に基づき測定される平均細孔径が10nm以上100nm以下である請求項1または請求項2の多孔質フィルム。
【請求項5】
前記T1と多孔質フィルムの凹部の厚み(T2)の比(T1/T2)が1.2以上1.8以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかの多孔質フィルム。
【請求項6】
繊維構造体と請求項1から請求項5のいずれかの多孔質フィルムとを備え、前記多孔質フィルムの少なくとも一方の面に前記繊維構造体が積層されており、前記多孔質フィルムと前記繊維構造体との層間において、接着部分と非接着部分とが存在している積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多孔質フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
水蒸気を透過する一方、液体である水を通さないフィルムを防水透湿フィルムといい、蒸れを防止する素材として、例えば衣料や衛生材料の分野で広く用いられている。その具体例としては、フッ素系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、及びポリエステル系樹脂等を主成分とする多孔質又は無孔質のフィルムが挙げられる。その中でも、特にポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔質フィルムは、原料が安価であり、製造時の環境負荷物質の発生が小さい点で優れている。例えば特許文献1では、内部に多数の微細孔を有し、高い透湿性能を有しながら、薄膜でも水を透過しない透湿防水フィルムが開示されている。また、特許文献2では優れた通気性・透湿性を有すると同時に、柔軟性や風合いといった良好な触感をもつ多孔質フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-61505号公報
【特許文献2】特開2019-156989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、透湿防水フィルムを衣料用に適用しようとした場合、フィルムが硬いため着心地に劣り、さらに、フィルムが硬いため摩擦時に摩擦音が発生し、これにより違和感を生じてしまう。また、これらの課題を解消するためにフィルムの厚さを薄くした場合は、フィルムは柔らかくなる一方で求められる耐水性が維持できなくなるという課題がある。また、特許文献2の技術では、柔軟性のある低密度ポリエチレンが主成分として用いられているが、フィルムの強度が低いため透湿防水フィルムとしての耐水性が不十分となる課題がある。
【0005】
本発明は、係る従来技術の課題を改良し、透湿性と耐水性に優れ、かつ、柔軟性に優れる多孔質フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、下記の構成からなる
(1)ポリエチレン系樹脂を主成分とする多孔質フィルムであって、前記多孔質フィルムが凹凸を有し、表面の展開面積比が1.20以上1.50以下であり、かつ凹部の空孔率が1.6%以上20.0%以下である、多孔質フィルム。
(2)前記多孔質フィルムの凸部の厚み(T1)が2μm以上30μm以下である、(1)の多孔質フィルム。
(3)前記ポリエチレン系樹脂の重量平均分子量が1×10以上30×10以下である、(1)または(2)の多孔質フィルム。
(4)JIS K 3832-1990に基づき測定される平均細孔径が10nm以上100nmである、(1)から(3)のいずれかの多孔質フィルム。
(5)前記T1と多孔質フィルムの凹部の厚み(T2)の比(T1/T2)が1.2以上1.8以下である、(1)から(4)のいずれかの多孔質フィルム。
(6)繊維構造体と(1)から(5)のいずれかの多孔質フィルムとを備え、前記多孔質フィルムの少なくとも一方の面に前記繊維構造体が積層されており、前記多孔質フィルムと前記繊維構造体との層間において、接着部分と非接着部分とが存在している、積層体。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、透湿性と耐水性に優れ、かつ、柔軟性に優れる多孔質フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の多孔質フィルムの一部の断面の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の多孔質フィルムは、ポリエチレン系樹脂を主成分とする多孔質フィルムであって、この多孔質フィルムは凹凸を有し、表面の展開面積比が1.2以上1.5以下であり、かつ凹部の空孔率が1.6%以上10.0%以下である。
【0010】
本発明におけるポリエチレン系樹脂とは、エチレンの単量体の含有量が50質量%以上のものをいう。そのため、エチレン単独重合体のほか、プロピレン、ブテン、ヘキセンなど他のオレフィンとの共重合体であってもよい。なお、ここで「ポリエチレン系樹脂を主成分とする」とはフィルムを構成する全成分中、ポリエチレン系樹脂を50質量%より多く100質量%以下含むことをいう。
【0011】
本発明の多孔質フィルムは凹凸を有し、表面の展開面積比が1.2以上1.5以下であることが重要である。凹凸とは、多孔質フィルムの断面において、厚さ方向に変形を有する部分をいう。多孔質フィルムが凹凸を有することで、多孔質フィルムの変形が容易となり、結果として、多孔性フィルムの柔軟性が向上する。多孔質フィルムに凹凸を設ける方法は特に限定されないが、エンボス加工を用いることが好ましい。エンボス加工に用いる2本のロールの組み合わせとしては、特に制限はないが、エンボスロールと、ゴムロールなどの弾性ロールの組み合わせのほか、エンボスロールと、その凹部または凸部の形状に対応する雌エンボスロールとの組み合わせがある。特にエンボスロールと弾性ロールを組み合わせてエンボス加工する方法が好ましく、弾性ロールの樹脂硬度としてはショアA硬度50以下であることが好ましい。エンボス加工に使用するエンボスロールの模様(パターン)は、特に制限はなく、四角凸柄、格子凸柄、亀甲柄、ダイヤ柄、ピンポイント柄、四角錐台柄、円錐台柄、縦線柄、横線柄などが使用できる。
【0012】
多孔質フィルムが凹凸を有することに加え、多孔質フィルムの少なくとも一方の表面の展開面積比は1.20以上1.50以下であることが重要である。多孔質フィルムの表面の展開面積比が1.20以上であれば多孔質フィルムに柔軟性を付与することができる。多孔質フィルムの表面の展開面積比が1.50以下であれば透湿防水フィルムとしての耐水圧が十分な効果を得ることができる。展開面積比のより好ましい範囲としては1.30以上1.50以下である。展開面積比を1.20以上1.50以下とする方法としては特に限定されないが、エンボス加工におけるエンボスロールのピッチや凹凸高さを変更する方法やエンボス加工の温度や圧力を変える方法が挙げられる。ここで、ピッチとは、周期的に付与される凹凸の一周期分の長さをいう。凹凸高さとは、エンボスロール表面の高さが最も低い部分と、最も高い部分との差にあたる長さをいう。具体的には、エンボスロールのピッチは150um以上1800um以下であることが好ましい。400um以上1000um以下であることがより好ましい。エンボスロールの凹凸高さは50um以上500um以下であることが好ましい。180um以上500um以下であることがより好ましい。エンボス加工における温度としては20℃以上から多孔質フィルムの融点より30度以上低い温度とすることが好ましい。
【0013】
多孔質フィルムの少なくとも一方の表面の算術平均粗さ(Ra)は10um以上60um以下であることが好ましい。多孔質フィルムの表面のRaが10um以上であれば多孔質フィルムに柔軟性を付与することができる。多孔質フィルムの表面のRaが60um以下であれば透湿防水フィルムとしての耐水圧が十分な効果を得ることができる。なお、上記の算術平均粗さ(Ra)は、多孔質フィルムの表面を3D形状測定機(VR-3200、キーエンス社製)で40倍の倍率で観察し、得られた観察画像について付属の解析アプリケーションを使用して、JIS B 060-2001に基づく測定方法によって得られるものである。
【0014】
また、多孔質フィルムの少なくとも一方の表面の要素の平均長さ(RSm)は400um以上5000um以下であることが好ましい。多孔質フィルムの表面のRSmが400um以上であれば透湿防水フィルムとして優れた透湿性を有する。多孔質フィルムの表面のRSmが5000um以下であれば多孔質フィルムに柔軟性を付与することができる。なお、上記の要素の平均長さ(RSm)は、多孔質フィルムの表面を3D形状測定機(VR-3200、キーエンス社製)で40倍の倍率で観察し、得られた観察画像について付属の解析アプリケーションを使用して、JIS B 060-2001に基づく測定方法によって得られるものである。
【0015】
本発明の多孔質フィルムにおいて凹部の空孔率が1.6%以上20.0%以下であることが重要である。凹部とは凹凸の一周期分の長さをフィルムの厚さ方向から観察したときに、最もフィルムの厚さが薄い部分をいう。凹部の空孔率が1.6%以上であれば透湿防水フィルムとして優れた透湿性を有する。また、凹部の空孔率が20.0%以下であれば透湿防水フィルムとして優れた防水性(すなわち、耐水圧)を有する。凹部の空孔率のより好ましい範囲は2.0%以上20.0%以下である。多孔質フィルムの凹部の空孔率を好ましい範囲に調整する方法としては、特に限定されないが、エンボス加工における温度や圧力を調整する方法が挙げられる。具体的にはエンボス加工の温度を高くしたり、エンボス加工の圧力を高くしたりすると空孔率は低くなる。エンボス加工の温度を低くしたり、エンボス加工の圧力を低くしたりすると、空孔率を高くすることができる。
【0016】
本発明の多孔質フィルムの凸部の厚み(T1)は2μm以上30μm以下であることが好ましい。T1が2μm以上であると耐水性がより優れたものとなる。一方で、T1が30μm以下であると衣料用途に適用した場合に着心地がより向上し、擦れ音などの違和感の発生をより抑制することができる。上記の理由から、T1は5um以上30um以下であることがより好ましい。T1を好ましい範囲に調節する方法としては特に限定されないが、エンボス加工前のフィルムの厚みを調整する方法が挙げられる。
【0017】
本発明のポリエチレン系樹脂の重量平均分子量が1×10以上30×10以下であることが好ましい。ポリエチレン系樹脂の重量平均分子量が1×10以上であれば多孔質フィルムが透湿防水フィルムとして十分な強度を有することができる。重量平均分子量が30×10以下であれば多孔質フィルムが柔軟性を有することができる。ポリエチレン系樹脂の重量平均分子量を好ましい範囲に調整する方法としては、特に限定されないが、重量平均分子量の異なるポリエチレン系樹脂を2種類以上混合する混合する方法が挙げられる。
【0018】
本発明の多孔質フィルムにおけるJIS K 3832-1990に基づき測定される平均細孔径が10nm以上100nm以下であることが好ましい。多孔質フィルムの平均細孔径が10nm以上であれば得られるフィルムの透湿性が優れるため好ましい。多孔質フィルムの平均細孔径が100nm以下であれば得られる多孔質フィルムの耐水圧が優れるため好ましい。
【0019】
前記多孔質フィルムの凸部の厚み(T1)と前記凹部の厚み(T2)の厚み比(T1/T2)は1.2以上1.8以下であることが好ましい。多孔質フィルムの凸部とは凹凸の一周期分の長さをフィルムの厚さ方向から観察したときに、最もフィルムの厚さが厚い部分をいう。多孔質フィルムの凹部とは凹凸の一周期分の長さをフィルムの厚さ方向から観察したときに、最もフィルムの厚さが薄い部分をいう。T1/T2が1.2以上であれば多孔質フィルムが柔軟性を有するため好ましい。T1/T2が1.8以下であれば透湿防水フィルムとして防水性(すなわち、耐水圧)を有するため好ましい。T1/T2のより好ましい範囲としては1.4以上1.8以下である。T1/T2を好ましい範囲とする方法としては、特に限定されないが、フィルムの空孔率やエンボス加工時の温度や圧力を調整する方法が挙げられる。具体的には、フィルムの空孔率を高くしたり、エンボス加工の温度を高くしたり、エンボス加工の圧力を高くしたりするとT1/T2は高くなる。フィルムの空孔率を低くしたり、エンボス加工の温度を低くしたり、エンボス加工の圧力を低くしたりすると、T1/T2を低くすることができる。
【0020】
本発明の多孔質フィルムを衣服等の生地として用いるときは、繊維構造体と本発明の多孔質フィルムとを備え、前記多孔質フィルムの少なくとも一方の面に前記繊維構造体が積層されており、前記多孔質フィルムと前記繊維構造体との層間において、接着部分と非接着部分とが存在している積層体とすることが好ましい。ここで、上記の積層体は、第1の繊維構造体、本発明の多孔質フィルムおよび第2の繊維構造体がこの順に積層されてなり、各層間において、接着部分と非接着部分とを有するものであることがより好ましい。ここで、上記の接着部分とは、互いに隣接する繊維構造体と多孔質フィルムとが接着剤を介して接着されている部分をいう。また、上記の非接着部分とは、互いに隣接する繊維構造体と多孔質フィルムとが、接着剤等で固定や接着がされていない部分をいう。
【0021】
また、上記の積層体は、接着部分を有するが、これにより、積層体がはがれ落ちにくくなり、衣服としての強度が優れたものとなる。さらに、上記の積層体は、非接着部分を有するが、これにより、透湿性および透湿性が優れたものとなる。
【0022】
上記の繊維構造物としては、特に限定されないがポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリウレタン、アセテート、レーヨン、ポリ乳酸などの化学繊維、綿、麻、絹、羊毛等の天然繊維やこれらの混繊、混紡、交織品、交編品からなる織物、編物、不織布等が挙げられる。繊維構造物は、染色、捺染をはじめ、制電加工、撥水加工、抗菌防臭加工、制菌加工、紫外線遮蔽加工、消臭加工、吸水加工、吸湿加工などを施してあってもよい。
【0023】
さらに、上記の接着剤としては、特に限定されないが、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂等を有機溶媒で溶解したものや加熱溶解したものが用いられる。
【0024】
本発明の積層体の製造方法としは、特に限定されないが以下の方法が挙げられる。まず、接着剤を含む樹脂溶液を本発明の多孔質フィルムに上に塗布し、50~130℃で乾燥後、接着剤を塗布した多孔質フィルム面に繊維集合体を積層し、必要に応じ、ニップあるいは加熱ロールを用いてニップし、貼り合わせるドライラミネート法によって製造できる。また、接着剤を含む樹脂溶液を乾燥せずに繊維布帛1を貼り合わせるウエットラミネート法や熱により可塑化する接着剤を塗布するホットメルトラミネート法によっても製造できる。
【0025】
本発明の多孔質フィルムの構成について、図1の構成を例に挙げて説明するが、発明の積層フィルムの層構成はその効果を損なわない限りこれに限定されるものではない。図1は本発明の一実施態様に多孔質フィルムを断面から観察したときの拡大概念図である。本発明の多孔質フィルムaは厚さ方向に変形しており、凹凸を有している。ここで、符号bはフィルムの凹凸部の高さを示し、符号cはフィルムの凹凸部の一周期分の長さ(ピッチ)を示す。また、符号dは凹部のフィルムの厚み(T2)を示し、符号eは凸部のフィルムの厚み(T1)を示す。
【実施例0026】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0027】
[測定および評価方法]
実施例中に示す測定や評価は次に示す条件で行った。
【0028】
(1)表面の展開面積比
多孔質フィルムの表面を3D形状測定機(VR-3200、キーエンス社製)で40倍の倍率で観察し、観察画像を得た。得られた観察画像について付属の解析アプリケーションを使用して展開面積比を求めた。
【0029】
(2)凸部と凹部の厚み比
ミクロトームを用いてナイフ傾斜角度3°で厚み方向と平行に多孔質フィルムを切断した。次いで、走査型電子顕微鏡を用いて多孔質フィルムの断面を、凹凸が2ピッチ以上観察できる倍率で観察し、凹部と凸部のフィルムの厚さを顕微鏡の測長機能により測定した。
【0030】
(3)凹部の空孔率
前記(2)で観察した多孔質フィルムの凹部の断面を、10000倍で観察した。その後、観察画像を断面の空孔が抽出されるように2値化し、断面の空孔率の面積を算出した。
【0031】
(4)前記ポリエチレン系樹脂の重量平均分子量
以下の条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により求めた。
・測定装置:Waters Corporation製GPC-150C
・カラム:昭和電工株式会社製Shodex UT806M
・カラム温度:135℃
・溶媒(移動相):o-ジクロルベンゼン
・溶媒流速:1.0ml/分
・試料濃度:0.1質量%(溶解条件:135℃/1h)
・インジェクション量:500μl
・検出器:Waters Corporation製ディファレンシャルリフラクト メーター
・検量線:単分散ポリスチレン標準試料セットを用いて得られた検量線から、所定の換算定数を用いて作成した。
【0032】
(5)平均細孔径
JIS K 3832:1990に準拠して測定した。具体的には、パームポロメーター(PMI)を用いて液体をその細孔から押し出す圧力を測定する事によって貫通細孔径を評価した。多孔質フィルムを浸漬する液体にはGALWICKを用いた。
【0033】
(6)5%伸張時強力
JIS K 7161-2014に準拠して測定を行った。引張試験機(A&D社製)を用いてフィルムを300mm/minの速度で引っ張り、フィルムに生じる応力・ひずみを計測し、5%伸張時の強力を算出した。
【0034】
(7)透湿性
JIS Z 0208:1976に規定された方法に従って測定した。測定の雰囲気は温度:40℃、湿度90%とし、フィルムと塩化カルシウムの間にはピッチ:1000um、線径:500umのメッシュを挟んだ。測定は3回行い、その平均値を透湿度とした。なお、透湿度はフィルムのどちら側の面から測定してもよい。
【0035】
(8)耐水圧
JIS L 1092:2009 B法(繊維製品の防水性試験方法)に準拠して測定した。具体的には、耐水圧試験機に多孔質フィルムまたは、それを用いた積層体を固定し、昇圧速度60cm/min試験片に水圧をかけていき、水滴が3滴出水した時点の水圧を測定した。
【0036】
[多孔質フィルム]
(A1)超高分子量ポリエチレン(重量平均分子量20×10、F07DE1、東レ株式会社製)
(A2)超高分子量ポリエチレン(重量平均分子量25×10、E30TDP、東レ株式会社製)。
【0037】
[エンボス型]
(B1)ピッチ:150um、線径:61um、メッシュ形状
(B2)ピッチ:440um、線径:195um、メッシュ形状
(B3)ピッチ:830um、線径:230um、メッシュ形状
(B4)ピッチ:1000um、線径:500um、メッシュ形状
(B5)ピッチ:1800um、線径:500um、メッシュ形状。
【0038】
(実施例1)
SUS板とエンボス型と多孔質フィルムとシリコンゴムシート(ショアA硬度50)とSUS板をこの順で重ね合わせ、プレス加工機で表1に示す条件で1分間加圧した。加圧後、多孔質フィルムを取り出し、凹凸形状を有する多孔質フィルムを得た。得られた多孔質フィルムの物性および評価結果を表2に示す。この多孔質フィルムは、透湿性、柔軟性および耐水圧に優れるものであった。
【0039】
(実施例2~10、比較例1~4)
エンボス型およびプレス加工機で加圧する条件を表1に記載の通りとしたこと以外は実施例1と同様にして多孔質フィルムを得た。得られた多孔質フィルムの物性および評価結果を表2に示す。
【0040】
実施例2~10の多孔質フィルムは、透湿性、耐水性、柔軟性に優れるものであった。一方で、比較例1の多孔質フィルムは、表面展開率が低く、柔軟性に劣る多孔質フィルムであった。比較例2の多孔質フィルムは凹部の空孔率が低く、透湿性に劣るものであった。比較例3の多孔質フィルムは凹部の空孔率が高く、耐水性に劣るものであった。比較例4の多孔質フィルムは表面の展開面積比が高く、耐水性に劣るものであった。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【符号の説明】
【0043】
a:多孔質フィルムの凹凸部
b:フィルムの凹凸部の高さ
c:フィルムの凹凸部のピッチ
d:凹部のフィルム厚さ
e:凸部のフィルム厚さ
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明により、防水透湿フィルムとして用いるために必要な透湿性と耐水性を備え、かつ、柔軟性に優れた多孔質フィルムを提供することができる。本発明の多孔質フィルムは、布等に対する密着性および良好な触感を必要とされる用途に用いることができる。具体的には、防寒用衣類、雨天用衣類、手袋、帽子、靴などの衣料用品に好適に用いられるが、その他にもベッド用シーツ、枕カバー、衛生ナプキンや紙おむつなどの吸収性物品のバックシートといった衛生用品、あるいは野菜や果物などの食品用袋、各種工業製品の袋などの包装材料、鉄道車両、船舶、航空機といった輸送機内での内装材料、畜産用品、ゴミ袋や堆肥袋などの農業用品、ビル、住宅、化粧板といった建築用品、医療用品、分離膜、光拡散板、反射シートまたは電池用セパレータといった幅広い分野に利用できる。
図1