(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117156
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】カム切替制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 13/02 20060101AFI20240822BHJP
【FI】
F02D13/02 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023086
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】足利 謙介
(72)【発明者】
【氏名】本名 裕明
(72)【発明者】
【氏名】氏原 健幸
(72)【発明者】
【氏名】樋口 雄介
【テーマコード(参考)】
3G092
【Fターム(参考)】
3G092BA01
3G092DA01
3G092DA02
3G092DA04
3G092FA05
3G092HA01Z
(57)【要約】
【課題】エンジントルクの変動を抑制しつつカムの切り替えを行うことができるカム切替制御装置を提供する。
【解決手段】吸気弁と排気弁の一方の弁を開閉可能で、且つ、カムプロフィールが互いに異なる第1カムおよび第2カムと、第1カムおよび第2カムの位相を同時に変更する位相変更装置と、制御装置とを設ける。カム切替条件が成立すると、位相変更装置によって、カムの切り替え前後で気筒に導入される空気量が同じ量となる位相に第1カムおよび第2カムの位相を制御する切替準備制御を実施し、当該切替準備制御の実施後にカム切替装置に前記カムの切り替えを行わせる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒を有するエンジン本体と、気筒の吸気ポートをそれぞれ開閉する吸気弁と、気筒の排気ポートを開閉する排気弁とを備えるエンジンに設けられるカム切替制御装置において、
前記吸気弁と前記排気弁の一方の弁を開閉可能で、且つ、カムプロフィールが互いに異なる第1カムおよび第2カムと、
前記一方の弁を開閉するカムを前記第1カムと前記第2カムとの間でそれぞれ切り替えるカム切替装置と、
前記第1カムおよび前記第2カムの位相を同時に変更する位相変更装置と、
所定のカム切替条件が成立すると前記一方の弁を開閉するカムが前記第1カムと前記第2カムとの間で切り替わるように前記カム切替装置を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記カム切替条件が成立すると、前記位相変更装置によって、前記カムの切り替え前後で前記気筒に導入される空気量が同じ量となる位相に前記第1カムおよび前記第2カムの位相を制御する切替準備制御を実施し、当該切替準備制御の実施後に前記カム切替装置に前記カムの切り替えを行わせる、ことを特徴とするカム切替制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のカム切替制御装置において、
前記気筒に残留する排気ガスの量を内部EGRガス量としたとき、前記第1カムおよび前記第2カムのカムプロフィールは、前記第1カムによって前記一方の弁を開閉したときの前記内部EGRガス量が、前記第2カムによって前記一方の弁を開閉したときの前記内部EGRガス量よりも少なくなるプロフィールに設定されている、ことを特徴とするカム切替制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のカム切替制御装置において、
前記第1カムおよび前記第2カムのカムプロフィールは、前記第1カムによって前記一方の弁を開閉したときの当該一方の弁の開弁期間と前記他方の弁の開弁期間との重複期間が、前記第2カムによって前記一方の弁を開閉したときの当該一方の弁の開弁期間と前記他方の弁の開弁期間との重複期間よりも短くなるプロフィールに設定されており、
前記切替準備制御の実施時、前記制御装置は、前記位相変更装置によって、前記第1カムによって前記一方の弁を開閉したときの当該一方の弁の開弁期間と前記他方の弁の開弁期間とが重複せず、且つ、前記第2カムによって前記一方の弁を開閉したときの当該一方の弁の開弁期間と前記他方の弁の開弁期間とが重複する切替時位相に、前記第1カムおよび前記第2カムの位相を制御する、ことを特徴とするカム切替制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のカム切替制御装置において、
前記一方の弁は、前記排気弁であり、
前記他方の弁は、前記吸気弁であり、
前記吸気弁を開閉する吸気カムと、
前記吸気カムの位相を同時に変更する吸気位相変更装置とを備え、
前記制御装置は、前記排気弁を開閉するカムを前記第1カムから前記第2カムに切り替える場合、前記切替準備制御の実施時に、前記位相変更装置によって前記第1カムおよび前記第2カムの位相を進角させるとともに、前記吸気位相変更装置によって前記吸気カムの位相を遅角させる、ことを特徴とするカム切替制御装置。
【請求項5】
請求項3に記載のカム切替制御装置において、
前記一方の弁は、前記排気弁であり、
前記他方の弁は、前記吸気弁であり、
前記吸気弁を開閉する吸気カムと、
前記吸気カムの位相を同時に変更する吸気位相変更装置とを備え、
前記制御装置は、前記排気弁を開閉するカムを前記第2カムから前記第1カムに切り替える場合、前記切替準備制御の実施時に、前記位相変更装置によって前記第1カムおよび前記第2カムの位相を進角させるとともに、前記吸気位相変更装置によって前記吸気カムの位相を遅角させる、ことを特徴とするカム切替制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載のカム切替制御装置において、
前記一方の弁は、前記排気弁であり、
前記他方の弁は、前記吸気弁であり、
前記切替時位相は、エンジン負荷が同じ場合においてエンジン回転数が高いときの方が低いときよりも遅角側の位相になるように設定されている、ことを特徴とするカム切替制御装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のカム切替制御装置において、
前記制御装置は、前記エンジンに要求されるエンジントルクの変化量が所定の判定値以上となる過渡条件が成立したか否かを判定し、前記過渡条件の成立時で且つ前記カム切替条件の成立時は、前記切替準備制御を実施することなく前記カム切替装置に前記カムの切り替えを行わせる、ことを特徴とするカム切替制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに設けられるカム切替制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等に搭載されるエンジンにおいて、吸排気弁(吸気弁または排気弁)を開閉するカムをカムプロフィールの互いに異なるカムどうしの間で切り替えるように構成したものが知られている。例えば、特許文献1には、吸気弁を開閉するカムとして、吸気弁のリフト量および作用角が小さくなる小カムと、吸気弁のリフト量および作用角が大きくなる大カムとが設けられて、吸気弁を開閉するカムがこれら小カムと大カムとの間で切り替えられるエンジンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吸排気弁を開閉するカムとしてカムプロフィールの異なる複数のカムを用意してこれらのカムの間で切り替えを行えば、エンジンの運転状態に応じて吸排気弁をより適切に開閉できて気筒内のガス状態をより適切にできる。しかしながら、カムの切り替え時には、吸排気弁の開閉状態および気筒内のガス状態が急変することでエンジントルクが過度に変動するおそれがある。例えば、気筒に導入される空気量が不足してエンジントルクが急激に低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、エンジントルクの変動を抑制しつつカムの切り替えを行うことができるカム切替制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、気筒を有するエンジン本体と、気筒の吸気ポートをそれぞれ開閉する吸気弁と、気筒の排気ポートを開閉する排気弁とを備えるエンジンに設けられるカム切替制御装置において、前記吸気弁と前記排気弁の一方の弁を開閉可能で、且つ、カムプロフィールが互いに異なる第1カムおよび第2カムと、前記一方の弁を開閉するカムを前記第1カムと前記第2カムとの間でそれぞれ切り替えるカム切替装置と、前記第1カムおよび前記第2カムの位相を同時に変更する位相変更装置と、所定のカム切替条件が成立すると前記一方の弁を開閉するカムが前記第1カムと前記第2カムとの間で切り替わるように前記カム切替装置を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、前記カム切替条件が成立すると、前記位相変更装置によって、前記カムの切り替え前後で前記気筒に導入される空気量が同じ量となる位相に前記第1カムおよび前記第2カムの位相を制御する切替準備制御を実施し、当該切替準備制御の実施後に前記カム切替装置に前記カムの切り替えを行わせる、ことを特徴とする。
【0007】
この構成では、吸気弁と排気弁の一方の弁をそれぞれ開閉可能で、且つ、カムプロフィールが互いに異なる第1カムと第2カムとが設けられて、これら第1カムと第2カムとの間で切り替えが行われる。そのため、エンジンの運転状態に応じて吸気弁または排気弁をより適切に開閉させることができ、エンジンの性能を高めることができる。
【0008】
しかも、この構成では、第1カムと第2カムとを切り替える際に、カムの切り替え前後で気筒に導入される空気量が同じ量となる位相にこれら第1カムおよび第2カムの位相が制御されて、その後にカムの切り替えが行われる。そのため、カム切り替え時に、気筒内の空気量が変化するのを防止でき、空気量の変化に起因したエンジントルクの変動が生じるのを防止できる。
【0009】
上記構成において、好ましくは、前記気筒に残留する排気ガスの量を内部EGRガス量としたとき、前記第1カムおよび前記第2カムのカムプロフィールは、前記第1カムによって前記一方の弁を開閉したときの前記内部EGRガス量が、前記第2カムによって前記一方の弁を開閉したときの前記内部EGRガス量よりも少なくなるプロフィールに設定されている(請求項2)。
【0010】
この構成によれば、一方の弁を開閉するカムを第1カムと第2カムとの間で切り替えることで、内部EGRガス量を大幅に変更することが可能になる。そのため、エンジンの運転状態に応じて内部EGRガス量をより適切な量に制御できる。
【0011】
上記構成において、好ましくは、前記第1カムおよび前記第2カムのカムプロフィールは、前記第1カムによって前記一方の弁を開閉したときの当該一方の弁の開弁期間と前記他方の弁の開弁期間との重複期間が、前記第2カムによって前記一方の弁を開閉したときの当該一方の弁の開弁期間と前記他方の弁の開弁期間との重複期間よりも短くなるプロフィールに設定されており、前記切替準備制御の実施時、前記制御装置は、前記位相変更装置によって、前記第1カムによって前記一方の弁を開閉したときの当該一方の弁の開弁期間と前記他方の弁の開弁期間とが重複せず、且つ、前記第2カムによって前記一方の弁を開閉したときの当該一方の弁の開弁期間と前記他方の弁の開弁期間とが重複する切替時位相に、前記第1カムおよび前記第2カムの位相を制御する(請求項3)。
【0012】
この構成では、第1カムと第2カムのカムプロフィールが上記のように設定されているため、第1カムによって一方の弁を開閉することで当該一方の弁と他方の弁との重複期間を短くして内部EGRガス量を少なく抑えることができるとともに、第2カムによって一方の弁を開閉することで当該一方の弁と他方の弁との重複期間を長くして内部EGRガス量を多くすることができる。
【0013】
ここで、カムプロフィールが上記のように設定されている場合において、仮に、第1カムと第2カムのいずれのカムでも吸気弁と排気弁の開弁期間とが重複するように各カムの位相が設定された状態でカムの切り替えを行うと、上記開弁期間の重複期間が変化することで内部EGRガス量の変化が大きくなるおそれがある。また、同様に、第1カムと第2カムのいずれのカムでも吸気弁と排気弁の開弁期間とが重複しないように各カムの位相が設定された状態でカムの切り替えを行った場合にも、排気弁の閉弁時期から吸気弁の開弁時期までの期間(負の重複期間)が変化することで内部EGRガス量の変化が大きくなるおそれがある。
【0014】
これに対して、上記構成では、カムの切り替え時に、第1カムによって一方の弁を開閉したときに吸気弁の開弁期間と排気弁の開弁期間とが重複せず、且つ、第2カムによって一方の弁を開閉したときに吸気弁の開弁期間と排気弁の開弁期間とが重複する切替時位相に、第1カムと第2カムの位相が制御される。そのため、気筒の状態を、吸排気弁の開弁期間が重複することによって気筒内に内部EGRが確保される状態と、吸排気弁の開弁期間が重複しないことによって気筒内に内部EGRが確保される状態との間で切り替えることができ、正の重複により実現される内部EGRガス量と負の重複により実現される内部EGRガス量とが同等になるように吸排気弁のカムの位相を調整することで、カム切り替え時に生じる内部EGRガス量の変化を小さく抑えることが可能になる。
【0015】
上記構成において、好ましくは、前記一方の弁は、前記排気弁であり、前記他方の弁は、前記吸気弁であり、前記吸気弁を開閉する吸気カムと、前記吸気カムの位相を同時に変更する吸気位相変更装置とを備え、前記制御装置は、前記排気弁を開閉するカムを前記第1カムから前記第2カムに切り替える場合、前記切替準備制御の実施時に、前記位相変更装置によって前記第1カムおよび前記第2カムの位相を進角させるとともに、前記吸気位相変更装置によって前記吸気カムの位相を遅角させる(請求項4)。
【0016】
この構成によれば、排気弁を開閉するカムを第1カムから第2カムに切り替える場合に、排気弁を開閉するカムを第1カムに維持しつつ吸気弁と排気弁の状態を確実にネガティブオーバーラップ状態に変更できる。
【0017】
上記構成において、好ましくは、前記一方の弁は、前記排気弁であり、前記他方の弁は、前記吸気弁であり、前記吸気弁を開閉する吸気カムと、前記吸気カムの位相を同時に変更する吸気位相変更装置とを備え、前記制御装置は、前記排気弁を開閉するカムを前記第2カムから前記第1カムに切り替える場合、前記切替準備制御の実施時に、前記位相変更装置によって前記第1カムおよび前記第2カムの位相を進角させるとともに、前記吸気位相変更装置によって前記吸気カムの位相を遅角させる(請求項5)。
【0018】
この構成によれば、排気弁を開閉するカムを第1カムから第2カムに切り替えた後の吸気弁と排気弁の状態を確実にネガティブオーバーラップ状態にできる。
【0019】
上記構成において、前記一方の弁は、前記排気弁であり、前記他方の弁は、前記吸気弁であり、前記切替時位相は、エンジン回転数に応じて予め設定されているとともに、エンジン回転数が高いときの方が低いときよりも遅角側の位相になるように設定されている、(請求項6)。
【0020】
この構成によれば、エンジン回転数が高いときの方が低いときよりも遅角側の位相になるように切替時位相が設定されていることで、エンジン回転数に関わらず、カムの切り替え前後において内部EGRガス量ひいては空気量を同じ量にできる。
【0021】
上記構成において、好ましくは、前記制御装置は、前記エンジンに要求されるエンジントルクの変化量が所定の判定値以上となる過渡条件が成立したか否かを判定し、前記過渡条件の成立時で且つ前記カム切替条件の成立時は、前記切替準備制御を実施することなく前記カム切替装置に前記カムの切り替えを行わせる(請求項7)。
【0022】
この構成によれば、エンジンに要求されるエンジントルクの変化量が大きいことでカムの切り替えに伴うエンジントルクの変動量が利用者に与える影響が小さく抑えられる場合に、カムの切り替えを早期に行うことができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明のカム切替制御装置によれば、エンジントルクの変動を抑制しつつカムの切り替えを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施形態に係るエンジンの概略構成を示した図である。
【
図2】排気動弁機構の要部を示した概略側面図である。
【
図3】排気カムが第1カムのときおよび第2カムのときの排気弁のバルブリフトと、吸気弁のバルブリフトを示した図である。
【
図4】(A)ピン駆動部の溝の構成を示した概略展開図である。(B)ピン駆動部の溝の深さを示した図である。
【
図5】エンジンの制御系統を示したブロック図である。
【
図6】エンジンの運転領域を排気カムの相違により区分けしたマップ図である。
【
図7】排気カムの位相制御を示したフローチャートである。
【
図8】吸気カムと排気カムの通常位相の一例を示した図である。
【
図9】中間位相における吸気弁と排気弁のバルブリフトの一例を示した図である。
【
図10】吸気カムと排気カムの中間位相の一例を示した図である。
【
図11】カム切り替え時の吸気弁と排気弁のバルブリフトの変化を模式的に示した図である。
【
図12】比較例におけるカム切り替え時の各パラメータの時間変化を模式的に示した図である。
【
図13】第1カムから第2カムへの切り替え時の各パラメータの時間変化を模式的に示した図である。
【
図14】第2カムから第1カムへの切り替え時の各パラメータの時間変化を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明の実施形態に係るカム切替制御装置が適用されたエンジンEの構成を示した概略図である。
【0026】
本実施形態に係るエンジンEは、例えば、走行用の駆動源等として車両に搭載される。エンジンEは、複数の気筒4が形成された4サイクルの多気筒エンジンである。
図1の例では、エンジンEは、
図1の紙面と直交する方向に直列に配設された6つの気筒4を有する直列6気筒エンジンである(
図1ではそのうちの一つのみを示す)。エンジンEは、エンジン本体10と、エンジン本体10に導入される吸気が流通する吸気通路20と、エンジン本体10から排出される排気ガスが流通する排気通路25とを備える。
【0027】
エンジン本体10は、複数の気筒4が形成されたシリンダブロック2と、シリンダブロック2の上面に取り付けられたシリンダヘッド3とを備える。各気筒4には、それぞれピストン5が往復摺動可能に収容されている。各ピストン5は、コネクティングロッドを介してクランク軸7と連結されている。ピストン5の往復運動に応じて、クランク軸7はその中心軸回りに回転する。各ピストン5の上方には燃焼室6が区画されている。シリンダブロック2には、クランク角センサSN1が取り付けられている。クランク角センサSN1は、クランク軸7の回転角度つまりエンジン回転数を検出する。
【0028】
シリンダヘッド3には、燃料を燃焼室6内に噴射するインジェクタ16と、燃焼室6内の燃料と空気の混合気に点火を行う点火プラグ15とが、各気筒4につき1つずつ取り付けられている。本実施形態では、エンジンEはガソリンエンジンであり、インジェクタ16はガソリンを含む燃料を燃焼室6内に噴射する。
【0029】
シリンダヘッド3には、各燃焼室6とそれぞれ連通する吸気ポート8および排気ポート9が形成されている。シリンダヘッド3には、各吸気ポート8をそれぞれ開閉する吸気弁18および各排気ポート9をそれぞれ開閉する排気弁19が組み付けられている。本実施形態では、1つの燃焼室6につき、2つの吸気ポート8および2つの排気ポート9と、2つの吸気弁18と2つの排気弁19とが組付けられている。シリンダヘッド3には、各吸気弁18を開閉するための吸気動弁機構30と、各排気弁19を開閉するための排気動弁機構40とが設けられている。なお、本実施形態では、排気弁19が請求項の「一方の弁」に相当し、吸気弁18が請求項の「他方の弁」に相当する。
【0030】
図2は、排気動弁機構40の要部を示した概略側面図である。なお、
図2では、カム切替装置45の後述するピン駆動部61の一つを断面で示している。排気動弁機構40は、排気カムシャフト41と、排気カム42と、カム切替装置45とを備える。排気カムシャフト41は、例えばチェーンやスプロケット等を用いた動力伝達機構を介してクランク軸7と連係されており、クランク軸7と連動して回転する。排気カム42は、排気カムシャフト41と一体に回転して、排気弁19の端部に設けられたロッカーアーム19aを介して排気弁19を開閉する。排気カム42は、カムプロフィールが互いに異なる第1カム42Aと第2カム42Bとを有しており、第1カム42Aと第2カム42Bのいずれか一方のカムがロッカーアーム18aと当接した状態で回転することで排気弁19は開閉される。カム切替装置45は、ロッカーアーム19aと当接して排気弁19を開閉するカムつまり排気カム42として作動するカムを、第1カム42Aと第2カム42Bとの間で切り替えるための装置である。カム切替装置45の詳細については後述する。
【0031】
排気動弁機構40には、排気SVT47が内蔵されている。排気SVT47は、クランク軸7の位相(回転位相)に対する排気カムシャフト41の位相ひいては排気カム42の位相および排気弁19の開閉時期を変更する装置である。排気SVT47は、排気弁19のリフト量および開弁期間を一定に維持したまま排気弁19の開時期および閉時期を同量ずつ変更するように構成されている。ここで、第1カム42Aと第2カム42Bとはいずれも排気カムシャフト41にこれと一体に回転するように支持されている。これより、排気SVT47によって、第1カム42Aと第2カム42Bの位相は同時に変更され、第1カム42Aを排気カム42として作動させたときの排気弁19の開時期および閉時期と、第2カム42Bを排気カム42として作動させたときの排気弁19の開時期および閉時期とは、同時に変更される。また、排気SVT47によって位相が変更される排気カムシャフト41は、全ての気筒4の排気弁19に共用されており、全ての気筒4の排気カム42の位相および全ての気筒4の排気弁19の開閉時期が排気SVT47によって一括して変更される。シリンダヘッド3には、排気カムシャフト41の位相つまり回転角を検出するための排気カム角センサSN3が設けられている。なお、上記の排気SVT47は、請求項の「位相変更装置」に相当する。
【0032】
吸気動弁機構30は、吸気カムシャフト31と、吸気カムシャフト31にこれと一体に回転可能に支持された吸気カム32とを備える。排気カムシャフト41と同様に、吸気カムシャフト31も、動力伝達機構を介してクランク軸7と連係されており、クランク軸7と連動して回転する。吸気カムシャフト31が回転すると、吸気カムが回転して吸気弁18を開閉する。なお、本実施形態では、吸気カム32は、排気カム42と異なり、所定のカムプロフィールを有する1つのカムのみで構成されており、当該カムのみが吸気弁18を開閉する。
【0033】
排気動弁機構40と同様に、吸気動弁機構30にも吸気SVT37が内蔵されている。吸気SVT37は、クランク軸7の位相に対する吸気カムシャフト31の位相ひいては吸気カムの位相および吸気弁18の開閉時期を変更する。吸気SVT37は、吸気弁18のリフト量および開弁期間を一定に維持したまま吸気弁18の開時期および閉時期を同量ずつ変更する。ここで、吸気SVT37によって位相が変更される吸気カムシャフト31は、全ての気筒4の吸気弁18に共用されており、全ての気筒4の吸気カム32の位相および全ての気筒4の吸気弁18の開閉時期は、吸気SVT37によって一括して変更される。シリンダヘッド3には、吸気カムシャフト31の位相つまり回転角を検出するための吸気カム角センサSN4が設けられている。なお、上記の吸気SVT37は、請求項の「吸気位相変更装置」に相当する。
【0034】
(カムプロフィール)
第1カム42Aおよび第2カム42Bのカムプロフィールは、第1カム42Aを排気カム42として作動させて第1カム42Aによって排気弁19を開閉したときの内部EGRガス量の方が、第2カム42Bを排気カム42として作動させて第2カム42Bによって排気弁19を開閉したときの内部EGRガス量よりも少なくなるプロフィールに設定されている。
【0035】
詳細には、内部EGRガスは、燃焼室6(気筒4)に残留する排気ガス(既燃ガス)であり、内部EGRガス量は内部EGRガスの量つまり燃焼室6に残留する排気ガスの量である。そして、第1カム42Aおよび第2カム42Bのカムプロフィールは、排気カム42(第1カム42Aおよび第2カム42B)の位相を第1カム42Aと第2カム42Bのいずれで排気弁19を開閉させても吸気弁18の開弁期間と排気弁19の開弁期間とが重複する所定の位相とした基本状態のときに、第1カム42Aが排気カム42として作動して第1カム42Aによって排気弁19が開閉されたときの内部EGRガス量の方が、第2カム42Bが排気カム42として作動させて第2カム42Bによって排気弁19が開閉されたときの内部EGRガス量よりも少なくなるように設定されている。以下では、適宜、第1カム42Aが排気カム42として作動するときのことを排気カムが第1カム42Aのときといい、第2カム42Bが排気カム42として作動するときのことを排気カムが第2カム42Bのときという。つまり、上記基本状態において、吸気弁18と排気弁19とがともに開弁する期間であって吸気弁18の開弁期間と排気弁19の開弁期間との重複期間であるバルブオーバーラップ期間における排気弁19のリフト量の積分値が、排気カムが第1カム42Aのときの方が、排気カムが第2カム42Bのときよりも小さくなるように、第1カム42Aおよび第2カム42Bのカムプロフィールは設定されている。
【0036】
図3は、本実施形態における排気弁19のリフトカーブと吸気弁18のリフトカーブとを示した図である。
図3において、ラインLex-Aは、排気カム42を第1カム42Aとしたときの排気弁19のリフトカーブである。ラインLex-Bは、排気カム42を第2カム42Bとしたときの排気弁19のリフトカーブである。また、ラインLinは、吸気弁18のリフトカーブである。
【0037】
本実施形態では、第1カム42Aおよび第2カム42Bのカムプロフィールは、排気カム42が第1カム42Aのときと排気カム42が第2カム42Bのときとにおいて、排気弁19の開弁時期EVOはほぼ同じになり、且つ、排気弁19の最大リフト量はほぼ同じになるように設定されている。一方で、第1カム42Aおよび第2カム42Bのカムプロフィールは、排気カム42が第1カム42Aのときと排気カム42が第2カム42Bのときとにおいて、排気弁19の閉弁時期EVCが互いに異なるように設定されている。具体的に、第1カム42Aおよび第2カム42Bのカムプロフィールは、排気カム42が第1カム42Aのときの排気弁19の閉弁時期EVC-Aの方が、排気カム42が第2カム42Bのときの排気弁19の閉弁時期EVC-Bよりも進角側となり、排気カム42が第1カム42Aのときの排気弁19の開弁期間の方が排気カムが第2カム42Bのときの排気弁19の開弁期間よりも短くなるように設定されている。
図3の例では、第2カム42Bのカムプロフィールは、排気弁19の閉弁前にその閉弁速度が遅くなることで閉弁時期EVC-Bがより遅くなり開弁期間がより長くなるように設定されている。そして、本実施形態では、上記のように設定されることで、排気カム42が第2カム42Bのときのオーバーラップ期間(吸気弁18の開弁期間と排気弁19の開弁期間との重複期間)OL_Bおよびこのオーバーラップ期間OL_B中の排気弁19のリフト量の積分値が、排気カムが第1カム42Aのときのオーバーラップ期間(吸気弁18の開弁期間と排気弁19の開弁期間との重複期間)OL_Aおよびこのオーバーラップ期間OL_A中の排気弁19のリフト量の積分値よりも、大きく(長く)なっている。なお、
図3において、IVOは吸気弁18の開弁時期を表しており、IVCは吸気弁18の閉弁時期を表している。
【0038】
吸気通路20は、各吸気ポート8と連通するようにエンジン本体10の一側面に接続されている。吸気通路20は、上流側から順に、エアクリーナ21、スロットル弁22、サージタンク23を有する。エアクリーナ21は、吸気中の異物を除去する。スロットル弁22は、吸気通路20を開閉して当該通路を通って燃焼室6(気筒4)に流入する吸気の流量を変更する。サージタンク23は、内側に所定の空間を備えるタンクである。吸気通路20には、これを流通する吸気の流量である吸気量を検出するエアフローセンサSN2が設けられている。エアフローセンサSN2はエアクリーナ21とスロットル弁22との間に取り付けられている。
【0039】
(カム切替装置)
シリンダヘッド3には、1つの気筒4に対してそれぞれ1つずつカム切替装置45が設けられている。
図1および
図2の例では、エンジン本体1が6つの気筒4を有することに対応して6つのカム切替装置45がシリンダヘッド3に設けられている。なお、
図2には、3つのカム切替装置45のみを示している。カム切替装置45は互いに同じ構造を有しており、以下では1つのカム切替装置45について説明する。
【0040】
カム切替装置45は、ピン駆動部50と、スライド部60とを有する。
【0041】
スライド部60は、排気カムシャフト41に、これと一体に回転可能に、且つ、排気カムシャフト41の軸方向つまり気筒4の並び方向にスライド可能に支持されている。以下、排気カムシャフト41の軸方向つまり気筒4の並び方向を気筒配列方向という。スライド部60は、排気カムシャフト41の周方向に沿う溝63が形成された溝形成部62と、溝形成部62と一体に気筒配列方向にスライド移動するカム支持部64とを有する。第1カム42Aと第2カム42Bとは、気筒配列方向に並ぶ状態でカム支持部64に設けられている。具体的に、1つのカム支持部64には、第1カム42Aとこれの気筒配列方向の一方側に配置された第2カム42Bのセットが気筒配列方向に2セット並設されている。
【0042】
図4(A)であって
図4の上側の図は、溝形成部62の外周面を展開した図である。
図4に示すように、溝63は、溝形成部62の周方向に沿って延びるとともに気筒配列方向に並ぶ2本の第1溝63A、63Bと、2本の第1溝63A、63Bが合流した1本の第2溝63Cであって溝形成部62の周方向に沿って延びる第2溝63Cとを含む。第2溝63Cは、第1溝63A、63Bの間を通るように形成されている。
【0043】
ピン駆動部50は、一対のピン51A、51Bと、一対のソレノイドバルブ52A、52Bとを有する。各ソレノイドバルブ52A、52Bは、それぞれ、コイル53A、53Bと、コイル53A、53Bに挿入された軸部を有して排気カムシャフト41と接離する方向にスライド移動する磁石付きの押圧プレート54A、54Bとを有する。
【0044】
上記のように構成されたカム切替装置45では、コイル53A(53B)に電力が供給されて、ピン51A(51B)が溝形成部62の溝63と嵌合することで、第1カム42Aと第2カム42Bとの間で排気カム42の切り替えが行われる。具体的に、コイル53A(53B)に電力が供給されると、押圧プレート54A(54B)が排気カムシャフト41に近づく方向にスライド移動してピン51A(51B)を押圧する。押圧されたピン51A(51B)は、溝形成部62の溝63と嵌合する。詳細には、ピン51A、51Bは、第1溝63A、63Bの一方と嵌合する。この嵌合状態で排気カムシャフト41および溝形成部62が回転すると、ピン51A(51B)に沿って溝63および溝形成部62はスライド移動する。これにより、溝形成部62を含むスライド部60が気筒配列方向にスライド移動して、ロッカーアーム18aと当接するカムが第1カム42Aから第2カム42Bに、あるいは、第2カム42Bから第1カム42Aに切り替えられる。
【0045】
図4(B)であって
図4の下側の図は、溝63の深さを示した図である。また、この図は、
図4(A)の鎖線に示す経路であって、ピン51Bが溝63を相対移動したときのピン51Bの経路に沿った溝63の深さを表している。なお、ピン51Aが溝63を相対移動したときの経路に沿った溝63の深さも
図4(B)と同様になる。
図4(B)に示すように、溝63の深さは、第2溝63Cにおいて浅くなっているとともに、第2溝63Cにおいて、ピン51A、51Bの進行方向(溝63に対するピン51A(51B)の相対移動の方向についての進行方向)の前側に向かって徐々に浅くなるように設定されている。これより、ピン51A、51Bは、第1溝62A、62Bの一方と嵌合した後、第2溝63Cに移動して当該第2溝63Cに沿って移動(相対移動)することで、排気カムシャフト41から離間する方向に案内されて溝63から外側に押し出される。
【0046】
(制御系統)
エンジンEの制御構成を、
図5のブロック図に基づいて説明する。エンジンEは、コントローラ100によって統括的に制御される。コントローラ100は、CPU、ROM、RAM等から構成される。
【0047】
コントローラ100には、上記のセンサSN1~SN4を含む、エンジンEに搭載された各種センサからの検出信号が逐次入力される。また、コントローラ100には、エンジンEが搭載された車両に設けられた各種センサからの検出信号も入力される。例えば、車両には、アクセルペダルの踏み込み量であるアクセル開度を検出するアクセルセンサSN5が設けられており、アクセルセンサSN5からの検出信号もコントローラ100に入力される。コントローラ100は、各センサSN1~SN5等から入力された情報に基づいて種々の判定や演算等を実施しつつエンジンEの各部を制御する。つまり、コントローラ100は、点火プラグ15、インジェクタ16、スロットル弁22(スロットル弁22を開閉する装置)、吸気SVT37、排気SVT47およびカム切替装置45(ピン駆動部50)等と電気的に接続されており、演算の結果等に基づいてこれらの機器にそれぞれ制御用の信号を出力する。
【0048】
コントローラ100は、アクセルセンサSN5により検出されたアクセル開度とクランク角センサSN1により検出されたエンジン回転数等に基づいて、エンジンEに要求されるトルクである要求エンジントルクつまりエンジン負荷を算出する。そして、コントローラ100は、要求エンジントルクが実現される吸気量を算出して当該吸気量が実現されるようにスロットル弁22等を制御するとともに、要求エンジントルクが実現される燃料の量が燃焼室6に噴射され且つ要求エンジントルクが実現される時期に点火が行われるようにインジェクタ16および点火プラグ15を制御する。
【0049】
コントローラ100は、所定のプログラムが実施されることで、機能的に、運転領域判定部101および吸排気弁制御部102を具備するように動作する。
【0050】
運転領域判定部101は、クランク角センサSN1により検出されたエンジン回転数と、エンジン負荷(要求エンジントルク)とに基づいて、エンジンEが後述する第2カム領域Bと第1カム領域Aのいずれで運転されているかを判定する。
【0051】
(吸排気弁制御)
吸排気弁制御部102は、カム切替装置45を制御して排気カム42の切り替えを行う。
図6は、エンジンの運転領域を排気カム42の相違により区分けしたマップ図である。本図に示すように、排気カム42に関して、エンジンの運転領域は第2カム領域Bと第1カム領域Aとの2つの領域に大別される。
【0052】
第2カム領域Bは、エンジン回転数が所定の切替回転数N1以下で、且つ、エンジン負荷が所定の切替負荷T1以下の領域である。本実施形態では、切替負荷T1は、エンジン回転数が高くなるほど高い値となるように設定されている。第1カム領域Aは、残余の領域であり、エンジン回転数が切替回転数N1よりも高い領域とエンジン負荷が切替負荷T1よりも高い領域とで構成されている。
【0053】
第1カム領域Aは、エンジン回転数あるいはエンジン負荷が高いことに伴って燃焼室6への新気(空気)の導入促進が求められる領域である。これより第1カム領域Aでは、新気の燃焼室6への流入が促進されるように内部EGRガス量を少なく抑えることが望まれる。
【0054】
ここで、上記のように、排気カム42を第1カム42Aとしたときの方が、第2カム42Bとしたときよりも内部EGR量は少なくなる。これより、エンジンEが第1カム領域Aで運転されていることが運転領域判定部101によって判定された場合、吸排気弁制御部102は、排気カム42が第1カム42Aになるようにカム切替装置45を制御する。具体的に、吸排気弁制御部102は、排気カム42が既に第1カム42Aのときはこれを維持し、排気カム42が第2カム42Bのときはカム切替装置45(ピン駆動部50)を駆動して排気カム42を第1カム42Aに切り替える。
【0055】
一方、第2カム領域Bでは、エンジン回転数およびエンジン負荷が低いことで内部EGRガス量を多くし、これにより燃費性能を高めることが可能である。これに対応して、エンジンEが第2カム領域Bで運転されていることが運転領域判定部101によって判定された場合、吸排気弁制御部102は、排気カム42が第2カム42Bになるようにカム切替装置45を制御する。具体的に、吸排気弁制御部102は、排気カム42が既に第2カム42Bのときはこれを維持し、排気カム42が第1カム42Aのときはカム切替装置45(ピン駆動部50)を駆動して排気カム42を第2カム42Bに切り替える。
【0056】
また、吸排気弁制御部102は、吸気SVT37および排気SVT47を制御して、吸気カム32および排気カム42の位相つまり吸気弁18および排気弁19の開弁時期および閉弁時期を制御する。
【0057】
図7は、コントローラ100(主として吸排気弁制御部102)により実施される吸気カム32および排気カム42の位相制御の内容を示したフローチャートである。
図7を用いて、当該位相制御について説明する。
【0058】
まず、コントローラ100は、排気カム42を第1カム42Aと第2カム42Bとの間で切り替える条件であるカム切替条件が成立したか否かを判定する(ステップS1)。具体的に、コントローラ100(運転領域判定部101)は、エンジンEの運転ポイントが第1カム領域Aから第2カム領域Bに移行する、あるいは、第2カム領域Bから第1カム領域Aに移行すると、カム切替条件が成立したと判定する。例えば
図6に示すポイントPAのような第1カム領域A内の運転ポイントPAと、
図6に示すポイントPBのような第2カム領域B内の運転ポイントPBとの間でエンジンEの運転ポイントが変化するときに、カム切替条件が成立したと判定される。
【0059】
ステップS1の判定がNOであってカム切替条件が非成立の場合、コントローラ100(吸排気弁制御部102)は、吸気カム32および排気カム42の位相をそれぞれ通常時の位相である通常位相に制御する(ステップS6)。
【0060】
具体的に、コントローラ100には、排気カム42の通常位相(通常時の排気カム42の位相)である排気カム通常位相がエンジン回転数とエンジン負荷とに応じて設定されてマップで記憶されている。コントローラ100は、現在のエンジン回転数とエンジン負荷とに対応した値をこのマップから抽出して、排気カム42の位相がこの抽出した値になるように排気SVT47を制御する。
【0061】
上記のように、エンジンEが第2カム領域Bで運転されているときは、第2カム42Bが排気カム42として用いられる。これより、第2カム領域Bに含まれるエンジン回転数とエンジン負荷については、排気カム42を第2カム42Bとした状態での適切な排気カム42の位相が排気カム通常位相に設定されている。また、エンジンEが第1カム領域Aで運転されているときは、第1カム42Aが排気カム42として用いられる。これより、第1カム領域Aに含まれるエンジン回転数とエンジン負荷については、排気カム42を第1カム42Aとした状態での適切な排気カム42の位相が排気カム通常位相に設定されている。
【0062】
同様に、コントローラ100には、吸気カム32の通常位相(通常時の排気カム42の位相)である吸気カム通常位相がエンジン回転数とエンジン負荷とに応じて設定されてマップで記憶されている。コントローラ100は、現在のエンジン回転数とエンジン負荷とに対応した値をこのマップから抽出して、吸気カム32の位相がこの抽出した値になるように吸気SVT37を制御する。また、排気カム42を第2カム42Bとした状態での適切な吸気カム32の位相が、第2カム領域Bに含まれるエンジン回転数とエンジン負荷とに対応する吸気カム通常位相に設定されている。また、排気カム42を第1カム42Aとした状態での適切な吸気カム32の位相が、第1カム領域Aに含まれるエンジン回転数とエンジン負荷とに対応する吸気カム通常位相に設定されている。
【0063】
図8は、吸気カム32と排気カム42の通常位相の一例を示した図である。
図8の上側のグラフは、切替負荷T1よりも小さい所定のエンジン負荷Tq1におけるエンジン回転数と排気カム通常位相との関係を示したグラフである。
図8の下側のグラフは、上記のエンジン負荷Tq1において、吸気カム32と排気カム42の位相を通常位相としたときの、エンジン回転数と排気弁19の閉弁時期EVCおよび吸気弁18の開弁時期IVOの関係を示したグラフである。
図8のラインLIVOは吸気弁18の開弁時期IVOを示すラインである。
図8のラインLEVCは、排気弁19の閉弁時期EVCを示すラインである。なお、
図8のラインLEVCのうち第2カム領域Bに含まれる部分は排気カム42が第2カム42Bのときの排気弁19の閉弁時期EVCを表しており、第1カム領域Aに含まれる部分は排気カム42が第1カム42Aのときの排気弁19の閉弁時期EVCを表している。また、
図8において鎖線で示したラインLEVC-A、LEVC-Aは、使用されない他方のカム(LEVC-Aは第1カム41A、LEVC―Bは第2カム42B)を仮に用いて排気弁19を開閉させたときに実現される排気弁19の閉弁時期EVCを示している。
【0064】
図8の上側のグラフに示されるように、エンジン回転数が極めて低い極低回転数領域を除き、第2カム領域Bにおける排気カム通常位相は、第1カム領域Aにおける排気カム通常位相よりも進角側の位相に設定されている。ただし、第2カム領域Bでは、排気弁19の閉弁時期EVCがより遅角側となる第2カム42Bが排気カム42として用いられる。これより、
図8の下側のグラフに示されるように、第2カム領域Bにおける排気弁19の閉弁時期EVCの方が第1カム領域Aにおける排気弁19の閉弁時期EVCよりも遅角側の時期となる。そして、第2カム領域Bの方が第1カム領域Aよりも、実現される吸気弁18の開弁時期IVOから排気弁19の閉弁時期IVCまでの期間であるオーバーラップ期間は長くなる。
【0065】
図7のフローチャートに戻り、ステップS6の後は、コントローラ100は処理を終了する(ステップS1に戻る)。
【0066】
一方、ステップS1の判定がYESであってカム切替条件が成立した場合、コントローラ100は、エンジンEが搭載された車両の急過渡時であるか否かを判定する(ステップS2)。具体的に、コントローラ100は、上記の要求エンジントルクの変化量が所定の判定値以上となる過渡条件が成立すると車両が急加速あるいは急減速しており車両の急過渡時であると判定する。詳細には、コントローラ100は、要求エンジントルクの単位時間あたりの変化量つまり変化速度であって単位時間あたりの増加量および減少量の絶対値と判定値とを比較して、過渡条件が成立したか否かを判定する。
【0067】
ステップS2の判定がYESであって過渡条件が成立しており急過渡時であると判定した場合、コントローラ100(吸排気弁制御部102)は、排気カム42の切り替えを行う(ステップS5)。上記のように、コントローラ100は、ピン駆動部50に対して通電を行ってカム切替装置45に排気カム42の切り替えを行わせる。その後、コントローラ100(吸排気弁制御部102)は、ステップS6に進み、吸気カム32および排気カム42の位相をそれぞれ通常位相に制御する。なお、ステップS2の判定がYESのときに進むステップS6では、コントローラ100は、切り替え後のカムに対応した通常位相に変更する。その後、コントローラ100は処理を終了する(ステップS1に戻る)。
【0068】
一方、ステップS2の判定がNOであって過渡条件が非成立の場合、コントローラ100(吸排気弁制御部102)は、吸気カム32および排気カム42の位相の中間位相への変更を開始する(ステップS3)。中間位相は通常位相とは異なる位相である。
【0069】
カム切替条件の成立に伴って単に排気カム42の切り替えを行うと、燃焼室6(気筒4)内のガスの状態が急変してエンジントルクが過度に変動するおそれがある。具体的に、上記のように、第2カム領域Bの排気カム通常位相は第2カム42Bに対応した位相であり、第1カム領域Aの排気カム通常位相は第1カム42Aに対応した位相である。そのため、カム切替条件の成立に伴って単に排気カム42を切り替えた場合、切り替え後のカムに対応した位相に排気カム42の位相が移行していない状態で排気カム42が切り替えられることで、排気弁19の開閉時期が適切な時期からずれてしまい燃焼室6に導入される空気量が適切な量からずれてしまう。
【0070】
例えば、エンジンEの運転ポイントが第1カム領域A内のポイントから第2カム領域B内のポイントに移行することに伴ってカム切替条件が成立した場合に、排気カム42の位相が第2カム42Bに対応した位相になっていないと、排気弁19の閉弁時期EVCが
図8に示す点P1の時期から点P2の時期のように大幅に遅角されることで内部EGRガス量が過大となる。この結果、燃焼室6に導入される空気量が不足してエンジントルクが過度に低下してしまう。また、反対に、エンジンEの運転ポイントが第2カム領域B内のポイントから第1カム領域A内のポイントに移行することに伴ってカム切替条件が成立した場合に、排気カム42の位相が第1カム42Aに対応した位相になっていないと、排気弁19の閉弁時期EVCが
図8に示す点P11の時期から点P12の時期のように大幅に進角されることで、内部EGRガス量が過少となる。この結果、燃焼室6に導入される空気量が過剰になってエンジントルクが過度に増加してしまう。
【0071】
そこで、コントローラ100は、カム切替条件が成立すると(過渡条件の非成立下において)、排気カム42が第1カム42Aであるか第2カム42Bであるかに関わらず燃焼室6(気筒4)に導入される空気量が同じ量となる中間位相に吸気カム32および排気カム42の位相を変更する切替準備制御を実施する。そして、切替準備制御の実施後に、排気カム42の切り替えを行う。
【0072】
つまり、中間位相は、排気カム42を第1カム42Aとしたときに燃焼室6に導入される空気量と、排気カム42を第2カム42Bとしたときに燃焼室6に導入される空気量とが同じ量となる位相である。なお、ここでいう同じとは、厳密に同じである場合に限られず、実質的に同じである場合も含む。例えば、エンジンEが搭載された車両の乗員が感知しない程度のエンジントルクの差に対応する空気量は、実質的に同じであるとみなす。
【0073】
換言すると、本発明者らは、吸気カム32および排気カム42の位相に関して、排気カム42が第1カム42Aであるか第2カム42Bであるかに関わらず、燃焼室6に導入される空気量が同じ量となる位相が存在することを突き止めた。そこで、カム切替条件の成立時にこの位相を実現することで、カムの切り替えに伴って燃焼室6に導入される空気量が急変するのを防止することにした。
【0074】
具体的に、排気弁19と吸気弁18とがオーバーラップしない状態(吸気弁18と排気弁の開弁期間とが重複しない状態)において、吸気弁18と排気弁19の各開弁期間の負の重複期間、つまり、排気弁19の閉弁時期EVCから吸気弁18の開弁時期IVOまでの期間であるネガティブオーバーラップ量が増大すると内部EGRガス量は増大する。一方で、排気弁19と吸気弁18とがオーバーラップする状態(吸気弁18と排気弁の開弁期間とが重複する状態)において、吸気弁18の開弁時期IVOから排気弁19の閉弁時期EVCまでの期間であるオーバーラップ量を増大させた場合にも、内部EGRガス量は増大する。つまり、所定の内部EGRガス量を実現可能な排気弁19の閉弁時期EVCとしては、排気弁19と吸気弁18とがオーバーラップしない範囲の時期と、排気弁19と吸気弁18とがオーバーラップする範囲の時期との2通りの時期が存在する。そして、エンジン回転数およびエンジン負荷が同じ運転ポイントにおいて、内部EGRガスの量を略同一にすれば、燃焼室6に導入される空気量も同程度になる。
【0075】
上記に対応して、本実施形態では、中間位相は、
図9に示すように、排気カム42を第1カム42Aとしたときの排気弁19の閉弁時期EVC―Aが吸気弁18の開弁時期IVOよりも進角側の時期となって排気弁19と吸気弁18とがオーバーラップせず、且つ、排気カム42を第2カム42Bとしたときの排気弁19の閉弁時期EVC-Bが吸気弁18の開弁時期IVOよりも遅角側の時期となって排気弁19と吸気弁18とがオーバーラップする、位相に設定されている。そして、上記のように、コントローラ100は、カム切替条件が成立すると(過渡条件の非成立下において)、吸気カム32と排気カム42の位相を上記のように設定された中間位相に制御する。
【0076】
本実施形態では、コントローラ100に、排気カム42の中間位相である排気カム中間位相がエンジン回転数とエンジン負荷とに応じて設定されてマップで記憶されている。コントローラ100は、現在のエンジン回転数とエンジン負荷とに対応した値をこのマップから抽出して、排気カム42の位相がこの抽出した値になるように排気SVT47を制御する。ここで、排気カム中間位相は、請求項の「切替時位相」に相当する。
【0077】
同様に、コントローラ100には、吸気カム32の中間位相である吸気カム中間位相がエンジン回転数とエンジン負荷とに応じて設定されてマップで記憶されている。コントローラ100は、現在のエンジン回転数とエンジン負荷とに対応した値をこのマップから抽出して、吸気カム32の位相がこの抽出した値になるように吸気SVT37を制御する。
【0078】
図10は、吸気カム32と排気カム42の中間位相の一例を示したグラフである。
図10の上側のグラフは、
図8と同様に、切替負荷T1よりも小さい所定のエンジン負荷Tq1におけるエンジン回転数と排気カム42の位相との関係を示したグラフである。なお、このグラフにおいて、実線が排気カム中間位相を示しており、鎖線は排気カム通常位相を示している。
図10の下側のグラフは、上記のエンジン負荷Tq1において吸気カム32と排気カム42の位相を中間位相としたときの、エンジン回転数と排気弁19の閉弁時期EVCおよび吸気弁18の開弁時期IVOの関係を示したグラフである。
図10のラインLIVO―Xは、吸気カム32の位相が吸気カム中間位相のときの吸気弁18の開弁時期IVO示している。
図10のラインLEVC-A-Xは、排気カム42の位相が排気カム中間位相で、且つ、排気カム42が第1カム42Aのときの排気弁19の閉弁時期EVCを示している。
図10のラインLEVC-B-Xは、排気カム42の位相が排気カム中間位相で、且つ、排気カム42が第2カム42Bのときの排気弁19の閉弁時期EVCを示している。なお、
図10には、
図8に示した通常位相に対応する排気弁19の閉弁時期EVCを表すラインLEVCと通常位相に対応する吸気弁18の開弁時期IVOを表すラインLIVOも併せて鎖線で示している。
【0079】
図10の上側のグラフに示されるように、極低回転数領域を除き、排気カム中間位相は、排気カム通常位相よりも進角側の時期に設定されている。また、ラインLIVOとラインLIVO-Xとの比較から明らかなように、吸気カム中間位相は、吸気カム通常位相よりも遅角側の時期に設定されている。
【0080】
また、エンジン回転数が高いときは、オーバーラップ量の増加量に対する内部EGRガス量の増加量は、ネガティブオーバーラップ量の増加量に対する内部EGRガス量の増加量よりも小さくなる。そのため、エンジン回転数が高くなるほど、内部EGRガス量が同じになるオーバーラップ量はネガティブオーバーラップ量よりも大きくなり、排気カム42を第1カム42Aとしたときと第2カム42Bとしたときとで内部EGRガス量を同じにするための排気カム42の位相はより遅角側となる。これに対応して、本実施形態では、
図10に示すように、排気カム中間位相は、エンジン回転数が高いほど遅角側になるように、つまり、エンジン回転数が高いほど排気弁19の閉弁時期EVCが遅角側の時期となるように設定されている。詳細には、排気カム中間位相は、エンジン負荷が同じ場合において、つまり、エンジン負荷が同じであるという運転条件下において、エンジン回転数が高い時の方が低いときよりも遅角側の位相になるように設定されている。
【0081】
図7のフローチャートに戻り、コントローラ100は、ステップS3において吸気カム32および排気カム42の位相の中間位相への変更を開始すると、次に、吸気カム32および排気カム42の位相がそれぞれ中間位相(吸気カム中間位相、排気カム中間位相)に到達したか否かを判定する(ステップS4)。コントローラ100は、吸気カム角センサSN4および排気カム角センサSN3の検出値に基づいてこの判定を行う。
【0082】
ステップS4の判定がNOであって吸気カム32および排気カム42の位相がまだ中間位相に到達していないと判定した場合、コントローラ100はステップS4を繰り返して吸気カム32および排気カム42の位相の中間位相への変更を継続する。一方、ステップS4の判定がYESであって吸気カム32および排気カム42の位相が中間位相に到達したと判定した場合、コントローラ100は、ステップS5に進み排気カム42の切り替えを行う。また、コントローラ100は、ステップS6に進み吸気カム32および排気カム42の位相をそれぞれ通常位相に制御する。つまり、コントローラ100は、切替準備制御を終了して、排気カム42の切り替えを行うとともに、吸気カム32および排気カム42の位相を切り替え後のカムに対応した通常位相に変更する。その後、コントローラ100は処理を終了する(ステップS1に戻る)。
【0083】
図11は、エンジンEの運転ポイントが第1カム領域A内のポイントから第2カム領域B内のポイントに移行することに伴いカム切替条件が成立したとき(過渡条件の非成立下において)、つまり、排気カム42を第1カム42Aから第2カム42Bに切り替えるときの吸気弁18と排気弁19の位相の変化を説明するための模式図である。なお、
図11では、第1カム42Aと第2カム42Bのうち排気弁19の開閉に用いられている側のカム42に対応する排気弁19のバルブリフトを実線で示し、用いられていない側のカムに対応する排気弁19のバルブリフトを破線で示している。
【0084】
図11(a)は、カム切替条件の成立前のバルブリフトを示しており、エンジンEが第1カム領域A内で運転されている状態では、排気カム42として第1カム42Aが用いられる。カム切替条件が成立すると、吸気カム32および排気カム42の位相は通常位相から中間位相に変更される。上記のように、極低速領域を除き、排気カム中間位相は排気カム通常位相よりも進角側に設定され、吸気カム中間位相は吸気カム通常位相よりも遅角側に設定されている。ここで、カム切替条件が成立するのは、主として第1カム領域Aと第2カム領域Bの境界付近であって少なくとも極低速領域を除く領域でエンジンEが運転されているときである。これより、
図11(b)に示すように、カム切替条件が成立すると、排気カム42の位相は進角されて排気弁19の開閉時期は進角側の時期に変更され、吸気カム32の位相は遅角されて吸気弁18の開閉時期は遅角側の時期に変更される。そして、各カム32、42の位相の中間位相への変更が終了すると、
図11(c)に示すように、排気カム42が第2カム42Bに切り替えられる。その後、各カム32、42の位相が中間位相から通常位相に変更される。上記のように、排気カム中間位相は排気カム通常位相よりも進角側に設定され、吸気カム中間位相は吸気カム通常位相よりも遅角側に設定されている。これより、中間位相から通常位相への変更時には、
図11(d)に示すように、排気カム42の位相は遅角されて排気弁19の開閉時期は遅角側の時期に変更され、吸気カム32の位相は進角されて吸気弁18の開閉時期は進角側の時期に変更される。
【0085】
なお、エンジンEの運転ポイントが第2カム領域B内のポイントから第1カム領域A内のポイントに移行することに伴いカム切替条件が成立したとき、つまり、排気カム42を第2カム42Bから第1カム42Aに切り替えるときは、上記と逆の手順で各カム32、42の位相は変更される。すなわち、排気カム42の位相が進角されるとともに吸気カム32の位相が遅角されて各カム32、42の位相が通常位相から中間位相に変更される。そして、中間位相への変更が完了すると、排気カム42が第2カム42Bから第1カム42Aに切り替えられる。その後、排気カム42の位相が遅角されるとともに吸気カム32の位相が進角されて各カム32、42の位相が中間位相から通常位相に変更される。
【0086】
(作用等)
以上のように、上記実施形態に係るエンジンEでは、排気カム42として、カムプロフィールが互いに異なり、実現される内部EGRガス量が互いに異なるように設定された第1カム42Aと第2カム42Bとが設けられている。そして、エンジンEが第1カム領域Aと第2カム領域Bのいずれで運転されているのかに応じて、排気カム42が第1カム42Aと第2カム42Bとの間で切り替えられる。そのため、内部EGRガス量をエンジンの運転領域に応じたより適切な量にでき、エンジン性能を高めることができる。
【0087】
具体的に、上記実施形態では、第2カム領域Bにおいて排気カム42が第2カム42Bとされて内部EGRガス量が多くされることで燃費性能を高めることができるとともに、第1カム領域Aにおいて排気カム42が第1カム41Aとされて内部EGRガス量が少なくされることで各燃焼室6(気筒4)に導入される空気量を確保することができる。
【0088】
しかも、上記実施形態では、カム切替条件の成立時に排気カム42が第1カム42Aであるか第2カム42Bであるかに関わらず燃焼室6に導入される空気量が同じ量となる中間位相に排気カム42および吸気カム32の位相が制御され、その後に排気カム42の切り替えが行われる。そのため、排気カム42の切り替え時にエンジントルクが過度に変動するのを防止できる。
【0089】
図12および
図13は、カム切替条件成立時の各パラメータの時間変化を模式的に示した図である。
図11および
図12には、上から順に、エンジンEの運転領域、排気カムの種類、吸気カム32の位相、排気カム42の位相、排気弁19の閉弁時期EVC、内部EGR率であって燃焼室6(気筒4)内の全ガス量に対する内部EGRガス量の割合、充填効率、エンジントルクのグラフを示している。また、
図12および
図13には、エンジンEの運転ポイントが第1カム領域A内のポイントから第2カム領域B内のポイントに移行したときの時間変化を示している。
図13は、本実施形態に係る各パラメータの時間変化を示した図であり、
図12は、比較例であって上記の切替準備制御を実施せずに排気カム42を切り替えた場合の時間変化を示した図である。
【0090】
図12の例では、時刻t10にてエンジンEの運転ポイントの移行に伴って排気カム42が第1カム42Aから第2カム42Bに切り替えられる。
図12に示すように、また上記のように、上記の切替準備制御を行わない場合は、排気カム42の位相が第2カム42Bに対応する位相に移行していない状態で排気カム42の切り替えが行われることで、排気弁19の閉弁時期EVCが大幅に遅角側の時期となる。これに伴い、時刻t10直後に、内部EGR率が急増し、気筒4への空気の導入が抑えられて充填効率が大幅に低下する。この結果、エンジントルクが大幅に低下する。
【0091】
これに対して、
図13に示すように、上記実施形態では、時刻t20にてエンジンEの運転ポイントが移行しても排気カム42が第1カム42Aに維持される。また、時刻t20にて、吸気カム32の位相が中間位相に向けて遅角される。また、排気カム42の位相が中間位相に向けて進角されて、排気弁19の閉弁時期EVCが進角される。このとき、排気弁19の閉弁時期EVCの進角に伴って内部EGR率が減少して充填効率は増加するが、排気弁19の閉弁時期EVCの変化量は小さく、充填効率およびエンジントルクの変化量は小さく抑えられる。その後、各カム32、42の位相が中間位相に到達した時刻t21にて排気カム42が第1カム42Aから第2カム42Bに切り替えられる。この切り替えに伴って、排気弁19の閉弁時期は大幅に進角側の時期となる。しかしながら、排気カム42および吸気カム32の位相が中間位相に変更されていることで、内部EGR率および充填効率はほぼ変化しない。これより、上記実施形態では、排気カム42がきりかえられる時刻t22においてエンジントルクの変動が抑えられる。なお、ここで、排気カム42の切り替え時において、燃焼室6に導入される空気量およびエンジントルクの変動を確実に抑制するべく、スロットル弁22の開度を微調整してもよい。その後は、時刻t22にて排気カム42の切り替えが終了するのに伴って吸気カム32および排気カム42の位相は通常位相に向けて変更される。具体的に、時刻t22にて吸気カム32の位相は進角されて、排気カム42の位相は遅角される。
【0092】
図14は、エンジンEの運転ポイントが第2カム領域B内のポイントから第1カム領域A内のポイントに移行したときの上記実施形態に係る各パラメータの時間変化を示した図であって、
図12および
図13に対応する図である。てカム切替条件成立時の各パラメータの時間変化を模式的に示した図である。上記実施形態によれば、エンジンEの運転ポイントが第2カム領域B内のポイントから第1カム領域A内のポイントに移行したときも、排気カム42の切り替え時にエンジントルクが変動するのが抑制される。具体的に、時刻t30にてエンジンEの運転ポイントが移行しても、排気カム42は第2カム42Bに維持される。また、時刻t30にて、吸気カム32の位相が中間位相に向けて遅角される。また、排気カム42の位相が中間位相に向けて進角されて、排気弁19の閉弁時期EVCが進角される。その後、各カム32、42の位相が中間位相に到達した時刻t31にて排気カム42が第2カム42Bから第1カム42Aに切り替えられる。この切り替えに伴って、排気弁19の閉弁時期は大幅に進角側の時期となる。しかしながら、排気カム42および吸気カム32の位相が中間位相に変更されていることで、内部EGR率および充填効率はほぼ変化しない。これより、排気カム42が切り替えられる時刻t32においてエンジントルクの変動は抑えられる。なお、その後は、排気カム42の切り替えが終了するのに伴って(時刻t32にて)、吸気カム32の位相は通常位相に向けて進角され、排気カム42の位相は通常位相に向けて遅角される。
【0093】
また、上記実施形態では、中間位相が、排気カム42を第1カム42Aとしたときの排気弁19の閉弁時期EVCが吸気弁18の開弁時期IVOよりも進角側の時期となって排気弁19と吸気弁18とがオーバーラップせず、且つ、排気カム42を第2カム42Bとしたときの排気弁19の閉弁時期EVCが吸気弁18の開弁時期IVOよりも遅角側の時期となって排気弁19と吸気弁18とがオーバーラップする、位相に設定されている。そのため、排気カム42の切り替え前後において内部EGRガス量を同等にして、燃焼室6(気筒4)内における混合気の燃焼状態の変動を抑制できる。従って、エンジントルクの変動を確実に抑制できる。
【0094】
また、上記実施形態では、エンジン回転数が高くなるほど、内部EGRガス量が同じになるオーバーラップ量はネガティブオーバーラップ量よりも大きくなり、排気カム42を第1カム42Aとしたときと第2カム42Bとしたときとで内部EGRガス量を同じにするための排気カム42の位相はより遅角側となる点に対応して、排気カム中間位相が、エンジン回転数が高いほど遅角側になるように設定されている。そのため、エンジン回転数に関わらず、排気カム42の切り替え前後において、燃焼室6(気筒4)に導入される空気量を確実に同じ量にできる。
【0095】
また、上記過渡条件の成立時は、要求エンジントルクの変化量が大きく、この変化量に対して排気カム42の切り替えに伴って生じるエンジントルクの変動量は相対的に小さく抑えられる。つまり、過渡条件の成立時は、排気カム42の切り替えに伴って生じるエンジントルクの変動が運転者等に与える影響は小さく抑えられる。これに対して、上記実施形態では、過渡条件が成立した場合は、上記の切換準備制御が実施されることなくカム切替条件の成立に伴ってすぐさま排気カム42の切り替えが行われる。そのため、過渡条件の成立時に、排気カム42をエンジンEの運転領域に対応したカムに早期に切り替えることができる。そして、エンジントルクの変動が運転者等に与える影響が大きくなりやすい過渡条件の非成立時には上記の切替準備制御が実施されることで、上記のように、エンジントルクの変動を確実に抑制できる。
【0096】
(変形例)
上記実施形態では、第1カム42Aと第2カム42Bのカムプロフィールを、排気カムが第1カム42Aのときの排気弁19の閉弁時期EVCの方が、排気カムが第2カム42Bのときの排気弁19の閉弁時期EVCよりも進角側となるように設定して、これにより、上記基本状態において排気カムが第2カム42Bのときの内部EGRガス量の方が第1カム41Aのときの内部EGRガス量よりも多くされる場合を説明したが、第1カム42Aと第2カム42Bとで内部EGRガス量を異ならせるための各カム42A、42Bの具体的なカムプロフィールは上記に限られない。
【0097】
また、上記実施形態では、カム切換条件成立時に排気カム42の位相とともに吸気カム32の位相も通常時の位相と異なる中間位相に変更した場合を説明したが、カム切換条件成立時において、吸気カム32の位相は通常時の位相に維持しつつ排気カム42の位相のみを中間位相に変更させてもよい。
【0098】
また、上記実施形態では、排気カム42をカムプロフィールが異なる第1カム42Aと第2カム42Bとで構成した場合を説明したが、吸気カム32をカムプロフィールが異なる複数のカムで構成して、これらのカムがエンジンEの運転領域等に応じて切り替えられるように構成してもよい。
【符号の説明】
【0099】
4 気筒
6 燃焼室
10 エンジン本体
18 吸気弁(他方の弁)
19 排気弁(一方の弁)
32 吸気カム
37 吸気SVT(吸気位相変更装置)
41 排気カム
41A 第1カム
41B 第2カム
45 カム切替装置
47 排気SVT(位相変更装置)
100 コントローラ(制御装置)