(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117175
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】ステータ
(51)【国際特許分類】
H02K 3/34 20060101AFI20240822BHJP
H02K 3/24 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
H02K3/34 C
H02K3/34 D
H02K3/24 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023115
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】西井 文哉
(72)【発明者】
【氏名】上田 拓
(72)【発明者】
【氏名】杉野 聡一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慎二
【テーマコード(参考)】
5H603
5H604
【Fターム(参考)】
5H603AA13
5H603BB01
5H603BB09
5H603BB12
5H603CA01
5H603CB02
5H603CC05
5H603CC07
5H603CC17
5H603CD02
5H603CD22
5H603CE02
5H603FA04
5H604AA03
5H604BB01
5H604BB10
5H604BB14
5H604CC01
5H604CC05
5H604CC15
5H604DB01
5H604DB15
5H604DB18
5H604DB26
5H604PB01
5H604PB02
5H604PB03
(57)【要約】
【課題】冷却効果を高め、延いてはエネルギーの効率化に寄与できるステータを提供する。
【解決手段】複数のティース5及び複数のスロット7を有するステータコア2と、スロット7に挿通される複数のセグメント導体12を有し、ティース5に巻回される複数のコイル3と、を備える。セグメント導体12は同一のスロット7に径方向に一列に並んで配置されている。セグメント導体12のうち、ティース5の側面5a側の表面には親水処理が施され、セグメント導体12のうち、隣り合うセグメント導体12側の表面には撥水処理が施されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に並ぶ複数のティース、及び周方向で隣り合う前記ティースの間にそれぞれ形成される複数のスロットを有するステータコアと、
軸方向に延びるように形成されて前記スロットに挿通される複数のセグメント導体を有し、前記ティースに巻回される複数のコイルと、
を備え、
前記セグメント導体は同一の前記スロットに径方向に一列に並んで配置され、
前記セグメント導体のうち、前記ティースの側面側の表面には親水処理が施され、
前記セグメント導体のうち、隣り合う前記セグメント導体側の表面には撥水処理が施されている、
ことを特徴とするステータ。
【請求項2】
前記セグメント導体は平角線であり、
前記セグメント導体は、
周方向で前記ティースの側面と対向する第1平坦面と、
径方向で前記セグメント導体同士が対向する第2平坦面と、
を有し、
前記第1平坦面に親水処理が施され、前記第2平坦面に撥水処理が施されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のステータ。
【請求項3】
前記コイルの表面には絶縁被膜が形成されており、
前記セグメント導体のうち、前記親水処理が施された箇所の濡れ性は、前記絶縁被膜の濡れ性よりも高く、
前記セグメント導体のうち、前記撥水処理が施された箇所の濡れ性は、前記絶縁被膜の濡れ性よりも低い、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のステータ。
【請求項4】
前記スロットの内側面と前記セグメント導体の間に、冷媒が流れる冷媒流路が形成されている、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のステータ。
【請求項5】
前記セグメント導体のうち、前記撥水処理が施された箇所を避けて、前記ティースの側面と前記セグメント導体のうち、前記親水処理が施されている箇所との間に、接着剤が塗布されている、
ことを特徴とする請求項4に記載のステータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ステータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動モータや発電機等の回転電機は、ステータとステータに対して回転自在に設けられたロータと、を備える。ステータは、ステータコアと、ステータコアに巻回されるコイルと、を備える。ステータコアは、例えば円筒状のバックヨーク(ヨーク)と、バックヨークから径方向の内側に突出する複数のティースと、が一体成形されている。周方向に隣り合うティースの間に、それぞれスロットが形成される。これらスロットにコイルを挿通し、各ティースにコイルが巻回される。
【0003】
ところで、例えば振動によってステータコアに巻回されたコイルが動くことにより、コイルが損傷してしまう可能性があった。このため、ステータコアに対してコイルを固定するためのさまざまな技術が提案されている。また、通電によって発熱したコイルを放熱させることにより、冷却効果の高いステータを提供するためのさまざまな技術が提案されている。
【0004】
例えば、スロット内にワニスを充填することによりステータコアにコイルを固定する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、このもののコイルは、素線が撥液剤により撥液加工された上層部と、撥液加工されていない下層部とを有している。これにより、スロット内に隙間なくワニスを充填させている。この結果、ステータコアにコイルの熱を効率よく伝達させ、コイルの放熱性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら近年、さらにステータの冷却効果を高め、延いてはエネルギーの効率化に寄与できることが望まれていた。
【0007】
そこで、この発明は、冷却効果を高め、延いてはエネルギーの効率化に寄与できるステータを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
(1)本発明に係るステータ(例えば、実施形態のステータ1)は、周方向に並ぶ複数のティース(例えば、実施形態のティース5)、及び周方向で隣り合う前記ティースの間にそれぞれ形成される複数のスロット(例えば、実施形態のスロット7)を有するステータコア(例えば、実施形態のステータコア2)と、軸方向に延びるように形成されて前記スロットに挿通される複数のセグメント導体(例えば、実施形態のセグメント導体12)を有し、前記ティースに巻回される複数のコイル(例えば、実施形態のコイル3)と、を備え、前記セグメント導体は同一の前記スロットに径方向に一列に並んで配置され、前記セグメント導体のうち、前記ティースの側面側の表面には親水処理P1が施され、前記セグメント導体のうち、隣り合う前記セグメント導体側の表面には撥水処理P2が施されている、ことを特徴とする。
【0009】
このように構成することで、例えばスロット内にワニスを用いてセグメント導体を固定する際、意図的にワニスが留まりやすい箇所と留まりにくい箇所とを形成することができる。すなわち、親水処理が施された箇所に、ワニスを留まりやすくすることができる。撥水処理が施された箇所に、ワニスを留まりにくくさせることができる。
この結果、ワニスによって、ステータコアに確実にセグメント導体を固定しつつ、スロット内に満遍なく隙間が形成される。この隙間を冷媒が流れる冷媒流路として機能させることができる。したがって、ステータの冷却効果を高めることができる。冷媒流路の位置を意図的にバランスよく配置することが可能になるので、冷却ムラができてしまうことを抑制できる。よって、確実にステータの冷却効果を高めることができ、延いてはエネルギーの効率化に寄与できる。
【0010】
(2)上記構成において、前記セグメント導体は平角線であり、前記セグメント導体は、周方向で前記ティースの側面と対向する第1平坦面(例えば、実施形態の第1平坦面12c)と、径方向で前記セグメント導体同士が対向する第2平坦面(例えば、実施形態の第2平坦面12d)と、を有し、前記第1平坦面に親水処理が施され、前記第2平坦面に撥水処理が施されていてもよい。
【0011】
このように構成することで、例えばワニスによるステータコアに対するセグメント導体の固着力を高めることができる。また、各セグメント導体の間に、満遍なく隙間を形成することができる。このため、より確実にステータの冷却効果を高めることができ、延いてはエネルギーの効率化に寄与できる。
【0012】
(3)上記構成において、前記コイルの表面には絶縁被膜(例えば、実施形態の絶縁被膜11)が形成されており、前記セグメント導体のうち、前記親水処理が施された箇所の濡れ性は、前記絶縁被膜の濡れ性よりも高く、前記セグメント導体のうち、前記撥水処理が施された箇所の濡れ性は、前記絶縁被膜の濡れ性よりも低くてもよい。
【0013】
このように構成することで、親水処理が施された箇所に、より確実にワニスを留まらせることができる。撥水処理が施された箇所に、より確実にワニスを留まりにくくさせることができる。
【0014】
(4)上記構成において、前記スロットの内側面と前記セグメント導体の間に、冷媒が流れる冷媒流路(例えば、実施形態の冷媒流路17)が形成されてもよい。
【0015】
このように構成することで、ステータの冷却効果を確実に高め、延いてはエネルギーの効率化に寄与できる。
【0016】
(5)上記構成において、前記セグメント導体のうち、前記撥水処理が施された箇所を避けて、前記ティースの側面と前記セグメント導体のうち、前記親水処理が施されている箇所との間に、接着剤(例えば、実施形態のワニスW)が塗布されてもよい。
【0017】
このように構成することで、冷媒流路を容易に形成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ステータの冷却効果を高め、延いてはエネルギーの効率化に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態における電動モータの一部を破断した斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態におけるコイルの詳細な斜視図である。
【
図4】本発明の実施形態におけるセグメント導体の径方向に沿う断面図である。
【
図5】本発明の実施形態における親水処理及び撥水処理について説明するための表である。
【
図6】本発明の実施形態におけるステータの冷却構造の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
<電動モータ>
図1は、本発明に係るステータ1を備えた電動モータ100の一部を破断した斜視図である。電動モータ100は、ステータ1を備えた回転電機の一例である。
図1に示すように、電動モータ100は、ケース101に収容されたステータ1を備える。
ステータ1は、円筒状のステータコア2と、ステータコア2に巻回される複数のコイル3と、を備える。ステータコア2の径方向中央に、図示しないロータが回転自在に設けられる。ロータは、ステータ1とともに電動モータ100を構成し、永久磁石が設けられている。以下の説明では、ロータの回転軸線Cと平行な方向を軸方向と称し、ロータの回転方向を周方向と称し、軸方向及び周方向に直交するロータの径方向を単に径方向と称する。
【0022】
<ステータコア>
ステータコア2は、例えば複数の電磁鋼板を軸方向に積層することにより形成される。ステータコア2は、円筒状のバックヨーク4と、バックヨーク4の内周面から径方向内側に突出する複数のティース5と、が一体成形されている。バックヨーク4は、回転軸線Cと同軸上に配置されている。バックヨーク4の外周面には、複数の取付座6が径方向外側に突出形成されている。取付座6に形成されている図示しないボルト孔にボルトを挿通し、このボルトをケース101に螺合する。これにより、ケース101にステータコア2が締結固定される。
【0023】
図2は、
図1のII部拡大図である。
図2は、説明を分かりやすくするために各部の縮尺を適宜変更している。
図1、
図2に示すように、ティース5は、周方向に間隔(例えば、等間隔)を空けて配置されている。ティース5は、軸方向からみてT字状に形成されている。すなわち、ティース5は、バックヨーク4の内周面から径方向内側に突出するティース本体15と、ティース本体15における径方向の内側端から周方向の両側に張り出す鍔部16と、が一体成形されている。
【0024】
周方向で隣り合うティース5の間には、それぞれ蟻溝状のスロット7が形成される。本実施形態のスロット7は周方向で隣り合う鍔部16の間が開放された、いわゆるオープンスロットである。しかしながらこれに限られるものではなく、周方向で隣り合う鍔部16の間が閉じられた、いわゆるクローズスロットでもよい。
【0025】
各スロット7には、絶縁紙8が挿通されている。絶縁紙8は、ステータコア2とコイル3との絶縁を確保する。絶縁紙8は、ティース本体15における周方向の側面15a、鍔部16の外周面16a、及びバックヨーク4の内周面4aを覆うように設けられている。各ティース5に、絶縁紙8の上からコイル3が巻回される。
なお、ステータコア2とコイル3との絶縁を確保するためには、絶縁紙8に限られない。例えば、絶縁紙8に代わって、ティース5の全周及びバックヨーク4のうちの少なくとも内周面4aに、樹脂製の絶縁被膜を形成してもよい。
【0026】
<コイル>
図3は、コイル3の詳細な斜視図である。
図4は、コイル3におけるセグメント導体12の径方向に沿う断面図である。
図3、
図4は、説明を分かりやすくするために各部の縮尺を適宜変更している。
図2から
図4に示すように、コイル3は、例えばU相、V相、W相の3相構造である。コイル3は、例えば複数のセグメントコイル10が互いに連結されて構成されている。セグメントコイル10は、芯線が絶縁被膜11に被覆されている。セグメントコイル10は、例えば平角線である。すなわち、各セグメントコイル10における径方向に沿う断面形状は、長方形状に形成されている。
【0027】
各セグメントコイル10は、2つのセグメント導体12と、2つのセグメント導体12における軸方向の第1端部12a同士に跨る第1コイルエンド部13と、2つのセグメント導体12における第1端部12aとは軸方向で反対側の第2端部12bからそれぞれ延出する2つの第2コイルエンド部14と、を有する。2つのセグメント導体12は、軸方向に互いに平行に延びている。これらセグメント導体12が、それぞれ絶縁紙8の上から所定のスロット7に挿通される。
【0028】
第1コイルエンド部13は、ステータコア2における軸方向の第1端部12a上に配置される。第2コイルエンド部14は、ステータコア2における第1端部12aとは軸方向で反対側の第2端部12bから軸方向外側に引き出される。第2コイルエンド部14の端部は、芯線が露出している。各第2コイルエンド部14のうち、一方の第2コイルエンド部14は、別のセグメントコイル10の第2コイルエンド部14に例えばTIG溶接やレーザ溶接等により接合される。他方の第2コイルエンド部14は、さらに別のセグメントコイル10の第2コイルエンド部14に接合される。これにより、複数のセグメントコイル10が順次連結されている。
【0029】
図2、
図4に詳示するように、同一のスロット7に挿通される複数のセグメント導体12は、径方向に沿って一列に配列されている。本実施形態では、同一のスロット7に、例えば5本のセグメント導体12が挿通される。しかしながらこれに限られるものではなく、同一のスロット7に挿通されるセグメント導体12の本数は任意に設定することができる。
【0030】
セグメントコイル10は平角線であるので、セグメント導体12は、周方向でティース5における周方向の側面5a(ティース本体15の側面15a)と対向する第1平坦面12cと、径方向で対向する第2平坦面12dと、角部12eと、を有する。第2平坦面12dは、径方向で隣り合う他のセグメント導体12の第2平坦面12dとも対向している。角部12eは、円弧状に形成されている。
【0031】
ここで、第1平坦面12cは、広義には第1平坦面12cから第1平坦面12cと第2平坦面12dとの間の中央(角部12eの中央)に至る間も含む。第2平坦面12dは、広義には第2平坦面12dから第2平坦面12dと第1平坦面12cとの間の中央に至る間も含む。
【0032】
第1平坦面12cには、親水処理P1が施されている。第2平坦面12dには、撥水処理P2が施されている。親水処理P1は、例えば第1平坦面12cの表面にプラズマ処理を行うことによって施す。撥水処理P2は、例えば第2平坦面12dの表面にフッ素系コーティングを形成したり、第2平坦面12dの表面の面粗さを粗くしたりすることにより施す。
図4では、親水処理P1及び撥水処理P2を分かりやすくするために誇張して示している。以下、親水処理P1及び撥水処理P2について詳述する。
【0033】
図5は、親水処理P1及び撥水処理P2について説明するための表である。
図5は、親水処理P1、撥水処理P2、及び処理なしのそれぞれについて、セグメント導体12(セグメントコイル10)の表面に液体(例えば、ワニス)Wを滴下した場合の状態の違いを示している。
処理なしとは、セグメント導体12の表面に親水処理P1又は撥水処理P2のいずれも施さない場合をいう。すなわち、処理なしとは絶縁被膜11の表面をいう。以下、セグメント導体12の表面に親水処理P1を施した場合を単に親水処理P1という。セグメント導体12の表面に撥水処理P2を施した場合を単に撥水処理P2という。絶縁被膜11の表面を処理なしという。
【0034】
図5に示すように、親水処理P1とは、処理なしと比較して濡れ性が高いことをいう。撥水処理P2とは、処理なしと比較して濡れ性が低いことをいう。
より具体的に説明すると、まず、セグメント導体12に滴下した液体(例えば、ワニス)Wの接触角のうち、処理なしの場合の接触角をθとする。撥水処理P2の接触角をθ’とする。親水処理P1の接触角をθ’’とする。液体Wと気体との間の界面張力をγ
Lとする。液体Wとセグメント導体12(固体)との間の界面張力をそれぞれγ
LSとする。処理なしにおける気体とセグメント導体12との間の界面張力をγ
Sとする。撥水処理P2における気体とセグメント導体12との間の界面張力をγ
S’とする。親水処理P1における気体とセグメント導体12との間の界面張力をγ
S’’とする。
【0035】
各界面張力γS,γS’,γS’’は、それぞれ
γS=γLcosθ+γLS・・・(1)
γS’=γLcosθ’+γLS・・・(2)
γS’’’=γLcosθ’’+γLS・・・(3)
を満たす。
上記式(1)~(3)は、いわゆるヤングの式を示している。
【0036】
このとき、各界面張力γS,γS’,γS’’は、
γS’’>γS>γS’ ・・・(4)
を満たす。
各接触角θ,θ’,θ’’は、
θ’’<θ<θ’ ・・・(5)
を満たす。
上記式(4),(5)を満たすことを、親水処理P1は、処理なしと比較して濡れ性が高いという。撥水処理P2は、処理なしと比較して濡れ性が低いという。
【0037】
図2に戻り、セグメント導体12のうち、第1平坦面12cとティース5の側面5aとの間には、液体Wとしてワニス(以下、符号Wはワニスとする)が塗布されている。このワニスWによって、ステータコア2にセグメント導体12(コイル3)が固定される。ワニスWが塗布されないスロット7の内側面とセグメント導体12の間には、冷媒が流れる冷媒流路17が形成される。
冷媒流路17は、ステータコア2を軸方向に貫通するように形成されている。冷媒によってステータ1を冷却することが可能である。冷媒としては、例えば電動モータ100の駆動用の潤滑油が挙げられる。しかしながらこれに限られるものではなく、さまざまな冷媒を採用することが可能である。
【0038】
このような構成のもと、各セグメントコイル10には、U相、V相、W相の3相のうち、所定の相の電流が流れる。これにより、所定のティース5に鎖交磁束が形成される。この鎖交磁束と図示しないロータの永久磁石(磁極)との間に磁気的な吸引力や反発力が生じ、ロータが継続的に回転される。
【0039】
<ワニスの塗布方法>
次に、ワニスの塗布方法について説明する。
まず、予めコイル3のうち、少なくともセグメント導体12の第1平坦面12cに親水処理P1を施すとともに、第2平坦面12dに撥水処理P2を施す。なお、コイル3の全体で第1平坦面12cと同一面上の全体に親水処理P1を施すとともに、第2平坦面12dと同一平面上の全体に撥水処理P2を施してもよい。
【0040】
次に、ステータコア2における軸方向の一方側からセグメントコイル10(コイル3)を組み付ける。具体的には、ステータコア2における軸方向の一方側に、第2コイルエンド部14を向ける。このとき、第2コイルエンド部14は、セグメント導体12に対して真っ直ぐな状態である。この状態で、各々対応するスロット7に、第2コイルエンド部14及びセグメント導体12を挿通する。
【0041】
セグメントコイル10は、各スロット7にセグメント導体12が挿通された後、径方向で隣り合うセグメント導体12間で曲げ方向が逆方向になるように、各第2コイルエンド部14を周方向に屈曲させる。そして、周方向で隣り合うセグメントコイル10同士を、第2コイルエンド部14を介して接合する。これにより、各ティース5にコイル3が巻回される。
【0042】
次に、各スロット7にワニスWを流し込む。このとき、セグメント導体12のうち、親水処理P1が施されている第1平坦面12cには、ワニスWが積極的に付着して留まる。これに対し、セグメント導体12のうち、撥水処理P2が施されている第2平坦面12dは、ワニスWが流れ落ちて付着してしまうことが抑制される。この結果、第1平坦面12cとティース5の側面5aとの間にワニスWが塗布される。径方向で隣り合う第2平坦面12d同士の間や、ワニスWが塗布されないスロット7の内側面とセグメント導体12の間に、冷媒が流れる冷媒流路17が形成される。これにより、ワニスWの塗布が完了する。ワニスWが固化されることにより、ステータコア2にセグメント導体12が固定される。
【0043】
<ステータの冷却構造の一例>
次に、
図6に基づいて、ステータ1の冷却構造の一例について説明する。
図6は、ステータ1の冷却構造の一例を示す概略構成図である。
図6に示すように、ステータ1は、ケース101(
図1参照)等によって密閉される。これにより、ステータ1には、スロット7を介した円筒状の冷媒流路が形成される。ステータ1の軸方向両端には、冷媒の流れる配管102が接続される。この配管102の途中に、熱交換器103、及びポンプ104が設けられる。ポンプ104によって、スロット7の冷媒流路17(
図2参照)内に冷媒が流れる。
【0044】
ステータ1によって加熱された冷媒は、熱交換器103によって冷却され、再びポンプ104によって冷媒流路17に供給される。このように冷媒が循環されることにより、ステータ1が効果的に冷却される。
【0045】
このように上述の実施形態では、ステータコア2の各スロット7に挿通されたコイル3のセグメント導体12が径方向に一列に並んで配置されたステータ1において、セグメント導体12のうち、ティース5の側面5a側の表面に親水処理P1が施されている。また、セグメント導体12のうち、隣り合うセグメント導体12側の表面に撥水処理P2が施されている。このため、例えばスロット7内にワニスWを用いてセグメント導体12を固定する際、意図的にワニスWが留まりやすい箇所と留まりにくい箇所とを形成することができる。すなわち、親水処理P1が施された箇所に、ワニスWを留まりやすくすることができる。撥水処理P2が施された箇所に、ワニスWを留まりにくくさせることができる。
【0046】
この結果、ワニスWによって、ステータコア2に確実にセグメント導体12を固定しつつ、スロット7内に満遍なく隙間が形成される。この隙間を冷媒が流れる冷媒流路17として機能させることができる。したがって、ステータ1の冷却効果を高めることができる。冷媒流路17の位置を意図的にバランスよく配置することが可能になるので、冷却ムラができてしまうことを抑制できる。よって、確実にステータ1の冷却効果を高めることができ、延いてはエネルギーの効率化に寄与できる。
【0047】
セグメント導体12は平角線であり、ティース5の側面5a(ティース本体15の側面15a)と対向する第1平坦面12cと、径方向でセグメント導体12同士が対向する第2平坦面12dと、を有する。第1平坦面12cに、親水処理P1が施されている。第2平坦面12dに、撥水処理P2が施されている。このように構成することで、例えばワニスWによるステータコア2に対するセグメント導体12の固着力を高めることができる。また、各セグメント導体12の間に、満遍なく冷媒流路17を形成することができる。このため、より確実にステータ1の冷却効果を高めることができ、延いてはエネルギーの効率化に寄与できる。
【0048】
親水処理P1は、処理なしと比較して濡れ性が高い。撥水処理P2は、処理なしと比較して濡れ性が低い。このため、親水処理P1が施された箇所に、より確実にワニスWを留まらせることができる。撥水処理P2が施された箇所に、より確実にワニスWを留まりにくくさせることができる。
【0049】
本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
例えば、上述の実施形態では、回転電機の一例としての電動モータ100に上述のステータ1の構成を採用した場合について説明した。しかしながらこれに限られるものではなく、さまざまな回転電機にステータ1の構成を採用できる。例えば、電動モータ100に代わって発電機にも上述のステータ1の構成を採用できる。
【0050】
上述の実施形態では、セグメントコイル10は、例えば平角線である場合について説明した。しかしながらこれに限られるものではなく、セグメントコイル10は丸線でもよい。セグメントコイル10が丸線であっても、セグメント導体12において、ティース5の側面5a側の表面に親水処理P1が施されていればよい。セグメント導体12のうち、隣り合うセグメント導体12側の表面に撥水処理P2が施されていればよい。丸線におけるティース5の側面5a側の表面とは、例えば丸線の断面において、ティース5の側面5a側の1/4周域をいう。丸線における隣り合うセグメント導体12側の表面とは、例えば丸線の断面において、隣り合うセグメント導体12側の1/4周域をいう。
【0051】
上述の実施形態では、第2平坦面12dに、撥水処理P2を施した場合について説明した。しかしながらこれに限られるものではなく、1つのセグメント導体12において、2つの第2平坦面12dのうち、少なくとも径方向で隣り合う他のセグメント導体12の第2平坦面12dと対向する第2平坦面12dに、撥水処理P2が施されていればよい。
【0052】
上述の実施形態では、ステータコア2にセグメント導体12を固定する接着剤としてワニスWを用いた場合について説明した。しかしながら接着剤はワニスWに限られるものではない。ステータコア2にセグメント導体12(コイル3)を固定できる液状の接着剤であればよい。
【0053】
上述の実施形態では、親水処理P1は、例えば第1平坦面12cの表面にプラズマ処理を行うことによって施す場合について説明した。撥水処理P2は、例えば第2平坦面12dの表面にフッ素系コーティングを形成したり、第2平坦面12dの表面の面粗さを粗くしたりすることにより施す場合について説明した。しかしながらこれに限られるものではなく、親水処理P1は、処理なしと比較して濡れ性が高くなる処理であればよい。撥水処理P2は、処理なしと比較して濡れ性が低くなる処理であればよい。
【符号の説明】
【0054】
1…ステータ
2…ステータコア
3…コイル
5…ティース
7…スロット
11…絶縁被膜
12…セグメント導体
12c…第1平坦面
12d…第2平坦面
17…冷媒流路
100…電動モータ
P1…親水処理
P2…撥水処理
W…ワニス(接着剤)