(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011718
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】電磁ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
F16D 55/28 20060101AFI20240118BHJP
F16D 65/16 20060101ALI20240118BHJP
F16D 121/16 20120101ALN20240118BHJP
F16D 121/22 20120101ALN20240118BHJP
【FI】
F16D55/28 B
F16D65/16
F16D121:16
F16D121:22
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113958
(22)【出願日】2022-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】上瀬 哲也
【テーマコード(参考)】
3J058
【Fターム(参考)】
3J058AA43
3J058AA48
3J058AA53
3J058AA68
3J058AA78
3J058AA79
3J058AA88
3J058BA01
3J058CC07
3J058CC13
3J058CC72
3J058CC77
(57)【要約】
【課題】ブレーキ力の設計の自由度を向上させる。
【解決手段】電磁ブレーキ装置1は、軸方向において回転部材2の一方側に隣接配置された複数の可動板4と、複数のバネ6と、電磁石ユニット5とを備える。複数の可動板4は、回転部材2の周方向に並べて配置された可動板4L及び可動板4Rを含む。電磁石ユニット5は、ヨーク51とコイル52とを有する。電磁ブレーキ装置1は、軸方向において可動板4Lとヨーク51との間に配置された、非磁性材料からなる非磁性シート41を備える。非磁性シート41は、可動板4L及び可動板4Rがヨーク51に引き寄せられた状態で、軸方向における可動板4Lとヨーク51との間の距離である第1距離を、軸方向における可動板4Rとヨーク51との間の距離である第2距離よりも大きくするように配置されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の軸方向を回転軸方向として回転する回転部材を制動する電磁ブレーキ装置であって、
前記軸方向において前記回転部材の一方側に隣接配置され、前記軸方向に移動可能に構成され、前記回転部材の前記軸方向における一方側の端に形成された端面に接触しているときに前記回転部材の回転を制動する、磁性材料で形成された複数の可動部材と、
前記複数の可動部材を前記軸方向における他方側へ付勢する複数の付勢部材と、
前記軸方向における前記一方側への磁力を前記複数の可動部材に加えることが可能に構成された電磁石ユニットと、を備え、
前記複数の可動部材は、前記回転部材の周方向に並べて配置された第1可動部材及び第2可動部材を含み、
前記電磁石ユニットは、
磁性材料で形成され、前記可動部材の前記軸方向における前記一方側に配置されたヨークと、
電流が流れているときに、前記ヨークと前記第1可動部材との間に前記磁力を発生させ且つ前記ヨークと前記第2可動部材との間に前記磁力を発生させるように構成されたコイルと、を有し、
前記軸方向において前記第1可動部材と前記ヨークとの間に配置された、非磁性材料からなるスペーサー部を備え、
前記スペーサー部は、
前記第1可動部材及び前記第2可動部材が前記ヨークに引き寄せられた状態において、前記軸方向における前記第1可動部材と前記ヨークとの間の距離である第1距離を、前記軸方向における前記第2可動部材と前記ヨークとの間の距離である第2距離よりも大きくするように配置されていることを特徴とする電磁ブレーキ装置。
【請求項2】
前記スペーサー部は、非磁性材料からなる非磁性シートを有することを特徴とする請求項1に記載の電磁ブレーキ装置。
【請求項3】
前記スペーサー部は、前記第1可動部材又は前記ヨークに固定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電磁ブレーキ装置。
【請求項4】
前記スペーサー部は、前記第1可動部材に固定されていることを特徴とする請求項3に記載の電磁ブレーキ装置。
【請求項5】
前記第1可動部材をそれぞれ軸方向に案内する第1案内部と、
前記第2可動部材をそれぞれ軸方向に案内する第2案内部と、
前記第2可動部材の移動を抑制するための摩擦力を前記第2可動部材に作用させる抵抗部材と、を備え、
前記抵抗部材は、
前記第1可動部材と前記第1案内部との間に形成される第1隙間、及び前記第2可動部材と前記第2案内部との間に形成される第2隙間のうち、第2隙間にのみ配置されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の電磁ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、所定の軸方向を回転軸方向として回転するディスク(以下、回転部材)を制動する電磁ブレーキ装置が開示されている。電磁ブレーキ装置は、軸方向において回転部材と隣接配置された2つのアーマチュア(以下、可動部材)と、2つの可動部材を軸方向において回転部材側に付勢する複数のバネと、2つの可動部材を軸方向において回転部材から離隔させるための電磁石とを備える。2つの可動部材の各々は、磁性材料からなり、略円板状の部材が回転部材の周方向において二等分された形状を有する。電磁石は、軸方向において可動部材を隔てて回転部材と反対側に配置されたヨークと、ヨークに収容されたコイルとを有する。コイルが通電されているとき、2つの可動部材が磁気吸引力(以下、単に磁力)によってヨークに引き寄せられており、回転部材から離隔している。コイルへの通電が切られたとき、磁力が短時間で弱まる。バネによる付勢力が磁力よりも相対的に強くなったとき、2つの可動部材が軸方向に移動して回転部材と接触することで、摩擦力によるブレーキが作動する。
【0003】
より詳細には、2つの可動部材の一方(以下、第1可動部材)は、複数のバネの一部(以下、複数の第1バネ)によって付勢される。2つの可動部材の他方(以下、第2可動部材)は、複数の第1バネとは別の複数の第2バネによって付勢される。複数の第1バネによる付勢力は、複数の第2バネによる付勢力よりも強い。このため、コイルへの通電が切られたとき、複数の第1バネによる付勢力が複数の第2バネによる付勢力よりも早く磁力を上回る。これにより、第1可動部材が第2可動部材よりも一瞬早く回転部材に接触し、その後、第2可動部材が回転部材に接触する。このように、ブレーキが二段階で作動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、複数のバネによる付勢力の差を利用してブレーキを二段階で作動させる場合、付勢力が比較的強い(つまり、ブレーキ力が比較的強い)バネによって付勢される第1可動部材が、第2可動部材よりも必ず先に回転部材に接触する。このため、例えば、一段階目のブレーキを弱く作動させ且つ二段階目のブレーキを強く作動させたいという要望があっても、上述した構成では当該要望を実現できない。このように、上述した構成ではブレーキ力の設計の自由度が低いという問題点がある。
【0006】
本発明の目的は、ブレーキ力の設計の自由度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明の電磁ブレーキ装置は、所定の軸方向を回転軸方向として回転する回転部材を制動する電磁ブレーキ装置であって、前記軸方向において前記回転部材の一方側に隣接配置され、前記軸方向に移動可能に構成され、前記回転部材の前記軸方向における一方側の端に形成された端面に接触しているときに前記回転部材の回転を制動する、磁性材料で形成された複数の可動部材と、前記複数の可動部材を前記軸方向における他方側へ付勢する複数の付勢部材と、前記軸方向における前記一方側への磁力を前記複数の可動部材に加えることが可能に構成された電磁石ユニットと、を備え、前記複数の可動部材は、前記回転部材の周方向に並べて配置された第1可動部材及び第2可動部材を含み、前記電磁石ユニットは、磁性材料で形成され、前記可動部材の前記軸方向における前記一方側に配置されたヨークと、電流が流れているときに、前記ヨークと前記第1可動部材との間に前記磁力を発生させ且つ前記ヨークと前記第2可動部材との間に前記磁力を発生させるように構成されたコイルと、を有し、前記軸方向において前記第1可動部材と前記ヨークとの間に配置された、非磁性材料からなるスペーサー部を備え、前記スペーサー部は、前記第1可動部材及び前記第2可動部材が前記ヨークに引き寄せられた状態において、前記軸方向における前記第1可動部材と前記ヨークとの間の距離である第1距離を、前記軸方向における前記第2可動部材と前記ヨークとの間の距離である第2距離よりも大きくするように配置されていることを特徴とする。
【0008】
本発明では、第1可動部材及び第2可動部材によってブレーキを二段階で作動させることができる。さらに、スペーサー部により、第1可動部材及びヨークを含んで形成される磁路(第1磁路)の磁気抵抗を、第2可動部材及びヨークを含んで形成される磁路(第2磁路)の磁気抵抗よりも大きくすることができる。このため、コイルへの通電が切られた際、第1可動部材に作用する磁力が第2可動部材に作用する磁力よりも早く弱まる。このため、複数の付勢部材による第1可動部材への付勢力が第2可動部材への付勢力と比べて強い場合でも弱い場合でも、第1可動部材を第2可動部材よりも先に回転部材に接触させることができる。第1可動部材による一段階目のブレーキ力は、第1可動部材への付勢力によって自由に設定できる。したがって、ブレーキ力の設計の自由度を向上させることができる。
【0009】
第2の発明の電磁ブレーキ装置は、前記第1の発明において、前記スペーサー部は、非磁性材料からなる非磁性シートを有することを特徴とする。
【0010】
本発明では、非磁性シートを第1可動部材とヨークとの間に配置するというシンプルな構造によって、第1磁路の磁気抵抗を第2磁路の磁気抵抗よりも大きくすることができる。
【0011】
第3の発明の電磁ブレーキ装置は、前記第1又は第2の発明において、前記スペーサー部は、前記第1可動部材又は前記ヨークに固定されていることを特徴とする。
【0012】
スペーサー部が非常に薄い(例えばフィルム状である)場合、スペーサー部が第1可動部材及びヨークのいずれにも固定されておらず不安定な構成では、スペーサー部が第1可動部材との衝突によって変形する等のおそれがある。本発明では、スペーサー部が第1可動部材又はヨークに固定されている(つまり、第1可動部材又はヨークと一体的に設けられている)ため、スペーサー部の変形を抑制できる。
【0013】
第4の発明の電磁ブレーキ装置は、前記第3の発明において、前記スペーサー部は、前記第1可動部材に固定されていることを特徴とする。
【0014】
一般的に、ヨークには様々な部材が取り付けられる。このため、ヨークにスペーサー部を固定する場合、電磁ブレーキ装置の製造工程において、ヨークに取り付けられた他の部材が邪魔になって作業性が悪くなるおそれがある。本発明では、第1可動部材の周辺に他の部材が配置されていない状態で第1可動部材にスペーサー部を固定することができるため、製造工程における作業性の悪化を抑制できる。
【0015】
第5の発明の電磁ブレーキ装置は、前記第1~第4のいずれかの発明において、前記第1可動部材をそれぞれ軸方向に案内する第1案内部と、前記第2可動部材をそれぞれ軸方向に案内する第2案内部と、前記第2可動部材の移動を抑制するための摩擦力を前記第2可動部材に作用させる抵抗部材と、を備え、前記抵抗部材は、前記第1可動部材と前記第1案内部との間に形成される第1隙間、及び前記第2可動部材と前記第2案内部との間に形成される第2隙間のうち、第2隙間にのみ配置されていることを特徴とする。
【0016】
本発明では、第2可動部材に作用する摩擦力によって、コイルへの通電が切られた際の第2可動部材の加速度を低減させることができる。これにより、第2可動部材が回転部材の端面に接触するタイミングを、第1可動部材が回転部材の端面に接触するタイミングと比べてさらに遅らせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態に係る電磁ブレーキ装置を軸方向から見た図である。
【
図2】(a)、(b)は、
図1のII-II線断面図である。
【
図3】(a)は、
図2(a)に示す電磁ブレーキ装置において回転軸の図示を省略した図であり、(b)は、2つの可動板を軸方向から見た図である。
【
図5】(a)、(b)は、コイルへの通電が切られた後の2つの可動板の動作を示す説明図である。
【
図6】変形例に係る電磁ブレーキ装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施形態に係る電磁ブレーキ装置1について説明する。説明の便宜上、
図1の紙面垂直方向及び
図2の紙面上下方向を軸方向と呼ぶ。軸方向は、後述する回転軸RS(
図2参照)の回転軸方向である。回転軸RSの径方向を単に径方向と呼ぶ。径方向は、電磁ブレーキ装置1全体の径方向と等しい。回転軸RSの周方向を単に周方向と呼ぶ。周方向は、電磁ブレーキ装置1全体の周方向と等しい。
【0019】
(電磁ブレーキ装置の概要)
電磁ブレーキ装置1の概要について、
図1~
図3(b)を参照しつつ説明する。
図1は、軸方向において後述の固定板3側から電磁ブレーキ装置1を見た図である。
図2(a)は、
図1のII-II線断面図である。より具体的には、
図2(a)は、後述するコイル52が通電されているとき(すなわち、コイル52に電流が流れているとき)の電磁ブレーキ装置1の状態を示す図である。
図2(b)は、
図2(a)と同様に、
図1のII-II線断面図である。より具体的には、
図2(b)は、コイル52に電流が流れていないときの電磁ブレーキ装置1の状態を示す図である。
図3(a)は、
図2(a)に示す電磁ブレーキ装置1において回転軸RSの図示を省略した図である。
図3(b)は、後述する2つの可動板4を軸方向から見た図である。
【0020】
電磁ブレーキ装置1は、回転軸RS(
図2参照)の回転を制動することにより、回転軸RSが接続された機器(不図示)の動作を停止させるための装置である。
図1~
図3(b)に示すように、電磁ブレーキ装置1は、回転部材2と、固定板3と、2つの可動板4(本発明の可動部材)と、電磁石ユニット5と、複数のバネ6(本発明の付勢部材)とを備える。電磁ブレーキ装置1は、回転軸RSに取り付けられた回転部材2を固定板3と2つの可動板4とによって挟み込むことによりブレーキを作動させるように構成されている。より具体的には、電磁石ユニット5が2つの可動板4を引き寄せて回転部材2から離隔させることにより、回転部材2の回転が可能となる。また、電磁石ユニット5が2つの可動板4を引き寄せている状態が解除される(以下、「電磁石ユニット5が可動板4を釈放する」と称する)ことにより、2つの可動板4が複数のバネ6によって回転部材2にそれぞれ押し付けられる(
図2(b)参照)。これにより、ブレーキが作動する。
【0021】
(各構成要素)
次に、電磁ブレーキ装置1の各構成要素のより詳細について、
図1~
図4を参照しつつ説明する。
図4は、コイル52が通電されているときの、
図1のIV-IV断面図である。
【0022】
回転部材2は、ハブ21と、ディスク22とを有する。ハブ21は、回転軸RSの先端部RS1に固定された略筒状の部分である。ハブ21は、例えば公知のスプラインカラーである。ハブ21は、例えばディスク22の内周部と嵌合する嵌合部21a(
図1参照)を有する。ディスク22は、径方向においてハブ21の外側に配置された略円板状の部材である。ディスク22の内周部は、ハブ21の嵌合部21aと嵌合している。これにより、ディスク22はハブ21と一体回転可能となっている。或いは、ハブ21及びディスク22は、1つの部材によって形成されていても良い。
【0023】
以下、説明の便宜上、
図2(a)に示すように、軸方向における一方側及び他方側を定義する。
図2(a)の紙面下側が、軸方向における一方側である。
図2(a)の紙面上側が、軸方向における他方側である。
図2(b)において図示を省略するが、軸方向における一方側及び他方側の定義は、
図2(a)と
図2(b)とで同じである。
図2(a)、
図2(b)に示すように、ディスク22の軸方向における一方側の端に、端面22aが形成されている。ディスク22の軸方向における他方側の端に、端面22bが形成されている。端面22aは、2つの可動板4にそれぞれ形成された端面4b(後述)と接触可能に配置された面である。端面22bは、固定板3の端面3a(後述)と接触可能に配置された面である。
【0024】
固定板3は、例えば略円板状の部材である。
図2(a)~
図4に示すように、固定板3は、ディスク22の軸方向における他方側に隣接配置されている。固定板3の軸方向における一方側の端に、端面3aが形成されている。端面3aは、ディスク22の端面22bと接触可能に配置された面である。
図4に示すように、固定板3は、複数のボルトBの軸がそれぞれ挿通される複数の挿通孔3bを有する。固定板3は、複数のボルトBによって電磁石ユニット5に固定されている。
【0025】
2つの可動板4は、合わせて略円板状の部材である。2つの可動板4の各々は、鉄などの磁性材料によって形成されている。
図2(a)~
図4に示すように、2つの可動板4は、ディスク22の軸方向における一方側に隣接配置されている。2つの可動板4は、電磁石ユニット5の軸方向における他方側に隣接配置されている。2つの可動板4は、回転軸RSの径方向における外側に配置されている。2つの可動板4の軸方向における一方側の端に、端面4aがそれぞれ形成されている。端面4aは、後述するヨーク51に形成された端面54bと接触可能に配置された面である。2つの可動板4の軸方向における他方側の端に、端面4bがそれぞれ形成されている。端面4bは、ディスク22の端面22aと接触可能に配置された面である。端面4aと端面4bは略平行である。
【0026】
2つの可動板4の各々は、軸方向から見たときに概ね半月状である(
図3(b)参照)。2つの可動板4は、周方向において並べて配置されている(
図2(a)~
図3(b)参照)。2つの可動板4は、所定の仮想平面P(
図1~
図3(b)参照)を挟んで互いに反対側に配置されている。仮想平面Pとは、軸方向に平行であり、且つ、回転部材2の径方向における中心を通る所定の仮想的な平面である。以下、仮想平面Pと垂直な方向を所定方向とする(
図1、
図2(b)及び
図3(b)参照)。
図1、
図2(b)及び
図3(b)において、紙面左側を所定方向における一方側と定義し、紙面右側を所定方向における他方側と定義する。図示は省略するが、
図2(a)及び
図3(a)における所定方向の定義も、
図1等における所定方向の定義と同じである。2つの可動板4のうち、仮想平面Pよりも所定方向における一方側に配置された可動板4を、以下、可動板4L(本発明の第1可動部材)とも呼ぶ。可動板4Lの軸方向における一方側の端面4aを、端面4Laとも呼ぶ。2つの可動板4のうち、仮想平面Pよりも所定方向における他方側に配置された可動板4を、以下、可動板4R(本発明の第2可動部材)とも呼ぶ。可動板4Rの軸方向における一方側の端面4aを、端面4Raとも呼ぶ。
【0027】
図4に示すように、2つの可動板4の各々は、複数のカラーCがそれぞれ挿通される複数の挿通孔4cを有する。複数の挿通孔4cは、2つの可動板4のいずれかを軸方向に貫通している。複数のカラーCの各々は、軸方向に延びている。複数のカラーCは、複数のボルトBによって、固定板3と電磁石ユニット5との間にそれぞれ固定されている。可動板4は、複数のカラーCによって軸方向に案内される。これにより、2つの可動板4は、軸方向に移動可能である。より具体的には、2つの可動板4は、ブレーキ解除位置(
図2(a)参照)と、ブレーキ作動位置(
図2(b)参照)との間でそれぞれ移動可能である。ブレーキ解除位置は、2つの可動板4が軸方向において電磁石ユニット5側に引き寄せられて吸着したときの可動板4の位置である。ブレーキ作動位置は、2つの可動板4が電磁石ユニット5から釈放されてディスク22に完全に押し当てられたときの、2つの可動板4の位置である。
【0028】
電磁石ユニット5は、2つの可動板4を吸着させたり釈放したりするためのユニットである。
図2(a)~
図4に示すように、電磁石ユニット5は、軸方向において2つの可動板4の一方側に隣接配置されている。電磁石ユニット5は、ヨーク51と、コイル52とを有する。
【0029】
ヨーク51は、軸方向に沿って延びた概ね筒状の部材である。ヨーク51は、鉄などの磁性材料によって形成されている。ヨーク51は、回転軸RSの径方向における外側に配置されている。ヨーク51は、内筒部53と、外筒部54と、円板部55とを有する。内筒部53、外筒部54及び円板部55によって、コイル52が収容されるコイル収容溝56が形成されている。本実施形態では、内筒部53、外筒部54及び円板部55は1つの部材によって一体的に形成されている。但し、これには限られない。
【0030】
内筒部53は、回転軸RSの径方向におけるすぐ外側に配置された略円筒状の部分である。説明の便宜上、内筒部53の軸方向における一方側の端は、
図2(a)、
図2(b)において二点鎖線で示されている。内筒部53は、径方向における外側の端に形成された外周面53aを有する。外周面53aは、径方向において後述の内周面54aと対向するように配置されている。内筒部53の軸方向における他方側の端には、端面53bが形成されている(
図2(a)参照)。
【0031】
外筒部54は、内筒部53の径方向における外側に配置された略円筒状の部分である。説明の便宜上、外筒部54の軸方向における一方側の端は、
図2(a)、
図2(b)において二点鎖線で示されている。外筒部54は、径方向における内側の端に形成された内周面54aを有する。内周面54aは、径方向において、内筒部53の外周面53aと離隔して配置され且つ外周面53aと対向するように配置されている。外筒部54の軸方向における他方側の端には、端面54bが形成されている。端面54bは、2つの可動板4の端面4aと接触可能に配置されている。外筒部54は、軸方向にそれぞれ延びた複数の螺合孔54cを有する。複数の螺合孔54cには、複数のボルトBがそれぞれ螺合されている。外筒部54は、軸方向にそれぞれ延びた複数のバネ収容孔57を有する。複数のバネ収容孔57の各々には、バネ6が収容されている。
【0032】
円板部55は、略円板状の部分である。円板部55は、内筒部53及び外筒部54の軸方向における一方側に配置されている。説明の便宜上、円板部55と内筒部53との境界及び円板部55と外筒部54との境界は、
図2(a)、
図2(b)において二点鎖線で示されている。円板部55の上端には、上面55aが形成されている。上面55aは、径方向において内筒部53の外周面53aと外筒部54の内周面54aとの間に配置されている。上面55aは、外周面53a及び内周面54aと接続されている。外周面53a、内周面54a及び上面55aによって、上述したコイル収容溝56が形成されている。
【0033】
コイル52は、電流が流れているときに、2つの可動板4及びヨーク51を通る磁束を生成するように構成されている。コイル52は、コイル収容溝56内に配置されている。コイル52は、周方向に巻かれている(
図2(a)等における、コイル52を示す記号を参照)。コイル52は、不図示の電源に接続されている。コイル52に電流が流れることによって生成される磁束は、例えば、内筒部53、2つの可動板4のうちの1つ、外筒部54及び円板部55をこの順に通る(図示は省略する)。このように、磁束が通る磁路が、電磁石ユニット5の全周に亘って形成されている。
【0034】
複数のバネ6は、2つの可動板4を軸方向における他方側へ付勢するための付勢部材である。複数のバネ6の各々は、例えば公知の圧縮コイルバネである。複数のバネ6は、複数のバネ収容孔57にそれぞれ収容されている。複数のバネ6は、例えば、周方向において略等間隔に配置されている。本実施形態では、6つのバネ6が6つのバネ収容孔57(
図1参照)に収容されている。
【0035】
(電磁ブレーキ装置の動作の概略)
以上の構成を有する電磁ブレーキ装置1の動作の概略について説明する。コイル52が通電されたとき、上記磁束によって2つの可動板4とヨーク51との間に磁力(磁気吸引力)が発生する。磁力が複数のバネ6による付勢力(すなわち、弾性復元力。バネ荷重とも呼ばれる)よりも強くなったとき、2つの可動板4が付勢力に抗って軸方向における一方側へ移動し、ヨーク51に吸着される(
図2(a)参照)。このとき、2つの可動板4はブレーキ解除位置へ移動する。2つの可動板4がブレーキ解除位置に位置しているとき、回転部材2は、軸方向において固定板3及び2つの可動板4からわずかに離隔している。これにより、回転部材2及び回転軸RSが回転可能となる。
【0036】
一方、コイル52への通電が切られたとき、上記磁力が短時間で弱まる。バネ6による付勢力が磁力よりも相対的に強くなったとき、2つの可動板4がヨーク51から離隔する(すなわち、電磁石ユニット5から釈放される)。このとき、2つの可動板4は付勢力によってブレーキ作動位置へ移動する。2つの可動板4が回転部材2に押し付けられると、回転部材2が固定板3と2つの可動板4とによって挟み込まれる。これにより、ディスク22の端面22aと2つの可動板4の端面4bとの間に摩擦力が作用し、且つ、ディスク22の端面22bと固定板3の端面3aとの間に摩擦力が作用する。これにより、回転部材2及び回転軸RSの回転が制動される(すなわち、ブレーキが作動する)。
【0037】
ここで、ブレーキを二段階で作動させるための手段が従来から知られている。例えば、可動板4Lを付勢する複数のバネ6による付勢力を、可動板4Rを付勢する複数のバネ6による付勢力よりも強くすることが知られている。この場合、コイル52への通電が切られたとき、可動板4Lに作用する付勢力が磁力よりも強くなるタイミングが、可動板4Rに作用する付勢力が磁力よりも強くなるタイミングと比べて早くなる。これにより、可動板4Lが可動板4Rよりも一瞬早く回転部材2に接触し、その後、可動板4Rが回転部材2に接触する。このようにすることで、ブレーキを二段階で作動させることが可能である。しかし、このような構成においては、ブレーキ力が付勢力によって決まるため、一段階目のブレーキを弱く作動させ且つ二段階目のブレーキを強く作動させたいという要望があっても、当該要望を実現できない。このように、上述した構成ではブレーキ力の設計の自由度が低いという問題点がある。そこで、ブレーキ力の設計の自由度を向上させるため、電磁ブレーキ装置1は、以下のように構成されている。
【0038】
(電磁ブレーキ装置の詳細構成)
電磁ブレーキ装置1の詳細構成について、
図3(a)を参照しつつ説明する。概要として、電磁ブレーキ装置1は、上述した仮想平面Pを挟んで互いに反対側に形成された2つの磁路の磁気抵抗が、互いに異なるように構成されている。言い換えると、電磁ブレーキ装置1は、2つの可動板4がブレーキ作動位置に位置しているとき、可動板4Lを含んで形成される磁路の磁気抵抗が、可動板4Rを含んで形成される磁路の磁気抵抗よりも高くなるように構成されている。
【0039】
可動板4Lは、可動板4Rよりも軸方向において薄くなっている。可動板4Lの端面4Laには、非磁性材料で形成された非磁性シート41(本発明のスペーサー部)が固定されている。非磁性材料は、例えばアルミニウム合金などの非磁性の金属材料であっても良い。或いは、非磁性材料は、樹脂等の非金属材料であっても良い。非磁性シート41は、例えば接着材によって可動板4Lに固定されている。非磁性シート41を可動板4Lに固定する手段は、これに限られない。軸方向において、非磁性シート41は可動板4Lよりも一方側且つヨーク51よりも他方側に配置されている。軸方向において、可動板4Lの厚さと非磁性シート41の厚さとの和が、可動板4Rの厚さと略等しい。非磁性シート41は、軸方向において可動板4Lと一体的に移動可能である。非磁性シート41の軸方向における一方側の端には、端面41aが形成されている。端面41aは、ヨーク51に形成された端面53b及び端面54bと接触可能に配置されている。
【0040】
可動板4Lがヨーク51に引き寄せられた状態での、可動板4Lとヨーク51との間の軸方向における距離を第1距離と呼ぶ。より厳密には、第1距離は、端面4Laと、端面53b及び端面54bとの間の距離である。第1距離は、非磁性シート41の軸方向における厚みと略等しい。可動板4Rがヨーク51に引き寄せられた状態での、可動板4Rとヨーク51との間の軸方向における距離を第2距離と呼ぶ。より厳密には、第2距離は、端面4Raと、端面53b及び端面54bとの間の距離である。第2距離は、実質的にゼロである。可動板4L及び可動板4Rがヨーク51に引き寄せられた状態で、非磁性シート41により、第1距離が第2距離よりも大きくなっている。これにより、2つの可動板4がブレーキ解除位置に位置しているとき、可動板4Lを含んで形成される磁路(以下、第1磁路)の磁気抵抗が、可動板4Rを含んで形成される磁路(以下、第2磁路)の磁気抵抗よりも高くなっている。
【0041】
(電磁ブレーキ装置の動作の詳細)
以上の構成を有する電磁ブレーキ装置1の動作の詳細について説明する。まず、コイル52が通電されておりコイル52に電流が流れているとき、2つの可動板4は、上述したようにブレーキ解除位置に位置している(
図2(a)参照)。このとき、非磁性シート41の端面41aが、端面53b及び端面54bに接触している。また、可動板4Rの端面4Raが、端面53b及び端面54bに接触している。ここで、上述したように、第1磁路の磁気抵抗は、第2磁路の磁気抵抗よりも大きい。これにより、可動板4Lとヨーク51との間に作用する磁力は、可動板4Rとヨーク51との間に作用する磁力よりも弱い。
【0042】
電磁ブレーキ装置1は、以上のような性質を有するため、コイル52への通電が切られた後に、2つの可動板4が
図5(a)、
図5(b)に示すように動作する。
図5(a)は、コイル52への通電が切られてから第1時間が経過した後の電磁ブレーキ装置1の状態を示す説明図である。
図5(b)は、
図5(a)に示す状態からさらに第2時間が経過した後の電磁ブレーキ装置1の状態を示す説明図である。第1時間及び第2時間のいずれも、ごく短い時間である。
【0043】
まず、コイル52への通電が切られたとき、上述したように、2つの可動板4とヨーク51との間に発生していた磁力が弱まる。例えば、コイル52への通電が切られてから第1時間が経過したとき、可動板4Lとヨーク51との間に作用している磁力が、複数のバネ6による付勢力よりも弱くなる。一方、このとき、上述した電磁ブレーキ装置1の性質より、可動板4Rとヨーク51との間に作用している磁力は、複数のバネ6による付勢力よりもまだ強い。このため、可動板4Lのみを、可動板4Rよりも先にヨーク51から釈放させてディスク22の端面22aに接触させることができる(
図5(a)参照)。
【0044】
その後、さらに第2時間が経過したとき、可動板4Lとヨーク51との間に作用している磁力が、複数のバネ6による付勢力よりも弱くなる。これにより、可動板4Lも、ヨーク51から釈放され、ディスク22の端面22aに接触する(
図5(b)参照)。
【0045】
上記構成では、可動板4Lに付与されるバネ6の付勢力が、可動板4Rに付与されるバネ6の付勢力以上であれば、より確実に、可動板4Lのみを先に電磁石ユニット5から釈放できる。また、可動板4Lに付与されるバネ6の付勢力は、可動板4Rに付与されるバネ6の付勢力よりも小さくても良い。この場合でも、可動板4Lとヨーク51との間に作用している磁力がバネ6による付勢力よりも弱くなりやすいように、第1磁路の磁気抵抗を大きくすることで、可動板4Lのみを先に電磁石ユニット5から釈放できる。より具体的には、非磁性シート41が厚い(例えば0.2mmである)と好ましい。
【0046】
以上のように、可動板4L及び可動板4Rによってブレーキを二段階で作動させることができる。さらに、本発明では、非磁性シート41により、可動板4L及び可動板4Rがヨーク51に引き寄せられた状態で、第1磁路の磁気抵抗を第2磁路の磁気抵抗よりも大きくすることができる。このため、コイル52への通電が切られた際、可動板4Lに作用する磁力が可動板4Rに作用する磁力よりも早く弱まる。このため、複数のバネ6による可動板4Lへの付勢力が可動板4Rへの付勢力と比べて強い場合でも弱い場合でも、可動板4Lを可動板4Rよりも先に回転部材2に接触させることができる。可動板4Lによる一段階目のブレーキ力は、可動板4Lへの付勢力によって自由に設定できる。したがって、ブレーキ力の設計の自由度を向上させることができる。
【0047】
また、非磁性シート41を可動板4Lとヨーク51との間に配置するというシンプルな構造によって、第1磁路の磁気抵抗を第2磁路の磁気抵抗よりも大きくすることができる。
【0048】
また、非磁性シート41は、可動板4Lに固定されている。これにより、非磁性シート41が可動板4L及びヨーク51のいずれにも固定されていない場合と比べて、非磁性シート41の変形を抑制できる。また、非磁性シート41がヨーク51に固定されている場合と比べて、電磁ブレーキ装置の製造工程における作業性の悪化を抑制できる。
【0049】
次に、前記実施形態に変更を加えた変形例について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0050】
(1)前記実施形態において、非磁性シート41が可動板4Lに固定されているものとした。しかしながら、これには限られない。非磁性シート41は、ヨーク51に固定されていても良い。或いは、非磁性シート41が軸方向において十分な厚み(例えば0.2mm)を有している場合、非磁性シート41が可動板4L及びヨーク51のいずれにも固定されていなくても良い。
【0051】
(2)前記までの実施形態において、軸方向において可動板4Lとヨーク51との間に非磁性シート41が設けられているものとした。しかしながら、これには限られない。例えば、非磁性材料によるメッキが可動板4Lの端面4Laに施されていても良い。それに加え、或いはその代わりに、非磁性材料によるメッキがヨーク51の端面53b及び54bに施されていても良い。その他、軸方向において、端面4Laと端面53b及び54bとの間の距離を、端面4Raと端面53b及び54bとの間の距離よりも大きくするために、どのようなスペーサー部が設けられていても良い。
【0052】
(3)コイル52への通電が切られた際に、可動板4Rがディスク22に接触するタイミングが、可動板4Lがディスク22に接触するタイミングと比べてさらに遅くなるように、電磁ブレーキ装置1が以下のように構成されていても良い。以下、
図4及び
図6を参照しつつ説明する。複数のカラーCのうち、可動板4Lに形成された挿通孔4c(挿通孔4Lc)に挿通されたものをカラーCLと呼ぶ(本発明の第1案内部。
図4参照)。複数のカラーCのうち、可動板4Rに形成された挿通孔4c(挿通孔4Rc)に挿通されたものをカラーCRと呼ぶ(本発明の第2案内部。
図4参照)。
図6に示すように、カラーCRと挿通孔4Rcとの間に形成された隙間G(本発明の第2隙間)において、OリングR(本発明の抵抗部材)が設けられている。一方、カラーCLと挿通孔4Lcと間に形成された隙間(第1隙間)には、Oリングは設けられていない。すなわち、第1隙間及び第2隙間のうち、第2隙間にのみOリングRが配置されている。OリングRは、可動板4Rと接触しており、可動板4Rに摩擦力を作用させる。OリングRによって、コイル52への通電が切られた際の可動板4Rの加速度を低減させることができる。これにより、可動板4Rが端面22aに接触するタイミングを、可動板4Lが端面22aに接触するタイミングと比べてさらに遅らせることができる。
【0053】
(4)前記までの実施形態において、軸方向において、可動板4Lの厚さと非磁性シート41の厚さとの和が、可動板4Rの厚さと略等しいものとした。しかしながら、これには限られない。可動板4Lの厚さと非磁性シート41の厚さとの和は、電磁ブレーキ装置1が正常に動作する範囲で、可動板4Rの厚さと多少異なっていても良い。
【0054】
(5)前記までの実施形態において、電磁ブレーキ装置1が備える可動板4の数が2つであるものとした。しかしながら、これには限られない。電磁ブレーキ装置1は、3つ以上の可動板4を備えていても良い。この場合、複数の可動板4がヨーク51から釈放されるタイミングがそれぞれ異なるように電磁石ユニット5が構成されていると好ましい。
【0055】
(6)前記までの実施形態において、電磁ブレーキ装置1は1つの固定板3を備えているものとした。しかしながら、これには限られない。固定板3は、可動板4と同様に、周方向において2つ以上に分割されていても良い。
【0056】
(7)電磁ブレーキ装置1が備えるバネ6の数及びボルトBの数は、上述したものに限られない。バネ6の数及びボルトBの数は、電磁ブレーキ装置1の仕様に応じて適切に設定される。
【符号の説明】
【0057】
1 電磁ブレーキ装置
2 回転部材
4 可動板(可動部材)
4L 可動板(第1可動部材)
4R 可動板(第2可動部材)
5 電磁石ユニット
6 バネ(付勢部材)
22a 端面
41 非磁性シート(スペーサー部)
51 ヨーク
52 コイル
CL カラー(第1案内部)
CR カラー(第2案内部)
G 隙間(第2隙間)
R Oリング(抵抗部材)