IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太平洋セメント株式会社の特許一覧

特開2024-117191リチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法
<>
  • 特開-リチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117191
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20240822BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20240822BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240822BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
H01M10/54
H01M4/58
H01M4/36 A
C01B25/45 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023134
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横山 歩
(72)【発明者】
【氏名】大神 剛章
(72)【発明者】
【氏名】池上 潤
【テーマコード(参考)】
5H031
5H050
【Fターム(参考)】
5H031AA00
5H031BB01
5H031BB02
5H031EE02
5H031EE03
5H031HH03
5H031HH06
5H031RR02
5H050AA17
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA07
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA12
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA10
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】使用済みリチウムイオン電池の再生処理として、安全性が高く工程の簡略化を図るリチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】炭素を担持してなるリチウム系ポリアニオン粒子を含む正極によって構築された使用済みリチウムイオン二次電池の正極から得られる粉体、リチウム源、特定の還元剤及び特定のカーボンを混合して、スラリー水Iを得る工程、pHを7~14に調整してスラリー水IIを得る工程、加熱処理に付してスラリー水IIIを得る工程及びカーボンを除去する工程を備えるリチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法であって、リチウム系ポリアニオン粒子は、式:LiMnFePOで表される。a、b、c及びxは、0<a≦1.2、0≦b≦1.2、0≦c≦1.2、0≦x≦0.3及びb+c≠0を少なくとも満たす。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素を担持してなるリチウム系ポリアニオン粒子(A)を含む正極によって構築された使用済みリチウムイオン二次電池の正極から得られる粉体(X)を用い、
次の工程(I)~(IV):
(I)粉体(X)、リチウム源(Y)、還元剤(Z)、及びカーボン(C)を混合して、スラリー水Iを得る工程
(II)得られたスラリー水IのpHを7~14に調整して、スラリー水IIを得る工程
(III)得られたスラリー水IIを50℃~200℃の加熱処理に付して、スラリー水IIIを得る工程
(IV)得られたスラリー水IIIからカーボン(C)を除去する工程
を備える、リチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法であって、
還元剤(Z)が、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、及びアスコルビン酸から選ばれる1種又は2種以上であり、
カーボン(C)が、カーボンシート、塊状黒鉛、炭素棒、及びカーボンフェルトから選ばれる1種又は2種以上であり、
リチウム系ポリアニオン粒子(A)が、下記式(A)
LiMnFePO・・・(A)
(式(A)中、MはMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。a、b、c、及びxは、0<a≦1.2、0≦b≦1.2、0≦c≦1.2、0≦x≦0.3、及びb+c≠0を満たし、かつa+(Mnの価数)×b+(Feの価数)×c+(Mの価数)×x=3を満たす数を示す。)
で表される、リチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法。
【請求項2】
工程(I)において、カーボン(C)の添加量が、粉体(X)100質量部に対して1質量部~30質量部である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法。
【請求項3】
工程(I)において、スラリー水I中でのリチウム源(Y)と還元剤(Z)とのモル比((Y):(Z))が、1:0.3~1:1.2である、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法。
【請求項4】
工程(I)において、粉体(X)、リチウム源(Y)、及び還元剤(Z)を混合した後、カーボン(C)を混合する、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法。
【請求項5】
工程(I)において、粉体(X)、リチウム源(Y)、及び還元剤(Z)を混合した後、カーボン(C)を混合する、請求項3に記載のリチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法。
【請求項6】
工程(III)において、加熱処理に付す時間が、0.1時間以上2.5時間以下である、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法。
【請求項7】
工程(I)において混合するカーボン(C)が、一旦工程(I)~(IV)を経たときに工程(IV)において除去したカーボン(C)を回収したカーボンである、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済みリチウムイオン二次電池を有効活用することのできる、リチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の二次電池は、携帯電話やデジタルカメラ、ノートPC、ハイブリッド自動車、及び電気自動車等、広い分野に利用されている。なかでも、LiMnFe1-xPOのようなリチウム系ポリアニオン粒子は、その安全性の高さや容量の大きさから、こうしたリチウムイオン二次電池の正極材料として極めて有用性が高い。
ところで、近年、環境意識が世界的にも高まり、資源枯渇への対応も要求されるなか、廃棄される使用済みリチウムイオン電池のリサイクル実現化が強く望まれており、正極材料の再生処理についても種々試みられている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、使用済みLiFePOカソード材料の再生処理が開示されており、熱水条件下にてリチウムの補充しつつ、還元剤としてN・HOを投入している。また、特許文献1には、廃棄リン酸鉄リチウムの選択的酸化還元再生方法が開示されており、特定の条件下における1次焼結、及び2次焼結により、リチウムや炭素の補填、及び組成調整を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2022-517160号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Qiankun Jing 外、「Direct Regeneration of Spent LiFePO4 Cathode Material by a Green and Efficient One-Step Hydrothermal Method」、ACS Sustainable Chemical Engineering、 2020、Vol 8、No.48、17622-17628
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記非特許文献1に記載の技術では、過酷な処理条件に付す必要がある上、還元剤の毒性にも配慮しなければならず、工業化を図るには未だ改善すべき余地がある。また特許文献1に記載の技術であっても、依然として処理工程の煩雑化が避けられない状況にある。
【0007】
したがって、本発明は、使用済みリチウムイオン電池の再生処理として、安全性が高く工程の簡略化を図ることもでき、さらに用いる材料の有効活用も可能とするリチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、使用済みリチウムイオン二次電池の正極から得た粉体を原料としつつ特定のカーボンを用い、加熱処理に付したのち、カーボンを除去するという簡易な工程を経ることにより、リチウム系ポリアニオン粒子の再生を有効かつ効率的に図ることのできる製造方法を見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、炭素を担持してなるリチウム系ポリアニオン粒子(A)を含む正極によって構築された使用済みリチウムイオン二次電池の正極から得られる粉体(X)を用い、
次の工程(I)~(IV):
(I)粉体(X)、リチウム源(Y)、還元剤(Z)、及びカーボン(C)を混合して、スラリー水Iを得る工程
(II)得られたスラリー水IのpHを7~14に調整して、スラリー水IIを得る工程
(III)得られたスラリー水IIを50℃~200℃の加熱処理に付して、スラリー水IIIを得る工程
(IV)得られたスラリー水IIIからカーボン(C)を除去する工程
を備える、リチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法であって、
還元剤(Z)が、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、及びアスコルビン酸から選ばれる1種又は2種以上であり、
カーボン(C)が、カーボンシート、塊状黒鉛、炭素棒、及びカーボンフェルトから選ばれる1種又は2種以上であり、
リチウム系ポリアニオン粒子(A)が、下記式(A)
LiMnFePO・・・(A)
(式(A)中、MはMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。a、b、c、及びxは、0<a≦1.2、0≦b≦1.2、0≦c≦1.2、0≦x≦0.3、及びb+c≠0を満たし、かつa+(Mnの価数)×b+(Feの価数)×c+(Mの価数)×x=3を満たす数を示す。)
で表される、リチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法によれば、安全性が高く簡易な方法でありながら、優れた電池物性を発現するリチウムイオン二次電池の正極材料として有用性の高いリチウム系ポリアニオン粒子を得ることができる。また、本発明において一材料として用いる特定のカーボンは、製造工程を経た後に回収することによって、本発明において繰り返し用いることも可能であり、リチウムイオン二次電池の製造工程の簡略化を図りつつ、材料の有効活用をも図ることができる。
このように、本発明であれば、使用済みリチウムイオン二次電池のリサイクル実現化に大いに寄与することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例におけるXRDパターンの解析結果を示すパターン図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のリチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法は、炭素を担持してなる式(A)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子(A)(以下、単に「リチウム系ポリアニオン粒子(A)」とも称する)を含む正極によって構築された使用済みリチウムイオン二次電池の正極から得られる粉体(X)を用いる、リチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法である。
すなわち、リチウム系ポリアニオン粒子(A)を一材料としつつ作製された正極によって構築された、使用前のリチウムイオン二次電池は、使用に供されている間、正極において次第にリチウムが離脱して劣化状態となるため、使用後は破棄の対象となるにすぎないところ、本発明では、こうした使用済みリチウムイオン二次電池の正極に粉砕等の処理を施して粉体(X)とし、これを原材料の一つとして用いる製造方法である。
【0013】
本発明によれば、粉体(X)に含まれる劣化したリチウム系ポリアニオン粒子に対して、離脱したリチウムを有効に補充し、当初正極に含まれていた式(A)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子(A)(以下、「当初リチウム系ポリアニオン粒子(A)」とも称する)へと再生することができる。したがって、本発明により得られるリチウム系ポリアニオン粒子であれば、再び電池特性に優れるリチウムイオン二次電池を構築するための正極材料として、有効に活用することができる。
なお、本発明により得られるリチウム系ポリアニオン粒子は、当初リチウム系ポリアニオン粒子(A)へと再生されたリチウム系ポリアニオン粒子であって、当初リチウム系ポリアニオン粒子(A)と同様、式(A)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子であるが、当初リチウム系ポリアニオン粒子(A)と同一の組成であってもよく、式(A)で表される限り、異なる組成であってもよい。
したがって、例えば、本発明により得られるリチウム系ポリアニオン粒子について、式(A)中のbやc等を適宜所望の値になるよう調整してもよい。
【0014】
かかるリチウム系ポリアニオン粒子(A)は、炭素が担持されてなり、かつ下記式(A)で表される粒子であり、少なくとも遷移金属としてマンガン(Mn)又は鉄(Fe)の一方を含む、いわゆるオリビン型リン酸遷移金属リチウム化合物である。
LiMnFePO・・・(A)
(式(A)中、MはMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。a、b、c、及びxは、0<a≦1.2、0≦b≦1.2、0≦c≦1.2、0≦x≦0.3、及びb+c≠0を満たし、かつa+(Mnの価数)×b+(Feの価数)×c+(Mの価数)×x=3を満たす数を示す。)
【0015】
上記式(A)中、Mは、電池特性を高め得る有用性の高い材料として再生する観点から、さらにMg、Al、Ti、Zn、Nb、Co、Zr、又はGdであってもよい。また、aについては、0.6≦a≦1.2が好ましく、0.65≦a≦1.15がより好ましく、0.7≦a≦1.1がさらに好ましい。bについては、0.4≦b≦0.8が好ましい。cについては、0.2≦c≦0.6が好ましい。xについては、0≦x≦0.2であってもよく、さらに0≦x≦0.15であってもよく、0≦x≦0.1であってもよい。
【0016】
具体的には、例えばLiMnPO、LiFePO、LiMn0.3Fe0.7PO、LiMn0.4Fe0.6PO、LiMn0.45Fe0.55PO、LiMn0.7Fe0.3PO、LiMn0.9Fe0.1PO、LiMn0.8Fe0.2PO、LiMn0.75Fe0.15Mg0.1PO、LiMn0.75Fe0.19Zr0.03PO、LiMn0.6Fe0.4PO、LiMn0.5Fe0.5PO、Li1.2Mn0.63Fe0.27PO、Li0.6Mn0.84Fe0.36PO等が挙げられる。なかでもLiMn0.4Fe0.6PO、LiMn0.45Fe0.55PO、LiMn0.7Fe0.3PO、LiMn0.8Fe0.2PO、LiMn0.6Fe0.4PO、Li1.2Mn0.63Fe0.27POが好ましい。
【0017】
なお、リチウム系ポリアニオン粒子(A)に担持してなる炭素を形成する炭素材料としては、その種類は特に限定されないが、一般的には、セルロースナノファイバー、及び水溶性炭素材料から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。これらセルロースナノファイバーや水溶性炭素材料は、炭化されて炭素となり、リチウム系ポリアニオン粒子(A)にセルロースナノファイバー由来の炭素や水溶性炭素材料由来の炭素として担持してなる。
セルロースナノファイバーとしては、繊維径1nm~1000nmのものが挙げられる。
水溶性炭素材料としては、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース等の単糖類;マルトース、スクロース、セロビオース等の二糖類;デンプン、デキストリン等の多糖類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ブタンジオール、プロパンジオール、ポリビニルアルコール、グリセリン等のポリオールやポリエーテル;クエン酸、酒石酸等の有機酸が挙げられる。
その他の炭素材料としては、例えば、カーボンナノファイバー、グラファイト、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラックのような水不溶性炭素材料が挙げられる。
【0018】
本発明で用いる粉体(X)は、炭素を担持してなるリチウム系ポリアニオン粒子(A)を含む正極によって構築された使用済みリチウムイオン二次電池の正極から得られる粉体である。使用前のリチウムイオン二次電池を構築する正極には、式(A)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子(A)が含まれていたことから、使用済みリチウムイオン二次電池の正極から得た粉体(X)には、リチウム系ポリアニオン粒子(A)が劣化した状態で含まれることとなる。かかる粉体(X)を得るにあたり、その方法は特に制限されないが、例えば、使用済みリチウムイオン二次電池を分解、破砕、又は焙焼等して正極を取り出し、これに粉砕、又は比重分離等の処理を施せばよい。
なお、粉体(X)は、適宜溶媒として水を用いてスラリー形態にて得てもよい。
【0019】
本発明のリチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法は、具体的には、次の工程(I)~(IV):
(I)粉体(X)、リチウム源(Y)、還元剤(Z)、及びカーボン(C)を混合して、スラリー水Iを得る工程
(II)得られたスラリー水IのpHを7~14に調整して、スラリー水IIを得る工程
(III)得られたスラリー水IIを50℃~200℃の加熱処理に付して、スラリー水IIIを得る工程
(IV)得られたスラリー水IIIからカーボン(C)を除去する工程
を備える製造方法であり、還元剤(Z)が、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、及びアスコルビン酸から選ばれる1種又は2種以上であり、カーボン(C)が、カーボンシート、塊状黒鉛、炭素棒、及びカーボンフェルトから選ばれる1種又は2種以上である。
【0020】
工程(I)は、粉体(X)、リチウム源(Y)、還元剤(Z)、及びカーボン(C)を混合して、スラリー水Iを得る工程である。
粉体(X)は、上記のとおり、使用済みリチウムイオン二次電池の正極から得られた粉体であり、粉体そのものを直接用いてもよく、粉体(X)を含有するスラリー水として用いてもよい。
【0021】
リチウム源(Y)は、粉体(X)に劣化した状態で含まれるリチウム系ポリアニオン粒子に対し、離脱してしまったリチウムを補充するためのリチウム供給材料である。
用い得るリチウム源(Y)としては、水酸化物(例えばLiOH・H2O、LiOH)、炭酸塩、酢酸塩、硝酸塩が挙げられる。なかでも、水酸化物が好ましい。
かかるリチウム源(Y)の添加量は、用いる粉体(X)に含まれる劣化した状態のリチウム系ポリアニオン粒子の量によっても変動し得るが、本発明により得ようとする式(A)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子の組成に応じて適宜調整すればよい。
【0022】
還元剤(Z)は、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、及びアスコルビン酸から選ばれる1種又は2種以上である。なかでも、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムが好ましく、亜硫酸ナトリウムがより好ましい。
【0023】
工程(I)において、還元剤(Z)の添加量は、用いる粉体(X)に含まれる劣化した状態のリチウム系ポリアニオン粒子の量によっても変動し得るが、式(A)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子(A)への再生を有効に実現する観点から、スラリー水I中でのリチウム源(Y)と還元剤(Z)とのモル比((Y):(Z))が、1:0.3~1:1.2であるのが好ましく、1:0.3~1:0.8であるのがより好ましい。
なお、粉体(X)に含まれるLi、Mn、Fe、M、及びPのモル量は、ICP発光分光分析装置を用いてICP分析を行うことにより特定する。
【0024】
カーボン(C)は、カーボンシート、塊状黒鉛、炭素棒、及びカーボンフェルトから選ばれる1種又は2種以上である。このように特異な形状を呈するカーボン(C)を用いることにより、何らかの触媒的作用をもたらして、粉体(X)に含まれる劣化した状態のリチウム系ポリアニオン粒子を効果的に再生することに寄与させ得るとともに、後述する工程(IV)において、最終目的物としての再生されたリチウム系ポリアニオン粒子を含むスラリー水IIIから、かかるカーボン(C)を容易に除去することができ、製造工程の簡略化を図ることが可能となる。
【0025】
カーボンシートは、炭素繊維によりシート状を呈しており、必要に応じて所望のサイズ(表面積)に切断して用いることができるカーボン材料である。カーボンシートの厚みは、通常0.2mm~2mmであり、好ましくは0.5mm~1.5mmである。また、カーボンシートを切断して用いる場合、スラリー水における分散性を高め、カーボンシートによる触媒的作用を良好に促進する観点から、一片あたりの表面積が0.2cm~2cmとなるよう切断するのが好ましく、0.5cm~1.5cmとなるよう切断するのがより好ましい。
【0026】
カーボン(C)としてカーボンシートを用いる場合、粉体(X)とカーボンシートとの接触面積を制御して、カーボンシートによる触媒的作用を促進させることが望ましい。具体的には、用いる粉体(X)の質量(g)とカーボンシートの表面積(cm)との比(粉体(X):カーボンシート)が、好ましくは1:5~1:20であり、より好ましくは1:8~1:16である。
【0027】
塊状黒鉛は、粒径3cm~5cm程度の塊状を呈しており、必要に応じて適宜粉砕等の処理を施して用いることができるカーボン材料である。粉砕等の処理を施した後の塊状黒鉛の粒径は、処理後に回収可能であれば特に制限されないが、好ましくはふるい目開き40μm以上であり、より好ましくはふるい目開き100μm以上である
【0028】
カーボン(C)として塊状黒鉛を用いる場合、塊状黒鉛の粒径を制御して粉体(X)と塊状黒鉛との接触の増強を図り、塊状黒鉛による触媒的作用を促進させることが望ましい。具体的には、用いる粉体(X)の質量(g)と塊状黒鉛の粒径(cm)との比(粉体(X):塊状黒鉛)が、好ましくは1:0.1~1:5であり、より好ましくは1:0.5~1:3である。
【0029】
炭素棒は、直径5mm~50mm程度の棒状を呈しており、必要に応じて所望の長さに切断して用いることができ、また使用時には適宜反応容器等に固定して用い得るカーボン材料である。
カーボン(C)として炭素棒を用いる場合、粉体(X)と炭素棒との接触面積を制御して、炭素棒による触媒的作用を促進させることが望ましい。具体的には、用いる粉体(X)の質量(g)と炭素棒の表面積(cm)との比(粉体(X):炭素棒)が、好ましくは1:5~1:30であり、より好ましくは1:10~1:20である。
【0030】
カーボンフェルトは、繊維を高密度に絡み合わせてなる、厚み1mm~5mm程度のフェルト状を呈した炭素材料である。
カーボン(C)としてカーボンフェルトを用いる場合、粉体(X)とカーボンフェルトとの接触面積を制御して、カーボンフェルトによる触媒的作用を促進させることが望ましい。具体的には、用いる粉体(X)の質量(g)とカーボンフェルトの表面積(cm)との比(粉体(X):カーボンシート)が、好ましくは1:5~1:20であり、より好ましくは1:8~1:16である。
【0031】
工程(I)において、カーボン(C)の添加量は、用いる粉体(X)100質量部に対し、好ましくは1質量部~30質量部であり、より好ましくは2質量部~25質量部であり、さらに好ましくは5質量部~15質量部である。
より具体的には、カーボン(C)としてカーボンシートを用いる場合、カーボンシートの添加量は、用いる粉体(X)100質量部に対し、好ましくは1質量部~20質量部であり、より好ましくは2質量部~18質量部であり、さらに好ましくは5質量部~15質量部である。
また、カーボン(C)として塊状黒鉛を用いる場合、塊状黒鉛の添加量は、用いる粉体(X)100質量部に対し、好ましくは5質量部~30質量部であり、より好ましくは5質量部~25質量部であり、さらに好ましくは10質量部~25質量部である。
【0032】
さらに、カーボン(C)として炭素棒を用いる場合、炭素棒の添加量は、用いる粉体(X)100質量部に対し、好ましくは5質量部~30質量部であり、より好ましくは5質量部~25質量部であり、さらに好ましくは10質量部~25質量部である。
また、カーボン(C)としてカーボンフェルトを用いる場合、カーボンフェルトの添加量は、用いる粉体(X)100質量部に対し、好ましくは1質量部~20質量部であり、より好ましくは2質量部~18質量部であり、さらに好ましくは5質量部~15質量部である。
【0033】
工程(I)において、本発明により得ようとする式(A)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子の組成に応じ、さらにマンガン化合物、鉄化合物、又はマンガン化合物及び鉄化合物以外の金属(M:Mは式(A)中のMと同義)化合物を適宜添加してもよい。この際、リンが不足する場合は、さらにリン酸化合物を適宜添加してもよい。
用い得るマンガン化合物としては、酢酸マンガン、硝酸マンガン、硫酸マンガン等が挙げられる。
用い得る鉄化合物としては、酢酸鉄、硝酸鉄、硫酸鉄等が挙げられる。
用い得るリン酸化合物としては、オルトリン酸(H3PO4、リン酸)、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム等が挙げられる。
【0034】
工程(I)において、粉体(X)、リチウム源(Y)、還元剤(Z)、及びカーボン(C)を混合するにあたり、これらの添加順については特に制限はないが、離脱してしまったリチウムをより効果的に補充する観点から、粉体(X)、リチウム源(Y)、及び還元剤(Z)を混合した後、カーボン(C)を添加するのが好ましく、リチウム源(Y)及び還元剤(Z)を添加した後、粉体(X)を添加し、次いでカーボン(C)を添加するのが好ましい。
【0035】
スラリー水Iを得るにあたり、これら粉体(X)、リチウム源(Y)、還元剤(Z)、及びカーボン(C)のほか、これらの溶媒として適宜水を用いて調整すればよい。なお、上記のとおり、粉体(X)をスラリー水形態として用いた場合、ここで新たに水を用いることなくスラリー水Iを得ることもできる。
スラリー水Iは、次なる工程(II)へ移行する前に、予め撹拌するのが好ましい。これにより、カーボン(C)を良好に分散させつつリチウムの補充を効果的に促進させることができる。攪拌の時間は、好ましくは1分~60分であり、より好ましくは5分~30分であり、さらに好ましくは10分~20分である。
【0036】
また、スラリー水IのpHは、粉体(X)から不要にリチウム系ポリアニオン粒子が溶出してしまうのを有効に抑制し、効率的に再生を図る観点から、好ましくは7以上であり、より好ましくは8~14であり、さらに好ましくは8.5~13である。pHの調整にあたっては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等、適宜公知のpH調整剤を用いてもよい。
【0037】
なお、工程(I)中、例えば粉体(X)をスラリー水形態として用いる場合等、スラリー水のpHは、工程(I)中の全てにおいて一貫して、上記範囲に調整するのが望ましい。これにより、粉体(X)から不要にリチウム系ポリアニオン粒子が溶出してしまうのをより有効に抑制して、効率的なリチウム系ポリアニオン粒子の再生を図ることができる。
【0038】
工程(II)は、工程(I)で得られたスラリー水IのpHを7~14に調整して、スラリー水IIを得る工程である。これにより、続く工程(III)において、粉体(X)に含まれるリチウム系ポリアニオン粒子に対するリチウムの補充を効果的に促進させることができる。
【0039】
スラリーIIのpHは、7~14であって、好ましくは9~14であり、より好ましくは10.5~13であり、さらに好ましくは11~12.5である。
【0040】
工程(II)においてpHを調整するにあたり、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、硫酸、及び塩酸から選ばれる1種又は2種以上のpH調整剤を用いるのが好ましく、水酸化ナトリウム、及び硫酸から選ばれる1種又は2種のpH調整剤を用いるのがより好ましい。
【0041】
pH調整剤の添加量は、スラリー水IのpHによっても変動し得るが、溶け残りが生じない量であればよい。
【0042】
なお、スラリー水IIは、続く工程(III)へ移行する前に、撹拌してもよい。
【0043】
工程(III)は、工程(II)で得られたスラリー水IIを50℃~200℃の加熱処理に付す工程である。このような簡易な工程を経ることにより、カーボン(C)の共存下にて、粉体(X)に含まれる劣化したリチウム系ポリアニオン粒子に対して、離脱したリチウムを有効に補充することができる。
【0044】
加熱処理の温度は、低温域での加熱に留めて簡易な工程とする観点、離脱したリチウムを有効に補充する観点、及び得られるリチウム系ポリアニオン粒子の結晶子径が過度に増大するのを抑制する観点から、50℃以上90℃以下であってもよく、55℃~80℃であってもよく、60℃~70℃であってもよい。また、かかる加熱処理に付す工程を、いわゆる水熱反応に付す工程として、効率的なリチウム系ポリアニオン粒子の再生を図る観点から、90℃超200℃以下であってもよく、110℃~200℃であってもよく、130℃~190℃であってもよく、150℃~170℃であってもよい。なかでも、簡易な使用済みリチウムイオン電池の再生処理方法を実現する観点から、加熱処理の温度を低温域での加熱に留めるのが好ましい。
【0045】
また、加熱処理に付す時間は、リチウム系ポリアニオン粒子の再生を迅速かつ効率的に図る観点から、好ましくは0.1時間~2.5時間であり、より好ましくは0.5時間~1.5時間である。
【0046】
加熱処理に付す方法としては、特に制限されず、連続式及びバッチ式のいずれの設備を用いてもよい。また、ロータリーキルン式焼成炉や固定床式焼成炉等の熱処理炉を用いてもよく、マイクロ波照射による加熱処理を行ってもよい。なかでも、エネルギー効率を考慮する観点から、マイクロ波照射による加熱処理を行うのが好ましい。
【0047】
なお、加熱処理に付す際、必要に応じて耐圧容器等を用いて加圧してもよい。かかる圧力としては、0.3MPa~0.9MPaとするのがよく、0.3MPa~0.6MPaとしてもよい。
ただし、本発明の製造方法であれば、加熱処理の温度を低温域での加熱に留めた場合であっても、特段加圧することなく、リチウム系ポリアニオン粒子の再生を効果的に図ることも可能である。
【0048】
工程(IV)は、工程(III)で得られたスラリー水IIIからカーボン(C)を除去する工程である。カーボン(C)を除去した後のスラリー水には、リチウムイオン二次電池の正極活物質として用いることのできるリチウム系ポリアニオン粒子が含まれており、これを抽出することにより、式(A)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子(A)へと再生されたリチウム系ポリアニオン粒子を得ることができる。
【0049】
カーボン(C)は、特異な形状を呈していることから、スラリー水IIIから簡易に除去することが可能であり、その方法としては、特に制限されず、常法によりろ過や遠心分離等の方法を用いることができる。例えば、スラリー水IIIをろ過し、水で洗浄した後、凍結乾燥や真空乾燥等の手段により乾燥して、再生されたリチウム系ポリアニオン粒子を抽出してもよい。
【0050】
本発明の原材料の一つとして用いた粉体(X)に含まれるリチウム系ポリアニオン粒子(A)は、そもそも炭素が担持されてなるため、本発明により得られたリチウム系ポリアニオン粒子においても、担持してなる炭素が存在する。したがって、リチウムイオン二次電池を構築するための有用な正極材料として、本発明により得られたリチウム系ポリアニオン粒子をそのまま用いることができる。
【0051】
また、本発明により得られたリチウム系ポリアニオン粒子をリチウムイオン二次電池の正極材料として用いるにあたり、予めかかるリチウム系ポリアニオン粒子に新たに炭素を担持させてもよい。得られたリチウム系ポリアニオン粒子に対し、新たに炭素を担持させる場合、上記工程(IV)を経た後に得られたスラリー水に、炭素源として、適宜セルロースナノファイバー由来の炭素、及び水溶性炭素材料由来の炭素から選ばれる1種又は2種以上を添加することができる。次いで、これらを添加した後、噴霧乾燥に付し、焼成することにより、正極材料として用いるためのリチウム系ポリアニオン粒子を得てもよい。
【0052】
なお、工程(IV)においてスラリー水IIIから除去したカーボン(C)は、そのまま回収することにより、本発明における工程(I)~(IV)を繰り返す場合の、工程(I)において混合するカーボン(C)として、再利用することができる。すなわち、一旦本発明における工程(I)~(IV)を経たのち、工程(IV)において除去したカーボン(C)を回収し、続いて発明における工程(I)~(IV)を繰り返す際、工程(I)で用いるカーボン(C)として、そのまま有効活用することができる。
【0053】
さらに、通常の新たにリチウム系ポリアニオン粒子(A)を得るための製造方法において、本発明のリチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法を組み込むこともできる。すなわち、リチウム系ポリアニオン粒子(A)を得るための製造方法において、原材料の一つとして上記粉体(X)を用い、本発明の製造方法が備える工程を経ればよい。
【0054】
具体的には、例えば、次の工程(IX)~(IVX):
(IX)リチウム化合物、マンガン化合物及び鉄化合物を含む金属化合物、リン酸化合物、粉体(X)、リチウム源(Y)、還元剤(Z)、カーボン(C)、並びに必要に応じてセルロースナノファイバー及び/又は水溶性炭素材料を混合してスラリー水IXを得る工程
(IIX)得られたスラリー水IのpHを7~14に調整して、スラリー水IIXを得る工程
(IIIX)得られたスラリー水IIXを50℃~200℃の加熱処理に付す工程
(IVX)得られたスラリー水IIIからカーボン(C)を除去する工程
を備える製造方法とすればよい。
なお、粉体(X)、リチウム源(Y)、還元剤(Z)、及びカーボン(C)は、上記と同様のものを用いればよく、リチウム化合物はリチウム源(Y)と同様のものを用いることができ、またマンガン化合物、鉄化合物についても、上記と同様のものを用いればよい。さらに金属化合物のうち、マンガン化合物及び鉄化合物以外の金属(M:Mは式(A)中のMと同義)化合物についても、上記と同様のものを用いればよい。
工程(IX)、工程(IIX)、工程(IIIX)、及び工程(IVX)は、各々上記工程(I)、工程(II)、工程(III)、及び工程(IV)に準じて行えばよい。ただし、工程(IIIX)においては、上記原材料による反応を良好に進行させる観点から、90℃超200℃以下の加熱処理、いわゆる水熱反応に付する工程とするのが好ましい。
【0055】
これにより、新たにリチウム系ポリアニオン粒子(A)を得るにあたり、使用済みリチウムイオン電池の有効活用を図ることができ、環境への配慮や資源枯渇への有効な一対策として、大いに寄与することとなる。
【0056】
本発明により得られたリチウム系ポリアニオン粒子を正極材料として用い、常法にしたがって、リチウムイオン二次電池を構築することができる。具体的には、例えば得られたリチウム系ポリアニオン粒子と、アセチレンブラックやケッチェンブラック、ポリフッ化ビニリデン、N-メチル-2-ピロリドン等とを混練して正極スラリーを調製した後、集電体に塗工し、次いでプレス成形して正極を作製する。
かかる正極を適用できるリチウムイオン二次電池としては、正極と負極と電解液とセパレータ、若しくは正極と負極と固体電解質を必須構成とするものであれば特に限定されない。
【0057】
ここで、負極については、リチウムイオンを充電時には吸蔵し、かつ放電時には放出することができれば、その材料構成で特に限定されるものではなく、公知の材料構成のものを用いることができる。たとえば、リチウム金属、グラファイト、シリコン系(Si、SiOx)、チタン酸リチウム又は非晶質炭素等の炭素材料等を用いることができる。そしてリチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出し得るインターカレート材料で形成された電極、特に炭素材料を用いることが好ましい。さらに、2種以上の上記の負極材料を併用してもよく、たとえばグラファイトとシリコン系の組み合わせを用いることができる。
【0058】
電解液は、有機溶媒に支持塩を溶解させたものである。有機溶媒は、通常リチウムイオン二次電池の電解液に用いられる有機溶媒であれば特に限定されるものではなく、例えば、カーボネート類、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、ラクトン類、オキソラン化合物等を用いることができる。
【0059】
支持塩は、その種類が特に限定されるものではないが、LiPF、LiBF、LiClO及びLiAsFから選ばれる無機塩、該無機塩の誘導体、LiSOCF、LiC(SOCF及びLiN(SOCF、LiN(SO及びLiN(SOCF)(SO)から選ばれる有機塩、並びに該有機塩の誘導体の少なくとも1種であることが好ましい。
【0060】
セパレータは、正極及び負極を電気的に絶縁し、電解液を保持する役割を果たすものである。たとえば、多孔性合成樹脂膜、特にポリオレフィン系高分子(ポリエチレン、ポリプロピレン)の多孔膜を用いればよい。
【0061】
固体電解質は、正極及び負極を電気的に絶縁し、高いリチウムイオン電導性を示すものである。たとえば、La0.51Li0.34TiO2.94、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO、LiLaZr12、50LiSiO・50LiBO、Li2.9PO3.30.46、Li3.6Si0.60.4、Li1.07Al0.69Ti1.46(PO、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO、Li10GeP12、Li3.25Ge0.250.75、30LiS・26B・44LiI、63LiS・36SiS・1LiPO、57LiS・38SiS・5LiSiO、70LiS・30P、50LiS・50GeS、Li11、Li3.250.95を用いればよい。
【0062】
上記の構成を有するリチウムイオン二次電池の形状としては、特に制限を受けるものではなく、コイン型、円筒型,角型等種々の形状や、ラミネート外装体に封入した不定形状であってもよい。
【実施例0063】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0064】
[製造例1:使用済みリチウムイオン二次電池の正極から得られる粉体(X)の製造]
使用済みリチウムイオン二次電池の正極から得られる粉体(X)につき、以下の方法により疑似的に作製した。
具体的には、まずLiOH・HO 1272g、及び水4Lを混合してスラリーaを得た。次いで、得られたスラリーaを、25℃の温度に保持しながら3分間撹拌しつつ85%のリン酸水溶液1153gを35mL/分で滴下し、速度400rpmで12時間撹拌して、LiPOを含むスラリーbを得た。得られたスラリーbに窒素パージして、スラリーbの溶存酸素濃度を0.5mg/Lとした後、スラリーb全量に対し、MnSO・5HOを1929g、FeSO・7HOを556g添加してスラリーcを得た。添加したMnSO・5HOとFeSO・7HOのモル比(マンガン化合物:鉄化合物)は、80:20であった。
【0065】
次いで、得られたスラリーcをオートクレーブに投入し、170℃で1時間水熱反応を行った。オートクレーブ内の圧力は0.8MPaであった。水熱反応後、生成した結晶をろ過し、次いで結晶1質量部に対し12質量部の水により洗浄した。洗浄した結晶を-50℃で12時間凍結乾燥して複合体dを得た。
【0066】
得られた複合体dを1500g分取し、セルロースナノファイバー(FD200L、ダイセル社製)120gと水2.2Lを添加して、スラリーeを得た。得られたスラリーeを超音波攪拌機(T25、IKA社製)で30分間分散処理して、全体を均一に呈色させた後、スプレードライ装置(MDL-050M、藤崎電機株式会社製)を用いてスプレードライ(ノズルエアー流量50L/min、給気温度190℃)に付して造粒体S1を得た。
【0067】
得られた造粒体S1を、アルゴン水素雰囲気下(水素濃度3%)にて750℃で1時間焼成して、式(A)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子A(LiMn0.8Fe0.2PO、炭素量=1.2質量%)を得た。
水1Lに対し、得られたリチウム系ポリアニオン粒子Aを100g、Naを30g加え、常温で24時間撹拌してリチウム系ポリアニオン粒子Aを疑似的に劣化させた。その後、これをろ過して乾燥した後、回収することにより、粉体(X)を得た。
【0068】
[実施例1]
粉体(X)に含まれるリチウム系ポリアニオン粒子のLiのモル数が、LiMn0.8Fe0.2POで表される当初リチウム系ポリアニオン粒子Aに基づき1molとなるようにLiOH・HOを加えるとともに、NaSOを加えてLiOH・HOとNaSOのモル比((Y):(Z))=1:0.6となるように調整した。次いで、製造例1で得られた粉体(X)を加え、さらに一片あたり0.2cm~2cmの表面積となるよう切断したカーボンシート(厚み:1mm)を粉体(X)100質量部に対して5質量部(粉体(X):カーボンシート=1(g):10(cm))加えて水と混合し、10分間撹拌してスラリー水Iaを得た。
次に、HSOを用い、得られたスラリー水IaのpHを11に調整してスラリー水IIaとした後、これをオートクレーブに投入し、100℃で1時間加熱処理を施した。なお、オートクレーブ内の圧力は0.8MPaであった。
加熱処理後、生成した結晶をろ過し、これを乾燥してリチウム系ポリアニオン粒子Ae1を得た。一方、用いたカーボンシートは、ふるいを用いることにより回収した。
【0069】
[実施例2]
一片あたり1mm以上の面積となるよう切断したカーボンシートを粉体(X)100質量部に対して8質量部(粉体(X):カーボンシート=1(g):15(cm))加えてスラリー水Iaを調製し、次いで得られたスラリー水IaのpHを12に調整したこと、並びに90℃で加熱処理を施したこと以外、実施例1と同様にしてリチウム系ポリアニオン粒子Ae2を得た。
【0070】
[実施例3]
一片あたり1mm以上の面積となるよう切断したカーボンシートを粉体(X)100質量部に対して10質量部(粉体(X):カーボンシート=1(g):20(cm))加えてスラリー水Iaを調製し、次いで得られたスラリー水IaのpHを10に調整したこと、並びに110℃で加熱処理を施したこと以外、実施例1と同様にしてリチウム系ポリアニオン粒子Ae3を得た。
【0071】
[実施例4]
カーボンシートの代わりに、粉砕処理によってふるい網目開き500μm以上粒径1cm以下の粒状とした塊状黒鉛を用いたこと、並びにかかる塊状黒鉛を粉体(X)100質量部に対して10質量部加えてスラリー水Iaを調製したこと以外、実施例1と同様にしてリチウム系ポリアニオン粒子Ae4を得た。
【0072】
[実施例5]
一片あたり0.2cm~2cmの面積となるよう切断したカーボンシートを粉体(X)100質量部に対して15質量部(粉体(X):カーボンシート=1(g):25(cm))加えてスラリー水Iaを調製したこと、並びにこれをオートクレーブに投入することなく(加圧せず)、60℃で加熱処理を施したこと以外、実施例1と同様にしてリチウム系ポリアニオン粒子Ae5を得た。
【0073】
[比較例1]
カーボンシートを加えることなくスラリー水Iaを調製したこと以外、実施例1と同様にしてリチウム系ポリアニオン粒子Ac1を得た。
【0074】
[比較例2]
カーボンシートを加えることなくスラリー水Iaを調製したこと、並びに90℃で加熱処理を施したこと以外、実施例1と同様にしてリチウム系ポリアニオン粒子Ac2を得た。
【0075】
上記実施例及び比較例において採用した諸条件について、表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
《XRDパターンの解析》
上記で得られた各リチウム系ポリアニオン粒子について、XRD(D8-ADVANCE A-25型、BrukerAXS社製)を用い、ターゲットCuKα、管電圧40 kV、管電流40 mA、走査範囲10~80°(2θ)、ステップ幅0.0234°及びスキャンスピード0.13°/stepで測定し、XRDパターンを得た。
製造例1で得られたリチウム系ポリアニオン粒子A、及び粉体(X)に含まれるリチウム系ポリアニオン粒子も含め、得られたXRDパターン図を図1に示す。
【0078】
上記図1に示すように、実施例において得られたリチウム系ポリアニオン粒子Ae1~Ae5は、比較例において得られたリチウム系ポリアニオン粒子Ac1~Ac2とは異なり、不純物のない単一相であり、一旦劣化した粉体(X)に含まれるリチウム系ポリアニオン粒子であっても、使用前のリチウムイオン二次電池を構成した当初リチウム系ポリアニオン粒子Aへと有効に再生できることがわかる。
図1