(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117201
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】回転電機用ロータ
(51)【国際特許分類】
H02K 1/276 20220101AFI20240822BHJP
【FI】
H02K1/276
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023148
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】木戸 勇志
(72)【発明者】
【氏名】井手上 薫樹
【テーマコード(参考)】
5H622
【Fターム(参考)】
5H622AA03
5H622CA02
5H622CA05
5H622CA10
5H622CB03
5H622CB05
5H622DD02
(57)【要約】
【課題】遠心力に起因したロータコアの内径の変化量の更なる低減を図る。
【解決手段】軸方向に視て円環状のロータコアと、ロータコアの径方向内側に配置され、ロータコアに対して径方向の締め代により結合されるロータシャフトと、周方向に沿って複数の磁極を形成する態様でロータコアに磁極ごとに配置される磁石とを備え、ロータコアは、磁石よりも径方向内側に、軸方向に延びる複数の孔を有し、複数の孔は、磁石の径方向位置に近い順の第1径方向位置と第2径方向位置のそれぞれに、周方向に並ぶ第1孔列と第2孔列とをそれぞれ形成し、第1孔列を形成する隣接する複数の孔の間の第1周方向範囲は、磁極ごとの磁石の間の周方向位置に対して周方向でオフセットする、回転電機用ロータが開示される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に視て円環状のロータコアと、
前記ロータコアの径方向内側に配置され、前記ロータコアに対して径方向の締め代により結合されるロータシャフトと、
周方向に沿って複数の磁極を形成する態様で前記ロータコアに磁極ごとに配置される磁石とを備え、
前記ロータコアは、前記磁石よりも径方向内側に、軸方向に延びる複数の孔を有し、
前記複数の孔は、前記磁石の径方向位置よりも径方向内側の第1径方向位置において前記複数の孔が周方向に並ぶ第1孔列と、前記第1径方向位置よりも径方向内側の第2径方向位置において前記複数の孔が周方向に並ぶ第2孔列とを、形成し、
前記第1孔列を形成する隣接する前記複数の孔の間の第1周方向範囲は、q軸の周方向位置に対して周方向でオフセットする、回転電機用ロータ。
【請求項2】
前記第1周方向範囲は、更に、d軸の周方向位置に対しても周方向でオフセットする、請求項1に記載の回転電機用ロータ。
【請求項3】
前記第2孔列を形成する前記軸方向の孔の間の第2周方向範囲は、q軸の周方向位置を含む、請求項2に記載の回転電機用ロータ。
【請求項4】
前記第2周方向範囲は、d軸の周方向位置を含む、請求項3に記載の回転電機用ロータ。
【請求項5】
前記第1孔列と前記第2孔列とは、径方向の延在範囲が互いにオーバーラップする、請求項1から4のうちのいずれか1項に記載の回転電機用ロータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転電機用ロータに関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機用ロータのロータコアにおいて、複数の永久磁石を挿入するための磁石孔を形成するとともに、磁石孔よりも径方向内側にスリットを形成する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来技術では、依然として、回転電機の高回転化に伴う遠心力の増加に対応することが難しい。すなわち、遠心力に起因したロータコアの内径の変化量(増加量)が依然として大きくなりやすい。
【0005】
そこで、1つの側面では、本開示は、遠心力に起因したロータコアの内径の変化量の更なる低減を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、軸方向に視て円環状のロータコアと、
前記ロータコアの径方向内側に配置され、前記ロータコアに対して径方向の締め代により結合されるロータシャフトと、
周方向に沿って複数の磁極を形成する態様で前記ロータコアに磁極ごとに配置される磁石とを備え、
前記ロータコアは、前記磁石よりも径方向内側に、複数の軸方向に延びる孔を有し、
前記複数の孔は、前記磁石の径方向位置よりも径方向内側の第1径方向位置において前記複数の孔が周方向に並ぶ第1孔列と、前記第1径方向位置よりも径方向内側の第2径方向位置において前記複数の孔が周方向に並ぶ第2孔列とを、形成し、
前記第1孔列を形成する隣接する前記複数の孔の間の第1周方向範囲は、q軸の周方向位置に対して周方向でオフセットする、回転電機用ロータが提供される。
【発明の効果】
【0007】
1つの側面では、本開示によれば、遠心力に起因したロータコアの内径の変化量の更なる低減を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施例によるモータの断面構造を概略的に示す断面図である。
【
図2】ロータのロータコアの断面図(軸方向に垂直な平面による断面図)である。
【
図3】ロータの一の磁極に係る部分及びその隣接部分の一部の拡大図である。
【
図4】比較例によるロータコアの一の磁極に係る部分及びその隣接部分の一部の拡大図である。
【
図5】遠心力を発生させた際のロータコアの内径変化量の解析結果を示す図である。
【
図6】変形例によるロータコアの一の磁極に係る部分及びその隣接部分の一部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率はあくまでも一例であり、これに限定されるものではなく、また、図面内の形状等は、説明の都合上、部分的に誇張している場合がある。また、図面では、見易さのために、複数存在する同一属性の部位には、一部のみしか参照符号が付されていない場合がある。
【0010】
図1は、一実施例によるモータ1の断面構造を概略的に示す断面図である。
図2は、ロータ30のロータコア32の断面図(軸方向に垂直な平面による断面図)である。
図3は、ロータ30の一の磁極に係る部分及びその隣接部分の一部の拡大図である。
【0011】
図1には、モータ1の回転軸12が図示されている。以下の説明において、軸方向とは、モータ1の回転軸(回転中心)12が延在する方向を指し、径方向とは、回転軸12を中心とした径方向を指す。従って、径方向外側とは、回転軸12から離れる側を指し、径方向内側とは、回転軸12に向かう側を指す。また、周方向とは、回転軸12まわりの回転方向に対応する。
【0012】
モータ1は、例えばハイブリッド車両や電気自動車で使用される車両駆動用のモータであってよい。ただし、モータ1は、他の任意の用途に使用されるものであってもよい。
【0013】
モータ1は、インナロータタイプであり、ステータ21がロータ30の径方向外側を囲繞するように設けられる。ステータ21は、モータハウジング10に固定される。ステータ21は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板からなるステータコア211を備え、ステータコア211の径方向内側には、コイル22が巻回される複数のスロット(図示せず)が形成される。
【0014】
ロータ30は、ステータ21の径方向内側に配置される。
【0015】
ロータ30は、ロータコア32と、ロータシャフト34と、エンドプレート35A、35Bと、磁石片61、62とを備える。なお、エンドプレート35A、35Bは省略されてもよい。
【0016】
ロータコア32は、ロータシャフト34の径方向外側の表面に固定され、ロータシャフト34と一体となって回転する。ロータコア32は、軸孔320(
図2参照)を有し、軸孔320にロータシャフト34が嵌合される。ロータコア32は、ロータシャフト34に対して径方向の締め代を有する態様で、結合される。すなわち、ロータコア32とロータシャフト34は、締め代による固定により互いに対して結合される。例えば、ロータコア32とロータシャフト34とは、焼き嵌め、圧入、ハイドロフォーミング又はその類により、径方向の締め代を有する態様で結合されてよい。ただし、ロータコア32とロータシャフト34の間の結合力は、径方向の締め代だけでなく、ナット等による軸力を含んでもよい。
【0017】
ロータシャフト34は、モータハウジング10にベアリング14a、14bを介して回転可能に支持される。なお、ロータシャフト34は、モータ1の回転軸12を画成する。
【0018】
ロータコア32は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板により形成される。ロータコア32の内部には、磁石片61、62(
図3参照)が埋め込まれる。すなわち、ロータコア32は、軸方向に貫通する磁石孔321、322(
図2参照)を有し、磁石孔321、322内に磁石片61、62が挿入され固定される。なお、変形例では、ロータコア32は、磁性粉末が圧縮して固められた圧粉体により形成されてもよい。
【0019】
ロータコア32は、外形r1及び内径r2(軸孔320の径)の円形状で設計される。なお、変形例では、ロータコア32の円形状は、真円である必要はなく、例えば一部に切り欠きを有する円形状であってもよい。
【0020】
ロータコア32は、
図2に示すように、軸方向に視て、回転軸12を中心とした回転対称の形態を有する。
図2に示す例では、ロータコア32は、回転軸12を中心として45度回転するごとに、各組の磁石片61、62が重なる形態である。
【0021】
複数の磁石片61、62は、焼結磁石の形態であり、ネオジウム等により形成されてよい。ただし、変形例では、磁石片61、62に代えて、ボンド磁石材料により形成された磁石が利用されてもよい。本実施例では、一例として、
図3に示すように、複数の磁石片61、62は、軸方向に視て、磁極ごとに回転対称となる態様で配置されている。なお、複数の磁石片61、62は、周方向でS極とN極とが交互に現れる態様で配置される。本実施例では、磁極数が8つであるが、磁極数は任意である。また、本実施例では、磁石片61、62は、軸方向に視て直線状の同一形態であるが、異なる形態であってもよい。また、磁石片61、62の少なくともいずれか一方が、軸方向に視て円弧状の形態であってもよい。
【0022】
なお、
図1には、特定の構造を有するモータ1が示されるが、モータ1の構造は、かかる特定の構造に限定されない。例えば、
図1では、ロータシャフト34は、中空であるが、中実であってもよい。
【0023】
次に、
図3以降を参照して、ロータコア32及び磁石片61、62を更に詳細に説明する。以下では、ある一の磁極に係る構成について説明するが、他の磁極に係る構成についても同様であってよい。
【0024】
図3に示すように、一の磁極に係る構成は、基本的に、主磁束方向(界磁極の方向)に対応するd軸(
図3では「d-axis」と英語表記)に関して対称である。なお、d軸の方向は、ロータ30に配置される磁石片61、62が発生する磁界の方向に対応する。以下では、周方向外側とは、d軸から離れる側を指し、周方向内側とは、d軸に近づく側を指す。なお、d軸は、磁極ごとの周方向範囲の周方向中心位置に形成されるのに対して、q軸(
図3では「q-axis」と英語表記)は、磁極ごとの周方向範囲の境界(磁極ごとの磁石片61、62の間の周方向位置)に形成される。
【0025】
ロータコア32には、磁石孔321(以下、「第1層の磁石孔321」と称する)と、磁石孔322(以下、「第2層の磁石孔322」と称する)とが、形成される。なお、磁石孔321及び磁石孔322は、磁極ごとに回転対称となる態様で形成される。
【0026】
第1層の磁石孔321は、2つが対となって略V字状(径方向外側又は径方向内側が開く態様の略V字状)に形成される。ただし、変形例では、第1層の磁石孔321は、2つが対となって直線状に形成されてもよいし、直線状(d軸に垂直な直線状)の1つの孔により実現されてもよい。第1層の磁石孔321のそれぞれには、磁石片61が設けられる。なお、第1層の磁石孔321と磁石片61との間には、磁石片61の長手方向両端部において隙間が設けられてもよい。なお、この隙間は、空洞であってもよいし、樹脂等が充填されてもよい。
【0027】
第2層の磁石孔322は、第1層の磁石孔321よりも径方向内側に設けられる。なお、第1層の磁石孔321及び第2層の磁石孔322の位置関係に関して径方向外側又は径方向内側とは、軸方向に視て、回転軸12を通る共通の線分が交わる点同士で比較される位置関係である。これは、後述する第1部位3211と第1層の磁石孔321との位置関係等に関しても同様である。
【0028】
第2層の磁石孔322は、第1層の磁石孔321と同様、d軸に関して対称な対をなす態様で形成される。なお、周方向でd軸の両側の第2層の磁石孔322は、周方向でd軸の両側の第1層の磁石孔321よりも周方向の延在範囲が広い。第2層の磁石孔322のそれぞれには、磁石片62が設けられる。なお、第2層の磁石孔322と磁石片62との間には、磁石片62の長手方向両端部において隙間が設けられてよい。なお、この隙間は、空洞であってもよいし、樹脂等が充填されてもよい。
【0029】
本実施例では、第2層の磁石孔322は、周方向でd軸の一方側に2つ形成され、かつ、周方向でd軸の他方側に2つ形成される。すなわち、一の磁極に対して合計4つの第2層の磁石孔322が形成される。
【0030】
ロータコア32は、このような第1層の磁石孔321及び第2層の磁石孔322を有することで、径方向にブリッジ部を介してのみ接続される3つの部位3211、3212、3213(以下、第1部位3211、第2部位3212、第3部位3213とも称する)を有する。
【0031】
具体的には、第1部位3211は、第1層の磁石孔321よりも径方向外側に延在する。第1部位3211は、ロータコア32の外周面328の一部328A(
図3参照)を形成する。第1部位3211は、q軸磁束の磁路を形成する。具体的には、第1部位3211に係るq軸磁束は、第1部位3211の周方向一端から周方向他端に向けて第1部位3211(第1層の磁石孔321よりも径方向外側の領域)を通って流れる。
【0032】
第2部位3212は、第2層の磁石孔322と第1層の磁石孔321との間を通って周方向両側がロータコア32の外周面328まで延在する。第2部位3212は、第1部位3211の周方向両側において、ロータコア32の外周面328の一部328B(以下、「第2部位3212の外周面部328B」とも称する)(
図3参照)を形成する。第2部位3212は、q軸磁束の磁路を形成する。具体的には、第2部位3212に係るq軸磁束は、第2部位3212の一端(一方側の外周面部328B)から他端(他方側の外周面部328B)に向けて第2層の磁石孔322と第1層の磁石孔321との間を通って流れる。
【0033】
第3部位3213は、第2層の磁石孔322よりも径方向内側を通って周方向両側がロータコア32の外周面328まで延在する。第3部位3213は、第2部位3212の周方向両側において、ロータコア32の外周面328の一部328C(
図3参照)を形成する。
【0034】
なお、本実施例では、第3部位3213の質量は、第2部位3212の質量よりも有意に大きく、第2部位3212の質量は、第1部位3211の質量よりも有意に大きくてよい。
【0035】
また、ロータコア32は、このような3つの部位3211、3212、3213を有することで、3つの部位3211、3212、3213を繋ぐ複数のブリッジ部41、42、43、44、45を有する。
【0036】
ブリッジ部41(以下、「第1ブリッジ部41」と称する)は、第2部位3212に対して第1部位3211を径方向外側で支持する。すなわち、第1ブリッジ部41は、第2部位3212と第1部位3211とを連結しかつ周方向に延在する。第1ブリッジ部41は、第1部位3211の周方向両側(周方向外側)に対で設けられる。
【0037】
ブリッジ部42(以下、「第2ブリッジ部42」と称する)は、第3部位3213に対して第2部位3212を径方向外側で支持する。すなわち、第2ブリッジ部42は、第3部位3213と第2部位3212とを連結しかつ周方向に延在する。第2ブリッジ部42は、第2部位3212の周方向両側(周方向外側)に対で設けられる。
【0038】
ブリッジ部43(以下、「第1センタブリッジ部43」と称する)は、第2部位3212に対して第1部位3211をd軸上で支持する。
【0039】
ブリッジ部44(以下、「第2センタブリッジ部44」と称する)は、第3部位3213に対して第2部位3212をd軸上で支持する。
【0040】
ブリッジ部45(以下、「第2中間ブリッジ部45」と称する)は、第3部位3213に対して第2部位3212を、2つの第2層の磁石孔322間で支持する。
【0041】
図3に示す例では、各第1層の磁石孔321に挿入される各磁石片61は、径方向外側からの1層目の永久磁石を形成し、各第2層の磁石孔322に挿入される各磁石片62は、径方向外側からの2層目の永久磁石を形成する。なお、本実施例では、一の磁石孔(第1層の磁石孔321又は第2層の磁石孔322)に一の磁石片(磁石片61又は磁石片62)が挿入されるが、変形例では、一の磁石孔に2つ以上の磁石片が挿入されてもよい。
【0042】
また、
図3に示す例では、第1層の磁石孔321及び第2層の磁石孔322は、ともにd軸上に延在せずに、d軸上に第1センタブリッジ部43及び第2センタブリッジ部44を有する。ただし、変形例では、第1層の磁石孔321及び第2層の磁石孔322は、いずれか一方又は双方がd軸上に延在してもよい。
【0043】
また、
図3に示す例では、磁石片61、62は、第1層の磁石孔321及び第2層の磁石孔322と同様に、ともにd軸上に延在しないが、いずれか一方だけ又は双方がd軸上に延在してもよい。また、第1ブリッジ部41、第2ブリッジ部42、及び第2中間ブリッジ部45のうちの少なくともいずれか1つが省略されてもよい。また、
図3に示す例では、磁石片61、62が径方向内外に2層で配置される2層構造であるが、一層構造(例えば磁石片61、62のいずれか一方が省略された構造)や3層以上の構造であってもよい。
【0044】
次に、
図3を更に参照して、本実施例の特徴的な構成を説明する。
【0045】
本実施例では、ロータコア32には、
図3に示すように、磁石孔321、322(及びその中の磁石片61、62)よりも径方向内側に、第1スリット71及び第2スリット72を有する。すなわち、ロータコア32の第3部位3213には、第1スリット71及び第2スリット72が形成される。第1スリット71及び第2スリット72は、それぞれ、ロータコア32を軸方向に貫通する軸方向の孔の形態である。
【0046】
第1スリット71は、磁石孔322よりも径方向内側かつ第2スリット72よりも径方向外側の位置(以下、「第1径方向位置」とも称する)に配置される。第2スリット72は、第1スリット71よりも径方向内側かつ軸孔320よりも径方向外側の位置(以下、「第2径方向位置」とも称する)に配置される。
【0047】
第1スリット71は、複数設けられる。複数の第1スリット71は、磁極ごとに回転対称となる態様で、第1径方向位置に設けられる。複数の第1スリット71は、周方向に並ぶ孔列(第1孔列の一例)を形成する。なお、本実施例では、一の磁極ごとの第1スリット71は、d軸上に周方向中心が位置する1つと、q軸上に周方向中心が位置する2つのそれぞれの半分(q軸で分割される半分)とからなる。
【0048】
複数の第1スリット71の間の周方向範囲(第1周方向範囲の一例)には、径方向に延在するブリッジ部(以下、「第1スリット間ブリッジ710」とも称する)が形成される。本実施例では、第1スリット間ブリッジ710は、
図3に示すように、q軸に対して周方向にオフセットする。すなわち、第1スリット間ブリッジ710は、q軸が通らない位置に形成される。また、第1スリット間ブリッジ710は、
図3に示すように、d軸に対しても周方向にオフセットする。すなわち、第1スリット間ブリッジ710は、d軸及びq軸のいずれも通らない位置に形成される。
【0049】
第2スリット72は、複数設けられる。複数の第2スリット72は、磁極ごとに回転対称となる態様で、第2径方向位置に設けられる。複数の第2スリット72は、周方向に並ぶ孔列(第2孔列の一例)を形成する。なお、本実施例では、一の磁極ごとの第2スリット72は、周方向でd軸とq軸の間の2つからなる。
【0050】
複数の第2スリット72の間の周方向範囲(第2周方向範囲の一例)には、径方向に延在するブリッジ部(以下、「第2スリット間ブリッジ720」とも称する)が形成される。本実施例では、複数の第2スリット間ブリッジ720の一部は、
図3に示すように、q軸上に形成され、残りの部分は、d軸上に形成される。すなわち、複数の第2スリット間ブリッジ720は、q軸上の第2スリット間ブリッジ720と、d軸上の第2スリット間ブリッジ720とからなる。
【0051】
ここで、
図4に示す比較例と、
図5に示す解析結果を参照して、本実施例の効果について説明する。
【0052】
図4は、比較例によるロータコア32’の一の磁極に係る部分及びその隣接部分の一部の拡大図であり、
図3との対比用の図である。
【0053】
比較例によるロータコア32’は、第1スリット71及び第2スリット72が、第1スリット71’及び第2スリット72’で置換された点が異なる。第1スリット71’及び第2スリット72’は、本実施例による第1スリット71及び第2スリット72に対して、周方向の位相が異なる。すなわち、一の磁極ごとの第1スリット71’は、周方向でd軸とq軸の間の2つからなる。この場合、第1スリット間ブリッジ710’は、q軸又はd軸上に延在する。また、一の磁極ごとの第2スリット72’は、d軸上に周方向中心が位置する1つと、q軸上に周方向中心が位置する2つのそれぞれの半分(q軸で分割される半分)とからなる。この場合、第2スリット間ブリッジ720’は、d軸及びq軸に対して周方向でオフセットする。
【0054】
図5は、モータ1(ロータ30)を高速回転させることで遠心力を発生させた際の、ロータコア32の内径(
図2のr2参照)の変化量の最大値の解析結果を示す図である。
【0055】
図5には、
図4に示した比較例とともに、本実施例と、更なる別の比較例の解析結果が併せて示されており、棒グラフの縦軸は、ロータコア32の内径(
図2のr2参照)の変化量の最大値(以下では、「コア内径変化量」とも称する)を表し、下側のほうが小さい。なお、ロータコア32の内径(
図2のr2参照)の変化量の最大値とは、ロータコア32の軸孔320の周縁部の各周方向位置で異なうる各変化量のうちの最大値を指す。
【0056】
更なる別の比較例は、図示しないが、第1スリット71及び第2スリット72や、第1スリット71’及び第2スリット72’のような、スリットを有さない構成であり、以下では、「スリットレスの比較例」とも称する。また、
図4に示した比較例は、
図5では、区別のため、「スリット有りの比較例」とも称する。
【0057】
コア内径変化量(増加量)が過大となると、ロータコア32とロータシャフト34との間の径方向の締め代が有意に低減又は無くなり、ロータコア32とロータシャフト34との間でのトルク伝達が阻害されるおそれがある。コア内径変化量(増加量)は、遠心力が大きくなるほど(すなわち高速回転となるほど)大きくなるため、モータ1の高回転化を図る上ではコア内径変化量が小さいほうが有利となる。
【0058】
図5からわかるように、本実施例では、
図4に示したスリット有りの比較例と同様、コア内径変化量が、スリットレスの比較例に比べて、大幅に低減されている。これから、第1スリット71及び第2スリット72(第1スリット71’及び第2スリット72’も同様)は、遠心力に起因してロータコア32の軸孔320の周縁部が受ける径方向外側への力を緩和する機能を有することがわかる。本実施例によれば、第1スリット71及び第2スリット72が径方向の異なる位置に配置される2層(2列)の構成により、当該緩和機能を効果的に高めることができる。
【0059】
また、本実施例では、
図4に示したスリット有りの比較例と同様、第1スリット間ブリッジ710と第2スリット間ブリッジ720とは、互いに周方向位置(位相)が異なるため、遠心力に起因してロータコア32の軸孔320の周縁部が受ける径方向外側への力を効果的に緩和できる。その結果、コア内径変化量を効果的に低減できる。
【0060】
また、本実施例では、
図5に示すように、
図4に示した比較例に比べて、コア内径変化量が更に低減されている。これは、本実施例では、第1スリット間ブリッジ710が上述したようにq軸に対して周方向にオフセットしているためである。第1スリット間ブリッジ710がq軸に対して周方向にオフセットすると、ロータコア32の軸孔320の周縁部全体に対して受ける力が緩和されるためである。これは、
図3に示したq軸に沿った径方向外向きの力F1が、実質的には、2つの第1スリット間ブリッジ710を介して(力F2参照)、3つの第2スリット間ブリッジ720で受けられる(力F3参照)ことからもわかる。なお、
図4に示す比較例では、q軸に沿った径方向外向きの力F1’が、実質的には、2つの第2スリット間ブリッジ720’で受けられる(力F2’参照)。
【0061】
ここでは、q軸に沿った径方向外向きの力F1について説明したが、d軸に沿った径方向外向きの力も同様の傾向となる。なお、遠心力に起因して生じるq軸に沿った径方向外向きの力F1は、d軸に沿った径方向外向きの力よりも大きくなる傾向がある。
【0062】
このようにして本実施例によれば、
図4に示した比較例に比べて、遠心力に起因したロータコア32の内径の変化量について更なる低減を図ることができる。これにより、モータ1の更なる高速回転化を図ることが可能となる。
【0063】
【0064】
図6は、変形例によるロータコア32Aの一の磁極に係る部分及びその隣接部分の一部の拡大図であり、前出の
図3に対応する図である。
【0065】
本変形例によるロータコア32Aは、第1スリット71及び第2スリット72が、第1スリット71A及び第2スリット72Aで置換された点が異なる。第1スリット71A及び第2スリット72Aは、本実施例による第1スリット71及び第2スリット72に対して、周方向の位相が同じであるが、径方向の関係及び形状が異なる。
【0066】
具体的には、本変形例では、第1スリット71Aと第2スリット72Aとは、
図6に示すように、径方向の延在範囲が互いにオーバーラップする。すなわち、第1スリット71Aの径方向内側の部分と、第2スリット72Aの径方向外側の部分とは、周方向にオフセットしつつ、同じ径方向範囲に延在する。
【0067】
この場合、第1スリット71Aは、径方向内側に向かうにつれて周方向のスリット幅が徐々に狭くなるスリット形態を有し、第2スリット72Aは、径方向外側に向かうにつれて周方向のスリット幅が徐々に狭くなるスリット形態を有する。そして、第1スリット間ブリッジ710Aと第2スリット間ブリッジ720Aとをつなぐ部位730Aは、周方向かつ径方向に延在する。
【0068】
このような変形例によっても、上述した実施例と同様の効果を得ることができる。更に、本変形例によれば、第1スリット71Aの径方向の延在範囲と第2スリット72Aの径方向の延在範囲とがオーバーラップするので、第1スリット71及び第2スリット72の全体としての径方向のスリット延在範囲の最小化を図ることができる。これにより、ロータコア32Aにおける径方向のスリット延在範囲と径方向の磁石延在範囲との間の距離L6(
図6参照)を比較的大きくすることができる。その結果、ロータコア32Aの強度を高め、各ブリッジ部(ブリッジ部41、42等)において生じる応力の低減を効率的に図ることができる。
【0069】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。
【0070】
例えば、上述した実施例(変形例も同様)では、複数の第1スリット71からなる孔列及び複数の第2スリット72からなる孔列から2列のスリット構成であるが、列数は任意であり、3列以上のスリット構成も可能である。この場合も、最も径方向外側に位置する孔列(すなわち径方向の磁石延在範囲に最も近い孔列)を形成する複数のスリットが、複数の第1スリット71と同様の構成(周方向の位相)を有すればよい。また、この場合、2番目に径方向外側に位置する孔列を形成する複数のスリットが、複数の第2スリット72と同様の構成(周方向の位相)を有し、3番目に径方向外側に位置する孔列を形成する複数のスリットが、複数の第1スリット71と同様の構成(周方向の位相)を有し、以下同様であってよい。
【符号の説明】
【0071】
30・・・ロータ(回転電機用ロータ)、32・・・ロータコア、34・・・ロータシャフト、61、62・・・磁石片(磁石)、71・・・第1スリット(第1孔列を形成する軸方向の孔)、72・・・第2スリット(第2孔列を形成する軸方向の孔)