(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117209
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】混綿中綿
(51)【国際特許分類】
D06M 15/263 20060101AFI20240822BHJP
D06M 13/395 20060101ALI20240822BHJP
D01F 2/06 20060101ALI20240822BHJP
D06M 101/06 20060101ALN20240822BHJP
【FI】
D06M15/263
D06M13/395
D01F2/06 Z
D06M101:06
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023165
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】593069897
【氏名又は名称】モリリン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591264267
【氏名又は名称】ダイワボウレーヨン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】富永 浩二
(72)【発明者】
【氏名】橋田 佳雅
(72)【発明者】
【氏名】廣長 幹也
(72)【発明者】
【氏名】三原 達也
【テーマコード(参考)】
4L033
4L035
【Fターム(参考)】
4L033AA07
4L033AB01
4L033AB03
4L033AC03
4L033BA69
4L033CA18
4L035AA04
4L035BB03
4L035BB59
4L035GG03
(57)【要約】
【課題】洗濯しても嵩特性を良好に維持することができ、かつ高い吸湿性を有する混綿中綿を提供する。
【解決手段】本開示に係る混綿中綿は、ポリエステル繊維と特定の方法で処理を行った撥水性再生セルロース繊維とを含む。撥水性再生セルロース繊維は、例えば撥水性レーヨンであり、ポリエステル繊維は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維、ポリブチレンテレフタレート(PBT)繊維、ポリエチレンナフレート繊維(PEN)、ポリ乳酸繊維(PLA)、ポリカプロラクトン繊維(PCL)およびポリブチレンサクシネート繊維(PBS)からなる群より選択される少なくとも1種の繊維である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル繊維と撥水性再生セルロース繊維とを含む混綿中綿であり、
前記撥水性再生セルロース繊維は、カルボキシル基およびスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を含有する化合物を含み、繊維表面には架橋剤および(メタ)アクリル酸エステルを単量体の基本単位として含むポリマーからなる炭化水素系撥水剤が結合しており、
前記ポリエステル繊維と前記撥水性再生セルロース繊維とが、30:70~90:10の質量比で含まれる、混綿中綿。
【請求項2】
前記撥水性再生セルロース繊維が、撥水性レーヨンである、請求項1に記載の混綿中綿。
【請求項3】
前記ポリエステル繊維が、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維、ポリブチレンテレフタレート(PBT)繊維、ポリエチレンナフレート繊維(PEN)、ポリ乳酸繊維(PLA)、ポリカプロラクトン繊維(PCL)およびポリブチレンサクシネート繊維(PBS)からなる群より選択される少なくとも1種の繊維である、請求項1または2に記載の混綿中綿。
【請求項4】
混綿粒綿、混綿中綿シートまたは開繊綿の形態を有する、請求項1または2に記載の混綿中綿。
【請求項5】
前記混綿粒綿を、JIS L 1930に準拠してC4M法洗濯を行ったとき、未洗濯の混綿粒綿のフィルパワー(FP0)に対する、1回洗濯後のフィルパワー(FP1)の割合(FP1/FP0)が76%以上、および未洗濯の混綿粒綿のフィルパワー(FP0)に対する、10回洗濯後のフィルパワー(FP10)の割合(FP10/FP0)が63%以上であるとの要件の少なくとも一方を満たす、請求項4に記載の混綿中綿。
【請求項6】
前記混綿中綿シートにおいて、下記の式(III)’で算出される10回洗濯後の圧縮率が、32%以上である、請求項4に記載の混綿中綿。
圧縮率(%)={(Ha-Hb)/Ha}×100・・・(III)’
Ha:1辺が20cmの正方形状を有する混綿中綿シートを4枚重ね、その上に1辺が20cmの正方形状を有する33gの厚板を載置し、30秒間静置した後、厚板を乗せた状態で測定した四隅の高さの平均値。
Hb:Ha測定後、厚板の上に500gのおもりを乗せて30秒静置した後、厚板およびおもりを乗せた状態で測定した四隅の高さの平均値。
洗濯:JIS L 1930に準拠したC4M法洗濯。
【請求項7】
前記混綿中綿シートを、JIS L 1930に準拠してC4M法洗濯を行い、未洗濯の混綿中綿シートの圧縮率(H0)に対する、1回洗濯後の圧縮率(H1)の割合(H1/H0)が80%以上、および未洗濯の混綿中綿シートの圧縮率(H0)に対する、10回洗濯後の圧縮率(H10)の割合(H10/H0)が55%以上であるとの要件の少なくとも一方を満たす、請求項4または6に記載の混綿中綿。
【請求項8】
前記混綿中綿を、絶乾状態の質量W0と、40℃で90%RH下で静置して吸湿させたあとの質量Wから算出する吸湿率が、静置1時間後および7時間後の少なくとも一方において3%以上である、請求項4に記載の混綿中綿
【請求項9】
請求項1または2に記載の混綿中綿を含む、衣料品用または寝装品用の中綿素材。
【請求項10】
請求項1または2に記載の混綿中綿を内部に充填した、衣料品。
【請求項11】
請求項1または2に記載の混綿中綿を内部に充填した、寝装品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダウンジャケット、ダウンコート、布団、枕などの中綿素材として使用可能な混綿中綿に関する。
【背景技術】
【0002】
ダウンなどの衣服に用いる中綿は、高い保温性が求められ、中綿の嵩特性(嵩高性および嵩弾性)を高めて空気による断熱性を利用する方法がよく知られている。一方、衣服内が温まり、体から汗が出始めると、湿度が高くなって着用感が不快となる。そのため、衣服内の湿度は高くなりすぎないように調整する必要がある。その両者を解決する方法として、例えば、ダウンのような嵩高性も吸湿性も優れる天然繊維を用いる方法がある。しかし、ダウンはガチョウの羽から取れる天然物であるため、コストが高く、大量生産にも限界がある。さらに、動物愛護の観点から、近年はダウンの入手が困難になりつつある。
【0003】
一方、ダウンの代替品として、化学繊維を原料とし、ダウンのような風合いを有する中綿材が開発されている(例えば、特許文献1~3)。このような中綿材には、ポリエステル繊維および再生セルロース繊維(レーヨンなど)が含まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-67452号公報
【特許文献2】特開2014-9408号公報
【特許文献3】特表2010-532827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、洗濯しても嵩特性を良好に維持することができ、かつ高い吸湿性を有する混綿中綿を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、通常の再生セルロース繊維に代えて、洗濯耐久性が高い撥水性再生セルロース繊維を使用したときは、洗濯後、特に洗濯回数を重ねても嵩特性を維持することが可能であり、吸湿性についても通常の再生セルロース繊維と洗濯耐久性が高い撥水性再生セルロース繊維とでは遜色がないという新たな事実を見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の混綿中綿は、ポリエステル繊維と撥水性再生セルロース繊維とを含む混綿中綿であり、撥水性再生セルロース繊維は、カルボキシル基およびスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を含有する化合物を含み、繊維表面には架橋剤および(メタ)アクリル酸エステルを単量体の基本単位として含むポリマーからなる炭化水素系撥水剤が結合しており、ポリエステル繊維と撥水性再生セルロース繊維とが、30:70~90:10の質量比で含まれる。さらに、本発明は、上記混綿中綿を含む、衣料品用または寝装品用の中綿素材を提供するものである。本発明は、上記混綿中綿を内部に充填した、衣料品または寝装品の中綿を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る混綿中綿は、上記のような構成を有することによって、通常の再生セルロース繊維を含む混綿中綿と比較して、洗濯しても嵩特性を良好に維持することができ、かつ高い吸湿性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】(a)~(c)は、本発明に係る混綿中綿において、混綿粒綿の製造方法の一実施形態を示す説明図である。
【
図2】(a)~(c)は、本発明に係る混綿中綿において、不織布シートの製造方法の一実施形態を示す説明図である。
【
図3】参考例1で行った含水率測定の結果を示すグラフである。
【
図4】参考例2で行った吸湿率測定の結果を示すグラフである。
【
図5】実施例1および2ならびに比較例1および2で得られた混綿粒綿の嵩高性を評価した結果を示すグラフである。
【
図6】実施例1および2ならびに比較例1および2で得られた混綿粒綿に繰り返し荷重をかけた後、回復後の嵩高性を評価した結果を示すグラフである。
【
図7】実施例3および比較例4~6で得られたシート状の混綿中綿の比容積を算出した結果を示すグラフである。
【
図8】実施例3および比較例4~6で得られたシート状の混綿中綿の圧縮率を算出した結果を示すグラフである。
【
図9】実施例3および比較例4~7で得られたシート状の混綿中綿について、吸湿率測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
特許文献1に記載の再生セルロース繊維は高い吸湿性を有している反面、洗濯をすればするほど徐々に中綿の嵩高性が減少して、保温性が徐々に低下する。そのため、再生セルロース繊維の混率を低くして洗濯による影響を少なくする必要がある。再生セルロース繊維の混率を低くしすぎると、吸湿性が不十分となり、衣服用の綿として適さなくなる。
【0011】
特許文献2では、多量発汗や雨のような液相の水分と接触しても水をはじき、吸湿発熱が持続する疎水化吸湿発熱繊維を得るために、疎水化処理を施している。疎水化剤としては、フッ素含有化合物やシリコーン化合物が開示されているものの、フッ素含有化合物は、近年環境面の観点から厳しく規制されており、好ましくない。さらに、前記疎水化剤を使用する際には、繊維に対してキュアセット(キュアリングとも称する)という高温の熱処理による固着工程が必要であり、繊維の変色、劣化や作業工程が増える問題がある。加えて、シリコーン化合物を使用すると、繊維同士の滑りが強くなる傾向にあるため、詰め綿の形状にしたときに、洗濯後の形状安定性が悪くなる可能性がある。特許文献3では、中綿の嵩高性を得る目的で、仕上げ剤としてシリコーン油を使用している。但し、特許文献2も含めてセルロース系繊維などにシリコーン油などを加工しただけでは十分な洗濯耐久性が得られない場合がある。
【0012】
本発明者らは、洗濯しても嵩特性を良好に維持することができ、かつ高い吸湿性を有する混綿中綿を提供するために、ポリエステル繊維と再生セルロース繊維を含む混綿中綿とすることを考えた。
【0013】
本発明者らは、洗濯しても嵩特性を良好に維持することができ、かつ高い吸湿性を有する混綿中綿を提供するために検討を重ねた結果、ポリエステル繊維と所定の撥水性再生セルロース繊維とを含むことによって、上記の効果を発揮する混綿中綿を提供することができることを見出した。
【0014】
本発明に係る混綿中綿は、上記のように、ポリエステル繊維と所定の撥水性再生セルロース繊維とを含む。
【0015】
ポリエステル繊維は、優れた弾性を有し、羽毛に似た柔らかさを有している。ポリエステル繊維は限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維、ポリブチレンテレフタレート(PBT)繊維、ポリエチレンナフレート繊維(PEN)などの芳香族ポリエステルや、ポリ乳酸繊維(PLA)、ポリカプロラクトン繊維(PCL)、ポリブチレンサクシネート繊維(PBS)などの脂肪族ポリエステルなどが挙げられる。性能を損なわない範囲においては、共重合成分を用いたものでもよく、艶消し剤や紫外線遮蔽材として二酸化チタンを添加したものでもよい。これら樹脂からなる単一繊維および2種類以上を組み合わせた複合繊維の何れでも良い。
【0016】
他の共重合成分としては、例えば、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、パラフェニレンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの多価カルボン酸およびそれらの誘導体;5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルなどのスルホン酸塩を含むジカルボン酸およびそれらの誘導体;1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、4-ヒドロキシ安息香酸、ε-カプロラクトン、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテルなどが挙げられる。
【0017】
ポリエステル繊維の繊度および繊維長は限定されない。ポリエステル繊維の繊度は、例えば、0.5dtex以上20dtex以下であるのが好ましく、0.8dtex以上15dtex以下であるのがより好ましく、1.0dtex以上10dtex以下であるのがさらに好ましい。このような繊度を有するポリエステル繊維を使用すると、優れた嵩高性と柔らかさが両立できる。繊度(dtex(デシテックス))は、繊維の太さを示す単位であり、繊維10000m当たりのグラム数を示す。繊度の値が大きいほど、繊維が太いことを示す。
【0018】
ポリエステル繊維の繊維長は、例えば、5mm以上200mm以下であるのが好ましく、12mm以上100mm以下であるのがより好ましく、15mm以上80mm以下であるのがさらに好ましい。撥水性再生セルロース繊維を含む混綿中綿が混綿粒綿の場合は、例えば、5mm以上64mm以下であるのが好ましく、8mm以上51mm以下であるのがより好ましく、12mm以上38mm以下であるのがさらに好ましい。混綿中綿シートまたは開繊綿の場合は、例えば、5mm以上100mm以下であるのが好ましく、15mm以上80mm以下であるのがより好ましく、30mm以上80mm以下であるのがさらに好ましい。このような繊維長を有するポリエステル繊維を使用すると、繊維のまとまりが優れ、中綿の形状が崩れにくい傾向にある。
【0019】
ポリエステル繊維は直線状のものであってもよく、捲縮していてもよい。捲縮は自然捲縮であってもよく、立体捲縮であってもよく、機械捲縮であってもよい。さらに、ポリエステル繊維は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、繊度が異なるポリエステル繊維、繊維長が異なるポリエステル繊維、融点が異なるポリエステル繊維などを併用してもよい。
【0020】
撥水性再生セルロース繊維は、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセルなどの再生セルロース繊維に撥水性を付与した繊維である。再生セルロース繊維に撥水性を付与する方法としては、次の方法が挙げられる。まず、カルボキシル基およびスルホン酸基からなる群より選択される少なくとも1種の酸性基を含有する化合物を、再生セルロース繊維に含有させる。次いで、再生セルロース繊維の表面に、架橋剤と、(メタ)アクリル酸エステルを単量体の基本単位として含むポリマーからなる炭化水素系撥水剤を結合させる。本明細書において「(メタ)アクリル酸エステル」は、「アクリル酸エステル」または「メタクリル酸エステル」を意味する。このようにして、再生セルロース繊維に撥水性を付与した撥水性再生セルロース繊維が得られる。このような撥水性再生セルロース繊維は、例えば、特開2019-065443号に開示されている。
【0021】
撥水性再生セルロース繊維は、カルボキシル基およびスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を含有する化合物を含む。カルボキシル基を含有する化合物としては、限定されず、例えば、再生セルロース繊維にカルボキシル基を付与しやすい観点から、ポリアクリル酸およびアクリル酸-マレイン酸共重合体からなる群から選ばれる1以上であることが好ましい。スルホン酸基を含有する化合物としては限定されず、例えば、ナフタリンスルホン酸塩、ポリスチレンスルホン酸塩、フェノールスルホン酸塩、ジヒドロキシジフェニルスルホン、ヒドロキシフェニルスルホンのホルマリン縮合物などが挙げられる。
【0022】
撥水性再生セルロース繊維に、カルボキシル基およびスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を含有する化合物を含ませる方法としては、再生セルロース繊維の作製時に、ビスコース原液に酸性基を含有する化合物を混合して調製した紡糸用ビスコース液を紡糸することで、繊維中に酸性基を含有する化合物を練り込む方法、酸性基を含有する化合物を含む水溶液などに再生セルロース繊維を浸漬して繊維中に酸性基を含有する化合物を含浸させる方法、酸性基を含有する化合物を含む水溶液などを再生セルロース繊維に噴霧や塗布して再生セルロース繊維に酸性基を含有する化合物を付着させる方法などが挙げられる。これらの中でも、練り込みは、酸性基を含有する化合物が繊維の表面および内部の全体に均一に混合されて分散していること、および酸性基を含有する化合物が繊維から脱落しにくいことから、好ましい。
【0023】
ポリアクリル酸としては、例えば、ポリアクリル酸の未中和物、すなわち、ポリアクリル酸のカルボキシル基がH型になっているポリアクリル酸のH型を用いてもよく、ポリアクリル酸のカルボキシル基のHの部位がNaなどの金属イオンまたはイオン性の化合物で置換されたものを用いてもよく、その両方を含むものを用いてもよい。ポリアクリル酸としては、例えば、主体としてカルボキシル基が主鎖に結合した構造を有し、高分子の分子量に対するカルボキシル基の寄与が最大の化合物が挙げられる。具体的には、ポリアクリル酸としては、理論カルボキシル基の量が72g/mol以上のポリアクリル酸を用いることが好ましい。
【0024】
アクリル酸-マレイン酸共重合体としては、アクリル酸およびアクリル酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種(以下、「アクリル酸系単量体」と記載する場合がある)を含むエチレン性不飽和単量体と、マレイン酸、マレイン酸塩および無水マレイン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種(以下、「マレイン酸系単量体」と記載する場合がある)を含むエチレン性不飽和単量体の重合体であってもよく、アクリル酸およびアクリル酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種と、マレイン酸、マレイン酸塩および無水マレイン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むエチレン性不飽和単量体の重合体であってもよい。
【0025】
アクリル酸-マレイン酸共重合体は、繊維にカルボキシル基を付与しやすい観点から、アクリル酸およびアクリル酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むエチレン性不飽和単量体と、マレイン酸およびマレイン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むエチレン性不飽和単量体の重合体、アクリル酸およびアクリル酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種と、マレイン酸およびマレイン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むエチレン性不飽和単量体の重合体であることが好ましい。必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、アクリル酸-マレイン酸重合体は、アクリル酸系単量体、マレイン酸系単量体以外の他の単量体を共重合したものであってもよい。他の単量体は、例えば、不飽和モノカルボン酸系単量体であってもよい。
【0026】
アクリル酸-マレイン酸共重合体は、重量平均分子量が5000以上500000以下であることが好ましく、6000以上250000以下であることがより好ましく、10000以上100000以下であることがさらに好ましく、30000以上80000以下であることが特に好ましい。重量平均分子量が上述の範囲内であると、再生セルロース中に練り込みやすい。さらに、染色した場合や洗濯した場合でも、カルボキシル基を含有する化合物の脱落や変性が起こりにくい。
【0027】
アクリル酸-マレイン酸共重合体は、マレイン酸を5質量%以上95質量%以下含むことが好ましく、20質量%以上80質量%以下含むことがより好ましく、30質量%以上70質量%以下含むことがさらに好ましく、40質量%以上60質量%以下含むことが特に好ましい。アクリル酸-マレイン酸共重合体におけるマレイン酸の含有量が上述の範囲内であると、再生セルロース繊維にカルボキシル基を付与しやすい。
【0028】
本発明において、アクリル酸-マレイン酸共重合体中のマレイン酸比率は、アクリル酸-マレイン酸共重合体中の有機物成分がアクリル酸とマレイン酸のみであると仮定し、下記のように測定算出することができる。
(1)試料(アクリル酸-マレイン酸共重合体塩を含む水溶液)4~5mL程度をガラス製のバイアル瓶に入れて、110℃で20時間加熱して乾燥させる。
(2)約50mg程度の乾燥試料を約0.7mL程度の重水に溶解する。
(3)試料の重水溶液に対してFT-NMR装置(日本電子株式会社製、JMTC-300/54/SS)を用いて1H-NMR分析を行い、高分子主鎖中のメチレン基炭素とメチン基炭素の存在比率から、アクリル酸成分(A)とマレイン酸成分(M)の組成比を求める。測定回数は16回とし、平均値を求める。
【0029】
撥水性再生セルロース繊維において、カルボキシル基およびスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を含有する化合物の含有量は、例えば、セルロース100質量部に対して1質量部以上35質量部以下であることが好ましく、3質量部以上30質量部以下であることがより好ましく、5質量部以上25質量部以下であることがさらに好ましい。撥水性再生セルロース繊維において、カルボキシル基およびスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を含有する化合物の含有量が、セルロース100質量部に対して1質量部以上35質量部以下であれば、酸性基による効果がより発揮されやすく、繊維強度も低下しにくいため細繊化しやすくなる。すなわち、酸性基による効果と細繊化とを、よりバランスよく発揮させることができる。
【0030】
撥水性再生セルロース繊維において、カルボキシル基およびスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基の総量は、好ましくは0.3mmol/g以上1.6mmol/g以下であり、より好ましくは0.35mmol/g以上1.5mmol/g以下であり、さらに好ましくは0.4mmol/g以上1.4mmol/g以下である。カルボキシル基およびスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基の総量が上述した範囲内であると、酸性基による効果が発揮しやすい。撥水性再生セルロース繊維において、酸性基は、上述したとおり、イソシアネート系化合物が結合し、繊維表面が40℃以上110℃以下の低い温度となるような熱処理でも、撥水剤の繊維表面の定着性を向上させることができる。その結果、適度な含水率を示し、吸湿性が向上した撥水性再生セルロース繊維を得ることができるので、洗濯時、特に繰り返し洗濯時において、混綿中綿を構成する再生セルロース繊維とポリエステル繊維が過度に絡み合うことが抑制されることで、嵩特性を維持することが推定される。また、低い温度での熱処理であるため、繊維の変色や劣化を抑制することが推定される。本発明において、カルボキシル基およびスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基の総量は、後述するとおりに測定算出する。
【0031】
(カルボキシル基の総量の測定)
(1)1mol/Lの塩酸水溶液(pH0.1)50mLに試料1.2gを浸漬し、撹拌して5分間放置した。その後、再び撹拌して水溶液のpHが2.5になるように調整した。これにより、試料(繊維)におけるカルボキシル基はすべてH型として存在することになる。次に、試料を水洗し、定温送風乾燥機で105℃、2時間乾燥させて、絶乾にした。試料を水洗することにより、繊維に付着している過剰の塩酸がすべて除去されることになる。
(2)ビーカーにイオン交換水100mL、塩化ナトリウム0.4g、および0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液20mLを入れた。
(3)(1)で作製した試料を約1g精秤し、精秤した試料の質量をW1gとする。撹拌子に巻きつかない大きさまで細かく切断して、(2)で準備したビーカーに入れ、スターラーで15分間撹拌した。これにより、試料(繊維)におけるカルボキシル基は全て塩型に変換されることになる。撹拌した試料は吸引ろ過した。ろ過液を60mL採って、指示薬にフェノールフタレインを使用して0.1mol/Lの塩酸水溶液で滴定し、滴定量をX1(mL)とした。
(4)下記式に基づいてカルボキシル基の総量Y(mmol/g)を算出した。このように、水酸化ナトリウムの総量から残余の水酸化ナトリウムの量を差し引くことにより求めた水酸化ナトリウムの量は、試料(繊維)における全体のカルボキシル基の量に対応することになる。
カルボキシル基の総量Y(mmol/g)=[[(0.1×20)-(0.1×X1)]×(120/60)]/W1
【0032】
架橋剤としては、イソシアネート系化合物を用いることができる。イソシアネート系化合物としては、例えば、イソシアネート基を有する化合物およびブロックドイソシアネート基を有する化合物などが挙げられる。
【0033】
イソシアネート基を有する化合物としては、ブチルイソシアネート、フェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ナフタレンイソシアネートなどのモノイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートなどのジイソシアネート、およびこれらのイソシアヌレート環である三量体や、トリメチロールプロパンアダクト体などが挙げられる。
【0034】
ブロックドイソシアネート基を有する化合物としては、上記イソシアネート基を有する化合物をブロック化剤でイソシアネート基を保護した化合物が挙げられる。このとき用いられるブロック化剤としては、2級または3級アルコール類、活性メチレン化合物、フェノール類、オキシム類、ラクタム類などの有機系ブロック化剤や、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸カリウムなどの重亜硫酸塩などが挙げられる。
【0035】
ブロックドイソシアネート基は、反応性の高いイソシアネート基がマスキングされており、通常は120℃以上180℃以下の高温で熱処理しないとブロックが解離しない。しかし、本発明においては、セルロース中にカルボキシル基およびスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を有する。そのため、繊維表面が40℃以上110℃以下の低温の熱処理でもブロックが解離すると推定される。したがって、ブロックドイソシアネート基は、撥水性再生セルロース繊維の表面において、ブロックが解離された状態で存在し、低温の熱処理であるため、繊維の変色や劣化が抑制される。
【0036】
イソシアネート系化合物の付着量は、例えば、セルロース100質量部に対して0.01質量部以上5質量部以下であることが好ましく、0.02質量部以上3質量部以下であることがより好ましく、0.03質量部以上2質量部以下であることがさらに好ましく、0.05質量部以上1質量部以下であることがさらにより好ましい。イソシアネート系化合物の付着量が上述の範囲内であると、撥水性の耐久性(以下「耐久撥水性」と記載する場合がある)が良好になるとともに、繊維が剛直になりにくい。イソシアネート系化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
(メタ)アクリル酸エステルを単量体の基本単位として含むポリマーからなる炭化水素系撥水剤としては、例えば、エステル結合を介して存在する炭化水素基の炭素数が12以上であることが好ましい。炭化水素基の炭素数は、24以下であることがより好ましく、21以下であることがさらに好ましい。炭化水素基は、直鎖状であっても分岐状であってもよく、飽和炭化水素であっても不飽和炭化水素であってもよく、さらには脂環式または芳香族の環状を有していてもよい。これらの中でも、直鎖状であるものが好ましく、直鎖状のアルキル基であるものがより好ましい。
【0038】
(メタ)アクリル酸エステル単量体は、ポリマーを構成する単量体単位の全量に対して80質量%以上100質量%以下であることが好ましい。炭化水素系撥水剤の重量平均分子量は10万以上であることが好ましく、50万以上であることがより好ましい。炭化水素系撥水剤は、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルとの共重合体であってもよい。
【0039】
炭化水素系撥水剤としては、炭化水素系撥水剤粒子が水中に分散した撥水剤組成物として用いることができる。撥水剤組成物は、界面活性剤、有機溶剤を含んでもよい。このような撥水剤組成物としては、例えば、ネオシードNRシリーズ(日華化学株式会社製)などの市販品を用いてもよい。
【0040】
撥水性再生セルロース繊維において、炭化水素系撥水剤の付着量は、例えば、セルロース100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下であることが好ましく、0.2質量部以上8質量部以下であることがより好ましく、0.3質量部以上6質量部以下であることがさらに好ましく、0.5質量部以上2質量部以下であることがさらにより好ましい。炭化水素系撥水剤の付着量が上述の範囲内であると、洗濯耐久撥水性がより良好になり、繊維が剛直になりにくく、適度な含水率を示す撥水性再生セルロース繊維を得ることができる。炭化水素系撥水剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
炭化水素系撥水剤とイソシアネート系化合物の質量比(炭化水素系撥水剤:イソシアネート系化合物)は、限定されない。例えば、撥水性およびその洗濯耐久性を向上させる観点から、1:1以上7:1以下であることが好ましく、2:1以上6:1以下であることがより好ましい。
【0042】
撥水性再生セルロース繊維において、下記方法により測定される5回洗濯後含水率は、50%以上70%以下であることが好ましい。より好ましくは、55%以上65%以下である。洗濯後の含水率が所定の範囲を満たすことにより、洗濯を繰り返したときに、再生セルロース繊維同士および/または再生セルロース繊維とポリエステル繊維とが絡まりにくいこと、再生セルロース繊維の捲縮が維持されることなどにより、嵩高性が低下しにくい傾向にある。
【0043】
(洗濯後含水率)
それぞれの繊維を開繊した綿を作製し、それぞれ約5g秤量し試料とした。各試料をネットに入れて、JIS L 1930に準拠してC4M法洗濯を行った後、速やかに試料の質量を測定した。この質量をWwとする。測定後、吊り干し乾燥にて試料を絶乾状態にし、試料の質量を測定した。この質量をWdとする。得られたWwおよびWdから、下記の式(I)を用いて含水率を算出した。この洗濯を5回行った。
含水率(%)={Ww-Wd×(1+(公定水分率/100))}/{Wd×(1+(公定水分率/100))}・・・(I)
【0044】
前記撥水性再生セルロース繊維において、下記方法により測定される吸湿率は、15%以上40%以下であることが好ましい。より好ましくは、20%以上35%以下である。吸湿率が所定の範囲を満たすことにより、高度な吸湿特性が得られる。
【0045】
(吸湿率)
それぞれの繊維を開繊した綿を作製し、約2.5gの綿を縦横約10cmのシート状に広げ試料とした。得られた試料について、絶乾状態の質量を測定した。この質量をW0とする。次いで、試料を40℃、90%RHの条件下で24時間静置して、試料に吸湿させた。その後、吸湿させた試料を20℃、60%RHの条件下で24時間静置して、放湿させた。吸湿開始から1時間後、3時間後、5時間後、7時間後および24時間後、ならびに放湿開始から1時間後、3時間後、5時間後、7時間後および24時間後に質量を測定した。この質量をWとする。得られたW0およびWから、下記の式(II)を用いて吸湿率(含水率)を算出した。
吸湿率(%)={(W-W0)/W0}×100・・・(II)
【0046】
本発明においては、洗濯後含水率および吸湿率の両方を満たす撥水性再生セルロース繊維であることが好ましい。撥水性再生セルロース繊維は、市販されているものを使用してもよい。撥水性再生セルロース繊維としては、例えば、ダイワボウレーヨン株式会社から市販されている撥水レーヨン「Eco Repellas(エコリペラス)(登録商標)」などが使用可能である。
【0047】
撥水性再生セルロース繊維の繊度および繊維長は限定されない。撥水性再生セルロース繊維の繊度は、例えば、0.3dtex以上20dtex以下であるのが好ましく、0.5dtex以上7dtex以下であるのがより好ましく、0.7dtex以上4dtex以下であるのがさらに好ましい。このような繊度を有する撥水性再生セルロース繊維を使用すると、優れた嵩高性と柔らかさが両立できる。
【0048】
撥水性再生セルロース繊維の繊維長は、例えば、5mm以上200mm以下であるのが好ましく、12mm以上100mm以下であるのがより好ましく、15mm以上80mm以下であるのがさらに好ましい。撥水性再生セルロース繊維を含む混綿中綿が混綿粒綿の場合は、例えば、5mm以上64mm以下であるのが好ましく、8mm以上51mm以下であるのがより好ましく、12mm以上38mm以下であるのがさらに好ましい。混綿中綿シートまたは開繊綿の場合は、例えば、5mm以上100mm以下であるのが好ましく、15mm以上80mm以下であるのがより好ましく、30mm以上80mm以下であるのがさらに好ましい。このような繊維長を有するポリエステル繊維を使用すると、繊維のまとまりが優れ、中綿の形状が崩れにくい傾向にある。
【0049】
撥水性再生セルロース繊維は直線状のものであってもよく、捲縮していてもよい。捲縮は自然捲縮であってもよく、機械捲縮であってもよい。さらに、撥水性再生セルロース繊維は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、繊度が異なる撥水性再生セルロース繊維、繊維長が異なる撥水性再生セルロース繊維などを併用してもよい。
【0050】
ポリエステル繊維と撥水性再生セルロース繊維との混合割合(混率)は、ポリエステル繊維と撥水性再生セルロース繊維とが30:70~90:10の質量比で含まれる。好ましい混合割合は50:50~85:15、より好ましくは60:40~80:20の質量比で含まれる。ポリエステル繊維と撥水性再生セルロース繊維とがこのような混率で含まれることによって、洗濯しても優れた嵩高性を維持することができ、さらに優れた吸湿性を発揮させることができる。
【0051】
本発明に係る混綿中綿は、ポリエステル繊維および撥水性再生セルロース繊維以外に、本発明の効果を阻害しない範囲で、その他の繊維を含んでいてもよい。その他繊維は、いずれの繊維でもよく、各種機能繊維を含んでいてもよい。このような各種機能繊維としては、例えば、断熱、蓄熱、抗菌、消臭、防ダニ、制電などの機能を有する化学繊維が挙げられる。
【0052】
本発明に係る混綿中綿の形態としては、混綿粒綿、混綿中綿シート(不織布シート、またはウェブ状のシートなど)、または開繊綿(ちぎり綿)が挙げられる。不織布シートとしては、例えば樹脂で繊維同士を接合するケミカルボンド法で得られるケミカルボンドシート、低融点繊維を混紡して熱で溶かして接合するサーマルボンドシート、繊維同士を針で絡み合わせるニードルパンチ法で得られるニードルパンチシート、針に代えて水流で繊維同士を絡み合わせるスパンレース法で得られる水流交絡シートなどが挙げられる。
【0053】
本発明に係る混綿中綿は、混綿粒綿の形態において、JIS L 1930に準拠してC4M法洗濯を行ったとき、未洗濯の混綿粒綿のフィルパワー(FP0)に対する、1回洗濯後のフィルパワー(FP1)の割合(FP1/FP0)は、好ましくは76%以上、より好ましくは78%以上、特に好ましくは79%以上、最も好ましくは80%以上である。FP1/FP0がこのような数値範囲内であると、洗濯後も十分な嵩高性が維持されており、良好な保温性を得ることができる。これは、一般的なセルロース繊維では得られない特性である。FP1/FP0の上限値は限定されず、例えば、90%以下であってもよく、85%以下であってもよく、81%以下であってもよい。フィルパワーの具体的な算出方法は、後記する実施例に記載の通りである。
【0054】
さらに、未洗濯の混綿粒綿のフィルパワー(FP0)に対する、10回洗濯後のフィルパワー(FP10)の割合(FP10/FP0)は、好ましくは、75%以上である。より好ましくは70%以上、さらに好ましくは65%以上である。FP10/FP0がこのような数値範囲内であると、繰り返し洗濯を行った粒綿でも十分な嵩高性が維持されており、より良好な保温性を得ることができる。FP10/FP0の上限値は限定されず、例えば、68%以下であってもよい。
【0055】
本発明に係る混綿中綿は、混綿中綿シートの形態において、JIS L 1930に準拠してC4M法洗濯を行ったとき、後述する測定方法で測定した10回洗濯後の比容積が75cm3/g以上であることが好ましい。さらに、76cm3/g以上90cm3/g以下であることがより好ましく、78cm3/g以上100cm3/g以下であることが特に好ましい。比容積がこのような数値範囲内であると、洗濯後の混綿中綿シートでも嵩高性が維持されており良好な保温性が得られる点から好ましい。具体的な算出方法は、後記する実施例に記載のとおりである。
【0056】
本発明に係る混綿中綿は、混綿中綿シートの場合において、JIS L 1930に準拠してC4M法洗濯を行い、洗濯後の圧縮率を下記方法にて測定したとき、10回洗濯後の圧縮率が32%以上であることが好ましい。より好ましくは35%以上であり、さらに好ましくは36%以上であり、最も好ましくは37%以上である。さらに、45%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましい。圧縮率がこのような数値範囲内であると、繰り返し洗濯後も混綿中綿シートの嵩特性(嵩弾性)が維持されており、保温性とともにふんわり感感のある快適な着用感が得られる点から好ましい。
【0057】
(圧縮率)
まず、1辺が20cmの正方形状を有する混綿中綿シート(厚み12mm)を4枚重ね、その上に1辺が20cmの正方形状を有するPET製の厚板(厚み0.7mm、質量33g)を載置して30秒静置した後、厚板を乗せた状態で四隅の高さを測定し、その平均値Haを算出する。その後、厚板の上に500gのおもりを乗せて30秒間静置した後、厚板およびおもりを乗せた状態で四隅の高さを測定し、その平均値Hbを算出する。算出した平均値HaおよびHbから、下記の式(III)’も用いて圧縮率を求める。
圧縮率(%)={(Ha-Hb)/Ha}×100・・・(III)’
【0058】
本発明に係る混綿中綿は、混綿中綿シートの形態において、JIS L 1930に準拠してC4M法洗濯を行い、未洗濯の混綿中綿シートの圧縮率(H0)に対する、1回洗濯後の圧縮率(H1)の割合(H1/H0)が、好ましくは80%以上であり、より好ましくは82%以上であり最も好ましくは85%以上である。H1/H0がこのような数値範囲内であると、洗濯後の混綿中綿シートを荷重条件下で使用しても、良好な嵩高性が維持されており、良好な保温性が得られる。これは、一般的なセルロース繊維では得られない特性である。撥水性を付与していない再生セルロース繊維では、1回洗濯後でも繊維同士の絡み合いが強くなり、混綿中綿シートとしての嵩高性が失われるためと推定される。H1/H0の上限値は限定されず、例えば、94%以下であってもよい。
【0059】
本発明に係る混綿中綿は、混綿中綿シートの形態において、JIS L 1930に準拠してC4M法洗濯を行い、未洗濯の混綿中綿シートの圧縮率(H0)に対する、10回洗濯後の圧縮率(H10)の割合(H10/H0)は、好ましくは55%以上である。より好ましくは60%以上であり、最も好ましくは65%以上である。H10/H0がこのような数値範囲内であると、繰り返し洗濯を行っても十分な嵩高性が維持されており、より良好な保温性を得ることができる。H10/H0の上限値は限定されず、例えば、78%以下であってもよい。
【0060】
本発明に係る混綿中綿において、下記の式(II)’で算出される吸湿率は、好ましくは3%以上である。より好ましい吸湿率は4%以上であり最も好ましくは5%以上である。吸湿率の好ましい上限は28%であり、より好ましい吸湿率の上限は22%であり、最も好ましい吸湿率の上限は16%である。吸湿率がこの範囲であれば、吸湿発熱性を良好に発揮することができる。特に本発明においては、一般レーヨンや従来の撥水加工を施したセルロース繊維を含む混綿中綿よりも嵩特性と吸湿特性を両立させることができる。吸湿率の上限は特に限定されず、本発明の撥水性再生セルロース繊維のみの場合の22%に近ければ近いほどよい。
吸湿率(%)={(W1-W0)/W0}×100・・・(II)’
W0:絶乾状態の混綿中綿の質量。
W1:40℃、90%RH下で1時間静置後および7時間静置後の少なくとも一方の混綿中綿の質量。
【0061】
以上の通り、本発明に係る混綿中綿は、洗濯後の嵩特性の維持性が良好であり、かつ、吸湿特性も優れている。特に、本発明に係る混綿中綿は、繰り返し洗濯後も嵩特性の維持性が良好であることが特徴である。
【0062】
次に、本発明に係る混綿中綿の製造方法の一実施形態について、
図1(a)~(c)に基づいて説明する。
図1(a)~(c)は、本発明に係る混綿中綿において、混綿粒綿の製造方法の一実施形態を示す説明図である。
【0063】
(ア)開繊工程(
図1(a))
原料繊維は、フィードラチス10によってカード機2に送られ、繊維を平行に並べるよう開繊し、ウェブ(長さと幅をもった繊維層)を作製する。ウェブは、送綿手段30(ブロワーなど)によって開繊綿保管庫4に貯留される。この工程は、ポリエステル繊維および撥水性再生セルロース繊維について、それぞれ別々に行う。
【0064】
(イ)混綿工程(
図1(b))
予め開繊して計量した所定量のポリエステル繊維と撥水性再生セルロース繊維とを、それぞれフィードラチス11から送綿手段31(ブロワーなど)にて貯綿庫5に送る。貯綿庫5内では、図示しない送風機によって、ポリエステル繊維と撥水性再生セルロース繊維とが撹拌混合される。これによりポリエステル繊維と撥水性再生セルロース繊維とは均一に混ざり合った混綿が得られ、混率のばらつきが低減される。
【0065】
混綿は、貯綿庫5から横方向に吸引排出される。すなわち、貯綿庫5の側面には、吸引口8が設けられており、吸引口8は貯綿庫5の底部から上部にかけて広がった開口を有している。そのため、貯綿庫5の側面から均一に繊維綿を吸引することができる。貯綿庫5からの吸引された綿は、図示しない送綿手段により混綿保管庫9に送られ、一時的に保管される。
【0066】
(ウ)粒綿作製工程(
図1(c))
混綿保管庫9から取り出した綿は、フィードラチス12上に敷かれ、送綿手段32(ブロワーなど)にてボール機20に送られる。ボール機20にて粒綿が作製され、得られた混綿粒綿は保管庫21に送られ収容される。使用するボール機20としては、例えば、HAI JIN MACHINERY社、Changsh HITEC Machinery社などが製造するボール機が挙げられる。ボール機20は、粒綿を作製するのに適したものであればよく、これらに限定されない。混綿保管庫9を設けずに、貯綿庫5からの吸引された綿をボール機20に直接供給してもよい。このようにして得られた混綿粒綿は、好ましくは1mm以上30mm以下の直径を有し、より好ましくは5mm以上20mm以下の直径を有する。
【0067】
次に、本発明に係る混綿中綿の他の製造方法の一実施形態について、
図2(a)~(c)に基づいて説明する。
図2(a)~(c)は、本発明に係る混綿中綿において、不織布シートの製造方法の一実施形態を示す説明図である。
図2(a)は、ケミカルボンド法による混綿中綿の製造工程を示している。
図2(b)は、開繊したウェブの積層方法を示している。
図2(c)は、ニードルパンチ法による混綿中綿の製造工程の一部を示している。
【0068】
図2(a)に示すように、開繊機(図示せず)にて開繊したポリエステル繊維および撥水性再生セルロース繊維をそれぞれ計量機40に送り、所定量に計量し、貯綿庫51に送る。貯綿庫51は、上記の貯綿庫5とほぼ同様の構造および機能を有するものであり、別々に送られたポリエステル繊維および撥水性再生セルロース繊維を、送風手段にて均一に撹拌混合する。
【0069】
次いで、混合されたポリエステル繊維および撥水性再生セルロース繊維(混綿)が貯綿庫51から送綿機の吸引口18を経て送綿ブロアー41に送られる。送綿ブロアー41から3つのローラーカード機42、43、44にそれぞれ所定量の混綿が供給される。ローラーカード機42、43、44において、混綿は、繊維を平行に並べるよう開繊され、ウェブW1、W2、W3を作製する。各ウェブW1、W2、W3はフィードラチス45上に重ね合わされる。
【0070】
図2(b)は、ウェブW1、W2、W3の重ね合わせ状態を側面視したものである。
図2(b)に示すように、真ん中のウェブW2は、フィードラチス45の幅方向(すなわち、ウェブの送り出し方向に対して直角の方向)に送られ、ラチス45の側端部で折り返しながら、部分的に重ね合わされている。そのため、ウェブW2の繊維方向はシートの幅方向に揃えられる。これにより、シート幅方向のシート強力を高めている。ウェブW1、W3は、シートの長手方向(ラチス45の送り方向)に揃えられる。必要に応じて、ウェブW1、W2、W3は、同方向(例えば長手方向または長手方向に直交する幅方向)に重ね合わせてもよい。
【0071】
上記のようにして、フィードラチス45上にシート状に重ね合わされた混綿は、連続的に樹脂噴霧機46に送られ、噴霧機46から樹脂が噴霧される。次いで、乾燥機47にて乾燥され、巻き取られてケミカルボンド不職布シート48が得られる。噴霧機46に代えて、浸漬装置を用いて、混綿を樹脂液に浸漬し、乾燥させてもよい。
【0072】
使用される樹脂としては、主にウレタン樹脂系接着剤が用いられ、樹脂の噴霧量は混綿100質量部あたり、好ましくは0.1質量部以上2.0質量部以下、より好ましくは0.5質量部以上1.0質量部以下である。接着剤の代わりに、例えば、ポリエステル繊維の一部として低融点ポリエステル繊維を使用してもよい。このような低融点ポリエステル繊維を使用することによって、シート状に重ね合わされた混綿を加熱することによって、低融点ポリエステル繊維が溶融し、接着剤の代わりとなる。
【0073】
ニードルパンチ法による混綿中綿の製造工程は、ウェブW1、W2、W3をシート状に重ね合わせる工程までは、
図2(a)および(b)に示すケミカルボンド法による混綿中綿の製造工程と同じであるので、詳細な説明は省略する。
図2(c)に示すように、フィードラチス45上にシート状に重ね合わされた混綿は、連続的にニードルパンチ機49に送られる。その後、シートを貫通するように上下する針によって繊維同士を機械的に絡ませて不織布シート48’が得られる。
【0074】
本発明に係る混綿中綿は、粒綿や不織布シートだけでなく、ウェブ状のシートの形態であってもよい。このウェブ状のシートは、
図2(a)において、貯綿庫51で均一に撹拌混合された主繊維と機能繊維とを、ローラーカード機42、43、44によって開繊したウェブW1、W2、W3をフィードラチス45上に重ね合わせて得られるものである。ウェブW1、W2、W3の重ね合わせは、
図2(b)に示す構造であってもよく、この構造に限定されない。ローラーカード機は3台に限定されず、2台以上の複数であってもよい。
【0075】
本発明に係る混綿中綿は、性能が均質であるので、ダウンの代替として防寒用ジャケットやコートなどの衣料品用、フトン、枕などの寝装品用、座布団、クッションなどの中綿素材として使用される。
【実施例0076】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0077】
(参考例1)
まず、ポリエステル綿(PET綿)、一般レーヨンおよび撥水性再生セルロース繊維について、洗濯後の含水率を測定した。PET綿(東レ株式会社製、原綿品番T22、中実)は、2.2dtexの繊度および64mmの繊維長を有し、立体捲縮されたものを使用した。一般レーヨン(ダイワボウレーヨン株式会社製)は、1.7dtexの繊度および29mmの繊維長を有し、自然捲縮されたものを使用した。撥水性再生セルロース繊維は、以下の方法により作製した繊度1.7dtexの撥水レーヨン(自然捲縮)を、40mmの繊維長にして使用した。
【0078】
(撥水性レーヨン繊維の作製)
[紡糸用ビスコース液の調製]
アクリル酸-マレイン酸共重合体塩の水溶液(株式会社日本触媒製の「アクアリックTL400」、重量平均分子量が50000のアクリル酸-マレイン酸共重合体ナトリウムを40質量%含む水溶液、粘度:1990mPa・s、アクリル酸-マレイン酸共重合体ナトリウム中のマレイン酸の含有量が45質量%)を、アクリル酸-マレイン酸共重合体塩がセルロース100質量%に対して12質量%になるように、原料ビスコース(セルロース8.5質量%、水酸化ナトリウム5.7質量%、二硫化炭素2.8質量%を含む)へ添加し、混合機にて攪拌混合を行い、紡糸用ビスコース液を調製した。温度は20℃に保った。
【0079】
[紡糸工程]
得られた紡糸用ビスコース液を、2浴緊張紡糸法により、紡糸速度60m/分、延伸率50%で紡糸して、繊度1.7dtexのビスコースレーヨンの糸条を得た。第1浴(紡糸浴)としては、硫酸100g/L、硫酸亜鉛15g/L、硫酸ナトリウム350g/Lを含むミューラー浴(50℃)を用いた。ビスコースを吐出する紡糸口金には、円形ノズル(孔径0.06mm、ホール数4000)を用いた。
【0080】
[精練工程]
得られたビスコースレーヨンの糸条を、40mmの繊維長にカットし、熱水処理後に水洗を行い、水硫化ソーダをシャワーして脱硫を実施した。得られた処理綿を再度水洗し、次亜塩素酸ソーダで漂白し、酸洗い後水洗した。その後、圧縮ローラーで繊維を絞り、水分率が130%になるようにした。
【0081】
[撥水加工]
まず、非フッ素系撥水剤として炭化水素系撥水剤組成物(日華化学株式会社製「ネオシードNR-158」)を用い、イソシアネート系化合物としてブロックイソシアネート系架橋剤(日華化学株式会社製「NKアシストNY-30」、固形分濃度40質量%)を用い、撥水剤(撥水剤粒子)と架橋剤(固形分)との質量比が3:1になるように混合して撥水加工用処理液を得た。次に、撥水加工用処理液(50℃)中に上記で得られた水分率が130%の繊維を30秒間浸漬した。繊維と撥水加工用処理液との浴比は1:10になるようにした。その後、圧縮ローラーで、繊維に対する撥水剤(固形分)の付着率が1質量%になるように繊維を絞った後、100℃に設定した乾燥機で10分間乾燥処理を施し、カルボキシル基の総量が0.76mmol/gである撥水レーヨン繊維を得た。
【0082】
それぞれの繊維を開繊した綿を作製し、それぞれ約5g秤量し試料とした。各試料をネットに入れて、JIS L 1930に準拠してC4M法洗濯を行った後、速やかに試料の質量を測定した。この質量をWwとする。測定後、吊り干し乾燥にて試料を絶乾状態にし、試料の質量を測定した。この質量をWdとする。得られたWwおよびWdから、上記の式(I)を用いて含水率を算出した。この洗濯を5回行った。結果を
図3に示す。
【0083】
図3に示すように、一般レーヨンの含水率は高く、PET綿の含水率は低く、撥水レーヨンの含水率は、一般レーヨンの含水率とPET綿の含水率との中間であった。洗濯を繰り返した場合、一般レーヨンに比べて撥水レーヨンは含水率の変化が小さく、撥水レーヨン原綿の洗濯後の嵩感は、一般レーヨン原綿の洗濯後の嵩感よりも良好であった。
【0084】
(参考例2)
一般レーヨン、撥水性再生セルロース繊維(撥水レーヨン)およびポリエステル繊維について、吸湿特性を検証した。一般レーヨン(ダイワボウレーヨン株式会社製)は、1.4dtexの繊度および38mmの繊維長を有し、自然捲縮を有するものを使用した。撥水レーヨンは、参考例1に記載の撥水レーヨン(繊度1.7dtex、繊維長40mm、自然捲縮を有する)を使用した。
【0085】
参考例1と同様、それぞれの繊維を開繊した綿を作製し、約2.5gの綿を縦横約10cmのシート状に広げ試料とした。得られた試料について、絶乾状態の質量を測定した。この質量をW0とする。次いで、試料を40℃で90%RHの条件下で24時間静置して、試料に吸湿させた。その後、吸湿させた試料を20℃で60%RHの条件下で24時間静置して、放湿させた。吸湿開始から1時間後、3時間後、5時間後、7時間後および24時間後、ならびに放湿開始から1時間後、3時間後、5時間後、7時間後および24時間後に質量を測定した。この質量をWとする。得られたW0およびWから、上記の式(II)を用いて吸湿率(含水率)を算出した。結果を
図4に示す。
【0086】
図4に示すように、一般レーヨンおよび撥水レーヨンにおける吸放湿特性に関しては、ほとんど差がないことがわかった。PET繊維は、PETそのものの公定水分率が0.4%であり、水分を吸収しにくいため、吸放湿特性を有してないことがわかった。
【0087】
(実施例1)
ポリエステル繊維および撥水性再生セルロース繊維を含む混綿粒綿を作製した。ポリエステル繊維としては、3.3dtexの繊度および38mmの繊維長を有し、立体捲縮されたポリエチレンテレフタレート(PET)繊維を用いた。撥水性再生セルロース繊維としては、繊維長を25mmとした以外は、参考例1と同様の手順で作製した撥水レーヨン(繊度1.7dtex、自然捲縮)を使用した。それぞれの繊維を個別にカード機(Trutzschler社製のDK-903)に通し、開繊した。
【0088】
開繊したPET繊維を、フィードラチス上に均一に敷いた。次いで、開繊した撥水レーヨンをPET繊維の層上に置いた。PET繊維と撥水レーヨンとの質量比を70:30とした。次いで、ブロワーにより
図1(b)に示すような貯綿庫5(内容積:5m
3)に上部から投入した。以下、この操作を繰り返して、貯綿庫5内にPET繊維と撥水レーヨンとが混綿された繊維を収容し、撹拌混合した。
【0089】
次いで、貯綿庫5から横方向に繊維を吸引して、PET繊維70質量%および撥水レーヨン30質量%からなる混綿を得た。この混綿をボール機20に供給し、10mmの直径を有する混綿粒綿を得た。
【0090】
(比較例1)
撥水レーヨンの代わりに一般レーヨン(ダイワボウレーヨン株式会社製、繊度1.7dtex、繊維長25mm、自然捲縮)を使用した以外は、実施例1と同様の手順で、10mmの直径を有する混綿粒綿を得た。
【0091】
(実施例2)
PET繊維と撥水レーヨンとの質量比を80:20とした以外は、実施例1と同様の手順で、10mmの直径を有する混綿粒綿を得た。
【0092】
(比較例2)
撥水レーヨンの代わりに一般レーヨン(ダイワボウレーヨン株式会社製、繊度1.7dtex、繊維長25mm、自然捲縮)を使用した以外は、実施例2と同様の手順で、10mmの直径を有する混綿粒綿を得た。
【0093】
(比較例3)
撥水レーヨンを使用しなかった以外は、実施例1と同様の手順で、10mmの直径を有する混綿粒綿を得た。
【0094】
実施例1および2ならびに比較例1~3で得られた粒綿のフィルパワーを測定した。フィルパワーとは試料に一定荷重を掛けた時の嵩高性を立法インチで示したものである。
(フィルパワー:FP)
試料30gを、290mmの内径および600mmの高さを有するシリンダーに投入する。投入後、94.3gの荷重用円盤を乗せて60秒静置し、シリンダー内の混綿粒綿と荷重用円盤が接触する高さを読み取ることで、フィルパワー(in3/30g)を算出する
【0095】
次いで、実施例1および2ならびに比較例1~3で得られた粒綿を30cm×30cmのPET製の平織(タフタ)の袋に入れ、JIS L 1930に準拠してC4M法洗濯を行った。吊り干し乾燥を行い、乾燥後の粒綿のフィルパワー(in
3/30g)を同様に算出した。洗濯および測定を10回繰り返した。これらの実施例1および2ならびに比較例1および2についての結果を
図5に示す。
【0096】
図5に示すように、実施例1および2で得られた混綿粒綿は、同じ割合の一般レーヨンを用いた混綿粒綿(比較例1および2)よりも良好な嵩高性を有していることがわかる。洗濯を繰り返した場合にも、実施例1および2で得られた混綿粒綿は、それぞれ対応する比較例1および2の混綿粒綿に比較して嵩高性を維持していることがわかる。
【0097】
次に、算出したフィルパワーについて、未洗濯の混綿粒綿のフィルパワー(FP0)および1回洗濯後のフィルパワー(FP1)とその割合(FP1/FP0)、ならびに10回洗濯後のフィルパワー(FP10)とその割合(FP10/FP0)を算出した。その結果を表1に示す。
【0098】
【0099】
表1および
図5の試験結果から、実施例1および2の混綿粒綿は、未洗濯のフィルパワー100%に対して1回洗濯後は76%以上のフィルパワーを維持しており、10回洗濯後でも63%以上のフィルパワーを維持していることがわかる。これに対して、比較例1および2の混綿粒綿では、未洗濯のフィルパワーは比較的高いものの、未洗濯のフィルパワー100%に対して1回洗濯後で76%を下回り、さらに10回洗濯後のフィルパワーは63%を下回っており、洗濯回数が増えるにつれてフィルパワーの減少が大きくなることがわかる。実施例1および2の混綿粒綿は、撥水レーヨンの配合比がそれぞれ30質量%および20質量%である。これよりも撥水レーヨンの配合比が高いと、洗濯回数にかかわらずフィルパワーは全体として低下する傾向にあるものの、洗濯後のフィルパワーの減少率自体(言い換えると、
図5に示す曲線の傾き度合い)は大きく変化しないと考えられる。
【0100】
次に、同じ混綿粒綿を使用して、繰り返し荷重後のフィルパワー(以下、フィルパワー-RまたはFP-Rと記載する場合がある)を測定し、嵩回復特性を確認した。
(繰り返し荷重後の回復フィルパワー:フィルパワー-RまたはFP-R)
混綿粒綿30gを上述のフィルパワー(FP)測定時と同じシリンダーに投入した後、94.3gの荷重用円盤を乗せて60秒静置し、その上に500gの荷重を乗せて30秒静置し、その後500gの荷重を除いて30秒静置した。これを3回繰り返した後、500gの荷重を除いて、シリンダー内の混綿粒綿と荷重用円盤とが接触する高さを読み取り、フィルパワー-R(in
3/30g)を算出した。次に、上述のC4M法洗濯を行い、吊り干し乾燥後の混綿粒綿を、500gの荷重を用いる上述の条件でフィルパワー-R(In
3/30g)を求めた。結果を
図6に示す。
【0101】
図6に示すように、荷重をかけても荷重をかけない場合と同様の挙動を示し、実施例1および2で得られた混綿粒綿は、嵩高性および嵩回復性共に優れることがわかる。一方、比較例1および2で得られた混綿粒綿について、未洗濯および1回洗濯後では比較的高いフィルパワー-Rを示しているものの、洗濯回数が増えるにつれて、フィルパワー-Rが顕著に低下していることがわかる。一般的に、洗濯は繰り返し行われるものである。そのため、仮に、1回洗濯後に高いフィルパワー-Rを示していたとしても、洗濯回数が増えるにつれて、フィルパワー-Rが顕著に低下するような場合は、製品として使用することはできない。例えば、5回目洗濯以降においては、実施例1および2の混綿粒綿のフィルパワー-Rは、比較例1および2に対して良好に維持されていることが分かる。
【0102】
(実施例3)
ポリエステル繊維および撥水性再生セルロース繊維を含むシート状の混綿中綿(以下、「混綿中綿シート」と記載する場合がある)を作製した。ポリエステル繊維としては、6.6dtexの繊度および64mmの繊維長を有し、立体捲縮されたポリエチレンテレフタレート(PET)繊維(東レ株式会社製、原綿品番F071、中空)、および2.2dtexの繊度および51mmの繊維長を有する低融点ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維を用いた。撥水性再生セルロース繊維としては、繊維長を51mmとした以外は、参考例1と同様の手順で作製した撥水レーヨン(繊度1.7dtex、自然捲縮)を使用した。
【0103】
開繊した各繊維を、PET繊維と低融点PET繊維と撥水レーヨンとの質量比が50:10:40で、シートの目付量が80g/m
2となるように秤量した。次いで、各繊維を貯綿庫51(内容積:5m
3)に投入し、撹拌混合した。次いで、3つのローラーカード機42、43、44にて開繊し、ウェブW1、W2、W3を得、
図2(b)に示すように重ね合わせた。重ね合わせた後、加熱して低融点PET繊維を溶融させて、幅1.5mの混綿中綿シートを得た。
【0104】
(比較例4)
撥水レーヨンの代わりに一般レーヨン(ダイワボウレーヨン株式会社製、繊度1.7dtex、繊維長51mm、自然捲縮)を使用した以外は、実施例3と同様の手順で、混綿中綿シートを得た。
【0105】
(比較例5)
PET繊維と低融点PET繊維と一般レーヨンとの質量比が60:10:30とした以外は、比較例4と同様の手順で綿中綿シートを得た。
【0106】
(比較例6)
PET繊維と低融点PET繊維と一般レーヨンとの質量比が70:10:20とした以外は、比較例4と同様の手順で混綿中綿シートを得た。
【0107】
(比較例7)
PET繊維と低融点PET繊維との質量比が90:10とした以外は、比較例4と同様の手順で混綿中綿シートを得た。
【0108】
実施例3および比較例4~7で得られた混綿中綿シートの比容積を算出した。
(比容積)
混綿中綿シート(厚さ:約1.5cm)を、縦20cmおよび横20cmに切断し4枚重ねて試料13.6gを作製した。試料に厚板(20cm×20cmの平板、33g)を乗せて30秒間静置した。厚板を乗せて30秒後、厚板を乗せた状態で四隅の高さを測定して、その平均値を厚みとした。厚みと目付から比容積を算出した。
【0109】
次いで、実施例3および比較例4~7で得られた混綿中綿シートの試験片を30cm×30cmのPET製の平織(タフタ)の袋に入れ、JIS L 1930に準拠してC4M法洗濯を行った。吊り干し乾燥を行い、乾燥後の試験片を4枚重ねて試料を作製し、同様に比容積を算出した。洗濯および試験を10回繰り返した。これらの結果を
図7に示す。
【0110】
図7に示すように、実施例3で得られた混綿中綿シートは、洗濯を繰り返した場合にも、比容積が75cm
3/g以上を維持しており、一般レーヨンを用いた混綿中綿シート(比較例4~6)よりも比容積が大きく、良好な嵩高性を有していることがわかる。さらに、実施例3と比較例6を比較しても、比較例のようにポリエステルの混率が高くなっても、同程度の比容積が得られることがわかる。洗濯耐久性と吸湿性を両立している撥水レーヨンを用いることで、洗濯後の比容積の低下が抑制されることによるものと推定される。
【0111】
実施例3はPET繊維が60質量%の場合であり、本発明の撥水レーヨンを使用してPET繊維の比率を比較例5および6(PET繊維がそれぞれ70質量%および80質量%)のように高くすれば、実施例3よりも比容積は大きくなると推測される。
【0112】
次いで、前述の方法にて圧縮率を算出した。結果を
図8に示す。
図8に示すように、実施例3で得られた混綿中綿シートは、同じ割合の一般レーヨンを用いた混綿中綿シート(比較例4)よりも圧縮率が大きく沈み量が大きい。すなわち、ふんわりとした嵩特性(嵩弾性)に優れていることがわかる。洗濯を繰り返した場合にも同様の挙動を示している。一般レーヨンを30質量%使用した混綿中綿シート(比較例5)および一般レーヨンを20質量%使用した混綿中綿シート(比較例6)と比べると、特に洗濯を繰り返した場合に、実施例3で得られた混綿中綿シートは、圧縮率が35%以上と大きく、差が顕著に現れていることがわかる。
【0113】
次いで、実施例3および比較例4~7で得られた混綿中綿シートについて、未洗濯の混綿中綿シートの圧縮率(H0)に対する、1回洗濯後の圧縮率(H1)の割合(H1/H0)を算出した。洗濯は、上述の通り、JIS L 1930に準拠したC4M法洗濯である。結果を表2に示す。
【0114】
【0115】
表2に示すように、実施例3で得られた混綿中綿シートは、未洗濯の混綿中綿シートの圧縮率(H0)に対する、1回洗濯後の圧縮率(H1)の割合(H1/H0)が88.2%であり、洗濯後に荷重条件下で使用しても良好な嵩を有すること、つまり洗濯後でも嵩特性(嵩弾性)が維持されており良好な保温性が得られることがわかる。さらに、10回洗濯後でもH10/H0が55%以上であり、十分な嵩特性(嵩弾性)を維持していることがわかる。
【0116】
次いで、実施例3および比較例4~6で得られた混綿中綿シートを、参考例2の手順に準拠して、吸放湿特性を検証した。まず、実施例3および比較例4~6で得られた混綿中綿シートを、縦10cmおよび横10cmに切断して試料を得た。得られた試料の絶乾状態の質量を測定した。この質量をW0とする。次いで、試料を40℃で90%RHの条件下で7時間静置して、試料に吸湿させた。吸湿開始から30分毎に試料の質量を測定した。この質量をWとする。得られた質量W0およびWから、上述の式(II)を用いて吸湿率(含水率)を算出した。結果を
図9に示す。
【0117】
図9に示すように、実施例3で得られた混綿中綿シートは、吸湿開始から1時間経過後に、3%以上の吸湿率を有しており、一般レーヨンを同じ割合で用いた混綿中綿シート(比較例4)と同様の吸湿特性を示すことがわかる。したがって、本発明の撥水レーヨンを含む混綿中綿(混綿粒綿、混綿中綿シートなど)は、一般レーヨン同様、優れた吸湿性を有していることがわかる。一方、ポリエステル繊維のみからなる比較例7は、吸湿性をほとんど示さないことがわかる。
【0118】
以上の通り、本発明の撥水レーヨン繊維とポリエステル繊維とを含む混綿中綿は、一般レーヨン繊維を同じ割合で用いた混綿中綿と比較して、洗濯後、特に繰り返し洗濯後の嵩特性が良好でありながら同等の吸湿性を有している。さらに、ポリエステル繊維のみからなる中綿に比べて、優れた吸湿性を有している。すなわち、本発明の混綿中綿は、嵩特性および吸湿性を両立した洗濯耐久性を有する中綿であることが分かる。