(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117252
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】光電変換素子、光電変換層の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 31/053 20140101AFI20240822BHJP
【FI】
H01L31/04 610
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023245
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(71)【出願人】
【識別番号】397064944
【氏名又は名称】株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128141
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 圭一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 岳仁
(72)【発明者】
【氏名】浅尾 淳一
(72)【発明者】
【氏名】落合 三二
【テーマコード(参考)】
5F151
5F251
【Fターム(参考)】
5F151AA01
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5F151JA28
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(57)【要約】
【課題】蓄電機能を有する光電変換素子を提供する。
【解決手段】本発明の光電変換素子は、2つの電極と、2つの前記電極の間に形成され、n型半導体材料と、p型半導体特性を有する炭素同素体を含むp型半導体材料を含む光電変換層と、を備え、前記光電変換層の前記炭素同素体を含む領域には、前記光電変換層で生じた電気を蓄電するに蓄電領域が含まれる。前記炭素同素体には、カーボンナノチューブが含まれ、前記カーボンナノチューブを含む領域には、前記蓄電領域が含まれる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの電極と、
2つの前記電極の間に形成され、n型半導体材料と、p型半導体特性を有する炭素同素体を含むp型半導体材料を含む光電変換層と、
を備え、
前記光電変換層の前記炭素同素体を含む領域には、前記光電変換層で生じた電気を蓄電するに蓄電領域が含まれることを特徴とする、
光電変換素子。
【請求項2】
前記炭素同素体には、カーボンナノチューブが含まれ、
前記カーボンナノチューブを含む領域には、前記蓄電領域が含まれることを特徴とする、
請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記n型半導体材料には、酸化チタン(TiO2)が含まれることを特徴とする、
請求項1又は2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記n型半導体材料には、塩素を含むチタン化合物が含まれることを特徴とする、
請求項3に記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記光電変換層は、前記p型半導体材料を含むp型半導体層と前記n型半導体材料を含むn型半導体層が積層する積層構造を有することを特徴とする、
請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記光電変換層は、バルクヘテロ接合構造を有することを特徴とする、
請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項7】
p型半導体材料を含むp型半導体層とn型半導体材料を含むn型半導体層が積層する積層構造を有する光電変換層の製造方法であって、
前記n型半導体材料により前記n型半導体層を形成するn型半導体層形成工程と、
p型半導体特性を有する炭素同素体を含む前記p型半導体材料により前記p型半導体層を形成するp型半導体層形成工程と、
を備え、
前記n型半導体層形成工程及び前記p型半導体層形成工程により前記積層構造が形成され、
前記p型半導体層形成工程では、前記光電変換層中に前記光電変換層で生じた電気を蓄電する蓄電領域が形成されることを特徴とする、
光電変換層の製造方法。
【請求項8】
前記n型半導体層形成工程は、
隣接する層の表面上に四塩化チタンを含む四塩化チタン水溶液の被膜を形成するn型半導体層側成膜工程と、
前記n型半導体層側成膜工程で形成された前記四塩化チタン水溶液の前記被膜を所定時間加熱して、前記n型半導体層を生成するn型半導体層側加熱工程と、
を備え、
前記n型半導体層側加熱工程では、前記被膜から、少なくとも結晶構造を有する酸化チタン(TiO2)を含む前記n型半導体材料が生成され、前記n型半導体層が生成されることを特徴とする、
請求項7に記載の光電変換層の製造方法。
【請求項9】
p型半導体特性を有する炭素同素体を含む混合溶液の被膜を形成する成膜工程と、
前記成膜工程で成膜された前記混合溶液の前記被膜を加熱して、バルクヘテロ接合構造の光電変換層を形成する加熱工程と、
を備え、
前記加熱工程では、前記光電変換層の前記炭素同素体を含む領域の少なくとも一部に前記光電変換層で生じた電気を蓄電する蓄電領域が形成されることを特徴とする、
光電変換層の製造方法。
【請求項10】
前記混合溶液には、四塩化チタンが含まれ、
前記加熱工程では、四塩化チタンの加熱により、少なくとも結晶構造を有する酸化チタン(TiO2)を含むn型半導体材料が生成されることを特徴とする、
請求項9に記載の光電変換層の製造方法。
【請求項11】
n型半導体材料とp型半導体特性を有する炭素同素体を含む混合溶液の被膜を形成する成膜工程と、
前記成膜工程で成膜された前記混合溶液の前記被膜を加熱して、バルクヘテロ接合構造の光電変換層を形成する加熱工程と、
を備え、
前記加熱工程では、前記光電変換層の前記炭素同素体を含む領域の少なくとも一部に前記光電変換層で生じた電気を蓄電する蓄電領域が形成されることを特徴とする、
光電変換層の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子、及び、その光電変換素子の光電変換層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、光電変換素子は、陽極と陰極の間にp型半導体材料とn型半導体材料で構成される光電変換層を有する(例えば、特許文献1参照)。光電変換層に光が入射すると、励起子が生成され、電子と正孔とが発生する。電子は陰極へ、正孔は陽極へと移動することにより光電変換素子に接続された外部回路に電流が流れる。光電変換層への光の照射が停止されると、光電変換層で電子と正孔が発生しないので、外部回路へ電流が流れなくなる。つまり、従来の光電変換素子は、光電変換素子へ光の照射が継続している間しか電流を流すことができなかった。このため、光電変換素子へ光の照射が停止した後も電流の供給を継続するには、光電変換素子に外部バッテリーを接続し、光電変換素子へ光の照射が停止した後は、外部バッテリーから電流を供給することが行われていた(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許6005785号公報
【特許文献2】特開2022-168820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、光電変換素子に外部バッテリーを接続する場合、光電変換素子と外部バッテリーが別々のものであるため、装置として大型化してしまう。
【0005】
そこで、本発明は、斯かる実情に鑑み、蓄電機能を有する光電変換素子、及び、その光電変換素子の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の光電変換素子は、2つの電極と、2つの前記電極の間に形成され、n型半導体材料と、p型半導体特性を有する炭素同素体を含むp型半導体材料を含む光電変換層と、を備え、前記光電変換層の前記炭素同素体を含む領域には、前記光電変換層で生じた電気を蓄電するに蓄電領域が含まれることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の光電変換素子において、前記炭素同素体には、カーボンナノチューブが含まれ、前記カーボンナノチューブを含む領域には、前記蓄電領域が含まれることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の光電変換素子において、前記n型半導体材料には、酸化チタン(TiO2)が含まれることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の光電変換素子において、前記n型半導体材料には、塩素を含むチタン化合物が含まれることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の光電変換素子において、前記光電変換層は、前記p型半導体材料を含むp型半導体層と前記n型半導体材料を含むn型半導体層が積層する積層構造を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の光電変換素子において、前記光電変換層は、バルクヘテロ接合構造を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の光電変換層の製造方法は、p型半導体材料を含むp型半導体層とn型半導体材料を含むn型半導体層が積層する積層構造を有する光電変換層の製造方法であって、前記n型半導体材料により前記n型半導体層を形成するn型半導体層形成工程と、p型半導体特性を有する炭素同素体を含む前記p型半導体材料により前記p型半導体層を形成するp型半導体層形成工程と、を備え、前記n型半導体層形成工程及び前記p型半導体層形成工程により前記積層構造が形成され、前記p型半導体層形成工程では、前記光電変換層中に前記光電変換層で生じた電気を蓄電する蓄電領域が形成されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の光電変換層の製造方法において、前記n型半導体層形成工程は、隣接する層の表面上に四塩化チタンを含む四塩化チタン水溶液の被膜を形成するn型半導体層側成膜工程と、前記n型半導体層側成膜工程で形成された前記四塩化チタン水溶液の前記被膜を所定時間加熱して、前記n型半導体層を生成するn型半導体層側加熱工程と、を備え、前記n型半導体層側加熱工程では、前記被膜から、少なくとも結晶構造を有する酸化チタン(TiO2)を含む前記n型半導体材料が生成され、前記n型半導体層が生成されることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の光電変換層の製造方法は、p型半導体特性を有する炭素同素体を含む混合溶液の被膜を形成する成膜工程と、前記成膜工程で成膜された前記混合溶液の前記被膜を加熱して、バルクヘテロ接合構造の光電変換層を形成する加熱工程と、を備え、前記加熱工程では、前記光電変換層の前記炭素同素体を含む領域の少なくとも一部に前記光電変換層で生じた電気を蓄電する蓄電領域が形成されることを特徴とする。
【0015】
本発明の光電変換層の製造方法において、前記混合溶液には、四塩化チタンが含まれ、前記加熱工程では、四塩化チタンの加熱により、少なくとも結晶構造を有する酸化チタン(TiO2)を含むn型半導体材料が生成されることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の光電変換層の製造方法は、n型半導体材料とp型半導体特性を有する炭素同素体を含む混合溶液の被膜を形成する成膜工程と、前記成膜工程で成膜された前記混合溶液の前記被膜を加熱して、バルクヘテロ接合構造の光電変換層を形成する加熱工程と、を備え、前記加熱工程では、前記光電変換層の前記炭素同素体を含む領域の少なくとも一部に前記光電変換層で生じた電気を蓄電する蓄電領域が形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の光電変換素子によれば、蓄電することができるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】(A)は、本発明の実施形態における光電変換素子の断面概要図である。(B)は、本発明の実施形態における光電変換素子の変形例の断面概要図である。
【
図2】(A)は、本発明の第一実施形態における光電変換素子の光電変換層の断面概要図である。(B)は、本発明の第一実施形態における光電変換素子の光電変換層の蓄電領域の変形例の断面概要図である。
【
図3】(A)は、本発明の第一実施形態における光電変換素子のn型半導体層のp型半導体層との接合面(境界面)を、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて倍率100000倍で観察した際のSEM像写真である。(B)は、本発明の第一実施形態における光電変換素子の陰極の表面を、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて倍率100000倍で観察した際のSEM像写真である。
【
図4】(A)は、本発明の第一実施形態における光電変換素子の光電変換層の拡大断面概要図であり、凸部の凸面全体と凹部の凹面全体が接触するように凹部に凸部が嵌合した状態を示している。(B)は、本発明の第一実施形態における光電変換素子の光電変換層の拡大断面概要図であり、凸部の凸面の一部と凹部の凹面の一部が接触するように凹部に凸部が嵌合した状態を示している。
【
図5】本発明の第一実施形態における光電変換素子(積層構造)の製造の流れを示すフローチャートである。
【
図6】(A)は、光照射時間毎の本発明の実施例1の光電変換素子の電流-電圧特性曲線の変化を表すグラフである。(B)は、光照射を終了した後の経過時間毎の本発明の実施例1としての光電変換素子の電流-電圧特性曲線の変化を表すグラフである。
【
図7】本発明の実施例1における比較例の光電変換素子の電流-電圧特性曲線である。
【
図8】(A)は、本発明の第二実施形態における光電変換素子(バルクヘテロ接合構造)の断面概要図である。(B)は、本発明の第二実施形態における光電変換素子の光電変換層の蓄電領域の変形例の断面概要図である。
【
図9】本発明の第二実施形態における光電変換素子(バルクヘテロ接合構造)の製造の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1~
図9は発明を実施する形態の一例であって、図中、同一の符号を付した部分は同一物を表わす。
【0020】
<光電変換素子の全体構成>
図1及び
図2を参照して、本発明の実施形態における光電変換素子1を説明する。本発明の実施形態における光電変換素子1は、
図1(A)に示すように、陽極(第一電極)2と、陰極(第二電極)3と、光電変換層4と、を備える。光電変換素子1は、基板5の一方側の面上に、陰極(第二電極)3、光電変換層4、陽極(第一電極)2の順に積層される。光電変換素子1の各層が積層される方向を積層方向Kと定義する。積層方向Kは、光電変換層4の厚み方向と平行となる。
【0021】
なお、本実施形態における光電変換素子1は、例えば、膜厚が5~50(μm)程度の薄膜光電変換素子を想定しているが、これに限定されるものではなく、膜厚がその他の範囲の光電変換素子であってもよい。
【0022】
<基板>
基板5は、例えば、絶縁性を有する透明な材料により構成される板状の部材である。また、基板5は、変形可能な材料(例えば、可撓性を有する材料)により構成されてもよいし、そうでない材料により構成されてもよい。具体的に基板5の材料としては、例えば、ホウケイ酸ガラス、白板ガラス、石英ガラス等のガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、及び、ポリエーテルスルフォン(PES)などの絶縁性材料が一例として挙げられる。基板5の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば、100μm~100mmの範囲にすればよい。
【0023】
<陽極(第一電極)>
陽極2は、少なくとも導電性を有する材料により構成されていればよい。陽極2を構成する材質として、例えば、導電性高分子化合物、白金、金、銀、銅、アルミニウム等の金属、及び、以上の混合体のいずれかが一例として挙げられるが、以上に限定されるものではなく、その他の材料で構成されてもよい。導電性高分子化合物として、例えば、PEDOT-PSSが一例として挙げられるが、これに限定されるものではなく、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロールおよびそれらの誘導体等であってもよい。なお、PEDOT-PSSとは、ポリアニオンを添加したイオンを含む置換ポリチオフェンでポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)から成る複合物の略称である。
【0024】
また、陽極2は、単層、又は、複数の材料が積層された態様であってもよい。また、陽極2は、導電性および光透過性を有する材料により構成されてもよい。その場合、陽極2は、以下で説明する陰極3の材料のいずれかで構成されてもよい。
【0025】
<陰極(第二電極)>
陰極3は、導電性および光透過性を有する材料により構成されることが好ましい。光透過性を有する材料は、例えば、透明な材質が挙げられる。具体的に陰極3を構成する材質としては、例えば、スズドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、アルミドープ酸化亜鉛(AZO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)等の導電性金属酸化物が一例として挙げられる。
【0026】
また、陰極3は、単層、又は、複数の材料が積層された態様であってもよい。また、陰極3は、上記説明した陽極2の材料で構成されてもよい。
【0027】
<光電変換層>
光電変換層4は、外部から入射する光に起因して電子と正孔とを発生させるものである。そして、そして、光電変換層4は、陽極2および陰極3の間に形成される。
図1(A)に示すように、光電変換素子1に光が入射すると、光電変換層4において励起子が生成され、電子と正孔とが発生する。そして、電子は陰極3側へ、正孔は陽極2側へ移動する。その結果、陽極2および陰極3に接続された外部回路(図示省略)に、電流(光励起電流)が流れる。以上のような光電変換層4は、p型半導体材料およびn型半導体材料を含有する。
【0028】
<p型半導体材料>
光電変換層4におけるp型半導体材料には、p型半導体特性を有する炭素同素体(以下、p型炭素同素体と呼ぶ。)が含まれる。p型炭素同素体として、例えば、カーボンナノチューブが挙げられる。カーボンナノチューブは、単層のもの(シングルウォールカーボンナノチューブ)であってもよいし、多層のもの(マルチウォールナノチューブ)であってもよい。
【0029】
光電変換層4におけるp型半導体材料には、上記p型炭素同素体の他に、その他の電子供与性化合物が含まれていてもよい。その他の電子供与性化合物として、例えば、ポリビニルカルバゾール及びその誘導体、ポリシラン及びその誘導体、側鎖又は主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体(例えば、P3HT(ポリ(3-ヘキシルチオフェン)))、ポリピロール及びその誘導体、ポリフェニレンビニレン及びその誘導体、ポリチエニレンビニレン及びその誘導体、ポリフルオレン及びその誘導体等のp型有機半導体材料が一例として挙げられる。上記p型炭素同素体との混合体が設けられる過程で意図せずに含まれてしまう不可避成分が含有される場合、その材料もp型半導体材料に含まれる。
【0030】
<n型半導体材料>
光電変換層4におけるn型半導体材料は、上記p型炭素同素体とのエネルギー差を考慮して選定される。そのようなn型半導体材料として、例えば、所定の濃度の四塩化チタン水溶液を所定の温度で所定時間加熱して焼成した際に生成される生成物が挙げられる。その生成物には、酸化チタン(TiO2)は含まれるが、更に酸化チタン(TiO2)の前駆体及び不可避不純物が含まれてもよい。酸化チタン(TiO2)の前駆体には、例えば、TiO(2-X)(0≦X<2)、及び塩素を含むチタン化合物(TiClYO(Z-0.5Y))(0<Y<4、0<Z≦2、0<(Z-0.5Y)≦2)の少なくとも1つが含まれ得る。ちなみに、酸化チタン(TiO2)は、二酸化チタンと称してもよい。なお、上記生成物は、酸化チタン(TiO2)の比率が95%以上で、酸化チタン(TiO2)の前駆体の比率が5%以下であることが好ましい。また、上記生成物は、酸化チタン(TiO2)の比率が90%以上で、酸化チタン(TiO2)の前駆体の比率が10%以下であってもよい。また、上記生成物としての酸化チタン(TiO2)は、結晶構造を有することが好ましい。また、酸化チタン(TiO2)の前駆体も結晶構造を有することが好ましい。
【0031】
また、光電変換層4におけるn型半導体材料は、例えば、酸化物半導体(例えば、酸化亜鉛)及び、その他の電子受容性化合物であってもよいし、上記のもののうち、少なくとも2つが混合されたものであってもよい。この場合であっても、上記生成物、又は、上記混合体が設けられる過程で意図せずに含まれてしまう不可避成分が含有される場合、その材料もn型半導体材料に含まれる。
【0032】
光電変換素子1の出力電圧は、n型半導体材料のLUMOとp型半導体材料のHOMOの値の差で決定される。LUMOとHOMOの値がバンドギャップエネルギーとなるため、n型半導体材料としての上記生成物のバンドギャップエネルギーが大きい場合、n型半導体材料のLUMOが大きくなり、高い出力電圧を得ることが可能となる。
【0033】
<光電変換層の構造>
本実施形態における光電変換層4は、
図2(A),(B)に示すように、p型半導体材料を含むp型半導体層41と、n型半導体材料を含むn型半導体層42が、積層方向K(光電変換層4の厚み方向)に積層される積層構造を有する。本積層構造を有する光電変換層4では、p型半導体層41とn型半導体層42が接触する境界面がpn接合界面43となる。pn接合界面43に光が当たると、そこで電子と正孔が発生して電流が流れる。
【0034】
そして、p型半導体材料としてのp型炭素同素体を含む領域には、光電変換層4で生じた電気を蓄電する蓄電領域44が含まれる。
図2(A)に示すように、蓄電領域44は、p型半導体層41の全領域に広がっていてもよい。また、
図2(B)に示すように、蓄電領域44は、p型半導体層41の一部領域に広がっていてもよい。この場合、蓄電領域44は、p型半導体層41に複数形成されてもよいし(
図2(B)参照)、一つのみ形成されてもよい。また、
図2(B)に示すように、蓄電領域44は、p型半導体層41とn型半導体層42に跨っていてもよい。また、蓄電領域44は、p型半導体層41とn型半導体層42の全領域に広がっていてもよい。
【0035】
p型炭素同素体にカーボンナノチューブが含まれる場合、カーボンナノチューブが含まれる領域では、カーボンナノチューブは繊維状に分散した態様で分布することが好ましい。
【0036】
光が照射され続ける限り発電が継続されるので、蓄電領域44には、継続して蓄電される。光の照射が停止すると発電が停止するので、時間の経過に伴って蓄電領域44から電気が放電される。
【0037】
図3(A)に、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて倍率100000倍でn型半導体層42のp型半導体層41との接合面42A(
図2(A),(B)参照)を観察した際のSEM像の写真を示す。また、
図3(B)に、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて倍率100000倍でn型半導体層42を設ける前の陰極3付き基板5の陰極3の表面を観察した際のSEM像の写真を示す。
図3(A),(B)のSEM像の写真を比較すると、n型半導体層42の接合面42Aには、複数の粒状の白い斑点が一様に分布している。粒状の白い斑点は、
図4(A)に示すように、n型半導体層42の表面の平面部分42Bを起点として、積層方向Kに沿い、p型半導体層41に向かって凸となる凸部45である。つまり、n型半導体層42のp型半導体層41との接合面42Aを、その接合面42Aに対向する側から走査電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したときに、n型半導体層42のp型半導体層41との接合面42Aには、SEM像に白い斑点として表示される複数の微細な凸部45が形成される。
図3(A)のSEM像の写真に示すn型半導体層42の接合面42Aの領域において凸部45(白い斑点を構成する各白い点)は、概ね一様に分布しているが、これに限定されるものではなく、偏在して分布していてもよい。なお、複数の凸部45には、高さや幅が様々なものが混在してもよいし、高さ又は幅が略同一のものが含まれてもよい。
【0038】
p型半導体層41は、p型半導体層41の接合面41Aにおいてn型半導体層42に接合(接触)する。そして、p型半導体層41は、
図4(A)に示すように、n型半導体層42の凸部45に嵌合(係合)する凹部46を有する。p型半導体層41は、凸部45に凹部46が嵌合して、凸部45に凹部46が覆い被さった状態(嵌合した状態)で、n型半導体層42に係合(接触)する。そして、n型半導体層42とp型半導体層41の互いの接合面42A,41Aでの接触面積を多く確保するため、
図4(A)に示すように、凸部45の凸面全体と凹部46の凹面全体が接触するように凸部45に凹部46が嵌合する領域が多く設けられることが好ましい。なお、
図4(B)に示すように、凸部45の凸面の一部と凹部46の凹面の一部が接触し、凸部45の凸面の残部と凹部46の凹面の残部が非接触となる状態で、凸部45に凹部46が嵌合するような領域があってもよい。
【0039】
接合面41A,42Aが接触するpn接合界面43に光が当たると、そこで電子と正孔が発生して電流が流れる。pn接合界面43が平滑である仮想n型半導体層及び仮想p型半導体層の接触面積に比べて、本実施形態におけるn型半導体層42の接合面42Aとp型半導体層41の接合面41Aの接触面積は大きい。このため、本実施形態における光電変換素子1は、光が当たったときに発生する電子と正孔の量が多くなる。結果、本実施形態における光電変換素子1は、仮想n型半導体層及び仮想p型半導体層を有する光電変換素子に比べて電流電圧特性が良くなる。
【0040】
なお、本発明においてn型半導体層42には、凸部45はなくてもよい。そのようなものも本発明の範囲に含まれる。
【0041】
<光電変換素子の製造方法>
次に、
図5を参照して、本実施形態における光電変換素子1の製造方法の一例について説明する。
【0042】
<陰極形成工程>
まず、基板5に陰極3を形成する(陰極形成工程:ステップS100)。具体的には、例えば、上記<陰極(第二電極)>で説明した材料の被膜を設ける(陰極側成膜工程)。より具体的には、例えば、上記<陰極(第二電極)>で説明した材料をペースト状にして、印刷装置で基板5上に印刷することにより被膜を設ける。なお、上記<陰極(第二電極)>で説明した材料をスパッタ法や蒸着法やその他の成膜方法により基板5上に被膜を設けてもよい。
【0043】
そして、上記被膜が形成された基板5に対して所定温度(例えば、130℃)で所定時間(例えば、10分)加熱するアニール処理を行う(陰極側加熱工程)。これにより、基板5上に陰極3が出来上がる。
【0044】
<n型半導体層形成工程>
続いて、陰極3上にn型半導体層42を形成する(n型半導体層形成工程)。具体的には、まず、陰極3上に四塩化チタン水溶液の被膜を形成する(n型半導体層側成膜工程:ステップS101)。より具体的には、例えば、所定の濃度に希釈化された四塩化チタン水溶液に少なくとも基板5の陰極3側を所定時間(例えば、10分~30分)浸漬する。これにより、基板5の陰極3側に、四塩化チタン水溶液の被膜が形成される。なお、四塩化チタン水溶液の被膜は、スピンコート法により基板5に設けられてもよいし、印刷又はその他の成膜方法により設けられてもよい。
【0045】
<n型半導体層側加熱工程>
四塩化チタン水溶液の被膜が形成された基板5を、所定温度の雰囲気中で所定時間乾燥させる。つまり、四塩化チタン水溶液の被膜を加熱して、四塩化チタン水溶液の被膜から水分を蒸発(除去)させる(第一加熱工程:ステップS102)。なお、第一加熱工程を四塩化チタン水溶液の被膜から水分を蒸発(除去)させるという意味に捉えて、第一加熱工程を水分除去工程と見做してもよい。
【0046】
ちなみに、第一加熱工程(水分除去工程)において所定温度は、四塩化チタン水溶液の被膜から水分を蒸発(除去)させることができる温度(水の沸点)であればよく、例えば、70℃~100℃の範囲内のものが好ましく、より好ましくは、80℃~90℃の範囲内のものが好ましい。また、第一加熱工程(水分除去工程)において所定温度は、所定時間において一定であってもよいし、変化させてもよい。また、第一加熱工程(水分除去工程)において所定時間は、四塩化チタン水溶液の被膜から水分を蒸発(除去)させることができる時間であればよい。本工程において所定時間は、例えば、所定温度が80℃の場合、60分程度が好ましい。
【0047】
更に、第一加熱工程と第二加熱工程(焼成工程)の間の工程において、別の加熱工程が行われても、その加熱工程で四塩化チタン水溶液の被膜から水分を蒸発(除去)させていれば、その加熱工程も水分除去工程に含まれると見做してもよい。つまり、水分除去工程は、複数の加熱工程で構成されてもよい。
【0048】
なお、200℃以下では加熱温度では、結晶構造を有する酸化チタン(TiO2)や結晶構造を有する酸化チタン(TiO2)の前駆体は、ほとんど生成されない。この状態では、電子輸送性が極端に低いので、電荷分離した電子を電極まで輸送することがほとんどできない。一方、結晶構造を有する酸化チタン(TiO2)は電子輸送性が高い。このため、結晶構造を有する酸化チタン(TiO2)が生成されるように、第一加熱工程(水分除去工程)を経た基板5の少なくとも被膜側を、所定温度(例えば、500℃)で所定時間(例えば、45分)加熱して焼成する(第二加熱工程(焼成工程):ステップS103)。つまり、基板5における水分が除去された被膜が基板5の陰極3上で焼成される。なお、第二加熱工程を、水分除去工程を経た基板5の少なくとも被膜側を所定時間加熱して焼成するという意味に捉えて、第二加熱工程を焼成工程と見做してもよい。
【0049】
焼成の過程で、水分が除去された被膜が酸化等の化学反応を起こして、基板5の陰極3上において既に説明した所定の生成物が生成される。そして、焼成の過程で、その所定の生成物は、n型半導体層42を形成し、同時に、n型半導体層42の接合面42Aには、複数の凸部45が形成される。繰り返しになるが、所定の生成物には、酸化チタン(TiO2)は含まれ、焼成条件に応じて酸化チタン(TiO2)の前駆体、及び不可避不純物が含まれ得る。
【0050】
なお、第二加熱工程(焼成工程)において所定温度(焼成温度)は、水分が除去された被膜を基板5に焼成できる温度であればよく、例えば、450℃~550℃が好ましい。所定温度(焼成温度)が450℃を超えると、酸化チタン(TiO2)、酸化チタン(TiO2)の前駆体は、確実にアナターゼ型の結晶構造となり、所定温度(焼成温度)が550℃を超えると、陰極3の抵抗率が増加してしまう可能性があるからである。ちなみに、所定温度(焼成温度)が500℃~550℃となると、酸化チタン(TiO2)、及び酸化チタン(TiO2)の前駆体には、アナターゼ型の結晶構造のものだけでなく、ルチル型の結晶構造のものも含まれると推測される。
【0051】
更に、第二加熱工程よりも後の工程において、別の加熱工程が行われても、その加熱工程が被膜を焼成させるものであれば、その加熱工程も焼成工程に含まれると見做してもよい。つまり、焼成工程は、複数の加熱工程で構成されてもよい。
【0052】
なお、ここで、説明の便宜上、本実施形態において第一加熱工程(水分除去工程)及び第二加熱工程(焼成工程)をまとめてn型半導体層側加熱工程と定義する。このn型半導体層側加熱工程を2つの工程に分けているのは、もし第一加熱工程(水分除去工程)を省いて第二加熱工程(焼成工程)を行った場合、高温で加熱するため、熱膨張でn型半導体層42にクラックが生じる可能性があり、そのようなことを避けるためである。本実施形態のようにn型半導体層側加熱工程を2工程にすることにより、クラックが無く、且つ複数の微細な凸部45が接合面42Aに分布するn型半導体層42を設けることができる。なお、四塩化チタン水溶液に、更に上記説明したn型半導体材料である電子受容性化合物を加えてもよい。
【0053】
また、第一加熱工程(水分除去工程)より前、又は、第一加熱工程(水分除去工程)と第二加熱工程(焼成工程)の間、第二加熱工程(焼成工程)の後に、n型半導体層42を設ける上で別のことを主目的とする追加工程があってもよい。その追加工程は、主目的ではないが、結果として、水分除去工程、又は焼成工程の目的を果たすものであってもよいし、そうでなくてもよい。本実施形態の光電変換素子の製造方法のように、少なくとも第一加熱工程と第二加熱工程が含まれていれば、水分除去と焼成を行ってn型半導体層42を設けることができる。
【0054】
従来の色素増感型光電変換素子の製造方法では、既に設けられている半導体層(酸化チタン層)の半導体粒子間の結合性(ネッキング)の改善を目的として、半導体層(酸化チタン層)を四塩化チタン水溶液で処理している。一方、本実施形態における光電変換素子の製造方法では、既にある半導体層に四塩化チタン水溶液で処理を施すものではなく、四塩化チタン水溶液を主材料として用い、半導体層(n型半導体層42)そのものを形成させる。つまり、四塩化チタン水溶液を、一方(従来の色素増感型光電変換素子の製造方法)は、半導体層の改善処理で用い、他方(本実施形態における光電変換素子の製造方法)は、半導体層そのものを作る処理で用いているため、両者の製造方法は全く異なる。
【0055】
更に、本実施形態における光電変換素子の製造方法では、n型半導体層42に凸部45が形成され、それによりn型半導体層42とp型半導体層41の接触面積を増大させ、光が当たったときに発生する電子と正孔の量を増大させている。つまり、本実施形態における光電変換素子の製造方法は、本積層構造を前提としたものである。一方、従来の色素増感型光電変換素子は、光が当たったときに半導体層と電解液との間で電子の移動を生じさせて発電するものであり、本積層構造における発電原理とは全く異なるものである。
【0056】
なお、n型半導体層42は、所定の濃度に希釈化された四塩化チタン水溶液を用いて、陰極3上に複数の凸部45を有するように形成された上記生成物を形成させることができれば、その他の処理方法で設けられてもよい。
【0057】
ちなみに、繰り返しになるが、n型半導体層42には、複数の凸部45はなくてもよい。n型半導体形成工程で用いられるn型半導体材料は、上記とは異なるものであってもよく、例えば、酸化物半導体(例えば、酸化亜鉛)やその他の電子受容性化合物が挙げられる。
【0058】
<p型半導体層形成工程>
次に、n型半導体層42上にp型半導体層41を形成する(p型半導体層形成工程)。具体的には、まず、n型半導体層42上にp型半導体材料の被膜を形成する(p型半導体層側成膜工程:ステップS104)。なお、ここでは、p型半導体材料として、p型炭素同素体であるカーボンナノチューブを用いるものとする。カーボンナノチューブを所定の有機溶剤に分散させたカーボンナノチューブ塗布液を、n型半導体層42上に塗布し、スピンコート法によりn型半導体層42上に塗布液の被膜を設ける。所定の有機溶剤として、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)やエチレングリコールが一例として挙げられる。なお、カーボンナノチューブ塗布液の被膜は、n型半導体層側成膜工程の場合と同様に、少なくとも基板5のn型半導体層42側をカーボンナノチューブ塗布液に浸漬して設けてもよいし、印刷又はその他の成膜方法によりn型半導体層42上に設けてもよい。
【0059】
そして、カーボンナノチューブ塗布液の被膜が形成された基板5に対して所定温度(例えば、100℃)で所定時間(例えば、10分)加熱するアニール処理を行う(p型半導体層側加熱工程:ステップS105)。これにより、n型半導体層42に積層されたp型半導体層41が出来上がる。p型半導体層41が形成されると、光電変換層4には、蓄電領域44も形成される。なお、p型半導体層側加熱工程は、上記n型半導体層側加熱工程の場合と同様に2工程(水分除去工程、焼成工程)に分けてもよい。この場合、水分除去工程に対応する工程における所定温度(焼成温度)は、n型半導体層側加熱工程と同様であってもよい。
【0060】
最後に、p型半導体層41上に陽極2を形成する(陽極形成工程:ステップS106)。具体的には、まず、p型半導体層41上に上記<陽極(第一電極)>で説明した材料の被膜を設ける(陽極側成膜工程)。より具体的には、例えば、上記<陽極(第一電極)>で説明した材料をペースト状にして、印刷装置で基板5上に印刷することにより被膜を設ける。なお、上記<陽極(第一電極)>で説明した材料をスパッタ法や蒸着法やその他の成膜方法によりp型半導体層41上に被膜を設けてもよい。
【0061】
そして、上記被膜が形成された基板5に対して所定温度(例えば、130℃)で所定時間(例えば、10分)加熱するアニール処理を行う(陽極側加熱工程)。これにより、p型半導体層41上に陽極2が出来上がる。以上により、光電変換素子1が完成する。この光電変換素子1は、薄膜である。なお、以上の光電変換素子1の製造方法における順番を逆にして、陽極2(陽極形成工程)、p型半導体層41(p型半導体層形成工程)、n型半導体層42(n型半導体層形成工程)、陰極3(陰極形成工程)の順に設けてもよい。
【0062】
<変形例>
図1(B)を参照して、本実施形態における光電変換素子1の変形例について説明する。本変形例における光電変換素子1は、
図1(B)に示すように、本実施形態における光電変換素子1に電子輸送層6、及び、正孔輸送層7が追加されたものである。
【0063】
なお、電子輸送層6とは、光電変換層4で発生する電子を効率良く陰極3へと輸送する機能を担うものである。また、電子輸送層6は、陰極3と光電変換層4(n型半導体層42)の間に設けられる。なお、電子輸送層6を構成する材料は、特に限定されないが、例えば、チタニウム(IV)イソプロポキシドが一例として挙げられ、フラーレンやその誘導体等の電子輸送性を有するn型半導体が挙げられる。
【0064】
正孔輸送層7は、光電変換層4で発生する正孔を効率良く陽極2へと輸送する機能を担う。正孔輸送層7は、正孔の移動度が高い材料で形成されることが好ましい。また、正孔輸送層7は、陽極2と光電変換層4(p型半導体層41)の間に設けられる。なお、正孔輸送層を構成する材料は、特に限定されないが、例えば、低分子化合物であればNTCDAに代表される芳香族環状酸無水物等が一例として挙げられ、高分子化合物であれば、PEDOT-PSS、ポリ(3,4-エチレンジオキシ)チオフェン等に代表される公知の導電性高分子等が一例として挙げられる。
【0065】
光電変換素子1に電子輸送層6、及び、正孔輸送層7が設けられる場合、スパッタ法、蒸着法、スピンコート法、印刷等を含む成膜方法により対応する材料を対応する位置に積層させて電子輸送層6、及び、正孔輸送層7を設ければよい。
【0066】
なお、電子輸送層6、及び、正孔輸送層7のいずれか一方のみが設けられた光電変換素子1及び光電変換素子1の製造方法も本発明の範囲に含まれる。
【実施例0067】
次に、本願発明者は、本発明の実施例としての光電変換素子と、比較例としての2種類の光電変換素子を作成し、電流-電圧特性を評価する実験を行った。本実施例としての光電変換素子は、FTO(フッ素ドープ酸化スズ透明導電膜)付ガラス基板(旭硝子製)の上に、光電変換層4、陽極2を順に成膜したものである。なお、FTO付ガラス基板におけるFTO部分が陰極を構成し、ガラス基板部分が基板を構成する。
【0068】
次に、純水を溶媒として四塩化チタン水溶液(大阪チタニウムテクノロジーズ製)を40mM(モーラー)に調整した浸漬溶液を作成し、浸漬溶液にFTO付ガラス基板を10分浸漬する。その後、FTO付ガラス基板を80℃の雰囲気中で60分置いて浸漬溶液の水分を蒸発(除去)させる。そして、そのFTO付ガラス基板を500℃で45分焼成する。これにより、接合面に複数の微細な凸部を有するn型半導体層が出来上がる。ちなみに、
図3(A)のSEM像の写真は、本実施例における光電変換素子のn型半導体層の表面を撮影したものである。
【0069】
次に、溶媒としての純水に対して、1(wt%)のカーボンナノチューブ(Thomas Swan & Co. Ltd.製)を入れて混合したカーボンナノチューブ溶液を作成した。そして、そのカーボンナノチューブ溶液を塗布液として、n型半導体層上に塗布し、スピンコート法によりn型半導体層上に塗布液の被膜を設ける。そして、被膜を100℃で10分間加熱するアニール処理を行う。これにより、p型半導体層が出来上がり、光電変換層が完成する。
【0070】
次に、導電性ペースト(Clevios(登録商標) S V3 Stab)を用いて、p型半導体層上に、陽極をスクリーン印刷した後、130℃で10分間加熱するアニール処理を行う。これにより、本実施例としての光電変換素子が完成する。
【0071】
比較例としての2種類の光電変換素子は、p型半導体層の構成が本実施例の光電変換素子とは異なるが、それ以外の層は本実施例の光電変換素子と同様の方法で作成した。
【0072】
1つ目の比較例としての光電変換素子(以下、第一比較例光電変換素子と呼ぶ。)におけるp型半導体層は、以下のように作成した。N,N-ジメチルホルムアミド(N,N-dimethylformamide,DMF)に対して0.5(wt%)のヨウ化銅(I)(CuI)を入れたヨウ化銅(I)溶液を作成し、FTO付ガラス基板にヨウ化銅(I)溶液を滴下し、2000rpmで30秒間スピンコートを行う。その後、100℃で10分間、FTO付ガラス基板を焼成する。これにより、第一比較例光電変換素子のp型半導体層が出来上がる。
【0073】
2つ目の比較例としての光電変換素子(第二比較例光電変換素子)におけるp型半導体層は、以下のように作成する。溶媒としてのクロロベンゼンに対して0.5(wt%)のP3HT(ポリ(3-ヘキシルチオフェン))を入れたP3HT溶液を作成し、FTO付ガラス基板にP3HT溶液を滴下し、2000rpmで30秒間スピンコートを行う。その後、100℃で10分間、FTO付ガラス基板を焼成する。これにより、第二比較例光電変換素子のp型半導体層が出来上がる。
【0074】
以上のようにして作製された本実施例の光電変換素子、第一比較例光電変換素子、及び第二比較例光電変換素子の電流-電圧特性を測定するのに、ソーラーシミュレーター(株式会社三永電機製作所製XES-4051)を用いた。その結果得られた本実施例の光電変換素子、第一比較例光電変換素子、及び第二比較例光電変換素子の電流-電圧特性を
図6(A),(B)及び
図7に示す。
【0075】
図6(A)に示すように、本実施例の光電変換素子に対して光の照射を開始した時点での本実施例の光電変換素子の電流-電圧特性と、光の照射を開始してから3分経過した時点での本実施例の光電変換素子の電流-電圧特性を比較すると、電圧が増大するに連れて後者の方が前者よりも出力電流が増大している。一方、
図7に示すように、第一比較例光電変換素子、及び第二比較例光電変換素子は、光の照射を開始してからの経過時間に応じて電流-電圧特性が変化することはなかった。このことから、本実施例の光電変換素子には蓄電領域があり、光の照射により生じた電気がその蓄電領域で蓄電されるが、第一比較例光電変換素子、及び第二比較例光電変換素子には蓄電領域がないことが確認できたと言える。
【0076】
また、
図6(A)に示すように、光の照射を開始してから5分経過、又は10分経過した時点での本実施例の光電変換素子の電流-電圧特性は、光の照射を開始してから3分経過した時点でのものとあまり変わらないので、光の照射を開始してから3分経過した時点で、本実施例の光電変換素子の蓄電領域が蓄電できる最大蓄電容量に達したと推測できる。
【0077】
また、
図6(B)に示すように、光の照射を10分間行った後に、光の照射を停止すると、時間が経過するに連れて本実施例の光電変換素子の電流-電圧特性における出力電流が段々減少していっている。これは、本実施例の光電変換素子の蓄電領域で蓄電された電気が放電されているからであると推測される。
図6(B)に示すグラフからも本実施例の光電変換素子に蓄電領域があることの裏付けとなる。
【0078】
本実施例の光電変換素子と、第一比較例光電変換素子、及び第二比較例光電変換素子の大きな違いは、p型半導体層の材料である。以上の実験により光電変換素子のp型半導体層の材料を、p型半導体特性を有する炭素同素体であるカーボンナノチューブにすることにより光電変換素子に蓄電特性が生じたことを確認することができた。
【0079】
<第二実施形態>
図8を参照して、本発明の第二実施形態における光電変換素子1について説明する。本実施形態における光電変換素子1は、
図8に示すように、光電変換層4をバルクヘテロ接合構造(バルクヘテロジャンクション構造:以下同様)にしたものである。より具体的にバルクヘテロ接合構造は、n型半導体材料とp型半導体材料がランダムに混ざり合った混合体により構成される。そして、本実施形態におけるバルクヘテロ接合構造には、p型半導体材料で構成されたp型半導体領域47、n型半導体材料で構成されたn型半導体領域48のそれぞれが複数存在する。p型半導体領域47、及びn型半導体領域48は、相分離し、光電変換層4の厚み方向のみならず、光電変換層4の厚み方向に直交する方向、及び/又は、光電変換層4の厚み方向に傾斜する方向においても接合する。結果、バルクヘテロ接合構造は、第一実施形態における積層構造と比較して、pn接合界面が層全体にわたって数多く存在することになる。よって、光吸収により生成した励起子の多くがpn接合界面に到達できることになり、電荷分離に至る効率を高めることができる。
【0080】
本実施形態においてもn型半導体材料には、第一実施形態と同様のものが1種類又は複数種類含まれる。本実施形態においてもp型半導体材料には、p型半導体特性を有する炭素同素体が含まれる。炭素同素体は、カーボンナノチューブであることが好ましい。また、p型半導体材料には、p型半導体特性を有する炭素同素体とは異なる種類のp型半導体材料が1種類又は複数種類含まれてもよい。そして、光電変換層4のp型半導体特性を有する炭素同素体を含む領域には、蓄電領域44が含まれる。蓄電領域44は、
図8(A)に示すように、各p型半導体領域47の全領域に広がっていてもよい。また、
図8(B)に示すように、蓄電領域44は、各p型半導体領域47の一部領域に広がっていてもよい。この場合、蓄電領域44は、各p型半導体領域47に複数形成されてもよいし(
図9(B)参照)、一つのみ形成されてもよい。また、
図8(B)に示すように、蓄電領域44は、p型半導体領域47とn型半導体領域48に跨っていてもよい。また、蓄電領域44は、各p型半導体領域47と各n型半導体領域48の全領域に広がっていてもよい。また、第一実施形態の場合と同様に、本実施形態の光電変換素子1にも電子輸送層6及び正孔輸送層7の双方又は一方が光電変換層4に隣接するように設けられてもよい(
図1(B)参照)。
【0081】
次に、
図9を参照して本実施形態における光電変換素子1の製造方法の一例について説明する。
図9に示すように、本実施形態における光電変換素子1の製造方法において、陰極形成工程(ステップS100)、加熱工程、陽極形成工程(ステップS106)は、第一実施形態におけるものと同様であるため、可能な限りで同説明を適用可能である。
【0082】
光電変換層4をバルクヘテロ接合構造にする場合、光電変換層4を設ける光電変換層形成工程(ステップS107)において、p型炭素同素体(例えば、カーボンナノチューブ)とn型半導体材料を含む混合溶液の被膜を隣接する層(例えば、陰極3又は陽極2)上に形成すればよい(成膜工程)。また、p型炭素同素体と四塩化チタンを含む混合溶液の被膜を隣接する層(例えば、陰極3又は陽極2)上に形成してもよい。以上の混合溶液には、更に異なる種類のp型半導体材料、n型半導体材料が含まれてもよい。つまり、以上の混合溶液には、1種類又は複数の種類のp型半導体材料、n型半導体材料が含まれてもよい。そして、次の加熱工程は、例えば、
図9に示すように、第一実施形態における第一加熱工程(ステップS102:水分除去工程)、第二加熱工程(ステップS103:焼成工程)と同様に2工程に分けてもよいし、水分除去工程と焼成工程を1工程で行ってもよい。ただし、焼成工程に対応する工程における所定温度(焼成温度)は、n型半導体材料及びp型半導体材料における結晶構造やその他の部分の抵抗率の増加を防ぐ観点から決定されることが好ましい。また、p型炭素同素体と四塩化チタンを含む混合溶液では、以上の加熱工程を経ると、酸化チタン(TiO
2)や酸化チタン(TiO
2)の前駆体が生成される。酸化チタン(TiO
2)や酸化チタン(TiO
2)の前駆体には、結晶構造を有するものが含まれる。従って、本実施形態における光電変換層4のn型半導体領域48のn型半導体材料には、酸化チタン(TiO
2)が含まれる。いずれにしても加熱工程で上記被膜が形成された陰極3付き基板に対してアニール処理が施され、隣接する層(例えば、陰極3又は陽極2)上にバルクヘテロ接合構造の光電変換層4が出来上がる。なお、以上の光電変換素子1の製造方法における順番を逆にして、陽極2(陽極形成工程)、光電変換層4(光電変換層形成工程)、陰極3(陰極形成工程)の順に設けてもよい。また、本実施形態の光電変換素子1に電子輸送層6及び正孔輸送層7の双方又は一方が光電変換層4に隣接するように設けられる場合も、第一実施形態の場合と同様の製造方法で設けられる。
【0083】
尚、本発明の光電変換素子、及びその光電変換素子を製造する方法は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
また、本発明の光電変換層の製造方法は、p型半導体材料を含むp型半導体層とn型半導体材料を含むn型半導体層が積層する積層構造を有する光電変換層の製造方法であって、四塩化チタンを含む四塩化チタン水溶液の被膜を形成するn型半導体層側成膜工程と、前記n型半導体層側成膜工程で形成された前記四塩化チタン水溶液の前記被膜を所定時間加熱して、前記n型半導体層を生成するn型半導体層側加熱工程と、を有する前記n型半導体層形成工程と、p型半導体特性を有するカーボンナノチューブを分散させた液を用いて前記p型半導体層を形成するp型半導体層形成工程と、を備え、前記n型半導体層形成工程及び前記p型半導体層形成工程により前記積層構造が形成され、前記光電変換層は、前記光電変換層で発生した電子と正孔を蓄える蓄電機能を有することを特徴とする。