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特開2024-117266ボンド磁石用組成物及びボンド磁石の製造方法
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  • 特開-ボンド磁石用組成物及びボンド磁石の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117266
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】ボンド磁石用組成物及びボンド磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/08 20060101AFI20240822BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20240822BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20240822BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
H01F1/08 130
H01F41/02 G
B22F3/00 C
B22F3/02 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023267
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000100780
【氏名又は名称】アイシン化工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000615
【氏名又は名称】弁理士法人Vesta国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古田 亮一
(72)【発明者】
【氏名】林 美穂
(72)【発明者】
【氏名】井上 尚実
(72)【発明者】
【氏名】堂薗 健次
(72)【発明者】
【氏名】大園 俊介
【テーマコード(参考)】
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K018BA05
4K018BA18
4K018BB04
4K018CA04
4K018CA08
4K018CA11
4K018GA04
4K018KA46
5E040AA03
5E040AA04
5E040AA06
5E040BB03
5E040CA01
5E040HB06
5E040HB11
5E040NN04
5E062CD05
5E062CE04
5E062CF01
5E062CG01
(57)【要約】
【課題】磁性粉末の配向度の向上及び充填率の向上の両立により、ボンド磁石の磁気特性を向上できること。
【解決手段】ボンンド磁石用組成物は、エポキシ樹脂と、磁性粉末と、溶剤とを含有し、溶剤を含んだ状態で湿式磁場圧縮成形されるボンド磁石用組成物であって、溶剤が、脂肪族系炭化水素溶剤及び/または芳香族系炭化水素溶剤であるものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と、磁性粉末と、溶剤とを含有し、前記溶剤を含んだ状態で湿式磁場圧縮成形されるボンド磁石用組成物であって、
前記溶剤は、脂肪族系炭化水素溶剤及び/または芳香族系炭化水素溶剤であることを特徴とするボンド磁石用組成物。
【請求項2】
エポキシ樹脂と、磁性粉末と、溶剤とを含有し、前記溶剤を含んだ状態で湿式磁場圧縮成形されるボンド磁石用組成物であって、
前記溶剤は、沸点が150℃以上、300℃以下の範囲内のものであることを特徴とするボンド磁石用組成物。
【請求項3】
前記溶剤は、前記磁性粉末100質量部に対し、5質量部以上、20質量部の範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のボンド磁石用組成物。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂は、前記磁性粉末100質量部に対し、2質量部以上、20質量部以下の範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のボンド磁石用組成物。
【請求項5】
前記溶剤は、前記脂肪族系炭化水素溶剤及び前記芳香族系炭化水素溶剤であり、それらの配合割合が、50:50≦脂肪族系炭化水素溶剤:芳香族系炭化水素溶剤≦90:10であることを特徴とする請求項1に記載のボンド磁石用組成物。
【請求項6】
エポキシ樹脂と、磁性粉末と、溶剤との混合物を、磁場を印加しながら加圧することにより、前記磁性粉末を配向し、また、前記溶剤を排出して圧縮成形体とする湿式磁場圧縮成形工程と、
前記圧縮成形体を加熱する熱硬化工程と
を具備し、
前記溶剤は、脂肪族系炭化水素溶剤及び/または芳香族系炭化水素溶剤であることを特徴とするボンド磁石の製造方法。
【請求項7】
エポキシ樹脂と、磁性粉末と、溶剤との混合物を、磁場を印加しながら加圧することにより、前記磁性粉末を配向し、また、前記溶剤を排出して圧縮成形体とする湿式磁場圧縮成形工程と、
前記圧縮成形体を加熱する熱硬化工程と
を具備し、
前記溶剤は、沸点が150℃以上、300℃以下の範囲内のものであることを特徴とするボンド磁石の製造方法。
【請求項8】
前記混合物は、前記エポキシ樹脂及び前記磁性粉末を混合したボンド磁石材料に前記溶剤を加えて作製したことを特徴とする請求項6または請求項7に記載のボンド磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式磁場圧縮成形されるボンド磁石用組成物及びボンド磁石の製造方法に関するもので、特に、磁性粉末の高充填と高配向度とを両立できるボンド磁石用組成物及びボンド磁石の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気自動車(EV)、ハイブリット車(HEV)等の駆動用の主機モータ等には、ネオジウム焼結磁石が用いられている。しかしながら、ネオジウム焼結磁石に使用されているネオジウムは環境負荷の高いレアメタル(希土類元素)の一種であり、次世代自動車と云われている電気自動車(EV)、ハイブリット車(HEV)、ブラグインハイブリット車(PHV)、燃料電池自動車(FCV)等や、ハードディスクドライブ、ロボット等のモータへの更なる普及を想定すると、需要が急騰していることもあって供給不安の懸念がある。また、ネオジウムは、高価である故、モータの低コスト化の妨げにもなっている。
そこで、ネオジウムの代替材料として、近年、サマリウム鉄(サマ鉄)が注目されている。サマリウムはレアアースに区分されるもののネオジウムを採掘する際の副産物として得られる余剰資源である。
【0003】
ところが、サマリウムは、耐熱性が低いものである。このため、サマリウムを含む磁性粉末は、高温で焼き固める焼結法で成形するのが困難であり、樹脂で固めるボンド磁石の形態で磁石を製造することになる。なお、ボンド磁石とは、磁性粉体と樹脂との混合物を所望の磁石形状に成形して製造されるものであり、その成形方法として圧縮成形法、射出成形法、押出成形法等が知られている。
しかしながら、磁性粉末を樹脂と混合して成形されるボンド磁石は、焼結磁石に比べ形状の自由度を大きくできる一方で、磁性粉末を固める樹脂を含有する分、焼結磁石と比べると、成形体中に占める磁性粉末の割合が低くなることから、磁性等の磁石としての性能に劣る問題がある。
【0004】
そこで、ボンド磁石の磁性特性を高める技術として、例えば、特許文献1がある。特許文献1では、平均粒径が10μm以下の磁性粉末を磁気配向させながら圧縮し、第1成形体を得る第1圧縮工程と、第1成形体と粘度が200mPa・S以下である熱硬化性樹脂とを接触させた後に圧縮し、第2成形体を得る第2圧縮工程と、第2成形体を熱処理する熱処理工程とにより、ボンド磁石の磁気特性を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-109840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1の技術においては、粒子制御によって磁性粉末の充填率を高めるものの、第1圧縮工程では磁気配向させながら磁性粉末のみを圧縮するものであるから、磁性粉末の充填率を上げることができても磁性粉末同士の摩擦が大きくなり、その摩擦の影響で磁性粉末の配向度を高めるにも限度がある。一方で、配向度をより高めるために樹脂量を増やしてしまうと磁性粉末の充填率が低下してしまうことになる。このため、磁気特性の向上に限度がある。また、特許文献1の技術では、磁性粉末の微細化による酸化劣化、磁気特性の低下も懸念される。
【0007】
そこで、本発明は、磁性粉末の配向度の向上及び充填率の向上の両立により、ボンド磁石の磁気特性を向上できるボンド磁石用組成物及びボンド磁石の製造方法の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明のボンド磁石用組成物は、少なくともエポキシ樹脂と、磁性粉末と、脂肪族系炭化水素溶剤及び/または芳香族系炭化水素溶剤とを含み、湿式磁場圧縮成形されるものである。
上記脂肪族系炭化水素溶剤としては、飽和炭化水素(アルカン、シクロアルカン)や不飽和炭化水素(アルケン、アルキン、シクロアルケン、シクロアルキン)が使用できる。
上記芳香族系炭化水素溶剤としては、例えば、テトラメチルベンゼン、トリメチルベンゼン等が使用できる。
【0009】
請求項2の発明のボンド磁石用組成物は、エポキシ樹脂と、磁性粉末と、沸点が150℃以上、300℃以下、好ましくは、150℃以上、250℃以下、より好ましくは、150℃以上、200℃以下、更に好ましくは、155℃以上、200℃以下の範囲内である溶剤とを含み、湿式磁場成形されるものである。
上記沸点が、150℃以上、300℃以下である溶剤としては、好ましくは、非極性溶剤、より好ましくは、脂肪族系炭化水素溶剤や芳香族系炭化水素溶剤が使用され、更に好ましくは、沸点がエポキシ樹脂の硬化温度以上またはエポキシ樹脂の硬化温度より低くてもその差が20℃以下、特に好ましくは、15℃以下の範囲内にあるものである。
【0010】
ここで、上記エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型等のビスフェニル基を有するエポキシ化合物、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型等のノボラック型エポキシ樹脂等が使用できる。
上記磁性粉末としては、例えば、サマリウム・鉄・窒素系(SmFeN系)、サマリウム・コバルト系(SmCo系)、ネオジム・鉄・ボロン系(NdFeB系)等の希土類元素を含む希土類磁性材料や、フェライト材料が使用できる。
また、上記湿式磁場圧縮成形とは、磁性粉末の粒子の周囲に溶剤を配した状態、即ち、磁性粒子を湿らせた状態の湿式状態で磁場を印加しながら加圧して圧縮成形するものであることを意味する。
【0011】
請求項3の発明のボンド磁石用組成物の前記溶剤は、前記磁性粉末100質量部に対し、好ましくは、5質量部以上、20質量部以下、より好ましくは、6質量部以上、18質量部以下、更に好ましくは、8質量部以上、15質量部以下の範囲内であるものである。
【0012】
請求項4の発明のボンド磁石用組成物の前記エポキシ樹脂は、前記磁性粉末100質量部に対し、2質量部以上、20質量部以下、より好ましくは、4質量部以上、15質量部以下、更に好ましくは、5質量部以上、10質量部以下の範囲内であるものである。
【0013】
請求項5の発明のボンド磁石用組成物の前記溶剤は、前記脂肪族系炭化水素溶剤及び前記芳香族系炭化水素溶剤であり、前記脂肪族系炭化水素溶剤と前記芳香族系炭化水素溶剤の配合割合が、好ましくは、50:50≦脂肪族系炭化水素溶剤:芳香族系炭化水素溶剤≦90:10、より好ましくは、60:40≦脂肪族系炭化水素溶剤:芳香族系炭化水素溶剤≦80:20であるものである。
【0014】
請求項6の発明のボンド磁石の製造方法は、湿式磁場圧縮成形工程にて、少なくともエポキシ樹脂と、磁性粉末と、脂肪族系炭化水素溶剤及び/または芳香族系炭化水素溶剤とを含む混合物を、磁場を印加しながら加圧することにより、前記磁性粉末を配向し、また、前記溶剤を排出して圧縮成形体とし、熱硬化工程にて、前記圧縮成形体を加熱することにより前記エポキシ樹脂を熱硬化するものである。
【0015】
請求項7の発明のボンド磁石の製造方法は、湿式磁場圧縮成形工程にて、少なくともエポキシ樹脂と、磁性粉末と、沸点が150℃以上、300℃以下の溶剤とを含む混合物を、磁場を印加しながら加圧することにより、前記磁性粉末を配向し、また、前記溶剤を排出して圧縮成形体とし、熱硬化工程にて、前記圧縮成形体を加熱することにより前記エポキシ樹脂を熱硬化するものである。
【0016】
ここで、上記湿式磁場圧縮成形工程は、磁性粉末及び樹脂に溶剤を配した湿式状態で磁場を印加しながら加圧して圧縮成形するものであり、磁性粉末と樹脂との混合物を溶剤で湿らせた状態で磁場を印加しながら圧縮成形するものであれば、磁性粉末及び樹脂と溶剤との混合物を成形型に投入し、その混合物を磁場の印加状態で圧縮成形してもよいし、磁性粉末及び樹脂を成形型に投入したのち、溶剤を滴下または噴霧してから、磁場の印加状態で圧縮成形してもよい。この湿式磁場圧縮成形工程では、磁場の印加により、磁性粉末を配向し、また、エポキシ樹脂と磁性粉末と溶剤とを含む混合物への加圧により溶剤を排出し(絞り出し)て除去し、磁性粉末の充填性を高める。このとき、溶剤の排出性を高めるために吸引を行ってもよい。
【0017】
請求項8の発明のボンド磁石の製造方法の前記混合物は、少なくとも前記エポキシ樹脂及び前記磁性粉末を混合したボンド磁石材料に対し前記溶剤を添加して作製したものである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明に係るボンド磁石用組成物によれば、エポキシ樹脂と、磁性粉末と、溶剤とを含有し、前記溶剤を含んだ状態で湿式磁場圧縮成形されるものであるから、樹脂及び溶剤中に磁性粉末が分散され磁性粉末の滑り性が向上することで配向度を向上でき、更に、圧縮成形時に溶剤は排出できることにより、磁性粉末の充填率が高まる。よって、磁性粉末の配合量が多くても配向度を高めることができ、磁性粉末の高充填及び高配向度の両立により、ボンド磁石の磁気特性を向上できる。
【0019】
特に、脂肪族系炭化水素溶剤では、エポキシ樹脂との相溶性が低いことにより圧縮成形時における溶剤の排出性を高くでき圧縮成形体に残存し難いことから、その後の圧縮成形体の加熱硬化時にボイドが形成され難く、ボンド磁石の割れや欠け等を生じさせ難いものである。
また、芳香族系炭化水素溶剤では、エポキシ樹脂との相溶性が高いことにより樹脂及び溶剤中の磁性粉末の分散性を高めることができる。よって、磁性粉末の配向度をより高めることが可能である。
【0020】
請求項2の発明に係るボンド磁石用組成物によれば、エポキシ樹脂と、磁性粉末と、溶剤とを含有し、前記溶剤を含んだ状態で湿式磁場圧縮成形されるものであるから、樹脂及び溶剤中に磁性粉末が分散され磁性粉末の滑り性が向上することで配向度を向上でき、更に、圧縮成形時に溶剤は排出できることにより、磁性粉末の充填率が高まる。よって、磁性粉末の配合量が多くても配向度を高めることができ、磁性粉末の高充填及び高配向度の両立により、ボンド磁石の磁気特性を向上できる。
【0021】
特に、溶剤の沸点が150℃以上、300℃以下であるから、湿式磁場圧縮成形後の圧縮成形体の熱硬化時に残存溶剤が揮発してボイドを形成し難いことによりボンド磁石の割れや欠け等を生じさせ難いものである。
【0022】
請求項3の発明に係るボンド磁石用組成物によれば、前記溶剤は、前記磁性粉末100質量部に対し、5質量部以上、20質量部以下の範囲内であるから、磁性粉末の分散性と湿式磁場圧縮成形時の溶剤の排出性の両立により、請求項1または請求項2に記載の効果に加えて、ボンド磁石の高配向度と高強度とを両立できる。
【0023】
請求項4の発明に係るボンド磁石用組成物によれば、前記エポキシ樹脂は、前記磁性粉末100質量部に対し、2質量部以上、20質量部以下の範囲内であるから、磁性粉末の高充填性と高接着性により、請求項1または請求項2に記載の効果に加えて、ボンド磁石の高強度及び高い磁性特性を両立できる。
【0024】
請求項5の発明に係るボンド磁石組成物によれば、前記溶剤は、前記脂肪族系炭化水素溶剤及び前記芳香族系炭化水素溶剤であり前記脂肪族系炭化水素溶剤と前記芳香族系炭化水素溶剤の配合割合が、50:50≦脂肪族系炭化水素溶剤:芳香族系炭化水素溶剤≦90:10であるから、請求項1に記載の効果に加えて、ボンド磁石を高配向度にでき、かつ、ボンド磁石の割れ等が生じ難くボンド磁石を高強度にできるものである。
【0025】
請求項6の発明に係るボンド磁石の製造方法によれば、湿式磁場圧縮成形工程でエポキシ樹脂と、磁性粉末と、溶剤との混合物を、磁場を印加しながら加圧することにより、前記磁性粉末を配向し、また、前記溶剤を排出して圧縮成形体とし、熱硬化工程で前記圧縮成形体を加熱して樹脂を熱硬化させるものである。
よって、エポキシ樹脂及び磁性粉末のボンド磁石材料が溶剤を含んだ状態で湿式磁場圧縮成形されるものであるから、樹脂及び溶剤中に磁性粉末が分散され磁性粉末の滑り性が向上することで配向度を向上でき、更に、圧縮成形時に溶剤は排出できることにより、磁性粉末の充填率が高まる。よって、磁性粉末の配合量が多くても配向度を高めることができ、磁性粉末の高充填及び高配向度の両立により、ボンド磁石の磁気特性を向上できる。
【0026】
特に、脂肪族系炭化水素溶剤では、エポキシ樹脂との相溶性が低いことにより圧縮成形時における溶剤の排出性を高くでき圧縮成形体に残存し難いことから、その後の圧縮成形体の加熱硬化時にボイドが形成され難く、ボンド磁石の割れや欠け等を生じさせ難いものである。
また、芳香族系炭化水素溶剤では、エポキシ樹脂との相溶性が高いことにより樹脂及び溶剤中の磁性粉末の分散性を高めることができる。よって、磁性粉末の配向度をより高めることが可能である。
【0027】
請求項7の発明に係るボンド磁石の製造方法によれば、湿式磁場圧縮成形工程でエポキシ樹脂と、磁性粉末と、溶剤との混合物を、磁場を印加しながら加圧することにより、前記磁性粉末を配向し、また、前記溶剤を除去して圧縮成形体とし、熱硬化工程で前記圧縮成形体を加熱して樹脂を熱硬化させるものである。
よって、エポキシ樹脂及び磁性粉末のボンド磁石材料が溶剤を含んだ状態で湿式磁場圧縮成形されるものであるから、樹脂及び溶剤中に磁性粉末が分散され磁性粉末の滑り性が向上することで配向度を向上でき、更に、圧縮成形時に溶剤は排出できることにより、磁性粉末の充填率が高まる。よって、磁性粉末の配合量が多くても配向度を高めることができ、磁性粉末の高充填及び高配向度の両立により、ボンド磁石の磁気特性を向上できる。
【0028】
特に、溶剤の沸点が150℃以上、300℃以下であるから、湿式磁場圧縮成形後の圧縮成形体の熱硬化時に残存溶剤が揮発してボイドを形成し難いことによりボンド磁石の割れや欠け等を生じさせ難いものである。
【0029】
請求項8の発明に係るボンド磁石の製造方法によれば、前記混合物は、エポキシ樹脂及び磁性粉末を混合したボンド磁石材料に対し前記溶剤を混合して作製したものであるから、磁性粉末の分散性を向上できることにより、請求項6または請求項7に記載の効果に加えて、ボンド磁石の配向度の向上を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は本発明の実施の形態に係るボンド磁石の製造工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について説明する。
まず、本発明の実施の形態に係るボンド磁石の製造方法について説明する。
初めに、ボンド磁石材料である樹脂組成物及び磁性粉末と、溶剤とを準備する材料準備工程(ステップS10)を実施する。
【0032】
ボンド磁石材料である樹脂組成物は、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂及び硬化剤を含むものである。
エポキシ樹脂は、一般に、1分子中にエポキシ基(オキシラン環)を2個以上有し、硬化剤によって3次元化した硬化物を与える化合物である。例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールS型、ビスフェノールAD型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型等のビスフェニル基を有するエポキシ化合物、ポリアルキレングリコール型、アルキレングリコール型等のエポキシ化合物、ナフタレン環を有するエポキシ化合物、フルオレン基を有するエポキシ化合物等の二官能型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型等のノボラック型エポキシ樹脂、多官能グリシジルエーテル、テトラフェニロールエタン型等の多官能型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ダイマー酸等の合成脂肪酸のグリシジルエステル型エポキシ樹脂、N,N,N′,N′-テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)、テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、トリグリシジル-p-アミノフェノール、N,N-ジグリシジルアニリン等のグリシジルアミノ基を有する芳香族エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、トリシクロデカン環を有するエポキシ化合物(例えば、ジシクロペンタジエンとm-クレゾールのようなクレゾール類またはフェノール類を重合させた後、エピクロルヒドリンを反応させる製造方法によって得られるエポキシ化合物)、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、ソルビトール型エポキシ樹脂、ポリグリセロール型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、ジアリールスルホン型エポキシ樹脂、ペンタエリスリトール型エポキシ樹脂、トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂等がある。更に、エポキシ樹脂として、ウレタン変性エポキシ樹脂、ダイマー酸変性、ゴム変性等の変性エポキシ樹脂を用いることも可能である。こうしたエポキシ樹脂は、2種以上を組み合わせて使用することも可能である。中でも、汎用エポキシ樹脂であるビスフェノールA型が一般的に好ましく使用され、常温で液体のものが好適に使用される。
【0033】
熱硬化性樹脂の中でもエポキシ樹脂は、磁性粉末との混合時の作業性や金型への充填時の流動性を良くでき、また、ボンド磁石において高い機械的強度を発揮でき、磁気特性の向上と機械的強度の両立を可能とするものである。
【0034】
硬化剤としては、通常、エポキシ樹脂の硬化に用いられるもの、即ち、エポキシ基と反応する活性基を有するものであればよく、例えば、ジシアンジアミド、ポリアミノアミド、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、2-n-ヘプタデシルイミダゾール等のイミダゾール系化合物、アジピン酸ジヒドラジド、ステアリン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、二塩基酸ヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等の有機酸ヒドラジド系化合物、N,N-ジアルキル尿素誘導体やN,N-ジアルキルチオ尿素誘導体等の尿素系化合物、テトラヒドロ無水フタル酸等の酸無水物、セミカルバジド、シアノアセトアミド、ジアミノジフェニルメタン、脂肪族や芳香族の3級アミン、ポリアミン、イソホロンジアミン、m-フェニレンジアミン等のアミン系化合物、3-アミノ-1,2,4-トリアゾール等のアミノトリアゾール、N-アミノエチルピペラジン、メラミン類、アセトグアナミンやベンゾグアナミン等のグアナミン類、グアニジン類、ジメチルウレア類、三フッ化ホウ素錯化合物、三塩化ホウ素錯化合物、ルイス酸錯体、ポリメルカプタン、トリスジメチルアミノメチルフェノール等の液状フェノール、ポリチオール、トリフェニルホスフィン、ケチミン化合物、スルホニウム塩、オニウム塩、フェノールノボラック樹脂のフェノール樹脂等がある。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。中でも、成形性の観点から、室温ではエポキシ樹脂と化学反応せず熱により活性化されるジシアンジアミド、イミダゾール化合物、有機酸ヒドラジド等の分散型の潜在性硬化剤が好適である。より好ましくは、エポキシ樹脂中に微粉末の状態で分散させる保存安定性等の観点から、熱溶解反応型であるジシアンジアミド(ポリエポキシド付加変性物、アミド化変性物、マンニッヒ化変性物、ミカエル付加変性物等の誘導体を含む)が使用される。ジシアンジアミドであれば、熱によって硬化剤成分が溶解・活性化するものであり、160~180℃の温度条件でエポキシ樹脂を硬化できる。なお、硬化剤の配合量は、例えば、ジシアンジアミド等のアミン類であれば、そのアミン当量とエポキシ当量を基に設定される。
【0035】
また、硬化時間の短縮や硬化温度を降下させてエポキシ樹脂と硬化剤との化学反応を促進させる硬化促進剤を配合してもよい。硬化促進剤としては、例えば、ウレア系(ジメチル尿素等)、イミダゾール系(アルキル基置換イミダゾール、ベンゾイミダゾール系等)、リン系、アミン系、トリフェニルホスフィン等が使用できる。
【0036】
更に、こうしたエポキシ樹脂及び硬化剤を含む樹脂組成物に、必要に応じ、加工助剤、例えば、樹脂の硬化開始剤(例えば、グラブス触媒、ジハロゲン、アゾ化合物等)、希釈剤(反応性希釈剤等、未反応性希釈剤)、カップリング剤(Si系、Ti系、Al系等)、充填剤(例えば、シリカ、マイカ、ウィスカ、タルク、炭素繊維、ガラス繊維等)、安定剤・抗酸化剤・酸化防止剤(例えば、ヒンダードアミン系、フェノール系、ホスファイト系、チオエーテル系等)、難燃剤(例えば、臭素系難燃剤、リン系難燃剤、水和金属化合物系難燃剤、シリコーン系難燃剤、窒素含有化合物、ヒンダードアミン化合物、有機金属化合物、芳香族エンプラ等)、潤滑剤(例えば、パラフィンワックス、流動パラフィン、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、エステルワックス、カルナウバ、マイクロワックス等のワックス類、ステアリン酸、1,2-オキシステアリン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、オレイン酸等の脂肪酸類、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ラウリン酸カルシウム、リノール酸亜鉛、リシノール酸カルシウム、2-エチルヘキソイン酸亜鉛等の脂肪酸金属塩(金属石鹸類)、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘン酸アミド、パルミチン酸アミド、ラウリン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、ジステアリルアジピン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ジオレイルアジピン酸アミド、N-ステアリルステアリン酸アミド等脂肪酸アミド類、ステアリン酸ブチル等の脂肪酸エステル、エチレングリコール、ステアリルアルコール等のアルコール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、及びこれら変性物からなるポリエーテル類、ジメチルポリシロキサン、シリコングリース等のポリシロキサン類、弗素系オイル、弗素系グリース、含弗素樹脂粉末といった弗素化合物、窒化珪素、炭化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、二酸化珪素、二硫化モリブデン等の無機化合物粉体)、増粘剤、離型剤、紫外線吸収剤、流動助剤、添加剤等を配合してもよい。
こうした樹脂組成物の材料は、例えば、DIC社製エピクロン4050、三菱ケミカル社製JER7007P等の市販品を使用することもできる。
【0037】
ボンド磁石材料である磁性粉末としては、例えば、希土類、金属系、フェライト系が使用される。
希土類磁性粉末としては、希土類元素と遷移金属元素を含有する希土類-遷移金属系磁性材料粉末が使用できる。希土類元素としては、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)等が挙げられ、一方、遷移金属元素としては、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)等が挙げられ、これら群のそれぞれから1種または2種以上が選択される。遷移金属元素では、上記以外にクロム(Cr)、バナジウム(V)、銅(Cu)を含有していてもよい。特に好ましい希土類元素は、NdまたはSmであり、遷移金属元素は、FeまたはCoである。例えば、サマリウム・コバルト系(SmCo5、Sm2(Co0.7・Fe0.317等)磁粉、ネオジム・鉄・ボロン系(Nd2Fe14B等)磁粉、サマリウム・鉄・窒素系(Sm2Fe173等)磁粉等が使用される。これら希土類-遷移金属系磁性粉の表面に、無機燐酸、無機燐酸化合物、シラン系カップリング剤、シリカ系化合物、チタン系カップリング剤、トリアジンチオール誘導体等の表面処理剤により被膜が形成されたものを使用してもよい。こうした希土類磁粉は、例えば、急冷凝固法により製造されたものを用いてもよいし、HDDR(Hydrogenatio Disproportionation Desorption Recombination)法により製造されたものを用いてもよい。
【0038】
フェライト系磁性粉末としては、バリウムフェライト(BaO・6Fe23)、ストロンチウムフェライト(SrO・6Fe23)等が使用される。
金属系磁性粉末としては、アルニコ系(Al+Ni+Co+Cu+Fe等)、鉄、クロム、コバルト等がある。
これら磁性粉は、1種のみを用いてもよいし、所望とする磁気特性に合わせ2種以上を混合して用いてもよい。そして、磁気異方性を有する磁性粉末の使用によりボンド磁石の高い磁気特性が得られる。
特に、希土類磁性粉末は、酸素を含まないで鉄やコバルト等を含有するので磁化が大きく、更に、レアアース元素によって保磁力が強いため最大エネルギー積を高くできることで好ましい。中でも、サマリウム・鉄・窒素系(SmFeN系)磁粉は、希少金属を含有せず、耐熱性が高いことで、高温環境下の使用で高い磁性特性が得られる点で好適であり、また、ネオジウム・鉄・ボロン系(NeFeB系)磁粉は、低コストで高い磁性特性が得られる点で好適である。
【0039】
こうした磁性粉末の形状は特に限定されず、球状、扁平形状等があり、例えば、平均粒径が1~500μmの範囲内、好ましくは、1~200μm、より好ましくは、1~10μmの範囲内のものが使用される。
なお、磁性粉末の表面に予めエポキシ樹脂等を被覆した複合磁石粉末を用いることも可能である。
【0040】
そして、本実施の形態において、これら樹脂組成物及び磁性粉末に混合される溶剤には、有機溶剤の脂肪族系炭化水素溶剤及び/または芳香族系炭化水素溶剤が使用される。
脂肪族系炭化水素溶剤は、一般的に石油精製装置から製造される直留型石油系溶剤製品に分類され、非芳香族性の炭素と水素のみで構成される脂肪族化合物、即ち、鎖状または環状の非芳香族性の炭化水素であり、飽和または不飽和、直鎖または分枝、鎖式または環式は特に問われず、飽和炭化水素(アルカン、シクロアルカン)または不飽和炭化水素(アルケン、アルキン、シクロアルケン、シクロアルキン)の何れであってもよい。樹脂組成物及び磁性粉末に混合される脂肪族系炭化水素溶剤としては、例えば、ノナンや、炭素数が10~14のアルカン等が含まれる市販のオクサゾール(登録商標)S(オクサリスケミカルズ株式会社製)、炭素数が20以上のノルマルパラフィンが含まれるカクタスノルマルパラフィン(ENEOS株式会社製、N-10~N-14シリーズ)等のパラフィン系炭化水素等が使用できる。
芳香族系炭化水素溶剤は、芳香族性を示す単環または縮合環から構成されるものであり、例えば、テトラメチルベンゼン、トリメチルベンゼンや、市販のオクサゾール(登録商標)Aシリーズ(オクサリスケミカルズ株式会社製)、市販のT-SOLシリーズ(ENEOS株式会社製)等が使用できる。
特に、取扱性、安全性等の観点から、市販のオクサゾール(登録商標)やトリメチルベンゼン等が好適に使用される。
こうした溶剤としては、好ましくは、沸点が150℃以上、300℃以下、より好ましくは、150℃以上、250℃以下、更に好ましくは、150℃以上、200℃以下、特好ましくは、155℃以上、200℃以下の範囲内のものが使用される。
【0041】
次に、本実施の形態においては、材料準備工程(ステップS10)で準備した、エポキシ樹脂(以下、単に「樹脂」と称する場合もある)及び硬化剤を含む樹脂組成物と、磁性粉末と、溶剤とを混合(混練)してペースト状のボンド磁石用組成物(混練材)を作製する混合工程(ステップS20)を実施する。
【0042】
このとき、磁性粉末100質量部に対して、エポキシ樹脂が、好ましくは、2~20質量部、より好ましくは、4~15質量部、更に好ましくは、5~10質量部の範囲内で配合する混合とする。
エポキシ樹脂の配合量が少なすぎると、ボンド磁石の割れ、欠け等が生じやすく機械的強度が低下する一方、エポキシ樹脂の配合量が多すぎる場合には、相対的に磁性粉末の充填率が低下することにより磁気特性が低下する。
エポキシ樹脂の配合が上記範囲内であれば、ボンド磁石の割れ、欠け等が生じ難い機械的強度及び高い磁気特性を確保できる。
【0043】
また、磁性粉末100質量部に対して、溶剤が、好ましくは、5~20質量部、より好ましくは、6~18質量部、更に好ましくは、8~15質量部の範囲内で配合する混合とする。
溶剤の配合量が多すぎる場合には、後述する湿式磁場圧縮成形において溶剤の排出性が低下して圧縮成形体に溶剤が多く残存することにより、樹脂硬化時の加熱工程でボイドを生じやすく、ボンド磁石の割れ、欠け等が生じやすくなる。一方で、溶剤の配合量が少なすぎる場合には、磁性粉末同士の摩擦が大きくなることで、磁性粉末の配向度が低下する。
溶剤の配合が上記範囲内であれば、ボンド磁石の割れ、欠け等が生じ難い機械的強度及び高い磁性特性を確保できる。
【0044】
エポキシ樹脂及び硬化剤を含む樹脂組成物と、磁性粉末と、溶剤との混合(混練)には、例えば、擂潰機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、ニーダールーダー、単軸押出機、二軸押出機、ミル、V型混合機、リボン型混合機、ダブルコーン型混合機、ミキシングシェーカー、タンブラーミキサー、ナウターミキサー、ロータリーミキサー、フラッシュミキサー、タンブラー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等の混合機(混練機)が使用できる。
【0045】
エポキシ樹脂及び硬化剤を含む樹脂組成物と、磁性粉末と、溶剤とを混合(混練)してボンド磁石用組成物(混練材)を作製する混合工程(ステップS20)においては、例えば、エポキシ樹脂及び硬化剤を含む樹脂組成物と、磁性粉末とを混合機で混合(混練)し、それらの混合物に溶剤を加えて混合機で混合(混練)することにより、それらボンド磁石材料及び溶剤が均一に分散して混合(混練)されたボンド磁石用組成物(混練材)が作製される。このとき、脂肪族系炭化水素溶剤及び芳香族系炭化水素溶剤の両方を使用する場合には、好ましくは、脂肪族系炭化水素溶剤及び芳香族系炭化水素溶剤を混合して混合溶剤とし、その混合溶剤を樹脂組成物及び磁性粉末の混合物に混合する。
特に、このようにエポキシ樹脂及び硬化剤を含む樹脂組成物と磁性粉末とを混合(混練)し、それら混合物に溶剤を加えて混合(混練)するものでは、磁性粉末及びエポキシ樹脂の分散性が良くなり、配向度を高めることができる。
【0046】
本実施の形態では、樹脂組成物及び磁性粉末に溶剤を混合することにより流動性が向上し、樹脂が磁性粉末の粒子間に充填されて薄くかつ均一に磁性粉末の粒子を被覆できる。
特に、芳香族系炭化水素溶剤は、エポキシ樹脂との相溶性に優れることで、磁性粉末の粒子間に芳香族系炭化水素溶剤と共に、エポキシ樹脂を介入させて、磁性粒子表面にエポキシ樹脂を付着させやすくできることにより、磁性粒子の凝集を抑制し(解砕し)、分散性を高めることができる。
【0047】
続いて、混合工程(ステップS20)で作製したボンド磁石用組成物を、常温下(室温下)において、磁場中で、即ち、磁界を印加しながら、圧縮成形し、圧縮成形体(ボンド磁石成形体)とする湿式磁場圧縮成形工程(ステップS30)を実施する。
エポキシ樹脂及び硬化剤を含む樹脂組成物と磁性粉末と溶剤とを混合してなるボンド磁石用組成物(混練材)を磁場圧縮成形装置(例えば、メカ式冷間プレス機等)の成形部の金型に投入し、金型の周囲に設けた配向磁場印加部によって金型内のボンド磁石用組成物に対し磁場を印加し、その状態で成形部によってボンド磁石用組成物を圧縮成形する。即ち、金型内のボンド磁石用組成物に対し配向磁界をかけながら圧縮成形する。
特に、本実施の形態のペースト状のボンド磁石用組成物は、樹脂組成物及び磁性粉末に溶剤を加えたことにより流動性が良好であり、金型への充填性も良いものである。
【0048】
ボンド磁石用組成物の磁場圧縮成形を行う磁場圧縮成形装置は、例えば、ボンド磁石用組成物を加圧し圧縮成形するための金型やパンチ等を備えた成形部と、ボンド磁石用組成物を金型内に充填する定量フィーダ等の供給部と、金型内に充填されたボンド磁石用組成物に配向磁場を印加する配向磁場印加部等から構成されている。
【0049】
配向磁場印加部は、金型周囲に磁場を印加するための磁極及び磁極に旋回されたコイルまたは永久磁石を有し、コイルまたは永久磁石に印加した電流に基づいて磁界を生じるものであり、この磁界により、金型内のボンド磁石用組成物に含まれている磁性粉末が配向される。なお、磁極の磁気やコイルまたは永久磁石の印加電流の向き、大きさ等の制御により磁性粉末の配向を制御可能である。磁性粉末を十分に配向するために、例えば、240~1600kA/m、好ましくは、240~1200kA/m、より好ましくは400~800kA/mの配向磁場が印加される。このときの磁場の印加は、静磁場であってもよいしパルス方式のものであってもよい。
【0050】
成形部の金型は、目的とする磁石形状に応じて設計され、非磁性体であり、磁場を通すものである。
金型に充填されたボンド磁石用組成物を圧縮成形する成形圧力は、例えば、500~2500MPa、好ましくは、1000~2500MPa、より好ましくは、1400~2000MPaである。当該範囲内であれば、余剰溶剤が排出されやすく、また、磁性粉末の充填率が高まり、高磁束密度及び高強度が得られやすい。このときの圧縮成形体の密度は、磁性粉末の粒子の真密度(例えば、ネオジム鉄ボロン系磁粉の合金真密度は7.6g/cm3程度)に対して、好ましくは、70%以上とし、好ましくは、75%以上とする。これより磁気特性が高く、かつ、機械強度が高いボンド磁石成形体が得られる。
なお、このときの圧縮成形は、室温での成形(冷間成形)が好ましいが、樹脂の硬化開始温度及び溶剤の沸点よりも低い温度での温間成形であってもよい。
【0051】
金型内に充填され配向磁場によって磁性粉末が配向されたボンド磁石用組成物(混練材)は、成形部のパンチ等により加圧されることにより、磁性粉末の配向を維持したまま余剰溶剤(液状成分)が絞り出され、圧縮成形(磁石材料が固定)される。
即ち、磁場を掛けながらボンド磁石用組成物の圧縮成形を行うことで、ボンド磁石用組成物中の磁性粉末を配向させると共に、加圧によりボンド磁石用組成物中の余剰溶剤(液状成分)が絞り出され、除去される。
このとき、余剰溶剤を効率的に除去するために、吸引を行ってもよい。
何れにせよ、本実施の形態では、溶剤を揮発させる温度で加熱を行うことなく、加圧や吸引によりボンド磁石用組成物中の余剰溶剤を排出することにより、溶剤の揮発によるボイド形成等を生じさせることなく余剰溶剤を除去し、圧縮成形体の割れ、欠け等が生じ難いものとしている。
なお、樹脂は、磁性粒子間に残り、硬化後に粒子間を結合するバインダとして機能する。
【0052】
特に、本実施の形態では、樹脂組成物及び磁性粉末に溶剤を含めた状態で磁場をかけながら圧縮成形を行う湿式磁場成形であり、磁性粉末の周囲や磁性粉末の粒子間にエポキシ樹脂及び溶剤が介在していることにより、磁性粉末の充填率を高めても磁性粉末の粒子同士の摩擦が少なくて磁性粉末の粒子が回転等の運動がしやすく、磁場の印加により配向される磁性粉末の粒子の配向度を高くすることができる。
【0053】
そして、本実施の形態では、磁場配向下においてボンド磁石樹脂組成物を加圧成形することにより、加圧による磁性粉末の磁気配向の乱れが抑制され、磁界の印加により磁性粉末の磁場配向が維持されながら余剰溶剤が絞り出され、磁性粉末の充填率が高められる。また、磁場の印加による磁性粉末の回転等の運動がしやすいことで、脱気されやすくて気泡の排出性も良く、磁性粉末の充填性をより高めることができるものでもある。よって、高い寸法精度の成形を可能とする。
【0054】
こうして、本実施の形態においては、磁性粉末の粒子の周囲に溶剤を含む湿潤状態でボンド磁石樹脂組成物に磁界を印加して磁性粉末を配向しながら加圧成形することで、磁性粉末の粒子同士の摩擦が少なくて磁性粉末の粒子が回転等の運動がしやすいことにより磁性粉末の配向度を高めることができると共に、ボンド磁石樹脂組成物の加圧成形でボンド磁石樹脂組成物中の溶剤が排出されることにより、磁性粉末の充填率が高まる。また、加圧時に成形するボンド磁石組成物から溶剤が絞り出されるものであるから、金型との摩擦も少なく、金型を損傷し難いものでもある。
【0055】
殊に、芳香族系炭化水素溶剤であれば、上述したように、エポキシ樹脂との相溶性に優れることで、磁性粉末の粒子の凝集を解してその粒子間にエポキシ樹脂及び溶剤を介在できることにより、即ち、磁性粉末の粒子の分散性を高くできることにより、磁性粉末の粒子の配向度をより高めることができる。
【0056】
また、脂肪族系炭化水素溶剤によれば、エポキシ樹脂との相溶性が低いことによりボンド磁石用組成物の加圧時に容易に排出されて除去されやすい。よって、圧縮成形体に残存し難く、後述する樹脂の硬化時の加熱でボイドを形成し難いことにより、成形性、機械的強度の高いボンド磁石の形成を可能とする。
【0057】
続いて、湿式磁場圧縮成形工程(ステップS30)で成形された圧縮成形体(ボンド磁石成形体)を金型から抜き出し、オーブン等で熱処理する熱硬化工程(ステップS40)を実施することにより、樹脂を硬化させた着磁前ボンド磁石(脱磁・減磁)を得る。
エポキシ樹脂であれば、例えば、120℃~250℃、好ましくは、150℃~200℃の範囲内で20~60分程度保持することで硬化する。当該温度範囲内であれば、樹脂の硬化が十分に進行し、樹脂の酸化も抑えられ、ボンド磁石の強度を確保できる。
このときの加熱手段は、特に限定されないが、例えば、電気、赤外線、高周波等がある 。
【0058】
磁性粉末の酸化を防止するため、減圧雰囲気(1kPa以下)またはアルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で加熱してもよい。
例えば、希土類系磁石粉末として酸化されやすいネオジム・鉄・ボロン系(NdFeB系)の急冷合金磁石粉末を採用する場合には、好ましくは、熱処理雰囲気は10Pa以下の減圧雰囲気中、より好ましくは、真空度1Pa以下の真空中や、アルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中等の非酸化性雰囲気下で加熱処理される。
【0059】
特に、エポキシ樹脂を含む樹脂組成物及び磁性粉末に混合する溶剤として、エポキシ樹脂の硬化温度よりも沸点が高いまたはエポキシ樹脂の硬化温度より沸点が低くてもその差が20℃以下、より好ましくは15℃以下の範囲内にある150℃以上、300℃以下の沸点の溶剤を使用すれば、エポキシ樹脂を熱硬化させる150℃~250℃の加熱処理で、圧縮成形体に溶剤が残存していても、その残存溶剤の沸騰、揮発によるボイド(気泡)が生じ難いことで、ボンド磁石の割れや欠け等が生じ難い。よって、成形性、機械的強度の高いボンド磁石を得ることができる。
【0060】
殊に、脂肪族系炭化水素溶剤によれば、エポキシ樹脂との相溶性が低いことにより加圧時に容易に排出されて除去されるから、圧縮成形体に残存し難いことにより、エポキシ樹脂を熱硬化する加熱処理を行ってもボンド磁石の割れや欠け等を生じさせ難いものである。
【0061】
こうして、熱硬化工程(ステップS40)でエポキシ樹脂を熱硬化する加熱により得られた着磁前ボンド磁石は、脱磁・減磁状態のものである。
最後に、樹脂が硬化された着磁前ボンド磁石を磁場中で着磁する着磁工程(ステップS50)を実施することによりボンド磁石となる。
このときの着磁は、静磁場を発生する電磁石、パルス磁場を発生するコンデンサー着磁器等の公知の方法によって配向方向に磁場を加えることにより行われる。着磁における磁場強度(磁界の強さ)は、例えば、1.2MA/m以上、好ましくは、2.4MA/m~4000kA/m、磁束密度は、好ましくは、1T~36T、より好ましくは、1T~12T、更に好ましくは、3T~8Tに設定される。当該範囲内であれば、ヒートショック等による磁石割れを生じることなく十分に着磁できる。
【0062】
こうして、本実施の形態では、樹脂組成物及び磁性粉末に脂肪族系炭化水素溶剤及び/または芳香族系炭化水素溶剤を混合(混練)してペースト状のボンド磁石用組成物を作製し、所定の溶剤を含んだボンド磁石用組成物を磁場をかけながら加圧して圧縮成形を行うことにより、磁性粉体の粒子周囲に溶剤及び樹脂を配した状態で配向を行い、また、加圧により余剰溶剤を絞り出して排出、除去して成形する(固める)湿式磁場圧縮成形を行い、その後、加熱してエポキシ樹脂を硬化させ、更に着磁することでボンド磁石を製造するものである。
【0063】
即ち、本実施の形態では、樹脂組成物及び磁性粉末に脂肪族系炭化水素溶剤及び/または芳香族系炭化水素溶剤を混合(混練)して作製したボンド磁石用組成物(混練材)をプレス金型中に充填した後、磁場を印加し、更に、加圧して余剰溶剤(液状成分)を絞り出しながら湿式磁場圧縮成形することで圧縮成形体(ボンド磁石成形体)を得て、その後、圧縮成形体を金型から取り出し、加熱して圧縮成形体中のエポキシ樹脂を硬化させることで着磁前ボンド磁石を得る。着磁前ボンド磁石は着磁することでボンド磁石となる。
【0064】
このように、本実施の形態においては、樹脂組成物及び磁性粉末に脂肪族系炭化水素溶剤及び/または芳香族系炭化水素溶剤を含んだ状態で湿式磁場圧縮成形するものあり、溶剤の混合により磁性粉末の周囲を湿潤にできることで、磁性粉末同士の摩擦が少なく磁性粉末が運動(回転等)しやすいことにより、磁性粉末の配向度が高まる。
つまり、溶剤を含んだ状態のペースト状のボンド磁石用組成物を磁場を印加しながら加圧して圧縮成形することにより、磁性粉体の粒子周囲に溶剤及び樹脂を配した状態で配向を行うことになるから、磁性粉体の粒子同士で互いに回転(配向)が阻害されることなく磁性粉体粒子の滑り性が良いことで、磁性粉末の配向度が高まるものである。
【0065】
溶剤を含めない乾式の状態で磁場成形を行う場合には、磁性粉末同士の摩擦が大きいことにより配向度の向上に限度があるのに対し、本実施の形態では、樹脂組成物及び磁性粉末に脂肪族系炭化水素溶剤及び/または芳香族系炭化水素溶剤を混合し溶剤を含めた湿潤状態(湿式状態)で磁場の印加を行うものであり、磁性粉末の粒子周囲に溶剤及び樹脂が存在することにより、磁性粉体の粒子同士の摩擦が少なく、磁性が回転等して配向する滑り性が良くて、配向度を高めることができる。
【0066】
特に、樹脂組成物及び磁性粉末に脂肪族系炭化水素溶剤及び/または芳香族系炭化水素溶剤を混合(混練)してペースト状のボンド磁石用組成物とすることにより、溶剤の添加によって適度な流動性が付与され、磁性粉末の粒子の間に樹脂及び溶剤が充填され磁性粉末の粒子に樹脂が被覆されることにより、磁性粉末の粒子の分散性が高いものである。よって、磁性粉末の粒子が回転等しやすく磁性粉末の配向度を高めることができる。
したがって、エポキシ樹脂量を増やすことなく磁性粉量が多い状態でも、ボンド磁石の配向度を高めることができる。
【0067】
殊に、芳香族系炭化水素溶剤によれば、エポキシ樹脂との相溶性に優れることで、磁性粉末の粒子の凝集を解してその粒子間にエポキシ樹脂組成物及び溶剤を介在させやすいことにより、磁性粉末の粒子の分散性を高くでき、また、磁性粉末の粒子の分散状態を安定して維持できる。よって、磁性粉末の凝集を防止でき、貯蔵安定性も高くできる。更に、磁性粉末の粒子の分散性を高くできることにより磁性粉末の配向度を向上できる。
【0068】
また、樹脂組成物及び磁性粉末に脂肪族系炭化水素溶剤及び/または芳香族系炭化水素溶剤を含んだ状態のボンド磁石用組成物に対し、磁場を印加しながら加圧により圧縮成形するものであるから、ボンド磁石用組成物中の溶剤は加圧によって排出される。
よって、磁性粉末及び樹脂組成物に溶剤を含んでも、磁場印加で磁性粉末の粒子の配向を維持した状態での加圧により、溶剤が除去され磁性粉の充填率が高まり、磁性粉末同士が均一に樹脂により結着される。
したがって、ボンド磁石の強度を低下させることなく、ボンド磁石の高配向度と磁性粉の高充填率が両立され、磁束密度と保持力の向上により磁気特性が向上される。
【0069】
特に、本実施の形態では、溶剤を加熱により揮発させて除去するものではなく、沸点が150℃以上、300℃以下の溶剤を樹脂組成物及び磁性粉末に混合し、湿式磁場圧縮成形において、加圧による絞り出しによって溶剤を系外に排出し、除去するものであるから、加熱による溶剤の揮発によるボイドが生じ難いものである。また、ボンド磁石用組成物に対する加圧により溶剤が排出されると共に、圧縮で磁性粉末の充填率が高まることで、溶剤が除去されても磁性粉末間に空隙が生じ難く、磁性粉末間を樹脂が充填し結着する。また、樹脂組成物及び磁性粉末に溶剤を混合して湿式磁場圧縮成形したのち、樹脂を硬化させる加熱を行っても、エポキシ樹脂の硬化時に溶剤の揮発によるボイドが生じ難いものである。よって、樹脂組成物及び磁性粉末に溶剤を混合して湿式磁場圧縮成形し、更に樹脂を硬化させる温度で加熱して得られたボンド磁石は、割れや欠け等が少なく、機械的強度の高いものである。
【0070】
殊に、樹脂組成物及び磁性粉末に脂肪族系炭化水素溶剤を混合した場合には、脂肪族系炭化水素溶剤とエポキシ樹脂との相溶性が低いことにより、湿式磁場圧縮成形での加圧時に容易に脂肪族系炭化水素溶剤が排出されて除去されるから、ボンド磁石成形体に脂肪族系炭化水素溶剤が残存し難く、磁性粉末の充填性を高めることもできる。そして、ボンド磁石成形体に脂肪族系炭化水素溶剤が残存し難いことにより、湿式磁場成形後に加熱し樹脂を硬化させるときでも、脂肪族系炭化水素溶剤の揮発によるボイドが生じ難く、また、樹脂が溶出し難い。よって、ボンド磁石の割れ、欠けを生じさせ難いものである。
【0071】
更に、150℃以上、300℃以下の沸点を有する溶剤であれば、エポキシ樹脂を硬化させる温度、例えば、150℃~250℃の加熱温度で沸騰してボイド(気泡)を生じ難いことにより、ボンド磁石の割れ、欠けをより生じさせ難いものである。
【0072】
加えて、樹脂組成物及び磁性粉末に芳香族系炭化水素溶剤を混合した場合には、上述したように、芳香族系炭化水素溶剤がエポキシ樹脂との相溶性に優れることで、磁性粉末の粒子の分散性を高くでき、磁性粉末の粒子の配向度をより高めることができる。
即ち、磁性粉末は、微細であり、また、N極同士またはS極同士の吸引力により、凝集が生じやすいところ、そのような凝集状態では、磁場を印加しても配向度が上がり難いものであるが、芳香族系炭化水素溶剤の使用によれば、エポキシ樹脂との相溶性に優れることで、磁性粉末の粒子間に芳香族系炭化水素溶剤及びエポキシ樹脂を浸透させて、磁性粉末を一次粒子の状態まで解砕し、磁性粒子の凝集を防止できることにより、配向度をより高めることが可能である。
【0073】
こうして、本実施の形態によれば、磁性粉体の粒子周囲に溶剤及び樹脂を配した状態で磁場を印加するから、磁性粉体粒子同士の摩擦で互いに回転(配向)が阻害されることなく磁性粉体粒子の滑り性が良いことで、配向度を向上でき、かつ、磁場を印加した状態で加圧して圧縮成形を行い加圧により溶剤が排出されることで、磁性粉末の充填率が高められる。よって、エポキシ樹脂量を増やすことなく磁性粉量が多い状態でも、ボンド磁石の配向度を高めることができ、磁性粉末の高充填及び高配向度の両立により、磁気特性を向上できる。
【0074】
即ち、樹脂及び磁性粉末を溶剤で湿らせた状態で磁場を印加しながら圧縮成形するものでは、樹脂及び溶剤中に磁性粉末が分散されて磁性粉末の滑り性が向上する。よって、磁性粉末の配向度を上げることができる。また、溶剤は圧縮成形時に排出でき、圧縮成形時の溶剤の排出により磁性粉体は高充填になる。このため、磁性粉体を多量にしても溶剤の添加による湿潤状態での湿式磁場圧縮成形であることにより、磁性粉体同士の摩擦が大きくならず配向度を高くできるうえ、磁性粉体を高充填できる。よって、磁性粉体の高充填及び高配向度による磁気特性の優れたボンド磁石が得られる。
【0075】
殊に、芳香族系炭化水素溶剤によれば、エポキシ樹脂との相溶性に優れることで、磁性粉末の粒子の分散性を高くできる。よって、磁性粉末の粒子の配向度をより高めることができる。
【0076】
また、脂肪族系炭化水素溶剤によれば、エポキシ樹脂との相溶性が低いことで、加圧時に容易に排出されて除去されるから、圧縮成形体(ボンド磁石成形体)に残存し難く、磁性粉末の充填性をより高めることができる。そして、圧縮成形体に残存し難いことにより、湿式磁場圧縮成形後に加熱して樹脂を硬化させるときでも、ボイドを形成したり、樹脂を溶出させたりし難いから、ボンド磁石の割れや欠け等を生じさせ難いものである。したがって、ボンド磁石の割れや欠け等を防止して高い機械的強度を確保しつつ、磁性粉末の高充填及び高配向度の両立を可能として、磁気特性を向上できる。
【0077】
更に、エポキシ樹脂の硬化温度以上またはエポキシ樹脂の硬化温度より低くてもその差が20℃以下の範囲内にある150℃以上、300℃以下の沸点を有する溶剤であれば、エポキシ樹脂を硬化させる温度、例えば、150℃~250℃の加熱温度でも、沸騰してボイドを生じさせ難いことにより、ボンド磁石の割れや欠け等をより生じさせ難いものである。したがって、ボンド磁石の高強度を確保しつつ、磁性粉末の高充填及び高配向度の両立を可能とし、磁気特性を向上できる。
【0078】
そして、このように樹脂及び磁性粉末に溶剤を含んだボンド磁石組成物を磁場を印加しながら加圧することによりボンド磁石用組成物中の磁性粉末を配向し、かつ、ボンド磁石組成物を圧縮成形すると共に、ボンド磁石用組成物中の溶剤を排出し、その後、加熱により樹脂を硬化させ、更に、着磁して得られる本実施の形態のボンド磁石は、配向度={ボンド磁石の磁気強さ(Br)/ボンド磁石の比重}/{磁性粉末100%での磁気強さ/磁性粉末の比重}×100で表されるその配向度が、好ましくは、70%以上、より好ましくは、75%、更に好ましくは、80%以上、特に好ましくは、85%以上であり、また、磁性粉末の体積充填率が、好ましくは、61vol%以上、より好ましくは、62vol%以上、更に好ましくは、63vol%以上、より好ましくは、64vol%以上であり、磁性粉末の高充填及び高配向度が両立し、残留磁束密度が十分に高いものである。
こうした磁性粉末の充填率及び配向度が高い本実施の形態のボンド磁石は、その保持磁力が、好ましくは、200kA/M以上、より好ましくは、2400kA/M以上、更に好ましくは、2500kA/M以上であり、また、残留磁束密度は、好ましくは、0.80T以上、より好ましくは、1.00T以上、更に好ましくは、1.05T以上であり、減磁が生じ難く広範囲な用途に適用できるものである。
【0079】
次に、本実施の形態のボンド磁石用組成物及びそれを用いて作製したボンド磁石の実施例について、具体的に説明する。
本実施例では、まず材料準備工程(ステップS10)で、液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂及び硬化剤としてのジシアンジアミド(DICY)を含む樹脂組成物を作製し、また、脂肪族系炭化水素溶剤や芳香族系炭化水素溶剤(100:0≦脂肪族系炭化水素溶剤:芳香族系炭化水素溶剤≦0:100)と、磁性粉末としてサマリウム・鉄・窒素系(SmFeN系)磁粉を準備し、続いて、エポキシ樹脂及び硬化剤を含む樹脂組成物と、サマリウム・鉄・窒素系磁粉と、溶剤とを混合(混練)してボンド磁石用組成物(混練材)を作製する混合工程(ステップS20)を実施した。
【0080】
実施例1では、脂肪族系炭化水素溶剤(パラフィン系炭化水素であるイソパラフィン・ノルマルパラフィン混合溶剤)であるオクサゾール(登録商標)S(オクサリスケミカルズ社製,沸点:150℃~200℃、C10~C14のアルカン及びノナンを含む)を用い、混合工程(ステップS20)において、エポキシ樹脂及び硬化剤を含む樹脂組成物とサマリウム・鉄・窒素系磁粉を擂潰機で混合し、更に、脂肪族系炭化水素溶剤を加えて擂潰機で混合することにより、エポキシ樹脂及び硬化剤を含む樹脂組成物と、サマリウム・鉄・窒素系磁粉と、脂肪族系炭化水素溶剤とからなるペースト状のボンド磁石用組成物(混練材)を作製した。
【0081】
実施例2では、脂肪族系炭化水素溶剤であるオクサゾール(登録商標)S(実施例1と同じ)と、芳香族系炭化水素溶剤である1,2,4-トリメチルベンゼン(沸点:169℃)とを75:25の配合割合で用い、混合工程(ステップS20)において、エポキシ樹脂及び硬化剤を含む樹脂組成物とサマリウム・鉄・窒素系磁粉を擂潰機で混合してボンド磁石材料混合物とし、また、脂肪族系炭化水素溶剤及び芳香族系炭化水素溶剤を擂潰機で混合して混合溶剤とし、ボンド磁石材料混合物と混合溶剤を擂潰機で混合することにより、エポキシ樹脂及び硬化剤を含む樹脂組成物と、サマリウム・鉄・窒素系磁粉と、脂肪族系炭化水素溶剤及び芳香族系炭化水素溶剤とからなるペースト状のボンド磁石用組成物(混練材)を作製した。
【0082】
実施例3では、脂肪族系炭化水素溶剤であるオクサゾール(登録商標)S(実施例1と同じ)と、芳香族系炭化水素溶剤である1,2,4-トリメチルベンゼン(実施例2と同じ)とを50:50の配合割合で用い、混合工程(ステップS20)において、エポキシ樹脂及び硬化剤を含む樹脂組成物とサマリウム・鉄・窒素系磁粉を擂潰機で混合してボンド磁石材料混合物とし、また、脂肪族系炭化水素溶剤及び芳香族系炭化水素溶剤を擂潰機で混合して混合溶剤とし、ボンド磁石材料混合物と混合溶剤を擂潰機で混合することにより、エポキシ樹脂及び硬化剤を含む樹脂組成物と、サマリウム・鉄・窒素系磁粉と、脂肪族系炭化水素溶剤及び芳香族系炭化水素溶剤とからなるペースト状のボンド磁石用組成物(混練材)を作製した。
【0083】
実施例4では、脂肪族系炭化水素溶剤であるオクサゾール(登録商標)S(実施例1と同じ)と、芳香族系炭化水素溶剤である1,2,4-トリメチルベンゼン(実施例2と同じ)とを25:75の配合割合で用い、混合工程(ステップS20)において、エポキシ樹脂及び硬化剤を含む樹脂組成物とサマリウム・鉄・窒素系磁粉を擂潰機で混合してボンド磁石材料混合物とし、また、脂肪族系炭化水素溶剤及び芳香族系炭化水素溶剤を擂潰機で混合して混合溶剤とし、ボンド磁石材料混合物と混合溶剤を擂潰機で混合することにより、エポキシ樹脂及び硬化剤を含む樹脂組成物と、サマリウム・鉄・窒素系磁粉と、脂肪族系炭化水素溶剤及び芳香族系炭化水素溶剤とからなるペースト状のボンド磁石用組成物(混練材)を作製した。
【0084】
実施例5では、芳香族系炭化水素溶剤である1,2,4-トリメチルベンゼン(実施例2と同じ)を用い、エポキシ樹脂及び硬化剤を含む樹脂組成物とサマリウム・鉄・窒素系磁粉を擂潰機で混合し、更に芳香族系炭化水素溶剤を添加して擂潰機で混合することにより、混合工程(ステップS20)において、エポキシ樹脂及び硬化剤を含む樹脂組成物と、芳香族系炭化水素溶剤と、サマリウム・鉄・窒素系磁粉とからなるペースト状のボンド磁石用組成物(混練材)を作製した。
【0085】
続いて、混合工程(ステップS20)で作製した各ボンド磁石用組成物(混練材)を金型に入れ、磁場を印加しながら加圧を行う湿式磁場圧縮成形工程(ステップS30)の実施により、ボンド磁石用組成物の磁性粉末の配向、溶剤の排出、及び圧縮成形を行った。
次に、湿式磁場圧縮成形工程(ステップS30)で得られた圧縮成形体(ボンド磁石成形体)を金型から取り出し、熱硬化工程(ステップS40)で170℃で30分間加熱することによりエポキシ樹脂を硬化させ、脱磁・減磁された着磁前ボンド磁石を得た。そして、着磁工程(ステップS50)で着磁前ボンド磁石の着磁を行うことにより、希土類系ボンド磁石を得た。
【0086】
また、比較のために、溶剤を配合しないボンド磁石用組成物を用いて希土類系ボンド磁石を作製した。
即ち、比較例1では、実施例と同じエポキシ樹脂及び硬化剤を含む樹脂組成物と、実施例と同じサマリウム・鉄・窒素系磁粉とを擂潰機で混合することにより、エポキシ樹脂及び硬化剤を含む樹脂組成物とサマリウム・鉄・窒素系磁粉とからなり溶剤を含まない粉状のボンド磁石用組成物(混練材)を作製した。
続いて、実施例のときと同様、作製した粉状のボンド磁石用組成物(混練材)を金型に入れ、磁場を印加しながら加圧することにより、ボンド磁石用組成物の磁性粉末の配向及び圧縮成形を行った。即ち、比較例1においては、溶剤を含まない粉状のボンド磁石用組成物(混練材)の磁場圧縮成形であり、乾式の磁場圧縮成形である。そして、実施例と同様、得られたボンド磁石成形体は金型から取り出し、170℃で30分間加熱することによりエポキシ樹脂を硬化させ、脱磁・減磁された着磁前ボンド磁石とし、更に、着磁を行って比較例1に係る希土類系ボンド磁石を得た。
【0087】
更に、比較例2として、溶剤として沸点が80℃であるメチルエチルケトン(MEK)を使用したボンド磁石用組成物を作製し、そのボンド磁石用組成物から希土類系ボンド磁石を作製した。
即ち、比較例2では、エポキシ樹脂及び硬化剤を含む樹脂組成物とサマリウム・鉄・窒素系磁粉を擂潰機で混合し、更に、メチルエチルケトンを加えて擂潰機で混合することにより、エポキシ樹脂及び硬化剤を含む樹脂組成物と、サマリウム・鉄・窒素系磁粉と、メチルエチルケトンとからなるペースト状のボンド磁石用組成物(混練材)を作製した。続いて、実施例のときと同様、作製したペースト状のボンド磁石用組成物(混練材)を金型に入れ、磁場を印加しながら加圧を行うことにより、ボンド磁石用組成物の磁性粉末の配向、溶剤の排出、及び圧縮成形を行った。そして、実施例と同様、得られたボンド磁石成形体を金型から取り出し、170℃で30分間加熱することによりエポキシ樹脂を硬化させ、脱磁・減磁された着磁前ボンド磁石とし、更に、着磁を行って比較例2に係る希土類系ボンド磁石を得た。
【0088】
このようにして得られた各実施例及び比較例の希土類系ボンド磁石について、目視で割れを確認し、また、配向度を測定した。
割れについては、各実施例及び比較例の希土類系ボンド磁石について5個ずつ作製したうちの割れが生じた個数を調べた。
また、配向度は、各実施例及び比較例の希土類系ボンド磁石について、5個ずつ作製し、それぞれのB-Hトレーサーで測定されたBH特性から残留持続密度Brを算出し、配向度={ボンド磁石の磁気強さ(Br)/ボンド磁石の比重}/{磁性粉末100%での磁気強さ/磁性粉末の比重}×100の式により求めた。
【0089】
各実施例及び比較例のボンド磁石用組成物の樹脂、磁粉、及び溶剤の配合量(質量部)を表1の上段に示し、また、ボンド磁石用組成物から作製された希土類系ボンド磁石を5個ずつ作製したうちの割れの数、及び、5個の平均の配向度について算出した結果を表1の下段に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
表1に示したように、溶剤を用いないで乾式の磁場成形によって希土類系ボンド磁石を作製した比較例1においては割れが生じていないものの、配向度が68.8%とかなり低いものであった。
比較例1では、溶剤を含んでおらず、磁場圧縮成形においてエポキシ樹脂及び硬化剤を含む樹脂組成物とサマリウム・鉄・窒素系磁粉とのボンド磁石材料が乾式状態にあることにより、磁性粉末同士の摩擦が大きく磁性粉末粒子の回転等が生じ難いことで、配向度が低くなったものと考えられる。
【0092】
また、沸点が80℃であるメチルエチルケトンを含んだボンド磁石用組成物を湿式磁場圧縮成形して作製した比較例2の希土類系ボンド磁石においては、配向性は良好であるものの、5個作製したうちの3個に割れが生じており強度に劣るものであった。
これは、比較例2のメチルエチルケトンを含んだボンド磁石用組成物においては、メチルエチルケトンがエポキシ樹脂と相溶性が高いことにより湿式磁場圧縮成形の過程で溶剤が排出し難くて成形体に残存しやすいうえ、メチルエチルケトンの沸点がエポキシ樹脂の硬化温度(約170℃)よりもかなり低いことで、エポキシ樹脂を硬化させる加熱によって、圧縮成形体に残存しているメチルエチルケトンが沸騰、気化することでボイド(気泡)を形成したり、樹脂を溶出させたりし、それにより割れが多く生じたものと考えられる。
【0093】
これに対し、沸点が150℃以上である脂肪族系炭化水素溶剤及び/または芳香族系炭化水素溶剤を含んだボンド磁石用組成物を湿式磁場圧縮成形して作製した実施例1乃至実施例5の希土類系ボンド磁石においては、何れも、割れが生じた個数が5個中1個または0個であり強度が高く成形性が向上しているうえ、配向度も74.0%以上と高いものであった。
【0094】
実施例1乃至実施例5では、脂肪族系炭化水素溶剤及び/または芳香族系炭化水素溶剤を含んだ湿式状態でエポキシ樹脂及び硬化剤を含む樹脂組成物とサマリウム・鉄・窒素系磁粉とのボンド磁石材料を磁場成形したことにより、溶剤の混合による流動性の向上によって磁性粉末の粒子が分散されると共に、磁性粉末の粒子の周囲に樹脂及び溶剤が存在することで磁粉同士の滑り性が良くなり磁粉同士の摩擦が小さいことにより磁性粉末が配向しやすくなったためと考えられる。また、磁場を印加しながら加圧していることによりその高い配向度が維持されるものと考える。これより、ボンド磁石の高い配向度が得られたものと推測される。
更に、実施例1乃至実施例5の脂肪族系炭化水素溶剤や芳香族系炭化水素溶剤を含んだボンド磁石用組成物においては、脂肪族系炭化水素溶剤や芳香族系炭化水素溶剤の沸点が150℃以上であることにより、樹脂を熱硬化させる過程で溶剤の揮発によるボイドが形成され難く、また、溶剤に樹脂が溶出し難いことで、割れが生じ難くなっているものと考えられる。
【0095】
特に、本発明者らの実験研究によれば、脂肪族系炭化水素溶剤の比率を高くすると、割れが生じ難い傾向にあった。これは、脂肪族系炭化水素溶剤は、エポキシ樹脂との相溶性が低いことで、湿式磁場圧縮成形時の加圧、吸引で溶剤が排出されて除去されやすく成形体に残存し難いことにより、成形体の樹脂の熱硬化過程で、残存溶剤の揮発によるボイド形成等に起因する割れが生じ難くなっているものと考えられる。
【0096】
一方、芳香族系炭化水素溶剤の比率を高くすると、配向度が向上する傾向にあった。これは、芳香族系炭化水素溶剤は、脂肪族系炭化水素溶剤よりもエポキシ樹脂との相溶性が高いことで、磁性粉末の粒子間にエポキシ樹脂及び溶剤が介在しやすく、磁性粉末の粒子を解砕して凝集を防止し粒子の分散性を高めることができることにより、磁性粉末の粒子が回転等しやすくなり配向度が高められるものと考えられる。
【0097】
好ましくは、脂肪族系炭化水素溶剤及び芳香族系炭化水素溶剤の混合溶剤の使用により、配向度の向上と成形性、即ち、割れ難い強度とを両立できる。より好ましくは、50:50≦脂肪族系炭化水素溶剤:芳香族系炭化水素溶剤≦95:5である。
【0098】
こうして本実施例のボンド磁石によれば、沸点が150℃以上の脂肪族系炭化水素溶剤及び/または芳香族系炭化水素溶剤を含んだ湿式状態でエポキシ樹脂及び硬化剤を含む樹脂組成物とサマリウム・鉄・窒素系磁粉とのボンド磁石材料を磁場の印加状態で圧縮成形したことにより、配向度が高く、かつ、機械的強度、成形性が高いものである。特に、エポキシ樹脂及び硬化剤を含む樹脂組成物とサマリウム・鉄・窒素系磁粉のボンド磁石材料に沸点が150℃以上の脂肪族系炭化水素溶剤及び/または芳香族系炭化水素溶剤を混合してその湿潤状態で磁場を印加することにより配向度を高めるものであり、また、余剰溶剤は圧縮成形時の加圧で排出できるから、磁性粉末の充填量も高いものとなる。即ち、磁性粉末が高配向度で、かつ、高充填のものとなる。なお、本発明者らの実験研究によれば、比較例1の磁性粉末の充填率が60vol%であるのに対し、実施例1乃至実施例5では、磁性粉末の充填率が64vol%以上であることを確認している。また、磁場(磁界)も2400kA/m~2700kA/mと高いものであることを確認している。
よって、本実施例のボンド磁石は、磁束密度(磁気の強さ)及び保磁力(磁石の安定性)といった磁気特性が高いものである。
【0099】
ところで、上記実施例では、湿式磁場圧縮成形工程において、磁性粉末及び樹脂組成物の混合物に溶剤を添加、混合してから、湿式状態で磁場を印加しながら加圧する圧縮成形としたが、本発明を実施する場合には、磁性粉末を溶剤で湿らせてから樹脂組成物と混合してもよいし、樹脂を溶剤で湿らせて樹脂組成物を作製し、それに磁性粉末を混合してもよい。また、本発明を実施する場合には、エポキシ樹脂及び硬化剤を含む樹脂組成物と磁性粉末と溶剤との混合物を成形型に投入して、磁場の印加状態で圧縮成形してもよいし、磁性粉末及び樹脂を成形型に投入したのち、溶剤を滴下または噴霧してから、磁場の印加状態で圧縮成形してもよい。
【0100】
また、上記実施例では、酸化し難く、鉄よりも高価なCoを使用していないことにより安価に入手できるSmFeN系磁性粉末を用いた。しかし、本発明を実施する場合には、SmFeN系磁性粉末に限定されず、SmCo系、NdFeB系等の希土類磁性粉末や、フェライト磁性粉末等を使用してもよい。
【0101】
以上説明してきたように、上記実施の形態のボンド磁石用組成物は、エポキシ樹脂と、磁性粉末と、溶剤とを含有し、溶剤を含んだ状態で湿式磁場圧縮成形されるボンド磁石用組成物であって、溶剤が、脂肪族系炭化水素溶剤及び/または芳香族系炭化水素溶剤の非極性溶剤であるものである。
よって、磁性粉末が溶剤によって湿った状態で湿式磁場圧縮成形されるものであるから、樹脂及び溶剤中に磁性粉末が分散され磁性粉末の滑り性が向上することで配向度を向上でき、更に、圧縮成形時に溶剤は排出(分離、除去)できることにより、磁性粉末の充填率が高められる。よって、磁性粉末の配合量が多くても配向度を高めることができ、磁性粉末の配向度の向上及び充填率の向上の両立により、ボンド磁石の磁気特性を向上できる。
【0102】
特に、脂肪族系炭化水素溶剤では、エポキシ樹脂との相溶性が低いことにより圧縮成形時における溶剤の排出性を高くでき圧縮成形体に残存し難いことから、その後の圧縮成形体の加熱硬化時にボイドを形成し難くボンド磁石の割れや欠け等を生じさせ難いものである。よって、ボンド磁石の強度、成形性を高めることができる。
また、芳香族系炭化水素溶剤では、エポキシ樹脂との相溶性が高いことにより樹脂及び溶剤中の磁性粉末の分散性を高めることができる。よって、磁性粉末の配向度をより高めることが可能である。
【0103】
そして、脂肪族系炭化水素溶剤及び前記芳香族系炭化水素溶剤の併用である場合には、
ボンド磁石の高配向度と高強度とを両立でき、脂肪族系炭化水素溶剤と芳香族系炭化水素溶剤の配合割合が、50:50≦脂肪族系炭化水素溶剤:芳香族系炭化水素溶剤≦90:10であると、ボンド磁石の高配向度と高強度とを安定して両立できる。
【0104】
また、上記実施の形態のボンド磁石用組成物は、エポキシ樹脂と、磁性粉末と、溶剤とを含有し、溶剤を含んだ状態で湿式磁場圧縮成形されるボンド磁石用組成物であって、溶剤は、沸点が150℃以上、300℃以下の範囲内のものである。
よって、磁性粉末が溶剤によって湿った状態で湿式磁場圧縮成形されるものであるから、樹脂及び溶剤中に磁性粉末が分散され磁性粉末の滑り性が向上することで配向度を向上でき、更に、圧縮成形時に溶剤は排出できることにより、磁性粉末の充填率が高められる。よって、磁性粉末の配合量が多くても配向度を高めることができ、磁性粉末の配向度の向上及び充填率の向上の両立により、ボンド磁石の磁気特性を向上できる。
【0105】
特に、溶剤の沸点が150℃以上、300℃以下であるから、湿式磁場圧縮成形後の圧縮成形体の熱硬化時に残存溶剤が揮発してボイドを形成し難いことによりボンド磁石の割れを生じさせ難いものである。よって、ボンド磁石の強度、成形性を高めることができる。
【0106】
また、上記実施の形態において、溶剤が、磁性粉末100質量部に対し、5質量部以上、20質量部以下の範囲内での配合であれば、磁性粉末の高分散性、磁場成形時の高配向性と湿式磁場圧縮成形時の溶剤の高排出性の両立により、ボンド磁石の高配向度と高強度とを両立できる。
【0107】
更に、エポキシ樹脂が、磁性粉末100質量部に対し、2質量部以上、20質量部以下の範囲内の配合であれば、磁性粉末の高充填性と高接着性により、ボンド磁石の高強度及び高い磁性特性を両立できる。
【0108】
また、上記説明は、エポキシ樹脂と、磁性粉末と、溶剤との混合物を、磁場を印加しながら加圧することにより、磁性粉末を配向し、また、溶剤を排出(分離、除去)して圧縮成形体(ボンド磁石成形体)とする湿式磁場圧縮成形工程と、圧縮成形体を加熱しエポキシ樹脂を熱硬化する熱硬化工程とを具備し、溶剤が、脂肪族系炭化水素溶剤及び/または芳香族系炭化水素溶剤であるボンド磁石の製造方法の発明と捉えることもできる。
【0109】
上記実施の形態のボンド磁石の製造方法によれば、湿式磁場圧縮成形工程でエポキシ樹脂と、磁性粉末と、溶剤との混合物を、磁場を印加しながら加圧することにより、磁性粉末を配向し、また、溶剤を排出して圧縮成形体とし、熱硬化工程で圧縮成形体を加熱しエポキシ樹脂を熱硬化するものである。
よって、磁性粉末が溶剤によって湿った状態で湿式磁場圧縮成形されるものであるから、樹脂及び溶剤中に磁性粉末が分散され磁性粉末の滑り性が向上することで配向度を向上でき、更に、圧縮成形時に溶剤は排出できることにより、磁性粉末の充填率が高められる。よって、磁性粉末の配合量が多くても配向度を高めることができ、磁性粉末の配向度の向上及び充填率の向上の両立により、ボンド磁石の磁気特性を向上できる。
【0110】
特に、脂肪族系炭化水素溶剤では、エポキシ樹脂との相溶性が低いことにより圧縮成形時における溶剤の排出性を高くでき圧縮成形体に残存し難いから、その後の圧縮成形体の加熱硬化時にボイドを形成し難くボンド磁石の割れや欠け等を生じさせ難いものである。よって、ボンド磁石の強度、成形性を高めることができる。
また、芳香族系炭化水素溶剤では、エポキシ樹脂との相溶性が高いことにより樹脂及び溶剤中の磁性粉末の分散性を高めることができる。よって、磁性粉末の配向度をより高めることが可能である。
【0111】
更に、上記説明は、エポキシ樹脂と、磁性粉末と、溶剤との混合物を、磁場を印加しながら加圧することにより、磁性粉末を配向し、また、溶剤を排出(分離、除去)して圧縮成形体とする湿式磁場圧縮成形工程と、圧縮成形体を加熱しエポキシ樹脂を熱硬化する熱硬化工程とを具備し、溶剤が、沸点が150℃以上、300℃以下の範囲内であるものであるボンド磁石の製造方法の発明と捉えることもできる。
【0112】
上記実施の形態のボンド磁石の製造方法によれば、湿式磁場圧縮成形工程でエポキシ樹脂と磁性粉末と溶剤との混合物を磁場を印加しながら加圧することにより、磁性粉末を配向し、また、溶剤を排出して圧縮成形体とし、熱硬化工程で圧縮成形体を加熱しエポキシ樹脂を熱硬化するものである。
よって、磁性粉末が溶剤によって湿った状態で湿式磁場圧縮成形されるものであるから、樹脂及び溶剤中に磁性粉末が分散され磁性粉末の滑り性が向上することで配向度を向上でき、更に、圧縮成形時に溶剤は排出できることにより、磁性粉末の充填率が高められる。よって、磁性粉末の配合量が多くても配向度を高めることができ、磁性粉末の配向度の向上及び充填率の向上の両立により、ボンド磁石の磁気特性を向上できる。
【0113】
特に、溶剤の沸点が150℃以上、300℃以下であるから、湿式磁場圧縮成形後の圧縮成形体の熱硬化時に残存溶剤が揮発してボイドを形成し難いことによりボンド磁石の割れ、欠け等を生じさせ難いものである。よって、ボンド磁石の強度、成形性を高めることができる。
【0114】
また、上記実施の形態のボンド磁石の製造方法において、エポキシ樹脂及び磁性粉末を混合したボンド磁石材料に対し溶剤を混合したものでは、磁性粉末の分散性を向上できることにより、磁性粉末の配向性の向上を可能とする。
【0115】
そして、上記実施の形態では、ボンド磁石用組成物を湿式磁場で圧縮成形してボンド磁石を製造するものであり、こうした圧縮成形法では、射出成形法等のように流動性を確保するために樹脂を多く添加しなくてよいことにより磁性粉末の充填率をより高めることができるもので、磁気特性を高めることができるものである。
【0116】
なお、ボンド磁石は、成形加工性に優れ、形状自由度が高く、薄肉形状、複雑な形状にも成形できるものである。特に、焼結磁石では製造時に1000℃前後の加熱を要するのに対し、ボンド磁石においては製造時に高温に加熱する必要がないことで、ボンド磁石は樹脂バインダーの介在により焼結磁石に比べて靱性が向上し、割れや欠け等が生じ難く機械的特性や寸法精度が高いものとなり、量産性にも優れるものである。また、ボンド磁石では、磁石粉末同士の間に絶縁体である樹脂が存在しているため、電気抵抗を高くできる。
【0117】
上記実施の形態のボンド磁石は、自動車、一般家電製品、通信・音響機器、医療機器、一般産業機器等に至る幅広い分野で使用でき、永久磁石、例えば、電気自動車(EV)、ハイブリット車(HEV)、ブラグインハイブリット車(PHV)、燃料電池自動車(FCV)等の各種モータ(主機モータ、補機モータ等)や、ハードディスクドライブ(HDD)、ロボット等のモータ等に使用できる。特に、ハイブリット車(HEV)等やハードディスクドライブ(HDD)等に用いられる高速回転モータ等の高い磁石強度が要求される用途にも好適に使用できる。
【0118】
ところで、上記実施の形態では、エポキシ樹脂と、磁性粉末と、溶剤とを混合して作製したボンド磁石用組成物を、直接、磁場の印加状態で圧縮成形する湿式磁場圧縮成形に供する説明としたが、本発明を実施する場合には、磁場の印加状態で圧縮成形する湿式磁場圧縮成形の前工程で、エポキシ樹脂と、磁性粉末と、溶剤とを混合して作製したボンド磁石用組成物を圧縮成形する予備成形してボンド磁石用コンパウンドとし、ボンド磁石用コンパウンドを湿式磁場圧縮成形工程(ステップS30)で磁場の印加状態で圧縮成形してもよい。即ち、混合工程(ステップS20)で作製したボンド磁石用組成物(混練材)を磁場印加しないで圧縮成形する予備成形を行って予備圧縮成形体であるボンド磁石用コンパウンドを作製し、作製されたボンド磁石用コンパウンドに対し湿式磁場圧縮成形を行う湿式磁場圧縮成形工程(ステップ40)を実施してもよい。
【0119】
なお、本発明を実施するに際しては、ボンド磁石用組成物やボンド磁石のその他の部分の組成、成分、配合量、ボンド磁石用組成物やボンド磁石の製造方法のその他の工程について、本実施の形態に限定されるものではない。また、本発明の実施の形態で挙げている数値は、臨界値を示すものではなく、実施に好適な適正値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。
図1