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特開2024-117268溶接トーチボディおよびガス供給ノズル
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  • 特開-溶接トーチボディおよびガス供給ノズル 図1
  • 特開-溶接トーチボディおよびガス供給ノズル 図2
  • 特開-溶接トーチボディおよびガス供給ノズル 図3
  • 特開-溶接トーチボディおよびガス供給ノズル 図4
  • 特開-溶接トーチボディおよびガス供給ノズル 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117268
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】溶接トーチボディおよびガス供給ノズル
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/29 20060101AFI20240822BHJP
   F23D 14/40 20060101ALI20240822BHJP
   F23D 14/54 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
B23K9/29 L
F23D14/40
F23D14/54 C
B23K9/29 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023270
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武井 優子
【テーマコード(参考)】
3K017
4E001
【Fターム(参考)】
3K017CB02
3K017CD01
4E001LB06
4E001LH02
4E001MA03
4E001NA01
(57)【要約】
【課題】トーチボディ本体に固定されるベース領域の口径に比べガス供給ノズルの先端側の口径は小さいが、シールド範囲の縮小の抑制を可能とするガス供給ノズルを備える溶接トーチボディおよびガス供給ノズルを提供する。
【解決手段】この溶接トーチボディ1に用いられるガス供給ノズル11は、トーチボディ本体に固定され、外周面において、軸a1からの半径距離が一定に設けられたベース領域120と、一定の厚さt1を有し、ベース領域120から先端に向かうに従って徐々に軸a1からの半径距離が小さくなる先細り領域110と、を含み、先細り領域110の開口領域h1には、その内周面が、軸a1からの半径距離が一定であるストレート領域140が設けられている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスシールドアーク溶接に用いられる溶接トーチボディであって、
軸方向に延びるトーチボディ本体と、
前記トーチボディ本体の先端側に位置し、前記軸方向に沿って配置されるコンタクトチップと、
前記コンタクトチップを取り囲むように設けられ、先端部に開口領域が形成されたガス供給ノズルと、
を備え、
前記ガス供給ノズルは、
前記トーチボディ本体に固定され、外周面において、前記軸からの半径距離が一定に設けられたベース領域と、
一定の厚さを有し、前記ベース領域から前記先端に向かうに従って徐々に前記軸からの半径距離が小さくなる先細り領域と、
を含み、
前記先細り領域の前記開口領域には、その内周面が、前記軸からの半径距離が一定であるストレート領域が設けられている、
溶接トーチボディ。
【請求項2】
前記ストレート領域の後端側の境界線の位置よりも、前記コンタクトチップの先端の方が先端側に位置している、
請求項1に記載の溶接トーチボディ。
【請求項3】
前記先細り領域の長さT2とし、
前記軸方向に沿った前記ストレート領域の幅をTとした場合、
T2/Tは3.8以上10.0以下である、
請求項2に記載の溶接トーチボディ。
【請求項4】
前記軸周りにおける前記ストレート領域の内径をD3とし、
前記軸周りにおける前記ベース領域の内径をD5した場合、
D5/D3は1.3以上1.8以下である、
請求項2に記載の溶接トーチボディ。
【請求項5】
ガスシールドアーク溶接に用いられるガス供給ノズルであって、
外周面において、軸からの半径距離が一定に設けられたベース領域と、
前記ベース領域から前記先端に向かうに従って徐々に前記軸からの半径距離が小さくなる先細り領域と、
を含み、
前記先細り領域の開口領域には、その内周面が、前記軸からの半径距離が一定であるストレート領域が設けられ、
前記先細り領域の長さT2とし、前記軸方向に沿った前記ストレート領域の幅をTとした場合、T2/Tは3.8以上10.0以下であり、
前記軸周りにおける前記ストレート領域の内径をD3とし、前記軸周りにおける前記ベース領域の内径をD5した場合、D5/D3は1.3以上1.8以下である、
ガス供給ノズル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消耗電極アーク溶接トーチに使用される溶接トーチボディおよびガス供給ノズルの構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶接トーチボディの先端に装着されるガス供給ノズルは、特開2003-136244号公報(特許文献1)に開示されるようなその内面の全体がストレート構造、または、ガスを集約させるためにガス供給ノズルの先端を絞った構造が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-136244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シールド範囲を拡大させるためにガス供給ノズル先端の口径を拡大させた場合には、溶接対象によって(隅肉、重ね、開先等)適切なトーチ角度やチップ-母材間距離を保つことが困難になる。
【0005】
他方、ガス供給ノズルの先端を絞った構造は、ワークにガス供給ノズルの先端を近づけることは容易になる。しかし、シールド範囲が狭くなるために、ウィービングやチップ-母材間距離の変動といった外的要因に対するアークの保護が不十分になり、溶接欠陥を生じやすくなるおそれがある。
【0006】
この開示は、上記相反する課題を解決するためになされたものであり、トーチボディ本体に固定されるベース領域の口径に比べガス供給ノズルの先端側の口径は小さいが、シールド範囲の縮小の抑制を可能とする溶接トーチボディおよびガス供給ノズルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]本開示の溶接トーチボディにおいては、ガスシールドアーク溶接に用いられる溶接トーチボディであって、軸方向に延びるトーチボディ本体と、上記トーチボディ本体の先端側に位置し、上記軸方向に沿って配置されるコンタクトチップと、上記コンタクトチップを取り囲むように設けられ、先端部に開口領域が形成されたガス供給ノズルと、を備え、上記ガス供給ノズルは、上記トーチボディ本体に固定され、外周面において、上記軸からの半径距離が一定に設けられたベース領域と、一定の厚さを有し、上記ベース領域から上記先端に向かうに従って徐々に上記軸からの半径距離が小さくなる先細り領域と、を含み、上記先細り領域の上記開口領域には、その内周面が、上記軸からの半径距離が一定であるストレート領域が設けられている。
【0008】
[2]:[1]に記載の溶接トーチボディにおいて、上記ストレート領域の後端側の境界線の位置よりも、上記コンタクトチップの先端の方が先端側に位置している。
【0009】
[3]:[2]に記載の溶接トーチボディにおいて、上記先細り領域の長さT2とし、上記軸方向に沿った上記ストレート領域の幅をTとした場合、T2/Tは3.8以上10以下である。
【0010】
[4]:[2]に記載の溶接トーチボディにおいて、上記軸周りにおける上記ストレート領域の内径をD3とし、上記軸周りにおける上記ベース領域の内径をD5した場合、D5/D3は1.3以上1.8以下である。
【0011】
[5]本開示のガス供給ノズルは、ガスシールドアーク溶接に用いられるガス供給ノズルであって、外周面において、軸からの半径距離が一定に設けられたベース領域と、前記ベース領域から前記先端に向かうに従って徐々に前記軸からの半径距離が小さくなる先細り領域と、を含み、前記先細り領域の開口領域には、その内周面が、前記軸からの半径距離が一定であるストレート領域が設けられ、前記先細り領域の長さT2とし、前記軸方向に沿った前記ストレート領域の幅をTとした場合、T2/Tは3.8以上10.0以下であり、前記軸周りにおける前記ストレート領域の内径をD3とし、前記軸周りにおける前記ベース領域の内径をD5した場合、D5/D3は1.3以上1.8以下である。
【発明の効果】
【0012】
本開示の溶接トーチボディおよびガス供給ノズルによれば、トーチボディ本体に固定されるベース領域の口径に比べガス供給ノズルの先端側の口径は小さいが、シールド範囲の縮小の抑制を可能とするガス供給ノズルを備える溶接トーチボディおよびガス供給ノズルの提供を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施の形態の溶接トーチボディの全体構成を示す斜視図である。
図2】実施の形態の溶接トーチボディの分解構造を示す斜視図である。
図3】実施の形態のガス供給ノズルの構成を示す斜視図である。
図4図3中のIV-IV線矢視断面図である。
図5図1中のV線矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施の形態の溶接トーチボディについて、以下、図面を参照しながら説明する。以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。同一の部品、相当部品に対しては、同一の参照番号を付し、重複する説明は繰り返さない場合がある。実施の形態における構成を適宜組み合わせて用いることは当初から予定されていることである。
【0015】
(溶接トーチボディ1)
図1および図2を参照して、本実施の形態の溶接トーチボディ1の構造について説明する。図1は、溶接トーチボディ1の全体構成を示す斜視図であり、図2は、溶接トーチボディ1の分解構造を示す斜視図である。
【0016】
図1に示すように、この溶接トーチボディ1は、軸a1方向に延びるトーチボディ本体15と、トーチボディ本体15の先端に装着されるガス供給ノズル11とを備えている。軸a1は、トーチボディ本体15の先端側において、若干湾曲しながら軸方向が変更されて先端側に向けて延びている。
【0017】
図2に示すように、トーチボディ本体15の先端部分においては、コンタクトチップ12、オリフィス13、および、チップボディ14が配置されている。ガス供給ノズル11は、略円筒形状を有し、コンタクトチップ12、オリフィス13、および、チップボディ14を取り囲むようにして、トーチボディ本体15の先端部分に装着されている。
【0018】
(ガス供給ノズル11)
図3および図4を参照して、ガス供給ノズル11の詳細構造について説明する。ガス供給ノズル11は、先端部側に先端開口領域h1および後端部側(トーチボディ本体15側)に後端開口領域h2を有する、全体として略円筒形状を有している。
【0019】
ガス供給ノズル11の後端開口領域h2側は、トーチボディ本体15に固定され、外周面において、軸a1からの半径距離が一定に設けられたベース領域120を有する。ガス供給ノズル11の先端開口領域h1側は、一定の厚さt1を有し、ベース領域120から先端に向かうに従って徐々に軸a1からの半径距離が小さくなる先細り領域110と、を含む。ガス供給ノズル11の先細り領域110の厚さt1は、1.5mm~3.0mm程度である。
【0020】
ベース領域120は、外周面において、軸a1からの半径距離が一定であることから、直径D2の円筒形形状を有する。先細り領域110は、一定の厚さt1を有し、ベース領域120から先端に向かうに従って徐々に軸a1からの半径距離が小さくなることから、外周面110aおよび内周面110bともに、先端に向かうに従って傾斜するテーパ面を有することとなる。先細り領域110のベース領域120側の外径寸法は、直径D2であり、先細り領域110の先端開口領域h1側の外径寸法は、直径D1となる(D1<D2)。
【0021】
さらに、ガス供給ノズル11の先端開口領域h1側においては、その内周面が、軸a1からの半径距離が一定であるストレート領域140(軸a1方向の幅T)が設けられている。半径距離が一定に設けられたガス供給ノズル11のベース領域120の内径寸法を直径D5とした場合、ストレート領域140の内径寸法は、直径D3(D3<D5)となる。
【0022】
このように、ガス供給ノズル11に先細り領域110を設けることで、溶接対象となるワークにガス供給ノズルの先端を近づけることを可能とする。これにより、ワークへのアプローチ性および操作性を維持することができる。さらに、ガス供給ノズル11の先端開口領域h1側にストレート領域140を設けることで、肉厚を一定に保ったままで単純に先端を絞った構造よりも、先端内部にストレート領域140を設けたガス供給ノズルの方が口径が大きくなるため、シールド範囲の縮小を抑制して、不都合な表面酸化物の発生を抑える効果を期待することができる。
【0023】
たとえば、アルミの溶接では、Al-Mg系溶接ワイヤ(A5183WY、A5356WY)を用いた場合、溶接ビード近傍にスマットが付着する。スマットは付着しても溶接強度への影響はないが、見た目への影響、および、陽極酸化処理や塗装等の表面処理をする場合には、密着性、色調に問題が起こるために取り除く必要がある。
【0024】
本実施の形態のガス供給ノズル11を用いた溶接トーチボディによれば、ガス供給ノズル11の先細り領域110における先端開口領域h1側の直径D1は小さいまま、シールド範囲を維持することができるために、スマット発生の発生範囲を極限まで抑えることを可能とする。
【0025】
次に、図5を参照して、上記構成を備えるガス供給ノズル11とコンタクトチップ12との配置関係について説明する。図5は、図1中のV線矢視断面図である。ガス供給ノズル11の内部において、コンタクトチップ12は、軸a1に沿ってガス供給ノズル11の先端開口領域h1側に向かって延びるように配置されている。ガス供給ノズル11に先細り領域110の内周面110bは、先端に向かうに従って傾斜するテーパ面を有していることから、コンタクトチップ12と内周面110bとの間によって規定される空間Vは、コンタクトチップ12の根元の方が広く(容量が大きい)、コンタクトチップ12の先端側の方が狭くなる(容量が小さい)。
【0026】
ガス供給ノズル11の先端開口領域h1側に設けたストレート領域140の幅Tにおいて、後端側に現れる境界線140aと、コンタクトチップ12の先端12aの位置との関係は、境界線140aの位置よりも、コンタクトチップ12の先端12aの方が先端側に位置しているとよい。これにより、コンタクトチップ12の先端12aのワイヤ露出部より後方からストレート領域140が始まるため、ガスの助走距離が確保され、ガスシールドをより安定させることができる。また、ガス供給ノズル11の先細り領域110の長さをT2とした場合、T2/Tは3.8以上10.0以下を満足するとよい。10.0より大きくになれば、ストレート部の安定したガス助走区間・助走距離が十分でなくなり、ノズル出口で乱流となりやすく溶接欠陥を生じる。3.8未満になれば、先細りによる出口でのガス真円度を高める効果が十分でなくなり、均等なガス流れにならず溶接品質が安定しない。なお、本実施の形態では、Tを、2.8mmとし、T2を22.5mmとした。
【0027】
さらに、軸a1周りにおけるストレート領域140の内径がD3の場合に、半径距離が一定に設けられたガス供給ノズル11の後端側のベース領域120の内径をD5とした場合、D5/D3は1.3以上1.8以下を満足するとよい。1.8より大きくになれば、シールドガスが過度に圧縮され、ノズル出口での流速が大きくなるため乱流となりやすく溶接欠陥を生じる。1.3未満になれば先細りによる出口でのガス真円度を高める効果が十分でなくなり、均等なガス流れにならず溶接品質が安定しない。本実施の形態では、D3を14mmとし、D5を21mmとした。
【0028】
以上、実施の形態において溶接トーチボディについて説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0029】
1 溶接トーチボディ、11 ガス供給ノズル、12 コンタクトチップ、12a 先端、13 オリフィス、14 チップボディ、15 トーチボディ本体、110 先細り領域、110a 外周面、110b 内周面、120 ベース領域、140 ストレート領域、140a 境界線。
図1
図2
図3
図4
図5