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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117269
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】ゴム組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 279/00 20060101AFI20240822BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20240822BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
C08F279/00
C08L21/00
C08K5/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023272
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003263
【氏名又は名称】三菱電線工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 由寛
(72)【発明者】
【氏名】奥田 智昭
(72)【発明者】
【氏名】池原 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】中 建介
【テーマコード(参考)】
4J002
4J026
【Fターム(参考)】
4J002AC071
4J002AC07W
4J002CP132
4J002CP13X
4J002EK036
4J002EK056
4J026AA06
4J026AA12
4J026AA13
4J026AA14
4J026AA17
4J026AA26
4J026AA45
4J026AA49
4J026AA68
4J026AA69
4J026AA71
4J026AA72
4J026AB03
4J026AB44
4J026AC01
4J026AC02
4J026AC09
4J026AC10
4J026AC11
4J026AC12
4J026AC16
4J026AC22
4J026AC25
4J026AC26
4J026AC32
4J026BA43
4J026BB01
4J026DB05
4J026DB15
4J026FA09
4J026GA01
4J026GA02
4J026GA06
(57)【要約】
【課題】耐摩耗性が優れるゴム組成物を提供する。
【解決手段】ゴム組成物は、ゴム成分にC-C二重結合を含む官能基を複数有するシルセスキオキサンが添加された未架橋ゴム組成物に、ゴム成分を架橋させる架橋処理が施されて得られるものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分にC-C二重結合を含む官能基を複数有するシルセスキオキサンが添加された未架橋ゴム組成物に、前記ゴム成分を架橋させる架橋処理が施されて得られたゴム組成物。
【請求項2】
請求項1に記載されたゴム組成物において、
前記C-C二重結合を含む官能基がビニル基であるゴム組成物。
【請求項3】
請求項2に記載されたゴム組成物において、
前記C-C二重結合を含む官能基を複数有するシルセスキオキサンが、オクタビニルシルセスキオキサン、及び/又は、オクタビニルシルセスキオキサンの8個のビニル基のうちの1個乃至6個にトリフェニルシランが付加したオクタビニルシルセスキオキサン誘導体を含むゴム組成物。
【請求項4】
請求項1に記載されたゴム組成物において、
前記未架橋ゴム組成物における前記C-C二重結合を含む官能基を複数有するシルセスキオキサンの配合量が、前記ゴム成分100質量部に対して0.5質量部以上3質量部以下であるゴム組成物。
【請求項5】
請求項1に記載されたゴム組成物において、
前記ゴム成分が水素化ニトリルゴムを含むゴム組成物。
【請求項6】
請求項1に記載されたゴム組成物において、
前記未架橋ゴム組成物に架橋剤として有機過酸化物が配合されているとともに、前記未架橋ゴム組成物に、前記ゴム成分を過酸化物架橋させる熱架橋処理が施されているゴム組成物。
【請求項7】
ゴム成分にC-C二重結合を含む官能基を複数有するシルセスキオキサンを添加した未架橋ゴム組成物を調製し、前記未架橋ゴム組成物に、前記ゴム成分を架橋させる架橋処理を施すゴム組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シルセスキオキサンをゴム配合剤として用いることが知られている。例えば、特許文献1には、シルセスキオキサンを含有するタイヤ用のゴム組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-98347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、耐摩耗性が優れるゴム組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ゴム成分にC-C二重結合を含む官能基を複数有するシルセスキオキサンが添加された未架橋ゴム組成物に、前記ゴム成分を架橋させる架橋処理が施されて得られたゴム組成物である。
【0006】
本発明は、ゴム成分にC-C二重結合を含む官能基を複数有するシルセスキオキサンを添加した未架橋ゴム組成物を調製し、前記未架橋ゴム組成物に、前記ゴム成分を架橋させる架橋処理を施すゴム組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、架橋前の未架橋ゴム組成物に、C-C二重結合を含む官能基を複数有するシルセスキオキサンが配合されていることにより、架橋後のゴム組成物の優れた耐摩耗性を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態について詳細に説明する。
【0009】
実施形態に係るゴム組成物は、ゴム成分に、例えば下記式(A)で示されるC-C二重結合を含む官能基を複数有するシルセスキオキサン(以下「シルセスキオキサンX」という。)が添加された未架橋ゴム組成物に、ゴム成分を架橋させる架橋処理が施されて得られるものである。
【0010】
【化1】
【0011】
したがって、実施形態に係るゴム組成物は、ゴム成分にシルセスキオキサンXを添加した未架橋ゴム組成物を調製し、その未架橋ゴム組成物に、ゴム成分を架橋させる架橋処理を施すことにより製造することができる。
【0012】
実施形態に係るゴム組成物によれば、架橋前の未架橋ゴム組成物に、シルセスキオキサンXが配合されていることにより、架橋後のゴム組成部の優れた耐摩耗性を得ることができる。これは、シルセスキオキサンXが架橋助剤のように機能するためであると推測される。つまり、架橋処理によるゴム成分のポリマー分子間の架橋に、シルセスキオキサンXを介した架橋も含まれることとなり、その結果、ゴム成分の架橋構造に、化学的に安定したシロキサン結合を有する高結晶性のカゴ状構造のシルセスキオキサン骨格が導入されるためであると考えられる。
【0013】
ここで、ゴム成分としては、天然ゴム(NR)及び合成ゴムが挙げられる。合成ゴムとしては、例えば、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレン共重合体ゴム(EPR)やエチレンプロピレンジエン共重合体ゴム(EPDM)などのエチレン-α-オレフィンエラストマー、アクリルゴム(ACM)、ウレタンゴム(U)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(F)等が挙げられる。ゴム成分は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましい。
【0014】
ゴム成分は、HNBRを含むことが好ましい。その場合、HNBRの結合アクリロニトリル量は、好ましくは25質量%以上45質量%以下、より好ましくは33質量%以上39質量%以下である。HNBRのヨウ素価は、好ましくは5mg/100mg以上60mg/100mg以下、より好ましくは9mg/100mg以上12mg/100mg以下である。
【0015】
シルセスキオキサンXが有するC-C二重結合を含む官能基Rとしては、下記式(1)で示されるビニル基、下記式(2)で示されるアリル基などのアルケニル基;下記式(3)で示されるアクリロイルオキシプロピル基などのアクリロイルオキシアルキル基;下記式(4)で示されるメタクリロイルオキシプロピル基などのメタクリロイルオキシアルキル基等が挙げられる。官能基Rは、末端にC-C二重結合を含むことが好ましい。複数の官能基Rは、同一であっても、異なっていても、どちらでもよい。
【0016】
【化2】
【0017】
シルセスキオキサンXとしては、例えば下記式(I)で示されるオクタビニルシルセスキオキサン及びその誘導体等が挙げられる。オクタビニルシルセスキオキサン誘導体としては、オクタビニルシルセスキオキサンの8個のビニル基のうちの1個乃至6個にトリフェニルシラン等が付加した付加化合物が挙げられる。シルセスキオキサンXは、オクタビニルシルセスキオキサン及び/又はその誘導体を含むことが好ましく、分子の対称性を低下させてゴム成分への分散性を高める観点から、オクタビニルシルセスキオキサン誘導体を含むことがより好ましく、下記式(II)で示されるオクタビニルシルセスキオキサンの8個のビニル基のうちの1個にトリフェニルシランが付加した付加化合物を含むことが更に好ましい。
【0018】
【化3】
【0019】
未架橋ゴム組成物におけるシルセスキオキサンXの配合量は、優れた耐摩耗性を得る観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上3質量部以下、より好ましくは0.8質量部以上2.5質量部以下、更に好ましくは1質量部以上2質量部以下である。
【0020】
シルセスキオキサンX以外のゴム配合剤としては、例えば、架橋剤、架橋助剤(共架橋剤)、カーボンブラックやシリカなどの補強材、充填剤、加工助剤、老化防止剤、可塑剤、加硫促進剤、加硫促進助剤等が挙げられる。
【0021】
ゴム成分を架橋させる架橋処理としては、未架橋ゴム組成物に架橋剤を配合して加熱する熱架橋処理、及び未架橋ゴム組成物に放射線を照射する放射線架橋処理が挙げられる。
【0022】
熱架橋処理としては、架橋剤として硫黄を用いる硫黄加硫、架橋剤として有機過酸化物を用いる過酸化物架橋、架橋剤としてビスフェノール類を用いるポリオール架橋、架橋剤としてジアミン類を用いるアミン架橋、架橋剤としてp-ベンゾキノンジオキシムを用いるオキシム架橋、及び架橋剤として酸化亜鉛等の金属酸化物を用いる金属架橋が挙げられる。熱架橋処理方法は、ゴム成分の種類によって適宜選択されるが、多くのゴム成分に適用できるとともに、シルセスキオキサンXによる優れた耐摩耗性を得る観点から、これらのうちの過酸化物架橋が好ましい。
【0023】
過酸化物架橋の架橋剤として用いる有機過酸化物としては、例えば、1,4-ビス[(t-ブチルパーオキシ)イソプロピル]ベンゼン、ベンゾイルパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロドデカン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレレート、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン等が挙げられる。架橋剤の有機過酸化物は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましい。特に、ゴム成分がHNBRを含む場合、架橋剤の有機過酸化物は、ジアルキルパーオキサイドを含むことが好ましく、1,4-ビス[(t-ブチルパーオキシ)イソプロピル]ベンゼンを含むことがより好ましい。未架橋ゴム組成物における架橋剤の有機過酸化物の配合量は、優れた耐摩耗性を得る観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上3.5質量部以下、より好ましくは1質量部以上3質量部以下である。
【0024】
放射線架橋処理で用いる放射線としては、例えば、α線、β線、γ線、電子線、イオン等が挙げられる。
【0025】
以上の構成の実施形態に係るゴム組成物は、例えば他部材に接触して摺動するシール材等の耐摩耗性が要求されるゴム製品の形成材料として用いることができる。
【実施例0026】
(ゴム組成物)
実施例1及び2並びに比較例のゴム組成物を作製した。それぞれの構成については表1にも示す。
【0027】
<実施例1>
ゴム成分をHNBR(結合アクリロニトリル量:36.2質量% ヨウ素価:11mg/100g)とし、このゴム成分100質量部に対し、オクタビニルシルセスキオキサン0.89質量部、架橋剤の1,4-ビス[(t-ブチルパーオキシ)イソプロピル]ベンゼン2質量部、及び補強材のカーボンブラック(FEF)40質量部を添加して混練することにより未架橋ゴム組成部を調製した。この未架橋ゴム組成部に熱架橋処理を施して各試験の試験片のゴム組成物を作製し、それらを実施例1とした。
【0028】
<実施例2>
オクタビニルシルセスキオキサンのビニル基にトリフェニルシランを付加させてオクタビニルシルセスキオキサン誘導体を調製した。このオクタビニルシルセスキオキサン誘導体についてNMR分析を行い、オクタビニルシルセスキオキサンの8個のビニル基のうちの1個にトリフェニルシランが付加した付加化合物が主成分であることを確認した。
【0029】
オクタビニルシルセスキオキサンに代えて、このオクタビニルシルセスキオキサン誘導体を、ゴム成分100質量部に対して1.43質量部を添加したことを除いて実施例1と同様の各試験の試験片のゴム組成物を作製し、それらを実施例2とした。
【0030】
なお、オクタビニルシルセスキオキサン誘導体の配合量について、その全量がオクタビニルシルセスキオキサンの8個のビニル基のうちの1個にトリフェニルシランが付加した付加化合物であると仮定し、実施例1のオクタビニルシルセスキオキサンとビニル基数が同一になるように設定した。
【0031】
<比較例>
オクタビニルシルセスキオキサンを添加していないことを除いて実施例1と同様の各試験の試験片のゴム組成物を作製し、それらを比較例とした。
【0032】
【表1】
【0033】
(試験方法)
<硬さ>
実施例1及び2並びに比較例のそれぞれについて、JIS K6253:2012に基づいて、タイプAデュロメータにより硬さを測定した。
【0034】
<引張特性>
実施例1及び2並びに比較例のそれぞれについて、JIS K6251:2017に基づいて、常温での切断時引張強さ、切断時伸び、及び100%伸び時引張応力を測定した。
【0035】
<密度>
実施例1及び2並びに比較例のそれぞれについて、JIS K6268:1998に基づいて密度を測定した。
【0036】
<圧縮永久ひずみ>
実施例1及び2並びに比較例のそれぞれについて、JIS K6262:2013に基づいて、試験温度を150℃及び試験時間を72時間として圧縮永久ひずみを測定した。
【0037】
<熱老化性>
実施例1及び2並びに比較例のそれぞれについて、JIS K6257:2017に基づいて、温度を150℃及び時間を72時間として熱老化させた後、JIS K6253:2012に基づいて硬さを測定するとともに、熱老化させない場合からの変化を算出した。また、JIS K6251:2017に基づいて、常温で切断時引張強さ及び切断時伸びを測定するとともに、熱老化させない場合からの変化率を算出した。
【0038】
<耐摩耗性>
実施例1及び2並びに比較例のそれぞれについて、SUS板に当接させて15Nの荷重を負荷するとともに、ストロークを10mmとして60cpmの速度で8万回摺動させた後の摩耗量(寸法)を測定した。
【0039】
(試験結果)
試験結果を表2に示す。表2によれば、実施例1及び2は、比較例よりも耐摩耗性が優れることが分かる。
【0040】
また、実施例2は、実施例1よりも耐摩耗性が優れることが分かる。これは、実施例1では、オクタビニルシルセスキオキサンの分子の対称性が高く、ゴム成分への分散性が劣るので、物性にむらがあるのに対し、実施例2では、オクタビニルシルセスキオキサン誘導体の分子の対称性が低く、ゴム成分への分散性が優れるので、物性が均一であるためであると推測される。
【0041】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、ゴム組成物及びその製造方法の技術分野について有用である。