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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117275
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 7/02 20060101AFI20240822BHJP
   G05B 11/32 20060101ALI20240822BHJP
   G05B 13/02 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
G01M7/02 C
G05B11/32 F
G05B13/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023284
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】319007240
【氏名又は名称】株式会社日立インダストリアルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】石原 新士
(72)【発明者】
【氏名】田原 孝一
【テーマコード(参考)】
5H004
【Fターム(参考)】
5H004HB07
5H004HB08
5H004KB32
5H004KC44
5H004MA12
5H004MA15
(57)【要約】
【課題】伝達関数を算出すること無く歪率を低減する試験装置を提供する。
【解決手段】試験装置100は供試体設置部9、これを加振するアクチュエータ3~7、アクチュエータ3~7と供試体10の応答を検出するセンサS04、S06、アクチュエータ3~7の応答を制御するコントローラ2、及び動作パターンを設定する目標波形設定部1bを有し操作者の操作で試験動作を提示するユーザインタフェース1を備える。コントローラ2は目標波形とセンサS04、S06の差を解消する制御入力を計算する制御指令演算部12a、12bと、このパラメータを算出する実験データ解析部2cとを有し、実験データ解析部2cは目標波形に従い理想応答の伝達関数を決定しセンサS04、S06の応答データにより理想応答に実応答が近付くように制御指令演算部12a、12bのパラメータを調整し目標波形の基準周波数より高いカットオフ周波数のフィルタ特性を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象である供試体が配置される供試体設置部と、
前記供試体設置部を加振するためのアクチュエータと、
前記アクチュエータと前記供試体の応答を検出するセンサと、
前記アクチュエータの応答を制御するコントローラと、
試験装置の動作パターンを設定する目標波形設定部を有し、オペレータの操作を受け入れるとともに試験動作を提示するユーザインタフェースと、
を備え、
前記コントローラは、目標波形と前記センサの応答波形との差を解消するように制御入力を計算する制御指令演算部と、実験データに基づいて前記制御指令演算部のパラメータを算出する実験データ解析部と、を有し、
前記実験データ解析部は、前記目標波形に従って閉ループ系の理想応答の伝達関数を決定し、前記センサで取得した応答データに基づいて前記理想応答に実際の応答が近付くように前記制御指令演算部のパラメータを調整し、
決定した前記伝達関数は、高調波の影響を抑制するように前記目標波形の基準周波数よりも高いカットオフ周波数をもつローパスフィルタ特性を有することを特徴とする試験装置。
【請求項2】
請求項1に記載の試験装置において、
決定した前記伝達関数は、前記目標波形の基準周波数よりも高いカットオフ周波数を有する前記ローパスフィルタ特性と、基準周波数の整数倍の帯域を有する1つ以上のノッチフィルタ特性とを有することを特徴とする試験装置。
【請求項3】
請求項1に記載の試験装置において、
決定した前記伝達関数は、前記目標波形の基準周波数以上、かつ、基準周波数の3倍未満のカットオフ周波数をもつローパスフィルタ特性と、基準周波数の奇数倍の帯域を有する1つ以上のノッチフィルタ特性とを有することを特徴とする試験装置。
【請求項4】
請求項1に記載の試験装置において、
前記制御指令演算部は、調整可能なパラメータを有する伝達関数を備えるフィードバック制御部と、前記フィードバック制御部と並列に設置され、かつ、調整可能なパラメータを有する伝達関数を備えるフィードフォワード制御部と、を備え、
前記実験データ解析部は、前記フィードバック制御部の伝達関数のパラメータと前記フィードフォワード制御部の伝達関数のパラメータを調整することを特徴とする試験装置。
【請求項5】
請求項1に記載の試験装置において、
前記制御指令演算部は、調整可能なパラメータを有する伝達関数を備えるフィードバック制御部と、前記フィードバック制御部と直列に接続され、かつ、調整可能なパラメータを有する伝達関数を備えるフィードフォワード制御部と、を備え、
前記実験データ解析部は、前記フィードバック制御部の伝達関数のパラメータと、前記フィードフォワード制御部の伝達関数のパラメータを調整することを特徴とする試験装置。
【請求項6】
評価対象である供試体が配置される供試体設置部と、
前記供試体設置部を加振するためのアクチュエータと、
前記アクチュエータと前記供試体の応答を検出するセンサと、
試験装置の動作パターンを設定する目標波形設定部と、
前記アクチュエータの応答を制御するコントローラと、
前記目標波形設定部で設定した目標波形を修正し、修正後の目標値を前記コントローラへ指令する追加コントローラと、
を備え、
前記コントローラは、目標波形と前記センサの応答波形との差を解消するように制御入力を計算する制御指令演算部を有し、
前記追加コントローラは、前記目標波形設定部で設定された目標波形と前記センサの応答波形との差を解消するように目標波形を修正する目標波形修正部と、実験データに基づいて前記制御指令演算部のパラメータを算出する実験データ解析部と、を有し、
前記実験データ解析部は、前記目標波形に従って閉ループ系の理想応答の伝達関数を決定し、前記センサで取得した応答データに基づいて前記理想応答に実際の応答が近付くように前記目標波形修正部のパラメータを調整することを特徴とする試験装置。
【請求項7】
請求項1に記載の試験装置において、
オペレータの操作を受け入れるとともに試験動作を提示するユーザインタフェースを備え、
前記コントローラは、前記実験データ解析部で変更したパラメータに基づいて試験装置の応答予測を行う応答予測部、から構成され、
前記応答予測部は、前記実験データ解析部で算出した前記パラメータを利用した伝達関数と前記センサで取得した前記応答データを予測することで、前記パラメータの変更を行った後に得られるだろう応答波形を予測し、その予測結果を前記ユーザインタフェースに提示することを特徴とする試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験対象を加振、評価する試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物の耐震性能を評価するために、構造物の特性を模擬したモデル(以下、供試体)を加振して評価する試験装置が知られている。これらの試験装置には、地震波形など、変位や加速度の応答が早い試験パターンを再現する必要があるため、応答性や駆動力に優れる油圧アクチュエータが利用されることが多い。
【0003】
油圧アクチュエータや供試体に含まれる非線形要素などに起因して、実際の振動試験装置の応答には、加振指令値の基本周波数の他に高調波成分が含まれることが知られている。そして、この高調波成分が多くなるほど、加振指令値の再現精度が低くなってしまう。このような高調波成分の影響は数式1の「ひずみ率」で評価される。
【0004】
【数1】
【0005】
E1は基本波形の実効値、Ei(i=2、…、n)は高調波(基本波形の周波数のi倍の周波数)の実効値である。ひずみ率を小さくすることが、加振指令値の再現精度を上げるための重要な指標として利用される。
【0006】
振動試験装置に利用されるアクチュエータには、アクチュエータの位置、速度、加速度を取得するセンサが取り付けられているため、これらの信号を利用してフィードバック制御を実施することで、所望の試験波形を再現している。
【0007】
一般に、フィードバック制御にはPID制御を基本として構築されることが多い。
【0008】
しかし、PID制御のパラメータ調整にはノウハウが必要であり、パラメータ調整が不十分であると十分な制御性能を発揮できない。
【0009】
さらに、PID制御は線形制御であるため、パラメータを十分に調整したとしても、非線形ひずみの原因である非線形要素の影響を十分に抑制できるとは限らない。
【0010】
このような課題に対して、特許文献1では、通常のPID制御にひずみ補正要素部を追加することで非線形ひずみの影響を抑制する制御構成を有する試験装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001-242055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1における試験装置は、試験装置の伝達関数、および逆伝達関数を算出し、これらの伝達関数を有するフィルタを利用して、加振指令値と実際の試験装置応答の差分に前記フィルタをかけることによって非線形要素の影響を抜き出し、これをPID制御への入力に追加することによって効果的に非線形要素の影響を抑制する構成をとっている。
【0013】
特許文献1では、補償器の設計に試験装置の伝達関数、および逆伝達関数が必要になる。対象の伝達関数を正確に算出するには、入力信号、および、出力信号が多様な周波数を含んでいる必要がある。
【0014】
このため、一般に多様な周波数成分を含むランダム信号を利用するランダム加振やインパルス信号を利用したインパルス加振を行うことになる。
【0015】
ランダム信号は多様な周波数成分を足し合わせて加振指令値を生成しているため、伝達関数を同定するための実験には好適である。ただし、ランダム信号には著大な信号変化が含まれるため、伝達関数を同定する実験において、供試体を破損する恐れがある。このため、試験装置の制御調整時にランダム加振を行うことは望ましくない。
【0016】
インパルス加振を行った時に得られる応答であるインパス応答をラプラス変換したものが伝達関数であるため、理論上はインパルス加振を行えば伝達関数を算出することは可能である。
【0017】
しかし、実際に試験装置にインパルス加振を行うにしても、供試体保護の観点で、入力信号のレベルを低く抑えると試験装置の応答が遅く、十分な応答が得られずに伝達関数を正確に算出できないことが知られている。
【0018】
以上のように、特許文献1を利用するには、伝達関数の導出が必要になるが、試験装置の運用上は正確に伝達関数を得ることができないことが多い。そして、特許文献1の手法では、正確な伝達関数を算出できないと十分な補償効果を得ることが期待できない。
【0019】
本発明は、以上の課題を解決するために考案されたものであり、その目的は、試験装置の伝達関数を算出することなく、効果的にひずみ率を低減する制御調整機能を有する試験装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するため、本発明は次のように構成される。
【0021】
試験装置は、評価対象である供試体が配置される供試体設置部と、前記供試体設置部を加振するためのアクチュエータと、前記アクチュエータと前記供試体の応答を検出するセンサと、前記アクチュエータの応答を制御するコントローラと、試験装置の動作パターンを設定する目標波形設定部を有し、オペレータの操作を受け入れるとともに試験動作を提示するユーザインタフェースと、を備え、前記コントローラは、目標波形と前記センサの応答波形との差を解消するように制御入力を計算する制御指令演算部と、実験データに基づいて前記制御指令演算部のパラメータを算出する実験データ解析部と、を有し、前記実験データ解析部は、前記目標波形に従って閉ループ系の理想応答の伝達関数を決定し、前記センサで取得した応答データに基づいて前記理想応答に実際の応答が近付くように前記制御指令演算部のパラメータを調整し、決定した前記伝達関数は、高調波の影響を抑制するように前記目標波形の基準周波数よりも高いカットオフ周波数をもつローパスフィルタ特性を有する。
【発明の効果】
【0022】
試験装置の伝達関数を算出することなく、効果的にひずみ率を低減する制御調整機能を有する試験装置を提供することができる。
【0023】
伝達関数を同定するための加振実験を行うことなく、ひずみ率を低減する制御を実行することができる。さらに、制御パラメータ調整の工数を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明が適用される油圧駆動式振動試験装置の概観図である。
図2】本発明の実施例1に関する機能ブロック図である。
図3A】本発明に関する目標波形を示す図である。
図3B】本発明に関する目標波形と、アクチュエータ応答と関係を示す例を示す図である。
図3C】本発明に関する目標波形と、供試体応答の関係を示す例を示す図である。
図4A】本発明に関するコントローラのブロック線図である。
図4B】本発明に関するコントローラのブロック線図である。
図4C】本発明に関するコントローラのブロック線図である。
図5】本発明の実施例1の変形例の機能ブロック図である。
図6A】本発明に関するコントローラのブロック線図である。
図6B】本発明に関するコントローラのブロック線図である。
図7A】高調波の影響を抑制するための理想応答の設計指針を説明する図である。
図7B】高調波の影響を抑制するための理想応答の設計指針を説明する図である。
図8】高調波の影響の一例を示す図である。
図9】ノッチフィルタによる高調波抑制効果の一例を示す図である。
図10】本発明で利用する理想応答の設計例を示す図である。
図11】本発明の実施例1における処理手順(フローチャート)を示す図である。
図12】本発明の実施例2に関する機能ブロック図である。
図13】本発明の実施例2に関するコントローラのブロック図である。
図14】本発明の実施例3に関する機能ブロック図である。
図15】本発明の実施例3の変形例の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
なお、本実施の形態では、説明の簡略化のため、1軸の油圧駆動式振動試験装置を例示して説明するが、本発明は1軸の油圧駆動式振動試験装置に限定されるものではない。例えば、駆動方式が油圧式の油圧ピストンでなく、電動式の直動アクチュエータであっても本発明を適用することができる。さらに、本発明の適用範囲は振動試験装置に限定するものでもない。例えば、回転運動によって遠心加速度を発生させる遠心力載荷試験装置などにも適用できることに注意されたい。
【実施例0027】
(実施例1)
図1は、本発明の実施例1に係る油圧駆動式の試験装置100を模式的に示す図である。
【0028】
図1において、ユーザインタフェース1は、試験装置100のユーザ、もしくは、オペレータが各種試験パターンを設定するために利用される。オペレータはユーザインタフェース1を介して、目的とする加振波形を設定する。
【0029】
ユーザインタフェース1は目標信号を生成する装置であるため、専用の端末に限らず、操作端末とシグナルジェネレータの組合せなど複数機器で構成されていても良い。なお、操作端末は通常のパソコン(PC)や、タブレットPCであっても良い。
【0030】
なお、ユーザインタフェース1で設定する加振波形の次元は、変位、速度、加速度の何れでもよい。オペレータは、波形の振幅Aと角周波数ωを設定することで加振波形r=Asin(ωt)を設計する。tは時間を意味する。
【0031】
試験用の目標信号を生成する端末(シグナルジェネレータやPC)が本発明における目標波形設定部に相当する。
【0032】
コントローラ2は、ユーザインタフェース1で設定された目標波形に従って油圧駆動式振動試験装置100を動かすための各種制御演算を実行する。コントローラ2は、ユーザインタフェース1で設定した目標加振波形と後述の各種センサS01~S06の値を取得して、サーボアンプ3の操作量の演算を行う。コントローラ2の詳細な構成は後述する。
【0033】
サーボアンプ3は、コントローラ2から出力された指令(=電圧)を、サーボバルブ4を駆動するために電流値へと変換する。
【0034】
サーボバルブ4は、サーボバルブ3から受け取った電流値に従って、弁の開閉を行うことで、油圧源5から油圧シリンダ6に流れる圧油を調整する。サーボバルブ4と油圧源5の間に圧油の温度を検出する温度センサS01が備えられる。
【0035】
サーボバルブ4を経て油圧シリンダ6に供給された圧油は、油圧ピストン7を駆動する。このとき、サーボバルブ4の図1中の左右どちらのポートから圧油が供給されるかによって、油圧ピストン7の駆動方向が変更される。サーボバルブ4から吐出された圧油は流量センサS02a、S02bによって検出可能である。油圧ピストン7の駆動方向に応じて、圧油の流れる経路が変わるため、駆動方向によって使用する流量センサS02aと流量センサS02bとを適時変更してもよい。
【0036】
油圧ピストン7はカップリング8を介して、テーブル(供試体設置部)9に力を加えることで、テーブル9を振動させる。油圧ピストン7には、速度センサS03、変位センサS04が備え付けられている。なお、速度センサS03、変位センサS04を両方とも備える必要はない。例えば、変位センサS04のみが備えられている場合には、検出値の差分を速度として近似利用すればよい。同じく、速度センサS03のみが備えられている場合には、積分値を変位量としてもよい。また、速度センサS03や変位センサS04の替わりに、もしくは、追加して加速度センサを備えても良い。これら油圧ピストン7の変位を検出するためのセンサが本発明の内部センサに相当する。
【0037】
油圧シリンダ6には、油圧ピストン7の前後圧を検出するための圧力センサS05a、S05bが備えられている。
【0038】
以上、サーボアンプ3から油圧ピストン7までの構成要素からなる油圧アクチュエータは本発明におけるアクチュエータに相当する。
【0039】
テーブル9に、試験対象になる構造物(供試体10)を備え付け、ユーザインタフェース1で設定した目標波形に従って、供試体10を加振することで、各種評価を行う。テーブル9は本発明における供試体設置部に相当する。
【0040】
試験装置100の運用方法としては、テーブル9を目標波形で振動させる場合と、供試体10を目標波形で振動させる場合の2通りの運用方法が考えられる。なお、油圧アクチュエータとテーブル9は高剛性のカップリング8で接続されているため、同一の挙動になる。同じく、供試体10の剛性が極めて高い場合は、テーブル9の振動と供試体10の振動が一致することが期待できる。ただし、供試体10が柔軟性を持つ場合は、テーブル9の振動を制御するのではなく、供試体10の振動を制御する構成が望ましい。
【0041】
よって、供試体10の応答が目標波形に従う制御を構成する場合、供試体10の挙動(変位、速度、加速度)を計測するために、非接触センサS06を用意する必要がある。非接触センサS06としては、例えば、レーザー変位計の利用が考えられる。
【0042】
試験装置100に取り付けられたセンサS01~S05からの出力信号と供試体10の挙動を計測するセンサS06からの出力信号は、すべてコントローラ2に入力される。
【0043】
以下、いくつかの具体的な例を通して、本発明の実施例1の特徴を詳しく説明する。
【0044】
なお、説明を簡単にするため、加振波形の次元を特定せずに「応答」という言葉を利用して説明を行う。この「応答」が、変位、速度、加速度のいずれであっても、本発明の範囲であることは言うまでもない。
【0045】
本発明の実施例1におけるユーザインタフェース1とコントローラ2との具体的な構成要素について図2を用いて説明する。なお、図2は発明内容の理解を容易にするために、図1に含まれる要素を省略した記載になっていることに注意されたい。
【0046】
<ユーザインタフェース1>
図2において、ユーザインタフェース1は、GUI(raphical ser nterface)1aと目標波形設定部1bから構成される。GUI1aはオペレータが各種入力を行う操作端末(PCやタブレットなど)に相当し、目標波形設定部1bは試験パターンを生成するシグナルジェネレータに相当する。なお、GUI1aはモニタを備えており、後述のとおり、オペレータが実験結果や制御器の調整結果を視覚的に確認することができる。
【0047】
<コントローラ2>
コントローラ2の機能は、フィードバック制御部2aと、フィードフォワード制御部2bと、実験データ解析部2cと、応答予測部2bとから構成される。
【0048】
フィードバック制御部2aは、アクチュエータ(サーボバルブ3から油圧ピストン7に相当)の挙動が安定になるように、内部センサ(変位センサS04に相当)の出力結果に基づいてフィードバック制御入力の演算を行う。フィードバック制御にはPID制御などが利用される。
【0049】
フィードフォワード制御部2bは、目標波形設定部1bで設定された目標波形に基づいてフィードフォワード制御入力の計算を行う。フィードフォワード制御入力の演算の詳細は後述する。
【0050】
アクチュエータには、上記のフィードバック制御入力とフィードフォワード制御入力を足し合わせた値が指令値として印加される。つまり、フィードバック制御2aとフィードフォワード制御2bとを加算部11にて合わせたものが、本発明の実施例1における制御指令演算部12a(フィードバック制御2a、フィードフォワード制御2b、加算部11)になる。
【0051】
実験データ解析部2cは、内部センサS04で取得したアクチュータ応答(変位センサ検出値)、外部センサである非接触センサS06で取得した供試体応答(非接触センサ検出値)に従って、前述のフィードフォワード制御部2bのパラメータ調整、および、後述の応答予測部2dのパラメータ調整を行う。実験データ解析部2cは、前記フィードバック制御部2aの伝達関数のパラメータと前記フィードフォワード制御部2bの伝達関数のパラメータを調整する。
【0052】
実験データ解析部2cの演算の詳細は後述する。実験データ解析部2cは、アクチュエータ応答、供試体応答の両方が入力される必要はない。試験装置100のユーザが試験装置100の応答を調整したい場合はアクチュエータ応答を、供試体応答を調整したい場合は供試体応答をそれぞれ入力する形にすればよい。
【0053】
詳細は後述するが、実験データ解析部2cは、実験データを解析して達成したい理想的な応答を設定する理想応答設計部と、その理想応答を実現するようにフィードバック制御2aとフィードフォワード制御2bのパラメータを調整するパラメータ自動調整部の2つの機能を備えている。
【0054】
応答予測部2dは、内部センサである変位センサS04で取得したアクチュエータ応答、もしくは、外部センサである非接触センサS06で取得した供試体応答と、実験データ解析部2cで算出されたパラメータに従って、アクチュエータ、もしくは供試体10の応答予測値を計算する。応答予測部2dも実験データ解析部2cと同様に、試験装置100のユーザが希望する調整対象に応じた信号が入力されていれば良い。
【0055】
応答予測部2dは、実験データ解析部2cで算出したパラメータを利用した伝達関数とセンサS04、S06で取得した応答データを予測することで、パラメータの変更を行った後に得られるだろう応答波形を予測し、その予測結果をユーザインタフェース1に提示する。
【0056】
以下、いくつかの図を利用して、コントローラ2における、フィードフォワード制御部2b、実験データ解析部2c、応答予測部2dについて具体的な説明を行う。
【0057】
上記フィードフォワード制御部2bと応答予測部2dとの2つの機能ブロックは、初回加振時は機能しておらず、試験加振を行って供試体応答、アクチュエータ応答のデータが実験データ解析部2cに記憶、分析されてからそれぞれの機能が有効になるように運用されることが望ましい。
【0058】
ここで、図3Aに示すような目標波形1bw(黒実線)で試験加振を実施したとする。この時、内部センサである変位センサS04で取得したアクチュエータ3~7の変位は破線(図3B)、外部センサである非接触センサS06で取得した供試体変位は一点鎖線(図3C)で得られたとする。
【0059】
本発明の実施例1における試験装置100の制御目的は、目標波形1bwと、アクチュエータの応答(内部センサである変位センサS04の波形)または供試体10の応答(外部センサである非接触センサS06の波形)のいずれかを一致させることである。供試体10の剛性が低い、つまり、テーブル9の応答に対して供試体10が応答特性を持つ場合、アクチュエータの応答と供試体10の応答は一致しないため、アクチュエータの応答と供試体10の応答との両方の応答を同時に目標波形1bに一致させることはできないことに注意されたい。
【0060】
一般に、コントローラ2に含まれるフィードバック制御部2aはアクチュエータの応答(内部センサである変位センサS04の応答)を目標波形1bwに合わせるために利用されるものである。つまり、フィードバック制御部2aは図3Bの2つの波形を一致させるために利用される。
【0061】
よって、供試体10の応答を目標波形1bwに一致させるには不向きであることに注意が必要である。このため、本発明の実施例1では、フィードバック制御2aに加えて、フィードフォワード制御2bを併用した構成をとっている。
【0062】
フィードフォワード制御部2bの具体的な設計方法について説明する。
【0063】
図4Aはフィードフォワード制御部2bが無効な状態であり、フィードバック制御部2aのみが有効な時の制御ブロック図である。図4Aにおいて、Cはフィードバック制御部12a(図中、FB制御:eed ack)が有する伝達関数(調整可能なパラメータを有する)、Pはアクチュエータ(3~7)の伝達関数、Gは制御対象である供試体10の伝達関数を意味する。なお、アクチュエータ応答の調整を行う場合は伝達関数Gを考慮する必要はない。そのような場合は、G=1とすればよい。
【0064】
このとき、目標値r(目標波形1bwに相当)からアクチュエータの応答y(内部センサである変位センサS04の応答に相当)までの伝達関数は数式2で与えることができる。
【0065】
【数2】
【0066】
さらに、アクチュエータの応答yから供試体10の応答z(外部センサである非接触センサS06の応答に相当)は数式3で与えることができる。
【0067】
【数3】
【0068】
数式2と数式3より、目標値rから供試体10の応答zへの応答を数式4で与えることができる。
【0069】
【数4】
【0070】
なお、以上の数式2~4は正確には畳み込み積分を利用した表記とする必要があるが、理解しやすさを優先した表記になっていることに注意されたい。また、以降も同様の表記を行う。
【0071】
図4Bは、フィードフォワード制御部2bが有効になったときのブロック線図であり、Fがフィードフォワード制御(図中、FF制御:eed orward)の伝達関数である。
【0072】
フィードフォワード制御が有効な時、目標値rからアクチュータ変位yまでの伝達関数は数式5で表現できる。
【0073】
【数5】
【0074】
先ほどと同様に、目標値rから供試体10の応答zへの応答は数式6で与えることができる。
【0075】
【数6】
【0076】
ここで、フィードバック制御のみが有効なときに得られたアクチュエータの応答yをy1とし、フィードフォワード制御が追加されたときに得られるアクチュエータの応答yをy2とすると、数式2と数式5より、数式7の関係式を得ることができる。
【0077】
【数7】
【0078】
同様に、フィードバック制御のみが有効な時に得られた供試体10の応答zをz1とし、フィードフォワード制御が追加されたときに得られる供試体10の応答zをz2とすると、数式4と数式6より、数式8の関係式を得ることができる。
【0079】
【数8】
【0080】
つまり、フィードバック制御のみが有効なときに取得した応答y1、z1があれば、フィードフォワード制御を加えた後の応答y2、z2を数式7、数式8で算出することができる。
【0081】
<FFが有効な場合>
なお、上記の演算は、フィードフォワード制御が無効な状態で実験データを取得することを前提としているが、フィードフォワード制御が有効な状態の実験データを使っても同様の処理を行うことができる。
【0082】
フィードフォワード制御F1が有効な状態で取得した応答をy1、フィードフォワード制御F2が有効な状態で取得した応答をy2とすると、y1とy2の関係は数式9のように表現することができることが容易に導出できる。供試体10の応答の予測も同様である。
【0083】
【数9】
【0084】
フィードフォワード制御Fを調整するには、図4Cのように理想的な応答を表現した参照モデルMに対する応答ym、zm(数式10における式10aと式10b)とフィードフォワード制御を加えた後の応答y2、z2の差ができるだけ小さくなるように、数式11の評価関数Jを最小化するようにフィードフォワード制御Fを設計する。なお、数式11のNはデータ数である。
【0085】
【数10】
【0086】
【数11】
【0087】
例えば、フィードフォワード制御を、調整パラメータρを持つ伝達関数として、数式12で定義すると、数式11を最小化するように調整パラメータρを算出することができる。
【0088】
【数12】
【0089】
以上のパラメータ調整機能が本発明のパラメータ自動調整部に相当し、実験データ解析部2cの機能として提供される。
【0090】
なお、数式12の次数mが大きいほど、実現可能な制御動作の幅が広がり、理想応答ym、zmに近い波形を実現できるようになるが、最適化計算に必要な時間が長くなる。
【0091】
このため、次数mは小さな値で設定し、所望の精度を実現できない場合に限り、次数mを大きくする運用方法が望ましい。
【0092】
さらに、数式7~9によれば、事前に設計しているフィードバック制御Cと追加で設計したフィードフォワード制御Fもしくは変更前、変更後のフィードフォワード制御F1、F2と実測した応答y1、z1を利用して、設計したフィードフォワード制御追加後の応答y2、z2が予測できる。
【0093】
この予測結果を利用して、設計したフィードフォワード制御Fが所望の応答を実現するかを事前に計算することができる。この事前計算結果をユーザインタフェース1に提示することで、オペレータが次数mの調整を行う機構が備わっていることが望ましい。
【0094】
以上、実験データ(アクチュエータ応答や供試体応答)を利用してフィードフォワード制御部2bを設計するアルゴリズムが実験データ解析部2cに実装されている。
【0095】
<フィードバック制御も調整する場合>
これまではフィードフォワード制御のみを変更することを想定していたが、図5に示すように実験データ解析部2cでフィードバック制御部2aを変更することも可能である。
【0096】
フィードバック制御を変更する場合、フィードバック制御を、調整パラメータθを持つ伝達関数として、数式13で定義し、初期のパラメータで定義されるコントローラをC1とする(図6Aに図示)。
【0097】
【数13】
【0098】
例えば、初期のフィードバック制御を比例ゲインKp、積分ゲインKiをもつPI制御とすると、数式14で与えることができる。
【0099】
【数14】
【0100】
これは、数式13において、調整パラメータをθ0=Kp、θ1=Ki、θi=0(i>1)と置いた状態である。
【0101】
このような条件で取得した制御入力をu1、アクチュエータ応答をy1としたとき、疑似参照信号を数式15のように得ることができる。
【0102】
【数15】
【0103】
この疑似参照信号を利用して、数式16を最小化する最適なパラメータθ*を算出すると、調整後のパラメータを適用した後の閉ループ系の応答(数式17)が数式10の理想応答Mと一致することが知られている。
【0104】
【数16】
【0105】
【数17】
【0106】
さらに、フィードバック制御の調整においては、図6Bのように外乱dが印加される状況において、外乱dを抑制するようにパラメータθを計算することも可能である。
【0107】
なお、図5では、フィードバック制御2aとフィードフォワード制御2bの両方を調整可能な構成としているが、かならず両方を調整しないと利用できないわけでない。つまり、フィードバック制御2aのみを調整しても良いし、フィードフォワード制御2bのみを調整しても良く、この選択はオペレータにゆだねられる。
【0108】
フィードバック制御、フィードフォワード制御いずれのパラメータも実験データを利用して設計することができる。さらに、制御対象の伝達関数(アクチュエータの伝達関数P、供試体の伝達関数G)を直接求める必要が無いため、同定用のランダム加振が不要になるメリットもある。
【0109】
ただし、理想応答Mの設計方法については、本発明により実現することができる。本発明では、ひずみ率を効率的に低減可能な理想応答Mの設計方法を提供する。なお、この理想応答Mを設計する機能が本発明の理想応答設計部に相当し、実験データ解析部2c内で実行される。
【0110】
<理想応答の具体的な設計方法>
数式1に示した通り、ひずみ率は基本波形の実効値E1に対する高調波の実効値Ei(i≧2)の比率で定義される。よって、ひずみ率は、(1)分母に相当する基本波形の実効値E1を上げること、(2)分子に相当する高調波の実効値Eiを下げる、という2つの操作を実現することでひずみ率を抑制できる。
【0111】
以下、加振波形が振幅A、角周波数ωの正弦波r=Asin(ωt)で与えられるものとして、説明をする。なお、角周波数(rad/s)と周波数(Hz、1/s)は単位も異なるが、以下では、説明を簡単にするため、これらを区別することなく、単純に周波数と呼ぶ。
【0112】
上記の(1)の事項を実現するには、基本周波数、つまり、ωにおける実効値をできるだけ大きくすればよい。ただし、目標加振波形の振幅Aよりも応答振幅が多くなることは望ましくない。よって、周波数ωにおける理想的な応答波形の振幅A、つまり、応答値のゲインは0dB(1倍)になることが望ましい。
【0113】
高調波とは、基本周波数ωの整数倍の周波数成分のことを意味している。つまり、整数i(i≧2)を利用すると、高調波は周波数i×ωに影響するものである。よって、周波数2ω以上のゲインが0dB以下になれば(2)の事項の影響を抑制できると言える。
【0114】
よって、図7Aに示すように、カットオフ周波数ωcutがωから2ωの間に設定されるようなローパスフィルタを理想応答Mに設計すると、ひずみ率を効果的に低減できると言える。このようなローパスフィルタは折れ線近似を利用した1次遅れ系において、数式18のような特性を有するように設計することができる。
【0115】
【数18】
【0116】
なお、実効値の分析には高速フーリエ変換(FFT:ast ourier ransform)が利用されることが多い。FFTを利用する場合、基本周波数の偶数倍の成分は0になる。この場合、周波数2ωの実効値E2はひずみ率に影響がないため、図7Bのようにカットオフ周波数ωcutを3ω未満(3倍未満)に設定したローパスフィルタを理想応答Mとしても良い。
【0117】
図7A図7Bのように示したローパスフィルタで理想応答Mを設計すると、高周波数帯の全域のゲインを低減することができる。ただし、試験装置100の応答の実効値はそのイメージを図8に示すように、奇数次の高調波に大きな値が現れることがある。
【0118】
このような大きな値は図7A図7Bのようなローパスフィルタでは抑制することができない。このような高調波の影響を抑制するにはノッチフィルタを利用して、特定の周波数におけるゲインを抑制した形で理想応答を設計することが望ましい。つまり、伝達関数は、目標波形の基準周波数よりも高いカットオフ周波数を有するローパスフィルタ特性と、基準周波数の整数倍の帯域を有する1つ以上のノッチフィルタ特性とを有することが望ましい。
【0119】
ノッチフィルタの伝達関数Niは数式19で与えることができる。
【0120】
【数19】
【0121】
数式19において、ηはノッチ幅を調整するパラメータ、d’はノッチの深さ(ゲイン)を調整するパラメータである。ηを小さくするほどノッチの幅が小さくなり、d’を小さくするほどゲインを抑制する効果が大きくなる。これらのパラメータは、制御調整用のプレ試験で加振を行って取得した波形データを分析することで設計することが可能である。
【0122】
i×ωにノッチフィルタを当てれば、高調波の影響を抑制する効果が期待できる。数式19で設計したノッチフィルタは図9に示すように特定のゲインのみが抑制されるノッチフィルタ特性を有する。
【0123】
各伝達関数の積を利用したときに得られる伝達関数の、Bode線図は各要素の重ね合わせで表現することができる。つまり、理想応答Mを数式20で設計したときに得られるBode線図は図10のようになる。
【0124】
【数20】
【0125】
なお、数式20aは、FFTを利用すると偶数次の実効値が0になることを利用した簡易表記である。数式20bのようにすべての高調波の影響を抑制するように理想応答を設計しても良い。なお、数式20において、Nnはノッチフィルタの数を表す数値である。
【0126】
以上のような理想応答Mを利用したうえで、フィードバック制御Cとフィードフォワード制御Fをそれぞれ設計することでひずみ率を効果的に低減できると考えられる。
【0127】
<応答予測部2d>
前述のように、フィードバック制御のみが有効な状態でアクチュエータ応答yと供試体応答zを取得しておくと、フィードフォワード制御追加後の応答を数式7~9で算出することができる。さらに、この予測値を解析することで、制御変更後の各周波数の実効値も予測することが可能になる。
【0128】
よって、この仕組みを利用することで、フィードフォワード制御を追加する前にユーザインタフェースに応答予測を示すことでひずみ率の改善予測を提示することができる。
【0129】
<実行時のフロー>
以上で説明した本発明の実施例1によって実現される試験装置100の駆動方法を図11のフローチャートを用いて説明する。
【0130】
まず、試験装置100の立ち上げ準備として、ステップS1において、オペレータが各種設定(初期設定)を行う。これはオペレータがユーザインタフェース1を操作して、試験パターンを設定する操作に相当し、この操作を行うことで、目標波形設定部1bに試験パターンが設定される。ここで設定した目標波形の周波数ωが基本周波数になる。
【0131】
また、コントローラ2では、オペレータが目標波形設定部1bに試験パターンを設定したタイミングで、フィードフォワード制御部2bの伝達関数F(数式11)の分子部分の係数ρi(i=0~m)を全て0に設定する。このように設定することで、フィードフォワード制御部2bは常に0を出力する、無効状態になる。
【0132】
なお、前述の通り、本発明はフィードフォワード制御が有効なデータを利用しても問題ない。ただし、そのような運用を行う場合、最初のフィードフォワード制御をオペレータが手動で設計しなくてはならないことに注意が必要である。
【0133】
また、図5に示した構成のように、フィードバック制御C(数式13)も調整する場合は、数式14のようなPID制御をオペレータが設計する処理もステップS1に含まれる。ステップS1の処理がすべて完了すると、ステップS2に遷移する。
【0134】
ステップS2では、目標波形設定部1bに試験パターンを利用した加振試験を行う。加振開始から内部センサである変位センサS04、および外部センサである非接触S06が出力するデータをロギングし始め、加振パターンが終了するとデータのロギングを終了する。この操作がステップS3に相当する。なお、フィードバック制御の調整を行う場合は、コントローラ2から出力された制御入力uも同時にロギングされる。なお、ロギングは、実験データ解析部2c内の内部メモリ(図示せず)で行われる。
【0135】
ステップS4では、加振中に取得したデータを利用して、FFTを実施する。FFTを実行することで図8に示したような実効値を算出することできる。この機能は実験データ解析部2cで実行される。
【0136】
ステップS5では、ステップS1で設定した基本周波数ωに基づいてローパスフィルタL(数式18)とステップS4で算出した実効値に対応するようにノッチフィルタNi(数式19)を決定し、これらを利用して理想応答M(数式20)を決定する。この機能も実験データ解析部2cで実行される。
【0137】
ステップS6では、ステップ5で決定した理想応答を利用して、フィードバック制御、フィードフォワード制御のパラメータ調整を行う。この機能も実験データ解析部2cで実行される。
【0138】
ステップS7の実行は任意であるが、ステップS6でフィードバック制御の調整を行った場合、応答予測(数式7、8)を使った予測式が成立しなくなる。このため、フィードバック制御の調整を行った場合(ステップS7でYES)は再度試験加振を行うためステップS2に戻ることを推奨する。ステップS7において、フィードバック制御の調整を行わない場合(NO)、もしくは、オペレータが予測結果の提示を求めない場合はステップS8へと遷移する。
【0139】
ステップS8では、実験データと制御変更後のフィードフォワード制御を利用して応答予測(数式7、8)を行い、その結果をユーザインタフェース1に提示する。ユーザインタフェース1に提示する情報は、予測波形y2、z2(数式9)をグラフ表示するだけでなく、これらを利用したひずみ率の計算結果など数値情報を提示しても良い。
【0140】
なお、応答予測が可能な状況はフィードフォワード制御のみを変更した場合なので、フィードバック制御の調整を行って、かつ、追加の加振実験を行わなかった場合(フィードバック制御の調整を行ったが、ステップ7でNOを選択した場合)は応答予測が困難であることをユーザインタフェース1に提示する。ただし、応答予測ができない場合は、参考値として数式10で計算できる理想的な応答ym、zmを利用した解析結果を提示しても良い。
【0141】
ステップS9では、オペレータがユーザインタフェース1に提示された予測結果、もしくは、その参考値を確認して、試験を行うのに十分な性能に到達しているかを確認する。要求性能に到達している場合(YES)はステップSC10に遷移する。一方、要求性能に到達していない場合(NO)はステップS5に戻る。
【0142】
ステップS5に戻った場合は、ローパスフィルタL(数式18)やノッチフィルタNi(数式19)の再設計を行う。さらに、ステップS6で調整すべきフィードバック制御の次元nやフィードフォワード制御の次元mを変更して制御調整をやり直す。
【0143】
ステップS10では、制御パラメータ調整後のフィードバック制御、フィードフォワード制御を利用して本加振試験を実施する。
【0144】
ステップS10までで一通りの制御調整の工程は完了する。以降は再試験を行う場合の処理になる。
【0145】
ステップS11では、再試験を行うか否かを判断する。一度きりの試験であれば、再試験は不要(NO)なので、処理を終了する。ステップS11で再試験を行う場合(YES)はステップS12へと遷移する。
【0146】
ステップS12では再試験を行う場合の判断を行う。再試験を行う場合でも、供試体10に変更が無ければ(NO)、調整済みの制御器を利用できるため、ステップS10に遷移して、直ぐに本加振試験を行うことができる。
【0147】
一方、ステップS12において、供試体10に変更がある場合(YES)、ステップS1に戻り、通常通りの作業手順を繰り返すことになる。
【0148】
なお、供試体10が変化しても、応答調整の対象がアクチュエータ応答であれば、事前に調整しておいた制御パラメータを流用できる可能性がある。ただし、供試体10に変更があると、供試体反力(図6Bにおける外乱dに相当)も変化する可能性が高いため、そのような運用は推奨しないようにユーザインタフェース1に提示することが望ましい。
【0149】
以上のように、本発明の実施例1によれば、試験装置100の伝達関数を算出することなく、効果的にひずみ率を低減する制御調整機能を有する試験装置100を提供することができる。
【0150】
また、伝達関数を同定するための加振実験を行うことなく、ひずみ率を低減する制御を実行することができる。さらに、制御パラメータ調整の工数を削減することができる。
【0151】
(実施例2)
次に、本発明の実施例2について、説明する。
【0152】
実施例1では、フィードフォワード制御2bがフィードバック制御2aと並列に存在する形式を想定していた。ただし、フィードフォワード制御2bはこのような実装形態に限定されない。
【0153】
実施例2では、図12のように、フィードフォワード制御2bがフィードバック制御2bと直列に並ぶ構成を説明する。本発明の実施例2における制御指令演算部12bは、フィードバック制御2aと、フィードフォワード制御2bと、を備える。
【0154】
なお、図12図5と同様にフィードバック制御2aとフィードフォワード制御2bの両方の制御パラメータを実験データ解析部2cで調整可能な構成にしているが、図2と同様にフィードフォワード制御2bのみを調整するようにしても良いし、フィードバック制御2aのみを調整するようにしても良い。
【0155】
実施例2の構成の多くは実施例1と同様であるので、実施例1との差異のみを説明する。
【0156】
実施例2では、フィードフォワード制御を含めたブロック線図を図13のように示すことができる。
【0157】
つまり、フィードフォワード制御が有効な場合の目標波形rからアクチュエータ応答yまでの伝達関数を数式21のように与えることができる。
【0158】
【数21】
【0159】
フィードバック制御のみが有効な場合(図4A、数式5)に取得した応答波形をy1とすれば、実施例1と同様の議論によって、フィードフォワード制御を追加したときの応答を数式22で与えることができる。
【0160】
【数22】
【0161】
このように、応答予測ができれば、以降の処理は実施例1と同様になる。
【0162】
実施例2の処理手順も図11に示したフローチャートで説明できる。実施例1との差異のみを説明する。
【0163】
実施例1では、ステップS1にてフィードフォワード制御を無効化するために、フィードフォワード制御の伝達関数F(数式12)の分子部分の係数ρi(i=0~m)を全て0に設定していた。実施例2でこのような設定を行うと、F=0になるため、修正後の目標波形r’=Frが0になってしまう。ステップS1では、フィードフォワード制御を無効化することが目的であるので、r’=rを満足する、つまり、F=1になる値を初期値として利用する必要がある。
【0164】
よって、実施例2の場合、すべての調整パラメータρi(i=0~2m)を1にすればよい。フィードフォワード制御の初期設定の方法さえ変更すれば、以降は実施例1と同様である。
【0165】
実施例2においても、実施例1と同様な効果を得ることができる。
【0166】
(実施例3)
次に、本発明の実施例3について、図14を用いて説明する。
【0167】
実施例2では、フィードフォワード制御がコントローラ内に実装されていることを想定していた。既設の試験装置100の場合、フィードバック制御のみで駆動させており、かつ、プログラムの書き換えが困難である状況も想定され得る。
【0168】
実施例3では、既設の試験装置100など、コントローラ2のプログラムを更新することが困難なサイトでの利用に好適な試験装置100を提供する。
【0169】
実施例3では、通常のコントローラ2に加えて追加コントローラ20を備えている。追加コントローラ20はフィードフォワード制御20b、実験データ解析部20c、応答予測部20dの機能を有している。フィードフォワード制御部20b、実験データ解析部20c、応答予測部20dが、コントローラ2に実装されるか、追加コントローラ20に実装されるかが実施例2と実施例3との差になる。
【0170】
このような構成変更に伴い、実施例3におけるフィードフォワード制御部20bはコントローラ2に提供する目標値を修正するために利用されている目標波形修正部として扱うことになる。
【0171】
実施例3において、コントローラ2の書換えが完全にできない場合は、フィードバック制御部2aのパラメータを調整する機構が省略される。
【0172】
なお、制御プログラムの書き換えができなくても、制御パラメータが調整可能な場合は、図15のように、追加コントローラ20からフィードバック制御部2aのパラメータを提供する構成にしても良い。
【0173】
実施例3においては、フィードバック制御部2aが制御指令演算部に対応する。
【0174】
実施例3は、実施例2で1つのコントローラ2に実装されていた機能を追加コントローラ20に割り当てただけなので詳細な説明は省略する。
【0175】
実施例3においても、実施例1と同様な効果を得ることができる他、既設の試験装置100など、コントローラ2のプログラムを更新することが困難なサイトでも、試験装置100の伝達関数を算出することなく、効果的にひずみ率を低減する制御調整機能を有する試験装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0176】
1・・・ユーザインタフェース、1a・・・GUI、1b・・・目標波形設定部、2・・・コントローラ、2a・・・フィードバック制御部、2b、20b・・・フィードフォワード制御部、2c、20c・・・実験データ解析部、2d、20d・・・応答予測部、3・・・サーボアンプ、4・・・サーボバルブ、5・・・油圧源、6・・・油圧シリンダ、7・・・油圧ピストン、8・・・カップリング、9・・・テーブル(供試体設置部)、10・・・供試体、11・・・加算部、12a、12b・・・制御指令演算部、20・・・追加コントローラ、100・・・試験装置、S01・・・温度センサ、S02a、S02b・・・流量センサ、S03・・・速度センサ、S04・・・変位センサ、S05a、S05b・・・圧力センサ、S06・・・非接触センサ
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15