(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117286
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】インサート部材の鋳造装置および鋳造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/02 20060101AFI20240822BHJP
B22D 17/22 20060101ALI20240822BHJP
B22D 17/24 20060101ALI20240822BHJP
B22D 17/00 20060101ALI20240822BHJP
B22D 19/00 20060101ALI20240822BHJP
H02K 17/16 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
H02K15/02 J
B22D17/22 E
B22D17/24 Z
B22D17/00 D
B22D19/00 T
H02K17/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023296
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】UBEマシナリー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三吉 博晃
【テーマコード(参考)】
5H013
5H615
【Fターム(参考)】
5H013MM02
5H615AA01
5H615BB06
5H615BB14
5H615PP03
5H615SS12
5H615SS13
(57)【要約】
【課題】鋳造装置と鋳造金型のコンパクト化と簡素化、および、金型段取りの簡素化を実現し、さらに、溶湯とインサート部材が一体化した高品質な鋳造品の安定供給を可能とする、インサート部材の鋳造装置および鋳造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】複数の連通空間部を内部に備える金属製のインサート部材を配置した金型キャビティに向けて溶湯を射出充填する、インサート部材の鋳造装置において、連通空間部が鉛直上下方向に向くようにインサート部材を鉛直下方から支持するスライドテーブル部と、スライドテーブル部にインサート部材を支持した状態で、固定金型と可動金型を水平方向に型締して金型キャビティを形成する型締部と、可動金型を支持する可動盤に配置された加圧部と、固定金型を支持する固定盤に配置された加圧固定部と、を備え、固定金型と可動金型の型締により加圧部と加圧固定部がロックされる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の連通空間部を内部に備える金属製のインサート部材を配置した金型キャビティに向けて溶湯を射出充填する、インサート部材の鋳造装置において、
前記連通空間部が鉛直上下方向に向くように前記インサート部材を鉛直下方から支持するスライドテーブル部と、前記スライドテーブル部に前記インサート部材を支持した状態で、固定金型と可動金型を水平方向に型締して前記金型キャビティを形成する型締部と、前記可動金型を支持する可動盤に配置された加圧部と、前記固定金型を支持する固定盤に配置された加圧固定部と、を備え、
前記固定金型と前記可動金型の型締により前記加圧部と前記加圧固定部がロックされることを特徴とする、インサート部材の鋳造装置。
【請求項2】
前記加圧部は、加圧支持部に支持される第1加圧駆動部と、前記金型キャビティに配置された加圧ブロックと、第1加圧連結部と、を備え、前記第1加圧連結部で前記第1加圧駆動部と前記加圧ブロックを連結した状態で前記可動盤に配置される、請求項1に記載のインサート部材の鋳造装置。
【請求項3】
前記第1加圧駆動部で前記加圧ブロックを押圧して、前記インサート部材の鉛直下面に第1空間部を形成し、前記インサート部材の鉛直上面に第2空間部を形成する、請求項1または2に記載のインサート部材の鋳造装置。
【請求項4】
前記第1空間部に向けて溶湯を射出充填する射出部を備え、前記第1空間部と前記連通空間部と前記第2空間部を溶湯で充満させて、前記溶湯と前記インサート部材が一体化した鋳造品を成形する、請求項3に記載のインサート部材の鋳造装置。
【請求項5】
前記加圧部は、前記加圧支持部に支持された第2加圧駆動部と、第2加圧連結部と、前記加圧ブロック内に配置した加圧ピストンと、を更に備え、前記第2加圧連結部で前記第2加圧駆動部と前記加圧ピストンを連結した状態で、前記第2加圧駆動部で前記加圧ピストンを操作して前記第2空間部に充満された前記溶湯を加圧する、請求項2または4に記載のインサート部材の鋳造装置。
【請求項6】
前記加圧支持部は、前記型締部に対して前記固定金型および前記可動金型の脱着を行う待機位置と、前記第1加圧駆動部と前記加圧ブロックの連結、あるいは、前記第2加圧駆動部と前記加圧ピストンの連結を行う連結位置と、を移動可能である、請求項1または2に記載のインサート部材の鋳造装置。
【請求項7】
前記スライドテーブル部は、前記固定金型と前記可動金型とで囲まれた空間内を摺動し前記インサート部材をセットするテーブルと、前記可動金型から離れた位置に配置され前記テーブルの摺動を操作するテーブル駆動部と、前記テーブルと前記テーブル駆動部を連結するテーブル連結部と、を備える、請求項1に記載のインサート部材の鋳造装置。
【請求項8】
前記インサート部材は、モータロータを構成する部品である、請求項1に記載のインサート部材の鋳造装置。
【請求項9】
請求項1に記載のインサート部材の鋳造装置を用いた鋳造方法において、
複数の連通空間部を内部に備える金属製のインサート部材の前記連通空間部が鉛直上下方向に向くように、スライドテーブル部に前記インサート部材をセットするインサート部材セット工程と、前記スライドテーブル部に前記インサート部材を支持した状態で、固定金型と可動金型を水平方向に型締して金型キャビティを形成する金型キャビティ形成工程と、前記固定金型と前記可動金型の型締により、前記可動金型を支持する可動盤に配置された加圧部と、前記固定金型を支持する固定盤に配置された加圧固定部とがロックされる加圧ロック工程と、前記金型キャビティに配置された加圧ブロックと前記加圧部を連結する連結工程と、前記加圧部で前記加圧ブロックを前記金型キャビティに押圧して、前記インサート部材の鉛直下面に第1空間部および鉛直上面に第2空間部を形成する空間部形成工程と、射出部から前記第1空間部に向けて溶湯を射出充填し、前記第1空間部と前記連通空間部と前記第2空間部を溶湯で充満させる射出充填工程と、前記金型キャビティ内で前記溶湯の冷却固化を行う冷却工程と、前記溶湯と前記インサート部材が一体となった鋳造品を前記金型キャビティから搬出する鋳造品搬出工程と、を備える、ことを特徴とする鋳造方法。
【請求項10】
前記射出充填工程において、前記第1空間部に充満された前記溶湯を前記射出部から加圧する第1加圧工程と、前記第2空間部に充満された前記溶湯を前記加圧部から加圧する第2加圧工程と、を更に備える、請求項9に記載の鋳造方法。
【請求項11】
前記インサート部材は、モータロータを構成する部品である、請求項9または10に記載の鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の連通空間部を内部に備える金属製のインサート部材を配置した金型キャビティに向けて溶湯を射出充填し、インサート部材の両端に形成された空間部と連通空間部を溶湯で充満させて、溶湯とインサート部材が一体化した鋳造品を成形するインサート部材の鋳造装置および鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の連通空間部を内部に備える金属製のインサート部材を、金型キャビティの所定の位置に配置して、インサート部材の両端に空間部を形成させる。次いで、片方の空間部に向けて射出部から所定の組成に調整された溶湯を射出充填して、片方の空間部と連通空間部および反対側の空間部を溶湯で充満させ、溶湯が充満した状態で冷却固化させる。その結果、例えば、電動機または電気モータのモータロータを構成する部品に好適な、溶湯とインサート部材が一体化した鋳造品が効率的に成形されることから、これらに関する鋳造装置および鋳造方法について多くの提案がされている。
【0003】
例えば、特許文献1は、竪型締の鋳造装置を用いて、複数の連通空間部が鉛直上下方向に向くようにインサート部材を配置し、インサート部材の鉛直下方に形成した下部エンドリングから溶湯を射出充填し、連通空間部を経由して、インサート部材の鉛直上方に形成した上部エンドリングまで溶湯を充満させる。さらに、鋳造金型の上部に設けた加圧手段を用いて上部エンドリング内の溶湯を加圧し、下部エンドリング内の溶湯は射出充填手段から加圧するとしている。また、特許文献2は、特許文献1と同様の手段であり、上部エンドリング内の溶湯の加圧手段を竪型締の鋳造装置に設けている点が異なる。
【0004】
また、例えば、特許文献3は、横型締の鋳造装置を用いて、複数の連通空間部が鉛直上下方向に向くようにインサート部材を配置する。次いで、特許文献1と同様に、インサート部材の鉛直下方に形成した下部キャビティから溶湯を射出充填し、連通空間部を経由して、インサート部材の鉛直上方に形成した上部キャビティまで溶湯を充満させる。さらに、インサート部材を押圧して固定する第1ピストンと、上部キャビティ内の溶湯を加圧する第2ピストンを鋳造金型に設ける。また、特許文献4は、横型締の鋳造装置を用いて、複数の連通空間部が水平方向に向くようにインサート部材を配置し、インサート部材の両端に形成した短絡環形成用キャビティの片側から溶湯を射出充填し、連通空間部と両端の短絡環形成用キャビティを溶湯で充満させる。さらに、鋳造金型に設けた加圧手段で他方の短絡環形成用キャビティ内の溶湯を加圧する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2-261039号公報
【特許文献2】特開平5-49220号公報
【特許文献3】特開平8-317615号公報
【特許文献4】特開2009-284655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、例えば、電動機または電気モータのモータロータを構成する部品に好適な、溶湯とインサート部材が一体化した鋳造品において、射出部から連通空間部を経由して、インサート部材の両端に形成した空間部の溶湯を適正に加圧することが望まれる。そのために、射出部からの溶湯の加圧力(鋳造圧力という)は高圧を必要とし、射出部は高圧化および大型化となる。また、高圧の鋳造圧力により金型PL面からの溶湯の漏出(鋳バリという)が心配され、鋳造金型は鋳バリを防止するために大型化となる。また、鋳造金型を型締する型締部も大型化を必要とする。そのために、特許文献1から特許文献4に示すように、射出部からの溶湯加圧と、射出部とは別に設けた加圧手段を用いた溶湯加圧の組合せが好適であり、これにより、金型キャビティ内の鋳造圧力を下げることができ、射出部と型締部および鋳造金型のコンパクト化と、鋳巣の無い健全な溶湯とインサート部材が一体化した鋳造品を得ることができるとされている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に示す手段は、鋳造金型に油圧シリンダ等の加圧手段が組み込まれた形態であるので、鋳造金型のコンパクト化は期待できない。また、新規の鋳造金型において、加圧手段を含んでの金型製作となるために金型コスト高を避けることができない。また、加圧手段を含んだ状態での鋳造金型の鋳造装置への脱着作業(金型段取りという)は、煩雑さが予見される。さらに、竪型締の鋳造装置の高さ方向は大型となり、例えば、建屋の低い鋳造工場では、地下ピットを掘って鋳造装置を収納する等の面倒な処置を必要とする。これに対して、特許文献2に示す手段は、鋳造装置に油圧シリンダ等の加圧手段を組み込んだ形態であるので、鋳造金型のコンパクト化と金型コスト低減、および段取り作業の簡素化を可能とする。しかしながら、竪型締の鋳造装置の高さ方向は大型であるので、特許文献1と同様な課題が残る。ここで、特許文献1および特許文献2においては、連通空間部およびインサート部材の両端の空間部が、型締部の型開閉方向に配列する形態である。そのため、射出部からの溶湯加圧と加圧手段を用いた溶湯加圧の組合せであっても、金型キャビティ内の鋳造圧力が型締部に直接負荷される形態であるので、鋳造圧力に負けないように大型の型締部を必要とする。
【0008】
これに対して、特許文献3に示す手段は、連通空間部およびインサート部材の両端の空間部が、型締部の型開閉方向と直交する方向に配列し、金型キャビティ内の鋳造圧力が型締部に直接負荷される形態でないので、型締部のコンパクト化を実現する。また、射出部からの溶湯加圧と加圧手段を用いた溶湯加圧の組合せによる、金型キャビティ内の鋳造圧力の低減効果によって、型締部の更なるコンパクト化を可能とする。さらに、横型締の鋳造装置は高さ方向がコンパクトであるので、竪型締の鋳造装置で生じる課題は解消される。しかしながら、鋳造金型に油圧シリンダ等の加圧手段が組み込まれた形態であるので、特許文献1に示す課題は残ったままである。
【0009】
また、特許文献4に示す手段は、インサート部材を水平方向に配置して、横型締の鋳造装置の高さ方向をよりコンパクト化することができる。しかしながら、連通空間部およびインサート部材の両端の短絡環形成用キャビティが、型締部の型開閉方向に配列している形態であるので、金型キャビティ内の鋳造圧力が型締部に直接負荷される。その結果、鋳造圧力に負けないように大型の型締部を必要とし、高さ方向のコンパクト化の効果が薄れてしまう。また、鋳造金型に油圧シリンダ等の加圧手段が組み込まれた形態であるので、特許文献3に示す課題は残ったままである。さらに、溶湯に含まれる比重の軽いガスや不純物等が、複数の連通空間部内に留まる恐れがあるので、鋳巣の無い健全な溶湯とインサート部材が一体化した鋳造品の安定生産を実現することが困難と考えられる。そのために、比重の軽いガスや不純物等を効率よく連通空間部から排出できる、特許文献1から特許文献3に示すように、連通空間部を鉛直上下方向に向くように金型キャビティ内に配置することが好ましい形態である。
【0010】
そこで、本発明は、鋳造装置と鋳造金型のコンパクト化と簡素化、および、金型段取りの簡素化を実現し、さらに、溶湯とインサート部材が一体化した高品質な鋳造品の安定供給を可能とする、インサート部材の鋳造装置および鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のインサート部材の鋳造装置は、
複数の連通空間部を内部に備える金属製のインサート部材を配置した金型キャビティに向けて溶湯を射出充填する、インサート部材の鋳造装置において、
前記連通空間部が鉛直上下方向に向くように前記インサート部材を鉛直下方から支持するスライドテーブル部と、前記スライドテーブル部に前記インサート部材を支持した状態で、固定金型と可動金型を水平方向に型締して前記金型キャビティを形成する型締部と、前記可動金型を支持する可動盤に配置された加圧部と、前記固定金型を支持する固定盤に配置された加圧固定部と、を備え、
前記固定金型と前記可動金型の型締により前記加圧部と前記加圧固定部がロックされることを特徴とする。
【0012】
本発明のインサート部材の鋳造装置において、
前記加圧部は、加圧支持部に支持される第1加圧駆動部と、前記金型キャビティに配置された加圧ブロックと、第1加圧連結部と、を備え、前記第1加圧連結部で前記第1加圧駆動部と前記加圧ブロックを連結した状態で前記可動盤に配置される、ことが好ましい。
【0013】
本発明のインサート部材の鋳造装置において、
前記第1加圧駆動部で前記加圧ブロックを押圧して、前記インサート部材の鉛直下面に第1空間部を形成し、前記インサート部材の鉛直上面に第2空間部を形成する、ことが好ましい。
【0014】
本発明のインサート部材の鋳造装置において、
前記第1空間部に向けて溶湯を射出充填する射出部を備え、前記第1空間部と前記連通空間部と前記第2空間部を溶湯で充満させて、前記溶湯と前記インサート部材が一体化した鋳造品を成形する、ことが好ましい。
【0015】
本発明のインサート部材の鋳造装置において、
前記加圧部は、前記加圧支持部に支持された第2加圧駆動部と、第2加圧連結部と、前記加圧ブロック内に配置した加圧ピストンと、を更に備え、前記第2加圧連結部で前記第2加圧駆動部と前記加圧ピストンを連結した状態で、前記第2加圧駆動部で前記加圧ピストンを操作して前記第2空間部に充満された前記溶湯を加圧する、ことが好ましい。
【0016】
本発明のインサート部材の鋳造装置において、
前記加圧支持部は、前記型締部に対して前記固定金型および前記可動金型の脱着を行う待機位置と、前記第1加圧駆動部と前記加圧ブロックの連結、あるいは、前記第2加圧駆動部と前記加圧ピストンの連結を行う連結位置と、を移動可能である、ことが好ましい。
【0017】
本発明のインサート部材の鋳造装置において、
前記スライドテーブル部は、前記固定金型と前記可動金型とで囲まれた空間内を摺動し前記インサート部材をセットするテーブルと、前記可動金型から離れた位置に配置され前記テーブルの摺動を操作するテーブル駆動部と、前記テーブルと前記テーブル駆動部を連結するテーブル連結部と、を備える、ことが好ましい。
【0018】
本発明のインサート部材の鋳造装置において、
前記インサート部材は、モータロータを構成する部品である、ことが好ましい。
【0019】
本発明のインサート部材の鋳造装置を用いた鋳造方法において、
複数の連通空間部を内部に備える金属製のインサート部材の前記連通空間部が鉛直上下方向に向くように、スライドテーブル部に前記インサート部材をセットするインサート部材セット工程と、前記スライドテーブル部に前記インサート部材を支持した状態で、固定金型と可動金型を水平方向に型締して金型キャビティを形成する金型キャビティ形成工程と、前記固定金型と前記可動金型の型締により、前記可動金型を支持する可動盤に配置された加圧部と、前記固定金型を支持する固定盤に配置された加圧固定部とがロックされる加圧ロック工程と、前記金型キャビティに配置された加圧ブロックと前記加圧部を連結する連結工程と、前記加圧部で前記加圧ブロックを前記金型キャビティに押圧して、前記インサート部材の鉛直下面に第1空間部および鉛直上面に第2空間部を形成する空間部形成工程と、射出部から前記第1空間部に向けて溶湯を射出充填し、前記第1空間部と前記連通空間部と前記第2空間部を溶湯で充満させる射出充填工程と、前記金型キャビティ内で前記溶湯の冷却固化を行う冷却工程と、前記溶湯と前記インサート部材が一体となった鋳造品を前記金型キャビティから搬出する鋳造品搬出工程と、を備える、ことを特徴とする。
【0020】
本発明のインサート部材の鋳造装置を用いた鋳造方法において、
前記射出充填工程において、前記第1空間部に充満された前記溶湯を前記射出部から加圧する第1加圧工程と、前記第2空間部に充満された前記溶湯を前記加圧部から加圧する第2加圧工程と、を更に備える、ことが好ましい。
【0021】
本発明のインサート部材の鋳造装置を用いた鋳造方法において、
前記インサート部材は、モータロータを構成する部品である、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、鋳造装置と鋳造金型のコンパクト化と簡素化、および、金型段取りの簡素化を実現し、さらに、溶湯とインサート部材が一体化した高品質な鋳造品の安定供給を可能とする、インサート部材の鋳造装置および鋳造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係るインサート部材の鋳造装置を示す概念図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る鋳造方法の工程の一部を示す図である。
【
図4】
図3に引き続いて鋳造方法の工程の一部を示す図である。
【
図5】
図4に引き続いて鋳造方法の工程の一部を示す図である。
【
図6】
図5に引き続いて鋳造方法の工程の一部を示す図である。
【
図7】
図6に引き続いて鋳造方法の工程の一部を示す図である。
【
図8】
図7に引き続いて鋳造方法の工程の一部を示す図である。
【
図9】
図8に引き続いて鋳造方法の工程の一部を示す図である。
【
図10】溶湯とインサート部材が一体となった鋳造品を示す図である。
【
図11】
図10に示す鋳造品を機械加工した後の製品を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組合せの全てが、各請求項に係る発明の解決手段に必須であるとは限らない。また、本実施形態においては、各構成要素の尺度や寸法が誇張されて示されている場合や、一部の構成要素が省略されている場合がある。
【0025】
(インサート部材の鋳造装置)
先ず、本発明の実施形態に係るインサート部材の鋳造装置について、
図1を用いて説明する。
図1に示すインサート部材の鋳造装置100は、インサート部材10と、鋳造金型20と、スライドテーブル部30と、型締部40と、加圧部50と、加圧固定部70と、射出部60と、を備える。
【0026】
インサート部材10は、
図2を用いて説明する。インサート部材10は、
図2(a)に示すように、所定の組成に調整された金属素材を複数積層させた金属積層体11の内部に、金属積層体11の鉛直下面11Lと鉛直上面11Uを連通するように、軸孔13と、複数の連通空間部12が形成されている。また、固定治具14が軸孔13に勘合している。この状態で鋳造金型20の所定の位置に配置される。なお、
図2(a)において、軸孔13と固定治具14には隙間があるように表現しているが、これは説明のために誇張したのであって、実際には隙間が殆ど無く、軸孔13と固定治具14は精度良く位置合わせされる。これによって、鋳造金型20への配置精度を高めることができる。また、
図2(b)または
図2(c)は、
図2(a)のA視またはB断面を示し、インサート部材10は円柱形状とする。例えば、電動機または電気モータのモータロータを構成する部品をインサート部材10に用いると、軸孔13に電動機または電気モータの回転軸を挿入して高精度に回転させることができる。このように、インサート部材10は、用途に応じて形状を選定することが好ましい。
【0027】
図1に戻る。鋳造金型20は、型締部40を操作して固定金型21と可動金型22を型締することで、金型キャビティ23と図示しない金型ゲートが形成される。インサート部材10は金型キャビティ23内に配置される。また、インサート部材10を支持するスライドテーブル部30を収納する形態である。射出部60から金型キャビティ23に向けて溶湯を射出充填する前に、金型キャビティ23および金型ゲートに離型剤を塗布することが好ましい。さらに、固定金型21と可動金型22には図示しない温調回路を含む金型温調手段を設けて、所定の温度に調整することが好ましい。また、鋳造金型20に図示しない真空吸引手段を設け、この真空吸引手段を用いて金型キャビティ23内を直接的に真空吸引するとしても良い。
【0028】
スライドテーブル部30は、固定金型21と可動金型22とで囲まれた空間内を自在に摺動し、インサート部材10をセットするテーブル31と、テーブル31の摺動を操作するテーブル駆動部32と、テーブル駆動部32の動作を制御するテーブル制御部33と、テーブル31とテーブル駆動部32を連結するテーブル連結部34と、を備える。このスライドテーブル部30を用いて、インサート部材10の連通空間部12が鉛直上下方向に向くように、金型キャビティ23内でインサート部材10を鉛直下方から支持する。具体的には、インサート部材10の軸孔13に挿入された固定治具14を、テーブル31に設けた図示しないセット手段に挿入する。また、テーブル駆動部32とテーブル制御部33は、可動金型22から離れた位置に配置され、テーブル連結部34を操作してテーブル31と切り離すことで、鋳造金型20の型締部40への脱着作業の簡素化を実現することができる。
【0029】
型締部40は、固定金型21を支持する固定盤41と、可動金型22を支持する可動盤42と、型締駆動部45を支持する型締盤43と、が水平方向に配置される。型締駆動部45は、油圧シリンダ等の油圧駆動手段とし、シリンダロッド44を介して、型締駆動部45と可動盤42が連結される。また、固定盤41と型締盤43は、可動盤42を貫通する複数の図示しないタイバーで連結される。型締制御部46で型締駆動部45を操作して、シリンダロッド44を介して、タイバーをガイドとして可動盤42が水平方向に動作する。ここで、可動盤42の動作について、固定盤41に近接する動作を型閉動作といい、
固定盤41から離間する動作を型開動作という。このように、型締部40は、固定盤41(あるいは固定金型21)に対して可動盤42(あるいは可動金型22)が水平方向に型開閉動作する。
【0030】
なお、
図1において、型締駆動部45を油圧シリンダ等の油圧駆動手段としたが、これに限定されることなく、例えば、電動機または電気モータの回転運動を直線運動に変換するボールネジ機構を用いた電動駆動手段であっても良く、油圧駆動手段と電動駆動手段を組み合せたハイブリット駆動手段であっても良い。また、型締駆動部45を複数配置しても良く、タイバーの先端部に型締駆動部45を配置した形態であっても良い。
【0031】
加圧部50は、加圧支持部55に支持される第1加圧駆動部51と、金型キャビティ23に配置された加圧ブロック80と、第1加圧連結部56と、を備える。第1加圧連結部56で第1加圧駆動部51と加圧ブロック80を連結した状態で可動盤42に配置される。また、第1加圧制御部52で第1加圧駆動部51を操作して、加圧ブロック80を金型キャビティ23内に配置したインサート部材10に押圧する。これにより、金型キャビティ23とインサート部材10とで囲まれた、前記インサート部材10の鉛直下面11Lに第1空間部81を形成する。同時に、加圧ブロック80とインサート部材10とで囲まれた、前記インサート部材10の鉛直上面11Uに第2空間部82を形成する。なお、
図1において、第1加圧駆動部51と第1加圧連結部56を1組として表現したが、これに限定されることなく、必要に応じて複数組としても良い。
【0032】
また、加圧部50は、加圧支持部55に支持された第2加圧駆動部53と、第2加圧連結部57と、加圧ブロック80内に配置した加圧ピストン83と、を更に備える。第2加圧連結部57で第2加圧駆動部53と加圧ピストン83を連結した状態で、第2加圧制御部54で第2加圧駆動部53を操作して、加圧ピストン83を鉛直上下方向に摺動させる。これにより、加圧ブロック80内に形成された第2空間部82の容積を可変させることができる。例えば、射出部60から第2空間部82に溶湯を充満させた場合、第2空間部82の容積が縮小する方向に加圧ピストン83を動作させることで、第2空間部82内に充満した溶湯を加圧することができる。なお、
図1において、第2加圧駆動部53と加圧ピストン83を2組と表現したが、必要に応じて増減しても良い。また、第1加圧駆動部51と第2加圧駆動部53を一体化した2重構造のシリンダ形態としても良い。
【0033】
また、第1空間部81と第2空間部82は、インサート部材10の内部に設けた複数の連通空間部12と連通状態にある。なお、軸孔13と第1空間部81および第2空間部82は連通していない。
【0034】
また、加圧移動制御部59で加圧移動駆動部58を操作して、第1加圧駆動部51と第2加圧駆動部53を支持する加圧支持部55を移動させることができる。例えば、型締部40に対して固定金型21および可動金型22の鋳造金型20の脱着を行う際に、この鋳造金型20の脱着作業と干渉しない位置(待機位置という)に移動させておく。これにより、鋳造金型20の脱着作業の簡素化を可能とする。また、第1加圧連結部56で第1加圧駆動部51と加圧ブロック80を連結させる、または、第2加圧連結部57で第2加圧駆動部53と加圧ピン83を連結させるに好適な位置(連結位置という)に移動させる。
【0035】
射出部60は、図示しない給湯手段から所定の組成に調整された所定量の溶湯Mの供給を受ける射出スリーブ61と、射出スリーブ61内で摺動するプランジャチップ62と、プランジャチップ62の摺動を操作する射出駆動部64と、プランジャチップ62と射出駆動部64を連結するプランジャロッド63と、を備える。射出スリーブ61は、溶湯Mの供給を受ける給湯位置と、鋳造金型20の図示しない金型ゲートと接続して金型キャビティ23内に向けて溶湯Mを射出充填する射出位置と、を移動可能である。射出制御部65で射出駆動部64を操作して、射出スリーブ61内の溶湯Mをプランジャチップ62が押圧し、金型キャビティ23内に形成された第1空間部81に向けて溶湯Mを射出充填する。続いて、第1空間部81から連通空間部12内へ溶湯Mが流動し、第2空間部82に溶湯Mが到達する。これにより、第1空間部81と連通空間部12および第2空間部82を溶湯Mが充満し、溶湯Mとインサート部材10が一体化した鋳造品を得る。
【0036】
ここで、射出スリーブ61およびプランジャチップ62には、冷却水等の冷却媒体が流れる流路を含む図示しない冷却手段が設けられている。また、プランジャチップ62と射出スリーブ61の強固な接触によるカジリ損傷の防止や摺動状態の安定化及び溶湯残渣物の付着抑制等のため、射出スリーブ61とプランジャチップ62との摺動面に潤滑剤を塗布することが好ましい。
【0037】
また、射出駆動部64は、例えば、油圧シリンダ等の油圧駆動手段としても良く、電動機または電気モータの回転運動を直線運動に変換するボールネジ機構を用いた電動駆動手段であっても良い。あるいは、油圧駆動手段と電動駆動手段を組み合せたハイブリット駆動手段であっても良い。なお、油圧駆動手段の場合は、アキュムレータ等の蓄圧手段をさらに備える形態であっても良い。
【0038】
また、
図1において、鋳造金型20に対して射出部60を鉛直下方方向に配置したが、例えば、射出部60を水平方向に配置し、金型ゲートの手前で溶湯Mの流動方向を鉛直上方に変える形態であっても良い。
【0039】
いずれの形態においても、射出部60から射出充填した溶湯Mが、第1空間部81から連通空間部12を経由して第2空間部82を順に、鉛直下方から鉛直上方に向かって流動させる。これによって、例えば、溶湯Mに含まれる比重の軽いガスや不純物等が、複数の連通空間部12内に留まることなく、効率よく連通空間部12から排出できる。その結果、鋳巣の無い健全な溶湯Mとインサート部材10が一体化した鋳造品の安定生産の実現を可能とする。
【0040】
加圧固定部70は、固定盤41に配置され、固定金型21と可動金型22の型締により、可動盤42に配置された加圧部50と、より詳しくは、加圧部50の加圧支持部55の先端部と加圧固定部70が勘合してロックされる。これにより、加圧部50を強固に固定することができ、金型キャビティ23への加圧ブロック80の強固な押圧と、金型キャビティ23内でのインサート部材10の強固な位置保持と、第1空間部81および第2空間部82の形成を強固なものとすることができる。さらに、射出部60から金型キャビティ23内に向けて溶湯Mの射出充填時の鋳造圧力、あるいは、射出部60から第1空間部81内に充填された溶湯Mの加圧時の鋳造圧力、第2加圧駆動部53を操作して第2空間部82内に充填された溶湯Mの加圧時の鋳造圧力、等に対して加圧部50を強固に固定することができる。その結果、型締部40および加圧部50、あるいは、鋳造金型20のコンパクト化を実現することが可能となる。
【0041】
また、
図1において、加圧部50を可動盤42に配置し、加圧固定部70を固定盤41に配置したが、これに限定されることなく、例えば、固定盤41に加圧部50、可動盤42に加圧固定部70のように配置するとしても良い。また、加圧部50を可動盤42に配置した形態では、加圧固定部70を固定金型21に配置するとしても良く、加圧部50が固定盤41に配置された形態では、加圧固定部70を可動金型22に配置するとしても良い。また、加圧移動駆動部58を起点に可動盤42に加圧部50を固定するように表現したが、可動盤42に対して加圧部50を脱着させる形態であっても良い。この場合、待機位置は、型締部40から離れた位置に設定し、待機位置から連結位置に加圧部50を移動させるとしても良い。さらに、加圧固定部70を用いずに、例えば、ボルト等の連結手段を用いて、加圧部50と可動金型22を連結する形態であっても良い。
【0042】
このように、複数の連通空間部12を内部に備える金属製のインサート部材10を配置した金型キャビティ23に向けて溶湯Mを射出充填するインサート部材10の鋳造装置100において、連通空間部12が鉛直上下方向に向くようにインサート部材10を鉛直下方から支持するスライドテーブル部30と、スライドテーブル部30にインサート部材10を支持した状態で、固定金型21と可動金型22を水平方向に型締して金型キャビティ23を形成する型締部40と、可動金型22を支持する可動盤42に配置された加圧部50と、固定金型21を支持する固定盤41に配置された加圧固定部70と、を備え、固定金型21と可動金型22の型締により加圧部50と加圧固定部70をロックさせる。これにより、溶湯Mの射出充填や加圧時に生じる鋳造圧力に対して、加圧部50を強固に固定することができ、加圧部50および鋳造金型20のコンパクト化と簡素化を実現することができる。さらに、鋳造圧力が型締部40に直接的に負荷する形態でないので、型締部40のコンパクト化効果と合わせて、鋳造装置100のコンパクト化と簡素化を確実に可能とすることができる。
【0043】
また、加圧部50は、加圧支持部55に支持される第1加圧駆動部51と、金型キャビティ23に配置された加圧ブロック80と、第1加圧連結部56と、を備え、第1加圧連結部56で第1加圧駆動部51と加圧ブロック80を連結した状態で可動盤42に配置される。さらに、第1加圧駆動部51で加圧ブロック80を押圧して、インサート部材10の鉛直下面11Lに第1空間部81を形成し、インサート部材10の鉛直上面11Uに第2空間部82を形成する。その状態で、第1空間部81に向けて溶湯Mを射出充填する射出部60を備え、第1空間部81と連通空間部12と第2空間部82を溶湯Mで充満させて、溶湯Mとインサート部材10が一体化した鋳造品を成形する。これにより、金型キャビティ23内でインサート部材10を精度良く強固に固定することができ、さらに、インサート部材10に対して第1空間部81および第2空間部82の形成の精度を高めることができ、高品質な鋳造品の安定生産を可能とする。
【0044】
さらに、加圧部50は、加圧支持部55に支持された第2加圧駆動部53と、第2加圧連結部57と、加圧ブロック80内に配置した加圧ピストン83と、を更に備え、第2加圧連結部57で第2加圧駆動部53と加圧ピストン83を連結した状態で、第2加圧駆動部53で加圧ピストン83を操作して第2空間部82に充満された溶湯Mを加圧する。これにより、第1空間部81と連通空間部12および第2空間部82に充満した溶湯Mの密度を好適な状態に調整することができ、鋳造品の品質を更に高めることができる。また、溶湯Mの射出スリーブ61の先端からの充填距離が最も長い第2空間部82内の溶湯Mの加圧を、加圧ピストン83に分担してもらう形態であるので、射出部60のコンパクト化を可能とする。
【0045】
また、加圧支持部55は、型締部40に対して固定金型21および可動金型22の脱着を行う待機位置と、第1加圧駆動部51と加圧ブロック80の連結、あるいは、第2加圧駆動部53と加圧ピストン83の連結を行う連結位置と、を移動可能である。さらに、スライドテーブル部30は、固定金型21と可動金型22とで囲まれた空間内を摺動しインサート部材10をセットするテーブル31と、可動金型22から離れた位置に配置されテーブル31の摺動を操作するテーブル駆動部32と、テーブル31とテーブル駆動部32を連結するテーブル連結部34と、を備える。これにより、鋳造金型20の脱着作業(金型段取り作業という)の簡素化を実現する。
【0046】
さらに、インサート部材10は、モータロータを構成する部品とすることで、高品質なモータロータを提供することができる。
【0047】
(鋳造方法)
次に、
図1に示すインサート部材10の鋳造装置100を用いた鋳造方法について、
図3から
図11を用いて説明する。なお、
図3から
図11は、鋳造方法の説明に必要な箇所を表現しており、その他の箇所は
図1を用いて説明する。
【0048】
先ず、
図3に示すように、固定金型21と可動金型22および加圧ブロック80を組み合わせた状態で、例えば、クレーン等の図示しない搬送手段を用いて、鋳造金型20を固定盤41および可動盤42へ搬入し取付けを行う(金型段取り工程という)。なお、
図3において、鋳造金型20を鉛直上方から下方に向けて搬入するとしたが、これに限定されることなく、例えば、鋳造装置100と並走する形態で配置された鋳造金型20を搭載し搬送する金型搬送代車等の手段を用いて、搬入するとしても良い。この場合は、固定盤41または可動盤42に対して水平方向から鋳造金型20が搬入される。
【0049】
金型段取り工程は、先ず、型締部40の型締制御部46で型締駆動部45を操作して、シリンダロッド44を介して、可動盤42を型開動作させて所定の型開位置に保持させておく(金型段取り位置という)。また、スライドテーブル部30のテーブル制御部33でテーブル駆動部32を操作して、テーブル31を可動盤42から突出しない位置に後退させておく。その際に、テーブル連結部34を操作して、テーブル31とテーブル駆動部32を切り離しておいても良い。また、加圧部50の加圧移動制御部59で加圧移動駆動部58を操作して、第1加圧駆動部51および第2加圧駆動部53を支持する加圧支持部55を待機位置に移動させておく。これにより、固定盤41と可動盤42への鋳造金型20の搬入が容易となり、金型段取り工程の簡素化を実現することができる。
【0050】
なお、
図3において、加圧ブロック80を鋳造金型20に組み込んだ状態としたが、例えば、鋳造金型20と加圧ブロック80を分離した状態で、金型段取り工程を行うとしても良い。この場合、鋳造金型20を固定盤41と可動盤42に取り付けた後で、加圧ブロック80を鋳造金型20に組み込むとする。または、金型段取り工程とは別に、第1加圧連結部56および第2加圧連結部57を操作して、加圧ブロック80を加圧支持部55に取り付けるとしても良い。また、図を簡素化するため、固定金型21と可動金型22および加圧ブロック80で囲まれた空間部(金型キャビティ23に相当)の、固定金型21と可動金型22の合わせ面(金型PL面という)の表記を省略している。
【0051】
次に、
図4に示すように、加圧ブロック80と第1加圧駆動部51および第2加圧駆動部53の連結を行う(連結工程という)。この連結工程は、先ず、加圧部50の加圧移動制御部59で加圧移動駆動部58を操作して、加圧支持部55を連結位置に移動させる。この状態で、型締部40の型締制御部46で型締駆動部45を操作して、シリンダロッド44を介して、可動盤42と鋳造金型20と固定盤41が所定の位置で密着するように型締動作させる。その後、図示しない固定手段等を用いて、固定盤41と固定金型21、および、可動盤42と可動金型22を取付けて固定させる。また、スライドテーブル部30のテーブル制御部33でテーブル駆動部32を操作して、テーブル31を固定金型21と可動金型22とで囲まれた空間内の所定の位置にセットする。なお、テーブル31とテーブル駆動部32が切り離された状態であった場合には、テーブル連結部34を操作して、テーブル31とテーブル駆動部32の連結を行う。ここで、鋳造成形の開始前までに、例えば、鋳造金型20の温度調整を行う図示しない温度調整手段や、摺動中子等を動作させる駆動手段等の接続(ユーティリティ接続という)を行う。
【0052】
次に、加圧部50の第1加圧制御部52で第1加圧駆動部51を操作して、第1加圧シリンダ511を加圧ブロック80に向けて押圧し、第1加圧連結部56を操作して、第1加圧シリンダ511を介して、第1加圧駆動部51と加圧ブロック80を連結する。同様に、加圧部50の第2加圧制御部54で第2加圧駆動部53を操作して、第2加圧シリンダ531を加圧ブロック80に向けて押圧し、第2加圧連結部57を操作して、第2加圧シリンダ531を介して、第2加圧駆動部53と加圧ブロック80内に配置した加圧ピストン83を連結する。これらの操作により、加圧ブロック80と第1加圧駆動部51および第2加圧駆動部53が連結され、その結果、加圧ブロック80と加圧部50が連結される。この加圧ブロック80と加圧部50が連結し、固定金型21と可動金型22の型締動作により、金型キャビティ23が形成される。なお、
図4においても図の簡素化のために、
図3と同様に、金型キャビティ23内の金型PL面を省略する。
【0053】
ここで、固定金型21と可動金型22の型締動作において、加圧部50の加圧支持部55の先端部と、加圧固定部70のテーパ部71とが勘合し加圧部50がロックされる(加圧ロック工程という)。この加圧ロック工程により、加圧部50と加圧ブロック80の連結工程を精度良く確実に行うことがでる。
【0054】
次に、
図5に示すように、図示しない搬送手段を用いて、
図2に示す、複数の連通空間部12を内部に備える所定の組成に調整された金属素材で製作されたインサート部材10を、スライドテーブル部30のテーブル31の所定の位置にセットする(インサート部材セット工程という)。このインサート部材セット工程は、先ず、型締部40の型締制御部46で型締駆動部45を操作して、シリンダロッド44を介して、可動盤42と可動金型22を所定の位置に型開動作させる(インサート部材セット位置という)。この時、スライドテーブル部30のテーブル制御部33でテーブル駆動部32を操作して、テーブル31をインサート部材10がセットしやすい位置に調整することが好ましい。次に、加圧部50の第1加圧駆動部51を操作して、可動金型22および固定金型21から離れた所定の位置に加圧ブロック80を移動させておく。この時、第2加圧駆動部53は、第1加圧駆動部51の動作と連動するように操作される。これらの動作により、インサート部材セット工程を精度良く短時間で行うことができる。
【0055】
ここで、インサート部材10の軸孔13に固定治具14を組み込んだ状態とする。この固定治具14の鉛直下方をテーブル31に設けたセット孔35に嵌め込むように、インサート部材10をスライドテーブル部30に支持させる。これにより、複数の連通空間部12が鉛直上下方向に向くように、スライドテーブル部30でインサート部材10を精度良く確実に支持することができる。なお、
図5において、可動金型22の型開動作の後に加圧ブロック80を移動するとしたが、例えば、型開動作の前に加圧ブロック80の移動を行っても良く、型開動作と加圧ブロック80の移動を同時に行うとしても良い。
【0056】
次に、スライドテーブル部30のテーブル31にインサート部材10を支持した状態で、固定金型21に対して可動金型22を水平方向に型締動作して、金型キャビティ23を形成する(金型キャビティ形成工程という)。この金型キャビティ形成工程は、先ず、
図6に示すように、スライドテーブル部30のテーブル制御部33でテーブル駆動部32を操作して、インサート部材10が可動金型22と密着するようにテーブル31を移動させる。次に、加圧部50の第1加圧駆動部51を操作して、第1加圧シリンダ511および第1加圧連結部56を介して、加圧ブロック80をインサート部材10に向けて押圧し、インサート部材10を固定させる。この時、第2加圧駆動部53は、第1加圧駆動部51の動作と連動するように操作される。
【0057】
次に、
図7に示すように、型締部40の型締制御部46で型締駆動部45を操作して、シリンダロッド44を介して、予め設定した型締力となるように、可動金型22と固定金型21の型締動作を行い、インサート部材10を支持した状態で金型キャビティ23を形成させる。これにより、複数の連通空間部12が鉛直上下方向に向いた状態で、金型キャビティ23の所定の位置に精度良く保持することができる。必要に応じて、第1加圧駆動部51で第1加圧シリンダ511および第1加圧連結部56を介して、加圧ブロック80を押圧する加圧力を調整することが好ましい。
【0058】
また、固定金型21と可動金型22の型締動作により、加圧部50の加圧支持部55の先端部と、加圧固定部70のテーパ部71とが勘合して、加圧部50が強固にロックされる(加圧ロック工程)。この加圧ロック工程により、金型キャビティ23内で加圧ブロック80を精度良く強固に固定することができる。
【0059】
金型キャビティ形成工程に続いて、
図7に示すように、加圧部50の第1加圧制御部52で第1加圧駆動部51を操作して、第1加圧シリンダ511および第1加圧連結部56を介して、加圧ブロック80を金型キャビティ23に押圧して、インサート部材10の鉛直下面11Lに第1空間部81および鉛直上面11Uに第2空間部82を形成させる(空間部形成工程という)。この空間部形成工程において、第1加圧駆動部51による加圧ブロック80の押圧力の調整と、金型キャビティ形成工程の型締駆動部45による型締力の保持と、加圧ロック工程による加圧部50の固定により、インサート部材10に対して精度の高い第1空間部81と第2空間部82を形成し、金型キャビティ23内に正確に強固に固定することができる。
【0060】
空間部形成工程に続いて、射出部60から金型キャビティ23に向けて溶湯Mの射出充填を行う(射出充填工程という)。この射出充填工程は、先ず、
図7に示すように、給湯位置で図示しない給湯手段から所定の組成に調整された所定量の溶湯Mを射出スリーブ61内に供給する(給湯という)。なお、給湯の前には、射出スリーブ61内の清掃および離型剤等の塗布が行われることが好ましい。給湯に続いて、図示しない傾転手段により射出スリーブ61を射出位置に移動させる。その後、図示しない移動手段により射出スリーブ61を鋳造金型20に押圧して連結させる(射出ドッキングという)。この射出ドッキングにより、射出スリーブ61の先端と金型ゲートおよび金型キャビティ23が連通状態となる。この給湯から射出ドッキングまでは、射出スリーブ61内の溶湯Mの温度低下を最小限とするために、短い時間で操作することが好ましい。また、射出スリーブ61内の溶湯Mの酸化防止のために、例えば、窒素等の不活性ガスを射出スリーブ61に向けて放出するとしても良い。また、射出スリーブ61およびプランジャチップ62には、図示しない温度調整手段を設けて温度調整するとしても良い。
【0061】
また、第2空間部82に充満された溶湯Mの加圧の準備として、加圧部50の第2加圧制御部54で第2加圧駆動部53を操作して、第2加圧シリンダ531および第2加圧連結部57を介して、加圧ピストン83を所定の位置に移動させて、第2空間部82の容積を拡大させておくことが好ましい。
【0062】
次に、
図8に示すように、射出ドッキングに続いて、射出部60の射出制御部65で射出駆動部64を操作して、プランジャロッド63を介して、プランジャチップ62を動作させて、射出スリーブ61内の溶湯Mを押圧し射出充填を行う。射出充填された溶湯Mは、金型ゲートから第1空間部81内に流動し、第1空間部81から連通空間部12、連通空間部12から第2空間部82へと順に溶湯Mが流動する。最終的には、金型ゲート、第1空間部81、連通空間部12、第2空間部82の全てに溶湯Mが充満される。
【0063】
この射出充填工程において、第1加圧駆動部51による加圧ブロック80の押圧力の調整と、金型キャビティ形成工程の型締駆動部45による型締力の保持と、加圧ロック工程による加圧部50の固定により、金型キャビティ23内でインサート部材10と第1空間部81および第2空間部82を精度良く強固に固定することができる。また、射出充填工程で生じる溶湯Mの射出充填力(鋳造圧力という)を、加圧ロック工程により強固に受け止めることができるので、加圧部50および加圧ブロック80を含む鋳造金型20のコンパクト化と簡素化を可能とする。さらに、溶湯Mは、鉛直下方の第1空間部81から鉛直上方の第2空間部82に向かって流動するので、例えば、比重の軽いガスや酸化物等の異物が溶湯Mに混在していたとしても、第1空間部81および連通空間部12に滞留することなく、最上流に位置する第2空間部82に効率良く流動される。鋳造後に、第2空間部82に滞留した異物等を機械加工で除去することで、高品質な鋳造品の安定供給を実現することができる。また、金型キャビティ23内の溶湯Mの流動方向は、型締部40に直接的に作用する方向でないので、型締部40のコンパクトも可能とする。
【0064】
また、射出充填工程は、
図9に示すように、第1空間部81と連通空間部12および第2空間部82に充満された溶湯Mの加圧を含む。先ず、予め設定された押圧力に基づいて、射出部60の射出制御部65で射出駆動部64を操作して、プランジャロッド63を介して、プランジャチップ62を動作させて射出スリーブ61内の溶湯Mを押圧する。これにより、金型ゲートを介して、第1空間部81内に充満した溶湯Mを加圧する(第1加圧工程という)。同時に、予め設定された押圧力に基づいて、加圧部50の第2加圧制御部54で第2加圧駆動部53を操作して、第2加圧シリンダ531および第2加圧連結部57を介して、第2空間部82内に充満した溶湯Mを、加圧ピストン83で押圧する(第2加圧工程という)。この第1加圧工程と第2加圧工程により、第1空間部81と連通空間部12および第2空間部82内に充満した溶湯Mを好適に押圧して、例えば、溶湯Mの密度を好適な状態とすることができる。その結果、好適な状態に調整された溶湯Mとインサート部材10が一体化した高品質な鋳造品の安定供給を実現することができる。
【0065】
また、この第1加圧工程と第2加圧工程において、第1加圧駆動部51による加圧ブロック80の押圧力の調整と、金型キャビティ形成工程の型締駆動部45による型締力の保持と、加圧ロック工程による加圧部50の固定により、金型キャビティ23内でインサート部材10と第1空間部81および第2空間部82を精度良く強固に固定することができる。また、溶湯Mの加圧を第1加圧工程と第2加圧工程に分散することで、射出部60および加圧部50のコンパクト化と簡素化を可能とする。
【0066】
第1加圧工程と第2加圧工程を継続した状態で、
図9に示すように、金型キャビティ23内で溶湯Mの冷却固化を行う(冷却工程という)。その後、
図10に示すように、溶湯Mとインサート部材10が一体となった鋳造品90を、金型キャビティ23から搬出して(鋳造品搬出工程という)、インサート部材10の鋳造装置100を用いた鋳造方法の成形サイクルを終える。予め設定した鋳造品90の生産個数を得るまで、インサート部材セット工程から鋳造品搬出工程を繰り返し行う。また、例えば、鋳造金型20を交換する等の場合には、インサート部材セット工程の前に、金型段取り工程と連結工程を行う。
【0067】
この鋳造品搬出工程は、先ず、射出部60の射出制御部65で射出駆動部64を操作して第1加圧工程を終え、次の成形サイクル用の溶湯Mの給湯等の準備工程を開始する。また、加圧部50の第2加圧制御部54で第2加圧駆動部53を操作して第2加圧工程を終える。さらに、加圧部50の第1加圧制御部52で第1加圧駆動部51を操作して、加圧ブロック80を金型キャビティ23から離して所定の位置に移動させる。次いで、型締部40の型締制御部46で型締駆動部45を操作して、可動金型22を所定の位置に型開動作させる(鋳造品搬出位置という)。この鋳造品搬出位置への可動金型22の移動により、加圧ロック工程が解除される。また、可動金型22の型開動作の後で、あるいは同時に、スライドテーブル部30のテーブル制御部33でテーブル駆動部32を操作して、鋳造品90を搬出しやすい位置に調整する。その後、図示しない搬出手段を用いて、固定金型21と可動金型22で囲まれた空間から鋳造品90を搬出する。
【0068】
搬出された鋳造品90は、
図10に示すように、金属積層体11内に設けた複数の連通空間部12と、金属積層体11の両端面に形成した第1空間部81および第2空間部82が溶湯Mで充満された鋳造成形後のインサート部材10である。なお、金型ゲートに相当するビスケット92と、金型ゲートと第1空間部81を連結するランナ91が連結し、また、軸孔13には固定治具14がセットされた状態である。
【0069】
その後、鋳造品90は、機械加工工程に搬送され、
図11に示すように、固定治具14の取り外しと、ランナ91とビスケット92の切断加工と、第1空間部81および第2空間部82の仕上げ加工が施された完成品を得る。
図11(a)は、機械加工工程後の完成品の断面図を示し、軸孔13が貫通し、第1空間部81と連通空間部12および第2空間部82が溶湯Mで充満された金属積層体11である。また、
図11(b)または
図11(c)は、
図11(a)のA視またはB断面を示し、インサート部材10を用いた鋳造成形の完成品は円柱形状とする。例えば、電動機または電気モータのモータロータを構成する部品をインサート部材10に用いると、軸孔13に電動機または電気モータの回転軸を挿入して高精度に回転させることができるモータロータ部品を得る。このように、インサート部材10は、用途に応じて形状を選定することが好ましい。
【符号の説明】
【0070】
100 鋳造装置
10 インサート部材
11 金属積層体
11L 鉛直下面
11U 鉛直上面
12 連通空間部
13 軸孔
14 固定治具
20 鋳造金型
21 固定金型
22 可動金型
23 金型キャビティ
30 スライドテーブル部
31 テーブル
32 テーブル駆動部
33 テーブル制御部
34 テーブル連結部
35 セット孔
40 型締部
41 固定盤
42 可動盤
43 型締盤
44 シリンダロッド
45 型締駆動部
46 型締制御部
50 加圧部
51 第1加圧駆動部
511 第1加圧シリンダ
52 第1加圧制御部
53 第2加圧駆動部
531 第2加圧シリンダ
54 第2加圧制御部
55 加圧支持部
56 第1加圧連結部
57 第2加圧連結部
58 加圧移動駆動部
59 加圧移動制御部
60 射出部
61 射出スリーブ
62 プランジャチップ
63 プランジャロッド
64 射出駆動部
65 射出制御部
70 加圧固定部
71 テーパ部
80 加圧ブロック
81 第1空間部
82 第2空間部
83 加圧ピストン
90 鋳造品
91 ランナ
92 ビスケット
M 溶湯