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特開2024-117294環式ジアルコール化合物およびその製造方法
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  • 特開-環式ジアルコール化合物およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117294
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】環式ジアルコール化合物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 319/06 20060101AFI20240822BHJP
   C07C 45/39 20060101ALI20240822BHJP
   C07C 49/403 20060101ALI20240822BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240822BHJP
【FI】
C07D319/06
C07C45/39 CSP
C07C49/403 A
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023313
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】友成 安彦
(72)【発明者】
【氏名】大山 達也
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC44
4H006BA22
4H006BA44
4H006BB11
4H039CA62
4H039CC20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】熱安定性と光学特性とが改善された高純度の新規環式ジアルコール化合物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される環式ジアルコール化合物。

(式中、Xはフッ素原子を含む2価の脂肪族基または脂環族基を表し、R、Rはそれぞれ独立に炭化水素基を示す。)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される環式ジアルコール化合物。
【化1】
(式中、Xはフッ素原子を含む2価の脂肪族基または脂環族基を表し、R、Rはそれぞれ独立に炭化水素基を示す。)
【請求項2】
前記式(1)で表される環式ジアルコール化合物が下記式(2)である請求項1に記載の環式ジアルコール化合物。
【化2】
(式中、R、Rは前記式(1)と同じである。)
【請求項3】
前記式(1)中のRおよびRがエチル基である請求項1に記載の環式ジアルコール化合物。
【請求項4】
前記式(1)で示される環式ジアルコール化合物の5%重量減少温度が275℃以上である請求項1に記載の環式ジアルコール化合物。
【請求項5】
ガスクロマトグラフィー純度が60面積%以上である請求項1に記載の環式ジアルコール化合物。
【請求項6】
請求項1に記載の式(1)で示される環式ジアルコール化合物の製造方法において、少なくとも工程1および2を含んでなることを特徴とする環式ジアルコール化合物の製造方法。
工程1:下記式(3)で示される2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパンを反応溶媒中イリジウム触媒存在下で反応させる工程
工程2:工程1で得られた下記式(4)で示される2,2-ビス(4-オキソシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパンと下記式(5)で示されるトリメチロール化合物を反応溶媒と酸を加えて反応させる工程
【化3】
【化4】
【化5】
(式中、Rは炭化水素基を示す。)
【請求項7】
式(5)で表される化合物がトリメチロールプロパンである請求項6に記載の環式ジアルコール化合物の製造方法。
【請求項8】
工程1で使用されるイリジウム触媒としてアクア(2,2’-ビピリジン-6,6’-ジオナト)(ペンタメチルシクロペンタジエニル)イリジウム(III)を用いる請求項6に記載の環式ジアルコール化合物の製造方法。
【請求項9】
工程1および工程2で使用される反応溶媒としてトルエンを用いる請求項6に記載の環式ジアルコール化合物の製造方法。
【請求項10】
工程2で使用される酸がパラトルエンスルホン酸またはその水和物である請求項6に記載の環式ジアルコール化合物の製造方法。
【請求項11】
光学部材のための熱可塑性樹脂の原料として用いられる請求項1~5のいずれかに記載の環式ジアルコール化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環式ジアルコール化合物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂およびポリエステルカーボネート樹脂の原料として各種の環式ジアルコールが使用されており、工業的に入手できる化合物としては、1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDMと略記されることがある)、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール(TCDDMと略記されることがある)、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン(水素化ビスフェノールAと呼ばれることがある)、3,9-ビス(2-ヒドロキシ-1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン(スピログリコールと呼ばれることがある)などが挙げられる。これ以外の化合物も樹脂の用途に応じた様々な環式ジアルコール化合物が開発されている。
【0003】
例えば、光学レンズに用いられるポリカーボネート樹脂は、透明性、耐熱性、屈折率など樹脂の光学特性の改良を目的として、フルオレン環構造をもつ芳香族ジアルコール化合物を含むジアルコールを用いて製造する方法が報告されており(特許文献1)、それ以外の環式ジアルコールを一定の割合で用い製造する方法も報告されている(特許文献2および特許文献3)。
【0004】
ところが、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂およびポリエステルカーボネート樹脂はその用途に応じ多岐にわたって使用されており、その用途に応じた樹脂の物性を満足できる環式ジアルコール化合物の開発が求められている。特に、光学レンズに用いられる場合、近年は光学特性を向上させるために前述した環式ジアルコール以外の新規な環式ジアルコール化合物が必要とされている。近年、ジケトン類とトリメチロール化合物とを酸性触媒下で反応(アセタール化反応)させて得られる環式ジオール化合物が積極的に開発されているものの、光学特性が満足できなかったり、目的とする環式ジアルコール化合物の洗浄不足により加水分解を起こし環式ジオール化合物の熱安定性が低くなったりすることがある(特許文献4および特許文献5)。そうすると、特許文献4や特許文献5に記載の製法により得られた環式ジオール化合物を用いてポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂などの熱可塑性樹脂を重合しようとすると重合中に分解が起き重合ができないか、あるいは環式ジオール化合物の分解点を起点に架橋して満足のいくポリマーが得られない場合があるため、その製造方法にも未だ改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2007/142149号
【特許文献2】国際公開第2017/175693号
【特許文献3】国際公開第2022/004239号
【特許文献4】特開2019-14711号公報
【特許文献5】国際公開第2022/091990号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、光学特性に加えて高純度で熱安定性が改善された新規環式ジアルコール化合物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するために検討した結果達成されたものであって、一定の品質を有し、ポリマー原料として優れた環式ジアルコール化合物とその製造方法を提供することである。具体的には、本発明は、以下に示す環式ジアルコール化合物およびその製造方法に関する。
【0008】
[1]下記式(1)で表される環式ジアルコール化合物。
【化1】
(式中、Xはフッ素原子を含む2価の脂肪族基または脂環族基を表し、R、Rはそれぞれ独立に炭化水素基を示す。)
【0009】
[2]前記式(1)で表される環式ジアルコール化合物が下記式(2)である前項[1]に記載の環式ジアルコール化合物。
【0010】
【化2】
(式中、R、Rは前記式(1)と同じである。)
【0011】
[3]前記式(1)中のRおよびRがエチル基である前項[1]に記載の環式ジアルコール化合物。
[4]前記式(1)で示される環式ジアルコール化合物の5%重量減少温度が275℃以上である前項[1]に記載の環式ジアルコール化合物。
[5]ガスクロマトグラフィー純度が60面積%以上である前項[1]に記載の環式ジアルコール化合物。
[6]前項[1]に記載の式(1)で示される環式ジアルコール化合物の製造方法において、少なくとも工程1および2を含んでなることを特徴とする環式ジアルコール化合物の製造方法。
工程1:下記式(3)で示される2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパンを反応溶媒中イリジウム触媒存在下で反応させる工程
工程2:工程1で得られた下記式(4)で示される2,2-ビス(4-オキソシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパンと下記式(5)で示されるトリメチロール化合物を反応溶媒と酸を加えて反応させる工程
【0012】
【化3】
【化4】
【化5】
(式中、Rは炭化水素基を示す。)
【0013】
[7]式(5)で表される化合物がトリメチロールプロパンである前項[6]に記載の環式ジアルコール化合物の製造方法。
[8]工程1で使用されるイリジウム触媒としてアクア(2,2’-ビピリジン-6,6’-ジオナト)(ペンタメチルシクロペンタジエニル)イリジウム(III)を用いる前項[6]に記載の環式ジアルコール化合物の製造方法。
[9]工程1および工程2で使用される反応溶媒としてトルエンを用いる前項[6]に記載の環式ジアルコール化合物の製造方法。
[10]工程2で使用される酸がパラトルエンスルホン酸またはその水和物である前項[6]に記載の環式ジアルコール化合物の製造方法。
[11]光学部材のための熱可塑性樹脂の原料として用いられる前項[1]~[5]のいずれかに記載の環式ジアルコール化合物。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、熱安定性に優れた高純度の環式ジアルコール化合物を高収率で合成でき、該化合物を使用した熱可塑性樹脂の光学特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1で得られた環式ジアルコール化合物のH NMRである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を詳細に説明するが、以下に記載する構成要素の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、これらの内容に限定されるものではない。
【0017】
[環式ジアルコール化合物]
本発明の環式ジアルコール化合物は、下記式(1)で表される環式ジアルコール化合物である。
【0018】
【化6】
(式中、Xはフッ素原子を含む2価の脂肪族基または脂環族基を表し、R、Rはそれぞれ独立に炭化水素基を示す。)
【0019】
上記(1)において、Xで表される置換基は、フッ素原子を含む2価の脂肪族基または脂環族基を表す。フッ素原子を含む2価の脂肪族基としては好ましくは炭素数1~20、より好ましくは炭素数3~12の分岐していてもよいアルキレン基が挙げられる。フッ素原子を含む2価の脂肪族基としては好ましくは炭素数4~18、より好ましくは炭素数5~15の脂環族基を有する構造のものが挙げられる。
Xの構造の具体例として、下記構造式(1-a)で表されるものが好ましく挙げられる。
【0020】
【化7】
(式(1-a)中、*は結合部位を示す。)
【0021】
これらのうち、合成上の観点からXの構造がヘキサフルオロイソプロピリデン基である下記式(2)で表される環式ジアルコール化合物が特に好ましい。
【0022】
【化8】
(式中、RおよびRは前記式(1)と同じである。)
【0023】
上記式(1)において、RおよびRで表される炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基などが例示できる。なかでもアルキル基が特に好ましい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基などの炭素原子数1-6のアルキル基が好ましく、炭素原子数1-4のアルキル基がより好ましく、炭素原子数1-3のアルキル基がさらに好ましく、エチル基が特に好ましい。ただし、RおよびRの炭化水素基にはエーテル結合を含まないことが好ましい。
【0024】
以下に前記式(1)で表される環式ジアルコール化合物の代表例を示すが、本発明の前記式(1)に用いられる原料としては、それらによって限定されるものではない。
【0025】
【化9】
【0026】
これらは単独で使用してもよく、または二種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも下記式(1-b)、下記式(1-c)がより好ましく、下記式(1-c)がさらに好ましい。
【0027】
【化10】
【0028】
【化11】
【0029】
本発明の環式ジアルコール化合物の5%重量減少温度は、窒素雰囲気下で昇温速度20℃/分での5%重量減少温度であり、275℃以上が好ましく、276℃以上であるとより好ましく、277℃以上であるとさらに好ましく、278℃以上であると特に好ましく、280℃以上であるともっとも好ましい。5%重量減少温度が上記下限以上であると熱可塑性樹脂を重合する段階で本発明の環式ジアルコール化合物が分解することなく重合することができる。一方で5%重量減少温度が上記下限よりも低いと熱可塑性樹脂を重合する段階で本発明の環式ジアルコール化合物が分解して重合できないか、あるいはその分解物を起点に架橋しゲル化してしまう可能性がある。特に5%重量減少温度の上限は特定されないが400℃以下であると好ましい。
【0030】
本発明の環式ジアルコール化合物は、ガスクロマトグラフィーで測定した純度が60~100面積%の広い範囲から選択でき、好ましくは80面積%以上、より好ましくは90面積%以上、さらに好ましくは95%面積以上である。
【0031】
[環式ジアルコール化合物の製造方法]
本発明の上記式(1)で表される環式ジアルコール化合物の製造方法としては、ジケトン類とトリメチロール化合物とをアセタール化して得ることができる。
具体的に、本発明の上記式(1)で表される環式ジアルコール化合物の製造方法としては、少なくとも下記の工程1および工程2を含んでなる製造方法が好ましく挙げられる。
【0032】
すなわち、下記式(3)で表される2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパンを反応溶媒中イリジウム触媒存在下で反応させる工程1と工程1で得られた下記式(4)で示される2,2-ビス(4-オキソシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパンと下記式(5)で示されるトリメチロール化合物とを反応させる工程2により製造できる。本発明の製造方法では、両工程とも反応選択率が高いため高収率で目的とする化合物を得ることができ、非常に簡便に効率よく前記式(1)で示される環式ジアルコール化合物を製造することができる。さらには、本発明の製造方法により製造された環式ジアルコール化合物(1)は5%重量減少温度が275℃以上であるため、それを用いた溶融重合でも分解することなく容易に重合させることができる。
【0033】
【化12】
【化13】
【化14】
(式中、Rは炭化水素基を示す。)
【0034】
上記式(3)で表される2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパンの純度は特に限定されないが、通常、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がさらに好ましい。なお、前記式(3)で示すような2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパンは、市販品を用いてもよく、あるいは、あらかじめ合成したものを使用してもよい。例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパンを製造する方法としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンを用いてベンゼン環を水素化(略して核水添反応と呼ばれることもある)する方法などが挙げられる。
【0035】
上記式(4)で表される2,2-ビス(4-オキソシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパンの純度は特に限定されないが、通常、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましい。上記式(4)で表される2,2-ビス(4-オキソシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパンを製造する方法としては、非特許文献(Angewandte Chemie,International Edition,2012,Vol.51,12790-12794)に記載の方法を参考にし、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパンとイリジウム触媒とを反応溶媒還流下で反応させる方法などが挙げられる。
【0036】
上記式(5)で表される化合物は、前記式(1)においてジアルコールに対応する化合物であり、Rは前記式(1)で表されるR、Rに対応している。ただし、Rの炭化水素基にはエーテル結合を含まないことが好ましい。
【0037】
以下に式(4)で表されるトリメチロール化合物の代表例を示すが、本発明の前記式(1)に用いられる原料としては、それらによって限定されるものではない。
具体的には、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、トリメチロール-(2,2’-ジメチル)-プロパン、トリメチロールペンタン、トリメチロールイソペンタン、トリメチロールヘキサン、トリメチロールヘプタン、トリメチロールオクタン等が好ましく挙げられる。なかでも、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンがより好ましく、トリメチロールプロパンがさらに好ましい。
【0038】
使用する前記式(4)で表されるトリメチロール化合物の純度は特に限定されないが、通常、95%以上が好ましく、98%以上がより好ましい。
【0039】
工程1の前記式(3)で表される2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパンとイリジウム触媒との反応(酸化反応)は反応溶媒中で行うことができる。
【0040】
工程1で使用するイリジウム触媒の代表例を示すが、本発の前記式(3)の製造に用いられる触媒としてはそれらによって限定されるものではない。
具体的には、2-ヒドロキシ-N-ピリジン(ペンタメチルシクロペンタジエニル)イリジウム(III)ジクロリド、アクア(6,6’-ジヒドロキシ-2,2’-ビピリジン)(ペンタメチルシクロペンタジエニル)イリジウム(III)ビス(トリフラート)、アクア[4,4’-ビス(ジメチルアミノ)-2,2’-ビピリジン-6,6’-ジオナト](ペンタメチルシクロペンタジエニル)イリジウム(III)、アクア(2,2’-ビピリジン-6,6’-ジオナト)(ペンタメチルシクロペンタジエニル)イリジウム(III)等が好ましく挙げられる。なかでも、アクア(2,2’-ビピリジン-6,6’-ジオナト)(ペンタメチルシクロペンタジエニル)イリジウム(III)が特に好ましい。
【0041】
工程1で使用するイリジウム触媒の使用比率は、前記式(3)で表される2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン1モルに対して好ましくは0.001~0.005モル、より好ましくは0.005~0.01モル、さらに好ましくは0.01~0.10モルの範囲である。該触媒が上記下限未満であると前記式(4)で表される生成物の収率が低くなることがある。上記上限を超えると、反応速度が速くなるものの該環式ジアルコール化合物の製造コストが上がることがある。
【0042】
工程1で用いる反応溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒を用いることができる。なかでも、前記式(4)で表される2,2-ビス(4-オキソシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパンの収率の観点からトルエンが特に好ましい。
【0043】
工程1で使用する前記反応溶媒の使用量は、特に限定されないが、前記式(4)で示される2,2-ビス(4-オキソシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン(目的物)の理論収量に対して好ましくは3重量倍以上、より好ましくは4~9重量倍であり、さらに好ましくは5~10重量倍である。反応溶媒の使用量が上記下限未満の場合、反応中に目的物が析出した際に撹拌が困難になる可能性がある。また、反応は溶媒の使用量が10重量倍以上を超える場合、反応速度が遅くかつ使用量に見合う効果がなく容積効率も悪化し該環式ジアルコール化合物の製造コストが上がることもある。
【0044】
工程2の前記式(4)で表される2,2-ビス(4-オキソシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパンと(5)で表されるトリメチロール化合物との反応(アセタール化)は、反応溶媒中、酸触媒の存在下で行うことができる。
【0045】
工程2の原料として用いる前記式(5)で表されるトリメチロールル化合物の使用比率は、前記式(4)で表される化合物2,2-ビス(4-オキソシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン1モルに対して好ましくは1.5~5モル、より好ましくは2.0~3.0モル、さらに好ましくは2.1~2.5モルの範囲である。該アルコール類が上記下限未満であると前記式(1)で表される生成物の収率が低くなることがある。また、上記上限を超えると、反応速度は速く収率が高くなるものの該環式ジアルコール化合物の製造コストが上がることがある。
【0046】
工程2で用いる反応溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒やメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(以後、2-プロパノールと記載する)、n-ブタノール等のアルコール類を用いることができる。なかでも、前記式(1)で表される環式ジアルコール化合物の熱安定性や収率の観点から芳香族炭化水素系溶媒が好ましく、トルエンが特に好ましい。2-プロパノール等のアルコール系溶媒を用いた場合、反応温度が低いため副生する水を効率よく除去できないため、反応中、加水分解反応も同時に起き結果として得られた目的物の収率が下がり前記式(1)に示される環式ジアルコール化合物の製造コストが上がることがある。
【0047】
工程2の反応で使用する酸としては、塩酸、硫酸、硝酸およびリン酸等の鉱酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸などの有機酸、陽イオン交換樹脂、ゼオライト、ヘテロポリ酸(例えばリンタングステン酸、リンモリブデン酸など)などの固体酸、その他各種ルイス酸等が挙げられる。その中でも有機酸が好ましく、パラトルエンスルホン酸またはその水和物(有機酸)が特に好ましい。
【0048】
酸の使用量は、通常、前記式(4)のトリメチロール化合物に対して、好ましくは0.001~20重量%、より好ましくは0.05~15重量%、さらに好ましくは0.5~10重量%の範囲である。
【0049】
工程1および工程2の反応温度は使用する原料、溶媒の種類により異なるが、好ましくは100~150℃、より好ましくは100~140℃、さらに好ましくは100~130℃である。反応温温度が上記下限よりも低いと反応速度が遅く収率が下がることがある。また、上記上限を超えると反応速度は速くなるものの、前記式(1)で示される環式ジアルコール化合物の5%重量減少温度も低下してしまうことがある。反応はガスクロマトグラフィーなどの分析手段で追跡することができる。
【0050】
工程1の反応終了後の反応混合物には、通常、生成した前記式(4)で表される2,2-ビス(4-オキソシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン以外に未反応の2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、イリジウム触媒が含まれている。そのため、慣用の方法、例えば、中和、ろ過、濃縮、晶析、再結晶、再沈殿、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。例えば、慣用の方法(水酸化ナトリウムや炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ水溶液を加えて触媒を失活する方法)により触媒を失活し、再結晶により目的物である前記式(4)の2,2-ビス(4-オキソシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパンを析出させ、次いで濾過分離することにより精製してもよい。
【0051】
工程2の反応終了後の反応混合物には、通常、生成した前記式(1)で表される環式ジアルコール化合物以外に、未反応の2,2-ビス(4-オキソシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパンやトリメチロール化合物、酸、副反応生成物、副生水などが含まれている。そのため、工程2では前記式(1)で表される環式ジアルコール化合物が加水分解しないよう酸触媒を除去するために塩基を用いた中和処理を行う。
【0052】
工程2で用いる塩基としては、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の金属水酸化物が挙げられる。これらの中でも水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましく、水酸化ナトリウムが特に好ましい。塩基の使用量は、反応で用いた酸触媒に対して、例えば、使用する酸触媒に対して1~10当量の範囲が好ましいが、大過剰量用いることもできる。
【0053】
中和処理ののち、慣用の方法、例えば、中和、ろ過、濃縮、晶析、再結晶、再沈殿、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。例えば、晶析によりトリメチロール化合物や副反応生成物を除去して目的物である前記式(1)の環式ジアルコール化合物を析出させ、次いで濾過分離することにより精製してもよい。晶析で使用する溶媒はトルエンやキシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、メタノール、エタノール等のアルコール溶媒や水(純水、超純水等を含む)が好ましく、メタノールや水が特に好ましい。これらは単独で使用してもよいし、組み合わせて用いてもよい。
【0054】
本発明の製造方法により得られる環式ジアルコール化合物のガスクロマトグラフィー純度は、60~100面積%の広い範囲から選択でき、好ましくは80面積%以上、より好ましくは90面積%以上、さらに好ましくは95%面積以上である。
【0055】
[環式ジアルコール化合物の特徴および用途]
本発明の環式ジアルコール化合物は、種々の樹脂の原料(モノマー)として利用できる。例えば、熱可塑性樹脂(例えば、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂など)のモノマー、及び熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、熱硬化性ポリウレタン樹脂、(メタ)アクリレート((メタ)アクリル酸エステル)など)のポリオール成分として用いることができる。特に、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂が典型的である。
【0056】
本発明の環式ジアルコール化合物をポリオール成分に用いると、フッ素原子を含みかつ環式骨格を有しているためか、得られる樹脂は高い熱安定性と光学特性とを高いレベルで両立できるという利点を備える。特に本発明の環式ジアルコール化合物は光学部材のための熱可塑性樹脂の原料として好ましく用いられる。
【実施例0057】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例において、各種測定は以下のように行った。
【0058】
(1)H NMR測定
実施例1<工程2>で得られた化合物を下記の装置、溶媒にて測定した。
装置:日本電子社製 JNM-AL400(400MHz)
溶媒:CDCl
【0059】
(2)ガスクロマトグラフィー測定(GC/MS)
アジレント・テクノロジー製シングル四重極GC/MS 5977Bを用い、下記測定条件で測定した。実施例中、特に断らない限り純度(%)はGC/MSにおける溶媒を除いて補正した面積百分率値である。
(GC)
カラム:DB-1(内径0.25mm、長さ30m、膜厚0.25μm)
注入量:1μl
注入法:スプリット比40:1
注入口温度:280℃
オーブン:60℃-10℃/分-280℃(28分)
キャリアガス:He、線速度 36.6cm/s
(MS)
イオン源温度:230℃
イオン化モード:EI 70eV
測定範囲:m/z 33-700
【0060】
(3)5%重量減少温度
実施例1<工程2>で得られた2,2-ビス(4-オキソシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン-ビス(トリメチロールプロパン)アセタールおよび実施例1<工程3>で得られた樹脂をTAインスツルメント製の示差熱・熱重量同時測定装置Discovery SDT650により、窒素雰囲気下で、昇温速度20℃/minで測定し、5%重量減少温度を測定した。試料は5mg程度で測定した。
【0061】
(4)屈折率(nd)
実施例1<工程3>で得られた樹脂を下記の装置、手法にて測定した。
装置:島津製作所社製 KRP-2000
手法:重合終了後に得られた樹脂の3mm厚試験片を作製し研磨したものを用いた。
【0062】
(5)アッベ数測定
実施例1<工程3>で得られた樹脂のアッベ数は、波長:486.13nm、587.56nm、656.27nmにおける屈折率から下記式を用いて算出した。
νd=(nd-1)/(nF-nC)
なお、本発明においては
nd:波長587.56nmでの屈折率、
nC:波長656.27nmでの屈折率、
nF:波長486.13nmでの屈折率を意味する。
【0063】
(6)ガラス転移温度(Tg)
実施例1<工程3>で得られた樹脂をTAインスツルメント製の示差熱・熱重量同時測定装置Discovery SDT650により、昇温速度20℃/minで測定した。試料は5mg程度で測定した。
【0064】
(7)比粘度測定
20℃で塩化メチレン100mlに得られた樹脂0.7gを溶解した溶液からオストワルド粘度計を用いて求めた。
比粘度(ηSP)=(t-t)/t
(tは塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数)
【0065】
[実施例1]
<工程1>
撹拌機、冷却器、さらには温度計を備え付けたフラスコに2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン10.0g(28.7ミリモル)、アクア(2,2’-ビピリジン-6,6’-ジオナト)(ペンタメチルシクロペンタジエニル)イリジウム(III)151mg(0.28ミリモル)、トルエン80mLを加えたのち120℃でトルエンを還流しながら120時間攪拌し反応を終了させた。その反応液に水酸化ナトリウム水溶液を加えて分液水洗したのち、トルエンで再結晶後、析出した薄黄色結晶を濾取し目的の2,2-ビス(4-オキソシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパンを7.8g、収率79%で得た。GC測定の結果、純度は97.4面積%であった。
【0066】
<工程2>
工程1で得た2,2-ビス(4-オキソシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン10.1g(29.4ミリモル)、トリメチロールプロパン8.3g(61.8ミリモル)、トルエン60mLを加えたのち115℃でトルエンを還流し共沸脱水させながら5時間撹拌し反応を終了させた。反応液を室温まで冷やしたのち水酸化ナトリウム水溶液で中和後、トルエン層を濃縮したのちにメタノール水溶液で晶析させ析出した白色結晶を濾取し目的の2,2-ビス(4-オキソシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン- ビス(トリメチロールプロパン)アセタール(以下、BCHHFPAと省略することがある)を15.4g、収率91%で得た。得られたBCHHFPAをH NMRにより分析し、目的物であることを確認した(図1)。得られたBCHHFPAのGC測定を行った結果、純度は97.4面積%であり、5%重量減少温度を測定した結果、5%重量減少温度は287℃であった。これら評価のち工程3で重合評価も実施した。
【0067】
<工程3>
工程2で得られたBCHHFPAを5.8質量部(20mоl%)、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(以下、BPEFと省略することがある)17.54質量部(80mоl%)、ジフェニルカーボネート(以下、DPCと省略することがある)10.82質量部(101mоl%)、及び触媒として濃度60mmol/Lの濃度で炭酸水素ナトリウムを2.10×10-4質量部(5.00×10-3mоl%)、濃度274mmol/Lの濃度でテトラメチルアンモニウムヒドロキシド1.37×10-3質量部(3.01×10-2mоl%)を加え、窒素雰囲気下200℃に加熱し溶融させた。その後、5分間かけて減圧度を20kPaに調整した。40℃/hrの昇温速度で240℃まで昇温を行い、フェノールの流出量が70%になった後で減圧度を1kPaまで減圧し、所定の電力に到達するまで重合反応を行い、反応終了後フラスコから樹脂を取り出した。得られたポリカ―ボネート樹脂を、H NMRにより分析し、BCHHFPA成分が全モノマーに対して20mоl%、BPEF成分が全モノマー成分に対して80mоl%導入されていることを確認した。得られたポリカーボネート樹脂の比粘度は0.20、屈折率は1.600、アッベ数は27、Tgは147℃、5%重量減少温度は393℃であった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の環式ジアルコール化合物を原料(モノマー)とする樹脂は、例えば、フイルム、レンズ、プリズム、光ディスク、透明導電性基板、光カード、シート、光ファイバー、光学膜、光学フィルター、ハードコート膜等の光学部材に用いることができ、特にレンズに極めて有用である。
図1