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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117295
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂および光学部材
(51)【国際特許分類】
   C08G 64/02 20060101AFI20240822BHJP
   C08G 63/682 20060101ALI20240822BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
C08G64/02
C08G63/682
G02B1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023314
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】大山 達也
(72)【発明者】
【氏名】友成 安彦
【テーマコード(参考)】
4J029
【Fターム(参考)】
4J029AA03
4J029AA08
4J029AA09
4J029AB01
4J029AC01
4J029AC02
4J029AD01
4J029AD07
4J029AD10
4J029AE04
4J029AE05
4J029BF20
4J029BG21
4J029CA02
4J029CA03
4J029CA04
4J029CA05
4J029CA06
4J029CA09
4J029CB04A
4J029CB05A
4J029CB06A
4J029CB10A
4J029CC03A
4J029CC05A
4J029CC06A
4J029CC09
4J029CD03
4J029CD05
4J029HA01
4J029HC05A
(57)【要約】      (修正有)
【課題】適切な屈折率およびアッベ数を有し、かつ、耐熱性および耐熱安定性に優れた熱可塑性樹脂およびそれを含む光学部材を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される構成単位を含む、熱可塑性樹脂。

(式(1)中、Yはフッ素原子を含む2価の脂肪族基または脂環族基を表し、RおよびRは、それぞれ独立に炭化水素基を表し、Wはカルボニル基またはジカルボン酸から水酸基を除いた残基より選ばれる少なくとも一つである。)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構成単位を含む、熱可塑性樹脂。
【化1】
(式(1)中、Yはフッ素原子を含む2価の脂肪族基または脂環族基を表し、RおよびRは、それぞれ独立に炭化水素基を表し、Wは下記式(2)または(3)で表される群より選ばれる少なくとも一つである。)
【化2】
【化3】
(式中、Xは2価の連結基を示す。)
【請求項2】
前記式(1)で表される構成単位が、下記式(4)である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂。
【化4】
(式中、RおよびR、Wは前記式(1)と同じである。)
【請求項3】
前記式(1)で表される構成単位が、前記熱可塑性樹脂を構成する全構成単位の5mol%~100mol%を占める、請求項1に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項4】
前記式(1)におけるRおよびRがエチル基である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項5】
下記式(5)で表される構成単位をさらに含む請求項1に記載の熱可塑性樹脂。
【化5】
(式(5)中、RおよびRは、同一又は異なって、水素原子又は炭素原子数1~20の炭化水素基を表し、LおよびLはそれぞれ独立に2価の連結基を示し、mおよびnはそれぞれ独立に0または1を示す。)
【請求項6】
前記式(1)中、Wが前記式(2)である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項7】
5%重量減少温度が350℃以上である請求項1に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項8】
ガラス転移温度が125~180℃である請求項1に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項9】
比粘度が0.12~0.50である請求項1に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項10】
屈折率が1.350~1.650である請求項1に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項11】
アッベ数が20~80である請求項1に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載の熱可塑性樹脂から形成される光学部材。
【請求項13】
光学レンズである請求項12に記載の光学部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂およびそれからなる光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラ、ビデオカメラあるいはカメラ付携帯電話、テレビ電話あるいはカメラ付ドアホンなどには、撮像モジュールが用いられている。近年、この撮像モジュールに用いられる光学系では、特に小型化が求められている。光学系を小型化していくと光学系の色収差が大きな問題となる。そこで、光学レンズの屈折率を高く、かつアッベ数を小さくして高分散にした光学レンズ材料と、屈折率を低くかつアッベ数を大きくして低分散にした光学レンズ材料を組み合わせることで、色収差の補正を行うことができることが知られている。
【0003】
近年、撮影モジュールに使用される光学素子の種類はより多くなっており、様々なバランスの屈折率とアッベ数を有する光学レンズ向け樹脂の要望が強くなっている。
【0004】
低屈折率、高アッベ数である光学レンズ向け樹脂の開発が盛んにおこなわれている(特許文献1)。また、アッベ数を大きくするために、特許文献2~4ではフッ素含有環状オレフィン系ポリマーを含む光学材料用樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2019/188114号
【特許文献2】特開2010-145959号公報
【特許文献3】特開2007-177046号公報
【特許文献4】特開2019-131658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らの検討によれば、炭素原子と酸素原子と水素原子で構成される特許文献1のような脂肪族モノマーを用いた樹脂では、アッベ数の向上に限界があることが明らかとなった。しかしながら、フッ素原子を導入して屈折率を低くかつアッベ数を大きくして低分散にした光学レンズ材料に関しては、耐熱性とのバランスが取れた熱可塑性樹脂の報告は少ない。
【0007】
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、適切な屈折率およびアッベ数を有し、かつ、耐熱性および耐熱安定性に優れた熱可塑性樹脂およびそれを含む光学部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らはこの目的を達成せんとして鋭意研究を重ねた結果、特定の構造を有する熱可塑性樹脂が前記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0009】
≪態様1≫
下記式(1)で表される構成単位を含む、熱可塑性樹脂。
【化1】
(式(1)中、Yはフッ素原子を含む2価の脂肪族基または脂環族基を表し、RおよびRは、それぞれ独立に炭化水素基を表し、Wは下記式(2)または(3)で表される群より選ばれる少なくとも一つである。)
【化2】
【化3】
(式中、Xは2価の連結基を示す。)
【0010】
≪態様2≫
前記式(1)で表される構成単位が、下記式(4)である、態様1に記載の熱可塑性樹脂。
【化4】
(式中、RおよびR、Wは前記式(1)と同じである。)
【0011】
≪態様3≫
前記式(1)で表される構成単位が、前記熱可塑性樹脂を構成する全構成単位の5mol%~100mol%を占める、態様1または2に記載の熱可塑性樹脂。
≪態様4≫
前記式(1)におけるRおよびRがエチル基である、態様1~3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
【0012】
≪態様5≫
下記式(5)で表される構成単位をさらに含む態様1~4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
【化5】
(式(5)中、RおよびRは、同一又は異なって、水素原子又は炭素原子数1~20の炭化水素基を表し、LおよびLはそれぞれ独立に2価の連結基を示し、mおよびnはそれぞれ独立に0または1を示す。)
【0013】
≪態様6≫
前記式(1)中、Wが前記式(2)である、態様1~5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
≪態様7≫
5%重量減少温度が350℃以上である態様1~6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
≪態様8≫
ガラス転移温度が125~180℃である態様1~7のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
≪態様9≫
比粘度が0.12~0.50である態様1~8のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
≪態様10≫
屈折率が1.350~1.650である態様1~9のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
≪態様11≫
アッベ数が20~80である態様1~10のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
≪態様12≫
態様1~11のいずれかに記載の熱可塑性樹脂から形成される光学部材。
≪態様13≫
光学レンズである態様12に記載の光学部材。
【発明の効果】
【0014】
本発明の熱可塑性樹脂は、光学特性に優れ、耐熱性および耐熱安定性とのバランスに優れるため、光学レンズ、プリズム、光ディスク、透明導電性基板、光カード、シート、フィルム、光ファイバー、光学膜、光学フィルター、ハードコート膜等の光学部材に用いることができ、特に携帯電話、スマートフォン、タブレット端末、パソコン、デジタルカメラ、ビデオカメラ、車載カメラ、又は監視カメラに用いるための光学レンズに極めて有用であり、そのため、その奏する産業上の効果は格別である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1で得られたポリカーボネート樹脂のH NMRである。
図2】実施例4で得られたポリカーボネート樹脂のH NMRである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明をさらに詳しく説明する。
<熱可塑性樹脂>
本発明の熱可塑性樹脂は、下記式(1)で表される構成単位を含む熱可塑性樹脂である。
【0017】
【化6】
(式(1)中、Yはフッ素原子を含む2価の脂肪族基または脂環族基を表し、RおよびRは、それぞれ独立に炭化水素基を表し、Wは下記式(2)または(3)で表される群より選ばれる少なくとも一つである。)
【0018】
【化7】
【化8】
(式中、Xは2価の連結基を示す。)
【0019】
前記式(1)において、Yはフッ素原子を含む2価の脂肪族基または脂環族基を表す。フッ素原子を含む2価の脂肪族基としては好ましくは炭素数1~20、より好ましくは炭素数3~12の分岐していてもよいアルキレン基が挙げられる。フッ素原子を含む2価の脂環族基としては好ましくは炭素数4~18、より好ましくは炭素数5~15の脂環族基を有する構造のものが挙げられる。
Yの構造の具体例として、下記構造式(1-a)で表されるものが好ましく挙げられる。
【0020】
【化9】
(式(1-a)中、*は結合部位を示す。)
【0021】
これらのうち、合成上の観点からYの構造がヘキサフルオロイソプロピリデン基である下記式(4)で表される構成単位を含む熱可塑性樹脂が特に好ましい。
【0022】
【化10】
(式中、RおよびR、Wは前記式(1)と同じである。)
【0023】
前記式(1)において、RおよびRは、それぞれ独立に炭化水素基を表し、炭素数1~7の直鎖のアルキル基、炭素数3~7の分岐したアルキル基または炭素数6~14のアリール基が好ましく、炭素数1~6の直鎖のアルキル基または炭素数6~10のアリール基がより好ましく、炭素数1~4の直鎖のアルキル基がさらに好ましく、メチル基またはエチル基が特に好ましい。ただし、RおよびRの炭化水素基にはエーテル結合を含まないことが好ましい。
【0024】
前記式(1)において、Wは前記式(2)および前記式(3)で表される群より選ばれる少なくとも1つである。Wが前記式(2)である場合、前記式(1)はカーボネート単位となり、Wが前記式(3)である場合、前記式(1)はエステル単位となる。
【0025】
前記式(1)は、ジヒドロキシ化合物と炭酸エステルなどのカーボネート前駆物質、またはジヒドロキシ化合物とジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とから得ることができる。
【0026】
本発明における前記式(1)で表される構成単位を含む熱可塑性樹脂において、熱可塑性樹脂を構成する全構成単位中、前記式(1)で表される構成単位を、5mоl%以上、10mol%以上、15mol%以上、20mol%以上、25mol%以上、30mol%以上で含んでいてもよく、100mol%以下、90mol%以下、80mol%以下、70mol%以下、60mol%以下または50mol%以下で含んでいてもよい。本発明の熱可塑性樹脂において、前記式(1)で表される構成単位を、熱可塑性樹脂を構成する全構成単位中、好ましくは5mol%以上100mol%以下、より好ましくは10mol%以上100mol%以下、さらに好ましくは20mol%以上100mol%以下、特に好ましくは30mol%以上100mol%以下、もっとも好ましくは40mol%以上100mol%以下で含むことができる。前記式(1)で表される構成単位の割合が前記範囲であると適切な屈折率およびアッベ数を有し、かつ、耐熱性および耐熱安定性に優れるため好ましい。
【0027】
本発明の熱可塑性樹脂において、さらに下記式(5)で表される構成単位を含むことができる。
【0028】
【化11】
(式(5)中、RおよびRは、同一又は異なって、水素原子又は炭素原子数1~20の炭化水素基を表し、LおよびLはそれぞれ独立に2価の連結基を示し、mおよびnはそれぞれ独立に0または1を示す。)
【0029】
前記式(5)においてRおよびRはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、芳香族基を含んでいてもよい炭素原子数1~20の置換基を示し、水素原子、メチル基、フェニル基、ナフチル基が好ましく、水素原子、メチル基、フェニル基がより好ましく、水素原子、メチル基がさらに好ましい。
【0030】
前記式(5)において、L、Lはそれぞれ独立に2価の連結基を示し、炭素数1~12のアルキレン基であると好ましく、炭素数1~4のアルキレン基であるとより好ましく、エチレン基であるとさらに好ましい。L、Lの連結基の長さを調整することによって、樹脂のガラス転移温度(Tg)を調整することができる。
【0031】
<熱可塑性樹脂の物性>
本発明の熱可塑性樹脂の5%重量減少温度は、窒素雰囲気下で昇温速度20℃/分での5%重量減少温度であり、350℃以上であることが好ましく、360℃以上であるとより好ましく、370℃以上であるとさらに好ましく、380℃以上であると特に好ましい。5%重量減少温度が350℃以上であると耐熱安定性が高い。特に5%重量減少温度の上限は特定されないが500℃以下であると好ましい。
【0032】
本発明の熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度(Tg)は125℃以上、130℃以上、135℃以上、または140℃以上であってもよく、180℃以下、175℃以下、170℃以下、165℃以下、160℃以下であってもよい。125~180℃であることが好ましく、130~170℃であるとより好ましく、であるとさらに好ましい。ガラス転移温度が上記範囲内であると、耐熱性と成形性のバランスに優れるため好ましい。
【0033】
本発明の熱可塑性樹脂の比粘度は、0.12~0.50であることが好ましく、0.14~0.48であるとより好ましく、0.16~0.46であるとさらに好ましい。比粘度が上記範囲内であると成形性と機械強度のバランスに優れるため好ましい。
【0034】
比粘度の測定方法は、熱可塑性樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度(ηSP)を、オストワルド粘度計にて測定し、以下の式から算出する。
比粘度(ηSP)=(t-t)/t
(tは、塩化メチレンの落下秒数、tは、試料溶液の落下秒数)
【0035】
本発明の熱可塑性樹脂の屈折率は、温度:20℃、波長:587.56nmで測定した場合に、1.350以上、1.360以上、1.370以上、1.380以上、1.390以上、または1.400以上であってもよく、1.650以下、1.640以下、1.630以下、1.620以下、1.610以下または1.600以下であってもよい。
【0036】
本発明の熱可塑性樹脂の屈折率は、1.350~1.650であることが好ましく、1.400~1.600であるとより好ましく、1.420~1.590であるとさらに好ましく、1.450~1.580であると特に好ましく、1.450~1.570であると最も好ましい。
【0037】
本発明の熱可塑性樹脂のアッベ数は、20以上、21以上、22以上、23以上、24以上または25以上であってもよく、80以下、78以下、76以下、74以下、72以下、70以下または69以下であってもよい。アッベ数(νd)は、20~80であることが好ましく、35~75であることがより好ましく、40~70であるとさらに好ましい。
【0038】
ここで、アッベ数は、温度:20℃、波長:486.13nm、587.56nm、656.27nmの屈折率から、下記式を用いて算出する:
νd=(nd-1)/(nF-nC)
nd:波長587.56nmにおける屈折率、
nF:波長486.13nmにおける屈折率、
nC:波長656.27nmにおける屈折率を意味する。
【0039】
<熱可塑性樹脂の原料>
(式(1)のジオール成分)
式(1)の原料となるジオール成分は、主として下記式(a)で表されるジオール成分であり、単独で使用してもよく、又は二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0040】
【化12】
【0041】
式(a)における、Y、RおよびRは、式(1)におけるY、RおよびRと同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0042】
以下に、前記式(a-1)で表されるジヒドロキシ化合物の代表的な具体例を示すが、本発明の前記式(1)に用いられる原料としては、それらによって限定されるものではない。なお、Prはプロピル基を、Buはブチル基を表す。
【0043】
【化13】
【0044】
なかでも下記式(a’-1)、下記式(a’-2)がより好ましく、下記式(a’-2)がさらに好ましい。これらは単独で使用してもよく、または二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
【化14】
【0046】
【化15】
【0047】
式(a)で表されるジオールは、下記式(6)で表されるジケトンと、下記式(7)で表されるトリオールを脱水環化反応させることによって得られる。
【0048】
【化16】
【0049】
【化17】
【0050】
式(6)中、Yは、式(1)におけるYと同義であり、好ましい範囲も同様である。
式(7)中、Rは、炭化水素基を表す。Rとしての炭化水素基は、炭素数1~7の直鎖のアルキル基、炭素数3~7の分岐したアルキル基または炭素数6~14のアリール基を表す。一実施形態としては、Rは、炭素数1~7の直鎖のアルキル基または炭素数3~7の分岐したアルキル基を表す。但し、Rとしての炭化水素基は、好ましくはエーテル結合を含まない。
式(7)におけるRとしては、前記式(1)におけるRおよびRと同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0051】
(前記式(1)のカーボネート成分)
本発明の熱可塑性樹脂の前記式(1)で表される単位に使用するカーボネート成分としては、ホスゲン、カーボネートエステルがあげられる。カーボネートエステルは、置換されていてもよい炭素数6~10のアリール基、アラルキル基あるいは炭素数1~4のアルキル基などのエステルが挙げられる。具体的にはジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、ビス(m-クレジル)カーボネート、ジナフチルカーボネートなどの炭酸ジアリール、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネートなどの炭酸ジアルキル、エチルフェニルカーボネート、シクロヘキシルフェニルカーボネートなどの炭酸アルキルアリール、または、ジビニルカーボネート、ジイソプロぺニルカーボネート、ジプロペニルカーボネートなどの炭酸ジアルケニルなどが挙げられ、なかでも炭酸ジアリールが好ましく、ジフェニルカーボネートがより好ましい。
【0052】
(前記式(1)のジカルボン酸成分)
本発明の熱可塑性樹脂の前記式(1)で表される単位に使用するジカルボン酸成分は主として、式(b)で表されるジカルボン酸、またはそのエステル形成性誘導体が好ましく用いられる。
【0053】
【化18】
【0054】
前記式(b)において、Xは2価の連結基を示す。
以下、前記式(b)で表されるジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体の代表的具体例を示すが、本発明の前記式(b)に用いられる原料としては、それらによって限定されるものではない。
【0055】
本発明の熱可塑性樹脂に使用するジカルボン酸成分としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸等の脂肪族ジカルボン酸成分、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の単環式芳香族ジカルボン酸成分、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、9,9-ビス(カルボキシメチル)フルオレン、9,9-ビス(1-カルボキシエチル)フルオレン、9,9-ビス(1-カルボキシプロピル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシ-1-メチルエチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシ-1-メチルプロピル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシブチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシ-1-メチルブチル)フルオレン、9,9-ビス(5-カルボキシペンチル)フルオレン、9,9-ビス(カルボキシシクロヘキシル)フルオレン、2,2’-ビス(カルボキシメトキシ)-1,1’-ビナフチル等の多環式芳香族ジカルボン酸成分、2,2’-ビフェニルジカルボン酸等のビフェニルジカルボン酸成分、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2,6-デカリンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸成分が挙げられる。これらは単独または二種類以上組み合わせて用いても良い。また、エステル形成性誘導体としては酸クロライドや、メチルエステル、エチルエステル、フェニルエステル等のエステル類を用いてもよい。
【0056】
(前記式(5)の成分)
本発明の熱可塑性樹脂は、さらに前記式(5)の構成単位を有していてもよく、前記式(5)の原料となるジヒドロキシ化合物成分を以下に示す。これらは単独で使用してもよく、または二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0057】
本発明の前記式(5)の原料となるジヒドロキシ化合物成分は、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレン等が例示され、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンが特に好ましい。これらは単独で使用してもよく、または二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0058】
また、本発明の熱可塑性樹脂には、必要に応じて熱安定剤、可塑剤、光安定剤、重合金属不活性化剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、抗菌剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、離型剤等の添加剤を配合することができる。
【0059】
本発明の熱可塑性樹脂は、例えばジヒドロキシ化合物成分に炭酸ジエステルなどのカーボネート前駆物質を反応させる方法やジオール成分にジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体を反応させる方法等により製造される。以下にその具体例を示す。
【0060】
<製造方法>
(ポリカーボネート樹脂の製造方法)
本発明の熱可塑性樹脂がポリカーボネート樹脂である場合はそれ自体公知の反応手段、例えばジヒドロキシ化合物成分とカーボネート前駆物質を溶融重合法によって反応させて得られる。ポリカーボネート樹脂を製造するに当たっては、必要に応じて触媒、末端停止剤、酸化防止剤等を使用してもよい。
【0061】
(ポリエステル樹脂の製造方法)
本発明の熱可塑性樹脂がポリエステル樹脂である場合はそれ自体公知の反応手段、例えばジヒドロキシ化合物成分とジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とをエステル化反応もしくはエステル交換反応させ、得られた反応生成物を重縮合反応させ、所望の分子量の高分子量体とすればよい。
【0062】
(ポリエステルカーボネート樹脂の製造方法)
本発明の熱可塑性樹脂がポリエステルカーボネート樹脂である場合は、ジヒドロキシ化合物成分およびジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、カーボネートエステルなどのカーボネート前駆物質とを反応させることにより製造することができる。重合方法は前記ポリカーボネート樹脂またはポリエステル樹脂と同様の方法を用いることができる。
【0063】
<光学部材>
本発明の光学部材は、上記の熱可塑性樹脂から形成される。そのような光学部材としては、上記の熱可塑性樹脂が有用となる光学用途であれば、特に限定されないが、光学レンズ、光ディスク、透明導電性基板、光カード、シート、フィルム、光ファイバー、レンズ、プリズム、光学膜、基盤、光学フィルター、ハードコート膜等を挙げることができる。
【0064】
<光学レンズ>
本発明の光学部材として、特に光学レンズを挙げることができる。このような光学レンズとしては、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末、パソコン、デジタルカメラ、ビデオカメラ、車載カメラ、監視カメラ等のための光学レンズを挙げることができる。
【0065】
本発明の光学レンズは、射出成形、圧縮成形、射出圧縮成形、溶融押出成形、キャスティング等の任意の方法により成形、加工することができるが、射出成形が特に好適である。
【0066】
射出成形の成形条件は特に限定されないが、成形機のシリンダー温度は180~320℃が好ましく、220~300℃がより好ましく、240~280℃が特に好ましい。また、金型温度は70~130℃が好ましく、80~125℃がより好ましく、90~120℃が特に好ましい。射出圧力は5~170MPaが好ましく、50~160MPaがより好ましく、100~150MPaが特に好ましい。
【実施例0067】
本発明を以下の実施例でさらに具体的に説明をするが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0068】
[参考例1]
2,2-ビス(4-オキソシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパンの合成
撹拌機、冷却器、さらには温度計を備え付けたフラスコに2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)トリフルオロプロパン10g(29ミリモル)、アクア(2,2’-ビピリジン-6,6’-ジオナト)(ペンタメチルシクロペンタジエニル)イリジウム(III)31mg(0.06ミリモル)、トルエン106gを加えて120℃でトルエンを還流しながら反応を行った。反応の進行具合はガスクロマトグラフィーで追跡し、原料の2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)トリフルオロプロパンがほぼ消失するまで、14時間おきにアクア(2,2’-ビピリジン-6,6’-ジオナト)(ペンタメチルシクロペンタジエニル)イリジウム(III)15mgを追加しながら反応を続けた。104時間後に反応を終了させ、反応液を水酸化ナトリウムおよび水で分液水洗したのち、トルエン/ヘキサン(v/v=1/1)で再結晶し目的である2,2-ビス(4-オキソシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパンの薄黄色結晶を6.7g、収率67%で得た。ガスクロマトグラフィーを測定したところ、純度は97.4%であった。
【0069】
2,2-ビス(4-オキソシクロヘキシル)パーフルオロプロパン-ビス(トリメチロールプロパン)アセタールの合成
撹拌機、冷却器、ディーンスターク管さらには温度計を備え付けたフラスコに2,2-ビス(4-オキソシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン6.5g(19ミリモル)、トリメチロールプロパン5.3g(40ミリモル)、パラトルエンスルホン酸0.22g(1ミリモル)、トルエン33gを加えたのち、110℃でトルエンを還流しながら生成水をディーンスタークで除去しつつ5時間撹拌した。反応液を90℃以下まで下げたのち水酸化ナトリウムおよび水で中和洗浄した。トルエンを濃縮しその残渣にメタノールを加え水中へ滴下し析出した白色結晶を濾取し目的である2,2-ビス(4-オキソシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン-ビス(トリメチロールプロパン)アセタール(BCHHFPAと省略することがある)を8.6g、収率79%で得た。得られたBCHHFPAを1H NMRにより分析し、目的物であることを確認した。また、ガスクロマトグラフィーを測定したところ、純度は98.3%であり、5%重量減少温度を測定したところ287℃であった。
【0070】
[実施例1]
参考例1で得られたBCHHFPAを5.8質量部(20mоl%)、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(以下、BPEFと省略することがある)17.54質量部(80mоl%)、ジフェニルカーボネート(以下、DPCと省略することがある)10.82質量部(101mоl%)、及び触媒として濃度60mmol/Lの濃度で炭酸水素ナトリウムを2.10×10-4質量部(5.00×10-3mоl%)、濃度274mmol/Lの濃度でテトラメチルアンモニウムヒドロキシド1.37×10-3質量部(3.01×10-2mоl%)を加え、窒素雰囲気下200℃に加熱し溶融させた。その後、5分間かけて減圧度を20kPaに調整した。40℃/hrの昇温速度で240℃まで昇温を行い、フェノールの流出量が70%になった後で減圧度を1kPaまで減圧し、所定の電力に到達するまで重合反応を行い、反応終了後フラスコから樹脂を取り出した。得られたポリカ―ボネート樹脂を、H NMRにより分析し、BCHHFPA成分が全モノマーに対して20mоl%、BPEF成分が全モノマー成分に対して80mоl%導入されていることを確認した。該ポリカ―ボネート樹脂を用いて、共重合比、比粘度、屈折率、アッベ数、Tg、5%重量減少温度を評価し、結果を表1に示した。
【0071】
【化19】
【0072】
[実施例2~4]
各モノマーの量を表1に記載の量に変更したこと以外は実施例1と同様にして、ポリカーボネート樹脂を製造した。該熱可塑性樹脂を用いて、共重合比、比粘度、屈折率、アッベ数、Tg、5%重量減少温度を評価し、結果を表1に示した。
【0073】
[比較例1~2]
BCHHFPAの代わりに3,9-ビス(2-ヒドロキシ-1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン(以下、SPGと省略することがある)を使用したこと、及び各モノマーの量を表1に記載の量に変更したこと以外は実施例1と同様にして、ポリカーボネート樹脂を製造した。該熱可塑性樹脂を用いて、共重合比、比粘度、屈折率、アッベ数、Tg、5%重量減少温度を評価し、結果を表1に示した。
【0074】
【化20】
【0075】
[比較例3]
BCHHFPAの代わりに1,4ーシクロヘキサンジオンービス( トリメチロールプロパンアセタール)(以下、CHPAと省略することがある)を使用したこと、以外は実施例2と同様にして、ポリカーボネート樹脂を製造した。該熱可塑性樹脂を用いて、共重合比、比粘度、屈折率、アッベ数、Tg、5%重量減少温度を評価し、結果を表1に示した。
【0076】
【化21】
【0077】
[比較例4]
BCHHFPAの代わりに2,2-ビス(4-オキソシクロヘキシル)プロパン-ビス(トリメチロールプロパンアセタール)(以下、DSPと省略することがある)を使用したこと、以外は実施例4と同様にして、ポリカーボネート樹脂を製造した。該熱可塑性樹脂を用いて、共重合比、比粘度、屈折率、アッベ数、Tg、5%重量減少温度を評価し、結果を表1に示した。
【0078】
【化22】
【0079】
得られた熱可塑性樹脂について下記の方法で評価を行った。
<比粘度測定>
20℃で塩化メチレン100mlに得られた樹脂0.7gを溶解した溶液からオストワルド粘度計を用いて求めた。
比粘度(ηSP)=(t-t)/t
(tは塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数)
【0080】
<共重合比>
得られた樹脂を日本電子(株)製JNM-ECZ400Sを用いてHNMR測定することによって、各の熱可塑性樹脂組成比を算出した。溶媒はCDClを用いた。
【0081】
<光学特性>
(屈折率)
各樹脂の3mm厚試験片を作製し研磨した後、島津製作所製のカルニュー精密屈折計KPR-2000を使用して、20℃における屈折率nd(587.56nm)を測定した。
【0082】
(アッベ数)
アッベ数の測定波長は、486.13nm、587.56nm、656.27nmの屈折率から下記の式を用いて算出した。
νd=(nd-1)/(nF-nC)
nd:波長587.56nmでの屈折率、
nF:波長486.13nmでの屈折率、
nC:波長656.27nmでの屈折率を意味する。
【0083】
<耐熱性>
(ガラス転移温度(Tg))
得られた樹脂をTAインスツルメント製の示差熱・熱重量同時測定装置Discovery SDT650により、昇温速度20℃/minで測定した。試料は5mg程度で測定した。
【0084】
<耐熱安定性>
(5%重量減少温度)
得られた樹脂をTAインスツルメント製の示差熱・熱重量同時測定装置Discovery SDT650により、窒素雰囲気下で、昇温速度20℃/minで測定し、5%重量減少温度を測定した。試料は5mg程度で測定した。
【0085】
【表1】
【0086】
実施例1~4で得られた熱可塑性樹脂は、炭素原子と酸素原子と水素原子で構成されるモノマーから得られる樹脂よりも高いアッベ数を示し、かつ5%重量減少温度が380℃以上と高く、Tgが145~150℃の間にあるため成型性と耐熱性とのバランスに優れ光学レンズとして優れる。これに対して、比較例1~2のSPGを用いたポリマーはBCHHFPAよりアッベ数が低く、共重合比を大きくするとTgが下がるため、耐熱性に問題がある。比較例3~4のCHPAやDSPを用いたポリマーもSPGと同様にBCHHFPAよりアッベ数が低く、共重合比を大きくするとTgが下がるため、耐熱性に問題がある。
【0087】
BCHHFPAのような構造は、炭素原子と酸素原子と水素原子だけでは実現できない高アッベ数を実現し、さらに高いTgを実現できるため、高アッベ化と高耐熱化に効果的である。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の熱可塑性樹脂は、適切な屈折率およびアッベ数を有し、かつ、耐熱性および耐熱安定性に優れることから、光学材料として好適に用いられ、具体的に光学レンズ、プリズム、光ディスク、透明導電性基板、光カード、シート、フィルム、光ファイバー、光学膜、光学フィルター、ハードコート膜等の光学部材として用いることができ、特に光学レンズ材料として極めて有用である。
図1
図2