(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117298
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】金属光沢を発現する膜、その膜を生成する塗料およびそれらに用いることができる新規な共重合体
(51)【国際特許分類】
C09D 185/00 20060101AFI20240822BHJP
C09D 181/00 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
C09D185/00
C09D181/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023320
(22)【出願日】2023-02-17
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】塚田 学
(72)【発明者】
【氏名】星野 勝義
(72)【発明者】
【氏名】土井 将嗣
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CK021
4J038CL011
4J038GA01
4J038GA02
4J038GA08
4J038GA13
4J038KA06
4J038MA06
4J038MA09
4J038NA01
4J038NA25
4J038PB05
4J038PB07
(57)【要約】
【課題】新たな色調の金属光沢を発現する膜、その膜を生成する塗料およびそれらに用いることができる新規な共重合体を提供する。
【解決手段】ヘテロ原子としてセレンを有する複素環式化合物を重合体の主鎖に含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘテロ原子としてセレンを有する複素環式化合物を重合体の主鎖に含むことを特徴とする金属光沢を発現する膜。
【請求項2】
前記重合体は、前記複素環式化合物を含む共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の金属光沢を発現する膜。
【請求項3】
前記共重合体は、前記複素環式化合物と、セレン以外のヘテロ原子を有する複素環式化合物とが共重合した共重合体であることを特徴とする請求項2に記載の金属光沢を発現する膜。
【請求項4】
前記セレン以外のヘテロ原子を有する複素環式化合物が、ヘテロ原子として硫黄を有する複素環式化合物であることを特徴とする請求項3に記載の金属光沢を発現する膜。
【請求項5】
前記セレンを有する複素環式化合物は、3-アルコキシセレノフェンであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の金属光沢を発現する膜。
【請求項6】
前記セレン以外のヘテロ原子を有する複素環式化合物は、3-アルコキシチオフェンであることを特徴とする請求項3または4に記載の金属光沢を発現する膜。
【請求項7】
ヘテロ原子としてセレンを有する複素環式化合物を主鎖に含む重合体から実質的になる色材と、溶媒とを含むことを特徴とする金属光沢を発現する膜を生成する塗料。
【請求項8】
前記重合体は、前記複素環式化合物を含む共重合体であることを特徴とする請求項7に記載の金属光沢を発現する膜を生成する塗料。
【請求項9】
前記共重合体は、前記複素環式化合物と、セレン以外のヘテロ原子を有する複素環式化合物とが共重合した共重合体であることを特徴とする請求項8に記載の金属光沢を発現する膜を生成する塗料。
【請求項10】
前記セレン以外のヘテロ原子を有する複素環式化合物が、ヘテロ原子として硫黄を有する複素環式化合物であることを特徴とする請求項9に記載の金属光沢を発現する膜を生成する塗料。
【請求項11】
前記セレンを有する複素環式化合物は、3-アルコキシセレノフェンであることを特徴とする請求項7ないし9のいずれかに記載の金属光沢を発現する膜を生成する塗料。
【請求項12】
前記セレン以外のヘテロ原子を有する複素環式化合物は、3-アルコキシチオフェンであることを特徴とする請求項9または10に記載の金属光沢を発現する膜を生成する塗料。
【請求項13】
前記溶媒は、炭酸プロピレンであることを特徴とする請求項7ないし10のいずれかに記載の金属光沢を発現する膜を生成する塗料。
【請求項14】
下記式(1)で示されるセレノフェン-チオフェン共重合体(ここで、R
1~R
4は、水素原子、またはアルコキシ基(C=1~6)のいずれかであり、R
1~R
4の少なくとも1つは、アルコキシ基(C=1~6)である。また、X
-は、セレノフェン-チオフェン共重合体にドーパントとして組み込まれる任意のアニオンである。また、下記式(1)において、l+m=2~900、n=1~500である。また、下記式(1)は、交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体のいずれかである。)であることを特徴とする金属光沢を発現する膜または金属光沢を発現する膜を生成する塗料に用いることができる共重合体。
【化1】
【請求項15】
下記式(2)で示されるセレノフェン-チオフェン共重合体(ここで、R
1,R
2は、水素原子、またはアルコキシ基(C=1~6)のいずれかであり、R
1,R
2の少なくとも1つは、アルコキシ基(C=1~6)である。また、X
-は、セレノフェン-チオフェン共重合体にドーパントとして組み込まれる任意のアニオンである。また、下記式(2)において、l+m=2~900、n=1~500である。また、下記式(2)は、交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体のいずれかである。)であることを特徴とする金属光沢を発現する膜または金属光沢を発現する膜を生成する塗料に用いることができる共重合体。
【化2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属光沢を発現する膜、その膜を生成する塗料およびそれらに用いることができる新規な共重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属は、一般に硬く、例えば、家電や自動車等の機械的強度が必要な部品に使用されているだけでなく、金属光沢を有するため、質感に優れ、家具や雑貨等、日常生活のありとあらゆる物品において使用されている。しかしながら、金属は、材料そのものが高価であるだけでなく、加工も容易ではないことから、金属製の物品は高価になる傾向がある。
【0003】
安価に金属光沢を有する物品を製造する方法として、例えば、高分子化合物やガラスから造形された物品の表面に金属の薄膜を被覆する金属めっきや、微粒子またはフレーク状の金属を添加した塗料を物品の表面に塗布する等の表面処理技術が用いられている。
【0004】
しかしながら、金属めっきは、表面処理を行うことができる材質に制限があり、金属を添加した塗料は、塗料中におけるポリマーバインダーと金属との比重の違いにより、金属粒子が沈降し、塗膜にしたときに斑が生じやすくなってしまうといった課題がある。
【0005】
そこで、金属以外の非金属物質を用いて金属光沢を発現させることにより、上記課題を解決することが行われている。金属光沢を示す非金属物質に関する技術として、例えば特許文献1には、例えば酸化剤を用いて3-メトキシチオフェンの重合体を合成し、その重合体を溶媒に溶解させて塗料とし、それをガラス基板上に塗布することにより、金色または銅色の光沢を有する膜が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6308624号公報(第8頁~第10頁、第11図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1においては、重合体の主鎖がチオフェンのみから構成されるため、側鎖(置換基)の構成によらず得られる膜が金色または銅色の光沢であった。このような金属光沢膜には、様々な色調の金属光沢を発現するものが求められており、発明者らの研究から、ヘテロ原子としてセレンを有する複素環式化合物を重合体の主鎖に含ませることで、新たな色調の金属光沢を発現する膜を見出すに至った。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、新たな色調の金属光沢を発現する膜、その膜を生成する塗料およびそれらに用いることができる新規な共重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の一観点に係る金属光沢を発現する膜は、
ヘテロ原子としてセレンを有する複素環式化合物を重合体の主鎖に含むことを特徴としている。
この特徴によれば、ヘテロ原子としてセレンを有する複素環式化合物を重合体の主鎖に含むことにより、赤紫色または黒紫色掛かった新たな色調の金属光沢を発現する膜を得ることができる。
【0010】
前記重合体は、前記複素環式化合物を含む共重合体であることを特徴としている。
この特徴によれば、ヘテロ原子としてセレンを有する複素環式化合物を共重合体の主鎖に含むことにより、赤紫色または黒紫色掛かった新たな色調の金属光沢を発現する膜を得ることができる。
【0011】
前記共重合体は、前記複素環式化合物と、セレン以外のヘテロ原子を有する複素環式化合物とが共重合した共重合体であることを特徴としている。
この特徴によれば、ヘテロ原子としてセレンを有する複素環式化合物と、セレン以外のヘテロ原子を有する複素環式化合物とが共重合した共重合体の主鎖とすることにより、金属光沢を発現する膜の色調の幅を広げることができる。
【0012】
前記セレン以外のヘテロ原子を有する複素環式化合物が、ヘテロ原子として硫黄を有する複素環式化合物であることを特徴としている。
この特徴によれば、ヘテロ原子としてセレンを有する複素環式化合物と、ヘテロ原子として硫黄を有する複素環式化合物とが共重合した共重合体の主鎖とすることにより、良好な金属光沢を発現する膜の色調の幅を広げることができる。
【0013】
前記セレンを有する複素環式化合物は、3-アルコキシセレノフェンであることを特徴としている。
この特徴によれば、重合体のドープ率を高めることにより、膜中における重合体の配置の規則性を向上させ、膜の正反射率を高めることができる。
【0014】
前記セレン以外のヘテロ原子を有する複素環式化合物は、3-アルコキシチオフェンであることを特徴としている。
この特徴によれば、重合体のドープ率を高めることにより、膜中における重合体の配置の規則性を向上させ、膜の正反射率を高めることができる。
【0015】
本発明の他の一観点に係る金属光沢を発現する膜を生成する塗料は、
ヘテロ原子としてセレンを有する複素環式化合物を主鎖に含む重合体から実質的になる色材と、溶媒とを含むことを特徴としている。
この特徴によれば、ヘテロ原子としてセレンを有する複素環式化合物を重合体の主鎖に含むことにより、赤紫色または黒紫色掛かった新たな色調の金属光沢を発現する膜を生成する塗料を得ることができる。
【0016】
前記重合体は、前記複素環式化合物を含む共重合体であることを特徴としている。
この特徴によれば、ヘテロ原子としてセレンを有する複素環式化合物を共重合体の主鎖に含むことにより、赤紫色または黒紫色掛かった新たな色調の金属光沢を発現する膜を生成する塗料を得ることができる。
【0017】
前記共重合体は、前記複素環式化合物と、セレン以外のヘテロ原子を有する複素環式化合物とが共重合した共重合体であることを特徴としている。
この特徴によれば、ヘテロ原子としてセレンを有する複素環式化合物と、セレン以外のヘテロ原子を有する複素環式化合物とが共重合した共重合体の主鎖とすることにより、金属光沢を発現する膜の色調の幅を広げることができる。
【0018】
前記セレン以外のヘテロ原子を有する複素環式化合物が、ヘテロ原子として硫黄を有する複素環式化合物であることを特徴としている。
この特徴によれば、ヘテロ原子としてセレンを有する複素環式化合物と、ヘテロ原子として硫黄を有する複素環式化合物とが共重合した共重合体の主鎖とすることにより、良好な金属光沢を発現する膜の色調の幅を広げることができる。
【0019】
前記セレンを有する複素環式化合物は、3-アルコキシセレノフェンであることを特徴としている。
この特徴によれば、重合体のドープ率を高めることにより、膜中における重合体の配置の規則性を向上させ、膜の正反射率を高めることができる。
【0020】
前記セレン以外のヘテロ原子を有する複素環式化合物は、3-アルコキシチオフェンであることを特徴としている。
この特徴によれば、重合体のドープ率を高めることにより、膜中における重合体の配置の規則性を向上させ、膜の正反射率を高めることができる。
【0021】
前記溶媒は、炭酸プロピレンであることを特徴としている。
この特徴によれば、膜中における重合体の配置の規則性をさらに向上させ、膜の拡散反射率を極めて小さくでき、金属表面のような鏡面反射を実現できる。
【0022】
本発明の他の一観点に係る金属光沢を発現する膜または金属光沢を発現する膜を生成する塗料に用いることができる共重合体は、
下記式(1)で示されるセレノフェン-チオフェン共重合体(ここで、R1~R4は、水素原子、またはアルコキシ基(C=1~6)のいずれかであり、R1~R4の少なくとも1つは、アルコキシ基(C=1~6)である。また、X-は、セレノフェン-チオフェン共重合体にドーパントとして組み込まれる任意のアニオンである。また、下記式(1)において、l+m=2~900、n=1~500である。また、下記式(1)は、交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体のいずれかである。)であることを特徴としている。
【0023】
【0024】
本発明の他の一観点に係る金属光沢を発現する膜または金属光沢を発現する膜を生成する塗料に用いることができる共重合体は、
下記式(2)で示されるセレノフェン-チオフェン共重合体(ここで、R1,R2は、水素原子、またはアルコキシ基(C=1~6)のいずれかであり、R1,R2の少なくとも1つは、アルコキシ基(C=1~6)である。また、X-は、セレノフェン-チオフェン共重合体にドーパントとして組み込まれる任意のアニオンである。また、下記式(2)において、l+m=2~900、n=1~500である。また、下記式(2)は、交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体のいずれかである。)であることを特徴としている。
【0025】
【発明の効果】
【0026】
以上、本発明により、赤紫色または黒紫色掛かった新たな色調の金属光沢を発現する膜、その膜を生成する塗料およびそれらに用いることができる新規な共重合体を提供することができる。また、金属光沢を発現する膜およびその膜を生成する塗料は、上記式(1),(2)に示される新規なセレノフェン-チオフェン共重合体から実質的になる色材を用いたものに限らず、共重合体を構成するモノマーであるセレノフェンまたはセレノフェン誘導体と、セレン以外のヘテロ原子を有する複素環式化合物との組み合わせにより、生成膜の反射率や色調の調整が可能であり、生成膜の拡張性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】実施形態に係るヘテロ原子としてセレンを有する複素環式化合物を含む重合体を含む金属光沢膜が形成された物体の断面概略図を示す図である。
【
図2】実施例1において用いた重合装置の概略を示す図である。
【
図3】実施例1において得られた3-アルコキシセレノフェン単独重合体の粉末の層構造のイメージ図である。
【
図4】実施例1において得られた膜の写真図である。
【
図5】実施例1において得られた膜の明度と色度を示す図である。
【
図6】実施例1において得られた膜の正反射スペクトルと拡散反射スペクトルを示す図である。
【
図7】(a)は、実施例1において得られた膜のエリプソメトリーの測定により得られた屈折率、(b)は、同じく消衰係数、(c)は、塗料の吸収スペクトル、(d)は、膜の反射率計算値を示す図である。
【
図8】実施例1において得られた膜のX線回折パターンを示す図である。
【
図9】(a)は、エッジオンラメラ結晶、(b)は、フェイスオンラメラ結晶を示す図である。
【
図10】化学酸化重合と定電位電解重合により得られた3-メトキシチオフェンオリゴマーから調製された膜のX線回折パターンを示す図である。
【
図11】実施例1において得られた膜の写真図である。
【
図12】実施例1において得られた膜の正反射スペクトルとX線回折パターンを示す図である。
【
図13】実施例1において得られた膜のエリプソメトリーの測定結果を示す図である。
【
図14】実施例2において得られた膜の写真図である。
【
図15】実施例2において得られた膜の明度と色度を示す図である。
【
図16】実施例2において得られた膜の正反射スペクトルと拡散反射スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について、
図1から
図16を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例の例示に限定されるものではない。
【0029】
図1は、本実施形態に係るヘテロ原子としてセレン(Se)を有する複素環式化合物(以下、単に「含セレン複素環式化合物」と言うこともある。)を含む重合体、例えばセレノフェンの単独重合体、セレノフェン誘導体の単独重合体、またはセレノフェンおよびセレノフェン誘導体の少なくとも1つをモノマーとして含む共重合体(以下、単に「セレノフェン共重合体」と言うこともある。)からなる金属光沢膜が形成された物品の断面の概略図である。
【0030】
なお、セレノフェン重合体は、チオフェン重合体に比べて分子鎖がねじれにくいため、平面性が高い。また、セレノフェン重合体は、チオフェン重合体よりもバンドギャップが小さく、発明者らの研究から、膜の反射波長領域が長波長(赤色波長領域)にシフトすることが確認されている。さらに、発明者らの研究から、セレノフェンの系では、チオフェンの系でみられるエッジオンラメラ結晶よりもフェイスオンラメラ結晶の比率が高くなることが確認されている。すなわち、セレノフェンの系では、チオフェンの系との電子状態の違いによってオリゴマーの特性に違いが生じることで、赤紫色または黒紫色掛かった新たな色調の金属光沢を発現する膜が得られるものと推測される。また、セレノフェン共重合体においては、モノマーの組み合わせや比率等により、色調の調整が可能になる。
【0031】
本実施形態に係る金属光沢膜が形成される物品としては、表面に金属光沢膜が形成できる限りにおいて特に限定されるものではなく、家電や自動車等の電子製品や機械製品およびその部品だけでなく、家具や玩具等の日常生活において用いる雑貨、衣類、紙製品、包装等、ありとあらゆるものを挙げることができるが、材質としては高分子化合物やガラスによって構成されたものであることは、膜の形成しやすさと製造コストを低く抑えることができる観点において好ましい。
【0032】
また、本実施形態において金属光沢膜の厚さとしては、金属光沢を発現することができる限りにおいて限定されるわけではないが、0.1μm以上あれば金属光沢膜とすることができ、1μm以上あればより十分な金属光沢膜となる。
【0033】
また、本実施形態に係る金属光沢膜は、重量平均分子量の分布ピークが100以上100000以下の範囲内にある共重合体、または重量平均分子量の分布ピークが100以上100000以下の範囲内にある単独重合体を含む。また、本実施形態に係る金属光沢膜は、強い金属光沢を発現させる観点から重量平均重合度が4以上20以下の範囲内、好ましくは8以上20以下の範囲内にある共重合体、または重量平均重合度が4以上20以下の範囲内、好ましくは6以上20以下の範囲内にある単独重合体を含む。
【0034】
(含セレン複素環式化合物)
本実施形態において「含セレン複素環式化合物」は、セレノフェン(下記式(3)参照)またはセレノフェン誘導体(下記一般式(4)参照)であることが好ましい。なお、含セレン複素環式化合物は、下記式(3),(4)に示されるものに限らず、ヘテロ原子としてセレンを少なくとも1つ有するものであれば、例えばセレン以外のヘテロ原子を有するものであってもよい。セレン以外のヘテロ原子としては、ホウ素(B)、窒素(N)、酸素(O)、ケイ素(Si)、リン(P)、硫黄(S)、ヒ素(As)、スズ(Sn)、アンチモン(Sb)、テルル(Te)、ビスマス(Bi)等を例示することができる。
【0035】
【0036】
【0037】
セレノフェン誘導体を示す上記式(4)において、R1,R2は置換基であり、詳しくは、R1,R2は、膜に金属光沢を付与できる限りにおいて限定されるわけではないが、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルコキシ基、アリール基、シアノ基、ホルミル基、ニトロ基、または、ハロゲンのいずれかであることが好ましく、膜の正反射率を高めるためには、R1,R2の少なくとも1つがアルコキシ基であることが好ましい。なお、上記式(4)において、R1,R2の両方が水素原子、すなわち無置換のものは、上記式(3)に示されるセレノフェンに相当する。
【0038】
なお、上記式(4)中R1,R2がアルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルコキシ基である場合、炭素数は1~6であることが好ましい。炭素数を1~6とすることで、重合体(単独重合体または共重合体)における層状の配向構造を効果的に発現させて金属光沢膜を得ることができる。また、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルコキシ基の炭素数が3以上の場合、これらの置換基は直鎖状であっても枝分かれ状であってもよい。
【0039】
具体的には、上記式(4)のセレノフェン誘導体としては、3-メトキシセレノフェン、3,4-ジメトキシセレノフェン、3-エトキシセレノフェン、3,4-ジエトキシセレノフェン、3-プロポキシセレノフェン、3,4-プロポキシセレノフェン、3-ブトキシセレノフェン、3,4-ジブトキシセレノフェン、3-メチルセレノフェン、3,4-ジメチルセレノフェン、3-アミノセレノフェン、3,4-ジアミノセレノフェン等を例示することができる。
【0040】
なお、本実施形態において、含セレン複素環式化合物として五員環のものを主に例示しているが、これに限らず、含セレン複素環式化合物は、その重合体(単独重合体または共重合体)が金属光沢を発現可能であれば、四員環、六員環等のように員数が異なるものであってもよい。また、含セレン複素環式化合物は、その重合体が金属光沢を発現可能であれば、単環式化合物に限らず、例えば二環式化合物(例えば3,4-エチレンジオキシセレノフェン)のような多環構造であってもよい。
【0041】
(セレノフェンの単独重合体)
本実施形態において「セレノフェンの単独重合体」は、上記式(3)で示されるセレノフェンのみをモノマーとする重合体(下記一般式(5)で示される化合物)である。また、下記式(5)において、X-は、セレノフェンの単独重合体にドーパントとして組み込まれる任意のアニオンである。また、下記式(5)において、m=2~900、n=1~500である。
【0042】
【0043】
(セレノフェン誘導体の単独重合体)
本実施形態において「セレノフェン誘導体の単独重合体」は、上記式(4)で示されるセレノフェン誘導体のうち1種類をモノマーとする重合体(下記一般式(6)で示される化合物)である。また、下記式(6)において、X-は、セレノフェン誘導体の単独重合体にドーパントとして組み込まれる任意のアニオンである。また、下記式(6)において、m=2~900、n=1~500である。
【0044】
【0045】
また、本実施形態において、「単独重合体」の分子量としては、金属光沢を有するものとすることができ、膜として形成できるものである限りにおいて限定されるわけではないが、いわゆるオリゴマーであることが好ましい。
【0046】
(セレノフェン共重合体)
本実施形態において「セレノフェン共重合体」は、上記式(3)で示されるセレノフェンおよび上記式(4)で示されるセレノフェン誘導体の少なくとも1つをモノマーとして含む共重合体である。詳しくは、セレノフェンと、セレノフェン誘導体とが、合計二以上互いに結合して共重合したセレノフェン共重合体A(例えば下記一般式(7)で示される化合物)、異なる種類のセレノフェン誘導体が、合計二以上互いに結合して共重合したセレノフェン共重合体B(例えば下記一般式(8)で示される化合物)、またはセレノフェンおよびセレノフェン誘導体の少なくとも1つと、セレン以外のヘテロ原子を有する複素環式化合物とが、合計二以上互いに結合して共重合したセレノフェン共重合体C(例えば下記一般式(9)で示される化合物)のいずれかである。
【0047】
【0048】
上記式(7)は、2種類のモノマーとしてセレノフェンと、置換基R1,R2を有するセレノフェン誘導体とが共重合したセレノフェン共重合体A(セレノフェン-セレノフェン共重合体)を例示している。なお、上記式(7)中のR1,R2を有するモノマーは、上記式(6)中のR1,R2を有するモノマーと略同一構成であるため、上記式(7)における置換基R1,R2の詳細な説明を省略する。また、上記式(7)において、X-は、セレノフェン共重合体Aにドーパントとして組み込まれる任意のアニオンである。また、上記式(7)において、l+m=2~900、n=1~500である。また、上記式(7)は、交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体のいずれかである。
【0049】
また、上記式(7)で示されるセレノフェン共重合体Aとして、具体的には、セレノフェン/3-メトキシセレノフェン共重合体や、セレノフェン/3-ブトキシセレノフェン共重合体等を例示することができる。
【0050】
【0051】
上記式(8)は、2種類のモノマーとして異なる種類のセレノフェン誘導体、すなわち置換基R1,R2を有するモノマーと、置換基R3,R4を有するモノマーとが共重合したセレノフェン共重合体B(セレノフェン-セレノフェン共重合体)を例示している。なお、上記式(8)中のR1,R2を有するモノマーとR3,R4を有するモノマーは、上記式(6)中のR1,R2を有するモノマーと略同一構成であるため、上記式(8)における置換基R1~R4の詳細な説明を省略する。また、上記式(8)において、X-は、セレノフェン共重合体Bにドーパントとして組み込まれる任意のアニオンである。また、上記式(8)において、l+m=2~900、n=1~500である。また、上記式(8)は、交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体のいずれかである。
【0052】
また、上記式(8)で示されるセレノフェン共重合体Bとして、具体的には、3-メトキシセレノフェン/3,4-ジメトキシセレノフェン共重合体や、3-メトキシセレノフェン/3-メチルセレノフェン共重合体等を例示することができる。
【0053】
【0054】
上記式(9)は、2種類のモノマーとしてセレノフェン誘導体と、セレン以外のヘテロ原子Zを有する複素環式化合物とが共重合したセレノフェン共重合体Cを例示している。なお、上記式(9)中のR1,R2を有するモノマーは、上記式(6)中のR1,R2を有するモノマーと略同一構成であるため、上記式(9)における置換基R1,R2の詳細な説明を省略する。また、上記式(9)において、X-は、セレノフェン共重合体Cにドーパントとして組み込まれる任意のアニオンである。また、上記式(9)において、l+m=2~900、n=1~500である。また、上記式(9)は、交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体のいずれかである。
【0055】
なお、上記式(9)中のR1,R2を有するモノマーは、セレノフェン誘導体に限らず、R1,R2の両方が水素原子、すなわち無置換のセレノフェン(上記式(5)参照)であってもよい。
【0056】
また、上記式(9)において、R3,R4を有するモノマーは、セレン以外のヘテロ原子Zを有する複素環式化合物であり、ヘテロ原子Zとしては、例えばホウ素(B)、窒素(N)、酸素(O)、ケイ素(Si)、リン(P)、硫黄(S)、ヒ素(As)、スズ(Sn)、アンチモン(Sb)、テルル(Te)、ビスマス(Bi)等を例示することができる。なお、当該複素環式化合物は、セレンを有さず、セレン以外のヘテロ原子Zを少なくとも1つ有するものであれば、例えばヘテロ原子Zを複数有するものや、セレン以外のヘテロ原子を複数種類有するものであってもよい。
【0057】
具体的には、上記式(9)中のR3,R4を有するモノマーとしては、チオフェン、ピロール、フラン、イミダゾール、ホスホール、ピラゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、またはこれらの誘導体等を例示することができ、より確実に金属光沢を得るためには、チオフェン、ピロール、またはこれらの誘導体であることが好ましい。なお、上記式(9)中のR3,R4を有するモノマーをピロールとすることにより、膜の正反射率を高めることができる。
【0058】
また、上記式(9)中R3,R4は、膜に金属光沢を付与できる限りにおいて限定されるわけではないが、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルコキシ基、アリール基、シアノ基、ホルミル基、ニトロ基、または、ハロゲンのいずれかであることが好ましく、膜の正反射率を高めるためには、R3,R4の少なくとも1つがアルコキシ基であることが好ましい。
【0059】
なお、上記式(9)中R3,R4がアルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルコキシ基である場合、炭素数は1~6であることが好ましい。炭素数を1~6とすることで、共重合体における層状の配向構造を効果的に発現させて金属光沢膜を得ることができる。また、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルコキシ基の炭素数が3以上の場合、これらは直鎖状であっても枝分かれ状であってもよい。
【0060】
具体的には、上記式(9)において、R3,R4を有するモノマーは、チオフェン、3-メトキシチオフェン、3,4-ジメトキシチオフェン、3-エトキシチオフェン、3,4-ジエトキシチオフェン、3,4-エチレンジオキシチオフェン、3-メチルチオフェン、3,4-ジメチルチオフェン、3-エチルチオフェン、3,4-ジエチルチオフェン、3-アミノチオフェン、3,4-ジアミノチオフェン、3-メチルアミノチオフェン、3-ジメチルアミノチオフェン、ピロール、3-メチルピロール、3,4-ジメチルピロール等を例示することができる。
【0061】
なお、本実施形態において、R3,R4を有するモノマー、すなわちセレン以外のヘテロ原子Zを有する複素環式化合物として、五員環のものを主に例示しているが、これに限らず、当該複素環式化合物は、セレノフェンまたはセレノフェン誘導体との共重合体が金属光沢を発現可能であれば、四員環、六員環等のように員数が異なるものであってもよい。また、セレン以外のヘテロ原子を有する複素環式化合物は、セレノフェンまたはセレノフェン誘導体との共重合体が金属光沢を発現可能であれば、単環式化合物に限らず、二環式化合物等のような多環構造であってもよい。
【0062】
具体的に、セレノフェン共重合体Cとして、好ましくは、上記式(9)中のR3,R4を有するモノマー、すなわちセレン以外のヘテロ原子Zを有する複素環式化合物がヘテロ原子Zとして硫黄(S)を有するチオフェン誘導体であるセレノフェン-チオフェン共重合体(上記式(1)参照)とすることにより、赤紫色または黒紫色掛かった新たな色調の金属光沢を発現する膜が得られやすい。さらに好ましくは、3位に置換基R1を有するセレノフェン誘導体からなるモノマーと、3位に置換基R2を有するチオフェン誘導体からなるモノマーとが共重合した新規なセレノフェン-チオフェン共重合体(上記一般式(2)参照)とすることにより、赤紫色または黒紫色掛かった新たな色調であり、良好な金属光沢を発現する膜が得られやすい。これは、セレノフェンがチオフェンの高周期類縁体であることにより、重合体の主鎖の形状が安定しやすく、セレノフェン-チオフェン共重合体としたときにバランスが取れた結晶構造となり、層状の配向構造を形成しやすくなるためであると推測される。
【0063】
なお、本実施形態において、「セレノフェン共重合体」の分子量としては、金属光沢を有するものとすることができ、膜として形成できるものである限りにおいて限定されるわけではないが、いわゆるオリゴマーであることが好ましい。
【0064】
また、本実施形態において、セレノフェン共重合体を構成するモノマーの種類は2種類に限らず、3種類以上であってもよい。
【0065】
また、セレノフェン共重合体は、後述する溶媒への溶解性を向上させる観点からモノマーの組み合わせが無秩序に配列されたランダム共重合体であることが好ましいが、これに限らず、交互共重合体、ブロック共重合体であってもよい。なお、ブロック共重合である場合、1種類のモノマーの配列の連鎖が長くなるとセレノフェン共重合体の柔軟性が失われて溶媒への溶解性が低下してしまうことから、1種類のモノマーの配列の連鎖が2~5個程度の範囲でバランスよく構成されることが好ましい。
【0066】
(化学重合法)
本実施形態において、上記セレノフェン重合体(単独重合体または共重合体)は、金属光沢膜とすることができる限りにおいて限定されるわけではないが、化学重合法によって重合されたものであることが好ましい。ここで「化学重合法」とは、酸化剤を用いて液相および固相の少なくともいずれかにおいて行う重合をいう。
【0067】
本実施形態において、化学重合法によって得られたセレノフェン重合体が金属光沢を示す理由は、推測の域ではあるが、セレノフェン重合体を構成する分子が規則的に配向し、層状の配向構造を形成することにより、特定の波長を反射するためであると考えられる。このことは、作製された膜がX線回折において鋭いピークを示すことからも裏付けられる。この詳細は、セレノフェン重合体のX線回折測定において、アモルファスに起因するハローパターンが存在せずセレノフェン重合体の規則的な構造に由来すると考えられるピークが所定の回折角(2θ)の範囲で明確に観測できることを意味する。
【0068】
本実施形態における金属光沢膜は、セレノフェン重合体が空気中において非常に安定であることから、長期間空気中に放置しても劣化が殆どなく、長期間にわたり金属光沢を示すことができる。
【0069】
(金属光沢膜の製造方法)
ここで、本実施形態における金属光沢膜の製造方法(以下単に「本方法」という。)について説明する。
【0070】
本方法は、(1)酸化剤を用いてセレノフェンおよびセレノフェン誘導体の少なくとも1つと、セレン以外のヘテロ原子を有する複素環式化合物とを共重合してセレノフェン共重合体を含む溶液とする工程、(2)セレノフェン共重合体を含む溶液を物品に塗布して乾燥させる工程、を有する。すなわち、本実施形態では、化学重合を行い、セレノフェン共重合体を製造する。なお、単独重合体の製造方法についても、セレノフェンまたはセレノフェン誘導体のいずれかを重合して単独重合体を含む溶液とする工程、単独重合体を含む溶液を物品に塗布して乾燥させる工程、を有しており、共重合させない点以外は、セレノフェン共重合体の製造方法と略同一であるため、以下、セレノフェン共重合体の製造方法について詳細に説明し、単独重合体の製造方法の説明は省略する。
【0071】
まず、本方法では、(1)酸化剤を用いてセレノフェンおよびセレノフェン誘導体の少なくとも1つと、セレン以外のヘテロ原子を有する複素環式化合物とを共重合し、このセレノフェン共重合体を含む溶液を作製する。ここで用いる「セレノフェン」、「セレノフェン誘導体」、「セレン以外のヘテロ原子を有する複素環式化合物」および得られる「セレノフェン共重合体」は、上記したものである。セレノフェン共重合体は、上記の通り、いわゆるオリゴマーの範囲にあることが好ましい。
【0072】
本工程において、酸化剤は、セレノフェン共重合体を製造することができる限りにおいて限定されず様々なものを使用することができるが、例えば第二鉄塩、第二銅塩、セリウム塩、二クロム酸塩、過マンガン酸塩、過硫酸アンモニウム、三フッ化ホウ素、臭素酸塩、過酸化水素、塩素、臭素およびヨウ素を挙げることができ、中でも第二鉄塩、第二銅塩が好ましい。なお、これらは水和物であってもよい。また、この場合において、この対となるイオンも適宜調整可能であって限定されるわけではなく、例えば塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、クエン酸イオン、シュウ酸イオン、パラトルエンスルホン酸イオン、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン等を挙げることができ、その中でも、過塩素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオンを用いると、赤紫色または黒紫色掛かった新たな色調の金属光沢を得ることができ好ましい。赤紫色または黒紫色掛かった新たな色調の金属光沢を得ることができる理由は、推測の域であるが、上記アニオンが重合の際、セレノフェン共重合体にドーパントとして組み込まれ、セレノフェン共重合体内に生成されるカチオン部位と結合して安定化し、規則正しい構造の形成に寄与するためであると考えられる。実際のところ金属光沢膜を分析するとこれらが安定的に存在することが確認されている。
【0073】
また、本工程において、共重合は溶媒を用い、この溶媒中において行うことが好ましい。用いる溶媒は、上記酸化剤およびセレノフェン、セレノフェン誘導体、セレン以外のヘテロ原子を有する複素環式化合物を十分に溶解し効率的に共重合させることができる限りにおいて限定されるわけではないが、例えばアセトニトリル、ニトロメタン、γ-ブチロラクトン、炭酸プロピレン、ニトロメタン、1-メチル-2-ピロリジノン、ジメチルスルホキシド、2-ブタノン、テトラヒドロフラン、アセトン、メタノール、アニソール、クロロホルム、酢酸エチル、ヘキサン、トリクロロエチレン、シクロヘキサノン、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、エタノール、ブタノール、ピリジン、ジオキサン、およびこれらの混合物等を用いることができる。
【0074】
なお、本工程において、溶媒に対し用いる親水性置換基を有するセレノフェン、セレノフェン誘導体、セレン以外のヘテロ原子を有する複素環式化合物、酸化剤の量は適宜調整可能であり限定されるわけではないが、溶媒の重量を1とした場合、セレノフェン、セレノフェン誘導体、セレン以外のヘテロ原子を有する複素環式化合物の重量の合計は0.00007以上7以下であることが好ましく、より好ましくは0.0007以上0.7以下であり、過塩素酸鉄(III)・n無水物、テトラフルオロホウ酸銅(II)・n水和物の場合、重量の合計は0.0006以上6以下であることが好ましく、より好ましくは0.006以上0.6以下である。
【0075】
また、本工程において、用いるセレノフェン、セレノフェン誘導体、セレン以外のヘテロ原子を有する複素環式化合物と酸化剤の比としては、セレノフェン、セレノフェン誘導体、セレン以外のヘテロ原子を有する複素環式化合物の重量の合計を1とした場合、0.1以上1000以下であることが好ましく、1以上100以下であることがより好ましい。
【0076】
また、本工程において、用いるセレノフェン、セレノフェン誘導体、セレン以外のヘテロ原子を有する複素環式化合物のモル比は適宜調整可能であり限定されるわけではないが、例えばセレノフェン、セレノフェン誘導体とセレン以外のヘテロ原子を有する複素環式化合物がモル比9:1~1:9で共重合されることが好ましく、より好ましくはモル比7:3~3:7であり、さらに好ましくはモル比1:1である。この範囲であると強い金属光沢を発現する膜を生成できる。
【0077】
また、本工程は、セレノフェン、セレノフェン誘導体、セレン以外のヘテロ原子を有する複素環式化合物と酸化剤を溶媒に一度に加えてもよいが、溶媒にセレノフェン、セレノフェン誘導体、セレン以外のヘテロ原子を有する複素環式化合物を加えた溶液と、溶媒に酸化剤を加えた溶液の二種類の溶液を別途作製し、これらを加え合わせることで重合反応を行わせてもよい。
【0078】
また、本工程により得られるセレノフェン共重合体を含む溶液は、そのまま保存してもよいが、この溶液における溶媒を除去し、溶媒で洗浄した後乾燥させてセレノフェン共重合体粉末を得た後、膜を形成する際に、再び溶媒を加えてセレノフェン共重合体を含む塗料を作製してもよい。このようにすれば、重合反応において余剰に加えられ残留したモノマーや酸化剤を除去することができ好ましい。
【0079】
なお、本発明の塗料は、セレノフェンの単独重合体またはセレノフェン誘導体の単独重合体から実質的になる色材と、溶媒を含有するもの、またはセレノフェン共重合体から実質的になる色材と、溶媒を含有するものであればよく、一般に塗料に用いられる添加剤等の他の成分が含まれていてもよい。また、セレノフェンの単独重合体またはセレノフェン誘導体の単独重合体から実質的になる色材とは、色材が上記したセレノフェンの単独重合体またはセレノフェン誘導体の単独重合体以外の不可避的不純物を含んでいてもよいことを意味し、セレノフェン共重合体から実質的になる色材とは、色材が上記したセレノフェン共重合体以外の不可避的不純物を含んでいてもよいことを意味する。
【0080】
また、本発明の塗料において、用いる溶媒は、上記セレノフェンまたはセレノフェン誘導体の単独重合体、セレノフェン共重合体を十分に溶解し、金属光沢を発現する膜を生成させることができる限りにおいて限定されるわけではないが、例えばアセトニトリル、ニトロメタン、γ-ブチロラクトン、炭酸プロピレン、ニトロメタン、1-メチル-2-ピロリジノン、ジメチルスルホキシド、2-ブタノン、テトラヒドロフラン、アセトン、メタノール、アニソール、クロロホルム、酢酸エチル、ヘキサン、トリクロロエチレン、シクロヘキサノン、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、エタノール、ブタノール、ピリジン、ジオキサン、およびこれらの混合物等を用いることができ、確実に膜を形成でき、膜の正反射率を高めるためには、炭酸プロピレンであることが好ましい。
【0081】
また、本方法では、(2)セレノフェン共重合体を含む溶液を物品に塗布して乾燥させる工程を有する。本実施形態において、膜を形成する物品は、上記例示した物品である。
【0082】
本工程において、本発明の塗料を物品に塗布する方法としては、塗布できる限りにおいて限定されるわけではないが、例えばスピンコート法、バーコート法、ディップコーティング法、ドロップキャスト法等を採用することができるが、金属光沢を備えさせる程度の厚く形成するためにはドロップキャスト法あるいはディップコーティング法が好適である。
【0083】
以上、本発明により、赤紫色または黒紫色掛かった新たな色調の金属光沢を発現する膜およびその膜を生成する塗料を提供することができる。また、セレノフェン共重合体を構成するセレノフェン、セレノフェン誘導体、セレン以外のヘテロ原子を有する複素環式化合物の組み合わせにより、生成膜である金属光沢膜の反射率や色調の調整が可能であり、生成膜の拡張性が高い。
【0084】
また、セレノフェンの単独重合体またはセレノフェン誘導体の単独重合体についても、赤紫色または黒紫色掛かった新たな色調の金属光沢を発現する膜およびその膜を生成する塗料を提供することができる。
【0085】
また、本発明においては、セレノフェン共重合体を構成するモノマー、例えばセレノフェン誘導体の単独重合体とチオフェン誘導体の単独重合体を物理混合した場合であっても、金属光沢を発現する膜およびその膜を生成する塗料を提供することができる。
【0086】
なお、本発明による金属光沢膜は電気導電性を有するものでもあり、絶縁性の物品上に本実施形態に係る膜を形成することで導電性を確保することもできるといった利点もある。また、セレノフェン共重合体の中には、モノマーの組み合わせによっては、電気導電性が低くなるものも確認されている。
【実施例0087】
ここで、上記実施形態に係る実施例1の膜を実際に作製し、その効果を確認した。以下具体的に説明する。
【0088】
(3-アルコキシセレノフェン単独重合体の合成)
まず、酸化剤として過塩素酸鉄(III)・n水和物またはテトラフルオロホウ酸銅(II)・n水和物のアセトニトリル溶液20ml(濃度2.0mmol)を調製し、磁気攪拌を行った。
【0089】
次に、合成した3-アルコキシセレノフェン(3-ROSe)を加えたアセトニトリル溶液20ml(濃度1.0mmol)を調製し、ガラス製のフラスコに入れ、磁気攪拌を行いながらN
2バブリングを約30分間行った。なお、この場合において用いた装置の概略図を
図2に示しておく。
【0090】
そして、上記3-アルコキシセレノフェンのアセトニトリル溶液(すなわちモノマー溶液)に、上記過塩素酸鉄(III)・n水和物またはテトラフルオロホウ酸銅(II)・n水和物のアセトニトリル溶液を加えて混合し、1時間撹拌し、重合を進行させた。
【0091】
そして、エバポーレーターで溶液を減圧留去し、ここに少量のエタノールを加えた。
【0092】
そして、メンブレンフィルター(ポア径0.1μm)を用いてフラスコ中の溶液および沈殿物を吸引・ろ過した。その際、ろ過器上の残渣はエタノールで十分に洗浄し、酸化剤を除去した。
【0093】
その後、残渣を50℃、真空下で乾燥させ、3-アルコキシセレノフェン単独重合体、すなわち3-アルコキシセレノフェンオリゴマー(O3-ROSe)の粉末を得た。
【0094】
また、3-アルコキシセレノフェンオリゴマー(O3-ROSe)の構造のイメージ図を
図3に示しておく。本図で示すように、3-アルコキシセレノフェン単独重合体は、モノマーがアルコキシ基により置換されることで電気的に+にチャージされているため、3-アルコキシセレノフェン重合体にドーパントX
-として組み込まれる過塩素酸イオン(ClO
4
-)またはテトラフルオロホウ酸イオン(BF
4
-)が3-アルコキシセレノフェン重合体内に生成されるカチオン部位と結合して安定化しやすく、ドープ率が高まることで規則正しい構造の形成に寄与するものと推測され、これも金属光沢の原因の一つとなっていると考えられる。
【0095】
なお、本実施例1においては、3-アルコキシセレノフェン単独重合体として、3-メトキシセレノフェンオリゴマー(O3-MeOSe)と、3-ノルマルブトキシセレノフェンオリゴマー(O3-nBuOSe)にそれぞれ過塩素酸イオンまたはテトラフルオロホウ酸イオン(ClO4
-,BF4
-)をドープしたものを合成し、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィ)による分子量分布測定を行った結果、どのオリゴマーにおいても分子量はドーパントの種類に依存せず、3-メトキシセレノフェンオリゴマー(O3-MeOSe)の分子量は1050程度、3-ノルマルブトキシセレノフェンオリゴマー(O3-nBuOSe)の分子量は1250程度であった。重合度に換算すると、これらのオリゴマーは、6個程度のモノマーから構成されており、チオフェンの系では重合度が9程度であったことから、セレノフェンの系では分子鎖長が短くなっている。
【0096】
(金属光沢膜の製造)
上記手順により得た3-メトキシセレノフェンオリゴマー(O3-MeOSe)の粉末、3-ノルマルブトキシセレノフェンオリゴマー(O3-nBuOSe)の粉末をそれぞれ炭酸プロピレンに濃度が2wt%となるように溶解し、3時間撹拌後、終夜静置することにより塗料を調製した。なお、この塗料はいずれも薄青色(水色)であった。
【0097】
ついで、上記塗料を、スポイトを用いてドロップキャスト法によりガラス基板上にそれぞれ100μl塗布した。この場合において、塗料は基板の反対側が透けて見えない程度に厚めに塗布した。
【0098】
次に、上記塗料を塗布した基板を60℃で4時間温風乾燥させた。その表面は塗料色である薄青色から、過塩素酸イオンをドープした3-メトキシセレノフェンオリゴマー(O3-MeOSe(ClO4
-))から調製された膜、および過塩素酸イオンをドープした3-ノルマルブトキシセレノフェンオリゴマー(O3-nBuOSe(ClO4
-))から調製された膜は赤紫色または黒紫色掛かった金属光沢となった。なお、セレノフェンの系における膜の反射光は塗料の色の補色となっている。
【0099】
これらの金属光沢膜の写真図を
図4に、明度および色度を
図5および表1にそれぞれ示す。なお、
図4,5においては、チオフェンの系との比較を行うため、過塩素酸イオンをドープした3-メトキシチオフェンオリゴマー(O3-MeOT(ClO
4
-))から調製された膜、過塩素酸イオンをドープした3-ノルマルブトキシチオフェンオリゴマー(O3-
nBuOT(ClO
4
-))から調製された膜を例示している。
【0100】
【0101】
また、理論値ではあるが、O3-MeOSe(ClO4
-)から調製された膜、O3-MeOSe(BF4
-)から調製された膜、O3-nBuOSe(ClO4
-)から調製された膜、およびO3-nBuOSe(BF4
-)から調製された膜のドープ率、重合度を算出した結果、膜厚、表面粗さ、電気伝導度の測定結果を表2に示す。なお、表2においては、チオフェンの系との比較を行うため、O3-MeOT(ClO4
-)から調製された膜のドープ率、重合度を算出した結果、膜厚、表面粗さ、電気伝導度の測定結果を例示している。
【0102】
なお、ドープ率(含セレン複素環1個当たりにドープされたClO4
-またはBF4
-の比率)は、SEM-EDX(エネルギー分散型X線分光法)により、オリゴマー粉末の元素分析によって得られたセレン原子とドーパントの塩素原子もしくはフッ素原子の存在割合から算出した。
【0103】
【0104】
図5および表1に示されるように、O3-MeOSe(ClO
4
-)から調製された膜は、弱い青色み(b
*=4.85)と強い赤色み(a
*=10.32)を帯びた赤紫色光沢を発現し、O3-
nBuOSe(ClO
4
-)から調製された膜は、弱い赤色み(a
*=2.86)と強い青色み(b
*=-1.60)を帯びた黒紫色光沢を発現する。なお、チオフェンの系として、O3-MeOT(ClO
4
-)から調製された膜は、強い黄色み(b
*=45.70)を帯びた黄色の金属光沢、すなわち金色を発現し、O3-
nBuOT(ClO
4
-)から調製された膜は、弱い黄色み(b
*=8.23)と強い赤色み(a
*=18.38)を帯びた橙色の金属光沢、すなわち銅色を発現する。すなわち、セレノフェンの系では、チオフェンの系とは異なる赤紫色または黒紫色掛かった新たな色調の金属光沢を発現する膜が得られることを確認した。ここで、色はCIE 1976(L
*,a
*,b
*)色空間を用いて定義した。
【0105】
図6(a)に示されるように、O3-MeOSe(ClO
4
-)から調製された膜の正反射スペクトルを測定したところ、赤外線に相当する840nm付近において最大反射率19.5%の金属光沢が発現した。また、O3-
nBuOSe(ClO
4
-)から調製された膜の正反射スペクトルを測定したところ、赤外線に相当する840nm付近において最大反射率18.0%の金属光沢が発現した。なお、チオフェンの系として、O3-MeOT(ClO
4
-)から調製された膜の正反射スペクトルを測定したところ、620nm付近において最大反射率24.7%の金属光沢が発現した。すなわち、O3-MeOSe(ClO
4
-)およびO3-
nBuOSe(ClO
4
-)から調製された膜は、O3-MeOT(ClO
4
-)から調製された膜に比べて、ピーク全体が長波長シフトしている。これは、O3-MeOSeおよびO3-
nBuOSeのバンドギャップがO3-MeOTよりも小さいことを示唆している。また、O3-MeOSe(ClO
4
-)およびO3-
nBuOSe(ClO
4
-)から調製された膜の正反射スペクトルは、紫色~青色の反射波長領域である400~450nmの範囲において5~6%の反射率を有しており、O3-MeOT(ClO
4
-)から調製された膜と比べて紫色~青色の反射波長領域の反射率が大きくなっている。
【0106】
また、O3-MeOSe(ClO4
-)から調製された膜と、O3-nBuOSe(ClO4
-)から調製された膜を比較すると、置換基の炭素鎖長が長いO3-nBuOSe(ClO4
-)から調製された膜における立ち上がり波長が長波長シフトした。
【0107】
また、
図6(b)に示されるように、O3-MeOSe(ClO
4
-)から調製された膜、およびO3-
nBuOSe(ClO
4
-)から調製された膜の拡散反射スペクトルを測定したところ、チオフェンの系であるO3-MeOT(ClO
4
-)から調製された膜の拡散反射スペクトルと比べて低い反射率を示した。すなわち、セレノフェンの系は、チオフェンの系に正反射では劣るものの、拡散反射が略無い(すなわち、膜の拡散反射率は波長400~700nmに亘って極めて小さく2%以下である。)ことにより、金属表面のような鏡面反射に見える膜が得られるものと推測される。なお、セレノフェンの系において、拡散反射が抑制された理由は、O3-MeOSe、O3-
nBuOSeの分子が整列しやすい状態となったためであり、膜の表面だけでなく内部まで分子が優位に配列されているものと推測される。
【0108】
なお、本実施例において、O3-MeOSe(ClO4
-)から調製された膜は赤紫色光沢、O3-nBuOSe(ClO4
-)から調製された膜は、黒紫色光沢であった。このことから、色度として、緑色み~赤色みを示すa*が5~20の範囲かつ青色み~黄色みを示すb*が0~10の範囲にあるもの、また正反射スペクトルが400~450nmの範囲において5~6%の反射率を有するとともに、520nm以上の波長の光を主に反射し、詳しくは正反射スペクトルが520~550nmの範囲で上昇し始め、正反射スペクトルのピークが赤外線に相当する820~860nmの範囲に出現するものを赤紫色光沢とする。また、色度として、緑色み~赤色みを示すa*が-5~5の範囲かつ青色み~黄色みを示すb*が-5~5の範囲にあるもの、また400~450nmの範囲において5~6%の反射率を有するとともに、580nm以上の波長の光を主に反射し、詳しくは正反射スペクトルが580~600nmの範囲で上昇し始め、正反射スペクトルのピークが820~860nmの範囲に出現するものを黒紫色光沢とする。また、「光沢」とは、反射スペクトルが拡散反射成分に対して正反射成分の方が大きくなる関係にある状態のことであり、「金属光沢」とは、金属の質感を有し、正反射スペクトルの可視光領域における最大反射率が10.0%以上であるものとする。
【0109】
図7(a)~(c)に示されるように、エリプソメトリーにより測定したO3-MeOSe(ClO
4
-)およびO3-
nBuOSe(ClO
4
-)から調製された膜における屈折率・消衰係数と、O3-MeOSe(ClO
4
-)およびO3-
nBuOSe(ClO
4
-)の塗料における吸収スペクトルとの関係として、塗料が吸収する波長領域において、調製された膜が高い屈折率と消衰係数を有している。すなわち、塗料中のオリゴマーの吸収波長領域において、調製された膜が高い屈折率と消衰係数を有しており、オリゴマーの吸収波長領域光を他の反射光よりも強く反射することにより光沢を発現しているものと推測される。また、
図7(d)に示されるように、O3-MeOSe(ClO
4
-)およびO3-
nBuOSe(ClO
4
-)から調製された膜における反射率計算値は、正反射スペクトル(
図6(a)参照)と同様の概形であり、上昇し始める波長の順番も同様であることが確認できる。
【0110】
なお、反射率は、下記数式(1)により計算したものである。発明者らは、O3-MeOT膜中のエッジオンラメラ結晶が高い屈折率と消衰係数、すなわち高い反射率をもたらすことを確認している。下記数式(1)において、Rは反射率、nは屈折率、κは消衰係数である。
【0111】
【0112】
図8にO3-MeOSe(ClO
4
-)から調製された膜、O3-
nBuOSe(ClO
4
-)から調製された膜のX線解析パターンを示す。なお、
図8においては、チオフェンの系との比較を行うため、O3-MeOT(ClO
4
-)から調製された膜のX線解析パターンを例示している。また、表3には、
図8に示されるX線解析パターンから計算したEdge-onピーク位置、ラメラ結晶の層間距離、結晶子サイズを示す。
【0113】
【0114】
図8に示されるように、2θが5~10°の範囲は、基板に対して垂直に配向したエッジオンラメラ結晶(
図9(a)参照)のピーク、2θが23~25°の範囲は、基板に対して平行に配向したフェイスオンラメラ結晶(
図9(b)参照)のピークを示している。O3-MeOSe(ClO
4
-)から調製された膜は、O3-MeOT(ClO
4
-)から調製された膜と比べて、エッジオンラメラ結晶のピーク位置は略同じであるものの、回折強度が小さく、さらにフェイスオンラメラ結晶のピークが明確に現れている。また、O3-BuOSe(ClO
4
-)から調製された膜は、O3-MeOT(ClO
4
-)から調製された膜と比べて、エッジオンラメラ結晶の回折強度は略同じであるものの、ピーク位置が5.71°にずれており、さらにフェイスオンラメラ結晶のピークが明確に現れている。すなわち、セレノフェンの系では、チオフェンの系と比べて膜中におけるフェイスオンラメラ結晶の比率が高くなっている。また、O3-MeOSe(ClO
4
-)から調製された膜におけるラメラ結晶の層間距離は1.12nmであり、O3-BuOSe(ClO
4
-)から調製された膜におけるラメラ結晶の層間距離は1.54nmとなり、置換基の炭素鎖長の影響により層間距離が広がっているものと推測される。また、ドーパント(ClO
4
-,BF
4
-)の違いによる層間距離の変化は確認できなかった。
【0115】
なお、発明者らは、
図10に示されるように、O-3MeOT(ClO
4
-)について、化学酸化重合により得られるO-3MeOT(ClO
4
-)から調製された膜は、エッジオンラメラ結晶の比率が高く、強い金色調光沢を発現する一方で、定電位電解重合(電位印加1.1V(vs.SCE)、電気量Q=1C/cm
2)により得られるO-3MeOT(ClO
4
-)から調製された膜は、フェイスオンラメラ結晶の比率が非常に高くなり、光沢が略無い紫色を発現することを実験により確認している。
【0116】
このことから、O3-MeOSe(ClO4
-)から調製された膜およびO3-BuOSe(ClO4
-)から調製された膜における光沢発現の原理は、エッジオンラメラ結晶が基板に垂直な1nmスケールの層間距離を有する密な結晶構造をとることにより、膜に高い屈折率と消衰係数を与え、光を反射して光沢を発現するものと推測される。また、O3-MeOSe(ClO4
-)から調製された膜およびO3-BuOSe(ClO4
-)から調製された膜は、フチオフェンの系と比べてフェイスオンラメラ結晶の比率が高いことにより、赤紫色光沢~黒紫色光沢を発現するものと推測される。
【0117】
また、O3-MeOSe(ClO
4
-)、O3-BuOSe(ClO
4
-)と同様に、O3-MeOSe(BF
4
-)、O3-BuOSe(BF
4
-)から調製された膜も赤紫色光沢~黒紫色光沢を発現した。これらの金属光沢膜の写真図を
図11に、正反射スペクトルとX線回折パターンを
図12に示す。
【0118】
図11に示されるように、O3-MeOSe(BF
4
-)から調製された膜は、O3-MeOSe(ClO
4
-)から調製された膜のように赤紫色光沢を発現し、O3-BuOSe(BF
4
-)から調製された膜は、O3-BuOSe(ClO
4
-)から調製された膜のように黒紫色光沢を発現する。
【0119】
図12(a)に示されるように、O3-MeOSe(BF
4
-)から調製された膜の正反射スペクトルを測定したところ、紫色~青色の反射波長領域である400~450nmの範囲において5~6%の反射率を有しており、520~550nmの範囲で上昇し始め、840nm付近において最大反射率23.0%の金属光沢が発現した。また、O3-BuOSe(BF
4
-)から調製された膜の正反射スペクトルを測定したところ、紫色~青色の反射波長領域である400~450nmの範囲において反射率が2~3%と低く、520~550nmの範囲で上昇し始め、830nm付近において最大反射率22.0%の金属光沢が発現した。また、O3-MeOSe(BF
4
-)およびO3-BuOSe(BF
4
-)から調製された膜は、O3-MeOSe(ClO
4
-)およびO3-BuOSe(ClO
4
-)から調製された膜よりも正反射率が高くなっている。また、O3-MeOSe(BF
4
-)およびO3-BuOSe(BF
4
-)から調製された膜は、O3-MeOSe(ClO
4
-)およびO3-BuOSe(ClO
4
-)から調製された膜に比べて、低波長領域(橙色~赤色の反射波長領域である600~700nm)の反射率が高くなっている。
【0120】
また、
図12(b)に示されるように、O3-MeOSe(BF
4
-)から調製された膜は、O3-MeOSe(ClO
4
-)から調製された膜と比べて、エッジオンラメラ結晶のピーク位置は略同じであるものの、回折強度が大きく、フェイスオンラメラ結晶のピークは同程度に現れている。また、O3-BuOSe(BF
4
-)から調製された膜は、O3-BuOSe(ClO
4
-)から調製された膜と比べて、エッジオンラメラ結晶のピーク位置は略同じであるものの、回折強度が倍近く大きく、フェイスオンラメラ結晶のピークは同程度に現れている。
【0121】
これらのことから、同じモノマー種であっても、BF4
-がドープされたものから調整される膜は、ClO4
-がドープされたものから調整される膜よりも、強い光沢を示すことが確認された。
【0122】
また、
図13にO3-MeOSe(ClO
4
-)、O3-MeOSe(BF
4
-)、O3-BuOSe(ClO
4
-)、O3-BuOSe(BF
4
-)およびO3-MeOT(ClO
4
-)から調製された膜におけるエリプソメトリーの測定結果を示す。
図13に示されるように、セレノフェンの系では、一般的な有機物よりも高い屈折率と消衰係数が確認でき、反射率が大きくなることにより、強い光沢が発現しており、チオフェンの系と光沢発現の原理が同じであることを示唆している。
【0123】
なお、セレノフェンの系において、モノマー種を変更することにより、膜の色調を赤紫色光沢~黒紫色光沢に適宜調整することができる。発明者らは、例えば3-エトキシセレノフェン、3-ノルマルプロポキシセレノフェン、および3-イソブトキシセレノフェンの単独重合体から調整された膜が赤紫色光沢~黒紫色光沢を発現することを確認している。
そして、上記3-メトキシセレノフェンと3-メトキシチオフェンのアセトニトリル溶液に、上記過塩素酸鉄(III)・n水和物のアセトニトリル溶液を加えて混合し、1時間撹拌し、共重合を進行させた。
そして、メンブレンフィルター(ポア径0.1μm)を用いてフラスコ中の溶液および沈殿物を吸引・ろ過した。その際、ろ過器上の残渣はエタノールで十分に洗浄し、酸化剤を除去した。
その後、残渣を50℃、真空下で乾燥させ、3-メトキシセレノフェン/3-メトキシチオフェン共重合体(3MeOSe:3MeOT=1:1)の粉末を得た。以下、説明の便宜上、3-メトキシセレノフェン/3-メトキシチオフェン共重合体を「3MeOSe/3MeOT共重合体」と表記する。
ついで、上記塗料を、スポイトを用いてドロップキャスト法によりガラス基板上にそれぞれ100μl塗布した。この場合において、塗料は基板の反対側が透けて見えない程度に厚めに塗布した。
次に、ニトロメタンを溶媒とする塗料を塗布した基板を室温で40分間乾燥させた。その表面は塗料色である薄青色から光沢の無い赤紫色掛かった茶色へと変化した。また、炭酸プロピレンを溶媒とする塗料を塗布した基板を60℃で4時間温風乾燥させた。その表面は塗料色である薄青色から金属光沢を持つ赤紫色掛かった金色調へと変化した。
ついで、上記塗料を、スポイトを用いてドロップキャスト法によりガラス基板上にそれぞれ100μl塗布した。この場合において、塗料は基板の反対側が透けて見えない程度に厚めに塗布した。
次に、ニトロメタンを溶媒とする塗料を塗布した基板を室温で40分間乾燥させた。その表面は塗料色である薄青色から光沢の無い赤紫色掛かった黄色へと変化した。また、炭酸プロピレンを溶媒とする塗料を塗布した基板を60℃で4時間温風乾燥させた。その表面は塗料色である薄青色から金属光沢を持つ赤紫色掛かった金色調へと変化した。
また、理論値ではあるが、3MeOSe/3MeOT共重合体から調整された膜および3MeOSe/3MeOT物理混合体から調整された膜のドープ率、重合度を算出した結果、膜厚、表面粗さ、電気伝導度の測定結果を表5に示す。表5においては、O3-MeOSe(ClO4
-)から調製された膜、O3-MeOT(ClO4
-)から調製された膜のドープ率、重合度を算出した結果、膜厚、表面粗さ、電気伝導度の測定結果を例示している。
また、3MeOSe/3MeOT共重合体から調製された膜と、3MeOSe/3MeOT物理混合体から調製された膜を比較すると、3MeOSe/3MeOT物理混合体から調整された膜は、O3-MeOT(ClO4
-)から調製された膜の正反射スペクトルに近い概形を示しているが、3MeOSe/3MeOT共重合体から調製された膜は、700nm付近に正反射スペクトルの鋭いピークが出現している。
以上、これら実施形態および実施例により、赤紫色または黒紫色掛かった新たな色調の金属光沢を発現する膜およびその膜を生成する塗料およびそれらに用いることができる新規な共重合体を提供することができる。
なお、塗料に含まれるセレノフェン単独重合体と溶媒、セレノフェン誘導体単独重合体と溶媒、またはセレノフェン共重合体と溶媒は、いわゆる「原液」であって、「塗料中間体」と言い換えることもでき、その中でもセレノフェン単独重合体、セレノフェン誘導体単独重合体またはセレノフェン共重合体は、「色材」であって、「染料」、「着色剤」、「金属光沢発現物質」等と言い換えることができる。なお、塗料には、この「原液」以外に、一般に塗料を構成する際に用いられる溶剤や添加剤が含まれてもよいことは言うまでもない。