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特開2024-117299組織再生用組成物の製造方法および製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117299
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】組織再生用組成物の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/38 20060101AFI20240822BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20240822BHJP
   A61K 35/35 20150101ALI20240822BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20240822BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20240822BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20240822BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
A61L27/38 100
A61K35/28
A61K35/35
A61P21/00
A61P1/00
A61L27/36 100
A61L27/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023324
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】514090865
【氏名又は名称】株式会社アニマルステムセル
(71)【出願人】
【識別番号】510097747
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立がん研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100179132
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 知生
(72)【発明者】
【氏名】窪島 肇
(72)【発明者】
【氏名】高木 惣一
(72)【発明者】
【氏名】増田 均
(72)【発明者】
【氏名】西澤 祐吏
【テーマコード(参考)】
4C081
4C087
【Fターム(参考)】
4C081AB18
4C081AC06
4C081BA12
4C081CD34
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB44
4C087BB63
4C087BB64
4C087MA01
4C087MA67
4C087NA14
4C087ZA66
4C087ZA94
(57)【要約】
【課題】低侵襲での再生医療を可能にする組織再生用組成物を提供する。
【解決手段】本発明に係る組織再生用組成物の製造方法は、人体から採取された第1の脂肪組織から脂肪組織由来幹細胞を抽出する工程と、脂肪組織由来幹細胞を培養する工程と、培養された脂肪組織由来幹細胞と、人体から新たに採取された第2の脂肪組織とを混合する工程とを備える。また、第1の脂肪組織および第2の脂肪組織の重量は、5グラム以上30グラム以下であってもよい。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体から採取された第1の脂肪組織から脂肪組織由来幹細胞を抽出する工程と、
前記脂肪組織由来幹細胞を培養する工程と、
前記培養された脂肪組織由来幹細胞と、前記人体から新たに採取された第2の脂肪組織とを混合する工程と
を備える組織再生用組成物の製造方法。
【請求項2】
前記第1の脂肪組織および前記第2の脂肪組織の重量が、5グラム以上30グラム以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の組織再生用組成物の製造方法。
【請求項3】
前記第2の脂肪組織が、18Gの細管を用いて採取される
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の組織再生用組成物の製造方法。
【請求項4】
前記組織再生用組成物が、便失禁治療用の組織再生用組成物である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の組織再生用組成物の製造方法。
【請求項5】
人体から採取された第1の脂肪組織から生成される脂肪組織由来幹細胞が導入される幹細胞導入部と、
前記人体から新たに採取された第2の脂肪組織が導入される脂肪組織導入部と、
前記幹細胞導入部から導入される前記脂肪組織由来幹細胞と、前記脂肪組織導入部から導入される前記脂肪組織とを撹拌して混合する撹拌部と
を備える組織再生用組成物の製造装置。
【請求項6】
前記第1の脂肪組織から前記脂肪組織由来幹細胞を抽出する抽出部と、
前記抽出部から導入される前記脂肪組織由来幹細胞を培養する培養部と
を備える請求項5に記載の組織再生用組成物の製造装置。
【請求項7】
前記幹細胞導入部に接続する第1の重量測定部と、
前記脂肪組織導入部に接続する第2の重量測定部と
を備える請求項5又は請求項6に記載の組織再生用組成物の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生医療に用いる組織再生用組成物の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
骨髄由来の間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell:MSC)を用いた再生医療が注目されている。MSCは、骨髄組織を構築する細胞群の1つであり、脂肪細胞、骨形成細胞、軟骨形成細胞、そして筋形成細胞に分化する能力を有している。そこで、骨盤底機能障害の治療のための移植、乳癌術後の乳腺への移植など人体への移植に適用されることが期待されている。
【0003】
例えば、骨盤底筋は、骨盤の底(恥骨、尾骨および坐骨の間)に位置する筋肉であり、骨盤底筋の機能が低下すると、骨盤底機能障害が生じる。
【0004】
骨盤底機能障害として、例えば、尿失禁は、尿道括約筋機能の障害により生じる。女性では妊娠・出産・加齢による骨盤底筋群の脆弱化や婦人科的手術による括約筋障害に起因する場合がある。また、男性では前立腺肥大症、前立腺癌の手術における括約筋障害に起因する場合がある。
【0005】
また、便失禁は、外肛門括約筋や内肛門括約筋の収縮力低下により生じる。外肛門括約筋の機能低下は、加齢に伴う筋力低下の他に、女性では経腟分娩時の会陰裂傷による肛門括約筋断裂に起因する場合がある。
【0006】
内肛門括約筋の機能低下は加齢に伴って生じることが多いが、経腟分娩に伴う会陰裂傷による内肛門括約筋の損傷に起因する場合や直腸切除術などの直腸の手術後に生じる場合がある。
【0007】
これらの骨盤底機能障害は、日常生活の多くの領域で支障を及ぼし、生活の質(Quality of Life:QOL)を著しく障害する疾患であるので、低侵襲で治療効果の高い治療法が望まれている。
【0008】
しかしながら、MSCを用いた再生医療において、MSCとして自家の骨髄組織を採取することには、患者の負担が大きく、採取できる細胞数が少ないという問題がある。
【0009】
そこで、骨髄組織の代替細胞源として、大量にかつ局所麻酔下で患者の負担が少ない方法で採取できる組織・細胞が望まれる。
【0010】
この代替細胞源として、ヒト脂肪組織から採取される幹細胞を用いる可能性が示されている。吸引脂肪法で吸引された脂肪組織を分離して得られるPLA(processed lipoaspirate)細胞は、それぞれ特定の分化因子存在下の培養条件で、脂肪形成細胞、軟骨形成細胞、筋形成細胞、骨形成細胞に分化する。
【0011】
また、脂肪組織由来幹細胞(Adipose Derived Stem Cell、ASC)が血管新生促進により脂肪組織の生着に寄与することが報告されている(非特許文献1)。
【0012】
以上のように、皮下脂肪組織内に存在する脂肪組織由来幹細胞(ASC)は、骨髄由来幹細胞に比べて、多くの細胞を容易に採取、移植でき、安全性が高いので、再生医療で用いられる幹細胞として有望である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Zhu M, et al.Supplementation of fat grafts with adipose-derived regenerative cells improves long-term graft retention. Plast Surg. 2010;64(2):222-8.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、ASCに必要とされる多量(300g程度)の脂肪組織を全身麻酔下で採取するので、高侵襲の治療となり、患者負担が大きかった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述したような課題を解決するために、本発明に係る組織再生用組成物の製造方法は、人体から採取された第1の脂肪組織から脂肪組織由来幹細胞を抽出する工程と、前記脂肪組織由来幹細胞を培養する工程と、前記培養された脂肪組織由来幹細胞と、前記人体から新たに採取された第2の脂肪組織とを混合する工程とを備える。
【0016】
また、本発明に係る組織再生用組成物の製造方法は、前記第1の脂肪組織および前記第2の脂肪組織の重量が、5グラム以上30グラム以下であってもよい。
【0017】
また、本発明に係る組織再生用組成物の製造方法は、前記第2の脂肪組織が、18Gの細管を用いて採取されてもよい。
【0018】
また、本発明に係る組織再生用組成物の製造方法は、前記組織再生用組成物が、肛門周辺に注入される組織再生用組成物であってもよい。
【0019】
また、本発明に係る組織再生用組成物の製造装置は、人体から採取された第1の脂肪組織から生成される脂肪組織由来幹細胞が導入される幹細胞導入部と、前記人体から新たに採取された第2の脂肪組織が導入される脂肪組織導入部と、前記幹細胞導入部から導入される前記脂肪組織由来幹細胞と、前記脂肪組織導入部から導入される前記脂肪組織とを撹拌する撹拌部とを備える。
【0020】
また、本発明に係る組織再生用組成物の製造装置は、前記第1の脂肪組織から前記脂肪組織由来幹細胞を抽出する抽出部と、前記抽出部から導入される前記脂肪組織由来幹細胞を培養する培養部とを備えてもよい。
【0021】
また、本発明に係る組織再生用組成物の製造装置は、前記幹細胞導入部に接続する第1の重量測定部と、前記脂肪組織導入部に接続する第2の重量測定部とを備えてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、低侵襲での再生医療を可能にする組織再生用組成物の製造方法および製造装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の第1の実施の形態に係る組織再生用組成物の製造方法を説明するためのフローチャート図である。
図2図2は、本発明の第1の実施の形態に係る組織再生用組成物の製造装置の構成を示すブロック図である。
図3図3は、本発明の第1の実施の形態に係る組織再生用組成物の製造方法の効果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<第1の実施の形態>
本発明の第1の形態に係る組織再生用組成物の製造方法の一例を、図1を参照して説明する。
【0025】
<組織再生用組成物の製造方法>
本実施の形態に係る組織再生用組成物の製造方法の一例を、図1を参照して説明する。
【0026】
あらかじめ、人体(患者、被験者)より脂肪組織(第1の脂肪組織)を採取する。例えば、下腹部(または大腿部、腹部など)で3mm程度の小切開を行った後、18Gの注射針を装着したシリンジで、10g程度の脂肪組織を採取する。または、吸引部位である大腿部または腹部に1cm程度の皮膚切開を数カ所行い、専用の管(吸引カニューレ)を用いて脂肪組織を吸引する。または、腹部もしくは大腿部を1cm程度の皮膚切開を行い、皮下脂肪を採取する。ここで、採取される脂肪組織は5g以上であることが望ましい。さらに、30g以下であることが望ましい。
【0027】
初めに、採取された脂肪組織(第1の脂肪組織)より、細胞分離装置(例えば、「セルーション遠心分離器」、サイトリ・セラピューティクス株式会社製)を用いて、脂肪組織由来幹細胞を抽出する(工程S1)。ここで、0.2g程度の脂肪組織由来幹細胞が抽出される。抽出処理は、コラゲナーゼ、トリプシンもしくはディスパーゼなどの酵素を単独又は組み合わせで使用し、脂肪組織由来幹細胞を分離する。ここで、採取された脂肪組織の全てを用いてもよく、その一部を用いてもよい。
【0028】
次に、抽出された脂肪組織由来幹細胞(0.2g程度)を培養して5.0mL程度に増加させる(工程S2)。ここで、培養は一般的な方法で行うことができる。例えば、抽出された脂肪組織由来幹細胞に培地を添加し、細胞濃度が4×10cells/cmになるように細胞懸濁液を調製し、培養容器に播種する。播種後、インキュベーター内で、37℃、5%CO環境下で培養する。ここで、細胞濃度は、細胞をシリンジで吸引してシリンジの目盛りを視認することにより測定される。また、培地には、一般的に脂肪組織由来幹細胞の培養に用いられる培地を用いればよく、ヒト胚性幹細胞用培地や脂肪前駆細胞培養用培地等を用いればよい。
【0029】
次に、第1の脂肪組織を採取した人体(患者、被験者)と同一の人体より、新たに10g程度の脂肪組織(第2の脂肪組織)を、18Gの注射針を装着したシリンジで吸引して採取する。例えば、下腹部(または大腿部、腹部など)で3mm程度の小切開を行った後、18Gの注射針を装着したシリンジで、10g程度の脂肪組織を採取する。ここで、採取される脂肪組織は5g以上であることが望ましい。さらに、30g以下であることが望ましい。
【0030】
ここで、新たな脂肪組織(第2の脂肪組織)の採取には、18G(内径0.90mm)程度のサイズの注射針やカニューレなどを用いることが望ましい。第2の脂肪組織の採取に細い注射針を用いる場合、脂肪組織の吸引が困難である。また、太い注射針を用いる場合、採取される脂肪組織は大きすぎるため、通常注入に用いる18G程度の注射針を通過できない。その結果、太い注射針で採取された脂肪組織を人体の対象部位に注入することが困難である。
【0031】
また、脂肪組織は硬くて繊維を多く含むので、大きい脂肪組織を採取した後に細分化することが困難である。
【0032】
このシリンジ内の採取された脂肪組織(第2の脂肪組織)を、乳酸リンゲル液で洗浄した後、脂肪組織の量を8.0mLにする。
【0033】
最後に、このシリンジ内の8.0mLの脂肪組織(第2の脂肪組織)に、培養された脂肪組織由来幹細胞(1.6~2.0mL)を注入して撹拌、混合して、脂肪組織由来幹細胞と脂肪組織との混合液すなわち組織再生用組成物(10mL程度)を製造する(工程S3)。このとき、できるだけ早く、細胞に圧力をかけないよう緩やかかつ十分に攪拌する。ここで、脂肪組織由来幹細胞は1×10~2×10Cells程度、脂肪組織は1~300mL程度であり、温度は4~10℃程度である。また、細胞量および脂肪組織の量は、細胞および脂肪組織それぞれをシリンジで吸引して、シリンジの目盛りを視認することにより測定される。
【0034】
このように、脂肪組織由来幹細胞と脂肪組織との混合液すなわち組織再生用組成物が、新たな脂肪組織(第2の脂肪組織)の採取に用いた18Gの注射針を装着したシリンジ内に収容されて製造される。
【0035】
以上のように、本実施の形態に係る組織再生用組成物を製造する。
【0036】
<組織再生用組成物の移植方法>
上述のように製造された、本実施の形態に係る組織再生用組成物を、脂肪組織由来幹細胞と脂肪組織と混合に用いた18Gの注射針を装着したシリンジをそのまま用いて、対象部位(例えば、尿道や肛門)の周辺に注入(投与)する。
【0037】
例えば、尿失禁の改善においては、組織再生用組成物を尿道括約筋部粘膜下に2箇所又は数箇所、注入する。また、便失禁の改善においては、外肛門括約筋又は内肛門括約筋に2箇所又は数箇所、注入する。このように、組織再生用組成物を移植する。
【0038】
ここで、組織再生用組成物を尿道括約筋部粘膜下および外肛門括約筋又は内肛門括約筋の微小箇所に注入するために、18G(内径0.90mm)程度の注射針やカニューレ等、又は18Gより小さいサイズ、例えば19G(内径0.70mm)の注射針やカニューレ等が用いられる。
【0039】
このように、新たな脂肪組織の採取に用いた18Gの注射針を装着したシリンジをそのまま対象部位への注入(投与)に用いるので、新たに採取された脂肪組織を外気に接触させることなく清潔性を確保して移植できる。
【0040】
本実施の形態では、脂肪組織由来幹細胞と脂肪組織とを混合して組織再生用組成物として対象部位の周辺に注入(投与)する例を示したが、これに限らない。脂肪組織由来幹細胞と脂肪組織それぞれを対象部位の周辺に注入してもよい。このとき、脂肪組織を注入(投与)後、脂肪組織由来幹細胞を注入してもよい。また、脂肪組織由来幹細胞を注入後、脂肪組織を注入してもよい。また、脂肪組織由来幹細胞のみを注入してもよく、脂肪組織のみを注入してもよい。
【0041】
<組織再生用組成物の製造装置>
本実施の形態に係る組織再生用組成物の製造装置の一例を、図2を参照して説明する。
【0042】
組織再生用組成物の製造装置10は、図2に示すように、第1の脂肪組織導入部11と、抽出部12と、培養部13と、組成物生成部14とを備える。
【0043】
第1の脂肪組織導入部11には、人体(患者、被験者)より採取された脂肪組織(第1の脂肪組織)が導入される。
【0044】
抽出部12は、通常の細胞分離装置と同様の構成を有し、第1の脂肪組織導入部11に導入された脂肪組織から脂肪組織由来幹細胞を抽出する。
【0045】
培養部13は、培養室131と、ガス導入部132と、培養温度制御部133とを備え、抽出された脂肪組織由来幹細胞を培養する。例えば、培養室131内の培養容器に、脂肪組織由来幹細胞に脂肪前駆細胞培養用培地が添加され調整された細胞懸濁液が播種される。ガス導入部132で、気体とCOとが混合され、5%COガスが培養室131に導入される。また、培養温度制御部133が培養室131内の温度を所定の温度(例えば、37℃)に制御する。
【0046】
組成物生成部14は、幹細胞導入部141と、第2の脂肪組織導入部142と、それぞれに接続する重量測定部143、144と、撹拌部145と、撹拌部に接続する撹拌制御部146と撹拌温度制御部147と、回収部148と、細胞送液管149とを備える。
【0047】
組成物生成部14において、幹細胞導入部141に、培養された脂肪組織由来幹細胞が導入される。
【0048】
第2の脂肪組織導入部142に、第1の脂肪組織を採取した人体(患者、被験者)と同一の人体より新たに採取された脂肪組織(第2の脂肪組織)が導入される。
【0049】
重量測定部143は、導入された幹細胞の重量を測定する。ここで、導入された幹細胞の重量が所定の重量、例えば1~10g程度のときに、幹細胞を撹拌部145に送液する。
【0050】
重量測定部144は、導入された脂肪組織の重量を測定する。ここで、導入された脂肪組織の重量が所定の重量、例えば5~30g程度のときに、脂肪組織を撹拌部145に送液する。
【0051】
撹拌部145は、幹細胞と脂肪組織とを撹拌して混合する。ここで、撹拌制御部146により撹拌時の回転又は振動が制御され、撹拌温度制御部147により撹拌時の温度が制御される。
【0052】
回収部148に、製造された組織再生用組成物が排出され、回収される。
【0053】
このとき、回収された組織再生用組成物を、外気に触れない空間(例えば、真空ポンプで排気された空間や不活性ガスが充填された空間など)で、注入に用いるシリンジ等に収容してもよい。これにより、清潔性を確保して、組織再生用組成物を注入に用いるシリンジ等に収容できる。
【0054】
細胞送液管149は、幹細胞導入部141と、第2の脂肪組織導入部142と、それぞれに接続する重量測定部143、144と、撹拌部145と、回収部148とを接続し、細胞送液管149を介して、幹細胞、脂肪組織および組織再生用組成物が送液される。幹細胞、脂肪組織および組織再生用組成物の送液にポンプ(図示せず)を用いてもよい。
【0055】
また、抽出部12から培養部13への脂肪組織由来幹細胞の移動は自動であっても手動であってもよい。
【0056】
また、幹細胞導入部141への脂肪組織由来幹細胞の導入は自動であっても手動であってもよい。
【0057】
本実施の形態に係る組織再生用組成物の製造装置は、組成物生成部のみにより構成されてもよく、あらかじめ抽出され培養された脂肪組織由来幹細胞と新たに採取された脂肪組織をそれぞれ、幹細胞導入部と第2の脂肪組織導入部に導入してもよい。
【0058】
また、重量測定部は配置されなくてもよく、あらかじめ重量を測定して調整して脂肪組織由来幹細胞と脂肪組織を導入してもよい。
【0059】
上述のように、本実施の形態に係る製造装置で製造された組織再生用組成物は、対象部位(例えば、尿道や肛門)の周辺に注入され、組織再生用組成物を移植される。
【0060】
<効果>
本発明の第1の形態に係る組織再生用組成物の効果を説明する。
【0061】
初めに、脂肪組織由来幹細胞(ASC)の尿失禁に対する効果を、以下に説明する。詳細には、腹圧性尿失禁モデルである、弾性繊維の重合が阻害されたLysyloxidase like-1ノックアウト(LOXL1-KO)ラットの尿道括約筋周辺に脂肪組織由来幹細胞(ASC)を移植して、その尿禁制効果について評価した。
【0062】
5週齢のSDラット鼠径部皮下脂肪組織よりASCを抽出して37℃、5%CO環境下で拡大培養した後、PKH26を用いて標識を行い、LOXL1-KOラットの尿道周辺に1.0×10個の標識ASCを移植した(移植群)。
【0063】
比較のために、対照群としてSDラットにPBS投与を投与して同様に評価した(PBS投与群)。また、偽手術群としてSDラットについて同様に評価した。
【0064】
それぞれの群で5頭を用いて移植2、4週間後に腹圧下尿漏出圧(Abdominal Leak Point Pressure、ALPP)を測定し、組織を摘出後、組織学的観察を施行した。
【0065】
その結果、対照群のALPPは、移植2、4週間後とも偽手術群と比べて有意に低下した(p<0.01)。また、移植群のALPPは偽手術群と同程度であり、対照群と比べて有意に上昇した(p<0.01)。各群ともに移植2週後と4週後におけるALPPの有意な変動は認められなかった。
【0066】
また、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色評価により、移植群で尿道壁の有意な肥厚や内腔の狭小化は認められなかった。一方、免疫染色評価により、PKH26とα-SMAの二重陽性細胞が認められた。
【0067】
このように、ASCを尿道周辺に移植することにより尿漏出量を改善でき、腹圧性尿失禁に対して効果を奏する。
【0068】
また、この効果は、尿道の物理的な閉塞による可能性があり、他の可能性として部分的に移植したASCが平滑筋に分化して尿道抵抗を増大させることも考えられる。
【0069】
次に、本実施の形態に係る組織再生用組成物の便失禁に対する効果を、以下に説明する。
【0070】
詳細には、本実施の形態に係る組織再生用組成物の効果を実証する基礎実験として、機械的肛門括約筋損傷モデルラットの肛門周辺に脂肪組織由来幹細胞(ASC)と脂肪組織を注入して、その便禁制効果について評価した。ここで、肛門周辺にASCと脂肪組織を注入することは、肛門周辺に本実施の形態に係る組織再生用組成物を移植することと同様の効果を奏する。
【0071】
5週齢のSDラット鼠径部皮下脂肪組織よりASCを抽出して37℃、5%CO環境下で拡大培養した後、機械的肛門括約筋損傷モデルラットの肛門周辺(3時、6時、9時、12時の4部位)にASCを0.1mLずつ注入し、脂肪組織を0.1mLずつ1回注入した(ASCF-S群)。また、同様に注入(移植)を2回行った(ASCF-D群)。
【0072】
また、比較のために、同様に、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を注入した(PBS群)。また、同様に、ASCを0.1mLずつ1回注入(ASC-S群)、又は2回注入(ASC-D群)した。
【0073】
それぞれの群で5頭を用いて移植2週間後に肛門内圧曲線(Anal pressure profile、APP)を、以下のように測定した。直径1.5mmの先端が盲端であり、先端から6mmの箇所に径1mmの側孔を有する肛門内圧曲線記録カテーテルを用いた。このカテーテルをウレタン麻酔下で、肛門から直腸内に挿入した。次に、カテーテルをシリンジポンプに設置したシリンジの外筒に固定した。次に、カテーテル内に生理食塩水を12mL/hで持続注入しながら、カテーテルをシリンジポンプの速度(約25mm/min)で引き抜き、APPを測定した。
【0074】
図3に、各群における移植2週間後のAPP結果を示す。比較のために、未処置のSDラットに対する測定結果も示す。
【0075】
未処置のラットの肛門内圧は11.5cmHO程度である。肛門内圧は、PBS群では4.0cmHOであり、ASC-S群およびASC-D群では4.0~4.5cmHO程度である。このように、ASCのみを注入する場合、肛門内圧の増加は観測されない。
【0076】
一方、肛門内圧は、ASCF-S群では5.0cmHO程度であり、ASCF-D群では8.0cmHO以上に増加する。このように、ASCと脂肪細胞を注入することにより、肛門内圧の増加が観測される。
【0077】
したがって、肛門周辺に脂肪組織由来幹細胞(ASC)と脂肪組織を注入することにより便失禁を抑制できる。このことは、本実施の形態に係る組織再生用組成物が便禁制効果を奏することを示す。
【0078】
本実施の形態に係る組織再生用組成物によれば、以下の効果を奏する。
【0079】
1)本発明の組織再生用組成物が生着足場として機能することにより、脂肪組織由来幹細胞が体内で分解、吸収されることなく平滑筋や外肛門括約筋、内肛門括約筋に分化して生着でき、生着率を向上できる。
【0080】
2)同様に、本発明の組織再生用組成物を生着足場として、脂肪組織の生着率を向上できる。
【0081】
3)本発明の組織再生用組成物に含まれる脂肪組織により、細胞移植部位の自家組織のボリュームを増大できる(バルキング効果)。
【0082】
4)移植された脂肪組織由来幹細胞が平滑筋や外肛門括約筋、内肛門括約筋に分化・生着することと、周辺組織の組織増生を促進することにより、筋収縮圧を上昇できる。
【0083】
本実施の形態に係る組織再生用組成物によれば、人体から採取する脂肪組織を低減できるので、局所麻酔下で少量(5~10g)の脂肪組織を採取する低侵襲の治療を実現できる。その結果、患者の負担を低減でき、尿失禁および便失禁などの骨盤底機能障害を改善できる。
【0084】
また、従来の組織再生用組成物を用いる移植方法では、組織再生用組成物を1回のみ投与できる。一方、本実施の形態の係る組織再生用組成物の製造方法では、培養で細胞を増やすことができるので、複数回の投与分の細胞を確保できる。そこで、2回目以降の投与分の細胞をバンキングして保存して、必要に応じて使用(投与)できる。このように、本実施の形態の係る組織再生用組成物によれば、移植において、組織再生用組成物を複数回投与できる。
【0085】
本発明の実施の形態では、脂肪組織等の採取に注射針を用いる例を示したが、これに限らず、カニューレや他の医療機器に用いられる針などの細管を用いてもよい。
【0086】
本発明の実施の形態では、組織再生用組成物を尿道周辺や肛門周辺への移植に適用する例を示したが、これに限らず、他の骨盤底筋、乳癌術後の乳腺、歯茎、麻痺した声帯、関節、脊椎等への移植に適用してもよい。
【0087】
本発明の実施の形態では、組織再生用組成物の製造方法および製造装置の構成などにおいて、各構成部の構造、寸法、材料等の一例を示したが、これに限らない。組織再生用組成物の製造方法および製造装置の機能を発揮し効果を奏するものであればよい。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、組織再生用組成物の製造方法および製造装置に関するものであって、尿失禁や便失禁を抑制するための移植に用いる組織再生用組成物や医療機器に適用できる。
【符号の説明】
【0089】
10 組織再生用組成物の製造装置
11 第1の脂肪組織導入部
12 抽出部
13 培養部
131 培養室
132 ガス導入部
133 培養温度制御部
14 組成物生成部
141 幹細胞導入部
142 第2の脂肪組織導入部
143、144 重量測定部
145 撹拌部
146 撹拌制御部
147 撹拌温度制御部
148 回収部
149 細胞送液管
図1
図2
図3