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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117326
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】状態監視システム
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20240822BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023364
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】下山 陽太
(72)【発明者】
【氏名】長谷場 隆
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AD18
2G024BA27
2G024CA04
2G024CA09
2G024CA13
2G024CA16
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA14
2G024FA15
(57)【要約】
【課題】計算リソースの限られた安価・小型・省電力であるデバイスとして実装可能な、比較的少ない計算量で監視対象機器の状態監視及び診断を行える状態監視システムを提供する。
【解決手段】計測データから処理後データを算出する計測データ処理部を備える状態監視システム10であって、計測データ処理部11は、計測データである時系列に沿った時系列データを時間方向に細分割する細分割ステップと、時系列データを細分割した細分割データごとに高速フーリエ変換によりスペクトルデータを算出するFFTステップと、スペクトルデータから一部の帯域の部分スペクトルを抽出してこの部分スペクトルの統計量を算出する統計ステップと、統計量を元となった細分割データの時系列順に並べて前記処理後データとする統合ステップと、を実行する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測データから処理後データを算出する計測データ処理部を備える状態監視システムであって、
前記計測データ処理部は、
前記計測データである、または前記計測データから算出された第一加工データである、時系列に沿った時系列データを、時間方向に細分割する細分割ステップと、
前記時系列データを細分割した細分割データごとに、高速フーリエ変換によりスペクトルデータを算出するFFTステップと、
前記スペクトルデータから、一部の帯域の部分スペクトルを抽出して、この部分スペクトルの統計量を算出する統計ステップと、
前記統計量を、元となった前記細分割データの時系列順に並べて、前記処理後データとする統合ステップと、
を実行する、状態監視システム。
【請求項2】
前記計測データとして、監視対象機器の躍度、角躍度、加速度、角加速度、変位、角変位、位置、位相、圧力である物理量のいずれかの時系列に沿ったデータを用いる、請求項1に記載の状態監視システム。
【請求項3】
前記処理後データから高速フーリエ変換により第二スペクトルデータを算出する第二FFTステップと、
前記第二スペクトルデータから、統計値または判断値である判断結果を算出する判断ステップと、
を実行する診断部をさらに備える、
請求項1に記載の状態監視システム。
【請求項4】
前記統計ステップにおいて、前記抽出を行う前記一部の帯域を変更可能とし、前記一部の帯域が異なる複数の処理後データを算出する、
請求項1から3のいずれかに記載の状態監視システム。
【請求項5】
前記細分割ステップにおいて、前記細分割データのデータ点数を予め設定した点数とするか、または前記細分割データの細分割数を予め定めた分割数とする、
請求項1から3のいずれかに記載の状態監視システム。
【請求項6】
前記計測データ処理部が前記計測データのすべてを取得する前に前記細分割ステップを開始するか、又は前記計測データ処理部が前記計測データのすべてを取得した後に前記細分割ステップを開始する、請求項1から3のいずれかに記載の状態監視システム。
【請求項7】
前記細分割ステップにおいて、個々の前記細分割データが、時系列上前後に隣接する他の前記細分割データと、所定の割合分だけデータが重複するように分割するか、又は所定の割合分だけ離れており前記時系列データの一部が破棄されるように分割する、請求項1から3のいずれかに記載の状態監視システム。
【請求項8】
前記スペクトルデータが、振幅スペクトル、パワースペクトル、パワー密度スペクトルのいずれかである、請求項1から3のいずれかに記載の状態監視システム。
【請求項9】
前記統計量が、前記部分スペクトルの最大値、合計、平均、二乗和平均平方根のいずれかである、請求項1から3のいずれかに記載の状態監視システム。
【請求項10】
前記診断部の前記判断ステップにおける前記統計値が前記第二スペクトルデータの最大値、合計、平均、二乗和平均平方根のいずれかである、請求項3に記載の状態監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、機械部品等の状態を監視するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
機械の異常を検知したり診断を行ったりするために、音や振動を計測してその結果を解析することが一般に行われている。
【0003】
特許文献1には、機械設備の異常診断装置として、計測した波形に対して、エンベロープ分析及び高速フーリエ変換(以下、「FFT」と略記することがある。)による周波数分析に基づく診断用スペクトルデータの周波数成分を用いて、異常の有無と異常部位の判定を行う発明が提案されている。
【0004】
特許文献2には、転がり軸受の損傷診断方法として、軸受の振動加速度を時系列に対して取得して、アナログ領域でバンドパスフィルタ処理とエンベロープ処理とを行った後にA/D(アナログ/デジタル)変換し、変換後のデータに対してFFTを行う手法が提案されている。FFTした結果のピーク周波数と特徴周波数とを比較して、転がり軸受の損傷判断を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-285875号公報
【特許文献2】特開平9-113416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、検知や診断を行う対象の物品が多数であったり小型であったりすると、その物品の状態監視や診断のために割ける計算リソースにも制限がある。診断を行うデバイスにも安価、小型、省電力であることが求められると、計算量が多くなる状態監視、診断方法を用いることが難しい。
【0007】
特許文献1に記載の異常診断装置では、計測した波形はデータ点数が多いため、エンベロープ処理に伴うフィルタ処理や、周波数分析のためのFFT処理において、要求される計算リソースも膨大なものとなってしまう。
【0008】
特許文献2に記載の損傷診断方法では、アナログ領域で行うバンドパスフィルタ処理やエンベロープ処理には、オペアンプや高精度な受動素子が多く必要となるため、方法を実行する装置のコストが上がる上、ノイズが重畳し易くなってしまう。さらには、消費電力も大きい。また、FFT処理も必要とする計算リソースが多くなる傾向にあった。
【0009】
上述の背景に鑑み、この発明が解決しようとする課題は、計算リソースの限られた安価・小型・省電力であるデバイスとして実装可能な、比較的少ない計算量で監視対象機器の状態監視及び診断を行える状態監視システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、この発明は、
計測データから処理後データを算出する計測データ処理部を備える状態監視システムであって、
前記計測データ処理部は、
前記計測データである、または前記計測データから算出された第一加工データである、時系列に沿った時系列データを、時間方向に細分割する細分割ステップと、
前記時系列データを細分割した細分割データごとに、高速フーリエ変換によりスペクトルデータを算出するFFTステップと、
前記スペクトルデータから、一部の帯域の部分スペクトルを抽出して、この部分スペクトルの統計量を算出する統計ステップと、
前記統計量を、元となった前記細分割データの時系列順に並べて、前記処理後データとする統合ステップと、
を実行する、状態監視システムという第一の構成を採用した。
【0011】
すなわち、時間方向に細分割した細分割データごとにスペクトルデータの算出、一部の帯域の抽出、統計量の算出を行った上で、その統計量を最後に時系列順に並べるが、負荷の大きい処理をいずれも細分割して処理点数を少なくして行うことができるため、時系列データをそのまま用いるよりも小さな計算リソースで処理後データを得ることができる。この細分割は少なくとも10分割以上、好ましくは100分割以上である。また、細分割した細分割データのスペクトルから特定の帯域を抽出するので、スペクトルの周波数分解能が低くなりすぎないように、個々の細分割した細分割データのデータ点数を確保する必要がある。具体的には、個々の細分割した細分割データが有するデータ点数を、少なくとも10点以上、好ましくは100点以上確保する。
【0012】
この発明にかかる状態監視システムは、
前記計測データとして、監視対象機器の、監視対象機器の躍度、角躍度、加速度、角加速度、変位、角変位、位置、位相、圧力である物理量のいずれかの時系列に沿ったデータを用いる第二の構成を採用することができる。
【0013】
この発明にかかる状態監視システムは、上記の構成に加えてさらに、
前記処理後データから高速フーリエ変換により第二スペクトルデータを算出する第二FFTステップと、
前記第二スペクトルデータから、統計値または判断値である判断結果を算出する判断ステップと、
を実行する診断部を備える、第三の構成を採用することができる。
【0014】
また、この発明にかかる状態監視システムは、上記第一から第三のいずれかの構成において、
前記抽出を行う前記一部の帯域を変更可能とし、前記一部の帯域が異なる複数の処理後データを算出する第四の構成を採用することができる。
【0015】
さらに、この発明にかかる状態監視システムは、上記第一から第四のいずれかの構成において、
前記細分割ステップにおいて、前記細分割データのデータ点数を予め設定したデータ点数とするか、または前記細分割データの細分割数を予め設定した分割数とする、第五の構成を採用することができる。
【0016】
さらに、この発明にかかる状態監視システムは、上記第一から第五のいずれかの構成において、
前記計測データ処理部が前記計測データのすべてを取得する前に前記細分割ステップを開始する、第六の構成を採用することができる。
【0017】
さらに、この発明にかかる状態監視システムは、上記第一から第五のいずれかの構成において、
前記計測データ処理部が前記計測データのすべてを取得した後に前記細分割ステップを開始する、第七の構成を採用することができる。
【0018】
さらに、この発明に掛かる状態監視システムは、上記第一から第七のいずれかの構成において、
個々の前記細分割データが、時系列上前後に隣接する他の前記細分割データと、所定の割合分だけデータが重複するように分割する、第八の構成を採用することができる。
【0019】
さらに、この発明に掛かる状態監視システムは、上記第一から第八のいずれかの構成において、
前記スペクトルデータが、振幅スペクトル、パワースペクトル、パワー密度スペクトルのいずれかである第九の構成を採用することができる。
【0020】
さらに、この発明に掛かる状態監視システムは、上記第一から第九のいずれかの構成において、
前記統計量が、前記部分スペクトルの最大値、合計、平均、二乗和平均平方根のいずれかである第十の構成を採用することができる。
【0021】
さらに、この発明に掛かる状態監視システムは、上記第三から第十のいずれかの構成にであって上記第三の構成を引用するものにおいて、
前記診断部の判断ステップにおける前記統計値が前記第二スペクトルデータの最大値、合計、平均、二乗和平均平方根のいずれかである第十一の構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0022】
この発明にかかる状態監視システムは、データ点数が大量になる時系列データに対して、時系列データをそのまま処理するのではなく、時間方向に細分割した個々の細分割データとして取り扱うため、個々の計算に必要なメモリや計算量を削減でき、限定的な計算リソースしかない安価・小型・省電力のデバイスでも搭載させることができる。これにより、様々な機器に対して状態監視を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】この発明にかかる状態監視システムの基本的な構成形態例を示す図
図2】この発明にかかる状態監視システムが計測データから処理後データを算出する第一のフロー例図
図3】この発明にかかる状態監視システムが取り扱う時系列データの例を示すグラフプロット
図4】時系列データからスペクトルデータ、部分スペクトル、統計量を求めるグラフ上の変遷例
図5】この発明にかかる状態監視システムが複数の帯域について処理後データを算出する第二のフロー例図
図6】この発明にかかる状態監視システムが複数の帯域について処理後データを算出する第三のフロー例図
図7】処理後データを高速フーリエ変換した第二スペクトルデータの例を示すグラフプロット
図8図7の第二スペクトルデータから算出した最大値及び二乗和平均平方根を示す図
図9図7の第二スペクトルデータからピーク前後の範囲を抽出して算出した二乗和平均平方根を示す図
図10】(a)図7の第二スペクトルデータに重みづけを行ったスペクトルの例を示す図、(b)(a)において重みづけに用いた関数を示す図
図11】処理後データの例を示すグラフプロット
図12図11の処理後データをバンドパスフィルタ処理した例を示す図
図13図11の処理後データを二乗処理した例を示す図
図14図11の処理後データをノイズレベルで減算した例を示す図
図15】この発明にかかる状態監視システムを実装する際の第一の構成例を示す機能ブロック図
図16】この発明にかかる状態監視システムを実装する際の第二の構成例を示す機能ブロック図
図17】第二の構成例に表示装置を追加した応用形態を示す機能ブロック図
図18】第二の構成例にサーバ及び表示装置を追加した応用形態を示す機能ブロック図
図19】この発明にかかる状態監視システムを実装する際の第三の構成例を示す機能ブロック図
図20】第三の構成例のフィールドネットワークにサーバを追加した応用形態を示す機能ブロック図
【発明を実施するための形態】
【0024】
この発明は、機械や部品等である監視対象機器の状態を監視する状態監視システムである。この状態監視システムは前記監視対象機器に関する計測データから処理後データを算出する計測データ処理部を有する。算出された処理後データをそのまま判断に用いたり、さらに計算して分析に用いたりすることで、前記監視対象機器の状態を把握できる。
【0025】
この発明にかかる状態監視システムは、前記監視対象機器と直接に接続された別個の装置であってもよいし、前記監視対象機器に組み込まれたものであってもよいし、前記監視対象機器とフィールドネットワークなどのネットワークを介して間接的に接続された別個の装置であってもよい。
【0026】
この発明にかかる状態監視システムが使用する計測データは、前記監視対象機器に付属させたセンサや、前記監視対象の状況を外部から測定する測定機器などのデータ取得部により得られる。このデータ取得部は例えば、前記センサからセンサ信号の形式で受け取った結果を前記状態監視システムが有する計測部で受信して計測データに変換してもよいし、前記計測データとして利用可能な形式になったデータを前記状態監視システムがネットワークを介して受信して取得してもよい。
【0027】
この発明にかかる状態監視システムが算出する処理後データは、人間が認識できる形式に変換して出力して担当者が状態を判断する材料として用いてもよいし、所定の条件に応じて機械的な判断を行ってもよいし、統計値として前記監視対象機器にフィードバックしてもよい。
【0028】
この発明にかかる状態監視システム10の基本的な構成形態例を、図1を用いて説明する。状態監視システム10は、少なくとも計測データから処理後データを算出する計測データ処理部11を有する。
【0029】
また、状態監視システム10は、計測データ処理部11が扱う計測データを取得するデータ取得部12を有する。図1ではセンサ信号を受信して計測データに変換することで計測データを取得する形態を例に取って示すが、例えば計測データを外部から受信するネットワークインターフェースであってもよい。
【0030】
前記計測データとしては、例えば、監視対象機器の躍度、角躍度、加速度、角加速度、変位、角変位、位置、位相、圧力である物理量のいずれかの時系列に沿ったデータを用いることができる。ただしこれらはあくまで例であり、前記監視対象機器の状態を監視するために本発明で利用できる前記計測データは、時系列に沿って変化しうるデータである物理量であれば特に限定されない。
【0031】
この発明にかかる状態監視システム10が計測データから処理後データを算出する手順の第一のフロー例について、図2とともに説明する。この第一のフロー例は、取り扱う計測データを、計測データ処理部11が一括して受け取った上で処理を行う。一回の処理で取り扱う計測データを保持するのに十分な容量の一時記憶部(図示せず)を有することが必要となる。ここで一時記憶部は不揮発性メモリでも揮発性メモリでもよい。この第一のフロー例では、データの取得と処理にリアルタイム性を要求されないため、応答時間が長くなっても処理自体には支障をきたすおそれがない。
【0032】
まず(S101)、データ取得部12がセンサなどの外部から計測データを受け取る(S102)。この計測データが時系列に沿った時系列データとなっていればそのまま取り扱うことができる。フローでは図示しないが、計測データを取得した段階では時系列に沿った形式でない場合は時系列に沿った第一加工データに変換するステップを実行した上で、変換した第一加工データを、時系列データとして以後の処理を行う。この時系列データのデータ点数は、少なくとも1000点以上であると好ましく、1万点以上であるとより好ましい。後述する高速フーリエ変換でスペクトルを求めるため、データ点数が少なすぎると判断の精度が十分に確保しにくくなってしまう。この時系列データの例を図3に示す。横軸は時間軸であり、縦軸は信号として受け取った電圧である。
【0033】
前記の時系列データを、時間方向に細分割して細分割データとする細分割ステップを実行する(S103)。ここで細分割とは、少なくとも10分割以上であるとよく、好ましくは100分割以上であり、さらに好ましくは1000分割以上である。具体的な細分割の仕方としては、個々の細分割データのデータ点数があらかじめ設定したデータ点数となるように等分割してもよいし、細分割データの分けられた数が予め設定した分割数となるように等分割してもよい。なお、ここで設定した分割数が、後述する診断部で処理する際に把握できる最大周波数に比例するため、この最大周波数が監視対象機器の特徴となる周波数を含む程度には分割数を確保する必要がある。また、ここで設定した細分割データのデータ点数が特定の帯域を抽出する際の周波数分解能に比例するため、狙いの帯域を抽出できる程度には、細分割データのデータ点数を確保する必要がある。
【0034】
また、細分割するにあたり、個々の細分割データが重複しないようにしてもよいし、時系列上隣接する細分割データと一部のデータが重複するようにしてもよい。あるいは、時系列上隣接する細分割データとの間に細分割データに含まれないデータが存在してもよい。重複させることで、細分割データ同士の間で分割することで喪失される一部のスペクトルの情報を保持することができる。重複させる割合は1つの細分割データの1%以上であるとよく、20%以上であるとより好ましい。重複させる割合が小さすぎると、重複させることで情報の喪失を回避する効果が十分ではなくなりやすい。なお、1%が重複するとは、時系列上の前後の細分割データと共通する部分の合計が1%であることをいい、時系列上の前方及び公報の細分割データのそれぞれと共通する部分は0.5%であることをいう。一方で、重複させる割合は1つの細分割データの180%以下であるとよく、120%以下であると好ましい。重複部分が180%を超えると処理の効率が悪くなりすぎてしまう。なお、ここで重複される割合は100%であると「時系列データの各点が2回ずつ細分割データに含まれる状態」を意味し、100%を超えると一部のデータが3回ずつ細分割データに含まれることになる。
【0035】
次に、細分割された個々の細分割データを、個別に処理していく。以下の2つのステップは、細分割データ毎に独立な処理のため、選択した時系列上の区間の(S111)細分割データについてのステップ(S112,S113)は、細分割データ毎に連続処理してもよいし、並列処理してもよい。また、細分割データの選択は必ずしも時系列順に行わなくてもよい。しかし、細分割されたすべての細分割データについて処理した上で最終的に時系列順に統合し直すため、個々の細分割データの選択も時系列順に行うと、ループ処理の管理がしやすくなるので好ましい。
【0036】
選択した時系列上の区間の細分割データについて(S111)、高速フーリエ変換によりスペクトルデータを算出するFFTステップを実行する(S112)。高速フーリエ変換のアルゴリズムとしては一般的なものを採用することができる。この発明では、細分割データとして1回の高速フーリエ変換で処理するデータ点数を減らして算出を行うため、小型・省電力のデバイスでも高速フーリエ変換が十分に可能である。
【0037】
また、このスペクトルデータとしては、振幅スペクトル、パワースペクトル、パワー密度スペクトルのいずれかの態様を必要とする状況に応じて適宜選択できる。
【0038】
FFTステップを実行して得られたスペクトルデータについて、一部の帯域の部分スペクトルを抽出して、この部分スペクトルの統計量を求める統計ステップを実行する(S113)。具体的にはこの統計ステップは二段階に分かれる。前段階として、スペクトルデータの全周波数帯域のうち、一部の帯域の部分スペクトルを抽出する。
【0039】
ここで抽出される一部の帯域としては、具体的には監視対象機器の物理量として故障や異変が起きたときに特徴的な挙動が検出される頻度が高い周波数を含む限定的な帯域を抽出すると効率的である。有用な範囲としては、10Hz~10kHzの範囲内での任意の帯域が挙げられ、さらに拡張するならば0.1Hz~30kHzの範囲内での任意の帯域が挙げられ、この範囲の中で特徴となる挙動を把握しやすい周波数の前後を部分的に選択するとよい。ただしこれに限定されるものではなく、想定外の状況が起きたときにそのことを検出できるように、既知の帯域ではない帯域を抽出してもよい。このため、監視対象機器の種類や監視する目的などに合わせて、抽出する帯域を任意に変更して設定できることが望ましい。なお、抽出する帯域は複数であってもよい。複数の帯域を抽出する場合のフロー例は後述する。
【0040】
統計ステップの後段階として、抽出した部分スペクトルの統計量を算出する。ここで統計量とは、部分スペクトルの最大値、合計、平均、二乗和平均平方根などの、部分スペクトルを構成する値から算出可能な値を適宜選択できる。なお、算出できる値であれば特にこれらに限定されない。
【0041】
以上のS112とS113をすべての細分割データについて行ったら、次の統合ステップ(S122)を行う。
【0042】
統合ステップ(S122)では、すべての細分割データについて得られた統計量を、元になった細分割データの時系列順に並べて統合し、計測データ処理部として出力する処理後データとする。ただし、統合ステップ(S122)で時系列に沿って統合する統計量は、同じものを用いる。最初の細分割データについて統計量として最大値を使用し、別の細分割データについて統計量として平均を使用するということはなく、最大値であれば最大値について並べて統合する。すなわち、図2のフローを進行させる際に、選択する統計量は最初の細分割データについての処理から最終区間の細分割データについての処理まで共通とする。
【0043】
ただし、統計ステップ(S113)で複数の統計量を算出しておき、統計量毎に統合ステップで統合して、統計量毎の処理後データを得てもよい。例えば、統計ステップ(S113)で最大値と平均を算出しておき、統合ステップ(S122)で最大値と平均値をそれぞれ別の処理後データとして統合するという処理を行ってもよい。いずれの処理でも、使用するメモリの容量は小さいと好ましい。ただし、フラッシュメモリやPSRAMにデータを格納することで、容量の大きいスペクトルデータを一時的に保持することも可能であり、一時的に保持するデータの容量はそれほど大きな問題とはならない。なお、スペクトルデータは元の時系列データに比べると、位相情報が削られるため、容量としては半減になる。一方で、FFT処理のやり直しを行うフローは、CPUリソースやRAMの消費量が多いことから、安価な装置での実施が難しくなり、本発明においては好ましくない。
【0044】
図4に、元の時系列データから、細分割したデータごとのスペクトルデータ、部分スペクトル、統計量を求める変遷のイメージを示す。実際には時系列上の区間ごとに高速フーリエ変換と抽出、統計量の算出を行うが、最終的に時系列順に統合することになる時系列上の個々の細分割データとそれから算出されるスペクトルデータ、統計量の算出が、それぞれの段階で時系列上に並べたらどのようなイメージとなるかを示す仮想的な図である。1段目の図は図3と同様の時系列データである。2段目の図は細分割データごとのスペクトルデータである。この図で縦にならんだ短冊状の一本一本が、細分割された細分割データごとのスペクトルデータであり、縦軸は周波数で色の濃さがスペクトルの値を示す。横軸はその多数のスペクトルデータを仮想的に並べた時系列である。3段目の図は2段目のスペクトルデータのうち、縦軸すなわち周波数方向の一部の帯域のみを抽出したものである。すなわち、2段目と同様に短冊状の一本一本が部分スペクトルであり、縦軸は周波数で色の濃さがスペクトルの値を示す。横軸はその抽出した部分スペクトルデータを仮想的に並べた時系列である。4段目は、3段目の部分スペクトルの一本一本について、統計量を算出し、それを時系列に並べたものである。すなわち、4段目は統合ステップ後の処理後データである。
【0045】
これらの工程におけるデータ点数の減少率はおおむね次の通りとなる。まず、1段目から2段目では全体のデータ点数は、位相情報がなくなるため半減する。2段目から3段目に移る統計ステップの前段階となる抽出でデータ点数が数分の一から数十分の一程度に減少する。さらに、3段目から4段目に移る統計ステップの後段階で、部分スペクトルから最大値や平均などの1点のデータになるため、データ点数が数十分の一から数万分の一に減少する。
【0046】
統計ステップの前段階で抽出する帯域は、任意に設定して変更可能であるとよい。例えば、離れた帯域の複数の周波数A,Bにおいて特徴的な挙動が検出される可能性がある場合、同一の時系列データから得られるスペクトルデータについて、周波数Aを含む帯域と周波数Bを含む別の帯域をそれぞれ抽出して、統計ステップで統計量をそれぞれ算出し、統合ステップでそれぞれの処理後データを取得する。これにより、周波数Aについての情報を含む処理後データと、周波数Bについての情報を含む処理後データがそれぞれ出力される。このように抽出する帯域を変更可能とすることで、状態監視システムはそれぞれの処理後データを用いて後述する判断結果を得て、起こりうる複数の状況について並行して監視することができる。
【0047】
この発明にかかる状態監視システム10が、計測データから上記のように複数の帯域について処理後データを算出する手順の第二及び第三のフロー例について、図5及び図6とともに説明する。選択する予定の複数の帯域とその順序がスタート段階(S101)までに設定されており、計測データ処理部11はその設定を読み込み可能である。設定される帯域の情報は、記憶部(図示せず)にあらかじめ記録されており、外部からコマンドとして入力されたり、データを受信して読み込んだりすることによって設定可能であるとよい。計測データを受け取り(S102)、FFTステップを行う点までは第一のフローと同様である。そのうえで、細分割データ毎、あるいはすべての細分割データのFFT処理後に、設定された帯域の情報から、抽出する帯域を指定する。
【0048】
図5に示す第二のフローでは、細分割データを選択するごとに複数の帯域を順に指定する。まず、第一のフローと同様に細分割データを選択し(S111)、FFTステップを行う(S112)。その上で、一の帯域を指定して(S141)、その帯域での統計ステップ(S113)を行い、これを複数の帯域の最終帯域になるまで(S143→No→S141)順に行う。当該細分割データについて、複数の帯域についてすべての統計ステップが終わったら(S143→Yes)、次の細分割データについて同様に処理を行う(S121→No→S111)。この第二のフローでは、メモリ上で保持するスペクトルデータが、処理中の細分割分データのみであるため、メモリ容量の少ない装置でも容易に実施できる。
【0049】
図6に示す第三のフローでは、いったんすべての細分割データのFFT処理を行った後に、複数の帯域を順に指定する。まず、第一のフローと同様に細分割データを選択し(S111)、FFTステップを行う(S112)。この後、統計ステップは後回しにして、最終区間に到達するまで順に細分割データを選択してFFTステップを行う(S121→No→S111)。すべての区間についてFFTステップが終わったら(S121→Yes)、複数の帯域のうちの最初の帯域を指定し(S141)、統計ステップ(S113)、統合ステップ(S122)を行う。これを複数の帯域の最終帯域になるまで(S143→No→S141)順に行う。この第三のフローは、受け取った計測データの全区間についてのスペクトルデータを一時的に保持する必要があるため、その分のメモリ容量を確保する必要がある。処理後データが大きい場合(すなわち分割数が多い場合)や、抽出すべき帯域の種類や統計量の種類が多い場合に、この第三のフローが好適に用いることができる。処理後データを種類ごとに逐次出力できるため、すべての処理後データを保持する必要がなく、この点ではメモリ容量の消費を抑えることができる。
【0050】
なお、図5及び図6に示す第二、第三のフローの途中で帯域を指定する実施形態はあくまで一例であり、スタート段階から最初の帯域が指定されていてもよい。また、その後のフローで抽出する帯域を順次変更可能となっている。
【0051】
第二及び第三のフロー例において、統計ステップ自体の処理の内容は第一のフローと同様である。その統計量を時系列順に並べる統合ステップを行う点も第一のフローと同様である。
【0052】
上記の第一から第三のフロー例についての説明では、計測データ処理部11が取り扱う計測データを一括して受け取った上で処理をする例、すなわち前記計測データのすべてを取得した後に前記細分割ステップを開始する例を示した。この発明にかかる状態監視システムは、これに限定されず、計測データ処理部11が計測データのすべてを取得する前に前記細分割ステップを開始してもよい。この場合、基本的な手順は上記の第一から第三のフロー例と変わらないが、S103の細分割ステップは開始時点で受け取っている計測データについてのみ行い、S111~S113までのステップを実行しながら、並行して残りの計測データの取得を行い、細分割データ1つ分の計測データを新たに取得するたびに、新たな細分割データとして分割する。計測データの取得が間に合わない場合は、S111の次の細分割データを選択する段階で一旦処理待ちの状態になり、処理する細分割データが生成されたら次のFFTステップ(S112)と統計ステップ(S113)を行う。順次この作業を行うため、最終区間に到達したか否かの判断(S121)はメモリ上に細分割データが残っているか否かではなく、取得する予定である計測データの最終区間まで細分割が終わっておりその最終区間を読み込んでいたか否かによって判断するとよい。細分割データを計測と並行して遂次処理することで、時系列データを格納しておく領域が少なくて済むようになる。ただし、細分割データから統計値を算出する処理が、時系列データのデータ取得よりも遅くなると、時系列データをその分多く保持しなければならなくなる。
【0053】
この発明に掛かる状態監視システム10は、計測データ処理部11で得られた処理後データをそのまま出力するか、判断結果を求めてから出力することによって、出力を観測した観測者や出力を受信した装置によって、監視対象機器の状態を監視することができる。処理後データは元の計測データに比べて大幅にデータ点数が減少しているため読み取りやすいデータとなっているが、それでも時系列順に沿って数十から数千件以上のデータ点数となりうる。このような処理後データの状態では情報を判断しにくい場合もあるため、状態監視システム10は、処理後データを用いて統計値または判断値である判断結果を算出する診断部13を有すると好ましい。この判断結果は、前記監視対象機器のなんらかの状態を判断することができる数値または信号である。
【0054】
診断部13が行う処理は、監視対象機器の種類や得ようとする判断結果に応じて様々な実施形態を選択しうる。その一つとして、処理後データから高速フーリエ変換により第二スペクトルデータを算出する第二FFTステップを実行すると好ましい。第二スペクトルデータでは、計測データ処理部11においてデータ点数を削減した上でなお処理後データ中に残る周波数に対する特徴量を検出しやすくなる。診断部13がこの第二スペクトルデータから、前記第二スペクトルデータから、統計値または判断値である判断結果を算出する判断ステップを実行すると好ましい。
【0055】
このような診断部13における判断ステップの例を図7図14を用いて説明する。図7に処理後データを高速フーリエ変換した第二スペクトルデータの例を示す。このスペクトルのうち、上位4つのピークを示す周波数f(f~f)を統計値として示す。この周波数自体に特徴が見出せる場合や、この周波数の順序に特徴が見出せる場合などが実施形態として挙げられる。また、このようなピークを示す周波数のいずれかfが、その監視対象機器の観測においてスペクトル値が大きくなる傾向にある特徴周波数fの近傍、例えば0.95×f~1.05fの範囲に存在するか否かのTrue/Falseの判断値を判断結果として用いる実施形態が挙げられる。
【0056】
また、図8に示すように、第二スペクトルデータの最大値(max)や二乗和平均平方根(rms)を算出し、それらの統計値を判断結果として用いる実施形態が挙げられる。
【0057】
さらに、図9に示すように、第二スペクトルデータのピークの前後の限定範囲を抽出し、その抽出したデータを用いて二乗和平均平方根(rms)を算出し、この統計値を判断結果として用いる実施形態が挙げられる。
【0058】
さらにまた、図10(a)に示すように、第二スペクトルデータについて重み付けを行ったスペクトルを求める実施形態が挙げられる。この重み付けは、図10(b)に示すような特定の周波数の前後を強調する窓関数との乗算である。なお、ここで示す窓関数はあくまで一例であり、状況に応じて適切な窓関数を選択してよい。ここで重みをつける周波数としては、監視する監視対象機器の物理量で、現れる傾向が強い周波数を選択する実施形態が挙げられる。
【0059】
さらにまた、診断部13がスペクトル値や統計量から、監視対象機器の状態を診断して、その結果(正常、注意、警告、異常、停止など)を判断結果としてもよい。診断の方法としては、あらかじめ定めたしきい値と比較する方法や、トレンド解析、機械学習などが挙げられる。
【0060】
さらにまた、診断部13が第二FFTステップを行わず、処理後データに対して数的処理を行って判断結果を得てもよい。処理後データは元の時系列データに比べてデータ点数が大きく減少しているため、元の時系列データに対して行うと計算量が膨大になってしまって採用しにくかったバンドパスフィルタ処理や二乗処理や減算処理などを行っても、省電力の端末であっても実装できる程度の計算量となり、実施可能となっている。このような高速フーリエ変換を伴わずに直接に統計量を算出して判断結果としてもよい。
【0061】
例えば図11に示す処理後データについて、バンドパスフィルタ処理した結果を図12に示す。また、図11に示す処理後データに対して、二乗処理した結果を図13に示す。さらに、ノイズレベルで減算した結果を図14に示す。なお、ノイズレベルで減算するとは、ノイズ相当の平均値を全データから減算したり、最低値を全データから減算したりすることで得られる。これらの処理後データ自体を判断結果としてもよい。また、処理後データ中の最大値から最小値を引いた差であるピーク値や、二乗和平均平方根などの統計値を算出する実施形態が挙げられる。
【0062】
この発明にかかる状態監視システム10は、診断部13を有するか否かに関わらず、計測データ処理部11が出力する処理後データや、診断部13が出力した判断結果を、装置外部又は同一装置の別構成部に出力できる出力部14を有すると好ましい。出力部14による出力先は、ローカルネットワーク内、フィールドネットワーク内、またはインターネット上のサーバでもよいし、特定の端末であってもよい。
【0063】
この発明にかかる状態監視システム10を、監視対象機器である産業機械に合わせて実装する際の構成例を用いて説明する。
【0064】
図15に示す第一の構成例では、監視対象機器である産業機械22が状態監視システム10とは別にある。状態監視システム10を構成するエッジデバイス21に、上記の計測データ処理部11、データ取得部12、診断部13、出力部14が備えられてある。エッジデバイス21は、監視対象機器である産業機械22に対して、状態監視システム10の一部として備えられる。図15では、産業機械22とエッジデバイス21をそれぞれ一つのみ記載しているが、実際には産業機械22とエッジデバイス21は複数個あってよい。例えば、複数個の産業機械22が隣接しているような環境でエッジデバイス21のセンサ入力を効率よく利用するような実施形態や、ある産業機械22の分析結果を別の産業機械22へ反映させるような実施形態で、好適に利用することができる。
【0065】
この第一の構成例では、出力部14は出力する判断結果を、センサ16を有しエッジデバイス21に計測データを送信してきた監視対象機器である産業機械22の制御装置17に返送する。ここで、産業機械22とエッジデバイス21が実際には複数組あり、それぞれのエッジデバイス21は計測データを送って来た産業機械22に対して判断結果を返送する。判断結果を受け取る産業機械22は、内部の制御装置17にてこれを受信する。制御装置17は受け取った判断結果に応じて、産業機械22の制御を行う。この制御としては例えば、故障を示す判断結果が出ていた場合に該当する産業機械22を停止したり、産業機械22のメンテナンス機能を実行したりといったことが挙げられる。産業機械22とエッジデバイス21との間の通信規格は特に限定されるものではなく、有線接続であってもよいし、無線接続であってもよい。
【0066】
この第一の構成例では、一方で出力部14は出力する判断結果を、状態監視システム10を構成するサーバ24に送信する。個々の産業機械22で判断結果を直接に活用するだけではなく、サーバ24にて保管することで統計的な分析や利用が可能となる。状態監視システム10はエッジデバイス21を複数個有していてもよいが、それらの情報を集めるサーバ24にはすべてのエッジデバイス21の情報が集約されていると集計や統計の点から望ましい。ただしサーバ24は単独のサーバであってもよいし、複数のサーバ群からなるものであってもよいし、クラウドサーバであってもよい。サーバ24はエッジデバイス21の出力部14から処理後データを受け取って保管するデータ保管部31を有するとよい。データ保管部31としては、例えば磁気ディスクやソリッドステートドライブ(SSD)などの長期保存可能な媒体が挙げられるが特にこれに限定されない。また、サーバ24はさらに表示装置25へ処理後データまたはそれをさらに変換編集したデータを表示装置25へ出力するデータ配信部32を有するとよい。データ配信部32は、有線または無線のネットワークインターフェースであってもよいし、ディスプレイ表示のためのHDMI(登録商標)やDisplayPortなどの映像規格であってもよい。なお、データ配信部32がネットワークインターフェースである場合には、上記の出力部14から処理後データを受け取る際にもそれらのネットワークインターフェースを共有するとよい。さらに、サーバ24はこれらの制御を行う制御部(図示せず)を有する。
【0067】
この第一の構成例では、状態監視システム10は、サーバ24のデータ配信部32から受け取った判断結果やそれを利用したデータなどを受け取り表示する表示装置25を有する。表示装置25は、サーバ24のデータ配信部32から送信された情報を、観測する担当者が主に視覚で判断できるように表示する。データ配信部32から送信された映像信号やデータを受信するデータ受信部35と、実際の表示画面となるデータ表示部36とを有する。具体的には表示装置25は、表示用のモニタそれ自体であってもよいし、表示用のモニタを備えたコンピュータ端末であってもよい。モニタそれ自体である場合は、サーバ24との接続は映像規格のケーブルであるとよい。コンピュータ端末である場合は、サーバ24との接続はネットワークケーブルや無線アンテナなどであるとよい。データ表示部36として表示するものとしては、例えばLEDランプ、ブラウン管、液晶モニタ、有機ELモニタなどが挙げられる。
【0068】
さらにまた、第一の構成例である状態監視システム10は、上記以外の装置や機能を備えていてもよい。例えば、表示装置25の代わりにまたは表示装置25とともに、警告音や案内音声などを発するスピーカーを備えた実施形態が挙げられる。
【0069】
このような第一の構成例としては、例えば産業機械22として風力発電設備の風車を監視対象機器とし、風力発電設備を構成する個々の風車ごとにエッジデバイス21を取り付け、状態監視システム10として複数の風車を監視するシステムが挙げられる。個々の風車の制御装置17は、エッジデバイス21から受け取った判断結果に応じて、風車の制御を行う。例えば、異常が検知されたら非常停止したり、異常の程度に応じて出力を制限していく、といった制御が挙げられる。一方で判断結果を受け取ったサーバ24は、判断結果をデータ保管部31に蓄積しながら、表示装置25に配信する。表示装置25はサーバ24から配信された判断結果を表示して、風力発電設備の管理者へ情報を提供する。
【0070】
次に、図16に示す第二の構成例では、監視対象機器である産業機械23内に、状態監視システム10が内蔵された構造となっている。産業機械23に設置されたセンサ16の信号を、状態監視システム10が取得(計測)し、処理し、診断する。判断結果は産業機械23の一部を構成する制御装置17に出力される。制御装置17は判断結果を用いて産業機械23の制御を行う。
【0071】
また、図16に示す第二の構成例に、出力部14から判断結果を出力させて、上記第一の構成例におけるサーバ24や表示装置25に接続させた第二の構成の応用構成も挙げられる。例えば、表示装置25が産業機械23の一部となっていてもよい。この形態を図17に示す。この場合、出力部14は表示装置25のデータ受信部35に相当する部位に対して、ディスプレイ表示のための規格に沿って出力する。
【0072】
さらに、図16に示す第二の構成例に、サーバ24及び表示装置25を追加した第二の構成のさらなる応用形態も挙げられる。この形態を図18に示す。出力部14はネットワークインターフェースとして、状態監視システム10の外部にあるサーバ24へデータ送信し、サーバ24がデータの保管と表示装置25への送信を担う。産業機械23自体の肥大化を避けながら、データの収集などを可能にすることができる構成である。
【0073】
また次に、図19に示す第三の構成例では、状態監視システム10がフィールドネットワーク30(FN30)を介して信号の送受信を行う。産業機械22に取り付けたセンサからセンサ信号を、フィールドネットワーク30を介して受信する状態監視システム10が取得(計測)、処理、診断する。判断結果はフィールドネットワーク30上に送信(アップロード)され、そのままにあるいは適切な処理が成された後に、産業機械22の制御装置17へ送られる。産業機械22の制御装置17は、フィールドネットワーク30からの判断結果に応じて、産業機械22を制御する。
【0074】
また、図19に示す第三の構成例に、上記の第一の構成例に示した表示装置25を状態監視システム10の一部として追加して、出力部14からデータ受信部35へ判断結果を送り、判断結果をデータ表示部で表示してもよい。また、フィールドネットワーク30上に表示装置25を設けて、判断結果を表示する応用形態も挙げられる。この形態を図20に示す。
【0075】
さらに、図19または図20に示す第三の構成例やその応用形態に、さらにフィールドネットワーク30に接続するサーバ24と、サーバ24に接続される表示装置25とを追加するさらなる応用形態も挙げられる。
【0076】
この発明にかかる状態監視システムは、細分割データで処理することによって、すべての時系列データについてまとめて計算していた従来の手法に比べて必要な計算リソースを大幅に低減し、エッジデバイスのような安価、省電力な端末でも監視対象機器の状態監視を可能にするものである。その実装形態は上記の構成例に限定されるものではなく、サーバやフィールドネットワークを介したり、直接接続したり内蔵したりして、得られた判断結果を利用するその他の機器を適宜追加するものであってよい。ただし、状態監視システムが直接接続したり内蔵したりする装置は、安価、省電力な範囲で追加できるものであると好ましい。
【符号の説明】
【0077】
10 状態監視システム
11 計測データ処理部
12 データ取得部
13 診断部
14 出力部
16 センサ
17 制御装置
21 エッジデバイス
22 産業機械
23 産業機械
24 サーバ
25 表示装置
30 フィールドネットワーク
31 データ保管部
32 データ配信部
35 データ受信部
36 データ表示部
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