(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117339
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】汚染土壌の原位置浄化方法及び汚染土壌の原位置浄化システム
(51)【国際特許分類】
B09C 1/06 20060101AFI20240822BHJP
C02F 1/02 20230101ALI20240822BHJP
【FI】
B09C1/06
C02F1/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023383
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】土田 充
(72)【発明者】
【氏名】小松 大祐
(72)【発明者】
【氏名】保坂 幸一
(72)【発明者】
【氏名】中島 邦将
(72)【発明者】
【氏名】平澤 卓也
(72)【発明者】
【氏名】白石 知成
(72)【発明者】
【氏名】穂刈 利之
(72)【発明者】
【氏名】中島 均
【テーマコード(参考)】
4D004
4D034
【Fターム(参考)】
4D004AA41
4D004AB02
4D004AB03
4D004AB06
4D004AC07
4D004CA22
4D004CB43
4D004CC01
4D004CC03
4D034CA01
(57)【要約】
【課題】本発明は、処理対象領域の水平方向の加熱効率をより高められる汚染土壌の原位置浄化方法及び汚染土壌の原位置浄化システムを目的とする。
【解決手段】汚染物質で汚染された汚染土壌が存在する処理対象領域A1の基準面Gに過熱水蒸気を接触させて、処理対象領域A1の少なくとも一部に加熱処理を施す加熱工程と、前記加熱処理により生じた前記汚染物質を含む流体の少なくとも一部を吸引井戸10で吸引する吸引工程と、を有する、汚染土壌の原位置浄化方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染物質で汚染された汚染土壌が存在する処理対象領域の基準面に過熱水蒸気を接触させて、前記処理対象領域の少なくとも一部に加熱処理を施す加熱工程と、
前記加熱処理により生じた前記汚染物質を含む流体の少なくとも一部を吸引井戸で吸引する吸引工程と、を有する、汚染土壌の原位置浄化方法。
【請求項2】
前記加熱工程は、前記基準面から離間した位置に蓋体を設け、前記基準面と前記蓋体との間の空間に前記過熱水蒸気を供給する、請求項1に記載の汚染土壌の原位置浄化方法。
【請求項3】
前記加熱工程は、前記処理対象領域に設けられた熱伝達体を介して前記加熱処理を施す、請求項1又は2に記載の汚染土壌の原位置浄化方法。
【請求項4】
前記加熱工程における前記過熱水蒸気の温度が100℃以上である、請求項1又は2に記載の汚染土壌の原位置浄化方法。
【請求項5】
前記汚染物質が揮発性有機化合物、油分、水銀、ポリ塩化ビフェニル及びダイオキシン類から選択される1種以上である、請求項1又は2に記載の汚染土壌の原位置浄化方法。
【請求項6】
汚染物質で汚染された汚染土壌が存在する処理対象領域に設けられた吸引井戸と、
前記処理対象領域の基準面の上方に離間して位置し、前記基準面との間に空間を形成する蓋体と、
前記空間に過熱水蒸気を供給する過熱水蒸気発生装置と、を有する、汚染土壌の原位置浄化システム。
【請求項7】
前記処理対象領域に設けられ、前記基準面から深さ方向に延びる熱伝達体をさらに有する、請求項6に記載の汚染土壌の原位置浄化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染土壌の原位置浄化方法及び汚染土壌の原位置浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
揮発性有機化合物(VOC)等で汚染された汚染土壌を浄化する方法としては、掘削して除去する方法(掘削除去法)が知られている。
しかし、掘削除去法では、汚染土壌を大量に搬出、運搬しなければならず、膨大なコストを要していた。
【0003】
こうした問題に対し、例えば、特許文献1には、汚染物質を含む処理対象領域に加熱井戸を用いて熱を加え、汚染物質の一部を気化させてこれを吸引し、処理対象領域から除去する、汚染土壌の原位置浄化方法が提案されている。特許文献1の発明によれば、処理対象領域(原位置)の加熱及び蒸気抽出により汚染物質の除去効率を高めることが図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のような加熱井戸を用いて汚染土壌に加熱処理を施す際、処理対象領域の水平方向の熱伝達に時間がかかり、汚染土壌の浄化に要する期間が長くなるという問題がある。
加えて、加熱井戸の設置には、高額な費用が掛かる。費用を抑えるために、加熱井戸の本数を減らすと、処理対象領域の水平方向の加熱効率がさらに低下する。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、処理対象領域の水平方向の加熱効率をより高められる汚染土壌の原位置浄化方法及び汚染土壌の原位置浄化システムを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の態様を有する。
[1]汚染物質で汚染された汚染土壌が存在する処理対象領域の基準面に過熱水蒸気を接触させて、前記処理対象領域の少なくとも一部に加熱処理を施す加熱工程と、
前記加熱処理により生じた前記汚染物質を含む流体の少なくとも一部を吸引井戸で吸引する吸引工程と、を有する、汚染土壌の原位置浄化方法。
[2]前記加熱工程は、前記基準面から離間した位置に蓋体を設け、前記基準面と前記蓋体との間の空間に前記過熱水蒸気を供給する、[1]に記載の汚染土壌の原位置浄化方法。
[3]前記加熱工程は、前記処理対象領域に設けられた熱伝達体を介して前記加熱処理を施す、[1]又は[2]に記載の汚染土壌の原位置浄化方法。
[4]前記加熱工程における前記過熱水蒸気の温度が100℃以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の汚染土壌の原位置浄化方法。
[5]前記汚染物質が揮発性有機化合物、油分、水銀、ポリ塩化ビフェニル及びダイオキシン類から選択される1種以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の汚染土壌の原位置浄化方法。
【0008】
[6]汚染物質で汚染された汚染土壌が存在する処理対象領域に設けられた吸引井戸と、
前記処理対象領域の基準面の上方に離間して位置し、前記基準面との間に空間を形成する蓋体と、
前記空間に過熱水蒸気を供給する過熱水蒸気発生装置と、を有する、汚染土壌の原位置浄化システム。
[7]前記処理対象領域に設けられ、前記基準面から深さ方向に延びる熱伝達体をさらに有する、[6]に記載の汚染土壌の原位置浄化システム。
【発明の効果】
【0009】
本発明の汚染土壌の原位置浄化方法及び汚染土壌の原位置浄化システムによれば、処理対象領域の水平方向の加熱効率をより高められる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の汚染土壌の原位置浄化システムの第一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】第一実施形態の原位置浄化システムの製造過程の一例を模式的に示す断面図である。
【
図3】第一実施形態の原位置浄化システムの製造過程の一例を模式的に示す断面図である。
【
図4】本発明の汚染土壌の原位置浄化システムの第二実施形態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第一実施形態]
≪汚染土壌の原位置浄化システム≫
本発明の汚染土壌の原位置浄化システム(以下、単に「原位置浄化システム」ともいう。)は、吸引井戸と、蓋体と、過熱水蒸気発生装置とを有する。原位置浄化システムは、汚染土壌が存在する処理対象領域を過熱水蒸気で加熱して汚染物質を揮発させ、あるいは、汚染物質を水蒸気により連行して除去せしめ、土壌を浄化するシステムである。
汚染物質を含む処理対象領域が基準面から浅い位置(例えば、基準面から1~3m)に存在する場合、基準面に過熱水蒸気を接触させて、処理対象領域に加熱処理を施すことができる。加熱処理を施す際、基準面から離間した位置に蓋体を設け、基準面と蓋体とによって形成される空間に過熱水蒸気を供給することで、処理対象領域の水平方向の加熱効率をより高めることができる。
加えて、処理対象領域の基準面に過熱水蒸気を接触させて、処理対象領域に加熱処理を施すことができるため、従来の原位置浄化システムに用いられる加熱井戸を設ける必要がない。このため、加熱井戸の設置から、加熱処理を施すまでの期間(工期)を短縮でき、加熱井戸を設置する費用を削減できる。
なお、本明細書において、「基準面」とは、汚染土壌が存在する処理対象領域の地表面をいい、自然の状態の地表面であってもよく、掘削して海抜をより低くした新たな地表面であってもよい。
以下、原位置浄化システムの第一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0012】
図1に示すように、本実施形態の原位置浄化システム1は、吸引井戸10と、支持部材20と、蓋体30と、過熱水蒸気発生装置50とを有する。蓋体30は、支持板32と、断熱材34とで構成されている。
原位置浄化システム1では、吸引井戸10は、基準面Gから下方の深さ方向(Z方向)に延びるように配置されている。吸引井戸10は、処理対象領域A1に設けられている。基準面Gの上には、複数の支持部材20が配置されている。支持部材20上には支持板32が設置され、支持板32上には、断熱材34が設けられ、蓋体30を構成している。蓋体30は、基準面Gの上方に離間して位置し、基準面Gとの間に空間B1が形成されている。空間B1には、過熱水蒸気発生装置50で発生した過熱水蒸気が供給される。
【0013】
蓋体30上には過熱水蒸気発生装置50が設置されている。過熱水蒸気発生装置50には、配管L1が接続されている。配管L1は、空間B1まで延びている。吸引井戸10には配管L2が接続されている。配管L2は、汚染物質処理装置(不図示)に接続されている。
なお、過熱水蒸気発生装置50の設置位置は特に限定されず、空間B1内にあってもよく、空間B1外の基準面G上にあってもよく、それ以外の場所にあってもよい。
図中の矢印Qは、熱エネルギーの移動方向を示す。
【0014】
吸引井戸10は、加熱処理によって生じた汚染物質を含む流体の少なくとも一部を吸引して、土壌から汚染物質を除去するための井戸である。吸引井戸10としては、例えば、吸引具を有する筒状体、吸引具を配管等で接続した筒状体等が挙げられる。吸引具としては、例えば、真空ポンプ等、陰圧を可能にする器具が挙げられる。真空ポンプとブロワーと水中ポンプとを組み合わせて陰圧を作り、吸引具としてもよい。
【0015】
吸引井戸10は、加熱効率をより高める観点から、過熱水蒸気をそのまま吸引しない構造を有することが好ましい。このような井戸としては、例えば、基準面Gよりも0.5~1m深部にスクリーン(通水部)を有する吸引井戸、スクリーンよりも浅部の無孔管とボーリング孔とのクリアランスをセメントベントナイト等で遮蔽した吸引井戸等が挙げられる。
【0016】
支持部材20は、蓋体30を支持するために、基準面Gの上に複数設けられている。
支持部材20としては、例えば、H形鋼、バタ角等が挙げられる。
ここで、「H形鋼」とは、H鋼とも呼ばれる、アルファベットの「H」の形状をした鋼材をいう。「バタ角」とは、10cm角程度の棒状の木材をいう。支持部材20としては、蓋体30を安定して支持できることから、H形鋼が好ましい。
【0017】
支持板32としては、例えば、鉄板や木製の板、樹脂製の板等が挙げられる。支持板32としては、物理強度に優れることから、鉄板が好ましい。
なお、支持板32が断熱性を有する場合、支持板32のみを蓋体30としてもよい。
【0018】
断熱材34としては、例えば、エアモルタル、樹脂製の板等が挙げられる。断熱材34としては、断熱性に優れ、コスト面で有利なことから、エアモルタルが好ましい。
ここで、「エアモルタル」とは、スラリー状の生モルタルに、発泡させた気泡を混入し、硬化させたものをいう。
【0019】
過熱水蒸気発生装置50としては、公知の過熱水蒸気発生器を用いることができる。
ここで、「過熱水蒸気」とは、飽和水蒸気にさらに熱を加え、100℃以上の高温にした水蒸気をいう。
【0020】
汚染物質処理装置としては、例えば、気液分離装置、排ガス処理装置及び排液処理装置を備える装置等が挙げられる。
気液分離装置としては、例えば、冷却機能を備える凝縮器等が挙げられる。
排ガス処理装置としては、例えば、汚染物質を吸着できる吸着材が充填された吸着槽を有する耐圧容器、高温で加熱して内部の気体を熱分解できる熱分解装置等が挙げられ、特に限定されない。
排液処理装置としては、例えば、汚染物質を吸着できる吸着材が充填された吸着槽を有する濾過装置、汚染物質を吸着できる吸着材が充填された吸着槽を有する吸着装置、膜分離装置、加圧浮上装置、凝集沈殿装置、曝気装置等が挙げられる。
【0021】
配管L1としては、例えば、金属製や樹脂製の配管等が挙げられる。
配管L2としては、配管L1と同様の配管が挙げられる。
【0022】
空間B1の高さHB1(基準面Gと支持板32とのZ方向の距離)は、例えば、10~100cmが好ましく、20~50cmがより好ましい。高さHB1が上記下限値以上であると、より多くの過熱水蒸気を空間B1に供給できる。高さHB1が上記上限値以下であると、過熱水蒸気の熱エネルギーの損失を抑制でき、処理対象領域A1の加熱効率をより高められる。
高さHB1は、支持部材20の大きさによって調節できる。
【0023】
本実施形態の原位置浄化システム1は、空間B1内の圧力上昇を抑制するための吸引装置(不図示)を備えることが好ましい。吸引装置としては、例えば、空間B1内の流体を吸引可能な有孔管と、前記有孔管と接続された配管と、前記配管と接続された吸引具とを有する装置等が挙げられる。
ここで吸引した流体は、熱交換器(不図示)を通流させた後、上述した汚染物質処理装置に供給して処理できる。熱交換器で回収した熱は、過熱水蒸気発生装置50に供給する水を予め加温するプレヒーティングに利用できる。
【0024】
≪汚染土壌の原位置浄化方法≫
本発明の汚染土壌の原位置浄化方法(以下、単に「原位置浄化方法」ともいう。)は、加熱工程と、吸引工程とを有する。原位置浄化方法は、汚染土壌が存在する処理対象領域の基準面に過熱水蒸気を接触させ、処理対象領域の少なくとも一部に加熱処理を施して、汚染物質を揮発させ、あるいは、汚染物質を水蒸気により連行して除去せしめ、土壌を浄化する方法である。揮発した、あるいは、水蒸気によって連行された汚染物質は、吸引井戸によって吸引される。
本原位置浄化方法は、過熱水蒸気によって処理対象領域に加熱処理を施すことができるため、加熱井戸を用いた方法に比べて、処理対象領域の水平方向の加熱効率を著しく高めることができる。加えて、本原位置浄化方法は、従来の加熱井戸を用いずに処理対象領域に加熱処理を施すことができるため、加熱井戸の設置から、加熱処理を施すまでの期間(工期)を短縮でき、加熱井戸を設置する費用を削減できる。
以下、本発明の原位置浄化方法について、本実施形態の原位置浄化システム1を用いた原位置浄化方法を例にして説明する。
【0025】
図2に示すように、処理対象領域A1に、吸引井戸10を設置する。吸引井戸10を複数設置する場合は、それぞれの吸引井戸10の間隔(吸引井戸10間の水平方向の距離)は、例えば、4~8mが好ましい。それぞれの吸引井戸10の間隔が上記下限値以上であると、吸引井戸10の設置に要する期間を短縮でき、吸引井戸10の設置に要する費用を削減できる。それぞれの吸引井戸10の間隔が上記上限値以下であると、処理対象領域A1における汚染物質の除去効率をより高められる。
【0026】
<加熱工程>
加熱工程は、処理対象領域A1の基準面Gに過熱水蒸気を接触させて、処理対象領域A1の少なくとも一部に加熱処理を施す工程である。
本実施形態では、基準面Gから離間した位置に蓋体30を設け、基準面Gと蓋体30との間の空間に過熱水蒸気を供給することで、過熱水蒸気の熱エネルギーを効率よく処理対象領域A1に供給できる。
本実施形態の原位置浄化システム1の製造過程では、
図2に示すように、まず、複数の支持部材20を水平方向(X方向)に配置する。
【0027】
次に、
図3に示すように、支持部材20上に、支持板32を設置する。この際、支持板32には、吸引井戸10が貫通できる穴を設けることが好ましい。支持板32に、吸引井戸10が貫通できる穴を設けることで、空間B1内の断熱性を低下させることなく、吸引井戸10から汚染物質を含む流体を取り出すことができる。このため、処理対象領域A1の加熱効率をより高められる。
なお、支持板32に、吸引井戸10が貫通できる穴を設けずに、複数の支持板32を支持部材20上に設置することで、空間B1を形成してもよい。
【0028】
次に、支持板32上に、断熱材34を設置する。支持板32上に断熱材34を設置することで、基準面Gの上方に離間して位置する、蓋体30が形成される。蓋体30を設けることで、基準面Gとの間に、過熱水蒸気が供給される空間B1が形成される。また、支持板32上に断熱材34を設置することで、空間B1に供給される過熱水蒸気の熱エネルギーが外部に漏出することを抑制でき、空間B1内の断熱性をより高められる。
なお、支持板32が断熱性を有する場合は、断熱材34の設置を省略してもよい。この場合は、支持板32が断熱材の役割を果たす。
【0029】
蓋体を形成する際は、支持部材20に代えて、基準面Gから立ち上がる壁材を設け、その壁材で水平方向を遮蔽し、壁材で形成された開口部に蓋体を設けることで、密閉された空間を形成してもよい。密閉された空間を形成することで、過熱水蒸気による処理対象領域の加熱効率をより高められる。加えて、壁材に断熱性を有する素材を適用することで、密閉された空間内の断熱性をより高められる。
【0030】
本原位置浄化方法は、加熱工程を有することで、処理対象領域A1内の汚染物質を汚染土壌から脱着、又は汚染地下水から汚染物質を気化回収、あるいは、加熱処理を施すことによって液状の汚染物質の流動性をより高め、吸引井戸10による液状のままの回収をより促進できる。
加熱工程では、処理対象領域A1の少なくとも一部に加熱処理を施せばよいが、汚染物質の除去効率を高める観点から、処理対象領域A1の出来るだけ広範囲に加熱処理を施すことが好ましく、処理対象領域A1の全体に加熱処理を施すことがより好ましい。
【0031】
加熱工程では、まず、過熱水蒸気発生装置50を稼働し、過熱水蒸気を発生させる。発生した過熱水蒸気は、配管L1を通流して空間B1に供給される。空間B1は、蓋体30によって高さ方向が閉塞されているため、過熱水蒸気が大気中に拡散することを抑制できる。加えて、空間B1に過熱水蒸気を供給することで、基準面Gに接触した過熱水蒸気は、凝結により凝結熱を基準面Gに供給する。基準面Gの表面温度が上昇することで、深さ方向(Z方向)に熱勾配ができ、熱伝導により基準面Gから地中に熱が伝達される。その結果、処理対象領域A1の少なくとも一部が加熱され、土中の汚染物質が揮発し、あるいは、水蒸気によって連行され、吸引井戸10へと流入する。
なお、空間B1に供給された過熱水蒸気は、空間B1内を水平方向(X方向)に広がる。このため、処理対象領域A1の水平方向の加熱効率をより一層高められる。
【0032】
加熱処理を施す際の過熱水蒸気の温度は、例えば、100℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましく、200℃以上がさらに好ましい。過熱水蒸気の温度が上記下限値以上であると、汚染物質の気化、分解が促進され、より多くの汚染物質を除去できる。特に、過熱水蒸気によって加熱される土壌の温度を地下水の沸点以上とした場合、土壌の間隙に含まれる水分を蒸発させ、土壌の粒子間の間隙を拡張し、かつ、脱着した汚染物質を水蒸気で連行できるため、汚染物質を土壌からより効率よく除去できる。地下水の沸点は、処理対象領域A1における圧力から求めることができる。過熱水蒸気の温度の上限値は特に限定されないが、安全性や支持部材20の耐久性を考慮して、例えば、400℃以下が好ましい。
加熱処理を施す際の過熱水蒸気の温度は、空間B1内に設置した熱電対や温度センサ等(不図示)により測定できる。処理対象領域A1における圧力は、圧力計等を取り付けたモニタリング井戸(不図示)等により測定できる。
【0033】
加熱処理を施す際の空間B1における圧力は、特に限定されず、例えば、大気圧(0.1MPa)以上であればよい。
【0034】
汚染物質としては、例えば、揮発性有機化合物(VOC)、油分、水銀、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、ダイオキシン類等が挙げられる。
VOCとしては、例えば、ベンゼン、トルエン、ハロゲン化炭化水素(例えば、トリクロロエチレン等)等が挙げられる。
油分としては、例えば、炭素数5~44の炭化水素等が挙げられる。炭素数5~18の炭化水素は、主に気体として回収できる。炭素数19以上の炭化水素であっても、粘度を低下させることで液体として回収可能である。これらの炭化水素は飽和炭化水素でもよく、不飽和炭化水素でもよい。これらの炭化水素は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよく、環状でもよい。これらの炭化水素の具体例としては、例えば、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン等が挙げられる。
水銀としては、例えば、金属水銀、無機水銀、有機水銀が挙げられる。無機水銀としては、例えば、酸化水銀、硫化水銀、塩化水銀(Hg2Cl2、HgCl2)、硝酸水銀等が挙げられる。有機水銀としては、例えば、アルキル水銀(例えば、メチル水銀、エチル水銀)、フェニル水銀(例えば、酢酸フェニル水銀)等が挙げられる。
【0035】
PCBとしては、例えば、3,3’,4,4’-テトラクロロビフェニル、3,4,4’,5-テトラクロロビフェニル、3,3’,4,4’,5-ペンタクロロビフェニル、3,3’,4,4’,5,5’-ヘキサクロロビフェニル、2,3,3’,4,4’-ペンタクロロビフェニル、2,3,3’,4,4’,5-ヘキサクロロビフェニル、2,3,3’,4,4’,5,5’-ヘプタクロロビフェニル等が挙げられる。
ダイオキシン類としては、例えば、2,3,7,8-テトラクロロパラジオキシン、2,3,4,7,8-ペンタクロロジベンゾフラン等が挙げられる。
【0036】
<吸引工程>
吸引工程は、加熱工程における加熱処理により生じた汚染物質を含む流体の少なくとも一部を吸引井戸10で吸引する工程である。
【0037】
吸引工程では、吸引井戸10を起動する。例えば、吸引井戸10に配管L2によって接続されたブロワー(不図示)を作動させることで、配管L2及び吸引井戸10内を陰圧とする。陰圧としては、例えば、-0.5kPa~-10kPaが好ましい。その後、必要に応じて吸引井戸10内又は吸引井戸10外の水中ポンプ等(不図示)を稼働させて吸引井戸10内の地下水を揚水する。その結果、汚染物質を含む気体に加えて液体を回収し、汚染物質処理装置(不図示)に供給できる。
本原位置浄化方法は、吸引工程を有することで、処理対象領域A1で脱着された汚染物質を土壌から除去できる。
【0038】
吸引工程で吸引された汚染物質を含む流体は、吸引井戸10に接続された配管L2を通流して、地上外部の汚染物質処理装置(不図示)へと供給される。
汚染物質を含む流体のうち、汚染物質を含む気体は、排ガス処理装置(不図示)で汚染物質を無害な物質に分解して、浄化される(排ガス処理工程)。
汚染物質を含む流体のうち、汚染物質を含む液体は、排液処理装置(不図示)で汚染物質を除去して、例えば、排水基準値以下まで浄化される(排液処理工程)。
【0039】
本実施形態の原位置浄化システム1によれば、基準面Gと蓋体30との間の空間B1に過熱水蒸気を供給することで、処理対象領域A1の水平方向に効率よく熱エネルギーを供給できる。このため、処理対象領域A1の水平方向の加熱効率をより高められる。
本実施形態の原位置浄化システム1によれば、基準面Gに過熱水蒸気を接触させて処理対象領域A1に加熱処理を施すため、従来の原位置浄化システムに用いられる加熱井戸を設ける必要がない。このため、加熱井戸の設置から、加熱処理を施すまでの期間(工期)を短縮でき、加熱井戸を設置する費用を削減できる。
本実施形態の原位置浄化システム1によれば、従来技術でヒーターに相当する過熱水蒸気発生装置50を地上に設置できるため、装置のメンテナンス、管理、故障時の対応等を容易に行うことができる。
本実施形態の原位置浄化システム1は、基準面Gに過熱水蒸気を接触させて処理対象領域A1に加熱処理を施すことができるため、汚染物質を含む処理対象領域A1が基準面Gから浅い位置(例えば、基準面Gから2~3m)に存在する場合に特に有効である。
【0040】
[第二実施形態]
本実施形態は、処理対象領域の深度が、第一実施形態よりも深い場合に有効な原位置浄化方法である。本実施形態では、過熱水蒸気の熱エネルギーを処理対象領域のより深い位置(例えば、基準面Gから3~5m)まで伝達できるように、地中に熱伝達体を設置し、熱伝達体を介して加熱処理を施す。
【0041】
≪汚染土壌の原位置浄化システム≫
図4に、本発明の第二実施形態に係る原位置浄化システムの模式図を示す。第一実施形態と同じ構成には、同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0042】
図4に示すように、本実施形態の原位置浄化方法に係る原位置浄化システム2は、吸引井戸10と、支持部材20と、蓋体30と、熱伝達体40と、過熱水蒸気発生装置50とを有する。蓋体30は、支持板32と、断熱材34とで構成されている。
原位置浄化システム2では、複数の熱伝達体40が、基準面Gから下方の深さ方向(Z方向)に延びるように配置されている。熱伝達体40及び吸引井戸10は、処理対象領域A2に設けられている。蓋体30は、基準面Gの上方に離間して位置し、基準面Gとの間に空間B2が形成されている。
図中の矢印Qは、熱エネルギーの移動方向を示す。
【0043】
熱伝達体40としては、例えば、小口径の金属棒等が挙げられる。
熱伝達体40の口径は、例えば、2~7cmが好ましい。熱伝達体40の口径が上記下限値以上であると、充分な熱エネルギーを処理対象領域A2に供給できる。熱伝達体40の口径が上記上限値以下であると、地中に熱伝達体40を設置する際の作業性を高められる。
【0044】
熱伝達体40を構成する金属としては、例えば、アルミニウム(240W/m・K)、鉄(80W/m・K)、銅(400W/m・K)等が挙げられる。熱伝導率、重量及び価格の観点から、熱伝達体40を構成する金属としては、アルミニウムが好ましい。
【0045】
複数の熱伝達体40の間隔(熱伝達体40間の水平方向の距離)は、例えば、0.2~1mが好ましい。複数の熱伝達体40の間隔が上記下限値以上であると、熱伝達体40の設置数を低減できる。複数の熱伝達体40の間隔が上記上限値以下であると、処理対象領域A2の加熱効率をより高められる。
【0046】
空間B2の高さHB2(基準面Gと支持板32とのZ方向の距離)は、空間B1の高さHB1と同様である。
熱伝達体40の基準面Gからの高さH40は、例えば、5cm以上が好ましく、10cm以上がより好ましい。高さH40が上記下限値以上であると、過熱水蒸気のより多くの熱エネルギーを熱伝達体40に伝達できる。高さH40の上限値は、高さHB2よりも小さければよく、例えば、100cm未満である。
【0047】
≪原位置浄化方法≫
本実施形態の原位置浄化方法は、熱伝達体40を介して処理対象領域A2に加熱処理を施すこと以外は、第一実施形態の原位置浄化方法と同様である。
処理対象領域A2に熱伝達体40を設置する方法としては、例えば、ボーリングマシンで掘削孔を形成し、この掘削孔に熱伝達体40を挿入する方法等が挙げられる。ボーリングマシンとしては、例えば、小口径(例えば、2~7cm)のボーリングに適したジオプローブ等の機械が挙げられる。
【0048】
本実施形態の加熱工程では、空間B2に供給された過熱水蒸気の熱エネルギーが、処理対象領域A2に設けられた熱伝達体40を介して地中に伝達される。このため、第一実施形態よりも深い位置まで、処理対象領域A2に加熱処理を施すことができる。
【0049】
本実施形態では、加熱井戸を設置する必要が無く、棒状の熱伝達体40を打設すればよい。熱伝達体40は、加熱井戸に比べて遥かに小口径であり、加熱井戸の加熱ヒーターの保護に必要な外管や、掘削孔に挿入するグラウトが不要である。このため、原位置浄化システムを製造するための材料費、施工費を削減でき、加熱井戸よりも密な間隔で熱伝達体40を設置できる。その結果、処理対象領域A2の水平方向の加熱効率をより高められる。加えて、熱伝達体40を設置することにより、処理対象領域A2の深さ方向の加熱効率も高められる。
【0050】
以上、本発明の原位置浄化システム及び原位置浄化方法について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、蓋体を設けず、処理対象領域の基準面に過熱水蒸気を吹き付けて接触させてもよい。しかし、過熱水蒸気が大気中に拡散することを抑制し、処理対象領域の加熱効率をより高められることから、原位置浄化方法は、蓋体を設け、基準面と蓋体との間の空間に過熱水蒸気を供給することが好ましい。
【0051】
例えば、原位置浄化システム1は、吸引井戸10を1つ有するが、原位置浄化システムは、吸引井戸を2つ以上有していてもよい。吸引井戸の数を増やすことで、汚染物質の回収効率を改善することが可能となる。
例えば、原位置浄化システム2は、1つの吸引井戸10に対して6つの熱伝達体40を有するが、原位置浄化システムは、1つの吸引井戸に対する熱伝達体の数を5つ以下にしてもよく、7つ以上にしてもよい。1つの吸引井戸に対する熱伝達体の数を増やすことで、処理対象領域の加熱効率をより高められる。
例えば、原位置浄化システム2は、X方向のみに熱伝達体40が設置されているが、原位置浄化システムは、X方向とは異なる水平方向(例えば、X方向とZ方向との双方に垂直な方向)に熱伝達体を設置してもよい。X方向とは異なる水平方向に熱伝達体を設置することで、処理対象領域のより広範囲に加熱処理を施すことができる。
例えば、原位置浄化システム1及び2は、蓋体30を吸引井戸10が貫通しているが、原位置浄化システムは、吸引井戸に接続された配管が蓋体を貫通する態様であってもよい。吸引井戸に代えて配管が蓋体を貫通する態様であれば、蓋体を貫通する穴の径をより小さくできる。このため、基準面と蓋体とによって形成される空間の断熱性をより高められ、処理対象領域の加熱効率をより高められる。
【0052】
原位置浄化システムを製造する際に、吸引井戸を設置する順序は特に限定されず、支持部材を配置してから吸引井戸を設置してもよく、吸引井戸を設置した後に支持部材を配置してもよい。
熱伝達体を設置する場合、熱伝達体を設置してから吸引井戸を設置してもよく、熱伝達体を設置した後に吸引井戸を設置してもよい。
【0053】
2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」がある。一実施形態に係る汚染土壌の原位置浄化方法は、このSDGsの17の目標のうち、例えば、「3.すべての人に健康と福祉を」、「12.つくる責任・つかう責任」、「14.海の豊かさを守ろう」及び「15.陸の豊かさも守ろう」の目標などの達成に貢献し得る。
【符号の説明】
【0054】
1,2…原位置浄化システム、10…吸引井戸、20…支持部材、30…蓋体、32…支持板、34…断熱材、40…熱伝達体、50…過熱水蒸気発生装置、L1,L2…配管、A1,A2…処理対象領域、B1,B2…空間、G…基準面