(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117347
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】血圧記録装置および血圧記録方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/022 20060101AFI20240822BHJP
【FI】
A61B5/022 400M
A61B5/022 400D
A61B5/022 400C
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023397
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】503246015
【氏名又は名称】オムロンヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100122286
【弁理士】
【氏名又は名称】仲倉 幸典
(72)【発明者】
【氏名】澤野井 幸哉
(72)【発明者】
【氏名】矢倉 伸樹
(72)【発明者】
【氏名】山下 新吾
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA08
4C017AB01
4C017AC32
4C017BC11
4C017BD05
4C017DD14
4C017FF08
(57)【要約】
【課題】コロトコフ音に基づいて拡張期血圧値を精度良く記録すること。
【解決手段】カフ20と、カフ圧調整部32,33と、カフ圧を検出する圧力検出部31とを備える。減圧過程で、被測定部位を通る動脈が示す脈波の拍毎に、その拍の波形特徴点が生じた時刻を検出する。減圧過程で、拍の波形特徴点が生じた時刻と、その時刻でのカフ圧とを関連付けて、データ対としてメモリ51に順次記憶させる。カフ圧を、表示器50に表示させる。減圧過程で、表示器50に表示されるカフ圧を見ながら、聴診器によってコロトコフ音を聞いた観測者が操作部52Bを操作して、コロトコフ音の発生が停止したと判断した時刻を示すタイミング信号を入力する。その時刻に対応するデータ対に対して1拍前に相当するデータ対を特定し、その特定されたデータ対が含むカフ圧を、補正された拡張期血圧値として記録する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の被測定部位を通る動脈が発生するコロトコフ音に基づいて血圧を測定して記録するために構成された血圧記録装置であって、
上記被測定部位を取り巻いて装着されるカフと、
上記カフの圧力であるカフ圧を加圧し又は減圧させるためのカフ圧調整部と、
上記カフ圧調整部による上記カフ圧の減圧過程で、上記カフ圧を検出する圧力検出部と、
上記減圧過程で、上記被測定部位を通る動脈が示す脈波の拍毎に、その拍の波形特徴点が生じた時刻を検出する時刻検出部と、
上記減圧過程で、上記拍の波形特徴点が生じた時刻又はその時刻に対応した符号と、上記拍の波形特徴点が生じた時刻での上記カフ圧とを関連付けて、データ対としてメモリに順次記憶させる第1のデータ蓄積部と、
表示器と、
上記圧力検出部によって検出された上記カフ圧を、上記表示器に表示させる処理を行う第1の表示処理部と、
上記減圧過程で、上記第1の表示処理部によって上記表示器に表示される上記カフ圧を見ながら、聴診器によって上記被測定部位を通る動脈が発生するコロトコフ音を聞いた観測者が操作するように構成された操作部とを備え、
上記操作部は、上記観測者が上記コロトコフ音が発生し始めたと判断した時刻を示す第1のタイミング信号、および/または、上記コロトコフ音の発生が停止したと判断した時刻を示す第2のタイミング信号を入力するようになっており、
上記減圧過程で上記メモリに記憶された1連のデータ対のうち、上記第2のタイミング信号が示す時刻に対応するデータ対に対して1拍前に相当するデータ対を特定し、その特定されたデータ対が含む上記カフ圧を、補正された拡張期血圧値として記録する記録処理部
を備えたことを特徴とする血圧記録装置。
【請求項2】
請求項1に記載の血圧記録装置において、
上記記録処理部は、上記メモリに記憶された上記1連のデータ対のうち、上記第1のタイミング信号が示す時刻に対応するデータ対を特定し、その特定されたデータ対が含む上記カフ圧を、収縮期血圧値として記録する
ことを特徴とする血圧記録装置。
【請求項3】
請求項2に記載の血圧記録装置において、
上記記録処理部は、上記減圧過程の間に、上記操作部の操作が1回目であるか又は2回目以降であるかを判断して、上記1回目の操作が行われた時刻を、上記第1のタイミング信号が示す時刻として用いて、上記収縮期血圧値を記録し、また、上記2回目以降の操作が行われた時刻を、上記第2のタイミング信号が示す時刻として用いて、上記補正された拡張期血圧値を記録する
ことを特徴とする血圧記録装置。
【請求項4】
請求項2に記載の血圧記録装置において、
上記操作部は、収縮期血圧値を記録する指示を受けるための第1のスイッチと、拡張期血圧値を記録する指示を受けるための第2のスイッチとを含み、
上記記録処理部は、上記減圧過程の間に、上記第1のスイッチが操作された時刻を上記第1のタイミング信号が示す時刻として用いて、上記収縮期血圧値を記録し、また、上記第2のスイッチが操作された時刻を上記第2のタイミング信号が示す時刻として用いて、上記補正された拡張期血圧値を記録する
ことを特徴とする血圧記録装置。
【請求項5】
請求項1に記載の血圧記録装置において、さらに、
上記減圧過程の間に上記操作部が操作される都度、操作された時刻に対応するデータ対を特定して、それぞれ特定されたデータ対を示す情報を維持するデータ対特定部と、
上記減圧過程で上記メモリに記憶された1連のデータ対の中から、上記表示器に、上記データ対特定部によって特定されたデータ対が含む上記カフ圧を、それぞれ選択肢として表示させる第2の表示処理部と、
上記表示器に表示された上記選択肢のうち、上記観測者が拡張期血圧値に該当すると考える選択肢を選択するための選択操作部とを備え、
上記減圧過程の終了後に、上記記録処理部は、上記減圧過程で上記メモリに記憶された上記1連のデータ対のうち、上記選択操作部によって選択された選択肢が表すカフ圧を含むデータ対を、上記第2のタイミング信号が示す時刻に対応するデータ対として用いて、上記補正された拡張期血圧値を記録する
ことを特徴とする血圧記録装置。
【請求項6】
請求項1に記載の血圧記録装置において、
上記減圧過程の間に、上記操作部が操作される都度、操作された時刻に対応するデータ対を特定して、それぞれ特定されたデータ対を示す情報を維持するデータ対特定部と、
上記減圧過程の終了後に、上記記録処理部は、上記データ対特定部によって特定されたデータ対のうち、最後の操作が行われた時刻に対応するデータ対を、上記第2のタイミング信号が示す時刻に対応するデータ対として用いて、上記補正された拡張期血圧値を記録する
ことを特徴とする血圧記録装置。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか一つに記載の血圧記録装置において、さらに、
上記補正された拡張期血圧値を、上記表示器に、デジタル値として、および/または、目盛に沿った位置によって圧力値を示すマークとして表示させる第3の表示処理部
を備えたことを特徴とする血圧記録装置。
【請求項8】
請求項1から6までのいずれか一つに記載の血圧記録装置において、
上記第1のデータ蓄積部は、上記減圧過程の間に、上記データ対を、上記操作部によって1回目の操作が行われた時刻に対応するデータ対から上記メモリに順次記憶させ始めるようになっている
ことを特徴とする血圧記録装置。
【請求項9】
請求項1に記載の血圧記録装置を用いて被験者の被測定部位の血圧を測定して記録する血圧記録方法であって、
上記被測定部位に上記カフを取り巻いて装着するとともに、聴診器を上記被測定部位の動脈が通っている部分に当接し、
上記カフ圧調整部によって上記カフ圧を加圧して上記被測定部位を通る動脈の血流を一旦止めた後、上記カフ圧の減圧過程で、
上記圧力検出部によって上記カフ圧を検出するとともに、
上記時刻検出部によって、上記被測定部位を通る動脈が示す脈波の拍毎に、その拍の波形特徴点が生じた時刻を表す信号を検出し、
上記第1のデータ蓄積部によって、上記拍の波形特徴点が生じた時刻又はその時刻に対応した符号と、その拍の波形特徴点が生じた時刻での上記カフ圧とを関連付けて、データ対として上記メモリに順次記憶させ、
上記第1の表示処理部によって上記表示器に表示される上記カフ圧を見ながら、上記聴診器によって上記被測定部位を通る動脈が発生するコロトコフ音を聞いた観測者が、上記操作部を操作することによって、少なくとも、上記コロトコフ音の発生が停止したと判断した時刻を示す第2のタイミング信号を入力し、
上記減圧過程の間または上記減圧過程の終了後に、上記記録処理部によって、上記減圧過程で上記メモリに記憶された1連のデータ対のうち、上記第2のタイミング信号が示す時刻に対応するデータ対に対して1拍前に相当するデータ対を特定し、その特定されたデータ対が含む上記カフ圧を、補正された拡張期血圧値として記録する
ことを特徴とする血圧記録方法。
【請求項10】
被験者の被測定部位を通る動脈が発生するコロトコフ音に基づいて血圧を測定して記録するために構成された血圧記録装置であって、
上記被測定部位を取り巻いて装着されるカフと、
上記カフの圧力であるカフ圧を加圧し又は減圧させるためのカフ圧調整部と、
上記カフ圧調整部による上記カフ圧の減圧過程で、上記カフ圧を検出する圧力検出部と、
上記減圧過程で、上記被測定部位を通る動脈が発生した音を電気信号である音信号に変換して出力するマイクロフォンと、
上記マイクロフォンが出力する上記音信号からコロトコフ音を示すコロトコフ音信号を検出するコロトコフ音信号検出部と、
上記減圧過程で、上記コロトコフ音信号が検出された時刻又はその時刻に対応した符号と、そのコロトコフ音信号が検出された時刻での上記カフ圧とを関連付けて、データ対としてメモリに順次記憶させる第2のデータ蓄積部と、
表示器と、
上記圧力検出部によって検出された上記カフ圧を、上記表示器に表示させる処理を行う第1の表示処理部と、
上記減圧過程で、上記第1の表示処理部によって上記表示器に表示される上記カフ圧を見ながら、聴診器によって上記被測定部位を通る動脈が発生するコロトコフ音を聞いた、または、電音変換デバイスによって上記コロトコフ音信号が示すコロトコフ音を聞いた観測者が操作するように構成された操作部とを備え、
上記操作部は、上記観測者が上記コロトコフ音が発生し始めたと判断した時刻を示す第1のタイミング信号、および/または、上記コロトコフ音の発生が停止したと判断した時刻を示す第2のタイミング信号を入力するようになっており、
上記減圧過程で上記メモリに記憶された1連のデータ対のうち、上記第2のタイミング信号が示す時刻から遡って最後に記憶されたデータ対を特定し、その特定されたデータ対が含む上記カフ圧を、補正された拡張期血圧値として記録する記録処理部
を備えたことを特徴とする血圧記録装置。
【請求項11】
請求項10に記載の血圧記録装置において、
上記被測定部位を有する被験者の在所に、
上記カフ、上記カフ圧調整部、上記圧力検出部、上記マイクロフォン、および上記コロトコフ音信号検出部が配置されるとともに、
上記減圧過程で、上記コロトコフ音信号検出部が検出した上記コロトコフ音信号と、上記圧力検出部によって検出された上記カフ圧を表すカフ圧信号とを時間的に同期させて、測定データとして順次送信する送信部が設けられ、
上記被験者の在所から離間した上記観測者の在所に、
上記測定データを受信する受信部が設けられるとともに、
上記第2のデータ蓄積部、上記メモリ、上記表示器、上記電音変換デバイス、上記第1の表示処理部、上記操作部、および上記記録処理部が配置され、
上記減圧過程で、受信された上記測定データに基づいて、
上記第1の表示処理部は、上記カフ圧を、上記表示器に表示させ、
上記第2のデータ蓄積部は、上記コロトコフ音信号が検出された時刻又はその時刻に対応した符号と、そのコロトコフ音信号が検出された時刻での上記カフ圧とを関連付けて、データ対として上記メモリに順次記憶させ、
上記減圧過程で、上記第1の表示処理部によって上記表示器に表示される上記カフ圧を見ながら、上記電音変換デバイスによって上記コロトコフ音信号が示すコロトコフ音を聞いた観測者が、上記操作部を操作することによって、少なくとも、上記第2のタイミング信号を入力するようになっている
ことを特徴とする血圧記録装置。
【請求項12】
請求項10に記載の血圧記録装置を用いて被験者の被測定部位の血圧を測定して記録する血圧記録方法であって、
上記被測定部位に上記カフを取り巻いて装着するとともに、
上記被測定部位を通る動脈が発生した音を取得するように上記マイクロフォンを配置し、または、上記マイクロフォンの配置に加えて、上記聴診器を上記被測定部位の動脈が通っている部分に当接し、
上記カフ圧調整部によって上記カフ圧を加圧して上記被測定部位を通る動脈の血流を一旦止めた後、上記カフ圧の減圧過程で、
上記圧力検出部によって上記カフ圧を検出するとともに、
上記マイクロフォンによって、上記被測定部位を通る動脈が発生した音を上記音信号に変換して出力し、
上記コロトコフ音信号検出部によって、上記マイクロフォンが出力する上記音信号から上記コロトコフ音信号を検出し、
上記第2のデータ蓄積部によって、上記コロトコフ音信号が検出された時刻又はその時刻に対応した符号と、そのコロトコフ音信号が検出された時刻での上記カフ圧とを関連付けて、データ対として上記メモリに順次記憶させ、
上記第1の表示処理部によって上記表示器に表示される上記カフ圧を見ながら、上記聴診器によって上記被測定部位を通る動脈が発生するコロトコフ音を聞いた、または、上記電音変換デバイスによって上記コロトコフ音信号が示すコロトコフ音を聞いた観測者が、上記操作部を操作することによって、少なくとも、上記コロトコフ音の発生が停止したと判断した時刻を示す第2のタイミング信号を入力し、
上記減圧過程の間または上記減圧過程の終了後に、上記記録処理部によって、上記減圧過程で上記メモリに記憶された1連のデータ対のうち、上記第2のタイミング信号が示す時刻から遡って最後に記憶されたデータ対を特定し、その特定されたデータ対が含む上記カフ圧を、補正された拡張期血圧値として記録する
ことを特徴とする血圧記録方法。
【請求項13】
請求項1から6までのいずれか一つ、請求項10、または請求項11に記載の血圧記録装置において、
上記第1の表示処理部は、上記圧力検出部によって検出された上記カフ圧を、上記表示器に、目盛に沿った棒グラフとして表示させる処理を行うようになっている
ことを特徴とする血圧記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は血圧記録装置に関し、より詳しくは、被測定部位を通る動脈が発生するコロトコフ音に基づいて血圧を測定して記録する血圧記録装置に関する。また、この発明は、そのような血圧記録装置を用いて血圧を測定して記録する血圧記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の血圧記録装置としては、例えば非特許文献1(“UM-102/UM-102B 水銀レス血圧計 取扱説明書”、株式会社エー・アンド・デイ、インターネット< URL :https://www.aandd.co.jp/products/medical/equipment/me-sphygmomanometer/um102/>)に開示されているように、伝統的な水銀式血圧計に代えて、被験者の上腕に装着されたカフの圧力(カフ圧)を、目盛に沿った棒グラフとして電子的に表示する圧力インジケータを備えた手動式電子血圧計が知られている。この電子血圧計(従来例)は、HOLDボタンを備え、減圧過程(血圧測定中)で観測者(医師、看護師など)が聴診法により最高血圧または最低血圧を判断した時に上記HOLDボタンを押すと、そのときの圧力値を数字で表示し保持(実質的に記録)するようになっている(ホールド機能)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】“UM-102/UM-102B 水銀レス血圧計 取扱説明書”、[online]、株式会社エー・アンド・デイ、[令和5年1月2日検索]、インターネット< URL :https://www.aandd.co.jp/products/medical/equipment/me-sphygmomanometer/um102/>
【非特許文献2】ジョージ・エス・スタジオウ(George S. Stergiou)他、“国際プロトコルに準拠したオフィス血圧測定用 A&D UM-101 プロフェッショナルハイブリッドデバイスの検証(Validation of the A&D UM-101 professional hybrid device for office blood pressure measurement according to the International Protocol)”、Blood Pressure Monitoring 2008, Vol. 13, No. 1, pp37-42
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献2(George S. Stergiou et al, “Validation of the A&D UM-101 professional hybrid device for office blood pressure measurement according to the International Protocol”, Blood Pressure Monitoring 2008, Vol. 13, No. 1, pp37-42)に記載されているように、上記電子血圧計では、HOLDボタン(mark button)を使用した場合、血圧が実際の血圧よりも系統的に低く評価されて、検証基準を満たすことができない、という問題がある。同文献では、その理由は、観測者がHOLDボタン(mark button)を押すのに必要な反応時間によるものである、と考察されている。
【0005】
ここで、本発明者が、上記電子血圧計のホールド機能を用いて血圧測定実験を繰り返したところ、血圧が実際の血圧よりも低く評価される傾向は、最高血圧よりも最低血圧において顕著に現れることが判明した。具体的には、本発明者は、上記電子血圧計を用いて、通常の聴診法による血圧測定と、ホールド機能を用いた血圧測定とを同時に行った。通常の聴診法による血圧測定では、上記圧力インジケータに棒グラフとしてリアルタイムで表示されるカフ圧を見ながら、聴診器によって聞こえるコロトコフ音に基づいて、観測者が最高血圧と最低血圧を読み取った(この読み取られた値を「聴診値」と呼ぶ。)。一方、ホールド機能を用いた血圧測定では、上記圧力インジケータに棒グラフとしてリアルタイムで表示されるカフ圧を見ながら、聴診器によって聞こえるコロトコフ音に基づいて、観測者が最高血圧または最低血圧を判断した時にHOLDボタンを押して、その時のカフ圧を記録した(この記録された値を「HOLD値」と呼ぶ。)。そして、60回の測定の都度、得られたHOLD値と聴診値との間の差分(HOLD値-聴診値)を求めた。
図22(A)は、得られた最高血圧について、聴診値を横軸で表し、差分(HOLD値-聴診値)を縦軸で表したときの散布図を示している。また、
図22(B)は、得られた最低血圧について、聴診値を横軸で表し、差分(HOLD値-聴診値)を縦軸で表したときの散布図を示している。これらの図から分かるように、最高血圧について、差分(HOLD値-聴診値)の平均値は-1.5mmHgであった。一方、最低血圧について、差分(HOLD値-聴診値)の平均値は-3.2mmHgであった。このように、上記電子血圧計のホールド機能を用いたとき、血圧が実際の血圧(聴診値)よりも低く評価される傾向は、最低血圧においてより顕著に現れた。
【0006】
この理由は、次のように分析される。
図21上段は、時間経過に伴う動脈内圧Paの推移と、カフ圧Pcの変化とを示している。動脈内圧Paは、脈波の拍毎に、最低血圧DIAと最高血圧SYSとの間で立ち上がり、ピークを示して立ち下がる山状の波形を示している。カフ圧Pcは、送気球によって、予想最高血圧より約30mmHg高くPcmaxまで一旦加圧され、続いて、典型的には2~3mmHg/秒の減圧速度で減圧される。そして、カフ圧Pcが最高血圧SYSを下回ると、
図21下段に示すように、拍毎にコロトコフ音Kcが発生し始め、さらに、カフ圧Pcが最低血圧DIAを下回ると、コロトコフ音Kcの発生が停止する。ここで、観測者は、最高血圧SYSについて、コロトコフ音Kcが発生し始めたと判断できた時刻、つまり、無音の状態から最初のコロトコフ音Kcfが聞こえた時刻t1に、HOLDボタンを押す(なお、簡単のため、
図21下段では、観測者の反応時間を省略して図示している。)。したがって、観測者は、比較的正しい時刻にHOLDボタンを押すことができる。一方、観測者は、最低血圧DIAについて、コロトコフ音Kcが拍毎に聞こえ続けている状態から聞こえなくなった時刻、詳しくは、実際に最後のコロトコフ音Kceが聞こえた時刻t20から1拍分Δt遅れて聞こえなくなったと初めて判断できた時刻t2に、HOLDボタンを押す。このため、観測者がHOLDボタンを押した時刻t2には、カフ圧Pcは既に真の最低血圧DIAから1拍分ΔPだけ下がった値になっている。このことが、上記電子血圧計のホールド機能を用いたとき、得られた最低血圧が実際の血圧(聴診値)よりも特に低く評価(記録)される理由である、と考えられる。この分析は、本発明者により独自に行われた。
【0007】
そこで、この発明の課題は、被験者の被測定部位を通る動脈が発生するコロトコフ音に基づいて血圧を測定して記録するために構成された血圧記録装置であって、観測者がコロトコフ音に基づいて操作部(例えば、上記HOLDボタンのような)を操作したとき、拡張期血圧値(最低血圧)を精度良く記録できるものを提供することにある。この発明の課題は、そのような血圧記録装置を用いて血圧を測定して記録する血圧記録方法であって、拡張期血圧値(最低血圧)を精度良く記録できるものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、第1の局面では、この開示の血圧記録装置は、
被験者の被測定部位を通る動脈が発生するコロトコフ音に基づいて血圧を測定して記録するために構成された血圧記録装置であって、
上記被測定部位を取り巻いて装着されるカフと、
上記カフの圧力であるカフ圧を加圧し又は減圧させるためのカフ圧調整部と、
上記カフ圧調整部による上記カフ圧の減圧過程で、上記カフ圧を検出する圧力検出部と、
上記減圧過程で、上記被測定部位を通る動脈が示す脈波の拍毎に、その拍の波形特徴点が生じた時刻を検出する時刻検出部と、
上記減圧過程で、上記拍の波形特徴点が生じた時刻又はその時刻に対応した符号と、上記拍の波形特徴点が生じた時刻での上記カフ圧とを関連付けて、データ対としてメモリに順次記憶させる第1のデータ蓄積部と、
表示器と、
上記圧力検出部によって検出された上記カフ圧を、上記表示器に表示させる処理を行う第1の表示処理部と、
上記減圧過程で、上記第1の表示処理部によって上記表示器に表示される上記カフ圧を見ながら、聴診器によって上記被測定部位を通る動脈が発生するコロトコフ音を聞いた観測者が操作するように構成された操作部とを備え、
上記操作部は、上記観測者が上記コロトコフ音が発生し始めたと判断した時刻を示す第1のタイミング信号、および/または、上記コロトコフ音の発生が停止したと判断した時刻を示す第2のタイミング信号を入力するようになっており、
上記減圧過程で上記メモリに記憶された1連のデータ対のうち、上記第2のタイミング信号が示す時刻に対応するデータ対に対して1拍前に相当するデータ対を特定し、その特定されたデータ対が含む上記カフ圧を、補正された拡張期血圧値として記録する記録処理部
を備えたことを特徴とする。
【0009】
本明細書で、「被験者」とは、血圧を測定される対象となる者、典型的には、患者を指す。また、「観測者」とは、血圧を測定して記録しようとする者、典型的には、医師、看護師などの医療従事者を指す。
【0010】
「コロトコフ音」とは、カフ圧の減圧過程で拍毎に被測定部位を通る動脈が発生する音を指す。「被測定部位」とは、典型的には、被験者の上腕を指す。
【0011】
また、脈波の拍の「波形特徴点」とは、その拍の立ち上がりを示す立ち上がり点、または、その拍のピーク(山の頂点)を示すピーク点のような、その拍内でのタイミングを特定し得る特徴的な点を指す。
【0012】
また、波形特徴点が生じた「時刻に対応した符号」とは、例えば、拍毎に付された通し番号(拍番号)を指す。
【0013】
「操作部」とは、例えば、従来例におけるHOLDボタンのような、押されると押されたタイミングで一時的にオンするスイッチ、または、タッチされるとタッチされたタイミングで一時的にオンするタッチキーなど、観測者がタイミング信号を入力可能な手段を広く含む。
【0014】
「タイミング信号が示す時刻に対応するデータ対」とは、上記減圧過程で上記メモリに記憶された1連のデータ対のうち、そのタイミング信号が示す時刻に対して直前(具体的には、観測者の反応時間分だけ直前)に記憶されたデータ対を指す。
【0015】
この第1の局面の血圧記録装置では、血圧測定の準備として、上記カフが被験者の被測定部位を取り巻いて装着される。また、聴診器が上記被測定部位の動脈が通っている部分(典型的には、上記カフよりも下流側の部分)に当接される。その状態で、上記カフ圧調整部によって上記カフの圧力であるカフ圧が加圧されて上記被測定部位を通る動脈の血流が一旦止められた後、上記カフ圧の減圧過程で、上記圧力検出部によって上記カフ圧が検出される。これとともに、上記減圧過程で、上記時刻検出部によって、上記被測定部位を通る動脈が示す脈波の拍毎に、その拍の波形特徴点が生じた時刻が検出される。また、上記減圧過程で、上記第1のデータ蓄積部によって、上記拍の波形特徴点が生じた時刻又はその時刻に対応した符号と、その拍の波形特徴点が生じた時刻での上記カフ圧とが関連付けられて、データ対として上記メモリに順次記憶される。さらに、上記減圧過程で、上記第1の表示処理部によって上記表示器に表示される上記カフ圧を見ながら、上記聴診器によって上記被測定部位を通る動脈が発生するコロトコフ音を聞いた観測者が、上記操作部を操作することによって、少なくとも、上記コロトコフ音の発生が停止したと判断した時刻を示す第2のタイミング信号を入力する。すると、上記記録処理部によって、上記減圧過程で上記メモリに記憶された1連のデータ対のうち、上記第2のタイミング信号が示す時刻に対応するデータ対に対して1拍前に相当するデータ対が特定され、その特定されたデータ対が含む上記カフ圧が、補正された拡張期血圧値として記録される。
【0016】
このように、この第1の局面の血圧記録装置では、上記記録処理部によって、上記減圧過程で上記メモリに記憶された1連のデータ対のうち、上記第2のタイミング信号が示す時刻に対応するデータ対に対して1拍前に相当するデータ対が特定され、その特定されたデータ対が含む上記カフ圧が、補正された拡張期血圧値として記録される。既述の本発明者の分析によれば、上記補正された拡張期血圧値は、観測者がコロトコフ音が拍毎に聞こえ続けている状態から聞こえなくなったと初めて判断できた時刻ではなく、実際に最後のコロトコフ音が聞こえた時刻に対応するカフ圧を表している。したがって、この血圧記録装置によれば、最低血圧が1拍分程度低く評価される現象を補正できる。
【0017】
また、非特許文献2に記載されているように、観測者が上記コロトコフ音の発生が停止したと判断してから上記操作部を操作して上記第2のタイミング信号を入力するまでに若干の反応時間を要すると考えられる。しかし、この第1の局面の血圧記録装置では、上記減圧過程で、上記第1のデータ蓄積部によって、そのような反応時間による影響を受けずに、上記データ対(すなわち、上記拍の波形特徴点が生じた時刻又はその時刻に対応した符号と、その拍の波形特徴点が生じた時刻での上記カフ圧)が上記メモリに順次記憶される。したがって、上記記録処理部によって特定されたデータ対は、観測者の反応時間による影響を受けずに記憶されたものである。また、観測者の反応時間は、通常は1拍分を超えることがないと想定される。この結果、上記補正された拡張期血圧値は、実際上、観測者の反応時間による影響を受けないものとなる。
【0018】
なお、上記拍毎に、その拍の波形特徴点が生じる時刻と、その拍のコロトコフ音が発生する時刻との間に、僅かなズレ(時間間隔)が有るかも知れない。しかし、通常は、そのズレは半拍分に達しないので、そのズレが血圧測定(記録)の精度を実質的に低下させることはない。
【0019】
以上により、この第1の局面の血圧記録装置によれば、従来例に比して拡張期血圧値を精度良く記録できる。
【0020】
一実施形態の血圧記録装置では、
上記記録処理部は、上記メモリに記憶された上記1連のデータ対のうち、上記第1のタイミング信号が示す時刻に対応するデータ対を特定し、その特定されたデータ対が含む上記カフ圧を、収縮期血圧値として記録する
ことを特徴とする。
【0021】
既述の本発明者の分析によれば、上記第1のタイミング信号が示す時刻は、上記観測者がコロトコフ音が発生し始めたと判断した時刻、つまり、無音の状態から最初のコロトコフ音が聞こえたと判断した時刻に相当する。ここで、非特許文献2に記載されているように、観測者が上記コロトコフ音の発生が停止したと判断してから上記操作部を操作して上記第1のタイミング信号を入力するまでに若干の反応時間を要すると考えられる。しかし、既述のように、上記記録処理部によって特定されたデータ対は、観測者の反応時間による影響を受けずに記憶されたものである。また、観測者の反応時間は、通常は1拍分を超えることがないと想定される。この結果、この一実施形態の血圧記録装置では、記録された収縮期血圧値は、実際上、観測者の反応時間による影響を受けないものとなる。したがって、この一実施形態の血圧記録装置によれば、収縮期血圧値を精度良く記録できる。
【0022】
一実施形態の血圧記録装置では、
上記記録処理部は、上記減圧過程の間に、上記操作部の操作が1回目であるか又は2回目以降であるかを判断して、上記1回目の操作が行われた時刻を、上記第1のタイミング信号が示す時刻として用いて、上記収縮期血圧値を記録し、また、上記2回目以降の操作が行われた時刻を、上記第2のタイミング信号が示す時刻として用いて、上記補正された拡張期血圧値を記録する
ことを特徴とする。
【0023】
典型的なケースでは、観測者は、上記操作部を1回目に操作したとき収縮期血圧値を記録し、また、上記操作部を2回目に操作したとき拡張期血圧値(本発明では、補正された拡張期血圧値)を記録することを意図している、と想定される。そこで、この一実施形態の血圧記録装置では、上記記録処理部は、上記減圧過程の間に、上記操作部の操作が1回目であるか又は2回目以降であるかを判断して、上記1回目の操作が行われた時刻を、上記第1のタイミング信号が示す時刻として用いて、上記収縮期血圧値を記録する。また、上記2回目以降の操作が行われた時刻を、上記第2のタイミング信号が示す時刻として用いて、上記補正された拡張期血圧値を記録する。これにより、この一実施形態の血圧記録装置によれば、上記収縮期血圧値と上記補正された拡張期血圧値との両方を迅速に記録できる。観測者は、上記減圧過程の途中であっても、上記補正された拡張期血圧値を記録でき次第、血圧測定を終了できる。
【0024】
なお、2回目「以降」とは、被験者が不整脈を示している場合、妊婦である場合など、上記減圧過程の間に上記操作部が3回以上操作される可能性に対応できるようにしたものである。
【0025】
一実施形態の血圧記録装置では、
上記操作部は、収縮期血圧値を記録する指示を受けるための第1のスイッチと、拡張期血圧値を記録する指示を受けるための第2のスイッチとを含み、
上記記録処理部は、上記減圧過程の間に、上記第1のスイッチが操作された時刻を上記第1のタイミング信号が示す時刻として用いて、上記収縮期血圧値を記録し、また、上記第2のスイッチが操作された時刻を上記第2のタイミング信号が示す時刻として用いて、上記補正された拡張期血圧値を記録する
ことを特徴とする。
【0026】
この一実施形態の血圧記録装置では、上記減圧過程の間に、観測者は、上記コロトコフ音が発生し始めたと判断した時刻に、収縮期血圧値を記録するために上記第1のスイッチを操作する。すると、上記記録処理部は、上記減圧過程の間に、上記第1のスイッチが操作された時刻を上記第1のタイミング信号が示す時刻として用いて、上記収縮期血圧値を記録する。また、上記減圧過程の間に、観測者は、上記コロトコフ音の発生が停止したと判断した時刻に、拡張期血圧値を記録するために上記第2のスイッチを操作する。すると、上記記録処理部は、上記減圧過程の間に、上記第2のスイッチが操作された時刻を上記第2のタイミング信号が示す時刻として用いて、上記補正された拡張期血圧値を記録する。これにより、この一実施形態の血圧記録装置によれば、観測者の意図(収縮期血圧値を記録するか、拡張期血圧値を記録するか)に応じて、上記収縮期血圧値と上記補正された拡張期血圧値との両方を迅速に記録できる。また、観測者は、上記減圧過程の途中であっても、上記補正された拡張期血圧値を記録でき次第、血圧測定を終了できる。しかも、上記減圧過程で、上記記録処理部が上記操作部の操作が1回目であるか2回目であるかを判断する必要がないので、上記記録処理部による処理が簡単になる。
【0027】
一実施形態の血圧記録装置では、
上記減圧過程の間に上記操作部が操作される都度、操作された時刻に対応するデータ対を特定して、それぞれ特定されたデータ対を示す情報を維持するデータ対特定部と、
上記減圧過程で上記メモリに記憶された1連のデータ対の中から、上記表示器に、上記データ対特定部によって特定されたデータ対が含む上記カフ圧を、それぞれ選択肢として表示させる第2の表示処理部と、
上記表示器に表示された上記選択肢のうち、上記観測者が拡張期血圧値に該当すると考える選択肢を選択するための選択操作部とを備え、
上記減圧過程の終了後に、上記記録処理部は、上記減圧過程で上記メモリに記憶された上記1連のデータ対のうち、上記選択操作部によって選択された選択肢が表すカフ圧を含むデータ対を、上記第2のタイミング信号が示す時刻に対応するデータ対として用いて、上記補正された拡張期血圧値を記録する
ことを特徴とする。
【0028】
本明細書で、「操作された時刻に対応するデータ対」とは、上記減圧過程で上記メモリに記憶された1連のデータ対のうち、その操作が行われた時刻に対して直前(具体的には、観測者の反応時間分だけ直前)に記憶されたデータ対を指す。
【0029】
また、減圧過程の「終了後」とは、例えば、上記カフ圧が、拡張期血圧が通常想定されない予め定められた圧力(例えば、30mmHg)まで達した時の後を指す。
【0030】
また、「選択操作部」とは、表示器に表示された選択肢(例えば、目盛に沿った位置によって圧力値を表すマーク)を選択可能な手段を広く含む。
【0031】
この一実施形態の血圧記録装置では、上記データ対特定部は、上記減圧過程の間に上記操作部が操作される都度、操作された時刻に対応するデータ対を特定して、それぞれ特定されたデータ対を示す情報を維持する。上記第2の表示処理部は、上記減圧過程で上記メモリに記憶された1連のデータ対の中から、上記表示器に、上記データ対特定部によって特定されたデータ対が含む上記カフ圧を、それぞれ選択肢(例えば、目盛に沿った位置によって圧力値を示すマーク)として表示させる。上記観測者は、上記選択操作部によって、上記表示器に表示された上記選択肢のうち、上記観測者が拡張期血圧に該当すると考える選択肢を選択する。すると、上記減圧過程の終了後に、上記記録処理部は、上記減圧過程で上記メモリに記憶された上記1連のデータ対のうち、上記選択操作部によって選択された選択肢が表すカフ圧を含むデータ対を、上記第2のタイミング信号が示す時刻に対応するデータ対として用いて、上記補正された拡張期血圧値を記録する。これにより、この一実施形態の血圧記録装置によれば、観測者の選択(いずれの選択肢が拡張期血圧に該当するかの選択)に応じて、上記補正された拡張期血圧値を記録できる。
【0032】
一実施形態の血圧記録装置では、
上記減圧過程の間に、上記操作部が操作される都度、操作された時刻に対応するデータ対を特定して、それぞれ特定されたデータ対を示す情報を維持するデータ対特定部と、
上記減圧過程の終了後に、上記記録処理部は、上記データ対特定部によって特定されたデータ対のうち、最後の操作が行われた時刻に対応するデータ対を、上記第2のタイミング信号が示す時刻に対応するデータ対として用いて、上記補正された拡張期血圧値を記録する
ことを特徴とする。
【0033】
この一実施形態の血圧記録装置では、上記減圧過程の間に、上記データ対特定部は、上記操作部が操作される都度、操作された時刻に対応するデータ対を特定して、それぞれ特定されたデータ対を示す情報を維持する。上記減圧過程の終了後に、上記記録処理部は、上記データ対特定部によって特定されたデータ対のうち、最後の操作が行われた時刻に対応するデータ対を、上記第2のタイミング信号が示す時刻に対応するデータ対として用いて、上記補正された拡張期血圧値を記録する。この一実施形態の血圧記録装置によれば、上記記録処理部による処理が簡単になる。
【0034】
一実施形態の血圧記録装置では、さらに、
上記補正された拡張期血圧値を、上記表示器に、デジタル値として、および/または、目盛に沿った位置によって圧力値を示すマークとして表示させる第3の表示処理部
を備えたことを特徴とする。
【0035】
この一実施形態の血圧記録装置では、上記第3の表示処理部は、上記補正された拡張期血圧値を、上記表示器に、デジタル値として、および/または、目盛に沿った位置によって圧力値を示すマークとして表示させる。したがって、観測者は、上記表示器を見ることによって、上記補正された拡張期血圧値を、容易に認識できる。
【0036】
一実施形態の血圧記録装置では、
上記第1のデータ蓄積部は、上記減圧過程の間に、上記データ対を、上記操作部によって1回目の操作が行われた時刻に対応するデータ対から上記メモリに順次記憶させ始めるようになっている
ことを特徴とする。
【0037】
この一実施形態の血圧記録装置では、上記第1のデータ蓄積部が例えば上記減圧過程の開始と同時に上記データ対を上記メモリに順次記憶させ始める場合に比して、上記メモリのリソースを節約できる。
【0038】
第2の局面では、この開示の血圧記録方法は、
第1の局面の血圧記録装置を用いて被験者の被測定部位の血圧を測定して記録する血圧記録方法であって、
上記被測定部位に上記カフを取り巻いて装着するとともに、聴診器を上記被測定部位の動脈が通っている部分に当接し、
上記カフ圧調整部によって上記カフ圧を加圧して上記被測定部位を通る動脈の血流を一旦止めた後、上記カフ圧の減圧過程で、
上記圧力検出部によって上記カフ圧を検出するとともに、
上記時刻検出部によって、上記被測定部位を通る動脈が示す脈波の拍毎に、その拍の波形特徴点が生じた時刻を表す信号を検出し、
上記第1のデータ蓄積部によって、上記拍の波形特徴点が生じた時刻又はその時刻に対応した符号と、その拍の波形特徴点が生じた時刻での上記カフ圧とを関連付けて、データ対として上記メモリに順次記憶させ、
上記第1の表示処理部によって上記表示器に表示される上記カフ圧を見ながら、上記聴診器によって上記被測定部位を通る動脈が発生するコロトコフ音を聞いた観測者が、上記操作部を操作することによって、少なくとも、上記コロトコフ音の発生が停止したと判断した時刻を示す第2のタイミング信号を入力し、
上記減圧過程の間または上記減圧過程の終了後に、上記記録処理部によって、上記減圧過程で上記メモリに記憶された1連のデータ対のうち、上記第2のタイミング信号が示す時刻に対応するデータ対に対して1拍前に相当するデータ対を特定し、その特定されたデータ対が含む上記カフ圧を、補正された拡張期血圧値として記録する
ことを特徴とする。
【0039】
この第2の局面の血圧記録方法によれば、従来例に比して拡張期血圧値を精度良く記録できる。
【0040】
第3の局面では、この開示の血圧記録装置は、
被験者の被測定部位を通る動脈が発生するコロトコフ音に基づいて血圧を測定して記録するために構成された血圧記録装置であって、
上記被測定部位を取り巻いて装着されるカフと、
上記カフの圧力であるカフ圧を加圧し又は減圧させるためのカフ圧調整部と、
上記カフ圧調整部による上記カフ圧の減圧過程で、上記カフ圧を検出する圧力検出部と、
上記減圧過程で、上記被測定部位を通る動脈が発生した音を電気信号である音信号に変換して出力するマイクロフォンと、
上記マイクロフォンが出力する上記音信号からコロトコフ音を示すコロトコフ音信号を検出するコロトコフ音信号検出部と、
上記減圧過程で、上記コロトコフ音信号が検出された時刻又はその時刻に対応した符号と、そのコロトコフ音信号が検出された時刻での上記カフ圧とを関連付けて、データ対としてメモリに順次記憶させる第2のデータ蓄積部と、
表示器と、
上記圧力検出部によって検出された上記カフ圧を、上記表示器に、目盛に沿った棒グラフとしてリアルタイムで表示させる処理を行う第1の表示処理部と、
上記減圧過程で、上記第1の表示処理部によって上記表示器に表示される上記カフ圧を見ながら、聴診器によって上記被測定部位を通る動脈が発生するコロトコフ音を聞いた、または、電音変換デバイスによって上記コロトコフ音信号が示すコロトコフ音を聞いた観測者が操作するように構成された操作部とを備え、
上記操作部は、上記観測者が上記コロトコフ音が発生し始めたと判断した時刻を示す第1のタイミング信号、および/または、上記コロトコフ音の発生が停止したと判断した時刻を示す第2のタイミング信号を入力するようになっており、
上記減圧過程で上記メモリに記憶された1連のデータ対のうち、上記第2のタイミング信号が示す時刻から遡って最後に記憶されたデータ対を特定し、その特定されたデータ対が含む上記カフ圧を、補正された拡張期血圧値として記録する記録処理部
を備えたことを特徴とする。
【0041】
本明細書で、「コロトコフ音信号」とは、コロトコフ音を示すパルス状の電気信号を指す。また、「電音変換デバイス」とは、電気信号を音に変換するデバイス、例えば、スピーカ、ヘッドフォン、イヤフォンなどを指す。
【0042】
この第3の局面の血圧記録装置では、血圧測定の準備として、上記カフが被験者の被測定部位を取り巻いて装着される。また、上記被測定部位を通る動脈が発生した音を取得するように上記マイクロフォンが配置される。または、上記マイクロフォンの配置に加えて、上記被測定部位の動脈が通っている部分(典型的には、上記カフよりも下流側の部分)に聴診器が当接される。その状態で、上記カフ圧調整部によって上記カフの圧力であるカフ圧が加圧されて上記被測定部位を通る動脈の血流が一旦止められた後、上記カフ圧の減圧過程で、上記圧力検出部によって上記カフ圧が検出される。これとともに、上記減圧過程で、上記コロトコフ音検出部によって、上記マイクロフォンが出力する上記音信号からコロトコフ音を示すコロトコフ音信号が検出される。または、それに加えて、上記マイクロフォンによって、上記被測定部位を通る動脈が発生した音が電気信号である音信号に変換されて出力される。また、上記減圧過程で、上記第2のデータ蓄積部によって、上記コロトコフ音信号が検出された時刻又はその時刻に対応した符号と、そのコロトコフ音信号が検出された時刻での上記カフ圧とが関連付けられて、データ対として上記メモリに順次記憶される。さらに、上記減圧過程で、上記第1の表示処理部によって上記表示器に表示される上記カフ圧を見ながら、上記聴診器によって上記被測定部位を通る動脈が発生するコロトコフ音を聞いた、または、上記電音変換デバイスによって上記コロトコフ音信号が示すコロトコフ音を聞いた観測者が、上記操作部によって、少なくとも、上記コロトコフ音の発生が停止したと判断した時刻を示す第2のタイミング信号を入力する。すると、上記記録処理部によって、上記減圧過程で上記メモリに記憶された1連のデータ対のうち、上記第2のタイミング信号が示す時刻から遡って最後に記憶されたデータ対が特定され、その特定されたデータ対が含む上記カフ圧が、補正された拡張期血圧値として記録される。
【0043】
このように、この第3の局面の血圧記録装置では、上記記録処理部によって、上記減圧過程で上記メモリに記憶された1連のデータ対のうち、上記第2のタイミング信号が示す時刻から遡って最後に記憶されたデータ対が特定され、その特定されたデータ対が含む上記カフ圧が、補正された拡張期血圧値として記録される。既述の本発明者の分析によれば、上記補正された拡張期血圧値は、観測者がコロトコフ音が拍毎に聞こえ続けている状態から聞こえなくなったと初めて判断できた時刻ではなく、実際に最後のコロトコフ音が聞こえた時刻に対応するカフ圧を表している。したがって、この血圧記録装置によれば、最低血圧が1拍分程度低く評価される現象を補正できる。
【0044】
また、非特許文献2(George S. Stergiou et al, “Validation of the A&D UM-101 professional hybrid device for office blood pressure measurement according to the International Protocol”, Blood Pressure Monitoring 2008, Vol. 13, No. 1, pp37-42)に記載されているように、観測者が上記コロトコフ音の発生が停止したと判断してから上記操作部を操作して上記第2のタイミング信号を入力するまでに若干の反応時間を要すると考えられる。しかし、この第3の局面の血圧記録装置では、上記減圧過程で、上記第2のデータ蓄積部によって、そのような反応時間による影響を受けずに、上記データ対(すなわち、上記コロトコフ音信号が検出された時刻又はその時刻に対応した符号と、そのコロトコフ音信号が検出された時刻での上記カフ圧)が上記メモリに順次記憶される。したがって、上記記録処理部によって特定されたデータ対は、観測者の反応時間による影響を受けずに記憶されたものである。この結果、上記補正された拡張期血圧値は、実際上、観測者の反応時間による影響を受けないものとなる。
【0045】
以上により、この第3の局面の血圧記録装置によれば、従来例に比して拡張期血圧値を精度良く記録できる。
【0046】
一実施形態の血圧記録装置では、
上記被測定部位を有する被験者の在所に、
上記カフ、上記カフ圧調整部、上記圧力検出部、上記マイクロフォン、および上記コロトコフ音信号検出部が配置されるとともに、
上記減圧過程で、上記コロトコフ音信号検出部が検出した上記コロトコフ音信号と、上記圧力検出部によって検出された上記カフ圧を表すカフ圧信号とを時間的に同期させて、測定データとして順次送信する送信部が設けられ、
上記被験者の在所から離間した上記観測者の在所に、
上記測定データを受信する受信部が設けられるとともに、
上記第2のデータ蓄積部、上記メモリ、上記表示器、上記電音変換デバイス、上記第1の表示処理部、上記操作部、および上記記録処理部が配置され、
上記減圧過程で、受信された上記測定データに基づいて、
上記第1の表示処理部は、上記カフ圧を、上記表示器に表示させ、
上記第2のデータ蓄積部は、上記コロトコフ音信号が検出された時刻又はその時刻に対応した符号と、そのコロトコフ音信号が検出された時刻での上記カフ圧とを関連付けて、データ対として上記メモリに順次記憶させ、
上記減圧過程で、上記第1の表示処理部によって上記表示器に表示される上記カフ圧を見ながら、上記電音変換デバイスによって上記コロトコフ音信号が示すコロトコフ音を聞いた観測者が、上記操作部を操作することによって、少なくとも、上記第2のタイミング信号を入力するようになっている
ことを特徴とする。
【0047】
本明細書で、「被験者の在所」とは、典型的には、被験者としての患者が住んでいる住宅の所在地を指す。また、「観測者の在所」とは、典型的には、観測者としての医師または看護師が勤務している医療機関の所在地を指す。
【0048】
この一実施形態の血圧記録装置では、上記被験者の在所で、上記カフが上記被験者の被測定部位に取り巻いて装着される。また、上記マイクロフォンが上記被測定部位を通る動脈が発生した音を取得するように配置される。その状態で、上記カフ圧調整部によって上記カフ圧が加圧されて上記被測定部位を通る動脈の血流が一旦止められた後、上記カフ圧の減圧過程で、上記圧力検出部によって上記カフ圧が検出される。これとともに、上記減圧過程で、上記送信部によって、上記マイクロフォンが出力する上記音信号と、上記圧力検出部によって検出された上記カフ圧を表すカフ圧信号とが時間的に同期されて、測定データとして順次送信される。
【0049】
一方、上記被験者の在所から離間した上記観測者の在所で、上記受信部によって、上記測定データが受信される。上記減圧過程で、受信された上記測定データに基づいて、上記第1の表示処理部によって、上記カフ圧が、上記表示器に上記棒グラフとしてリアルタイムで表示される。また、上記カフ圧の表示と同期して、上記コロトコフ音信号検出部によって、上記測定データに含まれた上記音信号から上記コロトコフ音信号が検出される。また、上記第2のデータ蓄積部によって、上記コロトコフ音信号が検出された時刻又はその時刻に対応した符号と、そのコロトコフ音信号が検出された時刻での上記カフ圧とが関連付けられて、データ対として上記メモリに順次記憶される。さらに、上記減圧過程で、上記第1の表示処理部によって上記表示器に上記棒グラフとしてリアルタイムで表示される上記カフ圧を見ながら、上記電音変換デバイスによって上記コロトコフ音信号が示すコロトコフ音を聞いた観測者が、上記操作部を操作することによって、少なくとも、上記第2のタイミング信号を入力する。すると、上記記録処理部によって、上記減圧過程で上記メモリに記憶された1連のデータ対のうち、上記第2のタイミング信号が示す時刻から遡って最後に記憶されたデータ対が特定され、その特定されたデータ対が含む上記カフ圧が、補正された拡張期血圧値として記録される。
【0050】
この一実施形態の血圧記録装置によれば、従来例に比して拡張期血圧値を精度良く記録できる。しかも、被験者の在所(例えば、被験者としての患者が住んでいる住宅の所在地)から、観測者の在所(例えば、観測者としての医師または看護師が勤務している医療機関の所在地)が遠方に離間している場合であっても、上記送信部と上記受信部との間の上記測定データの授受によって、上記補正された拡張期血圧値が記録され得る。
【0051】
第4の局面では、この開示の血圧記録方法は、
第3の局面の血圧記録装置を用いて被験者の被測定部位の血圧を測定して記録する血圧記録方法であって、
上記被測定部位に上記カフを取り巻いて装着するとともに、
上記被測定部位を通る動脈が発生した音を取得するように上記マイクロフォンを配置し、または、上記マイクロフォンの配置に加えて、上記聴診器を上記被測定部位の動脈が通っている部分に当接し、
上記カフ圧調整部によって上記カフ圧を加圧して上記被測定部位を通る動脈の血流を一旦止めた後、上記カフ圧の減圧過程で、
上記圧力検出部によって上記カフ圧を検出するとともに、
上記マイクロフォンによって、上記被測定部位を通る動脈が発生した音を上記音信号に変換して出力し、
上記コロトコフ音信号検出部によって、上記マイクロフォンが出力する上記音信号から上記コロトコフ音信号を検出し、
上記第2のデータ蓄積部によって、上記コロトコフ音信号が検出された時刻又はその時刻に対応した符号と、そのコロトコフ音信号が検出された時刻での上記カフ圧とを関連付けて、データ対として上記メモリに順次記憶させ、
上記第1の表示処理部によって上記表示器に上記棒グラフとしてリアルタイムで表示される上記カフ圧を見ながら、上記聴診器によって上記被測定部位を通る動脈が発生するコロトコフ音を聞いた、または、上記電音変換デバイスによって上記コロトコフ音信号が示すコロトコフ音を聞いた観測者が、上記操作部を操作することによって、少なくとも、上記コロトコフ音の発生が停止したと判断した時刻を示す第2のタイミング信号を入力し、
上記減圧過程の間または上記減圧過程の終了後に、上記記録処理部によって、上記減圧過程で上記メモリに記憶された1連のデータ対のうち、上記第2のタイミング信号が示す時刻から遡って最後に記憶されたデータ対を特定し、その特定されたデータ対が含む上記カフ圧を、補正された拡張期血圧値として記録する
ことを特徴とする。
【0052】
この第4の局面の血圧記録方法によれば、従来例に比して拡張期血圧値を精度良く記録できる。
【0053】
一実施形態の血圧記録装置では、
上記第1の表示処理部は、上記圧力検出部によって検出された上記カフ圧を、上記表示器に、目盛に沿った棒グラフとして表示させる処理を行うようになっている
ことを特徴とする血圧記録装置。
【0054】
この一実施形態の血圧記録装置によれば、観測者は、上記コロトコフ音が発生し始めたとの判断、および/または、上記コロトコフ音Kcの発生が停止したとの判断を、伝統的な水銀式血圧計を見ているのと同様の感覚で行うことができる。したがって、伝統的な水銀式血圧計の使用に慣れている観測者にとって利便性が高い、と言える。
【発明の効果】
【0055】
以上より明らかなように、この開示の血圧記録装置および血圧記録方法によれば、観測者がコロトコフ音に基づいて操作部を操作したとき、拡張期血圧値(最低血圧)を精度良く記録できる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【
図1】この発明の血圧記録装置の第1実施形態としての血圧計のブロック構成を示す図である。
【
図2】上記血圧計を用いて血圧を測定する際の態様を例示する図である。
【
図3】
図1の血圧計を用いた一実施形態の血圧記録方法のフローを示す図である。
【
図4】
図3の血圧記録方法のフローによって、収縮期血圧値と拡張期血圧値を測定して記録する仕方を説明する図である。
【
図5】
図5(A)は、
図3の血圧記録方法のフローによって記録された収縮期血圧値(最高血圧)について、聴診値を横軸で表し、差分(HOLD値-聴診値)を縦軸で表したときの散布図である。
図5(B)は、
図3の血圧記録方法のフローによって記録された拡張期血圧値(最低血圧)について、聴診値を横軸で表し、差分(HOLD値-聴診値)を縦軸で表したときの散布図である。
【
図6】この発明の血圧記録装置の第2実施形態としての血圧計のブロック構成を示す図である。
【
図7】
図6の血圧計を用いた一実施形態の血圧記録方法のフローを示す図である。
【
図8】この発明の血圧記録装置の第3実施形態としての血圧計のブロック構成を示す図である。
【
図9】
図8の血圧計を用いた一実施形態の血圧記録方法のフローを示す図である。
【
図10】カフ圧の減圧過程の終了後に、表示器に選択肢として表示されたカフ圧を選択する仕方を説明する図である。
【
図11】
図9の血圧記録方法のフローによって、メモリに記憶されるデータセットを例示する図である。
【
図12】
図9の血圧記録方法のフローを変形した変形例のフローを示す図である。
【
図13】この発明の血圧記録装置の第4実施形態としての血圧計のブロック構成を示す図である。
【
図14】
図13の血圧計を用いた一実施形態の血圧記録方法のフローを示す図である。
【
図15】
図14の血圧記録方法のフローによって、収縮期血圧値と拡張期血圧値を測定して記録する仕方を説明する図である。
【
図16】
図13の血圧計を変形した変形例の血圧計のブロック構成を示す図である。
【
図17】この発明の血圧記録装置の第5実施形態としての血圧測定システムのブロック構成を示す図である。
【
図18】
図17の血圧測定システムによる一実施形態の血圧記録方法のフローの一部(前半)を示す図である。
【
図19】
図17の血圧測定システムによる一実施形態の血圧記録方法のフローの残り部分(後半)を示す図である。
【
図20】
図20(A)、
図20(B)、
図20(C)は、それぞれ各血圧計(および血圧測定システム)を構成する表示器がとり得る変形例を示す図である。
【
図21】従来例の電子血圧計のホールド機能を用いて、最高血圧と最低血圧を記録する仕方を説明する図である。
【
図22】
図22(A)は、従来例の電子血圧計のホールド機能によって記録された最高血圧について、聴診値を横軸で表し、差分(HOLD値-聴診値)を縦軸で表したときの散布図である。
図22(B)は、従来例の電子血圧計のホールド機能によって記録された最低血圧について、聴診値を横軸で表し、差分(HOLD値-聴診値)を縦軸で表したときの散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0058】
(第1実施形態)
図1は、この発明の血圧記録装置の第1実施形態としての血圧計1Aのブロック構成を示している。また、
図2は、観測者(この例では、医師)80が、血圧計1Aを用いて、被験者(この例では、患者)90の被測定部位としての上腕91の血圧を測定する際の態様を示している。血圧計1Aは、被験者90の上腕91を通る動脈が発生するコロトコフ音Kcに基づいて血圧を測定して記録するために構成されている。
【0059】
図2中に示すように、血圧計1Aは、大別して、表示器50を含む本体10と、被験者90の上腕91を取り巻いて装着されるカフ20と、圧力調整部としての手動ポンプ(送気球)32および手動弁33とを備えている。
【0060】
カフ20は、上腕91の血圧測定に用いられる一般的なものであり、上腕91を加圧するための空気袋(図示せず)を内包している。本体10とカフ20とは、可撓性を有するエア配管38aによって接続されている。また、カフ20と手動ポンプ32、手動弁33とは、可撓性を有するエア配管38bによって接続されている。手動ポンプ32、手動弁33も、血圧測定に用いられる一般的なものである。
【0061】
図1に示すように、本体10は、制御部110と、表示器50と、操作部52と、メモリ51と、電源部53と、圧力検出部としての圧力センサ31と、A/D変換回路310とを搭載している。この例では、圧力センサ31に対して、エア配管38aが流体流通可能に接続されている。この例では、エア配管38aと、手動ポンプ32および手動弁33に接続されたエア配管38bとが合流して、1本のエア配管38として、カフ20に流体流通可能に接続されている。
【0062】
表示器50は、この例では、
図2中に示すように、本体10の後部に立設されたLCD(Liquid Crystal Display;液晶ディスプレイ)からなり、制御部110からの制御信号に従って所定の情報を表示する。この例では、表示器50は、伝統的な水銀式血圧計を模した態様で、画像として、縦方向に並ぶ目盛50aと、目盛50aに沿って伸縮する棒グラフ50bとを併せて表示して、血圧測定中のカフ20の圧力(これを「カフ圧Pc」と呼ぶ。)を表示するようになっている。これに併せて、表示器50は、測定中のカフ圧Pc、および/または、得られた血圧値をデジタル表示するようになっていてもよい。なお、表示器50は、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイからなっていてもよいし、LED(発光ダイオード)を含んでいてもよい。
【0063】
図1中に示すように、操作部52は、この例では、電源ボタン52Aと、HOLDボタン52Bとを含み、ユーザである観測者80の操作に応じた信号を制御部110に入力するようになっている。操作の便宜のために、
図2中に示すように、電源ボタン52Aと、HOLDボタン52Bとは、本体10の上面に設けられている。具体的には、電源ボタン52Aは、この例ではラッチタイプ(自己保持タイプ)のスイッチであり、一度押されるとオン状態を維持し、もう一度押されるとオフする。これにより、電源ボタン52Aが1回押されると血圧計1Aの電源がオンし、電源ボタン52Aがもう1回押されると血圧計1Aの電源がオフするようになっている。一方、HOLDボタン52Bは、この例ではモーメンタリタイプ(自己復帰タイプ)のスイッチであり、押し下げられている間だけオン状態になり、離されるとオフ状態に戻る。詳しくは後述するが、HOLDボタン52Bは、表示器50に棒グラフ50bとしてリアルタイムで表示されるカフ圧Pcを見ながら、聴診器89によって上腕91を通る動脈から発生するコロトコフ音Kcを聞いた観測者80が押下することによって、コロトコフ音Kcが発生し始めたと判断した時刻を示すタイミング信号(これを「第1のタイミング信号」と呼ぶ。)を入力し、および/または、コロトコフ音Kcの発生が停止したと判断した時刻を示すタイミング信号(これを「第2のタイミング信号」と呼ぶ。)を入力するために用いられる。
【0064】
図1中に示すメモリ51は、血圧計1Aを制御するためのプログラムのデータ、血圧計1Aの各種機能を設定するための設定データ、および、血圧測定中のデータ、血圧測定結果のデータなどを記憶する。また、メモリ51は、プログラムが実行されるときのワークメモリなどとして用いられる。
【0065】
制御部110は、プロセッサとしてのCPU(Central Processing Unit)を含み、この血圧計1A全体の動作を制御する。具体的には、制御部110は、メモリ51に記憶された血圧計1Aを制御するためのプログラムに従って、血圧を測定して記録するための制御を行う。具体的に血圧を測定して記録する仕方については後述する。
【0066】
圧力センサ31は、この例ではピエゾ抵抗式圧力センサであり、エア配管38,38aを通して受けたカフ20の圧力(カフ圧Pc)によって発生するピエゾ抵抗効果による電気抵抗の変化を電圧に変換する。A/D変換回路310は、その圧力センサ31からの電圧をアナログ値からデジタル値へ変換して、制御部110へ伝える。制御部110は、その電圧に応じてカフ圧Pcを求める。
【0067】
手動ポンプ32と手動弁33は、上述のように、手動式の血圧測定に用いられる一般的なものである。手動弁33が閉じられた状態で、手動ポンプ32が操作されると、手動ポンプ32からエア配管38b,38を介してカフ20へ空気が供給されて、カフ圧Pcが加圧される。手動弁33が開かれると、カフ20からエア配管38,38b、手動弁33を介して空気が大気中へ排気されて、カフ圧Pcが減圧される。
【0068】
電源部53は、電源ボタン52Aのオン、オフに応じて、制御部110、表示器50、メモリ51、圧力センサ31その他の本体10内の各部に電力を供給し、または遮断する。
【0069】
図3は、観測者80が、血圧計1Aを用いて被験者90の上腕91の血圧を測定して記録する一実施形態の血圧記録方法のフローを示している。なお、
図3(および後述の
図7、
図9、
図12、
図14、
図19)では、理解の容易のために、本体10内の制御部110が行う処理・判断が実線の輪郭で描かれ、実線のフローの横に並べた態様で、観測者80による手動操作・手動入力が破線の輪郭で描かれている。
【0070】
血圧測定の準備として、この例では、観測者80が、被験者90の上腕91にカフ20を取り巻いて装着するとともに、聴診器89を被験者90の上腕91の動脈が通っている部分(カフ20の下流側に相当する部分)に当接しているものとする。また、手動弁33は開かれているものとする。
【0071】
この状態で、観測者80が血圧計1Aの電源ボタン52Aをオンすると、本体10内の制御部110は、処理用メモリ領域を初期化するとともに、圧力センサ31の初期化を行う(
図3のステップS101)。具体的には、手動弁33が開かれた状態で、圧力センサ31の0mmHg調整(大気圧を0mmHgに設定する。)を行う。
【0072】
続いて、ステップS102で、制御部110は第1の表示処理部として働いて、圧力センサ31によって検出された現在のカフ圧Pcを、表示器50に、目盛50aに沿った棒グラフ50bとしてリアルタイムで表示させる処理を開始する。最初は、0mmHgが表示される。
【0073】
この状態で、観測者80が、手動弁33を閉じ(ステップS103)、手動ポンプ32によって、カフ圧Pcを、予想最高血圧より約30mmHg高くPcmaxまで一旦加圧する(ステップS104,S105)。これにより、上腕91の動脈を通る血流が一旦止められる。続いて、ステップS106で、観測者80は、手動弁33を徐々に開いて、典型的には2~3mmHg/秒の減圧速度で、カフ圧Pcの減圧を開始する。ステップS107に示すように、減圧が開始されるまで、制御部110は、現在のカフ圧Pcを表示器50に表示させながら、減圧が開始されるのを待つ。ここで、減圧が開始されたか否かは、制御部110が、例えば、圧力センサ31によって検出されたカフ圧Pcの時間tによる1次微分係数(dPc/dt)を算出し、その1次微分係数(dPc/dt)が負になったか否かによって判断することができる。
【0074】
減圧が開始されると(ステップS107でYes)、この減圧過程で、制御部110はステップS108~S114の処理を行う。
【0075】
ここで、
図4上段は、時間経過に伴う動脈の内圧Paの推移と、カフ圧Pcの変化とを例示している。この例では、動脈内圧Paは、脈波の拍(この例では、周期をTとする)毎に、最低血圧DIAと最高血圧SYSとの間で立ち上がり点Pfを示して立ち上がり、次にピーク点Ppを示して立ち下がる山状の波形を示している。上述のように、カフ圧Pcは、加圧過程で、予想最高血圧より約30mmHg高くPcmaxまで一旦加圧され、続いて、減圧過程に入ると、この例では2~3mmHg/秒の減圧速度で減圧されている。そして、カフ圧Pcが最高血圧SYSを下回ると、
図4中段に示すように、拍毎にコロトコフ音Kcが発生し始め、さらに、カフ圧Pcが最低血圧DIAを下回ると、コロトコフ音Kcの発生が停止する。なお、この減圧過程において、Kcfは最初のコロトコフ音を示し、Kceは最後のコロトコフ音を示している。
【0076】
この減圧過程で、制御部110は時刻検出部として働いて、まず
図3のステップS108で、脈波の拍毎に、その拍の波形特徴点としての立ち上がり点Pf(
図4上段参照)が生じた時刻を求め始める。拍の立ち上がり点Pfは、制御部110が、例えば、圧力センサ31によって検出されたカフ圧Pcの変動成分(Pmとする)を抽出し、この変動成分Pmの時間tによる1次微分係数(dPm/dt)と2次微分係数(d
2Pm/dt
2)を算出し、その1次微分係数(dPm/dt)の符号が負から正に変わるとともに2次微分係数(d
2Pm/dt
2)がゼロになる点を検出することによって、求められ得る。
【0077】
なお、脈波の拍の「波形特徴点」としては、その拍の立ち上がりを示す立ち上がり点Pfに代えて、その拍のピーク(山の頂点)を示すピーク点Ppを用いてもよい。
【0078】
この処理と並行して、
図3のステップS109で、制御部110は第1のデータ蓄積部として働いて、拍の立ち上がり点Pfが生じた時刻に対応した符号としての拍番号Nと、拍の立ち上がり点Pfが生じた時刻でのカフ圧Pcとを関連付けて、データ対としてメモリ51に順次記憶させる処理を開始する。この例では、
図4下段に示すように、この減圧過程で得られた一連のデータ対(これを「データセット」と呼ぶ。)DS1として、拍番号N=1とカフ圧Pc=141(mmHg)とのデータ対が記憶され、次に拍番号N=2とカフ圧Pc=138(mmHg)とのデータ対が記憶され、このようにして、最後に拍番号N=18とカフ圧Pc=93(mmHg)とのデータ対が記憶されている。この処理は観測者80の操作によらずに行われるので、このデータセットDS1は、観測者80がHOLDボタン52Bを押すときの反応時間(後述)による影響を受けずに記憶されたものである。
【0079】
なお、拍の立ち上がり点Pfが生じた時刻と、拍の立ち上がり点Pfが生じた時刻でのカフ圧Pcとを直接関連付けて、データ対としてメモリ51に順次記憶させてもよい。しかし、上述のように拍番号Nを用いることによって、メモリ51のリソースを節約することができる。
【0080】
また、拍の波形特徴点としては、拍の立ち上がり点Pfに代えて、ピーク点Ppを用いてもよい。拍のピーク点Ppは、制御部110が、例えば、圧力センサ31によって検出されたカフ圧Pcからフィルタを通してその変動成分(Pmとする)を抽出し、この変動成分Pmの時間tによる1次微分係数(dPm/dt)と2次微分係数(d2Pm/dt2)を算出し、その1次微分係数(dPm/dt)の符号が正から負に変わるとともに2次微分係数(d2Pm/dt2)がゼロになる点を検出することによって、求められ得る。
【0081】
上記減圧過程で
図3のステップS108,ステップS109の処理を行っている間に、ステップS110で、制御部110は、HOLDボタン52Bが押されたか否かを判断する。HOLDボタン52Bが押されていなければ(ステップS110でNo)、制御部110は、現在のカフ圧Pcが予め定められた圧力(この例では、30mmHg)を上回っている限り(ステップS115でNo)、ステップS108~ステップS110の処理を継続する。なお、上記30mmHgは、想定される拡張期血圧値(最低血圧)よりも低い圧力であり、減圧過程を終了すべき圧力として予め定められている。
【0082】
上記減圧過程の間、観測者80は、
図2中に示す表示器50に棒グラフ50bとしてリアルタイムで表示されるカフ圧Pcを見ながら、聴診器89によって上腕91を通る動脈が発生するコロトコフ音Kcを聞く。そして、
図3のステップS111で、観測者80は、
図4中段に例示するような、コロトコフ音Kcが発生し始めたと判断できた時刻(つまり、無音の状態から最初のコロトコフ音Kcfが聞こえた時刻)t0から反応時間td1分だけ遅れた時刻t1に、HOLDボタン52Bを押す。これが上記減圧過程で1回目の押下に相当する。ここで、観測者80は、コロトコフ音Kcが発生し始めたとの判断(および、後述のコロトコフ音Kcの発生が停止したとの判断)を、伝統的な水銀式血圧計を見ているのと同様の感覚で行うことができる。したがって、伝統的な水銀式血圧計の使用に慣れている観測者にとって利便性が高い、と言える。なお、観測者80の反応時間td1は、通常は1拍分Tを超えることがないと想定される。
【0083】
HOLDボタン52Bが押されると(
図3のステップS110でYes)、制御部110は記録処理部として働いて、
図3のステップS112で、上記減圧過程でのHOLDボタン52Bの押下回数が1回目であるか、2回目以降であるかを判断する。この例では、メモリ51が、HOLDボタン52Bの押下回数を計数するカウンタ(図示せず)を備えている。このカウンタは、減圧過程の開始の都度、リセットされ、HOLDボタン52Bの押下回数を計数する。制御部110は、このカウンタの計数値を参照することによって、HOLDボタン52Bの押下回数が1回目であるか、2回目以降であるかを判断することができる。ここで、HOLDボタン52Bの押下回数が1回目であれば、ステップS113で、制御部110は、
図4中段に例示するような、その1回目の押下が行われた時刻t1に、第1のタイミング信号t1(簡単のため、時刻t1と同じ符号で表す。)が入力されたと判断する。そして、制御部110は記録処理部として働いて、メモリ51に記憶されたデータセットDS1のうち、第1のタイミング信号t1が示す時刻に対応するデータ対(
図4下段の例では、時刻t1の直前に記憶された拍番号N=3のデータ対)を特定する。さらに、制御部110は、その特定されたデータ対が含むカフ圧Pcを、収縮期血圧値としてメモリ51に記憶させる。
図4下段の例では、収縮期血圧値として拍番号N=3のデータ対に含まれた135mmHg(破線の枠A1で示す)を記憶させる。これとともに、この例では、得られた収縮期血圧値135mmHgを、表示器50に表示させる。この表示は、表示器50にデジタル値として、例えば「最高血圧135mmHg」のように表示してもよいし、および/または、後述の
図10(A)中に示すマークM1のように、目盛50aに沿った位置によって圧力値を示す横バー状のマークとして表示してもよい。これにより、観測者80は、表示器50を見ることによって、得られた収縮期血圧値を容易に認識できる。なお、この時点では、データセットDS1には、拍番号N=1のデータ対から拍番号N=3のデータ対までが格納されているのみである。
【0084】
この後、上記減圧過程が進行して、カフ圧Pcが低下してゆく。再び
図3のステップS111で、観測者80は、
図4中段に例示するような、コロトコフ音Kcの発生が停止したと判断できた時刻(つまり、最後のコロトコフ音Kceが聞こえた時刻t20から1拍分Tだけ遅れて聞こえなくなったと初めて判断できた時刻)t21から、さらに反応時間td2分だけ遅れた時刻t2に、HOLDボタン52Bを押す。これが上記減圧過程で2回目の押下に相当する。なお、観測者80の反応時間td2は、通常は1拍分Tを超えることがないと想定される。
【0085】
HOLDボタン52Bが押されると(
図3のステップS110でYes)、制御部110は、
図3のステップS112で、上記カウンタの計数値を参照することによって、上記減圧過程でのHOLDボタン52Bの押下回数が1回目であるか、2回目以降であるかを判断する。ここで、HOLDボタン52Bの押下回数が2回目であれば、ステップS114で、制御部110は、
図4中段に例示するような、その2回目の押下が行われた時刻t2に、第2のタイミング信号t2(簡単のため、時刻t2と同じ符号で表す。)が入力されたと判断する。そして、制御部110は記録処理部として働いて、メモリ51に記憶されたデータセットDS1のうち、第2のタイミング信号t2が示す時刻に対応するデータ対(
図4下段の例では、時刻t2の直前に記憶された拍番号N=18のデータ対)を特定し、さらに、そのデータ対に対して1拍前に相当するデータ対(
図4下段の例では、拍番号N=17のデータ対)を特定する。さらに、制御部110は、後者のデータ対が含むカフ圧Pcを、補正された拡張期血圧値としてメモリ51に記憶させる。
図4下段の例では、補正された拡張期血圧値として拍番号N=17のデータ対に含まれた95mmHg(破線の枠A2で示す)を記憶させる。これとともに、この例では、制御部110が第3の表示処理部として働いて、上記補正された拡張期血圧値95mmHgを、表示器50に表示させる。この表示は、表示器50にデジタル値として、例えば「最低血圧95mmHg」のように表示してもよいし、および/または、後述の
図10(A)中に示すマークM2のように、目盛50aに沿った位置によって圧力値を示す横バー状のマークとして表示してもよい。これにより、観測者80は、表示器50を見ることによって、補正された拡張期血圧値を、容易に認識できる。
【0086】
なお、
図3のステップS112における2回目「以降」とは、上記減圧過程の間にHOLDボタン52Bが3回以上押される可能性に対応できるようにしたものである。詳しくは、被験者90が不整脈を示している場合は拍が途中で途切れることがある。また、妊婦である場合は低圧(例えば、30mmHg)までコロトコフ音が聞こえ続けることがある。コロトコフ音は、その音質が発生から停止までの間で5段階に変化する。それぞれの音の区間を「相」と呼び、第I相から第V相に区分される。そこで、コロトコフ音の音質が変わる点(第IV相の初め)およびコロトコフ音の最後の音の両方を記録することがある。そのため、上述のように、上記減圧過程の間にHOLDボタン52Bが3回以上押される可能性に対応できるようにしたものである。
【0087】
この後、上記減圧過程が進行して、現在のカフ圧Pcが予め定められた圧力(この例では、30mmHg)以下になれば(ステップS115でYes)、制御部110は、この血圧記録方法のフローの処理を終了する。観測者80は、手動弁33を開いてカフ圧Pcを低下させる(ステップS116)。なお、観測者80は、上記補正された拡張期血圧値が記録され次第、手動弁33を開いてカフ圧Pcを低下させてもよい。
【0088】
このように、この血圧計1Aでは、制御部110が記録処理部として働いて、減圧過程でメモリ51に記憶された1連のデータ対のうち、第2のタイミング信号t2が示す時刻に対応するデータ対が特定され、その特定されたデータ対に対して1拍前に相当するデータ対が含むカフ圧Pcが、上記補正された拡張期血圧値として記録される。既述の本発明者の分析によれば、上記補正された拡張期血圧値は、観測者80がコロトコフ音Kcが拍毎に聞こえ続けている状態から聞こえなくなったと初めて判断できた時刻t21ではなく、実際に最後に聞こえた時刻t20に対応するカフ圧Pcに相当する。したがって、血圧計1Aを用いた
図3の血圧記録方法のフローによれば、最低血圧が1拍分程度低く評価される現象を補正できる。
【0089】
また、観測者80がコロトコフ音Kcが発生し始めたと判断してからHOLDボタン52Bを押すまで、および、観測者80がコロトコフ音Kcの発生が停止したと判断してからHOLDボタン52Bを押すまでに、それぞれ若干の反応時間td1,td2を要すると考えられる。しかし、この血圧計1Aでは、減圧過程で、制御部110が第1のデータ蓄積部として働くことによって、そのような反応時間td1,td2による影響を受けずに、データ対がメモリ51に順次記憶される。したがって、上記記録処理部として働く制御部110によって特定されたデータ対は、観測者80の反応時間td1,td2による影響を受けずに記憶されたものである。また、観測者の反応時間td1,td2は、通常は1拍分を超えることがないと想定される。この結果、記録された上記収縮期血圧値および上記補正された拡張期血圧値は、実際上、観測者80の反応時間td1,td2による影響を受けないものとなる。
【0090】
なお、拍毎に、その拍の立ち上がり点Pfが生じる時刻と、その拍のコロトコフ音Kcが発生する時刻との間に、僅かなズレ(時間間隔)が有るかも知れない。しかし、通常は、そのズレは半拍分に達しないので、そのズレが血圧測定(記録)の精度を実質的に低下させることはない。
【0091】
以上により、この第1実施形態によれば、従来例に比して収縮期血圧値および拡張期血圧値(補正された拡張期血圧値)を精度良く記録できる。しかも、この第1実施形態によれば、上記減圧過程で制御部110が上記操作部52の操作が1回目であるか2回目であるかを判断するので、上記収縮期血圧値と上記補正された拡張期血圧値との両方を迅速に記録できる。また、観測者80は、上記減圧過程の途中であっても、上記補正された拡張期血圧値を記録でき次第、血圧測定を終了できる。
【0092】
本発明者は、この第1実施形態によって記録された上記収縮期血圧値および上記補正された拡張期血圧値の精度について、実験による検証を行った。具体的には、本発明者は、血圧計1Aを用いて、通常の聴診法による血圧測定と、
図3の血圧記録方法のフローに従ってホールド機能(HOLDボタン52B)を用いた血圧測定とを同時に行った。通常の聴診法による血圧測定では、表示器50に棒グラフ50bとしてリアルタイムで表示されるカフ圧Pcを見ながら、聴診器89によって聞こえるコロトコフ音Kcに基づいて、観測者80が最高血圧と最低血圧を読み取った(この読み取られた値を「聴診値」と呼ぶ。)。一方、ホールド機能を用いた血圧測定では、表示器50に棒グラフ50bとしてリアルタイムで表示されるカフ圧Pcを見ながら、聴診器89によって聞こえるコロトコフ音Kcに基づいて、観測者80が
図4中段の時刻t1,t2に相当する時刻にHOLDボタン52Bを押して、その時のカフ圧を記録した(この記録された値を「HOLD値」と呼ぶ。)。そして、60回の測定の都度得られたHOLD値と聴診値との間の差分(HOLD値-聴診値)を求めた。
図5(A)は、収縮期血圧値(最高血圧)について、聴診値を横軸で表し、差分(HOLD値-聴診値)を縦軸で表したときの散布図を示している。また、
図5(B)は、拡張期血圧値(最低血圧)について、聴診値を横軸で表し、差分(HOLD値-聴診値)を縦軸で表したときの散布図を示している。これらの図から分かるように、収縮期血圧値(最高血圧)について、差分(HOLD値-聴診値)の平均値は-1.5mmHgであった。一方、拡張期血圧値(最低血圧)について、差分(HOLD値-聴診値)の平均値は-1.2mmHgであった。このように、収縮期血圧値(最高血圧)については、この検証実験では従来例に対して有意差が見られなかった。しかし、拡張期血圧値(最低血圧)については、1拍分程度低く評価される現象を補正できた、と言える。
【0093】
なお、上述の血圧計1Aでは、カフ圧調整部として手動ポンプ32と手動弁33を備えて、カフ圧Pcを加圧し又は減圧させる調整が手動で行われる構成としている。しかしながら、これに限られるものではない。例えば、市販されている電子血圧計(例えば、オムロンヘルスケア株式会社製の上腕式血圧計HEM-7120シリーズ)のように、電動式のポンプと弁を備えて、制御部110がカフ圧Pcを自動で加圧し又は減圧させる制御を行ってもよい。そのようにした場合、観測者80は、手動ポンプ32と手動弁33を操作する必要が無くなり、上記減圧過程の間、片手(
図2の例では、右手)を、専らHOLDボタン52Bを押すのに用いることができる。したがって、観測者80にとって便利である。この点は、後述の第2実施形態ないし第4実施形態において同様である。
【0094】
(第2実施形態)
図6は、この発明の血圧記録装置の第2実施形態としての血圧計1Bのブロック構成を示している。この血圧計1Bは、上述の血圧計1Aに比して、操作部52のHOLDボタンとして、収縮期血圧値を記録する指示を受ける第1のスイッチとしての最高血圧HOLDボタン52B1と、拡張期血圧値を記録する指示を受ける第2のスイッチとしての最低血圧HOLDボタン52B2とを含む点が異なっている。この例では、最高血圧HOLDボタン52B1と最低血圧HOLDボタン52B2は、いずれもモーメンタリタイプ(自己復帰タイプ)のスイッチからなっている。この血圧計1Bの操作部52以外のハードウェア構成は、血圧計1Aにおけるのと同じになっている。
図6において、
図1中の構成要素と同じ構成要素には、同じ符号を付して、重複する説明を省略する。
【0095】
この例では、観測者80は、コロトコフ音Kcが発生し始めたと判断した時刻に、最高血圧HOLDボタン52B1を押すことが予定されている。また、観測者80は、コロトコフ音Kcの発生が停止したと判断した時刻に、最低血圧HOLDボタン52B2を押すことが予定されている。
【0096】
図7は、観測者80が、血圧計1Bを用いて被験者90の上腕91の血圧を測定して記録する一実施形態の血圧記録方法のフローを示している。血圧測定の準備として、この例では、
図2に示したのと同様に、観測者80が、被験者90の上腕91にカフ20を取り巻いて装着するとともに、聴診器89を被験者90の上腕91の動脈が通っている部分(カフ20の下流側に相当する部分)に当接しているものとする。また、手動弁33は開かれているものとする。
【0097】
この
図7の血圧記録方法のフローのステップS201~S209は、
図3の血圧記録方法のフローのステップS101~S109と全く同様に行われる。
【0098】
この例では、減圧過程で
図7のステップS208,ステップS209の処理を行っている間に、ステップS210で、制御部110は、最高血圧HOLDボタン52B1が押されたか否かを判断する。また、ステップS213で、制御部110は、最低血圧HOLDボタン52B2が押されたか否かを判断する。最高血圧HOLDボタン52B1、最低血圧HOLDボタン52B2がいずれも押されていなければ(ステップS210でNo、ステップS213でNo)、制御部110は、現在のカフ圧Pcが予め定められた圧力(この例では、30mmHg)を上回っている限り(ステップS216でNo)、ステップS208~ステップS210、ステップS213の処理を継続する。
【0099】
上記減圧過程の間、
図7のステップS211に示すように観測者80が最高血圧HOLDボタン52B1を押すと(
図7のステップS210でYes)、ステップS212で、制御部110は、
図4中段に例示するような、最高血圧HOLDボタン52B1が押された時刻t1に、第1のタイミング信号t1が入力されたと判断する。そして、制御部110は記録処理部として働いて、メモリ51に記憶されたデータセットDS1のうち、第1のタイミング信号t1が示す時刻に対応するデータ対(
図4下段の例では、時刻t1の直前に記憶された拍番号N=3のデータ対)を特定する。さらに、制御部110は、その特定されたデータ対が含むカフ圧Pcを、収縮期血圧値としてメモリ51に記憶させる。
図4下段の例では、収縮期血圧値として拍番号N=3のデータ対に含まれた135mmHg(破線の枠A1で示す)を記憶させる。これとともに、この例では、得られた収縮期血圧値135mmHgを、表示器50に表示させる。この表示は、表示器50にデジタル値として、例えば「最高血圧135mmHg」のように表示してもよいし、および/または、後述の
図10(A)中に示すマークM1のように、目盛50aに沿った位置によって圧力値を示す横バー状のマークとして表示してもよい。
【0100】
一方、上記減圧過程の間、
図7のステップS214に示すように観測者80が最低血圧HOLDボタン52B2を押すと(
図7のステップS213でYes)、ステップS215で、制御部110は、
図4中段に例示するような、最低血圧HOLDボタン52B2が押された時刻t2に、第2のタイミング信号t2が入力されたと判断する。そして、制御部110は記録処理部として働いて、メモリ51に記憶されたデータセットDS1のうち、第2のタイミング信号t2が示す時刻に対応するデータ対(
図4下段の例では、時刻t2の直前に記憶された拍番号N=18のデータ対)を特定し、さらに、そのデータ対に対して1拍前に相当するデータ対(
図4下段の例では、拍番号N=17のデータ対)を特定する。さらに、制御部110は、後者のデータ対が含むカフ圧Pcを、補正された拡張期血圧値としてメモリ51に記憶させる。
図4下段の例では、補正された拡張期血圧値として拍番号N=17のデータ対に含まれた95mmHg(破線の枠A2で示す)を記憶させる。これとともに、この例では、制御部110が第3の表示処理部として働いて、上記補正された拡張期血圧値95mmHgを、表示器50に表示させる。この表示は、表示器50にデジタル値として、例えば「最低血圧95mmHg」のように表示してもよいし、および/または、後述の
図10(A)中に示すマークM2のように、目盛50aに沿った位置によって圧力値を示す横バー状のマークとして表示してもよい。これにより、観測者80は、表示器50を見ることによって、得られた収縮期血圧値および補正された拡張期血圧値を、容易に認識できる。
【0101】
この後、上記減圧過程が進行して、現在のカフ圧Pcが予め定められた圧力(この例では、30mmHg)以下になれば(
図7のステップS216でYes)、制御部110は、この血圧記録方法のフローの処理を終了する。観測者80は、手動弁33を開いてカフ圧Pcを低下させる(ステップS217)。なお、観測者80は、上記補正された拡張期血圧値が記録され次第、手動弁33を開いてカフ圧Pcを低下させてもよい。
【0102】
この第2実施形態によれば、第1実施形態におけるのと同様に、収縮期血圧値および拡張期血圧値(補正された拡張期血圧値)を精度良く記録できる。しかも、この第2実施形態によれば、観測者80の意図(収縮期血圧値を記録するか、拡張期血圧値を記録するか)に応じて、上記収縮期血圧値と上記補正された拡張期血圧値との両方を迅速に記録できる。また、観測者80は、上記減圧過程の途中であっても、上記補正された拡張期血圧値を記録でき次第、血圧測定を終了できる。しかも、上記減圧過程で制御部110は上記操作部52の操作が1回目であるか2回目であるかを判断する必要がないので、制御部110による処理が簡単になる。
【0103】
(第3実施形態)
図8は、この発明の血圧記録装置の第3実施形態としての血圧計1Cのブロック構成を示している。この血圧計1Cは、上述の血圧計1Aに比して、操作部52として、電源ボタン52AとHOLDボタン52Bに加えて、選択操作部としての選択ボタン52Cを含む点が異なっている。この例では、選択ボタン52Cは、モーメンタリタイプ(自己復帰タイプ)のスイッチからなっている。この血圧計1Cの操作部52以外のハードウェア構成は、血圧計1Aにおけるのと同じになっている。
図8において、
図1中の構成要素と同じ構成要素には、同じ符号を付して、重複する説明を省略する。
【0104】
この例では、観測者80は、表示器50に表示された、第1および第2のタイミング信号t1,t2が入力された時刻に対応する選択肢(データ対が含むカフ圧Pc)(後述の
図10中のマークM1,M2)の中から、選択ボタン52Cによって、自身が拡張期血圧値に該当すると考える選択肢を選択することが予定されている。
【0105】
図9は、観測者80が、血圧計1Cを用いて被験者90の上腕91の血圧を測定して記録する一実施形態の血圧記録方法のフローを示している。血圧測定の準備として、この例では、
図2に示したのと同様に、観測者80が、被験者90の上腕91にカフ20を取り巻いて装着するとともに、聴診器89を被験者90の上腕91の動脈が通っている部分(カフ20の下流側に相当する部分)に当接しているものとする。また、手動弁33は開かれているものとする。
【0106】
この
図9の血圧記録方法のフローのステップS301~S309は、
図3の血圧記録方法のフローのステップS101~S109と全く同様に行われる。
【0107】
この例では、減圧過程で
図9のステップS308,ステップS309の処理を行っている間に、ステップS310で、制御部110は、HOLDボタン52Bが押されたか否かを判断する。HOLDボタン52Bが押されていなければ(ステップS310でNo)、制御部110は、現在のカフ圧Pcが予め定められた圧力(この例では、30mmHg)を上回っている限り(ステップS313でNo)、ステップS308~ステップS310の処理を継続する。この例では、
図11に示すデータセットDS2がメモリ51に記憶されるものとする。
【0108】
上記減圧過程の間、
図9のステップS311に示すように観測者80がHOLDボタン52Bを1回目に押すと(
図9のステップS310でYes)、ステップS312で、制御部110はデータ対特定部として働いて、メモリ51に記憶されたデータセットDS2のうち、押された時刻t1に対応するデータ対(
図11の例では、拍番号N=3のデータ対)を特定する。さらに、制御部110は、その特定された拍番号N=3のデータ対にフラグF1を立てることによって、その特定された拍番号N=3のデータ対を示す情報を維持する。これとともに、制御部110は第2の表示処理部として働いて、表示器50に、その特定された拍番号N=3のデータ対が含むカフ圧Pc(
図11の例では、破線の枠B1で示す135mmHg)を、血圧値の選択肢として表示させる。この例では、
図10(A)中に示すマークM1のように、目盛50aに沿った位置によって圧力値を示す横バー状のマークとして表示させる。なお、この時点では、データセットDS2には、拍番号N=1のデータ対から拍番号N=3のデータ対までが格納されているのみである。
【0109】
続いて、上記減圧過程の間に、
図9のステップS311に示すように観測者80がHOLDボタン52Bを2回目に押すと(
図9のステップS310でYes)、再びステップS312で、制御部110はデータ対特定部として働いて、メモリ51に記憶されたデータセットDS1のうち、押された時刻t2に対応するデータ対(
図11の例では、拍番号N=18のデータ対)を特定する。さらに、制御部110は、その特定された拍番号N=18のデータ対にフラグF2を立てることによって、その特定された拍番号N=18のデータ対を示す情報を維持する。これとともに、制御部110は第2の表示処理部として働いて、表示器50に、その特定された拍番号N=18のデータ対が含むカフ圧Pc(
図11の例では、破線の枠B2で示す93mmHg)を、血圧値の選択肢として表示させる。この例では、
図10(A)中に示すマークM2のように、目盛50aに沿った位置によって圧力値を示す横バー状のマークとして表示させる。
【0110】
なお、上記減圧過程の間に、HOLDボタン52Bが3回以上押されたら、押される都度、制御部110はデータ対特定部として働いて、メモリ51に記憶されたデータセットDS1のうち、その押された時刻に対応するデータ対を特定する。さらに、制御部110は、その特定された拍番号Nのデータ対にフラグを立てることによって、その特定された拍番号Nのデータ対を示す情報を維持する。これとともに、制御部110は第2の表示処理部として働いて、表示器50に、その特定された拍番号Nのデータ対が含むカフ圧Pcを、血圧値の選択肢として表示させる。なお、「3回以上」とは、上記減圧過程の間にHOLDボタン52Bが3回以上押される可能性に対応できるようにしたものである。詳しくは、被験者90が不整脈を示している場合は拍が途中で途切れることがある。また、妊婦である場合は低圧(例えば、30mmHg)までコロトコフ音が聞こえ続けることがある。コロトコフ音は、その音質が発生から停止までの間で5段階に変化する。それぞれの音の区間を「相」と呼び、第I相から第V相に区分される。そこで、コロトコフ音の音質が変わる点(第IV相の初め)およびコロトコフ音の最後の音の両方を記録することがある。そのため、上述のように、上記減圧過程の間にHOLDボタン52Bが3回以上押される可能性に対応できるようにしたものである。
【0111】
この後、上記減圧過程が進行して、現在のカフ圧Pcが予め定められた圧力(この例では、30mmHg)以下になれば(
図9のステップS313でYes)、観測者80は、手動弁33を開いてカフ圧Pcを低下させ、減圧過程を終了する(ステップS314)。この減圧過程を終了した段階で、制御部110は第2の表示処理部として働いて、
図10(A)に例示するように、得られた血圧値135mmHgを表すマークM1の表示と、得られた血圧値93mmHgを表すマークM2の表示とを維持している。そして、制御部110は、選択ボタン52Cによって選択肢が選択されるのを待つ(
図9のステップS315)。この段階で、観測者80は、表示器50に表示された、HOLDボタン52Bが押された時刻(すなわち、タイミング信号が入力された時刻)t1,t2に対応する選択肢としてのマークM1,M2の中から、選択ボタン52Cによって、自身が拡張期血圧値に該当すると考える選択肢を選択する。
【0112】
この例では、観測者80が選択ボタン52Cを1回押す毎に、
図10(B)に示すようにマークM1が点滅(横バーを取り囲む放射状のマークで示す)したり、
図10(C)に示すようにマークM2が点滅したりして、選択候補が順次切り替わるようになっている。なお、選択肢としてのマークが3つ以上表示されている場合は、3つ以上のマークの間で選択候補が循環式に切り替わる。
【0113】
この例では、観測者80が、
図10(C)のようにマークM2が点滅している状態で、マークM2を選択するために、選択ボタン52Cを例えば3秒間以上長押しするものとする。すると、
図9のステップS317で、制御部110は記録処理部として働いて、選択ボタン52Cによって選択された選択肢が表すカフ圧を含むデータ対(
図11の例では、データセットDS2のうち、フラグF2が立てられた拍番号N=18のデータ対)を、観測者80が拡張期血圧値に該当するとして選択したデータ対として特定する。さらに、制御部110は、その特定されたデータ対に対して1拍前に相当するデータ対(
図11の例では、データセットDS2のうち、拍番号N=17のデータ対)を特定する。そして、後者のデータ対が含むカフ圧Pcを、補正された拡張期血圧値としてメモリ51に記憶させる。この例では、
図11中に示すように、データセットDS2のうち、拍番号N=17のデータ対に含まれた95mmHg(破線の枠B2で示す)にフラグF21を立てることによって、補正された拡張期血圧値が95mmHgであるという情報を記憶させる。これとともに、この例では、制御部110が第3の表示処理部として働いて、上記補正された拡張期血圧値95mmHgを、表示器50に表示させる。この例では、この表示は、マークM2の表示に代えて、
図10(D)中に示すマークM21のように、目盛50aに沿った位置によって圧力値を示す横バー状のマークとして表示させる。また、この例では、残りのマークM1が、そのまま、フラグF1が立てられた拍番号N=3のデータ対が含むカフ圧Pc(
図11の例では、破線の枠B1で示す135mmHg)を表示している。これにより、観測者80は、表示器50に表示されたマークM1およびマークM21を見ることによって、得られた収縮期血圧値および補正された拡張期血圧値を、容易に認識できる。このようにして、収縮期血圧値および補正された拡張期血圧値が記録される。
【0114】
この第3実施形態によれば、第1実施形態におけるのと同様に、収縮期血圧値および拡張期血圧値(補正された拡張期血圧値)を精度良く記録できる。しかも、この第3実施形態によれば、観測者80の選択(いずれの選択肢が拡張期血圧値に該当するかの選択)に応じて、上記補正された拡張期血圧値を記録できる。
【0115】
図12は、
図9の血圧記録方法のフローを変形した変形例のフローを示している。血圧測定の準備として、この例では、
図2に示したのと同様に、観測者80が、被験者90の上腕91にカフ20を取り巻いて装着するとともに、聴診器89を被験者90の上腕91の動脈が通っている部分(カフ20の下流側に相当する部分)に当接しているものとする。また、手動弁33は開かれているものとする。
【0116】
この
図12の血圧記録方法のフローのステップS401~S414は、
図9の血圧記録方法のフローのステップS301~S314と全く同様に行われる。
【0117】
この
図12の血圧記録方法のフローでは、上記減圧過程でHOLDボタン52Bが2回以上押されたとき、減圧過程の終了後のステップS415で、制御部110は記録処理部として働いて、データセットDS2においてフラグ(F1,F2とする。)が立てられたデータ対のうち、最後の操作が行われた時刻t2に対応するデータ対(
図11の例では、拍番号N=18のデータ対)を、第2のタイミング信号t2が示す時刻に対応するデータ対として用いる。すなわち、拡張期血圧に該当すると考える選択肢を選択することを観測者80に求めることなく、制御部110は、拍番号N=18のデータ対に対して1拍前に相当するデータ対が含むカフ圧Pcを、補正された拡張期血圧値としてメモリ51に記憶させる。
図11の例では、データセットDS2のうち、拍番号N=17のデータ対に含まれた95mmHg(破線の枠B2で示す)にフラグF21を立てることによって記憶させる。これとともに、この例では、制御部110が第3の表示処理部として働いて、上記補正された拡張期血圧値95mmHgを、表示器50に表示させる。この表示は、この例では、マークM2の表示に代えて、
図10(D)中に示すマークM21のように、目盛50aに沿った位置によって圧力値を示す横バー状のマークとして表示させる。また、この例では、残りのマークM1が、そのまま、フラグF1が立てられた拍番号N=3のデータ対が含むカフ圧Pc(この例では、破線の枠B1で示す135mmHg)を表示している。これにより、観測者80は、表示器50に表示されたマークM1およびマークM21を見ることによって、得られた収縮期血圧値および補正された拡張期血圧値を、容易に認識できる。このようにして、収縮期血圧値および補正された拡張期血圧値が記録される。
【0118】
この
図12の血圧記録方法のフローによれば、上記記録処理部として働く制御部110による処理が簡単になる。また、血圧計1Cのハードウェア構成から、選択ボタン52Cを省略できる。
【0119】
なお、第1実施形態ないし第3実施形態では、上記減圧過程の開始に伴って、制御部110は第1のデータ蓄積部として働いて、拍の立ち上がり点Pfが生じた時刻に対応した符号としての拍番号Nと、拍の立ち上がり点Pfが生じた時刻でのカフ圧Pcとを関連付けて、データ対としてメモリ51に順次記憶させる処理を開始するものとした。しかしながら、これに限られるものではない。制御部110は、上記減圧過程の間に、上記データ対を、HOLDボタン52Bが1回目に押された時刻に対応するデータ対(
図11の例では、拍番号N=3のデータ対)からメモリ51に順次記憶させ始めるようになっていてもよい。これにより、メモリ51のリソースを節約できる。
【0120】
(第4実施形態)
図13は、この発明の血圧記録装置の第4実施形態としての血圧計1Dのブロック構成を示している。この血圧計1Dは、上述の血圧計1Aに比して、カフ20に搭載されたマイクロフォン40と、本体10に搭載されたA/D変換回路410とを含む点が異なっている。マイクロフォン40は、被験者90の上腕91を通る動脈が発生した音を電気信号である音信号Ksに変換して出力する。マイクロフォン40が出力する音信号Ksは、
図13中に示すカフ20から本体10へ延在する配線71を通して、A/D変換回路410へ伝えられる。A/D変換回路410は、音信号Ksをアナログ値からデジタル値へ変換して、制御部110へ伝える。この血圧計1Dのそれ以外のハードウェア構成は、血圧計1Aにおけるのと同じになっている。
図13において、
図1中の構成要素と同じ構成要素には、同じ符号を付して、重複する説明を省略する。
【0121】
図14は、観測者80が、血圧計1Dを用いて被験者90の上腕91の血圧を測定して記録する一実施形態の血圧記録方法のフローを示している。血圧測定の準備として、この例では、
図2に示したのと同様に、観測者80が、被験者90の上腕91にカフ20を取り巻いて装着するとともに、聴診器89を被験者90の上腕91の動脈が通っている部分(カフ20の下流側に相当する部分)に当接しているものとする。また、手動弁33は開かれているものとする。
【0122】
この
図14の血圧記録方法のフローのステップS501~S507は、
図3の血圧記録方法のフローのステップS101~S107と全く同様に行われる。
【0123】
減圧が開始されると(ステップS507でYes)、この減圧過程で、制御部110はステップS508~S514の処理を行う。
【0124】
まず、マイクロフォン40は、被験者90の上腕91を通る動脈が発生した音を電気信号である音信号Ksに変換して出力する。この音信号Ksは、
図15上段に示すように、コロトコフ音を示すパルス状のコロトコフ音信号Kcaを電気信号(交流信号)として含んでいる。マイクロフォン40が出力する音信号Ksは、
図13中に示す配線71、A/D変換回路410を介して、デジタル値として制御部110へ伝えられる。ここで、
図14のステップS508で、制御部110はコロトコフ音信号検出部として働いて、その音信号Ksから、例えば
図15中段に示すように、コロトコフ音信号Kcaを検出する。コロトコフ音信号Kcaは、制御部110が、例えば
図15上段に示すように、音信号Ksに対してその背景ノイズレベルbaよりも若干高い閾値Thを設定し、音信号Ksのうちその閾値Thを超える成分を抽出することによって、検出され得る。コロトコフ音信号Kcaが検出されるタイミングは、観測者80が聴診器89によってコロトコフ音Kcを聞くタイミングと一致しているものとする(つまり、制御部110が音信号Ksからコロトコフ音信号Kcaを検出するための処理時間は無視できるものとする。)。
【0125】
この処理と並行して、
図14のステップS509で、制御部110は第2のデータ蓄積部として働いて、コロトコフ音信号Kcaが検出された時刻に対応した符号としての拍番号Nと、そのコロトコフ音信号Kcaが検出された時刻でのカフ圧Pcとを関連付けて、データ対としてメモリ51に順次記憶させる処理を開始する。この例では、
図15下段に示すように、この減圧過程で得られた一連のデータ対(これを「データセット」と呼ぶ。)DS3として、拍番号N=1とカフ圧Pc=125(mmHg)とのデータ対が記憶され、次に拍番号N=2とカフ圧Pc=122(mmHg)とのデータ対が記憶され、このようにして、最後に拍番号N=15とカフ圧Pc=85(mmHg)とのデータ対が記憶されている。この処理は観測者80の操作によらずに行われるので、このデータセットDS3は、観測者80がHOLDボタン52Bを押すときの反応時間(後述)による影響を受けずに記憶されたものである。なお、
図15下段において、「-」を付した欄には、データ対が存在しない。
【0126】
なお、コロトコフ音信号Kcaが生じた時刻と、コロトコフ音信号Kcaが生じた時刻でのカフ圧Pcとを直接関連付けて、データ対としてメモリ51に順次記憶させてもよい。しかし、上述のように拍番号Nを用いることによって、メモリ51のリソースを節約することができる。この点は、第1実施形態におけるのと同様である。
【0127】
上記減圧過程で
図14のステップS508,ステップS509の処理を行っている間に、ステップS510で、制御部110は、HOLDボタン52Bが押されたか否かを判断する。HOLDボタン52Bが押されていなければ(ステップS510でNo)、制御部110は、現在のカフ圧Pcが予め定められた圧力(この例では、30mmHg)を上回っている限り(ステップS515でNo)、ステップS508~ステップS510の処理を継続する。なお、上記30mmHgは、想定される最低血圧よりも低い圧力であり、減圧過程を終了すべき圧力として予め定められている。
【0128】
上記減圧過程の間、観測者80は、
図2中に示す表示器50に棒グラフ50bとしてリアルタイムで表示されるカフ圧Pcを見ながら、この例では第1実施形態におけるのと同様に、聴診器89によって上腕91を通る動脈が発生するコロトコフ音Kcを聞く(上述のように、このコロトコフ音Kcが発生するタイミングは、
図15中段に示すコロトコフ音信号Kcaが発生するタイミングと一致しているものとする。)。そして、
図14のステップS511で、観測者80は、
図15中段に例示するような、コロトコフ音Kcが発生し始めたと判断できた時刻(つまり、無音の状態から最初のコロトコフ音Kcfが聞こえた時刻)t0から反応時間td1分だけ遅れた時刻t1に、HOLDボタン52Bを押す。これが上記減圧過程で1回目の押下に相当する。なお、観測者80の反応時間td1は、通常は1拍分Tを超えることがないと想定される。
【0129】
HOLDボタン52Bが押されると(
図14のステップS510でYes)、制御部110は記録処理部として働いて、
図14のステップS512で、上記減圧過程でのHOLDボタン52Bの押下回数が1回目であるか、2回目以降であるかを判断する。この例では、制御部110は、第1実施形態で述べたカウンタの計数値を参照することによって、HOLDボタン52Bの押下回数が1回目であるか、2回目以降であるかを判断することができる。ここで、HOLDボタン52Bの押下回数が1回目であれば、ステップS513で、制御部110は、
図15中段に例示するような、第1のタイミング信号t1(簡単のため、時刻t1と同じ符号で表す。)が入力されたと判断する。そして、制御部110は記録処理部として働いて、メモリ51に記憶されたデータセットDS3のうち、第1のタイミング信号t1が示す時刻に対応するデータ対(
図15下段の例では、時刻t1の直前に記憶された拍番号N=1のデータ対)を特定する。さらに、制御部110は、その特定されたデータ対が含むカフ圧Pcを、収縮期血圧値としてメモリ51に記憶させる。
図15下段の例では、収縮期血圧値として拍番号N=1のデータ対に含まれた125mmHg(破線の枠C1で示す)を記憶させる。これとともに、この例では、得られた収縮期血圧値125mmHgを、表示器50に表示させる。この表示は、表示器50にデジタル値として、例えば「最高血圧125mmHg」のように表示してもよいし、および/または、
図10(A)中に示したマークM1のように、目盛50aに沿った位置によって圧力値を示す横バー状のマークとして表示してもよい。これにより、観測者80は、表示器50を見ることによって、得られた収縮期血圧値を容易に認識できる。なお、この時点では、データセットDS3には、拍番号N=1のデータ対が格納されているのみである。
【0130】
この後、上記減圧過程が進行して、カフ圧Pcが低下してゆく。再び
図14のステップS511で、観測者80は、
図15中段に例示するような、コロトコフ音Kcの発生が停止したと判断できた時刻(つまり、最後のコロトコフ音Kceが聞こえた時刻t20から1拍分Tだけ遅れて聞こえなくなったと初めて判断できた時刻)t21から、さらに反応時間td2分だけ遅れた時刻t2に、HOLDボタン52Bを押す。これが上記減圧過程で2回目の押下に相当する。なお、観測者80の反応時間td2は、通常は1拍分Tを超えることがないと想定される。
【0131】
HOLDボタン52Bが押されると(
図14のステップS510でYes)、制御部110は、
図14のステップS512で、上記減圧過程でのHOLDボタン52Bの押下回数が1回目であるか、2回目以降であるかを判断する。ここで、HOLDボタン52Bの押下回数が2回目であれば、ステップS514で、制御部110は、上記カウンタの計数値を参照して、
図15中段に例示するような、第2のタイミング信号t2(簡単のため、時刻t2と同じ符号で表す。)が入力されたと判断する。そして、制御部110は記録処理部として働いて、メモリ51に記憶されたデータセットDS3のうち、第2のタイミング信号t2が示す時刻から遡って最後に記憶されたデータ対(
図15下段の例では、拍番号N=15のデータ対)を特定し、その特定されたデータ対が含むカフ圧Pcを、補正された拡張期血圧値としてメモリ51に記憶させる。
図15下段の例では、収縮期血圧値として拍番号N=15のデータ対に含まれた85mmHg(破線の枠C2で示す)を記憶させる。これとともに、この例では、制御部110が第3の表示処理部として働いて、上記補正された拡張期血圧値85mmHgを、表示器50に表示させる。この表示は、表示器50にデジタル値として、例えば「最低血圧85mmHg」のように表示してもよいし、および/または、後述の
図10(A)中に示すマークM2のように、目盛50aに沿った位置によって圧力値を示す横バー状のマークとして表示してもよい。これにより、観測者80は、表示器50を見ることによって、補正された拡張期血圧値を、容易に認識できる。
【0132】
なお、
図14のステップS512における2回目「以降」とは、上記減圧過程の間にHOLDボタン52Bが3回以上押される可能性に対応できるようにしたものである。詳しくは、被験者90が不整脈を示している場合は拍が途中で途切れることがある。また、妊婦である場合は低圧(例えば、30mmHg)までコロトコフ音が聞こえ続けることがある。コロトコフ音は、その音質が発生から停止までの間で5段階に変化する。それぞれの音の区間を「相」と呼び、第I相から第V相に区分される。そこで、コロトコフ音の音質が変わる点(第IV相の初め)およびコロトコフ音の最後の音の両方を記録することがある。そのため、上述のように、上記減圧過程の間にHOLDボタン52Bが3回以上押される可能性に対応できるようにしたものである。
【0133】
この後、上記減圧過程が進行して、現在のカフ圧Pcが予め定められた圧力(この例では、30mmHg)以下になれば(ステップS515でYes)、制御部110は、この血圧記録方法のフローの処理を終了する。観測者80は、手動弁33を開いてカフ圧Pcを低下させる(ステップS516)。なお、観測者80は、上記補正された拡張期血圧値が記録され次第、手動弁33を開いてカフ圧Pcを低下させてもよい。
【0134】
このように、この血圧計1Dでは、制御部110が記録処理部として働いて、減圧過程でメモリ51に記憶された1連のデータ対のうち、第2のタイミング信号t2が示す時刻から遡って最後に記憶されたデータ対が特定され、その特定されたデータ対が含むカフ圧Pcが、上記補正された拡張期血圧値として記録される。既述の本発明者の分析によれば、上記補正された拡張期血圧値は、観測者80がコロトコフ音Kcが拍毎に聞こえ続けている状態から聞こえなくなったと初めて判断できた時刻t21ではなく、実際に最後に聞こえた時刻t20に対応するカフ圧Pcに相当する。したがって、血圧計1Dを用いた
図14の血圧記録方法のフローによれば、最低血圧が1拍分程度低く評価される現象を補正できる。
【0135】
また、観測者80がコロトコフ音Kcが発生し始めたと判断してからHOLDボタン52Bを押すまで、および、観測者80がコロトコフ音Kcの発生が停止したと判断してからHOLDボタン52Bを押すまでに、それぞれ若干の反応時間td1,td2を要すると考えられる。しかし、この血圧計1Dでは、減圧過程で、制御部110が第2のデータ蓄積部として働くことによって、そのような反応時間td1,td2による影響を受けずに、データ対がメモリ51に順次記憶される。したがって、上記記録処理部として働く制御部110によって特定されたデータ対は、観測者80の反応時間td1,td2による影響を受けずに記憶されたものである。この結果、記録された上記収縮期血圧値および上記補正された拡張期血圧値は、実際上、観測者80の反応時間td1,td2による影響を受けないものとなる。
【0136】
以上により、この第4実施形態によれば、従来例に比して収縮期血圧値および拡張期血圧値(補正された拡張期血圧値)を精度良く記録できる。
【0137】
また、この第4実施形態では、データセットDS3は、コロトコフ音信号Kcaが検出された時刻に対応した符号としての拍番号Nと、そのコロトコフ音信号Kcaが検出された時刻でのカフ圧Pcとを関連付けて、データ対としてメモリ51順次に記憶させたものである。したがって、第1実施形態に比して、拍の立ち上がり点Pfが生じる時刻とその拍のコロトコフ音Kcが発生する時刻との間のズレ(時間間隔)が、血圧測定(記録)の精度に影響を及ぼす可能性が無い。したがって、さらに、収縮期血圧値および拡張期血圧値(補正された拡張期血圧値)を精度良く記録できる。
【0138】
なお、上述の血圧計1Dでは、マイクロフォン40がカフ20に搭載されるものとしたが、これに限られるものではない。例えば、
図16に示す血圧計1Eのように、マイクロフォン40は、本体10に搭載され、この例ではエア配管38に連通したエア配管38dを通して、被験者90の上腕91を通る動脈が発生した音を受けるようになっていてもよい。この場合も、血圧計1Dにおけるのと同様に、マイクロフォン40は、被験者90の上腕91を通る動脈が発生した音を電気信号である音信号Ksに変換して出力することができる。したがって、この血圧計1Eを用いて
図14の血圧記録方法のフローを実行することによって、収縮期血圧値および拡張期血圧値(補正された拡張期血圧値)を精度良く記録できる。しかも、血圧計1Eを用いた場合、カフ20と本体10との間に配線71を延在させる必要が無いので、装置の構成を簡素化できる。
【0139】
また、この第4実施形態では、観測者80は、第1実施形態におけるのと同様に聴診器89によって上腕91を通る動脈が発生するコロトコフ音Kcを聞くことによって、HOLDボタン52Bを押すものとした。しかしながら、これに限られるものではない。例えば、後述の
図17中に示すスピーカ54のような電音変換デバイスを設け、その電音変換デバイスによってコロトコフ音信号Kcaをコロトコフ音Kcとして再生するものとする。その場合、観測者80は、その再生されたコロトコフ音Kcを聞くことによって、HOLDボタン52Bを押してもよい。
【0140】
(第5実施形態)
図17は、この発明の血圧記録装置の第5実施形態としての血圧測定システム1Fのブロック構成を示している。この血圧測定システム1Fは、
図13の血圧計1Dを変形して、遠隔診療が可能になるようにしたものに相当する。なお、
図17において、
図13中の構成要素と同じ構成要素には同じ符号を付して、重複する説明を省略する。
【0141】
この血圧測定システム1Fは、大別して、上腕91を有する被験者(この例では、患者)90の在所に設けられた患者側装置100Aと、観測者(この例では、医師)80の在所に設けられた医師側装置100Bとを含んでいる。被験者90の在所とは、この例では、被験者90としての患者が住んでいる住宅の所在地を指す。観測者80の在所とは、この例では、観測者80としての医師が勤務している医療機関の所在地を指す。
【0142】
患者側装置100Aは、カフ20と、本体10Aとを備えている。カフ20には、マイクロフォン40が搭載されている。本体10Aには、制御部110Aと、圧力検出部としての圧力センサ31と、カフ圧調整部としての電動ポンプ32Aおよび電磁弁33Aと、操作部としての測定ボタン52Dと、メモリ51Aと、電源部53Aと、A/D変換回路310,410と、ポンプ駆動回路320と、電磁弁駆動回路330と、通信部190Aと、表示器55とが搭載されている。
【0143】
マイクロフォン40が出力する音信号Ksは、カフ20から本体10Aへ延在する配線71を通して、A/D変換回路410へ伝えられる。
【0144】
制御部110Aは、プロセッサとしてのCPU(Central Processing Unit)を含み、この患者側装置100A全体の動作を制御する。
【0145】
圧力センサ31にはエア配管38aが流体流通可能に接続され、電動ポンプ32Aにはエア配管38bが流体流通可能に接続され、また、電磁弁33Aにはエア配管38cが流体流通可能に接続されている。この例では、エア配管38a,38b,38cが合流して、1本のエア配管38として、カフ20に流体流通可能に接続されている。
【0146】
電動ポンプ32Aは、制御部110Aからの制御信号に基づいてポンプ駆動回路320によって駆動され、カフ20へ空気を供給して加圧する。電磁弁33Aは、制御部110Aからの制御信号に基づいて電磁弁駆動回路330によって開閉され、カフ20から空気を排出し、またはカフ20に空気を封入するのに用いられる。これにより、カフ20が自動的に加圧又は減圧されるようになっている。
【0147】
測定ボタン52Dは、この例ではモーメンタリタイプ(自己復帰タイプ)のスイッチであり、1回押し下げられると患者側装置100Aによる測定動作が開始され、もう1回押し下げられると患者側装置100Aによる測定動作が中断または停止するようになっている。
【0148】
メモリ51Aは、患者側装置100Aを制御するためのプログラムのデータ、患者側装置100Aの各種機能を設定するための設定データ、および、血圧測定中のデータ、血圧測定結果のデータなどを記憶する。また、メモリ51Aは、プログラムが実行されるときのワークメモリなどとして用いられる。
【0149】
電源部53Aは、測定ボタン52Dのオン、オフに応じて、制御部110A、メモリ51、圧力センサ31、電動ポンプ32A、電磁弁33Aその他の本体10A内の各部に電力を供給し、または遮断する。
【0150】
通信部190Aは、患者側装置100Aによる測定動作中に、制御部110Aからの制御信号に基づいて送信部として働くようになっている。この例では、通信部190Aは、カフ圧Pcの減圧過程で、圧力センサ31によって検出されたカフ圧Pcを表すカフ圧信号を単独で、または、マイクロフォン40が出力する音信号Ksと圧力センサ31によって検出されたカフ圧Pcを表すカフ圧信号とを時間的に同期させて、測定データとして順次送信する。
【0151】
表示器55はLCD(Liquid Crystal Display;液晶ディスプレイ)からなり、制御部110Aからの制御信号に従って所定の情報を表示する。この例では、表示器55は、測定中のカフ圧Pcを、例えば「〇〇〇mmHg」のように、デジタル表示するようになっている。なお、表示器55は、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイからなっていてもよいし、LED(発光ダイオード)を含んでいてもよい。
【0152】
一方、医師側装置100Bは、本体10Bを備えている。本体10Bには、制御部110Bと、表示器50と、操作部52と、電音変換デバイスとしてのスピーカ54と、メモリ51Bと、電源部53Bと、通信部190Bとが搭載されている。
【0153】
制御部110Bは、プロセッサとしてのCPU(Central Processing Unit)を含み、この医師側装置100B全体の動作を制御する。
【0154】
表示器50と操作部52は、
図13の血圧計1D(したがって、
図1の血圧計1A)におけるのと同じものである。
【0155】
スピーカ54は、患者側装置100Aによる測定動作中に、制御部110Bからの制御信号に基づいて、電気信号であるコロトコフ音信号Kcaを、コロトコフ音Kcとして再生する。電音変換デバイスとしては、スピーカ54に代えて、ヘッドフォン、イヤフォンなどが設けられてもよい。
【0156】
メモリ51Bは、医師側装置100Bを制御するためのプログラムのデータ、医師側装置100Bの各種機能を設定するための設定データ、および、血圧測定中のデータ、血圧測定結果のデータなどを記憶する。また、メモリ51Bは、プログラムが実行されるときのワークメモリなどとして用いられる。
【0157】
電源部53Bは、電源ボタン52Aのオン、オフに応じて、制御部110B、メモリ51Bその他の本体10B内の各部に電力を供給し、または遮断する。
【0158】
通信部190Bは、この例ではインターネットなどのネットワーク190を介して、患者側装置100Aの通信部190Aとデータ通信可能に接続されている。この例では、通信部190Bは、患者側装置100Aによる測定動作中に、患者側装置100Aの通信部190Aからリアルタイムで測定データを受信して、制御部110Bへ渡す。
【0159】
図18~
図19は、観測者80が、血圧測定システム1Fによって被験者90の上腕91の血圧を測定して記録する一実施形態の血圧記録方法のフローを示している。ここで、
図18、
図19では、患者側装置100Aの制御部110Aが行う処理・判断が左側に実線の輪郭で描かれるとともに、医師側装置100Bの制御部110Bが行う処理・判断が右側に実線の輪郭で描かれている。
図18中のフローの端子1と
図19中のフローの端子1とは連続し、また、
図18中のフローの端子2と
図19中のフローの端子2とは連続している。
図19中には、既述のように、観測者80による手動操作・手動入力が破線の輪郭で描かれている。
【0160】
予め、医師側装置100Bの電源はオンされて、
図18のステップS701に示すように、医師側装置100Bにおいて初期化が行われているものとする。これにより、メモリ51Bのデータセットの内容はリセットされているものとする。また、血圧測定の準備として、この例では、被験者90が自身の上腕91にカフ20を取り巻いて装着しているものとする。
【0161】
被験者90が患者側装置100Aの測定ボタン52Dを押すと、患者側装置100Aにおいて、
図18のステップS601に示した圧力センサ初期化の処理が行われる。
【0162】
続いて、
図18のステップS602,S702に示すように、患者側装置100Aの通信部190Aと医師側装置100Bの通信部190Bとがネットワーク190を介して通信(これを
図18中に矢印C1で示す。)を行って、患者側装置100Aと医師側装置100Bとを同期させる。同期がとれなければ(
図18のステップS602,S702でNO)、同期がとれるまで待つ。同期がとれると(
図18のステップS602,S702でYES)、患者側装置100Aと医師側装置100Bとの間で、タイミングを合わせてデータをやり取り等することが可能になる。
【0163】
同期がとれた状態で、
図18のステップS603で、患者側装置100Aの制御部110Aは、表示器55に、圧力センサ31によって検出された現在のカフ圧Pcを表示させ始める。続いて、制御部110Aはカフ圧調整部として働いて、ステップS604で電磁弁33Aを閉じ、ステップS605で電動ポンプ32Aの駆動を開始する。これに伴って、ステップS606で、制御部110Aは、圧力センサ31によって検出された現在のカフ圧Pcを表すカフ圧信号を、患者側装置100Aの通信部190Aから医師側装置100Bの通信部190Bへネットワーク190を介して送信し始める(これを
図18中に矢印C2で示す。)。さらに、ステップS607で、制御部110Aはカフ圧調整部として働いて、
図15上段に示したように、カフ圧Pcが、予想最高血圧より約30mmHg高く予め定められた圧力Pcmaxに達したか否かを判断し、達していなければ(ステップS607でNO)、ステップS605に戻って加圧を継続する。これにより、被験者90の上腕91の動脈を通る血流が一旦止められる。カフ圧Pcが圧力Pcmaxに達したら(
図18のステップS607でYES)、制御部110Aは、ステップS608で電動ポンプ32Aを停止し、ステップS609で電磁弁33Aを徐々に開く。これにより、典型的には2~3mmHg/秒の減圧速度で、カフ圧Pcの減圧が開始される。この例では、このように圧力調整が自動的に行われるので、被験者90としての患者が圧力調節をする必要がなく、便利である。
【0164】
上述のように、
図18のステップS606で患者側装置100Aから現在のカフ圧Pcを表すカフ圧信号が送信され始めると、ステップS703で、医師側装置100Bの制御部110Bは、通信部190Bを介してそのカフ圧信号を受信する。そして、ステップS704で、制御部110Bは第1の表示処理部として働いて、圧力センサ31によって検出された現在のカフ圧Pcを、表示器50に、目盛50aに沿った棒グラフ50bとしてリアルタイムで表示させる処理を開始する。
【0165】
図18のステップS609で開始されたカフ圧Pcの減圧過程で、
図19のステップS610に示すように、患者側装置100Aの制御部110Aはコロトコフ音信号検出部として働いて、
図15中段に示したように、マイクロフォン40が出力する音信号Ksからパルス状のコロトコフ音信号Kcaを検出する。そして、
図19のステップS611で、制御部110Aは、パルス状のコロトコフ音信号Kcaと、カフ圧Pcを表すカフ圧信号とを時間的に同期させて、測定データとして、送信部として働く通信部190Aを通して順次送信させる(これを
図19中に矢印C3で示す。)。
【0166】
図19のステップS706で、医師側装置100Bの通信部190Bは受信部として働いて、患者側装置100Aによる測定動作中に、患者側装置100Aからリアルタイムで測定データを受信して、制御部110Bへ渡す。ステップS707で、制御部110Bは第2のデータ蓄積部として働いて、コロトコフ音信号Kcaが検出された時刻に対応した拍番号Nと、そのコロトコフ音信号Kcaが検出された時刻でのカフ圧Pcとを関連付けて、データ対としてメモリ51Bに順次記憶させる。第4実施形態におけるのと同様に、これをデータセットDS3(
図15参照)とする。
【0167】
上記減圧過程で、観測者80は、表示器50に棒グラフ50bとしてリアルタイムで表示されるカフ圧Pcを見ながら、コロトコフ音信号Kcaに基づいてスピーカ54によって再生されたコロトコフ音Kcを聞く。
図19のステップS709で、観測者80は、
図15中段に例示したような、コロトコフ音Kcが発生し始めたと判断できた時刻(つまり、無音の状態から最初のコロトコフ音Kcfが聞こえた時刻)t0から反応時間td1分だけ遅れた時刻t1に、HOLDボタン52Bを押す。これが上記減圧過程で1回目の押下であれば、制御部110Bは、第1のタイミング信号t1(簡単のため、時刻t1と同じ符号で表す。)が入力されたと判断する。そして、制御部110Bは記録処理部として働いて、
図19のステップS708,S710,S711の処理(
図14のステップS510,S512,S513の処理と同じ)を行って、メモリ51に記憶されたデータセットDS3のうち、第1のタイミング信号t1が示す時刻に対応するデータ対(
図15下段の例では、時刻t1の直前に記憶された拍番号N=1のデータ対)を特定する。さらに、制御部110Bは、その特定されたデータ対が含むカフ圧Pcを、収縮期血圧値としてメモリ51Bに記憶させる。
図15下段の例では、収縮期血圧値として拍番号N=1のデータ対に含まれた125mmHg(破線の枠C1で示す)を記憶させる。これとともに、この例では、得られた収縮期血圧値125mmHgを、表示器50に表示させる。
【0168】
この後、上記減圧過程が進行して、カフ圧Pcが低下してゆく。再び
図19のステップS709で、観測者80は、
図15中段に例示したような、コロトコフ音Kcの発生が停止したと判断できた時刻(つまり、最後のコロトコフ音Kceが聞こえた時刻t20から1拍分Tだけ遅れた時刻)t21から、さらに反応時間td2分だけ遅れた時刻t2に、HOLDボタン52Bを押す。これが上記減圧過程で2回目の押下であれば、制御部110Bは、第2のタイミング信号t2(簡単のため、時刻t2と同じ符号で表す。)が入力されたと判断する。そして、制御部110Bは記録処理部として働いて、
図19のステップS708,S710,S712の処理(
図14のステップS510,S512,S514の処理と同じ)を行って、メモリ51に記憶されたデータセットDS3のうち、第2のタイミング信号t2が示す時刻から遡って最後に記憶されたデータ対(
図15下段の例では、拍番号N=15のデータ対)を特定し、その特定されたデータ対が含むカフ圧Pcを、補正された拡張期血圧値としてメモリ51Bに記憶させる。
図15下段の例では、収縮期血圧値として拍番号N=15のデータ対に含まれた85mmHg(破線の枠C2で示す)を記憶させる。これとともに、この例では、制御部110Bが第3の表示処理部として働いて、上記補正された拡張期血圧値85mmHgを、表示器50に表示させる。これにより、観測者80は、得られた収縮期血圧値および補正された拡張期血圧値を視認することができる。
【0169】
この後、上記減圧過程が進行して、現在のカフ圧Pcが予め定められた圧力(この例では、30mmHg)以下になれば(
図19のステップS612,S713でYes)、患者側装置100Aの制御部110Aは、ステップS613で電磁弁33Aを開く。これにより、カフ20からエア配管38,38c、電磁弁33Aを介して空気が大気中へ排気される。これとともに、ステップS714で、医師側装置100Bの制御部110Bは、得られた収縮期血圧値および補正された拡張期血圧値を、通信部190Bを通して患者側装置100Aへ送信する(これを
図19中に矢印C4で示す。)。すると、ステップS614で、患者側装置100Aの制御部110Aは、上記得られた収縮期血圧値および補正された拡張期血圧値を、通信部190Aを通して受信する。ステップS615で、患者側装置100Aの制御部110Aは、表示器55に、上記得られた収縮期血圧値および補正された拡張期血圧値を、デジタル値として表示させる。これにより、被験者90は、得られた収縮期血圧値および補正された拡張期血圧値を視認することができる。
【0170】
この第5実施形態によれば、第4実施形態におけるのと同様に、収縮期血圧値および拡張期血圧値(補正された拡張期血圧値)を精度良く記録できる。しかも、被験者90の在所(例えば、被験者90としての患者が住んでいる住宅の所在地)から、観測者80の在所(例えば、観測者80としての医師が勤務している医療機関の所在地)が遠方に離間している場合であっても、患者側装置100Aの通信部190Aと医師側装置100Bの通信部190Bとの間の上記測定データの授受によって、得られた収縮期血圧値および拡張期血圧値(補正された拡張期血圧値)が記録され得る。得られた収縮期血圧値および拡張期血圧値(補正された拡張期血圧値)は、例えば通信部190Bを介して、医療機関が有する電子カルテに保存されてもよい。
【0171】
なお、ネットワーク190は、典型的にはインターネットであるが、病院内LAN(Local Area Network)であってもよいし、1対1の通信であってもよい。
【0172】
また、この第5実施形態では、被験者90の在所に設けられた患者側装置100Aと、観測者80の在所に設けられた医師側装置100Bとが同期して動作するものとした。しかしながら、これに限られるものではなく、患者側装置100Aと医師側装置100Bが各々独立して動作するものとしてもよい。例えば、患者側装置100Aで、
図18のステップS601~
図19のステップS610までの処理(ただし、
図18のステップS602、および、ステップS606の処理を除く。)を行った後、
図19のステップS611で測定データを医師側装置100Bへリアルタイムで送信するのに代えて、パルス状のコロトコフ音信号Kcaと、カフ圧Pcを表すカフ圧信号とを時間的に関連付けて、測定データ(これを「第2の測定データ」と呼ぶ。)として、メモリ51Aに一時的に記録させておく。この後、患者側装置100Aは、
図19のステップS612~S613までの処理を完了する。患者側装置100Aは、第2の測定データをメモリ51Aに記憶させた後、任意の時期に、医師側装置100Bからの要求に従って、メモリ51Aに記録された第2の測定データを、医師側装置100Bへ送信する。医師側装置100Bは、受信した第2の測定データを、メモリ51Bに一時的に記録する。観測者80は、医師側装置100Bを起動して、メモリ51Bに一時的に記録されている第2の測定データを再生して、血圧値を決定する。例えば、観測者80は、第2の測定データに基づいて表示器50に表示されるカフ圧Pcを見ながら、スピーカ54によってコロトコフ音を聞いて、コロトコフ音が発生し始めたと判断した時刻、および/または、上記コロトコフ音の発生が停止したと判断した時刻に、HOLDボタン52Bを押す。これにより、第2の測定データに基づいて収縮期血圧値、および/または、拡張期血圧値(補正された拡張期血圧値)を記録することができる。このようにした場合、被験者90と観測者80が各々の装置を同時に操作する必要がなくなる。したがって、被験者90と観測者80の双方にとって、利便性が増す。
【0173】
上述の各実施形態では、被測定部位は被験者90の上腕91であるものとしたが、これに限られるものではない。被測定部位は被験者90の手首であってもよいし、下肢であってもよい。
【0174】
上述の各実施形態では、HOLDボタン52Bは、各血圧計1A~1Eの本体10又は医師側装置100Bの本体10Bに搭載されているものとしたが、これに限られるものではない。HOLDボタン52Bは、本体10,10Bから離間して設けられ、タイミング信号を、有線又は無線で、制御部110,110Bに入力するようになっていてもよい。
【0175】
また、上述の各血圧計1A~1Eおよび血圧測定システム1Fは、プリンタを備えて、得られた収縮期血圧値と拡張期血圧値(補正された拡張期血圧値)を、ロール紙などの用紙にプリントアウトしてもよい。
【0176】
上述の各実施形態では、観測者80のための表示器50は、伝統的な水銀式血圧計を模した態様で、画像として、縦方向に並ぶ目盛50aと、目盛50aに沿って伸縮する棒グラフ50bとを併せて表示して、カフ圧Pcを表すものとした。しかしながら、これに限られるものではない。例えば、
図20(A)、
図20(B)、
図20(C)にそれぞれ示すような表示器56、57、58であってもよい。
図20(A)に示す表示器56は、前面パネル56Pに円弧状に配列された多数のLEDからなるLED部56Lと、前面パネル56PのうちLED部56Lの内周に沿った領域に印刷された目盛56aとを備えている。そして、LED部56Lの点灯する範囲(便宜上、
図20(A)中に黒色で示す範囲)56bが変化することによって、カフ圧Pcを表す態様になっている。
図20(B)に示す表示器57は、前面パネル56Pに設けられた円形の範囲を占めるLCD部57Dを備えている。そして、このLCD部57Dに、画像として、環状(または円弧状)に配列された目盛57aと、時計の長針のように中心50cの周りに回転する指針57bとを表示して、カフ圧Pcを表す態様になっている。
図20(C)に示す表示器58は、本体10Cに設けられた3桁の7セグメント(8の字形)タイプのLCD部58Dを備えている。そして、このLCD部58Dによって、カフ圧Pcをデジタル値として表す態様になっている。このように、観測者80のための表示器としては、様々な態様のものが用いられ得る。この点は、被験者90のための表示器55(
図17参照)についても同様である。
【0177】
以上の実施形態は例示であり、この発明の範囲から離れることなく様々な変形が可能である。上述した複数の実施の形態は、それぞれ単独で成立し得るものであるが、実施の形態同士の組みあわせも可能である。また、異なる実施の形態の中の種々の特徴も、それぞれ単独で成立し得るものであるが、異なる実施の形態の中の特徴同士の組みあわせも可能である。
【符号の説明】
【0178】
1A,1B,1C,1D,1E 血圧計
1F 血圧測定システム
10,10A,10B 本体
20 カフ
31 圧力センサ
32 手動ポンプ
32A 電動ポンプ
33 手動弁
33A 電磁弁
40 マイクロフォン
50,55,56,57,58 表示器
110,110A,110B 制御部
190 ネットワーク
190A,190B 通信部