(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117357
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】汚染土壌の原位置浄化方法
(51)【国際特許分類】
B09C 1/06 20060101AFI20240822BHJP
【FI】
B09C1/06 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023416
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】土田 充
(72)【発明者】
【氏名】小松 大祐
(72)【発明者】
【氏名】中島 邦将
(72)【発明者】
【氏名】保坂 幸一
(72)【発明者】
【氏名】平澤 卓也
(72)【発明者】
【氏名】白石 知成
(72)【発明者】
【氏名】穂刈 利之
(72)【発明者】
【氏名】▲崎▼田 晃基
(72)【発明者】
【氏名】中島 均
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA41
4D004AB05
4D004AC07
4D004CA22
4D004CC11
4D004DA03
4D004DA06
(57)【要約】
【課題】本発明は、加熱効率をより高められる汚染土壌の原位置浄化方法を目的とする。
【解決手段】外管10と、外管10の内部に設けられた絶縁性ヒーター30とを有する加熱井戸1を用いて、汚染物質で汚染された汚染土壌が存在する処理対象領域Aの少なくとも一部を加熱して汚染土壌を浄化する汚染土壌の原位置浄化方法であって、外管10と絶縁性ヒーター30との空隙に粒状又は粉状の低融点金属40を充填する充填工程と、低融点金属40を融解して処理対象領域Aの少なくとも一部を加熱する加熱工程と、を有する、汚染土壌の原位置浄化方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外管と、前記外管の内部に設けられた絶縁性ヒーターとを有する加熱井戸を用いて、汚染物質で汚染された汚染土壌が存在する処理対象領域の少なくとも一部を加熱して汚染土壌を浄化する汚染土壌の原位置浄化方法であって、
前記外管と前記絶縁性ヒーターとの空隙に粒状又は粉状の低融点金属を充填する充填工程と、
前記低融点金属を融解して前記処理対象領域の少なくとも一部を加熱する加熱工程と、を有する、汚染土壌の原位置浄化方法。
【請求項2】
前記加熱井戸が、前記外管の内部に位置する内管をさらに有し、
前記内管は、前記外管の管軸方向に延び、前記絶縁性ヒーターと接触している、請求項1に記載の汚染土壌の原位置浄化方法。
【請求項3】
前記低融点金属の0.1MPaにおける融点が200℃~300℃である、請求項1又は2に記載の汚染土壌の原位置浄化方法。
【請求項4】
前記低融点金属が、錫及び錫の合金から選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載の汚染土壌の原位置浄化方法。
【請求項5】
前記加熱工程の後に、前記外管と前記絶縁性ヒーターとの空隙に粒状又は粉状の前記低融点金属を充填する追加充填工程をさらに有する、請求項1又は2に記載の汚染土壌の原位置浄化方法。
【請求項6】
前記外管の開口部に蓋体を設けて前記外管を閉塞する閉塞工程をさらに有する、請求項5に記載の汚染土壌の原位置浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染土壌の原位置浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
揮発性有機化合物(VOC)等で汚染された汚染土壌を浄化する方法としては、掘削して除去する方法(掘削除去法)が知られている。
しかし、掘削除去法では、汚染土壌を大量に搬出、運搬しなければならず、膨大なコストを要していた。
【0003】
こうした問題に対し、例えば、特許文献1には、汚染物質を含む処理対象領域に熱を加え、汚染物質の一部を気化させてこれを吸引し、処理対象領域から除去する、汚染土壌の原位置浄化方法が提案されている。特許文献1の発明によれば、原位置の加熱及び蒸気抽出により汚染物質の除去効率を高めることが図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の加熱用井戸(加熱井戸)は、スリーブ管(外管)の内部にヒーターとして電熱線を配し、外管と電熱線とは、空気によって絶縁されている。高温(例えば、100℃以上)に加熱した電熱線の熱は、放射(輻射)により処理対象領域に伝達される。輻射による熱伝達は、伝導による熱伝達に比べて熱伝達の効率(加熱効率)が劣る。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、加熱効率をより高められる汚染土壌の原位置浄化方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の態様を有する。
[1]外管と、前記外管の内部に設けられた絶縁性ヒーターとを有する加熱井戸を用いて、汚染物質で汚染された汚染土壌が存在する処理対象領域の少なくとも一部を加熱して汚染土壌を浄化する汚染土壌の原位置浄化方法であって、
前記外管と前記絶縁性ヒーターとの空隙に粒状又は粉状の低融点金属を充填する充填工程と、
前記低融点金属を融解して前記処理対象領域の少なくとも一部を加熱する加熱工程と、を有する、汚染土壌の原位置浄化方法。
[2]前記加熱井戸が、前記外管の内部に位置する内管をさらに有し、
前記内管は、前記外管の管軸方向に延び、前記絶縁性ヒーターと接触している、[1]に記載の汚染土壌の原位置浄化方法。
[3]前記低融点金属の0.1MPaにおける融点が200℃~300℃である、[1]又は[2]に記載の汚染土壌の原位置浄化方法。
[4]前記低融点金属が、錫及び錫の合金から選ばれる1種以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の汚染土壌の原位置浄化方法。
[5]前記加熱工程の後に、前記外管と前記絶縁性ヒーターとの空隙に粒状又は粉状の前記低融点金属を充填する追加充填工程をさらに有する、[1]~[4]のいずれかに記載の汚染土壌の原位置浄化方法。
[6]前記外管の開口部に蓋体を設けて前記外管を閉塞する閉塞工程をさらに有する、[1]~[5]のいずれかに記載の汚染土壌の原位置浄化方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の汚染土壌の原位置浄化方法によれば、加熱効率をより高められる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る充填工程を概略的に示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る絶縁性ヒーターの構成を概略的に示す断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る充填工程終了後の加熱井戸の構成を概略的に示す断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る加熱工程及び追加充填工程を概略的に示す断面図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る閉塞工程を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪汚染土壌の原位置浄化方法≫
本発明の汚染土壌の原位置浄化方法は、汚染物質で汚染された汚染土壌が存在する処理対象領域を、加熱井戸を用いて加熱して、汚染物質を揮発あるいは昇温により汚染物質の粘性を低減させることで流動性を大きくし、吸引処理を容易にさせ(以下、「揮発等」ともいう。)、土壌を浄化する方法である。
本発明の汚染土壌の原位置浄化方法は、充填工程と、加熱工程とを有する。
以下、本発明の汚染土壌の原位置浄化方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0011】
<加熱井戸>
図1に示すように、本実施形態の汚染土壌の原位置浄化方法に係る加熱井戸1は、外管10と、内管20と、絶縁性ヒーター30と、を有する。加熱井戸1は、汚染土壌が存在する処理対象領域Aに設置される。図中、符号60は、処理対象領域Aの地表を覆うように設けられたコンクリート層である。コンクリート層60は、好ましくは、エアモルタルで形成される。加熱井戸1は、地表面Gから下方の深さ方向に延びるように配置されている。
【0012】
筒状の外管10は、地表面Gから下方の深さ方向に延びるように配置されている。外管10の内部には、内管20が設けられ、地表面G、あるいは地表面Gより深度の深い地中から外管10の内部を外管10の管軸方向(深さ方向)に延びている。内管20の下端は、外管10の底部16付近に至っている。
加えて、外管10の内部には、絶縁性ヒーター30が設けられ、地表面G、あるいは地表面Gより深度の深い地中から外管10の内部を外管10の管軸方向に延びている。絶縁性ヒーター30は、内管20の外面を覆うように内管20と接触して設けられている。
【0013】
外管10は、加熱井戸1のケーシングである。外管10としては、例えば、配管用炭素鋼鋼管(SGP管)、ステンレス鋼管等が挙げられる。
外管10の底部16は、閉形式であることが好ましい。外管10の底部16が閉形式であると、加熱井戸1の内部に地下水が浸入することを防止できる。加えて、外管10の底部16が閉形式であると、低融点金属が加熱井戸1の外部に漏出することを防止できる。
外管10は、円筒状でもよいし、多角筒状でもよい。
【0014】
外管10の管軸方向の長さは、短すぎると汚染物質の除去が不充分となりやすく、長すぎると施工が難しくなる、あるいは施工費用が大きくなるため、これらの不都合が生じ難い範囲に設定することが好ましい。
より具体的には、外管10の管軸方向の長さは、例えば、1~10mが好ましい。
【0015】
外管10の内径は、充填工程において粒状又は粉状の低融点金属40を充填可能な大きさであればよく、例えば、50~2000mmが好ましい。
外管10の径方向における厚さ(肉厚)は、必要な強度が得られる大きさであればよく、例えば、1~50mmが好ましい。
【0016】
内管20は、絶縁性ヒーター30で発生した熱を、外管10の管軸方向に伝達する機能を有する。加熱井戸1は、内管20を有することで、加熱効率をより高められる。内管20は、内部が空洞の中空管でもよく、内部が空洞ではない棒状の形状であってもよい。
内管20としては、例えば、SGP管、ステンレス鋼管、アルミニウム鋼管などの中空管、ガラス、アスファルト、コンクリート、アルミナ、鉄系材料、非鉄金属等の棒が挙げられる。非鉄金属としては、例えば、アルミニウム、銅、銀等が挙げられる。
これらの内管20としては、熱伝導率が高く、軽量で施工性に優れることから、アルミニウム鋼管、アルミニウム製の鋼棒が好ましい。
【0017】
内管20は、外管10と同軸であることが好ましい。
内管20の管軸方向の長さは、外管10の長さと同じでもよく、外管10の長さよりも短くてもよい。例えば、内管20が、絶縁性ヒーター30で発生した熱を外管10の管軸方向に伝達する熱伝達体を兼ねる構成として、絶縁性ヒーター30を外管10よりも短くしてもよい。
より具体的には、内管20の管軸方向の長さは、例えば、0.5~10mが好ましい。
【0018】
絶縁性ヒーター30は、絶縁性を有する電気加熱ヒーターである。絶縁性ヒーター30は、絶縁性を有するため、電熱線と外管10とが接触することによる漏電を防止できる。
図2に、絶縁性ヒーター30の一例を示す。
【0019】
図2に示すように、絶縁性ヒーター30は、ヒーターシース32と、電熱線34と、絶縁体36とを有する。
ヒーターシース32は、管軸方向に延びる筒状の形状をしている。本実施形態において、絶縁性ヒーター30は、ヒーターシース32の管軸方向を長手とする。ヒーターシース32の内部には、発熱体となるコイル状の電熱線34が配置され、絶縁体36が充填されている。
【0020】
図3に示すように、絶縁性ヒーター30の管軸方向に垂直な断面の形状は円形である。絶縁性ヒーター30のヒーターシース32は、管軸方向に垂直な断面の形状が円形である。ヒーターシース32の内部には、コイル状に形成された電熱線34が配置されている。
図3の符号34は、コイル状の電熱線34を断面視した状態を示している。ヒーターシース32と、電熱線34とは、絶縁体36によって絶縁されている。
【0021】
ヒーターシース32は、絶縁性ヒーター30のケーシングである。ヒーターシース32としては、例えば、ステンレス鋼、インコネル(登録商標)鋼、チタン、アルミニウム等の高温耐熱性を有する金属管等が挙げられる。
ヒーターシース32の外径L32は特に限定されないが、例えば、5~20mmが好ましい。ヒーターシース32の外径L32が上記下限値以上であると、加熱井戸1の加熱効率をより高められる。ヒーターシース32の外径L32が上記上限値以下であると、絶縁体36の使用量を低減でき、コスト面で有利である。
【0022】
ヒーターシース32の長手方向の長さは特に限定されないが、例えば、0.1m以上が好ましい。ヒーターシース32の長手方向の長さが上記下限値以上であると、処理対象領域Aの深さ方向に熱をより効率良く伝達できる。ヒーターシース32の管軸方向の長さの上限値は、長いほど好ましく、例えば、10mとされる。
【0023】
電熱線34は、熱源である。電熱線34の材質は特に限定されないが、例えば、ニクロム、タングステン、白金等の金属が挙げられる。電熱線34の材質としては、例えば、炭化ケイ素等の非金属化合物であってもよい。
【0024】
絶縁体36は、絶縁性を有していればよく、例えば、酸化マグネシウム、マイカ、磁器、ガラス等の粉末等が挙げられる。
【0025】
本実施形態の加熱井戸1は、汚染土壌が存在する処理対象領域Aを加熱して汚染物質を揮発等させ、土壌を浄化する原位置浄化に用いられる。
本実施形態の原位置浄化方法は、いわゆる原位置熱脱着法である。原位置熱脱着法の加熱方式としては、例えば、電気加熱ヒーター式、電気抵抗式、スチーム式等の方式が挙げられる。原位置熱脱着法の加熱方式としては、加熱温度が高く、土壌を均一に加熱しやすいことから電気加熱ヒーター式が好ましい。本実施形態の加熱井戸1は、絶縁性ヒーター30を用いているため、電気加熱ヒーター式の加熱方式に分類される。
【0026】
<充填工程>
充填工程は、外管と絶縁性ヒーターとの空隙に粒状又は粉状の低融点金属を充填する工程である。
本実施形態において、充填工程では、外管10と絶縁性ヒーター30との空隙に低融点金属40を充填する。
ここで、「低融点金属」とは、通常の大気圧、すなわち、1気圧(0.1MPa)における融点が350℃以下の金属をいうものとする。低融点金属の0.1MPaにおける融点の下限値は特に限定されないが、例えば、40℃とされる。
また、本明細書において、「粒状の低融点金属」とは、常温(例えば、1~40℃)において平均粒子径が1mm以上の低融点金属の粒体をいう。平均粒子径の上限は特に限定されないが、例えば、50mmとされる。「粉状の低融点金属」とは、常温において平均粒子径が1mm未満の低融点金属の粉体をいう。平均粒子径の下限は特に限定されないが、例えば、5μmとされる。
ここで、「平均粒子径」は、ふるい分け法又は沈降分析法によって求められる値である。
【0027】
低融点金属としては、例えば、鉛(327.5℃)、カドミウム(321.0℃)、錫(232.0℃)、インジウム(156.6℃)等の金属単体、これらの金属単体を含む合金等が挙げられる。ここで、括弧内の温度は、1気圧における融点を表す。
合金としては、例えば、易融合金が挙げられる。易融合金としては、例えば、はんだ、活字合金、ローズ合金、ウッド合金、ニュートン合金、ガリンスタン、ナトリウムカリウム合金等が挙げられる。
これらの低融点金属としては、安全性や環境面の配慮から、錫、錫の合金(錫を含む合金)が好ましく、錫、鉛を含まない錫の合金(上述した易融合金の中では、ガリンスタン)がより好ましく、金属単体としての錫がさらに好ましい。
これらの低融点金属は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
低融点金属の0.1MPaにおける融点は、例えば、200~300℃が好ましく、210~280℃がより好ましく、220~260℃がさらに好ましい。低融点金属の0.1MPaにおける融点が上記下限値以上であると、常温において外管と絶縁性ヒーターとの空隙に低融点金属を充填しやすい。加えて、低融点金属の0.1MPaにおける融点が上記下限値以上であると、後述する加熱工程の際に金属の蒸気が発生することを抑制でき、作業性をより高められる。低融点金属の0.1MPaにおける融点が上記上限値以下であると、後述する加熱工程で容易に融解し、加熱井戸1の内部で液体として外管10に熱を伝導できるため、加熱井戸1の加熱効率をより高められる。
【0029】
外管10と絶縁性ヒーター30との空隙に粒状又は粉状の低融点金属40を充填する方法は特に限定されず、低融点金属を粒状又は粉状に粉砕し、スコップや運搬装置を利用して、外管10の開口部12から低融点金属40を投下すればよい。投下された粒状又は粉状の低融点金属40は、外管10の底部16に堆積する。加熱効率をより高める観点から、低融点金属40の投下は、外管10の開口部12まで充填されるように行うことが好ましい。低融点金属40の投下は、外管10の開口部12まで充填されるように、複数回に分けて行うことが好ましい。この際、1回分の低融点金属40を投下し、投下した低融点金属40を外管10内で振動させると、低融点金属40の粒同士の隙間が小さくなるため、充填率(充填密度)が高められ、ボイド(空洞)の発生が低減される。
低融点金属40を充填する量(体積)は特に限定されず、加熱時に溶融し、処理対象領域Aの少なくとも一部を加熱できる量であればよい。加熱効率をより高める観点から、低融点金属40を充填する量は、
図4に示すように、外管10の開口部12まで充填される量が好ましい。
【0030】
<加熱工程>
加熱工程は、低融点金属を融解して、処理対象領域の少なくとも一部を加熱する工程である。
図5に示すように、本実施形態において、加熱工程では、絶縁性ヒーター30に電力を供給し、低融点金属40を加熱し、融解させ、低融点金属の液体42とする。
低融点金属の液体42は、空気よりも熱伝導率が高い。加熱井戸1は、外管10の内部に低融点金属の液体42が充填されていることにより、絶縁性ヒーター30で発生した熱を放射ではなく、伝導によって処理対象領域Aに伝達できる。このため、加熱井戸1の加熱効率をより高められる。なお、図中の矢印Qは、熱エネルギーの移動方向を示す。
【0031】
空気の熱伝導率は、20℃で0.0257W/m・Kである。低融点金属40は、熱伝導率が空気よりも高い。熱伝導率は、低融点金属40の形状、充填状態等によって変化する。例えば、同じ低融点金属40であっても、粒状の低融点金属40の熱伝導率は、密な液体42の熱伝導率の数分の1程度になると考えられる。
本実施形態の汚染土壌の原位置浄化方法では、粒状又は粉状の低融点金属40を融解することで低融点金属の液体42にすることができる。液体42は、粒状又は粉状の低融点金属40に比べて空隙が無いため、液体42の熱伝導率は、粒状又は粉状の低融点金属40の熱伝導率よりも遥かに高い。このため、絶縁性ヒーター30で発生した熱を遥かに効率よく処理対象領域Aに伝達できる。
なお、熱伝導率は、低融点金属40の測定時の形状、充填状態等によって変化するため、実験によって実測して求めることが好ましい。熱伝導率を実測する方法としては、例えば、熱線法が挙げられる。
【0032】
加熱工程における低融点金属40を融解する際の絶縁性ヒーター30の温度は、例えば、200℃以上が好ましく、300℃以上がより好ましく、350℃以上がさらに好ましい。絶縁性ヒーター30の温度が上記下限値以上であると、低融点金属40をより確実に融解できる。絶縁性ヒーター30の温度の上限値は特に限定されないが、例えば、800℃とされる。
絶縁性ヒーター30の温度は、絶縁性ヒーター30に熱電対や温度センサ等を取り付けることにより測定できる。
【0033】
絶縁性ヒーター30に供給する電力の大きさは、絶縁性ヒーター30の大きさ、加熱井戸1の大きさ、目標とする加熱温度等を勘案して設定される。
電力を供給された電熱線34は、通電し、加温される。電熱線34を加温して発生した熱は、加熱井戸1内に充填された低融点金属40を融解した後、低融点金属の液体42を伝播し、外管10を介して、外部の処理対象領域Aに伝達される。この際、加熱井戸1は、外管10の内部に低融点金属の液体42を有するため、電熱線34で生じた熱を速やかに処理対象領域Aに伝達できる。
【0034】
加熱工程における処理対象領域Aの加熱温度は、例えば、60℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、地下水の沸点以上がさらに好ましい。加熱温度が上記下限値以上であると、汚染物質の気化、分解が促進され、より多くの汚染物質を除去できる。特に、加熱温度を地下水の沸点以上とした場合、土壌の間隙に含まれる水分を蒸発させ、土壌の粒子間の間隙を拡張し、かつ、脱着した汚染物質を水蒸気で連行できるため、汚染物質を土壌からより効率よく除去できる。加熱温度の上限値は不飽和帯やオンサイトを対象とする場合で350℃程度までである。
加熱工程における処理対象領域Aの加熱温度は、熱電対や温度センサ等を取り付けたモニタリング井戸(不図示)等により測定できる。
【0035】
汚染物質としては、例えば、揮発性有機化合物(VOC)、油分、水銀、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、ダイオキシン類等が挙げられる。
VOCとしては、例えば、ベンゼン、トルエン、ハロゲン化炭化水素(例えば、トリクロロエチレン等)等が挙げられる。
油分としては、例えば、炭素数5~44の炭化水素等が挙げられる。炭素数5~18の炭化水素は、主に気体として回収できる。炭素数19以上の炭化水素であっても、粘度を低下させることで液体として回収可能である。これらの炭化水素は飽和炭化水素でもよく、不飽和炭化水素でもよい。これらの炭化水素は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよく、環状でもよい。これらの炭化水素の具体例としては、例えば、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン等が挙げられる。
水銀としては、例えば、金属水銀、無機水銀、有機水銀が挙げられる。無機水銀としては、例えば、酸化水銀、硫化水銀、塩化水銀(Hg2Cl2、HgCl2)、硝酸水銀等が挙げられる。有機水銀としては、例えば、アルキル水銀(例えば、メチル水銀、エチル水銀)、フェニル水銀(例えば、酢酸フェニル水銀)等が挙げられる。
【0036】
PCBとしては、例えば、3,3’,4,4’-テトラクロロビフェニル、3,4,4’,5-テトラクロロビフェニル、3,3’,4,4’,5-ペンタクロロビフェニル、3,3’,4,4’,5,5’-ヘキサクロロビフェニル、2,3,3’,4,4’-ペンタクロロビフェニル、2,3,3’,4,4’,5-ヘキサクロロビフェニル、2,3,3’,4,4’,5,5’-ヘプタクロロビフェニル等が挙げられる。
ダイオキシン類としては、例えば、2,3,7,8-テトラクロロパラジオキシン、2,3,4,7,8-ペンタクロロジベンゾフラン等が挙げられる。
【0037】
汚染物質の除去は、例えば、吸引井戸(不図示)を用いて、加熱によって土壌から脱着した汚染物質を含む流体を吸引することにより行うことができる。
【0038】
<追加充填工程>
本実施形態の汚染土壌の原位置浄化方法は、加熱工程の後に、追加充填工程をさらに有することが好ましい。
追加充填工程は、加熱工程の後に、外管10と絶縁性ヒーター30との空隙に粒状又は粉状の低融点金属40を充填する工程である。
加熱工程において、低融点金属40が融解し、低融点金属の液体42に状態変化すると、粒状又は粉状の低融点金属40における空隙が無くなり、加熱井戸1内の低融点金属の体積が低減する。このため、加熱井戸1内に、外管10と絶縁性ヒーター30との新たな空隙が形成される。新たな空隙が形成されると、加熱井戸1の加熱効率が低下する。そこで、新たな空隙に粒状又は粉状の低融点金属40を充填することで、加熱井戸1の加熱効率の低下を抑制できる。
本実施形態の汚染土壌の原位置浄化方法は、追加充填工程を有することで、外管10と絶縁性ヒーター30との新たな空隙を充填し、熱伝導率が低下することを抑制でき、加熱井戸1の加熱効率をより高められる。
【0039】
粒状又は粉状の低融点金属40を充填する方法は、上述した充填工程における粒状又は粉状の低融点金属40を充填する方法と同様である。
図5に示すように、外管10の開口部12に粒状又は粉状の低融点金属40を投下すると、投下後速やかに液体42となり、新たな空隙が液体42で満たされる。低融点金属40を投下する際、外管10の開口部12からあふれ出ないように留意する。追加充填する低融点金属は、予め融解した低融点金属の液体42であってもよい。
【0040】
<閉塞工程>
本実施形態の汚染土壌の原位置浄化方法は、充填工程の後に、閉塞工程をさらに有することが好ましい。
図6に示すように、閉塞工程は、充填工程の後に、外管10の開口部12に蓋体50を設けて、外管10を閉塞する工程である。
本実施形態の汚染土壌の原位置浄化方法は、閉塞工程を有することで、低融点金属の液体42の温度の低下を抑制でき、加熱井戸1の加熱効率をより高められる。
【0041】
蓋体50の材質としては、耐熱性を有し、液体42の温度の低下を抑制できる物質が挙げられ、例えば、コンクリートやアスファルト等が挙げられる。蓋体50の材質としては、この他、外管10と同じ材質であってもよい。
蓋体50を設ける方法は特に限定されず、開口部12の全体を覆うように蓋体50を設ければよい。
【0042】
処理対象領域Aの加熱を終えた後の加熱井戸1は、自然放冷の後、外管10ごと地上へ引き抜き、回収される。固化した低融点金属は、再度加熱することで液化し、別途回収される。回収された低融点金属は、廃棄してもよく、リサイクルしてもよい。
処理対象領域Aの浄化が充分ではない場合は、新たな加熱井戸を設け、上述した方法と同様に、再度浄化することができる。
【0043】
本実施形態の汚染土壌の原位置浄化方法は、外管10の内部に空気よりも熱伝導率が高い低融点金属40を充填する充填工程を有する。低融点金属40は、空気よりも熱伝導率が高く、輻射に加えて伝導により熱を伝達できる。このため、従来の加熱井戸に比べて処理対象領域Aの加熱効率をより高められる。
本実施形態の汚染土壌の原位置浄化方法は、低融点金属40を融解して低融点金属の液体42としているため、加熱井戸1内の空隙を埋めることができ、より効率よく熱を処理対象領域Aに伝達できる。
本実施形態の加熱井戸1は、内管20を用いているため、絶縁性ヒーター30の深さ方向の長さが短い場合でも、絶縁性ヒーター30の熱を外管10の底部16まで伝達できる。このため、外管10の底部16付近の低融点金属を融解でき、処理対象領域Aのより深い位置まで効率よく加熱できる。
【0044】
以上、本発明の汚染土壌の原位置浄化方法について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、加熱井戸1において、低融点金属は、外管10の内部の全領域にわたって充填されているが、加熱井戸では、外管の内部の一部の領域において、低融点金属が存在しない領域があってもよい。しかし、加熱効率をより高められることから、低融点金属は、外管の内部の全領域にわたって充填されていることが好ましい。
例えば、加熱井戸1は、絶縁性ヒーター30の全部が低融点金属40と接触しているが、絶縁性ヒーターは、少なくとも一部が低融点金属と接触していればよい。しかし、加熱効率をより高められることから、絶縁性ヒーターは、全部が低融点金属と接触していることが好ましい。
例えば、加熱井戸1は、内管20を有するが、加熱井戸は、内管を有さず、外管と絶縁性ヒーターのみであってもよい。しかし、低融点金属の充填量を低減できること、処理対象領域の深い位置まで加熱できることから、加熱井戸は、内管を有することが好ましい。
例えば、加熱井戸1において、内管20は、外管10の底部16まで延びているが、加熱井戸では、内管は、外管の底部に到達していなくてもよい。しかし、加熱効率をより高められることから、内管は、外管の底部に到達していることが好ましい。
例えば、加熱井戸1は、地表面から下方の深さ方向に延びるように配置されているが、加熱井戸は、地中において斜め下方に延びるように配置されていてもよい。
加熱井戸は、一つのみを設置してもよく、二つ以上を設置してもよい。
【0045】
2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」がある。一実施形態に係る汚染土壌の原位置浄化方法は、このSDGsの17の目標のうち、例えば、「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」の目標などの達成に貢献し得る。
【符号の説明】
【0046】
1…加熱井戸、10…外管、12…外管10の開口部、16…外管10の底部、20…内管、30…絶縁性ヒーター、32…ヒーターシース、34…電熱線、36…絶縁体、40…粒状又は粉状の低融点金属、42…低融点金属の液体、50…蓋体、A…処理対象領域、G…地表面、Q…熱エネルギーの移動方向