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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117361
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】システム及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   F01M 13/00 20060101AFI20240822BHJP
   F02M 21/02 20060101ALI20240822BHJP
   F02D 19/02 20060101ALI20240822BHJP
   F01N 3/021 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
F01M13/00 B
F01M13/00 M
F02M21/02 G
F02M21/02 Z
F02D19/02 B
F01N3/021
F01M13/00 F
F01M13/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023422
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】郷間 啓介
【テーマコード(参考)】
3G015
3G092
3G190
【Fターム(参考)】
3G015AA13
3G015BA00
3G015BD09
3G015BD10
3G015BD11
3G015BD16
3G015BD24
3G015BG08
3G015CA06
3G015CA16
3G092AA18
3G092AB02
3G092AB09
3G092AB12
3G092HA15
3G190CA01
3G190CB41
(57)【要約】
【課題】クランクケースの内部で水素ガスが着火することを防止し、かつ、コストや信頼性の悪化を抑制する。
【解決手段】システムは、水素を含む燃料での運転が可能なエンジンを含むシステムであって、前記エンジンのクランクケースと、前記エンジンへ空気を吸入するエンジン吸気通路と、前記エンジン吸気通路から分岐し、前記クランクケースへ空気を導入するクランクケース吸気通路と、前記クランクケース吸気通路に配置され、前記クランクケース吸気通路を開閉する希釈空気バルブと、前記エンジン吸気通路から前記クランクケース吸気通路へ分岐する分岐部の上流に配置されたコンプレッサと、前記クランクケースの内部の水素濃度を検出する水素センサと、前記クランクケースの内部の空気を排出するクランクケース排気通路と、前記水素センサが検出した前記水素濃度に基づいて前記希釈空気バルブの開閉を制御する制御装置と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を含む燃料での運転が可能なエンジンを含むシステムであって、
前記エンジンのクランクケースと、
前記エンジンへ空気を吸入するエンジン吸気通路と、
前記エンジン吸気通路から分岐し、前記クランクケースへ空気を導入するクランクケース吸気通路と、
前記クランクケース吸気通路に配置され、前記クランクケース吸気通路を開閉する希釈空気バルブと、
前記エンジン吸気通路から前記クランクケース吸気通路へ分岐する分岐部の上流に配置されたコンプレッサと、
前記クランクケースの内部の水素濃度を検出する水素センサと、
前記クランクケースの内部の空気を排出するクランクケース排気通路と、
前記水素センサが検出した前記水素濃度に基づいて前記希釈空気バルブの開閉を制御する制御装置と、を備える、
システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記水素センサが検出した前記水素濃度が閾値以上になった場合に、前記希釈空気バルブを所定以上に開く制御を行う、
請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記クランクケース排気通路は、大気開放する、
請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
前記クランクケース排気通路は、前記コンプレッサの上流に接続する、
請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項5】
前記クランクケース排気通路から分岐し、前記クランクケースの内部の空気を前記コンプレッサの上流に戻す戻し通路と、
前記クランクケース排気通路から前記戻し通路へ分岐する分岐部に配置され、前記クランクケース排気通路が大気開放する第1経路と前記クランクケース排気通路が前記戻し通路に通じる第2経路とを切替する切替バルブと、を更に備える、
請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項6】
前記制御装置は、前記水素センサが検出した前記水素濃度が閾値以上になった場合に、前記切替バルブに前記第2経路へ切替させる制御を行う、
請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記クランクケース排気通路に配置されるフィルタを更に備える、
請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項8】
水素を含む燃料での運転が可能なエンジンを含むシステムの制御方法であって、
前記システムは、
前記エンジンのクランクケースと、
前記エンジンへ空気を吸入するエンジン吸気通路と、
前記エンジン吸気通路から分岐し、前記クランクケースへ空気を導入するクランクケース吸気通路と、
前記クランクケース吸気通路に配置され、前記クランクケース吸気通路を開閉する希釈空気バルブと、
前記エンジン吸気通路から前記クランクケース吸気通路へ分岐する分岐部の上流に配置されたコンプレッサと、
前記クランクケースの内部の水素濃度を検出する水素センサと、
前記クランクケースの内部の空気を排出するクランクケース排気通路と、を備え、
前記制御方法は、
前記クランクケースの内部の水素濃度を取得する水素濃度取得ステップと、
前記水素濃度が閾値以上か否かを判定する水素濃度判定ステップと、
前記水素濃度が閾値以上であると判定した場合に前記希釈空気バルブを開くバルブ開ステップと、
前記水素濃度が閾値未満であると判定した場合に前記希釈空気バルブを閉じるバルブ閉ステップと、を含む、
制御方法。
【請求項9】
前記システムは、
前記クランクケース排気通路から分岐し、前記クランクケースの内部の空気を前記コンプレッサの上流に戻す戻し通路と、
前記クランクケース排気通路から前記戻し通路へ分岐する分岐部に配置され、前記クランクケース排気通路が大気開放する第1経路と前記クランクケース排気通路が前記戻し通路に通じる第2経路とを切替する切替バルブと、を更に備え、
前記制御方法は、
前記水素濃度が閾値以上であると判定した場合に、前記切替バルブに前記第2経路へ切替させる第2経路切替ステップと、
前記水素濃度が閾値未満であると判定した場合に、前記切替バルブに前記第1経路へ切替させる第1経路切替ステップと、を含む、
請求項8に記載の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、システム及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンでは、シリンダとピストンとの間を抜けて燃焼室の気体がクランクケースに漏れ出る場合がある。この漏れ出る気体は、ブローバイガスと呼ばれている。エンジンとしては、水素を含む燃料での運転が可能なエンジンがある。水素ガスは、天然ガスやガソリン等の他の燃料に比べて可燃範囲が非常に広く、理論空燃比の10倍に希釈されても着火する。そのため、水素を含む燃料を使用するエンジンでは、クランクケースの内部において水素ガスの濃度が着火可能な程度に維持される可能性がある。そこで、水素を含む燃料での運転が可能なエンジンにおいて、クランクケースの内部で水素ガスが着火することを防止する必要がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、水素ガスを含む燃料での運転が可能な4ストロークエンジンが開示されている。このエンジンは、換気口が形成されたクランクケースと、クランクケースの外部と換気口とを連絡する換気流路と、換気流路に設けられた換気ファンと、を備える。換気ファンは、クランクケースの内部における水素ガスの濃度が可燃範囲の下限値を下回ることができる量の水素ガスを、水素ガス以外の気体とともにクランクケースの内部から外部へ強制的に排出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-127704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、新規で換気ファンの設置が必要となり、コストや信頼性が悪化する可能性が高い。そのため、コストや信頼性の悪化を抑制する上で改善の余地がある。
【0006】
そこで本発明は、クランクケースの内部で水素ガスが着火することを防止し、かつ、コストや信頼性の悪化を抑制することができるシステム及び制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るシステムは、水素を含む燃料での運転が可能なエンジンを含むシステムであって、前記エンジンのクランクケースと、前記エンジンへ空気を吸入するエンジン吸気通路と、前記エンジン吸気通路から分岐し、前記クランクケースへ空気を導入するクランクケース吸気通路と、前記クランクケース吸気通路に配置され、前記クランクケース吸気通路を開閉する希釈空気バルブと、前記エンジン吸気通路から前記クランクケース吸気通路へ分岐する分岐部の上流に配置されたコンプレッサと、前記クランクケースの内部の水素濃度を検出する水素センサと、前記クランクケースの内部の空気を排出するクランクケース排気通路と、前記水素センサが検出した前記水素濃度に基づいて前記希釈空気バルブの開閉を制御する制御装置と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
上記態様によれば、クランクケースの内部で水素ガスが着火することを防止し、かつ、コストや信頼性の悪化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係るシステムの概略構成図。
図2】第1実施形態に係るシステムの制御方法の一例のフローチャート。
図3】第2実施形態に係るシステムの概略構成図。
図4】第2実施形態に係るシステムの制御方法の一例のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。実施形態においては、システムを構成するエンジンとして、水素エンジン(水素を含む燃料での運転が可能なエンジンの一例)を挙げて説明する。
【0011】
<第1実施形態>
<システム>
図1は、第1実施形態に係るシステム1の概略構成図である。
図1に示すように、システム1は、水素エンジン2(以下単に「エンジン2」ともいう。)を備える。例えば、エンジン2は、水素を含む燃料での運転が可能であるとともに、水素を含まない燃料での運転も可能であってもよい。なお、水素を含む燃料には、燃料の一部が水素ガスであるものと、燃料の全部が水素ガスであるもの(すなわち水素ガスそのもの)とが含まれる。また、エンジン2の用途は特に限定されず、車両等の駆動用でもよいし、発電用であってもよい。例えば、エンジン2の用途は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0012】
エンジン2は、シリンダ11及びクランクケース12を含むシリンダブロック10と、シリンダブロック10の上方に位置するシリンダヘッド13と、シリンダ11の内部を往復移動しコネクティングロッド14を介してクランクシャフト(不図示)を駆動するピストン15と、を備える。
【0013】
エンジン2は、シリンダ11の内周面、ピストン15の上面、及び、シリンダヘッド13の下面によって区画された燃焼室20を備える。シリンダヘッド13には、燃焼室20に開口する吸気ポート21及び排気ポート22が形成される。シリンダヘッド13には、吸気ポート21の燃焼室20に開口する部分を開閉する吸気弁23と、排気ポート22の燃焼室20に開口する部分を開閉する排気弁24と、が設けられる。シリンダヘッド13には、燃焼室20の燃料に着火する点火装置25が設けられてもよい。
【0014】
エンジン2には、燃焼室20に燃料として水素を噴射する水素噴射装置26が設けられてもよい。図の例では、水素噴射装置26は、エンジン吸気通路30に設けられるが、これに限定されない。例えば、水素噴射装置26は、シリンダヘッド13に設けられてもよい。なお、水素噴射装置26をシリンダヘッド13に設けるとともに、ディーゼル又はガソリンの噴射装置をシリンダヘッド13に設けてもよい。例えば、水素噴射装置26の設置場所、他の噴射装置との組み合わせ等は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0015】
システム1は、エンジン2へ空気を吸入するエンジン吸気通路30と、エンジン2から排気ガスを排出するエンジン排気通路31と、を備える。エンジン吸気通路30は、吸気ポート21に接続されている。エンジン排気通路31は、排気ポート22に接続されている。
【0016】
システム1は、エンジン吸気通路30から分岐し、クランクケース12へ空気を導入するクランクケース吸気通路32と、クランクケース12の内部の空気を排出するクランクケース排気通路33と、を備える。クランクケース吸気通路32は、クランクケース12において吸気ポート21側の部分に接続されている。クランクケース排気通路33は、クランクケース12において排気ポート22側の部分(クランクケース吸気通路32の接続部とは反対側の部分)に接続されている。なお、クランクケース吸気通路32及びクランクケース排気通路33の接続場所は、上記に限らず、設計仕様に応じて変更することができる。
【0017】
システム1は、エンジン2が吸入する空気の密度を高めるターボチャージャ40を備える。これにより、より多くの酸素を燃焼室20に送り、より高い燃焼エネルギーを得ることができる。ターボチャージャ40は、排気の流れを受けて回転するタービン41と、タービン41の回転力を伝達するシャフト42と、シャフト42により伝達された回転力で空気を取り込んで圧縮するコンプレッサ43と、を備える。
【0018】
例えば、タービン41及びコンプレッサ43は、シャフト42を介して一体回転可能に連結されている。タービン41は、エンジン排気通路31に設けられる。コンプレッサ43は、エンジン吸気通路30に設けられる。コンプレッサ43は、エンジン吸気通路30からクランクケース吸気通路32へ分岐する分岐部34の上流に配置される。コンプレッサ43によりエンジン吸気通路30を流れる吸気が圧送されることで、吸気がエンジン2の燃焼室20に強制的に送り込まれる。
【0019】
エンジン吸気通路30には、吸気流れ方向上流側から順に、吸気を濾過するエアクリーナ50と、コンプレッサ43と、雰囲気との熱交換により吸気の温度を低下させるアフタークーラ51と、が設けられる。図示はしないが、エンジン吸気通路30においてアフタークーラ51の下流かつ分岐部34の上流には、エンジン吸気通路30を開閉する吸気スロットルが設けられてもよい。なお、吸気スロットルは、エンジン吸気通路30の通路断面積を可変設定する絞り弁として機能する。
【0020】
システム1は、クランクケース12の内部とシリンダヘッド13の内部とを連通させる連通経路35を備える。例えば、連通経路35は、シリンダヘッド13のバルブ系の駆動のために流れるオイル(例えば、潤滑油等)の通路(例えば、オイルの戻り孔等)であってもよい。図の例では、連通経路35は、シリンダヘッド13の側部を上下方向に延びている。連通経路35は、シリンダヘッド13において排気ポート22側の部分と、クランクケース12において排気ポート22側の部分とに接続されている。なお、連通経路35の接続場所は、上記に限らず、設計仕様に応じて変更することができる。
【0021】
システム1は、クランクケース吸気通路32に配置され、クランクケース吸気通路32を開閉する希釈空気バルブ55を備える。希釈空気バルブ55は、クランクケース吸気通路32の通路断面積を可変設定する絞り弁として機能する。クランクケース吸気通路32には、吸気流れ方向上流側から順に、希釈空気バルブ55と、クランクケース吸気通路32を流れる吸気の圧力を所定以下に低下させる減圧弁56と、が設けられる。
【0022】
システム1は、クランクケース12の内部の水素濃度を検出する水素センサ60を備える。図の例では、水素センサ60は、クランクケース12においてクランクケース排気通路33が接続された部分の下部近傍に設けられる。なお、水素センサ60の設置場所は、上記に限らず、設計仕様に応じて変更することができる。
【0023】
エンジン2では、吸入工程、圧縮工程、燃焼膨張行程及び排気工程が繰り返される。吸入工程では、燃焼室20には吸気ガスと燃料とが混ざり合った混合ガスが満たされる。混合ガスの一部は、主に圧縮工程と燃焼膨張行程とにおいて、シリンダ11とピストン15との間を通ってクランクケース12内に漏れ出る。水素を含む燃料が使用される場合、クランクケース12の内部には水素ガスが侵入することになる。水素センサ60は、侵入した水素ガスの濃度(クランクケース12の内部の水素濃度)を検出する。水素センサ60の検出信号(検出した水素濃度)は、制御装置3(図のECU)に送られる。
【0024】
システム1は、水素センサ60が検出した水素濃度に基づいて希釈空気バルブ55の開閉を制御する制御装置3を備える。制御装置3は、水素センサ60が検出した水素濃度が閾値以上になった場合に、希釈空気バルブ55を所定以上に開く制御を行う。なお、制御装置3は、システム1の構成要素を統括的に制御してもよい。
【0025】
システム1は、クランクケース12の内部の圧力が所定以上になる前にクランクケース12の内部の空気を逃がす圧力逃がし弁61を備えてもよい。図の例では、圧力逃がし弁61は、クランクケース12においてクランクケース排気通路33が接続された部分の上部近傍に設けられる。なお、圧力逃がし弁61の設置場所は、上記に限らず、設計仕様に応じて変更することができる。
【0026】
本実施形態では、クランクケース排気通路33は、大気開放する。これにより、クランクケース12の内部にコンプレッサ43で圧縮された空気を直接導入し、クランクケース排気通路33により直接排出することができる。なお、図中矢印Vは、希釈空気の流れを示す。
【0027】
システム1は、クランクケース排気通路33に配置されるフィルタ65を備える。フィルタ65は、排気を濾過する。例えば、フィルタ65は、クランクケース12の内部からの排気に含まれる成分を除去(捕集)する。排気に含まれる成分には、粒子状物質(PM)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)、硫黄酸化物(SOx)等が含まれる。例えば、排気に含まれる成分には、オイルミスト等も含まれる。
【0028】
<システムの制御方法の一例>
図2は、第1実施形態に係るシステム1の制御方法の一例のフローチャートである。システム1の制御方法は、制御装置3が実行する着火防止プログラムに相当する。
本実施形態の制御方法は、クランクケース12の内部の水素濃度を取得する水素濃度取得ステップ(ステップS1)と、水素濃度が閾値以上か否かを判定する水素濃度判定ステップ(ステップS2)と、水素濃度が閾値以上であると判定した場合に希釈空気バルブ55を開くバルブ開ステップ(ステップS3)と、水素濃度が閾値未満であると判定した場合に希釈空気バルブ55を閉じるバルブ閉ステップ(ステップS4)と、を含む。
【0029】
図2を併せて参照し、先ず、クランクケース12内の水素濃度を取得する(ステップS1)。例えば、ステップS1では、制御装置3は、水素センサ60の検出信号(検出した水素濃度)を取得する。ステップS1の後、ステップS2に移行する。
【0030】
ステップS2では、制御装置3は、水素濃度が閾値以上か否かを判定する。閾値は、水素ガスの可燃範囲の下限値に設定される。なお、閾値は、水素ガスの下限値よりも所定量低い値に設定されてもよい。
【0031】
例えば、空気中における水素ガスの可燃範囲は約4vol%以上75vol%以下である。そのため、クランクケース12の内部が水素ガスと空気とで満たされているとすると、可変範囲の下限値は4vol%となる。この場合、閾値は4vol%に設定される。なお、閾値は、ある程度余裕を持たせて4vol%よりも低い値(例えば3vol%)に設定されてもよい。
【0032】
水素濃度が閾値以上であると判定した場合は(ステップS2のYES)、ステップS3に移行する。水素濃度が閾値以上であると判定した場合は、クランクケース12の内部において水素ガスが着火するおそれがある。
一方、水素濃度が閾値以上でないと判定した場合(すなわち、水素濃度が閾値未満と判定した場合)は(ステップS2のNO)、ステップS4に移行する。
【0033】
ステップS3では、希釈空気バルブ55を開く。例えば、ステップS3では、制御装置3は、希釈空気バルブ55を所定以上に開く制御を行う。ステップS3の後、ステップS5に移行する。
【0034】
ステップS4では、希釈空気バルブ55を閉じる。例えば、ステップS4では、制御装置3は、希釈空気バルブ55を完全に閉じる制御を行う。ステップS4の後、ステップS5に移行する。
【0035】
ステップS5では、制御装置3は、エンジン2の運転が終了したか否かを判定する。エンジン2の運転が終了したと判定した場合は(ステップS5のYES)、ステップS6に移行する。一方、エンジン2の運転が終了していないと判定した場合(ステップS5のNO)、ステップS1に戻り、エンジン2の運転が終了するまでステップS1からS5を繰り返す。
【0036】
ステップS6では、希釈空気バルブ55を閉じる。例えば、ステップS6では、制御装置3は、希釈空気バルブ55を完全に閉じる制御を行う。
以上により、システム1の制御方法のフローが終了する。
【0037】
<作用効果>
以上説明したように、本実施形態のシステム1は、水素を含む燃料での運転が可能なエンジン2を含むシステム1である。システム1は、エンジン2のクランクケース12と、エンジン2へ空気を吸入するエンジン吸気通路30と、エンジン吸気通路30から分岐し、クランクケース12へ空気を導入するクランクケース吸気通路32と、クランクケース吸気通路32に配置され、クランクケース吸気通路32を開閉する希釈空気バルブ55と、エンジン吸気通路30からクランクケース吸気通路32へ分岐する分岐部34の上流に配置されたコンプレッサ43と、クランクケース12の内部の水素濃度を検出する水素センサ60と、クランクケース12の内部の空気を排出するクランクケース排気通路33と、水素センサ60が検出した水素濃度に基づいて希釈空気バルブ55の開閉を制御する制御装置3と、を備える。
この構成によれば、コンプレッサ43で圧縮された空気をクランクケース12の内部へ導入しつつ、水素センサ60が検出した水素濃度に基づいて希釈空気バルブ55の開閉を制御することができる。これにより、クランクケース12の内部の水素濃度を調整することができる。加えて、コンプレッサ43で圧縮された空気を使用するため、吸い込み用のファン等を必要とせず、既存のエンジン2において最小限の追加部品で構成できる。そのため、コストや信頼性が悪化する可能性は低い。したがって、クランクケース12の内部で水素ガスが着火することを防止し、かつ、コストや信頼性の悪化を抑制することができる。
加えて、クランクケース12の内部の水素濃度センシングにより希釈空気バルブ55を動作させることで、ブローバイガスの換気が断続的になる。そのため、必要最低限の希釈空気の量で済む。
【0038】
本実施形態では、制御装置3は、水素センサ60が検出した水素濃度が閾値以上になった場合に、希釈空気バルブ55を所定以上に開く制御を行う。
この構成によれば、コンプレッサ43で圧縮された空気をクランクケース12の内部へ導入しつつ、水素センサ60が検出した水素濃度が閾値以上になった場合に希釈空気バルブ55を所定以上に開くことができる。これにより、クランクケース12の内部の水素濃度を可燃範囲外にすることができる。したがって、クランクケース12の内部で水素ガスが着火することをより確実に防止することができる。
【0039】
本実施形態では、クランクケース排気通路33は、大気開放する。
この構成によれば、ブローバイガスが存在するクランクケース12の内部にコンプレッサ43で圧縮された空気を直接導入し、クランクケース排気通路33により直接排出することができる。そのため、クランクケース12の内部のブローバイガスを効率良く希釈することができる。
【0040】
本実施形態では、システム1は、クランクケース排気通路33に配置されるフィルタ65を更に備える。
この構成によれば、フィルタ65によりクランクケース排気通路33からの排気を清浄化することができる。
【0041】
本実施形態では、制御方法は、クランクケース12の内部の水素濃度を取得する水素濃度取得ステップ(ステップS1)と、水素濃度が閾値以上か否かを判定する水素濃度判定ステップ(ステップS2)と、水素濃度が閾値以上であると判定した場合に希釈空気バルブ55を開くバルブ開ステップ(ステップS3)と、水素濃度が閾値未満であると判定した場合に希釈空気バルブ55を閉じるバルブ閉ステップ(ステップS4)と、を含む。
この方法によれば、クランクケース12の内部で水素ガスが着火することを防止し、かつ、コストや信頼性の悪化を抑制することができる。
加えて、バルブ開ステップとバルブ閉ステップとを含むことで、ブローバイガスの換気が断続的になる。そのため、必要最低限の希釈空気の量で済む。
加えて、バルブ開ステップにより、クランクケース12の内部の水素濃度を可燃範囲外にすることができる。したがって、クランクケース12の内部で水素ガスが着火することをより確実に防止することができる。
【0042】
<第2実施形態>
第1実施形態では、クランクケース排気通路33が大気開放する例を挙げて説明した。第2実施形態では、クランクケース排気通路33は、コンプレッサ43の上流に接続する点で第1実施形態と相違している。以下の説明において、第1実施形態と同様の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0043】
図3は、第2実施形態に係るシステム201の概略構成図である。
図3に示すように、クランクケース排気通路33は、コンプレッサ43の上流に接続する。システム201は、クランクケース排気通路33から分岐し、クランクケース12の内部の空気をコンプレッサ43の上流に戻す戻し通路270を備える。戻し通路270は、クランクケース排気通路33においてフィルタ65の下流と、エンジン吸気通路30においてエアクリーナ50の下流かつコンプレッサ43の上流に接続されている。
【0044】
システム201は、クランクケース排気通路33が大気開放する第1経路V1とクランクケース排気通路33が戻し通路270に通じる第2経路V2とを切替する切替バルブ272を備える。切替バルブ272は、クランクケース排気通路33から戻し通路270へ分岐する分岐部271に配置される。
【0045】
制御装置3は、水素センサ60が検出した水素濃度が閾値以上になった場合に、切替バルブ272に第2経路V2へ切替させる制御を行う。制御装置3は、水素センサ60が検出した水素濃度が閾値以上になっていない場合(すなわち、水素濃度が閾値未満の場合)は、切替バルブ272に第1経路V1へ切替させる制御を行う。
【0046】
<システムの制御方法の一例>
図4は、第2実施形態に係るシステム201の制御方法の一例のフローチャートである。システム201の制御方法は、制御装置3が実行する着火防止プログラムに相当する。
本実施形態の制御方法は、水素濃度が閾値以上であると判定した場合に、切替バルブ272に第2経路V2へ切替させる第2経路切替ステップ(ステップS203)と、水素濃度が閾値未満であると判定した場合に、切替バルブ272に第1経路V1へ切替させる第1経路切替ステップ(ステップS204)と、を含む。
【0047】
図4を併せて参照し、先ず、クランクケース12内の水素濃度を取得する(ステップS201)。例えば、ステップS201では、制御装置3は、水素センサ60の検出信号(検出した水素濃度)を取得する。ステップS201の後、ステップS202に移行する。
【0048】
ステップS202では、制御装置3は、水素濃度が閾値以上か否かを判定する。閾値は、水素ガスの可燃範囲の下限値(例えば4vol%)に設定される。なお、閾値は、水素ガスの下限値よりも所定量低い値(例えば3vol%、)に設定されてもよい。
【0049】
水素濃度が閾値以上であると判定した場合は(ステップS202のYES)、ステップS203に移行する。一方、水素濃度が閾値以上でないと判定した場合(すなわち、水素濃度が閾値未満と判定した場合)は(ステップS202のNO)、ステップS204に移行する。
【0050】
ステップS203では、戻し通路270に切替を行う(第2経路V2)。例えば、ステップS203では、制御装置3は、切替バルブ272に第2経路V2へ切替させる制御を行う。これにより、クランクケース排気通路33が戻し通路270に通じる。ステップS203の後、ステップS205に移行する。
【0051】
ステップS205では、希釈空気バルブ55を開く。例えば、ステップS205では、制御装置3は、希釈空気バルブ55を所定以上に開く制御を行う。ステップS205の後、ステップS207に移行する。
【0052】
一方、ステップS204では、クランクケース排気通路33を大気開放する(第1経路V1)。例えば、ステップS204では、制御装置3は、切替バルブ272に第1経路V1へ切替させる制御を行う。ステップS204の後、ステップS206に移行する。
【0053】
ステップS206では、希釈空気バルブ55を閉じる。例えば、ステップS206では、制御装置3は、希釈空気バルブ55を完全に閉じる制御を行う。ステップS206の後、ステップS207に移行する。
【0054】
ステップS207では、制御装置3は、エンジン2の運転が終了したか否かを判定する。エンジン2の運転が終了したと判定した場合は(ステップS207のYES)、ステップS208に移行する。一方、エンジン2の運転が終了していないと判定した場合(ステップS207のNO)、ステップS201に戻り、エンジン2の運転が終了するまでステップS201からS207を繰り返す。
【0055】
ステップS208では、クランクケース排気通路33を大気開放する(第1経路V1)。ステップS208の後、ステップS209に移行する。
【0056】
ステップS209では、希釈空気バルブ55を閉じる。例えば、ステップS209では、制御装置3は、希釈空気バルブ55を完全に閉じる制御を行う。
以上により、システム201の制御方法のフローが終了する。
【0057】
<作用効果>
本実施形態では、クランクケース排気通路33は、コンプレッサ43の上流に接続する。
この構成によれば、クランクケース排気通路33からの排気がコンプレッサ43で圧縮され、この圧縮された空気をクランクケース12の内部へ導入しつつ、水素センサ60が検出した水素濃度に基づいて希釈空気バルブ55の開閉を制御することができる。これにより、クランクケース12の内部の水素濃度を調整することができる。そのため、吸い込み用のファン等を必要とせず、既存のエンジン2において最小限の追加部品で構成できる。したがって、クランクケース12の内部で水素ガスが着火することを防止し、かつ、コストや信頼性の悪化を抑制することができる。
【0058】
本実施形態では、システム201は、クランクケース排気通路33から分岐し、クランクケース12の内部の空気をコンプレッサ43の上流に戻す戻し通路270と、クランクケース排気通路33から戻し通路270へ分岐する分岐部271に配置され、クランクケース排気通路33が大気開放する第1経路V1とクランクケース排気通路33が戻し通路270に通じる第2経路V2とを切替する切替バルブ272と、を更に備える。
この構成によれば、切替バルブ272により、クランクケース12から排出された希釈空気を大気開放するか(第1経路V1への切替)、コンプレッサ43の上流に戻すか(第2経路V2への切替)、を選択できる。そのため、第2経路V2への切替時には、クランクケース排気通路33からの排気は外部に出なくなる。したがって、排気ガスエミッションの悪化を最小限に抑えることができる。
【0059】
本実施形態では、制御装置3は、水素センサ60が検出した水素濃度が閾値以上になった場合に、切替バルブ272に第2経路V2へ切替させる制御を行う。
この構成によれば、水素センサ60が検出した水素濃度が閾値以上になった場合に、クランクケース排気通路33及び戻し通路270(第2経路V2)からの空気がコンプレッサ43で圧縮され、この圧縮された空気をクランクケース12の内部へ導入することができる。そのため、水素センサ60が検出した水素濃度が閾値以上になった場合には、クランクケース排気通路33からの排気は外部に出なくなる。したがって、排気ガスエミッションの悪化を最小限に抑えることができる。
【0060】
本実施形態では、制御方法は、水素濃度が閾値以上であると判定した場合に、切替バルブ272に第2経路V2へ切替させる第2経路切替ステップ(ステップS203)と、水素濃度が閾値未満であると判定した場合に、切替バルブ272に第1経路V1へ切替させる第1経路切替ステップ(ステップS204)と、を含む。
この方法によれば、第2経路切替ステップにより、クランクケース排気通路33からの排気は外部に出なくなる。したがって、排気ガスエミッションの悪化を最小限に抑えることができる。
一方、第1経路切替ステップにより、クランクケース12からの排気はコンプレッサ43の上流には流れなくなる。そのため、排気に含まれる成分等(例えば、オイルミスト等)でコンプレッサ43が汚れることを防止することができる。
【0061】
<変形例>
上述した実施形態では、システムは、クランクケース排気通路に配置されるフィルタを更に備える例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、システムは、フィルタを備えなくてもよい。例えば、フィルタの設置態様は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0062】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれらに限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能であり、上述した実施形態を適宜組み合わせることも可能である。
【0063】
(付記1)
水素を含む燃料での運転が可能なエンジンを含むシステムであって、
前記エンジンのクランクケースと、
前記エンジンへ空気を吸入するエンジン吸気通路と、
前記エンジン吸気通路から分岐し、前記クランクケースへ空気を導入するクランクケース吸気通路と、
前記クランクケース吸気通路に配置され、前記クランクケース吸気通路を開閉する希釈空気バルブと、
前記エンジン吸気通路から前記クランクケース吸気通路へ分岐する分岐部の上流に配置されたコンプレッサと、
前記クランクケースの内部の水素濃度を検出する水素センサと、
前記クランクケースの内部の空気を排出するクランクケース排気通路と、
前記水素センサが検出した前記水素濃度に基づいて前記希釈空気バルブの開閉を制御する制御装置と、を備える、
システム。
【0064】
(付記2)
前記制御装置は、前記水素センサが検出した前記水素濃度が閾値以上になった場合に、前記希釈空気バルブを所定以上に開く制御を行う、
付記1に記載のシステム。
【0065】
(付記3)
前記クランクケース排気通路は、大気開放する、
付記1又は2に記載のシステム。
【0066】
(付記4)
前記クランクケース排気通路は、前記コンプレッサの上流に接続する、
付記1から3の何れかに記載のシステム。
【0067】
(付記5)
前記クランクケース排気通路から分岐し、前記クランクケースの内部の空気を前記コンプレッサの上流に戻す戻し通路と、
前記クランクケース排気通路から前記戻し通路へ分岐する分岐部に配置され、前記クランクケース排気通路が大気開放する第1経路と前記クランクケース排気通路が前記戻し通路に通じる第2経路とを切替する切替バルブと、を更に備える、
付記1から4の何れかに記載のシステム。
【0068】
(付記6)
前記制御装置は、前記水素センサが検出した前記水素濃度が閾値以上になった場合に、前記切替バルブに前記第2経路へ切替させる制御を行う、
付記5に記載のシステム。
【0069】
(付記7)
前記クランクケース排気通路に配置されるフィルタを更に備える、
付記1から6の何れかに記載のシステム。
【0070】
水素を含む燃料での運転が可能なエンジンを含むシステムの制御方法であって、
前記システムは、
前記エンジンのクランクケースと、
前記エンジンへ空気を吸入するエンジン吸気通路と、
前記エンジン吸気通路から分岐し、前記クランクケースへ空気を導入するクランクケース吸気通路と、
前記クランクケース吸気通路に配置され、前記クランクケース吸気通路を開閉する希釈空気バルブと、
前記エンジン吸気通路から前記クランクケース吸気通路へ分岐する分岐部の上流に配置されたコンプレッサと、
前記クランクケースの内部の水素濃度を検出する水素センサと、
前記クランクケースの内部の空気を排出するクランクケース排気通路と、を備え、
前記制御方法は、
前記クランクケースの内部の水素濃度を取得する水素濃度取得ステップと、
前記水素濃度が閾値以上か否かを判定する水素濃度判定ステップと、
前記水素濃度が閾値以上であると判定した場合に前記希釈空気バルブを開くバルブ開ステップと、
前記水素濃度が閾値未満であると判定した場合に前記希釈空気バルブを閉じるバルブ閉ステップと、を含む、
制御方法。
【0071】
前記システムは、
前記クランクケース排気通路から分岐し、前記クランクケースの内部の空気を前記コンプレッサの上流に戻す戻し通路と、
前記クランクケース排気通路から前記戻し通路へ分岐する分岐部に配置され、前記クランクケース排気通路が大気開放する第1経路と前記クランクケース排気通路が前記戻し通路に通じる第2経路とを切替する切替バルブと、を更に備え、
前記制御方法は、
前記水素濃度が閾値以上であると判定した場合に、前記切替バルブに前記第2経路へ切替させる第2経路切替ステップと、
前記水素濃度が閾値未満であると判定した場合に、前記切替バルブに前記第1経路へ切替させる第1経路切替ステップと、を含む、
付記8に記載の制御方法。
【符号の説明】
【0072】
1…システム、2…エンジン、3…制御装置、12…クランクケース、30…エンジン吸気通路、32…クランクケース吸気通路、33…クランクケース排気通路、34…エンジン吸気通路からクランクケース吸気通路へ分岐する分岐部、43…コンプレッサ、55…希釈空気バルブ、60…水素センサ、65…フィルタ、201…システム、270…戻し通路、271…クランクケース排気通路から戻し通路へ分岐する分岐部、272…切替バルブ、V1…第1経路、V2…第2経路
図1
図2
図3
図4