(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117365
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】扁平形電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/109 20210101AFI20240822BHJP
H01M 50/153 20210101ALI20240822BHJP
H01M 50/184 20210101ALI20240822BHJP
H01M 50/159 20210101ALI20240822BHJP
【FI】
H01M50/109
H01M50/153
H01M50/184 E
H01M50/159
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023429
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100194777
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 憲治
(72)【発明者】
【氏名】石原 俊彦
【テーマコード(参考)】
5H011
【Fターム(参考)】
5H011AA03
5H011BB03
5H011CC06
5H011DD15
5H011FF03
5H011GG02
5H011HH02
5H011KK01
5H011KK02
5H011KK03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】優れた封止性を確保しながら内容積を大きくして電池の高容量化を図ることができる扁平形電池を提供する。
【解決手段】扁平形電池は、外装缶2と封口缶3とガスケット5とを有する。外装缶2は、底部21と筒状側壁部22とを有する。封口缶3は、上面部31と周壁部32とを有する。周壁部32は、上面部31側の基端部32aと、基端部32aの外径よりも大きく形成されて外装缶2の底部21と対向する先端を有する筒状部32bと、基端部32aと筒状部32bとの間に位置する段部32cとを有する。筒状部32bは、段部32c側の端部から筒状部32bの先端に向かって径方向外方に傾斜し、軸方向に対して0.5°~4°の傾斜角を有している。基端部32aは、上面部31側の端部から段部32c側の端部に向かって径方向内方に傾斜し、軸方向に対して0.5°~5°の傾斜角を有している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部と筒状側壁部とを有する外装缶と、
上面部と周壁部とを有し、前記外装缶に対向する封口缶と、
前記筒状側壁部と前記周壁部との間に配置されるガスケットとを備え、
前記周壁部は、前記上面部側の基端部と、前記基端部の外径よりも大きく形成されて前記外装缶の底部と対向する先端を有する筒状部と、前記基端部と前記筒状部との間に位置する段部とを有し、
前記筒状部は、前記段部側の端部から前記筒状部の先端に向かって径方向外方に傾斜し、軸方向に対して0.5°~4°の傾斜角を有し、
前記基端部は、前記上面部側の端部から前記段部側の端部に向かって径方向内方に傾斜し、軸方向に対して0.5°~5°の傾斜角を有する、扁平形電池。
【請求項2】
請求項1に記載の扁平形電池であって、
前記封口缶の周壁部は、0.185~0.215mmの厚みを有する、扁平形電池。
【請求項3】
請求項2に記載の扁平形電池であって、
前記外装缶の筒状側壁部は、前記周壁部の厚みに対して92~108%の厚みを有する、扁平形電池。
【請求項4】
請求項1に記載の扁平形電池であって、
前記封口缶は、冷間圧延鋼板からなる、扁平形電池。
【請求項5】
請求項1に記載の扁平形電池であって、
前記外装缶は、ステンレス鋼板からなる、扁平形電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、扁平形電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コイン形又はボタン形の非水電解質電池などの扁平形電池は、一般的に各々ステンレス鋼板からなる外装缶と封口缶との間に正極及び負極を有する発電要素を収容することによって構成されている。外装缶は、底部と筒状側壁部と有し、封口缶は、外装缶に対向し、上面部と周壁部とを有する。
【0003】
特開2018-18797号公報(特許文献1)は、コイン形リチウム一次電池を開示している。コイン形リチウム一次電池は、底板部および底板部の周縁から立ち上がる側部を有するケースと、天板部および天板部から側部の内側へ延びる周縁部を有する封口板とを含む。封口板の周縁部の先端は、周縁部の外周面に沿うように天板部側へと折り返されている。
【0004】
国際公開第2012/132373号(特許文献2)は、コイン形電池を開示している。コイン形電池は、底面部および底面部の周縁から立ち上がる第1側壁を有する円筒形の電池缶と、天板部および天板部の周縁から第1側壁の内側へ延びる第2側壁を有する封口板とを有する。第2側壁には、外側に膨らむ膨出部が形成されている。封口板の第2側壁は、先端で折り返された折り畳み構造を有する。
【0005】
特開平8-162075号公報(特許文献3)は、コイン形リチウム電池を開示している。コイン形リチウム電池は、周縁がU字状に折り返されていない封口板と、有底筒状の正極ケースとを有する。封口板の開口部は、正極ケースの高さ方向に対して外径方向に傾斜している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-18797号公報
【特許文献2】国際公開第2012/132373号
【特許文献3】特開平8-162075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のコイン形リチウム一次電池は、電池の内部空間の封止性を向上させるため、封口板の周縁部の先端を折り返している。そのため、封口板の周縁部の厚みが大きくなり、電池の内容積が制限されてしまい、電池の高容量化が妨げられる。
【0008】
特許文献2のコイン形電池は、耐漏液性を確保するために、封口板の第2側壁に比較的幅広のフランジ部を設ける必要がある。したがって、封口板に膨出部が設けられているにもかかわらず、必ずしも電池全体の内容積の増加には繋がらず、電池の高容量化が妨げられる。
【0009】
特許文献3のコイン形電池は、耐漏液性を向上させることが可能となるものの、電池の高容量化を図ることは何ら提案されていない。
【0010】
そこで、本開示は、優れた封止性を確保しながら内容積を大きくして電池の高容量化を図ることができる扁平形電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本開示は次のように構成した。すなわち、本開示に係る扁平形電池は、底部と筒状側壁部とを有する外装缶と、上面部と周壁部とを有し、外装缶に対向する封口缶と、筒状側壁部と前記周壁部との間に配置されるガスケットとを備えている。周壁部は、上面部側の基端部と、基端部の外径よりも大きく形成されて外装缶の底部と対向する先端を有する筒状部と、基端部と筒状部との間に位置する段部とを有している。筒状部は、段部側の端部から筒状部の先端に向かって径方向外方に傾斜し、軸方向に対して0.5~4°の傾斜角を有している。基端部は、上面部側の端部から段部側の端部に向かって径方向内方に傾斜し、軸方向に対して0.5°~5°の傾斜角を有している。
【発明の効果】
【0012】
本開示に係る扁平形電池によれば、優れた封止性を確保しながら内容積を大きくして電池の高容量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る扁平形電池の構造を示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す扁平形電池の構造を示す拡大断面図である。
【
図3】
図3は、実施例に係る扁平形電池の構造を示す拡大断面図である。
【
図4】
図4は、比較例に係る扁平形電池の構造を示す拡大断面図である。
【
図5】
図5は、実施例に係る扁平形電池の構造を示す拡大断面図である。
【
図6】
図6は、比較例に係る扁平形電池の構造を示す拡大断面図である。
【
図7】
図7は、封口缶に接するガスケットの面圧の推移を示すグラフである。
【
図8】
図8は、封口缶に接するガスケットの面圧の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態に係る扁平形電池は、底部と筒状側壁部とを有する外装缶と、上面部と周壁部とを有し、外装缶に対向する封口缶と、筒状側壁部と前記周壁部との間に配置されるガスケットとを備えている。周壁部は、上面部側の基端部と、基端部の外径よりも大きく形成されて外装缶の底部と対向する先端を有する筒状部と、基端部と筒状部との間に位置する段部とを有している。筒状部は、段部側の端部から筒状部の先端に向かって径方向外方に傾斜し、軸方向に対して0.5~4°の傾斜角を有している。基端部は、上面部側の端部から段部側の端部に向かって径方向内方に傾斜し、軸方向に対して0.5°~5°の傾斜角を有している。これにより、優れた封止性を確保しながら内容積を大きくして電池の高容量化を図ることができる。また、封口缶の周壁部は、0.185~0.215mmの厚みを有するのが好ましい。これにより、筒状部及び基端部の傾斜構造を形成しやすくなる。外装缶の筒状側壁部は、周壁部の厚みに対して92~108%の厚みを有するのが好ましい。これにより、優れた封止性の確保と内容積の拡大を実現しやすくなる。
【0015】
封口缶は、冷間圧延鋼板からなるのが好ましい。上述の傾斜構造を形成しやすいため、上述の周壁部の厚みの範囲において比較的強度が小さい冷間圧延鋼板は特に好適に用いることができる。
【0016】
外装缶は、ステンレス鋼板からなるのが好ましい。これにより、コストダウンを図ることができる。
【0017】
以下、本開示に係る本実施形態の扁平形電池1について、
図1を用いて具体的に説明する。なお、本実施形態に係る扁平形電池は、非水電解質電池である。まず、
図1に示すように、扁平形電池1は、外装缶2と、封口缶3と、正極41、負極42と、セパレータ43と、ガスケット5とから構成されている。なお、外装缶2と封口缶3との間の内部空間には、正極41、負極42、セパレータ43及び図示しない非水電解液が発電要素として充填されている。発電要素は、一般的な非水電解質電池に用いられるものでよい。そのため、発電要素についての詳細な説明は省略する。また、扁平形電池1は、非水電解質電池に限られるものではなく、固体電解質を用いた扁平形の全固体電池であってもよい。
【0018】
外装缶2は、円形状の底部21と、底部21の外周から連続して形成される円筒状の筒状側壁部22とを備える。筒状側壁部22は、縦断面視で、底部21に対して略垂直に延びるように設けられている。外装缶2は、例えば、SUS301、SUS304又はSUS316などのオーステナイト系ステンレス鋼、SUS329J1、SUS329J3L又はSUS329J4Lなどのオーステナイト・フェライト系ステンレス鋼、或いは、SUS430又はSUS444などのフェライト系ステンレス鋼などのステンレス鋼板などで構成することができる。外装缶2の表面には、Niメッキなどの防触メッキを施してもよく、また防触メッキを行わないことにより、コストダウンを図ることもできる。なお、外装缶2の形状は、円形状の底部21を備えた円筒形状に限られない。例えば、外装缶2の形状は、底部21を四角形状などの多角状や楕円状に形成し、筒状側壁部22を底部21の形状に合わせた四角筒状などの多角筒状や楕円筒状に形成してもよく、扁平形電池1のサイズや形状に応じて、種々変更することができる。そのため、筒状側壁部22の形状は、円筒状だけでなく、四角筒状などの多角筒状や楕円筒状なども含むものである。なお、外装缶2の底部21は、平坦な形状であっても平坦な形状でなくてもよい。例えば、外装缶2の底部21は、発電要素を配置する位置において、発電要素の正極41側の一部を収容できるように下方に突出する形状となっていても構わない。
【0019】
封口缶3は、円形状の上面部31と、上面部31の外周から連続して形成される円筒状の周壁部32とを備える。封口缶3の開口は、外装缶2の開口と対向している。封口缶3は、上述のステンレス鋼板又は冷間圧延鋼板(SPCD、SPCE又はSPCFなど)などで構成することができる。封口缶3の表面には、防触メッキが施されている。防触メッキは、例えば、Niメッキである。なお、封口缶3の形状は、円形状の上面部31を備えた円筒形状に限られない。例えば、封口缶3の形状は、上面部31を四角形状などの多角状や楕円状に形成し、周壁部32を上面部31の形状に合わせた四角筒状などの多角筒状や楕円筒状に形成してもよく、扁平形電池1のサイズや形状に応じて、種々変更することができる。そのため、周壁部32の形状は、円筒状だけでなく、四角筒状などの多角筒状や楕円筒状なども含むものである。なお、封口缶3の上面部31は、平坦な形状であっても平坦な形状でなくてもよい。例えば、封口缶3の上面部31は、外周から中央に向けて若干の傾斜を有するなど、曲面を含む形状であっても構わない。
【0020】
封口缶3の周壁部32は、上面部31側の基端部32aと、基端部32aの外径よりも大きく形成された筒状部32bと、基端部32aと筒状部32bとの間の段部32cとを有している。そのため、周壁部32は、基端部32aよりも筒状部32bが外側に広くなる段状に形成されている。筒状部32bの先端は、外装缶2の底部21と対向している。すなわち、筒状部32bは、周壁部32の外周面に沿うように折り返されていない。
【0021】
ガスケット5は、ポリプロピレン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、PFA樹脂(四フッ化エチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合体)などの低透湿性樹脂によって形成されている。ガスケット5は、外装缶2の筒状側壁部22の内周面に沿う筒状に形成され、外装缶2の筒状側壁部22と封口缶3の周壁部32との間に配置されている。ガスケット5は、外装缶2と封口缶3とを絶縁できれば、特に限定されるものではないが、透湿性や耐熱性の点から、ポリフェニレンサルファイド樹脂、あるいはPFA樹脂などのフッ素樹脂が好ましく用いられる。
【0022】
外装缶2と封口缶3とは、発電要素を内部空間に収容したのち、外装缶2の筒状側壁部22と封口缶3の周壁部32との間にガスケット5を介してカシメられる。具体的には、外装缶2と封口缶3とは、外装缶2と封口缶3の互いの開口を対向させ、外装缶2の筒状側壁部22の内側に封口缶3の周壁部32を挿入したのち、筒状側壁部22と周壁部32との間にガスケット5を介してカシメられる。筒状側壁部22の縁端部は、周壁部32の段部32cの方向へ内側に向くようにカシメられる。
【0023】
図2に示すように、周壁部32は、比較的に厚みが小さい0.185~0.215mmの厚みt1を有することが好ましい。周壁部32の厚みt1が小さ過ぎると周壁部32の強度が低下し、扁平形電池1の内部空間の封止性が低下する。そのため、厚みt1は、好ましくは0.185mm以上、より好ましくは0.190mm以上、特に好ましくは0.195mm以上とするのがよい。厚みt1が大き過ぎると、扁平形電池1の内容積が制限され、扁平形電池1の高容量化の妨げになる。そのため、厚みt1は、好ましくは0.215mm以下、より好ましくは0.210mm以下、特に好ましくは0.205mm以下とするのがよい。周壁部32の厚みt1は、封口缶3の金属材料を比較的強度が小さい冷間圧延鋼板とした場合には、上述の範囲とすることが特に好適である。このように周壁部32の厚みを規定したことにより、外装缶2及び封口缶3をカシメた際に、後述する筒状部32b及び基端部32aの傾斜構造となるように変形し易くなり、優れた封止性を確保することができ、かつ、内容積を大きくして電池の高容量化を図ることができる
【0024】
周壁部32の筒状部32bは、段部32c側の端部から筒状部32bの先端に向かって径方向外方に傾斜している。すなわち、外装缶2と封口缶3とをカシメる際、外装缶2の筒状側壁部22の先端によって周壁部32の基端部32aが径方向内方に押圧されるとともに、段部32cが下方内側へと押圧される。この際、基端部32aの筒状部32b側が径方向内方に傾斜するよう変形させ、これに伴い、筒状部32bは、その先端が見かけ上外方に開くように、すなわち、径方向外方に傾斜するように変形させる。径方向外方に傾斜した筒状部32bは、外装缶2の筒状側壁部22がカシメられた際に、ガスケット5との密着性が向上し、ガスケット5を径方向外方に好適に押圧するとともに、ガスケット5によって径方向内方へと押し返される。これにより、ガスケット5と筒状部32bの外周面との接触圧を向上させることができ、ガスケット5と筒状部32bとの間に隙間が生じることを抑制し、これらの接触面積を大きくすることができる。このように、ガスケット5と筒状部32bの外周面との接触圧及び接触面積を大きくすることにより、扁平形電池1の内部空間の封止性をさらに向上させることができる。
【0025】
軸方向に対する筒状部32bの傾斜角θ1は、0.5~4°とすればよい。傾斜角θ1が小さ過ぎると、ガスケット5と筒状部32bの外周面との接触圧、あるいは、ガスケット5と筒状側壁部22との接触圧が低下して封止性が低下する。一方、傾斜角θ1が大き過ぎると、ガスケット5と筒状部32bや外装缶2の底部21との接触圧が低下して封止性が低下する。傾斜角θ1は、1°以上であることが好ましく、2°以上であることがより好ましい。
【0026】
周壁部32の基端部32aは、上面部31側の端部から段部32c側の端部に向かって径方向内方に傾斜している。外装缶2と封口缶3とをカシメる際、筒状側壁部22の下方内側への押圧力によって径方向内方に傾斜するように基端部32aを変形させる。これにより、外装缶2と封口缶3とをカシメる際、筒状側壁部22の縁端部がガスケット5を下方に押圧しやすくなり、ガスケット5と筒状部32bとの密着性が向上する。また、筒状部32bの先端によりガスケット5は外装缶2の底部21に向かって押圧され易くなる。これにより、扁平形電池1の内部空間の封止性をさらに向上させることができる。基端部32aの傾斜幅は、扁平形電池1の内容積の高容量化を図るという観点から、封口缶3の周壁部32の厚みt1よりも小さいことが好ましく、t1の50%以下であることがより好ましい。なお、傾斜幅とは、基端部32aにおける上面部31側の端部から段部32c側の端部までの径方向の幅であり、軸方向に対する基端部32aの傾斜角θ2が0°となる位置から径方向にズレた長さに相当する。このような基端部32aの傾斜形状は、封口缶3のプレス成形時に予め形成してもよく、上述のカシメ時に筒状側壁部22の縁端部による押圧によって形成してもよい。
【0027】
軸方向に対する基端部32aの傾斜角θ2は、0.5~5°とすればよい。傾斜角θ2が小さ過ぎると、筒状側壁部22の縁端部が筒状部32bを下方に押圧し難くなり封止性が低下する。一方、傾斜角θ2が大き過ぎると、ガスケット5と基端部32aとの接触圧、又は、ガスケット5と段部32cとの接触圧が低下して封止性が低下する。傾斜角θ2は、1°以上であることが好ましく、2°以上であることがより好ましく、3°以上であることが特に好ましい。なお、基端部32aが、
図2に示すような直線部分を含まず、曲線だけで構成されている場合は、前記曲線に対する接線が軸方向となす角が最も大きくなるときの角度を傾斜角θ2とすればよい。
【0028】
外装缶2の筒状側壁部22の厚みt2は、封口缶3の周壁部32の厚みt1に対して92~108%の厚みを有することが好ましい。筒状側壁部22の厚みt2が小さ過ぎると、カシメ後において周壁部32の径方向外方に向かって生じる弾性力、特に、筒状部32bの弾性力によって筒状側壁部22が径方向外方へと変形し得る。そのため、厚みt2は、厚みt1に対して92%以上とすることが好ましく、より好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上とするのがよい。厚みt2が大き過ぎると扁平形電池1の内容積が制限され、扁平形電池1の高容量化の妨げになる。そのため、厚みt2は、厚みt1に対して108%以下とすることが好ましく、より好ましくは105%以下、特に好ましくは102%以下とするのがよい。
【0029】
以上、実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0030】
(実施例)
封口缶及びガスケットの接触圧(面圧)、並びに、外装缶及びガスケットの接触圧(面圧)を構造解析ソフトを用いて算出し、実施例及び比較例の封止性についてシミュレーションした。本構造解析では、Livermore Software Technology社製の汎用構造解析ソフト「LS-DYNA」を用いた。なお、当該構造解析において、外装缶はSUS430とし、封口缶は冷間圧延鋼板(SPCD)とし、ガスケットは、樹脂材料をポリプロピレンとし、ガスケットの引張弾性率を1372Mpaとした。
【0031】
まず、
図3に示す封口缶3の筒状部32bを折り返さず、かつ、周壁部32を含む封口缶3全体の厚みを0.2mmとし、筒状側壁部22を含む外装缶2全体の厚みを0.2mmとした実施例1の扁平形電池1と、
図4に示す封口缶300の周壁部332の開口端側をその外周面に沿って折り返した比較例1の扁平形電池100との比較を行った。なお、
図4において、符号200は外装缶を示し、符号500はガスケットを示す。
図3及び
図4は各々、いずれも封口缶と外装缶とをカシメる前の扁平形電池を示す。
図3及び
図4に示す封口缶及び外装缶をカシメた際の面圧について、上述の構造解析を行った。
図5に示すように、実施例において、図示の始点Sから終点Tまでにおける封口缶3の表面に接するガスケット5表面の面圧を計算した。また、
図2に示すように、封口缶3の周壁部32における、筒状部32bの軸方向に対する傾斜角θ1と、基端部32aの軸方向に対する傾斜角θ2を求めたところ、傾斜角θ1は約3°となり、傾斜角θ2は約4°となった。さらに、
図6に示すように、比較例1においても同様に始点Sから終点までに相当する位置において、封口缶300の表面に接するガスケット500表面の面圧を計測した。計測結果を
図7のグラフに示す。なお、
図7のグラフにおいて、横軸は、終点Tに向かう始点Sからの距離であり、実線は、実施例1における面圧の推移を示し、破線は、比較例1における面圧の推移を示す。
【0032】
図7のグラフにおいて、実施例1及び比較例1の各々の面圧の面積の総和から、封口缶側での封止性を評価した。そうすると、比較例1における面圧のグラフの面積を100%としたとき、実施例における値は130%となり、封口缶側での封止性が向上することがわかった。
【0033】
また、実施例1及び比較例1において、各々の外装缶の表面に接するガスケッとの接触圧(面圧)についても同様の構造解析を行った。特に図示をしないが、
図7と同様のグラフを作成し、各々の面圧のグラフの面積の総和から、外装缶側での封止性を評価した。なお、当該面圧の算出において、始点Sは、外装缶の底部に対向するガスケット表面のうち最も径方向内側の位置であり、終点Tは、外装缶の筒状側壁部に対向するガスケット表面のうち最上端の位置である。そうすると、比較例1における面圧のグラフの面積を100%としたとき、実施例1における値は86%となり、外装缶側での封止性は比較例1の方が高いことが分かった。
【0034】
これらの結果を考慮し、封口缶に接するガスケットの面圧のグラフの面積と、外装缶に接するガスケットの面圧のグラフの面積との総和を比較することにより、実施例1および比較例1における扁平形電池全体の封止性を評価した。その結果、実施例1の値は、比較例1の値に対して95%となり、実施例1と比較例1とは、ほぼ同程度の封止性を得られることが分かった。これは、実施例1において、封口缶側での封止性の向上が外装缶側での封止性の低下を補填したためと考えられる。このように、実施例1では、封口缶の筒状部を折り返さないように封口缶の周壁部の全体の厚みを比較的薄くした場合であっても、封口缶の筒状部を折り返した場合と同様に優れた封止性を確保でき、さらに、封口缶の筒状部を折り返さないことによって扁平形電池の内容積を大きくして高容量化できることが分かった。なお、
図6に示すように、周壁部332とガスケット500との間には比較的大きな隙間が形成され、周壁部332とガスケット500との接触面積が小さくなっている。これは、折り返された周壁部332の先端に接触したガスケット500が径方向外方に広げられるためであると考えられる。
【0035】
なお、板厚が0.2mmのSUS430の外装缶と、板厚が0.2mmの冷間圧延鋼板(SPCD)の封口缶と、ポリプロピレン製のガスケットを用い、2032サイズの扁平形電池を組み立て、高さ方向に切断して断面を観察した結果、封口缶の周壁部における、筒状部の軸方向に対する傾斜角θ1は3°、基端部の軸方向に対する傾斜角θ2は4°となっており、前記構造解析と同じ結果が得られることを確認することができた。
【0036】
次に、上述の実施例1の扁平形電池と比較例2及び3の扁平形電池とについて、同様の構造解析を行って各々の封止性を評価した。比較例2及び3の扁平形電池は、実施例1と同様に、封口缶の筒状部が筒状部の外周面に沿って折り返されていない。また、比較例2における封口缶(周壁部)の厚みtを0.15mmとし、比較例3における封口缶(周壁部)の厚みtを0.25mmとして構造解析を行った。なお、実施例1、比較例2及び比較例3の封口缶は各々、冷間圧延鋼板(SPCD)からなる。
【0037】
実施例1、比較例2及び比較例3における封口缶の表面に接するガスケットの面圧を
図8のグラフに示す。なお、
図8に示すグラフにおいて、横軸は、終点Tに向かう始点Sからの距離であり、実線(t=0.2mm)は、実施例1における面圧の推移を示し、比較的細かい破線(t=0.15mm)は、比較例2における面圧の推移を示し、比較的粗い破線(t=0.25mm)は、比較例3における面圧の推移を示す。また、比較例2における傾斜角θ1は4°を超え、傾斜角θ2は5°を超える結果となったのに対し、比較例3における傾斜角θ1および傾斜角θ2は、いずれもほぼ0°(0.5°未満)となった。
【0038】
図8のグラフにおいて、比較例2及び比較例3の各々の面圧の面積の総和から、封口缶側での封止性を評価した。そうすると、上述の
図7に示す比較例1における面圧のグラフの面積を100%としたとき、
図8の比較例2における値は101%であり、比較例3における値は104%であった。上述の通り、実施例1における値は比較例1に対して130%であるため、傾斜角θ1を0.5°~4°の範囲とし、傾斜角θ2を0.5°~5°の範囲とした実施例1の扁平形電池が、封口缶側において最も優れた封止性を有することが確認できた。
【0039】
また、上述と同様に、外装缶の表面に接するガスケットの接触圧(面圧)を算出し、各々の面圧の面積の総和から外装缶側での封止性を評価した。そうすると、比較例1における面圧のグラフの面積を100%としたとき、比較例2における値は80%であり、比較例3における値は84%であった。実施例1における値は、比較例1に対して86%であるため、傾斜角θ1を0.5°~4°の範囲とし、傾斜角θ2を0.5°~5°の範囲とした実施例1の扁平形電池が、比較例2及び比較例3に比べ、外装缶側において優れた封止性を有することが確認できた。これらの結果に基づき、上述と同様にして比較例2及び比較例3の扁平形電池全体の封止性を評価した結果、比較例2の封止性は比較例1に対して84%となり、比較例3の封止性は88%となった。従って、封止性が比較例1に対して95%である実施例1の扁平形電池は、比較例2及び比較例3の扁平形電池よりも封止性が優れることが分かった。
【0040】
このように、実施例に係る扁平形電池は、カシメ時に封口缶3の周壁部32を適切に変形させたことにより、比較例2及び比較例3の電池に比べて強い接触圧(面圧)を得ることができ、封止性が向上した。したがって、封口缶3の周壁部32において、筒状部32bの軸方向に対する傾斜角θ1を0.5~4°の範囲とし、基端部32aの軸方向に対する傾斜角θ2を0.5~5°の範囲とすれば、比較例1と同程度の優れた封止性を確保しながら内容積を大きくして高容量化を図ることができるものと推察される。
【符号の説明】
【0041】
1 扁平形電池
2 外装缶、21 底部、22 筒状側壁部
3 封口缶、31 上面部、32 周壁部、32a 基端部、32b 筒状部
32c 段部
41 正極、42 負極、43 セパレータ
5 ガスケット
θ1 傾斜角、θ2 傾斜角
t1 厚み、t2 厚み