(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117375
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】導電性高分子分散液及びその製造方法、並びにキャパシタ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/028 20060101AFI20240822BHJP
【FI】
H01G9/028 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023440
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】松林 総
(57)【要約】
【課題】キャパシタの製造に適した低粘度の導電性高分子分散液及びその製造方法、並びにキャパシタ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】π共役系導電性高分子と、炭素数5~7のアルキルスルホン酸と、ポリアニオンと、水系分散媒とを含む導電性高分子分散液を用い、例えば、弁金属の多孔質体からなる陽極の表面に形成された誘電体層の表面に、その導電性高分子分散液を塗布し、乾燥させて固体電解質層を形成し、キャパシタを製造する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系導電性高分子と、炭素数5~7のアルキルスルホン酸と、ポリアニオンと、水系分散媒とを含む導電性高分子分散液。
【請求項2】
前記水系分散媒の総質量に対する水の含有量が70質量%以上である、請求項1に記載の導電性高分子分散液。
【請求項3】
前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であるか、又は、前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸であるか、或いは、
前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であり、かつ、前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、請求項2に記載の導電性高分子分散液。
【請求項4】
ポリアニオンと、炭素数5~7のアルキルスルホン酸と、水系分散媒とを含む反応液で、π共役系導電性高分子を形成するモノマーを重合することにより、
前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオンと、炭素数5~7のアルキルスルホン酸とを含む導電性複合体を形成する重合工程を有する、導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項5】
弁金属の多孔質体からなる陽極と、前記弁金属の酸化物からなる誘電体層と、前記誘電体層の、前記陽極と反対側に設けられた導電物質製の陰極と、前記誘電体層及び前記陰極の間に形成された固体電解質層とを具備し、
前記固体電解質層が、π共役系導電性高分子及びポリアニオンと、炭素数5~7のアルキルスルホン酸とを含む導電性複合体を含有する、キャパシタ。
【請求項6】
前記固体電解質層が、塩基性化合物をさらに含有する、請求項5に記載のキャパシタ。
【請求項7】
前記塩基性化合物が、窒素含有芳香族化合物である、請求項6に記載のキャパシタ。
【請求項8】
前記固体電解質層が、水酸基を二つ以上含むポリオール化合物をさらに含有する、請求項7に記載のキャパシタ。
【請求項9】
前記ポリオール化合物が、ジエチレングリコールである、請求項8に記載のキャパシタ。
【請求項10】
弁金属の多孔質体からなる陽極の表面に形成された誘電体層の表面に、導電性高分子分散液を塗布し、乾燥させて固体電解質層を形成する工程を有する、キャパシタの製造方法であって、
前記導電性高分子分散液は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンと、炭素数5から7のアルキルスルホン酸を含む導電性複合体と、前記導電性複合体を分散させる水系分散媒とを含む、キャパシタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、π共役系導電性高分子を含有する導電性高分子分散液及びその製造方法、並びにキャパシタ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主鎖がπ共役系で構成されているπ共役系導電性高分子は、アニオン基を有するポリアニオンがドープすることによって導電性複合体を形成し、水に対する分散性が生じる。このような導電性複合体が分散された導電性高分子分散液(導電性高分子含有液)を用いて形成した固体電解質層を備えたキャパシタが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1等のキャパシタの固体電解質層は、陽極の表面に化成処理で形成された誘電体層に導電性高分子分散液を塗布し、その塗膜を乾燥・固化することにより形成される。
塗布する導電性高分子分散液には、多孔質な誘電体層の内部や、陽極と陰極の狭い隙間に含侵することが求められる。このため、キャパシタの製造に使用される導電性高分子分散液の粘度は低いことが好ましい。
【0005】
本発明は、キャパシタの製造に適した低粘度の導電性高分子分散液及びその製造方法、並びにキャパシタ及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] π共役系導電性高分子と、炭素数5~7のアルキルスルホン酸と、ポリアニオンと、水系分散媒とを含む導電性高分子分散液。
[2] 前記水系分散媒の総質量に対する水の含有量が70質量%以上である、[1]に記載の導電性高分子分散液。
[3] 前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であるか、又は、前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸であるか、或いは、前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であり、かつ、前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、[1]又は[2]に記載の導電性高分子分散液。
[4] ポリアニオンと、炭素数5~7のアルキルスルホン酸と、水系分散媒とを含む反応液で、π共役系導電性高分子を形成するモノマーを重合することにより、前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオンと、炭素数5~7のアルキルスルホン酸とを含む導電性複合体を形成する重合工程を有する、導電性高分子分散液の製造方法。
[5] 弁金属の多孔質体からなる陽極と、前記弁金属の酸化物からなる誘電体層と、前記誘電体層の、前記陽極と反対側に設けられた導電物質製の陰極と、前記誘電体層及び前記陰極の間に形成された固体電解質層とを具備し、前記固体電解質層が、π共役系導電性高分子及びポリアニオンと、炭素数5~7のアルキルスルホン酸とを含む導電性複合体を含有する、キャパシタ。
[6] 前記固体電解質層が、塩基性化合物をさらに含有する、[5]に記載のキャパシタ。
[7] 前記塩基性化合物が、窒素含有芳香族化合物である、[6]に記載のキャパシタ。
[8] 前記固体電解質層が、水酸基を二つ以上含むポリオール化合物をさらに含有する、[5]~[7]の何れか一項に記載のキャパシタ。
[9] 前記ポリオール化合物が、ジエチレングリコールである、[8]に記載のキャパシタ。
[10] 弁金属の多孔質体からなる陽極の表面に形成された誘電体層の表面に、導電性高分子分散液を塗布し、乾燥させて固体電解質層を形成する工程を有する、キャパシタの製造方法であって、前記導電性高分子分散液は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンと、炭素数5から7のアルキルスルホン酸を含む導電性複合体と、前記導電性複合体を分散させる水系分散媒とを含む、キャパシタの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の導電性高分子分散液にあっては、粘度が低いので、塗布対象物に含侵させることが容易であり、キャパシタの製造に適している。
本発明の導電性高分子分散液の製造方法によれば、粘度が低い導電性高分子分散液を調製することができる。
本発明のキャパシタは等価直列抵抗(ESR)が低減し、性能が優れる。
本発明のキャパシタの製造方法によれば、上記優れたキャパシタを容易に製造することができる。
【0008】
本発明はSDGs目標12「つくる責任 つかう責任」に資すると考えられる。
【0009】
本明細書及び特許請求の範囲において、「~」で示す数値範囲の下限値及び上限値はその数値範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明のキャパシタの一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪導電性高分子分散液≫
本発明の第一態様は、π共役系導電性高分子と、炭素数5~7のアルキルスルホン酸と、ポリアニオンと、水系分散媒とを含む導電性高分子分散液である。
本態様の導電性高分子分散液において、π共役系導電性高分子とポリアニオンとは導電性複合体を形成していることが好ましい。また、導電性複合体は、π共役系導電性高分子とポリアニオンだけでなく、炭素数5~7のアルキルスルホン酸を含むことが好ましい。
【0012】
<導電性複合体>
本態様の導電性複合体は、π共役系導電性高分子とポリアニオンとを含む。導電性複合体中のポリアニオンはπ共役系導電性高分子にドープして、導電性を有する導電性複合体を形成している。ポリアニオンにおいては、一部のアニオン基のみがπ共役系導電性高分子にドープしており、ドープに関与しない余剰のアニオン基を有している。余剰のアニオン基は親水基であるため、導電性複合体は水分散性を有する。
【0013】
本態様の導電性複合体には炭素数5~7のアルキルスルホン酸が含まれていることが好ましい。炭素数5~7のアルキルスルホン酸のスルホン酸基は、ポリアニオンのアニオン基と同様にπ共役系導電性高分子にドープし得る。このように導電性複合体において炭素数5~7のアルキルスルホン酸が存在することにより、導電性複合体の分散液中での分子運動が活発となり、分散液の粘度が低くなると推測される。
【0014】
(π共役系導電性高分子)
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であればよく、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0015】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が挙げられる。
これらのπ共役系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性に優れることから、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
導電性複合体に含まれるπ共役系導電性高分子は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0016】
(ポリアニオン)
ポリアニオンは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、スルホ基を有するポリアクリル酸エステル、スルホ基を有するポリメタクリル酸エステル(例えば、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸等のスルホ基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸等のカルボキシ基を有する高分子が挙げられる。ポリアニオンは、単一のモノマーが重合した単独重合体であってもよいし、2種以上のモノマーが重合した共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホ基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
【0017】
ポリアニオンの重量平均分子量Mwは特に制限されず、例えば、1万~100万が好ましく、5万~80万がより好ましく、10万~60万がさらに好ましく、20~50万が最も好ましい。
ポリアニオンの重量平均分子量Mwが上記範囲であると、本態様の導電性高分子分散液の粘度が適度に低くなり、ESRが充分に低いキャパシタを容易に製造することができる。
ポリアニオンの重量平均分子量Mwは、ゲルろ過クロマトグラフィを用いて測定し、プルラン換算で求めた質量基準の平均分子量である。
【0018】
本態様の導電性高分子分散液に含まれるポリアニオンの含有割合は、π共役系導電性高分子100質量部に対して、例えば、1質量部以上1000質量部以下の範囲が好ましく、10質量部以上700質量部以下がより好ましく、100質量部以上500質量部以下がさらに好ましい。ポリアニオンの含有割合が前記下限値以上であれば、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が強くなる傾向にあり、導電性がより高くなる。一方、ポリアニオンの含有量が前記上限値以下であれば、π共役系導電性高分子を充分に含有させることができるので、充分な導電性を確保できる。
【0019】
(アルキルスルホン酸)
本態様の炭素数5~7のアルキルスルホン酸(以下、ASと略記することがある)は、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数5~7のアルカンを骨格として、前記アルカンに結合する水素原子の少なくとも1つがスルホン酸によって置換された化合物である。アルキルスルホン酸は、前記ポリアニオン以外の化合物である。
【0020】
ASは、ポリアニオンと同様にπ共役系導電性高分子にドーパントとして結合し得る。ドーパントとして機能する場合にはスルホン酸基がアニオン基としてドープすると考えられる。ASがドープすることが、導電性高分子分散液の粘度を低下させ、後述するキャパシタの固体電解質層のESRの低減において好ましいが、ドープせずに単に添加剤として導電性高分子分散液に含まれているだけでもよい。
【0021】
前記アルカン骨格は、直鎖状であることが好ましい。直鎖状であることにより、π共役系導電性高分子に対するドープが容易となり、結果としてキャパシタのESRをより低減することができる。好ましいASの具体例として、1-ペンタンスルホン酸、1-ヘキサンスルホン酸、1-ヘプタンスルホン酸が挙げられる。
【0022】
本態様の導電性高分子分散液に含まれるASは1種でもよいし、2種以上でもよい。その合計の含有割合は、π共役系導電性高分子100質量部に対して、例えば、100質量部以上5000質量部以下の範囲が好ましく、300質量部以上3000質量部以下がより好ましく、500質量部以上1000質量部以下がさらに好ましい。
前記範囲の下限値以上であれば、π共役系導電性高分子への相互作用が強くなる傾向にあり、導電性高分子分散液の粘度がより低くなり、キャパシタのESRがより一層低減する。前記範囲の上限値以下であれば、π共役系導電性高分子の相対的な含有量が高まるので、充分な導電性を確保できる。
【0023】
本態様の導電性高分子分散液に含まれるポリアニオンの含有量G1と、ASの含有量G2のG1/G2で表される質量基準の含有比は、0.1~3.0が好ましく、0.1~0.7がより好ましく、0.1~0.6がさらに好ましく、0.1~0.5が特に好ましく、0.1~0.4が最も好ましい。最も好ましい範囲において、0.1~0.3、0.1~0.2、0.2~0.4、0.3~0.4の範囲の何れもよい。
上記範囲であると、導電性高分子分散液の粘度が低減し、キャパシタの静電容量を維持しつつ、ESRを低減することができる。
【0024】
本態様の導電性高分子分散液に含まれるπ共役系導電性高分子の含有量G3と、ASの含有量G2のG3/G2で表される質量基準の含有比は、0.1~1.0が好ましく、0.1~0.7がより好ましく、0.1~0.6がさらに好ましく、0.1~0.5が特に好ましく、0.1~0.4が最も好ましい。最も好ましい範囲において、0.1~0.4が好ましく、0.1~0.3がより好ましく、0.1~0.2がさらに好ましい。
上記範囲であると、導電性高分子分散液の粘度が低減し、キャパシタの静電容量を維持しつつ、ESRを低減することができる。
【0025】
本態様の導電性高分子分散液の総質量に対するπ共役系導電性高分子とポリアニオンの合計の含有量は、0.1質量%以上5.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以上2.5質量%以下がより好ましい。
上記好適な範囲であると、前記導電性高分子分散液から形成される固体電解質層を有するキャパシタのESRをより低減することができる。
【0026】
本態様の導電性高分子分散液の総質量に対するASの含有量は、0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.05質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上1.0質量%以下がさらに好ましい。
上記好適な範囲であると、前記導電性高分子分散液から形成される固体電解質層を有するキャパシタのESRをより低減することができる。
【0027】
(分散媒)
導電性高分子分散液に含まれる分散媒は、導電性複合体が親水性であることから、水を含む水系分散媒であることが好ましい。また、水以外の分散媒を含んでもよい。水以外の分散媒は、前記導電性複合体の分散性を著しく損なうものでなければ特に限定されない。
導電性複合体はポリアニオンに由来する余剰のアニオン基を有し、水に対する分散性が高いので、水以外の分散媒は水溶性有機溶剤が好ましい。ここで水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g以上の有機溶剤であり、例えば、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤が挙げられる。分散媒として含まれる水溶性有機溶剤は1種でもよいし、2種以上でもよい。
【0028】
導電性高分子分散液の固形分(不揮発成分)を除いた分散媒の総質量に対する水の含有量は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、100質量%であってもよい。上記下限値以上で水を含むと、導電性高分子分散液に含まれる導電性複合体の分散性が高まり、導電性高分子分散液から形成される固体電解質層を有するキャパシタのESRをより低減することができる。
【0029】
(塩基性化合物)
導電性高分子分散液は1種以上の塩基性化合物を含んでもよい。塩基性化合物は、ポリアニオンの余剰のアニオン基からプロトンを受け取るブレンステッド塩基として機能するものである。この機能を果たすために、塩基性化合物の水に対する溶解量は、20℃の水100gに対して、0.001g以上であることが好ましい。前記溶解量の上限値は特に制限されないが、例えば0.1g程度であっても充分に上記機能は果たし得る。
【0030】
塩基性化合物としては、窒素を含む有機または無機の塩基性化合物、アルカリ金属または第2族金属の水酸化物、各種の炭酸塩や炭酸水素塩等を用いることができる。例えば、アルカリ金属の水酸化物、水酸化第四級アンモニウムまたはその塩、アンモニア、アミン等が挙げられる。
アルカリ金属の水酸化物の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
炭酸塩または炭酸水素塩の具体例としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。
水酸化第四級アンモニウムまたはその塩の具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。
【0031】
アミンとしては、脂肪族3級アミン、窒素含有芳香族化合物等が挙げられる。
脂肪族3級アミンとしては、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリフェニルアミン、トリベンジルアミン、トリナフチルアミン等が挙げられる。
【0032】
窒素含有芳香族化合物(少なくとも1つの窒素原子が環構造を形成する芳香族化合物)としては、例えば、ピロール、インドール、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-プロピルイミダゾール、N-メチルイミダゾール、N-プロピルイミダゾール、N-ブチルイミダゾール、1-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、1-アセチルイミダゾール、2-アミノベンズイミダゾール、2-アミノ-1-メチルベンズイミダゾール、2-ヒドロキシベンズイミダゾール、2-(2-ピリジル)ベンズイミダゾール、ピリジン、ピリミジン、ピラジン及びこれらのアルキル置換体(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル等の炭素数1~4のアルキル基での置換体)、ハロゲン置換体(例えば、フロロ、クロロ、ブロム等のハロゲン基での置換体)、ニトリル置換体等の誘導体が挙げられる。
なかでも、窒素含有芳香族化合物が好ましく、イミダゾールがより好ましい。
【0033】
導電性高分子分散液に含まれる塩基性化合物の含有量は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンの合計100質量部に対して、例えば、1質量部以上1000質量部以下が好ましく、5質量部以上100質量部以下がより好ましく、10質量部以上50質量部以下がさらに好ましい。上記の好適な範囲であると、キャパシタのESRをより低減することができる。
【0034】
導電性高分子分散液に含まれる塩基性化合物の含有量は、導電性高分子分散液(25℃)のpHが、2.0~8.0となる含有量が好ましく、2.0~5.0となる含有量がより好ましく、2.0~3.0となる含有量がさらに好ましい。
上記の好適な範囲であると、キャパシタのESRをより低減することができる。
【0035】
(ポリオール化合物)
導電性高分子分散液は1種以上のポリオール化合物を含んでもよい。ここで、ポリオール化合物は、前記π共役系導電性高分子、前記ポリアニオン、及び前記塩基性化合物とは異なる、2つ以上のヒドロキシ基を有する化合物をいう。ポリオール化合物を含有することにより、キャパシタのESRをより一層低減できる。
【0036】
ポリオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン及びトリメチロールエタンから選択される1種以上が挙げられる。
【0037】
導電性高分子分散液に含まれるポリオール化合物の含有量は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンの合計100質量部に対して、例えば、100質量部以上10000質量部以下が好ましく、200質量部以上2000質量部以下がより好ましく、300質量部以上1000質量部以下がさらに好ましい。
上記の好適な範囲であると、キャパシタのESRをより低減することができる。
【0038】
導電性高分子分散液の総質量に対するポリオール化合物の含有量は、1質量%以上15質量%以下が好ましく、3質量%以上12質量%以下がより好ましく、5質量%以上9質量%以下がさらに好ましい。上記の好適な範囲であると、導電性高分子分散液の塗工性が向上し、キャパシタのESRをより低減することができる。
【0039】
(任意の添加剤)
導電性高分子分散液は、本発明の趣旨を損なわない範囲で、導電性複合体以外の任意の添加剤を含有してもよく、その含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、π共役系導電性高分子及びポリアニオンの合計100質量部に対して、例えば、1~1000質量部とすることができる。ここで、任意の添加剤は、前記塩基性化合物、前記ポリオール化合物及び前記分散媒以外の化合物である。
【0040】
任意の添加剤としては、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などが挙げられる。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
カップリング剤としては、ビニル基、アミノ基、エポキシ基等を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、糖類等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0041】
本態様の導電性高分子分散液の25℃における粘度は、1cP以上50cP以下が好ましく、1cP以上40cP以下がより好ましく、1cP以上30cP以下がさらに好ましく、1cP以上20cP以下が最も好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、誘電体層の上に塗布した塗膜の厚さを確保でき、適度な厚さの固体電解質層を形成することが容易になる。
上記範囲の上限値以下であると、誘電体層の表面に予め形成された微細な多孔質構造の中に導電性高分子分散液を浸透させ、その内部にも固体電解質層を形成することが容易になる。
上記粘度の測定は、音叉振動式粘度計を用い、JIS Z8803:2011(振動粘度計による粘度測定法)に準拠して、25℃で測定された値である。
【0042】
≪導電性高分子分散液の製造方法≫
本発明の第二態様は、ポリアニオンと、炭素数5~7のアルキルスルホン酸(AS)と水系分散媒とを含む反応液で、π共役系導電性高分子を形成するモノマーを重合することにより、前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオンを含む導電性複合体を形成する重合工程を含む、導電性高分子分散液の製造方法である。
本態様の製造方法によって第一態様の導電性高分子分散液を製造することができる。
【0043】
前記モノマーと、前記ポリアニオンと、ASと、水とを含む反応液を調製し、前記モノマーを重合させることにより、π共役系導電性高分子を形成する。前記反応液において、π共役系導電性高分子にポリアニオンが自然にドープされ、π共役系導電性高分子とポリアニオンからなる導電性複合体が形成される。この際、ASのスルホン酸基は、ポリアニオンのアニオン基と同様にπ共役系導電性高分子にドープし得る。このように導電性複合体においてASが存在することにより、導電性複合体の分散液中での分子運動が活発になり、分散液の粘度が低くなると推測される。以上から、本態様の製造方法によって得た導電性複合体にはASが含まれている。
【0044】
前記反応液における導電性複合体の合成は、前記反応液にASを配合すること以外は、従来の導電性複合体の合成と同様にして行うことができる。
【0045】
前記反応液に含まれる水系分散媒は水を含むので、前記モノマーの重合反応が安定して進行し、得られた導電性複合体が水系分散媒中で安定に分散された状態で得られる。
水系分散媒は水以外の分散媒を含んでもよい。水以外の分散媒としては、重合を阻害するものでなければよく、水溶性有機溶剤が好ましい。ここで水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g以上の有機溶剤であり、例えば、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤が挙げられる。分散媒として含まれる水溶性有機溶剤は1種でもよいし、2種以上でもよい。
水系分散媒の総質量に対する水の含有量は70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、100質量%であってもよい。
【0046】
前記反応液にはモノマーの化学酸化を促進する、公知の触媒及び酸化剤を添加することが好ましい。触媒としては、例えば、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物等が挙げられる。酸化剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩が挙げられる。
【0047】
前記反応液(触媒を含む)の総質量に対する触媒の配合量としては、例えば、0.01質量%以上0.50質量%以下が好ましく、0.01質量%以上0.30質量%以下がより好ましい。
【0048】
前記反応液(酸化剤を含む)の総質量に対する酸化剤の配合量としては、例えば、0.10質量%以上1.20質量%以下が好ましく、0.50質量%以上1.10質量%以下がより好ましく、0.70質量%以上1.00質量%以下がさらに好ましい。
【0049】
前記反応液の総質量に対する前記モノマーの配合量は、例えば、0.01質量%以上2.0質量%以下が好ましく、0.1質量%以上1.0質量%以下がより好ましく、0.3質量%以上0.5質量%以下がさらに好ましい。
前記反応液の総質量に対する前記ポリアニオンの配合量は、例えば、0.1質量%以上3.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以上2.0質量%以下がより好ましく、1.0質量%以上1.5質量%以下がさらに好ましい。
上記の好適な範囲とすることにより、導電性複合体の濃度を前述した好適な含有量とした導電性高分子分散液が容易に得られる。
【0050】
重合反応により形成する導電性複合体において、前記π共役系導電性高分子と前記ポリアニオンの含有割合を、前述した好適な割合にする観点から、前記反応液に配合する前記モノマーと前記ポリアニオンの配合割合は、前記モノマー100質量部に対して1質量部以上1000質量部以下の範囲が好ましく、10質量部以上700質量部以下がより好ましく、100質量部以上500質量部以下の範囲がさらに好ましい。
【0051】
前記反応液に配合するポリアニオンの配合量H1と、ASの配合量H2のH1/H2で表される質量基準の含有比は、0.1~3.0が好ましく、0.1~0.7がより好ましく、0.1~0.6がさらに好ましく、0.1~0.5が特に好ましく、0.1~0.4が最も好ましい。最も好ましい範囲において、0.1~0.3、0.1~0.2、0.2~0.4、0.3~0.4の範囲の何れもよい。
上記範囲であると、得られる導電性高分子分散液の粘度が低減する。また、この導電性高分子分散液を用いて製造したキャパシタの静電容量を維持しつつ、ESRを低減することができる。
【0052】
前記反応液に配合するπ共役系導電性高分子を形成するモノマーの配合量H3と、ASの配合量H2のH3/H2で表される質量基準の含有比は、0.1~1.0が好ましく、0.1~0.7がより好ましく、0.1~0.6がさらに好ましく、0.1~0.5が特に好ましく、0.1~0.4が最も好ましい。最も好ましい範囲において、0.1~0.4が好ましく、0.1~0.3がより好ましく、0.1~0.2がさらに好ましい。
上記範囲であると、得られる導電性高分子分散液の粘度が低減する。また、この導電性高分子分散液を用いて製造したキャパシタの静電容量を維持しつつ、ESRを低減することができる。
【0053】
前記反応液における反応温度としては、例えば、20~30℃とすることができる。上記反応温度であれば、重合反応は通常4~12時間程度で完了する。重合反応の終了は、反応液中の未反応のモノマーの量をガスクロマトグラフィー等の測定によって知ることができる。
【0054】
前記反応液に添加した触媒及び酸化剤を、前記モノマーの化学酸化重合の後で、導電性高分子分散液から除去することが好ましい。
除去する方法としては、例えば、イオン交換樹脂に導電性高分子分散液を接触させ、触媒及び酸化剤をイオン交換樹脂に吸着させる方法、導電性高分子分散液を限外ろ過することにより分散媒の置換とともに除去する方法等が挙げられる。このうち、イオン交換樹脂を使用する方法が簡便であるため好ましい。前記イオン交換樹脂は、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を併用することが好ましい。
【0055】
以上で得られた導電性高分子分散液には、目的の導電性複合体が含まれる。反応液から触媒及び酸化剤を除去すれば、そのまま後述するキャパシタの製造に用いることができるが、分散媒を所望のものに置換したり、導電性複合体の含有濃度を調整したり、塩基性化合物、ポリオール化合物、任意の添加剤等を添加してもよい。
【0056】
《キャパシタの製造方法》
本発明の第三態様は、弁金属の多孔質体からなる陽極の表面に形成された誘電体層の表面に、導電性高分子分散液を塗布し、乾燥させて固体電解質層を形成する工程を有する、キャパシタの製造方法である。
前記導電性高分子分散液は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンと、炭素数5から7のアルキルスルホン酸を含む導電性複合体と、前記導電性複合体を分散させる水系分散媒とを含む。
前記導電性高分子分散液は、第一態様の導電性高分子分散液であることが好ましい。
【0057】
本態様のキャパシタの製造方法は、弁金属の多孔質体からなる陽極の表面を酸化して誘電体層を形成する工程(誘電体形成工程)と、前記誘電体層に対向する位置に陰極を配置する工程(陰極形成工程)と、前記誘電体層の表面の少なくとも一部に固体電解質層を形成する工程(成膜工程)と、を含むことが好ましい。以下、
図1を参照して各工程を説明する。
【0058】
[誘電体形成工程]
本工程では、弁金属の多孔質体からなる陽極11の表面を酸化して誘電体層12を形成する。誘電体層12を形成する方法は、特に制限されず、例えば、アジピン酸アンモニウム水溶液、ホウ酸アンモニウム水溶液、リン酸アンモニウム水溶液などの化成処理用電解液中にて、陽極11の表面を陽極酸化する方法が挙げられる。
【0059】
[陰極形成工程]
本工程では、誘電体層12に対向する位置に陰極13を配置する。陰極13の配置方法は、特に制限されず、例えば、カーボンペースト、銀ペースト等の導電性ペーストを用いて陰極13を形成する方法、アルミニウム箔等の金属箔を誘電体層12に対向配置させる方法などが挙げられる。
【0060】
[成膜工程]
本工程は、誘電体層12の表面の少なくとも一部に前述の導電性高分子分散液を塗布し、乾燥させることにより、固体電解質層14を形成する。
【0061】
導電性高分子分散液の塗布方法としては、例えば、浸漬(ディップコーティング)、コンマコーティング、リバースコーティング、リップコーティング、マイクログラビアコーティング等を適用することができる。これらのうち、陽極11を減圧下で導電性高分子分散液中に浸漬する方法が好ましい。浸漬方法であると、誘電体層12の表面の多孔質構造の内部にまで導電性高分子分散液を充分に塗布することができる。浸漬後に取り出して次の乾燥処理に進む。
【0062】
乾燥方法としては、例えば室温乾燥、熱風乾燥、遠赤外線乾燥等が挙げられる。これらの中でも熱風乾燥が好ましい。
乾燥温度としては、例えば100~180℃が好ましく、120~150℃がより好ましい。乾燥時間としては、例えば0.2~1時間が好ましい。
乾燥処理の後、常法によりキャパシタを組み立てればよい。
【0063】
≪キャパシタ≫
本発明の第四態様は、弁金属の多孔質体からなる陽極と、前記弁金属の酸化物からなる誘電体層と、前記誘電体層の、前記陽極と反対側に設けられた導電物質製の陰極と、前記誘電体層及び前記陰極の間に形成された固体電解質層とを具備し、前記固体電解質層が、π共役系導電性高分子及びポリアニオンと、炭素数5~7のアルキルスルホン酸とを含む導電性複合体を含有する、キャパシタである。
前記固体電解質層は第一態様の導電性高分子分散液の硬化物であることが好ましい。
第四態様のキャパシタは、第三態様の製造方法によって製造することができる。
【0064】
第四態様の実施形態の一例について
図1を参照して説明する。
図1に示すキャパシタ10は、弁金属の多孔質体からなる陽極11と、弁金属の酸化物からなる誘電体層12と、誘電体層12の表面に形成された固体電解質層14と、最も表側に設けられた陰極13とを具備する。陰極13は誘電体層12及び固体電解質層14を間に挟んで、陽極11と反対側に設けられている。
【0065】
陽極11を構成する弁金属としては、例えば、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス、アンチモンなどが挙げられる。これらのうち、アルミニウム、タンタル、ニオブが好適である。
陽極11の具体例としては、アルミニウム箔をエッチングして表面積を増加させた後、その表面を酸化処理したものや、タンタル粒子やニオブ粒子の焼結体表面を酸化処理してペレットにしたものが挙げられる。このように処理されたものは表面に凹凸が形成された多孔質体となる。
【0066】
本実施形態における誘電体層12は、陽極11の表面が酸化されて形成された層であり、例えば、アジピン酸アンモニウム水溶液などの電解液中にて、金属体の陽極11の表面を陽極酸化することで形成されたものである。陽極11と同様に誘電体層12にも凹凸が形成されている。
【0067】
本実施形態における陰極13としては、導電性ペーストから形成した導電層やアルミニウム箔など、導電物質製の金属層を使用することができる。
【0068】
本実施形態における固体電解質層14は、誘電体層12の表面に形成されている。固体電解質層14は、誘電体層12の表面の少なくとも一部を覆っており、誘電体層12の表面の全部を覆っていてもよい。
固体電解質層14の厚さは、一定でもよいし、一定でなくてもよく、例えば、1μm以上100μm以下の厚さが挙げられる。
【0069】
<導電性複合体>
固体電解質層に含有される導電性複合体は、π共役系導電性高分子とポリアニオンを少なくとも含む。導電性複合体中のポリアニオンはπ共役系導電性高分子にドープしている。導電性複合体にはASが含まれていることが好ましい。
【0070】
固体電解質層の総質量に対するπ共役系導電性高分子、ポリアニオン及びASの合計の含有量は、1質量%以上99質量%以下が好ましく、50質量%以上98質量%以下がより好ましく、70質量%以上97質量%以下がさらに好ましい。上記の範囲であると、キャパシタの等価直列抵抗がより低下し易くなるので好ましい。
【0071】
<アルキルスルホン酸>
固体電解質層には炭素数5~7のアルキルスルホン酸(AS)が含まれるので、キャパシタのESRが低減している。
【0072】
固体電解質層に含まれるポリアニオンの含有量G1’と、ASの含有量G2’のG1’/G2’で表される質量基準の含有比は、0.1~3.0が好ましく、0.1~0.7がより好ましく、0.1~0.6がさらに好ましく、0.1~0.5が特に好ましく、0.1~0.4が最も好ましい。最も好ましい範囲において、0.1~0.3、0.1~0.2、0.2~0.4、0.3~0.4の範囲の何れもよい。
上記範囲であると、キャパシタの静電容量を維持しつつ、ESRを低減することができる。
【0073】
固体電解質層に含まれるπ共役系導電性高分子の含有量G3’と、ASの含有量G2’のG3’/G2’で表される質量基準の含有比は、0.1~1.0が好ましく、0.1~0.7がより好ましく、0.1~0.6がさらに好ましく、0.1~0.5が特に好ましく、0.1~0.4が最も好ましい。最も好ましい範囲において、0.1~0.4が好ましく、0.1~0.3がより好ましく、0.1~0.2がさらに好ましい。
上記範囲であると、キャパシタの静電容量を維持しつつ、ESRを低減することができる。
【0074】
<塩基性化合物>
固体電解質層には、前述の塩基性化合物の1種以上がさらに含まれていてもよい。塩基性化合物を含有することにより、キャパシタのESRをより一層低減できる。
【0075】
固体電解質層に含まれる塩基性化合物の含有割合は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンの合計100質量部に対して、例えば、1質量部以上1000質量部以下が好ましく、5質量部以上100質量部以下がより好ましく、10質量部以上50質量部以下がさらに好ましい。
上記の好適な範囲であると、キャパシタのESRをより低減することができる。
【0076】
<ポリオール化合物>
固体電解質層には、前述のポリオールの1種以上がさらに含まれていてもよい。ポリオールを含有することにより、キャパシタのESRをより一層低減できる。
【0077】
固体電解質層に含まれるポリオール化合物の合計の含有量は、固体電解質層に含まれるπ共役系導電性高分子及びポリアニオンの合計100質量部に対して、例えば、100質量部以上10000質量部以下が好ましく、200質量部以上2000質量部以下がより好ましく、300質量部以上1000質量部以下がさらに好ましい。
上記の好適な範囲であると、キャパシタのESRをより低減することができる。
【0078】
[電解液]
本態様のキャパシタは、固体電解質層を含浸する電解液を有していてもよい。
電解液を構成する溶媒としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、グリセリン等のアルコール系溶媒、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン等のラクトン系溶媒、スルホラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン等の硫黄系溶媒、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N-メチルピロリジノン等のアミド系溶媒、アセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル等のニトリル系溶媒、水等が挙げられる。
電解液を構成する電解質としては、例えば、アジピン酸、グルタル酸、コハク酸、安息香酸、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、トルイル酸、エナント酸、マロン酸、蟻酸、1,6-デカンジカルボン酸、5,6-デカンジカルボン酸等のデカンジカルボン酸、1,7-オクタンジカルボン酸等のオクタンジカルボン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の有機酸;あるいは、硼酸、硼酸と多価アルコールより得られる硼酸の多価アルコール錯化合物;リン酸、炭酸、ケイ酸等の無機酸などをアニオン成分とし、1級アミン(メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン等)、2級アミン(ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、メチルエチルアミン、ジフェニルアミン等)、3級アミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリフェニルアミン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7等)、テトラアルキルアンモニウム(テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、メチルトリエチルアンモニウム、ジメチルジエチルアンモニウム等)などをカチオン成分とした電解質;等が挙げられる。
【0079】
本態様のキャパシタは、上記の構成に限らず、誘電体層と陰極との間に、セパレータが設けられていてもよい。誘電体層と陰極との間にセパレータが設けられたキャパシタとしては、巻回型キャパシタが挙げられる。
セパレータとしては、例えば、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリフッ化ビニリデンなどからなるシート(不織布を含む)、ガラス繊維の不織布などが挙げられる。
セパレータの密度は、例えば0.1g/cm3以上1.0g/cm3以下が挙げられる。
セパレータを設ける場合には、セパレータにカーボンペーストあるいは銀ペーストを含浸させて陰極を形成する方法を適用することもできる。
【実施例0080】
(製造例1)ポリスチレンスルホン酸の製造1
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を12時間攪拌した。
得られたポリスチレンスルホン酸ナトリウム溶液に、10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、得られたポリスチレンスルホン酸溶液の約1000mlの溶媒を限外ろ過法により除去した。次いで、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去して、ポリスチレンスルホン酸を水洗した。この水洗操作を3回繰り返した。
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸(PSS)を得た。このポリスチレンスルホン酸10gをイオン交換水90gに溶解して10質量%ポリスチレンスルホン酸水溶液を得た。
【0081】
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、既知の重量平均分子量のプルランを標準物質として、上記で得たポリスチレンスルホン酸水溶液の重量平均分子量(Mw)を測定した結果、重量平均分子量は20万であった。
【0082】
重量平均分子量の測定は、株式会社島津製作所製の高速液体クロマトグラフ装置Prominenceを使用し、溶媒として0.1%NaNO3水溶液を使用し、カラムとしてShodex OHpack SB-806M HQを使用し、検出器としてRID-20Aを使用し、溶媒温度40℃に設定し、流速0.6ml/minに設定し、試料中のPSS濃度0.1質量%にして、孔径0.2μmのメンブレンフィルターで濾過した試料100μlを注入し、解析ソフトウェアLab Solutions(島津製作所製)を使用して行った。
【0083】
(製造例2)ポリスチレンスルホン酸の製造2
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した0.38gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を12時間攪拌した。
得られたポリスチレンスルホン酸ナトリウム溶液に、10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、得られたポリスチレンスルホン酸溶液の約1000mlの溶媒を限外ろ過法により除去した。次いで、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去して、ポリスチレンスルホン酸を水洗した。この水洗操作を3回繰り返した。
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
次に、得られたポリスチレンスルホン酸10gをイオン交換水90gに溶解して10質量%ポリスチレンスルホン酸水溶液を得た。
製造例1と同様にGPCを用いて測定した、上記で得たポリスチレンスルホン酸(PSS)の重量平均分子量は54万であった。
【0084】
(製造例3)キャパシタ用素子の作成
エッチドアルミニウム箔(陽極箔)に陽極リード端子を接続した後、アジピン酸アンモニウム10質量%水溶液中で40Vの電圧を印加し、化成(酸化処理)して、アルミニウム箔の両面に誘電体層を形成して陽極箔を得た。
次に、陽極箔の両面に、陰極リード端子が溶接された対向アルミニウム陰極箔を、セルロース製のセパレータを介して積層し、これを円筒状に巻き取ってキャパシタ用素子を得た。
【0085】
(実施例1)導電性高分子分散液の調製
3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)3.0gと、製造例1のポリスチレンスルホン酸(10質量%水溶液)90gと、1-ヘキサンスルホン酸4.5gと、イオン交換水325gを20℃で混合した。
得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、硫酸第二鉄0.3gを添加した。次に6.6gの過硫酸ナトリウムを293.4gのイオン交換水に溶かした溶液をゆっくり添加し、得られた反応液を8時間攪拌して反応させた。
上記反応により、π共役系導電性高分子であるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリスチレンスルホン酸及び1-ヘキサンスルホン酸を含む導電性複合体(PEDOT-PSS-AS)と、分散媒である水とを含む導電性高分子分散液を得た。
【0086】
得られた導電性高分子分散液をGPCで分析したところ、未重合のEDOTは検出限界以下であった。
【0087】
この導電性高分子分散液にデュオライトC255LFH(住化ケムテックス社製、陽イオン交換樹脂)78gとデュオライトA368S(住化ケムテックス社製、陰イオン交換樹脂)78gを加え、濾過してイオン交換樹脂を除き、前記酸化剤及び前記触媒が除去された導電性高分子分散液710gを得て、固形分(不揮発成分)を測定した。
次に、得られた導電性高分子分散液からエバポレーターを用いて水を減圧留去し固形分を1.6質量%とした。得られた導電性高分子分散液100gに、イミダゾールを添加しpHを2.5に調整し、ジエチレングリコール8gを添加した。
【0088】
製造例3で得たキャパシタ用素子を上記の導電性高分子分散液に減圧下で浸漬した後、125℃の熱風乾燥機により30分間乾燥して、誘電体層表面上に導電性複合体を含む固体電解質層を形成させた。
次いで、アルミニウム製のケースに、上記の固体電解質層が形成されたキャパシタ用素子を装填し、封口ゴムで封止して、キャパシタを作製した。
【0089】
(実施例2)
実施例1において1-ヘキサンスルホン酸を9gとしたこと以外は実施例1と同様にしてキャパシタを作製した。
【0090】
(実施例3)
実施例1において1-ヘキサンスルホン酸を13.5gとしたこと以外は実施例1と同様にしてキャパシタを作製した。
【0091】
(実施例4)
実施例1において1-ヘキサンスルホン酸を18.0gとしたこと以外は実施例1と同様にしてキャパシタを作製した。
【0092】
(実施例5)
実施例1において1-ヘキサンスルホン酸を22.5gとしたこと以外は実施例1と同様にしてキャパシタを作製した。
【0093】
(実施例6)
実施例4において1-ヘキサンスルホン酸を1-ペンタンスルホン酸としたこと以外は実施例4と同様にしてキャパシタを作製した。
【0094】
(実施例7)
実施例4において1-ヘキサンスルホン酸を1-ヘプタンスルホン酸としたこと以外は実施例4と同様にしてキャパシタを作製した。
【0095】
(実施例8)
実施例4において製造例1のポリスチレンスルホン酸(10%水溶液)90gを60gとしたこと以外は実施例4と同様にしてキャパシタを作製した。
【0096】
(実施例9)
実施例4において製造例1のポリスチレンスルホン酸(10%水溶液、Mw:20万)90gを製造例2のポリスチレンスルホン酸(10%水溶液、Mw:54万)90gとしたこと以外は実施例4と同様にしてキャパシタを作製した。
【0097】
(比較例1)
実施例1において1-ヘキサンスルホン酸を添加しなかったことした以外は実施例1と同様にしてキャパシタを作製した。
【0098】
(比較例2)
実施例4において1-ヘキサンスルホン酸18.0gを、1-ブタンスルホン酸18.0gに変更したこと以外は実施例4と同様にしてキャパシタを作製した。
【0099】
(比較例3)
実施例1においてポリスチレンスルホン酸を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして検討を行ったが、粒子が析出し、導電性高分子分散液が得られなかったため検討を中止した。
【0100】
(比較例4)
実施例4において1-ヘキサンスルホン酸18.0gを、1-オクタンスルホン酸18.0gに変更したこと以外は実施例4と同様にして検討を行った。しかし、導電性高分子分散液の泡立ちが激しく、粘度測定やキャパシタの製造に適した導電性高分子分散液が得られなかったため検討を中止した。
【0101】
[pHの測定]
市販のpHメータを用いて常法により、温度25℃でのpHを測定した。
【0102】
[粘度の測定方法]
実施例1で説明したように固形分1.6質量%に調製した導電性高分子分散液を得て、これを高圧ホモジナイザーで分散し、試料として、音叉振動式粘度計(型番:SV-10、A&D社製)を用い、25℃にてJIS Z8803:2011(振動粘度計による粘度測定方法)に準拠して測定した。1Pa・s(パスカル秒)=1000cP(センチポアズ)として換算した。
【0103】
<評価>
[静電容量・等価直列抵抗]
各例のキャパシタについて、LCRメータZM2376((株)エヌエフ回路設計ブロック製)を用いて、120Hzでの静電容量(単位:μF)、及び100kHzでの等価直列抵抗(ESR)(単位:mΩ)を測定した。その測定結果を表1に示す。
【0104】
【0105】
<結果>
実施例の導電性高分子分散液は、導電性複合体としてπ共役系導電性高分子及びポリアニオンとともに、炭素数5~7のアルキルスルホン酸(AS)を含むので、粘度が低下していた。ASを配合しなかった比較例1、およびASの炭素数が過少の比較例2と比べて、実施例の特定のASを配合した導電性高分子分散液の粘度が顕著に低下していることから、実施例のPEDOT-PSS複合体にはASが含まれていることが理解される。ASはスルホン酸基を有するので、PSSと同様にPEDOTにドープしていると考えられる。
また、実施例の導電性高分子分散液を用いて製造したキャパシタにあっては静電容量を維持しつつ、ESRを低減することができた。導電性高分子分散液に含まれるASの量が多いほど、その粘度が低減し、キャパシタのESRが低くなる傾向があった。
【0106】
一方、比較例1の導電性高分子分散液はASを含まないので、粘度が高く、キャパシタのESRも劣っていた。比較例2の導電性高分子分散液は炭素数4のアルキルスルホン酸を含んでいたが、粘度が高く、キャパシタのESRも劣っていた。比較例3ではポリアニオンを配合しなかったので、水系分散に分散可能な導電性複合体が得られず、キャパシタの製造ができなかった。比較例4の導電性高分子分散液は炭素数8のアルキルスルホン酸を含んでいたが、泡立ちが激しく、キャパシタの製造が困難であった。
これらの結果から、各実施例では炭素数5~7のアルキルスルホン酸が導電性複合体に含まれ、PEDOT-PSS-ASを形成して水系溶媒に安定に分散していると理解される。