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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117385
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】処理装置
(51)【国際特許分類】
   B05B 14/468 20180101AFI20240822BHJP
   B01D 45/12 20060101ALI20240822BHJP
   B04C 3/00 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
B05B14/468
B01D45/12
B04C3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023454
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仲町 康高
(72)【発明者】
【氏名】寺添 康太
(72)【発明者】
【氏名】尾田 宜輝
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 香織
(72)【発明者】
【氏名】贄 宏充
(72)【発明者】
【氏名】川合 智廣
【テーマコード(参考)】
4D031
4D053
4D073
【Fターム(参考)】
4D031AC02
4D031DA05
4D031EA01
4D053AA01
4D053AB01
4D053BA01
4D053BB08
4D053BC01
4D053BD01
4D053CB04
4D053DA01
4D073AA01
4D073BB03
4D073DC02
4D073DC14
4D073DC19
4D073DD05
4D073DD09
4D073DD15
4D073DD25
4D073DD32
(57)【要約】
【課題】 被捕集物の捕集効率向上と圧力損失低減とを両立できる処理装置を提供する。
【解決手段】 処理装置10は、被捕集物である塗料ミストMを処理するためのものであり、渦巻状に形成されており塗料ミストMが流れる旋回流路21を有する案内板部20と、案内板部20の旋回流路21を案内板部20の巻軸方向Xから覆う被覆部30と、を備え、旋回流路21には、案内板部20の外周末端20a側の入口隙間22と、案内板部20の内周末端20b側の出口隙間23と、出口隙間23よりも径方向内側の中心空間24と、が設けられ、旋回流路21の旋回径が入口隙間22から出口隙間23まで漸減しており、被覆部30は、旋回流路21の中心空間24と連通する排出口31を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被捕集物を処理する処理装置であって、
渦巻状に形成されており上記被捕集物が流れる旋回流路を有する案内板部と、
上記案内板部の上記旋回流路を上記案内板部の巻軸方向から覆う被覆部と、
を備え、
上記旋回流路には、上記案内板部の外周末端側の入口隙間と、上記案内板部の内周末端側の出口隙間と、上記出口隙間よりも径方向内側の中心空間と、が設けられ、上記旋回流路の旋回径が上記入口隙間から上記出口隙間まで漸減しており、
上記被覆部は、上記旋回流路の上記中心空間と連通する排出口を有する、処理装置。
【請求項2】
上記案内板部は、上記旋回流路の径方向の渦巻間隔が上記入口隙間から上記出口隙間に至るまで漸減するように構成されている、請求項1に記載の処理装置。
【請求項3】
上記案内板部は、上記旋回流路の上記中心空間の開口径が上記排出口の開口径と概ね一致するように構成されている、請求項1または2に記載の処理装置。
【請求項4】
上記案内板部は、上記旋回流路を区画する表面に凹凸部を有する、請求項1または2に記載の処理装置。
【請求項5】
複数の上記案内板部を収容する本体ケースを備え、上記本体ケースには、複数の上記案内板部に兼用の吸入管及び排出管が設けられている、請求項1または2に記載の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被捕集物を処理する処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、塗料ミスト除去装置が開示されている。この塗料ミスト除去装置は、被捕集物である塗料ミストを除去するための中間フィルターを備えている。この塗料ミスト除去装置では、中間フィルターとして、筐体部の内部に三角波形に屈曲した複数の障害壁を配置したもの、筐体部の内部に角溝構造やV字構造の支柱を千鳥配置したもの、筐体部の内部にV字構造の支柱を千鳥配置したものなどが使用される。空気に含まれる塗料ミストは、中間フィルターの筐体部の内部を流れるときに、障害壁や支柱の表面に衝突して付着することによって除去される。
【0003】
下記特許文献2には、塗料回収装置が開示されている。この塗料回収装置は、大径筒部と、小径筒部と、大径筒部と小径筒部との間の円錐筒部と、を有するサイクロン容器を備えている。被捕集物である塗料ミストは、サイクロン容器の大径筒部の吸気管から流入したのち、サイクロン容器の内部を旋回しながら大径筒部側から小径筒部の回収管に向けて流れる。このときの旋回流によって塗料が遠心分離され、遠心分離後の塗料は回収管を通じてサイクロン容器から回収される。また、遠心分離後の空気は、サイクロン容器の小径筒部側から大径筒部の排気管に向けて逆向きに流れたのち、排気管を通じてサイクロン容器から排気される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の塗料ミスト除去装置は、中間フィルターの障害壁や支柱の表面に塗料ミストを単に衝突させて付着させる構造を利用したものである。このため、この塗料ミスト除去装置は、塗料ミストの捕集効率が低いという問題を抱えている。一方で、特許文献2の塗料回収装置は、特許文献1の塗料ミスト除去装置に比べて塗料ミストの捕集効率を高めることができるが、圧力損失を低く抑えるのが難しいという問題を抱えている。すなわち、この塗料回収装置では、サイクロン容器の内部に流入した空気は、大径筒部側から小径筒部側へと旋回しながら流れたのち、小径筒部側で反転して大径筒部側へと逆向きに流れる。このように、このサイクロン容器の内部で空気の反転流れを伴う構造上、圧力損失が高くなる。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、被捕集物の捕集効率向上と圧力損失低減とを両立できる処理装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
被捕集物を処理する処理装置であって、
渦巻状に形成されており上記被捕集物が流れる旋回流路を有する案内板部と、
上記案内板部の上記旋回流路を上記案内板部の巻軸方向から覆う被覆部と、
を備え、
上記旋回流路には、上記案内板部の外周末端側の入口隙間と、上記案内板部の内周末端側の出口隙間と、上記出口隙間よりも径方向内側の中心空間と、が設けられ、上記旋回流路の旋回径が上記入口隙間から上記出口隙間まで漸減しており、
上記被覆部は、上記旋回流路の上記中心空間と連通する排出口を有する、処理装置、
にある。
【発明の効果】
【0008】
上述の態様の処理装置によれば、渦巻状に形成された案内板部の旋回流路を入口隙間から出口隙間に向けて被捕集物が流れる。このとき、旋回流路の旋回径が入口隙間から出口隙間まで漸減しているため、被捕集物に作用する遠心力を出口隙間に向かうにつれて徐々に高めることができる。このときの遠心力を利用して、案内板部の表面に被捕集物を付着させて捕集することにより、被捕集物の捕集効率を向上させることができる。
【0009】
また、旋回流路の入口隙間付近では、比較的弱い遠心力を利用して粗粒子を選択的に捕集することで、入口隙間付近で広範囲にわたる粒子径の被捕集物が堆積して詰まるのを防ぐことができる。一方で、旋回流路の出口隙間付近では、上流側で捕集できなかった微細粒子を強い遠心力を利用して最終的に確実に捕集することができる。これにより、被捕集物の堆積が要因で圧力損失が高くなるのを防ぐことができる。また、圧力損失を下げることができることに伴って被捕集物の処理風量を上げることが可能になる。
【0010】
上述の態様によれば、被捕集物の捕集効率向上と圧力損失低減とを両立できる処理装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態1にかかる塗装ブースの全体図。
図2】実施形態1の処理装置の斜視図。
図3図2の処理装置の案内板部の径方向断面図。
図4図3の案内板部を塗料ミストの捕集状態にて示す断面図。
図5】塗料ミストの粒度分布を示す図。
図6】案内板部を展開状態にて示す斜視図。
図7】案内板部の巻き数と捕集効率及び圧力損失のそれぞれとの相関を示すグラフ。
図8図7のグラフの高性能領域に属する案内板部の構造上の特徴を説明するための図。
図9図1の塗装ブースとは別形態の塗装ブースの全体図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上述の各態様の好ましい実施形態について以下に説明する。
【0013】
上述の態様の処理装置において、上記案内板部は、上記旋回流路の径方向の渦巻間隔が上記入口隙間から上記出口隙間に至るまで漸減するように構成されているのが好ましい。この処理装置によれば、旋回流路の渦巻間隔を入口隙間から出口隙間に至るまで漸減させることで、被捕集物の流速が入口隙間から出口隙間に向かうにつれて上昇する。このときの流速上昇に伴って、被捕集物に作用する遠心力を高める効果が増加する。その結果、被捕集物の捕集効率を更に向上させることができる。
【0014】
上述の態様の処理装置において、上記案内板部は、上記旋回流路の上記中心空間の開口径が上記排出口の開口径と概ね一致するように構成されているのが好ましい。この処理装置によれば、旋回流路の中心空間の開口径を排出口の開口径と概ね一致させることで、中心空間から排出口に向けて円滑な流れを形成させることができる。その結果、圧力損失を更に低減させることができる。
【0015】
上述の態様の処理装置において、上記案内板部は、上記旋回流路を区画する表面に凹凸部を有するのが好ましい。この処理装置によれば、案内板部の表面に凹凸部を設けることによって、使用開始直後は、凹凸部のうちの凸部で被捕集物の一部の流れを遮りつつ凹部に被捕集物を堆積させて捕集することができる。その後、被捕集物の捕集が進むと、凹凸部が概ね平坦面になるため、圧力損失を一定に保つことが可能になる。
【0016】
上述の態様の処理装置は、複数の上記案内板部を収容する本体ケースを備え、上記本体ケースには、複数の上記案内板部に兼用の吸気管及び排気管が設けられているのが好ましい。この処理装置によれば、複数の案内板部を適宜に並べたり重ねたりして本体ケースの内部に配置することでユニット化できる。そして、本体ケースの吸気管を通じて複数の案内板部のいずれにも被捕集物を供給することができ、また、複数の案内板部のそれぞれで被捕集物の捕集処理がなされた後の空気を本体ケースの排気管を通じて排気することができる。
【0017】
以下、塗装ブースに設けられる処理装置の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0018】
この実施形態を説明するための図面において、特にことわらない限り、処理装置を構成する案内板部の巻軸方向を矢印Xで示し、この案内板部の径方向を矢印Yで示し、この案内板部の周方向を矢印Zで示すものとする。
【0019】
(実施形態1)
1.塗装ブース1の全体構造
図1に示されるように、実施形態1にかかる塗装ブース1は、例えば、自動車ボディであるワークWの噴霧塗装を行うのに用いられる。この塗装ブース1には、塗装室2と、給気室4と、バッフル室7と、が設けられている。塗装室2の上方に給気室4が配置され、塗装室2の下方にバッフル室7が配置されている。
【0020】
塗装室2は、ワークWを搬送装置3によって導入出可能な塗装処理空間を有する。この塗装室2には、塗装処理空間に導入されたワークWに向けて側方から塗料Nを噴霧するための複数の塗装ノズル6が設けられている。各塗装ノズル6から噴霧された塗料Nは、当該塗装ノズル6から噴出する圧縮エアーにしたがってワークWに塗布される。
【0021】
給気室4には、温度及び湿度の調整が行われた空気Aを作り出すための空調装置(図示省略)と、この空気Aを吸入して吐出する給気ファン5と、が設けられている。給気ファン5から吐出された空気Aは、塗装室2に向けて下向きに流れる下降流を形成する。このため、塗装室2でワークWに塗布されなかった塗料Nは、空気Aの下降流にしたがって噴霧状の塗料ミストMとして下向きに流れる。塗料ミストMは、空気A中に浮遊する、塗料Nの液体分子である。本形態では、この塗料ミストMを被捕集物としている。
【0022】
塗装室2とバッフル室7との間には、塗装室2の床面2aを構成する仕切壁部8が設けられている。バッフル室7は、塗料ミストMを後述の本体ケース11の吸入管11aに送る中継部としての機能や予備捕集する機能を果たす。仕切壁部8は、塗装室2で生じた塗料ミストMをバッフル室7に流入させるための連通穴8aを有する。このため、バッフル室7は、仕切壁部8に貫通状に設けられた連通穴8aのみを通じて塗装室2に連通している。バッフル室7は、部屋形状に限定されるものではなく、塗料ミストMを中継するダクト形状のものでも良い。
【0023】
2.処理装置10の構造
実施形態1の処理装置10は、塗装室2の床下に配置され、適宜に交換される。処理装置10は、被捕集物である塗料ミストMを処理するためのものであり、案内板部20を備えている。この処理装置10は、筐体である本体ケース11に格納されている。処理装置10が本体ケース11に格納された状態では、案内板部20は、その巻軸方向X(図2を参照)が上下方向に沿って延びるような縦置きで配置される。案内板部20を縦置きで配置すれば、粘着性が低くて崩れやすい塗料を回収するのも効果を発揮する。
【0024】
なお、図1では、本体ケース11に4つの処理装置10が格納される場合について例示しているが、処理装置10の数は特に限定されるものではない。本体ケース11に1つの処理装置10のみを格納しても良いし、或いは、本体ケース11に複数の処理装置10を適宜に並べたり重ねたりしてユニット化して格納しても良い。
【0025】
本体ケース11は、可搬式の台車12によって運搬される。作業者は、台車12に本体ケース11が載置された状態で処理装置10の着脱を行うことができる。したがって、処理装置10の交換やメンテナンスに要する作業負荷を低減するのに有効である。また、処理装置10が塗料回収によって重くなった場合でも、台車12を利用して容易に搬出することができる。
【0026】
本体ケース11が台車12によって設定位置に搬入された状態では、処理装置10の下方にフィルター部材13が配置される。フィルター部材13は、連結部15及び排出管11bを介して排気ダクト9に接続されている。このフィルター部材13は、処理装置10の処理後に残留する塗料を回収するための、円筒型の2次フィルターである。排出管11bは、フィルター部材13で処理した後の空気を排気ダクト9に排出するためのものである。この排出管11bの内部には、風量調整用のダンパー11cが設けられるのが好ましい。
【0027】
本体ケース11には、塗料ミストMが流入する吸入管11aが設けられている。本形態では、1つの吸入管11aが4つの処理装置10に兼用されている。また、排気ダクト9には排気ファン(図示省略)が接続されている。このため、排気ファンの作動時に、本体ケース11の吸入管11aを通じて各処理装置10の案内板部20に供給された塗料ミストMは、各案内板部20で捕集処理がなされた後に、フィルター部材13、連結部15及び排出管11bを通じて排気ダクト9に排気される。これにより、塗料ミストMを案内板部20で処理し、さらに案内板部20に引き続いてフィルター部材13でも処理できる。本体ケース11は使い捨てにせず、再利用することも可能である。
【0028】
本形態では、排気ダクト9の圧力をP1とし、本体ケース11の内部の圧力をP2とし、バッフル室7の圧力をP3とし、塗装室2の圧力をP4としたとき、これらの圧力バランスについて、P4>P3>P2>P1の関係が成り立つ。
【0029】
次に、図2及び図3を参照しながら、本形態の処理装置10の詳細構造について説明する。なお、複数の案内板部20はいずれも同一構造であるため、以下では、1つの案内板部20の構造についてのみ説明する。
【0030】
図2に示されるように、処理装置10は、案内板部20に加えて2つの被覆部30を備えている。案内板部20は、仮想の中心軸線Lまわり外周末端20aから内周末端20bまで渦巻状に形成されている。この案内板部20は、巻軸方向Xの幅寸法が一定の板状部材を渦巻状に丸められたものであり、塗料ミストMが流れる旋回流路21を有する。旋回流路21には、案内板部20の外周末端20a側の入口隙間22と、案内板部20の内周末端20b側の出口隙間23と、出口隙間23よりも径方向Yの内側の中心空間24と、が設けられている。中心空間24は、巻軸方向Xから見たときの形状が概ね円形をなすように形成されている。このような案内板部20は、「渦巻型サイクロン」とも称される。
【0031】
2つの被覆部30は、案内板部20の旋回流路21を案内板部20の巻軸方向Xから覆う機能を有する。2つの被覆部30の少なくとも一方には、旋回流路21の中心空間34と連通する円径の排出口31が設けられている。排出口31には、排気ダクト9の排気ファンによる吸引作用が付与される。これにより、案内板部20の旋回流路21には、その渦巻状の流路形状にしたがって、入口隙間22から出口隙間23まで塗料ミストMによる旋回流が形成される。
【0032】
塗料ミストMは、旋回流路21を流れるときにその一部が捕集処理され、捕集処理後の空気Maは、旋回流路21の中心空間24から被覆部30の排出口31を通じて処理装置10の外部に排出される。空気Maが旋回流路21の中心空間24から排出口31に移動するときに、その空気Maの流れが概ね90°方向転換する。
【0033】
3.案内板部20の構造
図3に示されるように、案内板部20の旋回流路21は、入口隙間22を入口とする流路である。案内板部20は、旋回流路21の外縁部の旋回径r(中心軸線Lからの径方向Yの位置)が入口隙間22から出口隙間23まで漸減するように構成されている。この旋回流路21は、径方向Yの渦巻間隔dで示される流路幅を有する。塗料ミストMが旋回流路21を入口隙間22から出口隙間23に向けて流れるとき、旋回効果によって塗料ミストMに遠心力が作用する。塗料ミストMの流速をvとし、塗料ミストMに作用する遠心力をFとしたき、遠心力Fは、下記(1)式で示される。(1)式によれば、旋回径rが入口隙間22から出口隙間23に向けて漸減することに応じて遠心力Fが増加していく。このときの遠心力Fを利用して塗料ミストMを捕集する。具体的には、図4に示されるように、案内板部20の表面20cに塗料ミストMを付着させて塗料Nとして捕集することができる。
【0034】
F=v/r ・・・(1)
【0035】
(1)式によれば、旋回流路21の入口隙間22から出口隙間23に向けて旋回径rが漸減することに応じて、塗料ミストMに作用する遠心力Fが増加していく。例えば、塗料ミストMの流速vが一定であって、出口隙間23における旋回径rが入口隙間22側の半分である場合、塗料ミストMが入口隙間22から出口隙間23まで旋回したときに、遠心力Fが入口隙間22側の2倍まで上昇する。
【0036】
ここで、塗料ミストMの粒度分布が、例えば、図5に示されるようなものであるとき、粒子径が相対に大きい粗粒子は、比較的弱い遠心力Fでも捕集可能である一方で、粒子径が相対に小さい微細粒子は、捕集するのに強い遠心力Fを要する。微細粒子を捕集することを考慮して、旋回流路21の全体にわたって遠心力Fを強めると、旋回流路21の入口隙間22付近で塗料が粒子径にかかわらず堆積して詰まり易くなる。これにより、圧力損失が増加する。かといって、旋回流路21の入口隙間22付近での塗料の堆積を回避するために旋回流路21の全体にわたって遠心力Fを弱めると、今度は、塗料ミストMの捕集効率が下がることになる。
【0037】
そこで、本形態の案内板部20では、塗料ミストMに作用する遠心力Fが旋回流路21の入口隙間22から出口隙間23に向けて増加していく構造を採用している。本構造によれば、遠心力Fを旋回流路21の入口隙間22側で最も弱くし、旋回流路21の出口隙間23側で最も強くすることができる。その結果、旋回流路21の入口隙間22付近では、被比較的弱い遠心力Fを利用して粗粒子を選択的に捕集することで、入口隙間22付近で広範囲にわたる粒子径の塗料ミストMが堆積して詰まるのを防ぐことができる。一方で、旋回流路21の出口隙間23付近では、上流側で捕集できなかった微細粒子を強い遠心力Fを利用して最終的に確実に捕集することができる。これにより、塗料ミストMの堆積が要因で圧力損失が高くなるのを防ぐことができる。また、圧力損失を下げることができることに伴って塗料ミストMの処理風量を上げることが可能になる。
【0038】
4.案内板部20の表面構造
図6に示される案内板部20は、平坦状に広げられた展開状態のものである。このように、本形態の案内板部20は、旋回流路21を区画する2つの表面20c,20dのうちの一方の表面20cに凹凸部25を有するのが好ましい。凹凸部25は、塗料ミストMの流れを部分的に遮るように形成された波形であり、その波頂線と波底線がともに巻軸方向Xに延びるように構成されたものある。案内板部20の表面20cに凹凸部25を設けることによって、使用開始直後は、凹凸部25のうちの凸部で塗料ミストMの一部の流れを遮りつつ凹部に塗料ミストMを堆積させて捕集することができる。その後、塗料ミストMの捕集が進むと、凹凸部25が概ね平坦面になるため、圧力損失を一定に保つことが可能になる。
【0039】
案内板部20を作製するのに、例えば、焼却可能な部材である片面波段ボールを用いることができる。展開状態の片面波段ボールを渦巻状に丸めることによって、案内板部20を作製できる。この場合、片面波段ボールの片面に既に設けられている波形状を凹凸部25に利用できる。片面波段ボールを使用すれば、案内板部20に要するコストを低く抑えることができる。必要に応じて、案内板部20の2つの表面20c,20dの両面に凹凸部25を設けるようにしても良い。
【0040】
なお、波形状の凹凸部25に代えて、例えば、複数の突起からなる凹凸部を採用することもできる。また、波形状の凹凸部25を用いることに代えて或いは加えて、塗料ミストMとの親和性の高い材料によるコーティング処理がなされた構造を採用することもできる。また、塗料ミストMの捕集効率が所望のレベルにある場合には、案内板部20の表面20cを凹凸部の無い平坦面としても良い。
【0041】
5.処理装置10の性能評価
本発明者は、処理装置10を実際に使用したときの性能評価を実施した。この性能評価では、予め設定した構造パラメータを適宜に変化させたときの、塗料ミストMの捕集効率と圧力損失について評価した。このときの構造パラメータとして、案内板部20の巻き数、案内板部20の渦巻間隔d、旋回流路21の中心空間24の開口径D1(中心空間24を巻軸方向Xから見たときの形状を、便宜上、円形とした場合)、排出口31の開口径D2などを採用した(図3を参照)。
【0042】
図7のグラフに示されるように、上記性能評価の結果、案内板部20の巻き数を増やすことに伴って、塗料ミストMの捕集効率が高くなることが確認された。これは、案内板部20の巻き数が多いほど、塗料ミストMを捕集するための捕集面積が増える、すなわち旋回流路21の長さが長くなることに起因する。同様に、上記性能評価の結果、案内板部20の巻き数を減らすことに伴って、圧力損失が低くなることが確認された。これは、案内板部20の巻き数が少ないほど、塗料ミストMが案内板部20から受ける抵抗を減らすことができることに起因する。図7に基づいた場合、案内板部20の巻き数を所定範囲内に設定した場合、上記構造パラメータを適正化することによって、塗料ミストMの捕集効率向上と圧力損失低減とを両立できる高性能領域Rを得ることができる。
【0043】
ここで、図3及び図8を参照しながら、図7中の高性能領域Rに属する案内板部20の構造上の特徴について説明する。なお、図8では、高性能領域Rに属する3つの案内板部20(第1案内板部20A、第2案内板部20B、第3案内板部20C)を例示している。これら3つの案内板部20の巻き数は同一としている。
【0044】
図8に示されるように、第1案内板部20Aは、渦巻間隔d(図3を参照)が旋回流路21の入口隙間22から出口隙間23に至るまで一定となるように構成されている。また、この第1案内板部20Aは、旋回流路21の中心空間24の開口径D1(図3を参照)が排出口31の開口径D2(図3を参照)と概ね一致するように構成されている。すなわち、第1案内板部20Aを巻軸方向Xから見たとき、中心空間24を区画する表面20cが排出口31の開口縁31a(図3を参照)と重なるように延びている。この第1案内板部20Aを使用したときの、捕集効率と圧力損失との相関が図8中の○プロットで示されている。
【0045】
第2案内板部20Bは、旋回流路21の径方向Yの渦巻間隔dが入口隙間22から出口隙間23に至るまで漸減するように構成されている。また、この第2案内板部20Bは、第1案内板部20Aと同様に、旋回流路21の中心空間24の開口径D1が排出口31の開口径D2と概ね一致するように構成されている。この第2案内板部20Bを使用したときの、捕集効率と圧力損失との相関が図8中の◎プロットで示されている。この第2案内板部20Bは、3つの案内板部20の中で捕集効率向上と圧力損失低減とを両立する効果が最も優れている。
【0046】
第2案内板部20Bを使用した場合、第1案内板部20Aを使用した場合に比べて、塗料ミストMの捕集効率が上昇している。この要因は、旋回流路21の渦巻間隔dを入口隙間22から出口隙間23に至るまで漸減させたことによる。すなわち、渦巻間隔dを入口隙間から出口隙間に至るまで漸減させることで、塗料ミストMの流速vが入口隙間22から出口隙間23に向かうにつれて上昇する。このときの流速上昇に伴って、塗料ミストMに作用する遠心力Fを高める効果が増加する。その結果、塗料ミストMの捕集効率を更に向上させることができる。
【0047】
例えば、前記式(1)を適用すれば、出口隙間23における渦巻間隔dが入口隙間22側の半分である場合、塗料ミストMの流速vが2倍になるため、塗料ミストMが入口隙間22から出口隙間23まで旋回したときに、遠心力Fが入口隙間22側の8倍まで上昇する。その結果、塗料ミストMの捕集効率が上昇したものと推測される。
【0048】
第2案内板部20Bを使用した場合、旋回流路21の中心空間24の開口径D1を排出口31の開口径D2と概ね一致させることで、中心空間24から排出口31に向けて円滑な流れを形成させることができる。その結果、圧力損失を更に低減させることができる。
【0049】
第3案内板部20Cは、第1案内板部20Aと同様に、渦巻間隔dが旋回流路21の入口隙間22から出口隙間23に至るまで一定となるように構成されている。また、この第3案内板部20Cは、旋回流路21の中心空間24の開口径D1が排出口31の開口径D2を上回るように構成されている。この第3案内板部20Cを使用したときの、捕集効率と圧力損失との相関が図8中の□プロットで示されている。
【0050】
第3案内板部20Cを使用した場合、第1案内板部20Aを使用した場合に比べて、圧力損失が上昇している。この要因は、中心空間24の開口径D1を排出口31の開口径D2よりも大きくしたことによる。開口径D1を開口径D2と概ね一致させる場合に比べて、中心空間24から排出口31に向けて円滑な流れが形成されにくいため、その分、圧力損失が上昇したものと推測される。圧力損失が上昇し過ぎるのを防ぐためには、第3案内板部20Cの内周末端20b(図3を参照)が開口径D2の10%未満まで排出口31の開口縁31a(図3を参照)に近接するように構成するのが好ましい。
【0051】
上述のように、実施形態1によれば、被捕集物である塗料ミストMの捕集効率向上と圧力損失低減とを両立できる処理装置10を提供することができる。
【0052】
実施形態1の処理装置10によれば、案内板部20を小型化することで、省スペースで高捕集性能での処理が可能になる。処理装置10は、シンプルな構造の案内板部20を使用したものであるため、装置コストを低く抑えるのに有効である。
【0053】
実施形態1の処理装置10は、圧力損失の低減効果に優れているため、被捕集物の詰まりが生じにくく、長期間にわたる処理の継続が可能である。また、この処理装置10は、圧力損失の低減効果に優れているため、空気を供給したり排気したりするのに用いる機器に要するエネルギーコストを低減でき、且つ、この機器から排出される二酸化炭素の排出量を低減できる。
【0054】
6.別形態の塗装ブース
次に、図9を参照しながら、図1の塗装ブース1とは別の形態の塗装ブース1Aについて説明する。塗装ブース1Aは、塗装室2の床下構造、及び、処理装置10の配置構造が、実施形態1の塗装ブース1のものと相違している。その他の構造は、塗装ブース1のものと同一である。なお、図9では図1に記載の要素と同一の要素に同一の符号を付しており、以下では、当該同一の要素についての説明は省略する。
【0055】
塗装ブース1Aにおいて、塗装室2の床下には、床上からアクセス可能な空間が設けられており、この空間に処理装置10が本体ケース11に格納された状態で配置される。このため、作業者は、塗装室2の床上から処理装置10の着脱を行うことができる。処理装置10が本体ケース11に格納された状態では、案内板部20は、その巻軸方向X(図2を参照)が水平方向に沿って延びるような横置きで配置される。案内板部20を横置きで配置すれば、粘着性が高くて崩れにくい塗料を回収するのにも効果を発揮する。
【0056】
処理装置10の側方には、フィルター部材14が配置されている。フィルター部材14は、排出管11bを介して排気ダクト9に接続されている。このフィルター部材14は、処理装置10の処理後に残留する塗料を回収するための、波型の2次フィルターである。本体ケース11の吸入管11aを通じて各処理装置10の案内板部20に供給された塗料ミストMは、各案内板部20で捕集処理がなされた後に、フィルター部材14及び排出管11bを通じて排気ダクト9に排気される。本形態では、2つの吸入管11aのそれぞれが2つの処理装置10に兼用されている。本体ケース11は使い捨てにせず、再利用することも可能である。
【0057】
塗装ブース1Aには、塗装ブース1のバッフル室7のような中継部が設けられていない。このため、中継部を省略することによって清掃対象面積を少なくすることができ、その分、清掃に要する工数を低く抑えることができる。
【0058】
本発明は、上述の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の応用や変更が考えられる。例えば、上述の実施形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0059】
上述の実施形態では、自動車ボディの塗装設備に使用される処理装置10について例示したが、必要に応じて、この処理装置10を、自動車以外の他の分野の塗装設備に適用することもできる。
【0060】
上述の実施形態では、空気中に含まれる塗料ミストMを被捕集物として、この塗料ミストMを処理する処理装置10について例示したが、被捕集物は塗料ミストMのみに限定されるものではなく、その他の被捕集物を処理装置10で処理するようにしても良い。気体や液体に含まれる各種の物質を被捕集物とすることができる。
【符号の説明】
【0061】
10…処理装置、 11…本体ケース、 11a…吸入管、 11b…排出管、 20,20A,20B,20C…案内板部、 20a…外周末端、 20b…内周末端、 20c,20d…表面、 21…旋回流路、 22…入口隙間、 23…出口隙間、 24…中心空間、 25…凹凸部、 30…被覆部、 31…排出口、d…渦巻間隔、 r…旋回径、 D1…中心空間の開口径、 D2…排出口の開口径、 M…塗料ミスト(被捕集物)、 X…巻軸方向、 Y…径方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9