(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117387
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】ピロロキノリンキノン誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 471/16 20060101AFI20240822BHJP
A61K 31/475 20060101ALI20240822BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240822BHJP
A61P 27/12 20060101ALI20240822BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240822BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20240822BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20240822BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240822BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20240822BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240822BHJP
G01N 33/02 20060101ALI20240822BHJP
A61K 8/49 20060101ALN20240822BHJP
【FI】
C07D471/16
A61K31/475
A61P43/00 107
A61P27/12
A61P1/16
A61P17/02
A61P37/08
A61P43/00 111
A61P35/00
A61P31/12
A61P3/10
G01N33/02
A61K8/49
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023456
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】伊丸岡 智子
(72)【発明者】
【氏名】池本 一人
【テーマコード(参考)】
4C065
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4C065AA07
4C065BB05
4C065CC03
4C065DD03
4C065EE03
4C065HH08
4C065JJ01
4C065KK08
4C065LL04
4C065PP01
4C065QQ02
4C083AC851
4C083AC852
4C083FF01
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA04
4C086CB05
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA33
4C086ZA75
4C086ZA89
4C086ZB13
4C086ZB22
4C086ZB26
4C086ZB33
4C086ZC01
4C086ZC35
4C086ZC41
(57)【要約】
【課題】ピロロキノリンキノン又はその塩の誘導化を促進させる方法の提供。
【解決手段】ピロロキノリンキノン又はその塩とアミノ基含有化合物とを食品タンパク質の存在下で反応させる反応工程を含む、前記ピロロキノリンキノン又はその塩の誘導体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピロロキノリンキノン又はその塩とアミノ基含有化合物とを食品タンパク質の存在下で反応させる反応工程を含む、前記ピロロキノリンキノン又はその塩の誘導体の製造方法。
【請求項2】
前記アミノ基含有化合物が、アミノ酸又はその塩である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記食品タンパク質が、動物性タンパク質又は植物性タンパク質である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記食品タンパク質が、乳タンパク質又は大豆タンパク質である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記食品タンパク質が、カゼインタンパク質又はホエイタンパク質である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記食品タンパク質が、金属触媒を含まない、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記食品タンパク質が、熱変性タンパク質である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項8】
前記反応が、水溶媒の存在下で実施される、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項9】
前記ピロロキノリンキノン又はその塩が、食品、医薬品、又は医薬部外品に含まれている、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の製造方法で製造された前記誘導体を分析する分析工程を含む、分析方法。
【請求項11】
前記分析工程が、前記誘導体を分析して、前記ピロロキノリンキノン又はその塩を定量することを含む、請求項10に記載の分析方法。
【請求項12】
ピロロキノリンキノン又はその塩とアミノ基含有化合物との反応を、食品タンパク質の存在下で実施する、前記反応の促進方法。
【請求項13】
食品タンパク質を含む、ピロロキノリンキノン又はその塩とアミノ基含有化合物との反応促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピロロキノリンキノン又はその塩の誘導体の製造方法及び分析方法に関する。また、本発明は、ピロロキノリンキノン又はその塩とアミノ基含有化合物との反応を促進させる方法に関する。さらに、本発明は、前記反応の促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ピロロキノリンキノン(PQQ)は、ピロール環とキノリン環の縮合物でo-キノン構造をとる物質である。PQQは電子伝達体として機能することが知られており、必須アミノ酸のリジンの代謝に関与するアミノアジピン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(AASDH)中に取り込まれることで、AASDHが酸化還元反応をできるようになる。すなわち、AASDHの補酵素と考えられており、このことから、ニコチンアミド(ピリジンヌクレオチド)とフラビンに次ぐ3番目の酸化還元補酵素とされ、新規のビタミンとなる可能性を有する。
【0003】
また、PQQは、細胞の増殖促進作用、抗白内障作用、肝臓疾患予防・治療作用、創傷治癒促進作用、抗アレルギー作用、逆転写酵素阻害作用、グリオキシラーゼI阻害作用、及び制癌作用などの多くの重要な生理活性を有するとされ、PQQの産業上の重要性が高まっている。
【0004】
PQQは、細菌並びにカビ及び酵母などの真菌に広く存在していることが知られていたが、近年、細菌だけでなく、イネなどの植物や哺乳類に至るまでに広く存在することが報告されている。哺乳動物でも様々な組織、器官からその検出が報告されているものの、哺乳動物はPQQの合成経路をもたないため、PQQを食物から摂取しているとされる。
【0005】
機能性を利用する機能性表示食品制度では食品中のPQQの正確な測定データを算出する必要が求められている。多くの食品では、様々な物質が混合して提供されるが、PQQは多くの食品成分と反応しやすく、分析時に妨害を受けやすい。
【0006】
多種多様な共存成分を含む機能性食品等の定量分析を考慮した場合、HPLCを用いた方法は比較的簡便であるが、一方で、妨害物質による影響を受けやすく、定量性が損なわれるという問題がある。このような問題を解消するため、PQQを誘導体化することが行われており、特許文献1は、PQQをグリシンと反応させて、より安定なイミダゾピロロキノリン(IPQ)を形成し、IPQを分析して、PQQを定量する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ピロロキノリンキノン又はその塩の誘導化を促進させる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等が鋭意検討した結果、ピロロキノリンキノン又はその塩とアミノ基含有化合物との反応が、食品タンパク質によって促進されることを見出した。
【0010】
本発明は以下の実施形態を含む。
[1]
ピロロキノリンキノン又はその塩とアミノ基含有化合物とを食品タンパク質の存在下で反応させる反応工程を含む、前記ピロロキノリンキノン又はその塩の誘導体の製造方法。
[2]
前記アミノ基含有化合物が、アミノ酸又はその塩である、[1]に記載の製造方法。
[3]
前記食品タンパク質が、動物性タンパク質又は植物性タンパク質である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]
前記食品タンパク質が、乳タンパク質又は大豆タンパク質である、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]
前記食品タンパク質が、カゼインタンパク質又はホエイタンパク質である、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]
前記食品タンパク質が、金属触媒を含まない、[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]
前記食品タンパク質が、熱変性タンパク質である、[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8]
前記反応が、水溶媒の存在下で実施される、[1]~[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9]
前記ピロロキノリンキノン又はその塩が、食品、医薬品、又は医薬部外品に含まれている、[1]~[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10]
[1]~[9]のいずれかに記載の製造方法で製造された前記誘導体を分析する分析工程を含む、分析方法。
[11]
前記分析工程が、前記誘導体を分析して、前記ピロロキノリンキノン又はその塩を定量することを含む、[10]に記載の分析方法。
[12]
ピロロキノリンキノン又はその塩とアミノ基含有化合物との反応を、食品タンパク質の存在下で実施する、前記反応の促進方法。
[13]
食品タンパク質を含む、ピロロキノリンキノン又はその塩とアミノ基含有化合物との反応促進剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ピロロキノリンキノン又はその塩とアミノ基含有化合物との反応を促進させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、タンパク質の(スキムミルク)存在下でPQQとグリシンとを反応させた反応物のHPLC分析結果を示す。
【
図2】
図2は、タンパク質(スキムミルク)の非存在下でPQQとグリシンとを反応させた反応物のHPLC分析結果を示す。
【
図3】
図3は、タンパク質(スキムミルク)のみのHPLC分析結果を示す。
【
図4】
図4は、タンパク質(スキムミルク)を使用した場合におけるIPQピーク面積とPQQ量との関係を示す。
【
図5】
図5は、タンパク質(スキムミルク)を使用しなかった場合におけるIPQピーク面積とPQQ量との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0014】
<製造方法及び促進方法>
本発明の一実施形態は、ピロロキノリンキノン又はその塩とアミノ基含有化合物とを食品タンパク質の存在下で反応させる反応工程を含む、前記ピロロキノリンキノン又はその塩の誘導体の製造方法に関する。前記実施形態に係る製造方法は、ピロロキノリンキノン又はその塩とアミノ基含有化合物との反応を、食品タンパク質の存在下で実施する、前記反応の促進方法と表現することもできる。
【0015】
食品タンパク質が、ピロロキノリンキノン又はその塩とアミノ基含有化合物との反応を促進させる理由としては、食品タンパク質とピロロキノリンキノン又はその塩との間で何らかの相互作用が起こっていることが推定されるが、本発明は前記推定理由によって何ら限定されるものではない。
【0016】
[ピロロキノリンキノン(PQQ)]
PQQは、下記式(I)で示される化合物である。
【化1】
【0017】
PQQの塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、及びアンモニウム塩が挙げられる。PQQの塩は、好ましくはナトリウム塩、カリウム塩、又はリチウム塩であり、より好ましくはナトリウム塩であり、更に好ましくはジナトリウム塩である。PQQのジナトリウム塩は下記式(II)で示される。
【化2】
【0018】
PQQ及びその塩には、その溶媒和物も包含されるものとする。溶媒和物としては、例えば、水和物が挙げられる。PQQ及びその塩の溶媒和物は、好ましくは1~3水和物である。
【0019】
上記の式(I)及び(II)の構造はキノン構造である酸化型PQQを示しているが、PQQは還元型PQQであってもよい。還元型PQQは下記式(III)で示される。PQQは酸化型と還元型との間で容易に変換されるため、これらは実質的に等価として取り扱うことができる。
【化3】
【0020】
以下、単に「PQQ」と記載する場合、特段明示されない限り、PQQ(酸化型及び還元型)、その塩、及びそれらの溶媒和物を包含するものとする。
【0021】
PQQは、その他の任意成分を含む試料として提供されてもよい。試料としては、特に制限されないが、例えば、食品(飲料を含む)、医薬品、及び医薬部外品が挙げられる。食品としては、例えば、一般食品、及び保険機能食品(例えば、特定保健用食品、機能性表示食品、及び栄養機能食品)が挙げられる。より具体的な試料としては、例えば、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤などの経口投与用の薬剤及びサプリメント;飲料;ゼリー;グミ;レトルト食品などその他食品が挙げられる。試料として、上記の他、飲食品ではない化粧料、洗浄料、その他外用剤なども挙げられ、PQQを含む製品全般を対象とすることができる。
【0022】
[アミノ基含有化合物]
PQQの誘導体化に使用するアミノ基含有化合物は、安定なPQQ誘導体を形成できるものが好ましい。アミノ基含有化合物としては、例えば、アミノ酸、アルキルアミン、アルカノールアミン、アリールアミン、ヒドロキシルアミン、ヒドラジド、ペプチド、及びポリアミンが挙げられ、好ましくはアミノ酸である。
【0023】
アミノ酸としては、例えば、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン、ヒスチジン、チロシン、システイン、アスパラギン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン酸、グルタミン、プロリン、グリシン、アラニン、及びアルギニンが挙げられ、好ましくはグリシン、アルギニン、及びロイシンである。
【0024】
アミノ酸は塩の形態であってもよい。アミノ酸の塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、及びアンモニウム塩が挙げられる。
【0025】
PQQ誘導体を分析する観点から、1種類のアミノ基含有化合物を使用することが好ましい。
【0026】
[食品タンパク質]
食品タンパク質を使用することにより、PQQとアミノ基含有化合物との反応を促進することができる。食品タンパク質は、特に限定されないが、動物性タンパク質、及び植物性タンパク質が挙げられる。
【0027】
動物性タンパク質としては、例えば、乳タンパク質、及び軟体動物タンパク質が挙げられる。乳タンパク質としては、例えば、カゼインタンパク質、及びホエイタンパク質が挙げられる。
【0028】
植物性タンパク質としては、例えば、大豆タンパク質、卵タンパク質、及び小麦タンパク質が挙げられる。大豆タンパク質としては、例えば、グリシニン、及びコングリシニンが挙げられる。
【0029】
食品タンパク質は、好ましくは乳タンパク質、大豆タンパク質、又は軟体動物タンパク質であり、より好ましくは乳タンパク質、又は大豆タンパク質であり、更に好ましくは乳タンパク質であり、特に好ましくはカゼインタンパク質、又はホエイタンパク質である。
【0030】
食品タンパク質は、精製されたものでもよいし、未精製のもの(他の成分と共存しているもの)でもよい。未精製物は、好ましくは、食品タンパク質及びその他の食品成分を含むもの(好ましくは食品)である。
【0031】
乳タンパク質を含む食品としては、例えば、乳、粉乳、脱脂粉乳、及びチーズが挙げられる。
大豆タンパク質を含む食品としては、例えば、豆乳、ユバ、豆腐、及び高野豆腐が挙げられる。
軟体動物タンパク質を含む食品としては、例えば、干物が挙げられる。
【0032】
食品タンパク質を含む食品を使用する場合、食品の固形分の質量を基準として、食品タンパク質が20質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。
【0033】
食品タンパク質は、未変性のものでもよいし、変性しているものでもよい。食品タンパク質を変性させる方法としては、例えば、加熱、凍結、塩添加、乾燥、及びpH変化が挙げられる。変性した食品タンパク質を使用することにより、PQQとアミノ基含有化合物との反応をより促進することができる。
【0034】
食品タンパク質は、好ましくは熱変性した食品タンパク質である。熱変性させる温度は、特に限定されないが、好ましくは40~140℃であり、より好ましくは50~120℃であり、更に好ましくは60~100℃であり、特に好ましくは70~90℃である。
【0035】
食品タンパク質は、金属(例えば金属触媒)を含まないことが好ましい。食品タンパク質は、金属を含まなくとも、PQQとアミノ基含有化合物との反応を促進させることができる。また、金属を含まないことにより、安全かつ安価に反応を行うことができる。
【0036】
[反応工程]
本実施形態に係る製造方法の反応工程は、PQQとアミノ基含有化合物とを食品タンパク質の存在下で反応させて、PQQの誘導体を形成する工程である。
【0037】
PQQ誘導体は、PQQにアミノ基含有化合物が結合したものであれば、特に限定されない。PQQ誘導体の構造は、使用するアミノ基含有化合物に応じて異なるが、アミノ基含有化合物がグリシンである場合、PQQ誘導体は下記式(IV)のイミダゾピロロキノリン(IPQ)である。
【化4】
【0038】
PQQ及びグリシンは、下記のメカニズムで反応すると推定される。
【化5】
【0039】
反応工程は、溶媒の存在下で行うことが好ましい。溶媒としては、水、有機溶媒、及びその混合溶媒が挙げられ、好ましくは水である。溶媒として緩衝液を使用してもよい。
【0040】
有機溶媒は、水溶性有機溶媒が好ましい。水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、メチルホルムアミド、及びホルムアミドが挙げられる。
【0041】
反応条件(例えば、温度、圧力、及び時間)は、アミノ基含有化合物、食品タンパク質等の種類に応じて、適宜決定すればよい。
温度としては、例えば、0~130℃、10~80℃、及び20~40℃が挙げられる。
圧力としては、例えば、0.01~100Mpa、及び大気圧が挙げられる。
時間としては、バッチ反応の場合、例えば、0.01~240時間、及び0.1~24時間が挙げられる。
時間としては、連続反応の場合、例えば、0.001~24時間、及び0.01~12時間が挙げられる。
【0042】
アミノ基含有化合物の使用量は、特に限定されないが、PQQの質量の好ましくは101~105倍であり、より好ましくは102~103倍である。
【0043】
食品タンパク質の使用量は、特に限定されないが、PQQの質量の好ましくは100~103倍であり、より好ましくは101~103倍である。
【0044】
任意成分が含まれる試料中のPQQを誘導体化させる場合、アミノ基含有化合物及び/又は食品タンパク質を外部から試料に添加することが好ましい。
【0045】
<分析方法>
本発明の一実施形態は、上記製造方法で製造されたPQQ誘導体を分析する分析工程を含む、分析方法に関する。前記分析工程は、好ましくは、PQQ誘導体を分析して、PQQを定量することを含む。
【0046】
本実施形態に係る分析方法では、食品タンパク質によって効率的に誘導体化されたPQQを分析対象とするため、PQQを正確に定量することができる。本実施形態に係る分析方法は、低濃度(好ましくは0mg/L超かつ20mg/L以下)のPQQを定量する場合に特に有利である。
【0047】
分析手段は、PQQ誘導体を分析できるものであれば特に限定されないため、公知の手段を採用すればよい。公知の手段としては、例えば、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、紫外可視吸光スペクトル分析、及び核磁気共鳴スペクトルが挙げられ、
好ましくは液体クロマトグラフィーであり、より好ましくは高速液体クロマトグラフィー(HPLC)である。
【0048】
具体的な分析条件は、PQQ誘導体の種類、分析手段等に応じて適宜設定すればよい。例えば、国際公開第2019/138817号に開示の分析条件を採用してもよい。
【0049】
<反応促進剤>
本発明の一実施形態は、食品タンパク質を含む、PQQとアミノ基含有化合物との反応促進剤に関する。本実施形態に係る反応促進剤は、アミノ基含有化合物を更に含んでいてもよい。PQQ、アミノ基含有化合物、及び食品タンパク質の詳細は、上記<製造方法及び促進方法>の欄に記載のとおりである。
【実施例0050】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0051】
分析に用いた試料は下記のとおりである。なお、実施例で用いた試薬は、特に明記しない限り、和光純薬社製の特級の試薬である。
・ピロロキノリンキノンジナトリウム塩(三菱瓦斯化学社製、Na/ピロロキノリンキノンモル比1.70~2.10、水分量<12%、HPLC純度>99.0%)
・HPLC溶離液(100mM CH3COOH/100mM CH3COONH4=30/70(pH5.1)):6.0gのCH3COOHを蒸留水で溶解し、総量が1Lとなるようにメスアップして100mM CH3COOH(1液)を調製し、これとは別に、7.71gのCH3COONH4を蒸留水で溶解し、総量が1Lとなるようにメスアップして100mM CH3COONH4(2液)を調製した。その後、300mLの1液と700mLの2液を混合して、HPLC溶離液、及び炭酸緩衝液として用いる緩衝液を得た。なお、得られた緩衝液のpHは5.1±0.2であった。
【0052】
(HPLC条件)
送液ユニット :LC-10AD(島津製作所社製)
カラム :YMC-Pack ODS-A
(YMC社製、長さ150mm、内径4.6mm、粒子径5μm)
検出器 :UV259nm
HPLC溶離液:上記のとおり
カラム温度 :40℃
溶離液流速 :1.5mL/min
導入量 :3μL
分析時間 :30min
【0053】
[比較例A1]
10質量%のグリシン水溶液20mLを、50mL遠沈管(プラスチック製)に加えた。2g/Lのピロロキノリンキノンジナトリウム200μLを加え、室温で1時間シェイクした。上記条件のHPLC分析より、イミダゾピロロキノリン(IPQ)の収率は41%であった。
【0054】
[実施例A1]
全粉乳(よつ葉 北海道全粉乳)0.10gと、10質量%のグリシン水溶液20mLを、50mL遠沈管(プラスチック製)に加えた。2g/Lのピロロキノリンキノンジナトリウム200μLを加え、室温で1時間シェイクした。上記条件のHPLC分析より、IPQの収率は100%であった。
【0055】
[実施例A2~A10並びに比較例A2及びA3]
実施例A1の全粉乳(よつ葉 北海道全粉乳)に代えて、下記表1又は表2に記載の添加物を使用したこと以外は、実施例A1と同様に反応を行った。結果を表1及び表2に示す。
【表1】
【0056】
【0057】
[実施例B1~B4及び比較例B1~B3]
10質量%のグリシン水溶液20mL、反応促進剤(スキムミルク)0.2g、及び所定量のピロロキノリンキノンを、50mL遠心分離管(ポリプロピレン製)に加え、1時間振盪した。なお、比較例B1~B3では反応促進剤は使用しなかった。下記条件のHPLC分析により、PQQの転化率及びIPQの選択率を算出した。結果を表3に示す。
PQQ転化率=100×(1-PQQ残量/初期PQQ量)
IPQ選択率=IPQ収率/PQQ転化率
【0058】
(HPLC条件)
送液ユニット :LC-2010AHT(島津製作所社製)
カラム :YMC-Pack ODS-A
(YMC社製、長さ150mm、内径4.6mm、粒子径5μm)
検出器 :UV259nm
HPLC溶離液:上記のとおり
カラム温度 :40℃
溶離液流速 :1.5mL/min、
導入量 :10μL
分析時間 :20min
【0059】
【0060】
PQQを1mg使用した実施例B3及び比較例B3のHPLC分析結果をそれぞれ
図1及び
図2に示す。また、反応促進剤(スキムミルク)のみのHPLC分析結果を
図3に示す。実施例B3の
図1では、IPQ及び反応促進剤のピークのみが確認されたのに対し、比較例B3の
図2では、不純物のピークがあり、IPQの選択性が低下していた。
【0061】
前記データを使用した、PQQ誘導体化分析におけるIPQピーク面積とPQQ量との関係を
図4(実施例)及び
図5(比較例)に示す。
図5(比較例)と比較して、
図4(実施例)では広い範囲で直線性を維持しており、HPLC分析に適していた。
【0062】
[実施例C1~C7]
タンパク質の種類による効果を確認するために反応率の低い条件で実験を行った。
具体的には、10g/Lのグリシン0.2mL、50mMのリン酸ナトリウムバッファー(pH7)3.5mL、及び10g/Lの下記添加物の溶液0.2mLを混合した。2g/LのPQQ 0.1mLを加え、シェイカーで2時間攪拌し、氷で冷却し、遠心分離した後、HPLCで分析してIPQの収率を算出した。結果を表4に示す。
【表4】
【0063】
[実施例D1~D3]
実施例C1におけるグリシンをロイシンに変更し、30℃で20時間反応させたこと以外は実施例C1と同様の操作を行った。結果を表5に示す。
【表5】
【0064】
[実施例E1~E3]
タンパク質の加熱変性による効果を確認した。
具体的には、所定の温度で30分間加熱処理したタンパク質(スキムミルク)を使用したこと以外は、実施例C1と同様の操作を行った。結果を表6に示す。
【表6】
【0065】
[実施例F]
スキムミルクとPQQとの関係について、1H-NMR及びHPLCを使用して検討した。スキムミルクとPQQとを混合して1H-NMRで分析すると、PQQのピークがブロード化していたため、スキムミルクとPQQとの間で相互作用があることが推定される。一方、HPLCで分析すると、PQQ量の減少は観察されなかったため、スキムミルクとPQQとの間で強い結合が形成されているわけではないと推定される。