(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117390
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】多段圧延機、多段圧延機の保守点検方法、及び多段圧延機の使用方法
(51)【国際特許分類】
B21B 13/14 20060101AFI20240822BHJP
B21B 31/08 20060101ALI20240822BHJP
B21B 27/10 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
B21B13/14 A
B21B31/08 G
B21B27/10 A
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023460
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】314017543
【氏名又は名称】Primetals Technologies Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】吉田 尚志
(57)【要約】
【課題】従来に比べて短時間で上下のロール群同士の空間を形成することが可能な多段圧延機、多段圧延機の保守点検方法、及び多段圧延機の使用方法を提供する。
【解決手段】複数対のバッキングアッセンブリー20を支持する上インナーハウジング30、下インナーハウジング32と、上インナーハウジング30、下インナーハウジング32を金属帯5の圧延方向の入側及び出側から支持するアウターハウジング40と、一対のワークロール10の噛み込み部分の金属帯5にクーラントを噴射するように構成された入側クーラントスプレーヘッダー50a,出側クーラントスプレーヘッダー50bと、を備え、入側クーラントスプレーヘッダー50a,出側クーラントスプレーヘッダー50bは、金属帯5の圧延方向及び/又は反圧延方向に移動可能とするように構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属帯を圧延する一対のワークロールと、
前記一対のワークロールを支持する複数対の中間ロールと、
前記複数対の中間ロールを支持する複数対のバッキングアッセンブリーと、
前記複数対のバッキングアッセンブリーを支持するインナーハウジングと、
前記インナーハウジングを前記金属帯の圧延方向の入側及び出側から支持するアウターハウジングと、
前記一対のワークロールの噛み込み部分の前記金属帯にクーラントを噴射するように構成されたクーラントスプレーヘッダーと、を備え、
前記クーラントスプレーヘッダーは、前記金属帯の圧延方向及び/又は反圧延方向に移動可能とするように構成された
多段圧延機。
【請求項2】
請求項1に記載の多段圧延機において、
前記クーラントスプレーヘッダーは、前記多段圧延機の正面側から見て、前記ワークロール側から前記アウターハウジング側に延伸する形状であり、前記インナーハウジングより前記圧延方向の外側の部材に支持されている
多段圧延機。
【請求項3】
請求項2に記載の多段圧延機において、
前記クーラントスプレーヘッダーは、前記アウターハウジングに支持されている
多段圧延機。
【請求項4】
請求項2に記載の多段圧延機において、
前記クーラントスプレーヘッダーは、前記金属帯の上側に設けられた上側クーラントスプレーヘッダー及び前記金属帯の下側に設けられた下側クーラントスプレーヘッダーが前記金属帯の幅方向の外側で接続された接続部を有し、
前記接続部が、前記インナーハウジングより前記圧延方向の外側の部材で支持されている
多段圧延機。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の多段圧延機において、
前記クーラントスプレーヘッダーは、前記多段圧延機の正面側から見て、前記圧延方向で最も前記ワークロールから離れた前記バッキングアッセンブリーの軸よりも、前記ワークロール側の先端が前記圧延方向の外側まで移動可能とするように構成された
多段圧延機。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の多段圧延機において、
前記クーラントスプレーヘッダーが、前記圧延方向に移動した退避位置に配置され、前記一対のワークロール、前記複数対の中間ロール、及び前記複数対のバッキングアッセンブリーのうち前記金属帯の下側に設けられた下側バッキングアッセンブリーが前記インナーハウジングの外に引き出された状態のときに、前記金属帯の幅方向に移動し、前記複数対のバッキングアッセンブリーのうち前記金属帯の上側に設けられた上側バッキングアッセンブリーを下方から保持する台車を更に備える
多段圧延機。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の多段圧延機において、
前記インナーハウジングは、前記金属帯の上側に設けられた上側インナーハウジング及び前記金属帯の下側に設けられた下側インナーハウジングを備え、
前記下側インナーハウジングは、前記金属帯の幅方向に前記下側インナーハウジングを移動させるための出し入れ部を下部に備える
多段圧延機。
【請求項8】
金属帯を圧延する一対のワークロールと、
前記一対のワークロールを支持する複数対の中間ロールと、
前記複数対の中間ロールを支持する複数対のバッキングアッセンブリーと、
前記複数対のバッキングアッセンブリーを支持するインナーハウジングと、
前記インナーハウジングを前記金属帯の圧延方向の入側及び出側から支持するアウターハウジングと、
前記一対のワークロールの噛み込み部分の前記金属帯にクーラントを噴射するように構成されたクーラントスプレーヘッダーと、を備えた多段圧延機の保守点検方法において、
前記一対のワークロールを前記金属帯の幅方向に引き出す工程と、
前記一対のワークロールを支持する複数対の中間ロールを前記金属帯の幅方向に引き出す工程と、
前記クーラントスプレーヘッダーを前記金属帯の圧延方向及び/又は反圧延方向に移動する工程と、を備える
多段圧延機の保守点検方法。
【請求項9】
請求項8に記載の多段圧延機の保守点検方法において、
前記クーラントスプレーヘッダーが、前記圧延方向及び/又は反圧延方向に移動した退避位置に配置され、前記一対のワークロール、前記複数対の中間ロール、及び前記複数対のバッキングアッセンブリーのうち前記金属帯の下側に設けられた下側バッキングアッセンブリーを前記インナーハウジングの外に引き出す工程と、
前記複数対のバッキングアッセンブリーのうち前記金属帯の上側に設けられた上側バッキングアッセンブリーを下方から保持する台車を前記金属帯の幅方向に移動させ、前記上側バッキングアッセンブリーを下方から保持する工程と、を更に備える
多段圧延機の保守点検方法。
【請求項10】
請求項8に記載の多段圧延機の保守点検方法において、
前記インナーハウジングは、前記金属帯の上側に設けられた上側インナーハウジング及び前記金属帯の下側に設けられた下側インナーハウジングを備える場合に、
前記下側インナーハウジングを、前記金属帯の幅方向に移動させる工程を更に備える
多段圧延機の保守点検方法。
【請求項11】
金属帯を圧延する一対のワークロールと、
前記一対のワークロールを支持する複数対の中間ロールと、
前記複数対の中間ロールを支持する複数対のバッキングアッセンブリーと、
前記複数対のバッキングアッセンブリーを支持するインナーハウジングと、
前記インナーハウジングを前記金属帯の圧延方向の入側及び出側から支持するアウターハウジングと、
前記一対のワークロールの噛み込み部分の前記金属帯にクーラントを噴射するように構成されたクーラントスプレーヘッダーと、を備えた多段圧延機の使用方法であって、
前記金属帯の先端部を前記一対のワークロールの間に通板させる際に、前記クーラントスプレーヘッダーを前記金属帯の圧延方向及び/又は反圧延方向に移動させ、前記一対のワークロールに接近させる
多段圧延機の使用方法。
【請求項12】
請求項11に記載の多段圧延機の使用方法において、
前記金属帯の通常圧延時に、前記先端部を通板させる際より前記クーラントスプレーヘッダーを前記一対のワークロールから離す
多段圧延機の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多段圧延機、多段圧延機の保守点検方法、及び多段圧延機の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、おおよそストリップの運動の方向に対して垂直方向である少なくとも1つの単独の平面に配置された平行な長手方向軸線を備える、積み重ねられたロールのセットに関連し、複数のロールのうちの1つのロールの長手方向軸線は、瞬間回転軸として定義され、ロールの形成するラインに対して平行、かつロールの質量の中心を通過している、ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電磁鋼板用の圧延機としてクラスター型圧延機(以後「多段圧延機」と記載することがある)が用いられることがある。
【0005】
このようなクラスター型圧延機では、ワークロールのバイト部にクーラントを噴射して板厚を適切に制御するため、クーラントのノズルをワークロール近傍まで近づける必要がある。
【0006】
ここで、ロールは定期的に交換、点検する必要があるが、クラスター型圧延機は上下のロール群同士の空間が狭く、簡単にアクセスや保守検査をしにくくなっている。
【0007】
そこで、例えば特許文献1には、ストリップやロールを潤滑かつ冷却する噴霧装置を固定したテーブルを、ベアリングロールの列の長手方向にスライドさせることで、容易に圧延スタンド内外に挿入及び除去することが記載されている。
【0008】
しかし、上記の従来技術では、テーブルのスライド方向がロールの長手方向であることからスライド時のストロークが長いため、テーブルを退避させて上下のロール群同士の空間を形成するのに時間がかかる、という課題がある。
【0009】
本発明は、従来に比べて短時間で上下のロール群同士の空間を形成することが可能な多段圧延機、多段圧延機の保守点検方法、及び多段圧延機の使用方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、金属帯を圧延する一対のワークロールと、前記一対のワークロールを支持する複数対の中間ロールと、前記複数対の中間ロールを支持する複数対のバッキングアッセンブリーと、前記複数対のバッキングアッセンブリーを支持するインナーハウジングと、前記インナーハウジングを前記金属帯の圧延方向の入側及び出側から支持するアウターハウジングと、前記一対のワークロールの噛み込み部分の前記金属帯にクーラントを噴射するように構成されたクーラントスプレーヘッダーと、を備え、前記クーラントスプレーヘッダーは、前記金属帯の圧延方向及び/又は反圧延方向に移動可能とするように構成された。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来に比べて短時間で上下のロール群同士の空間を形成することができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】実施例の多段圧延機において、クーラントスプレーヘッダーを圧延方向反圧延方向に退避させた状態を示す正面図である。
【
図3】実施例の多段圧延機において、上インナーハウジングと下インナーハウジングとの間を開け、上ワークロールを取り除いた状態を示す正面図である。
【
図4】実施例の多段圧延機において、下ワークロール及び下第1中間ロールを取り除き、上第1中間ロールを支持台にて支持した状態を示す正面図である。
【
図5】実施例の多段圧延機において、上第1中間ロールを取り除いた状態を示す正面図である。
【
図6】実施例の多段圧延機において、下第2中間ロールを取り除いた状態を示す正面図である。
【
図7】実施例の多段圧延機において、上第2中間ロール及び下バッキングアッセンブリーを取り除いた状態を示す正面図である。
【
図8】実施例の多段圧延機の他の形態を示す正面図である。
【
図9】実施例の多段圧延機の他の形態において、下インナーハウジングを圧延機外に取り出した状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の多段圧延機、多段圧延機の保守点検方法、及び多段圧延機の使用方法の実施例について
図1乃至
図9を用いて説明する。
【0014】
図1は実施例の多段圧延機の正面図である。
図2はクーラントスプレーヘッダーを圧延方向反圧延方向に退避させた状態を示す正面図である。
図3は上インナーハウジングと下インナーハウジングとの間を開け、上ワークロールを取り除いた状態を示す正面図である。
図4は下ワークロール及び下第1中間ロールを取り除き、上第1中間ロールを支持台にて支持した状態を示す正面図である。
図5は上第1中間ロールを取り除いた状態を示す正面図である。
図6は下第2中間ロールを取り除いた状態を示す正面図である。
図7は上第2中間ロール及び下バッキングアッセンブリーを取り除いた状態を示す正面図である。
図8は多段圧延機の他の形態を示す正面図である。
図9は下インナーハウジングを圧延機外に取り出した状態を示す正面図である。
【0015】
なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一、または類似の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0016】
以下、本実施例では、インナーハウジングとアウターハウジングから成り、分割された上下インナーハウジングが上下に開閉可能な20段のクラスター型の多段圧延機の例を示して説明するが、多段圧延機はこの構造に限定されず、様々な多段圧延機に対して本実施例の構造を適用することができる。
【0017】
最初に、本実施例の多段圧延機の全体構成について
図1を用いて説明する。
【0018】
図1に示される本実施例の多段圧延機1は金属帯5を圧延するためのクラスター型の20段圧延機であり、特には、ステンレス鋼板、電磁鋼板、銅合金等の硬質材の圧延に好適な圧延機である。
【0019】
図1において、多段圧延機1は、ロールとして上下一対のワークロール10と、上下2対の第1中間ロール12と、上下3対の第2中間ロール14と、分割バッキングベアリングや軸、サドル(いずれも図示の都合上省略)から構成される上下4対の上バッキングアッセンブリー(A軸,B軸,C軸,D軸)及び下バッキングアッセンブリー(E軸,F軸,G軸,H軸)(以下、総称してバッキングアッセンブリー20とも記載)、を備えている。
【0020】
1対のワークロール10は、金属帯5に直接接触するロールであり、金属帯5を圧延する。
【0021】
上下1対のワークロール10は、各々、上下2対の第1中間ロール12に接触支持されている。また、これら上下2対の第1中間ロール12は、各々が上下3対の第2中間ロール14に接触支持されている。
【0022】
各々上下3対の第2中間ロール14は、金属帯5に対して鉛直方向上方側のバッキングアッセンブリー20(A軸,B軸,C軸,D軸)、及び金属帯5に対して鉛直方向下方側のバッキングアッセンブリー20(E軸,F軸,G軸,H軸)に各々接触支持されている。
【0023】
多段圧延機1は、また、金属帯5の鉛直方向の上側において上側のバッキングアッセンブリー20(A軸,B軸,C軸,D軸)を支持する上インナーハウジング30、及び金属帯5の鉛直方向の下側において下側のバッキングアッセンブリー20(E軸,F軸,G軸,H軸)を支持する下インナーハウジング32を備えている。
【0024】
これら上インナーハウジング30及び下インナーハウジング32は、金属帯5の圧延方向の入側及び出側からアウターハウジング40により支持される。
【0025】
プッシュアップシリンダー60は、下インナーハウジング32の鉛直方向下方に下インナーハウジング32を支持するように設けられており、上下のロール間にギャップを生成する際に駆動される。
【0026】
また、ロール冷却と圧延潤滑のために、上下1対のワークロール10の金属帯5の噛み込み部分に対して金属帯5の圧延方向入側の上下方向からクーラントを噴射する入側クーラントスプレーヘッダー50a、及び金属帯5の圧延方向出側の上下方向からクーラントを噴射する出側クーラントスプレーヘッダー50bを備えている。
【0027】
入側クーラントスプレーヘッダー50aは、金属帯5の鉛直方向上方側に位置する入側上クーラントスプレーヘッダー52aと鉛直方向下方側に位置する入側下クーラントスプレーヘッダー54aとが、金属帯5の幅方向の外側のうち、駆動側及び/又は操作側のアウターハウジング部で入側接続部材56aにより接続されて一体化している。
【0028】
この入側クーラントスプレーヘッダー50aは、多段圧延機1の正面側から見て、ワークロール10側からアウターハウジング40側に延伸する形状であり、上インナーハウジング30、下インナーハウジング32より反圧延方向の外側の部材に支持されている。
【0029】
特には、本実施例では、入側クーラントスプレーヘッダー50aの入側接続部材56aが、上インナーハウジング30、下インナーハウジング32より圧延方向の外側の部材としてアウターハウジング40に支持されている。なお、アウターハウジング40に支持される形態に限定されず、アウターハウジング40にも接触せずに貫通して、更に外側のミルガイドで入側クーラントスプレーヘッダーを支持する構造とすることができる。
【0030】
出側クーラントスプレーヘッダー50bも、入側クーラントスプレーヘッダー50aと同様に、金属帯5の鉛直方向上方側に位置する出側上クーラントスプレーヘッダー52bと鉛直方向下方側に位置する出側下クーラントスプレーヘッダー54bとが、金属帯5の幅方向の外側のうち、駆動側及び/又は操作側のアウターハウジング部で出側接続部材56bにより接続されて一体化している。
【0031】
この出側クーラントスプレーヘッダー50bは、多段圧延機1の正面側から見て、ワークロール10側からアウターハウジング40側に延伸する形状であり、上インナーハウジング30、下インナーハウジング32より圧延方向の外側の部材に支持されている。
【0032】
特には、本実施例では、出側クーラントスプレーヘッダー50bの出側接続部材56bが、上インナーハウジング30、下インナーハウジング32より圧延方向の外側の部材としてアウターハウジング40に支持されている。なお、アウターハウジング40に支持される形態に限定されず、アウターハウジング40にも接触せずに貫通して、更に外側のミルガイドで出側クーラントスプレーヘッダーを支持する構造とすることができる。
【0033】
本実施例では、入側クーラントスプレーヘッダー50aを、金属帯5の反圧延方向、より具体的には、
図2に示すように、多段圧延機1の正面側から見て、圧延方向で最もワークロール10から離れたバッキングアッセンブリー20の軸(D軸,E軸、バッキングアッセンブリー20の中心)よりも入側クーラントスプレーヘッダー50aのワークロール10側の先端が圧延方向の外側まで反圧延方向に移動可能とする移動機構45aを更に備えているとともに、出側クーラントスプレーヘッダー50bを、金属帯5の圧延方向、より具体的には、
図2に示すように、多段圧延機1の正面側から見て、圧延方向で最もワークロール10から離れたバッキングアッセンブリー20の軸(A軸,H軸、バッキングアッセンブリー20の中心)よりも出側クーラントスプレーヘッダー50bのワークロール10側の先端が圧延方向の外側まで圧延方向に移動可能とする移動機構45bを更に備えている。
【0034】
これら入側クーラントスプレーヘッダー50aを圧延方向で最もワークロール10から離れたバッキングアッセンブリー20の軸よりも、ワークロール10側の先端が圧延方向入側の外側まで、また出側クーラントスプレーヘッダー50bを圧延方向で最もワークロール10から離れたバッキングアッセンブリー20の軸よりも、ワークロール10側の先端が圧延方向出側の外側まで移動可能とする移動機構45a,45bの構成は特に限定は無く、例えば圧延方向、あるいは反圧延方向にシリンダが延伸する油圧シリンダや、回転運動を直線運動に変換するボールねじ、ラック、ピニオン、等の様々な構成が採用可能であり、特に限定されない。
【0035】
移動機構45a,45bは、例えば、多段圧延機1の保守点検の際に、入側クーラントスプレーヘッダー50aを金属帯5の反圧延方向に移動させるとともに、出側クーラントスプレーヘッダー50bを金属帯5の圧延方向に移動させる。これにより、入側クーラントスプレーヘッダー50aの先端がD軸,E軸に対し外側まで開くとともに、出側クーラントスプレーヘッダー50bの先端がA軸,H軸に対し外側まで開くことで、
図3に示すように、上インナーハウジング30と下インナーハウジング32との間を開けて多段圧延機1内に空間を得ることができ、様々なロール組換え用具が提案でき、短時間で組替えを実施し得ることになる。
【0036】
このため、
図3に示すように上側のワークロール10を金属帯5の幅方向に引き出して取り除くことや、
図4に示すように下側のワークロール10を取り除くこと、更には
図4に示すように下側の第1中間ロール12を取り除く際に上側の第1中間ロール12を支持台70にて支持して安定させること、更には
図5に示すように上側の第1中間ロール12を取り除くこと、
図6に示すように下側の第2中間ロール14を取り除くこと、
図7に示すように上側の第2中間ロール14及び下側のバッキングアッセンブリー20を取り除くこと、更には上側のバッキングアッセンブリー20を引き出して取り除くことも容易であり、交換作業を従来に比べて容易に実施することができるようになる。
【0037】
また、従来は、自動組替え装置を使っての組換えにおいても装置が大掛かりになる為、1本ずつ多段圧延機1内から抜き取ることが一般的であり、この為交換に時間を要していたが、本実施例の構成により、安定し、かつまた複数本同時組替え等の様々な組替え方法の採用が可能となる。特に、不安定なポーターバー操作で行っている第2中間ロール14及びバッキングアッセンブリー20の交換が安定かつ効率良くできることが可能となる。
【0038】
なお、ワークロール10だけを組み替える場合は、金属帯5が上下のワークロール10間に通板されたままの状態でワークロール10を軸方向に引き抜くことができる。これに対し、第1中間ロール12や第2中間ロール14、バッキングアッセンブリー20を組み替える場合は、初めから金属帯5を引き抜いておき、そこから入側クーラントスプレーヘッダー50a及び出側クーラントスプレーヘッダー50bの退避、ワークロール10の取り外しを始めるものとする。
【0039】
また、入側クーラントスプレーヘッダー50a,出側クーラントスプレーヘッダー50bを圧延方向、あるいは反圧延方向に移動させるタイミングは、保守点検の際に限られない。
【0040】
例えば、金属帯5の圧延を行ううち、金属帯5の先端部を一対のワークロール10の間に通板させる際に、入側クーラントスプレーヘッダー50a,出側クーラントスプレーヘッダー50bを金属帯5の圧延方向及び/又は反圧延方向に移動させ、通常圧延時に比べて一対のワークロール10に接近させることができる。
【0041】
また、金属帯5の通常圧延時には、先端部を通板させる際より入側クーラントスプレーヘッダー50a,出側クーラントスプレーヘッダー50bを一対のワークロール10から離すことができる。
【0042】
次いで、多段圧延機の他の形態について
図8及び
図9を用いて説明する。
【0043】
図8及び
図9に示す多段圧延機1Aでは、下インナーハウジング32Aは、金属帯5の幅方向に下インナーハウジング32Aを移動させるための下モノブロックハウジング用車輪80を下部に備えており、下インナーハウジング32Aを、設置床85上で金属帯5の幅方向に移動させることが可能となっている。
【0044】
これにより、下ロール群(下のワークロール10,下側の第1中間ロール12、下側の第2中間ロール14、下側のバッキングアッセンブリー20(E軸,F軸,G軸,H軸))を多段圧延機1Aから同時に引き出すことが可能となり、クレーン操作でのロール脱着が可能となる。このことでロール、特にバッキングアッセンブリー20の組換えが容易となり、従来に比べて組替え時間が半分以下の時間に短縮が可能となる。
【0045】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0046】
上述した本実施例の多段圧延機1,1Aは、金属帯5を圧延する一対のワークロール10と、一対のワークロール10を支持する複数対の第1中間ロール12、第2中間ロール14と、複数対の第1中間ロール12、第2中間ロール14を支持する複数対のバッキングアッセンブリー20と、複数対のバッキングアッセンブリー20を支持する上インナーハウジング30、下インナーハウジング32と、上インナーハウジング30、下インナーハウジング32を金属帯5の圧延方向の入側及び出側から支持するアウターハウジング40と、一対のワークロール10の噛み込み部分の金属帯5にクーラントを噴射するように構成された入側クーラントスプレーヘッダー50a,出側クーラントスプレーヘッダー50bと、を備え、入側クーラントスプレーヘッダー50a,出側クーラントスプレーヘッダー50bは、金属帯5の圧延方向及び/又は反圧延方向に移動可能とするように構成される。
【0047】
多段圧延機では、クーラントスプレーヘッダーの先端部をワークロールと金属帯5との間を狙って噴射しなければ板厚が乱れ、制御の外乱となる。
【0048】
加えて、金属帯5の一例としての電磁鋼板の圧延用の可逆圧延機では、冷却材の噴射量をパスや板速に合わせて制御することが行われているが、ワークロールと金属帯5との間の近傍までノズル先端が近づいていない場合はワークロールと金属帯5との間にクーラントスプレーヘッダーの先端部が届かない状態が起きる。
【0049】
この為、ワークロールと金属帯5との間の近くまでノズルを近づけることが必須であるが、この為、多段圧延機の第2中間ロール等及びバッキングアッセンブリーを組み替える操作に対しスペース上の制約となり、スムーズな組替えが困難であった。
【0050】
これに対し、本実施例では、入側クーラントスプレーヘッダー50a,出側クーラントスプレーヘッダー50bが圧延方向や反圧延方向に移動できることから、短い距離を移動するだけでロール群同士の空間を形成できるので、空間の形成にかかる時間を従来に比べて短縮することができる。また、金属帯5の圧延方向及び/又は反圧延方向に移動可能であるため、垂直方向への移動は実質的に不要であり、ワークロール10と金属帯5との間の近傍までノズル先端を移動させることも容易であることから、冷却のための調整の負荷も従来に比べて大幅に軽減することができる。
【0051】
また、入側クーラントスプレーヘッダー50a,出側クーラントスプレーヘッダー50bは、多段圧延機1の正面側から見て、ワークロール10側からアウターハウジング40側に延伸する形状であり、上インナーハウジング30、下インナーハウジング32より圧延方向の外側の部材に支持されているため、ヘッダーの形状が圧延方向に長い形状であっても、ヘッダーを圧延方向、反圧延方向に容易に移動させることができ、圧延条件の変更などにもより容易に対応することができる。
【0052】
更に、入側クーラントスプレーヘッダー50a,出側クーラントスプレーヘッダー50bは、アウターハウジング40に支持されていることで、パスラインに対してスプレーヘッダーの位置を固定できるので、ヘッダー先端のノズルの角度を調整するための装置や手間が必要なくなることから、保守点検時の作業を減らし、更なる作業効率の向上を図ることができる。
【0053】
特に多段圧延機の場合は、従来はクーラントスプレーヘッダーがそれぞれ上インナーハウジング及び下インナーハウジングに取り付けられていたため、ワークロール10,第1中間ロール12,第2中間ロール14の各ロールの径の組み合わせによって、ノズル噴射角度を調整する必要があり、角度調整装置の具備が必須であったが、このような装置が必要でなくなることから、省スペース化や低コスト化など、様々なメリットが得られる。
【0054】
また、入側クーラントスプレーヘッダー50a,出側クーラントスプレーヘッダー50bは、金属帯5の上側に設けられた入側上クーラントスプレーヘッダー52a、出側上クーラントスプレーヘッダー52b及び金属帯5の下側に設けられた入側下クーラントスプレーヘッダー54a、出側下クーラントスプレーヘッダー54bが金属帯5の幅方向の外側で接続された入側接続部材56a、出側接続部材56bを有し、入側接続部材56a、出側接続部材56bが、上インナーハウジング30、下インナーハウジング32より圧延方向の外側の部材で支持されていることにより、金属帯5の上側のヘッダーと下側のヘッダーとを一体化することができるので、上下のヘッダーを一度に移動させることができ、移動機構45a,45bの構成の簡略化や移動効率の向上などの効果が得られる。
【0055】
更に、入側クーラントスプレーヘッダー50a,出側クーラントスプレーヘッダー50bは、多段圧延機1の正面側から見て、圧延方向で最もワークロール10から離れたバッキングアッセンブリー20の軸よりも、ワークロール10側の先端が圧延方向の外側まで移動可能とするように構成されたことで、保守等のための空間を十分形成でき、そのヘッダーの移動距離はロール長手方向にヘッダーを移動させる場合よりも短くすることができるので、空間の形成にかかる時間を短縮することができる。
【0056】
また、入側クーラントスプレーヘッダー50a,出側クーラントスプレーヘッダー50bが、圧延方向に移動した退避位置に配置され、一対のワークロール10、複数対の第1中間ロール12、第2中間ロール14、及び複数対のバッキングアッセンブリー20のうち金属帯5の下側に設けられた下側のバッキングアッセンブリー20が下インナーハウジング32の外に引き出された状態のときに、金属帯5の幅方向に移動し、複数対のバッキングアッセンブリー20のうち金属帯5の上側に設けられた上側のバッキングアッセンブリー20を下方から保持する支持台車を更に備える。従来は上の第1中間ロール12及び上の第2中間ロール14の各ロールをロール組換え時における落下防止を目的に上方から吊り上げていたが、支持台車によりロール組換え時の上ロール吊り上げ装置が不要になる。また、ポーターバー装置装着の為に取り外していた第2中間ロール14軸受け箱を装着状態のままでロールを多段圧延機1外に引き出すことが可能となり、多段圧延機1前における軸受け箱の脱着作業を手動で行う必要がなくなり、また自動交換装置の場合はその装置自身の必要性が無くなる。
【0057】
更に、インナーハウジングは、金属帯5の上側に設けられた上インナーハウジング30及び金属帯5の下側に設けられた下インナーハウジング32Aを備え、下インナーハウジング32Aは、金属帯5の幅方向に下インナーハウジング32Aを移動させるための下モノブロックハウジング用車輪80を下部に備えることで、下側のロール群を圧延機から同時に引き出すことができ下側のロール群の交換作業効率を大幅に改善することができる。
【0058】
また、本発明における、金属帯5の先端部を一対のワークロール10の間に通板させる際に、入側クーラントスプレーヘッダー50a,出側クーラントスプレーヘッダー50bを金属帯5の圧延方向及び/又は反圧延方向に移動させ、一対のワークロール10に接近させる多段圧延機1の使用方法によれば、ワークロール10等に大きな負荷がかかる噛み込み時にクーラントを効果的に供給できるため、負荷軽減を図ることができる。
【0059】
更に、金属帯5の通常圧延時に、先端部を通板させる際より入側クーラントスプレーヘッダー50a,出側クーラントスプレーヘッダー50bを一対のワークロール10から離すことで、必要以上に入側クーラントスプレーヘッダー50a,出側クーラントスプレーヘッダー50bの先端部がワークロール10に近づきすぎることを抑制することができる。
【0060】
<その他>
なお、本発明は上記の実施例に限られず、種々の変形、応用が可能なものである。上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。
【符号の説明】
【0061】
1,1A…多段圧延機
5…金属帯
10…ワークロール
12…第1中間ロール
14…第2中間ロール
20…バッキングアッセンブリー
30…上インナーハウジング
32,32A…下インナーハウジング
40…アウターハウジング(圧延方向の外側の部材)
45a,45b…移動機構
50a…入側クーラントスプレーヘッダー
50b…出側クーラントスプレーヘッダー
52a…入側上クーラントスプレーヘッダー(上側クーラントスプレーヘッダー)
52b…出側上クーラントスプレーヘッダー(上側クーラントスプレーヘッダー)
54a…入側下クーラントスプレーヘッダー(下側クーラントスプレーヘッダー)
54b…出側下クーラントスプレーヘッダー(下側クーラントスプレーヘッダー)
56a…入側接続部材(接続部)
56b…出側接続部材(接続部)
60…プッシュアップシリンダー
70…支持台
80…下モノブロックハウジング用車輪(出し入れ部)
85…設置床
【手続補正書】
【提出日】2024-01-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0029
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0029】
特には、本実施例では、入側クーラントスプレーヘッダー50aの入側接続部材56aが、上インナーハウジング30、下インナーハウジング32より反圧延方向の外側の部材としてアウターハウジング40に支持されている。なお、アウターハウジング40に支持される形態に限定されず、アウターハウジング40にも接触せずに貫通して、更に外側のミルガイドで入側クーラントスプレーヘッダーを支持する構造とすることができる。