(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117413
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】基材の親水化処理方法及び親水性改質基材
(51)【国際特許分類】
C09K 3/00 20060101AFI20240822BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240822BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20240822BHJP
C08J 7/04 20200101ALI20240822BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
C09K3/00 R
C09J11/06
C09J201/00
C08J7/04 A CER
C08J7/04 CEZ
C23C26/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023499
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】595015890
【氏名又は名称】株式会社朝日FR研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】弁理士法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三原 将
(72)【発明者】
【氏名】行田 和起
(72)【発明者】
【氏名】吉田 明
【テーマコード(参考)】
4F006
4J040
4K044
【Fターム(参考)】
4F006AA15
4F006AA17
4F006AA42
4F006AB24
4F006BA01
4F006BA10
4F006CA04
4F006CA05
4F006EA03
4J040GA01
4J040GA08
4J040GA14
4J040HD30
4J040HD36
4J040KA23
4J040MA02
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4J040MA12
4J040NA16
4J040NA17
4J040NA18
4K044AA01
4K044AA12
4K044AA13
4K044AA16
4K044BA21
4K044BB03
4K044BC02
4K044CA07
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】スルホベタイン高分子が十分に溶解された状態で且つ温和な条件で速やかに基材表面に親水性を均質に発現させることができる基材の親水化処理方法を提供する。
【解決手段】基材の親水化処理方法は、水にスルホベタイン高分子粒子の少なくとも一部を溶解した親水性水溶液とする調製工程と、基材表面に、側鎖及び/又は末端に官能基としてのビニル基を有するシランカップリング剤と、側鎖及び/又は末端に官能基としてのアミノ基を有するシランカップリング剤とが混合されている分子接着剤を塗布し、前記基材表面に前記分子接着剤を吸着、反応又は結合した修飾面に、前記スルホベタイン高分子と反応又は結合する官能基を生成する表面処理工程と、前記修飾面に前記親水性溶液を付し、前記親水性溶液中のスルホベタイン高分子と前記修飾面の官能基と反応又は結合させて親水性層を形成する親水化工程とを、有するものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水にスルホベタイン高分子粒子の少なくとも一部を溶解した親水性水溶液とする調製工程と、
基材表面に、側鎖及び/又は末端に官能基としてのビニル基を有するシランカップリング剤と、側鎖及び/又は末端に官能基としてのアミノ基を有するシランカップリング剤とが混合されている分子接着剤を塗布し、前記基材表面に前記分子接着剤を吸着、反応又は結合した修飾面に、前記スルホベタイン高分子と反応又は結合する官能基を生成する表面処理工程と、
前記修飾面に前記親水性溶液を付し、前記親水性溶液中のスルホベタイン高分子と前記修飾面の官能基と反応又は結合させて親水性層を形成する親水化工程とを、
有することを特徴とする基材の親水化処理方法。
【請求項2】
前記親水性水溶液は、水に不溶のスルホベタイン高分子粒子を除去したものであることを特徴とする請求項1に記載の基材の親水化処理方法。
【請求項3】
前記基材表面に、プラズマ放電処理、コロナ放電処理、紫外線照射処理、エキシマ照射処理、電子線照射処理及び放射線照射処理から選ばれる少なくとも何れかの乾式表面改質処理を施し、前記基材表面に前記分子接着剤の官能基と反応又は結合する官能基又は遊離基を生じさせた後に、前記分子接着剤を塗布することを特徴とする請求項1に記載の基材の親水化処理方法。
【請求項4】
前記シランカップリング剤を、同一分子内にシラノール基、メトキシ基、エトキシ基、アジド基、イソシアネート基、エポキシ基からなる官能基のうち少なくとも1種を有するものとすることを特徴とする請求項1に記載の基材の親水化処理方法。
【請求項5】
前記表面処理工程に、前記修飾面にプラズマ放電処理、コロナ放電処理、紫外線照射処理、エキシマ照射処理、電子線照射処理及び放射線照射処理から選ばれる少なくとも何れかの乾式処理が含まれることを特徴とする請求項1に記載の基材の親水化処理方法。
【請求項6】
前記親水化工程において、前記親水性溶液を、前記基材が変色又は変形することのない温度で浸漬、塗布、スプレー、又はコーティングすることによって、前記基材表面に付すことを特徴とする請求項1に記載の基材の親水化処理方法。
【請求項7】
前記親水性溶液を、1~30℃の温度で前記基材に付すことを特徴とする請求項1に記載の基材の親水化処理方法。
【請求項8】
前記基材が、ゴム、樹脂、ガラス、金属及びセラミックスから選ばれる少なくとも何れかで形成されていることを特徴とする請求項1に記載の基材の親水化処理方法。
【請求項9】
前記ゴムが、シリコーンゴム、フッ素ゴム、エチレン-プロピレン二元共重合体ゴム、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体ゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、エチレン酢酸ビニルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、多硫化ゴム、ブチルゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、イソプレンゴム及び天然ゴムから選ばれる何れかであり、前記樹脂がシリコーン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタラート、ウレタン樹脂、ポリカーボネート、ナイロン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリ乳酸、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー、動的架橋型熱可塑性エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマー、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニルサルフォン、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー及びポリオキシメチレンから選ばれる少なくとも何れかであり、前記ガラスが石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、及びソーダ石灰ガラスから選ばれる少なくとも何れかであり、前記金属がステンレス、鉄、アルミニウム、チタン、銀、銅、金、コバルト、クロム、モリブデン、ニッケル、タングステン及びプラチナ並びにそれら何れかの合金から選ばれる少なくとも何れかであり、前記セラミックスがアルミナ、ジルコニア、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、スタアタイト及びハイドロキシアパタイトから選ばれる少なくとも何れかであることを特徴とする請求項7に記載の基材の親水化処理方法。
【請求項10】
前記分子接着剤は、水、メタノール、エタノール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、エチレングリコール、又はこれらの混合溶媒の何れかに溶解されていることを特徴とする請求項1に記載の基材の親水化処理方法。
【請求項11】
前記スルホベタイン高分子が、下記化学式(1)
【化1】
(式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基であり、n1~n2は2~6の数である)、及び/又は、下記化学式(2)
【化2】
(式(2)中、R
2は水素原子又はメチル基であり、n3、n5、n6及びn8は2~6の数であり、n4
a及びn7
aはいずれも0、又はn4
a及びn7
aが1でn4
b及びn7
bは1~3の数である)で表されるスルホベタイン基を有する繰返単位のみで構成される重合体、若しくは前記化学式(1)及び/又は(2)で表されるスルホベタイン基を有する繰返単位と、下記化学式(3)
【化3】
(式(3)中、R
3は水素原子又はメチル基であり、n9は2~6の数であり、n10は0~1の数であり、R
4はアジド基、スルホ基、アルコキシシリル基、及び水酸基から選ばれる何れかの活性官能基である)で表される活性官能化基を有する繰返単位、又は下記化学式(4)
【化4】
(式(4)中、R
5は水素原子又はメチル基であり、R
6はカルボキシル基、エチレングリコール基又はエチレングリコールオリゴマー、アクリル基及びメタクリル基から選ばれる何れかの官能基である)で表される繰返単位とのランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、若しくはグラフト共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の基材の親水化処理方法。
【請求項12】
前記スルホベタイン高分子の平均分子量が、少なくとも30000であることを特徴とする請求項1に記載の基材の親水化処理方法。
【請求項13】
親水化すべき基材の表面が、側鎖及び/又は末端に官能基としてのビニル基を有するシランカップリング剤と、側鎖及び/又は末端に官能基としてのビニル基を有するシランカップリング剤との改質処理面に、スルホベタイン高分子が吸着、反応、又は結合された親水化処理表面であって、前記親水化処理表面が、前記基材の表面よりも水の接触角が少なくとも10°低減して親水性が向上されていることを特徴とする親水性改質基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は双性イオン型親水化剤を用いた基材の親水化処理方法及び親水性改質基材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
基材表面に防汚性、防曇性、生体適合性、抗血栓性、たんぱく質非吸着性などを付与するためには、親水化処理することが重要である。親水化処理された基材表面に油脂や皮脂のような非親水性の汚れが付着しても、水洗すれば基材表面と汚れとの間に水が入り込んで汚れが洗い流され、基材表面の防汚性が確保される。また、親水化処理された基材表面に水滴や蒸気が付着した場合、親水性によって低い接触角を示すようになるため、水滴や蒸気は液滴とならず膜状になって、基材表面の防曇性が確保される。さらに、親水化処理された基材表面にタンパク質や生体成分が付着しても、親水性によってこれらタンパク質等の堆積乃至凝固が抑制されるので、吸着されない。生体内で使用されるカテーテルなどの医療機器においては、生体適合性と抗血栓性とが確保されることにより、タンパク質の付着による機器の閉塞を防止する。
【0003】
このような基材表面の親水化処理手段には、乾式処理と湿式処理とがある。乾式処理は、基材表面にプラズマ放電、コロナ放電、紫外線照射、エキシマ照射、電子線照射、放射線照射などの処理を行うことによって、水酸基などの親水性の極性官能基が生成され、簡便且つ短時間で親水化させるというものである。しかし、この極性官能基は活性が高く、化学反応によって速やかに変質、劣化するために長時間親水性を保持し難い。
湿式処理は、親水化剤として親水性基を持つ化合物を、基材表面に吸着、反応又は結合させて親水性を付与するというものである。乾式処理と異なり、適切な親水化剤を選択することによって長時間親水性を保持することが容易である。
【0004】
このような親水化剤には、主に非イオン性親水化剤とイオン性親水化剤がある。非イオン性親水化剤としては、エーテル結合やエステル結合などを持つ化合物、特にポリエチレングリコール鎖を含む化合物が汎用されている。このような非イオン性親水化剤は生体適合性が高いという利点があるが、イオン性親水化剤と比べ静電相互作用が弱く、低い親水性しか発現させない。一方、イオン性親水化剤としては、アミノ基などのカチオン性官能基やスルホ基などのアニオン性官能基を持つ化合物、特にカチオン性とアニオン性の双方を有する双性イオン性官能基を持つ化合物が使用されている。
【0005】
このような双性イオン型親水化剤は、高い生体適合性と高い親水化を併せて持ち、医療機器のコーティングに使用されており、ホスホリルコリン型親水化剤、カルボキシレート型親水化剤、スルホベタイン型親水化剤などがある。双性イオン型親水化剤の中でもスルホベタイン型親水化剤は、スルホベタイン構造を分子内に含む化合物であり、化学的安定性が高く、合成が簡易であるという利点がある。下記非特許文献1に、双性イオン型親水化剤は高分子化することによって安定性を高めることができることが開示されており、下記非特許文献2、特許文献1及び特許文献2に、スルホベタイン型親水化剤は高分子化することによって安定性を高めることが可能であり、高分子化されたホスホリルコリン型親水化剤よりも優れた耐久性を示すことが開示されている。
【0006】
また、非特許文献3に、スルホベタイン高分子は温度応答性を有することが開示されており、高温で溶解する上限臨界溶液温度(Upper Critical Solution Temperature, UCST)を有している。このことから、スルホベタイン高分子は室温の水に不溶であり、スルホベタイン高分子を水に溶解するには、非特許文献3に記載されているようにUCST以上の加熱が必要である。
【0007】
しかし、基材表面に均質な親水化処理を施すべく、スルホベタイン高分子が溶解するUCST以上に加熱した加熱水溶液を使用した場合、耐熱性の低い材質の基材表面へ適用すると基材劣化を誘発するおそれがあり、親水性改質基材の量産性向上を図るべく、噴霧によるスプレーコートや回転によるスピンコートなどの塗工手法を採用したとき、塗工中に噴霧や回転時の放熱により加熱溶液の温度低下によって析出したスルホベタイン高分子粒子の凝集等が生じて、均質な塗工が行えないというおそれがある。
【0008】
一方、特許文献1,2には、コロナ放電処理等の乾式処理とシランカップリング剤処理等の湿式処理とを施した基材表面にスルホベタイン高分子を付することが提案され、乾式処理を施した基材表面にスルホベタイン高分子水溶液を室温で塗布することが記載されている。
【0009】
しかしながら、本発明者等の検討によれば、シランカップリング剤処理を施した基材表面にスルホベタイン高分子水溶液を室温で付す親水化方法によれば、耐熱性の低い材質の基材の熱劣化を防止できるものの、基材の材質に対するシランカップリング剤の選択が重要であり、基材の材質に対して誤ったシランカップリング剤を用いると、基材に十分な親水性を付与できないことが判明した。また、基材に付与する親水性の更なる向上も望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2021-161208号公報
【特許文献2】特開2021-158968号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】K. Ishihara, et al., “Preparation of phospholipid polymers and their properties as polymer hydrogel membranes”, Polym. J., 1990, 22(5), 355-360.
【非特許文献2】M. Tanaka, et al., “Synthesis and structures of zwitterionic polymers to induce electrostatic interaction with PDMS surface treated by air-plasma”, Arkivoc., 2018, 330-343.
【非特許文献3】N. Morimoto, et al., “The design of sulfobetaine polymers with thermoresponsiveness under physiological salt conditions”, Macromol. Chem. Phys., 2020, 221, 1900429.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、多種の基材に対して十分な親水性を付与できる基材の親水化処理方法と、基材表面の水との接触角を十分に低く安定に長期間維持することができる親水性改質基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の目的を達成するためになされた基材の親水化処理方法は、水にスルホベタイン高分子粒子の少なくとも一部を溶解した親水性水溶液とする調製工程と、基材表面に、側鎖及び/又は末端に官能基としてのビニル基を有するシランカップリング剤と、側鎖及び/又は末端に官能基としてのアミノ基を有するシランカップリング剤とが混合されている分子接着剤を塗布し、前記基材表面に前記分子接着剤を吸着、反応又は結合した修飾面に、前記スルホベタイン高分子と反応又は結合する官能基を生成する表面処理工程と、前記修飾面に前記親水性溶液を付し、前記親水性溶液中のスルホベタイン高分子と前記修飾面の官能基と反応又は結合させて親水性層を形成する親水化工程とを、有することを特徴とするものである。
【0014】
前記親水性溶液として、前記水に不溶のスルホベタイン高分子粒子を除いた液を用いることにより、親水化処理を施した基材表面を平滑面とすることができ好ましい。
【0015】
前記基材表面に、プラズマ放電処理、コロナ放電処理、紫外線照射処理、エキシマ照射処理、電子線照射処理及び放射線照射処理から選ばれる少なくとも何れかの乾式表面改質処理を施し、前記基材表面に前記分子接着剤の官能基と反応又は結合する官能基又は遊離基を生じさせた後に、前記分子接着剤を塗布することにより、基材表面と分子接着剤とを強固に結合させることができる。
【0016】
前記シランカップリング剤の各々が、前記ビニル基又は前記アミノ基を有し、且つ同一分子内にシラノール基、メトキシ基、エトキシ基、アジド基、イソシアネート基、エポキシ基からなる官能基のうち少なくとも1種を有するものとすることが好ましい。
【0017】
記表面処理工程に、前記修飾面にプラズマ放電処理、コロナ放電処理、紫外線照射処理、エキシマ照射処理、電子線照射処理及び放射線照射処理から選ばれる少なくとも何れかの乾式処理が含まれることにより、前記修飾面に、前記スルホベタイン高分子と反応又は結合する官能基を十分に生成でき好ましい。
【0018】
前記親水化工程において、前記親水性溶液を、前記基材が変色又は変形することのない温度で浸漬、塗布、スプレー、又はコーティングすることによって、前記基材表面に付すことにより、親水化工程での基材の熱劣化を防止できる。
【0019】
前記親水性溶液を、1~30℃温度で前記基材に付すことにより、低耐熱性の基材にも親水性を付与できる。
【0020】
前記基材が、ゴム、樹脂、ガラス、金属及びセラミックスから選ばれる少なくとも何れかで形成されていることが好ましい。
【0021】
前記ゴムが、シリコーンゴム、フッ素ゴム、エチレン-プロピレン二元共重合体ゴム、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体ゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、エチレン酢酸ビニルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、多硫化ゴム、ブチルゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、イソプレンゴム及び天然ゴムから選ばれる何れかであり、前記樹脂がシリコーン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタラート、ウレタン樹脂、ポリカーボネート、ナイロン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリ乳酸、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー、動的架橋型熱可塑性エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマー、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニルサルフォン、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー及びポリオキシメチレンから選ばれる少なくとも何れかであり、前記ガラスが石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、及びソーダ石灰ガラスから選ばれる少なくとも何れかであり、前記金属がステンレス、鉄、アルミニウム、チタン、銀、銅、金、コバルト、クロム、モリブデン、ニッケル、タングステン及びプラチナ並びにそれら何れかの合金から選ばれる少なくとも何れかであり、前記セラミックスがアルミナ、ジルコニア、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、スタアタイト及びハイドロキシアパタイトから選ばれる少なくとも何れかであることが好ましい。
【0022】
前記分子接着剤は、水、メタノール、エタノール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、エチレングリコール、又はこれらの混交溶媒の何れかに溶解されていることが好ましい。
【0023】
前記スルホベタイン高分子が、下記化学式(1)
【化1】
(式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基であり、n1~n2は2~6の数である)、及び/又は、下記化学式(2)
【化2】
(式(2)中、R
2は水素原子又はメチル基であり、n3、n5、n6及びn8は2~6の数であり、n4
a及びn7
aはいずれも0、又はn4
a及びn7
aが1でn4
b及びn7
bは1~3の数である)で表されるスルホベタイン基を有する繰返単位のみで構成される重合体、若しくは前記化学式(1)及び/又は(2)で表されるスルホベタイン基を有する繰返単位と、下記化学式(3)
【化3】
(式(3)中、R
3は水素原子又はメチル基であり、n9は2~6の数であり、n10は0~1の数であり、R
4はアジド基、スルホ基、アルコキシシリル基、及び水酸基から選ばれる何れかの活性官能基である)で表される活性官能化基を有する繰返単位、又は下記化学式(4)
【化4】
(式(4)中、R
5は水素原子又はメチル基であり、R
6はカルボキシル基、エチレングリコール基又はエチレングリコールオリゴマー、アクリル基及びメタクリル基から選ばれる何れかの官能基である)で表される繰返単位とのランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、若しくはグラフト共重合体であることが好ましい。
【0024】
前記スルホベタイン高分子の平均分子量が、少なくとも30000であることが、基材に十分な親水性を付与できる。
【0025】
前記の目的を達成するためになされた親水性改質基材は、親水化すべき基材の表面が、側鎖及び/又は末端に官能基としてのビニル基を有するシランカップリング剤と、側鎖及び/又は末端に官能基としてのビニル基を有するシランカップリング剤との改質処理面に、スルホベタイン高分子が吸着、反応、又は結合された親水化処理表面であって、前記親水化処理表面が、前記基材の表面よりも水の接触角が少なくとも10°低減して親水性が向上されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明の親水化処理方法は、処理対象基材に対し予め側鎖及び/又は末端に官能基としてのビニル基を有するシランカップリング剤と、側鎖及び/又は末端に官能基としてのビニル基を有するシランカップリング剤とが混合されて成る分子接着剤を用いた表面処理を行うことにより、その後のスルホベタイン高分子を用いた親水化処理での効果を改善できる。つまり、官能基としてのアミノ基を有するシランカップリング剤と官能基としてのビニル基を有するシランカップリング剤とが混合された分子接着剤により基材を表面修飾することにより、基材の修飾面に確実にアミノ基とビニル基とを生じさせることができる。アミノ基は親水性水溶液中のスルホベタイン高分子を構成するスルホン酸基と吸着、反応又は結合する。また、ビニル基は、例えばエキシマ照射処理等の乾式処理により、酸化されて水酸基、カルボニル基、カルボン酸基を生成することができ、基材表面由来の水酸基、カルボニル基、カルボン酸基と相俟ってスルホベタイン高分子を構成する4級アンモニウム基と吸着、反応又は結合する。このようにして、スルホベタイン高分子は、基材の修飾面に強固な親水性層を形成できる。
【0027】
また、スルホベタイン高分子含有の親水性溶液を、非加熱下の温和な条件で効率的に基材表面を平滑状態に保持して簡単に親水化することができ、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン等の比較的耐熱性の低い材質でも劣化させることなく、基材表面の親水化処理が可能となる。更に、室温でスルホベタイン高分子含有の親水性溶液を基材に塗布できるから、浸漬のみならずスプレーコートやスピンコートなどの方法を採用して基材に親水性を付与できる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0029】
本発明の親水化処理方法は、基材表面に、側鎖及び/又は末端に官能基としてのビニル基を有するシランカップリング剤と、側鎖及び/又は末端に官能基としてのアミノ基を有するシランカップリング剤とが混合されている分子接着剤を塗布し、基材表面に分子接着剤を吸着、反応又は結合した修飾面に、スルホベタイン高分子と反応又は結合する官能基を生成する表面処理を施した後、この修飾面にスルホベタイン高分子が溶解されている親水性溶液を付し、親水性溶液中のスルホベタイン高分子と修飾表面の官能基と反応又は結合させて親水性層を形成するものである。
【0030】
本発明で用いる基材としては、ゴム、樹脂、ガラス、金属及びセラミックスから選ばれる少なくとも何れかで形成されているものを用いることができる。具体的には、ゴムとしては、シリコーンゴム、フッ素ゴム、エチレン-プロピレン二元共重合体ゴム、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体ゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、エチレン酢酸ビニルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、多硫化ゴム、ブチルゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、イソプレンゴム及び天然ゴムを挙げることができる。樹脂としては、シリコーン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタラート、ウレタン樹脂、ポリカーボネート、ナイロン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリ乳酸、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー、動的架橋型熱可塑性エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマー、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニルサルフォン、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、ポリオキシメチレンを挙げることができる。ガラスとしては、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラスを挙げることができる。金属としては、ステンレス、鉄、アルミニウム、チタン、銀、銅、金、コバルト、クロム、モリブデン、ニッケル、タングステン及びプラチナ並びにそれら何れかの合金を挙げることができる。セラミックスとしては、アルミナ、ジルコニア、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、スタアタイト、ハイドロキシアパタイトを挙げることができる。
【0031】
本発明の基材の親水化処理方法によれば、ウレタンゴム、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ウレタン樹脂、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー、動的架橋型熱可塑性エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマー、(メタ)アクリル樹脂のようなシリコーンゴムよりも耐熱性の低い樹脂から成る低耐熱性基材にも十分な親水性を付与できる。
【0032】
このような基材には、予めプラズマ放電処理、コロナ放電処理、紫外線照射処理、エキシマ照射処理、電子線照射処理及び放射線照射処理から選ばれる少なくとも何れかの乾式表面改質処理を施すことが好ましい。このような乾式表面改質処理によれば、処理過程で発生した高エネルギーによって基材表面の一部の原子乃至分子の結合が切断され、又は発生したオゾンと基材表面とが酸化反応することによって、元来有するものの他、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基のような官能基や遊離基が生成し、後述する分子接着剤としてのシランカップリング剤を基材表面に強固に固定できる。
【0033】
基材に塗布する分子接着剤は、側鎖及び/又は末端に官能基としてのビニル基を有するシランカップリング剤と、側鎖及び/又は末端に官能基としてのアミノ基を有するシランカップリング剤である。このような分子接着剤によれば、基材表面の分子接着剤による修飾面にビニル基及びアミノ基の官能基を生じさせることができる。
【0034】
側鎖又は末端に官能基としてのビニル基を有するシランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン(KBM-1003)、7-オクテニルトリメトキシシラン(KBE-1083) 、ビニルトリエトキシシラン(KBE-1003)(以上、何れも信越シリコーン株式会社製;商品名)、ビニルメチルジメトキシシラン(SIV9086.0)、 2-(ジビニルメチルシリル)エチルトリエトキシシラン(SID4610.3)、3-(N-スチリルメチル-2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン(SIS6993.0)、p-スチリルトリメトキシシラン(SIS6994.6)、 ビニルメチルジメトキシシラン(SIV9086.1)、 アリルトリエトキシシラン(SIA0525.0)、 アリルトリメトキシシラン(SIA0540.0)、 アリルメチルジメトキシシラン(SIA0485.0)(以上、何れもGelest社製;商品名)を挙げることができる。
【0035】
側鎖及び末端に官能基としての複数のビニル基を有するシランカップリング剤としては、複数ビニル基含有アルコキシシロキサン(VMM-010;商品名)、ビニルトリエトキシシランオリゴマー(SIV9112.2), ビニルトリメトキシシランオリゴマー(SIV9220.2), ビニルトリエトキシシラン-プロピルトリエトキシシランオリゴマー共重合体(SIV9112.3),両末端シラノール (ビニルメチルシロキサン)-(ジメチルシロキサン)共重合体(VDS-1013) (以上、何れもGelest社製;商品名)を挙げることができる。
【0036】
側鎖及び/又は末端に官能基としてのアミノ基を有するシランカップリング剤としては、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(ダウ・東レ株式会社製OFS-6020;商品名)、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン(SIA0588.0)、 1-[3-(2-アミノエチル)-3-アミノイソブチル]-1,1,3,3,3-ペンタエトキシ-1,3-ジシラプロパン(SIA0587.6)、 4-アミノ-3,3-ジメチルブチルトリメトキシシラン(SIA0587.07)、 N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン(SIA0588.8)、 N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルシラントリオール(SIA0590.0), N-(6-アミノヘキシル)アミノプロピルトリメトキシシラン(SIA0594.0)、 N-(2-アミノエチル-11-アミノウンデシルトリメトキシシラン(SIA0595.0)、 N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン(SIA0589.0)、 N-(2-アミノエチル)-3-アミノイソブチルメチルジメトキシシラン(SIA0587.5)、 N-(6-アミノヘキシル)アミノメチルトリエトキシシラン(SIA0592.6)、 N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン(SIA0590.5)、 (3-トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン(SIT8398.0)、 N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランオリゴマー共重合体(SIA0591.3)、 3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン(SIA0605.0)、 4-アミノ-3,3-ジメチルブチルメチルジメトキシシラン(SIA0587.05)、 3-アミノプロピルトリエトキシシラン(SIA0610.0)、 アミノフェニルトリメトキシシラン(SIA0599.2)、 3-アミノプロピルトリメトキシシラン(SIA0611.0)、 11-アミノウンデシルトリエトキシシラン(SIA0630.0)、 4-アミノブチルトリエトキシシラン(SIA0587.0)、 3-(m-アミノフェノキシ)プロピルトリメトキシシラン(SIA0598.0)、 p-アミノフェニルトリメトキシシラン(SIA0599.1)、 m-アミノフェニルトリメトキシシラン(SIA0599.0) (以上、何れもGelest社製;商品名)、KBM-6803、 X-12-972F、 KBM-602、 KBM-603(以上、 いずれも信越化学工業株式会社製;商品名)を挙げることができる。
尚、本発明で用いるシランカップリング剤としては、一分子中にビニル基及びアミノ基を有すものであってもよい。
【0037】
このようなシランカップリング剤としては、ビニル基の官能基又はアミノ基の官能基を有し、且つ同一分子内にシラノール基、メトキシ基、エトキシ基、アジド基、イソシアネート基及びエポキシ基からなる官能基のうち少なくとも1種を有するものが好ましい。同一分子中にビニル基又はアミノ基の官能基に加えてシラノール基、メトキシ基、エトキシ基、アジド基、イソシアネート基或いはエポキシ基を有することにより、シランカップリング剤の基材への吸着及び化学結合の形成が期待され、シランカップリング剤層の耐水性や耐アルコール性の向上が期待できる。このようなシランカップリング剤としては、例えば複数ビニル基含有アルコキシシロキサンや3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
【0038】
側鎖及び/又は末端に官能基としてのビニル基を有するシランカップリング剤と、側鎖及び/又は末端に官能基としてのアミノ基を有するシランカップリング剤とが混合された分子接着剤を基材に塗布し、基材表面に分子接着剤が吸着、反応又は結合した修飾面に、プラズマ放電処理、コロナ放電処理、紫外線照射処理、エキシマ照射処理、電子線照射処理及び放射線照射処理から選ばれる少なくとも何れかの乾式処理を施すことにより、多種類の基材に満足し得る親水性を付与できる。基材の修飾面に、スルホベタイン高分子のスルホン酸基と4級アンモニウム基とのうち、スルホン酸基と吸着、反応又は結合するアミノ基及び4級アンモニウム基と吸着、反応又は結合する、基材表面由来の水酸基、カルボニル基、カルボン酸基に加えて、乾式処理により修飾面のビニル基が酸化されて水酸基、カルボニル基、カルボン酸基を生じさせることができるからと推察される。このビニル基含有シランカップリング剤とアミノ基含有シランカップリング剤との混合比率は、塗布する基材の材質によって異なるが、ビニル基含有シランカップリング剤:アミノ基含有シランカップリング剤が重量比で0.1:1.0~1.0:0.1とすることが好ましい。尚、この乾式処理は、プラズマ放電処理、コロナ放電処理、紫外線照射処理及びエキシマ照射処理から選ばれる少なくとも何れかであることが好ましい。
【0039】
上述したシランカップリング剤から成る分子接着剤は、溶媒に溶解された状態で基材表面に塗布される。溶媒としては、後述する加熱処理において溶媒が残存するリスクを低減すべく、加熱処理で除去できる沸点の溶媒が好ましく、具体的には水、メタノール、エタノール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、エチレングリコール、又はこれらの混合溶媒等の溶媒を挙げることができ、特に水、エタノール、メタノール、アセトン若しくはこれらの混合溶媒等の極性溶媒が好ましく使用される。分子接着剤の溶媒に対する添加量は0.01~10質量%とすること好ましい。このように分子接着剤が溶解された溶液に基材を浸漬することにより、シランカップリング剤が基材表面に塗布する。次いで、シランカップリング剤が表面に塗布した基材を、30~80℃の温度で加熱処理し、溶媒を除去すると共に、シランカップリング剤と基材表面の官能基との化学結合の発生を促進する。更に、加熱処理を施した基材を、シランカップリング剤の溶解に用いた溶媒で洗浄することにより、基材表面に付着した余分なシランカップリング剤を除去できる。余分なシランカップリング剤が残存していると、基材と後述するスルホベタイン型高分子との層間に易溶の分子層が生じ、耐水性、耐溶媒性を著しく損なうおそれがあるからである。
【0040】
このように分子接着剤としてのシランカップリング剤が基材表面の官能基と化学結合された基材の修飾面には、アミノ基及び水酸基、カルボニル基、カルボン酸基が形成されている。このような基材の修飾面に付すスルホベタイン高分子は、化学式(1)及び/又は(2)で表される側鎖にスルホベタイン構造を有する繰返単位のみからなる重合体が挙げられ、具体的には、下記化学式(5)及び(6)
【化5】
(式(5)及び(6)中、m1及びm2はスルホベタイン高分子を形成するための任意の正数、m3
a及びm4
aはいずれも0、又はm3
a及びm4
aが1でm3
b及びm4
bは1~3)で表される単独重合体が挙げられる。
【0041】
スルホベタイン高分子中、繰返単位を繰り返している繰返主鎖は、例えばポリ(メタ)アクリル骨格である。(メタ)アクリルは、アクリルとメタクリルとを包含する。より具体的にはポリ(メタ)アクリル骨格が、ポリ(メタ)アクリルアミド共重合骨格、及び/又は例えばポリ(メタ)アクリル酸エステルのようなポリ(メタ)アクリレート重合骨格である。中でも、ポリ(メタ)アクリルアミド共重合骨格を有するものであることが好ましい。
【0042】
スルホベタイン高分子の側鎖中、スルホベタイン構造と前記繰返主鎖とは、アルキレン鎖(-(CH2)n1、n3又はn5-;n1、n3又はn5は2~6の数)、ポリエチレングリコール鎖(-O-(CH2-CH2-O)n4b-;n4bは1~3の数)、エステル結合、アミド結合又はエーテル結合若しくはこれらの組み合わせで結合していることであってもよい。
【0043】
スルホベタイン構造中、4級アンモニウム基とスルホン酸基とは、アルキレン鎖(-(CH2)n2、n6又はn8-;n2、n6又はn8は2~6の数)若しくはポリエチレングリコール鎖(-O-(CH2-CH2-O)n7b-;n7bは1~3の数)、またはこれらの組み合わせで結合していることであってもよい。
【0044】
スルホベタイン構造は、4級アンモニウム基が側鎖中程に、スルホン酸基が側鎖末端に位置しているものが好ましいが、スルホン酸基が側鎖中程に、4級アンモニウム基が側鎖末端に位置しているものでもよい。
【0045】
化学式(1)及び/又は化学式(2)で表される、側鎖にスルホベタイン構造を有する繰返単位のみからなる重合体の分子量並びに分子量分布は、特に限定されないが、数平均分子量又は重量平均分子量は30000~600000であることが好ましく、50000~150000であることがより好ましく、50000~100000であることが更に好ましい。
【0046】
化学式(1)で表される側鎖にスルホベタイン構造を有する繰返単位のみからなる単独重合体は、以下のようにして合成される。具体的には、上述した化学式(5)で表される単独重合体を例に説明する。
【0047】
ジメチルアミノプロピルメタクリルアミドにプロパンサルトンを反応させ、化学式(1)で表されるような繰返単位を形成するためのスルホベタイン構造含有モノマーであるメタクリルアミドプロピルスルホベタインを合成する。
【0048】
このスルホベタイン構造含有モノマーを重合させることによって、上述した化学式(5)で表される単独重合体が得られる。
【0049】
このようにして得られたスルホベタイン高分子は粒子状である。このスルホベタイン高分子粒子の少なくとも一部が溶解した親水性水溶液は、スルホベタイン高分子粒子を水に添加し撹拌し、その少なくとも一部を溶解することにより得ることができる。得られた親水性水溶液は、不溶のスルホベタイン高分子粒子が懸濁している状態であるが、静置して不溶のスルホベタイン高分子粒子を沈殿させてから、透明な上澄み液を取り出すことにより透明な親水性水溶液を得ることができる。このような透明な親水性水溶液は、1~30℃のような室温程度の比較的低温でもスルホベタイン高分子が析出することがない。
【0050】
親水性水溶液の水は、特に限定されないが、超純水、イオン交換水、蒸留水又はRO水のような水であることが好ましい。
【0051】
スルホベタイン高分子が溶解された親水性水溶液を、シランカップリング剤から成る分子接着剤が塗布された修飾された基材の修飾面に付す温度は、室温程度、例えば1~30℃であることが好ましく、より好ましくは10~25℃であり、更に好ましくは20~25℃である。この水溶液の温度が1℃未満であるとスルホベタイン高分子の溶解が不十分となる傾向があり、30℃を超えると耐熱性の低い材質の基材が変形、変色等が惹起され易くなる傾向にある。
【0052】
このような親水性水溶液をシランカップリング剤から成る分子接着剤が塗布されて修飾された基材の修飾面に付す手段としては、親水性水溶液は室温程度でもスルホベタイン高分子が析出しないため、例えばスプレーコートやスピンコートといった室温で行われる塗工工程を採用しても、基材表面に凹凸を生じることなく均質に親水化させることができる。塗工方式として浸漬及び引上げの他に、塗布、スプレー、スクリーン印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷及びグラビア印刷が挙げられるが、特に限定されない。
【0053】
基材表面を分子接着剤で修飾された修飾面には、シランカップリング剤由来のアミノ基とビニル基とが併存している。このうち、アミノ基は、塗布された親水性水溶液中のスルホベタイン高分子のスルホベタイン構造に含まれるスルホン酸基とが物理吸着若しくは化学吸着好ましくは化学吸着のような吸着、化学反応のような反応又はイオン結合若しくは共有結合のような結合をし、且つビニル基は、エキシマ照射処理等の乾式処理により水酸基、カルボニル基、カルボン酸基が生成され、基材表面由来の水酸基、カルボニル基、カルボン酸基と相俟って、塗布された水溶液中のスルホベタイン高分子のスルホベタイン構造に含まれる4級アンモニウム基と物理吸着若しくは化学吸着好ましくは化学吸着のような吸着、化学反応のような反応又はイオン結合若しくは共有結合のような結合をすることによって、シランカップリング剤付与前の基材と比べて水の接触角が10°以上低下し、基材表面に高い親水性が付与され、且つ長期間維持できる。
しかも、この親水性の程度は、基材表面をアミノ基含有のシランカップリング剤のみで修飾した場合、或いは基材表面をビニル基含有のシランカップリング剤のみで修飾し、且つエキシマ放射処理等の乾式処理を施した場合に比較しても、優れており、且つ多種類の基材に良好な親水性を付与できる。
【0054】
この親水性水溶液として、透明な親水性水溶液を用いることにより、基材の分子接着剤で修飾された修飾面に親水性水溶液を塗布する際に、親水性水溶液が室温程度に低くても、スルホベタイン高分子が析出せず、凹凸のない平滑な親水化表面が形成される。
【0055】
従って、例えばポリ塩化ビニル、ポリエチレンのようなシリコーンゴムよりも低耐熱性樹脂を材質とする基材を親水化処理する場合、従来の加熱を施してスルホベタイン高分子粒子を溶解する方法では、基材の変形、変色などの劣化による品質低下が生じていたところ、本発明で用いる親水性水溶液を用いることにより、室温程度の低温で基材表面を親水化することができるため、基材の劣化による品質低下を生じない。
【0056】
親水性水溶液に溶解しているスルホベタイン高分子のスルホン酸基及び4級アンモニウム基のうち、スルホン酸基は基材の修飾面のアミノ基と吸着、反応又は結合し、4級アンモニウム基は基材表面由来の水酸基、カルボニル基、カルボン酸基及び/又は修飾面のビニル基に施されたエキシマ照射処理等の乾式処理により生成した水酸基、カルボニル基、カルボン酸基と吸着、反応又は結合しており、スルホベタイン高分子と水との間の相互作用よりも強固である。このように基材の分子接着剤で修飾された修飾面にスルホベタイン高分子が溶解された親水性水溶液を付して親水化した後に、例えば生理食塩水、緩衝液、リンゲル液緩衝液、リンゲル液等の洗浄液で洗浄した場合、基材の修飾面の官能基と吸着、反応、又は結合したスルホベタイン高分子から成る親水層はほとんど洗い流されず、基材の親水性は安定に維持されている。尚、この洗浄液での洗浄を省略することができる。
【0057】
また、洗浄液を超純水、イオン交換水、蒸留水又はRO水等の水にして水洗することにより、同様に反応又は結合せずに残留したスルホベタイン高分子を除去することができる。この水洗を上述した生理食塩水等を用いた洗浄の後に施してもよい。尚、この水洗を省略することもできる。
【0058】
このように親水化処理を施した基材を洗浄することにより、基材表面のシランカップリング剤による修飾面のアミノ基及び水酸基、カルボニル基、カルボン酸基と吸着、反応又は結合していないスルホベタイン高分子を十分に除去できるから、親水化した基材の使用中にスルホベタイン高分子等が溶出することを防止でき、親水化処理した基材をスルホベタイン高分子等の溶出を嫌う分野、例えば医療器具の分野に用いることができる。特に、血管カテーテルといった生体内で使用される医療器具に応用した場合、水溶性電解質を多く含む血液乃至体液に触れても基材表面に固定されたシランカップリング剤と吸着、反応、又は結合したスルホベタイン高分子は洗い流されないため、親水性は長期間維持される。
【0059】
このように親水化された親水性改質基材は、その表面がシランカップリング剤から成る分子接着剤の塗布前よりも水の接触角が少なくとも10°低減して親水性が向上され、且つその親水性が長時間維持できるものであって、防汚性、生体適合性、抗血栓性、たんぱく質非吸着性が付与されるから、血管カテーテルなどの医療器具や、細胞培養容器、マイクロ流路チップ、マイクロリアクターなどに用いられる。また、基材表面が親水化されることによって防曇性が付与されるので、例えば、自動車用の窓ガラス、眼鏡のレンズ、各種光学部材などに用いることができる。
【0060】
以上の説明では遊離のスルホベタイン高分子として、化学式(1)及び/又は(2)で表される側鎖にスルホベタイン構造を有する繰返単位のみからなる重合体について説明してきたが、化学式(1)及び/又は(2)で表される側鎖にスルホベタイン構造を有する繰返単位と、化学式(3)で表されるような側鎖にアジド基、スルホ基、アルコキシシリル基又は水酸基から選ばれる何れか活性官能基を有する繰返単位及び/又は化学式(4)で表されるような側鎖にカルボキシル基のような極性官能基又はカルボキシメチル基、エチレングリコール基又はエチレングリコールオリゴマー、アクリル基及びメタクリル基から選ばれる何れか官能基を有する繰返単位とを有するランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体及びグラフト共重合体の少なくとも何れかであってもよい。具体的な共重合体として、下記化学式(7)及び(8)
【化6】
(式(7)及び(8)中、R
7、R
8、R
10及びR
11は水素原子又はメチル基であり、R
9はアジド基、スルホ基、アルコキシシリル基、及び水酸基から選ばれる何れかの活性官能基であり、R
12はカルボキシル基、カルボキシメチル基、エチレングリコール基又はエチレングリコールオリゴマー、アクリル基及びメタクリル基から選ばれる何れかの官能基であり、m5、m8、m11及びm14はスルホベタイン高分子を形成するための正数、m6、m7、m9、m12及びm13は2~6の数、m10は0~1の数)で表されるものが挙げられる。
【0061】
化学式(7)で表される共重合体について、活性官能基のうち、アジド基は光又は熱により分解しナイトレン基を生成し、基材の表面官能基と反応又は環拡大することで共有結合を形成できる。アルコキシシリル基は基材上の官能基、例えば水酸基と縮合反応することによりシリルエーテル結合である共有結合を生成できる。
【0062】
また、化学式(7)で表される共重合体中の活性官能基を側鎖に有する繰返単位に代えて、側鎖は、フェニル、ナフチルのような炭化水素芳香環基、ピペラジニル、ピレリジニル、ピロゾキジニル、モルフォリニルのような非芳香族複素環基、ピリジル、ピラゾリル、イミダゾリル、トリアゾリル、ピラジニル、トリアゾニルのような芳香族複素環基、メチル、エチル、ビニル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、シクロブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、シクロペンチル、n-へキシル、シクロヘキシルのような、若しくはベンジル又はフェネチルのような直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状で飽和及び/又は不飽和の炭化水素基、アミド基(-CO-N(R13)-;R13は炭素数1~6のアルキル基又はフェニル基)、エステル基(-CO-O-)から選ばれる何れかの単一スペーサー基、またはそれらの少なくとも何れかを組み合わせた複合スペーサー基が、前記活性官能基を有しているものであってもよい。
【0063】
化学式(1)及び/又は(2)で表される繰返単位と、化学式(3)又は(4)で表される繰返単位とを有する共重合体の分子量並びに分子量分布は、特に限定されないが、数平均分子量又は重量平均分子量は30000~600000であることが好ましく、より好ましくは50000~150000、更に好ましくは50000~100000である。
【0064】
前記化学式(7)及び(8)で表されるスルホベタイン高分子を例にすると、以下のようにして合成される。具体的には、下記化学式(9)及び(10)
【化7】
(式(9)~(10)中、m15~m18はスルホベタイン高分子を形成するための正数)で表される共重合体を例に説明する。
【0065】
4-アミノ安息香酸のアミノ基をジアゾ化後にアジド化し、さらに酸クロライドにしてから、ピぺリジンのアミノ基の一方を保護基で保護したモノ保護ピぺリジンと反応させてアミド化し、その後、保護基を外し、モノ-p-アジ化安息香酸ピペラジンアミドを得る。メタクリル酸クロライドと6-アミノカプロン酸とをアミド化し、さらに前記モノ-p-アジ化安息香酸ピペラジンアミドの遊離アミノ基とアミド化して、化学式(3)で表されるような繰返単位を形成するための活性官能基含有コモノマーを合成する。前記スルホベタイン構造含有モノマーと、前記活性官能基含有モノマーとを、共重合させると、化学式(9)で表される共重合体が得られる。
【0066】
また、化学式(10)で表される共重合体は、前記スルホベタイン構造含有モノマーと、メタクリル酸とを共重合させることによって得られる。
【0067】
以上説明したスルホベタイン構造を有する共重体も、化学式(1)及び/又は(2)で表される側鎖にスルホベタイン構造を有する繰返単位のみからなる重合体と同様に、水に溶解した親水性水溶液を、シランカップリング剤から成る分子接着剤で修飾された修飾面に付すことにより、基材に親水性を付与できる。
【実施例0068】
以下、本発明を適用するための合成例、調製例並びにそれらに引き続く実施例、及び本発明を適用外の比較例について詳細に説明する。
【0069】
(合成例:スルホベタイン高分子[化学式(5)]の合成)
(1)メタクリルアミドプロピルスルホベタインの合成
【化8】
三口フラスコ(300mL)にジメチルアミノプロピルメタクリルアミド1.70g(10mmol)と脱水アセトン120mLを入れ、室温で撹拌した。1,3-プロパンサルトン1.83g(15mmol)の脱水アセトン溶液20mLを滴下し、室温で48時間撹拌した。アセトンを留去し、得られた固体にアセトン20mLを加えて洗浄した。得られた固体をメタノールに溶かし、ヒドロキノンを加えて溶媒を留去し、固体を取り出して減圧乾燥したところ、収率98%で無色固体のメタクリルアミドプロピルスルホベタインが得られた。m/z:293(M+H
+)であり、その構造が支持された。
(2)スルホベタイン高分子[化学式(5)]への重合
【化9】
ナスフラスコ(25mL)にメタクリルアミドプロピルスルホベタイン1.46g(5mmol)、過硫酸アンモニウム11.4mg、水5mLを入れ、アルミホイルで蓋をして均一溶液にした。50℃のオイルバスにナスフラスコを48時間浸けて重合させた。反応後に水5mLを加えて撹拌し、溶液をメタノール200mLに注いだ。生成した沈殿物を濾過し、メタノールで洗浄し、減圧乾燥したところ、白色固体のスルホベタイン高分子[化学式(5)]が、収率92%で得られた。ゲル浸透クロマトグラフィー(Shodex OHpak SB-802.5 HQとSB-806M HQ;何れも昭和電工株式会社製)で測定したところポリスチレン換算で重量平均分子量が94000であり、その構造が支持された。
【0070】
(調製例1)
25℃のイオン交換水10mLに合成例で得られたスルホベタイン高分子粒子0.01gを添加することにより、0.1質量%のスルホベタイン高分子水溶液を調製した。次いで、調整したスルホベタイン高分子水溶液を静置し、不溶のスルホベタイン高分子粒子が沈殿して透明となった上澄み液を採取して親水性水溶液とした。
【0071】
(実施例1)
調製例1で調製した親水性水溶液を用いて、次のようにして各種基材に親水化処理を行った。基材としては、ステンレス板(SUS304板(株式会社ニラコ社製厚さ20μmの箔)を用いた。先ず、ネオエタノールPIP(大伸化学株式会社:以下、単にネオエタノールPIPという)を含んだコットンを用いて基材の表面を清拭した後、エキシマUV処理機(自社製、ランプは浜松ホトニクス(株)製)を用いて、ワークディスタンス1mm、走査速度1mm/秒、回数1回、積算光量約670mJ/cm2の条件で基材をエキシマ照射処理することにより、基材の乾式表面改質処理を行った。その基材を、側鎖又は末端に官能基としてのビニル基を有するシランカップリング剤である複数ビニル基含有アルコキシシロキサン(Gelest社製VMM-010)と、側鎖及び末端に官能基としてのアミノ基を有するシランカップリング剤である3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(ダウ・東レ株式会社製OFS-6020)とを、OFS-6020:VMM-010を1.0:1.0(重量比)で混合した混合物から成る分子接着剤をネオエタノールPIPに対して0.1質量%となるように溶解した分子接着剤溶液に浸漬し、20~25℃の室温で1分間静置した。基材を分子接着剤溶液から取り出した後、60℃に加熱したオーブンに10分間静置することで熱処理を行った。その後、基材をネオエタノールPIPで良く洗浄し、エアブローで乾燥させた。更に、基材に付与した分子接着剤に、再度、同様な処理条件でエキシマ照射処理を施した。
【0072】
次いで、調製例で調製した親水性水溶液に浸漬し、浸漬して20~25℃の室温で10分間静置した後に引き上げることにより、基材の親水化処理を行った。更に、親水化処理後の基材を、生理食塩水に1分間浸漬した後に引き上げた後、イオン交換水に1分間浸漬した後に引き上げ、次いで、別なイオン交換水に1分間浸漬した後に引き上げることにより、親水化処理後の基材の洗浄を行った。洗浄した基材をエアブローで乾燥させることにより、親水性改質基材を得た。得られた親水性改質基材面は平滑面であった。
【0073】
(親水性改質基材の親水性評価)
得られた親水性改質基材の水の接触角を測定し、エキシマ照射処理前の基材(ブランク)及びエキシマ処理のみを施した基材の各々の水の接触角を比較することにより、スルホベタイン高分子の水溶液が付される前後における水の接触角を評価した。その結果を表1に示した。
水の接触角の測定は、基材の表面に1.0μLのイオン交換水を滴下し、滴下直後から10秒後の液滴の接触角を接触角計(協和界面科学株式会社製:Drop master)を用いて1サンプルにランダムで5点測定し、その平均値を求めた。接触角が5°未満の場合、正確な計測が困難であるため「<5°」と表記した。
【0074】
また、基材として、ポリスチレン樹脂板(PS樹脂:アズワン株式会社から購入したアズノール滅菌シャーレをレーザー加工して板材として使用)、シクロオレフィン樹脂板(COP樹脂板:日本ゼオン株式会社製ZF16-188(商品名))、シリコーンゴムシート(シリコーンゴム:LSR7050、厚さ30μm)、64チタン板(Ti-6Al-4V:株式会社スタンダードテストピース:品名なし)、アルミナ板(東京硝子器械株式会社製のアルミナ角板)、ガラス板(松波硝子株式会社製の硼珪酸カバーグラス18mm角)及びフッ素樹脂フィルム(PTFEフィルム:日東電工株式会社製のNITOFLON(商標)、厚さ0.1mm)、軟質塩化ビニル板(軟質塩ビ板:株式会社上村製の厚さ0.3mm:軟質塩ビシート)、硬質塩化ビニル板(硬質塩ビ板:株式会社スタンダードテストピース:硬質PVC(クリア))についても、乾式改質処理としてエキシマ照射処理を施してから、OFS-6020とVMM-010との混合液から成る分子接着剤をネオエタノールPIPに対して0.1質量%となるように溶解した分子接着剤溶液に浸漬して同様にして親水化処理を施した後、基材に付与した分子接着剤に、再度、同様な処理条件でエキシマ照射処理を施した。得られた親水性改質基材面はいずれも平滑面であり、同様にして、水の接触角を測定し、その結果を表1に併せて示す。
【0075】
【0076】
表1から明らかなように、OFS-6020とVMM-010とを混合した分子接着剤によれば、基材に良好な親水性を基材に付与でき、且つ基材の種類間での親水性程度のバラツキが殆どない。
【0077】
(比較例1)
実施例1のVMM-010を単独で用いた分子接着剤により、各基材を修飾した他は実施例1と同様にして各基材に親水化処理を施した。また、実施例1のOFS-6020を単独に用いた分子接着剤により、各基材を修飾してからエキシマ処理を施すことなく親水性水溶液に浸漬処理を施した他は、実施例1と同様に各基材に親水化処理を施した。更に、分子接着剤としてビニル基を有するシランカップリング剤である7-オクテニルトリメトキシシラン(KBE-1083:信越シリコーン株式会社製、商品名)から成る分子接着剤を単独で用いた分子接着剤により、各基材を修飾した他は実施例1と同様にして各基材に親水化処理を施した。得られた親水性改質基材面はいずれも平滑面であり、同様にして、水の接触角を測定し、その結果を表2に示す。
【0078】
【0079】
表2から明らかなように、親水性の程度は基材間でバラツキがあり、実施例1の親水化の程度よりも劣る。特に、SUS304及び64チタン板では、シランカップリング剤としてOFS-6020(3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン)を用いたものが、KBE-1083(7-オクテニルトリメトキシシラン)やVMM-010(複数ビニル基含有アルコキシシロキサン)を用いたものよりも親水性が低くなっている。一方、PS樹脂板及びCOP樹脂板では、OFS-6020を用いたものが、KBE-1083やVMM-010を用いたものよりも親水性が改善されている。
【0080】
この現象は、エキシマ処理を施した基材に塗布されたシランカップリング剤による基材表面の官能基に対するスルホベタイン高分子の捕捉され易さに関係するものと推察される。すなわち、SUS304板や64チタン板等の金属板では、基材表面に元々OH基が多いところ、エキシマ処理により更にOH基が生成される。この状態でシランカップリング剤としてOFS-6020(3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン)を用いると、トリメトキシシラン側がOH基と反応し、アミン基側が金属板表面側を向くと考えられる。スルホベタイン高分子の4級アンモニウム基は電子供与性の官能基よりも電子吸引性の官能基に捕捉され易い傾向にあり、電子供与性の官能基のアミン基にスルホベタイン高分子のスルホン酸基が捕捉され難く親水性が低下したものと考えられる。エキシマ処理を施したSUS304板や64チタン板等の金属板には、KBE-1083(7-オクテニルトリメトキシシラン)やVMM-010(複数ビニル基含有アルコキシシロキサン)を用いることにより、金属板表面のシランカップリング剤による修飾面に生成した多数のビニル基は再度の乾式処理によって電子吸引性の水酸基、カルボニル基、カルボン酸基に変換されることで、スルホベタイン高分子の4級アンモニウム基が捕捉され易くなり、良好な親水性が得られたものと推測できる。一方、PS樹脂板及びCOP樹脂板等の樹脂板では、アミン基が反応できる部分(非共有電子対による求核反応)があり、OFS-6020のアミン基が反応すればトリメトキシシラン側が露出し、この水酸基にスルホベタイン高分子の4級アンモニウム基が捕捉されて良好な親水性が得られたものと推測される。
【0081】
(比較例2)
25℃のイオン交換水10mLに合成例で得られたスルホベタイン高分子粒子0.01gを添加することにより、0.1質量%のスルホベタイン高分子水溶液を調製した。このスルホベタイン高分子水溶液を80℃に加熱したところ、スルホベタイン高分子粒子の全量が溶けて透明となった。この透明液を放置したところ、55℃以下に冷却されるとスルホベタイン高分子が析出することが判明したので、スルホベタイン高分子水溶液を80℃に保持して親水性水溶液とした。
次いで、比較例1において、親水性水溶液として、添加したスルホベタイン高分子粒子の全量が溶解した80℃の親水性水溶液を用いたことの他、比較例1と同様にして基材に親水化処理を施した。得られた親水性改質基材面はいずれも平滑面であり、同様にして、水の接触角を測定し、その結果を表3に示す。
【表3】
【0082】
スルホベタイン高分子粒子を完全に溶解された80℃の親水性水溶液を用いることにより、基材の親水性は比較例1の室温での親水性水溶液を用いた場合よりも改善されているものの、その程度は実施例1の親水性よりも劣り、依然として基材の種類間で親水性の程度にバラツキが生じている。しかも、硬質塩ビ板や軟質塩ビ板の低耐熱性の基材では変形が発生して水の接触角を測定できなった。
本発明の親水化処理方法及び親水性改質基材は、親水性を発現したまま長期間維持を必要とする血管カテーテルなどの医療器具や、細胞培養容器、マイクロ流路チップ、自動車用の窓ガラス、眼鏡のレンズなどに用いることができる。