(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117416
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】水電解装置
(51)【国際特許分類】
C25B 9/00 20210101AFI20240822BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240822BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20240822BHJP
C25B 15/08 20060101ALI20240822BHJP
C01B 3/02 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
C25B9/00 A
C25B1/04
C25B9/23
C25B15/08 302
C01B3/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023506
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】榎本 悠人
(72)【発明者】
【氏名】川上 拓人
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021BC01
4K021BC09
4K021CA08
4K021CA09
4K021CA15
4K021DB04
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB46
4K021DB53
4K021DC01
4K021DC03
4K021EA06
(57)【要約】
【課題】水電解装置において、回収される酸素ガスに混入する水素ガスを低減することができる技術を提供する。
【解決手段】水電解装置1は、本体部10と、水配管20と、酸素配管30と、水素配管40と、触媒フィルタ50と、を備える。本体部10は、複数のセル11を有する。各セル11は、電解質膜121、電解質膜121の一方の面に位置するアノード触媒層122、および、電解質膜121の他方の面に位置するカソード触媒層124を有する。水配管20は、本体部10に水を供給する。酸素配管30は、本体部10内にて発生した酸素ガスを本体部10外に導く。水素配管40は、本体部10内にて発生した水素ガスを本体部10外に導く。触媒フィルタ50は、酸素配管30において、水素ガスおよび酸素ガスから水を生成する反応を促進する触媒を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水電解装置であって、
電解質膜、前記電解質膜の一方の面に位置するアノード触媒層、および、前記電解質膜の他方の面に位置するカソード触媒層、を有する本体部と、
前記本体部に水を供給する水供給部と、
前記本体部内にて発生した酸素ガスを前記本体部外に導く酸素配管と、
前記本体部内にて発生した水素ガスを前記本体部外に導く水素配管と、
前記酸素配管において、水素ガスおよび酸素ガスから水を生成する反応を促進する触媒を含む触媒フィルタと、
を備える、水電解装置。
【請求項2】
請求項1に記載の水電解装置であって、
前記酸素配管は、前記触媒フィルタの出口側から鉛直上向き延びる部分を有する、水電解装置。
【請求項3】
請求項2に記載の水電解装置であって、
前記触媒フィルタは、前記本体部よりも鉛直上側に位置する、水電解装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の水電解装置であって、
前記酸素配管は、前記触媒フィルタの入口側から鉛直下方に延びる部分を有する、水電解装置。
【請求項5】
請求項4に記載の水電解装置であって、
前記触媒フィルタの直下に、前記本体部に供給された水の液面が保持される、水電解装置。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の水電解装置であって、
前記触媒は、白金を含む、水電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示される主題は、水電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水(H2O)を電気分解することにより水素(H2)を製造する水電解装置が知られている。水素は温室効果ガスを排出しない燃料となるため、水電解装置は、脱炭素化に貢献できる技術として、近年特に注目されている。水電解装置は、高分子電解質膜を用いたものがある。この種の水電解装置は、セルとセパレータとが交互に積層された積層構造を有する。各セルは、電解質膜と、電解質膜の両面に形成された触媒層とを有する。
【0003】
水電解が行われる場合、アノード側触媒層とカソード側触媒層との間に、電圧が印加されるとともに、アノード側の触媒層に水が供給される。これにより、次の電気化学反応式に示されるように、アノード側の触媒層においては、水から水素イオンと酸素と電子が生成される。そして、カソード側の触媒層においては、水素イオンと電子とから、水素が生成される。カソード側で発生した水素およびアノード側で発生した酸素は、適宜回収される。
(アノード側) 2H2O → 4H+ + O2 + 4e-
(カソード側) 2H+ + 2e- → H2
【0004】
実際の水電解装置では、水電解においてカソード側で発生した水素が、電解質膜を透過して、アノード側に移動する場合があった。この場合、水素の混入によって、高純度の酸素を回収することが困難となる。特許文献1では、アノード側の触媒層に、酸化イリジウムに加えて白金が配合される。これにより、アノード側において、白金の触媒機能により、アノード側に透過してきた水素が、酸素と化合して水が生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、アノード側の触媒層に白金を配合した場合、電解性能が低下するおそれがあった。このため、他の方法で、回収される酸素に混入する水素を低減することが求められている。
【0007】
本発明の目的は、水電解装置において、回収される酸素ガスに混入する水素ガスを低減することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、第1態様は、水電解装置であって、電解質膜、前記電解質膜の一方の面に位置するアノード触媒層、および、前記電解質膜の他方の面に位置するカソード触媒層、を有する本体部と、前記本体部に水を供給する水供給部と、前記本体部内にて発生した酸素ガスを前記本体部外に導く酸素配管と、前記本体部内にて発生した水素ガスを前記本体部外に導く水素配管と、前記酸素配管において、水素ガスおよび酸素ガスから水を生成する反応を促進する触媒を含む触媒フィルタとを備える。
【0009】
第2態様は、第1態様の水電解装置であって、前記酸素配管は、前記触媒フィルタの出口側から鉛直上向き延びる部分を有する。
【0010】
第3態様は、第2態様の水電解装置であって、前記触媒フィルタは、前記本体部よりも鉛直上側に位置する。
【0011】
第4態様は、第1態様から第3態様のいずれかの水電解装置であって、前記酸素配管は、前記触媒フィルタの入口側から鉛直下方に延びる部分を有する。
【0012】
第5態様は、第4態様の水電解装置であって、前記触媒フィルタの直下に、前記本体部に供給された水の液面が保持される。
【0013】
第6態様は、第1態様から第5態様のいずれかの水電解装置であって、前記触媒は、白金を含む。
【発明の効果】
【0014】
第1態様から第6態様の水電解装置によれば、酸素配管を通過する水素ガスが、触媒フィルタによって酸素ガスと反応し、水に変化する。これにより、酸素配管を通過する水素ガスを低減できるため、酸素ガスの純度を高めることができる。
【0015】
第2態様の水電解装置によれば、触媒フィルタにおいて発生した水と、触媒フィルタを通過した酸素ガスとを適切に分離できる。
【0016】
第4態様の水電解装置によれば、触媒フィルタにおいて発生した水を鉛直下方に落下させることができる。
【0017】
第5態様の水電解装置によれば、触媒フィルタにおいて発生した水を、本体部に戻すことができる。
【0018】
第6態様の水電解装置によれば、白金の触媒機能により水素と酸素とから水を生成できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】本体部が備える1つのセルを模式的に示す断面図である。
【
図3】触媒フィルタとその周辺部分を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、この実施形態に記載されている構成要素はあくまでも例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。図面においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数が誇張又は簡略化して図示されている場合がある。
【0021】
<1. 実施形態>
図1は、実施形態に係る水電解装置1を示す図である。水電解装置1は、本体部10と、水配管20と、水タンク21と、酸素配管30と、酸素タンク31と、水素配管40と、水素タンク41と、触媒フィルタ50と、電源60とを備える。
図2は、本体部10が備える1つのセル11を模式的に示す断面図である。
【0022】
本体部10は、一方向に積層された複数のセル11を有する。本体部10におけるセル11の数は特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な個数が選択される。
図2に示されるように、セル11は、膜電極接合体12と、アノードセパレータ13と、カソードセパレータ14とを有する。
【0023】
膜電極接合体12は、電解質膜121と、アノード触媒層122と、アノードガス拡散層123と、カソード触媒層124と、カソードガス拡散層125とを有する。
【0024】
電解質膜121は、イオン伝導性を有する薄板状の膜(イオン交換膜)である。電解質膜121は、水素イオン(H+)を伝導するプロトン交換膜である。電解質膜121には、フッ素系または炭化水素系の高分子電解質膜が用いられる。具体的には、電解質膜121には、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマなどの固体高分子電解質が用いられる。電解質膜11の膜厚は、例えば、5μm~200μmである。
【0025】
アノード触媒層122は、アノード側において電気化学反応を起こす。アノード触媒層122は、電解質膜121のアノード側の表面に積層されている。アノード触媒層122は、多数の触媒粒子を含む。アノード触媒層122の触媒粒子には、例えば、酸化イリジウム(IrOX)、白金(Pt)、イリジウム(Ir)とルテニウム(Ru)の合金、または、イリジウムと二酸化チタン(TiO2)の合金などが用いられる。水電解装置1の使用時には、アノード触媒層122に水(H2O)が供給される。
【0026】
アノードガス拡散層123は、アノード触媒層122外側の面、すなわち、アノード触媒層122の電解質膜121とは反対側の面に積層されている。すなわち、アノード触媒層122は、電解質膜121とアノードガス拡散層123との間に挟まれている。アノードガス拡散層123は、導電性を有し、且つ多孔質の材料により形成される。アノードガス拡散層123には、例えば、カーボンペーパーが用いられる。
【0027】
カソード触媒層124は、カソード側において電気化学反応を起こす。カソード触媒層124は、電解質膜121のカソード側の表面、すなわち、電解質膜121のアノード触媒層122とは反対側の表面に積層されている。カソード触媒層124は、触媒粒子を担持した多数のカーボン粒子を含む。カソード触媒層124の触媒粒子には、例えば、白金の粒子が用いられる。ただし、カソード触媒層124の触媒粒子には、白金の粒子に微量のルテニウムまたはコバルトの粒子を混合したものが用いられてもよい。
【0028】
カソードガス拡散層125は、カソード触媒層124の外側の面、すなわち、カソード触媒層124の電解質膜121とは反対側の面に積層されている。すなわち、カソード触媒層124は、電解質膜121とカソードガス拡散層125との間に挾まれている。カソードガス拡散層125は、導電性を有し、且つ多孔質の材料により形成される。カソードガス拡散層125には、例えば、カーボンペーパーが用いられる。
【0029】
アノードセパレータ13は、膜電極接合体12のアノード側に隣接して配置されている。カソードセパレータ14は、膜電極接合体12のカソード側に隣接して配置されている。アノードセパレータ13およびカソードセパレータ14は、導電性を有し、且つ気体および液体を透過させない板状の部材である。
【0030】
アノードセパレータ13は、アノード面131を有する。アノード面131は、アノードガス拡散層123と接している。アノードセパレータ13は、アノード面131に、凹状のアノード溝132を有する。アノード溝132は、アノードガス拡散層123とともに、水および酸素を通過させる流路を構成する。
【0031】
アノードセパレータ13は、水流通孔133および酸素流通孔134を有する。水流通孔133および酸素流通孔134は、アノードセパレータ13を積層方向に貫通している。水流通孔133および酸素流通孔134は、積層方向においてアノード溝132と重なっている。水流通孔133は、図示しない水供給用のマニホールドを介して、本体部10の水導入口151と連通されている。酸素流通孔134は、図示しない酸素排出用のマニホールドを介して、本体部10の酸素排出口152に連通されている。なお、「連通」とは、2つの要素が、流体が流通できるように互いに連結された状態をいう。
【0032】
カソードセパレータ14は、カソード面141を有する。カソード面141は、カソードガス拡散層125と接している。カソードセパレータ14は、カソード面141に、凹状のカソード溝142を有する。カソード溝142は、カソードガス拡散層125とともに、水素を通過させる流路を構成する。
【0033】
カソードセパレータ14は、水素流通孔143を有する。水素流通孔143は、カソードセパレータ14を積層方向に貫通している。水素流通孔143は、積層方向においてカソード溝142と重なっている。水素流通孔143は、図示しない水素排出用のマニホールドを介して、本体部10の水素排出口153と連通されている。
【0034】
水タンク21は、水を貯留可能である。水配管20は、本体部10の水導入口と、水タンク21の排出口とを接続している。水配管20には、ポンプ22が設けられている。ポンプ22は、水タンク21に貯留された水を、本体部10の水導入口151へ送る。酸素配管30は、本体部10の酸素排出口と、酸素タンク31の導入口とを接続している。水素配管40は、本体部10の水素排出口と、水素タンク41の導入口とを接続している。水配管20、および、ポンプ22は、本体部10に水を供給する「水供給部」の一例である。
【0035】
触媒フィルタ50は、酸素配管30上に取り付けられている。触媒フィルタ50は、気体を通過させることが可能な複数の孔を有し、且つ孔の内側に触媒を有する。触媒フィルタ50の触媒は、酸素ガスと水素ガスとから水を生成する水生成反応を促進する。触媒フィルタ50には、例えば、ハニカム構造を有するセラミックスが用いられる。また、触媒フィルタ50の触媒には、例えば、白金が用いられる。
【0036】
水電解装置1の使用時には、ポンプ22により、水タンク21から本体部10の水導入口151に水が供給される。本体部10に供給された水は、アノードセパレータ13のアノード溝132を通って、アノードガス拡散層123に供給される。アノードガス拡散層123は、アノード触媒層122へ均一に水を供給する。
【0037】
電源60は、アノード触媒層122とカソード触媒層124との間に、電圧を印加する。そうすると、アノード触媒層122において、水が、水素イオン(H+)、酸素(O2)、および電子(e-)に電気分解される。アノード触媒層122において生成された酸素ガスは、アノード溝132、酸素流通孔134、酸素排出口152、および酸素配管30を通って、酸素タンク31に回収される。また、カソード触媒層124においては、水素イオン(H+)と電子(e-)とが反応して、水素ガス(H2)が生成される。カソード触媒層124において生成された水素ガスは、カソード溝142、水素流通孔143、水素排出口153、および水素配管40を通って、水素タンク41に回収される。
【0038】
カソード触媒層124において生成された水素ガスのうち一部は、電解質膜121を透過してアノード側へ移動する。そして、アノード側に移動した水素ガスは、酸素ガスとともにアノード溝132、酸素流通孔134、酸素排出口152を通って、酸素配管30に排出される。ただし、水素ガスは、触媒フィルタ50を通過する間に、酸素ガスと反応し、水に変化する。これにより、酸素ガスに混入している水素ガスを低減できるため、高純度の酸素ガスを酸素タンク31に回収できる。
【0039】
図3は、触媒フィルタ50とその周辺部分を示す図である。
図3に示されるように、酸素配管30は、触媒フィルタ50の出口側(酸素タンク31側)から鉛直上向きに延びる部分を有する。これにより、触媒フィルタ50において発生した水と、触媒フィルタ50を通過した酸素ガスとを適切に分離できるため、酸素タンク31に回収される酸素ガスの純度を高めることができる。
【0040】
図1に示されるように、触媒フィルタ50は、本体部10よりも鉛直上側に位置する。これにより、本体部10の水が、触媒フィルタ50に接触することを低減できる。
【0041】
図3に示されるように、酸素配管30は、触媒フィルタ50の入口側(本体部10側)から鉛直下向きに延びる部分を有する。これにより、触媒フィルタ50において発生した水を鉛直下方に落下させることができる。また、
図3に示されるように、水タンク21から水を本体部10に供給するに当たり、酸素配管30内にも水が供給されてもよい。そして、水の液面F1が触媒フィルタ50の直下に配置されていてもよい。これにより、触媒フィルタ50において発生した水を本体部10へ戻すことができる。
【0042】
<2. 変形例>
以上、実施形態について説明してきたが、本発明は上記のようなものに限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0043】
例えば、上記実施形態では、触媒フィルタの触媒として、白金が用いられている。しかしながら、触媒フィルタ50の触媒は、水生成の触媒機能を持つものであればよい。触媒フィルタ50の触媒は、例えば、銅(Cu)や鉄(Fe)などの、白金とは異なる遷移金属であってもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、ポンプ22によって水を移動させているが、例えば、水タンク21を本体部10よりも高い位置に配置し、水頭差によって水が本体部10に供給されてもよい。
【0045】
この発明は詳細に説明されたが、上記の説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。上記各実施形態及び各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせたり、省略したりすることができる。
【符号の説明】
【0046】
1 水電解装置
10 本体部
11 電解質膜
121 電解質膜
122 アノード触媒層
124 カソード触媒層
20 水配管
22 ポンプ
30 酸素配管
40 水素配管
50 触媒フィルタ