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特開2024-117445電解コンデンサ素子の浸漬方法、及び電解コンデンサの製造方法
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  • 特開-電解コンデンサ素子の浸漬方法、及び電解コンデンサの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117445
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】電解コンデンサ素子の浸漬方法、及び電解コンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/00 20060101AFI20240822BHJP
   H01G 9/02 20060101ALI20240822BHJP
   H01G 13/00 20130101ALN20240822BHJP
【FI】
H01G9/00 290H
H01G9/02
H01G13/00 371H
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023556
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000103220
【氏名又は名称】エルナー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】染井 秀徳
(72)【発明者】
【氏名】山田 一樹
【テーマコード(参考)】
5E082
【Fターム(参考)】
5E082AB09
5E082MM23
(57)【要約】
【課題】 電解コンデンサのESRを低減することができる電解コンデンサ素子の浸漬方法、及び電解コンデンサの製造方法を提供する。
【解決手段】 電解コンデンサ素子の浸漬方法は、陽極箔と、陰極箔と、前記陽極箔及び前記陰極箔に挟まれたセパレータとを含む電解コンデンサ素子を、前記セパレータに導電性高分子が含浸されるように、前記導電性高分子を含有する液体に浸漬する電解コンデンサ素子の浸漬方法において、前記液体を貯留した貯留槽が設置されたチャンバ内を減圧して実質的に真空状態とする工程と、前記電解コンデンサ素子を前記液体に浸漬し、300秒以下の間、前記チャンバ内を前記真空状態に維持する工程と、前記電解コンデンサ素子を前記液体に浸漬したまま、40秒以下の時間で前記チャンバ内を、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻す工程とを含む。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極箔と、陰極箔と、前記陽極箔及び前記陰極箔に挟まれたセパレータとを含む電解コンデンサ素子を、前記セパレータに導電性高分子が含浸されるように、前記導電性高分子を含有する液体に浸漬する電解コンデンサ素子の浸漬方法において、
前記液体を貯留した貯留槽が設置されたチャンバ内を減圧して実質的に真空状態とする工程と、
前記電解コンデンサ素子を前記液体に浸漬し、300秒以下の間、前記チャンバ内を前記真空状態に維持する工程と、
前記電解コンデンサ素子を前記液体に浸漬したまま、40秒以下の時間で前記チャンバ内を、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻す工程とを含むことを特徴とする電解コンデンサ素子の浸漬方法。
【請求項2】
前記チャンバ内を前記真空状態に維持する工程は、60秒以下の間、前記チャンバ内を前記真空状態に維持し、
前記チャンバ内を、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻す工程は、20秒以下の時間で前記チャンバ内を、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻すことを特徴とする請求項1に記載の電解コンデンサ素子の浸漬方法。
【請求項3】
前記チャンバ内を前記真空状態に維持する工程は、30秒以下の間、前記チャンバ内を前記真空状態に維持し、
前記チャンバ内を、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻す工程は、20秒以下の時間で前記チャンバ内を、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻すことを特徴とする請求項1に記載の電解コンデンサ素子の浸漬方法。
【請求項4】
前記チャンバ内を前記真空状態に維持する工程は、5秒以上の間、前記チャンバ内を前記真空状態に維持し、
前記チャンバ内を、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻す工程は、5秒以上の時間で前記チャンバ内を、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻すことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の電解コンデンサ素子の浸漬方法。
【請求項5】
前記チャンバ内を減圧して実質的に前記真空状態とする工程の実行中、前記電解コンデンサ素子を前記チャンバ内の前記液体の外部に保持することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の電解コンデンサ素子の浸漬方法。
【請求項6】
前記チャンバ内を、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻す工程は、前記チャンバ内を加圧することにより、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻すことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の電解コンデンサ素子の浸漬方法。
【請求項7】
陽極箔と、陰極箔と、前記陽極箔及び前記陰極箔に挟まれたセパレータとを含む電解コンデンサ素子を、前記セパレータに導電性高分子が含浸されるように、前記導電性高分子を含有する液体に浸漬する電解コンデンサ素子の浸漬方法において、
前記液体を貯留した貯留槽が設置されたチャンバ内を減圧して実質的に真空状態とする工程と、
前記電解コンデンサ素子を前記液体に浸漬し、900秒間、前記チャンバ内を前記真空状態に維持する工程と、
前記電解コンデンサ素子を前記液体に浸漬したまま、40秒以下の時間で前記チャンバ内を、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻す工程とを含むことを特徴とする電解コンデンサ素子の浸漬方法。
【請求項8】
前記チャンバ内を、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻す工程は、20秒以下の時間で前記チャンバ内を、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻すことを特徴とする請求項7に記載の電解コンデンサ素子の浸漬方法。
【請求項9】
前記チャンバ内を、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻す工程は、1秒以上の時間で前記チャンバ内を、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻すことを特徴とする請求項7または8に記載の電解コンデンサ素子の浸漬方法。
【請求項10】
陽極箔と、陰極箔と、前記陽極箔及び前記陰極箔に挟まれたセパレータとを含む電解コンデンサ素子を、前記セパレータに導電性高分子が含浸されるように、前記導電性高分子を含有する液体に浸漬する電解コンデンサ素子の浸漬方法において、
前記液体を貯留した貯留槽が設置されたチャンバ内を減圧して実質的に真空状態とする工程と、
前記電解コンデンサ素子を前記液体に浸漬し、600秒以下の間、前記チャンバ内を前記真空状態に維持する工程と、
前記電解コンデンサ素子を前記液体に浸漬したまま、60秒で前記チャンバ内を、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻す工程とを含むことを特徴とする電解コンデンサ素子の浸漬方法。
【請求項11】
前記チャンバ内を前記真空状態に維持する工程は、120秒以下の間、前記チャンバ内を前記真空状態に維持することを特徴とする請求項10に記載の電解コンデンサ素子の浸漬方法。
【請求項12】
前記チャンバ内を、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻す工程は、1秒以上の時間で前記チャンバ内を、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻すことを特徴とする請求項10または11に記載の電解コンデンサ素子の浸漬方法。
【請求項13】
陽極箔と、陰極箔と、前記陽極箔及び前記陰極箔に挟まれたセパレータとを含む電解コンデンサ素子を備える電解コンデンサの製造方法において、
前記電解コンデンサ素子を生成する工程と、
請求項1、7、及び10の何れかに記載の電解コンデンサ素子の浸漬方法により前記電解コンデンサ素子を、導電性高分子を含有する液体に浸漬する工程と、
前記電解コンデンサ素子を乾燥させる工程とを有することを特徴とする電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサ素子の浸漬方法、及び電解コンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
陽極箔、陰極箔、及びセパレータを備え、誘電体層が形成された陽極箔の表面に導電性高分子膜を形成した巻回体を電解液に浸漬することにより製造される電解コンデンサが知られている。この種の電解コンデンサはハイブリット電解コンデンサなどと呼称され、小型かつ大容量でESR(Equivalent Series Resistance:等価直列抵抗)が低く、例えば車載品用電子部品として広く用いられている。
【0003】
例えば特許文献1及び2には、ハイブリッド電解コンデンサの製造において、セパレータに導電性高分子が含浸されるように、導電性高分子の分散液または溶液(以下、導電性高分子液と表記)に電解コンデンサ素子を浸漬する点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2019-516241号公報
【特許文献2】米国特許第8462484号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、セパレータに導電性高分子を十分に含浸させることは難しい。セパレータは、例えばセルロースなどを材料とする。セパレータには、真空状態において、毛細管現象を利用して導電性高分子液が含浸されるが、導電性高分子のナノ粒子と溶媒のセパレータに対する含浸速度が異なるため、ある程度含浸が進むと、導電性高分子液から溶媒(例えば水)がナノ粒子に先行して、セパレータの高さ方向の中央部へ到達する。このため、先行した溶媒が充満したセパレータの中央部に、導電性高分子が到達することが困難となり、結果として、導電性高分子のナノ粒子が大量に蓄積された領域が形成されてしまう。
【0006】
したがって、導電性高分子の分布がセパレータの高さ方向の両端部に偏り、セパレータの中央部に近い領域ほど、導電性高分子が少なく、電気抵抗が高くなる。このため、電解コンデンサのESRを十分に低減することが難しい。
【0007】
そこで本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、電解コンデンサのESRを低減することができる電解コンデンサ素子の浸漬方法、及び電解コンデンサの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電解コンデンサ素子の浸漬方法は、陽極箔と、陰極箔と、前記陽極箔及び前記陰極箔に挟まれたセパレータとを含む電解コンデンサ素子を、前記セパレータに導電性高分子が含浸されるように、前記導電性高分子を含有する液体に浸漬する電解コンデンサ素子の浸漬方法において、前記液体を貯留した貯留槽が設置されたチャンバ内を減圧して実質的に真空状態とする工程と、前記電解コンデンサ素子を前記液体に浸漬し、300秒以下の間、前記チャンバ内を前記真空状態に維持する工程と、前記電解コンデンサ素子を前記液体に浸漬したまま、40秒以下の時間で前記チャンバ内を、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻す工程とを含むことを特徴とする。
【0009】
上記の浸漬方法において、前記チャンバ内を前記真空状態に維持する工程は、60秒以下の間、前記チャンバ内を前記真空状態に維持し、前記チャンバ内を、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻す工程は、20秒以下の時間で前記チャンバ内を、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻してもよい。
【0010】
上記の浸漬方法において、前記チャンバ内を前記真空状態に維持する工程は、30秒以下の間、前記チャンバ内を前記真空状態に維持し、前記チャンバ内を、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻す工程は、20秒以下の時間で前記チャンバ内を、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻してもよい。
【0011】
上記の浸漬方法において、前記チャンバ内を前記真空状態に維持する工程は、5秒以上の間、前記チャンバ内を前記真空状態に維持し、前記チャンバ内を、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻す工程は、5秒以上の時間で前記チャンバ内を、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻してもよい。
【0012】
上記の浸漬方法において、前記チャンバ内を、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻す工程は、前記チャンバ内を加圧することにより、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻してもよい。
【0013】
本発明の他の電解コンデンサ素子の浸漬方法は、陽極箔と、陰極箔と、前記陽極箔及び前記陰極箔に挟まれたセパレータとを含む電解コンデンサ素子を、前記セパレータに導電性高分子が含浸されるように、前記導電性高分子を含有する液体に浸漬する電解コンデンサ素子の浸漬方法において、前記液体を貯留した貯留槽が設置されたチャンバ内を減圧して実質的に真空状態とする工程と、前記電解コンデンサ素子を前記液体に浸漬し、900秒間、前記チャンバ内を前記真空状態に維持する工程と、前記電解コンデンサ素子を前記液体に浸漬したまま、40秒以下の時間で前記チャンバ内を、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻す工程とを含むことを特徴とする。
【0014】
上記の浸漬方法において、前記チャンバ内を、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻す工程は、20秒以下の時間で前記チャンバ内を、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻してもよい。
【0015】
上記の浸漬方法において、前記チャンバ内を、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻す工程は、1秒以上の時間で前記チャンバ内を、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻してもよい。
【0016】
本発明の他の電解コンデンサ素子の浸漬方法は、陽極箔と、陰極箔と、前記陽極箔及び前記陰極箔に挟まれたセパレータとを含む電解コンデンサ素子を、前記セパレータに導電性高分子が含浸されるように、前記導電性高分子を含有する液体に浸漬する電解コンデンサ素子の浸漬方法において、前記液体を貯留した貯留槽が設置されたチャンバ内を減圧して実質的に真空状態とする工程と、前記電解コンデンサ素子を前記液体に浸漬し、600秒以下の間、前記チャンバ内を前記真空状態に維持する工程と、前記電解コンデンサ素子を前記液体に浸漬したまま、60秒で前記チャンバ内を、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻す工程とを含むことを特徴とする。
【0017】
上記の浸漬方法において、前記チャンバ内を前記真空状態に維持する工程は、120秒以下の間、前記チャンバ内を前記真空状態に維持してもよい。
【0018】
上記の浸漬方法において、前記チャンバ内を、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻す工程は、1秒以上の時間で前記チャンバ内を、前記真空状態に減圧される前の圧力まで戻してもよい。
【0019】
本発明の電解コンデンサの製造方法は、陽極箔と、陰極箔と、前記陽極箔及び前記陰極箔に挟まれたセパレータとを含む電解コンデンサ素子を備える電解コンデンサの製造方法において、前記電解コンデンサ素子を生成する工程と、上記の電解コンデンサ素子の浸漬方法により前記電解コンデンサ素子を、導電性高分子を含有する液体に浸漬する工程と、前記電解コンデンサ素子を乾燥させる工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、電解コンデンサのESRを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、アルミ電解コンデンサの一例を示す側面図である。
図2図2は、電解コンデンサ素子の一例を示す斜視図である。
図3図3は、図2のA-A線に沿った断面の一部を示す断面図である。
図4図4は、導電性高分子層の形成が不十分である場合の図2のA-A線に沿った断面の一部を示す断面図である。
図5図5は、アルミ電解コンデンサの製造工程の一例を示すフローチャートである。
図6図6は、電解コンデンサ素子の浸漬方法を示す図である。
図7図7は、減圧保持工程において導電性高分子の分散液がセパレータに含浸される様子の一例を示す巻回体の断面図である。
図8図8は、セパレータに分散液が十分に含浸されていない巻回体の一例を示す断面図である。
図9図9は、ナノ粒子4の蓄積領域が形成される前に大気開放工程が開始された場合の分散液の含浸状態の一例を示す巻回体の断面図である。
図10図10は、セパレータに分散液が理想的に含浸された巻回体の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[実施形態]
(アルミ電解コンデンサの構成)
図1は、アルミ電解コンデンサ1の一例を示す側面図である。図1の紙面において、アルミ電解コンデンサ1の中心線Lcを挟んだ右半分には、その内部の断面が示されている。
【0023】
アルミ電解コンデンサ1は、電解コンデンサの一例であり、具体的には導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサである。アルミ電解コンデンサ1は、電子回路基板に実装され、例えばカップリング、デカップリング、及び平滑化などに用いられる。
【0024】
アルミ電解コンデンサ1は、電解コンデンサ素子10、ケース11、封口体12、座板13、一対の丸棒部111、及び一対のリード部110を有する。丸棒部111及びリード部110は電解コンデンサ素子10の引き出し電極であり、リード部110は丸棒部111の先端から延びている。なお、図1には一方の丸棒部111のみが示されているが、中心線Lを挟んだ対称な位置に他方の丸棒部111が設けられている。
【0025】
ケース11は、アルミニウムにより形成され、上部の開口が塞がった円筒形状を有する。ケース11は、電解コンデンサ素子10及び封口体12を覆い、アルミ電解コンデンサ1の外装として機能する。なお、ケース11の形状は円筒形状に限定されず、角筒形状であってもよい。
【0026】
封口体12は、例えばブチルゴムなどの弾性部材により形成された略円柱形状の部材である。封口体12は、電解コンデンサ素子10に隣接し、ケース11下部の開口を封口する。
【0027】
電解コンデンサ素子10は、後述するように、陽極箔、陰極箔、及びセパレータ(電解紙)を重ねて巻回した構成を有する。電解コンデンサ素子10の底部からは一対の丸棒部111が延びている。
【0028】
丸棒部111及びリード部110はアルミニウムなどから形成された棒状部材である。一対の丸棒部111は、陽極箔及び陰極箔に対し、かしめなどの接合手段によりそれぞれ接合されており、アルミ電解コンデンサ1の陽極端子及び陰極端子として機能する。各丸棒部111は、封口体12に形成された一対の貫通孔120にそれぞれ挿通されている。なお、図1には一方の貫通孔120のみが示されているが、中心線Lを挟んだ対称な位置に他方の貫通孔120が設けられている。
【0029】
リード部110は平板形状を有し、L字形状に屈曲し、その先端側の部分は座板13の板面に沿って延びている。リード部110の丸棒部111側の部分は座板13の貫通孔130に挿通されている。リード部110は、電子回路基板のリフロー工程において、電子回路基板上のパッドにはんだ付けされる。
【0030】
座板13は、樹脂などにより形成された板状部材であり、ケース11及び封口体12の下部に設けられている。座板13は、実装対象の電子回路基板に対してケース11及び封口体12を支持する。座板13には、リード部110の貫通孔130、及びリード部110の屈曲した先端部分を収容する溝部131が設けられている。溝部131は座板13の底面に沿って中央近傍から外側へ延びている。座板13の底面は、電子回路基板に対するアルミ電解コンデンサ1の実装面となるため、板状のリード部110を電子回路基板上のパッドにはんだ付けすることが可能となる。なお、本実施形態では表面実装タイプのアルミ電解コンデンサ1を挙げるが、後述する実施例は、座板13がないリードタイプにも適用することができる。
【0031】
(電解コンデンサ素子の構成)
図2は、電解コンデンサ素子10の一例を示す斜視図である。図2において、図1と共通する構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。電解コンデンサ素子10は、陽極箔101、陰極箔102、及びセパレータ(電解紙)103を巻回した巻回体100と、陽極箔101及び陰極箔102に接続された一対の引き出し電極19とを有する。
【0032】
一対の引き出し電極19は、アルミ電解コンデンサ1の高さ方向において巻回体100の下方に延びる。各引き出し電極19の丸棒部111は陽極箔101及び陰極箔102にそれぞれ接続されている。なお、図2では、リード部110の屈曲前の状態が示されている。
【0033】
陽極箔101及び陰極箔102は、例えばアルミニウム、タンタル、チタン、及びニオブ等の弁金属およびその合金箔並びに蒸着箔等により形成されている。陽極箔101の表面には、電極面積が増加するようにエッチング処理が施されている。これにより、電解コンデンサ素子10は所定の静電容量を確保する。さらに陽極箔101の表面には極薄の酸化被膜が形成されている。このため、陽極箔101は、他の部材から絶縁されている。酸化被膜が誘電体として機能することで、電解コンデンサ素子10がコンデンサとして機能する。陽極箔101の厚みは、例えば5~200(μm)である。この厚み範囲によると、陽極箔101の強度と容量の発現量の間に適切なバランス関係が実現できるため、好ましい。
【0034】
一方、陰極箔102の表面には酸化被膜が形成されていない。なお、陰極箔102の表面にもエッチング処理が施されてもよい。また、陰極箔102の表面には、酸化被膜が形成されてもよいし、無機層またはカーボン層が形成されていてもよい。
【0035】
セパレータ103は陽極箔101及び陰極箔102の間に挟まれた状態で巻回される。セパレータ103はセルロース、レーヨン、及びガラス繊維などから選択される少なくとも1種類以上を材料とする。巻回体100は、陽極箔101、陰極箔102、及びセパレータ103を巻回すことにより形成された略円柱状の素子である。本実施形態では、この略円柱形状の高さに沿って電解コンデンサ素子10の高さ方向を規定する。なお、高さ方向は、各引き出し電極19の丸棒部111が延びる方向に実質的に一致する。
【0036】
巻回体100は、アルミ電解コンデンサ1の製造工程において電解液及び導電性高分子の分散液または溶液(以下、導電性高分子液と表記)に浸漬される。導電性高分子液は、導電性高分子を含有する液体の一例である。セパレータ103の厚みは、例えば1~100(μm)である。この厚み範囲によると、セパレータ103の強度、絶縁性、空隙率、及び導電性物質のバランスが良好に保たれるため、好ましい。
【0037】
電解液は、多価アルコール、スルホン化合物、ラクトン化合物、カーボネート化合物、多価アルコールのジエーテル化合物、1価のアルコールなどを含むことができる。これらは単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
多価アルコールは、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ポリアルキレングリコール、グリセリン、の少なくとも一つを含むことが望ましい。ポリアルキレングリコールとしては、平均分子量が200~1000のポリエチレングリコール、平均分子量が200~5000のポリプロピレングリコールを用いることが好ましい。
【0039】
ラクトン化合物としては、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトンなどを用いることができる。カーボネート化合物としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネートなどを溶媒として含むことができる。特に、エチレングリコール、ポリアルキレングリコール、γ-ブチロラクトン、スルホランを用いることが望ましい。
【0040】
電解液は、溶質を含んでいてもよい。溶質として、酸成分、塩基成分、酸成分および塩基成分からなる塩、ニトロ化合物、フェノール化合物等を用いることができる。
【0041】
酸成分は、有機酸、無機酸、有機酸と無機酸との複合化合物を用いることができる。有機酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、琥珀酸、グルタル酸、アジピン酸、安息香酸、4-ヒドロキシ安息香酸、1,6-デカンジカルボン酸、1,7-オクタンジカルボン酸、アゼライン酸などのカルボン酸などを用いることができる。無機酸としては、硼酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、リン酸エステル、リン酸ジエステルなどを用いることができる。
【0042】
有機酸と無機酸との複合化合物としては、ボロジサリチル酸、ボロジシュウ酸、ボロジグリコール酸等を用いることができる。
【0043】
塩基成分は、1級~3級アミン、4級アンモニウム、4級化アミジニウム等を用いることができる。1級~3級アミンとしては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、アニリンなどを用いることができる。4級アンモニウムとしては、例えば、テトラメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウムなどを用いることができる。4級化アミジニウムとしては、例えば、エチルジメチルイミダゾリニウム、テトラメチルイミダゾリニウムなどを用いることができる。
【0044】
導電性高分子は、導電性を有する高分子であれば特に限定されるものではない。例えば、導電性高分子として、例えば、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンおよびこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種の高分子を用いる。導電性高分子として、一般的に、p-トルエンスルホン酸およびポリスチレンスルホン酸(PSS)等からなる群より選択される少なくとも1種の酸をドーパントとするポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)が用いられる。
【0045】
図3は、図2のA-A線に沿った断面の一部を示す断面図である。セパレータ103は陽極箔101及び陰極箔102の間に挟まれている。陽極箔101は、両側のセパレータ103に隣接するエッチング層31、及び各エッチング層31の間のアルミニウム層30を有する。
【0046】
セパレータ103側のエッチング層31の表面には、酸化被膜である誘電体層が形成されている。誘電体層は、ピットなどと称される多数の小孔がエッチング処理により形成されている。アルミ電解コンデンサ1の製造工程において、電解コンデンサ素子10が電解液に浸漬されると、セパレータ103内だけでなくピット内にも電解液が満たされる。
【0047】
電解液の浸漬より先に、導電性高分子の浸漬処理が行われる。電解コンデンサ素子10が導電性高分子散液に浸漬されることで、セパレータ103には導電性高分子散液が含浸され、図3におけるセパレータ103の高さ方向の上部と下部に多数のナノ粒子4が保持されている。電解コンデンサ素子10を導電性高分子の分散液または溶液に浸漬した後、電解コンデンサ素子10を乾燥させることにより、拡大図Mに示されるように、ナノ粒子4は凝集して導電性高分子層40を形成する。
【0048】
しかし、セパレータ103へ導電性高分子液が十分に含浸されず、導電性高分子層40の形成が不十分となるおそれがある。
【0049】
図4は、導電性高分子層40の形成が不十分である場合の図2のA-A線に沿った断面の一部を示す断面図である。図4において、図3と共通する構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0050】
セパレータ103の高さ方向の中央部103mには、導電性高分子液から先行した溶媒(例えば水)が到達して充満されているため、ナノ粒子4がほとんど到達せず、セパレータ103の乾燥後、導電性高分子層40は形成されない。導電性高分子層40はセパレータ103の高さ方向の両端部のみに、図3の場合よりナノ粒子4の密度が高い状態で形成されている。導電性高分子層40は、セパレータ103の高さ方向の上部及び下部から中央部103mに向かって薄くなっていく。
【0051】
このため、セパレータ103の高さ方向の中央部103mは、その両端部よりも高抵抗となり、発熱量も高くなる。これに対し、図3に示されるように、セパレータ103の高さ方向全体にわたって導電性高分子層40が形成された場合、高さ方向において抵抗は実質的に一様となる。したがって、アルミ電解コンデンサ1のESRは、導電性高分子層40の形成領域が大きいほど、低下する。なお、セパレータ103の高さ方向の中央部103mには、導電性高分子層40が存在しない場合でも電解液は存在する。このため、アルミ電解コンデンサ1の静電容量は、図3の場合と実質的に差分がない。
【0052】
セパレータ103に導電性高分子液を十分に含浸するため、アルミ電解コンデンサ1の製造工程は以下の方法により行われる。
【0053】
(アルミ電解コンデンサの製造工程)
図5は、アルミ電解コンデンサ1の製造工程の一例を示すフローチャートである。アルミ電解コンデンサ1の製造にあたって、陽極箔101、陰極箔102、及びセパレータ103などを準備する。例えば、陽極箔101の厚みは5~200(μm)であり、セパレータの厚みは1~100(μm)である。陽極箔101及び陰極箔102の各表面には、エッチング処理によりピットが形成されている。陽極箔101には化成処理が施され、エッチング処理された表面上に酸化被膜の誘電体層が形成されている。また、陽極箔101及び陰極箔102には、一対の引き出し電極19がそれぞれ接続されている。引き出し電極19を接続手段としては、一例としてかしめが挙げられるが、これに限定されない。
【0054】
まず、陽極箔101、セパレータ103、陰極箔102、及びセパレータ103をこの順に積層して巻回し、外側表面を巻止めテープで固定することで巻回体100を生成する(ステップSt1)。これにより、導電性高分子液及び電解液に浸漬する前段階の電解コンデンサ素子10が生成される。
【0055】
次に巻回体100を例えばリン酸アンモニウム水溶液に浸漬させて陽極箔101に対して所定電圧を印加しながら再化成処理を施して、酸化被膜を修復し、陽極箔101の切り口に表面に誘電体層を形成する(ステップSt2)。
【0056】
次に減圧雰囲気中で、導電性高分子の分散液に巻回体100を浸漬し、巻回体100に分散液を含浸させる(ステップSt3)。なお、導電性高分子の分散液に代えて、導電性高分子を含む溶液に巻回体100を浸漬してもよい。巻回体100を導電性高分子液に浸漬する方法については後述する。
【0057】
次に巻回体100を乾燥させる(ステップSt4)。このとき、巻回体100内のセパレータ103に含浸された導電性高分子液のうち、溶媒である水分は蒸発し、ナノ粒子4は導電性高分子層40を形成する。
【0058】
次に減圧雰囲気中で電解液を電解コンデンサ素子10に含浸させる(ステップSt5)。次に電解コンデンサ素子10をケース11に収容して封口体12によって封口する(ステップSt6)。このとき、電解コンデンサ素子10から延びる引き出し電極19は封口体12の貫通孔120に挿通される。その後、アルミ電解コンデンサ1に定格電圧を印加しながらエージング処理を行なってもよい。このようにしてアルミ電解コンデンサ1の製造工程は行われる。なお、アルミ電解コンデンサ1の製造工程はアルミ電解コンデンサ1の製造方法の一例である。
【0059】
(電解コンデンサ素子の浸漬方法)
上記のステップSt3において、巻回体100、つまり導電性高分子液及び電解液に浸漬する前段階の電解コンデンサ素子10(以下、電解コンデンサ素子10a)を導電性高分子液に浸漬する方法を述べる。なお、以下の実施形態では、導電性高分子の分散液を例示するが、導電性高分子の溶液の場合も浸漬方法は同様である。
【0060】
図6は、電解コンデンサ素子10aの浸漬方法を示す図である。図6には、真空チャンバ9に設置された貯留槽90の鉛直方向に沿った断面と、電解コンデンサ素子10aとが示されている。電解コンデンサ素子10aは、セパレータ103に導電性高分子が含浸されるように、貯留槽90に貯留された導電性高分子の分散液Lに浸漬される。なお、真空チャンバ9はチャンバの一例である。
【0061】
圧力制御装置(CNT)91は、真空チャンバ9内の圧力を不図示の真空ポンプなどにより制御する。具体的には、圧力制御装置91は、符号Gで示されるように、時間の経過に応じて真空チャンバ9内の真空度(kPa)を制御する。真空度は、真空チャンバ9周囲の大気圧を0(kPa)としたときの相対的な圧力である。本実施形態では、一例として真空度が-93(kPa)であるとき、真空チャンバ9内は実質的に真空であると規定する。
【0062】
圧力制御装置91は、減圧引き工程St11、減圧保持工程St12、大気開放工程St13、及び大気保持工程St14をこの順で実行する。符号Gのグラフは、減圧引き工程St11、減圧保持工程St12、大気開放工程St13、及び大気保持工程St14の所要時間である減圧引き時間、減圧保持時間、大気開放時間、及び大気保持時間とともに真空度の時間変化を示す。また、貯留槽90に対する電解コンデンサ素子10aの位置も工程ごとに示されている。
【0063】
減圧引き工程St11は、真空チャンバ0内を減圧して実質的に真空状態とする工程の一例である。圧力制御装置91は、減圧引き工程St11において、真空チャンバ9内の真空度を所定の減圧引き時間で大気圧の0(kPa)から真空(-93(kPa))に減圧する。減圧引き時間は一例として60(秒)である。また、単位時間当たりの圧力の低下値は一定である。減圧引き工程St11により真空チャンバ9内は実質的に真空状態となる。
【0064】
減圧引き工程St11の実行中、電解コンデンサ素子10aは真空チャンバ9内の導電性高分子の分散液Lの外部に保持される。つまり、電解コンデンサ素子10aは分散液Lに浸漬されていない。このため、本工程によると、分散液Lに浸漬する前に電解コンデンサ素子10a内から空気を除去することができるため、後工程において分散液Lを電解コンデンサ素子10aにスムーズに導入することができる。
【0065】
これに対し、減圧引き工程St11の実行中、電解コンデンサ素子10aを分散液Lに浸漬した状態に維持した場合、電解コンデンサ素子10aから空気が抜けるときに分散液Lを泡立ててしまう。このため、電解コンデンサ素子10aに断続的に分散液Lが侵入することとなり、セパレータ103導電性高分子を十分に含浸させることができないおそれがある。
【0066】
減圧保持工程St12は、電解コンデンサ素子10aを分散液Lに浸漬し、減圧保持時間だけ、真空チャンバ9内を真空状態に維持する工程の一例である。本工程において、電解コンデンサ素子10aの巻回体100は完全に分散液Lに浸漬される。このとき、巻回体10は、下面100dを貯留槽90の底面90aに対向させ、上面100uを分散液Lの液面Lsに略平行に維持した姿勢に保持される。
【0067】
電解コンデンサ素子10aが分散液Lに浸漬される一方で、圧力制御装置91は、真空度を-93(kPa)に維持する。巻回体10内でセパレータ103は陽極箔101及び陰極箔102に挟まれているため、分散液Lは、毛細管現象によりセパレータ103の高さ方向の両端部から中央部に向かうように導入される。
【0068】
大気開放工程St13は、電解コンデンサ素子10aを分散液Lに浸漬したまま、大気開放時間で真空チャンバ9内を、真空状態に減圧される前の大気圧まで戻す工程の一例である。本工程において、巻回体100は、減圧保持工程St12から連続して分散液Lに浸漬された状態に維持される。巻回体100が浸漬された状態のまま、圧力制御装置91は真空度を0(kPa)まで大気開放によって自然に増加させる。このとき、単位時間当たりの圧力の増加値は実質的に一定である。また、大気開放工程St13では、真空チャンバ9内をポンプなどで加圧することにより減圧前の大気圧に戻してもよい。この場合、自然に圧力を増加させる場合と比べると、単位時間当たりの圧力の増加値を実質的に速めることができ、更に減圧状態から加圧状態までの合算した圧力変化を利用できるという利点がある。
【0069】
大気保持工程St14は、電解コンデンサ素子10aを分散液Lに浸漬したまま、真空チャンバ9内を大気圧保持時間だけ大気圧に保持する工程の一例である。大気保持時間の経過後は、電解コンデンサ素子10aは分散液Lから引き上げられる。大気保持時間は、一例として6(秒)であるが、これに限定されない。以上の工程により電解コンデンサ素子10aのセパレータ103に導電性高分子が含浸される。
【0070】
導電性高分子の含浸状態の良否は減圧保持時間及び大気開放時間に依存する。減圧保持時間及び大気開放時間の少なくとも一方を適切に調整することにより、導電性高分子をセパレータ103の高さ方向の中央部またはその近傍まで含浸させることができる。以下に減圧保持工程St12及び大気開放工程St13における含浸のプロセスを説明する。
【0071】
図7は、減圧保持工程St12において導電性高分子の分散液がセパレータ103に含浸される様子の一例を示す巻回体100の断面図である。セパレータ103において、複数の直線でハッチングされた領域A1は分散液から分離した溶媒の水分が含浸した領域を示し、網掛けでハッチングされた領域A2は分散液が含浸した領域を示す。また、セパレータ103において、ハッチングの無い領域は水分及び分散液の何れも含浸していない領域を示す。
【0072】
減圧保持工程St12では、セパレータ103の高さ方向の両端部103u,103dから毛細管現象により分散液が含浸される。分散液は、矢印Dで示されるように、セパレータ103の高さ方向の両端部103u,103dから中央部103mに向かう。
【0073】
しかし、導電性高分子のナノ粒子4と溶媒のセパレータ103に対する含浸速度が異なるため、ある程度含浸が進むと、導電性高分子液から溶媒(例えば水)が先行してセパレータの高さ方向の中央部103mへ到達する。このため、先行した溶媒が充満したセパレータの中央部103mに導電性高分子が到達することが困難となり、結果として導電性高分子のナノ粒子4が大量に蓄積された蓄積領域80が両端部103u,103d側に形成されてしまう。符号Kは、蓄積領域80と他の領域の境界付近の拡大図を示す。蓄積領域80では、他の領域より高密度でナノ粒子4が存在する。
【0074】
図8は、セパレータ103に分散液が十分に含浸されていない巻回体100の一例を示す断面図である。上述したように、分散液から分離した水分がセパレータ103の中央部103mを満たしているため、導電性高分子が蓄積領域80を通過してセパレータ103の高さ方向の中央部103mへ到達するのは困難である。
【0075】
したがって、ナノ粒子4の分布がセパレータ103の高さ方向の両端部103u,103dに偏り、セパレータ103の中央部103mに近い領域ほど、ナノ粒子4が少なくなる。このため、図4に示されるように、セパレータ103の中央部103mのナノ粒子4が極めて少ない導電性高分子層40が形成される。したがって、アルミ電解コンデンサ1のESRは、ナノ粒子4がセパレータ103の高さ方向に均一に分布する場合と比べると、高くなってしまう。
【0076】
これに対し、例えば減圧保持工程St12を図7の例より短縮することにより、ナノ粒子4の蓄積領域80が形成される前に大気開放工程St13を開始すると、ナノ粒子4がセパレータ103の高さ方向に均一に分布させることができる。
【0077】
図9は、ナノ粒子4の蓄積領域80が形成される前に大気開放工程St13が開始された場合の分散液の含浸状態の一例を示す巻回体100の断面図である。本例において、分散液は、図7の例と比べると、分散液の含浸が進行しておらず、その含浸領域はセパレータ103の中央部103mから見て遠く、高さ方向の長さが短い。
【0078】
大気開放工程St13では真空チャンバ9内が大気圧まで戻されるため、セパレータ103において分散液が存在しない中央部103m側の領域には陰圧が生じ、分散液が含浸された両端部103u,103d側の領域には陽圧が生ずる。このため、中央部103m側の領域と両端部103u,103d側の領域の間の差圧(以下、領域間差圧と表記)により、分散液は、矢印Dで示されるように中央部103mに向かって移動する。この領域間差圧を利用することにより、両端部103u,103dから中央部103mにわたって導電性高分子のナノ粒子4を分布させることができる。
【0079】
図10は、セパレータ103に分散液が理想的に含浸された巻回体100の一例を示す断面図である。本例では、セパレータ103の両端部103u,103dから中央部103mにわたって分散液が含浸されている。このため、セパレータ103の高さ方向においてナノ粒子4が均一に分布することが可能となり、図3に示されるように、セパレータ103の高さ方向全体にわたって導電性高分子層40を形成することができる。
【0080】
このように、分散液を含浸させる原動力として、毛細管現象だけでなく、大気開放工程St13におけるセパレータ103の領域間差圧を利用することによりセパレータ103内のナノ粒子4の分布状態を改善することができる。減圧保持工程St12では毛細管現象が利用され、大気開放工程St13では差圧が利用されるため、減圧保持時間及び大気開放時間を適切に調整することにより、セパレータ103の中央部103mに多くの分散液を含浸させることができる。このようにセパレータ103の中央部103mに多くの分散液を含浸させることで、セパレータ103に対向した陽極箔101や陰極箔102の表面に沿って導電性高分子分散液が浸透する。
【0081】
例えば減圧保持時間を短くすると、上述したように、セパレータ103にナノ粒子4の蓄積領域80が形成される前に大気開放工程St13を開始することができる。また、減圧保持時間を短くすると、蓄積領域80の形成が抑制されるため、大気開放工程St13を開始した時点での蓄積領域80の大きさを低減することができる。このため、分散液を含浸させる原動力として、毛細管現象より領域間差圧を多く利用して分散液をセパレータ103に十分に含浸させることができるため、ESRを低減することができる。
【0082】
一例として、減圧保持時間及び大気圧開放時間の比較対象の各基準値を、それぞれ、900(秒)及び60(秒)と定め、この場合のアルミ電解コンデンサ1のESRをRoとする。減圧保持時間を600(秒)以下に短縮し、大気開放時間を基準値の60(秒)とした場合、アルミ電解コンデンサ1のESRはRo未満に低減される。また、減圧保持時間を120(秒)以下に短縮し、大気開放時間を基準値の60(秒)とした場合、アルミ電解コンデンサ1のESRはさらに低減されるため、好ましい。
【0083】
一方、減圧保持時間が過剰に短い場合、セパレータ103内の空気が十分に抜ける前に大気開放工程St13が開始されるため、残った空気による電解コンデンサ素子10aの外観やセパレータ103の外観に不良が生ずる。このため、減圧保持時間は1(秒)以上であると好ましい。
【0084】
また、減圧保持時間を基準値の900(秒)としたまま、大気開放時間だけを基準値より短縮してもよい。この場合、大気開放工程St13において、単位時間当たりの圧力の増加値が基準値の場合より増加する。このため、セパレータ103により強い領域間差圧を発生させることができるため、ナノ粒子4の蓄積領域80が形成されていても、強い押圧力で蓄積領域80からナノ粒子4を分離させてセパレータ103の中央部103mまで移動させることができる。このため、減圧保持時間を短縮した場合と同様にESRを低減することができる。
【0085】
例えば減圧保持時間を基準値の900(秒)とし、大気開放時間を40(秒)以下に短縮した場合、アルミ電解コンデンサ1のESRはRo未満に低減される。また、減圧保持時間を基準値の900(秒)とし、大気開放時間を20(秒)以下に短縮した場合、アルミ電解コンデンサ1のESRはさらに低減されるため、好ましい。
【0086】
一方、大気開放時間が過剰に短い場合、セパレータ103内に急激に空気が侵入するため、電解コンデンサ素子10aの外観やセパレータ103の外観に不良が生ずる。このため、減圧保持時間は1(秒)以上であると好ましい。
【0087】
また、減圧保持時間及び大気開放時間の両方を各基準値より短縮した場合、ナノ粒子4の蓄積領域80の形成を抑制するとともに、セパレータ103の領域間差圧を強めることができるため、上記と同様にESRを低減することが可能である。例えば減圧保持時間を300(秒)以下に短縮し、大気開放時間を40(秒)以下に短縮した場合、アルミ電解コンデンサ1のESRはRo未満に低減される。また、減圧保持時間を60(秒)以下に短縮し、大気開放時間を20(秒)以下に短縮した場合、アルミ電解コンデンサ1のESRはさらに低減されるため、好ましい。また、減圧保持時間を30(秒)以下に短縮し、大気開放時間を20(秒)以下に短縮した場合、アルミ電解コンデンサ1のESRはさらに低減されるため、好ましい。
【0088】
また、減圧保持時間及び大気開放時間が過剰に短い場合、上述したように、電解コンデンサ素子10aの外観やセパレータ103の外観に不良が生ずる。このため、減圧保持時間は5(秒)以上であり、減圧保持時間は5(秒)以上であると好ましい。
【実施例0089】
上記の製造工程に従ってアルミ電解コンデンサ1のサンプルNo.1~28を200個ずつ作製した。導電性高分子の含浸する工程(St3)では、サンプルNo.1~28ごとに個別の減圧保持時間及び大気開放時間を設定した。なお、真空チャンバ9内の真空度は-93(kPa)に設定した。サンプルNo.1~28の定格電圧及び定格静電容量は、それぞれ、63(V)及び33(μF)とした。サンプルNo.1~28のケースのサイズは直径8(mm)×長さ10(mm)とした。
【0090】
アルミ電解コンデンサ1のサンプルNo.1~28の各々について、100個分のESRの平均値を測定した。4端子測定用のLCRメータを用いて、アルミ電解コンデンサ1の周波数が100kHzであるときのESR(初期ESR)(mΩ)を測定した。また、サンプルNo.1~28の各々について、残り100個分の外観検査及び解体検査を行った。電解コンデンサ素子10に、導電性高分子がセパレータ103の中央部103mに十分に含浸されていないことが外観上で確認された場合、外観不良と判定した。
【0091】
(サンプルNo.1~10)
サンプルNo.1~10を用いて、減圧保持時間及び大気開放時間をそれぞれ基準値より短縮した場合のESR及び外観を評価した。
【0092】
【表1】
【0093】
表1は、サンプルNo.1~10の評価結果を示す。サンプルNo.10の減圧保持時間及び大気開放時間は、それぞれ、上記の基準値の900(秒)及び60(秒)とした。サンプルNo.1~9の減圧保持時間は基準値の900秒未満とし、サンプルNo.1~9の大気開放時間は基準値の60秒未満とした。
【0094】
サンプルNo.9のESRである19.1(mΩ)に対する他のサンプルNo.1~9のESRの比(ESR比)を計測した。サンプルNo.1~9のESR比は1未満となった。このため、減圧保持時間及び大気開放時間の短縮によりサンプルNo.1~9のESRが低減されたことがわかる。
【0095】
また、サンプルNo.1~7の各々について、100個中、外観不良の個数(外観不良数と表記)を測定した。サンプルNo.1,2の外観不良数は3(個)であり、サンプルNo.3の外観不良数は2(個)であった。また、サンプルNo.4~9の外観不良数は0(個)であり、サンプルNo.10の外観不良数は100(個)であった。
【0096】
ESR比が1未満であり、外観不良数が0(個)であるサンプルNo.4~9の判定結果は「〇」とし、ESR比が1未満であり、外観不良数が3(個)以下であるサンプルNo.1~3の判定結果は「△」とした。また、ESRが1以上であるサンプルNo.10の判定結果は「×」とした。
【0097】
まず、ESR比を検討する。サンプルNo.1~9のように、減圧保持時間を300(秒)以下に短縮し、大気開放時間を40(秒)以下に短縮した場合、セパレータ103内のナノ粒子4の蓄積領域80の形成を抑制するとともに、導電性高分子の含浸に対するセパレータ103の領域間差圧の影響を毛細管現象の影響よりも増大させることができるため、ESR比は0.796以下に低減された。また、サンプルNo.1~8のように、減圧保持時間を60(秒)以下に短縮し、大気開放時間を20(秒)以下に短縮した場合、ESR比は0.743以下にさらに低減されたため、好ましい。また、サンプルNo.1~7のように、減圧保持時間を30(秒)以下に短縮し、大気開放時間を20(秒)以下に短縮した場合、ESR比は0.738以下に低減されたため、さらに好ましい。
【0098】
次に外観不良数を検討する。サンプルNo.4~9のように、減圧保持時間を5~600(秒)とし、大気開放時間を5~40(秒)とした場合、減圧保持工程St12及び大気開放工程St13における電解コンデンサ素子10への空気の影響を低減することができるため、外観不良数が0(個)となり、好ましい。
【0099】
(サンプルNo.11~18)
サンプルNo.11~18を用いて、減圧保持時間を基準値とし、大気開放時間を基準値より短縮した場合のESR及び外観を評価した。
【0100】
【表2】
【0101】
表2は、サンプルNo.11~18の評価結果を示す。サンプルNo.16の減圧保持時間及び大気開放時間は、それぞれ、上記の基準値の900(秒)及び60(秒)とした。サンプルNo.11~15の減圧保持時間は基準値の900秒とし、サンプルNo.11~15の大気開放時間は基準値の60秒未満とした。また、サンプルNo.17,18の減圧保持時間は基準値の900秒とし、サンプルNo.17,18の大気開放時間は、それそれ、基準値より長い120秒及び300秒とした。
【0102】
サンプルNo.16のESRである19.1(mΩ)に対する他のサンプルNo.11~15,17,18のESR比を計測した。サンプルNo.11~15のESR比は1未満となった。このため、大気開放時間の短縮によりサンプルNo.11~15のESRが低減されたことがわかる。また、サンプルNo.17,18のESR比は1以上となった。このため、大気開放時間の増加によりサンプルNo.17,18のESRが増加したことがわかる。
【0103】
また、サンプルNo.11~18の各々について、100個中、外観不良数を測定した。サンプルNo.11の外観不良数は2(個)であり、サンプルNo.12~15の外観不良数は0(個)であった。サンプルNo.16~18の外観不良数は100(個)であった。
【0104】
ESR比が1未満であり、外観不良数が0(個)であるサンプルNo.12~15の判定結果は「〇」とし、ESR比が1未満であり、外観不良数が3(個)以下であるサンプルNo.11の判定結果は「△」とした。また、ESRが1以上であるサンプルNo.16~18の判定結果は「×」とした。
【0105】
まず、ESR比を検討する。サンプルNo.11~15のように、減圧保持時間を基準値の900(秒)とし、大気開放時間を40(秒)以下に短縮した場合、セパレータ103の領域間差圧を強め、導電性高分子の含浸に対する領域間差圧の影響を毛細管現象の影響よりも増大させることができるため、ESR比は0.963以下に低減された。また、サンプルNo.11~14のように、減圧保持時間を900(秒)とし、大気開放時間を20(秒)以下に短縮した場合、ESR比は0.916以下にさらに低減されたため、好ましい。
【0106】
次に外観不良数を検討する。サンプルNo.12~15のように、減圧保持時間を900(秒)とし、大気開放時間を5~40(秒)とした場合、大気開放工程St13における電解コンデンサ素子10への空気の影響を低減することができるため、外観不良数は0(個)となり、好ましい。
【0107】
(サンプルNo.19~28)
サンプルNo.19~28を用いて、減圧保持時間を基準値より短縮し、大気開放時間を基準値とした場合のESR及び外観を評価した。
【0108】
【表3】
【0109】
表3は、サンプルNo.19~28の評価結果を示す。サンプルNo.27の減圧保持時間及び大気開放時間は、それぞれ、上記の基準値の900(秒)及び60(秒)とした。サンプルNo.19~26の減圧保持時間は基準値の900秒未満とし、サンプルNo.19~26の大気開放時間は基準値の60秒とした。また、サンプルNo.28の減圧保持時間は1200秒とし、サンプルNo.28の大気開放時間は基準値の60秒とした。
【0110】
サンプルNo.27のESRである19.1(mΩ)に対する他のサンプルNo.19~26,28のESR比を計測した。サンプルNo.19~26のESR比は1未満となった。このため、減圧保持時間の短縮によりサンプルNo.19~26のESRが低減されたことがわかる。また、サンプルNo.28のESR比は1以上となった。このため、減圧保持時間の増加によりサンプルNo.28のESRが増加したことがわかる。
【0111】
また、サンプルNo.19~28の各々について、100個中、外観不良数を測定した。サンプルNo.19の外観不良数は2(個)であり、サンプルNo.20~26の外観不良数は0(個)であった。サンプルNo.27,28の外観不良数は100(個)であった。
【0112】
ESR比が1未満であり、外観不良数が0(個)であるサンプルNo.20~26の判定結果は「〇」とし、ESR比が1未満であり、外観不良数が3(個)未満であるサンプルNo.19の判定結果は「△」とした。また、ESRが1以上のサンプルNo.27,28の判定結果は「×」とした。
【0113】
まず、ESR比を検討する。サンプルNo.19~26のように、減圧保持時間を基準値の600(秒)以下とし、大気開放時間を基準値の60(秒)とした場合、セパレータ103内のナノ粒子4の蓄積領域80の形成を抑制し、導電性高分子の含浸に対するセパレータ103の領域間差圧の影響を毛細管現象の影響よりも増大させることができるため、ESR比は0.916以下に低減された。また、サンプルNo.19~24のように、減圧保持時間を120(秒)以下とし、大気開放時間を60(秒)とした場合、ESR比は0.895以下にさらに低減されたため、好ましい。
【0114】
次に外観不良数を検討する。サンプルNo.20~26のように、減圧保持時間を5~600(秒)とし、大気開放時間を60(秒)とした場合、減圧保持工程St12における電解コンデンサ素子10への空気の影響を低減することができるため、外観不良数は0(個)となり、好ましい。
【0115】
このように、減圧保持時間及び大気開放時間の少なくとも一方を基準値より短縮することにより、アルミ電解コンデンサ1のESRを低減することができる。また、電解コンデンサ素子10aの浸漬工程の所要時間の短縮も可能となる。
【0116】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0117】
1 アルミ電解コンデンサ
10,10a 電解コンデンサ素子
11 ケース
12 封口体
13 座板
40 導電性高分子層
100 巻回体
101 陽極箔
102 陰極箔
103 セパレータ

図1
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