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特開2024-117463軟磁性合金粉末、磁気コア、磁性部品および電子機器
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117463
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】軟磁性合金粉末、磁気コア、磁性部品および電子機器
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/20 20060101AFI20240822BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20240822BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
H01F1/20 ZNM
H01F1/153 108
H01F1/153 133
H01F1/153 175
H01F27/255
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023579
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】梶浦 良紀
(72)【発明者】
【氏名】吉留 和宏
(72)【発明者】
【氏名】松元 裕之
【テーマコード(参考)】
5E041
【Fターム(参考)】
5E041AA11
5E041BB05
5E041BD03
5E041BD12
(57)【要約】
【課題】直流重畳特性に優れるコア得るための軟磁性粉末と、その軟磁性粉末を含む磁気コア、磁性部品および電子機器を提供すること。
【解決手段】それぞれ軟磁性材料で構成してある第1粒子と第2粒子と第3粒子とを少なくとも含む軟磁性合金粉末である。前記軟磁性合金粉末の組成比率から計算される算出密度に対する粉体密度の割合が90%以上99.5%以下である。体積基準のメジアン径を横軸とし、前記第1粒子から第3粒子のそれぞれの粉体密度を第3粒子の粉体密度で割り算した相対粉体密度を縦軸とする仮想の二次元座標を想定し、前記仮想の二次元座標に、前記第1粒子から第3粒子におけるそれぞれの体積基準のメジアン径と前記相対粉体密度との関係をプロットし、プロットしたデータを最小二乗法により線形近似し、得られた近似直線の傾きをT(/μm)とした場合に、-0.003≦T≦-0.00005を満たす。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ軟磁性材料で構成してある第1粒子と第2粒子と第3粒子とを少なくとも含む軟磁性合金粉末であって、
前記軟磁性合金粉末を構成する各元素の密度および組成比率から計算される算出密度に対する前記軟磁性合金粉末の粉体密度の割合が90%以上99.5%以下であり、
前記軟磁性合金粉末に対し、目開き53μmのJIS標準ふるい、目開き45μmのJIS標準ふるい、目開き32μmのJIS標準ふるい、目開き25μmのJIS標準ふるい、目開き20μmのJIS標準ふるいを用いて、この順で分級処理した場合に、
前記第1粒子が、目開き53μmのJIS標準ふるいを通過し、目開き45μmのJIS標準ふるいを通過しない粒子として定義され、
前記第2粒子が、目開き32μmのJIS標準ふるいを通過し、目開き25μmのJIS標準ふるいを通過しない粒子として定義され、
前記第3粒子が、目開き20μmのJIS標準ふるいを通過する粒子として定義され、
体積基準のメジアン径を横軸とし、前記第1粒子から第3粒子のそれぞれの粉体密度を前記第3粒子の粉体密度で割り算した相対粉体密度を縦軸とする仮想の二次元座標を想定し、
前記仮想の二次元座標に、前記第1粒子から第3粒子におけるそれぞれの体積基準のメジアン径と前記相対粉体密度との関係をプロットし、
プロットしたデータを最小二乗法により線形近似し、得られた近似直線の傾きをT(/μm)とした場合に、
-0.003≦T≦-0.00005
を満たす軟磁性合金粉末。
【請求項2】
前記軟磁性合金粉末が、ナノ結晶構造またはアモルファス構造を有する請求項1に記載の軟磁性合金粉末。
【請求項3】
請求項1または2に記載の軟磁性合金粉末を含む磁気コア。
【請求項4】
請求項1または2に記載の軟磁性合金粉末を含む磁性部品
【請求項5】
請求項4に記載の磁性部品を含む電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性合金粉末、磁気コア、磁性部品および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器の電源回路に用いられるコイル部品として、トランス、チョークコイル、インダクタ等が知られている。このようなコイル部品においては、大電流にも対応可能なように直流重畳特性に優れる磁気コアが求められている。
【0003】
下記の特許文献1では、磁性体コアを構成する軟磁性粉末において、中空粒子の数を低減することで、磁性体コアの電力損失(コアロス)を抑える技術が開示されている。しかしながら、特許文献1に示す範囲で中空粒子の数を制御しても、十分な直流重畳特性が得られないことが、発明者等によって明らかになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2017/022595
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、直流重畳特性に優れる磁気コアを得るための軟磁性合金粉末と、その軟磁性合金粉末を含む磁気コア、磁性部品および電子機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、直流重畳特性に優れる磁気コアを得るための軟磁性合金粉末について鋭意検討した結果、軟磁性合金粉末に含まれる、それぞれ粒径範囲が相互に異なる3種類の粒子に着目し、これらの粒子の粉体密度が所定の関係にあるときに、直流重畳特性が向上する磁気コアを作製できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明の一態様に係る軟磁性合金粉末は、
それぞれ軟磁性材料で構成してある第1粒子と第2粒子と第3粒子とを少なくとも含む軟磁性合金粉末であって、
前記軟磁性合金粉末を構成する各元素の密度および組成比率から計算される算出密度に対する前記軟磁性合金粉末の粉体密度の割合が90%以上99.5%以下であり、
前記軟磁性合金粉末に対し、目開き53μmのJIS標準ふるい、目開き45μmのJIS標準ふるい、目開き32μmのJIS標準ふるい、目開き25μmのJIS標準ふるい、目開き20μmのJIS標準ふるいを用いて、この順で分級処理した場合に、
前記第1粒子が、目開き53μmのJIS標準ふるいを通過し、目開き45μmのJIS標準ふるいを通過しない粒子として定義され、
前記第2粒子が、目開き32μmのJIS標準ふるいを通過し、目開き25μmのJIS標準ふるいを通過しない粒子として定義され、
前記第3粒子が、目開き20μmのJIS標準ふるいを通過する粒子として定義され、
体積基準のメジアン径を横軸とし、前記第1粒子から第3粒子のそれぞれの粉体密度を前記第3粒子の粉体密度で割り算した相対粉体密度を縦軸とする仮想の二次元座標を想定し、
前記仮想の二次元座標に、第1粒子から第3粒子におけるそれぞれの体積基準のメジアン径と前記相対粉体密度との関係をプロットし、
プロットしたデータを最小二乗法により線形近似し、得られた近似直線の傾きをT(/μm)とした場合に、
-0.003≦T≦-0.00005を満たす。
【0008】
このような関係を有する軟磁性合金粉末を含む成形用粉末を用いて磁気コアを製造することで、磁気コアの直流重畳特性が向上する。
【0009】
前記軟磁性粉末が、ナノ結晶構造またはアモルファス構造を有していてもよい。
【0010】
本発明の一態様に係る磁気コアは、上記の軟磁性合金粉末を含み、本発明の一態様に係る磁性部品は、上記の軟磁性合金粉末を含む。本発明の一態様に係る電子機器は、上記の磁性部品を含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A図1Aは、本発明の例示的な一実施形態に係る軟磁性合金粉末の概念図である。
図1B図1Bは、図1Aに示す軟磁性合金粉末の特性を示すグラフである。
図2図2は本発明の例示的な一実施形態に係る磁気コアを有するコイル装置の概略断面図である。
図3A図3Aは本発明の例示的な実施形態に係る楕円水流アトマイズ装置の概略断面図である。
図3B図3B図3Aに示す楕円水流アトマイズ装置の要部拡大断面図である。
図3C図3C図3Aに示す楕円水流アトマイズ装置の要部拡大断面斜視図である。
図4A図4A図3Aに示す楕円水流アトマイズ装置での冷却液の流れを側面から見た模式図である。
図4B図4B図4Aに示す冷却液の流れを鉛直方向から見た模式図である。
図5A図5A図3Aに示す楕円水流アトマイズ装置に係る筒体の構成を示す模式図である。
図5B図5B図3Aに示す筒体の変形例の構成を示す模式図である。
図6A図6Aは従来のアトマイズ装置での冷却水の流れを側面から見た模式図である。
図6B図6B図6Aに示す冷却水の流れを上から見た模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の例示的な実施形態に基づき説明する。
【0013】
第1実施形態
図1Aに示すように、本実施形態に係る軟磁性合金粉末6aは、第1粒子6a1と、第2粒子6a2と、第3粒子6a3とを有する。これらの粒子6a1,6a2,6a3は、それぞれ軟磁性材料で構成してある。これらの粒子6a1,6a2,6a3は、たとえば以下に示すように、分級処理により定義される。
【0014】
軟磁性合金粉末6aに対し、目開き53μmのJIS標準ふるい、目開き45μmのJIS標準ふるい、目開き32μmのJIS標準ふるい、目開き25μmのJIS標準ふるい、目開き20μmのJIS標準ふるいを用いて、この順で分級処理する。このような分級処理の結果として、第1粒子は、目開き53μmのJIS標準ふるいを通過し、目開き45μmのJIS標準ふるいを通過しない粒子として定義される。また、第2粒子は、目開き32μmのJIS標準ふるいを通過し、目開き25μmのJIS標準ふるいを通過しない粒子として定義される。第3粒子は、目開き20μmのJIS標準ふるいを通過する粒子として定義される。
【0015】
すなわち、第1粒子6a1と第2粒子6a2と第3粒子6a3とは、粒子径のサイズによって区別され、第1粒子6a1、第2粒子6a2および第3粒子6a3の順で、粒子サイズが大きい。
【0016】
本実施形態では、第1粒子6a1と第2粒子6a2と第3粒子6a3との合計体積を100体積%とした場合に、特に限定はなく、分級等で調整が可能であるが、好ましくは第1粒子6a1は、5~30体積%で含まれる。また、好ましくは、第2粒子6a2は、10~50体積%で含まれる。さらに、好ましくは第3粒子6a3は、40~80体積%で含まれる。
【0017】
軟磁性合金粉末6aは、その他の粒子サイズの粒子を含んでもよい。たとえば目開き53μmのJIS標準ふるいを通過しない第1その他粒子、目開き45μmのJIS標準ふるいを通過するが目開き32μmのJIS標準ふるいを通過しない第2その他粒子、目開き25μmのJIS標準ふるいを通過するが目開き20μmのJIS標準ふるいを通過する第3その他粒子を、軟磁性合金粉末6aは、含んでもよい。
【0018】
軟磁性合金粉末6aの全体を100体積%とした場合に、特に限定はないが、第1その他粒子、第2その他粒子および第3その他粒子は、それぞれ50体積%以内であることが好ましい。
【0019】
第1粒子6a1、第2粒子6a2および第3粒子6a3は、それぞれ異なる組成であってもよいが、同じ組成であることが好ましい。製造が容易であるからである。第1粒子6a1、第2粒子6a2および第3粒子6a3を含む軟磁性合金粉末は、Feを含む軟磁性合金で構成してあることが好ましい。
【0020】
本実施形態に係る軟磁性合金粉末は、組成式(Fe1-(α+β)X1αX2β)1-(a+b+c+d+e+f+g)abcSidCrefg(原子数比)からなる軟磁性合金粉末であってもよく、X1はCoおよびNiより選択される1種以上であり、
X2はMn、Ag、Zn、As、Sn、Cu、Bi、N、O、希土類元素および白金族元素からなる群より選択される1種以上であり、
MはNb、Hf、Zr、Ta、Mo、W、Al、TiおよびVからなる群より選択される1種以上であり、
α≧0
0≦β≦0.030
0≦a≦0.200
0≦b≦0.250
0≦c≦0.200
0≦d≦0.200
0≦e≦0.130
0≦f≦0.050
0≦g≦0.050
0.600≦1―(a+b+c+d+e+f+g)≦1.000
であってもよい。
【0021】
また、好ましくは、
0≦α≦0.800
0≦β≦0.030
0≦a≦0.140
0.02≦b≦0.200
0≦c≦0.100
0≦d≦0.130
0≦e≦0.110
0≦f≦0.030
0≦g≦0.030
0.650≦1―(a+b+c+d+e+f+g)≦1.000
を満たすことが好ましい。
【0022】
本実施形態に係る軟磁性合金粉末が上記の組成範囲を満たすことにより、本実施形態に係る軟磁性合金粉末が含まれる磁気コアにおいて、直流重畳特性が向上しやすくなる。
【0023】
本実施形態に係る軟磁性合金粉末は上記以外の元素、すなわちFe、X1、X2、M、B、P、Si、Cr、CおよびS以外の元素を不可避的不純物として含んでいてもよい。たとえば、軟磁性合金100質量%に対して0.1質量%以下、含んでいてもよい。
【0024】
本実施形態に係る軟磁性合金粉末の粒子径は特に制限はないが、体積基準におけるメジアン径(D50)が10μm以上50μm以下であってもよい。
【0025】
軟磁性合金粉末における体積基準によるD50の測定方法に特に制限はないが、レーザー回折法などの各種粒度分析法により測定してもよい。
【0026】
本実施形態に係る軟磁性合金粉末の微細構造には特に制限はないが、非晶質からなる構造、ヘテロアモルファスからなる構造またはナノ結晶からなる構造を有することが好ましい。本実施形態に係る軟磁性合金粉末を用いた磁気コアにおける直流重畳特性を改善しやすいためである。
【0027】
以下の記載では、非晶質構造とは、非晶質化率Xが85%以上であり、結晶が観察されない構造を指す。ヘテロアモルファスからなる構造とは、非晶質化率Xが85%以上であり、結晶が非晶質中に存在する構造を指す。ナノ結晶からなる構造とは、非晶質化率Xが85%未満であり、平均結晶粒径が100nm以下である構造を指す。結晶からなる構造とは、非晶質化率Xが85%未満であり、平均結晶粒径が100nmを上回る構造を指す。
【0028】
本実施形態に係る軟磁性合金粉末がヘテロアモルファスからなる構造を有する場合には、平均結晶粒径が0.1nm以上10nm以下であることが好ましい。本実施形態に係る軟磁性合金粉末がナノ結晶からなる構造を有する場合には、平均結晶粒径が3nm以上50nm以下であることが好ましい。
【0029】
非晶質化率Xを評価する方法には特に制限はない。たとえば、XRDを用いる方法がある。
【0030】
以下、XRDを用いて非晶質化率を評価する方法について説明する。なお、XRDを用いて平均結晶粒径を評価する方法については特に制限はなく、通常用いられる方法で適宜、評価することができる。
【0031】
XRDにより非晶質化率Xを評価する場合には、非晶質化率Xは下記式(1)により算出される。
X=100-(Ic/(Ic+Ia)×100)…(1)
Ic:結晶性散乱積分強度
Ia:非晶質性散乱積分強度
【0032】
非晶質化率Xは、軟磁性合金粉末に対してXRDによりX線結晶構造解析を実施し、相の同定を行い、結晶化したFe又は化合物のピーク(Ic:結晶性散乱積分強度、Ia:非晶質性散乱積分強度)を読み取り、そのピーク強度から結晶化率を割り出し、上記式(1)により算出する。
【0033】
図1Aに示すように、本実施形態に係る軟磁性合金粉末では、第1粒子6a1、第2粒子6a2および第3粒子6a3は、単一または複数の空孔6bが形成されている粒子を含んでいる。また、本実施形態においては、軟磁性合金粉末6aを構成する各元素の密度および組成比率から計算される算出密度に対する軟磁性合金粉末6aの粉体密度の割合が90%以上99.5%以下である。
【0034】
算出密度は、たとえば以下のようにして測定することができる。たとえば、まず第1粒子6a1、第2粒子6a2および第3粒子6a3を含む軟磁性合金粉末6aについて、ICP分析を行う。得られた組成に基づいて、各成分の質量割合と大気圧室温条件下における元素単体の密度の積の総和を求め、これを算出密度とすることができる。たとえば、組成解析の結果、粉体の組成がFe含有量93.5wt%であり、Si含有量6.5wt%であると分かった場合には、各元素の密度から、以下の式により、算出密度を求める。たとえばFe単体の密度が7.874g/cm3 であることが知られており、Si単体の密度が2.3g/cm3 であることが知られていることから、その場合の算出密度は、(7.874×0.935+2.3×0.065)/100=7.512g/cm3 として求めることができる。
【0035】
また、粉体密度は、たとえばHeを用いたガスピクノメーター法によって測定を行い、得られた値を粉体密度として測定することができる。ガスピクノメーター法によって測定された粉体密度では、各粒子6a1,6a2,6a3の表面の凹凸や粒子形状が起因して発生する粒子間の空隙は体積には含まれないが、各粒子6a1,6a2,6a3内の閉じている空孔6bも粒子の一部として密度を計測することになる。
【0036】
タップ密度法や嵩密度法による粉体の密度測定は、粒子内に含まれる空孔6bを粒子の一部とすることに加え、粒子表面の凹凸や粒子形状が起因して発生する粒子間の空隙も粉体の体積として含めることになる。そのため、本実施形態に係る軟磁性合金粉末の粉体の密度を測定する方法としては適さない。
【0037】
粒子内に空孔6bが全く存在していなければ算出密度は粉体密度と略同じになるが、粒子内に空孔6bが存在していることで、算出密度は粉体密度よりも大きな関係になる。
【0038】
本実施形態では、図1Bに示すように、体積基準のメジアン径D50を横軸とし、第1粒子6a1から第3粒子6a3のそれぞれの粉体密度を第3粒子の粉体密度で割り算した相対粉体密度を縦軸とする仮想の二次元座標を想定する。その仮想の二次元座標に、第1粒子6a1から第3粒子6a3におけるそれぞれの体積基準のメジアン径D50とそれぞれの粒子6a1~6a3の各相対粉体密度との関係をプロットする。プロットしたデータを最小二乗法により線形近似し、得られた近似直線の傾きをT(/μm)とした場合に、-0.003≦T≦-0.00005、好ましくは-0.0025≦T≦-0.0002、さらに好ましくは-0.001≦T≦-0.0005の関係を満足する。
【0039】
このような関係を有する軟磁性合金粉末6aを含む成形用粉末を用いて磁気コアを製造することで、磁気コアの直流重畳特性が向上する。その理由としては、必ずしも明らかではないが、以下のような理由が考えられる。
【0040】
磁気コア内における磁束は、磁束の通りやすい粒子径の大きい軟磁性合金粉末において集中的に流れやすいため、粒子径の大きい軟磁性合金粉末において局所的な磁気飽和が生じ、直流重畳特性の低下が引き起こされると考えられる。磁気コア内に含まれる軟磁性合金粉末の空孔を粒子径ごとに制御することによって、磁気コア内の磁束の流れが均一化され、局所的な磁気飽和を抑制することで直流重畳特性が向上するものと考えられる。
【0041】
以下、本実施形態に係る軟磁性合金粉末6aの製造方法について説明する。
【0042】
本実施形態に係る軟磁性合金粉末を製造する方法には特に限定はない。しかし、図3A以降に示す楕円水流アトマイズ装置10を用いてガスアトマイズ法により軟磁性合金粉末を作製することが好ましい。楕円水流アトマイズ装置10を用い、さらにGv/Gp(後述)およびL3/L2(図4B参照)を制御することで、本実施形態の軟磁性合金粉末6aを容易に得ることができる。
【0043】
図3Aに示すように、本実施形態に係る楕円水流アトマイズ装置10は、溶融金属21をガスアトマイズ法により粉末化することにより多数の軟磁性金属粒子を含む軟磁性合金粉末を得るための装置である。この装置10は、溶融金属供給部20と、金属供給部20の鉛直方向の下方に配置してある冷却部30とを有する。図面において、鉛直方向は、Z軸に沿う方向である。溶融金属21の作製方法には特に制限はない。たとえば目的とする組成に含まれる各元素の単体等を原料金属として秤量して溶融させてもよく、目的とする組成を有する軟磁性合金を改めて溶融させてもよい。
【0044】
溶融金属供給部20は、溶融金属21を収容する耐熱性容器22を有する。耐熱性容器22の外周には、加熱用コイル24が配置してあり、容器22の内部に収容してある溶融金属21を加熱して溶融状態に維持するようになっている。容器22の底部には、溶融金属吐出口23が形成してあり、そこから、冷却部30を構成する筒体32の内周面33に向けて、溶融金属21が滴下溶融金属21aとして吐出されるようになっている。
【0045】
容器22の外底壁の外側部には、溶融金属吐出口23を囲むように、ガス噴射ノズル26が配置してある。ガス噴射ノズル26には、ガス噴射口27が具備してある。ガス噴射口27からは、溶融金属吐出口23から吐出された滴下溶融金属21aに向けて高圧ガスが噴射される。高圧ガスは、溶融金属吐出口23から吐出された溶融金属の周囲全周から斜め下方向に向けて噴射され、滴下溶融金属21aは、多数の液滴となり、高圧ガスの流れに沿って筒体32の上部内側の内周面33に向けて運ばれる。なお、上述したGv/Gpは、アトマイズガス(高圧ガス)におけるガスの体積流量Gv(m3/min)とガス噴射圧Gp(MPa)の比を示す。
【0046】
本実施形態において、磁気コアにおける直流重畳特性を改善可能な軟磁性合金粉末を作製する観点からは、Gv/Gpは、母合金の組成等により変化し得るが、好ましくは0.6m3/MPa以上8.0m3/MPa以下、さらに好ましくは1.0m3/MP以上6.0m3/MPa以下である。
【0047】
上記の組成を有する溶融金属21は、短時間の空気との接触により、容易に酸化して酸化膜を形成してしまう。酸化膜を形成してしまうと微細化することが困難となる。ガス噴射ノズル26のガス噴射口27から噴射するガスとして不活性ガスまたは還元性ガスを用いることで、酸化膜の形成を防止し容易に粉末化することができる。
【0048】
不活性ガスとしては、たとえば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどが挙げられる。還元性ガスとしては、たとえば、アンモニア分解ガスが挙げられる。
【0049】
本実施形態では、図3Aに示す筒体32の少なくとも上部内側(滴下溶融金属21aが供給される部分)の内周面33は、筒体32の軸芯Oに対して角度θ1で傾斜する断面(たとえばZ軸に略垂直な断面)で、略楕円の形状を有している。角度θ1は、筒体32の軸芯OがZ軸に対して角度θ2で傾斜しているとすると、θ1=(90度-θ2)として表すことができる。
【0050】
筒体32の軸芯Oに対して角度θ1で傾斜する断面で、内周面33の楕円の長軸は、筒体32の軸芯OがZ軸(鉛直線)に対して傾斜する方向と一致していることが好ましい。すなわち、楕円の長軸が、筒体32の軸芯Oと、その軸芯Oに交差するZ軸とを含む平面に含まれるように、筒体32が構成してあることが好ましい。
【0051】
このように構成してある筒体32は、たとえば図5Aに示すように、軸芯Oに垂直な断面の内周面が円形状である円筒材32αから製造することができる。すなわち、円筒材32αの軸芯Oを鉛直方向(Z軸方向)に対して所定角度θ2で傾けた状態で筒材32αの上下部分を水平に切断することで、図3Aに示す筒体32を形成することができる。本実施形態では、筒体32には、軸芯Oに対して角度θ1で傾斜する断面で同じサイズの略楕円形状の内周面33が軸芯Oに沿って連続的に形成される。
【0052】
図4Bに示すように、本実施形態では、筒体32の内周面33の各水平断面に顕れる楕円形は、長径L3と短径L2の比(L3/L2)が、好ましくは、1.01以上3.00以下、さらに好ましくは1.04以上2.00以下、特に好ましくは1.04以上1.30以下である。このように構成することで、冷却液(たとえば冷却水)の流速を変化させつつ、均一な厚みの冷却液層50を形成することが容易になる。たとえば、冷却液層50の流量、流体圧および厚みなどによっても変化するが、L3/L2を1.04~3.00とする場合に冷却液の流速の速度比(最高速度/最低速度)を1.07~1.33程度に変化させることができる。
【0053】
なお、本実施形態において、磁気コアにおける直流重畳特性を改善可能な軟磁性合金粉末を作製する観点からは、L3/L2は、母合金の組成等により変化し得るが、好ましくは1.04~2.80、さらに好ましくは1.08~2.40である。
【0054】
図3Aに示すように、筒体32の軸芯Oに沿って下方には、排出部34が具備してある。排出部34は、冷却液層50に含まれて流れてきた軟磁性合金粉末を冷却液と共に外部に排出可能になっている。排出部34の内周面の内径は、筒体32の内周面33の内径よりも小さくてよい。筒体32の内周面33から排出部34の内周面に向けて連続的に内径が小さくなっていることが好ましい。なお、排出部34の内周面の水平断面は、必ずしも楕円状でなくてもよく、円形であってもよい。好ましくは、筒体32の内周面33の水平断面は、筒体32の上部から軸芯Oに沿って排出部34に向けて同じサイズの楕円である。
【0055】
筒体32の軸芯Oに沿って上部には、冷却液導出部36が具備してある。図3Bに示すように、冷却液導出部36は、枠体38と外側形成部材(外枠形成部材)45とを有する。外側形成部材45は、筒体32と一体に成形してあってもよく、筒体32とは別に成形して筒体32に取り付けてもよい。
【0056】
外側形成部材45は、筒体32の上部で、内周面33の外側に外側空間44を形成する。また、筒体32の上部内周面には、補助筒体40が装着してある。補助筒体40は、筒体32の上端開口縁自体であってもよい。しかし、図示する例では、補助筒体40は筒体32とは別に成形してあり、筒体32の上部内周面に装着してある。補助筒体40の内周面は、筒体32の内周面33と面一であることが好ましいが、面一でなくてもよい。
【0057】
枠体38は、筒体32と一体的に成形してもよい。しかし、枠体38は筒体32とは別に成形してあることが好ましい。筒体32の内周面の内側に配置してある内枠片39aと、内枠片39aに対して所定角度で交差する枠支持片39bとを有する。図3Cに示すように、枠支持片39bは、略楕円リング形状の板片である。内枠片39aは、枠支持片39bの略楕円形状の中央開口縁から楕円の直軸に対して角度θ1で傾斜する中心軸Oaを持つ略楕円筒形状を有する。
【0058】
図3Cに示す内枠片39aの軸芯Oaは、図3Aに示す筒体32の軸芯Oと一致する。図3Cに示す内枠片39aの外周面の水平断面は、図3Aに示す筒体32の内周面33(あるいは補助筒体40の内周面)の水平断面の楕円よりも小さな内径を持つ相似な楕円形状を有する。すなわち、内枠片39aの外周面は、筒体32の内周面33(あるいは補助筒体40の内周面)より径が小さく、しかも筒体32の内周面33(あるいは補助筒体40の内周面)と平行である。
【0059】
図3Aに示すように、枠支持片39bの外径部は、外側形成部材45の上端または筒体32の上端に取り付けられていてもよい。あるいは、枠支持片39bの外径部は、外側形成部材45の上端または筒体32の上端と一体的に形成されていてもよい。枠支持片39bの内径部と内枠片39aとは、筒体32の内周面、補助筒体40の内周面、および/または外側形成部材45の内周面と共に、筒体32の上部で内周面33の内側に内側空間46を区画する。
【0060】
また、図3Bに示すように、外側形成部材45は、筒体32の上部で内周面33の外側に外側空間44を、筒体32(補助筒体40含む)と共に区画する。内側空間46は、外側空間の径方向の内側に位置し、通路部42を通して、外側空間44と連通している。通路部42は、筒体32の軸芯Oに沿って、外側空間44の最上部またはそれに近い位置に形成されるように、補助筒体40または筒体32の上端が外側空間44と内側空間との間に位置する。
【0061】
本実施形態では、外側空間44が筒体32の内周面33の外側で水平方向に連続する略楕円リング状に形成してある。内側空間46は、筒体32の内周面33の内側で内周面33に沿って水平方向に連続する略楕円リング状に形成してある。通路部42も、同様に、水平方向に連続する略楕円リング状に形成してある。通路部42の軸芯Oに沿う上下幅W1は、外側空間44の軸芯方向の上下幅W2よりも狭い。W1/W2は1/2以下であればよい。
【0062】
外側形成部材45の径方向の外側には、冷却液を導入する冷却液供給ライン37が取り付けてある。供給ライン37からの外側空間44への接続口は、通路部42よりも軸芯Oに沿って下方に位置することが好ましい。
【0063】
外側空間44では、供給ライン37から流入する冷却液が、外側空間の下方から上方に向かう流れが形成され、通路部42から内側空間46に入り込む流れが形成されることが好ましい。また、内側空間46を形成するための内枠片39aの下端は、通路部42よりも軸芯Oに沿って下側に位置することが好ましく、内枠片39aの下端と筒体32内周面33(補助筒体40の内周面含む)との間に、冷却液吐出口52を形成する。図3Cに示すように、内枠片39aの下端は、水平面で略楕円形の開口を区画している。
【0064】
冷却液吐出口52の内径が内枠片39aの外径に一致し、冷却液吐出口52の外径が筒体32の内周面(補助筒体40の内径)に一致する。冷却液吐出口52は、水平断面において、周方向に沿って連続する略楕円リング状に形成してあることが好ましい。
【0065】
冷却液吐出口52は、内側空間46に繋がっている。内側空間46に含まれる冷却液が、冷却液吐出口52から筒体32の内周面33に向けて楕円螺旋状に吹き出すようになっている。本実施形態では、冷却液吐出口52の径方向幅は特に限定されないが、冷却液吐出口52の径方向幅は筒体32の内周面に沿って流れる冷却液の冷却液層50の厚みに対応する。したがって、冷却液吐出口52の径方向幅は冷却液層50の厚みとの関係で決定される。
【0066】
図3Aに示すように、内枠片39aの軸方向長さL1は、図3Bに示す通路部42の軸芯O方向の幅W1を覆う程度の長さである。内枠片39aの軸方向長さL1は、溶融金属供給部20から吐出された溶融金属が冷却液層50に接触する位置の上流側に冷却液吐出口52が形成されるように決定される。また、図3Aに示すように、内枠片39aの軸方向長さL1は、筒体32の内周面33に十分な軸方向長さL0の冷却液層50の液面が露出するように決定される。
【0067】
内側に露出している冷却液層50の軸芯Oに沿う長さL0は、内枠片39aの軸方向長さL1の5~500倍の長さであることが好ましい。また、筒体32の内周面33の内径(楕円の短径)は、特に限定されないが、好ましくは50~500mmである。
【0068】
本実施形態では、冷却液供給ライン37は、冷却液導出部36の接線方向に接続してもよい。冷却液供給ライン37から外側空間44の内部に、冷却液が軸芯Oの回りで楕円螺旋状に回転するように入り込ませることができる。外側空間44の内部に渦巻き状に入り込んだ冷却液は、通路部42を通り、内側空間46の内部に渦巻き状に入り込む。
【0069】
本実施形態では、冷却液導出部36では、筒体32の外側に配置されている外側空間44で冷却液が一時的に貯留される。また、外側空間44は、略楕円形状に形成してある。このように構成することで、冷却液が外側空間44で楕円状に旋回しながら内側空間46に導入される。
【0070】
また、本実施形態では、通路部42の下端が、外側空間44の下端よりも上方に形成してある。そのため、冷却液は、外側空間44で楕円螺旋状に旋回しながら上方にいったん持ち上げられる。それから、冷却液は通路部42を通過し内側空間46に入り込む。筒体32の上部内側にある内側空間46に入り込む冷却液は、通路部42を通過することでその流速が速まる。そして、冷却液は内側空間46の内枠片39aに衝突することでその流れの向きが変化する。
【0071】
筒体32の上部に具備してある通路部42を通り内側空間46の内部に楕円渦巻き状に入り込んだ冷却液は、内枠片39aに沿って(軸芯Oに沿って)下向きに流れる。また、枠支持片39bが冷却液の上方への流れを堰き止める。冷却液は、内側空間46で軸芯Oの回りに内周面33に沿った楕円リング状の流れを形成する。さらに、冷却液に対して内周面33に沿って(軸芯Oに沿って)下向きに重力が作用する。冷却液と重力との相乗効果により、冷却液吐出口52から内周面33に沿った略楕円形の螺旋軌道で流れるように冷却液が吐出される。冷却液吐出口52から吐出された冷却液は、内周面33に沿って略一定の厚みで楕円螺旋状に冷却液が流れる冷却液層50を形成する。
【0072】
図3Aに示すように、本実施形態では、冷却液導出部36から筒体32の上部内側の楕円状に形成された内周面33に冷却液が供給される。このため、冷却液が筒体32の内周面33に沿って略楕円螺旋状に流れる冷却液層50を形成することができる。この冷却液層50の内側液面に、溶融金属21の溶滴である滴下溶融金属21aを噴射して入射させることで、滴下溶融金属21aをより急冷することが可能になる。楕円螺旋状の冷却液の流れは、図4Aおよび図4Bに示すように、楕円の短径側での流速が速くなり、長径側での流速は遅くなる。冷却液層50に噴射された滴下溶融金属21aは、冷却液層50の中で、冷却液と共に流速が変化しながら流されることになる。
【0073】
滴下溶融金属21aを冷却液と共に流速を変化させながら冷却液層50の中を流すことで、冷却液に触れた直後に発生すると考えられる滴下溶融金属21a周りの蒸気の膜が滴下溶融金属21から剥離されやすくなる。その結果、滴下溶融金属21aが冷却液層50で急冷し易くなる。このように滴下溶融金属21aを急冷することで、微小粒径においても非晶質性や磁気特性の良好な軟磁性合金粉末を製造することができる。
【0074】
図3Aに示すように、本実施形態では、冷却液吐出口52は、筒体32の周方向に亘って略楕円形状に連続して形成してある。しかし、冷却液吐出口52に補強部材などを設けた上で、冷却液吐出口52は筒体32の周方向に亘って断続的に形成してあってもよい。冷却液吐出口52が筒体32の周方向に亘って形成されることで、筒体32の内周面33に沿って楕円螺旋状に流れる冷却液が冷却液層50を形成することができる。
【0075】
図3Aに示すように、本実施形態では、冷却液導出部36は、内枠片39aと筒体32の内周面33との間に略楕円形状の冷却液吐出口52を形成することができる。その結果、冷却液吐出口52から筒体32の内周面33に沿って楕円螺旋状に流れる冷却液を吐出することができる。
【0076】
図3Aに示すように、本実施形態では、内周面33が形成する楕円形の中心は、筒体32の下部に向かうにつれて鉛直線(Z軸)に対して角度θ2で傾斜するようにずれている。図4Aに示すように、内周面33に沿って形成される冷却液層50の冷却液は、楕円螺旋軌道を描きながら鉛直方向(重力方向)に対して傾斜して流れることになる。
【0077】
そのため、Z軸に沿った長さが互いに同一である場合において、従来のアトマイズ装置と比較して冷却液が流れる楕円螺旋の距離を長くすることができる。また、筒体32の内周面33の楕円長軸に沿った一端に向けて重力方向に溶融金属を噴射することで、滴下溶融金属21aが筒体32の上端開口から筒体32の内周面33(冷却液層50)に入り易くなる。そのため、溶滴を円滑に冷却することができる。
【0078】
なお、上述した実施形態では、筒体32の内周面33の水平断面は、筒体32の上部から軸芯Oに沿って排出部34に向けて同じサイズの楕円である。しかし、筒体32の内周面33の水平断面は、少なくとも筒体32の上部で略楕円形状であればよく、軸芯Oに沿って排出部34に向けて途中から変化してもよい。たとえば筒体32の上部から軸芯Oに沿って排出部34に向けて、略楕円形から略円形(またはその他)に徐々に変化してもよい。
【0079】
また、筒体32の内周面33の水平断面は、筒体32の上部から軸芯Oに沿って排出部34に向けて楕円の長径L3と短径L2の比(L3/L2)も一定であることが好ましいが、比(L3/L2)を変化させても良い。たとえば比(L3/L2)を、筒体32の上部から軸芯Oに沿って排出部34に向けて小さくなるように変化させたり、大きくなるように変化させたり、あるいは、それらが交互に顕れるように変化させても良い。
【0080】
また、筒体32の内周面33の水平断面は、筒体32の上部から軸芯Oに沿って排出部34に向けて、楕円の長径の向きを徐々に変化させてもよい。たとえば筒体32の上部では、楕円の長径の向きを筒体32の軸芯Oの傾斜方向に一致させ、筒体32の下部では、楕円の長径の向きを筒体32の軸芯Oの傾斜方向と略垂直となるように変化させても良い。
【0081】
本実施形態では、筒体32の軸芯Oの鉛直方向との所定角度θ2は、特に限定されないが好ましくは5~45度である。このような角度範囲とすることで、溶融金属吐出口23から筒体32の内周面33に形成してある冷却液層50に向けて滴下溶融金属21aを吐出させ易くなる。
【0082】
本実施形態では、枠支持片39bが水平になるように冷却液導出部36が形成してある。しかし、楕円螺旋状の冷却液層50を吐出するように構成されていれば枠支持片39bが水平になるように冷却液導出部36が形成されていなくてもよい。
【0083】
これに対し、従来のアトマイズ装置では、図6Aおよび図6Bに示すように筒体32の内周面33の軸芯Oに垂直な断面が円形(L3/L2=1.00)である。また、冷却液導出部の内枠片39aの下端が軸芯Oに垂直な断面で円形の開口を区画しており、冷却液吐出口52が円形状である。
【0084】
軟磁性合金粉末の粒子径については、アトマイズの条件を適宜変化させることで粒子径を調整することが可能である。また、乾式分級や湿式分級により粒度を調整することで粒子径を調整することも可能である。乾式分級方法として、たとえば、乾式篩を用いる篩分級、および、気流分級の分級方法があげられる。湿式分級方法として、たとえば、湿式フィルター濾過による分級や遠心分離による分級等の分級方法があげられる。
【0085】
本実施形態の楕円水流アトマイズ装置10を用いることで、従来のアトマイズ装置(たとえば図6Aおよび図6B)を用いる場合と比較して、図1Bに示す近似直線の傾きT(/μm)が-0.003≦T≦-0.00005の関係を満たす軟磁性合金粉末を得ることが容易になる。ちなみに、従来のアトマイズ装置(たとえば図6Aおよび図6B)を用いて製造される軟磁性合金粉末では、図1Bに示す近似直線の傾きT(/μm)が-0.00005よりも大きくなる傾向にあり、-0.003≦T≦-0.00005の関係を満たさない。
【0086】
本実施形態では、たとえばGv/Gpを制御することで軟磁性合金粉末6aにおける算出密度に対する粉体密度の比を制御することができる。また、L3/L2(図4B参照)を制御することで、第1粒子6a1、第2粒子6a2および第3粒子6a3のそれぞれのD50と粉体密度との関係を制御することができる。その理由としては、必ずしも明らかではないが、たとえば以下のように考えられる。
【0087】
楕円水流では、急冷速度が変わることによって、急冷にむらが生じ、そのために粒子製造にむらが生じるため、粒子の空孔を制御できると考えられる。円水流ではむらが生じにくいが、楕円水流では生じやすいことから、第1粒子6a1、第2粒子6a2および第3粒子6a3のそれぞれのD50と粉体密度との関係を制御することができると考えられる。
【0088】
本実施形態に係る軟磁性合金粉末に絶縁コーティングを形成してもよい。
【0089】
得られた軟磁性合金粉末を、成形用粉末として成形することにより磁気コアを得ることができる。成形方法には特に限定はない。一例として加圧成形により磁気コアを得る方法について説明する。
【0090】
まず、軟磁性合金粉末と樹脂とを混合する。樹脂を混合させることで成形により強度の高い成形体を得やすくなる。樹脂の種類には特に制限はない。たとえばフェノール樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。樹脂の添加量にも特に制限はない。樹脂を添加する場合には、磁性粉末に対して1質量%以上5質量%以下、添加してもよい。
【0091】
軟磁性合金粉末と樹脂との混合物を造粒して造粒粉を得る。造粒方法には特に制限はない。たとえば、撹拌機を用いて造粒してもよい。造粒粉の粒径には特に制限はない。
【0092】
得られた造粒粉を加圧成形して成形体を得る。成型圧には特に制限はない。たとえば、面圧0.1ton/cm2(9.8MPa)以上20ton/cm2(1961MPa)以下であってもよく、2ton/cm2(196MPa)以上10ton/cm2(981MPa)以下であってもよい。そして、成形体に含まれる樹脂を硬化させて磁気コアを得ることができる。硬化方法には特に制限はなく、用いた樹脂を硬化させることができる条件で熱処理を行ってもよい。
【0093】
磁気コアの用途には特に制限はない。たとえば、インダクタ用、特にパワーインダクタ用の磁気コアとして好適に用いることができる。さらに、磁気コアとコイルとを一体成形したインダクタにも好適に用いることができる。図2に示すコイル部品2では、磁気コア6の内部に導体から成る巻線部(コイル)4が一体化されている。
【0094】
さらに、上記の軟磁性合金粉末を含む磁性部品は、磁気コアとして電子機器に好適に用いられてもよいし、磁気コア以外の磁性部品として、その他の電子機器に用いることもできる。
【0095】
特に、上記の磁気コアは直流重畳特性にすぐれることから、小型化、高周波化、高効率化および省エネルギー化が求められる分野に好適に用いられる。たとえば、ICT機器や電気自動車等に搭載される磁気コア、磁性部品および電子機器に好適に用いることができる。
【0096】
第2実施形態
本実施形態では、第1実施形態に係る軟磁性合金粉末6aに、その他の軟磁性粉末を加えて成形用粉末を準備し、その成形用粉末を用いて磁気コアを製造する以外は、前述した実施形態と同様である。第1実施形態に係る軟磁性合金粉末6aに混合してもよいその他の軟磁性粉末としては、特に限定されず、組成は同じであってもよく、異なっていてもよい。第1粒子6a1、第2粒子6a2および第3粒子6a3を含む軟磁性合金粉末を軟磁性粉末A1(第1実施形態の軟磁性合金粉末6a)とした場合に、軟磁性粉末A1よりも平均粒径が小さい軟磁性粉末を軟磁性粉末B1として、軟磁性粉末A1に加えて、成形用粉末としてもよい。
【0097】
軟磁性粉末A1と軟磁性粉末B1との平均粒径の差異は、特に限定されないが、軟磁性粉末A1の平均粒子径に対し軟磁性粉末B1の平均粒子径は半分以下であることが好ましい。
【0098】
さらに、成形用粉末には、軟磁性粉末A1および軟磁性粉末B1以外に、さらにその他の軟磁性粉末、たとえば軟磁性粉末C1を含ませてもよい。軟磁性粉末C1としては、特に限定されず、軟磁性粉末A1および/または軟磁性粉末B1と組成は同じであってもよく、異なっていてもよい。軟磁性粉末C1は、軟磁性粉末A1と軟磁性粉末B1の間の平均粒径であることが好ましい。
【0099】
軟磁性粉末B1と軟磁性粉末C1との平均粒径の差異は、特に限定されないが、1μm以上の差異があることが好ましい。
【0100】
いずれにしても成形用粉末に含まれる軟磁性粉末A1の質量割合は、好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは20質量%以上であり、その他の軟磁性粉末としては、軟磁性粉末B1および/または軟磁性粉末C1および/またはさらにその他の軟磁性粉末の合計で、80質量%以下が好ましい。
【0101】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例0102】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0103】
実施例1
(軟磁性合金粉末)
原子数比で(Fe0.7Co0.382113Si3Cr1の組成となるように原料金属を秤量し、高周波加熱にて溶解し、母合金を作製した。作製した母合金を加熱して溶融状態の金属とした後に、ガスアトマイズ法により、各試料の合金組成を有する軟磁性合金粉末を作製した。具体的には、溶融させた母合金を吐出口から筒体内の冷却部に向けて吐出する際に、吐出された滴下溶融金属に向けて高圧ガスを噴射した。なお、高圧ガスはN2ガスとした。滴下溶融金属が冷却部(冷却水)に衝突することで冷却固化され、軟磁性合金粉末となった。
【0104】
ガスアトマイズ法の条件については、図3A図4Bに示すガスアトマイズ装置を用い、Gv/GpおよびL3/L2(図4B参照)は表1に記載の値となるようにし、溶融金属の溶融温度を1300~1600℃、溶融金属の噴出量を0.8~12kg/分、ガス噴射圧を0.5~9MPa、筒体の内部で楕円水流を形成するように噴射される冷却水の圧力を2~30MPaとした。また、上記の各条件は目的とする軟磁性合金粉末が得られるように適宜制御した。
【0105】
各試料について母合金の組成と粉末の組成とが概ね一致していることをICP分析により確認した。また、各粉末についてX線回折測定を行い、微細構造を確認した。非晶質化率Xが85%以上である場合には非晶質からなる構造を有するとした。非晶質化率Xが85%未満であり平均結晶粒径が100nm以下である場合にナノ結晶からなる構造を有するとした。非晶質化率Xが85%未満であり平均結晶粒径が100nmよりも大きい場合には結晶からなる構造を有するとした。実験例1では全ての粉末が非晶質からなる構造を有することを確認した。
【0106】
(算出密度ρ1)
軟磁性合金粉末のサンプル(第1粒子、第2粒子および第3粒子を含む)1gについて、ICP分析によって粉体の組成分析を行った。得られた組成に基づいて、各成分の質量割合と大気圧室温条件下における元素単体の密度の積の総和を求め、これを算出密度とした。
【0107】
たとえば、組成解析の結果、粉体の組成がFe含有量93.5wt%であり、Si含有量6.5wt%であると分かった場合には、各元素の密度を求めて、以下の式により、算出密度を求める。たとえばFe単体の密度が7.874g/cm3 であることが知られており、Si単体の密度が2.3g/cm3であることが知られていることから、その場合の算出密度は、(7.874×0.935+2.3×0.065)/100=7.512g/cm3として求めることができる。結果を表1に示す。
【0108】
(粉体密度ρ2)
軟磁性合金粉末のサンプル(第1粒子、第2粒子および第3粒子を含む)13.5gを用いて、Heを用いたガスピクノメーター法によって密度測定を行い、得られた値を粉体密度とした。粉体密度では、粒子内の閉気孔も粒子の一部として計測することになる。結果を表1に示す。
【0109】
(特定密度比ρ2/ρ1)
上記のようにして求められた算出密度ρ1に対する粉体密度ρ2の比率(ρ2/ρ1)を特定密度比として、表1に示す。
【0110】
(傾きT)
軟磁性合金粉末のサンプルに対して、目開き53μmのJIS標準ふるい、目開き45μmのJIS標準ふるい、目開き32μmのJIS標準ふるい、目開き25μmのJIS標準ふるい、目開き20μmのJIS標準ふるいをこの順で用いて分級処理して、第1粒子、第2粒子および第3粒子を得た。
【0111】
分級処理して得られた第1粒子、第2粒子および第3粒子の各重量割合は、第1粒子、第2粒子および第3粒子の総重量を100%とした場合に、それぞれ10~20%、20~40%、40~70%の範囲内であった。
【0112】
得られた第1粒子、第2粒子および第3粒子のそれぞれについて、粉体密度を測定した。また、第1粒子、第2粒子および第3粒子のそれぞれについて、レーザー回折法にて体積基準メジアン径を測定した。そして図1Bに示すように、体積基準のメジアン径(D50)を横軸とし、第1粒子から第3粒子のそれぞれの粉体密度を第3粒子の粉体密度で割り算した相対粉体密度を縦軸とする仮想の二次元座標を想定し、仮想の二次元座標に、第1粒子から第3粒子におけるそれぞれの体積基準のメジアン径と相対粉体密度との関係をプロットした。プロットしたデータを最小二乗法により線形近似し、得られた近似直線の傾きをTとして求めた。結果を表1に示す。なお、近似直線の傾きTは、粒子径の増大に伴う相対粉体密度の変化率を示す。
【0113】
(磁気コア)
各試料の軟磁性合金粉末を用いてトロイダルコアを作製した。まず、前述した第1粒子、第2粒子および第3粒子を含む軟磁性合金粉末を軟磁性粉末A1とし、軟磁性粉末A1よりも平均粒径が小さい軟磁性粉末を軟磁性粉末B1として準備し、これらを混合して成形用軟磁性粉末を得た。軟磁性粉末A1の組成は、(Fe0.7Co0.382113Si3Cr1であり、その平均粒径は、15~30μmの範囲内であった。軟磁性粉末B1の組成は、Feであり、その平均粒径は、軟磁性粉末A1の平均粒径よりも、半分以上小さかった。軟磁性粉末B1に関しては、軟磁性粉末A1とは異なり、分級処理による評価は行わなかった。
【0114】
軟磁性粉末A1と軟磁性粉末B1との混合比は、質量比で、80:20であった。軟磁性粉末A1と軟磁性粉末B1とを混合した成形用軟磁性粉末に対して、エポキシ樹脂を樹脂量2.5質量部(混合軟磁性粉末を100質量部)で混合し、攪拌機として一般的なプラネタリーミキサーを用いて粒径500μm程度の造粒粉となるように造粒した。
【0115】
得られた造粒粉を加圧成形することにより、外径11mmφ、内径6.5mmφ、高さ2.5mmのトロイダル形状の成形体を作製した。なお、加圧成形時の圧力は、面圧を2ton/cm2 (196MPa)~10ton/cm2 (981MPa)の範囲で変化させ、複数のサンプルを作製した。各サンプルは後述する試験に必要な数だけ作製した。
【0116】
(初期比透磁率μ0)
トロイダルコアの各サンプルに、銅線を巻き、周波数1MHzにおけるトロイダルコアのインダクタンスを、LCRメータを用いて測定し、得られたインダクタンスから比透磁率を算出し、この値を初期比透磁率μ0とした。なお、直流重畳特性は初期比透磁率μ0の大きさに影響するため、表1では、初期比透磁率が32.4以上32.6以下の範囲にあるサンプルを使用した。
【0117】
(直流重畳特性)
その後、磁気コアの各サンプルに10kA/mの直流磁界を印加し、周波数1MHzにおける各サンプルのインダクタンスを測定し、得られたインダクタンスから直流磁界比透磁率μHdcを算出した。そして、(μ0-μHdc)/μ0×100(%)を算出し、これを直流重畳特性の指標とした。
【0118】
各サンプルについて、直流重畳特性の指標を算出した。このとき、Gv/Gpが3.0m3/MPaおよびL3/L2が1.00で作製された試料番号1の比較例に係るサンプルの直流重畳特性の指標を基準値とした。そして、Gv/GpおよびL3/L2を表1に記載の値に設定すること以外は同様の条件で作製された軟磁性合金粉末を用いた各試料番号のサンプルにおける直流重畳特性の指標を算出し、試料番号1の直流重畳特性の指標の基準値に対する減少率を求め、これを改善率とした。改善率が10%以上の場合を良好とし、15%以上の場合をさらに良好とし、20%以上の場合を特に良好と判断した。
【0119】
表1に示すように、Gv/Gpが0.6m3/MPa以上、8.0m3/MPa以下であり、L3/L2が1.04以上、2.80以下である場合には、特定密度比ρ2/ρ1および傾きT(/μm)が所定の範囲となった。そして、各実施例の軟磁性合金粉末A1を含む磁気コアは、比較例に対して直流重畳特性が向上することが判明した。
【0120】
これに対し、L3/L2が小さすぎる場合または大きすぎる場合には、傾きT(/μm)が所定の範囲外となった。そして、当該軟磁性合金粉末A1を用いて作製された磁気コアの直流重畳特性は改善されなかった。
【0121】
また、Gv/Gpが小さすぎる場合または大きすぎる場合には、特定密度比ρ2/ρ1が所定の範囲外となった。そして、当該軟磁性合金粉末A1を用いて作製された磁気コアの直流重畳特性は改善されなかった。
【0122】
実施例2
軟磁性合金粉末A1の組成ついて、原子数比でFe78.6Nb793Si2Cr0.30.1となるように変更し、製造条件について、Gv/GpおよびL3/L2を表2に記載の値に変更したこと以外は、実施例1と同様にして軟磁性合金粉末を作製した。そして、得られた軟磁性合金粉末に対し熱処理を行い、結晶粒径が50nm以下であるナノ結晶を析出させ、非晶質化率を85%未満に低下させた。具体的には400~650℃で10~60分、熱処理を行った。実施例2では熱処理により得られた全ての軟磁性合金粉末A1がナノ結晶からなる構造を有することを確認した。得られた軟磁性合金粉末A1を含む成形用粉末を用いて磁気コアを作製した。
【0123】
実施例2ではGv/Gpが4.0m3/MPaおよびL3/L2が1.00で作製された試料番号28の比較例に係るサンプルの直流重畳特性の指標を基準値とした。そして、Gv/GpおよびL3/L2を表2に記載の値に設定すること以外は同様の条件で作製された軟磁性合金粉末を用いた各試料番号のサンプルにおける直流重畳特性の指標を算出し、試料番号28の直流重畳特性の指標の基準値に対する減少率を求め、これを改善率とした。結果を表2に示す。
【0124】
表2に示すように、実施例1から軟磁性合金の組成および構造を変化させても、実施例1と同様に、Gv/GpおよびL3/L2が好適に制御されている場合には、特定密度比ρ2/ρ1および傾きT(/μm)が所定の範囲内となった。そして、各実施例の軟磁性合金粉末A1を含む磁気コアは、比較例の磁気コアに対して優れた直流重畳特性を有していることが判明した。
【0125】
これに対し、L3/L2が小さすぎる場合または大きすぎる場合には、傾きT(/μm)が所定の範囲外となった。そして、当該軟磁性合金粉末A1を用いて作製された磁気コアの直流重畳特性は改善されなかった。
【0126】
また、Gv/Gpが小さすぎる場合または大きすぎる場合には、特定密度比ρ2/ρ1が所定の範囲外となった。そして、当該軟磁性合金粉末A1を用いて作製された磁気コアの直流重畳特性は改善されなかった。
【0127】
実施例3
軟磁性合金粉末A1の組成および構造について、原子数比でFe90.3Si3.9Cr5.8の結晶構造となるように変更し、製造条件についてGv/GpおよびL3/L2を表3に記載の値に変更したこと以外は、実施例1と同様に軟磁性合金粉末A1を作製した。そして、得られた軟磁性合金粉末A1を含む成形用粉末を用いて磁気コアを作製し、実施例1と同様の評価を行った。実施例3では、得られた軟磁性合金粉末A1が全て結晶からなる構造を有していることを確認した。
【0128】
実施例3ではGv/Gpが5.0m3/MPaおよびL3/L2が1.00で作製された試料番号55の比較例に係るサンプルの直流重畳特性の指標を基準値とした。そして、Gv/GpおよびL3/L2を表3に記載の値に設定すること以外は同様の条件で作製された軟磁性合金粉末を用いた各試料番号のサンプルにおける直流重畳特性の指標を算出し、試料番号55の直流重畳特性の指標の基準値に対する減少率を求め、これを改善率とした。結果を表3に示す。
【0129】
表3に示されるように、実施例1から軟磁性合金の組成および構造を変化させても、実施例1と同様に、Gv/GpおよびL3/L2が好適に制御されている場合には、特定密度比ρ2/ρ1および傾きT(/μm)が所定の範囲内となった。そして、各実施例の軟磁性合金粉末A1を含む磁気コアは、比較例の磁気コアに対して優れた直流重畳特性を有していることが判明した。
【0130】
これに対し、L3/L2が小さすぎる場合または大きすぎる場合には、傾きT(/μm)が所定の範囲外となった。そして、当該軟磁性合金粉末A1を用いて作製された磁気コアの直流重畳特性は改善されなかった。
【0131】
また、Gv/Gpが小さすぎる場合または大きすぎる場合には、特定密度比ρ2/ρ1が所定の範囲外となった。そして、当該軟磁性合金粉末A1を用いて作製された磁気コアの直流重畳特性は改善されなかった。
【0132】
実施例4
表1に示す試料番号1および8の粉末A1の粒子に対して、厚みが15nm程度の絶縁被膜を表面に形成したこと以外は、実施例1と同様にして軟磁性合金粉末A1のサンプルを作製した。得られた試料番号82および83の軟磁性合金粉末A1を含む成形用粉末を使用して磁気コアを作製し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表4に示す。
【0133】
また、同様な絶縁被膜を、表2に示す試料番号28および36の軟磁性合金粉末A1の粒子表面に形成したこと以外は、実施例2と同様にして軟磁性合金粉末A1のサンプルを作製した。得られた試料番号84および85の軟磁性合金粉末A1を含む成形用粉末を使用して磁気コアを作製し、実施例2と同様の評価を行った。結果を表4に示す。
【0134】
また、同様な絶縁被膜を、表3に示す試料番号55および63の軟磁性合金粉末A1の粒子表面に形成したこと以外は、実施例3と同様にして軟磁性合金粉末A1のサンプルを作製した。得られた試料番号84および85の軟磁性合金粉末A1を含む成形用粉末を使用して磁気コアを作製し、実施例3と同様の評価を行った。結果を表4に示す。
【0135】
表4に示すように、軟磁性合金粉末A1の表面に絶縁被膜を形成した場合においても、Gv/GpおよびL3/L2が好適に制御されている場合には、特定密度比ρ2/ρ1および傾きTが所定の範囲内となった。そして、各実施例の軟磁性合金粉末A1を含む磁気コアは、比較例の磁気コアに対して優れた直流重畳特性を有していることが判明した。
【0136】
実施例5
表1に示す試料番号1および8に対して、軟磁性粉末A1と軟磁性粉末B1との混合比を、質量比で80:20から、100:0、60:40、40:60、20:80と変化させた以外は、実施例1の試料番号1もしくは8と同様に、磁気コアのサンプル88~95を作製し、実施例1と同様の評価を行った。なお、実施例5においては、軟磁性粉末A1と軟磁性粉末B1の混合比により、初期比透磁率μ0が大きく変動する。そのため、軟磁性粉末A1と軟磁性粉末B1の混合比が同じサンプルにおいて、実施例と比較例とで、磁気コアの初期比透磁率μ0が略同等となるように調整した。結果を表5に示す。
【0137】
表5に示すように、粉末A1と粉末B1の混合比率を変化させた場合においても、Gv/GpおよびL3/L2が好適に制御されている場合には、特定密度比ρ2/ρ1および傾きTが所定の範囲内となった。そして、各実施例の軟磁性合金粉末A1を含む磁気コアは、比較例の磁気コアに対して優れた直流重畳特性を有していることが判明した。
【0138】
実施例6
粉末A1と混合する粉末B1の組成を、表6に記載の組成へと変更したこと以外は、実施例1の試料番号1および8と同様に、磁気コアを作製し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表6に示す。
【0139】
表6に示すように、磁気コア製造時に粉末A1と混合する粉末B1の組成を変更した場合においても、Gv/GpおよびL3/L2が好適に制御されている場合には、特定密度比ρ2/ρ1および傾きTが所定の範囲内となった。そして、各実施例の軟磁性合金粉末A1を含む磁気コアは、比較例の磁気コアに対して優れた直流重畳特性を有していることが判明した。
【0140】
実施例7
表5に示す試料番号88および89の成形用粉末に対して、軟磁性粉末B1および軟磁性粉末C1を追加し、粉末A1、粉末B1および粉末C1の配合比率を表7に示すように変化させた以外は、実施例5の試料番号88もしくは89と同様に、磁気コアの試料104~111を作製し、試料番号88および89と同様の評価を行った。なお、実施例7においては、軟磁性粉末A1、軟磁性粉末B1および軟磁性粉末C1の混合比により初期比透磁率μ0が大きく変化する。そのため、混合比が同じサンプルにおいて、実施例と比較例とで、磁気コアの初期比透磁率μ0が略同等となるように調整した。結果を表7に示す。
【0141】
軟磁性粉末C1の組成は、Feであり、その平均粒径は、軟磁性粉末A1の平均粒径よりも小さく、軟磁性粉末B1の平均粒径よりも、1μm以上大きかった。軟磁性粉末C1に関しては、軟磁性粉末A1とは異なり、分級処理による評価は行わなかった。
【0142】
表7に示すように、粉末A1と粉末B1と粉末C1の混合比率を変化させた場合においても、Gv/GpおよびL3/L2が好適に制御されている場合には、特定密度比ρ2/ρ1および傾きTが所定の範囲内となった。そして、各実施例の軟磁性合金粉末A1を含む磁気コアは、比較例の磁気コアに対して優れた直流重畳特性を有していることが判明した。
【0143】
実施例8
軟磁性粉末C1の組成を、Feから表8に示す組成に変化させた以外は、実施例7の試料番号107もしくは108と同様に、磁気コアの試料112~121を作製し、試料番号107および108と同様の評価を行った。結果を表8に示す。
【0144】
表8に示すように、粉末C1の組成を変化させた場合においても、Gv/GpおよびL3/L2が好適に制御されている場合には、特定密度比ρ2/ρ1および傾きTが所定の範囲内となった。そして、各実施例の軟磁性合金粉末A1を含む磁気コアは、比較例の磁気コアに対して優れた直流重畳特性を有していることが判明した。
【0145】
実施例9
軟磁性合金粉末A1の組成について、表9Aおよび表9Bに記載の組成(原子数比)となるように変更したこと以外は、実施例1の試料番号1および8と同様に、軟磁性合金粉末A1を作製した。そして、得られた軟磁性合金粉末A1を含む成形用粉末を用いて磁気コアを作製し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表9Aおよび表9Bに示す。
【0146】
表9Aおよび表9Bに示すように、軟磁性合金粉末A1の組成を変化させても、実施例1と同様に、Gv/GpおよびL3/L2が好適に制御されている場合には、特定密度比ρ2/ρ1および傾きTが所定の範囲内となった。そして、各実施例の軟磁性合金粉末A1を含む磁気コアは、比較例の磁気コアに対して優れた直流重畳特性を有していることが判明した。
【0147】
実施例10
軟磁性合金粉末A1の組成について、表10Aおよび表10Bに記載の組成(原子数比)となるように変更したこと以外は、実施例2の試料番号28および36と同様に、軟磁性合金粉末A1を作製した。そして、得られた軟磁性合金粉末A1を含む成形用粉末を用いて磁気コアを作製し、実施例2と同様の評価を行った。結果を表10Aおよび表10Bに示す。
【0148】
表10Aおよび表10Bに示すように、軟磁性合金粉末A1の組成を変化させても、実施例2と同様に、Gv/GpおよびL3/L2が好適に制御されている場合には、特定密度比ρ2/ρ1および傾きTが所定の範囲内となった。そして、各実施例の軟磁性合金粉末A1を含む磁気コアは、比較例の磁気コアに対して優れた直流重畳特性を有していることが判明した。
【0149】
実施例11
軟磁性合金粉末A1の組成について、表11Aおよび表11Bに記載の組成(原子数比)となるように変更したこと以外は、実施例3の試料番号55および63と同様に、軟磁性合金粉末A1を作製した。そして、得られた軟磁性合金粉末A1を含む成形用粉末を用いて磁気コアを作製し、実施例3と同様の評価を行った。結果を表11Aおよび表11Bに示す。
【0150】
表11Aおよび表11Bに示すように、軟磁性合金粉末A1の組成を変化させても、実施例3と同様に、Gv/GpおよびL3/L2が好適に制御されている場合には、特定密度比ρ2/ρ1および傾きTが所定の範囲内となった。そして、各実施例の軟磁性合金粉末A1を含む磁気コアは、比較例の磁気コアに対して優れた直流重畳特性を有していることが判明した。
【0151】
実施例12
軟磁性合金粉末A1の組成および構造について、表12に記載の組成(原子数比)と構造となるように変更させ、Gv/Gpを4.0、L3/L2を1.0または1.50としたこと以外は実施例1の試料番号1および8と同様に、軟磁性合金粉末A1を作製した。そして、得られた軟磁性合金粉末A1を含む成形用粉末を用いて磁気コアを作製し、実施例2と同様の評価を行った。結果を表12の試料番号218~223に示す。
【0152】
表12に示すように、軟磁性合金粉末A1の組成を変化させても、実施例1と同様に、実施例の磁気コアは、比較例に対して優れた直流重畳特性を有していることが判明した。
【0153】
軟磁性合金粉末A1の組成および構造について、表12に記載の組成(原子数比)と構造となるように変更したこと以外は、実施例2の試料番号28および36と同様に、軟磁性合金粉末A1を作製した。そして、得られた軟磁性合金粉末A1を含む成形用粉末を用いて磁気コアを作製し、実施例2と同様の評価を行った。結果を表12の試料番号224~227に示す。
【0154】
表12に示すように、軟磁性合金粉末A1の組成を変化させても、実施例2と同様に、実施例の磁気コアは、比較例に対して優れた直流重畳特性を有していることが判明した。
【0155】
また、軟磁性合金粉末A1の組成および構造について、表12に記載の組成(原子数比)と構造となるように変更したこと以外は、実施例3の試料番号55および63と同様に、軟磁性合金粉末A1を作製した。そして、得られた軟磁性合金粉末A1を含む成形用粉末を用いて磁気コアを作製し、実施例11と同様の評価を行った。結果を表12の試料番号228および229に示す。
【0156】
表12に示すように、軟磁性合金粉末A1の組成を変化させても、実施例3と同様に、実施例の磁気コアは、比較例に対して優れた直流重畳特性を有していることが判明した。
【0157】
【表1】
【0158】
【表2】
【0159】
【表3】
【0160】
【表4】
【0161】
【表5】
【0162】
【表6】
【0163】
【表7】
【0164】
【表8】
【0165】
【表9A】
【0166】
【表9B】
【0167】
【表10A】
【0168】
【表10B】
【0169】
【表11A】
【0170】
【表11B】
【0171】
【表12】
【符号の説明】
【0172】
2 … コイル部品
4 … 巻線部
5 … 導体
6 … 磁気コア
6a … 軟磁性合金粉末
6a1… 第1粒子
6a2… 第2粒子
6a3… 第3粒子
6b … 空孔
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B