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特開2024-117465トランス、およびトランスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117465
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】トランス、およびトランスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/36 20060101AFI20240822BHJP
   H01F 41/00 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
H01F27/36 101
H01F41/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023584
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006220
【氏名又は名称】ミツミ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】大休寺 新
【テーマコード(参考)】
5E070
【Fターム(参考)】
5E070AA11
5E070AB04
5E070DA17
(57)【要約】
【課題】トランスの製造コストの上昇を抑制しつつ、インダクタンスの安定性の低下を抑制する。
【解決手段】導電線12は、磁性体を含む材料により形成されているコアの一部を包囲するように巻き回されている。シールドケースは、導電性を有する材料により形成されており、下方向に開口する箱型形状を有することによりコアと導電線12を収容している。シールド板17は、導電性を有する材料により形成されており、上方向に導電線12と対向するように配置された部分を有している。シールド板17は、左右方向についてシールドケースの左側壁14aに接する接触面17dを有している。左側壁14aとシールド板17は、下方向に面する被溶接面Wを形成している。接触面17dの上下方向に沿う寸法D1は、被溶接面Wの左右方向に沿う寸法D2よりも長い。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体を含む材料により形成されているコアと、
前記コアの一部を包囲するように巻き回されている導電線と、
導電性を有する材料により形成されており、第一方向に開口する箱型形状を有することにより前記コアと前記導電線を収容しているシールドケースと、
導電性を有する材料により形成されており、前記第一方向とは反対の第二方向に前記導電線と対向するように配置された部分を有しているシールド板と、
を備えており、
前記シールド板は、前記第一方向および前記第二方向と交差する第三方向について前記シールドケースに接する接触面を有しており、
前記シールドケースと前記シールド板は、前記第一方向に面する少なくとも一つの被溶接面を形成しており、
前記接触面の前記第一方向および前記第二方向に沿う寸法は、前記被溶接面の前記第三方向に沿う寸法よりも長い、
トランス。
【請求項2】
前記シールドケースと前記シールド板は、前記第一方向に面する複数の被溶接面を形成している、
請求項1に記載のトランス。
【請求項3】
前記シールドケースは、前記シールド板の前記第二方向への変位を規制することにより前記被溶接面を規定する位置決め部を備えている、
請求項1に記載のトランス。
【請求項4】
前記シールドケースの内壁面に設けられており、前記第一方向および前記第二方向と交差する方向に沿って前記コアを挟持する挟持部材を備えている、
請求項1に記載のトランス。
【請求項5】
前記コアは、前記内壁面に対向する丸角部を有している、
請求項4に記載のトランス。
【請求項6】
前記シールドケースは、絞り加工によりスリットレスに形成されている、
請求項1に記載のトランス。
【請求項7】
前記シールドケースは、アルミニウムにより形成されている、
請求項1に記載のトランス。
【請求項8】
磁性体を含む材料により形成されているコア、および当該コアの一部を包囲するように巻き回されている導電線を用意する工程と、
導電性を有する材料により形成されており、第一方向に開口する箱型形状を有しているシールドケースに前記コアと前記導電線を収容する工程と、
導電性を有する材料により形成されているシールド板を前記シールドケースに溶接することにより、当該シールド板の一部を前記第一方向とは反対の第二方向に前記導電線と対向するように配置する工程と、
を備えており、
前記シールド板は、前記第一方向および前記第二方向と交差する第三方向について前記シールドケースに接する接触面を有しており、
前記シールドケースと前記シールド板は、前記第一方向に面する少なくとも一つの被溶接面を形成しており、
前記接触面の前記第一方向および前記第二方向に沿う寸法は、前記被溶接面の前記第三方向に沿う寸法よりも長い、
トランスの製造方法。
【請求項9】
前記シールドケースは、前記シールド板の前記第二方向への変位を規制することにより前記被溶接面を規定する位置決め部を備えており、
前記第二方向が鉛直下方に一致する姿勢で前記シールドケースに対する前記シールド板の溶接がなされる、
請求項8に記載のトランスの製造方法。
【請求項10】
前記シールドケースは、絞り加工によりスリットレスに形成される、
請求項8または9に記載のトランスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、トランスに関連する。本開示は、トランスの製造方法にも関連する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、コアと導電線を収容する箱型形状を有するシールドケースを備えたトランスを開示している。シールドケースは、係止片を有している。導電線の端部が電気的に接続される導電端子を支持している基台に係止片が加締められることにより、シールドケースが基台から離れる方向への変位が規制されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-004905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トランスの製造コストの上昇を抑制しつつ、インダクタンスの安定性の低下を抑制することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示により提供される態様例の一つは、トランスであって、
磁性体を含む材料により形成されているコアと、
前記コアの一部を包囲するように巻き回されている導電線と、
導電性を有する材料により形成されており、第一方向に開口する箱型形状を有することにより前記コアと前記導電線を収容しているシールドケースと、
導電性を有する材料により形成されており、前記第一方向とは反対の第二方向に前記導電線と対向するように配置された部分を有しているシールド板と、
を備えており、
前記シールド板は、前記第一方向および前記第二方向と交差する第三方向について前記シールドケースに接する接触面を有しており、
前記シールドケースと前記シールド板は、前記第一方向に面する少なくとも一つの被溶接面を形成しており、
前記接触面の前記第一方向および前記第二方向に沿う寸法は、前記被溶接面の前記第三方向に沿う寸法よりも長い。
【0006】
本開示により提供される態様例の一つは、トランスの製造方法であって、
磁性体を含む材料により形成されているコア、および当該コアの一部を包囲するように巻き回されている導電線を用意する工程と、
導電性を有する材料により形成されており、第一方向に開口する箱型形状を有しているシールドケースに前記コアと前記導電線を収容する工程と、
導電性を有する材料により形成されているシールド板を前記シールドケースに溶接することにより、当該シールド板の一部を前記第一方向とは反対の第二方向に前記導電線と対向するように配置する工程と、
を備えており、
前記シールド板は、前記第一方向および前記第二方向と交差する第三方向について前記シールドケースに接する接触面を有しており、
前記シールドケースと前記シールド板は、前記第一方向に面する少なくとも一つの被溶接面を形成しており、
前記接触面の前記第一方向および前記第二方向に沿う寸法は、前記被溶接面の前記第三方向に沿う寸法よりも長い。
【0007】
上記の各態様例に係る構成によれば、被溶接面を第一方向から直接的に視認できるので、溶接の仕上がり状態の確認が容易である。加えて、接触面同士を引き離す向きの応力からの応力に対する剛性を高めることができる。したがって、シールドケースに対するシールド板の安定した結合状態を実現できる。シールド板がシールドケースと結合されることにより、外部から到来するノイズとしての磁場によって導電線に生じうる起電力を抑制する効果を高めることができる。このシールド板のシールドケースに対する位置ずれが抑制されることにより、トランスのインダクタンスの安定性の低下を抑制できる。
【0008】
このようなシールド板をシールドケースに結合する他の手法の例として、リフローはんだ接合が挙げられる。しかしながら、はんだペーストの材料コストや、リフロー工程における端子などの他部品への熱負荷の管理の必要性により、製造コストの上昇が避けられない。他方、本実施形態例に係る溶接工程は、比較的簡易な装置構成で被溶接面を局所的に熱加工できるので、リフローはんだ接合よりもコスト的に有利である。結果として、トランスの製造コストの上昇を抑制しつつ、インダクタンスの安定性の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係るトランスの構成を例示する分解斜視図である。
図2図1のトランスを上右前方向から見た外観を例示している。
図3図1のトランスを下左後方向から見た外観を例示している。
図4図1のトランスを下方から見た外観を例示している。
図5図4における線V-Vに沿って矢印方向から見た断面を例示している。
図6図1のトランスを右方から見た外観を例示している。
図7図6における線VII-VIIに沿って矢印方向から見た断面を例示している。
図8図1のトランスの製造方法を説明するための図である。
図9図1のトランスの製造方法を説明するための図である。
図10図1のトランスの製造方法を説明するための図である。
図11】第一の比較例に係る溶接方法を示している。
図12】第二の比較例に係る溶接方法を示している。
図13図1から図9に係るトランスの意匠を例示する斜視図である。
図14図13のトランスの意匠を例示する正面図である。
図15図13のトランスの意匠を例示する背面図である。
図16図13のトランスの意匠を例示する平面図である。
図17図13のトランスの意匠を例示する底面図である。
図18図13のトランスの意匠を例示する左側面図である。
図19図13のトランスの意匠を例示する右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
添付の図面を参照しつつ、実施形態の例について以下詳細に説明する。添付の図面において、矢印Fは、図示された構造の前方向を示している。矢印Bは、図示された構造の後方向を示している。矢印Uは、図示された構造の上方向を示している。矢印Dは、図示された構造の下方向を示している。矢印Rは、図示された構造の右方向を示している。矢印Lは、図示された構造の左方向を示している。これらの方向に係る表現は、説明の便宜のために用いるものであり、図示された構造の実際の使用状態における姿勢や方向を限定するものではない。
【0011】
本明細書で用いられる「前後方向」という語は、上記の前方向と後方向に沿う方向を意味している。本明細書で用いられる「上下方向」という語は、上記の上方向と下方向に沿う方向を意味している。本明細書で用いられる「左右方向」という語は、上記の左方向と右方向に沿う方向を意味している。
【0012】
本明細書で用いられる「前後方向に延びる」という表現は、前後方向に対して傾いて延びることを含み、上下方向および左右方向と比較して前後方向に近い傾きで延びることを意味する。
【0013】
本明細書で用いられる「上下方向に延びる」という表現は、上下方向に対して傾いて延びることを含み、前後方向および左右方向と比較して上下方向に近い傾きで延びることを意味する。
【0014】
本明細書で用いられる「左右方向に延びる」という表現は、左右方向に対して傾いて延びることを含み、前後方向および上下方向と比較して左右方向に近い傾きで延びることを意味する。
【0015】
図1は、一実施形態に係るトランス10の外観を例示する分解斜視図である。図2は、トランス10を上右前方向から見た外観を例示している。図3は、トランス10を下左後方向から見た外観を例示している。図4は、トランス10を下方から見た外観を例示している。図5は、図4における線V-Vに沿って矢印方向から見たトランス10の断面を例示している。図6は、トランス10を右方から見た外観を例示している。図7は、図3における線VII-VIIに沿って矢印方向から見たトランス10の断面を例示している。
【0016】
図1図5、および図7に例示されるように、トランス10は、芯部11と導電線12を備えている。芯部11は、前後方向に延びる中空部11aを有している。導電線12は、芯部11に巻き回されてコイルを形成している。
【0017】
トランス10は、第一コア131を備えている。第一コア131は、磁性体を含む材料により形成されている。当該材料の例としては、フェライトが挙げられる。
【0018】
第一コア131は、第一内側部分131aと第一外側部分131bを有している。第一内側部分131aは、芯部11の前端部11bから中空部11a内に延びている。第一外側部分131bは、上方向と左右方向から導電線12に対向している。
【0019】
トランス10は、第二コア132を備えている。第二コア132は、磁性体を含む材料により形成されている。当該材料の例としては、フェライトが挙げられる。
【0020】
第二コア132は、第二内側部分132aと第二外側部分132bを有している。第二内側部分132aは、芯部11の後端部11cから中空部11a内に延びている。第二外側部分132bは、上方向と左右方向から導電線12に対向している。
【0021】
図1から図7に例示されるように、トランス10は、シールドケース14を備えている。シールドケース14は、導電性を有する材料により形成されている。導電性材料の例としては、アルミニウム、銅などが挙げられる。シールドケース14は、トランス10の外部から到来するノイズとしての磁場によって導電線12に生じうる起電力を抑制するために設けられている。シールドケース14は、下方向に開口する箱型形状を有することにより、前後方向、上方向、および左右方向から第一コア131と第二コア132を包囲している。下方向は、第一方向の一例である。
【0022】
図1から図3に例示されるように、トランス10は、基台15と複数の端子16を備えている。基台15は、電気的に絶縁性を有する材料により形成されている。基台15は、芯部11と一体に成形されている。複数の端子16の各々は、導電性を有する材料により形成されている。
【0023】
複数の端子16の各々は、基台15と一体に成形されている。複数の端子16の各々は、コイル用端子161と実装用端子162を有している。芯部11に巻き回された導電線12の端部(不図示)は、コイル用端子161と電気的に接続される。実装用端子162は、トランス10が回路基板に実装される際に、当該回路基板に形成された回路要素と電気的に接続される。これにより、導電線12と回路基板上の回路要素とが電気的に接続される。
【0024】
図1に例示されるように、トランス10は、シールド板17を備えている。シールド板17は、導電性を有する材料により形成されている。好ましくは、シールド板17は、シールドケース14と同じ材料により形成されている。
【0025】
シールド板17は、第一部分17aを有している。図5に例示されるように、第一部分17aは、上方向に導電線12と対向するように配置されている。上方向は、第二方向の一例である。トランス10が回路基板に実装されると、第一部分17aは、導電線12と回路基板の間に配置される。
【0026】
図1図3、および図4に例示されるように、シールド板17は、左右方向に長尺な形状を有している。シールド板17は、第二部分17bと第三部分17cを有している。第二部分17bは、第一部分17aの左端から連続して延びており、シールドケース14の左側壁14aに溶接されている。第三部分17cは、第一部分17aの右端から連続して延びており、シールドケース14の右側壁14bに溶接されている。
【0027】
他方、基台15は、空間15aを区画する形状を有している。空間15aは、シールドケース14に結合されたシールド板17を受容可能な形状を有している。
【0028】
シールドケース14は、下方向に開口する箱型形状を有している。したがって、シールドケース14は、導電線12を下方向から覆うことができない。しかしながら、当該方向から導電線12を覆う部分を有するシールド板17がシールドケース14と結合されることにより、外部から到来するノイズとしての磁場によって導電線12に生じうる起電力を抑制する効果を高めることができる。
【0029】
図8から図10を参照しつつ、上記のように構成されたトランス10の製造方法について説明する。
【0030】
図8は、シールドケース14とシールド板17の位置関係を例示している。図示を省略するが、シールドケース14には、芯部11、導電線12、第一コア13、第二コア132、基台15、および端子16が結合された組立体が収容されている。図9は、図4におけるシールド板17の線IX-IXに沿って矢印方向から見た断面を、拡大して例示している。
【0031】
図8に例示されるように、シールド板17の第二部分17bは、接触面17dを備えている。接触面17dは、第二部分17bの左端に形成されており、前後方向に長尺な形状を有している。同様に、シールド板17の第三部分17cは、接触面17eを備えている。接触面17eは、第三部分17cの右端に形成されており、前後方向に長尺な形状を有している。
【0032】
シールド板17の第一部分17aが上方向に導電線12と対向するように配置されると、図9に例示されるように、第二部分17bの接触面17dは、左右方向についてシールドケース14の左側壁14aの内面と接触する。左右方向は、第三方向の一例である。このとき、左側壁14aの下端縁と第二部分17bの先端縁が被溶接面Wを形成する。被溶接面Wは下方向に面している。
【0033】
同様に、第三部分17cの接触面17eは、左右方向についてシールドケース14の右側壁14bの内面と接触する。このとき、右側壁14bの下端縁と第三部分17cの先端縁が被溶接面Wを形成する。被溶接面Wは下方向に面している。
【0034】
続いて、図9に矢印で示されるように被溶接面Wに対してレーザ光が照射されることにより、図10に例示されるようにシールドケース14とシールド板17の溶接がなされる。なお、レーザ溶接に代えて、ティグ溶接が用いられてもよい。
【0035】
本実施形態例においては、被溶接面Wが下方向に面するようにシールド板17のシールドケース14に対する組付けがなされている。しかしながら、組付け工程および溶接工程の実行時における被溶接面Wの向きは、製造装置の仕様に応じて適宜に変更されうる。
【0036】
図9に例示されるように、被溶接面Wが面する方向は、シールドケース14とシールド板17が接触する方向と交差している。加えて、接触面17dおよび接触面17eの各々の下方向(被溶接面Wが面する方向)に沿う寸法D1は、被溶接面Wの左右方向(被溶接面Wが面する方向と交差する方向)に沿う寸法D2よりも長い。図11図12を参照しつつ、この構成の有利性について説明する。
【0037】
図11に示される第一の比較例においては、被溶接面Wが面する方向は、シールドケース14とシールド板17が接触する方向と一致している。すなわち、シールドケース14とシールド板17の接触面が被溶接面Wを形成している。本例に係る構成の場合、被溶接面Wを直接的に視認できないので、溶接の仕上がり状態の確認が困難である。
【0038】
図12に示される第二の比較例においては、被溶接面Wが面する方向は、シールドケース14とシールド板17が接触する方向と交差している。しかしながら、シールドケース14とシールド板17の接触面Cの被溶接面Wが面する方向に沿う寸法は、当該方向と交差する向きに沿う被溶接面Wの寸法D3よりも短い。本例に係る構成の場合、被溶接面Wを直接的に視認できるものの、特に接触面同士を引き離す向きの応力に対する剛性の確保が困難である。
【0039】
図9を参照して説明した本実施形態例に係る構成によれば、被溶接面Wを直接的に視認できるので、溶接の仕上がり状態の確認が容易である。加えて、接触面同士を引き離す向きの応力からの応力に対する剛性を高めることができる。したがって、シールドケース14に対するシールド板17の安定した結合状態を実現できる。前述したように、シールド板17は、トランス10の下方から到来するノイズとしての磁場によって導電線12に生じうる起電力を抑制できる。このシールド板17のシールドケース14に対する位置ずれが抑制されることにより、トランス10のインダクタンスの安定性の低下を抑制できる。
【0040】
このようなシールド板17をシールドケース14に結合する他の手法の例として、リフローはんだ接合が挙げられる。しかしながら、はんだペーストの材料コストや、リフロー工程における端子16への熱負荷の管理の必要性により、製造コストの上昇が避けられない。他方、本実施形態例に係る溶接工程は、比較的簡易な装置構成で被溶接面Wを局所的に熱加工できるので、リフローはんだ接合よりもコスト的に有利である。結果として、トランス10の製造コストの上昇を抑制しつつ、インダクタンスの安定性の低下を抑制できる。
【0041】
図9に例示されるように、シールドケース14の左側壁14aおよびシールド板17の第二部分17bにより形成される被溶接面Wと、シールドケース14の右側壁14bおよびシールド板17の第三部分17cにより形成される被溶接面Wとは、同じ下方向に面している。
【0042】
このように複数の被溶接面Wが同じ方向に面していることにより、同じ方向から溶接作業を遂行できる。これにより、製造装置および製造工程の簡素化が可能なので、トランス10の製造コストの上昇を抑制できる。
【0043】
図8に例示されるように、シールドケース14の左側壁14aは、一対の段差部14eを備えている。一対の段差部14eは、左側壁14aの前後方向における両端に形成されている。各段差部14eは、下方向に面する規制面を有している。
【0044】
他方、シールド板17の第二部分17bは、一対の係合部17fを備えている。一対の係合部17fは、接触面17dの前後方向における両端において左方に延びる腕部として形成されている。
【0045】
同様に、シールドケース14の右側壁14bは、一対の段差部14fを備えている。一対の段差部14fは、右側壁14bの前後方向における両端に形成されている。各段差部14fは、下方向に面する規制面を有している。
【0046】
他方、シールド板17の第三部分17cは、一対の係合部17gを備えている。一対の係合部17gは、接触面17eの前後方向における両端において右方に延びる腕部として形成されている。
【0047】
シールド板17がシールドケース14に組付けられると、一対の係合部17fは、一対の段差部14eの規制面に当接する。規制面の位置は、係合部17fが規制面に当接することによってシールドケース14の左側壁14aとシールド板17の第二部分17bによる被溶接面Wが規定されるように設定されている。好ましくは、左側壁14aの下端縁と第二部分17bの先端縁が同一平面をなすように被溶接面Wが規定される。一対の係合部17fは、位置決め部の一例である。
【0048】
同様に、一対の係合部17gは、一対の段差部14fの規制面に当接する。規制面の位置は、係合部17gが規制面に当接することによってシールドケース14の右側壁14bとシールド板17の第三部分17cによる被溶接面Wが規定されるように設定されている。好ましくは、右側壁14bの下端縁と第三部分17cの先端縁が同一平面をなすように被溶接面Wが規定される。一対の係合部17gは、位置決め部の一例である。
【0049】
上記のような構成によれば、シールドケース14に対するシールド板17の上方向への変位が規制された状態で被溶接面Wに対する溶接を行なうことができる。結果として、両者の位置ずれに起因する溶接品質の低下が抑制される。特に、図8に例示されるように規制方向が鉛直下方に一致する状態でシールドケース14に対するシールド板17の組み付けおよび溶接がなされる場合、シールド板17を規制面に当接させておく治具などを不要にできる。これにより、製造装置および製造工程の簡素化が可能なので、トランス10の製造コストの上昇を抑制できる。
【0050】
なお、シールドケース14に対するシールド板17の上方向への変位の規制に関与する部材の形状は適宜に変更されうる。例えば、シールドケース14に左右方向に延びる腕部が設けられ、当該腕部に下方向に面する規制面が形成されうる。この場合、シールド板17に当該規制面と当接する段差部が形成されうる。
【0051】
図7に例示されるように、シールドケース14の前側壁14cの内壁面には、一対の前凸部181が設けられている。各前凸部181は、第一コア131に接している。他方、シールドケース14の後側壁14dの内壁面には、一対の後凸部182が設けられている。各後凸部182は、第二コア132に接している。
【0052】
一対の前凸部181は、例えばシールドケース14の前側壁14cの外側からパンチング加工を施すことにより形成されうる。これにより、図2に例示されるように、前側壁14cには一対の凹部が形成される。
【0053】
同様に、一対の後凸部182は、例えばシールドケース14の後側壁14dの外側からパンチング加工を施すことにより形成されうる。これにより、図3に例示されるように、後側壁14dには一対の凹部が形成される。
【0054】
前凸部181と後凸部182に第一コア131と第二コア132が挟持されることにより、トランス10の前後方向におけるシールドケース14の位置ずれが規制される。したがって、第一コア131と第二コア132に対する当該方向へのシールドケース14の位置ずれに起因するトランス10のインダクタンスの低下を抑制できる。前凸部181と後凸部182は、挟持部材の一例である。
【0055】
図7に例示されるように、シールドケース14の左側壁14aの内壁面には、一対の左凸部183が設けられている。前側壁14c寄りの左凸部183は、第一コア131に接している。後側壁14d寄りの左凸部183は、第二コア132に接している。
【0056】
他方、シールドケース14の右側壁14bの内壁面には、一対の右凸部184が設けられている。前側壁14c寄りの右凸部184は、第一コア131に接している。後側壁14d寄りの右凸部184は、第二コア132に接している。
【0057】
一対の左凸部183は、例えばシールドケース14の左側壁14aの外側からパンチング加工を施すことにより形成されうる。これにより、図3に例示されるように、左側壁14aには一対の凹部が形成される。
【0058】
同様に、一対の右凸部184は、例えばシールドケース14の右側壁14bの外側からパンチング加工を施すことにより形成されうる。これにより、図2に例示されるように、右側壁14bには一対の凹部が形成される。
【0059】
左凸部183と右凸部184に第一コア131と第二コア132が挟持されることにより、トランス10の左右方向におけるシールドケース14の位置ずれが規制される。したがって、第一コア131と第二コア132に対する当該方向へのシールドケース14の位置ずれに起因するトランス10のインダクタンスの低下を抑制できる。左凸部183と右凸部184は、挟持部材の一例である。
【0060】
本実施形態例のように第一コア131と第二コア132が結合される芯部11と基台15の相対位置が不変である場合、芯部11、第一コア131、および第二コア132をシールドケース14に収容すれば、第一コア131と第二コア132が前凸部181と後凸部182に挟持されることにより、トランス10の前後方向におけるシールドケース14に対する基台15の位置が定まる。
【0061】
トランス10の前後方向におけるシールドケース14と基台15の相対位置が不安定である場合、少なくとも同方向においてシールドケース14との結合のために空間15aに受容されるシールド板17と基台15との間で干渉が生じる虞がある。この干渉を避けるために、トランス10の前後方向におけるシールド板17の幅寸法を小さくする必要が生じたり、基台15に対するシールド板17の位置決め工程が複雑化したりする。
【0062】
本実施形態例に係る構成によれば、トランス10の前後方向におけるシールド板17の幅寸法を小さくする必要がないので、シールド板17の面積減によるシールド機能の低下を抑制できる。加えて、基台15に対するシールド板17の位置決め工程の複雑化を抑制できるので、効率的にトランス10を製造できる。
【0063】
同様に、芯部11、第一コア131、および第二コア132をシールドケース14に収容すれば、第一コア131と第二コア132が左凸部183と右凸部184に挟持されることにより、トランス10の左右方向におけるシールドケース14に対する基台15の位置が定まる。
【0064】
トランス10の左右方向におけるシールドケース14と基台15の相対位置が不安定である場合、少なくとも同方向においてシールドケース14との結合のために空間15aに受容されるシールド板17と基台15との間で干渉が生じる虞がある。この干渉を避けるために、シールド板17の第一部分17aにおいてトランス10の前後方向に突出する一対の突起17h(図8参照)を省略したり、シールドケース14に対するシールド板17の位置決め工程が複雑化したりする。
【0065】
本実施形態例に係る構成によれば、シールド板17の第一部分17aに設けられた突起17hを省略する必要がないので、シールド板17の面積減によるシールド機能の低下を抑制できる。加えて、シールドケース14に対するシールド板17の位置決め工程の複雑化を抑制できるので、効率的にトランス10を製造できる。
【0066】
なお、前凸部181および後凸部182の組合せと、左凸部183および右凸部184の組合せのいずれか一方は、省略されうる。
【0067】
図1図5に例示されるように、第一コア131の第一外側部分131bにおけるシールドケース14の前側壁14cに対向する角部は、湾曲面を有する丸角部131cとして形成されている。同様に、第二コア132の第二外側部分132bにおけるシールドケース14の後側壁14dに対向する角部は、湾曲面を有する丸角部132cとして形成されている。
【0068】
このような構成によれば、シールドケース14が上方から装着される際に前凸部181と後凸部182がそれぞれ丸角部131cと丸角部132cの湾曲面に案内されうる。よって、トランス10の前後方向から第一コア131と第二コア132を挟持する位置へ前凸部181と後凸部182を円滑に導くことができる。加えて、第一コア131と第二コア132の少なくとも一方とシールドケース14の干渉に起因する前凸部181と後凸部182の少なくとも一方の不慮の変形を抑制できるので、第一コア131と第二コア132に対するトランス10の前後方向に係る位置規制能力の低下を抑制できる。
【0069】
図1に例示されるように、第一コア131の第一外側部分131bにおけるシールドケース14の左側壁14aに対向する角部は、湾曲面を有する丸角部131dとして形成されている。第一コア131の第一外側部分131bにおけるシールドケース14の右側壁14bに対向する角部は、湾曲面を有する丸角部131eとして形成されている。
【0070】
このような構成によれば、シールドケース14が上方から装着される際に左凸部183と右凸部184がそれぞれ丸角部131dと丸角部131eの湾曲面に案内されうる。よって、トランス10の左右方向から第一コア131を挟持する位置へ左凸部183と右凸部184を円滑に導くことができる。加えて、第一コア131とシールドケース14の干渉に起因する左凸部183と右凸部184の少なくとも一方の不慮の変形を抑制できるので、第一コア131に対するトランス10の左右方向に係る位置規制能力の低下を抑制できる。
【0071】
同様に、第二コア132の第二外側部分132bにおけるシールドケース14の左側壁14aに対向する角部は、湾曲面を有する丸角部132dとして形成されている。第二コア132の第二外側部分132bにおけるシールドケース14の右側壁14bに対向する角部は、湾曲面を有する丸角部132eとして形成されている。
【0072】
このような構成によれば、シールドケース14が上方から装着される際に左凸部183と右凸部184がそれぞれ丸角部132dと丸角部132eの湾曲面に案内されうる。よって、トランス10の左右方向から第二コア132を挟持する位置へ左凸部183と右凸部184を円滑に導くことができる。加えて、第二コア132とシールドケース14の干渉に起因する左凸部183と右凸部184の少なくとも一方の不慮の変形を抑制できるので、第二コア132に対するトランス10の左右方向に係る位置規制能力の低下を抑制できる。
【0073】
シールドケース14は、絞り加工によりスリットレスの箱型形状を有するように形成されうる。換言すると、シールドケース14は、板材を絞り加工することによって形成されたワンピース部品でありうる。本明細書で用いられる「ワンピース部品」という語は、モノリシックな構造を有する部品を意味している。「ワンピース部品」という語は、各種の手法により複数の部品が結合されることによって一体化されている部品と区別する意味で用いられる。各種の手法の例としては、接着、接合、溶着、溶接、係合、嵌合、螺合などが挙げられる。
【0074】
このような構成によれば、シールドケース14の剛性を高めることができるので、要求される第一コア131と第二コア132に対する挟持力の提供と維持を容易化できる。加えて、シールドケース14の凸部180に対する相対的な剛性と高めることができるので、シールドケース14を第一コア131と第二コア132に装着する際に、凸部180のみの変形が促される。結果として、芯部11、第一コア131、および第二コア132をシールドケース14内に収容する工程を円滑に遂行できる。
【0075】
これまで参照した各構成は、本開示の理解を容易にするための例示にすぎない。各構成例は、本開示の趣旨の範囲内において適宜の変更や他の構成例との組合せがなされうる。
【0076】
上記の実施形態例においては、複数の被溶接面Wが離れた位置に形成されている。しかしながら、シールドケース14とシールド板17の仕様に応じて、連続した一つの被溶接面Wが形成されてもよい。
【0077】
上記の実施形態例において、前凸部181、後凸部182、左凸部183、および右凸部184の各々は、シールドケース14に機械的加工を施すことによりその一部として形成されている。しかしながら、第一コア131と第二コア132に対して所望の挟持能力を提供できるのであれば、別体として提供された前凸部181、後凸部182、左凸部183、および右凸部184の少なくとも一つがシールドケース14に装着されてもよい。
【0078】
スリットレスな箱型形状を有するシールドケース14を提供できるのであれば、絞り加工以外の製法も採用されうる。一例として、板材を折り曲げ加工して端面同士を接合することによってシールドケース14が形成されてもよい。別例として、ダイキャスト製法により、銅合金やアルミニウム合金等のシールドケース14が形成されてもよい。この製法は生産性に優れているので、絞り加工により形成されたシールドケース14と同様の形状に形成することにより所望の特性を確保しつつ、製造コストの上昇を抑制できる。
【0079】
磁性体を含む材料により形成されているコアと、当該コアの一部を包囲するように巻き回された導電線を備えているのであれば、シールドケース14に収容されるトランスの要素部品の形状や配置は適宜に定められうる。
【0080】
図1から図10を参照して説明した実施形態例に係るトランスの意匠を、図13から図19に例示する。図13は斜視図である。図14は正面図である。図15は背面図である。図16は平面図である。図17は底面図である。図18は左側面図である。図19は右側面図である。
【0081】
以下に列挙される各構成もまた、本開示の一部を構成する。

項目1:
磁性体を含む材料により形成されているコアと、
前記コアの一部を包囲するように巻き回されている導電線と、
導電性を有する材料により形成されており、第一方向に開口する箱型形状を有することにより前記コアと前記導電線を収容しているシールドケースと、
前記導電線の端部が電気的に接続される導電端子を支持している基台と、
導電性を有する材料により形成されており、前記第一方向とは反対の第二方向に前記導電線と対向するように配置された部分を有しているシールド板と、
を備えており、
前記シールド板は、前記第一方向および前記第二方向と交差する第三方向について前記シールドケースに接する接触面を有しており、
前記シールドケースと前記シールド板は、前記第一方向に面する少なくとも一つの被溶接面を形成しており、
前記接触面の前記第一方向および前記第二方向に沿う寸法は、前記被溶接面の前記第三方向に沿う寸法よりも長い、
トランス。

項目2:
前記シールドケースと前記シールド板は、前記第一方向に面する複数の被溶接面を形成している、
項目1に記載のトランス。

項目3:
前記シールドケースは、前記シールド板の前記第二方向への変位を規制することにより前記被溶接面を規定する位置決め部を備えている、
項目1または2に記載のトランス。

項目4:
前記シールドケースの内壁面に設けられており、前記第一方向および前記第二方向と交差する方向に沿って前記コアを挟持する挟持部材を備えている、
項目1から3のいずれか一項に記載のトランス。

項目5:
前記コアは、前記内壁面に対向する丸角部を有している、
項目4に記載のトランス。

項目6:
前記シールドケースは、絞り加工によりスリットレスに形成されている、
項目1から5のいずれか一項に記載のトランス。

項目7:
前記シールドケースは、アルミニウムにより形成されている、
項目1から6のいずれか一項に記載のトランス。
【符号の説明】
【0082】
10:トランス、12:導電線、131:第一コア、131c:丸角部、131d:丸角部、131e:丸角部、132:第二コア、132c:丸角部、132d:丸角部、132e:丸角部、14:シールドケース、181:前凸部、182:後凸部、183:左凸部、184:右凸部、17:シールド板、17d:接触面、17e:接触面、W:被溶接面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
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